説明

耐水性応力発光材料、その製造方法、これらを用いた塗料組成物及びインキ組成物

【課題】 応力発光材料の弱点である耐水性を強化すると共に、その製造方法及び耐候性応力発光材料を用いた塗料組成物及びインキ組成物を提供することを目的とする。
【解決手段】 機械的な力を加えることによって発光する粉末又は顆粒状の応力発光材料をアルコキシシラン又は/及びアルコキシシラン縮合物を含有するゾルゲル溶液に浸漬する工程と、前記ゾルゲル溶液に浸漬した応力発光材料を減圧処理する工程と、前記減圧処理した応力発光材料を乾燥・熱処理する工程とを備え、前記応力発光材料の粒子表面に防水性シリカ層を密着して形成することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、応力発光材料の弱点である耐水性を強化すると共に、その製造方法及び耐水性応力発光材料を用いた塗料組成物及びインキ組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、外部からの様々な外部刺激を受けることによって、可視光を発光する蛍光現象は知られている。このような蛍光現象を示す物質は、蛍光材料と呼ばれ、ランプや照明灯、ブラウン管やプラズマディスプレイパネル等のディスプレイ、および顔料等の様々な分野で用いられている。
【0003】
また、外部刺激として紫外線、電子線、X線、放射線、電界、または化学反応によって発光現象を示す発光材料は、数多く知られており、近年、摩擦、剪断力、衝撃力、振動等の機械的な外力を加えることによって生じた歪みにより発光現象を示す応力発光材料も見出されている。具体的には、FeS構造のSrAlまたはCaAlを母体材料とする応力発光材料(特許文献1)スピネル構造、コランダム構造、またはβアルミナ構造を有する応力発光材料(特許文献2)、ケイ酸塩の応力発光材料(特許文献3及び4)、欠陥制御型アルミン酸塩の応力発光材料(特許文献5)、メリライト型構造の酸化物を有する応力発光材料(特許文献6)、ウルツ鉱型構造と閃亜鉛鉱型構造とが共存する構造を有し、酸化物、硫化物、セレン化合物、およびテルル化合物を主成分として構成されるメカノルミネッセンス材料、およびアルミナケイ酸塩の応力紫外線発光材料(特許文献7)などが開示されている。しかしながら、これらの応力発光材料は、いずれも実用上耐久性に乏しいという課題があった。即ち、風雨などの自然環境に直接暴露されたときあるいは水中で使用されるときは勿論のこと、空気中の水分によっても変質し、発光輝度が著しく低下するという、耐水性、耐候性の点で問題があり、使用環境が著しく制限を受けるか、または防水構造化を施す場合には別の工程と費用が必要となるという課題を抱えていた。
【0004】
前記の問題点を解消するために、応力発光材料の表面処理方法等の発明が開示されている(特許文献8)。しかし、係る発明は、実施例及び第0046段落に記載のとおり、リン酸基を有する低分子化合物による表面処理を施すことにより、複合材料化する相手材料である例えばポリメチルメタクリレートなどの高分子材料との親和性を向上させ均一な分散をさせることに主眼があり、この点においては限られた条件のもとでは目的を達成するものと思われる。しかし、本発明に係る減圧下において応力発光材料の粒子表面に防水性シリカ層を密着被覆することを特徴とする応力発光材料自体の耐水性の改良については一切言及していない。
また、蓄光性蛍光材料の耐候性を向上させる手段として、蓄光性蛍光顔料の表面処理方法等の発明が開示されている(特許文献9)。しかし、係る発明は、主として、アクリル系ワニスに対する防水処理に主眼があり、屋外において風雨に曝された過酷な条件下で長期間使用に耐える要求に対しては言及していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−063824号公報(特許第2992631号公報)
【特許文献2】特開2000−119647号公報(特許第3136340号公報)
【特許文献3】特開2000−313878号公報(特許第3421736号公報)
【特許文献4】特開2003−165973号公報(特許第3837488号公報)
【特許文献5】特開2001−49251号公報 (特許第3511083号公報)
【特許文献6】特開2001−64638号公報 (特許第3273317号公報)
【特許文献7】特開2004−43656号公報 (特許第4159025号公報)
【特許文献8】特開2005−320425号公報
【特許文献9】特開平9−316443号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記特許文献9記載の発明は、シリカで顔料粒子の表面をコートしている点で一応の防水効果が生ずる。この場合、顔料表面へのシリカコートの手段として、オルトケイ酸テトラエチルが加水分解する際に4つのエチル基がはずれてシリカが重合する反応中に、蓄光性蛍光顔料を介在させれば顔料を核として顔料表面にシリカが堆積して被覆する方法による。しかし、この方法では、シリカが顔料表面を被覆するに止まり、シリカ同士又はシリカと顔料の表面との間に微細空隙が生じ完全に密着するには至らない。故に、長時間水中に放置するなど過酷な条件下においては、水分が前記の微細空隙を通して顔料に浸入するおそれがあると考えられる。一般に、応力発光材料においても蓄光性蛍光顔料材料と同様に耐水性に劣るという課題を有する。本願出願人は、以前に耐水性蓄光材又は蛍光材、その製造方法及びこれらを用いた塗料組成物及びインキ組成物の発明についての特許出願をした。この発明によれば、防水性シリカ層で前記蓄光材又は蛍光材の粒子表面を密着被覆することによって格段に耐水性が向上する結果、蓄光性蛍光材料についての前記耐水性の課題は解消した。本願発明者は、対象を蓄光材又は蛍光材から更に広げて応力発光材料について本願出願人が以前に出願した前記発明の耐水性向上の手法が適用できないかについて鋭意研究した結果、応力発光材料についても前記耐水性蓄光材又は蛍光材の場合と同様の耐水性を備えた耐水性応力発光材料が得られることを知見して本発明に至ったものであり、本願発明の主たる目的は、長期間の過酷な耐水性の条件を満たす耐水性応力発光材料、その製造方法及びこれらを用いた塗料組成物及びインキ組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記の課題を解決するために、本発明は、機械的な力を加えることによって発光する粉末又は顆粒状の応力発光材料をアルコキシシラン又は/及びアルコキシシラン縮合物を含有するゾルゲル溶液に浸漬する工程と、前記ゾルゲル溶液に浸漬した応力発光材料を所定時間減圧下に放置する減圧処理工程と、前記減圧処理した応力発光材料を乾燥・熱処理する工程とを備え、前記応力発光材料の粒子表面に防水性シリカ層を密着して形成することを特徴とする耐水性応力発光材料の製造方法とする(請求項1)。
【0008】
また、前記の課題を解決するために、本発明は、前記アルコキシシラン又は/及びアルコキシシラン縮合物は、三基以上のアルコキシ基を有することを特徴とする前記の耐水性応力発光材料の製造方法とすることが好ましい(請求項2)。
【0009】
また、前記の課題を解決するために、本発明は、減圧下において前記応力発光材料の粒子表面に密着被覆させたアルコキシシラン又は/及びアルコキシシラン縮合物に由来する防水性シリカ層で前記応力発光材料の粒子表面を密着被覆してなることを特徴とする耐水性応力発光材料とする(請求項3)。
【0010】
また、前記の課題を解決するために、本発明は、前記アルコキシシラン又は/及びアルコキシシラン縮合物は、三基以上のアルコキシ基を有することを特徴とする前記の耐水性応力発光材料とすることが好ましい(請求項4)。
【0011】
また、前記の課題を解決するために、本発明は、前記の耐水性応力発光材料が含有されていることを特徴とする塗料組成物とすることが好ましい(請求項5)。
【0012】
また、前記の課題を解決するために、本発明は、前記の耐水性応力発光材料が含有されていることを特徴とするインキ組成物とすることが好ましい(請求項6)。

【発明の効果】
【0013】
本願発明に係る耐水性応力発光材料は、前記のようにアルコキシシランとその縮合物を含有するゾルゲル溶液に浸漬した応力発光材料を減圧下に放置することによって、前記ゾルゲル成分が応力発光材料粒子の表面に密着し、これを乾燥・熱処理することにより生成する防水性シリカ層が応力発光材料粒子の表面に密着・被覆された構造を形成する。このようにシリカが応力発光材料粒子の表面に密着し防水性シリカ層を形成することにより、完全な防水性が達せられ、水中に長期間放置しても白化による輝度の低下は全く見られない優れた耐水性効果を奏する。係る応力発光材料を応力発光性顔料として用いれば耐水性に優れた塗料組成物又はインキ組成物が得られる。水系の塗料組成物又はインキ組成物を構成することも可能である。風雨に曝される環境下で用いる場合も、特別なシーリング防水処理が一切不要なので、コスト低減と施工性の向上が図られるメリットは甚大である。

【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実施の形態に係る耐水性応力発光材料の製造工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明を実施するための形態(以下「実施の形態」と称する)について、以下に詳細に説明する。しかし、本発明は、かかる実施の形態に限定されるものではない。本発明の実施の形態に係る耐水性応力発光材料の製造方法は、粉末又は顆粒状の応力発光材料をアルコキシシラン又は/及びアルコキシシラン縮合物を含有するゾルゲル溶液に浸漬する工程と、前記ゾルゲル溶液に浸漬した応力発光材料を所定時間減圧下に放置する減圧処理工程と、前記減圧処理した応力発光材料を乾燥・熱処理する工程とを備えたことを特徴とする。
【0016】
ここで、本発明における耐水性応力発光材料の原料となる応力発光材料は、機械的な力を加えることによって発光する粉末又は顆粒状の応力発光材料であり、詳細には、摩擦、剪断力、衝撃力、振動等の機械的な外力を加えることによって生じた歪みエネルギーを、可視光線又はそれに近い波長の紫外線、赤外線などの光エネルギーとして放出する発光現象を示す応力発光物質である。これらは無機蓄光材料と同じ、例えば、ユウロピウム添加アルミン酸ストロンチウム(SrAl:Eu)などの基本構造式を有するが、無機蓄光材料と異なる点はSrへの格子欠陥の与え方など構造を制御した無機結晶骨格の中に発光中心となるユウロピウムを添加することにより発光強度の高い応力発光現象が発現されるものである。また、この応力発光材料として、例えば、発光中心としてユウロピウムを添加したアルミン酸ストロンチウム(SrAl:Eu)は緑色に発光し、マンガンを発光中心として添加した硫化亜鉛(ZnS:Mn)は黄橙色に発光する。具体的には、特に限定するものではないが、少なくとも以下の(1)〜(7)に示す応力発光材料及びメカノルミネッセンス材料を原料とする耐水性応力発光材料は本発明に含まれるものとする。
【0017】
(1)FeS構造グループである、SrAl、CaAl、CaC、CoS、MnS、NiS、RuS、NiSe、を主成分とする母体材料に、発光中心となる材料として、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Luの希土類イオン及びTi、Zr、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Nb、Mo、Ta、Wの遷移金属イオン中の1種類又はそれ以上を添加した応力発光材料であって、母体材料の結晶構造によって最適発光中心を選択し、その添加量は0.01〜20wt%が好ましい。例えば、母体材料がSrAlの場合はEuを発光中心とし、母体材料がCaAlの場合はNdを発光中心とする応力発光材料が好ましい(特許文献1参照)。
【0018】
(2)スピネル構造のMgAl及びCaAl、コランダム構造のAl、及びβ−アルミナ構造のSrMgAl1017 の中から選択された少なくとも1種の金属酸化物又は複合酸化物の母体結晶中に、不安定な3d、4d、5d又は4f電子殻を有し、この電子殻内で輻射転移を生起しうる、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb及びDyの希土類金属イオン及びV、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Nb、Mo、Ta及びWの遷移金属イオンの中から選択された少なくとも1種類の金属イオンを発光中心として含む物質からなる応力発光材料が好ましい(特許文献2参照)。
【0019】
(3)YSiO、BaSi、及びBaMgSi、の中から選択された少なくとも1種の複合酸化物からなる母体材料に、機械的エネルギーによって励起された電子が基底状態に戻る際に発光するCe、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb及びDyの希土類金属及びV、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Nb、Mo、Ta及びWの遷移金属の中から選択された少なくとも1種類の金属を発光中心として導入してなる応力発光材料が好ましい。発光中心となる金属は第一イオン化エネルギー8v以下の前記希土類金属及び遷移金属が好ましい(特許文献3参照)。
【0020】
(4)一般式、
xSrO・yAl・zSi
(式中のSrの一部がNa、K及びMgの中の少なくとも1種で置き換えられていてもよく、x、y及びzは1以上の数である)
xSrO・ySiO
(式中のSrの一部がNa、Mg、Zn、Be、Mn、Zr、Ce及びNbの中から選ばれた少なくとも1種で置き換えられていてもよく、x及びyは1以上の数である)
xSrO・yM11
(式中のMはTa及びNbの中の少なくとも1種であり、x及びyは1以上の数である)
で表される組成を持つストロンチウム複合酸化物からなる母体材料に機械的エネルギーによって励起された電子が基底状態に戻る際に発光するSc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Luの希土類金属又はTi、Zr、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Nb、Mo、Ta、Wの遷移金属の中から選択された少なくとも1種類の発光中心を添加してなるメカノルミネッセンス材料が好ましい。例えば、母体材料として、SrAlSiO又はSrMgSiを用いる場合はEuを発光中心とする。発光中心となる金属を母体材料にドープするには該金属0.001〜20%と母体材料をよく混合したのち、還元雰囲気中、600〜1800℃で少なくとも30分間焼成する。この際、ホウ酸のようなフラックを添加すると発光性が向上し好ましい。(特許文献4参照)。
【0021】
(5)アルカリ土類金属酸化物とアルミニウム酸化物とから構成され、かつこの中のアルカリ土類金属イオンの組成比を欠損させたアルカリ土類金属欠損型であって、式
Al3+x 、MQAl1016+x 、M Al3+x +x
又は
LAl16+x +x
(式中のM、Q及びLは、それぞれMg、Ca、Sr又はBaであり、xは0.8≦x≦0.99、x及びxは0.8≦x+x≦0.99を満たす数である)で表される化合物を主成分とする非化学量論的組成物を有するアルミン酸塩の少なくとも1種からなり、かつ機械的エネルギーによって励起されたキャリヤーが基底状態に戻る際に発光する格子欠陥をもつ物質、又はこの母体物質中にSc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Luの希土類イオン及びTi、Zr、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Nb、Mo、Ta、Wの遷移金属イオン中から選ばれた少なくとも1種の金属イオンを発光中心の中心イオンとして含む物質からなる高輝度応力発光材料が好ましい。金属イオンは一種又は二種以上を組み合わせて0.01〜10モル%の範囲でかつ格子欠陥を形成しうる割合で添加するのが好ましい。母体物質がMAl3+xの場合はEuイオン及びCeイオンが好ましく、MQAl1016+xの場合はEuイオンが特に好ましい(特許文献5参照)。
【0022】
(6)メリライト型構造のCaYAl 、CaAlSiO 、Ca(Mg,Fe)Si 、CaSiO 、CaNaAlSi 、CaMgSi 、(Ca,Na)(Al,Mg)(Si,Al) 、及びCa(Mg,Al)(Al,Si)SiO の酸化物のうちの1種類以上からなる母体材料に機械的エネルギーによって励起された電子が基底状態に戻る際に発光するSc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Luの希土類金属及びTi、Zr、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Nb、Mo、Ta、Wの遷移金属の中から選択された少なくとも1種類の金属を発光中心として導入してなる応力発光材料が好ましい。発光中心となる金属は0.001〜20wt%の範囲で添加し、還元雰囲気中、600〜1800℃で焼成するのが好ましい。(特許文献6参照)。
【0023】
(7)一般式、
xMA・(1−x)MnA
(式中のMは、Zn又はCuにより部分的に置き換えられたZn、Aはカルコーゲン、xは0よりも大きく1よりも小さい数である)で表され、結晶粒子径が20nm以下の複合半導体からなる高輝度メカノルミネッセンス材料であって、このメカノルミネッセンス材料は、ウルツ鉱型構造と閃亜鉛鉱型構造とが共存する構造を有し、Aはカルコーゲン即ち酸素属元素が用いられ、酸化物、硫化物、セレン化合物、およびテルル化合物を主成分として構成されるものが好ましい。例えば、ZnS・MnS、ZnTe・MnTe、ZnCuS・MnSが特に高い応力発光強度を得ることから好ましい。結晶粒子径を20nm以下に結晶化させるには製造過程における焼成条件を制御することによって可能となる(特許文献7参照)。
【0024】
本発明の実施の形態に係る耐水性応力発光材料の製造方法を、図1を参照して説明する。先ず、粉末又は顆粒状の応力発光材料を所定量秤量し、必要に応じて、これら応力発光材料を予め100℃で3時間位加熱乾燥する乾燥工程(11)を経ることが好ましい。そして乾燥工程(11)を経た応力発光材料をゾルゲル溶液浸漬工程(12)によりアルコキシシラン又は/及びアルコキシシラン縮合物を含有するゾルゲル溶液に浸漬する。その際、応力発光材料全体が液面に漬かる状態にして軽くかき混ぜる。
【0025】
前記のアルコキシシランは三基以上のアルコキシ基を有するものが好ましく、特に限定されるものではないが、縮合物成分としては、テトラエトキシシラン、テトラメトキシシラン、テトラn−プロポキシシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラ−t−ブトキシシラン等の四基のアルコキシ基を有するアルコキシシランを加水分解重縮合したポリシロキサン、更に、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリイソプロポキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン等の三基のアルコキシ基を有するアルコキシシランを加水分解重縮合したポリシロキサン、又は前記の三基以上のアルコキシ基を有するアルコキシシランの複合物を加水分解重縮合したポリシロキサン等が好適である。
【0026】
次に、前記のゾルゲル溶液に浸漬した応力発光材料を真空器に入れて、−0.08MPa(ゲージ圧表記による)以下の減圧下に約10時間放置して減圧処理する。この減圧処理工程(13)によって、ゾルゲル溶液中のアルコキシシラン又は/及びアルコキシシラン縮合物と応力発光材料粒子とが密着することとなる。更に、減圧処理をすることによって、ゾルゲル溶液に含まれるエアーが除去されるとともに、応力発光材料粒子とゾルゲル溶液間のエアーも除去されて、アルコキシシラン又は/及びアルコキシシラン縮合物と応力発光材料粒子は隙間なく密着することとなる。
【0027】
次に、減圧処理工程(13)を経た前記のゾルゲル溶液中のアルコキシシラン又は/及びアルコキシシラン縮合物と応力発光材料粒子が粒子表面に密着した状態の応力発光材料を耐熱性容器に入れて常温から約100℃に2時間程度で昇温乾燥させ、更に、約100℃から約500℃に昇温し、約500℃の雰囲気中で約15時間熱処理する。次に、約500℃から常温まで徐々に降温し自然冷却させる。この乾燥・熱処理工程(14)によって、アルコキシシラン又は/及びアルコキシシラン縮合物は、乾燥とともに加水分解し、アルコキシ基が離脱したシロキサン結合からなるSiO四面体の連結が促進し、応力発光材料の粒子表面が防水性シリカ層で密着被覆された耐水性応力発光材料が得られる。前記の防水性シリカ層は外部からの水路を完全に遮断された構造からなり、防水性が確保できる。得られた耐水性応力発光材料は、手で軽くほぐれる程度の塊からなり、篩い掛け粒揃え工程(15)により、篩い掛けして粒揃えする。必要により、粉砕機、解砕機又は造粒機等を用いて粒揃えをしてもよい。
【実施例】
【0028】
以下に実施例を挙げて本発明について説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。先ず、応力発光材料として、TAIKO(商品名:登録商標)-ML-1(大光炉材株式会社製応力発光材料)4gを秤量し、容器に投入し、予め約100℃で3時間位、加熱乾燥した。次に、アルコキシシラン又は/及びアルコキシシラン縮合物のゾルゲル溶液として、アトロン(商品名:登録商標)NSi-500(日本曹達株式会社製テトラアルコキシシランのポリマーを含む製剤)を、前記の応力発光材料が入っている容器に2ml注入して軽く攪拌した。前記応力発光材料について、前記の実施の形態に記載した工程に従って処理し、目的の耐水性応力発光材料を得た。
【0029】
前記で得られた耐水性応力発光材料の耐水性試験について説明する。前記耐水性応力発光材料をガラス容器に入れ、更に、耐水性応力発光材料1に対して水が容量比で約2の割合になるように入れて攪拌混合した。比較例として前記実施例の耐水性応力発光材料に代えて未処理の応力発光材料と水を同様の割合でガラス容器に入れて攪拌混合して両者の経時変化を比較観察した。実施例の耐水性応力発光材料については、1ヶ月経過後も何ら白濁することなく、耐水性応力発光材料は粒状のままで容器を傾けると砂状に流動することが確認された。これに対して、未処理の比較例の場合は、水を入れると白濁し、2〜3日程度でゲル化が始まり、2週間程度で容器を傾けても流動しなくなり、強く振ると白濁した。
【0030】
前記耐水性応力発光材料の発光特性を評価するために、前記耐水性応力発光材料とエポキシ系接着剤とを、重量比1:1の比率で混合し、この混合物をプラスチックシート上に塗布・乾燥して耐水性応力発光性樹脂シート試験片を作成した。一方、耐水性応力発光材料に代えて耐水化処理を施さない応力発光材料を用いる以外は前記と同様にして比較用の応力発光性樹脂シート試験片を作成して両試験片の発光強度を比較した。前記両試験片の表面(応力発光性樹脂シート側)に応力を印加すると両方の試験片とも緑色の発光を示した。次に、前記耐水性応力発光材料の耐水性試験と同様に、水中で1ヶ月間放置した後、前記と同様に試験片に応力を印加したところ、実施例に係る試験片は耐水試験前と同等の発光強度を示した。これに対して、比較例の試験片は、発光強度が著しく低下し、微発光のためにほとんど光を確認できない程度であった。以上の通り、耐水性応力発光材料が耐水性に極めて優れていることが実証できた。
【0031】
前記耐水性応力発光材料を使用して水性塗料組成物を作成した。水性塗料組成物は、アクリル系樹脂、アクリルシリコン系樹脂、ウレタン系樹脂、酢酸ビニル系樹脂の中の少なくとも何れか一種から選択した合成樹脂100質量部に対して前記耐水性応力発光材料を5〜50質量部、その他分散剤、粘度調整剤等の添加剤を適宜量加えて作成した。また、インキとしては、無色透明のメジウムに、その固形分100質量部に対して前記耐水性応力発光材料を5〜50質量部を添加してインキ組成物を作成した。前記で作成した塗料またはインキを塗った試験体を水中に放置して経時変化を観察したところ、前記耐水性応力発光材料の耐水性試験と同様に1ヶ月経過後の応力印加による発光強度の低下は見られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明は、前記の構成を採ることによって、従来見たことのない耐水性に富み、高度な発光強度を保有する耐水性応力発光材料、これらを用いた塗料組成物及びインキ組成物が得られ、屋外で自然環境に直接曝される場合、屋内の高湿度下で使用する場合、屋内の大気中で長期間使用する場合などでも、特別なシーリング防水処理が一切不要となり、コスト低減と施工性の向上が図られ、経済的にも極めて有用である。
【符号の説明】
【0033】
11:乾燥工程
12:ゾルゲル溶液浸漬工程
13:減圧処理工程
14:乾燥・熱処理工程
15:篩い掛け粒揃え工程

【特許請求の範囲】
【請求項1】
機械的な力を加えることによって発光する粉末又は顆粒状の応力発光材料をアルコキシシラン又は/及びアルコキシシラン縮合物を含有するゾルゲル溶液に浸漬する工程と、前記ゾルゲル溶液に浸漬した応力発光材料を所定時間減圧下に放置する減圧処理工程と、前記減圧処理した応力発光材料を乾燥・熱処理する工程とを備え、前記応力発光材料の粒子表面に防水性シリカ層を密着して形成することを特徴とする耐水性応力発光材料の製造方法。
【請求項2】
前記アルコキシシラン又は/及びアルコキシシラン縮合物は、三基以上のアルコキシ基を有することを特徴とする請求項1記載の耐水性応力発光材料の製造方法。
【請求項3】
減圧下において前記応力発光材料の粒子表面に密着被覆させたアルコキシシラン又は/及びアルコキシシラン縮合物に由来する防水性シリカ層で前記応力発光材料の粒子表面を密着被覆してなることを特徴とする耐水性応力発光材料。
【請求項4】
前記アルコキシシラン又は/及びアルコキシシラン縮合物は、三基以上のアルコキシ基を有することを特徴とする請求項3記載の耐水性応力発光材料。
【請求項5】
請求項3または4記載の耐水性応力発光材料が含有されていることを特徴とする塗料組成物。
【請求項6】
請求項3または4記載の耐水性応力発光材料が含有されていることを特徴とするインキ組成物。

【図1】
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【公開番号】特開2011−94041(P2011−94041A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−249752(P2009−249752)
【出願日】平成21年10月30日(2009.10.30)
【出願人】(506346071)株式会社エコネット・エンジニアリング (6)
【出願人】(000006172)三菱樹脂株式会社 (1,977)
【Fターム(参考)】