説明

耐火補強方法

【課題】既設の軒裏天井板の多くを軒裏に残置させた状態で軒裏構造全体の耐火性能を向上させることが出来る耐火補強方法を提供する。
【解決手段】軒の桁行き方向に沿って所定の耐火性能を有する複数枚の軒裏天井板29を敷き列べて軒裏空間を形成する軒裏天井構造に可撓性を有する帯状の耐火補強体20を設置する耐火補強方法であって、何れか1枚の軒裏天井板29を取り外して軒裏空間に通じる第1の開口部23aを形成した後、第1の開口部23aに対して所定の間隔を空けて更に1枚の軒裏天井板29を取り外して軒裏空間に通じる第2の開口部23bを設け、第1、第2の開口部23a,23bのうちの何れか一方の開口部23aから軒裏空間及び他方の開口部23bを介して耐火補強体20を引っ張り、耐火補強体20を他方の開口部23bから軒裏空間に引き込んで軒裏天井板29の上面に耐火補強体20を敷き並べる構成とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、住宅等の建物の軒裏天井構造の耐火補強方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、住宅等の建物においては、隣家の火災による延焼・類焼の抑制・防止を目的として、隣家に対向する軒についても耐火性能が要求され、軒の裏に耐火性能を有するけい酸カルシウム板等の成形板(以下、「軒裏天井板」)を敷設する軒裏天井構造が公知である(例えば特許文献1参照)。
【0003】
また、住宅の品質確保の促進等に関する法律(品確法)においては、建築基準法により定められる耐火性能以上の耐火性能を住宅に付与することについての規定が盛り込まれる等、住宅に対する耐火性能向上の要請は近年更に増してきており、軒裏天井の構造についても上記建築基準法で定められている耐火性能を凌ぐ耐火性能を付与することが望まれている。
【0004】
既に建設を完了している既存の建物の軒においても、耐火性能のより一層の向上は望まれており、かかる要請に応じるべく、例えば、既設の軒裏天井板に代えて、当該軒裏天井板よりも厚さを増大させることで耐火性能を向上させた軒裏天井板を敷設することが考えられる。
【0005】
【特許文献1】特開平6−73828号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述の如き軒裏構造においては、既存の軒裏天井板の厚さに対応した納まりが形成されているのが一般的であり、上述の如く厚さを増大させた軒裏天井板を代替設置するには、当該軒裏天井板を支持する部材等の取り替えの必要が生じ、極めて手間がかかってしまうという問題がある。
【0007】
また、軒裏には一般に複数枚の軒裏天井板が敷き並べられており、当該軒裏の耐火性能を向上させるとは言え軒裏天井板の全てを完全に取り外して作業を行うことは著しく手間となる問題がある。
【0008】
本発明は前記課題を解決するものであり、その目的とするところは、既設の軒裏天井板の多くを軒裏に残置させた状態で軒裏構造全体の耐火性能を向上させることが出来る耐火補強方法を提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するための本発明に係る耐火補強方法の第1の構成は、軒の桁行き方向に沿って所定の耐火性能を有する複数枚の軒裏天井板を敷き列べて軒裏空間を形成する軒裏天井構造に可撓性を有する帯状の耐火補強体を設置する耐火補強方法であって、何れか1枚の軒裏天井板を取り外して前記軒裏空間に通じる第1の開口部を形成した後、前記第1の開口部に対して所定の間隔を空けて更に1枚の軒裏天井板を取り外して前記軒裏空間に通じる第2の開口部を設け、前記第1、第2の開口部のうちの何れか一方の開口部から前記軒裏空間及び他方の開口部を介して前記耐火補強体を引っ張り、該耐火補強体を前記他方の開口部から前記軒裏空間に引き込んで前記軒裏天井板の上面に前記耐火補強体を敷き並べる、ことを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係る耐火補強方法の第2の構成は、前記第1の構成において、前記耐火補強体の前記軒裏天井板上への敷き並べは、前記耐火補強体の端部を引込み治具に巻装し、該引込み治具を前記軒裏空間内で前記第1、第2の開口部のうちの何れか一方の開口部から他方の開口部にまで引き寄せることによりなされていることを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係る耐火補強方法の第3の構成は、前記第2の構成において、前記引込み治具は、少なくとも前記耐火補強体の幅よりも軸長さを大とする芯体と、該芯体の両端部に接続されると共に少なくとも前記第1、第2の開口部の間の間隔以上の長さを有する一対の紐体とを備え、前記紐体を前記第1、第2の開口部間に渡し、前記第1、第2の開口部のうちの何れか一方の開口部側で該紐体の一端に前記芯体を取り付けると共に前記耐火補強体を取り付け、その後、他方の開口部側で該一対の紐体を引っ張ることで前記芯体を引き寄せると共に前記耐火補強体を前記軒裏天井板上に敷設していくことを特徴とする。
【0012】
また、本発明に係る耐火補強方法の第4の構成は、前記第3の構成において、前記引込み治具は、前記芯体の両端部に接続されると共に少なくとも前記第1、第2の開口部の間の間隔以上の長さを有する一対の追加紐体を備え、前記第1、第2の開口部のうちの何れか一方の開口部側で該紐体の一端に前記芯体を取り付けると共に前記耐火補強体を取り付ける際に前記一対の追加紐体も前記芯体に取り付け、前記他方の開口部側で該一対の紐体を引っ張ることで前記芯体を引き寄せると共に前記耐火補強体を前記軒裏天井板上に敷設していくと同時に前記一対の追加紐体も該他方の開口部側に引き込んだ後、該他方の開口部側で前記芯体に前記耐火補強体を取り付け、その後、前記一方の開口部側で該一対の追加紐体を引っ張ることで前記芯体を引き寄せると共に前記耐火補強体を前記軒裏天井板上に敷設していくと同時に前記一対の紐体も前記一方の開口部側に引き込む、ことを特徴とする。
【0013】
また、本発明に係る耐火補強方法の第5の構成は、前記第3、第4の構成において、前記芯体は、円柱状又は円筒状に形成されていることを特徴とする。
【0014】
また、本発明に係る耐火補強方法の第6の構成は、前記第3〜第5の構成において、前記引込み治具は、前記耐火補強体を前記芯体に巻きつけた状態で留めつけておく留め具を備えていることを特徴とする。
【0015】
また、本発明に係る耐火補強方法の第7の構成は、前記第1〜第6の構成において、前記耐火補強体は、水酸化アルミニウムを主材とする吸熱層を備えて形成されることを特徴とする。
【0016】
また、本発明に係る耐火補強方法の第8の構成は、前記第7の構成において、前記吸熱層は、水酸化アルミニウム粉末を封入してなる袋体を連結して帯状に形成されていることを特徴とする。
【0017】
また、本発明に係る耐火補強方法の第9の構成は、前記第7、第8の構成において、前記耐火補強体は、前記吸熱層の一方の面を覆う熱遮断層を備えていることを特徴とする。
【0018】
また、本発明に係る耐火補強方法の第10の構成は、前記第9の構成において、前記熱遮断層は、アルミニウム薄膜を主材として形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係る耐火補強方法の第1の構成によれば、2枚の軒裏天井板を取り外して第1の開口部と第2の開口部とを設け、一方の開口部から耐火補強体を引っ張り込み、更に他方の開口部に向けて引き込むことで耐火補強体を軒裏天井板上に設置することが出来るのである。その後、一旦取り外した軒裏天井板又は新たな軒裏天井板を開口部に夫々取り付けることで、軒裏空間内に耐火補強体が収容されるものとなる。
【0020】
なお、軒の桁行き方向とは、軒の延設方向のことを示しており、寄せ棟形式の屋根や入母屋形式の屋根等においては、軒は梁間方向にも形成されることとなるが、この様な態様をも含むものである。
【0021】
また、軒裏とは、建物の外壁よりも突出する庇の裏側を含むことはもちろん、下階よりも突出して設けられる上階ベランダや上階居室の裏側等、下階よりも上階を突出させて形成される建物の当該下階より見上げることが出来る上階の裏側や、1階部分をピロティとする建物の当該ピロティの天井部分をも含む。
【0022】
また、軒裏天井板の所定の耐熱性能とは、軒裏天井板を敷設した軒において、該軒裏天井板の下方から火熱を加えた場合であっても、当該軒裏空間を所定時間の間一定の温度以下の雰囲気に維持することを言うものであって、軒裏天井板の性能によって30分〜45分程度の耐火性能を有するものが存在する。
【0023】
また、軒裏天井板の所定の耐火性能とは、例えば、軒裏天井板を敷設した軒に対して国土交通大臣認定として規定される所定の耐火試験を行った際に、当該軒裏空間と外壁との間に設けられる板(「標準板」という)裏面の温度を所定時間の間、一定の温度以下の雰囲気に維持すること可能とする性能のことを示すが、建築基準法により規定されている性能についても当然に含み、将来規定されるあらゆる評価試験において規定される性能のことをも含む。
【0024】
上記構成によれば、耐火補強体の存在により、軒裏天井板を通じて軒裏空間に移動する(上昇する)熱の移動が抑制されることとなるので、軒裏空間の温度上昇が鈍化し、これによって、軒裏天井板単体による耐火性能以上の耐火性能を確保することが出来るのである。
【0025】
本発明に係る耐火補強方法の第2の構成によれば、各開口部に対して作業者を一人配し、一方の開口部側の作業者で耐火補強体を引込み治具に取り付け、他方の開口部の作業者で該引込み治具を引き込むことで、随時、耐火補強体が軒裏天井板上に敷設されることとなり、極めて少人数で耐火補強体の設置作業を行うことが出来るのである。
【0026】
本発明に係る耐火補強方法の第3の構成によれば、一対の開口部間で一対の紐体を渡し、一方の開口部側で一対の紐体に芯体を取り付けると共に該芯体に耐火補強体を巻き付け、その後、他方の開口部側から紐体を引っ張ることによって芯体及び芯体に取り付けられた耐火補強体(以下、「芯体等」という)を引き寄せる。これにより、耐火補強体を軒裏天井板上に設置させることが出来るのである。
【0027】
また、一対の紐体は芯体の軸方向の両端部に取り付けられるので、各紐体を同じペース配分で引き込むことにより、芯体の軸心を当該芯体の進行方向に対し垂直となるような姿勢を維持した状態で芯体等を引き込むことが可能となり、これによって、芯体の引込み作業に伴って耐火補強体を軒裏天井板の敷き並べ方向(桁行き方向)に沿って設置することができ、その後の位置調整作業を可及的に低減することができて施工性の向上を図ることが出来る。
【0028】
また、一対の紐体の両方を引っ張りながら芯体等を引込むこととなるため、納まり上、不可避的に形成されて芯体等の移動を阻害する障害物等が軒裏天井板上に設けられている場合であっても、一方の紐体の引き具合を弛緩しつつ他方の紐体を強く引く等、一対の紐体の引き具合を調整して芯体等の姿勢を変更することができ、これによって、芯体等の引込み作業をより効率良く行うことが可能となっているのである。
【0029】
一方、軒裏天井構造の大きさと耐火補強体の大きさに対応して、いくつかの耐火補強体を並べて設置する必要があるが、その際、一方の開口部側に位置する芯体を他方の開口部に向けて引き寄せると、芯体及び一対の紐体が共に他方の開口部に集まってしまい、次の耐火補強体を設置するためには、一対の紐体を一対の開口部間に渡す作業から始めなければならず、著しく手間となる。
【0030】
これに対し、本発明に係る耐火補強方法の第4の構成によれば、一対の追加紐体を芯体に当初から取り付けておくこととし、これによって芯体の引込み作業に伴って当該一対の追加紐体を一対の開口部間に渡すことが出来るのである。したがって、常に紐体が一対の開口部間に渡された状態となるため、何れか一方の開口部側からでも他方の開口部側に向けて耐火補強体を取り付けた芯体を送り出すことが出来ることなり、作業の効率化が図られるのである。
【0031】
本発明に係る耐火補強方法の第5の構成によれば、当該芯体等は進行方向に対して丸みを帯びた状態となるため、軒裏天井板上に設けられている障害物に引込み中の芯体等が当接する場合であっても、当該芯体等は引っ張り力の作用により障害物に対して滑ることとなり、これによって、当該障害物に芯体等が引っ掛かってしまう虞は充分に低減され、上述の如き引込み作業によって芯体等を軒裏天井板上で移動させることが出来るのである。
【0032】
本発明に係る耐火補強方法の第6の構成によれば、引込み作業の途中で耐火補強体が芯体から外れてしまう虞が著しく低減されることとなるのである。
【0033】
ところで、軒裏天井構造の耐火性能を向上させるためには、軒裏空間に到達する熱の総量を低減させることが好ましい。
【0034】
かかる観点より、本発明に係る耐火補強方法の第7の構成においては、耐火補強体を吸熱層により形成することとし、当該耐火補強体により吸熱層が軒裏天井板上に敷設されるものとなるのである。ここで、吸熱層とは、熱を適宜吸収するものであって、当該吸熱層を軒裏天井板の上方に積層することにより軒裏天井板から軒裏空間に伝達される熱の総量が低減され、これによって軒裏天井板から軒裏空間に向かう熱の移動を抑制させることが出来るのである。また、かかる吸熱層を水酸化アルミウムにより形成することで吸熱層を軽量に形成することができ、耐火補強体の軽量化が図られることとなる。また、水酸化アルミニウムは、火災時の雰囲気温度となる280℃前後で脱水するので、火災時の伝熱を吸収する層としては好適である。
【0035】
本発明に係る耐火補強方法の第8の構成によれば、耐火補強体を容易に軒の桁行き方向に長く形成することが出来る。また、袋体に粉状の水酸化アルミニウムを封入しているので、設置作業中での水酸化アルミニウムの飛散もなく作業性を向上させることが出来る。
【0036】
更には、袋体を連結して帯状に形成されているので、充分な可撓性を有することとなり、設置作業に応じて適宜折れ曲がることとなって軒裏天井板上への設置を容易に行い得るばかりでなく、軒裏天井板上に設置するだけで野縁等の障害物の凹凸形状に適当に追従した状態で位置付けられることとなり、施工性も極めて高いものとなるのである。
【0037】
また、さらに軒裏天井構造の耐火性能を向上させるためには、熱移動の3つのプロセスである熱伝導、熱対流、熱輻射の少なくとも1つを抑制する構成が望ましく、これによって全体として熱の移動を鈍化させることが可能となって、その結果、耐火性能を維持すべき時間(耐火時間)の延長を図ることが出来る。
【0038】
かかる観点より、本発明に係る耐火補強方法の第9の構成においては、耐火補強体は熱遮断層を備える構成とし、当該耐火補強体により熱遮断層が軒裏天井板上に敷設されるものとなるのである。ている。ここで、熱遮断層とは、熱伝導を除く熱輻射、熱対流を主として遮断することが出来るものであって、当該熱遮断層を軒裏天井板の上方に設けることにより、軒裏天井板から軒裏空間に向かう熱輻射や当該熱遮断層下方での対流熱の軒裏空間への抜けを確実に遮断することができ、これによって、軒裏天井板から軒裏空間に向かう熱の移動を抑制させることが出来るのである。
【0039】
本発明に係る耐火補強方法の第10の構成によれば、熱遮断層も吸熱層に追従して撓むことができ、上述の吸熱層と同様、極めて施工性も極めて高いものとなるのである。
【0040】
また、熱移動抑制の効果に鑑みても、アルミニウムは、高い熱反射率(一般には97%)を有しているので、輻射熱がアルミニウム薄膜に到達する場合であっても、殆どの輻射熱はアルミニウム薄膜表面で反射されることとなり、極めて僅かな輻射熱がアルミニウム薄膜を貫通するのみである。したがって、アルミニウム薄膜は主として熱輻射を遮断する熱遮断層として好適である。
【0041】
即ち、本発明の耐火補強方法によれば、既存の軒裏天井板の全てを逐一取り外すことなくその多くを軒裏に残置させた状態で軒裏構造全体の耐火性能を向上させることが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0042】
図により本発明に係る耐火補強方法の一実施形態を具体的に説明する。図1は本発明に係る耐火補強方法により寄棟屋根を有する住宅の軒裏天井板上に帯状の耐火補強体が設置された軒裏天井構造を示す図、図2(a)は軒裏天井板上に帯状の耐火補強体を設置する前の軒裏天井構造、図2(b)は軒裏天井板上に帯状の耐火補強体を設置した後の軒裏天井構造を示す部分拡大図、図3〜図5は本発明に係る耐火補強方法により軒裏天井板上に帯状の耐火補強体を設置する様子を示す図、図6は他の実施形態を説明する図である。
【0043】
先ず、図1及び図2を用いて軒裏天井構造について説明する。図1及び図2おいて、本発明に係る耐火補強方法が適用される戸建て住宅1は、所謂寄棟屋根を有する住宅1であって、軽量鉄骨を組み合わせて形成される架構1aと、該架構1aに取り付けられて住宅1の側面を形成する外壁構造1bと、架構1aに取り付けられて住宅1の上面を形成する屋根構造1cとを備えている。
【0044】
架構1aは、基礎B上に立設される複数の柱材や面材と、これら柱材や面材を連結する梁材とを備えて形成される軸組構造として構成されている。柱材は、鋼製の角パイプや該角パイプの端部に柱頭部材や柱脚部材を取り付けて形成され、面材は、一対の角パイプをブレースや制振フレームにより連結して形成される。梁材は、H型鋼や鋼製の角パイプにより形成されている。外壁構造1bは、平板状の外壁2と、該外壁2よりも屋内側に設けられる断熱層(図示省略)とを備えている。
【0045】
外壁2は、平板状の軽量気泡コンクリート(ALC)パネルにより形成される複数の外壁材を並列状に列べて形成されている。各外壁材は、前記架構1aの最外枠を構成する梁に取り付けられる自重受け金具やイナズマプレート等の金物(図示省略)を介して当該梁に支持されている。上記ALCパネルは、軽量で且つ高い断熱性能を有するため外壁材として好ましく用いることが可能である。
【0046】
また、図1に示す如く、戸建て住宅1は、本屋に対し下屋を突出して形成されており、屋根構造1cは、上方に下屋の屋根を形成する片流れ状の1階屋根3と、2階の屋根を形成する切妻状の2階屋根4とを備えている。各屋根3,4は、該屋根3,4の下方に位置する各外壁2よりも外方に突出した位置に軒5を備えており、これによって、各屋根3,4の軒5と外壁2との間には軒裏空間Sが形成されている。
【0047】
なお、実施形態の説明の便宜上、図1の紙面垂直方向(法線方向)を軒5の桁行き方向とし、図1の紙面平行方向を梁間方向と称呼する。これら各軒5の構成は略同様であるので、以下は図2に示す2階部分の軒5の構成について述べることとし、1階部分の軒5についてはその説明を省略する。
【0048】
図2に示す如く、軒5は、2階部分の外壁2よりも突出して設けられる軒先構造10と、該軒先構造10により包囲される軒裏空間Sを塞ぐ軒裏天井構造30とを備えている。なお、軒5の出寸法は、2000mm以下が好ましく、1000mm以下が最も好ましい。本実施形態においては、軒5の出寸法は720mmである。
【0049】
軒先構造10は、屋根を形成する軒屋根11と、該軒屋根11を支持する垂木部材12と、該垂木部材12の先端部に取り付けられたジョイント金物13と、該ジョイント金物13に取り付けられた鼻隠部材14とを備えている。
【0050】
軒屋根11は、平板状の構造用合板からなる下地板16と、該下地板16の一方の面(上面)に敷設されたスレート瓦等からなる屋根板部材17とを備えて形成されている。当該軒屋根11を支持する垂木部材12は、平板状の金属板をプレス加工により断面コ字状の長尺部材として形成されている。また、垂木部材12は、長手方向を梁間方向に向けた状態で所定の間隔を空けて棟から軒5に向けて下り傾斜状に複数本架設されている。また、各垂木部材12は、中途部が金物部材k1を介して架構1aを形成する軒桁2bに支持されている。ジョイント金物13は、垂木部材12の先端部に連結される連結部18と、該連結部18から垂下される垂下部19とを備えている。
【0051】
鼻隠部材14は、下地板16と同様の平板状の構造用合板により形成されており、複数のジョイント金物13に跨った状態で各ジョイント金物13の垂下部19にタッピングネジ等を介して取り付けられている。また、鼻隠部材14は、上端縁を垂木部材12の上端面により形成される傾斜面12aに沿わせた状態でジョイント金物13に取り付けられており、これによって鼻隠部材14の下端部は2階部分の外壁2の上端部に相対する。また、鼻隠部材14の一方の面(表面)には、屋根板部材17を流れ落ちてくる雨水等を受ける軒樋15が取り付けられている。
【0052】
上述の如く各部材10〜14が配備されることにより、当該軒5には、軒桁2b、軒屋根11の下地板16、鼻隠部材14により包囲される軒裏空間Sが形成されており、軒裏天井構造30は、当該軒裏空間Sを下方から塞ぐ構造である。
【0053】
ところで、住宅1が密集する都市においては、ある住宅1に火災が発生することにより該住宅1に隣接する隣家に当該火災の火炎が燃え移り(かかる現象を延焼又は類焼という)、これによって隣家まで当該火災に巻き込まれてしまう虞がある。このような隣家への延焼の発端は、外壁2から突出している上述の如き軒5等が火災による火熱に相当時間晒されることにより軒5が燃えてしまうこと等であることが知られており、この種の延焼を防止すべく、軒裏には、所定の耐火性能を備えることが要求されている。
【0054】
本実施形態の軒裏天井構造30は、上述の如く軒裏に要求される耐火性能を向上させるものであって、鼻隠部材14の下端部に取り付けられるL字状金物31と、該L字状金物31に支持される軒先取付金物32と、軒桁2bの下端部に取り付けられて外壁2を支持するZ金物k2に連結される外壁取付金物33と、これら軒先取付金物32と外壁取付金物33の間に組まれる野縁組立体34と、軒先取付金物32と外壁取付金物33に亘って架設されると共に野縁組立体34に懸架される軒裏天井板29とを備えている。
【0055】
L字状金物31は、長手方向を桁行き方向に一致させた状態で鼻隠部材14の下端部に取り付けられており、該鼻隠部材14の表裏一方の面(本実施形態においては表面)に連結される連結板部37と、該連結板部37の下端から外壁2に向けて水平に突出する水平板部38とを備えている。
【0056】
軒先取付金物32は、L字状金物31の水平板部38にボルト等を介して締結される断面コ字状の取付部40と、該取付部40の下部に取り付けられる平板状の見切り板42とを備えている。当該取付部40をL字状金物31の水平板部38に取り付けると、該水平板部38の下面と見切り板42の上面は互いに平行となった状態で対向する。
【0057】
外壁取付金物33は、金属板をプレス成形等を施して形成されており、外壁2を支持するZ金物k2にタッピングネジ等を介して連結されるブラケット部43と、該ブラケット部43の先端に形成される軒天保持部46とを備えている。また、ブラケット部43には、平板部に通気孔44aが開設されている。
【0058】
また、該軒天保持部46は、一対の挟持片47,47と該一対の挟持片47,47を連結する連結部48とを備えている。また、該外壁取付金物33をZ金物k2に取り付けると、軒天保持部46の連結部48の一方の面が所定間隔を有して外壁2と対向することとなるが、該一方の面には火熱により所定温度に達すると少なくとも前記所定間隔の厚さを有するまで厚さ方向に膨張する加熱膨張材49が取り付けられている。
【0059】
また、軒先取付金物32の取付部40と外壁取付金物33の連結部48とは同一の高さを有している。また、該高さは軒裏天井板29の厚さと同一又は僅かに大きい。また、該軒先取付金物32の見切り板42の上面と外壁取付金物33の下側の挟持片47の上面とは同一の高さ位置に設定されている。
【0060】
野縁組立体34は、外壁取付金物33に支持される野縁受け51と、該野縁受け51に亘って架設される複数本の野縁52とを備えている。野縁受け51は、金属板をプレス成形してなる断面コ字状の長尺部材として形成され、平坦状の側面部53の一端に上面部54が屈曲形成されると共に他端に下面部55が屈曲形成されており、該側面部53が外壁取付金物33のブラケット部43にタッピングネジ等を介して取り付けられている。
【0061】
野縁52は、金属板をプレス成形してなる角筒状に形成されており、梁間方向に沿って設置され、一方の端部が野縁受け51の上下面部54,55及び側面部53の間に嵌り込んだ状態で当該野縁受け51にタッピングネジ等を介して取り付けられると共に、他方の端部がL字状金物31の水平板部38の上面に載置されている。
【0062】
軒裏天井板29は、軒先側の側縁部をL字状金物31の水平板部38と軒先取付金物32の見切り板42に挟持されると共に、外壁側の側縁部を外壁取付金物33の軒天保持部46の一対の挟持片47,47に挟持された状態で軒裏に設けられ、これによって軒裏空間Sを下方より塞いでいる。また、軒裏天井板29は、一方の側縁部が当該軒裏天井板29の下方より螺合されるタッピングネジ等を介してL字状金物31の水平板部38に締結されると共に、他の複数箇所が当該軒裏天井板29の下方より螺合されるタッピングネジ等を介して野縁組立体34の野縁52に締結されている。
【0063】
軒裏天井板29は、所定の耐火性能を有する平板状の繊維混入けい酸カルシウム板により形成されており、当該けい酸カルシウム板の厚さは、6mm〜16mmが好ましく、耐火性能の観点からは16mmの厚さを有するものが最も好ましい。
【0064】
ここで、また、軒裏天井板29の所定の耐火性能とは、例えば、軒裏天井板29を敷設した軒5に対して国土交通大臣認定として規定される所定の耐火試験を行った際に、当該軒5の軒裏空間Sと外壁2との間に設けられる板(標準板という)裏面の温度を所定時間の間一定の温度以下の雰囲気に維持すること可能とする性能のことを示すが、建築基準法により規定されている性能についても当然に含み、将来規定されるあらゆる評価試験において規定される性能のことをも含む。
【0065】
本実施形態においては、軒裏天井板29として繊維混入けい酸カルシウム板を採用しているが、軒裏天井板29としては、繊維混入けい酸カルシウム板に代えて、繊維混入セメントけい酸カルシウム板、繊維補強セメント板、石灰・けい酸カルシウム板、硬質木片セメント板等の窯業系サイディングボード等が用いられ、軒裏天井板29としての厚さは、要求される耐火性能や材質によって6mm〜25mm程度の間で選択されるものが好ましく、本実施形態においては、他の部材との納まり等の観点から厚さ16mmの繊維混入けい酸カルシウム板により形成される軒裏天井板29を用いている。当該軒裏天井板29は、35分〜45分程度の耐火性能を有している。
【0066】
本実施形態においては、かかる構成からなる軒裏天井構造30に耐火補強体20を設け、これによって当該軒裏天井板29の耐火性能を補完して軒裏天井構造30全体の耐火時間の延長を図るものである。
【0067】
耐火補強体20は、軒裏天井板29を通じて軒裏空間Sに向かう熱の移動を抑制するものであって、軒裏空間Sの温度上昇を鈍化させて軒裏天井板29単体による耐火時間よりも当該耐火時間を延長させ、これによって軒裏天井板29単体の耐火性能以上の耐火性能が確保される。
【0068】
ここで、熱の移動について詳述すると、熱移動には、熱伝導、熱対流、熱輻射の3つのプロセスが混在している。そこで、少なくともこれらのうちの1つでも抑制することが可能であれば、全体として熱の移動を鈍化させることができ、その結果、耐火性能を維持すべき時間(耐火時間)の延長を図ることが出来る。
【0069】
また、一方で、軒裏空間Sに向かう熱を吸収することができれば、当該軒裏空間Sに向かう熱の総量を減少させることが出来るので、これによっても軒裏空間Sの温度上昇が抑制される。
【0070】
そこで、耐火補強体20は、熱を吸収する吸熱層21と、熱の移動を抑制する熱遮断層22とを備えることとし、当該耐火補強体20を軒裏天井板29上に敷設することで、軒裏天井板29から軒裏空間Sに至る熱の移動経路の間に吸熱層21と熱遮断層22が設けられることとなり、これによって、軒裏空間Sの温度上昇が抑制されることで耐火時間が延長されることとなり、ひいては、軒裏天井構造30全体の耐火性能の向上が図られるのである。
【0071】
吸熱層21は、粉末状の水酸化アルミニウムをポリエステル製の不織布等で形成される袋体に封入してなる吸熱袋を複数個連結したものが用いられている。
【0072】
所定の耐火性能を発揮させる吸熱層21としては、粒径80μm程度の粉末状水酸化アルミニウムを5.0kg/m以上として軒裏天井板29上に敷設することが好ましい一方、施工性を確保するためには、吸熱層21を粉状物としてではなく作業者が把持出来る構成であって、且つ、必要に応じて適宜曲げ伸ばし出来る構成が好ましい。これらをいずれも達成可能な構成として、本実施形態においては、袋体を平面視で10cm×15cm程度の長方形状に形成し且つ該袋体に75g程度の水酸化アルミニウムを封入することで吸熱体を形成し、当該吸熱体を長手方向に複数個連結して帯状に形成し、更に当該帯状の吸熱体を幅方向に複数連結することで吸熱層21を形成している。
【0073】
また、熱遮断層22は、厚さを0.2mm程度とし且つ重量を0.05kg/m程度とするアルミニウム薄膜をガラスクロスで補強したアルミガラスクロスが用いられている。該熱遮断層22は、吸熱層21の上面を完全に覆った状態で設けられ、該熱遮断層22の周縁部には、軒裏天井構造30の野縁52等の上面を覆う重なり代が設けられている。また、上記耐火補強体20において、該熱遮断層22を構成するアルミガラスクロスと、吸熱層21を構成する吸熱体とは、複数位置でステープル等により連結することで一体化されている。
【0074】
これにより、軒裏天井板29上に耐火補強体20を敷設するだけで吸熱層21と熱遮断層22とが同時に形成され、軒裏天井板29上に容易に耐火補強層を形成することが可能である。また、本実施形態においては、吸熱層21、熱遮断層22ともに可撓性を有しているので、施工に応じて適宜曲げ伸ばしを行うことが可能であって、詳しくは後述するように、軒裏天井板29上への設置を容易に行い得るばかりでなく、軒裏天井板29上に設置するだけで野縁52等の軒裏天井板29上の凹凸形状に適当に追従した状態に位置付けられることとなり、施工性も極めて高いものとなるのである。
【0075】
次に図3〜図6を用いて本発明に係る耐火補強方法について詳細に説明する。図2(a)及び図3(a)に示す既存の軒裏天井構造30において、軒5の延設方向となる桁行き方向に列べて敷設されている複数枚の軒裏天井板29のうち、何れか一枚の軒裏天井板29を保持している軒先取付金物32を取り外すと共に、当該軒裏天井板29と野縁組立体34との連結を解除する。
【0076】
そして、図3(b)に示すように、当該軒裏天井板29を取り外して、軒下から軒裏に連通可能な第1の開口部23aを形成する。そして、当該軒裏天井板29を取り外して形成される第1の開口部23aから所定間隔を空けた位置に設けられている軒裏天井板29を保持している軒先取付金物32を取り外すと共に、当該軒裏天井板29と野縁組立体34との連結を解除する。そして、当該軒裏天井板29を取り外して、軒下から軒裏に連通可能な第2の開口部23bを形成する。
【0077】
なお、所定の間隔とは、3枚〜8枚程度の軒裏天井板29を一方向に敷き並べたときの長手方向の両端部間の大きさのことをいう。
【0078】
ここで、当該第1の開口部23aと第2の開口部23bと間の所定間隔とは、2枚〜5枚程度の軒裏天井板29を一方向に敷設したもの等、例えば軒5の敷設方向の一方の端部から他方の端部までの長さに等しいものとすることが出来る。
【0079】
次に図3(c)に示すように、第1の開口部23a側から、例えばカーボン製で軽く、たわみが少ない伸縮ロッド24を伸張した状態で軒裏空間S内に差し入れ、その先端部に設けられたフック24aが第2の開口部23bに届くまで伸縮ロッド24を伸張する。
【0080】
一方、第1の開口部23aと第2の開口部23bとの間の間隔以上の長さを有する一対(2本)の紐体27を用意し、伸縮ロッド24のフック24aに該一対の紐体27の両端部をそれぞれ引っ掛けて、伸縮ロッド24を収縮させて、図4(a)に示すように、一対の紐体27を第1の開口部23aまで引き込み、該紐体27を第1、第2の開口部23a,23b間に掛け渡す。更に図4(a)に示すように、該紐体27の両端部に引込み治具となる円柱状又は円筒状に形成され、且つ耐火補強体20の幅よりも大きな軸長さを有する芯体25の両端部を取り付けて接続し、該芯体25の外周に耐火補強体20の一方の端部を巻き付けた状態で巻装し、クリップ等の留め具26により留め付ける。
【0081】
更に、芯体25の両端部に第1の開口部23aと第2の開口部23bとの間の離間間隔以上の長さを有する一対(2本)の追加紐体28を取り付けて接続し、第2の開口部23b側から一対の紐体27を引くことで、図4(b)に示すように、軒裏空間Sに向けて第1の開口部23aから耐火補強体20を挿し入れ、当該第1の開口部23aから第2の開口部23bに向けて耐火補強体20を送り込むことが出来る。このとき、耐火吸熱層の吸熱層21を軒裏天井板29に対向させると共に当該吸熱層21の上方に熱遮断層22を位置付けるべく、作業者は、吸熱層21を下側として耐火補強体20を敷設していく。
【0082】
そして、第2の開口部23b側から当該耐火補強体20を引き寄せ、留め具26を取り外して耐火補強体20を芯体25から取り外す。これによって、これら両開口部23a,23b間の野縁52及び軒裏天井板29の上面に耐火補強体20の一列目の敷設が完了する(図4(c1)参照)。
【0083】
本実施形態では取り外した軒裏天井板29の長さに相当する長さだけ耐火補強体20の両端部を余分に第1、第2の開口部23a,23bから垂下させておき、図5(c)に示すように、該第1、第2の開口部23a,23bの軒裏天井板29を取り付ける際に該軒裏天井板29の上面に耐火補強体20が載置されるように構成された一例である。
【0084】
次に、図4(c1)に示す如く、第2の開口部23b側から芯体25の外周に二列目の耐火補強体20を巻き付けた状態で留め具26により留め付ける。そして、第1の開口部23a側から一対の追加紐体28を引くことで、図5(a)に示すように、軒裏空間Sに向けて第2の開口部23bから二列目の耐火補強体20を挿し入れ、当該第2の開口部23bから第1の開口部23aに向けて耐火補強体20を送り込むことが出来る。
【0085】
そして、第1の開口部23a側から当該耐火補強体20を引き寄せ、留め具26を取り外して耐火補強体20を芯体25から取り外す。これによって、図5(b1)に示すように、両開口部23a,23b間の野縁52及び軒裏天井板29の上面に耐火補強体20の二列目の敷設が完了する(図5(b2)参照)。
【0086】
このように、軒裏天井板29の幅寸法と耐火補強体20の幅寸法に対応して一列の耐火補強体20で対応出来る場合には芯体25の往復回数は1回で良いが、三列、四列…等、他の複数列の耐火補強体20を敷設する場合には、その列数に対応して耐火補強体20を留め付けた芯体25を紐体27,28を介して第1の開口部23aと第2の開口部23bとの間で往復させることで対応する。
【0087】
これにより、各軒裏天井板29の上方が耐火補強体20により覆われる。その後、図5(c)に示す如く、先ほど取り外した軒裏天井板29及び軒先取付金物32を各開口部23a,23bにそれぞれ再び取り付けると共に、タッピングネジ等を介して各軒裏天井板29を野縁組立体34に懸架させ、軒先取付金物32、L字状金物31及び外壁取付金物33により挟持させて作業を完了する。
【0088】
これにより、当該軒裏天井板29の上方にも耐火補強体20が設けられることとなる。上記耐火補強方法によれば、耐火補強体20を軒裏天井板29上に載置するに際し、軒裏天井板29の取り外し及び再取付けは、単に2枚の軒裏天井板29のみで済み、軒裏天井板29の取り外し枚数の大幅な削減が図られ、これによって作業の容易化が図られる。
【0089】
上記構成によれば、全軒裏天井板29を取り外す場合と比較して、開口部23a,23bを設ける直下のみに足場を設ければ良いため、足場が少なくて済む。
【0090】
即ち、軒裏天井構造30は通常、当該構造直下の床から作業者が手を伸ばしても届かない位置に設けられているため、軒裏天井板29の取外しや取付けはもちろん、耐火補強体20の配備についても足場を組み上げる必要が生じるものとなるが、上記耐火補強方法においては、足場を要する箇所は一対の開口部の直下のみで済むこととなり、足場組作業の大幅な省力化及び工期の短縮化が図られているのである。
【0091】
尚、2階の屋根の軒裏天井構造30であって、下方にベランダ床や外廊下等の外部床が存在しない部位に耐火補強体20を設ける場合には、地上に立設されるタワー足場を用いることが可能である。この様に、いずれの位置に設けられる軒裏天井構造30であっても、当該軒裏天井構造30に耐火補強体20を設ける場合には部分的な足場で済み、足場を組む時間を著しく省略して施工の短縮化が図られるのである。
【0092】
また、耐火補強体20に設けられる耐火吸熱体の吸熱層21の吸熱体の並びについては、二列並びと三列並びとを用意することによって、二列以上のあらゆる列数に対応可能である。もちろん、一本の吸熱体を備える耐火補強体を採用することにより、一列にも対応することが出来る。
【0093】
尚、耐火補強体20の幅として規定される吸熱体の並びは、軒5の出寸法や持ち運びの簡便さ等を鑑みて適宜変更可能であり、上記実施形態では複数の耐火補強体20を軒5の出方向に複数敷き並べたものであるが、一の耐火補強体20のみを敷設する構成も採用可能である。耐火補強体20の吸熱体の並びは、上記実施形態に限らず、三列以上の構成を採用することも可能である。
【0094】
本実施形態の構成は以上からなるものであって、上記実施形態の構成によれば、2枚の軒裏天井板29を取り外して第1の開口部23aと第2の開口部23bとを設け、一方の開口部23a(23b)から耐火補強体20を引っ張り込み、更に他方の開口部23b(23a)に向けて引き込むことで耐火補強体20を軒裏天井板29上に設置することが出来る。その後、一旦取り外した軒裏天井板29又は新たな軒裏天井板29を開口部23a,23bに夫々取り付けることで、軒裏空間S内に耐火補強体20が収容される。
【0095】
また、各開口部23a,23bに対して作業者を一人配し、一方の開口部23a(23b)側の作業者が耐火補強体20を引込み治具となる芯体25に取り付け、他方の開口部23b(23a)の作業者が該引込み治具となる芯体25を紐体27(28)により引き込むことで、随時、耐火補強体20が軒裏天井板29上に敷設されることとなり、極めて少人数で耐火補強体20の設置作業を行うことが出来る。
【0096】
また、一対の開口部23a,23b間で一対の紐体27(28)を渡し、一方の開口部23a(23b)側で一対の紐体27(28)に芯体25を取り付けると共に該芯体25に耐火補強体20を巻き付け、その後、他方の開口部23b(23a)側から紐体27(28)を引っ張ることによって芯体25及び芯体25に取り付けられた耐火補強体20(以下、「芯体25等」という)を引き寄せて、耐火補強体20を軒裏天井板29上に設置させることが出来る。
【0097】
また、一対の紐体27(28)は芯体25の軸方向の両端部に取り付けられるので、芯体25の軸心を当該芯体25の進行方向に対し垂直となるような姿勢を維持した状態で芯体25等を引き込むことが可能となり、これによって、芯体25の引込み作業に伴って耐火補強体20を軒裏天井板29の敷き並べ方向(桁行き方向)に沿って設置することができ、その後の位置調整作業を可及的に低減することができ、施工性の向上を図ることが出来る。
【0098】
また、一対の紐体27(28)の両方を引っ張りながら芯体25等を引込むこととなるため、納まり上、不可避的に形成されて芯体25等の移動を阻害する障害物等が軒裏天井板29上に設けられている場合であっても、一方の紐体27(28)の引き具合を弛緩しつつ他方の紐体27(28)を強く引く等、一対の紐体27(28)の引き具合を調整して芯体25等の姿勢を変更することができ、これによって、芯体25等の引込み作業をより効率良く行うことが可能となる。
【0099】
一方、軒裏天井構造30の大きさと耐火補強体20の大きさに対応して、いくつかの耐火補強体20を並べて設置する必要があるが、その際、一方の開口部23a(23b)側に位置する芯体25を他方の開口部23b(23a)に向けて引き寄せると、芯体25及び一対の紐体27(28)が共に他方の開口部23b(23a)に集まってしまい、次の耐火補強体20を設置するためには、一対の紐体27(28)を一対の開口部23a,23b間に渡す作業から始めなければならず、著しく手間となる。
【0100】
これに対し、一対の追加紐体28を芯体25に当初から取り付けておくこととし、これによって芯体25の引込み作業に伴って当該一対の追加紐体28を一対の開口部23a,23b間に渡すことが出来、常に紐体27,28が一対の開口部23a,23b間に渡された状態となるため、何れか一方の開口部23a(23b)側からでも他方の開口部23b(23a)側に向けて耐火補強体20を取り付けた芯体25を送り出すことが出来ることなり、作業の効率化を図ることが出来るのである。
【0101】
また、軒裏天井板29上に設けられている障害物に引込み中の芯体25等が当接する場合であっても、当該芯体25が円柱状又は円筒状に形成されたことで引っ張り力の作用により障害物に対して滑ることとなり、これによって、当該障害物に芯体25等が引っ掛かってしまう虞は充分に低減され、上述の如き引込み作業によって芯体25等を軒裏天井板29上で移動させることが出来るのである。
【0102】
また、留め具26により引込み作業の途中で耐火補強体20が芯体25から外れてしまう虞が著しく低減される。
【0103】
また、上記耐火補強方法により、耐火補強体20を容易に軒5の桁行き方向に長く形成することが出来る。また、袋体に粉状の水酸化アルミニウムを封入しているので、設置作業中での水酸化アルミニウムの飛散もなく作業性を向上させることが出来る。
【0104】
更には、袋体を連結して帯状に形成されているので、吸熱層21は充分な可撓性を有することとなり、設置作業に応じて適宜折れ曲がることとなって軒裏天井板29上への設置を容易に行い得るばかりでなく、軒裏天井板29上に設置するだけで野縁52等の障害物の凹凸形状に適当に追従した状態で位置付けられることとなり、施工性も極めて高いものとなるのである。
【0105】
また、熱遮断層22を構成するアルミガラスクロスも吸熱層21を構成する吸熱体に追従して撓むことができ、上述の吸熱層21と同様、極めて施工性も極めて高い。
【0106】
即ち、本発明の耐火補強方法によれば、既存の軒裏天井板29の全てを逐一取り外すことなくその多くを軒裏に残置させた状態で軒裏構造全体の耐火性能を向上させることが出来る。
【0107】
また、上記耐火補強方法により形成された軒裏天井構造30においては、耐火補強体20により、軒裏天井板29を通じて軒裏空間Sに移動する(上昇する)熱の移動が抑制されることとなるので、軒裏空間Sの温度上昇が鈍化し、これによって、軒裏天井板29単体による耐火性能以上の耐火性能を確保することが出来るのである。
【0108】
吸熱層21を構成する吸熱体は、熱を適宜吸収するものであって、当該吸熱層21を軒裏天井板29の上方に積層することにより軒裏天井板29から軒裏空間Sに伝達される熱の総量が低減され、これによって軒裏天井板29から軒裏空間Sに向かう熱の移動を抑制されるのである。
【0109】
また、かかる吸熱層21を水酸化アルミウムの粉末を主材として形成することで吸熱層21を軽量に形成され、耐火補強体20の軽量化が図られている。また、水酸化アルミニウムは、火災時の雰囲気温度となる280℃前後で脱水するので、火災時の伝熱を吸収する層としては好適なのである。
【0110】
また、熱遮断層22を構成するアルミニウム薄膜を主材としたアルミガラスクロスは、熱の移動の3つのプロセスである熱伝導、熱対流、熱輻射のうちの熱伝導を除く熱輻射、熱対流を主として遮断することが出来るものであって、当該熱遮断層22を構成するアルミガラスクロスを軒裏天井板29の上方に設けることにより、軒裏天井板29から軒裏空間Sに向かう熱輻射や当該熱遮断層22を構成するアルミガラスクロスの下方での対流熱の軒裏空間Sへの抜けを確実に遮断され、これによって、軒裏天井板29から軒裏空間Sに向かう熱の移動が抑制されるのである。
【0111】
また、熱抑制の効果に鑑みても、アルミニウムは、高い熱反射率(一般には97%)を有しているので、輻射熱がアルミニウム薄膜に到達する場合であっても、殆どの輻射熱はアルミニウム薄膜表面で反射されることとなり、極めて僅かな輻射熱がアルミニウム薄膜を貫通するのみである。したがって、アルミニウム薄膜は主として熱輻射を遮断する熱遮断層22として好適である。
【0112】
さらに、実施形態の耐火補強体20は、吸熱体の上部に該吸熱体を覆うようにアルミガラスクロスを設けたことで、該アルミガラスクロスによる熱輻射作用により該アルミガラスクロスと軒裏天井板29との間の空間における熱分布が均一化され、吸熱体の構造上、部分的に水酸化アルミニウムが途切れる場合であっても軒裏天井板29上の全面で均一な吸熱効果が得られる。
【0113】
図6は本願発明の他の実施形態の一例を示す図であり、前記実施形態と同様に構成されるものは同一の符号を付して説明を省略する。前記実施形態では取り外した軒裏天井板29の長さに相当する長さだけ耐火補強体20の両端部を余分に第1、第2の開口部23a,23bから垂下させておく場合について説明したが、本実施形態では、図6(a)に示すように、耐火補強体20の両端部は取り外した軒裏天井板29の長さに相当する余分な長さは設けておらず、その代わりに、図6(b)に示すように、該第1、第2の開口部23a,23bの軒裏天井板29の長さ分の長さを有する耐火補強体20を用意して軒裏天井板29を取り付ける際に該軒裏天井板29の上面に耐火補強体20が載置されるように構成したものである。他の構成は前記実施形態と同様に構成され、同様な効果を得ることが出来るものである。
【0114】
以上、本発明の耐火補強方法及び当該耐火補強方法により形成される軒裏天井構造30の実施形態について詳述したが、本発明は上記実施形態にのみ限定されるものではない。例えば、上記実施形態においては屋根庇の軒について説明したが、下屋の軒裏、ベランダの下方に位置する軒裏やピロティ上方の天井部に本発明に係る耐火補強方法を採用することも可能である。尚、必要に応じて軒5の長手方向に沿って足場を設ける構成も採用可能である。
【0115】
また、上記実施形態においては、一対の開口部を複数枚の軒裏天井板分の間隔を設けて形成したが、軒の延設方向の両端部に開口部をそれぞれ設ける構成を採用することも可能である。また、当該軒の延設方向の長さが過大である場合には、例えば上記一対の開口部間の中央となる位置辺りにさらに開口部を形成することとし、当該開口部と前記一対の開口部のうちの一方の開口部を第1、第2の開口部として上記耐火補強方法を行い、その後、当該開口部と前記一対の開口部のうちの他方の開口部を第1、第2の開口部として上記耐火補強方法を行い、これによって、当該軒の全面に亘って耐火補強体を敷設する構成を採用することももちろん可能である。
【0116】
また、寄せ棟形式や入母屋形式の屋根等、桁行き方向のみでなく梁間方向にも軒を形成する建物であっても、当該軒に対して上記耐火補強方法により耐火補強体を設けることは可能であり、かかる点に鑑みると、上記耐火補強方法は、建物に対しいずれの方向に向けて軒が延設されている場合であっても採用することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0117】
本発明の活用例として、住宅等の建物の軒裏天井構造の耐火補強方法に適用出来る。
【図面の簡単な説明】
【0118】
【図1】本発明に係る耐火補強方法により寄棟屋根を有する住宅の軒裏天井板上に帯状の耐火補強体が設置された軒裏天井構造を示す図である。
【図2】(a)は軒裏天井板上に帯状の耐火補強体を設置する前の軒裏天井構造を示す部分拡大図、(b)は軒裏天井板上に帯状の耐火補強体を設置した後の軒裏天井構造を示す部分拡大図である。
【図3】本発明に係る耐火補強方法により軒裏天井板上に帯状の耐火補強体を設置する様子を示す図である。
【図4】本発明に係る耐火補強方法により軒裏天井板上に帯状の耐火補強体を設置する様子を示す図である。
【図5】本発明に係る耐火補強方法により軒裏天井板上に帯状の耐火補強体を設置する様子を示す図である。
【図6】他の実施形態を説明する図である。
【符号の説明】
【0119】
B…基礎
S…軒裏空間
k1…金物部材
k2…Z金物
1…住宅
1a…架構
1b…外壁構造
1c…屋根構造
2…外壁
2b…軒桁
3…1階屋根
4…2階屋根
5…軒
10…軒先構造
11…軒屋根
12…垂木部材
13…ジョイント金物
14…鼻隠部材
15…軒樋
16…下地板
17…屋根板部材
18…連結部
19…垂下部
20…耐火補強体
21…吸熱層
22…熱遮断層
23a,23b…第1、第2の開口部
24…伸縮ロッド
24a…フック
25…芯体
26…留め具
27,28…紐体
29…軒裏天井板
30…軒裏天井構造
31…L字状金物
32…軒先取付金物
33…外壁取付金物
34…野縁組立体
37…連結板部
38…水平板部
40…取付部
42…見切り板
43…ブラケット部
44a…通気孔
46…軒天保持部
47…挟持片
48…連結部
49…加熱膨張材
51…野縁受け
52…野縁
53…側面部
54…上面部
55…下面部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軒の桁行き方向に沿って所定の耐火性能を有する複数枚の軒裏天井板を敷き列べて軒裏空間を形成する軒裏天井構造に可撓性を有する帯状の耐火補強体を設置する耐火補強方法であって、
何れか1枚の軒裏天井板を取り外して前記軒裏空間に通じる第1の開口部を形成した後、
前記第1の開口部に対して所定の間隔を空けてさらに1枚の軒裏天井板を取り外して前記軒裏空間に通じる第2の開口部を設け、
前記第1、第2の開口部のうちの何れか一方の開口部から前記軒裏空間及び他方の開口部を介して前記耐火補強体を引っ張り、該耐火補強体を前記他方の開口部から前記軒裏空間に引き込んで前記軒裏天井板の上面に前記耐火補強体を敷き並べる、ことを特徴とする耐火補強方法。
【請求項2】
前記耐火補強体の前記軒裏天井板上への敷き並べは、前記耐火補強体の端部を引込み治具に巻装し、該引込み治具を前記軒裏空間内で前記第1、第2の開口部のうちの何れか一方の開口部から他方の開口部にまで引き寄せることによりなされていることを特徴とする請求項1に記載の耐火補強方法。
【請求項3】
前記引込み治具は、少なくとも前記耐火補強体の幅よりも軸長さを大とする芯体と、該芯体の両端部に接続されると共に少なくとも前記第1、第2の開口部の間の間隔以上の長さを有する一対の紐体とを備え、
前記紐体を前記第1、第2の開口部間に渡し、
前記第1、第2の開口部のうちの何れか一方の開口部側で該紐体の一端に前記芯体を取り付けると共に前記耐火補強体を取り付け、
その後、他方の開口部側で該一対の紐体を引っ張ることで前記芯体を引き寄せると共に前記耐火補強体を前記軒裏天井板上に敷設していくことを特徴とする請求項2に記載の耐火補強方法。
【請求項4】
前記引込み治具は、前記芯体の両端部に接続されると共に少なくとも前記第1、第2の開口部の間の間隔以上の長さを有する一対の追加紐体を備え、
前記第1、第2の開口部のうちの何れか一方の開口部側で該紐体の一端に前記芯体を取り付けると共に前記耐火補強体を取り付ける際に前記一対の追加紐体も前記芯体に取り付け、
前記他方の開口部側で該一対の紐体を引っ張ることで前記芯体を引き寄せると共に前記耐火補強体を前記軒裏天井板上に敷設していくと同時に前記一対の追加紐体も該他方の開口部側に引き込んだ後、
該他方の開口部側で前記芯体に前記耐火補強体を取り付け、
その後、前記一方の開口部側で前記一対の追加紐体を引っ張ることで前記芯体を引き寄せると共に前記耐火補強体を前記軒裏天井板上に敷設していくと同時に前記一対の紐体も前記一対の開口部間に架け渡す、ことを特徴とする請求項3に記載の耐火補強方法。
【請求項5】
前記芯体は、円柱状又は円筒状に形成されていることを特徴とする請求項3又は請求項4に記載の耐火補強方法。
【請求項6】
前記引込み治具は、前記耐火補強体を前記芯体に巻きつけた状態で留めつけておく留め具を備えていることを特徴とする請求項3乃至請求項5の何れか1項に記載の耐火補強方法。
【請求項7】
前記耐火補強体は、水酸化アルミニウムを主材とする吸熱層を備えて形成されることを特徴とする請求項1乃至請求項6の何れか1項に記載の耐火補強方法。
【請求項8】
前記吸熱層は、水酸化アルミニウム粉末を封入してなる袋体を連結して帯状に形成されていることを特徴とする請求項7に記載の耐火補強方法。
【請求項9】
前記耐火補強体は、前記吸熱層の一方の面を覆う熱遮断層を備えていることを特徴とする請求項7又は請求項8に記載の耐火補強方法。
【請求項10】
前記熱遮断層は、アルミニウム薄膜を主材として形成されていることを特徴とする請求項9に記載の耐火補強方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−48034(P2010−48034A)
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−214977(P2008−214977)
【出願日】平成20年8月25日(2008.8.25)
【出願人】(303046244)旭化成ホームズ株式会社 (703)
【Fターム(参考)】