説明

耐火スクリーン用クロス

【課題】耐火スクリーン用クロスの難燃性を向上し、クロスの目ずれを防止し、耐摩耗性を向上するとともに、可能な限り使用する有機物量を抑えて燃焼時の発ガス量を低減することに加え、樹脂被膜の亀裂によるクロス破断を防止した耐火スクリーン用クロスを提供する。
【解決手段】本発明の耐火スクリーン用クロス1は、無機質繊維クロスからなる基布(シリカ繊維クロス)2に難燃剤及び柔軟剤を含んだ樹脂を溶剤に溶かして含浸して樹脂含浸基布層3とし、樹脂含浸基布層3の両面に難燃剤及び柔軟剤を含んだ樹脂を溶剤に溶かしてコートして樹脂一次コート層4とし、樹脂一次コート層4の少なくとも1層上樹脂一次コート層4よりも難燃剤の含有量を減らした樹脂を溶剤に溶かしてコートした樹脂二次コート層5を設けたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防火シャッタ等に利用する耐熱性の耐火スクリーン用クロスに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、防火シャッタ等に利用する耐火スクリーンの材料としては、シリカ繊維クロスからなる耐火スクリーン用クロスが使用されていた。
【0003】
しかしながら、シリカ繊維クロスからなる従来の耐火スクリーン用クロスには、次のような欠点があった。
(1)シリカ繊維クロスは、ヤーン同士により多孔形成されるため通気を確実に遮断することができない。
(2)シリカ繊維クロスは、耐摩耗性に劣るため、スクリーンの巻き上げ、巻き降ろしを繰り返すことにより縫製部及びクロス自体が擦り切れることがある。
(3)シリカ繊維クロスは、クロスを構成するヤーン同士が滑って面延長方向に変形し易いことから、平行四辺形状に変形(いわゆる目ずれ)して垂れ、耐火スクリーンの側方に隙間ができる。
(4)上述の(1)〜(3)の欠点に鑑み、シリカ繊維クロスの片面にシリコーン樹脂等をナイフコータでコーティングすることが試みられたが、クロスがテンター等で縦、横の両方向に伸ばされてコートされるため、クロスの糸が伸びきった状態のまま固定される。そのため加熱された時、糸の収縮を吸収することができないため、収縮切れを起こすことがある。
(5)また、シリコーン樹脂等をコーティングしたクロスはシリコーン樹脂の融点以上の高熱に曝された場合、基材のシリカ繊維クロスに含浸したクロス内部のシリコーン樹脂が基材クロスの繊維と反応してクロスを劣化させてしまうことがある。
【0004】
上述の従来の耐火スクリーン用クロスの欠点を解消するために、例えば、特許文献1には、図3に示すように、フッ素含有樹脂、エチレン−酢酸ビニル系共重合体樹脂、シリコーン含有樹脂、パラフィン樹脂、パラフィン含有樹脂、ポリウレタン系樹脂及びアクリル系樹脂から選ばれた少なくとも1種を主成分として含む樹脂を乳化したエマルジョンをシリカ繊維クロス11に含浸固着し、この樹脂12が含浸固着されたシリカ繊維クロス11の少なくとも片面に難燃剤を含む難燃性樹脂層13を形成した耐火スクリーン用膜材10が開示されている。
また、特許文献2には、図4に示すように、所定量の二酸化ケイ素と酸化アルミニウムを含有したシリカ繊維を織成してシリカ繊維クロスとし、該シリカ繊維クロスに所定の熱処理を施した基布21の少なくとも片面に難燃剤を添加した高分子樹脂のエマルジョンを塗布して、この基布21の少なくとも片面に不通気性難燃高分子層22を形成した耐火スクリーン用クロス20が開示されている。
【0005】
【特許文献1】特開2002−292780号公報
【特許文献2】特開2003−62100号公報
【特許文献3】特開2005−194639号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1に開示された耐火スクリーン用クロスは、シリカ繊維クロス11に含浸した樹脂12に難燃剤が添加されていないため、表面層の難燃性樹脂層が燃焼してしまうと、含浸樹脂が燃え易く、耐火スクリーン用クロスとしての難燃性が低いという問題があった。また、特許文献1に記載のように、樹脂エマルジョンをシリカ繊維クロスに含浸した場合、乾燥時にシリカ繊維クロスを構成するヤーンとヤーンの隙間に侵入していた樹脂エマルジョンがヤーンの周囲に沿って乾燥しようとする現象があり、結果的にヤーンとヤーンの隙間に樹脂が付着されていない空間が形成されてしまい、樹脂が付着されなかった部分の耐摩耗性や耐火スクリーン縫製時のミシン針の滑り性に劣るという問題があった。
また、特許文献2に開示されているように、シリカ繊維クロスの両面に難燃剤を配合した樹脂のエマルジョンを塗布した場合、やはりシリカ繊維クロスを構成するヤーンとヤーンの隙間まで樹脂エマルジョンが浸透して付着せず、クロスの目ずれ防止効果が不十分であり、シリカ繊維クロスがスクリーン縫製時に摩耗により擦り切れたり、スクリーンの昇降繰返時に縫製部が擦り切れたりするという問題があった。
【0007】
そこで、出願人は、上述の問題点を改善し、耐火スクリーン用クロスの難燃性を向上し、クロスの目ずれを防止し、耐摩耗性を向上するとともに、可能な限り使用する有機物量を抑えて燃焼時の発ガス量を低減した耐火スクリーン用クロスを提供するため、特許文献3に記載の通り、無機質繊維クロスからなる基布に平均粒径1〜30μmの難燃剤を含んだ柔軟性樹脂エマルジョンを含浸させて、基布全体に難燃剤を含んだ柔軟性樹脂を付着し、基布の少なくとも一方の表面にエマルジョンを付着して、難燃剤を含んだ柔軟性樹脂を基布の少なくとも一方の表面にコートした耐火スクリーン用クロスを提案した。
しかしながら、このような構成では、樹脂被膜強度が弱いため、樹脂被膜に無理な力がかかると亀裂が発生し、ひどい場合にはクロス自体が破断するという問題を発生した。
【0008】
そこで、本発明は、従前の問題点である耐火スクリーン用クロスの難燃性を向上し、クロスの目ずれを防止し、耐摩耗性を向上するとともに、可能な限り使用する有機物量を抑えて燃焼時の発ガス量を低減することに加え、樹脂被膜の亀裂によるクロス破断を防止した耐火スクリーン用クロスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するべく、本発明の一実施形態における耐火スクリーン用クロスは、請求項1に記載の通り、無機質繊維クロスからなる基布に難燃剤及び柔軟剤を含んだ樹脂を溶剤に溶かして含浸して樹脂含浸基布層とし、前記樹脂含浸基布層の両面に難燃剤及び柔軟剤を含んだ樹脂を溶剤に溶かしてコートして樹脂コート層を設けるとともに、前記樹脂含浸基布層側から前記樹脂コート層の外表面に向けて前記樹脂コート層内の難燃剤の含有量が勾配を持って減少するようになっていることを特徴とする。
また、本発明の別の実施形態における耐火スクリーン用クロス請求項2に記載のように、無機質繊維クロスからなる基布に難燃剤及び柔軟剤を含んだ樹脂を溶剤に溶かして含浸して樹脂含浸基布層とし、前記樹脂含浸基布層の両面に難燃剤及び柔軟剤を含んだ樹脂を溶剤に溶かしてコートして樹脂一次コート層とし、前記樹脂一次コート層の少なくとも1層上に前記樹脂一次コート層よりも難燃剤の含有量を減らした樹脂を溶剤に溶かしてコートした樹脂二次コート層を設けたことを特徴とする。
また、請求項3に記載の耐火スクリーン用クロスは、請求項2に記載の耐火スクリーン用クロスにおいて、前記樹脂含浸基布層及び前記樹脂一次コート層に占める前記難燃剤の含有量が30〜40質量%であり、前記樹脂二次コート層に占める前記難燃剤の含有量が20〜28質量%であることを特徴とする。
また、請求項4に記載の耐火スクリーン用クロスは、請求項2又は3に記載の耐火スクリーン用クロスにおいて、前記樹脂含浸基布層及び前記樹脂一次コート層の難燃剤は、無機系難燃剤40〜50質量%と有機系難燃剤60〜50質量%とからなり、前記樹脂二次コート層の難燃剤は、無機系難燃剤80〜90質量%と有機系難燃剤20〜10質量%とからなることを特徴とする。
また、請求項5に記載の耐火スクリーン用クロスは、請求項4に記載の耐火スクリーン用クロスにおいて、前記樹脂含浸基布層及び前記樹脂一次コート層の前記有機系難燃剤の含有率が、前記樹脂二次コート層の前記有機系難燃剤の含有率の2〜10倍であることを特徴とする。
また、請求項6に記載の耐火スクリーン用クロスは、請求項2乃至5のいずれかに記載の耐火スクリーン用クロスにおいて、前記樹脂含浸基布層の付着量が、40〜120g/mであることを特徴とする。
また、請求項7に記載の耐火スクリーン用クロスは、請求項2乃至6のいずれかに記載の耐火スクリーン用クロスにおいて、前記樹脂一次コート層の付着量が、10〜30g/mであることを特徴とする。
また、請求項8に記載の耐火スクリーン用クロスは、請求項2乃至7のいずれかに記載の耐火スクリーン用クロスにおいて、前記樹脂二次コート層の付着量が、10〜30g/mであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の耐火スクリーン用クロスは、無機質繊維クロスからなる基布に難燃剤及び柔軟剤を含んだ樹脂を溶剤に溶かして含浸しているため、樹脂エマルジョンに平均粒径1〜30μmの難燃剤を添加したものに比べて含浸時に樹脂の浸透性に優れ、乾燥時にヤーンとヤーンの隙間に樹脂が付着されない空間を形成することをより少なくすることができる。
この結果、「ヤーンに滑り性が付与され擦れから保護される」、「無機質繊維クロスを縫製する際に、ミシン針がスムーズに滑動し、無機質繊維の切断がなくなり、耐火スクリーン昇降繰返時に縫製部が擦り切れたりせず、耐摩耗性、耐折性に優れる」、「耐火スクリーン用クロスに張力を掛けた際にヤーン同士の擦れによる破損が少なくなるため、初期引っ張り強さも向上する」等の特許文献3に開示の発明による従前の効果を更に向上することができる。
また、樹脂含浸基布層側から樹脂コート層の外表面に向けて樹脂コート層内の難燃剤の含有量が勾配を持って減少するように、樹脂含浸基布層の両面に難燃剤及び柔軟剤を含んだ樹脂を溶剤に溶かしてコートして樹脂コート層を設けることにより、あるいは、樹脂含浸基布層の両面に難燃剤及び柔軟剤を含んだ樹脂を溶剤に溶かしてコートして樹脂一次コート層とし、該樹脂一次コート層の少なくとも1層上に樹脂一次コート層よりも難燃剤の含有量を減らした樹脂を溶剤に溶かしてコートした樹脂二次コート層を設けたことにより、樹脂一次コート層により通気を確実に遮断することができ、防火設備として十分な遮煙効果が得られるとともに、乾燥時に樹脂含浸層の空隙部に樹脂一次コート層の樹脂が浸透して表面部の樹脂が不足するのを樹脂二次コート層で補い、更に樹脂二次コート層中の難燃剤含有量を減らすことにより、難燃性を有しつつ被膜強度を高めて、樹脂被膜の亀裂を防止することができる。
また、本発明の耐火スクリーン用クロスは、無機系難燃剤と有機系難燃剤を併用して難燃剤を構成しているので、難燃剤の使用量を減らすことができる。
また、樹脂含浸基布層及び樹脂一次コート層の有機系難燃剤の含有量が、樹脂二次コート層の有機系難燃剤の含有量の2〜10倍であるため、難燃剤による樹脂被膜強度の低下を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の耐火スクリーン用クロスの好適な実施の形態を添付図面を参照しつつ詳細に説明する。図1は、本発明の耐火スクリーン用クロスの他の実施形態を示す断面図である。
本発明の耐火スクリーン用クロスは、一実施形態において、無機質繊維クロスからなる基布に難燃剤及び柔軟剤を含んだ樹脂を溶剤に溶かして含浸して樹脂含浸基布層とし、樹脂含浸基布層の両面に難燃剤及び柔軟剤を含んだ樹脂を溶剤に溶かしてコートして樹脂コート層を設けるとともに、樹脂含浸基布層側から樹脂コート層の外表面に向けて樹脂コート層内の難燃剤の含有量が勾配を持って減少するようになっていることを特徴とする。
また、本発明の耐火スクリーン用クロス1は、他の実施形態では、無機質繊維クロスからなる基布(シリカ繊維クロス)2に難燃剤及び柔軟剤を含んだ樹脂を溶剤に溶かして含浸して樹脂含浸基布層3とし、樹脂含浸基布層3の両面に難燃剤及び柔軟剤を含んだ樹脂を溶剤に溶かしてコートして樹脂一次コート層4とし、樹脂一次コート層4の少なくとも一層上(本実施形態では、図1における上面の樹脂一次コート層4上)に樹脂一次コート層4よりも難燃剤の含有量を減らした樹脂を溶剤に溶かしてコートした樹脂二次コート層5を設けたことを特徴とする。
【0012】
一実施形態における耐火スクリーン用クロスでは、樹脂コート層内の難燃剤の含有量がその厚さ方向外方に向かって減少するように構成されているが、難燃剤の含有量が異なる樹脂コート層を二層設けてなる他の実施形態の耐火スクリーン用クロスが本発明の最良の実施形態となる。すなわち、他の実施形態は一実施形態の好ましい一例である。したがって、以下では、その説明を容易にするために、二つの樹脂コート層(樹脂一次コート層及び樹脂二次コート層)が設けられている場合を代表して説明する。
なお、樹脂コート層内の難燃剤の含有量がその厚さ方向外方に向かって減少するように樹脂コート層を構成する限り、そのコート方法は限定されない。他の実施形態のように2つの樹脂コート層を設ける場合の他、例えば、順次難燃剤の含有量が少なくなっている樹脂コート層を三層以上コートしてもよく、あるいは、コート時に付着する樹脂内の難燃剤の含有量を徐々に減らしつつ、連続的に樹脂をコートしてもよい。
【0013】
基布2である無機質繊維クロスとしては、シリカ繊維クロス、ガラス繊維クロス、金属クロス等の不燃性のものを使用する。特に、Eガラス(アルカリ含有率1%以下のボロンシリケートガラス)を硫酸抽出して得られ、SiOを96%以上及びAlを0〜1%を含有するシリカ繊維のヤーンからなるクロスを用いることが好ましい。
また、クロスの厚さは、特に制限ないが、一般には0.3〜6mmのものを用いるのが好ましく、より好ましくは、0.6〜2.0mmのものを用いる。
クロスの織り方としては、平織り、綾織り、からみ織り、模沙織り、朱子織り等があるが、本発明では、特に柔軟性を考慮して、縦糸、横糸の交絡点を一定の間隔に配置した浮き糸が多い織り方の朱子織りが適している。
【0014】
基布2である無機質繊維クロスは、予め500〜1100℃の温度で熱処理されたものを使用するとよい。予め熱処理しておくことにより、火災発生時に耐火スクリーン用クロスが炎によって高温に曝された場合であっても、その収縮が抑制され、耐火スクリーン用クロスと床面との間に隙間が発生せず、十分な遮煙効果が得られるからである。ここで、熱処理温度が500℃未満の場合には、高温下での耐収縮性が不十分になり、1100℃を越える場合は、耐火スクリーン用クロス自体の引張強さが低下するという問題がある。
例えば、945℃で1時間加熱処理し、加熱収縮率が1.5%以下の無機質繊維クロスを使用するとよい。なお、熱処理時間は、熱処理温度や熱処理方法によって異なるが、高温下での収縮防止効果及び生産性を考慮すると30分〜4時間が適当である。熱処理は、例えば、テンター型高温熱処理炉、熱風循環式高温熱処理炉、間接加熱式高温熱処理炉等を用いて行う。
【0015】
本発明に用いる樹脂としては、ポリウレタン樹脂、アクリル樹脂、シリコーン樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂のいずれかからなるものを用いるとよい。
また、本発明では、このような樹脂100質量部を、難燃剤及び柔軟剤と共にMEK、DMF等の有機溶剤50〜300質量部に溶かして樹脂溶液とし、この樹脂溶液中に無機質繊維クロスからなる基布を含浸させて、基布に樹脂を付着させている。
【0016】
難燃剤としては、無機系として、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等を用いることができる。また、有機系として、アンチモン系、ハロゲン系、リン系、窒素系化合物を用いることができる。
無機系難燃剤の平均粒径は1〜30μmであるのが好ましい。この平均粒径が30μmを超えると、樹脂の粘度を適正に増粘することができない不具合を生じる可能性があり、平均粒径が1μm未満であると、樹脂を増粘しすぎて付着しにくいという不具合を生じる可能性がある。
【0017】
難燃剤の樹脂に対する配合量は、樹脂含浸基布層3及び樹脂一次コート層4に占める難燃剤の含有率が30〜40質量%であり、樹脂二次コート層5に占める難燃剤の含有率が20〜28質量%であることが好ましい。
樹脂含浸基布層3及び樹脂一次コート層4に占める難燃剤の含有率が40質量%を超えると、樹脂被膜が硬くなり柔軟性がなくなってしまい、また、この含有率が30質量%未満であると、難燃性が低下するという不具合を生じるという可能性がある。
また、樹脂二次コート層5に占める難燃剤の含有率が28質量%を超えると、樹脂被膜強度が低下して亀裂が発生する可能性があり、この含有率が20質量%未満であると、難燃性が低下するという不具合を生じる可能性がある。
【0018】
柔軟剤としては、ポリエチレングリコール等を用いることができる。
柔軟剤の樹脂に対する配合量は、樹脂含浸基布層3に占める柔軟剤の含有率が5〜15質量%であり、樹脂一次コート層4及び樹脂二次コート層5に占める柔軟剤の含有率が0.5〜1.5質量%であることが好ましい。
【0019】
難燃剤及び柔軟剤を含む樹脂の基布2への付着量は、40〜120g/mであることが好ましく、より好ましくは、その付着量は、70〜90g/mである。
この付着量が40g/m未満であると、目ずれや切断部のほつれが生じやすく、またピンホールが形成されやすいため、その遮煙性が不十分になることがあり、また、付着量が120g/mを超えると、耐火スクリーン用クロス1の重量が重くなり、風合いも硬くなりミシン縫製や施工時の取扱いが困難になることがあるからである。なお、より好ましい範囲として、付着量が70g/m未満であると、量的に少なく付着しにくくなる場合があり、付着量が90g/mを超えると、縫製時にミシン針の滑り性が不十分となる場合があるからである。
【0020】
また、本発明の耐火スクリーン用クロス1では、樹脂を付着させた基布2の両表面に、難燃剤を含有した樹脂を一次コートし、樹脂一次コート層4を形成している。この樹脂一次コート層4を設けることにより、通気を確実に遮断することができるとともに、防火設備用の耐火スクリーン用クロスとして十分な遮煙効果が得られる。
表面コートする方法としては、ナイフコート、グラビアコート、ディップコート等の従来知られた方法を用いればよい。
また、表面コートした樹脂の付着量は、10〜30g/mであることが好ましい。表面コートした樹脂の付着量が10g/m未満であると、空気の遮断性が充分ではなくかつ乾燥時に含浸層の空隙部に一次コート層樹脂が浸透して表面部の樹脂が不足するという問題があり、樹脂の付着量が30g/mを超えると、スクリーンの昇降時にスクリーンの折れの運動量が多くなりスクリーンの耐折性が悪くなるという問題が生じるからである。
【0021】
また、本発明の耐火スクリーン用クロス1では、樹脂一次コート層4の少なくとも一層上(本実施形態では、図1に示すように、基布2の上面に設けられた樹脂一次コート層4の上面)に、難燃剤を含有した樹脂を二次コートし、樹脂二次コート層5を形成している。
樹脂一次コート層4だけでは、乾燥時に含浸層の空隙部に樹脂一次コート層4の樹脂が浸透して表面部の樹脂が不足するという問題が起こりうるが、樹脂一次コート層4の表面に樹脂二次コート層5を設けることにより、その問題を解消し、更に、樹脂二次コート層5中の難燃剤の含有量を減らすことにより、難燃性を有しつつ被膜強度を高めて、樹脂被膜の亀裂を防止することができる。
表面コートする方法としては、樹脂一次コート層4の場合と同様に、ナイフコート、グラビアコート、ディップコート等の従来知られた方法を用いることができる。
また、表面コートした樹脂の付着量は、10〜30g/mであることが好ましい。表面コートした樹脂の付着量が10g/m未満であると、空気の遮断性が充分ではなくかつ乾燥時に含浸層の空隙部に一次コート層樹脂が浸透して表面部の樹脂が不足することを補う効果がなくなる可能性があり、樹脂の付着量が30g/mを超えると、スクリーンの昇降時にスクリーンの折れの運動量が多くなりスクリーンの耐折性が悪くなるという問題が生じるからである。
【0022】
樹脂含浸基布層3及び樹脂一次コート層4の難燃剤が無機系難燃剤40〜50質量%と有機系難燃剤60〜50質量%から構成され、樹脂二次コート層5の難燃剤が無機系難燃剤80〜90質量%と有機系難燃剤20〜10質量%から構成されることが好ましい。
無機系難燃剤と有機系難燃剤を併用して難燃剤を構成することにより、無機系難燃剤の使用量を減らすことができる。
樹脂含浸基布層3及び樹脂一次コート層4の無機系難燃剤が40質量%未満(有機系難燃剤60質量%超)であれば、樹脂被膜強度が低下するという問題を生じる場合がある。また、無機系難燃剤が50質量%超(有機系難燃剤50質量%未満)であれば、難燃性が低下するという問題を生じる場合がある。
樹脂二次コート層5の無機系難燃剤が80質量%未満(有機系難燃剤20質量%超)であれば、被膜強度が低下するという問題を生じる場合がある。また、無機系難燃剤が90質量%超(有機系難燃剤10質量%未満)であれば、難燃性が低下するという問題を生じるがある。
【0023】
樹脂含浸基布層3及び樹脂一次コート層4の有機系難燃剤の含有率が、柔軟性の樹脂二次コート層5の有機系難燃剤の含有率の2〜10倍であることが好ましい。樹脂含浸基布層3及び樹脂一次コート層4と樹脂二次コート層5の有機系難燃剤の含有率の比をこのような範囲とすることにより、耐火スクリーン用クロス1は、十分な難燃効果を有するとともに、十分な被膜強度を有することができる。
この含有率の比が2倍未満であれば、難燃効果が充分得られないという問題を生じる場合があり、また、この含有率の比が10倍超では、被膜強度が低下するという問題を生じるがある。
【実施例】
【0024】
以下に本発明の実施例を比較例とともに説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
図1に示すように、平均繊維径9μmのシリカ繊維からなるヤーンを朱子織りにして得た、織組織朱子7.5/3、繊維密度52・33本/cm、質量620g/m、厚さ0.65mmのシリカ繊維クロスとした。熱処理によりこのシリカ繊維クロスに収縮防止処理を施して、加熱収縮率が1.5%以下の基布2を作製した。ポリウレタン樹脂(「大日本インキ化学工業株式会社製5816EL」)100質量部とMEK(溶剤)150質量部とDMF(溶剤)100質量部に、無機系難燃剤として粒径8μmの水酸化アルミニウム30質量部と有機系難燃剤として窒素系化合物(「日産化学工業株式会社製MC640」)40質量部、柔軟剤としてポリエチレングリコール(「三洋化学株式会社製EB200」)20質量部を加えた樹脂溶液に、この基布2を含浸させ、マングルで絞り、基布2の横糸と縦糸の隙間及び糸を構成するシリカ繊維の隙間まで含めた基布2全体に難燃剤を含んだ樹脂を125g/m付着させ、樹脂含浸基布層3を得た。
次に、樹脂含浸基布層3の両表面に、ポリウレタン樹脂(「大日本インキ化学工業株式会社製5816EL」)100質量部とMEK(溶剤)35質量部とDMF(溶剤)35質量部に、無機系難燃剤として粒径8μmの水酸化アルミニウム20質量部と有機系難燃剤として窒素系化合物(「日産化学工業株式会社製MC640」)30質量部、及び紫外線吸収剤としてジフェニルアクリレート系化合物BASF社製ユピナール3039を1.75質量部を加えた樹脂溶液をナイフコート法によりコーティングして、難燃材を含む樹脂一次コート層4を10g/m付着させた。
次に、樹脂一次コート層4の一方の表面に、ポリウレタン樹脂(「大日本インキ化学工業株式会社製5816EL」)100質量部とMEK(溶剤)25質量部とDMF(溶剤)25質量部に、無機系難燃剤として粒径3μmの水酸化アルミニウム25質量部と有機系難燃剤として窒素系化合物(「日産化学工業株式会社製MC640」)5質量部、紫外線吸収剤としてジフェニルアクリレート系化合物BASF社製ユピナール3039を1.75質量部を加えた樹脂溶液をナイフコート法によりコーティングして、難燃材を含む樹脂二次コート層5を20g/m付着させた。
その後、180℃で5分間乾燥して、基布2全体に樹脂含浸基布層3、樹脂一次コート層4及び、樹脂二次コート層5を付着させた坪量785g/m、厚さ0.75mmの耐火スクリーン用クロス1を作製した。
【0025】
(比較例1)
難燃材を含む樹脂二次コート層5を付着させないこと以外は、実施例1と同様にして耐火スクリーン用クロスを作製した。
【0026】
(比較例2)
難燃材を含む樹脂二次コート層5を10g/m付着させたこと、及び樹脂二次コート層5の樹脂配合を樹脂一次コート層4の樹脂配合と同じとしたこと以外は、実施例1と同様にして耐火スクリーン用クロスを作製した。
【0027】
次に、このようにして得られた実施例1及び比較例1、2の各耐火スクリーン用クロスに対し、樹脂被膜強度、難燃性の各特性についての試験を行った。樹脂の付着方法、付着状態、難燃剤の種類等とともに、各試験の結果を表1に示す。
【0028】
なお、各特性については、次のようにして試験した。
1)樹脂被膜強度:耐火スクリーンの巻き上げ、巻おろしの際に、クロスが重なりそれが原因で樹脂被膜にクラックが入らないことを示すもので、図2に示すようなクロスの流れ方向に対して垂直な位置で、クロスの二次コート側から両手親指と人差し指の四本で菱形を形成し、該菱形を両側から中央に潰すようにする簡易試験方法である。なお、目視により亀裂の発生を確認することができなければ○、亀裂の発生を確認した場合は×と評価した。
2)難燃性:使用時に燃えないことを示すもので、UL94法の試験方法を用いる。なお、垂直保持沿面の加熱時における残炎が3秒以下であれば○、残炎が4秒を超えてしまうと×と評価した。
【0029】
【表1】

【0030】
(評価)
表1から分かるように、実施例1の耐火スクリーン用クロスでは、難燃剤及び柔軟剤を含んだ樹脂が溶剤に溶かされて基布の内部まで基布全体に付着して樹脂含浸基布層を形成したため、乾燥時に基材内部で樹脂の付着しない空間が発生することを効果的に防止することができた。また、難燃剤及び柔軟剤を含んだ樹脂が溶剤に溶かされて樹脂含浸基布層の両面に樹脂一次コート層を形成したため、乾燥時に基材内部で樹脂の付着しない空間へ樹脂を補填することができ、更に、樹脂一次コート層よりも難燃剤の含有量を減らした樹脂が溶剤に溶かされて樹脂一次コート層の少なくとも一層上(本実施例では、上部樹脂一次コート層の上面のみ)に樹脂二次コート層を形成したため、樹脂被膜強度を向上させて亀裂の発生を防止することができた。
一方、比較例1の耐火スクリーン用クロスでは、樹脂二次コート層が設けられていないため、難燃性は優れるが、樹脂一次コート層だけでは乾燥時に樹脂含浸基布層の空隙部に樹脂一次コート層の樹脂が浸透して表面部の樹脂が不足することを樹脂二次コート層の付着により補うことができず、これにより被膜強度を弱めてしまい、樹脂被膜の亀裂を防止することができなかった。
また、比較例2の耐火スクリーン用クロスでは、樹脂二次コート層が設けられているため、樹脂二次コート層の難燃剤が多いため難燃性は優れるが、難燃剤の含有率が多いため樹脂被膜強度を弱めてしまい、樹脂被膜の亀裂を防止することができなかった。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明の耐火スクリーン用クロスは、難燃性及び耐摩耗性を向上し、クロスの目ずれを防止することができる点に加え、樹脂被膜の亀裂によるクロス破断を防止することができる点で、産業上の利用可能性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の耐火スクリーン用クロスの一実施形態を示す断面図
【図2】樹脂被膜強度の試験方法を示す斜視図
【図3】従来例の耐火スクリーン用クロスを示す断面図
【図4】他の従来例の耐火スクリーン用クロスを示す断面図
【符号の説明】
【0033】
1 耐火スクリーン用クロス
2 基布(シリカ繊維クロス)
3 樹脂含浸基布層
4 樹脂一次コート層
5 樹脂二次コート層
10 耐火スクリーン用膜材
11 シリカ繊維クロス
12 樹脂
13 難燃性樹脂層
20 耐火スクリーン用クロス
21 基布
22 不通気性難燃高分子層


【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機質繊維クロスからなる基布に難燃剤及び柔軟剤を含んだ樹脂を溶剤に溶かして含浸して樹脂含浸基布層とし、前記樹脂含浸基布層の両面に難燃剤及び柔軟剤を含んだ樹脂を溶剤に溶かしてコートして樹脂コート層を設けるとともに、前記樹脂含浸基布層側から前記樹脂コート層の外表面に向けて前記樹脂コート層内の難燃剤の含有量が勾配を持って減少するようになっていることを特徴とする耐火スクリーン用クロス。
【請求項2】
無機質繊維クロスからなる基布に難燃剤及び柔軟剤を含んだ樹脂を溶剤に溶かして含浸して樹脂含浸基布層とし、前記樹脂含浸基布層の両面に難燃剤及び柔軟剤を含んだ樹脂を溶剤に溶かしてコートして樹脂一次コート層とし、前記樹脂一次コート層の少なくとも1層上に前記樹脂一次コート層よりも難燃剤の含有量を減らした樹脂を溶剤に溶かしてコートした樹脂二次コート層を設けたことを特徴とする耐火スクリーン用クロス。
【請求項3】
前記樹脂含浸基布層及び前記樹脂一次コート層に占める前記難燃剤の含有量が30〜40質量%であり、前記樹脂二次コート層に占める前記難燃剤の含有量が20〜28質量%であることを特徴とする請求項2に記載の耐火スクリーン用クロス。
【請求項4】
前記樹脂含浸基布層及び前記樹脂一次コート層の難燃剤は、無機系難燃剤40〜50質量%と有機系難燃剤60〜50質量%とからなり、前記樹脂二次コート層の難燃剤は、無機系難燃剤80〜90質量%と有機系難燃剤20〜10質量%とからなることを特徴とする請求項2又は3に記載の耐火スクリーン用クロス。
【請求項5】
前記樹脂含浸基布層及び前記樹脂一次コート層の前記有機系難燃剤の含有率が、前記樹脂二次コート層の前記有機系難燃剤の含有率の2〜10倍であることを特徴とする請求項4に記載の耐火スクリーン用クロス。
【請求項6】
前記樹脂含浸基布層の付着量が、40〜120g/mであることを特徴とする請求項2乃至5のいずれかに記載の耐火スクリーン用クロス。
【請求項7】
前記樹脂一次コート層の付着量が、10〜30g/mであることを特徴とする請求項2乃至6のいずれかに記載の耐火スクリーン用クロス。
【請求項8】
前記樹脂二次コート層の付着量が、10〜30g/mであることを特徴とする請求項2乃至7のいずれかに記載の耐火スクリーン用クロス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−55767(P2008−55767A)
【公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−235568(P2006−235568)
【出願日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【出願人】(000232760)日本無機株式会社 (104)
【Fターム(参考)】