説明

耐火木質構造部材

【課題】 木材の意匠を保持し,かつ少ない工程で製造可能な耐火性能を有する木質構造部材を提供することを目的としている。
【解決手段】 薬剤処理木材又は無処理木材を繊維方向が直交になるように積層して接着した木質耐火被覆材を,木ネジ又は釘を用いた簡易な方法で木質構造部材に取り付けることで製造することができる耐火木質構造部材である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
木材の意匠を有し,かつ製造が容易な耐火木質構造部材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
平成10年の建築基準法改正により,木造でも法規に定める耐火性能を満たせば,鉄筋コンクリート造のような規模や用途の建築物を建てることが可能になった。一方,地球温暖化対策として,森林の二酸化炭素吸収源としての機能を有効にするために木材の利用促進が進められ,建築物が大きな用途として考えられている。また,建築物についても環境負荷に対する要求が高まり,建設に伴う消費エネルギー量が少ない木造建築物が見直されている。
【0003】
このような中で,木造建築物の用途を広げる木質構造部材への耐火性能付与に関する研究開発が積極的に進められている。例えば特許文献1および特許文献2では,木質構造部材に耐火性能を付与する熱膨張性の耐火被覆材やそれを用いた耐火性能を有する木質構造部材を発明している。特許文献3では,周囲に被覆部,絶縁部の役割をする材料で被覆した耐火性能を有する木質構造部材を発明している。また,非特許文献1〜2では,木質構造部材に薬剤を注入処理した木質材料等を被覆することで,耐火性能の付与を試みている。
【0004】
【特許文献1】特許公開平9−256506
【特許文献2】特許公開2005−282360
【特許文献3】特許公開2007−46286
【非特許文献1】「耐火集成材の開発(その3)アルミテープと難燃処理木材で被覆した集成材柱の燃え止まり」,日本建築学会大会学術講演梗概集A−2,p87−88,2007
【非特許文献2】「スギ難燃処理合板を利用した木質耐火構造部材の開発」,日本建築学会大会学術講演梗概集A−2,p97−98,2007
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
人が多く集まる公共施設等の建築物で使用される集成材等の木質構造部材は,内装としての用途を兼ねるため,木材の意匠が重要視される。特許文献1と特許文献2では,加熱発泡シートを木質構造部材の全面に覆うため,木材の意匠が失われるという欠点がある。
【0006】
一方,特許文献3は,木質構造部材の周囲に絶縁部,被覆部の役割を持つ材料で被覆し,最外層の被覆部には不燃液剤がん浸木材を使用することが想定されており,木材の意匠を維持することが可能である。しかし,複数の異なる材料を構造部材に取り付けるため,製造工程が増え生産性が悪くなるという欠点がある。
【0007】
また,非特許文献1〜2は,薬剤処理をした木質材料を集成材の周囲に被覆するため,木材の意匠は保持される。しかし,非特許文献1では木質構造部材にアルミテープと薬剤処理木材を交互に取り付ける方法,非特許文献2では木質構造部材に無処理木材,薬剤処理木材,石こうボードの3種類の材料を取り付ける方法であり,ともに作業工程が多くなり,特許文献3と同様の欠点がある。
【0008】
本発明は,以上の従来技術における問題を解決するものであり,木材の意匠を保持し,且つ簡易に製造できる耐火木質構造部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は,無処理木材又は薬剤処理木材で構成される木質耐火被覆材を簡易な方法で取り付けることを特徴とした耐火木質構造部材である。
【0010】
ここで,請求項1記載の発明は,複数の薬剤処理木材又は無処理木材を繊維方向が直交になるように積層して接着した木質耐火被覆材を用いることを特徴とする。被覆材内に接着層を設けることで加熱時に被覆材に生じる亀裂を抑制し,燃焼の進展を防ぐ効果が得られ,さらに繊維方向を直交として木材を積層することで被覆材の燃焼による収縮を抑制し,被覆材間の目地の開きを原因とする燃焼の進展を防ぐ効果が得られる。
【0011】
請求項2記載の発明は,木質耐火被覆材を木質構造部材に接する側から12〜24mmの部分に薬剤処理木材を使用する構成とすることを特徴とする。この薬剤処理木材の層により,火災終了後に木質耐火被覆材の燃焼が速やかに停止し,内部の構造部材の強度低下を防ぐことができる。
【0012】
請求項3記載の発明は,木質耐火被覆材を木ネジ又は釘を用いて木質構造部材に固定し,木ネジ又は釘を非加熱面側から10〜15mmの位置まで木質耐火被覆材の内部に埋め込み,木栓をする構成を特徴とする。木ネジ又は釘を木質耐火被覆材内に埋め込むことで,火災による熱が木ネジ又は釘に伝わらず,構造部材の強度低下を防ぐことができる。
【0013】
請求項4記載の発明は,木質構造部材の角部分における木質耐火被覆材では,木ネジ又は釘を角部分で接する木質耐火被覆材に対して打ち込み固定する構成を特徴とする。このようにすることで,火災時において燃焼の進行が速い柱又は梁等の木質構造部材の角部分においても,火災による熱が木ネジ又は釘を伝わらず,木質構造部材の強度低下を防ぐことができる。
【0014】
本発明において,木質耐火被覆材を被覆する木質構造部材としては,製材,集成材,LVL等であり,柱,梁,壁,天井等に用いることのできる部材である。
【0015】
請求項1記載の本発明において,薬剤処理木材に用いる木材は様々な樹種が挙げられるが,木材内部に薬剤を均一に注入できる点から注入性の良いスギ材等が望ましい。
【0016】
請求項1記載の本発明において,薬剤処理木材に製造に用いる薬剤は,リン酸水素二アンモニウム,リン酸水素一アンモニウム,ポリリン酸アンモニウム,リン酸一グアニジン,リン酸二グアニジン,リン酸グアニル尿素,ホウ酸,ホウ砂,八ホウ酸ナトリウム,臭化アンモニウム等が挙げられる。
【0017】
薬剤処理木材にはリン酸水素二アンモニウムを主成分とする薬剤を用いる場合は,火災終了後の速やかな燃焼の停止のために,木材への注入量を木材1m当たり固形分量180〜220kgとすることが望ましい。
【0018】
請求項1記載の本発明において,無処理木材は基本的に全ての樹種が対称となるが,木材の燃焼速度が密度の高い樹種ほど遅くなることから,カラマツ,ベイマツ等の樹種がより望ましい。
【0019】
請求項1記載の本発明において,木質耐火被覆材に使用する接着剤は,レゾルシノール樹脂接着剤,レゾルシノール・フェノール共縮合樹脂接着剤,メラミン樹脂接着剤,メラミン・ユリア共縮合樹脂接着剤,水性高分子イソシアネート系接着剤等が挙げられる。木材が燃焼して形成する炭化層は,層下の未炭化部分への熱および酸素の供給を防ぎ,燃焼を抑制する作用があることから,より強固な炭化層を形成して燃焼を抑制する効果を高めるために,レゾルシノール樹脂接着剤,レゾルシノール・フェノール樹脂接着剤等の熱硬化型接着剤を使用することが望ましい。
【0020】
請求項2記載の本発明における木質耐火被覆材の厚さは,火災中では内部の構造部材の炭化を防ぐ遮熱効果,火災終了後では被覆材内で燃焼を停止させる効果を得るために,60mm以上が望ましい。
【0021】
請求項3記載の本発明において,木質耐火被覆材の取り付けに使用する木ネジ,釘等は,木質耐火被覆材を火災終了後まで継続して構造部材に固定するために,長さを45mm以上とすることが望ましい。
【0022】
請求項3記載の本発明において,木ネジ又は釘を木質耐火被覆材内部に埋め込むために生じた穴に使用する木栓は基本的に全ての樹種を用いることができるが,木材の密度と燃焼速度の関係から,密度のより高い樹種,例えばヤチダモ等の広葉樹がより望ましい。
【発明の効果】
【0023】
本発明は,薬剤処理木材又は無処理木材で構成される木質耐火被覆を用いた耐火木質構造部材であり,耐火被覆材を取り付けた後も木材の意匠を維持することができる。
【0024】
使用する木質耐火被覆材は接着剤により一体化されており,更に木ネジ又は釘を用いて木質構造部材に簡易に取り付けることができるため,従来よりも作業工程が少なくなり,生産性が向上する。
【実施例】
【0025】
以下,本発明の実施例を,実際に行った耐火性能試験に基づいて説明する。試験は,梁部材が火災に曝された場合を想定した。試験体は,図1〜2に示すように木質耐火被覆材1を集成材2の一方の側面と底面に取り付け,梁部材の角部分を模したものとした。
【0026】
試験に用いた木質耐火被覆材1の仕様を図3に示す。図3において,比較例2のみ単層構成であり,その他は厚さ12mmの木材を積層して接着した複層構成である。木質耐火被覆材の厚さは,全て60mmとした。
【0027】
本発明1〜2は無処理木材と薬剤処理木材による5層構成であり,本発明1では集成材に接する側の1層を薬剤処理木材とし,本発明2では集成材に接する側の2層を薬剤処理木材とした。比較例は,比較例1では無処理木材のみ,比較例2〜3は薬剤処理木材のみの構成とした。
【0028】
図3における薬剤処理木材5は,リン酸系薬剤であるリン酸水素ニアンモニウムを1m当たり固形分量180〜220kg含浸処理したスギ材である。スギ材の含浸処理は,あらかじめ60℃で72時間乾燥させたスギ材を,濃度24.0〜26.4%のリン酸水素二アンモニウム水溶液中に沈め,減圧加圧注入装置を用いて減圧を5kPaで30分間,加圧を1.2MPaで2時間の条件で行った。注入処理後のスギ材は,熱風循環式恒温器内で含水率12%前後まで乾燥させた。
【0029】
比較例2を除く複層構成の木質耐火被覆材は,構成する無処理木材又は薬剤処理木材を繊維方向が直交になるように積層して接着した。無処理木材又は薬剤処理木材の接着は,レゾルシノール樹脂接着剤を用い,塗布量250〜300g/m,圧締圧力690kPa,圧締時間24時間の条件で行った。
【0030】
木質耐火被覆材1の集成材2への取り付けは,木ネジ3を用いた。木ネジ3は,長さを45mmとし,図2に示すように木質耐火被覆材1の内部に非加熱面から15mmの位置まで埋め込み,生じた穴にはヤチダモ材の木栓4を埋めた。また,集成材の角部分における木質耐火被覆材は,木ネジを角部分で接する木質耐火被覆材に対して打ち込み固定した。
【0031】
試験では,試験体の被覆材を取り付けた2面に,実際の火災を想定した加熱を1時間行った後,加熱を停止した状態のまま6時間放置した。集成材の耐火性能の要件は,放置時間内に燃焼が停止すること,および試験終了後に集成材に炭化が生じないことである。各仕様の被覆材を用いた試験体の結果を表1に示す。
【0032】
【表1】

【0033】
単層の薬剤処理木材で構成される比較例2を用いた試験体は,放置時間内に燃焼が停止せず,試験終了後では集成材が炭化していた。一方,比較例3を用いた試験体は,繊維方向を直交として耐熱性の高いレゾルシノール樹脂接着剤で接着した複層構成が燃焼を抑制するため,耐火性能の要件を満たした。
【0034】
無処理木材のみで構成される比較例1を用いた試験体は,放置時間内に木質耐火被覆材の裏面まで燃焼が到達し,被覆材が脱落して集成材が燃焼した。
【0035】
集成材に接する側の1〜2層を薬剤処理木材とした本発明1〜2を用いた試験体は,薬剤処理木材が燃焼を抑制するため,比較例1よりも性能が向上し,耐火性能の要件を満たした。同時に,無処理木材と比較して高価である薬剤処理木材を集成材に接する側から12〜24mmのみに使用することで,全層を薬剤処理木材とした比較例3と同様に耐火性能が得られていることから,薬剤処理木材の使用が効率的である。
【0036】
本発明1〜2を用いた試験体における被覆材の残存厚さは,側面部ならびに底面部ともに17.3〜22.6mmであり,木ネジは残存部分の内部にあった。つまり,木ネジを被覆材内部に非加熱面から15mmの位置まで埋め込むことで,木材が炭化する温度よりも低い温度に木ネジが保たれるため,木ネジを介した熱を原因とする集成材の炭化が防がれた。
【0037】
本発明1〜2を用いた試験体における角部の被覆材の残存厚さは,10.0mmならびに11.2mmであり,他の部分よりも燃焼が進んでいた。しかし,角部では被覆材を取り付ける木ネジを角部分で接する被覆材に打ち込まれているため,木ネジを介した熱を原因とする集成材の炭化が防がれた。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施例を示す加熱試験用試験体の外観図
【図2】同加熱試験用試験体の図1におけるA−A線断面図
【図3】同加熱試験用試験体に用いた木質耐火被覆材の構成
【符号の説明】
1・・・木質耐火被覆材
2・・・集成材
3・・・木ネジ
4・・・木栓
5・・・薬剤処理木材
6・・・無処理木材
7・・・レゾルシノール樹脂接着剤の接着層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬剤処理木材又は無処理木材を繊維方向が直交になるように積層して接着した木質耐火被覆材を用いることを特徴とした耐火木質構造部材。
【請求項2】
木質耐火被覆材は,木質構造部材に接する側から12〜24mmの部分に薬剤処理木材を使用する構成とすることを特徴とした請求項1記載の耐火木質構造部材。
【請求項3】
木質耐火被覆材は木ネジ又は釘を用いて木質構造部材に固定し,木ネジ又は釘は木質構造部材に接する側から10〜15mmの位置まで木質耐火被覆材の内部に埋め込み,木栓をする構成を特徴とする請求項1又は2記載の耐火木質構造部材。
【請求項4】
木質構造部材の角部分における木質耐火被覆材は,木ネジ又は釘を角部分で接する木質耐火被覆材に対して打ち込み固定する構成を特徴とする請求項1又は2記載の耐火木質構造部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−174286(P2009−174286A)
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−38036(P2008−38036)
【出願日】平成20年1月23日(2008.1.23)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成19年7月31日 社団法人 日本建築学会発行の「2007年度大会(九州)学術講演梗概集」に発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成19年8月30日 社団法人 日本建築学会発行の「2007年度日本建築学会大会」に発表
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成18年度、独立行政法人科学技術振興機構、地域イノベーション創出総合支援事業「シーズ発掘試験」、産業再生法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(591190955)北海道 (121)
【Fターム(参考)】