説明

耐放射線性樹脂組成物、及び耐放射線ケーブル

【課題】BWR用のシース材料、及びPWR用のシース材料として用いることができると共に、難燃性、耐熱性、耐放射線性、及び耐水性に優れ、逆逐次法による試験に対応することのできる耐放射線性樹脂組成物、及び耐放射線ケーブルを提供する。
【解決手段】本発明に係る耐放射線性樹脂組成物は、塩素を含むポリマと、耐放射線性をポリマに付与する耐放射線性付与剤と、放射線の照射によりポリマ中に発生するイオン性成分を捕捉する非晶質無機材と、ポリマの機械的強度を補強し、非晶質無機材の量以下の量の補強材とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐放射線性樹脂組成物、及び耐放射線ケーブルに関する。特に、本発明は、耐水性に優れた耐放射線性樹脂組成物、及び耐放射線ケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
沸騰水型原子炉(Boiling Water Reactor:BWR)、又は加圧水型原子炉(Pressurized Water Reactor:PWR)等の原子力発電所(原発)において用いられる電線及びケーブル類は、所定の運転条件で稼働される各原子炉の定常運転時に熱及び放射線に曝されると共に、冷却材の喪失事故、火災等が発生した場合にも熱及び放射線に同時に曝される。したがって、原子力発電所において用いられる電線及びケーブル類は、これらの事故を想定して高い難燃性及び耐放射線性が要求される。
【0003】
従来の電線及びケーブルのシース材料として、機械的特性を保持しつつ、耐熱性、耐放射線性、及び難燃性を備えさせることを目的として、ポリクロロプレンゴム(CR)、クロロスルフォン化ポリエチレン(CSM)、塩素化ポリエチレン(CM)等の塩素を含む高分子材料が用いられている。そして、CRからなるシース材料は、主としてBWR用(要求耐熱性:121℃×7日、要求耐放射線性:760kGy)に用いられ、CSMからなるシース材料は、主としてPWR用(要求耐熱性:140℃×9日、要求耐放射線性:2MGy)に用いられている。ここで、塩素等のハロゲンを含む高分子化合物からなる材料が熱及び放射線に曝されると、ハロゲンが当該材料から脱離する。この場合に、当該材料中にはハロゲンを含むイオン性成分が含まれることとなる。
【0004】
従来、塩化ビニル系グラフトマーと当該塩化ビニル系グラフトマー100重量部あたり炭酸カルシウム及び水酸化マグネシウムからなる群から選ばれた少なくとも1種10〜70重量部、焼成クレー及び焼成シリカからなる群から選ばれた少なくとも1種3〜50重量部、並びに難燃剤とからなり、かつ酸素指数が少なくとも27である難燃性組成物が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
特許文献1に記載の難燃性組成物は、上記のような構成を備えるので、耐アーク火花性に優れると共に、各種機器の盤内配線用の被覆材として用いることができる。
【0006】
また、ケーブル被覆材料の評価方法として、ケーブル被覆材料に熱及び放射線を同時に与えることは特殊な装置を要する点で困難であるので、通常、熱劣化後、放射線を照射する手法(逐次劣化法)が用いられている。また、放射線を照射した後、熱劣化させる手法(逆逐次法)も考えられている。
【0007】
【特許文献1】特開昭62−161850号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ハロゲンを含む難燃性組成物は、想定される冷却材喪失事故が発生した場合に熱水及び放射線に仮に曝されると、ハロゲンの脱離反応により生じたイオン性成分が熱水を吸水して膨潤する。しかし、特許文献1に記載の難燃性組成物は、耐放射線性が要求される用途を認知しておらず、BWR用のシース材料、又はPWR用のシース材料としてそのまま用いることはできない。すなわち、特許文献1に記載の難燃性組成物をシース材料として用いたケーブルは、熱水、熱、及び放射線に曝されると、シース材料中に発生したイオン性成分を捕捉しきれずに、熱水を吸水・膨潤して、当該シース材料の機械的強度が低下する場合がある。この場合、シース材料が、ケーブルから剥がれ落ちる場合がある。
【0009】
したがって、本発明の目的は、BWR用のシース材料、及びPWR用のシース材料として用いることができると共に、難燃性、耐熱性、耐放射線性、及び耐水性に優れ、逆逐次法による試験に対応することのできる耐放射線性樹脂組成物、及び耐放射線ケーブルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1)本発明は、上記目的を達成するため、塩素を含むポリマと、耐放射線性をポリマに付与する耐放射線性付与剤と、放射線の照射によりポリマ中に発生するイオン性成分を捕捉する非晶質無機材と、ポリマの機械的強度を補強し、非晶質無機材の量以下の量の補強材とを備える耐放射線性樹脂組成物が提供される。
【0011】
(2)また、上記耐放射線性樹脂組成物は、非晶質無機材は、平均粒径が2.0μm以下の焼成クレーであり、補強材は、平均粒径が200nm以下のカーボンブラックであり、非晶質無機材と補強剤とは、ポリマ100重量部に対し、非晶質無機材と補強剤との合計で40重量部以上120重量部以下、添加されてもよい。
【0012】
(3)また、上記耐放射線性樹脂組成物は、補強材は、ポリマに、非晶質無機材の単位量に対して1/5以上1以下の割合で添加されてもよい。また、耐放射線性付与剤は、老化防止剤と加工助剤とを含み、老化防止剤は、ポリマ100重量部に対して2重量部以上添加され、加工助剤は、ポリマ100重量部に対して5重量部以上40重量部以下添加されてもよい。更に、ポリマは、ポリクロロプレン、塩素化ポリエチレン、及びクロロスルフォン化ポリエチレンからなる群から選択される少なくとも1つのハロゲン系ポリマを含んでもよい。
【0013】
(4)また、本発明は、上記目的を達成するため、絶縁体が被覆された導体の周囲に、上記(1)から(3)のいずれかに記載の耐放射線性樹脂組成物を備える耐放射線性ケーブルが提供される。
【0014】
(5)また、本発明は、上記目的を達成するため、絶縁体が被覆された導体を複数本撚り合わせて形成された撚り合わせ電線の周囲を、上記(1)から(3)のいずれかに記載の耐放射線性樹脂組成物で被覆した耐放射線ケーブルが提供される。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る耐放射線性樹脂組成物、及び耐放射線ケーブルによれば、BWR用のシース材料、及びPWR用のシース材料として用いることができると共に、難燃性、耐熱性、耐放射線性、及び耐水性に優れ、逆逐次法による試験に対応することのできる耐放射線性樹脂組成物、及び耐放射線ケーブルを提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
[第1の実施の形態]
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る耐放射線性樹脂組成物を用いた耐放射線ケーブルの断面を示す。
【0017】
本発明の第1の実施の形態に係る耐放射線性樹脂組成物は、塩素を含むポリマとしてのハロゲン系ポリマと、耐放射線性をハロゲン系ポリマに付与する耐放射線性付与剤と、放射線の照射によりハロゲン系ポリマ中に発生するイオン性成分を捕捉する非晶質無機材と、絶縁性を有すると共に、ハロゲン系ポリマの機械的強度を補強すると共に、非晶質無機材の量以下の量がハロゲン系ポリマに添加される補強材とを備える。また、第1の実施の形態に係る耐放射線性樹脂組成物は、所定の配合剤を更に添加して形成することができる。
【0018】
そして、本実施の形態に係る耐放射線ケーブル1は、複数本の導体10と、複数本の導体10の周囲に設けられる耐放射線性樹脂組成物からなる絶縁体20と、絶縁体20の外周を被覆するシース30とを備える。シース30は、シース30を構成する材料を絶縁体20の外周に押出被覆することにより形成される。なお、複数本の導体10はそれぞれ、所定径を有する銅又は銅合金等の金属材料から形成される。なお、本実施の形態に係る耐放射線ケーブル1は、導体10の表面に絶縁体20を形成する材料を押出被覆して絶縁体20を形成することにより製造される。
【0019】
(ハロゲン系ポリマ)
本実施の形態においてハロゲン系ポリマ(塩素系ポリマ)は、例えば、ポリクロロプレン、クロロスルフォン化ポリエチレン、又は塩素化ポリエチレン等の塩素を含む高分子化合物を用いる。
【0020】
ポリクロロプレンは、例えば、ドライタイプ(固形)のポリクロロプレンを用いる。ポリクロロプレンは、重合時における分子量、均一性、及び安定性の調整剤の種類により、イオウ変性タイプと非イオウ変性タイプとに大別される。イオウ変性タイプのポリクロロプレンは、イオウ又はチラウムジスルフィド等のイオウ化合物が高分子構造中に取り込まれたハロゲン系ポリマを用いることができる。また、非イオウ変性タイプのポリクロロプレンは、いわゆるメルカプタン変性されたポリクロロプレンを用いることができる。
【0021】
また、ポリクロロプレンは、低温に放置すると弾性を喪失して剛性が増加する。これは、ポリクロロプレンのセグメントが所定の方向に規則正しく配列して結晶構造を形成することに起因するものであり、この現象をポリマの結晶化という。ポリクロロプレンは、結晶化のし易さによって種々分類されており、結晶化し難いポリクロロプレンから結晶化しやすいポリクロロプレンの順に並べると以下の通りになる(下記名称は、いずれもデュポンエラストマー社製ネオプレン(登録商標)の製品名である)。なお、本実施の形態に係る耐放射線性樹脂組成物には、下記いずれのポリクロロプレンも用いることができる。
GRT、WD、WRT、WXJ、WK<GN、GS、GNA、WB、WX<W、WM−1、WHV<HC、AD、AG、CG
【0022】
クロロスルフォン化ポリエチレンは、原料としてのポリエチレンを所定の溶媒(例えば、トルエン、キシレン、又はテトラヒドロフラン等の有機溶媒)に溶解して、溶媒に溶解したポリエチレンを塩素化及びクロロスルフォン化することにより製造される。クロロスルフォン化ポリエチレンは、基本骨格としての主鎖に二重結合を有さない。したがって、クロロスルフォン化ポリエチレンは、耐オゾン性に優れ、絶縁性を示す。
【0023】
また、クロロスルフォン化ポリエチレンは、架橋することもできる。例えば、パーオキサイド、受酸体/イオウ含有促進剤、又はマレイミド/架橋助剤+受酸体等を用いて、クロロスルフォン化ポリエチレンを架橋できる。なお、塩素含有量が29%から43%程度のグレードのクロロスルフォン化ポリエチレンがあり、本実施の形態においては、塩素含有量がいずれのクロロスルフォン化ポリエチレンを用いてもよい。
【0024】
塩素化ポリエチレンは、以下のようにして形成される。まず、粉末の線状ポリエチレンを準備する。線状ポリエチレンは、低密度のポリエチレン(例えば、910kg/mから930kg/m程度)から高密度のポリエチレン(例えば、930kg/mから970kg/m程度)を含む。続いて、粉末の線状ポリエチレンを水に懸濁分散させて水性懸濁とする。次に、原料としてのポリエチレンの結晶の融点近傍の温度において、この水性懸濁に塩素ガスを吹き込む。これにより、第1の実施の形態に係る塩素化ポリエチレンが形成される。
【0025】
形成される塩素化ポリエチレンは、水性懸濁に塩素ガスを吹き込んで塩素ガスとポリエチレンとを反応させる化学反応が不均一系の化学反応であるので、非晶性のゴム状の塩素化ポリエチレンと、半結晶性及び結晶性のプラスチック状の塩素化ポリエチレンとを含む熱可塑性エラストマーとして形成される。第1の実施の形態に係る塩素化ポリエチレンの塩素化度は、25%から45%の塩素化度の塩素化ポリエチレンを用いることができる。ここで、ゴム弾性を有する塩素化ポリエチレンを用いる場合、塩素化度が30%から40%の塩素化ポリエチレンを用いることが好ましい。
【0026】
塩素化ポリエチレンは、他のハロゲン系ポリマとしてのCR及びCSMと比較して、分子鎖中に二重結合が存在せず、分子鎖中の塩素原子、すなわち側鎖基としてのクロロ基の分布がランダムであり、更に分子量が高分子量であることに起因して、熱的に安定であり、耐候性に優れると共に、難燃性が高いという特性を有する。
【0027】
(耐放射線性付与剤)
第1の実施の形態に係るハロゲン系ポリマに対して耐放射線性を付与する耐放射線性付与剤としては、老化防止剤及び加工助剤を用いることができる。
【0028】
(老化防止剤)
老化防止剤は、耐熱性を維持する機能と耐放射線性を発揮する機能とを耐放射線性樹脂組成物に付与する。老化防止剤は、フェノール系の一次老化防止剤、又はアミン系の一次老化防止剤を用いることができる。また、老化防止剤は、イオウ系の二次老化防止剤、又はリン系の二次老化防止剤を用いることもできる。具体的に、第1の実施の形態に係る老化防止剤は、一次老化防止剤としてのアミン系老化防止剤を用いる。また、老化防止剤は、アミン系老化防止剤と他の老化防止剤とを併用することもできる。
【0029】
老化防止剤は、耐放射線性を耐放射線性樹脂材料に付与すべく、ハロゲン系ポリマ100重量部に対して、2重量部以上添加する。また、老化防止剤は、耐放射線性の効果の飽和、及びコスト面を考慮して、ハロゲン系ポリマ100重量部に対する添加量を、15重量部程度までの範囲に設定することが望ましい。
【0030】
フェノール系の一次老化防止剤には、分子中に存在する水酸基(−OH基)の数によってモノフェノール系、ビスフェノール系、及びポリフェノール系のそれぞれに分類される。
【0031】
モノフェノール系の一次老化防止剤は、例えば、2,6’−ジ−ter−ブチル−4−メチルフェノール、2,6−ジ−ter−ブチル−4−エチルフェノール、又はモノ(α−メチルベンジル)フェノール等を用いることができる。また、ビスフェノール系の一次老化防止剤は、例えば、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−ter−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−エチル−6−ter−ブチルフェノール)、4,4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−ter−ブチルフェノール)、4,4’−チオビス(3−メチル−6−ter−ブチルフェノール)、ジ(α−メチルベンジル)フェノール等を用いることができる。更に、ポリフェノール系の一次老化防止剤は、例えば、2,5’−ジ−ter−ブチルハイドロキノン、2,5’−ジ−ter−アミルハイドロキノン、トリ(α−メチルベンジル)フェノール、p−クレゾール、又はジシクロペンタジエン等を用いることができる。
【0032】
アミン系の老化防止剤としては、キノリン系の老化防止剤と、芳香族第二級アミン系の老化防止剤を用いることができる。キノリン系の老化防止剤は、例えば、2,2,4−トリメチル−1,2−ジヒドロキノリン、又は6−エトキシ−1,2−ジヒドロ−2,2,4−トリメチルキノリン等を用いることができる。芳香族第二級アミン系の老化防止剤は、例えば、フェニル−1−ナフチルアミン、アルキル化ジフェニルアミン、オクチル化ジフェニルアミン、4,4’−ビス(α、α−ジメチルベンジル)ジエニルアミン、p−(p−トルエンスルホニルアミド)ジフェニルアミン、N,N’−ジ−2−ナフチル−p−フェニレンジアミン、N,N’−ジフェニル−p−フェニレンジアミン、N−フェニル−N’−イソプロピル−p−フェニレンジアミン、N−フェニル−N’−(1,3−ジメチルブチル)−p−フェニレンジアミン、又はN−フェニル−N’−(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロピル)−p−フェニレンジアミン等を用いることができる。
【0033】
イオウ系の二次老化防止剤には、ベンゾイミダゾール系、ジチオカルバミン酸塩系、及びチオウレア系のそれぞれに分類される二次老化防止剤が存在する。ベンゾイミダゾール系の二次老化防止剤は、例えば、2−メルカプトベンゾイミダゾール、2−メルカプトメチルベンゾイミダゾール、又は2−メルカプトベンゾイミダゾールの亜鉛塩等を用いることができる。また、ジチオカルバミン酸塩系の二次老化防止剤は、例えば、ジエチルジチオカルバミン酸ニッケル、又はジブチルジチオカルバミン酸ニッケル等を用いることができる。更に、チオウレア系の二次老化防止剤は、例えば、1,3−ビス(ジメチルアミノプロピル)−2−チオ尿素、又はトリブチルチオ尿素等を用いることができる。
【0034】
リン系の二次老化防止剤は、亜リン酸系として、例えば、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト等を用いることができる。
【0035】
(加工助剤)
第1の実施の形態に係る加工助剤は、耐放射線性樹脂組成物の混練又は押出時の加工性を安定させる配合剤としての機能と、耐放射線性を耐放射線性樹脂組成物に付与する耐放射線性付与剤(アンチラッド)としての機能とを有する。加工助剤は、例えば、石油系油(すなわち、プロセス油)、又は芳香環(ベンゼン環)を含むエステル系可塑剤を用いることができる。
【0036】
プロセス油は、例えば、ゴム材料等に添加されるパラフィン系油、アロマチック系油、又はナフテン系油等を用いることができる。エステル系可塑剤は、例えば、ポリ塩化ビニル等に添加されるフタル酸ビス(2−エチルヘキシル)(Dioctyl phthalate:DOP)、フタル酸ジイソノニル(Diisononyl phthalate:DINP)、フタル酸ジイソデシル(Diisodecyl phthalate:DIDP)、又はトリメリット酸トリ−2−エチルヘキシル(Trioctyl trimellitate):TOTM)等の芳香環を分子中に有した可塑剤を用いることができる。
【0037】
ここで、ベンゼン環化合物を多く含む化合物は耐放射線性に優れているので、第1の実施の形態に係る加工助剤として用いるのが好ましく、例えば、アロマチック系油としての鉱油を加工助剤として用いることができる。本実施の形態において、加工助剤は、アロマチック系油を単独で用いる。また、加工助剤は、アロマチック系油又はエステル系可塑剤のいずれかを単独で用いるか、若しくは、アロマチック系油等のプロセス油及び/又はエステル系可塑剤の中から複数の化合物を選択して混合した混合物を用いることができる。
【0038】
なお、加工性の確保、及びアンチラッドとしての効果を耐放射線性樹脂組成物に付与することを目的として、加工助剤の添加量は、ハロゲン系ポリマ100重量部に対して10重量部以上とする。また、加工助剤の添加量を、ハロゲン系ポリマ100重量部に対して50重量部を超える添加量とすると、ブリードが発生し易くなり、機械的特性が低下すると共に、アンチラッドとしての効果が飽和する。よって、加工助剤は、ハロゲン系ポリマ100重量部に対して、10重量部以上50重量部以下の範囲で添加する。
【0039】
(耐放射線性樹脂組成物への耐水性の付与)
ケーブル被覆材料の評価方法において、逆逐次法による評価は、逐次法による評価に比べて、その評価結果が示すケーブル被覆材料の評価は劣る。すなわち、ケーブル被覆材料(例えば、CRからなるシース材料、CSMからなるシース材料等)を逆逐次法により評価した場合に、逐次法による評価よりも顕著に劣化していることを示す評価になる。この理由は、本発明者の検討の結果、以下の理由であるとの知見が得られた。
【0040】
すなわち、CRからなるシース材料、及びCSMからなるシース材料を逆逐次法により評価すると、逆逐次法においては放射線(γ線)をシース材料に照射した後に熱劣化を実施することとなる。その結果、放射線照射によってシース材料中に発生したラジカルが、その後の熱劣化においてシース材料に加えられる熱により活発に動いてラジカルによる脱塩化作用が促進される結果となる。そして、この脱塩化作用によってシース材料からイオン性成分が多量に発生して、シース材料の耐水性が低下する結果となる知見を本発明者は得た。
【0041】
この結果に対して本発明者は、所定量の所定の非晶質無機材料と、所定量の所定の補強材との双方を、耐放射線性樹脂組成物を構成するハロゲン系ポリマに添加することにより、放射線環境下において優れた耐水性をこの耐放射線性樹脂組成物に付与することができるという知見を得た。具体的には、以下に示す非晶質無機材と補強材とをハロゲン系ポリマに添加する。
【0042】
(非晶質無機材)
非晶質無機材は、放射線の照射に起因する脱塩化作用によってハロゲン系ポリマ中に発生するイオン性成分を捕捉する。具体的に、非晶質無機材としては、焼成クレーを用いる。焼成クレーは、含水ケイ酸アルミニウムを主成分とする無機材料であって、クレーを所定の温度(例えば、600℃以上800℃以下の温度)下で焼成することにより得られる。クレーが焼成されると、当該クレーが含有する結晶水が放出され、結晶構造が崩壊する(非晶質となる)ことによって、活性が向上したイオン性成分捕捉効果を有する焼成クレーとなる。なお、クレーが焼成されて含有結晶水が放出されると、クレー中には多数の孔(すなわち、結晶水が存在していた領域が孔、空孔となる)が生成してクレーは多孔質化する。この多数の孔に、孔径より小さいサイズのイオン性物質、臭い成分等が捕捉される。本実施の形態において「活性が向上」するとは、クレーが多孔質化することによってイオン性物質等を捕捉する状態になることをいう。本実施の形態においては、逆逐次法試験による脱塩化作用によりイオン性成分が多量に発生した場合でも、イオン性成分を効果的に捕捉することにより、耐放射線性樹脂組成物に優れた耐水性を付与することができる。また、優れたイオン性成分捕捉効果を得ることを目的として、光散乱法又は回折法による平均結晶粒径が2.0μm以下の粒径を有する焼成クレーを用いることが好ましい。
【0043】
焼成クレーとしては、例えば、SANTITONE−W、SP33、WHITETEX No.5(いずれもEngelhard Minerals社製)、Polyfil−70、Polyfil−80(いずれもJ. M. Huber社製)等を用いることができる。また、焼成クレーの表面に所定の表面処理を施した表面処理済み焼成クレーを用いることもできる。例えば、TRANSLINK−37(ビニルシランで表面処理)、TRANSLINK−77(ビニルシランで表面処理)、TRANSLINK−445(アミノシランで表面処理)、ATTAGEL−36、ATTAGEL−40、ATTAGEL−50(いずれもEngelhard Minerals社製)、Nulok−321(アミノシランで表面処理)、Nulok−390(アミノシランで表面処理)、Nucap−100(メルカプトシランで表面処理)、Nucap−190(メルカプトシランで表面処理)、Nucap−200(メルカプトシランで表面処理)(いずれもHuber社製)等を用いることができる。
【0044】
(補強材)
補強材は、絶縁性を有すると共にハロゲン系ポリマの機械的強度を補強する機能を有する。本実施の形態において補強材は、カーボンブラックを用いる。カーボンブラックは製造方法によってその種類が分類される。具体的に、カーボンブラックには、チャンネル式、ファーネス式、アセチレン式、及びサーマル式のカーボンブラックが存在する。本実施の形態においては、絶縁性を有するカーボンブラックとして、ファーネス式、及びサーマル式のカーボンブラックを用いる。また、本実施の形態においては、優れた補強効果を得ることができると共に、水の侵入により耐放射線性樹脂組成物が膨潤することを抑制でき、耐放射線性樹脂組成物に十分な耐水性を付与することを目的として、電子顕微鏡法による平均粒径が200nm以下のカーボンブラックを用いる。
【0045】
ファーネス式のカーボンブラックとしては、例えば、SAF、SAF−HS、ISAF、N−339、ISAF−LS、HAF、HAF−FS、N−351、HAF−LS、N−375、MAF、FEF、FEF−HS、SRF、SRF−LM、SRF−LS、GPF、又はECF等のタイプを用いることができる。一方、サーマル式のカーボンブラックとしては、FT又はMT等を用いることができる。そして、ファーネス式のカーボンブラック又はサーマル式のカーボンブラックのいずれかを単独で補強材として用いることができる。また、ファーネス式のカーボンブラック及びサーマル式のカーボンブラックから選択される少なくとも2種類のカーボンブラックを混合して併用することもできる。
【0046】
(非晶質無機材及び補強材の添加量)
補強材としてのカーボンブラックと非晶質無機材としての焼成クレーとのハロゲン系ポリマへの添加量は、ハロゲン系ポリマ100重量部に対して、カーボンブラックと焼成クレーとの合計で40重量部以上120重量部であることが好ましい。そして、カーボンブラックは、ハロゲン系ポリマに対して、焼成クレーの単位量に対して1/5以上1以下の割合で添加されることが好ましい。
【0047】
すなわち、押出成形に適したゴム弾性をハロゲン系ポリマに付与してスムーズな外観を耐放射線性樹脂組成物からなるシース材料に備えさせることを目的として、焼成クレーの単位量の1/5倍以上の量のカーボンブラックをハロゲン系ポリマに添加する。また、耐放射線性樹脂組成物からなるシース材料の機械的特性を維持すると共に、耐放射線性樹脂組成物の粘度が加工工程において支障を来さない範囲に調整することを目的として、焼成クレーの単位量の1倍以下の量のカーボンブラックをハロゲン系ポリマに添加する。また、カーボンブラックの添加による耐放射線性樹脂組成物の耐水性の効果が、カーボンブラックの焼成クレーに対する量を1/5以上1以下の割合にすることにより効果的に表れると推定される。更に、カーボンブラックは、ハロゲン系ポリマのゴム弾性を適切に低下させることができ、耐放射線性樹脂組成物の加工性の向上及び機械的特性の向上にも寄与する。
【0048】
以上をまとめると、非晶質無機材としての焼成クレーがイオン性成分を捕捉すると共に、補強材としてのカーボンブラックが耐放射線性樹脂組成物中への水の侵入による当該組成物の膨潤を抑制する。これにより、耐放射線性樹脂組成物、耐放射線性樹脂組成物から形成される絶縁体20(耐放射線性ケーブル1のシース材料として機能する)に優れた耐水性を発揮させることができる。そして、ハロゲン系ポリマに上述の特定の割合で焼成クレー及びカーボンブラックを併用、添加することにより、放射線環境下において優れた耐水性を発揮させることができる。
【0049】
(難燃剤)
本実施の形態においてハロゲン系ポリマは、ハロゲン系ポリマ自身がハロゲンの存在に起因する難燃性を有するが、難燃剤を添加することにより、難燃性を更に向上させることができる。難燃剤は、無機系の難燃剤又は有機系の難燃剤を用いることができる。無機系の難燃剤は、三酸化アンチモン、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、ホウ酸亜鉛、又はリン系化合物等を用いることができる。また、有機系の難燃剤は、塩素系、臭素系等のハロゲン系有機難燃剤を用いることができる。
【0050】
難燃剤は、無機系の難燃剤又は有機系の難燃剤のいずれかを単独で用いるか、若しくは、無機系の難燃剤及び/又は有機系の難燃剤の中から複数の難燃剤を選択して混合した混合物を用いることができる。難燃剤は、難燃性の効果を発揮すると共に難燃性の効果が飽和せず、機械的特性の低下を来さない範囲でハロゲン系ポリマに添加される。具体的に、難燃剤は、ハロゲン系ポリマ100重量部に、2重量部以上30重量部以下の範囲で添加される。
【0051】
(ハロゲン系ポリマの架橋方法)
ハロゲン系ポリマの架橋方法には、各ポリマに適した架橋方法を採用する。例えば、ハロゲン系ポリマとしてポリクロロプレンを用いる場合、金属酸化物を架橋剤として用いることができる。金属酸化物は、例えば、マグネシア、亜鉛華、リサージ、鉛丹、ハイドロタルサイト等を用いることができる。また、金属酸化物と所定の促進剤とを併用することもできる。ここで、耐放射線性樹脂組成物に耐水性を備えさせることを考慮して、金属酸化物としては、リサージ、鉛丹、又はハイドロタルサイト等と所定の促進剤とを併用することが好ましい。
【0052】
ハロゲン系ポリマとしてクロロスルフォン化ポリエチレンを用いる場合、ポリクロロプレンと同様の金属酸化物を架橋剤として用いることができる。なお、耐放射線性樹脂組成物に耐水性を備えさせることを考慮して、金属酸化物としては、リサージ、鉛丹、又はハイドロタルサイト等と所定の促進剤とを併用することが好ましい。また、クロロスルフォン化ポリエチレンの架橋には、耐水性の更なる向上を目的として、パーオキサイド架橋を採用することもできる。
【0053】
なお、パーオキサイドによる架橋反応を実施するときに、架橋反応時において発生する重合体のラジカル切断を抑制して架橋効率を向上させる作用を有する架橋助剤を併用することが望ましい。
【0054】
架橋助剤としては、トリアリルシアヌレート(Triallyl cyanurate:TAC)、トリアリルイソシアヌレート(Triallyl isocyanurate:TAIC)、又はトリメチロールプロパントリメタクリレート(Trimethylolpropane triacrylate:TMPT)等の多官能モノマーを用いることができる。
【0055】
また、ハロゲン系ポリマとして塩素化ポリエチレンを用いる場合、チオ尿素類、アミン類、又はパーオキサイドなどを架橋剤として用いる。塩素化ポリエチレンの架橋には、貯蔵性、引張強さ、及び耐熱性等の観点から、パーオキサイド架橋を採用することが好ましい。なお、パーオキサイド架橋を実施する場合、上述したような架橋助剤を併用することが好ましい。
【0056】
(その他の配合剤等)
例えば、ゴム材料の合成等において用いられる滑剤、充填剤、着色剤等を更に配合剤として用いることができる。なお、ハロゲン系ポリマの架橋方法、ハロゲン系ポリマに所定の配合剤を物理的に混合する混練技術、及び耐放射線性樹脂組成物からなるシース材料を所定形状に形成する押出技術等は通常の方法を採用することができる。
【0057】
(第1の実施の形態の効果)
本発明の第1の実施の形態に係る耐放射線性樹脂組成物は、ハロゲン系ポリマに所定粒径のカーボンブラックと所定粒径の焼成クレーとを所定の割合で添加したので、放射線の照射及び熱劣化によってイオン性成分が発生したとしても、焼成クレーが発生したイオン性成分を効率的に捕捉すると共に、カーボンブラックが耐放射線性樹脂材料中への水分の侵入による耐放射線性樹脂組成物の膨潤を抑制する。これにより、本実施の形態に係る耐放射線性樹脂組成物によれば、BWR用のシース材料、及びPWR用のシース材料として用いることができると共に、難燃性、耐熱性、耐放射線性、及び耐水性に優れ、逆逐次法による試験に対応することのできる耐放射線性樹脂組成物、耐放射線性組成物からなるシース材料、及び当該シース材料を備える耐放射線ケーブル1を提供できる。
【0058】
すなわち、第1の実施の形態に係る耐放射線性樹脂組成物は、ハロゲン系ポリマ中に存在する焼成クレーとカーボンブラックとの存在により、放射線が照射され、熱劣化した場合であっても、耐放射線性のみならず、耐水性を発揮することができる。これにより、本実施の形態に係る耐放射線性樹脂組成物から形成されるシース材料を備える耐放射線ケーブル1は、仮に、原子炉等において熱水及び放射線に曝された場合であっても、シース材料が導体10から剥がれおちることがなく、シース材料がシースとしての役割を十分に果たすことができる。
【0059】
[第2の実施の形態]
図2は、本発明の第2の実施の形態に係る耐放射線ケーブルの断面の概要を示す。
【0060】
第2の実施の形態に係る耐放射線ケーブル1aは、第1の実施の形態に係る耐放射線ケーブル1と異なり、複数の導体10のそれぞれに絶縁体20が被覆され、かつ、介在物40を介してテープ50が施されている点を除いて耐放射線ケーブル1と略同一の構成を備える。よって、相違点を除き詳細な説明は省略する。
【0061】
耐放射線ケーブル1aは、外周に絶縁体20が被覆された導体10を複数本(例えば、3本)有してなる3線心と、3線心と共に撚り合わされる介在物40と、介在物40の外部に施される押え巻きテープとしてのテープ50と、テープ50を被覆するシース30とを備える。第2の実施の形態においては、シース30を、第1の実施の形態に係る耐放射線性樹脂組成物から形成する。
【0062】
[第3の実施の形態]
図3は、本発明の第3の実施の形態に係る耐放射線ケーブルの断面の概要を示す。
【0063】
第3の実施の形態に係る耐放射線ケーブル1bは、第2の実施の形態に係る耐放射線ケーブル1aと異なり、絶縁体20で被覆された導体10を有する撚り合わせ電線としての撚り対線60から構成される点を除いて耐放射線ケーブル1aと略同一の構成を備える。よって、相違点を除き詳細な説明は省略する。
【0064】
耐放射線ケーブル1bは、外周に絶縁体20が被覆された導体を複数本(例えば、2本)有してなる第1の2線心及び第2の2線心と、第1の2線心と第2の2線心とを撚り合わせて形成される撚り対線60と、撚り対線60を被覆する金属材料からなるシールド層70と、シールド層70を被覆するシース30とを備える。第3の実施の形態においては、シース30を、第1の実施の形態に係る耐放射線性樹脂組成物から形成する。
【0065】
[第4の実施の形態]
図4は、本発明の第4の実施の形態に係る耐放射線ケーブルの断面の概要を示す。
【0066】
第4の実施の形態に係る耐放射線ケーブル1cは、第1の実施の形態に係る耐放射線ケーブル1と異なり、発泡樹脂層80で被覆された導体10が、シールド層70により被覆され、シールド層70がシース30により被覆される点を除いて耐放射線ケーブル1と略同一の構成を備える。よって、相違点を除き詳細な説明は省略する。
【0067】
耐放射線ケーブル1cは、導体10と、導体10を被覆する発泡樹脂からなる発泡樹脂層80と、発泡樹脂層80を被覆する金属材料からなるシールド層70と、シールド層70を被覆するシース30とを備える。発泡樹脂層80は、絶縁性を有する発泡樹脂から形成される。そして、第4の実施の形態においては、シース30が、第1の実施の形態に係る耐放射線性樹脂組成物から形成される。
【実施例】
【0068】
表1は、本発明の実施例に係る耐放射線性樹脂組成物からなる絶縁体20を構成する化合物の配合と、比較例に係る絶縁体を構成する化合物の配合とを示す。
【0069】
【表1】

【0070】
なお、実施例1〜4、及び比較例1〜4、並びに比較例7〜8においては、ハロゲン系ポリマとしてポリクロロプレン(ショウプレンW(登録商標)、昭和電工社製)を用いた。また、実施例5、比較例5、及び比較例6においては、ハロゲン系ポリマとしてクロロスルフォン化ポリエチレン(ハイパロン40(登録商標)、デュポンエラストマー社製)を用いた。また、実施例6においては、ハロゲン系ポリマとして、塩素化ポリエチレンを用いた。塩素化ポリエチレンは、タイリン(登録商標)CM566(Dow Chemical社製、塩素化度:36%)を用いた。更に、実施例7においては、ハロゲン系ポリマとして、上述したポリクロロプレンと上述した塩素化ポリエチレンとを用いた。
【0071】
また、実施例6においては、架橋剤として、DCP及びTAICを用いた。また、実施例1〜4、及び実施例7、並びに比較例1〜4、及び比較例7〜8においては、加硫促進剤として、テトラメチルチラウムモノスルフィド(促進剤TS)を用い、実施例5、及び比較例5〜6においては、加硫促進剤として、ジペンタメチレンチラウムテトラスルフィド(促進剤TRA)及びジベンゾチアゾリルジスルフィド(促進剤DM)を用いた。
【0072】
また、加工助剤としてのアロマチック系油は、ダイアナプロセスオイルAH−16(出光興産製)を用いた。更に、老化防止剤として、アミン系の老化防止剤であるVulkanox(登録商標) DDA(Bayer製)を用いた。また、難燃剤の1つとして、三酸化アンチモン(PATOX−C、日本精鉱社製)を用いた。
【0073】
更に、実施例1と実施例5、及び比較例4〜5においては、カーボンブラックとして、FEFカーボンブラック(平均粒径43nm、東海カーボン社製)を用いた。そして、実施例2〜4、実施例6〜7、比較例1から3、比較例6、及び比較例8においては、カーボンブラックとして、FTカーボンブラック(平均粒径80nm、旭カーボン社製)を用いた。また、比較例7においては、カーボンブラックとして、MTカーボンブラック(平均粒径450nm、旭カーボン社製)を用いた。
【0074】
また、実施例1〜7、及び比較例1〜7においては、焼成クレーとして、SP#33(平均粒径1.4μm、Engelhard社製)を用い、比較例8においては、焼成クレーとして、SPMAクレーの800℃焼成品(平均粒径2.2μm、川茂社製)を用いた。
【0075】
また、表2は、本発明の実施例及び比較例に係る難燃性EPゴム絶縁線心の絶縁体を形成する化合物の配合を示す。
【0076】
【表2】

【0077】
絶縁線心の絶縁層を形成する高分子絶縁材料として、エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM、EPT3045、三井化学製)を用い、アミン系の老化防止剤として、Vulkanox(登録商標) DDA(Bayer製)を用いた。また、加工助剤としてのアロマチック系油は、ダイアナプロセスオイルAH−16(出光興産製)を用いた。更に、タルクとして、ハイフィラー#16(土屋カオリン製)を用いると共に、臭素系の難燃剤として、サイテックス8010(アルベマール浅野製)を用いた。
【0078】
(耐放射線性樹脂組成物からなる耐放射線性シース材料及び耐放射線ケーブルの製造)
本実施例及び比較例に係る耐放射線性樹脂組成物のコンパウンドは、以下のようにして製造した。まず、表1に示す各化合物を実施例及び比較例毎に秤量した。次に、実施例及び比較例毎に、架橋剤(DCP、TAIC、鉛丹、及び/又は硫黄)を除く各化合物を、No.3バンバリーミキサーを用いて混練して第1のコンパウンドを得た(例えば、実施例1に係る第1のコンパウンド、実施例2に係る第1のコンパウンド等)。続いて、約60℃に保持した50リッターニーダー中において、得られた第1のコンパウンドに架橋剤を添加すると共に混合した。これにより、実施例及び比較例に係る耐放射線性樹脂組成物用の第2のコンパウンドをそれぞれ製造した(例えば、実施例1に係る耐放射線性樹脂組成物用の第2コンパウンド、実施例2に係る耐放射線性樹脂組成物用の第2のコンパウンド等)。
【0079】
また、難燃EPゴム絶縁線心を用意した。難燃EPゴム絶縁線心は、断面積が3.5mmの銅導体の表面に、表2に示す配合比で配合して得られた絶縁材料を押し出し被覆した後(被覆後の絶縁材料の厚さ:2.9mm)、約190℃の高圧蒸気で被覆した絶縁材料を架橋して製造した。難燃EPゴム絶縁線心の絶縁層の酸素指数は26.0であった。なお、実施例及び比較例の全てにおいて、用いた難燃EPゴム絶縁線心は同一である。
【0080】
そして、3本の難燃EPゴム絶縁線心を撚り合わせて撚合わせ絶縁電線(コア)を製造した。続いて、撚合わせ絶縁電線(コア)の周囲に、90mm押出機を用いて、製造した耐放射線性樹脂組成物用の第2のコンパウンドを押し出し被覆した。すなわち、実施例及び比較例のそれぞれ毎に、撚合わせ絶縁電線(コア)の表面に第2のコンパウンドを被覆した(例えば、実施例1に係る耐放射線性樹脂組成物用の第2のコンパウンドを撚合わせ絶縁電線(コア)の表面に被覆した。)。
【0081】
続いて、耐放射線性樹脂組成物用の第2のコンパウンドを押し出し被覆した撚合わせ絶縁電線(コア)の表面に、約190℃の加圧蒸気を接触させることにより第2のコンパウンドを架橋させた。これにより、撚合わせ絶縁電線(コア)の周囲に耐放射線性樹脂組成物からなるシースが形成され、実施例及び比較例のそれぞれ毎に、外径17.5mmの耐放射線ケーブルが得られた。
【0082】
(耐放射線性ケーブルの特性試験)
次に、得られた耐放射線ケーブルに対して、以下に示す各項目についての試験を実施して総合評価した。
【0083】
試験(A)外観:目視にてブルーム(シース表面に配合剤が粉体として析出すること)、ブリード(シース表面に配合剤が液体として漏出すること)の有無を確認した。
試験(B)押出加工性:90mm押出機にて第2のコンパウンドを押し出した時の外観を目視にて評価すると共に、限界負荷内で押出し可能か否かを評価した。
試験(C)シース材料の引張試験:シース材を耐放射線ケーブルから剥離した後、厚さを約2mmに調整して、ダンベル4号形状に打ち抜き、ショッパー型引張試験機において、速度500mm/minで測定した。
試験(D)酸素指数:シースの同一ロットの第2のコンパウンド(例えば、実施例1においては、実施例1に係る耐放射線ケーブルのシースの原材料である耐放射線性樹脂組成物用の第2のコンパウンド)を用い、180℃×10分のプレス架橋により3mmtのシートを作製して、形状を調整後、酸素指数を測定した。
試験(E)新VTFT試験:IEEE Std.1202−1991に従って実施した。
試験(F)耐水性:耐圧容器(SUS3034製、内径70φ×長さ200mm)中に、約150mmの長さに切断した耐放射線ケーブル(以下、「ケーブル試料」という)と共に水道水を約500cc入れ、耐圧容器を密閉した。そして、170℃の恒温槽中に24時間放置した後、室温まで冷却した。次に、耐圧容器からケーブル試料を取り出して、ケーブル試料のシースの膨潤の程度を目視にて観察すると共に、700mmφのマンドレルにケーブル試料を1回押し付け曲げを加え、更に、この曲げ方向の反対方向に曲げを加えたときのクラックの有無を観察した。以上の試験後、総合的に耐水性の合否判定をした。
試験(G−1)耐放射線性(1):耐放射線ケーブルを約600mmφの束に丸め、60Coγ線にて4kGy/hの線量率で760kGyの照射をした後、121℃×7日の熱老化試験を実施した。その後、試験(C)と同様に引張試験を実施した。ここで、伸びが50%以上の場合を合格とした。
試験(G−2)耐放射線性(2):実施例5及び6に係る耐放射線ケーブルを約600mmφの束に丸め、60Coγ線にて4kGy/hの線量率で2MGyの照射をした後、140℃×9日の熱老化試験を実施した。その後、試験(C)と同様に引張試験を実施した。ここで、伸びが50%以上の場合を合格とした。
【0084】
なお、試験(C)、試験(G−1)、及び試験(G−2)における伸びは以下のように算出した。すなわち、ダンベル試験片の中央部(幅5mm、長さ20mm以上)に一定の間隔L0をおいて所定長の標線を付し(例えば、L0=20mm)、このダンベル試験片を引張試験機で引っ張り、ダンベル試験片を破断させた。そして、ダンベル試験片の破断時の標線間距離をL1とし、伸びE0をE0={(L1−L0)/L0}×100(式1)を用いて算出した。
【0085】
表3は、本発明の実施例及び比較例に係る耐放射線ケーブルの特性試験の結果を示す。
【0086】
【表3】

【0087】
実施例1〜7に係る耐放射線ケーブルはいずれも、各試験において良好な特性を示しており、総合評価は合格であった。一方、比較例1〜8に係る耐放射線ケーブルはいずれも総合評価は不合格であった。詳細は、以下のとおりである。
【0088】
比較例1に係る耐放射線ケーブルでは、アロマチック系油が2重量部と少なく、耐放射線性(1)試験(試験(G−1))を満足していなかった。また、比較例2に係る耐放射線ケーブルでは、アロマチック系油が60重量部と多く、試験(A)において、耐放射線ケーブルの表面にブリード現象が発生していることが確認された。また、比較例2に係る耐放射線ケーブルは、難燃性が低下して、新VTFT試験が不合格であった。
【0089】
比較例3に係る耐放射線ケーブルでは、カーボンブラックの添加量が焼成クレーの添加量の2倍である。すなわち、比較例3においては、補強材としてのカーボンブラックの量が、非晶質無機材の単位量の2倍である。比較例3に係る耐放射線ケーブルにおいては、非晶質無機材の添加量が不適切であることに起因して、試験(F)においてシース表面にクラックの発生が観察され、耐水性が不合格であった。
【0090】
また、比較例4に係る耐放射線ケーブルでは、耐放射線性樹脂組成物中にアミン系老化防止剤が添加されていない。そして、比較例4においては、試験(G−1)において伸びの低下が測定され、耐放射線性(1)の試験は不合格であった。また、比較例5に係る耐放射線ケーブルでは、耐放射線性樹脂組成物中のFEFカーボンブラックの添加量と焼成クレーの添加量との合計が、30重量部と少ない。これにより、比較例5に係る耐放射線性樹脂組成物用の第2のコンパウンドのゴム弾性が大きく、比較例5に係る第2のコンパウンドを押し出した時の外観がスムーズではなく不良であった。したがって、比較例5においては、その他の試験は実施しなかった。
【0091】
また、比較例6に係る耐放射線ケーブルでは、耐放射線性樹脂組成物中のFTカーボンブラックの添加量と焼成クレーの添加量との合計が、150重量部と多い。これにより、比較例6に係る耐放射線性樹脂組成物用の第2のコンパウンドの粘度が大きく、押出機の負荷が限界を超えたため押出を断念した。したがって、比較例6においては、その他の試験はできなかった。
【0092】
そして、比較例7に係る耐放射線ケーブルでは、耐放射線性樹脂組成物中のカーボンブラックの平均粒径は200nm以上の450nmである。このカーボンブラックの平均粒径の大きさに起因して、比較例7においては、耐水性が不合格であった。また、比較例8に係る耐放射線ケーブルでは、耐放射線性樹脂組成物中の焼成クレーの平均粒径は2.0μm以上の2.2μmである。この焼成クレーの平均粒径の大きさに起因して、比較例8においては、耐水性が不合格であった。
【0093】
以上の実施例1〜7における試験結果が示すように、ハロゲン系ポリマ100重量部に対し、2重量部以上の老化防止剤と、5重量部以上40重量部以下のアロマチック系油と、平均粒径が200nm以下のカーボンブラック及び平均粒径が2.0μm以下の焼成クレーの合計が40重量部以上120重量部以下とを添加して得られる耐放射線性樹脂組成物が、難燃性、耐放射線性、耐水性、及び機械的特性に優れていることが示された。
【0094】
以上、本発明の実施の形態及び実施例を説明したが、上記に記載した実施の形態及び実施例は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態及び実施例の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。
【図面の簡単な説明】
【0095】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る耐放射線性樹脂組成物を用いた耐放射線ケーブルの断面図である。
【図2】本発明の第2の実施の形態に係る耐放射線ケーブルの断面図である。
【図3】本発明の第3の実施の形態に係る耐放射線ケーブルの断面図である。
【図4】本発明の第4の実施の形態に係る耐放射線ケーブルの断面図である。
【符号の説明】
【0096】
1、1a、1b、1c 耐放射線ケーブル
10 導体
20 絶縁体
30 シース
40 介在物
50 テープ
60 撚り対線
70 シールド層
80 発泡樹脂層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩素を含むポリマと、
耐放射線性を前記ポリマに付与する耐放射線性付与剤と、
放射線の照射により前記ポリマ中に発生するイオン性成分を捕捉する非晶質無機材と、
前記ポリマの機械的強度を補強し、前記非晶質無機材の量以下の量の補強材と
を備える耐放射線性樹脂組成物。
【請求項2】
前記非晶質無機材は、平均粒径が2.0μm以下の焼成クレーであり、
前記補強材は、平均粒径が200nm以下のカーボンブラックであり、
前記非晶質無機材と前記補強剤とは、前記ポリマ100重量部に対し、前記非晶質無機材と前記補強剤との合計で40重量部以上120重量部以下、添加される
請求項1に記載の耐放射線性樹脂組成物。
【請求項3】
前記補強材は、前記ポリマに、前記非晶質無機材の単位量に対して1/5以上1以下の割合で添加される
請求項1又は2に記載の耐放射線性樹脂組成物。
【請求項4】
前記耐放射線性付与剤は、老化防止剤と加工助剤とを含み、
前記老化防止剤は、前記ポリマ100重量部に対して2重量部以上添加され、
前記加工助剤は、前記ポリマ100重量部に対して5重量部以上40重量部以下添加される
請求項1から3のいずれか1項に記載の耐放射線性樹脂組成物。
【請求項5】
前記ポリマは、ポリクロロプレン、塩素化ポリエチレン、及びクロロスルフォン化ポリエチレンからなる群から選択される少なくとも1つのハロゲン系ポリマを含む
請求項1から4のいずれか1項に記載の耐放射線性樹脂組成物。
【請求項6】
絶縁体が被覆された導体の周囲に、請求項1から5のいずれか1項に記載の耐放射線性樹脂組成物を備える耐放射線性ケーブル。
【請求項7】
絶縁体が被覆された導体を複数本撚り合わせて形成された撚り合わせ電線の周囲を、請求項5に記載の耐放射線性樹脂組成物で被覆した耐放射線ケーブル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−53246(P2010−53246A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−219723(P2008−219723)
【出願日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】