説明

耐摩耗性に優れる潤滑油組成物

【課題】 摩耗を大幅に低減し、かつ低い摩擦係数を安定して示すとともに、高い安定性及び電気絶縁性を有する、冷凍機油、作動油、内燃機関用潤滑油などとして用いることができる潤滑油組成物を提供する。
【解決手段】 動植物油、エステル、エーテルなどの含酸素化合物からなる潤滑油基油に、カルボキシル変性シリコーンオイルを、潤滑油組成物全量基準で0.001〜5.0質量%、好ましくは、さらにこれにリン酸エステルを潤滑油組成物全量基準で0.3〜3.0質量%添加した潤滑油組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エステル、エーテル、動植物油などの含酸素化合物を基油とする耐摩耗性に優れる潤滑油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、様々な分野で環境への対応が求められている。特に、二酸化炭素の削減は急務な課題であり、国内各種産業分野、自動車をはじめとする輸送分野、一般消費生活のそれぞれで省エネルギーが図られるようになってきた。
例えば、産業設備機械の中でも、射出成型機、工作機械、プレス加工機などの大きな仕事エネルギーを必要とするシステムには、油圧ポンプの加圧エネルギーを運動エネルギーに変換できる油圧システムが多用されている。この油圧システムにおいても、省エネルギーのニーズが高くなっており、油圧システムの圧力媒体である作動油に対しても、省エネルギー対策が求められ、低粘度化や高粘度指数化が図られているが、低粘度化により、しゅう動部分の耐摩耗性の低下や焼付きなどが問題になっていた。
昨今、機械システムの小型化、高速化、省燃費・省エネルギー化により摺動部における負荷が高まり、より耐摩耗性等の潤滑性に優れる潤滑油が求められている。その対応のためエステル、エーテルなどの含酸素合成油の使用が広がりつつある。
一方、環境汚染への対応の面から動植物油や特定構造のエステルなどの生分解性潤滑油が、より環境に優しい基材として、使用が増えると考えられている。つまり、今後は鉱油などの炭化水素油にはない特長を有する、含酸素化合物を基油とする潤滑油が大幅に増えるものと推測される。
【0003】
潤滑油の理想的な特性は、高速下においても、低速下においても摩擦損失が少なく、且つ、フレッティング摩耗等の摩耗が少ないことである。つまり、潤滑油は、摩擦損失を少なくし、摩耗を軽減するものが求められている。したがって、高速回転時等の接触面速度が速い時でも、低速で高トルクがかかる時でも摩擦損失が小さく、摩耗が少ないことが望まれる。
しかし、極性のある含酸素化合物系潤滑油の場合、一般の鉱油などの炭化水素系潤滑油に使用されている耐摩耗剤は極性のある基油との親和力のため、摺動部での耐摩耗剤の濃度が低くなり潤滑性向上の効果が小さくなることから、エステルなどの含酸素化合物系潤滑油に有効で、かつ、安定性に悪影響の少ない耐摩耗剤の開発が望まれている。
【0004】
耐摩耗剤としては、例えばフルオロアルキルエーテルアルコールの(ジチオ)リン酸エステル及びその塩(特許文献1)、ピリジン類等に由来する複素環骨格を有する複素環化合物、及び/又は該複素環化合物とホウ素化合物等との反応生成物(特許文献2)、メルカプトアルカンカルボン酸エステル亜鉛塩(特許文献3)、トリアゾール化合物と該トリアゾール化合物とホウ酸化合物との反応生成物(特許文献4)が提案されており、また、基油として含酸素化合物が最も多く使用されている冷凍機油の分野では、リン酸エステルを除くリン化合物(特許文献5)が提案されている。
しかし、これらは従来から検討されている硫黄系、窒素系、リン系添加剤の系列であり、しゅう動あるいは熱により分解された後に極性の強い化合物になるため安定性に難があり、また、その耐摩耗の効果も限定的である。
一方、例えば、ポリオキシアルキレン変性シリコーンオイルやポリエーテル変性シリコンオイルなどを泡立ち抑制のために潤滑油に添加することは知られているが(例えば、特許文献6、7)、カルボキシ変性シリコーンオイルを潤滑油に添加し、耐摩耗性を向上させることは、未だ知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−154759号公報
【特許文献2】特開2009−40869号公報
【特許文献3】特開2009−84263号公報
【特許文献4】特開2009−235252号公報
【特許文献5】特開2009−263666号公報
【特許文献6】特開平11−209778号公報
【特許文献7】特開2005−162883号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らは、高速下においても、低速下においても摩擦損失が少なく、且つ、フレッティング摩耗等の摩耗が少なく、安定性の良好な含酸素化合物系潤滑油を開発するため、鋭意研究を進めた結果、特定の変性シリコーンオイルが基油への少量の添加で大幅に摩耗を抑制でき、安定性への悪影響が殆どないことを見出し、本発明に想到した。
本発明の解決しようとする課題は、含酸素化合物系潤滑油を使用し、小型化、高速化、省燃費・省エネルギー化によってよりシビアとなっている摺動部における諸問題を解決し、摩耗を大幅に低減し、かつ低い摩擦係数を安定して示す潤滑油、特にメンテナンスフリーで使用されることの多い冷凍機油の分野においては、耐摩耗性とともに良好な安定性、高い電気絶縁性が求められることから、それらの要求特性をも満たす潤滑油組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、本発明は次のとおりである。
(1)含酸素化合物からなる潤滑油基油に、カルボキシル変性シリコーンオイルを、潤滑油組成物全量基準で0.001〜5.0質量%添加する潤滑油組成物。
(2)リン酸エステルを、潤滑油組成物全量基準で0.3〜3.0質量%添加する前記(1)に記載の潤滑油組成物。
(3)含酸素化合物からなる潤滑油基油が、動植物油、エステル及びエーテルから選択される少なくとも1種以上で、40℃における動粘度が2〜1000mm2/sである上記(1)又は(2)に記載の潤滑油組成物。
(4)上記(1)〜(3)のいずれかに記載の潤滑油組成物であって、生分解度が60%以上である生分解性潤滑油。
(5)上記(1)〜(4)のいずれかに記載の冷凍機用潤滑油組成物。
【発明の効果】
【0008】
本発明の潤滑油組成物は、摩耗を顕著に低減し、かつ摩擦係数も低く安定する特性を示すとともに安定性に殆ど悪影響を及ぼさない。したがって、本発明の潤滑油組成物は、長期間の使用に好適であり、かつ低く安定した摩擦係数の特性から省エネルギーにも顕著な効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の潤滑油組成物は、動植物油系および/またはエステル、エーテルなどの合成油系の含酸素化合物を基油とし、これにカルボキシル変性シリコーンオイルを0.001〜5.0質量%添加するものである。
ところで、カルボキシル変性シリコーンオイルは、鉱油系などの炭化水素系基油への溶解度が低いため、それ自体では、潤滑性の向上が発揮できるような濃度まで添加することはできないが、基油を極性のある含酸素化合物にすることにより、潤滑性が向上するような濃度での使用が可能となる。その中でも、溶解性と潤滑性向上効果のバランスがとれたカルボキシル変性シリコーンオイルは際立った潤滑性向上の効果を発揮する。
【0010】
〔潤滑油基油〕
本発明において、潤滑油基油としては動植物油系、合成油系などの含酸素化合物を用いることができる。さらに、これらの潤滑油基油は2種以上混合して用いることもできる。
本発明に用いられる潤滑油基油の物性は特に限定するものではないが、40℃における動粘度が2〜1000mm2/sのものが好ましく、低粘度化により省エネルギーが図れることから、好ましくは5〜500mm2/s、より好ましくは5〜100mm2/sのものである。ただし、高負荷の用途には高粘度の基油を使うことが好ましい。
粘度指数としては50以上が好ましく、より好ましくは100〜250である。また、低温特性である流動点は−10℃以下が好ましく、−15℃以下がより好ましい。さらには、安全面から引火点が70℃以上であることが好ましく、150℃以上がより好ましい。
【0011】
動植物油系の潤滑油基油としては、牛乳脂、牛脂、ラード(豚脂)、羊脂、鯨油、鮭油、かつお油、にしん油、鱈油、さらには大豆油、菜種油、ひまわり油、サフラワー油、落花生油、とうもろこし油、綿実油、米ぬか油、ゴマ油、オリーブ油、アマニ油、ヒマシ油、カカオ脂、パーム油、ヤシ油、麻実油、米油、茶種油を好適に用いることができるが、これらに限定されるものではない。
【0012】
合成油系の潤滑油基油としてはエステル、エーテル、グリコールなどが挙げられる。なかでもエステル、エーテルが好ましく用いることができる。
エステルは様々な分子構造の化合物が市販されており、それぞれ特有の特性を有し、同一粘度の炭化水素系基油と比較すると引火点が高い。エステルは、アルコールと脂肪酸の脱水縮重合反応で得ることができるが、本発明においては、化学的安定性の面で、二塩基酸と一価アルコールとのジエステル、ポリオールと一価脂肪酸とのポリオールエステルを好適な基油成分として挙げることができる。
【0013】
エーテルとしては、ポリアルキレングリコ−ル、ポリビニルエーテルなど種々のものが挙げられるが、次の一般式(1)で示される化合物が好適である。
X〔−O−(AO)n−R1〕m (1)
上記式(1)中、Xはモノオール又はポリオールから水酸基を除いた形の炭化水素基、Aは炭素数2〜4のアルキレン基、R1は水素または炭素数1〜10のアルキル基、mはXの価数、nは2以上の正数で表される化合物である。
【0014】
グルコールとしては、次の一般式(2)で示されるポリオキシアルキレングリコール化合物が好適である。
2−〔(OR3)f−OR4〕g (2)
上記式(2)中、R2は水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数2〜10のアシル基又は水酸基を2〜8個有する化合物の残基を表し、R3は炭素数2〜4のアルキレン基を表し、R4は水素原子、炭素数1〜10のアルキル基又は炭素数2〜10のアシル基、fは1〜80の整数、gは1〜8の整数で表される化合物である。
通常、これら合成油系、動植物油系などの潤滑油基油は適宜組み合わせ、用途ごとに要求される様々な性能を満たすように適宜の割合で配合することができる。このとき合成油系および動植物油系の潤滑油基油はそれぞれ複数用いても良い。
【0015】
〔カルボキシル変性シリコーンオイル〕
カルボキシル変性シリコーンオイルとしては、具体的には、下記一般式(3)で示されるものであり、側鎖型(Y2が‐R12COOH)、両末端型(Y1及びY3が‐R12COOH)、片末端型(Y3が‐R12COOH)、側鎖両末端型(Y1、Y2、Y3が‐R12COOH)などがあるが、そのいずれでも良い。
【0016】
【化1】

【0017】
なお、上記一般式(3)中、R5、R6、R7、R8、R9、R10、R11は、各々独立に炭素数1〜3のアルキル基を、Y1、Y2、Y3は、少なくとも1つが、‐R12COOHで、残りは独立に炭素数1〜3のアルキル基を、h、iは1〜40の整数を示す。また、R12は、単結合か、炭素数1〜3のアルキレン基を示す。
また、このカルボキシル変性シリコーンオイルは、ランダムポリマーでもブロックポリマーでも良い。好ましくは側鎖型で、より好ましくは25℃における粘度が1000〜8000mm2/s、官能基当量が2000〜6000g/molの化合物である。
その添加量は、潤滑油組成物全量基準で0.001〜5.0質量%であるが、好ましくは0.01〜2.0質量%、より好ましくは0.02〜1.0質量%である。添加量が0.001質量%未満では潤滑性向上の効果がなく、5.0質量%を超えると酸価が上がりすぎて潤滑油の安定性が低下する。特に冷凍機油用途の場合は、酸価を低く抑えるために添加量を0.5質量%以下にすることが好ましい。
【0018】
〔リン酸エステル〕
リン酸エステルとしては、アルキルタイプ、アリールタイプ、アルキル/アリールタイプ、さらには酸性リン酸エステルなど種々あるが、中でもアリールタイプであるトリフェニルフォスフェート(TPP)やトリクレジルホスフェート(TCP)が安定性と潤滑性向上のバランス面から好ましく、その添加量は、潤滑油組成物全量基準で0.3〜3.0重量%であり、好ましくは0.5〜2.0質量%である。0.3質量%より少ないと潤滑性向上の効果が殆どなく、3.0質量%を超えると、リン酸ができ易くなるため安定性を低下させる。
【0019】
〔その他の添加剤〕
本発明の潤滑油組成物には、本発明の目的が損なわれない範囲で、従来から潤滑油、グリースなどに用いられている、摩擦調整剤、摩耗防止剤、極圧剤、酸化防止剤、防錆剤、金属不活性化剤、清浄分散剤、消泡剤などの添加剤を、より性能を向上させるために含有することができる。
摩擦調整剤としては有機モリブデン化合物であるモリブデンジチオカーバメートやモリブデンジチオフォスフェート、含窒素化合物である脂肪族アミン、脂肪族アミド、脂肪族イミドやアルコール、エステル、リン酸エステルアミン塩、亜リン酸エステルアミン塩など、摩耗防止剤としてはリン酸エステル、ジアルキルジチオリン酸亜鉛など、極圧剤としては硫化オレフィン、硫化油脂などが、また、酸化防止剤としてはアミン系、フェノール系の酸化防止剤など、防錆剤としてはアルケニルコハク酸エステルまたは部分エステルなど、金属不活性化剤としてはベンゾトリアゾール、ベンゾトリアゾール誘導体などが、清浄分散剤としては、アルカリ土類金属スルホネート、アルカリ土類金属フェネート、アルカリ土類金属サリシレートなどの金属系清浄剤、またはポリアルケニルコハク酸イミド、ポリアルケニルコハク酸エステルなどの無灰系分散剤、消泡剤としてはシリコーン化合物、エステル系消泡剤などがそれぞれ挙げられる。
【0020】
本発明の潤滑油組成物の用途としては、鉄或いは鉄合金、アルミからなるしゅう動部の潤滑に適しており、作動油、冷凍機油、空気圧縮機油、内燃機関用潤滑油として、あるいは生分解性潤滑油として適している。なかでも生分解性潤滑油や、省電力のため、低粘度化が進んでおり、潤滑性が課題となっているエステル系あるいはエーテル系の冷凍機油には好適である。
【実施例】
【0021】
以下、実施例および比較例に基づいてより本発明をより詳細に説明するが、本発明はかかる実施例に限定されるものではない。
〔潤滑油組成物の調製〕
次に示すカルボキシル変性シリコーンオイル、リン酸エステル、チオリン酸亜鉛、潤滑油基油、その他の添加剤を用いて、表1の上部に示す配合割合(添加量は組成物全量基準での質量%)でブレンドして、実施例および比較例の潤滑油組成物を調製し、その性状について、動粘度、粘度指数はJIS K2283、流動点はJIS K2269、酸価はJIS K2501に規定の方法により測定した。その測定結果を表1に併せて示した。
【0022】
(A)耐摩耗添加剤
(A1)カルボキシル変性シリコーンオイル、X−22−3701E(側鎖型、25℃動粘度:2000mm2/s、官能基当量:4000g/mol)〔信越化学工業社製〕
(A2)カルボキシル変性シリコーンオイル、X−22−162C(両末端型、25℃動粘度:220mm2/s、官能基当量:2300g/mol)〔信越化学工業社製〕
(A3)トリクレジルフォスフェート(TCP)〔和光純薬工業社製〕
(A4)ジアルキルジチオリン酸亜鉛(ZnDTP)、ルブリゾ−ル1375〔日本ルブリゾ−ル社製〕
【0023】
(B)潤滑油基油
(B1)ポリオールエステル油(ネオペンチルグリコールとn‐ノナン酸のエステル、40℃動粘度:8.4mm2/s、粘度指数:134、流動点:−37.5℃、引火点:180℃)
(B2)ポリアルキレングリコール(PAG,末端がブチル基と水酸基で骨格がオキシプロピレンであるPAG,40℃動粘度:56mm2/s、粘度指数:187、流動点:−42.5℃、引火点:220℃)
(B3)菜種油(植物油)、(40℃動粘度:35.6mm2/s、粘度指数:210、流動点:−27.5℃、引火点:334℃)
(C)その他の添加剤
酸化防止剤:ジ‐t.‐ブチル‐p.‐クレゾール(DBPC)
【0024】
〔潤滑油組成物の評価〕
このようにして得た実施例1〜7および比較例1〜4の潤滑剤組成物それぞれについて、次に示した方法により、一般の潤滑剤組成物としての潤滑性能(耐摩耗性;摩擦係数、摩耗深さ)、冷凍機油、内燃機関用潤滑油、生分解性潤滑油、作動油としての特性を評価した。得られた評価結果を表1の下部にまとめて示した。
(耐摩耗性試験)
ボール/ディスクタイプの往復摩擦試験機を用いて耐摩耗性を測定した。
試験条件は、より油膜ができにくく、厳しい潤滑条件となるように、摺動速度が低速(1cm/s)、高荷重(2200g f)とし、振幅20mm、室温で試験を開始し、2時間往復摩擦を実施した。なお、ボールとディスクの試験片は、軸受炭素鋼(SUJ−2)を用いた。2時間経過時の摩擦係数および試験後のディスク摩耗深さを触針式表面粗さ計で計測した。
【0025】
(冷凍機油としての評価)
熱安定性については、ANSI/ASHRAE 97-1983に準じ、供試油20gと冷媒(R134a)5gと触媒(鉄、銅、アルミニウムの各線)をステンレス製ボンベ(100ml)に封入し、175℃に加熱して10日間保持した後、供試油の色相(ASTM表示)及び酸価を測定した。また、電気絶縁性については、JIS C2101に基づき80℃における体積抵抗率を求めた。
【0026】
(内燃機関用潤滑油としての評価)
内燃機関用潤滑油としての評価はシリンダー/ディスクタイプのSRV摩擦試験機を用い、温度を100℃と高温に設定し、ディスク摩耗痕径及び摩擦係数を測定した。
条件は、荷重:200N、周波数:300Hz、振幅:1.0mm、試験時間:1時間で、シリンダーでディスクに往復動摩擦を加えて、ディスクに生じた摩耗痕径を顕微鏡で測定した。摩擦係数は、摩擦試験機にあらかじめ備えられている歪み計により測定した。
【0027】
(生分解性潤滑油としての評価)
生分解性潤滑油としての評価は(財)日本環境協会が認定する「エコマーク」の取得のための認定基準となっている、高い分解率が出にくいOECD法(OECD301B)で生分解度を測定した。生分解度60%以上が生分解性潤滑油として認定される。
【0028】
(作動油としての評価)
作動油としての評価は高圧ベーンポンプ試験で行った。試験はASTM D2882に準拠し、ポンプ試験機中に56.8リットルの油を循環し、圧力:140kg/cm2、ポンプ回転数:1200rpm、入口油温:65.5℃で試験時間100時間後のベーンとカムリングの総重量減を測定し、摩耗量とした。
【0029】
【表1】

【0030】
実施例1〜7の潤滑油組成物の摩擦試験での摩擦係数は0.10〜0.11であり、低く安定している。また摩擦試験後のディスク摩耗深さは0.08〜0.15μmであり、殆ど摩耗していないレベルである。
これに対し、基油のみの比較例1では摩擦係数が高く、ディスク摩耗深さも大きくなっている。また、カルボキシル変性シリコーンオイル以外の耐摩耗剤を配合した比較例2〜4では、摩擦係数が高く、摩耗深さも実施例よりはるかに大きくなっている。
そのなかで、一般的に使用される耐摩耗剤であるZnDTPを配合した比較例3、4は潤滑性は若干良好になっているものの実施例には及ばず、さらに安定性が悪く、体積抵抗率も低い値となっている。逆に、比較例1、2は安定性、体積抵抗率は良好なものの、ポイントとである潤滑性の向上がはかられていない。
このように、潤滑油基油にカルボキシル変性シリコーンオイルを配合することにより、潤滑油組成物の安定性レベルを維持したままで、潤滑性を大幅に向上させることができる。
また、実施例1〜7の潤滑油組成物は、すべて内燃機関用潤滑油、作動油としての特性に優れていることがわかり、特に、実施例1〜3と6、7は生分解性である。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明の潤滑油組成物は、摩耗を顕著に低減し、かつ摩擦係数も低く安定する特性を示すことから、各種の機械・機器の摺動部の潤滑油、特には、冷凍機油、作動油、内燃機関用潤滑油などの潤滑油として、さらには生分解性潤滑油として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
含酸素化合物からなる潤滑油基油に、カルボキシル変性シリコーンオイルを、潤滑油組成物全量基準で0.001〜5.0質量%添加することを特徴とする潤滑油組成物。
【請求項2】
リン酸エステルを、潤滑油組成物全量基準で0.3〜3.0質量%添加する請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項3】
含酸素化合物よりなる潤滑油基油が、動植物油、エステル及びエーテルから選択される少なくとも1種以上で、40℃における動粘度が2〜1000mm2/sである請求項1又は2に記載の潤滑油組成物。
【請求項4】
請求項1〜4のいずれかに記載の潤滑油組成物であって、生分解度が60%以上である生分解性潤滑油。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の冷凍機用潤滑油組成物。

【公開番号】特開2011−225661(P2011−225661A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−94755(P2010−94755)
【出願日】平成22年4月16日(2010.4.16)
【出願人】(000004444)JX日鉱日石エネルギー株式会社 (1,898)
【Fターム(参考)】