説明

耐摩耗性に優れるTi合金製部材

【課題】 表面処理層の付与による耐摩耗性の向上に着目した従来のチタン合金製部材では、未だに得られていない一層優れた耐摩耗性を発揮するチタン合金製部材を提供することである。
【解決手段】 Ni−PなどのNi系めっき層とチタン合金基材との間に、この双方に対して優れた密着性を有するAl組成90%以上で、厚さが0.2μm〜50μmの範囲のAl中間層を介在させて、耐摩耗性に優れたチタン合金製部材を形成したのである。また、前記Ni系めっき層とAl中間層の間にAlの陽極酸化処理層またはジンケート処理により形成されたZn層を介在させることにより、微細なポアが多数存在する前記陽極酸化層またはZn層に、Ni系めっき部が滲入し、アンカー効果により、Ni系めっき層のTi合金製基材に対する密着強度が一層向上する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、耐摩耗性が要求される用途に使用されるTi合金製部品に係り、具体的には、輸送機械や産業機械等に用いられる歯車、シャフト、軸受け、バネ類、各種エンジンに用いられる、弁バネ,コンロッド,ピストンリング,バルブリテーナ等、自動二輪車に用いられるスプロケット、自転車類に用いられるギアやプーリー、および自動車のミッション系部品等の、表面処理が施され、耐摩耗性に優れるTi合金製部材に関する。
【背景技術】
【0002】
機械部品用耐摩耗性部材としては、浸炭処理等の表面硬化処理が施された鋼系材料や鋳鉄等の鉄系材料が用いられてきたが、近年では各種部品の軽量化を目的としてチタン(以下Tiと記す)合金やアルミニウム(以下Alと記す)合金への転換が図られている。特に、Ti金属は軽量であるとともに優れた耐食性と比強度を有することから、輸送機器への幅広い適用が期待されている。しかしながら、Ti合金は耐摩耗性に乏しく焼付きを生じ易いことから、耐摩耗性部材として用いるにあたっては、表面処理を施すことが不可欠である。例えば、耐摩耗性(耐線間摩耗性)の改善を目的として表面処理を施したTi合金製機械部品として、電気ニッケル−リン(以下Ni−Pと記す)めっき層で被覆したTi合金線からなるコイルバネが開示されている(特許文献1参照)。この表面処理は部品の基材表面に、Hv:500〜730、厚み:0.5〜15μm、P含有量:0.5〜7wt%、かつ、めっき応力5kg/mm2以下となるように電気Ni−Pめっき層を施すもので、前記基材と電気Ni−Pめっき層との間に、厚み:0.1〜3μmのNiまたはCuストライクめっきを施すことにより、圧縮応力が存在するNi−Pめっき層と前記基材との界面でのせん断応力が緩和され、前記基材と電気Ni−Pめっき層との密着性が向上する。この表面処理を施すことにより得られるTi合金製部材は、その表面処理層が優れた耐摩耗性を発揮することから、一部の機械部品で既に実用化され各方面で優れた評価を受けている。
【特許文献1】特開平6−173702号公報([0008]〜[0022])
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、特許文献1に開示されたようなめっき層を施したTi合金製部材であっても、スピードレース用車両に用いられる耐摩耗性部材、例えば、弁バネや、バルブリテーナ、コンロッドなどの機械部品では、過酷な条件で使用されるため、摺動面およびその近傍の過大な荷重が作用しやすい部分で、めっき層がずれるように変形したり剥離したりして、急激な摩耗現象が引き起こされる場合があり、耐久性が不十分となる。このため、使用中にめっき層が剥離する等の問題を解消して、耐久性をより一層向上させることが強く要求されている。また、スピードレース用車両に用いられる耐摩耗部材に限らず、それ以外の機械用部材であっても、近年急速に進んでいる機械部品の高機能化により最大負荷は増大する傾向にあるため、一層優れた耐久性を有する信頼性の高いTi合金製耐摩耗部材の開発が要望されている。
【0004】
この発明は上記のような従来技術の問題点に鑑みなされたもので、表面処理層の付与による耐摩耗性の向上に着目した従来のTi合金製部材では、未だに得られていない一層優れた耐摩耗性を発揮するTi合金製部材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記の課題を解決するために、この発明では以下の構成を採用したのである。
【0006】
即ち、請求項1に係る耐摩耗性に優れるTi合金製部材は、Ti合金基材にNi系めっき層が被覆された耐摩耗性に優れるチタン合金製部材であって、前記Ni系めっき層と前記チタン合金基材の間にAl組成90%以上の純AlまたはAl合金中間層が介在していることを特徴とする。
【0007】
本発明者らは、Ni−Pめっき処理を施したTi合金製機械部品の摺動部の損傷状況を詳細に調査したところ、部品基材であるTi合金とNi−Pめっき層の界面から破壊していることが判明した。また、界面に明確な剥離が発生していない場合であっても、Ni−Pめっき層直下のTi合金基材の表面層で塑性流動が生じてTi合金基材表面の摩耗量の増大を助長している場合も認められた。このようなNi−Pめっき層の剥離を防止するためには、めっき層とTi合金基材との密着性をより向上させることが必要である。後述するように、簡易的なスクラッチ試験(テープ剥離試験)で調査した結果、AlがNi−PめっきおよびTi合金基材に対して極めて優れた密着性を発現することを見出した。従って、Alの中間層をNi−Pめっき層とTi合金基材との間に介在させることによって、Ni−Pめっき層のTi合金基材への密着性を大幅に向上させることができる。Al中間層に不純物が多すぎるとNi−Pめっき層やTi合金基材との密着性が低下するため、前記中間層のAlの含有量は90%以上必要である。
【0008】
請求項2に係る耐摩耗性に優れるTi合金製部材は、上記Al中間層の厚さが0.2μm〜50μmであることを特徴とする。
【0009】
Ni系めっき層のTi合金基材への密着性向上には、Al中間層の厚みは少なくとも0.2μm以上必要である。一方、Niめっき層やTi合金基材に比べてAl中間層は硬度が低いため、Al中間層が厚すぎる場合、耐摩耗性部品としての使用時に摺動すると、Al中間層が変形してかえってNi系めっきのTi合金基材への密着性が低下する。このため、Al中間層の厚さは50μm以下とすることが望ましい。
【0010】
請求項3に係る耐摩耗性に優れるTi合金製部材は、前記Ni系めっき層とAl中間層の間にAlの陽極酸化処理層またはジンケート処理により形成されたZn層が介在していることを特徴とする。
【0011】
Alの陽極酸化皮膜(アルマイト層)は、ポーラスな酸化層に微細なポアが多数存在するため、ポア内に滲入したNi系めっき部がアンカー効果を発揮してAl中間層へのNi系めっき層の密着強度を向上させることができる。陽極酸化皮膜は多種類あるが、とくに、りん酸系、硫酸系、しゅう酸系電解液を用いた陽極酸化処理により形成された陽極酸化皮膜が好適である。同様に、Zn置換処理によるジンケート処理層(Zn層)は密着性に優れるため、Ti合金基材へのNi系めっき層の密着強度を向上させることができる。同様に、Zn置換処理によるジンケート処理層(Zn層)はNi系めっきとの密着性に優れるため、Al中間層へのNi系めっき層の密着強度を向上させることができ、その結果、Ti合金基材へのNi系めっき層の密着強度を向上させることができる。
【0012】
請求項4に係る耐摩耗性に優れるTi合金製部材は、前記Ni系めっきがNi−Pめっきであり、Pの含有量が1.5〜6%の範囲にあることを特徴とする。
【0013】
前記Ni系めっきとしては、機械部品の表面からの摩耗による損傷を抑制するために、高い硬度を有することが重要であり、とくにNi−Pめっきが好適である。このNi−Pめっきが十分な耐摩耗性を発揮するためには、めっき層の表面硬度がHv600を下回る場合には摩耗速度が大きくなるため、少なくともHv600の表面硬度が必要であり、Hv700以上の表面硬度が望ましい。一方、めっき層の表面硬度が高すぎる場合には、靭性が低下して耐疲労摩耗性が劣化するため、表面硬度はHv1000以下とすることが好ましく、Hv900以下であればより好ましい。
【0014】
前記Ni−Pめっき層では、その表面硬度をHv600以上にするためには、めっき層中のPの含有量が1.5%以上必要である。Pの含有量が1.5%を下回り不足すると、めっき層の表面硬度が不十分となり、また、P含有量が6%を超えて高すぎると、耐疲労摩耗性が不十分となる。前記P含有量のより好ましい範囲は2〜5%である。
【0015】
請求項5に係る耐摩耗性に優れるTi合金製部材は、前記Ni−Pメッキ層の厚みが10μmから200μmの範囲にあることを特徴とする。
【0016】
前記Ni−Pめっき層の厚みが10μm未満では、摩耗の比較的初期段階から、Ti合金基材の負荷による変形の影響を受けてめっき層の剥離が発生しやすくなる。一方、Ni−Pめっき処理では、1mm以上の厚さのめっき層の付与も可能であり、めっき層の厚膜化により耐摩耗性は向上する。しかし、耐摩耗性機械部品の形状によっては、めっき層が厚すぎると局部的な異常粒成長が起こり、めっき層の表面荒れを来たし、表面仕上げ加工が必要となる場合がある。また、必要以上の厚膜化は生産性や経済性の低下をもたらすため、200μmをめっき層厚さの上限とすることが望ましい。
【発明の効果】
【0017】
この発明では、Ti合金製機械部品の耐摩耗性を向上させるためのNi系めっき層とTi合金基材との間に、このNi系めっき層とTi合金基材の双方に極めて優れた密着性を有するAl中間層を介在させたので、耐摩耗性に優れたNi系めっき層のTi合金基材への密着性が向上し、めっき層の剥離を防止することができる。また、前記Ni系めっき層とAl中間層との間に、Alの陽極酸化処理層またはジンケート処理により形成されたZn層を介在させることにより、Al中間層へのNi系めっき層の密着強度が向上する結果、Ti合金基材へのNiめっき層の密着性がより向上する。
【0018】
前記Ni系めっき層としてNi−Pめっき層を施すことができ、前記Al中間層としてAl含有量が90%以上の純AlまたはAl合金を用いることにより、耐摩耗性が飛躍的に向上したTi合金製部材を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下にこの発明の実施形態について説明する。
【0020】
前記Ti合金基材、即ち母材のTi合金としては、例えば、Ti−6Al−2Sn−4Zr−2Mo、Ti−6Al−4V、Ti−3Al−2.5V等のα、α―β型Ti合金、およびTi−15Mo―5Zr−3Al、Ti−15V−3Cr−3Sn−3Al等のβ型Ti合金を用いることができる。Ti合金基材とNi系めっき層との間に介在させる、Al組成90%以上のAl中間層は、真空蒸着・スパッタリング等の真空めっき法(PVD)や気相めっき法(CVD)、またはAl溶湯中にTi合金製部材を浸漬する溶融めっき法などの方法により付与してTi合金製部材を被覆することが可能である。このAl中間層の上に、Ni系めっき層とAl中間層の間の密着性をより強固にするために、Alの陽極酸化層またはZn置換めっきによるジンケート処理層(Zn層)を付与することもできる。そして、Niめっき浴を用いた電気めっきにより、または無電解めっきにより、Ni系めっきのNi−Pめっき処理が施される。このNi−Pめっき層の硬度は、めっき処理後に、熱処理またはショットピーニング処理を施すことにより、さらに上昇させることができる。なお、前記Ni−Pめっきは、Ti合金製部材の全表面に被覆しても良いが、摺動部材同士が接触する部位に限定して被覆してもよい。また、前記めっき層の耐摩耗性の向上を目的として、めっき層中に、Si34 、SiC、Al23等のセラミックスや、カーボンまたはPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)等の微粒子を分散させることもできる。
【0021】
前記めっき処理後に熱処理を施す場合には、基材のTi合金製部材の強度が低下しないように熱処理条件を選択する必要がある。熱処理によるNi−Pめっきの硬度上昇効果は、P含有量に依存し、P含有量の少ない方が低音・短時間の熱処理で硬度が上昇する。このため、Ti合金基材の強度低下の虞のない低温・短時間の熱処理により、できるだけ高い硬度上昇効果を得る観点からもP含有量は6%以下に制限することが好ましい。
【0022】
一方、前記電気めっき処理後にショットピーニング処理を施す場合には、ガラスビーズや鉄球等の微粒子と吹きつけ条件を適切に選択すれば、Ni−Pめっき層に圧縮残留応力が導入されて耐疲労摩耗性や表面硬度をさらに上昇させることができる。例えば、好ましいショットピーニング条件として、#80〜400程度の大きさのガラスビーズを、空気圧1〜8kgf/cm2で1〜10秒間吹きつける処理条件を挙げることができる。
【0023】
次に、Al中間層が、Ti金属系基材およびNi系めっき層の双方に対して優れた密着性を有すること、および、Al中間層のAl組成が90%以上必要であることを把握した簡易スクラッチ試験(テープ剥離試験)の結果について説明する。
【0024】
まず、純度が99%以上の、縦30mm×横30mm×厚さ5mmの純Ti基材と純Ni基材の表面に、真空蒸着法により、V、Cr、Fe、Co、Cu、Mg、Al、Siの純度99%以上の各金属薄膜を厚さ1μmで被覆した。各皮膜表面に縦2mm×横2mmのピッチで碁盤目状に切り込みを入れた後に、各皮膜表面の全面に粘着テープを貼り付け、この粘着テープを剥がしたときに前記皮膜が残存していた面積率から各金属薄膜の密着性を評価した。このテープ剥離試験は各金属薄膜の10サンプルについて行い、その平均の面積率、即ちテープ剥離試験後の皮膜残存面積率(%)を求めた結果を表1に示す。
【0025】
【表1】

【0026】
表1から、Al薄膜はTiとNiの双方に対して優れた密着性を有していることが明瞭に認められる。従って、Al中間層を介在させることにより、Ti合金基材とNiめっき層の密着性を向上させることができる。
【0027】
同様に、純度が99%以上の、縦30mm×横30mm×厚さ5mmの純Ti基材と純Ni基材の表面に、真空蒸着法により、Al組成80〜99.9%のAl薄膜を厚さ1μm被覆した。皮膜のAl組成は、蒸着材料のAl組成を変化させることにより制御した。各皮膜表面に縦2mm×横2mmのピッチで碁盤目状に切り込みを入れた後に、各皮膜表面の全面に粘着テープを貼り付け、この粘着テープを剥がしたときに前記皮膜が残存していた面積率から各金属薄膜の密着性を評価した。このテープ剥離試験は各金属薄膜の10サンプルについて行い、その平均の面積率、即ちテープ剥離試験後の皮膜残存面積率(%)を求めた結果を表2に示す。
【0028】
【表2】

【0029】
表2から明らかなように、皮膜のAl組成は90%以上、好ましくは95%以上、さらに好ましくは99%以上で純Tiと純Niの双方に対して優れた密着性を有する。従って、Ti層とNi層の密着性を向上するには、Al中間層のAl組成も、90%以上、好ましくは95%以上、さらに好ましくは99%以上であることが推奨される。
【0030】
以下に実施例について説明するが、本願発明の実施形態は、下記の実施例に限定されるものではなく、前述または後述の趣旨に照らして適宜変更することは本願発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例1】
【0031】
直径60mm、厚さ5mmのβ型Ti合金(Ti-15Mo-5Zr-3Al)のディスク基材を複数個用意し、このディスク基材を3つのグループに分けた。第1グループは、800℃のAl溶湯に5秒間浸漬した後、表面を研磨することにより、Al組成95%のAl中間層を厚さ約20μm被覆した。第2グループは、真空蒸着法によりAl組成95%のAl中間層を厚さ約20μm被覆した。真空蒸着法の場合は基材形状をそのまま反映した表面になるため、最終研磨をしなくても精度の高い表面形状を得ることができる。第3グループはAl層を被覆せず、Niストライクめっきを施して表面状態とした。前記第1、第2グループをさらに次の(1)〜(3)の3グループに分けた。
(1)前処理として前記Al中間層を脱脂,水洗する表面活性化処理のみを行なう。
(2)(1)の前処理後、30g/Lのしゅう酸浴を用い、電流密度AC100A/m2、電圧AC100V、温度25℃、処理時間30分、の陽極酸化処理を施し、膜厚約5μmの陽極酸化層を形成する。
(3)(1)の前処理後、水酸化ナトリウム525g/L、酸化亜鉛98g/L、のジンケート浴を用い、温度20℃、浸漬時間40秒、で亜鉛置換法によるジンケート処理を施して、厚さ約3μmのZn層を付与する。
【0032】
上記の(1)〜(3)の処理を施した前記Ti合金ディスクに、下記条件のめっき浴を用いた電気めっき処理により、厚さ100μmのNi−Pめっき層(P含有量3%)を形成した。なお、Al中間層を付与していないTi合金ディスクでは、一般に実施される前処理として、電気めっきによる純Niのストライクめっき層を厚さ1μm付与してからNi−Pめっきを施した。
めっき浴:NiSO4・6H2O 200g/NiCl2・6H2O 50g/H3PO3 440g/H3PO4 50g/H3BO4 0.5〜3g/サッカリン 0〜1.0g/温度:60±5℃/pH:1±0.5/電流密度:5〜30A/dm2 /撹拌方法:エアー撹拌
【0033】
上記Ti合金ディスクに対して、直径5mmのアルミナボールを相手材としてボールオンディスク試験を実施した。Ti合金ディスクの回転数は120rpmとし、ボール荷重を除々に高くしていき、Ni−Pめっきが剥離する最小荷重を求めた。前記(1)〜(3)の実施例の各グループのTi合金ディスク10枚に対してそれぞれ前記ボールオンディスク試験を実施し、10回測定した前記最小荷重の平均値をその条件の剥離臨界荷重値P1とした。そして、Al中間層を付与しない比較例における剥離臨界荷重値P2を100としたときの、前記剥離臨界荷重値P2に対する各実施例の剥離臨界荷重値P1の比率、即ち剥離臨界荷重比Rc((P1/P2)×100)を求めてNi−Pめっきの密着性を評価した。剥離臨界荷重比Rcを表3にまとめて示す。
【0034】
表3から、従来の、Al中間層を付与しないNi−Pめっき層に比べると、Al溶融めっき、Al蒸着めっきの中間層を付与した場合は、剥離臨界荷重比Rcが2倍程度向上した。さらに、Al中間層に陽極酸化処理又はジンケート処理をしたものは、剥離臨界荷重比Rcが3倍程度向上した。
【0035】
【表3】

【実施例2】
【0036】
直径60mm、厚さ5mmのβ型Ti合金(Ti-15Mo-5Zr-3Al)のディスク基材を複数個用意し、真空蒸着法によりAl組成95%のAl中間層を厚さ0.1μm〜80μmの範囲で被覆した。厚さの調整は真空蒸着処理時間により精密に調整し、また、前述のように、真空蒸着法による被覆では基材形状をそのまま反映した表面になるため、最終研磨をしなくても高い精度の表面形状を得ることができる。前記Al中間層を被覆した後、前処理として脱脂、水洗する表面活性化処理を実施した。そして、30g/Lのしゅう酸浴を用い、電流密度AC100A/m、電圧AC100V、温度25℃、処理時間30分、の陽極酸化処理を施し、膜厚約5μmの陽極酸化層を形成した。その後、下記条件のめっき浴を用いた電気めっき法処理により、厚さ100μmのNi−Pめっき層(P含有量3%)を形成した。
めっき浴:NiSO4・6H2O 200g/NiCl2・6H2O 50g/H3PO3 440g/H3PO4 50g/H3BO4 0.5〜3g/サッカリン 0〜1.0g/温度:60±5℃/pH:1±0.5/電流密度:5〜30A/dm2 /撹拌方法:エアー撹拌
【0037】
【表4】

【0038】
上記Ti合金ディスクに対して、直径5mmのアルミナボールを相手材としてボールオンディスク試験を実施した。ディスクの回転数は120rpmとし、ボール荷重を除々に高くしていき、Ni−Pめっきが剥離する最小荷重を求めた。各々のAl中間層膜厚のTi合金ディスク10枚に対してそれぞれ前記ボールオンディスク試験を実施し、10回測定した前記最小荷重の平均値をその条件の剥離臨界荷重値P1とした。そして、実施例1で示した、Al中間層を付与せず、Niしない比較例における剥離臨界荷重値P2を100としたときの、前記剥離臨界荷重値P2に対する各実施例の剥離臨界荷重値P1の比率、即ち剥離臨界荷重比Rc((P1/P2)×100)を求めてNi−Pめっきの密着性を評価した。剥離臨界荷重比Rcを表4にまとめて示す
【0039】
表4から明らかなように、Al中間層は0.1μm以上、好ましくは0.5μm以上、さらに好ましくは1μm以上で、Ni−Pめっき層の密着性を効果的に向上させることができる。一方、Al中間層が厚すぎるとかえってNiめっき層の密着性が低下するため、Al中間層厚さは50μm以下、好ましくは40μm以下、さらに好ましくは30μm以下で、Niめっきの密着性を効果的に向上させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0040】
この発明は、輸送機械や産業機械等の動力伝達などに用いられる、耐摩耗性が要求されるTi合金製部材全般に利用することができる。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
Ti合金基材にNi系めっき層が被覆された耐摩耗性に優れるチタン合金製部材であって、前記Ni系めっき層と前記チタン合金基材の間にAl組成90%以上の純AlまたはAl合金中間層が介在していることを特徴とする耐摩耗性に優れるTi合金製部材。
【請求項2】
前記Al中間層の厚さが0.2μm〜50μmであることを特徴とする請求項1に記載の耐摩耗性に優れるTi合金製部材。
【請求項3】
前記Ni系めっき層とAl中間層の間にAlの陽極酸化処理層またはジンケート処理により形成されたZn層が介在していることを特徴とする請求項1または2に記載の耐摩耗性に優れるTi合金製部材。
【請求項4】
前記Ni系めっきがNi−Pめっきであり、Pの含有量が1.5〜6%の範囲にあることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の耐摩耗性に優れるTi合金製部材。
【請求項5】
前記Ni−Pめっき層の厚みが10μmから200μmの範囲にあることを特徴とする請求項4に記載の耐摩耗性に優れるTi合金製部材。




【公開番号】特開2006−89841(P2006−89841A)
【公開日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−280457(P2004−280457)
【出願日】平成16年9月27日(2004.9.27)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】