説明

耐樹木ケーブル

【課題】 樹木と接触する場所や強塩害地区でも架空配電線路の構築を可能にする耐樹木ケーブルを提供する。
【解決手段】 本発明の耐樹木ケーブル1A,1B,1Cは、導体2に、内部半導電層3、絶縁体4、外部半導電層5、遮蔽層6、およびシース7を被覆し、シース7上に摩耗検知層8および耐摩耗層9を形成して構成され、摩耗検知層8は、耐摩耗層9の色とは異なる色であって、視認が容易な色を有し、かつ摩耗性および電気特性に優れた難燃性材料からなり、耐摩耗層9は、摩耗性、電気特性、および耐侯性に優れた難燃性材料からなることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹木接触による損傷が検知可能な耐樹木ケーブルに関し、特に、樹木と接触する場所や強塩害地区でも架空配電線路の構築が可能な耐樹木ケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、低圧又は高圧の架空電線を風等によって振動し樹木と接触するような場所に布設する場合には、耐樹木絶縁電線が用いられている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
図4および図5は、それぞれ従来の耐樹木絶縁電線の断面図および側面図を示す。この耐樹木絶縁電線20は、銅線または銅撚線からなる導体21にポリエチレン又は架橋ポリエチレン等からなる絶縁体22が被覆され、この絶縁体22の上に高密度ポリエチレン又は高密度架橋ポリエチレン等からなる摩耗検知層23が被覆され、この摩耗検知層23の上に高密度ポリエチレン又は高密度架橋ポリエチレン等からなる耐摩耗層24が被覆されて形成されている。
【0004】
また、図6および図7は、それぞれ従来のケーブルおよび該ケーブル3本から構成されたトリプレックス形自己支持形架空ケーブルの断面図および側面図を示す。
【0005】
各ケーブル30A、30Bおよび30Cは、それぞれ銅線、銅撚線、アルミ撚線等からなる導体31と、半導電性を有する架橋ポリエチレン等からなる内部半導電層32と、ポリエチレン又は架橋ポリエチレン等からなる絶縁体33と、半導電性を有する架橋ポリエチレンもしくは半導電性テープ等からなる外部半導電層34と、軟銅テープからなる遮蔽層35と、軟質ポリ塩化ビニルからなるシース36とから形成されている。
【0006】
このケーブル30A、30Bおよび30Cの3本により3相を構成するトリプレックス形自己支持形架空ケーブル30は、架設時の布設張力およびケーブル重量を支える鋼線、鋼撚線等からなるメッセンジャーワイヤ37と、撚り合わせた3本のケーブル30A、30Bおよび30Cの長手方向に該メッセンジャーワイヤ37を添わせて一体化させるために該外周に巻回される鋼線、鋼撚線等またはこれらの上に軟質ポリ塩化ビニルにより被覆したラッシングワイヤ38とから形成されている。このラッシングワイヤ38は、3本のケーブル30A、30Bおよび30Cと接触しながら螺旋状に巻回される。
【特許文献1】特許第3109554号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、従来の耐樹木絶縁電線では、遮蔽層をもつケーブルと比較して電気特性が劣るため、その複数本の電線同士を近接距離にて布設するには、電気設備技術基準解釈第83条「高圧架空電線相互の接近又は交さ」に規定された離隔距離(電線相間800mm)を確保する必要があり、森林等の樹木が群生している場所に架空配電線路を構築するための布設スペースの確保が困難な場合がある。
【0008】
また、樹木との接触により摩耗層、摩耗検知層が擦れて絶縁体が露出した状態でも発見され難い、若しくは、強塩害地区で樹木が電線と接触した場合、電線表面に塩分が付着してトラッキングが発生するおそれがある。
【0009】
また、従来の耐樹木絶縁電線の摩耗検知層、耐摩耗層等およびケーブルのシースは、難燃性を有していないため、万一トラッキングが発生した場合、電線(ケーブル)が燃えて延焼するおそれがある。延焼による山火事も懸念される。
【0010】
一方、従来のケーブルでは、絶縁体、シースが特許文献1等に記載されている耐樹木絶縁電線の摩耗特性および電気特性を有していないため、樹木と接触した状態で布設するような場所には使用出来なかった。
【0011】
従って、本発明の目的は、樹木と接触する場所や強塩害地区でも架空配電線路の構築を可能にする耐樹木ケーブルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、上記目的を達成するため、導体に、内部半導電層、絶縁体、外部半導電層、遮蔽層、およびシースを被覆し、該シース上に摩耗検知層および耐摩耗層を形成してなる耐樹木ケーブルであって、前記摩耗検知層は、前記耐摩耗層の色とは異なる色であって、視認が容易な色を有し、かつ摩耗性および電気特性に優れた難燃性材料からなり、前記耐摩耗層は、摩耗性、電気特性、および耐侯性に優れた難燃性材料からなることを特徴とする耐樹木ケーブルを提供する。
【0013】
また、本発明は、上記目的を達成するため、導体に、内部半導電層、絶縁体、外部半導電層、および遮蔽層を被覆し、該遮蔽層の上に摩耗検知層および耐摩耗層を形成してなる耐樹木ケーブルであって、前記摩耗検知層は、前記耐摩耗層の色とは異なる色であって、視認が容易な色を有し、かつ摩耗性および電気特性に優れた難燃性材料からなり、前記耐摩耗層は、摩耗性、電気特性、および耐侯性に優れた難燃性材料からなることを特徴とする耐樹木ケーブルを提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明の耐樹木ケーブルによれば、樹木と接触する場所や強塩害地区でも架空配電線路を構築することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
〔第1の実施の形態〕
図1および図2は、それぞれ本発明の第1の実施の形態に係る耐樹木ケーブルおよび該耐樹木ケーブル3本から構成されたトリプレックス形自己支持形耐樹木架空ケーブルの断面図および側面図を示す。
【0016】
耐樹木ケーブル1A、1Bおよび1Cは、それぞれ銅線、銅撚線、アルミ撚線等からなる導体2と、半導電性を有する架橋ポリエチレン等からなる内部半導電層3と、ポリエチレン又は架橋ポリエチレン等からなる絶縁体4と、半導電性を有する架橋ポリエチレンもしくは半導電性テープ等からなる外部半導電層5と、軟銅テープからなる遮蔽層6と、ポリオレフィン(主にポリエチレン)、架橋ポリオレフィン(主に架橋ポリエチレン)又はポリ塩化ビニル等からなるシース7と、高密度ポリオレフィン(主に高密度ポリエチレン)、高密度架橋ポリオレフィン(主に高密度架橋ポリエチレン)100部に対し、水酸化マグネシウム若しくは水酸化アルミニウムを30部〜100部を充填した難燃高密度ポリオレフィン(主に難燃高密度ポリエチレン)、難燃高密度架橋ポリオレフィン(主に難燃高密度架橋ポリエチレン)又は硬質ポリ塩化ビニルからなる摩耗検知層8および耐摩耗層9とから形成されている。
【0017】
摩耗検知層8および耐摩耗層9の材料としては、上記の材料を単独又は組み合わせて用いることが好ましいが、これらに限定されるものではなく、摩耗検知層8は、摩耗性と電気特性と難燃性に優れ、耐摩耗層9は、摩耗性と電気特性と難燃性と耐候性に優れた材料であれば好適に用いることができる。
【0018】
また、摩耗検知層8は、耐摩耗層9の色とは異なる色であって、視認が容易な色を有している。例えば、黄色とすることが好ましい。
【0019】
この耐樹木ケーブル1A、1Bおよび1Cの3本で3相を構成するトリプレックス形自己支持形耐樹木架空ケーブル1は、架設時の布設張力およびケーブル重量を支える鋼線、鋼撚線等からなるメッセンジャーワイヤ10と、撚り合わせた3本の耐樹木ケーブル1A、1Bおよび1Cの長手方向に該メッセンジャーワイヤ10を添わせて一体化させるために、該外周に巻回される鋼線、鋼撚線等またはこれらの上に軟質ポリ塩化ビニルにより被覆したラッシングワイヤ12とから形成されている。このラッシングワイヤ12は、3本の耐樹木ケーブル1A、1Bおよび1Cと接触しながら螺旋状に巻回される。
【0020】
本実施の形態によれば、以下の効果を奏する。
(イ)耐樹木絶縁電線に比べ、シース構造を有したケーブル化に伴い、各耐樹木ケーブル同士の相間離隔が不要となり、森林の中の狭いスペースでも架空配電線路の建設が容易になる。
【0021】
(ロ)基本的に銅テープからなる遮蔽層の外側に摩耗検知層と耐摩耗層を形成しているため、樹木が耐摩耗層と接触しても接触部に電位は発生せず、トラッキングは生じない。
【0022】
(ハ)万一、樹木により摩耗層、摩耗検知層が擦れた状態で発見されない場合でも絶縁体上の銅テープが削れれば、抵抗値が変化するため、目視以外の方法でも絶縁体への損傷を管理することが出来る。
【0023】
(ニ)従来の耐樹木電線においては、摩耗特性を有する摩耗検知層および耐摩耗層に絶縁特性も確保しながら、難燃化することは困難であったが、耐樹木ケーブルの場合、摩耗検知層および耐摩耗層には絶縁電線程の絶縁特性が要求されないことから、難燃高密度ポリオレフィン、難燃高密度架橋ポリオレフィン、又は硬質ポリ塩化ビニル等を施すことによりケーブルの難燃化が可能となり、万一、ケーブルにトラッキングが生じたり、他物から引火したりした場合でも、ケーブルの延焼を抑えることが出来る。
【0024】
〔第2の実施の形態〕
図3は、本発明の第2の実施の形態に係る耐樹木ケーブルおよび該耐樹木ケーブル3本から構成されたトリプレックス形自己支持形耐樹木架空ケーブルの断面図を示す。
第2の実施の形態に係る耐樹木ケーブル11A、11Bおよび11Cは、シース7を設けずに、遮蔽層6上に直接摩耗検知層8および耐摩耗層9を被覆してなる点において、第1の実施の形態に係る耐樹木ケーブル1A、1Bおよび1Cと相違する。
【0025】
本実施の形態においては、摩耗検知層8および耐摩耗層9がシースとしての機能も兼ねるように厚めに被覆する構成とすることが好ましい。
【0026】
本実施の形態によれば、第1の実施の形態と同様の効果を奏する。
【実施例1】
【0027】
(電気特性と摩耗特性の評価)
図1に示す本発明の耐樹木ケーブルを作製し(実施例1)、図4に示す特許文献1に記載の耐樹木絶縁電線および図6に示す従来のケーブルを比較例(比較例1,2)として、電気特性および摩耗特性の評価を行った。結果を表1に示す。
【0028】
【表1】

【0029】
表1から明らかなように、実施例1の本発明の耐樹木ケーブルは、比較例1の特許文献1に記載の耐樹木絶縁電線と同等以上の摩耗特性および電気特性を有する。なお、表1より比較例2の従来のケーブルの摩耗特性は充分でないことが分かる。
【実施例2】
【0030】
〔所要スペースと難燃特性の評価〕
実施例1で用いた本発明の耐樹木ケーブル3本から構成されたトリプレックス形自己支持形耐樹木架空ケーブルと、比較例1で用いた耐樹木絶縁電線について、所要スペースと難燃特性の評価を行った。結果を表2に示す。
【0031】
【表2】

【0032】
表2から明らかなように、実施例2では、ケーブル外径と同様、高さ64mm× 幅53mm程度ですむのに対して、比較例3では高さ12.2mm× 幅1637mmのスペースが必要になる。したがって、実施例2の本発明の耐樹木ケーブルから構成されたトリプレックス形自己支持形耐樹木架空ケーブルは、比較例3の特許文献1に記載の耐樹木絶縁電線に比べ、シース構造を有したケーブル化に伴い、各耐樹木ケーブル同士の相間離隔が不要となり、森林の中の狭いスペースでも架空配電線路の構築が容易になる。
【0033】
また、実施例2の本発明の耐樹木ケーブルから構成されたトリプレックス形自己支持形耐樹木架空ケーブルは、難燃特性が合格であるのに対し、比較例3の特許文献1に記載の耐樹木絶縁電線は、難燃性を有しておらず難燃特性が不合格であった。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る耐樹木ケーブルおよび該耐樹木ケーブル3本から構成されたトリプレックス形自己支持形耐樹木架空ケーブルの断面図である。
【図2】本発明の第1の実施の形態に係る耐樹木ケーブルおよび該耐樹木ケーブル3本から構成されたトリプレックス形自己支持形耐樹木架空ケーブルの側面図である。
【図3】本発明の第2の実施の形態に係る耐樹木ケーブルおよび該耐樹木ケーブル3本から構成されたトリプレックス形自己支持形耐樹木架空ケーブルの断面図である。
【図4】従来の耐樹木絶縁電線の断面図である。
【図5】従来の耐樹木絶縁電線の側面図である。
【図6】従来のケーブルおよび該ケーブル3本から構成されたトリプレックス形自己支持形架空ケーブルの断面図である。
【図7】従来のケーブルおよび該ケーブル3本から構成されたトリプレックス形自己支持形架空ケーブルの側面図である。
【符号の説明】
【0035】
1,11 トリプレックス形自己支持形耐樹木架空ケーブル
1A,11A 耐樹木ケーブル
1B,11B 耐樹木ケーブル
1C,11C 耐樹木ケーブル
2 導体
3 内部半導電層
4 絶縁体
5 外部半導電層
6 遮蔽層
7 シース
8 摩耗検知層
9 耐摩耗層
10 メッセンジャーワイヤ
12 ラッシングワイヤ
20 耐樹木絶縁電線
21 導体
22 絶縁体
23 摩耗検知層
24 耐摩耗層
30 トリプレックス形自己支持形架空ケーブル
30A ケーブル
30B ケーブル
30C ケーブル
31 導体
32 内部半導電層
33 絶縁体
34 外部半導電層
35 遮蔽層
36 シース
37 メッセンジャーワイヤ
38 ラッシングワイヤ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体に、内部半導電層、絶縁体、外部半導電層、遮蔽層、およびシースを被覆し、該シース上に摩耗検知層および耐摩耗層を形成してなる耐樹木ケーブルであって、
前記摩耗検知層は、前記耐摩耗層の色とは異なる色であって、視認が容易な色を有し、かつ摩耗性および電気特性に優れた難燃性材料からなり、前記耐摩耗層は、摩耗性、電気特性、および耐侯性に優れた難燃性材料からなることを特徴とする耐樹木ケーブル。
【請求項2】
導体に、内部半導電層、絶縁体、外部半導電層、および遮蔽層を被覆し、該遮蔽層の上に摩耗検知層および耐摩耗層を形成してなる耐樹木ケーブルであって、
前記摩耗検知層は、前記耐摩耗層の色とは異なる色であって、視認が容易な色を有し、かつ摩耗性および電気特性に優れた難燃性材料からなり、前記耐摩耗層は、摩耗性、電気特性、および耐侯性に優れた難燃性材料からなることを特徴とする耐樹木ケーブル。
【請求項3】
前記摩耗検知層および前記耐摩耗層を形成する前記難燃性材料は、難燃高密度ポリオレフィン、難燃高密度架橋ポリオレフィン、又は硬質ポリ塩化ビニルであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の耐樹木ケーブル。
【請求項4】
前記難燃高密度ポリオレフィンは、高密度ポリオレフィン100部に対し、水酸化マグネシウム又は水酸化アルミニウムを30部〜100部を充填したものであり、前記難燃高密度架橋ポリオレフィンは、高密度架橋ポリオレフィン100部に対し、水酸化マグネシウム又は水酸化アルミニウムを30部〜100部を充填したものであることを特徴とする請求項3に記載の耐樹木ケーブル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−286304(P2006−286304A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−102528(P2005−102528)
【出願日】平成17年3月31日(2005.3.31)
【出願人】(501304803)株式会社ジェイ・パワーシステムズ (89)
【Fターム(参考)】