説明

耐火被覆構造体の施工方法

【課題】各種の構造物や建築物等を火災等から保護して爆裂を防止することができる耐火被覆構造体の施工方法の提供。
【解決手段】コンクリートセグメント又は鋼製セグメントが並設された表面に、プライマーを塗る工程と、所定空間を隔ててワイヤーメッシュを固定する工程のうち、何れかを先に行う、或いは同時に行った後、無機質結合材に対し、吸熱物質を配合してなる耐火被覆材を吹き付け又は塗り付け、ネットを押圧して埋設した後、仕上げ施工する。吹付けガン15には、エアコンプレッサー14からのエアがエアホース5を介して供給されている。また、水13を水ポンプ10及び水ホース11,12にて送り、耐火被覆材7(粉末)とモルタルミキサー8にて混合し、混練された耐火被覆材がモルタルポンプ9及びモルタル圧送ホース6を介して吹付けガン15に供給されている。そして、エアと混練された耐火被覆材が吹き付けられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種の構造物や建築物等を火災等から保護して爆裂を防止することができる耐火被覆構造体の施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
二次履工を省略したシールドトンネルでは、火災時にはセグメントが直接炎に曝されるため、高温になることが想定される。コンクリートが高温環境におかれると、特にRCセグメントのような圧縮強度の大きな高強度コンクリートは、通常のコンクリートに比べ爆裂現象を生じやすいとされている。
その理由は、一般的に水セメント比が小さくなるほどコンクリートが緻密になるので爆裂し易いと考えられ、含水量、昇温速度、壁厚が大きくなるほど爆裂し易いと考えられており、通常のコンクリートは、内部に水分を多く含んでいるものの、それほど組織が緻密ではないため、高温環境下におかれた際にも、温度上昇に伴って徐々に水分が抜け出る。そのため、水分による爆裂の恐れは殆どなく、その表面に耐火被覆が施されることも殆どない。
一方、高強度コンクリートは、組織が非常に緻密であるため、高温環境下におかれた際には、水分が抜け難く、或いは抜け出る速度が遅い。そのため、水分による爆裂する恐れがあり、その表面に耐火被覆を施す必要があるが、現段階では十分な爆裂防止が果たされる耐火被覆材は見出されていない。
【0003】
そこで、本出願人らは、高強度コンクリートの爆裂を効果的に防止することを目的とした特許文献1に開示される耐火被覆材、及び耐火被覆構造体を見出した。
この耐火被覆構造体は、火災等による高温環境下におかれた際にも、下地である高強度コンクリートの温度はそれほど上昇しないので、高強度コンクリートの爆裂を防止することができる。
【特許文献1】特開平11−116357号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前記特許文献1の耐火被覆材では、塗工厚みが制限されるため、十分な厚みの耐火被覆層が形成できず、また高強度コンクリート下地のムーブメントにも追従できないため、剥離や落下等を生ずる虞があった。
【0005】
そこで、本発明は、各種の構造物や建築物において、表面に形成する耐火被覆層の厚みをコントロールでき、火災等から保護して爆裂を防止することができる耐火被覆構造体の施工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記に鑑み提案されたもので、コンクリートセグメント又は鋼製セグメントが並設された表面に、プライマーを塗る工程と、所定空間を隔ててワイヤーメッシュを固定する工程のうち、何れかの工程を先に、或いは両工程を同時に行った後、無機質結合材に対し、吸熱物質を配合してなる耐火被覆材を吹き付け又は塗り付け、ネットを押圧して埋設した後、仕上げ施工することを特徴とする耐火被覆構造体の施工方法に関するものである。
【0007】
また、本発明は、上記の施工方法において、プライマーを塗った後、スペーサーをアンカーで取り付けると共に、スペーサーにワイヤーメッシュを固定する工程を含む耐火被覆構造体の施工方法をも提案する。
【0008】
さらに、本発明は、上記の施工方法において、耐火被覆材は、無機質結合材100重量部と、吸熱物質15〜500重量部と、無機質軽量骨材10〜200重量部と、有機質軽量骨材2〜20重量部とからなる耐火被覆構造体の施工方法をも提案する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の耐火被覆構造体の施工方法は、各種の構造物や建築物において、表面に形成する耐火被覆層の厚みをコントロールでき、火災等から保護して爆裂を防止することができる。また、高強度コンクリート等の下地のムーブメントにも追従するため、剥離や落下等を生ずることがなく、耐久性が極めて高いものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明に用いる材料について以下に説明する。
【0011】
〔ワイヤーメッシュ〕
ワイヤーメッシュは、耐火被覆層の中に設置することにより、耐火被覆材の落下を図るものであって、例えば市販品を用いても良いし、材質・形状の特定はない。ワイヤーメッシュの目開き寸法は50mm×50mm〜150mm×150mm目で良いが、好ましくは100mm×100mm目が強度、吹付効率及び接着性能に優れている。
【0012】
〔スペーサー〕
スペーサーは、前記ワイヤーメッシュを下地から所定空間を隔てるためのものであり、厚みは被覆材の施工厚さにより決定されるが、施工厚さの中心にくるように決められる。また、このスペーサーは、ワイヤーメッシュを簡単に設置できるように工夫され、ワイヤーメッシュを変形させることなく、片手作業により設置できるものが望ましく、後述する図7に示すように、天部作業において施工者に負担がないよう簡単に打ち留める形状を持つような構成のものが好適に用いられる。この好適なスペーサーの一例を図1に示した。このスペーサー1は、矩形状の固定部1aから略垂直状に立ち上がり部1bが形成され、該立ち上がり部1bの上端には、分岐状にL字状部1c及び弧状山部1dが延設される形状であって、この立ち上がり部1bの長さ(縦幅)が空間の厚みとなる。そして、固定部1aはコンクリート等の対象下地に沿うように配され、L字状部1cはワイヤーメッシュ2の内側(下方)に、弧状山部1dはワイヤーメッシュ2の外側(上方)に位置するように取り付けられ、ワイヤーメッシュ2を上下からL字状部1cと弧状山部1dで挟むように配される(図7も参照)。
【0013】
〔アンカー〕
アンカーは、前記スペーサーを下地に固定するためのものであり、材質・形状の特定はない。また、アンカーは、前記スペーサーを兼ねるもの、即ちスペーサー兼用アンカーでもよい。
前記図1のスペーサー1をアンカーを用いて取り付ける状況を図2に示した。コンクリート4に対して前記スペーサー1を沿わせ、アンカー3を打ち込んでワイヤーメッシュ2を取り付けた。
【0014】
〔プライマー〕
プライマーは、下地と耐火被覆材との接着性を向上するためのものであり、専用プライマー、吸水調整材、水等を使用する。下地がコンクリートセグメントを並設したコンクリートである場合には、吸水調整材及び水が用いられ、鋼製セグメントを並設した下地である場合には樹脂混入モルタル及び樹脂プライマーが用いられる。
より具体的には、専用プライマーとしては、SBR樹脂モルタル『富士川の樹脂モル』(富士川建材工業製)、アクリル樹脂『タイカモルタル専用プライマー』(富士川建材工業製)が好適に用いられ、吸水調整材としては、エチレン酢酸ビニル樹脂『シーレックス』(富士川建材工業製)が好適に用いられる。
【0015】
尚、上記プライマーを塗る工程と、前記ワイヤーメッシュを固定する工程は、何れかの工程を先に行ってもよいし、同時に行うようにしてもよい。例えばプライマーを先に塗った後、ワイヤーメッシュを前記スペーサー及びアンカーにて固定してもよいし、先にワイヤーメッシュを固定した後、プライマーを塗るようにしてもよい。
【0016】
〔耐火被覆材〕
耐火被覆材は、ミキサーにより水と混練りし、圧送ポンプによりホース先端よりエアにより吹き付けを行うものである。吹き付けは、下塗りと上塗りの2回の工程で行うが、被覆厚さによって1回塗りが可能であり、またコテ塗りが可能である。
この耐火被覆材の具体的組成については後述するが、例えば前記特許文献1に記載のものを好適に用いることができる。
【0017】
〔ネット〕
ネットは、耐火被覆材の表面にコテなどにて押圧して埋設する(伏せこみを行う)ものであり、耐火被覆層の表層部分の一体性、柔軟性、ゴム弾性の付与が図られ、耐火被覆材の剥離防止、クラック防止、飛石等による耐火被覆材の飛散防止が図られる。
このネットとしては、材質・形状の特定はなく、ガラス繊維ネット、アラミド繊維ネット、ビニロン繊維ネット、カーボン繊維ネット等から適宜に選択して用いればよい。特に使用の実績より、選ばれる質量が40〜250g/m2で、引張強度が100kgf/mm2以上のネットが好ましい。
【0018】
〔耐火被覆材の具体的組成〕
以下に、本発明に用いる耐火被覆材について説明する。
好適な配合としては、無機質結合材100重量部と、吸熱物質15〜500重量部と、無機質軽量骨材10〜200重量部と、有機質軽量骨材2〜 20重量部とからなる。
【0019】
前記無機質結合材として、水及び/又は湿気により硬化する結合材では、水硬性石灰、天然セメント、ポルトランドセメント、アルミナセメント、石灰混合セメント、エトリンジャイト、混合ポルトランドセメント,高硫酸塩スラグセメント等から選択される水硬性セメントを必須成分とする。
そして、前記水硬性セメントに加えて、石膏、ドロマイト、マグネシアセメント等から選択される気硬性セメントを適宜添加して利用することができる。
【0020】
前記吸熱物質は、高熱環境下で、熱分解が生じ水を発生する物質として定義される。例えば100℃から600℃へと加熱した時に、減量する物質の例としては、(1)水酸化アルミニウム、ギブザイトミネラル、ボーマイト、ジアスポールなどの酸化アルミニウムの水和物や、(2)斜方沸石、ヒューランダイト、モルデナイトなどのゼオライト物質や、(3)アロファン、ハロイサイト、非発泡又は発泡ひる石などのシリカ−アルミナ物質や、(4)ブルサイト、アタパルジャイトなどのマグネシア物質や、(5)サテンホワイト、エトリンジャイト、ドロマイト、硼酸などの他の物質が含まれる。このうち、水酸化アルミニウムが、吸熱物質として特に適した物質であるのは、分子構造上の全分子量中のOH基の割合が、他の物質に比較して大きいことや、生産量が多く入手しやすく、又安全であると考えるからである。
この吸熱物質は、前記のように15〜500重量の範囲で配合されるが、15重量部より少ない場合には、吸熱による鋼材温度上昇の鈍化の程度が小さく耐火性に劣る。500重量部を越える時は、相対的に結合材の配合量が少なくなり、実用上必要となる強度が得られない。
【0021】
前記無機質軽量骨材は、天然鉱物の発泡又は膨張した物質である膨張バーミキュライト、パーライト、膨張頁岩、軽石、シラスバルーン等の他、シリカゲルを発泡させた物、各種のスラグを造粒して発泡させた物、ガラス屑を造粒して発泡させた物、粘土粉体を造粒して発泡させた物等のような人工軽量骨材を含む。これらの膨張又は発泡した物質のうち、結晶的にみてさほど「ガラス化」が進んでいないもので且つかさ比重の小さいものが好ましく、例えば膨張バーミキュライト、パーライト、軽石、シラスバルーンが望ましい。
この無機質軽量骨材は、前記のように10〜200重量部の範囲で配合されるが、10重量部未満の時は、作業性及び耐火性能が劣り、200重量部を越える時は、モルタルの強度が得られない。
【0022】
前記有機質軽量骨材としては、合成樹脂又はゴムの発泡物等が利用され、その例としては、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリエチレン−酢酸ビニル共重合物、ポリプロピレン、ポリウレタン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、天然ゴム、合成ゴム等の発泡物などがある。尚、軽量であれば必ずしも発泡である必要はなく、繊維状や不織布状の物質も採用できる。
この有機質軽量骨材は、粒径範囲として0.3〜2.5mmにあるものを用いる時、より効果的となる。これは、この範囲にある有機質軽量骨材を用いた時に、作業性や平滑性が良くなる為である。この有機質軽量骨材が0.3mmより小さい粒径のものである時、所定のフロー値を得るための水量が多くなり作業性が低下する。逆に2.5mmより大きなものを用いた時には表面の平滑性が低下する。
この有機質軽量骨材は、前記のように2〜20重量部の範囲で配合される。耐火被覆材を加熱したとき、その加熱によって受ける熱量は、有機質軽量骨材の溶融等の変化のために使用され、その変化に使用された熱量分だけ、耐火被覆材の温度上昇が抑えられるそして、この有機質軽量骨材の量が2重量部未満の時は、上述した作用を十分に発揮できないので、耐火性能に劣り、20重量部を越える時は、それほど強度のない素材の割合が増加するのであるから、モルタルの強度が得られない。
【0023】
尚、これらの成分に限定されるものではなく、必要に応じて適宜に以下の成分を添加することができる。例えば増量材として、耐火粘土、耐火性酸化物、珪砂、石灰等の粉体を採用できる。また、亀裂防止や粘性調整材として、ガラス繊維、岩綿繊維、パルプ繊維等の繊維状物や界面活性剤などを採用できる。さらに、タレ防止材や分離防止材や粘度調整材として、セルロース系水可溶性樹脂や液状の合成樹脂エマルションあるいは水に混ぜた時エマルションとなる合成樹脂粉末等を採用でき、それらは、耐火性能を阻害せず、機械的強度や付着性に問題のない範囲において適量配合できる。
【実施例】
【0024】
図3は、トンネル内壁面に、本発明の施工方法により、耐火被覆構造体を形成する概要図を示すものであって、図4は、形成された耐火被覆構造体の一部の拡大断面図である。
【0025】
図3では、既にコンクリート4の表面にプライマー(図示せず)が塗られ、スペーサー1を介してワイヤーメッシュ2が固定され(アンカーは図示せず)ている。
吹付けガン15には、エアコンプレッサー14からのエアがエアホース5を介して供給されている。また、水13を水ポンプ10及び水ホース11,12にて送り、耐火被覆材7(粉末)とモルタルミキサー8にて混合し、混練された耐火被覆材がモルタルポンプ9及びモルタル圧送ホース6を介して吹付けガン15に供給されている。そして、エアと混練された耐火被覆材が吹き付けられている。
【0026】
図4では、耐火被覆材の吹き付け後、ネット17をその表面にコテなどにて押圧して埋設した状態を示している。
即ち本発明により施工される耐火被覆構造体は、この図4に示すように、コンクリート4の表面にプライマー19が塗られ、スペーサー1を介してワイヤーメッシュ2がアンカー3にて固定されており、耐火被覆材18を吹き付け、形成される耐火被覆材18の層内にワイヤーメッシュ2が位置するようにすると共に、その表面にネット17を埋設して仕上げたものである。
【0027】
尚、前述のようにプライマーは、ワイヤーメッシュを固定する前でも後でもよく、例えばワイヤーメッシュを固定する前であれば、図5に示すように、刷毛21にてプライマー19を塗布することも可能である。ワイヤーメッシュを固定した後では、例えば図6に示すように噴霧器22を用いてワイヤーメッシュ2の外側からプライマー19を噴霧するようにしてもよい。
【0028】
図7は、前記図1のスペーサー1を用いてワイヤーメッシュ2を設置する状態を示すものであるが、図1とは異なり、取り付け対象面が上面である場合の状態を示す。この場合も、スペーサー1のL字状部1cはワイヤーメッシュ2の内側(上方)に、弧状山部1dはワイヤーメッシュ2の外側(下方)に位置するように取り付けられ、ワイヤーメッシュ2をL字状部1cと弧状山部1dで挟むように配されるので、安定に固定を行うことができる。
【0029】
図8は、トンネル施工における耐火被覆材の吹付け状況を示すものであり、作業台車20に乗った作業者が、モルタル圧送ホース6にて供給される耐火被覆材18を吹付けガン15にて吹き付け、ワイヤーメッシュ2の上下に耐火被覆層を形成する。
【0030】
図9は、耐火被覆材18を吹き付けた後のネット17の伏せこみ状況を示すものであり、吹き付けた耐火被覆材18の表面が乾かないうちに、その表面に、コテ23を用いてネット17を埋設する(伏せ込む)。
【0031】
以下に本発明の施工例を示す。
【0032】
〈施工例1〉
栃木県芳賀郡二宮町、ボックスカルバート耐火被覆材施工に使用し、工事は平成16年7月20日、工事時間は午前8時から午後5時までの工事において、16m2の施工に使用した。施工に用いた材料、施工機器、施工手順は、表1に示す通りである。
【表1】

【0033】
〔施工例1の結果〕
関係者より次の評価があった。
吹付け時において耐火材のダレ・跳ね返りがなくロスが少ない。仕上げにおいて耐火材の表面にネットを設置することで平滑性があり、大変綺麗である。
一年経過後もクラックの発生、耐火材の剥離・脱落はなく、その他の異常は見られなかった。
【0034】
〈比較施工例1〉
ワイヤーメッシュやスペーサを用いない以外は、前記施工例1と全く同じ材料、施工機器、施工手順にて耐火被覆材施工を行った。尚、この場合、塗工厚みが制限されるため、所定の厚みで耐火被覆層が形成できなかった。また、均一な塗り厚が得られなかった。
【0035】
〔比較施工例1の結果〕
関係者より次の評価があった。
前記施工例1と比較すると、吹付け時において耐火材のダレ・跳ね返りが前記施工例1に比べて少なからずあった。
【0036】
〈施工例2〉
横浜市金沢区、沈埋トンネル耐火被覆材施工に使用し、工事は平成16年10月14日、工事時間は午前8時から午後5時までの工事において、8m2の施工に使用した。施工に用いた材料、施工機器、施工手順は、表2に示す通りである。
【表2】

【0037】
〔施工例2の結果〕
一ヶ月経過後もクラックの発生、耐火材の剥離・脱落はなく、その他異常は見られなかった。
【0038】
〈比較施工例2〉
ワイヤーメッシュやスペーサを用いない以外は、前記施工例2と全く同じ材料、施工機器、施工手順にて耐火被覆材施工を行った。尚、この場合、塗工厚みが制限されるため、所定の厚みで耐火被覆層が形成できなかった。また、均一な塗り厚が得られなかった。
【0039】
〔比較施工例2の結果〕
関係者より次の評価があった。
比較すると、前記施工例2に比べて吹付け時において耐火材のダレ・跳ね返りが確認された。
【0040】
〈施工例3〉
東京都池袋南、シールドトンネル耐火被覆工事に使用し、工期は平成17年8月22日から平成17年8月26日、工事時間は午前8時から午後5時までの工事において、180m2の施工に使用した。工事は材料の搬入からコンクリートの下地処理、ワイヤーメッシュの設置、耐火材の施工、後片付けまで工期内に終了した。施工に用いた材料、施工機器、施工手順は、表3に示す通りである。
【表3】

【0041】
〔施工例3の結果〕
一ヶ月後の確認で、クラックの発生、耐火材の剥離・脱落はなく、その他異常は見られなかった。
【0042】
〈比較施工例3〉
ワイヤーメッシュやスペーサを用いない以外は、前記施工例3と全く同じ材料、施工機器、施工手順にて耐火被覆材施工を行った。尚、この場合、塗工厚みが制限されるため、所定の厚みで耐火被覆層が形成できなかった。また、均一な塗り厚が得られなかった。
【0043】
〔比較施工例3の結果〕
関係者より次の評価があった。
比較すると、前記施工例3に比べて吹付け時において耐火材のダレ・跳ね返りが確認された。
【0044】
このようにワイヤーメッシュを設置することにより、もし予測しない事故が起きた場合、例えば大震災・車の衝突等の事故が起きて物理的に力が加わって下地から耐火被覆層が剥離しても、ワイヤーメッシュは耐火被覆層を保持し、落下防止を果たすことができる。
また、実施例のワイヤーメッシュを保持するアンカーは、動風圧条件・湿潤状態での耐火材自重・ワイヤーメッシュとスペーサーの自重を考慮しても3倍以上の保持力がある。
上述のことは、以下のように確かめられる。
動風圧条件(244.9kg/m2=81.63kg/m2×安全率3)に、湿潤状態での耐火被覆材自重(40kgf/m2)及び取付金具自重(0.5kgf/m2)を加算すると、負荷荷重285.4kgf/m2となる。ただし、固定クリップ及びアンカーは0.25m2(0.5m×0.5m)毎に設置されているため、1本のアンカーに掛かる荷重は、285.4kgf/m2×0.25m2=71.4kgfとなる。ここで、アンカーの引き抜き強度250kgf以上であるため、3倍以上の保持力(引き抜き耐性)がある。
【0045】
〈作業性試験〉
表4に示す組成にて配合例1〜3,比較配合例1〜3の耐火被覆材を調製し、作業性試験を行い、その結果を表4に併せて示した。
1.ポンプ圧送性;
○…詰まり、過負荷なく施工できる
×…詰まり又は過負荷があり、施工に問題がある
2.吹付け性,ダレ;
○…ダレが発生しない
×…多くのダレが発生し、施工に問題がある
3.吹付け性,跳ね返り;
○…材料の跳ね返りが少ない
×…材料の跳ね返り多く、施工に問題がある
4.仕上げ性,ネット伏せ込み性;
○…容易に伏せ込みが出来る
△…やや伏せ込み難く、施工に時間がかかる
×…伏せ込み難く、施工に問題がある
5.仕上げ性,コテ塗り性;
○…平滑に押さえられる
×…平滑に押さえられない
【0046】
〔作業性試験の結果〕
【表4】

【0047】
〈動風圧試験〉
車両による圧縮、吸引作用に対する耐久性(耐風圧試験)
トンネル内を走行中の車両は、トンネルで空洞内のピストンのように作用する。
車両は、走行方向に向かって、圧力波を前へ押して行き、背後に空気の吸引力が働き、耐火被覆材が剥離し脱落することが考えられるため、数十万回以上で加減圧の繰返し試験を行った。
【0048】
〔動風圧試験の結果〕
表5に、前記の耐火被覆材成分においての動風圧試験結果を示す。
【表5】

【0049】
・考察
1m2に吹付けた耐火材の自重は(最大厚さ40mm)比重1.0g/cm3として、
1.0×0.04(m3)=40.0(kgf)=392(N)であり、
必要な付着強度は、
392(N)/1×106(mm2)=0.000392(N/mm2)である。
動風圧後のタイカモルタルの付着強度は0.43N/mm2であるため、1096倍の付着強度を有していることが確認された。
また、安全率3倍を考慮しても365倍の付着強度を有していた。
【0050】
〈コンクリート下地に対するピンの引抜き耐力試験〉
試験方法;
試験体:W/C=55%、単位水量170kg/m3程度で採石及び川砂を用いたコンクリートをJIS A 5304「舗装用コンクリート平板」に規定する方法に準じて、300×300×50程度の寸法に打説し、試験室中で24時間湿空養生後脱型した。その後6日間水中養生し、試験室で材令28日まで養生したものを試験用基盤とした。
試験:所定の方法にて試験用基盤にアンカーピンを打ち付けて、建研式油圧引っ張り試験機を用い引抜き荷重を加え、最大荷重を求めた。
表6に、前記の耐火被覆材成分においての引抜き耐力試験の結果を示す。
【0051】
〔引抜き耐力試験の結果〕
【表6】

【0052】
・考察
耐火被覆材・ワイヤーメッシュ・スペーサー・動風圧条件を考慮した荷重に対して十分な引抜き耐力があった。
【0053】
〈曲げ試験〉
ワイヤーメッシュの目開きが、#50と#100、#150及びワイヤーメッシュなしの場合で曲げ試験を行い、耐火被覆材の支持性を比較した。
試験方法;
試験体:試験はJIS A 1408「建築用ボード類の曲げ及び衝撃試験方法」により、試験体は2号(700×600)とした。ワイヤーメッシュの径は、φ1.6mmを使用し、#50、#100、#150及びワイヤーメッシュなしで試験を行った。スペーサーは500mm間隔で配置した。試験体作製には、厚さ12mmの合板を600×700mmの大きさに切断し、用意した。ステンレスメッシュを配置し、スペーサーによりワイヤーメッシュを取り付けた。ワイヤーメッシュ取り付け後、混練したタイカモルタルを厚さ15mmになるように塗付け、タイカモルタルのしまり具合を確認後、再度厚さ15mmに塗付けを行った。材齢28日まで一般養生(温度20℃±2℃、湿度65%±10%)を行った。
試験方法:万能試験機(島津1000kN)を使用し、3点曲げとし、載荷速度は10mm/min(100N/min以上又は1〜3分で最大荷重となるもの)とした。曲げ変位を100mmまでとして、耐火被覆材の状態を観察した
表7に、前記の耐火被覆材成分においての曲げ試験結果を示す。
【0054】
〔曲げ試験の結果〕
【表7】

【0055】
・考察
ワイヤーメッシュを設置することで脱落を防止できることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0056】
火災等において、コンクリートの爆裂が懸念される各種の構造物や建築物等に適用される。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明に好適に用いられるスペーサーの一実施例を示す斜視図である。
【図2】図1のスペーサーを用いてワイヤーメッシュを取り付けた状況を示す側断面図である。
【図3】耐火被覆構造体を形成するための概要図である。
【図4】耐火被覆構造体の断面図である。
【図5】プライマー塗布状況図である。
【図6】プライマー塗布状況図である。
【図7】ワイヤーメッシュ設置方法図である。
【図8】耐火被覆材の吹付け状況図である。
【図9】ネットの伏せこみ状況図である。
【符号の説明】
【0058】
1 スペーサー
1a 固定部
1b 立ち上がり部
1c L字状部
1d 弧状山部
2 ワイヤーメッシュ
3 アンカー
4 コンクリート
5 エアホース
6 モルタル圧送ホース
7 モルタル(耐火被覆材)
8 モルタルミキサー
9 モルタルポンプ
10 水ポンプ
11 水ホース
12 水ホース
13 水
14 エアコンプレッサー
15 吹付けガン
17 ネット
18 耐火被覆材
19 プライマー
20 作業台車
21 刷毛
22 噴霧器
23 コテ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリートセグメント又は鋼製セグメントが並設された表面に、プライマーを塗る工程と、所定空間を隔ててワイヤーメッシュを固定する工程のうち、何れかの工程を先に、或いは両工程を同時に行った後、無機質結合材に対し、吸熱物質を配合してなる耐火被覆材を吹き付け又は塗り付け、ネットを押圧して埋設した後、仕上げ施工することを特徴とする耐火被覆構造体の施工方法。
【請求項2】
プライマーを塗った後、スペーサーをアンカーで取り付けると共に、スペーサーにワイヤーメッシュを固定することを特徴とする請求項1に記載の耐火被覆構造体の施工方法。
【請求項3】
耐火被覆材は、無機質結合材100重量部と、吸熱物質15〜500重量部と、無機質軽量骨材10〜200重量部と、有機質軽量骨材2〜20重量部とからなることを特徴とする請求項1又は2に記載の耐火被覆構造体の施工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−132082(P2007−132082A)
【公開日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−325981(P2005−325981)
【出願日】平成17年11月10日(2005.11.10)
【出願人】(390025612)富士川建材工業株式会社 (22)
【Fターム(参考)】