説明

耐油防湿性被膜製造用エマルション組成物およびその利用

【課題】 耐油性、耐湿性および耐水性が優れた被膜を形成するエマルション組成物を提供する。また、耐油性、耐湿性および耐水性が優れた被膜を有する物品の製造方法を提供する。
【解決手段】 構成単位としてメタクリル酸メチル単位30〜65質量部、炭素数8以上のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル単位35〜70質量部、カルボキシル基を1個有するアクリル酸以外の単量体単位0.1〜15質量部およびその他の単量体単位0〜30質量部を有し、平均粒子径が200nm以下である疎水性樹脂および平均粒子径が3〜60μmである水膨潤性合成無機層状珪酸塩が水性媒体に分散された、耐油防湿性被膜製造用エマルション組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の重合体粒子および層状珪酸塩粒子が水性媒体中に分散された組成物および該組成物の利用に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、省エネルギーの観点から、住宅に対する高気密高断熱の要求レベルは一層高まっている。高気密高断熱住宅は、一般的には外壁/断熱材/内壁という構成で、断熱材と内壁の間には防湿性フィルムを挟むのが一般的である。防湿性フィルムの役割は、室内にある高温の湿気が放出されることを抑制し、外壁と断熱材間での湿気の結露やエネルギー拡散を防止することである
しかし、高気密高断熱の要求がさらに高まるにつれ、防湿性フィルムだけでなく、内壁自体にも防湿性の役割を持たせて、より気密性を高めたり、建築工法を簡便にする為に防湿性フィルムを無くして、内壁だけで必要な防湿性を確保したいとの要望が出てきた。
内壁を防湿化する方法として、オレフィン製フィルムをラミネートしたり、防湿性コーティング剤を塗工したりする方法がある。特に、形状を選ばず、簡易に塗工できる防湿性コーティング剤の要求が高い。
また、内装建材として、風合いから木質材料が好まれているが、木質材料は吸湿により膨れて反ったり、放湿により割れが生じる等の本質的な問題を抱えている。こういった木質材の課題に対しても、上記と同様に、フィルムを貼ったりしたものが販売されているが、木質本来の外観や風合いを著しく損なうことから、クリア系のコーティング剤での処理が要望されている。
さらに、石膏ボードや木質ボード等では、廃棄物削減を目的に、原材料の石膏や木材チップ等のリサイクルが積極的に推進されている。しかし、リサイクル原料を使用する場合材料の質低下の弊害として、ボードの吸湿率が大きく、風呂場や台所等の水周りでは使用が制限される。
こういった課題に対し、特許文献1には水系塩化ビニリデン系エマルションと顔料の混合物が提案されているが、耐候性が充分ではないほか、廃棄の際に環境への影響も考慮せねばならない。
特許文献2には、本願発明と類似の層状珪酸塩と重合体を含有する防湿コーティング剤組成物が提案されている。しかし、防湿性は高いものの、室内壁や内装建材として必要な耐油性や耐水性が低いという課題があった。
特許文献3には、本願発明と類似の層状珪酸塩と重合体を含有する艶消しーティング剤組成物が開示されている。しかし、防湿性、耐油性および耐水性は不充分であった。が低いという課題があった。
以上、耐油・防湿性コーティング剤のニーズが高いにも関わらず、要求物性を満たすものが無いのが現状であった。
【0003】
【特許文献1】特開平11−269425号公報
【特許文献2】特開2000−303026号公報
【特許文献3】特開2005−47967号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、耐油性、耐湿性および耐水性が優れた被膜を形成するエマルション組成物を提供することを目的とする。また、耐油性、耐湿性および耐水性が優れた被膜を有する物品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため、請求項1に記載の発明の耐油防湿性被膜製造用エマルション組成物は、構成単位としてメタクリル酸メチル単位30〜65質量部、炭素数8以上のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル単位35〜70質量部、カルボキシル基を1個有するアクリル酸以外の単量体単位0.1〜15質量部およびその他の単量体単位0〜30質量部を有し、平均粒子径が200nm以下である疎水性樹脂および平均粒子径が3〜60μmである水膨潤性合成無機層状珪酸塩が水性媒体に分散されたものである。
請求項2に記載の発明の耐油防湿性被膜製造用エマルション組成物は、請求項1に記載の発明において、疎水性樹脂100質量部を基準とする水膨潤性合成無機層状珪酸塩の割合が0.5〜50質量部であることを特徴とする。
請求項3に記載の発明の耐油防湿性被膜製造用エマルション組成物は、請求項1に記載の発明において、水膨潤性合成無機層状珪酸塩は水膨潤性合成フッ素雲母または水膨潤性合成フッ素ヘクトライトであることを特徴とする。
請求項4に記載の発明の耐油防湿性被膜製造用エマルション組成物は、請求項1に記載の発明において、カルボキシル基との反応性を有する水溶性の架橋剤を含有し、疎水性樹脂100質量部を基準とする該架橋剤の割合が0.01〜30質量部であることを特徴とする。
請求項5に記載の発明の耐油防湿性被膜製造用エマルション組成物は、請求項1に記載の発明において、水溶性高分子を含有し、疎水性樹脂100質量部を基準とする該水溶性高分子の割合が0.01〜30質量部であることを特徴とする。
請求項6に記載の発明の耐油防湿性被膜を有する物品の製造方法は、請求項1〜5のいずれかに記載のエマルション組成物を物品の表面に塗布し、乾燥させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明のエマルション組成物を使用することにより耐油性、耐湿性および耐水性が優れた被膜が形成された。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
水膨潤性合成無機層状珪酸塩は、得られる被膜に防湿性を付与するために必要な成分である。
水膨潤性合成無機層状珪酸塩(以下、単に層状珪酸塩ともいう。)は、2層の珪酸四面体層がマグネシウムまたはアルミニウムを含む八面体層を間にはさんだサンドイッチ型の3層構造となって1枚の板状結晶層を形成し、この結晶層が積層されて層状となったものである。1枚の板状結晶層は、厚さが1nm程度、厚さと垂直方向の面の大きさが縦横平均して100nm〜100μm程度というのが標準的である。珪酸層は負の電荷を有し、これは通常結晶層の間に存在するナトリウムイオンまたはリチウムイオンなどの金属カチオンにより中和されている。層状珪酸塩は、上記のように珪酸層が有する負の電荷に由来するカチオン交換能を持つものであり、カチオン交換容量が30〜150meq/100g(層状珪酸塩100gあたりのミリ当量数)であるものが好ましい。カチオン交換容量が小さすぎても大きすぎても後述する膨潤が不充分になる場合がある。金属カチオンは一般にナトリウムまたはリチウムを指し、カリウムや多価の金属カチオンの割合が多い場合はイオン交換性や水膨潤性が著しく低いので好ましくない。
【0008】
水膨潤性とは、結晶層間に水分子を引き入れることにより、水を吸って膨潤する性質をいい、水膨潤性の大きさは日本ベントナイト工業会標準試験方法 JBAS−104−77に準じた方法で測定できる。層状珪酸塩は、水膨潤性の値が15ml/2g〜80ml/2gのものが好ましい。このような層状珪酸塩は、水中で結晶層の層間が広がり、単層または数層にまで分散する性質を有している。すなわち数μmの大きさの層状珪酸塩粒子が、厚さが1〜数nm程度の薄片にまで分散する。水膨潤性の値が小さすぎても大きすぎても、層状珪酸塩が疎水性樹脂に均一に分散されない場合がある。
【0009】
このような水膨潤性合成無機層状珪酸塩としては、水膨潤性の合成フッ素雲母、合成フッ素ヘクトライト、合成フッ素化マイカなどを主成分とするものが挙げられる。このような水膨潤性合成無機層状珪酸塩は一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。水膨潤性合成フッ素雲母、水膨潤性合成フッ素ヘクトライトは特に好ましいものである。
【0010】
水膨潤性合成無機層状珪酸塩の水中で分散した状態での平均粒子径は3〜60μmであり、6〜50μmが好ましく、6〜20μmがより好ましい。3μm未満の場合には水膨潤性合成無機層状珪酸塩同士の凝集する割合が多くなり、組成物中に緻密に分散されないために、得られる被膜が防湿性の不充分なものとなりやすい。60μmを超える場合は得られる被膜の平滑性が損なわれ、外観が悪いものとなりやすい。
【0011】
水膨潤性合成無機層状珪酸塩の水中で分散した状態での平均粒子径の測定方法には、回析/散乱法による方法、動的光散乱法による方法、電気抵抗変化による方法、液中顕微鏡撮影後画像処理による方法などが可能であるが、本発明で採用している平均粒子径の測定は回析/散乱法によるものである。
回析/散乱法による粒度分布・平均粒子径測定は、膨潤してへき開した水膨潤性合成無機層状珪酸塩をイオン交換水中に分散した分散液について、光を透過させた時に得られる回析/散乱パターンをミー散乱理論などを用いてパターンに最も矛盾の無い粒度分布を計算することによりなされる。
【0012】
回析/散乱法による粒度分布・平均粒子径測定ができる市販の装置としては、レーザー回析・光散乱法による粒度測定装置(LS230コールター社製)、レーザー回析式粒度分布測定装置(SALD3000、島津製作所製)、レーザー回析・散乱式粒度分布測定装置(LA910、LA700,LA500、堀場製作所製、及びマイクロトラックSPA、日機装製MT3000)などが挙げられる。
【0013】
疎水性樹脂は、得られる被膜の主要構成成分であり、水膨潤性合成無機層状珪酸塩が分散される際の分散媒すなわちマトリックスとなるものである。疎水性樹脂は、得られる被膜の耐油性、耐湿性および耐水性を優れたものにするために重要な成分である。
また、得られる被膜の防湿性は水膨潤性合成無機層状珪酸塩の分散状態により左右されるため、水膨潤性合成無機層状珪酸塩の分散状態に影響する疎水性樹脂の選択は重要な因子である。
【0014】
疎水性樹脂とは、水を分散媒とし該疎水性樹脂を分散質とするエマルションを形成可能な樹脂であり、構成単位としてメタクリル酸メチル単位30〜65質量部、炭素数8以上のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル単位35〜70質量部、カルボキシル基を1個有するアクリル酸以外の単量体単位0.1〜15質量部およびその他の単量体単位0〜30質量部を有する重合体からなるものである。ただし、上記単量体単位の合計量は100質量部である。
【0015】
疎水性樹脂は、メタクリル酸メチル単位を30〜65質量部有するものであり、好ましくは40〜60質量部有するものである。30質量部未満であると、得られる被膜の耐油性および耐水性が悪いものとなり、65質量部を超えると得られる被膜の防湿性および耐水性が悪いものとなる。
【0016】
疎水性樹脂は、炭素数8以上のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル単位を35〜70質量部有するものであり、好ましくは35〜55質量部有するものである。70質量部を超えると得られる被膜の耐油性および耐水性が悪いものとなり、35質量部未満であると、得られる被膜の防湿性および耐水性が悪いものとなる。
炭素数8以上のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート等が挙げられる。特に2−エチルヘキシル(メタ)アクリレートが好ましい。
【0017】
疎水性樹脂は、カルボキシル基を1個有するアクリル酸以外の単量体単位を0.1〜15質量部有するものであり、好ましくは0.1〜10質量部、より好ましくは1〜7質量部有するものである。0.1質量部未満では得られる被膜の防湿性が悪いものとなり、15質量部を超えると得られる被膜の耐水性が悪いものとなる。
カルボキシル基を1個有するアクリル酸以外の単量体としては、メタクリル酸、カプロラクトン変性アクリル酸、コハク酸変性ヒロドキシエチルアクリレート等が挙げられる。メタクリル酸は、得られる被膜の防湿性および耐水性を特に優れたものにするため、好ましい単量体である。
【0018】
疎水性樹脂は、上記単量体と共重合可能なその他のビニル単量体単位を30質量部以下有するものであってもよい。その他のビニル単量体単位の割合は20質量部以下であることが好ましく、10質量部以下であることがより好ましく、5質量部以下であることがさらに好ましい。30質量部を超えると得られる被膜の防湿性および耐水性が悪いものとなる。その他の単量体が併用される場合、その種類や使用割合を選択することにより、疎水性樹脂の物性を調整することができる。
【0019】
疎水性樹脂は、ガラス転移温度が30〜−30℃の範囲にあるものが好ましく、20〜−20℃の範囲にあるものがより好ましく、10〜−20℃の範囲にあるものがさらに好ましい。ガラス転移温度が30℃を超えると得られる被膜の緻密性が低下し、防湿性が悪いものとなる場合がある。また、−30度未満の場合にも、防湿性が悪いものとなりやすいほか、被膜にべとつきが生じ耐汚染性が悪いものとなりやすい。尚、成膜に影響しない範囲で、ガラス転移温度30℃以上の疎水性樹脂が混合されていたり、多段重合により疎水性樹脂成分の一部がガラス転移温度30℃以上の組成になっていても構わない。
【0020】
疎水性樹脂は、通常水性媒体に分散されたものとして提供される。水性媒体に分散された疎水性樹脂の平均粒子径は200nm以下であり、好ましくは150nm以下であり、より好ましくは130nm以下である。平均粒子径の下限は20nmが好ましい。平均粒子径が200nmより大きいと、良好な被膜が形成されず、耐油性、耐湿性および耐水性の優れた被膜とならない。
【0021】
疎水性樹脂は、水性媒体にアニオン型乳化剤若しくはノニオン型乳化剤で分散されていることが好ましい。特にアニオン型乳化剤が好ましい。乳化剤としては一般の低分子乳化剤の他に、高分子乳化剤、反応性乳化剤でもよく、自己乳化型樹脂でも構わない。
【0022】
水性媒体は、水そのものであってもよいし、水および水と混和する溶剤を主成分とする混合溶剤であってもよい。混合溶剤の場合は水の割合が混合溶剤全体の30質量%以上であることが好ましく、50質量%以上であることがより好ましく、70質量%以上であることがさらに好ましい。水と混和する溶剤としては、プロトン供与性を有する溶剤が好ましく、具体例としてはアセトン、メタノール、エタノール、プロパノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールモノアセテート、エチレングリコールジアセテート、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどが挙げられる。混合溶剤は、水およびプロトン供与性を有する溶剤以外の溶剤を含むものであってもよい。
疎水性樹脂と水性媒体の割合に特に制限はないが、疎水性樹脂100質量部を基準とした水性媒体の割合が40〜2000質量部であり、50〜1000質量部が好ましく、60〜500質量部がより好ましい。
【0023】
耐油防湿性被膜製造用エマルション組成物が含む疎水性樹脂と水膨潤性合成無機層状珪酸塩の割合は、疎水性樹脂100質量部を基準とした水膨潤性合成無機層状珪酸塩の割合が0.5〜50質量部であり、1〜30質量部が好ましく、2〜20質量部がより好ましい。0.5質量部未満であると得られる被膜の耐油性および防湿性が不充分となる場合がある。50質量部を超えると得られる被膜の防湿性および耐水性が不充分となる場合がある。
【0024】
耐油防湿性被膜製造用エマルション組成物は、水溶性高分子を含有するものであってもよい。このような組成物から得られる被膜は、防湿性が特に優れたものとなるために好ましい。水溶性高分子とは20℃における水への溶解度が1質量%以上である高分子を意味する。ポリビニルアルコールは水溶性高分子として好ましいものである。
ポリビニルアルコールとは、酢酸ビニル重合体の酢酸エステル部分を加水分解(けん化)して得られるものであり、正確にはビニルアルコールと酢酸ビニルの共重合体となったものである。ここで、けん化の割合はモル百分率で70%以上が好ましく、85%以上のものがさらに好ましい。また、このような範囲の鹸化度の共重合体に対しカルボン酸変性、カチオン変性を行い、変性ポリビニルアルコールとしたものも使用することができる。水溶性高分子の平均分子量としては3000〜500000が好ましく、特に3000〜50000が好ましい。平均分子量が500000を越えると防湿性が低下する場合がある。
【0025】
耐油防湿性被膜製造用エマルション組成物が含む水溶性高分子の割合は、疎水性樹脂100質量部を基準とした水溶性高分子の割合が好ましくは0.01〜30質量部、より好ましくは0.1〜10質量部である。水溶性高分子の割合が30質量部を越えると耐水性が低下するため好ましくない。0.01質量部未満では防湿性を向上させる効果が充分に発揮されない場合がある。
【0026】
耐油防湿性被膜製造用エマルション組成物は、カルボキシル基との反応性を有する水溶性の架橋剤を含有するものであってもよい。このような組成物から得られる被膜は、耐油性、防湿性および耐水性が特に優れたものとなるために好ましい。架橋剤としてはオキサゾリン基を有する化合物、ヒドラジンなどが挙げられる。オキサゾリン基を有する水溶性の重合体は特に好ましいものである。オキサゾリン基を有する水溶性の重合体は、水溶性の架橋剤であるとともに上記水溶性高分子としても機能する。
【0027】
耐油防湿性被膜製造用エマルション組成物が含む水溶性の架橋剤の割合は、疎水性樹脂100質量部を基準とした水溶性の架橋剤の割合が好ましくは0.01〜30質量部、より好ましくは0.1〜10質量部である。水溶性の架橋剤の割合が30質量部を越えると組成物の被膜形成性が低下し、良好な被膜が得られにくい場合がある。0.01質量部未満では耐油性、防湿性および耐水性を向上させる効果が充分に発揮されない場合がある。
【0028】
耐油防湿性被膜製造用エマルション組成物は、諸物性を改善するため必要に応じて、充填剤、難燃剤、顔料、増粘剤、分散剤、湿潤剤、消泡剤、老化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、防腐剤等の添加剤が添加されたものであってもよい。
【0029】
これら添加剤の使用割合としては、疎水性樹脂100質量部を基準として、難燃剤および/または充填剤の合計量が50質量部以下、紫外線吸収剤、光安定剤および/または防腐剤の合計量が10質量部以下であることが好ましい。難燃剤、充填剤があわせて50質量部を超えると防湿性が損なわれる場合がある。
【0030】
耐油防湿性被膜製造用エマルション組成物は、スプレー塗布、ローラー塗布、ブラシ塗布、刷毛塗りなどの公知の方法により被塗物である物品に塗布することができる。組成物は塗布装置および塗布条件に応じて水等で希釈することができる。
【0031】
物品に塗布された塗膜は、乾燥されて耐油防湿性被膜を形成する。乾燥は自然乾燥であってもよいし、加熱乾燥であってもよい。このようにして耐油防湿性被膜を有する物品が得られる。
【0032】
上記物品すなわち耐油防湿性被膜が形成される基材としては、例えば木質材(例えば、単板、合板、パーティクルボード等)、プラスチック(例えば熱可塑性プラスチック、熱硬化性プラスチック、強化プラスチック等)、ゴム(例えば天然ゴム、合成ゴム、熱可塑性エラストマー等)、フォーム(例えば、非架橋アクリル樹脂、オレフィン樹脂、ABS樹脂等のスチレン樹脂、塩化ビニル樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、尿素樹脂、フェノール樹脂等)、繊維質材(例えば織物、編物、紙等)、皮革(例えば、天然皮革、合成皮革等)、石膏ボード、セメントボード、壁紙等を、適宜選択することができる。
【実施例】
【0033】
(製造例1)(水膨潤性合成無機層状珪酸塩の水分散液Aの調製)
水膨潤性合成無機層状珪酸塩として合成フッ素雲母(平均粒子径10μm、イオン交換当量45meq/100g)10質量部およびイオン交換水90質量部を混合した。混合液を80℃に加温後、ホモジナイザーで1時間攪拌し、水膨潤性合成無機層状珪酸塩の水分散液Aを得た。
【0034】
(製造例2)(水膨潤性合成無機層状珪酸塩の水分散液Bの調製)
水膨潤性合成無機層状珪酸塩として合成フッ素ヘクトライト(平均粒子径12μm、イオン交換当量75meq/100g)5質量部およびイオン交換水95質量部を混合した。混合液を80℃に加温後、ホモジナイザーで1時間攪拌し、水膨潤性合成無機層状珪酸塩の水分散液Bを得た。
【0035】
(製造例3)(比較用珪酸塩の水分散液Cの調製)
比較用珪酸塩としてモンモリロナイト(平均粒子径1μm、イオン交換当量100meq/100g)2質量部およびイオン交換水98質量部を混合した。混合液を80℃に加温後、ホモジナイザーで1時間攪拌し、比較用珪酸塩の水分散液Cを得た。
【0036】
(製造例4)(疎水性樹脂の水性分散体Dの製造)
攪拌機、還流冷却器、温度計、窒素導入管および滴下ロートを備えた容量3リットルのガラス製4ツ口フラスコにイオン交換水100質量部とラウリルスルホン酸ナトリウム0.7質量部を仕込んだ。一方、イオン交換水43質量部、メタクリル酸メチル50質量部、2−エチルヘキシルアクリレート45質量部、メタクリル酸5質量部、ラウリルスルホン酸ナトリウム0.3質量部をホモジナイザーで混合乳化した単量体混合液を別途調製し、単量体混合液の20%をフラスコに投入した。さらに2.5%過硫酸アンモニウム水溶液4質量部を加えた後、フラスコ内を窒素置換し、80℃に昇温して重合反応をおこなった。30分後、残りの単量体混合液と2.5%過硫酸アンモニウム水溶液4質量部を別々に上記フラスコ中へ3時間かけて滴下させ、滴下が終了した後82℃において2.5時間反応させて重合を終了した。重合反応液が冷却されてから、10%アンモニア水を添加することによりpHを9に調整し、ガラス転移温度0℃、固形分40%、粘度500mPa・s、平均粒子径100nmである疎水性樹脂の水性分散体Dを得た。
【0037】
(製造例5)(疎水性樹脂の水性分散体Eの製造)
攪拌機、還流冷却器、温度計、窒素導入管および滴下ロートを備えた容量3リットルのガラス製4ツ口フラスコにイオン交換水100質量部とラウリルスルホン酸ナトリウム0.7質量部を仕込んだ。一方、イオン交換水43質量部、メタクリル酸メチル40質量部、2−エチルヘキシルアクリレート55質量部、メタクリル酸5質量部、ラウリルスルホン酸ナトリウム0.3質量部をホモジナイザーで混合乳化した単量体混合液を別途調製し、単量体混合液の20%をフラスコに投入した。さらに2.5%過硫酸アンモニウム水溶液4質量部を加えた後、フラスコ内を窒素置換し、80℃に昇温して重合反応をおこなった。30分後、残りの単量体混合液と2.5%過硫酸アンモニウム水溶液4質量部を別々に上記フラスコ中へ3時間かけて滴下させ、滴下が終了した後82℃において2.5時間反応させて重合を終了した。重合反応液が冷却されてから、10%アンモニア水を添加することによりpHを9に調整し、ガラス転移温度−16℃、固形分40%、粘度750mPa・s、平均粒子径120nmである疎水性樹脂の水性分散体Eを得た。
【0038】
(製造例6)(比較用樹脂の水性分散体Fの製造)
攪拌機、還流冷却器、温度計、窒素導入管および滴下ロートを備えた容量3リットルのガラス製4ツ口フラスコにイオン交換水100質量部とラウリルスルホン酸ナトリウム0.7質量部を仕込んだ。一方、イオン交換水43質量部、メタクリル酸メチル40質量部、ブチルアクリレート55質量部、メタクリル酸5質量部、ラウリルスルホン酸ナトリウム0.3質量部をホモジナイザーで混合乳化した単量体混合液を別途調製し、単量体混合液の20%をフラスコに投入した。さらに2.5%過硫酸アンモニウム水溶液4質量部を加えた後、フラスコ内を窒素置換し、80℃に昇温して重合反応をおこなった。30分後、残りの単量体混合液と2.5%過硫酸アンモニウム水溶液4質量部を別々に上記フラスコ中へ3時間かけて滴下させ、滴下が終了した後82℃において2.5時間反応させて重合を終了した。重合反応液が冷却されてから、10%アンモニア水を添加することによりpHを9に調整し、ガラス転移温度−2℃、固形分40%、粘度450mPa・s、平均粒子径115nmである比較用樹脂の水性分散体Fを得た。
【0039】
(製造例7)(比較用樹脂の水性分散体Gの製造)
攪拌機、還流冷却器、温度計、窒素導入管および滴下ロートを備えた容量3リットルのガラス製4ツ口フラスコにイオン交換水100質量部とラウリルスルホン酸ナトリウム0.7質量部を仕込んだ。一方、イオン交換水43質量部、スチレン50質量部、2−エチルヘキシルアクリレート45質量部、メタクリル酸5質量部、ニューコール293(日本乳化剤製アニオン乳化剤)4質量部、ニューコール707SF(日本乳化剤製アニオン乳化剤)0.8質量部をホモジナイザーで混合乳化した単量体混合液を別途調製した。2.5%過硫酸アンモニウム水溶液4質量部を加えた後、80℃に昇温した後、単量体混合液と2.5%過硫酸アンモニウム水溶液4質量部を別々に上記フラスコ中へ3時間かけて滴下させ、さらに80℃で2.5時間反応させて重合を終了した。重合反応液が冷却されてから、10%アンモニア水を添加することによりpHを9に調整し、ガラス転移温度−1℃、固形分40%、粘度10mPa・s、平均粒子径720nmである比較用樹脂の水性分散体Gを得た。
【0040】
(製造例8)(比較用樹脂の水性分散体Hの製造)
攪拌機、還流冷却器、温度計、窒素導入管および滴下ロートを備えた容量3リットルのガラス製4ツ口フラスコにイオン交換水100質量部とラウリルスルホン酸ナトリウム0.7質量部を仕込んだ。一方、イオン交換水43質量部、メタクリル酸メチル53質量部、2−エチルヘキシルアクリレート45質量部、アクリル酸2質量部、ニューコール293(日本乳化剤製アニオン乳化剤)4質量部、ニューコール707SF(日本乳化剤製アニオン乳化剤)0.8質量部をホモジナイザーで混合乳化した単量体混合液を別途調製した。2.5%過硫酸アンモニウム水溶液4質量部を加えた後、80℃に昇温した後、単量体混合液と2.5%過硫酸アンモニウム水溶液4質量部を別々に上記フラスコ中へ3時間かけて滴下させ、さらに80℃で2.5時間反応させて重合を終了した。重合反応液が冷却されてから、10%アンモニア水を添加することによりpHを9に調整し、比較用樹脂の水性分散体Hを得た。
【0041】
表1に示す原料からなるエマルション組成物を紙基材またはプラスチック基材に塗布し、乾燥させて、基材上に被膜が形成された試験片を作成した。得られた試験片について、耐油性、耐水性および防湿性を評価した。評価結果を表1に示した。表1における原料の配合量は固形分の質量部を意味する。表1に記載された原料のうち架橋剤および水溶性高分子は以下のものである。
エポクロスWS500:日本触媒株式会社製オキサゾリン基含有水溶性重合体
オキサゾリン基当量 220g・solid/eq
PVA102:株式会社クラレ製ポリビニルアルコール ポバール102
ケン化度 98.5モル%、 重合度 200
【0042】
(1)耐油性
表1の組成物を乾燥後の被膜として15g/m2の厚みとなるように上質紙に塗工し、130℃で1分間乾燥させて試験片を得た。TAPPI UM−557法(キット法)により塗工面を測定した評価結果を表1に示した。12級以上の測定は最高16級とする改定法により測定した。数値が大きいほど耐油性が良好であることを意味する。
【0043】
(2)耐水性(耐水白化性)
表1の組成物を乾燥後の被膜として15g/m2の厚みとなるように、厚さ50μmのポリエステルフィルムに塗工し、130℃で1分間乾燥させて試験片を得た。得られた試験片を60℃の温水に24時間浸漬後取出し、湿潤状態での白化の程度を次の基準により目視にて評価した。
◎:乾燥状態(温水浸漬前)と変わらなかった。
○:透明感のある若干青みがかった状態に変化した。
△:曇りを生じているが、透明感はあった。
×:白化しており、透明感もなかった。
【0044】
(3)防湿性(透湿度(単位:g/m2・24hr))
上記耐油性試験に用いたものと同一の試験片について、JIS Z0208(カップ法)B法で被膜塗工面を外側にして透湿度を測定した。透湿度の値としては50g/m2・24hr以下であれば実用性があると判断される。
【0045】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明のエマルション組成物を使用することにより耐油性、耐湿性および耐水性が優れた被膜が形成された。また、該被膜を有する室内壁や内装建材は耐油性、耐湿性および耐水性が優れ有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
構成単位としてメタクリル酸メチル単位30〜65質量部、炭素数8以上のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル単位35〜70質量部、カルボキシル基を1個有するアクリル酸以外の単量体単位0.1〜15質量部およびその他の単量体単位0〜30質量部を有し、平均粒子径が200nm以下である疎水性樹脂および平均粒子径が3〜60μmである水膨潤性合成無機層状珪酸塩が水性媒体に分散された、耐油防湿性被膜製造用エマルション組成物。
【請求項2】
疎水性樹脂100質量部を基準とする水膨潤性合成無機層状珪酸塩の割合が0.5〜50質量部である請求項1に記載の耐油防湿性被膜製造用エマルション組成物。
【請求項3】
水膨潤性合成無機層状珪酸塩は、水膨潤性合成フッ素雲母または水膨潤性合成フッ素ヘクトライトである請求項1に記載の耐油防湿性被膜製造用エマルション組成物。
【請求項4】
カルボキシル基との反応性を有する水溶性の架橋剤を含有し、疎水性樹脂100質量部を基準とする該架橋剤の割合が0.01〜30質量部である請求項1に記載の耐油防湿性被膜製造用エマルション組成物。
【請求項5】
水溶性高分子を含有し、疎水性樹脂100質量部を基準とする該水溶性高分子の割合が0.01〜30質量部である請求項1に記載の耐油防湿性被膜製造用エマルション組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載のエマルション組成物を物品の表面に塗布し、乾燥させることを特徴とする耐油防湿性被膜を有する物品の製造方法。

【公開番号】特開2006−328235(P2006−328235A)
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−154309(P2005−154309)
【出願日】平成17年5月26日(2005.5.26)
【出願人】(000003034)東亞合成株式会社 (548)
【Fターム(参考)】