説明

耐湿性脱酸素剤

【課題】耐湿性脱酸素剤の提供。
【解決手段】鉄粉100重量部、ハロゲン化金属0.01〜20重量部及び撥水剤0.01〜5重量部からなる脱酸素剤組成物を、無機フィラーを配合することなく通気性包装材料で包装する。
【効果】高湿度雰囲気で使用されても酸素吸収性能を維持する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は耐湿性を有する脱酸素剤に関する。詳しくは見かけ容積あたりの酸素吸収能力が大きく、高湿度下においても長期間にわたり酸素吸収性能を維持できる改良された脱酸素剤組成物、脱酸素剤包装体及び脱酸素方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鉄粉の酸化反応を利用した脱酸素剤は、食品などの物品と共にガスバリア性容器に密封収納し容器内の酸素を除去することで、食品などの物品の品質や鮮度を保持するために既に広く利用されている。この市販の脱酸素剤は、水分共存下における鉄粉と酸素との反応を利用したものであり、鉄粉の酸化反応促進のために、通常、塩化ナトリウムや塩化カルシウムなどのハロゲン化金属及び酸素の吸収速度・量の増加および取り扱いの面から無機フィラーが添加された脱酸素剤が特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特公昭54−476号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来、鉄粉とハロゲン化金属及び無機フィラーからなる脱酸素剤を水分含有量が多く水分活性の高い食品に適用した際に、食品中の水分が脱酸素剤包装体中に移行して脱酸素剤表面が水で覆われることで脱酸素反応が停止する問題点があった。この問題を解消するために、シリカ又はゼオライトなどからなる無機フィラーを多量に配合して水分を分散させることで脱酸素能力を保持させる方法が行われている。しかし、無機フィラーを添加することにより能力保持性は改善されるが、酸素吸収量当たりの脱酸素剤組成物の見かけ使用容量が大きくなり、脱酸素剤包装体とした場合の包装材料の寸法が大きくなり、コストアップになるといった問題点があった。
【0005】
本発明は従来技術における脱酸素剤の上記課題を解決し、脱酸素剤組成物の単位体積あたりの酸素吸収能力が高く、高湿度雰囲気下においても長期間にわたり酸素吸収性能を維持できる脱酸素剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記問題に鑑み鋭意研究を重ねた結果、撥水剤を添加した脱酸素剤組成物を用いることで高湿度下で使用した場合でも、脱酸素剤包装体中に侵入した水分が脱酸素剤組成物上で水滴状となり脱酸素剤自体を覆うことなく長期間にわたり脱酸素能力を維持できることを見出し、本発明に到達するに至った。
【0007】
本発明は、鉄粉100重量部、ハロゲン化金属0.01〜20重量部及び撥水剤0.01〜5重量部を添加した脱酸素剤組成物に関する。撥水剤としては、金属石鹸が好ましく、金属石鹸としては脂肪酸のアルカリ金属塩及び脂肪酸のアルカリ土類金属塩が好ましく、特に脂肪酸のアルカリ土類金属塩が好ましい。中でもステアリン酸のアルカリ金属塩及びアルカリ土類金属塩が好ましく、ステアリン酸のアルカリ土類金属塩がより好ましい。
また、本発明は、前記脱酸素剤組成物を、無機フィラーを配合することなく通気性包装材料で包装してなる高湿度用脱酸素剤包装体、及び、この脱酸素剤包装体を使用して、70〜100%RHの高湿度下のガスバリア性容器内空間を脱酸素する方法に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の脱酸素剤組成物は、無機フィラーを添加しなくとも高湿度下における酸素吸収能力を維持することができるので、70〜100%RH、特に飽和又は飽和に近い高湿度雰囲気で使用されても酸素吸収性能を維持する。また、無機フィラーを配合しないので、脱酸素剤組成物の酸素吸収量当たりの見かけ使用容量が大きくなることもない。
【0009】
本発明の脱酸素剤包装体は、コンパクトにでき、高湿度下でも長期間にわたり酸素吸収性能を発揮し、また医薬品、食品などを長期間に亘って保存できる。高湿度状態での酸素吸収性能は無機フィラーを配合しなくても発揮することができる。無機フィラーの配合を省略することにより、同じ酸素吸収量を発揮する脱酸素剤組成物の見かけ容積が従来の脱酸素剤組成物(無機フィラーを配合)の見かけ容積より減少し、その結果、脱酸素剤包装体とした時の包装材料の使用量を削減することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明の方法について詳細に説明する。
脱酸素剤の主剤となる鉄粉は、酸化されていない鉄が表面に露出したものであれば特に限定されるものではなく、還元鉄粉、電解鉄粉、噴霧鉄粉などが好適に用いられる。その他、鋳鉄などの粉砕物、切削品などを用いることができる。鉄粉は、酸素との接触を良好にするために通常平均粒径1mm以下、好ましくは500μm以下、より好ましくは100μm以下の鉄粉が用いられる。
ハロゲン化金属は、鉄粉の酸化を助ける酸化促進剤であり、アルカリ金属又はアルカリ土類金属のハロゲン化物が用いられ、塩化ナトリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、臭化ナトリウム、臭化カルシウム等が例示される。
鉄粉に対するハロゲン化金属の使用量は鉄粉100重量部に対し、0.01〜20重量部の範囲で使用される。
【0011】
一般に高湿度下で脱酸素剤包装体を用いた場合、脱酸素剤包装体の通気性包装材料(包材)を通し、脱酸素剤包装体内への水蒸気透過による水分移行が起こり、鉄粉の表面が水分で覆われ酸素吸収能力の低下が起こる。しかし、本発明では、撥水剤を添加することで移行してきた水分が鉄粉表面から弾かれ、水滴状となることなどにより、水分の脱酸素剤表面への広がりが抑えられ脱酸素性能の低下を防ぐことが可能となる。
【0012】
脱酸素能力保持性を向上させるために加える撥水剤としては、撥水機能を保有する物質であり、特に金属石鹸が好ましい。
【0013】
金属石鹸としては、脂肪酸、ロジン酸、ナフテン酸のアルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩が好ましく、特に脂肪酸のアルカリ土類金属塩が好ましい。金属石鹸に用いる脂肪酸としては、酪酸、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸及びステアリン酸が例示される。中でもステアリン酸バリウム、ステアリン酸カリウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸マグネシウムなどのステアリン酸アルカリ金属塩及びステアリン酸アルカリ土類金属塩が好ましい。これらの中で特にステアリン酸カルシウム及びステアリン酸マグネシウムなどのステアリン酸アルカリ土類金属塩は、添加した際の能力保持性能向上効果が大きく、安全性も高く好ましい。また、これらは単体で用いても良いし、複合して用いても良い。
【0014】
撥水剤は、用いる撥水剤、適用される期間、適用される保存物品の保有する水分量により適宜選ばれるが、少なすぎると効果が小さく、鉄粉100重量部に対して0.01〜5重量部、好ましくは0.05〜1重量部添加される。添加量は、添加量が多すぎると鉄粉が脱酸素に必要な水分を有効に利用することが出来なくなり酸素吸収速度が低下するとともにコストアップとなり好ましくない。
【0015】
以上のように、本発明の脱酸素剤組成物は、主剤の鉄粉と酸化促進剤であるハロゲン化金属及び撥水剤からなる。鉄粉、ハロゲン化金属及び撥水剤は、組成物として通気性包装材料により包装される。例えば、鉄粉、ハロゲン化金属、撥水剤を機械的に混合する方法、鉄粉にハロゲン化金属を付着せしめた後に撥水剤を混合する方法、鉄粉にハロゲン化金属と撥水剤を付着せしめる方法等、結果的に鉄粉、ハロゲン化金属及び撥水剤が充分に混合される方法により製造できる。
【0016】
本発明の脱酸素剤組成物には上記の鉄粉、ハロゲン化金属の他に必要に応じて添加剤を加える事ができる。例えば、臭気防止、粉塵抑制、対マイクロ波耐性、水素発生抑制などを目的とし、シリカ、アルミナ、活性炭、重曹などを適宜混合する事ができる。
【0017】
但し、これらの添加剤を添加混合した場合は、酸素吸収可能量当たりの脱酸素剤包装体のサイズが大きくなり、脱酸素剤包装体を構成する通気性包装材料の使用量が増大することになるので、添加量は必要最小限とする。添加剤の総添加量は、鉄粉とハロゲン化金属の合計量100重量部に対し、0〜35重量部が好ましく、0〜25重量部の添加量がより好ましい。
【0018】
高湿度条件で使用する場合、従来の脱酸素剤組成物には、酸素吸収性能の維持のために、シリカ又はアルミナなどの無機フィラーが添加されている。しかし、本発明においては、高湿度条件で使用する場合であっても、酸素吸収性能が維持されるので、シリカ又はアルミナなどの無機フィラーの添加を省略することができ、酸素吸収量当たりの脱酸素剤組成物の見かけ容量を小さくすることができる。
【0019】
本発明に用いられる脱酸素剤組成物は、通気性包装材料を一部又は全面に使用して充填包装し、脱酸素剤包装体として使用することができる。その際に用いられる通気性包装材料としては、酸素吸収効果を十分に得るためにできるだけ通気性の高い包装材料が望ましい。たとえば、和紙、洋紙、レーヨン紙などの紙類、パルプ、セルロース、合成樹脂からの繊維などの各種繊維類を用いた不織布、プラスチックフィルムまたはその穿孔物など、あるいは炭酸カルシウムなどを添加した後延伸したマイクロポーラスフィルムなど、さらにはこれらから選ばれる2種以上を積層したものなどを挙げることができる。通気性包装材料としては、ポリエチレンからなる不織布、あるいは不織布とマイクロポーラスフィルムとの積層物が好ましい。
【0020】
本発明の脱酸素剤組成物は、無機フィラーを配合することなく通気性包装材料で包装して高湿度用脱酸素剤包装体とすることができる。かかる脱酸素剤包装体は、70〜100%RH、特に飽和又は飽和に近い高湿度下にあるガスバリア性容器内空間を良好に脱酸素するために使用することができる。
【0021】
本発明の脱酸素剤組成物または本発明の脱酸素剤組成物を通気性包装材料により充填包装した脱酸素剤包装体を、保存物品とともにガスバリア性容器に密封して使用することができる。用いるガスバリア性容器の形状、材質は、例えば、金属缶、ガラス瓶、プラスティック容器、袋など、密封可能で実質的にガスバリア性を有していれば制限されない。又、ポリエチレンテレフタレート/アルミ蒸着/ポリエチレン、延伸ポリプロピレン/ポリビニルアルコール/ポリエチレン、ポリ塩化ビニリデンコート延伸ナイロン/ポリエチレンなどの多層シートやフィルム、ナイロン系の共押出し多層シートやフィルムに例示され
る、酸素透過度0.05〜20ml/m2・24hr・atm(25℃、50%RH)の積層体から成る包装容器、袋が簡便に使用できる。
【0022】
本発明の脱酸素剤組成物は、70〜100%RHの高湿度下でも好適に脱酸素する。特に、本発明の脱酸素剤組成物は、耐湿性の要求される用途に好適に使用される。例えば、餅、米飯、ハム、総菜などの食品の長期保存に好適である。
【実施例】
【0023】
以下に実施例を挙げ、本発明をより具体的に説明する。但し本発明はこれら実施例に制限されるものではない。
【0024】
実施例1
塩化カルシウム0.5gを水7mlに溶解し、この水溶液を鉄粉(平均粒径50μm)100gに混合しながら加え乾燥させることによって塩化カルシウムが付着した鉄粉を得、これにステアリン酸カルシウム粉末(堺化学工業(株)製、粒径75μm以下の粒子の占有率99wt%)を0.2g添加し十分に混合することで脱酸素剤組成物を調製した。得られた脱酸素剤組成物1.80gを、片面にPET/LLDPE/EVAからなる非通気性積層フィルム、片面にポリエチレン製不織布からなる通気性積層フィルムを用いた通気面が長辺40mm×短辺37mmの長方形小袋に四方シール充填して脱酸素剤包装体とした。
【0025】
この脱酸素剤包装体を用いて、高湿度環境で脱酸素剤への水分移行処理を行い、その後の酸素吸収能力の保持を評価することにより、脱酸素剤の能力保持性を評価した。
水10mlを含浸した加湿用の含水綿、前記脱酸素剤包装体を130mm×140mmのガスバリア袋(ポリ塩化ビニリデンコート延伸ナイロン/ポリエチレンのラミネートフィルム)に入れ、両者を樹脂製のネットで隔離し、5mlの空気とともに密封した。この密封した袋(以下、水分移行処理袋)を35℃の恒温槽中に5日、7日または9日間保管し、飽和湿度条件下で脱酸素剤に水分移行を起こさせた。密封した水分移行処理袋を開封し、この水分移行処理を行った脱酸素剤包装体を取り出し、酸素濃度2%に調整した酸素と窒素との混合ガス500mlと共に別のガスバリア袋に密封し、5℃の恒温槽中に放置し、24時間後のこのガスバリア袋(以下、密封ガスバリア袋)内の酸素濃度を測定し飽和湿度下での水分移行処理前後での酸素吸収能力保持性を評価した。結果を表1に示す。
本発明の脱酸素剤は、高湿度雰囲気に5日間以上放置した後も、いずれも24時間以内の完全な脱酸素(密封ガスバリア袋内酸素濃度0.01%以下)を達成し、酸素吸収能力を保持していることが確認された。
また、調製した脱酸素剤組成物表面に少量の水を滴下すると、滴下した水が水滴になることが観察された。
【0026】
実施例2〜5
実施例1で使用したステアリン酸カルシウムをそれぞれステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸バリウム、パルミチン酸カリウム、ラウリン酸ナトリウムに替えた以外は実施例1と同様に脱酸素剤及び脱酸素剤包装体を作製した。作製した脱酸素剤包装体を実施例1と同様の試験を行い、酸素吸収能力保持性の評価を行った。結果を表1に示す。
実施例1と同様に作製した脱酸素剤組成物の表面に少量の水を滴下すると、滴下した水は、何れも水滴となることが観察された。
【0027】
実施例6〜8
実施例1で使用した塩化カルシウムを同量の臭化カルシウムに替え、ステアリン酸カルシウムの添加量を0.05g、0.5g又は1.0gに替えた以外は実施例1と同様に脱酸素剤及び脱酸素剤包装体を作製した。作製した脱酸素剤包装体を実施例1と同様の試験を行い、酸素吸収能力保持性の評価を行った。結果を表1に示す。
実施例1と同様に作製した脱酸素剤組成物の表面に少量の水を滴下すると、滴下した水は、水滴となることが観察された。
【0028】
比較例1
実施例1で使用したステアリン酸カルシウムを用いなかった以外は実施例1と同様に脱酸素剤及び脱酸素剤包装体を作製した。作製した脱酸素剤包装体を実施例1と同様の試験を行い、酸素吸収能力保持性の評価を行った。結果を表1に示す。水分移行処理期間が7日以上で酸素吸収能力が低下していた。
実施例1と同様に作製した脱酸素剤組成物の表面に少量の水を滴下すると、滴下した水は、そのまま脱酸素剤組成物の内部に染みて広がっていくことが観察された。
【0029】
【表1】

【0030】
実施例9
以下の実装試験を行った。
ガスバリア袋(ポリ塩化ビニリデンコート延伸ナイロン/ポリエチレンのラミネートフィルム)220mm×330mmに入れた炊飯米1050g上に実施例1と同様にして調製した脱酸素剤包装体1包を直接載せ、密封した。この密封容器を25℃で30日間保管した後、密封容器内酸素濃度を測定したところ0.1%未満であり、炊飯米の風味は良好であった。脱酸素剤包装体を取り出し調べたところ、錆の発生は認められなかった。脱酸素剤包装体と接触していた炊飯米の部分には、外観上の異常は認められず、ロダンカリ法による試験を行ったが鉄の反応は検出されなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄粉100重量部、ハロゲン化金属0.01〜20重量部及び撥水剤0.01〜5重量部からなる脱酸素剤組成物。
【請求項2】
撥水剤が金属石鹸である請求項1記載の脱酸素剤組成物。
【請求項3】
金属石鹸が、脂肪酸のアルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩である
請求項2記載の脱酸素剤組成物。
【請求項4】
請求項1〜3何れか一項記載の脱酸素剤組成物を、無機フィラーを配合することなく通気性包装材料で包装してなる高湿度用脱酸素剤包装体。
【請求項5】
請求項4記載の脱酸素剤包装体を使用して、70〜100%RHの高湿度下のガスバリア性容器内空間を脱酸素する方法。

【公開番号】特開2012−121022(P2012−121022A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−11318(P2012−11318)
【出願日】平成24年1月23日(2012.1.23)
【分割の表示】特願2004−141275(P2004−141275)の分割
【原出願日】平成16年5月11日(2004.5.11)
【出願人】(000004466)三菱瓦斯化学株式会社 (1,281)
【Fターム(参考)】