説明

耐擦傷性樹脂板およびそれを用いた携帯型情報端末の表示窓保護板

【課題】耐衝撃性に優れ、かつ帯電防止性能を有する耐擦傷性樹脂板、およびそれを用いた携帯型情報端末の表示窓保護板を提供することである。
【解決手段】樹脂基板の少なくとも片面に硬化被膜を形成してなり、該硬化被膜は、分子中に少なくとも1個の下記一般式(I)で表される基を有する化合物(A)と、分子中に少なくとも2個の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物(B)と、導電性微粒子と、を含有する硬化性塗料組成物を硬化させて形成されている耐擦傷性樹脂板である。この耐擦傷性樹脂板からなる携帯型情報端末の表示窓保護板である。
【化5】


[式中、R1〜R3およびnは、明細書に記載の通りである。]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、携帯型情報端末の表示窓保護板として好適な耐擦傷性樹脂板、およびそれを用いた携帯型情報端末の表示窓保護板に関する。
【背景技術】
【0002】
近時、携帯電話やPHS(Personal Handy-phone System)等の携帯型電話類が、インターネットの普及とともに、単なる音声伝達機能に加えて、文字情報や画像情報を表示する機能を持った携帯型情報端末として広く普及している。また、このような携帯型電話類とは別に、住所録等の機能にインターネット機能や電子メール機能を併せ持つPDA(Personal Digital Assistant)等も幅広く使用されている。
【0003】
これらの携帯型情報端末では、液晶やEL(エレクトロルミネッセンス)等の方式により、文字情報や画像情報を表示するようになっているが、その表示窓には、保護板として透明樹脂製のものが一般に用いられており、中でも透明性の点からメタクリル樹脂板が好ましく用いられている(例えば、特許文献1〜3参照)。そして、この保護板には、表面の傷付きを防止するため、硬化性塗料により耐擦傷性(ハードコート性)を有する硬化被膜を設けることが提案されており、この硬化性塗料としては、分子中に少なくとも2個の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物、すなわち多官能(メタ)アクリレートを含むものが主に検討されている(同特許文献参照)。
【0004】
しかしながら、従来の硬化被膜には、耐衝撃性が十分でないという問題があった。また、従来の硬化被膜には、帯電防止性能が積極的に付与されていない。そのため、保護板の裏面(液晶側)にも硬化被膜を設け、該硬化被膜に印刷や金属蒸着により様々な加工を施す場合には、加工時に切削屑等の不純物が付着しやすいという問題もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−6764号公報
【特許文献2】特開2004−143365号公報
【特許文献3】特開2004−299199号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、耐衝撃性に優れ、かつ帯電防止性能を有する耐擦傷性樹脂板、およびそれを用いた携帯型情報端末の表示窓保護板を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の耐擦傷性樹脂板は、樹脂基板の少なくとも片面に硬化被膜を形成してなり、該硬化被膜は、分子中に少なくとも1個の下記一般式(I)で表される基を有する化合物(A)と、分子中に少なくとも2個の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物(B)と、導電性微粒子と、を含有する硬化性塗料組成物を硬化させて形成されていることを特徴とする。
【化1】

[式中、R1およびR2は、それぞれ同一または異なる基であって、水素原子、炭素数1〜4の直鎖または分岐したアルキル基を示す。R3は、水素原子またはメチル基を示す。nは1〜10の整数を示す。]
【0008】
本発明の携帯型情報端末の表示窓保護板は、前記耐擦傷性樹脂板からなる。
なお、本発明における前記「携帯型情報端末」とは、人が携行できる程度の大きさであって、文字情報や画像情報等を表示するための窓(ディスプレイ)を有するものの総称を意味しており、例えば前記で例示した携帯電話やPHS、PDA等が挙げられる。
【発明の効果】
【0009】
本発明の耐擦傷性樹脂板は、耐衝撃性に優れ、かつ帯電防止性能を有するので、この耐擦傷性樹脂板を携帯型情報端末の表示窓保護板として用いることにより、その表示窓を効果的に保護することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の耐擦傷性樹脂板は、樹脂基板の少なくとも片面に硬化被膜を形成してなる。前記樹脂基板を構成する樹脂としては、例えばメタクリル樹脂等のアクリル系樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン樹脂、スチレン−アクリロニトリル共重合体、トリアセチルセルロース樹脂等が挙げられる。特に、メタクリル樹脂は、透明性に優れ剛性も高いので基板を構成する樹脂として好適である。
【0011】
前記樹脂基板は、単層体に限定されるものではなく、異なる組成の樹脂基板を積層した積層体からなるものであってもよい。樹脂基板が積層体からなると、樹脂基板の剛性を向上させることができる。積層数としては2層以上、好ましくは2〜4層程度である。
【0012】
樹脂基板は、通常の板(シート)やフィルムのように、表面が平面のものであってもよいし、凸レンズや凹レンズ等のように、表面が曲面になっているものであってもよい。また、表面に細かな凹凸等の微細な構造が設けられていてもよい。
【0013】
樹脂基板は、必要に応じて、染料や顔料等により着色されていてもよいし、酸化防止剤や紫外線吸収剤、ゴム粒子等を含有していてもよい。樹脂基板の厚さとしては、通常、0.1〜3.0mm程度である。
【0014】
この樹脂基板の少なくとも片面に形成される前記硬化被膜は、分子中に少なくとも1個の前記一般式(I)で表される基を有する化合物(A)と、分子中に少なくとも2個の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物(B)と、導電性微粒子と、を含有する硬化性塗料組成物を硬化させて形成されている。これにより、前記硬化被膜は、耐衝撃性および耐擦傷性に優れ、かつ帯電防止性能を有するようになる。
【0015】
すなわち、硬化性塗料組成物が、分子中に少なくとも1個の前記一般式(I)で表される基を有する化合物(A)を含有すると、形成される硬化被膜は適度な柔軟性を有するようになるので、優れた耐衝撃性を示すようになる。前記一般式(I)中、前記R1およびR2は、それぞれ同一または異なる基であって、水素原子、炭素数1〜4の直鎖または分岐したアルキル基を示す。前記炭素数1〜4の直鎖または分岐したアルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基等が挙げられる。また、前記R3は、水素原子またはメチル基を示す。前記nは、1〜10の整数を示す。
【0016】
前記化合物(A)は、分子中に前記一般式(I)で表される基を少なくとも1個、通常、2〜6個程度有する。前記化合物(A)としては、市販のものを用いることができ、具体例としては、いずれも新中村化学工業(株)製の下記式(1)で表わされる商品名「ATM−35E」、下記式(2)で表わされる商品名「A−BPE−4」等が挙げられる。「ATM−35E」は前記一般式(I)で表される基を4個、「A−BPE−4」は前記一般式(I)で表される基を2個、それぞれ有している。「ATM−35E」および「A−BPE−4」は、混合して用いることもできる。
【0017】
【化2】

[式中、xは、4x=35の関係式を満たす。]
【0018】
【化3】

[式中、yおよびzは、y+z=4の関係式を満たす。]
【0019】
また、硬化性塗料組成物が、分子中に少なくとも2個の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物(B)を含有すると、形成される硬化被膜は優れた耐擦傷性を有するようになる。前記化合物(B)は、多官能(メタ)アクリレート化合物であり、電子線や紫外線等の活性化エネルギー線が照射されることにより硬化する性質を有する。なお、本明細書において、(メタ)アクリロイルオキシ基とは、アクリロイルオキシ基またはメタクリロイルオキシ基をいい、その他、(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸等というときの「(メタ)」も同様の意味である。
【0020】
前記化合物(B)は、分子中に(メタ)アクリロイルオキシ基を少なくとも2個、通常、2〜10個程度有する。前記化合物(B)としては、例えばエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、ペンタグリセロールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、グリセリントリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、トリス〔(メタ)アクリロイルオキシエチル〕イソシアヌレート、トリペンタエリスリトールオクタ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0021】
また、ホスファゼン化合物のホスファゼン環に少なくとも2個の(メタ)アクリロイルオキシ基が導入されたホスファゼン系(メタ)アクリレート化合物;分子中に少なくとも2個のイソシアネート基を有するポリイソシアネートと、分子中に少なくとも2個の(メタ)アクリロイルオキシ基および水酸基を有するポリオール化合物との反応により得られるウレタン(メタ)アクリレート化合物;分子中に少なくとも2個のカルボン酸ハライド基を有する化合物と、分子中に少なくとも2個の(メタ)アクリロイルオキシ基および水酸基を有するポリオール化合物との反応により得られるポリエステル(メタ)アクリレート化合物;上記各化合物の2量体や3量体等のようなオリゴマー等も用いることができる。これらの化合物は、それぞれ単独または2種以上を混合して用いられる。
【0022】
特に、前記で例示した化合物(B)のうち、分子中に少なくとも4個の(メタ)アクリロイルオキシ基を有するものが好ましい。これにより、化合物(B)の反応性が高まるので、形成される硬化被膜の耐擦傷性を向上することができる。
【0023】
硬化性塗料組成物は、前記化合物(A)と前記化合物(B)とを、重量比で20:80〜80:20、好ましくは30:70〜70:30の割合で含有するのがよい。前記化合物(A)の割合があまり少なく、前記化合物(B)の割合があまり多いと、硬化被膜の耐衝撃性が低下するおそれがある。また、前記化合物(A)の割合があまり多く、前記化合物(B)の割合があまり少ないと、硬化被膜の耐擦傷性が低下するおそれがある。
【0024】
また、硬化性塗料組成物が、前記導電性微粒子を含有すると、形成される硬化被膜は帯電防止性能や制電性能を有するようになる。前記導電性微粒子としては、例えば酸化アンチモンのような金属酸化物、インジウム/スズの複合酸化物(ITO)、スズ/アンチモンの複合酸化物(ATO)、アンチモン/亜鉛の複合酸化物、リンがドープされた酸化スズ、アンチモンがドープされた酸化スズ等の各微粒子が挙げられる。
【0025】
導電性微粒子は、その粒子径が0.001〜0.8μmであるのが好ましい。粒子径があまり小さいものは、工業的な生産が難しく、粒子径があまり大きいものを用いると、硬化被膜の透明性が低下するため好ましくない。また、導電性微粒子の使用量は、前記化合物(A),(B)の合計量100重量部に対し、1〜150重量部であるのが好ましい。この使用量があまり少ないと、十分な帯電防止効果が得られず、あまり多いと、硬化被膜の耐衝撃性および耐擦傷性が低下したり、成膜性が低下したりするため好ましくない。
【0026】
硬化性塗料組成物には、粘度や硬化被膜の厚さ等を調整するため、溶剤が含まれていてもよい。この溶剤としては、例えばメタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール(イソプロピルアルコール)、1−ブタノール、2−ブタノール(sec−ブチルアルコール)、2−メチル−1−プロパノール(イソブチルアルコール)、2−メチル−2−プロパノール(tert−ブチルアルコール)のようなアルコール類、2−エトキシエタノール、2−ブトキシエタノール、3−メトキシ−1−プロパノール、1−メトキシ−2−プロパノール、1−エトキシ−2−プロパノールのようなアルコキシアルコール類、ジアセトンアルコールのようなケトール類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンのようなケトン類、トルエン、キシレンのような芳香族炭化水素類、酢酸エチル、酢酸ブチルのようなエステル類等が挙げられる。これらの溶剤は、それぞれ単独で、または2種以上を組み合わせて用いられる。溶剤の使用量は、基板の材質、形状、塗布方法、目的とする硬化被膜の厚さ等に応じて適宜調整されるが、通常は、化合物(A),(B)および導電性微粒子の合計量100重量部に対し、20〜10000重量部程度である。
【0027】
硬化性塗料組成物には、必要に応じて、安定化剤、酸化防止剤、着色剤、レベリング剤等の添加剤を含有していてもよい。特に、レベリング剤を含有すると、硬化被膜の平滑性や耐擦傷性を高めることができる。
【0028】
前記レベリング剤としては、シリコーンオイルが好ましく用いられ、その例としては、ジメチルシリコーンオイル、フェニルメチルシリコーンオイル、アルキル・アラルキル変性シリコーンオイル、フルオロシリコーンオイル、ポリエーテル変性シリコーンオイル、脂肪酸エステル変性シリコーンオイル、メチル水素シリコーンオイル、シラノール基含有シリコーンオイル、アルコキシ基含有シリコーンオイル、フェノール基含有シリコーンオイル、メタクリル変性シリコーンオイル、アミノ変性シリコーンオイル、カルボン酸変性シリコーンオイル、カルビノール変性シリコーンオイル、エポキシ変性シリコーンオイル、メルカプト変性シリコーンオイル、フッ素変性シリコーンオイル、ポリエーテル変性シリコーンオイル等が挙げられる。これらシリコーンオイルは、それぞれ単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0029】
レベリング剤の使用量は、化合物(A),(B)および導電性微粒子の合計量100重量部に対し、通常、0.01〜20重量部である。この使用量があまり少ないと、目的とする効果が認められ難く、あまり多いと、硬化被膜の強度が低下するため好ましくない。
【0030】
以上説明した硬化性塗料組成物を、樹脂基板の少なくとも片面に塗布した後、必要に応じて乾燥し、次いで、形成された塗膜を硬化させることにより、樹脂基板の少なくとも片面に耐擦傷性硬化被膜を形成することができる。
【0031】
硬化性塗料組成物の塗布は、例えばマイクログラビアコート法、ロールコート法、ディッピングコート法、スピンコート法、ダイコート法、キャスト転写法、フローコート法、スプレーコート法等の方法により行うことができる。
【0032】
塗膜の硬化は、活性化エネルギー線を照射することにより、好適に行われる。活性化エネルギー線としては、例えば電子線、紫外線、可視光線等が挙げられ、硬化性化合物の種類に応じて適宜選択される。活性化エネルギー線として紫外線や可視光線を用いる場合には、通常、光重合開始剤が用いられる。
【0033】
前記光重合開始剤としては、例えばアセトフェノン、アセトフェノンベンジルケタール、アントラキノン、1−(4−イソプロピルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、カルバゾール、キサントン、4−クロロベンゾフェノン、4,4’−ジアミノベンゾフェノン、1,1−ジメトキシデオキシベンゾイン、3,3’−ジメチル−4−メトキシベンゾフェノン、チオキサントン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、1−(4−ドデシルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、2−メチル−1−〔4−(メチルチオ)フェニル〕−2−モルフォリノプロパン−1−オン、トリフェニルアミン、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、フルオレノン、フルオレン、ベンズアルデヒド、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾイソプロピルエーテル、ベンゾフェノン、ミヒラーケトン、3−メチルアセトフェノン、3,3’,4,4’−テトラ−tert−ブチルパーオキシカルボニルベンゾフェノン(BTTB)、2−(ジメチルアミノ)−1−〔4−(モルフォリニル)フェニル〕−2−(フェニルメチル)−1−ブタノン、4−ベンゾイル−4’−メチルジフェニルサルファイド、ベンジル等が挙げられる。
【0034】
光重合開始剤は、色素増感剤と組合せて用いてもよい。色素増感剤としては、例えばキサンテン、チオキサンテン、クマリン、ケトクマリン等が挙げられる。光重合開始剤と色素増感剤との組合せとしては、例えばBTTBとキサンテンとの組合せ、BTTBとチオキサンテンとの組合せ、BTTBとクマリンとの組合せ、BTTBとケトクマリンとの組合せ等が挙げられる。
【0035】
上記の光重合開始剤は市販されているので、そのような市販品を用いることができる。市販の光重合開始剤としては、例えば、それぞれチバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)から販売されている“IRGACURE 651”、“IRGACURE 184”、“IRGACURE 500”、“IRGACURE 1000”、“IRGACURE 2959”、“DAROCUR 1173”、“IRGACURE 907”、“IRGACURE 369”、“IRGACURE 1700”、“IRGACURE 1800”、“IRGACURE 819”、および“IRGACURE 784”、それぞれ日本化薬(株)から販売されている“KAYACURE ITX”、“KAYACURE DETX−S”、“KAYACURE BP−100”、“KAYACURE BMS”、および“KAYACURE 2−EAQ”等が挙げられる。
【0036】
光重合開始剤を用いる場合、その使用量は、前記化合物(A),(B)の合計量100重量部に対し、通常、0.1重量部以上である。この使用量があまり少ないと、光重合開始剤を使用しない場合と比較して硬化速度が大きくならない傾向にある。なお、光重合開始剤の使用量の上限は、前記化合物(A),(B)の合計量100重量部に対し、通常、10重量部程度である。
【0037】
また、活性化エネルギー線の強度や照射時間は、硬化性化合物の種類やその塗膜の厚さ等に応じて適宜調整される。活性化エネルギー線は、不活性ガス雰囲気中で照射してもよく、この不活性ガスとしては、例えば窒素ガスやアルゴンガス等が使用できる。
【0038】
形成される硬化被膜の厚さは、1〜10μmであるのが好ましく、より好ましくは2〜6μmである。この厚さがあまり小さいと、耐衝撃性および耐擦傷性が不十分となることがあり、あまり大きいと、高温高湿下に曝したときに、クラックが発生し易くなる。硬化被膜の厚さは、樹脂基板の表面に塗布する硬化性塗料組成物の面積あたりの量や硬化性塗料組成物に含まれる固形分の濃度を調整することにより、任意に調節することができる。
【0039】
本発明の耐擦傷性樹脂板は、樹脂基板の少なくとも片面に、耐衝撃性および耐擦傷性に優れ、かつ帯電防止性能を有する硬化被膜が形成されているので、ディスプレイの保護板として好適に用いられる。前記ディスプレイとしては、例えばCRTディスプレイ、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、ELディスプレイ等が挙げられる。特に、本発明の耐擦傷性樹脂板は、携帯電話等に代表される携帯型情報端末の表示窓保護板として好適に用いることができる。また、デジタルカメラやハンディ型ビデオカメラ等のファインダー部、携帯型ゲーム機の表示窓保護板等、耐衝撃性、耐擦傷性および帯電防止性能が要求される分野での各種部材としても使用できる。
【0040】
本発明の耐擦傷性樹脂板から、携帯型情報端末の表示窓保護板を作製するには、まず必要に応じて印刷、穴あけ等の加工を行い、必要な大きさに切断処理をする。ついで、切断処理した耐擦傷性樹脂板を携帯型情報端末の表示窓にセットする。これにより、耐衝撃性および耐擦傷性に優れ、かつ帯電防止性能を有する表示窓とすることができる。
【0041】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。なお、以下の実施例中、含有量ないし使用量を表す部は、特記ないかぎり重量基準である。また、各物性の測定方法および評価方法は次のとおりである。
【0042】
(硬化被膜の厚さ)
得られた耐擦傷性樹脂板の硬化被膜の厚さは、膜厚測定装置〔Filmetrics社製の「F−20」〕を用いて測定した。
【0043】
(落球強度)
外径60mmφ、内径50mmφ、深さ5mmの金属製の円筒型枠に試験片を配置し、重量36gで直径20mmφの金属球を、試験片の中央に高さ15cmから落下させたとき、該試験片が破壊されるか否かを目視観察して評価した。前記試験片は、得られた耐擦傷性樹脂板から60mm×60mmの形状に切り出して得た。この試験片を硬化被膜側が前記金属球に当たるよう円筒型枠に配置した。判定基準は以下のものを用いた。
○:破壊されなかった。
×:破壊された。
【0044】
(耐擦傷性)
得られた耐擦傷性樹脂板の硬化被膜の表面を、スチールウール#0000〔日本スチールウール(株)製〕を用いて、500g/cm2の荷重を掛けて20往復し、傷付の有無を目視観察して評価した。なお、判定基準は以下のものを用いた。
○:傷が付かなかった。
×:傷が付いた。
【0045】
(帯電防止性能)
JIS K 6911に準拠し、ハイレスターUP〔三菱化学(株)製〕を用いて評価した。なお、判定基準は以下のものを用いた。
○:表面抵抗率が1×109〜1×1013Ω/□
×:表面抵抗率が1×1014Ω/□以上
【実施例1】
【0046】
化合物(A)として前記式(1)で表わされる新中村化学工業(株)製の商品名「ATM−35E」7.25部、化合物(B)としてジペンタエリスリトールヘキサアクリレート7.25部、導電性微粒子としてリンがドープされた酸化スズ(粒子径0.05〜0.5μm)15部、光重合開始剤〔チバ・スペシャリティー・ケミカルズ(株)製の「IRGACURE 184」〕0.8部、および溶剤として1−メトキシ−2−プロパノール69.7部を混合して、硬化性塗料を調製した。この硬化性塗料中、前記化合物(A)と前記化合物(B)との割合は、重量比で50:50であり、前記導電性微粒子の使用量は、前記化合物(A),(B)の合計量100重量部に対し、103重量部である。
【0047】
この硬化性塗料を、厚さ1mm、大きさ100mm×60mmのメタクリル樹脂板〔住友化学(株)製の「スミペックスE」〕の両面にディッピングコート法で塗布した後、室温で5分乾燥し、さらに50℃で10分間乾燥して、塗膜をメタクリル樹脂板の両面に形成した。
【0048】
次いで、120Wの高圧水銀ランプを用いて0.5J/cm2の紫外線を照射することにより、塗膜を硬化させ、両面の硬化被膜の厚さがそれぞれ2.5μmである耐擦傷性樹脂板を得た。この耐擦傷性樹脂板の落球強度、耐擦傷性および帯電防止性能を前記した方法に従って評価した。その結果を、表1に示す。なお、各評価は耐擦傷性樹脂板の両面について実施し、両面の評価が○であれば、評価結果を○とし、いずれか一方の面の評価が×であれば、他方の面の評価が○であっても評価結果は×とした。
【実施例2】
【0049】
前記式(1)で表わされる新中村化学工業(株)製の商品名「ATM−35E」7.25部に代えて、前記式(2)で表わされる新中村化学工業(株)製の商品名「A−BPE−4」5部を化合物(A)として用い、化合物(B)としてジペンタエリスリトールヘキサアクリレート9.5部を用いた以外は、前記実施例1と同様にして硬化性塗料を調製した。この硬化性塗料を用いて、前記実施例1と同様にして、厚さ2.5μmの硬化被膜が両面に形成された耐擦傷性樹脂板を得た。この耐擦傷性樹脂板について、前記実施例1と同様にして落球強度、耐擦傷性および帯電防止性能を評価した。その結果を、表1に示す。
【0050】
[比較例1]
前記実施例1において、前記化合物(B)を14.5部使用し、前記化合物(A)を使用しなかった以外は、前記実施例1と同様にして硬化性塗料を調製した。この硬化性塗料を用いて、前記実施例1と同様にして、厚さ2.5μmの硬化被膜が両面に形成された耐擦傷性樹脂板を得た。この耐擦傷性樹脂板について、前記実施例1と同様にして落球強度、耐擦傷性および帯電防止性能を評価した。その結果を、表1に示す。
【0051】
[比較例2]
前記実施例1において、前記化合物(A)を14.5部使用し、前記化合物(B)を使用しなかった以外は、前記実施例1と同様にして硬化性塗料を調製した。この硬化性塗料を用いて、前記実施例1と同様にして、厚さ2.5μmの硬化被膜が両面に形成された耐擦傷性樹脂板を得た。この耐擦傷性樹脂板について、前記実施例1と同様にして落球強度、耐擦傷性および帯電防止性能を評価した。その結果を、表1に示す。
【0052】
[比較例3]
前記導電性微粒子を使用しなかった以外は、前記実施例1と同様にして硬化性塗料を調製した。この硬化性塗料を用いて、前記実施例1と同様にして、厚さ2.5μmの硬化被膜が両面に形成された耐擦傷性樹脂板を得た。この耐擦傷性樹脂板について、前記実施例1と同様にして落球強度、耐擦傷性および帯電防止性能を評価した。その結果を、表1に示す。
【0053】
[比較例4]
前記実施例1において、前記化合物(A)を14.5部使用し、前記化合物(B)および前記導電性微粒子を使用しなかった以外は、前記実施例1と同様にして硬化性塗料を調製した。この硬化性塗料を用いて、前記実施例1と同様にして、厚さ2.5μmの硬化被膜が両面に形成された耐擦傷性樹脂板を得た。この耐擦傷性樹脂板について、前記実施例1と同様にして落球強度、耐擦傷性および帯電防止性能を評価した。その結果を、表1に示す。
【0054】
【表1】

【0055】
表1から明らかなように、化合物(A),(B)および導電性微粒子を含有する硬化性塗料を硬化させて硬化被膜を形成した実施例1,2は、落球強度(耐衝撃性)および耐擦傷性に優れ、かつ帯電防止性能を有しているのがわかる。
【0056】
一方、化合物(A)を含有していない硬化性塗料を硬化させて硬化被膜を形成した比較例1は、落球強度に劣る結果を示した。また、化合物(B)を含有していない硬化性塗料を硬化させて硬化被膜を形成した比較例2は、耐擦傷性に劣る結果を示した。導電性微粒子を含有していない硬化性塗料を硬化させて硬化被膜を形成した比較例3は、帯電防止性能が得られない結果を示した。化合物(B)および導電性微粒子を含有していない硬化性塗料を硬化させて硬化被膜を形成した比較例4は、耐擦傷性に劣るとともに、帯電防止性能が得られない結果を示した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂基板の少なくとも片面に硬化被膜を形成してなり、該硬化被膜は、分子中に少なくとも1個の下記一般式(I)で表される基を有する化合物(A)と、分子中に少なくとも2個の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物(B)と、導電性微粒子と、を含有する硬化性塗料組成物を硬化させて形成されていることを特徴とする耐擦傷性樹脂板。
【化4】

[式中、R1およびR2は、それぞれ同一または異なる基であって、水素原子、炭素数1〜4の直鎖または分岐したアルキル基を示す。R3は、水素原子またはメチル基を示す。nは1〜10の整数を示す。]
【請求項2】
請求項1記載の耐擦傷性樹脂板からなる携帯型情報端末の表示窓保護板。

【公開番号】特開2010−222495(P2010−222495A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−72545(P2009−72545)
【出願日】平成21年3月24日(2009.3.24)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】