説明

耐弾物品

本発明は、少なくとも2層の単層(ただし、各単層は、少なくとも約1.2GPaの引張り強度かつ少なくとも40GPaの引張りモジュラスを有する一方向配向繊維とバインダーとを含有し、各単層内の繊維方向は、隣接する単層内の繊維方向に対して回転されている)と、両方の外表面上に分離フィルムと、を含む予備成形シートであって、分離フィルムが40〜90%のポロシティーを有することを特徴とする、予備成形シートに関する。この予備成形シートを用いれば、特定の重量で実質的により高い耐弾保護レベルを提供する集成体および物品を得ることが可能である。本発明はさらに、少なくとも2枚のかかるシートの集成体と、前記集成体を含む可撓性耐弾物品と、に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、予備成形シートと、少なくとも2枚のシートの集成体と、前記集成体を含む可撓性耐弾物品と、に関する。予備成形シートは、少なくとも2層の単層(ただし、各単層は、少なくとも約1.2GPaの引張り強度かつ少なくとも40GPaの引張りモジュラスを有する一方向配向繊維とバインダーとを含有し、各単層内の繊維方向は、隣接する単層内の繊維方向に対して回転されている)と、両方の外表面上に分離フィルムと、を含む。
【背景技術】
【0002】
そのような予備成形シートは、欧州特許出願公開第0907504A1号明細書から公知である。欧州特許出願公開第0907504A1号明細書には、4層の単層を交差積重し、線状低密度ポリエチレンから作製された分離フィルムを適用し、その後、加圧下、高温で積重体を一体化させることにより製造された複合層(または予備成形シート)が記載されている。一方向配向繊維を含有する単層は、1680dtexのタイターを有するアラミド糸繊維をボビンフレームからコーム上に案内してバインダー材料またはマトリックス材料としてのポリスチレン−ポリイソプレン−ポリスチレンブロックコポリマーの水性分散体で湿潤させることにより製造された。可撓性耐弾造形品は、いくつかの前記複合層からなる連結されていない積重体から作製された。ただし、積重体は、コーナーで縫合することにより安定化された。
【0003】
先行技術から公知である予備成形シートの欠点は、前記シートを含む耐弾物品のエネルギー吸収(耐弾保護レベルの尺度である)と耐弾物品の重量との比が好ましくない点である。この比は、一般的には、面質量(一般に面密度(AD)と呼ばれる)あたり吸収されるエネルギーである比エネルギー吸収量(SEA)として表現される。このことから、特定の所望の保護レベルを達成するのに比較的重い耐弾物品が必要であることが示唆される。一方、耐弾物品が低重量を有する場合、物品は、弾丸衝突に対して比較的低い保護レベルを提供する。多くの用途では、耐弾物品の最低可能重量と特定の最低保護レベルとを両立させることが非常に重要である。このことは、たとえば、防弾チョッキなどのような防護衣や護身具などの個人防護の分野だけでなく、乗物などの分野でも、言えることである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
したがって、特定の物品重量でより高い保護レベルを提供する耐弾物品の作製を可能にする予備成形シートが、業界で絶えず必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明によれば、これは、分離フィルムが40〜90%のポロシティーを有する予備成形シートにより提供される。
【0006】
本発明に係る予備成形シートを用いれば、本発明に係るシートの集成体またはシートの集成体を含む耐弾物品の特定の重量で実質的により高い保護レベルを得ることが可能である。本発明に係る予備成形シートのさらなる利点は、保護レベルと面密度との良好な比を有する以外に、予備成形シートの集成体を含む耐弾物品がより高い可撓性を提供することにより、そのような耐弾物品の適用範囲が拡大される点である。このため、護身具の場合のように高い可撓性および使用快適性が望まれる用途にとくに適した物品が得られる。シートはさらに、さまざまな技術で改良された印刷適性を示す。この印刷適性は、製造および品質管理および追跡可能性の点からみて利点である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
耐弾物品とは、少なくとも2枚の本発明に係る予備成形シートの集成体を含み、たとえば防護衣としてまたは乗物の装甲用として使用可能であり、かつ銃弾や榴散弾などによる弾丸衝撃からの保護を提供する造形品を意味する。
【0008】
本発明に係る集成体は、互いに連結されていない予備成形シートの積重体を含有する。すなわち、シートは、それらの隣接表面の実質的部分にわたり互いに接合されることも接着されることもない。しかしながら、そのような積重体はさらなる加工に必要とされる整合性が完全に欠如しているので、互いに連結されていない予備成形シートの積重体を取り扱うのは困難である。ある程度の整合性を達成するために、たとえば、耐弾物品を縫合することが可能である。しかしながら、シートが互いにいくらか相対移動できるように、そのような縫合は、たとえば、コーナーまたは縁周辺のみで、行われる。他の可能性として、可撓性の被覆材または包囲材で予備成形シートの積重体を閉じ込めることが挙げられる。したがって、集成体中または耐弾物品中の予備成形シートは、依然として互いに移動可能な状態にあるが、集成体または物品は、それ自体、整合性を有し、かつ良好な可撓性を示す。
【0009】
予備成形シートは、一方向配向繊維の少なくとも2層の単層を含む。ただし、各単層内の繊維方向は、隣接する単層内の繊維方向に対して回転されており、かつ少なくとも2層の単層は、互いに連結または接合されている。隣接する単層の繊維となす最小夾角を意味する回転角は、0〜90°である。好ましくは、角度は45〜90°である。最も好ましくは、角度は80〜90°である。隣接する単層内の繊維が互いにそのような角度をなす耐弾物品は、より良好な耐弾特性を有する。単層という用語は、一方向配向繊維と、繊維を本質的に保持一体化するバインダーと、からなる層を意味する。
【0010】
繊維という用語は、モノフィラメント糸だけでなく、とくに、マルチフィラメント糸またはフラットテープをも包含する。一方向配向繊維という用語は、一平面内で本質的に並列に配向された繊維を意味する。
【0011】
本発明に係る予備成形シート中の繊維は、少なくとも約1.2GPaの引張り強度かつ少なくとも40GPaの引張りモジュラスを有する。繊維は、無機繊維であっても有機繊維であってもよい。好適な無機繊維は、たとえば、ガラス繊維、炭素繊維、およびセラミック繊維である。そのような高引張強度を有する好適な有機繊維は、たとえば、アラミド繊維、液晶ポリマー繊維、ならびにゲル紡糸法などにより得られるような高度に配向されたポリオレフィン、ポリビニルアルコール、およびポリアクリロニトリルなどの繊維である。繊維は、好ましくは、少なくとも約2GPa、少なくとも2.5GPa、またはさらに少なくとも3GPaの引張り強度を有する。好ましくは、高配向ポリオレフィン繊維が使用される。これらの繊維の利点は、高い引張強度と小さい比重量とを兼ね備えているため、軽量耐弾物品で使用するのにとりわけ好適な点である。
【0012】
好適なポリオレフィンは、特定的には、エチレンおよびプロピレンのホモポリマーおよびコポリマーであり、これらは、少量の1種以上の他のポリマーとくに他のアルケン−1−ポリマーを含有してもよい。
【0013】
ポリオレフィンとして線状ポリエチレン(PE)を選択した場合、良好な結果が得られる。線状ポリエチレンとは、本明細書中では、炭素原子100個あたり1個未満の側鎖を有するポリエチレン、好ましくは炭素原子300個あたり1個未満の側鎖を有するポリエチレンを意味するものと解釈され;側鎖または分岐は、一般的には、少なくとも10個の炭素原子を含有する。線状ポリエチレンはさらに、それと共重合しうる5モル%までの1種以上の他のアルケン、たとえば、プロペン、ブテン、ペンテン、4−メチルペンテン、オクテンを含有しうる。
【0014】
好ましくは、線状ポリエチレンは、高いモル質量であり、固有粘度(135℃のデカリン溶液で測定したときのIV)は、少なくとも4dl/g、より好ましくは少なくとも8dl/gである。そのようなポリエチレンはまた、超高モル質量ポリエチレン(UHPE)とも呼ばれる。固有粘度は、MやMのような実際のモル質量パラメーターよりも容易に決定しうるモル質量(分子量とも呼ばれる)の尺度である。IVとMとの間には、いくつかの経験的関係が存在するが、そのような関係は、モル質量分布に大きく依存する。式M=5.37×10[IV]1.37(欧州特許出願公開第0504954A1号明細書参照)によれば、4または8dl/gのIVは、それぞれ、約360または930kg/molのMと等価であろう。
【0015】
好ましくは、たとえば英国特許出願公開第2042414A号明細書または国際公開第01/73173号パンフレットに記載されているようなゲル紡糸法により作製されたポリエチレンフィラメントからなる高性能ポリエチレン(HPPE)繊維が使用される。ゲル紡糸法は、本質的には、高い固有粘度を有する線状ポリエチレンの溶液を調製することと、溶解温度を超える温度でフィラメントの形態に溶液を紡糸することと、ゲル化が起こるようにゲル化温度未満までフィラメントを冷却することと、溶媒の除去前、除去中、または除去後、フィラメントを延伸することと、からなる。
【0016】
バインダーという用語は、予備成形シートの取扱い中または製造中に単層構造が保持されるように繊維を結合一体化または保持一体化しかつ繊維の全体または一部を閉じ込めうる材料を意味する。バインダー材料は、種々の形態および方法で;たとえば、フィルムとして、横方向結合ストリップとして、もしくは横方向繊維(一方向繊維に対して横方向)として、あるいはポリマー溶融体または液体中の高分子材料の溶液もしくは分散体のようなマトリックス材料を繊維に含浸および/または埋入することにより、適用可能であった。好ましくは、マトリックス材料は、単層の全表面にわたり均一に分配されるが、結合ストリップまたは結合繊維は、局所的に適用可能である。好適なバインダーは、とくに、欧州特許第0191306B1号明細書、欧州特許出願公開第1170925A1号明細書、欧州特許第0683374B1号明細書、および欧州特許出願公開第1144740A1号明細書に記載されている。
【0017】
好ましい実施形態では、バインダーは、高分子マトリックス材料であり、熱硬化性材料もしくは熱可塑性材料またはそれら2種の混合物でありうる。マトリックス材料の破断点伸びは、好ましくは、繊維の伸びよりも大きい。バインダーは、好ましくは、3〜500%の伸びを有する。好適な熱硬化性および熱可塑性のマトリックス材料は、たとえば、国際公開第91/12136A1号パンフレット(15〜21頁)に列挙されている。熱硬化性ポリマーからなる群からは、好ましくは、ビニルエステル、不飽和ポリエステル、エポキシド、またはフェノール樹脂が、マトリックス材料として選択される。熱可塑性ポリマーからなる群からは、ポリウレタン、ポリビニル、ポリアクリル、ポリオレフィン、または熱可塑性エラストマー性ブロックコポリマー、たとえば、ポリイソプロペン−ポリエチレン−ブチレン−ポリスチレンブロックコポリマーもしくはポリスチレン−ポリイソプレン−ポリスチレンブロックコポリマーが、マトリックス材料として選択可能である。好ましくは、バインダーは、本質的に熱可塑性エラストマーからなり、このエラストマーは、好ましくは単層内の前記繊維の個々のフィラメントを実質的に被覆し、かつ約40MPa未満の引張りモジュラス(25℃でASTM D638に準拠して決定される)を有する。そのようなバインダーを用いると、単層の可撓性および予備成形シートの集成体の可撓性は高くなる。単層内および予備成形シート中のバインダーがスチレン−イソプレン−スチレンブロックコポリマーである場合、非常に良好な結果が得られることが判明した。
【0018】
本発明の特定の実施形態では、本発明に係る予備成形シート中のバインダーは、高分子マトリックス材料に加えて、バインダーの全体積を基準にして計算したときに5〜80体積%の量で充填剤をも含有する。より好ましくは、充填剤の量は、10〜80体積%、最も好ましくは20〜80体積%である。その結果、耐弾特性に有意な悪影響を及ぼすことなく耐弾物品の可撓性が増大されることが判明した。
【0019】
充填剤は、繊維間の結合に寄与するのではなく、繊維間のマトリックスを体積希釈する役割を担い、その結果として、耐弾物品は、可撓性が高くなり、しかもより高いエネルギー吸収を有することになる。充填剤は、好ましくは、低重量または低密度を有する微細分散された物質を含む。充填剤はガスであってもよいが、充填剤としてガスを使用すると、マトリックス材料の加工時に実施上の問題を生じる。充填剤はまた、とくに、分散体の調製に慣用される物質、たとえば、乳化剤、安定剤、バインダーなど、または微細分散された粉末を含みうる。
【0020】
マトリックス材料の全量を一定にして、バインダーが80体積%未満の量の充填剤を含有する場合、バインダーの量は、繊維間の適切な結合を達成するのに十分であることが判明した。また、マトリックスが5体積%を超える量の充填剤を含有する場合、耐弾物品の可撓性が増大することも判明した。
【0021】
繊維が耐弾性能にもっとも寄与するので、好ましくは、単層内のバインダーの量は、30質量%以下、より好ましくは25質量%、20質量%以下、またはさらに15質量%以下である。
【0022】
本発明に係る予備成形シートは、両方の外表面上に40〜90%のポロシティーを有する分離フィルムを含む。前記フィルムは、たとえば、多孔質のポリエチレン、ポリプロピレン、またはポリテトラフルオロエチレンのフィルムでありうる。それらの調製については、たとえば、欧州特許出願公開第0184392A1号明細書および欧州特許出願公開第0504954A1号明細書に記載されている。フィルムのポロシティーは、密度測定から決定されるようなフィルム中のボイド、ポア、またはチャネルの相対体積(体積パーセントで表される)である。フィルムのポロシティーは、予備成形シートの適用前に最も都合よく決定されうるが、ポロシティーはまた、予備成形シートを形成するために加圧下で積層するときに減少する可能性もある。積層中または加圧中、一体化シートが得られるような条件(温度、圧力、時間);すなわち、分離フィルムを実質的に溶融することはなく(これによりフィルムのポロシティーおよび機械的性質が劣化するおそれがあるため)、すべて層が少なくとも部分的に互いに接着する条件が選択される。
【0023】
好ましくは、分離フィルムは、少なくとも50%、60%、またはさらに少なくとも70%の初期ポロシティー(すなわち、予備成形シート作製前のポロシティー)を有する。
【0024】
好ましくは、フィルムは、本質的に連続したマトリックス構造中のポアおよびチャネルが約0.001〜10ミクロン、好ましくは約0.01〜5ミクロンのサイズを有することを意味するいわゆるマイクロポーラスフィルムである。
【0025】
分離フィルムは、好ましくはポリオレフィン、より好ましくはポリエチレンから作製される。薄いフィルムの形態に成形するのに非常に適した多種多様なポリエチレングレードが存在する。たとえば、エチレンと、アルファ−オレフィンのような少なくとも1種のコモノマーと、のさまざまなタイプのコポリマーが挙げられる。好ましい実施形態では、分離フィルムは、本質的に、高モル質量ポリエチレンから、より好ましくは少なくとも4dl/gのIVを有する超高モル質量ポリエチレン(UHPE)から作製される。そのようなフィルムは、一般に、比較的高い強度およびモジュラスならびに高い耐磨耗性を示す。
【0026】
予備成形シートはさらに、層間接着を改良するために、つまりシートの整合性および安定性を改良するために、ポーラスフィルムと他の層との間に接着剤層を含みうる。
【0027】
本発明の特定の実施形態では、予備成形シートは、HPPE繊維を含む単層と、ポリエチレンポーラスフィルム、より好ましくはマイクロポーラスUHPEフィルムと、を含有する。そのような構成の利点は、追加の接着剤を用いることなく層間の良好な接着を起こして減量に寄与する点である。そのようなシートの積重体を含む集成体の可撓性はさらに、おそらくシートの表面間の摩擦が非常に少ないことに起因して非常に高い。このため、それから作製された防護物品の着用者にとって快適性が大幅に改善される。
【0028】
好ましくは、分離フィルムは、二軸延伸フィルム、より好ましくは10〜100倍二軸延伸フィルムである。10〜100倍二軸延伸フィルムとは、本明細書中では、フィルムの表面が10〜100倍に増大されるように2つの垂直方向に延伸されたフィルムであると解釈される。前記延伸フィルムの製造方法については、欧州特許出願公開第0504954A1号明細書に記載されている。二軸延伸フィルムの利点は、特定の重量でさらに高い保護レベルが得られる点である。好ましくは、フィルムは、少なくとも20倍、少なくとも30倍、またはさらに少なくとも40倍に二軸延伸される。より好ましくは、UHPEから作製された二軸延伸フィルムがシートの形態で適用される。そのようなフィルムは、比較的高い引張り強度およびモジュラスを有するので、衝撃時の予備成形シートの変形に寄与しうる。引張り特性は、好ましくは、非ポーラスフィルムとのより良好な比較が行えるように単位断面積あたり(たとえばN/m)ではなくフィルムの単位幅あたり(たとえばN/m)で表現される。したがって、好ましくは、分離フィルムは、フィルムの単位幅あたり、少なくとも150N/m、少なくとも200N/m、またはさらに少なくとも250N/mの引張り強度(本明細書中では強度係数とも呼ばれる)を有する。高い破断点伸び(たとえば20%超)を有するフィルムの場合、好ましくは、破断点強度ではなく降伏強度が参照として用いられる。フィルムの単位幅あたりの引張りモジュラスは、好ましくは少なくとも3000N/m、少なくとも4000N/m、またはさらに少なくとも5000N/mである。
【0029】
フィルムの単位表面積あたりの厚さまたは質量(面質量または面密度と呼ばれる)は、耐弾性能にとってそれ程重要ではないが、薄いフィルムが好ましい。なぜなら、これはさらに、軽量かつ可撓性のシート、集成体、および物品の作製に寄与するからである。分離フィルムが2〜8g/m、好ましくは2〜4g/mの面密度を有する予備成形シートを用いたときに、最良の結果が得られた。
【0030】
本発明に係る予備成形シートは、一方向配向繊維を含有する少なくとも2層の単層を含む。一般的には、予備成形シートは、2層、4層、または他の2の倍数層の垂直配向単層を含む。好ましくは、予備成形シートは、一方向配向繊維の2層の単層を二軸延伸フィルムと組み合わせて含む。一方向配向繊維の2層の単層を両方の外表面上の二軸延伸フィルムと組み合わせて有する予備成形シートで最良の耐弾保護が得られることが判明した。
【0031】
本発明の特定の実施形態では、予備成形シートは、分離フィルムとして、一軸延伸フィルム、好ましくは10〜50の延伸比を有するフィルムを含有する。これらの一軸延伸フィルムは、フィルムの延伸方向が一方向繊維の隣接層内の繊維方向に垂直になるように配置される。そのような場合、シートは、奇数の単層を含有しうる。特定の実施形態では、一方向配向繊維の3層の単層(その中心層は、両方の隣接単層の合計とほぼ同一の値までの面密度を有しうる)は、延伸方向を一方向繊維の隣接層内の繊維方向に垂直にした状態で一軸延伸フィルムで被覆された。そのような構成の利点は、たとえば単層の積重体上に一軸延伸フィルムをカレンダリングすることによりシートを作製する連続法において、両方の分離フィルムをシートのロールから同一方向に適用できる点である。
【0032】
本発明はさらに、シートが互いに連結されていない少なくとも2枚の本発明に係る予備成形シートの集成体に関する。予備成形シートの数の増加に伴って、耐弾保護レベルは改良されるが、集成体の重量は増大し、可撓性は減少する。最大の可撓性を得るために、集成体中の隣接シートは、互いに連結されない。脅威および所望の保護レベルに依存して、当業者であれば、いくらかの実験によりシートの数の最適値を見いだすことが可能である。
【0033】
本発明に係る耐弾集成体またはそのような集成体を含む物品のさらなる利点は、耐弾物品の重量および保護レベルに加えて可撓性が重要な役割を果たす用途で見いだされる。
【0034】
耐弾集成体および耐弾物品は、永続的および使い捨ての両方の可撓性用途で利用可能である。永続的可撓性用途とは、耐弾物品(たとえば、護身具として使用するための耐弾物品など)が使用後に継続的に形状の適合性を備える用途を意味する。使い捨て可撓性用途とは、耐弾集成体または耐弾物品が一回かぎりで特定の形状に変形される用途を意味する。この例は、車のドアの内部のように容易に接近できない空間に取り付けられる耐弾物品である。
【0035】
予備成形シートの重量が特定の最大値を有する場合、耐弾集成体の好適な可撓性、保護レベル、および重量が達成されることが判明した。好ましくは、永続的可撓性用途では、耐弾物品中の予備成形シートの重量または面密度は、500g/m以下であり、各単層の繊維含有率は、10〜150g/mである。より好ましくは、予備成形シートの重量は、300g/m以下であり、各単層の繊維含有率は、10〜100g/mである。
【0036】
使い捨て可撓性用途では、800g/m以下、好ましくは300g/m超の重量または面密度を有する予備成形シートを含有する耐弾集成体または耐弾物品を利用することが可能である。なぜなら、この使い捨て可撓性用途では、適用形状が保持されるような特定の最小剛性が望まれるからである。より好ましくは、予備成形シートの重量は、400g/m超、さらに好ましくは500g/m超である。
【0037】
耐弾集成体は、原理的には、任意の公知の好適な方法により、たとえば、国際公開第95/00318号パンフレット、米国特許第4623574号明細書、または米国特許第5175040号明細書に記載されている方法に従って、作製可能である。単層は、たとえば、繊維(好ましくは、連続マルチフィラメント糸の形態)をボビンフレームからコームを横切って案内し、その結果として、それらを平面内で並行に配向させることにより、製造される。加工をより容易にするために、プロセスのより後の段階で単層から再び除去される被覆ペーパーシートなどのような一時的支持体層を使用することが可能である。バインダーは、基本的には、繊維を保持一体化するために、すなわち、さらなる加工工程で得られる繊維の配向および構造を保持するために、適用される。マトリックス材料をバインダーとして適用する場合、繊維は、好ましくは、平面内で並行に配向させる前または配向させた後、バインダーまたは前駆体(したがって、耐弾物品の製造のより後の段階で反応して、所望の弾性モジュラスを有するポリマーマトリックス材料を与える)を含有する所定量の液体物質で被覆される。前駆体という用語は、モノマー、オリゴマー、または架橋性ポリマー組成物を意味する。液体物質は、溶液、分散体、または溶融体でありうる。
【0038】
いくつかの単層を所定の回転角で、好ましくは約90°の角度で、互いに積み重ねて配置し、分離フィルムを両方の表面上(積重された単層の上側および下側)に配置し、この方法で多層シートを形成する。好ましくは、公知の方法を用いて温度および/または圧力を増大させて層を一体化する。これは、たとえば、成形型内で積重体を圧縮することにより非連続的に、または積層工程およびカレンダリング工程を介して連続的に、行われる。したがって、マトリックス材料をバインダーとして適用する場合、マトリックス材料を繊維間に流動させて、上側および/または下側の単層の繊維に、ならびに場合により分離フィルムに、接着させることが可能である。マトリックス材料の溶液または分散体を利用する場合、単層から多層シートを形成する方法はまた、一般的には分離フィルム層を配置する工程および一体化させる工程の前に、溶媒または分散媒を蒸発させる工程をも含む。次に、予備成形シートを積重して集成体を作製し、続いて、集成体を安定化させるオプションを適用して、たとえば、局所的に縫合するかまたは可撓性被覆材で積重体を包囲することにより、耐弾物品を作製する。
【0039】
低バインダー含有率、特定的には低マトリックス材料含有率を得ることを意図して500〜2500dtexの番手(またはタイター)を有する糸をマトリックス材料と場合により充填剤との分散体で湿潤させることにより単層を製造する方法を使用することが有利であることが判明した。500dtex超の番手を有する糸は、分散体から比較的ごくわずかのマトリックス材料を吸収する。好ましくは、番手は、800dtex超、より好ましくは1000dtex超、最も好ましくは1200dtex超である。好ましくは、番手は、2500dtex未満である。なぜなら、これらの糸は、単層の平面内でより容易に拡延されうるからである。
【0040】
好ましくは、マトリックス材料の水性分散体が使用される。水性分散体は、低粘度を有する。このことは、マトリックス材料が繊維上に非常に均一に分配され、その結果として、良好な均一の繊維−繊維結合が達成されているという利点を有する。さらなる利点は、分散水が無毒であるため、開放空気中で蒸発させることが可能である点である。好ましくは、分散体は、同様に、目標とされる低マトリックスパーセントで均一分布を得ることを意図して、分散体の全質量を基準にして30〜60質量%の固体成分(エラストマー性マトリックス材料および存在する任意の充填剤)を含有する。
【0041】
以上に記載した方法に従って取得可能な本発明に係る耐弾集成体は、特定的には比較的低い面密度で、V50値およびSEA値により表される非常に良好な耐弾特性を示す。好ましくは、本発明に係る集成体またはそのような集成体を含む可撓性耐弾物品は、タイプFMJパラベラム(FMJ Parabellum)の銃弾9×19mm(8グラム)が当たった場合、少なくとも300Jm/kgの比エネルギー吸収量(SEA)を有する。銃弾または榴散弾の衝突時のエネルギー吸収量(EA)は、速度V50の銃弾または榴散弾の運動エネルギーから計算される。V50とは、銃弾または榴散弾が防弾構造体を貫通する確率が50%である速度である。
【0042】
本発明は、より特定的には、少なくとも約1.2GPaの引張り強度を有するHPPEマルチフィラメント糸より本質的になる少なくとも2層の単層と、ポーラスポリエチレン分離フィルムと、を含有する複数のシートの集成体を含む可撓性耐弾物品に関する。この集成体は、少なくとも1.5kg/mの面密度(AD)を有し、Stanag2920に基づく試験手順に準拠して9×19mmのFMJパラベラム(FMJ Parabellum)銃弾に対して測定したときに少なくとも280J.m/kgの比エネルギー吸収量(SEA)を有する。好ましくは、物品は、少なくとも300、325、350、またはさらに少なくとも375J.m/kgのSEAを有する。
【実施例】
【0043】
以下の実施例により本発明についてさらに説明するが、それらに限定されるものではない。
【0044】
方法
・ IV: 方法PTC−179(ハーキュリース・インコーポレーテッド(Hercules Inc.)、1982年4月29日改定)に準拠して、135℃で、デカリン中で、16時間の溶解時間で、酸化防止剤として所定量の2g/l溶液のDBPCを用いて、さまざまな濃度で測定された粘度を濃度ゼロに外挿することにより、固有粘度を決定する;
・ 側鎖: FTIRにより、厚さ2mmの圧縮成形フィルムで、NMR測定に基づく検量線を用いて1375cm−1で吸収を定量することにより、UHPEサンプル中の側鎖の数を決定する(たとえば、EP0269151号明細書参照);
・ 引張り特性: マルチフィラメント糸で、ASTM D885Mに明記されるように、500mmの公称ゲージ長の繊維、50%/分のクロスヘッド速度、およびタイプファイバー・グリップD5618C(Fibre Grip D5618C)のインストロン2714(Instron 2714)クランプを用いて、引張り強度(または強度)、引張りモジュラス(またはモジュラス)、および破断点伸び(またはeab)を規定し、決定する。測定された応力−歪曲線に基づいて、0.3〜1%歪みにおける傾きとしてモジュラスを決定する。モジュラスおよび強度を計算するために、測定された引張り力を、10メートルの繊維を秤量することにより決定されるタイターで割り算し、0.97g/cmの密度を仮定してGPa単位の値を算出する。薄いフィルムの引張り特性は、ISO1184(H)に従って測定した。
・ ポーラスフィルムのポロシティーは、フィルムの測定密度およびフィルムの作製に用いた材料の密度(UHPEでは、0.97g/cmの密度を使用した)から計算した;
・ 耐弾性能: 複合パネルのV50およびSEAは、9mm*19mmのFMJパラベラム(FMJ Parabellum)銃弾(ディナミット・ノーベル(Dynamit Nobel)製)を用いてStanag2920に基づく試験手順で決定した。ローマ・プラスティリン(Roma Plastilin)バッキング材料が充填された支持体(35℃でプレコンディショニングした)上に可撓性ストラップを用いて層の集成体を固定した。バッキング材料の背面変形の深さを測定することにより、外傷作用を定量した。
【0045】
HPPE繊維の調製
38/62〜42/58の比のシス/トランス異性体を含有するデカリン中の、炭素原子1000個あたり0.3個未満の側基および19.8dl/gのIVを有するUHPEホモポリマーの8質量%の溶液を押し出すことにより、HPPEマルチフィラメント糸を作製し、そしてギヤーポンプを備えた130mm二軸スクリュー押出機を用いて180℃の温度設定値で1176個の紡糸孔を有する紡糸プレートに孔1個あたり2.2g/分の速度で通して押し出した。紡糸孔は、直径が0.8mmかつL/Dが10の円筒状チャネルに60°の円錐角で円錐状に狭窄されて接続された直径が3.5mmかつL/Dが18の初期円柱状チャネルを有していた。25mmのエアギャップを通過した後、約30〜40℃に保持されかつ浴に入るフィラメントに垂直に約5cm/sの水流量を有する水浴中で、流動性フィラメントを冷却し、そしてエアギャップ中の紡糸されたままのフィラメントに16の延伸比が適用されるような速度で引き出した。その後、フィラメントを固体状態で2工程でさらに延伸した。最初にオーブン中で約110〜140℃の温度勾配で、次いで約151℃で、約25の全固体状態延伸比を適用し、そのプロセスの間、フィラメントからデカリンを蒸発させた。こうして得られた糸は、930dtexのタイター、4.1GPaの引張り強度、および150GPaのモジュラスを有していた。
【0046】
比較実験A
数本の糸をボビンフレームからコーム上に案内してマトリックス材料としてのクラトン(Kraton)(登録商標)D1107(ポリスチレン−ポリイソプレン−ポリスチレンブロックコポリマー熱可塑性エラストマー)の水性分散体でフィラメントを湿潤させることにより、以上に記載のHPPE繊維から単層を作製した。平面内で並行に糸を配向させ、乾燥後、単層の面密度は、約38g/mであり、マトリックス含有率は、約12質量%であった。2層の単層を交差積重し、7ミクロンの厚さ(約7g/mの面密度に相当する)を有する非ポーラス線状低密度ポリエチレンフィルムを分離層として両側に適用し、そして0.5MPaの圧力でかつ約110〜115℃の温度で単層および分離フィルムを一体化させることにより、予備成形シートを作製した。ポリエチレンフィルムは、約10MPaの降伏点強度または約70N/mの強度係数を有していた。
【0047】
集成体をコーナーで縫合して、いくつかの予備成形シートの遊動非連結集成体からフラットな耐弾物品を作製した。銃弾タイプ9×19mmFMJパラベラム(FMJ Parabellum)(8g)を用いて3種の異なる集成体の耐弾性能を試験した。V50、SEA、および外傷(背面変形)の結果を表1に示す。
【0048】
実施例1
比較実験Aを反復したが、この場合には、83%のポロシティーを有する厚さ20ミクロンのマイクロポーラスUHPEフィルムソルポール(Solupor)(登録商標)3P07A(オランダ国のディーエスエム・ソルテック(DSM Solutech,NL)から入手)を分離フィルムとして適用した。この二軸延伸フィルムは、約12MPaの引張り強度、13%の破断点伸び(いずれも機械方向)、および約240N/mの強度係数を有していた。集成シートは、相互に容易に摺動したことから、さらなる加工中および試験中になんらかの安定化を行う必要性が強く望まれた。安定化された集成体の可撓性は、より高いと判断され、積重体は、比較実験Aの積重体よりも容易に曲げることが可能であった。驚くべきことに、観測されたV50値つまりSEAは、比較実験Aよりも著しく高かったが、外傷は、増大しなかった。
【0049】
比較実験Bおよび実施例2
比較実験Aおよび実施例1を反復したが、単層は、約39g/mのADを有し、マトリックス含有率は、約15質量%であった。試験結果から、ポーラス分離層を用いて作製されたシートの改良された耐弾性能が確認される(表1参照)。
【0050】
比較実験Cおよび実施例3
約20g/mのADおよび約15質量%のマトリックス含有率で、比較実験Aのときと同じようにして、一方向(UD)単層を作製した。4層の単層を交差配置して7g/mのポリエチレンフィルムを両側に配置し、110〜115℃で圧縮して一体化させることにより、予備成形シートを作製した。これらのシートのいくつかを積重し、縫合により安定化させ、そして先の場合と同じように耐弾性能に関する試験を行った。
【0051】
実施例3では、予備成形シートは、8ミクロン(面密度3g/m)およびポロシティー63%の2枚のマイクロポーラスUHPEフィルムを含有していた。この革新的フィルムは、オランダ国のディーエスエム・ソルテック(DSM Solutech,NL)から入手したものであり、欧州特許出願公開第0504954A1号明細書に記載されているような方法を用いて作製されるソルポール(Solupor)(登録商標)3P07Aフィルムに類似したものであった。これから作製された集成体は、非ポーラスフィルムを有するサンプルよりも有意に良好な耐弾性能を示す。表1を参照のこと。
【0052】
改良された性能は、図1によりさらに例示される。この図には、観測されたSEA値が、実験A、B、1、および2の試験集成体の面密度に対してプロットされている。
【0053】
【表1】

【図1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2層の単層(ただし、各単層は、少なくとも約1.2GPaの引張り強度かつ少なくとも40GPaの引張りモジュラスを有する一方向配向繊維とバインダーとを含有し、各単層内の繊維方向は、隣接する単層内の繊維方向に対して回転されている)と、両方の外表面上に分離フィルムと、を含む予備成形シートであって、前記分離フィルムが40〜90%のポロシティーを有することを特徴とする、予備成形シート。
【請求項2】
前記繊維が高性能ポリエチレン繊維を含む、請求項1に記載の予備成形シート。
【請求項3】
前記バインダーが、熱可塑性エラストマーより本質的になり、かつ約40MPa未満の引張りモジュラスを有する、請求項1または2に記載の予備成形シート。
【請求項4】
前記分離フィルムが超高モル質量ポリエチレンから作製される、請求項1〜3のいずれか一項に記載の予備成形シート。
【請求項5】
前記分離フィルムが二軸延伸フィルムである、請求項1〜4のいずれか一項に記載の予備成形シート。
【請求項6】
前記分離フィルムが2〜4g/mの面密度を有する、請求項1〜5のいずれか一項に記載の予備成形シート。
【請求項7】
前記分離フィルムが少なくとも150N/mの強度係数を有する、請求項1〜6のいずれか一項に記載の予備成形シート。
【請求項8】
一方向配向繊維の2層の単層を含む、請求項1〜6のいずれか一項に記載の予備成形シート。
【請求項9】
互いに連結されていない、請求項1〜8のいずれか一項に記載の少なくとも2枚のシートの集成体。
【請求項10】
請求項9に記載の少なくとも1種の集成体を含む可撓性耐弾物品。
【請求項11】
少なくとも2層の単層(ただし、各単層は、少なくとも1.2GPaの引張り強度を有する一方向配向高性能ポリエチレン繊維より本質的になり、各単層内の繊維方向は、隣接する単層内の繊維方向に対して回転されている)と、両方の外表面上に40〜90%のポロシティーを有する2枚のポリエチレン分離フィルムと、を含有する複数のシートを含有する集成体を含む可撓性耐弾物品であって、前記集成体が、少なくとも1.5kg/mの面密度と、Stanag2920に基づく試験手順に準拠して9×19mmのFMJパラベラム(FMJ Parabellum)銃弾に対して測定したときに少なくとも300J.m/kgの比エネルギー吸収量と、を有する、可撓性耐弾物品。

【公表番号】特表2007−520371(P2007−520371A)
【公表日】平成19年7月26日(2007.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−546864(P2006−546864)
【出願日】平成16年1月1日(2004.1.1)
【国際出願番号】PCT/NL2004/000028
【国際公開番号】WO2005/066577
【国際公開日】平成17年7月21日(2005.7.21)
【出願人】(503220392)ディーエスエム アイピー アセッツ ビー.ブイ. (873)
【Fターム(参考)】