説明

耐熱性、成形サイクル性に優れるポリ乳酸組成物

【課題】 耐熱性と成形サイクル性に優れるポリ乳酸組成物を提供する。
【解決手段】 ポリ乳酸の耐熱性の向上と成形サイクルを短縮するために、ポリ乳酸に、特定の融点を有する共重合ポリエステル樹脂を造核剤とともに配合することにより、耐熱変形温度を向上させ、更に成形サイクルを通常の熱可塑性樹脂に匹敵するまでに短縮可能にした、耐熱性、成形サイクル性に優れた熱可塑性樹脂組成物を生成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環境負荷の少ない植物由来樹脂であるポリ乳酸の耐熱性と生産性向上の要点である成形サイクルを短縮出来る耐熱性、成形サイクル性に優れるポリ乳酸組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
トウモロコシやサトウキビを原料に製造される乳酸系樹脂は石油系樹脂に比べ、炭酸ガスの排出量が少ない、いわゆる地球環境にやさしい樹脂として注目され、商業生産も一部で進んでいる。今後環境負荷の少ない樹脂材料として今後の発展が大いに期待出来る樹脂材料である。
しかしながら、この樹脂材料は熱変形温度が低いことと、結晶化速度が遅く、射出成形の場合、成形サイクルが非常に長くなり、生産性に著しく劣るというコスト面での問題を抱えており、射出成形分野での需要が期待通りに伸びていないという問題があった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明者等は、従来の単なる造核剤を用いた手法では通常の成形サイクルの範囲では耐熱性を向上させることが難しく、かつ耐衝撃性等の物性向上に効果がないことから、この問題を解決するためにこの種樹脂材料の耐熱性、成形サイクルの短縮について鋭意研究した結果、本発明に到達した。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明においては、ポリ乳酸の耐熱性を向上し、かつ成形サイクルを短縮させるために、融点の低い共重合ポリエステルを造核剤とともに配合することによって、成形サイクルを飛躍的に短縮し、かつ熱変形温度を向上させることを可能にした。
【0005】
即ち、本発明は、(A)ポリ乳酸樹脂60〜95重量%と(B)融点が75℃〜160℃である共重合ポリエステル樹脂40〜5重量%とからなる混合物100重量部に対して、(C)官能基を有する変性オレフィン樹脂0.5〜10重量部と(D)造核剤0.1〜2重量部とを配合してなる耐熱性、成形サイクル性に優れるポリ乳酸組成物である。
以下に本発明について詳しく説明する。
【0006】
本発明におけるポリ乳酸は、トウモロコシ、サトウキビ等から得られるデンプンを酵素加水分解によってグルコースに変え、さらに、グルコースの発酵により、乳酸を得、乳酸を重合して得ることが出来る。ポリ乳酸の重合方法としては、乳酸を加熱し、脱水状態で得られる乳酸オリゴマーを減圧下で加熱分解して環状二量体であるラクチドを合成し、このラクチト゛を開環重合することによって高分子量のポリ乳酸をえることができる。ラクチドの合成と重合のスキームは以下の通りである。
乳酸→(脱水)→オリゴマー→(加熱分解)→ラクチド→(オクチル酸錫触媒)→ポリ乳酸(PLA)
【0007】
つぎに、本発明における前記共重合ポリエステル樹脂としては、一般的に広く用いられている、ポリエチレンテレフタレート(PET)やポリブチレンテレフタレート(PBT)等のポリエステル中の多価カルボン酸、多価アルコールの一部を他の成分で置き換えて共重合させたもので、共重合によって、融点が低下するものが好ましく、共重合成分としては、イソフタル酸、アジピン酸、トリメリット酸等が挙げられ、また多価アルコールとしては、ブタンジオール、1,4ヘキサンジオール、1,4シクロヘキサン等を挙げることが出来るが、いずれも共重合体の融点が160℃以下である。
【0008】
本発明における、前記官能基を有する変性オレフィン樹脂(B)としては、オレフィンと不飽和カルボン酸またはその誘導体との共重合体、オレフィンと不飽和エポキシ化合物との共重合体、ポリオレフィンに不飽和カルボン酸またはその誘導体または不飽和エポキシ化合物をグラフトさせた重合体およびそれらの一部を他のエチレン系不飽和化合物に置換した共重合体からなる群より選ばれたオレフィンを主体とする変性オレフィン共重合体である。
【0009】
オレフィンとしては、エチレン、プロピレン、ブテン−1、4−メチルペンテン−1などがあげられ、これらの1種または2種以上を用いることが出来る。特にエチレン、プロピレンが好ましい。
不飽和カルボン酸またはその誘導体としては、アクリル酸、メタクリル酸等のモノカルボン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等のジカルボン酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸等のジカルボン酸無水物、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル等のカルボン酸アルキルエステル等が挙げられ、1種または2種以上用いることができる。また不飽和エポキシ化合物としては、分子中のオレフィンと共重合しうる不飽和基とエポキシ基をそれぞれ有する化合物である。具体的にはグリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、グリシジルメチルメタクリレート、イタコン酸グリシジルエステル、ブテンカルボン酸エステル類、アリルグリシジルエーテル、2−メチルアリルグリシジルエーテル、等が挙げられ、これらの1種または2種以上を用いることが出来る。またエチレン系不飽和化合物も上述の如くアクリル酸およびメタクリル酸エステル類およびマレイン酸エステル類等が挙げられる。これらの官能基の量としては、オレフィン重合体100部に対し、0.1〜15部が好ましい。官能基をオレフィンに共重合させる方法としては、オレフィンを重合する際に官能基を有する化合物を添加して共重合する方法、押出し機を用いてグラフトする方法等が挙げられる。
【0010】
共重合またはグラフトする官能基としては、特にグリシジルメタクリレート等の不飽和エポキシ化合物がこのましい。変性オレフィン共重合体の分子量は特に制限はないが、メルトフローインデックス“MFR”(JIS K6760、190℃)1〜100g/10分であることが好ましい。
オレフィンとしては、エチレン、プロピレン、ブテン−1、4−メチルペンテン−1などがあげられ、1種または2種以上用いることが出来る。特にエチレン、プロピレンが好ましい。
【0011】
共重合ポリエステルとともに添加する造核剤としては、モンタン酸の金属石鹸、ソルビトール系化合物、フォソフォシンオキサイドのナトリゥム塩およびタルクの1種または2種以上の混合物を挙げることが出来る。
モンタン酸の金属石鹸としては、モンタン酸ナトリゥム、モンタン酸カルシゥムおよびモンタン酸マグネシゥム等が挙げられる。またソルビトール系化合物としては、1,3:2,4-ジベンジリデンソルビトール、1,3:2,4-ジパラメチルベンジリデンソルビトール、等、またフォソフォシンオキサイドのナトリゥム塩としては2,4,8,10-テトラ(tert-ブチル)-6-ヒドロキシ-12H-ジベンゾ[d,g][1,3,2]ジオキサホスホシン-6-オキサイド、ナトリゥム等でいずれも造核剤として市販されている。
造核剤として用いるときは、上記化合物を1種もしくは2種以上混合して用い、モンタン酸ナトリゥム、2,4,8,10-テトラ(tert-ブチル)-6-ヒドロキシ-12H-ジベンゾ[d,g][1,3,2]ジオキサホスホシン-6-オキサイド、ナトリゥム塩が好ましい。
【0012】
添加する共重合ポリエステル樹脂は融点が75℃〜160℃以下、好ましくは85℃〜150℃である。ここに言う融点は、島津製作所製、熱分析装置を用い、2℃/min.で昇温した時の融点である。この融点が160℃以上では、ポリ乳酸への分散が悪く、耐熱性は却って向上しない。またこの融点が75℃以下だと可塑化が進み耐熱性の低下を招く。また共重合ポリエステルの結晶化速度は速い方が望ましい。
【0013】
前記ポリ乳酸(A)と前記共重合ポリエステル樹脂(B)との混合比率は、(A)60〜95重量%に対し、(B)が40〜5重量%である。ポリ乳酸(A)が60重量%以下、即ち共重合ポリエステル樹脂(B)が40重量%以上では、衝撃強度が著しく低下し、かつ環境負荷の面からも好ましくない。またポリ乳酸樹脂(A)が95%以上、即ち共重合ポリエステル樹脂(B)が5重量%以下では、通常の成形サイクルでは耐熱性が低下し、好ましくない。このことから、より好ましい上記混合比率は(A)70〜90重量%に対し、(B)30〜10重量%である。
【0014】
さらにポリ乳酸樹脂(A)と共重合ポリエステル樹脂(B)の混合物100重量部に添加する官能基を有する変性オレフィン樹脂(C)の添加量は0.5〜10重量部である。官能基を有する変性オレフィン樹脂(C)の添加量が0.5重量部以下では、ポリ乳酸樹脂(A)と共重合ポリエステル樹脂(B)の相溶性が悪く、成形品に層剥離が発生する。また10重量部以上の添加は成形品の剛性を低下させる。このことから、官能基を有する変性オレフィン樹脂(C)のより好ましい添加量は2〜8重量部である。
【0015】
また、前記造核剤(D)の添加量は0.1〜2.0重量部である。造核剤(D)の添加量が0.1重量部以下では、ポリ乳酸の結晶化に効果がなく、耐熱性、成形サイクルの短縮に効果はなく、一方2.0重量部以上の添加では、混合物の熱安定性が悪くなり、かつ衝撃強度も著しく低下する。このことから、より好ましい造核剤(D)の添加範囲は0.2〜1.2重量部である。
【0016】
ポリ乳酸樹脂と共重合ポリエステル樹脂、および変性オレフィン樹脂の混合は、通常の1軸あるいは2軸混練機やバンバリー等のミキサーを用いて出来る。また造核剤はポリ乳酸と共重合ポリエステル樹脂、変性オレフィン樹脂の混合時に通常の方法で添加される。さらに本発明においては、混合時や成形時に必要に応じて帯電防止剤、紫外線吸収剤、滑剤、染料、顔料、可塑剤、充填材、難燃剤、発泡剤、離型剤等を配合することが出来る。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、耐熱性に優れ、成形サイクルを飛躍的に短縮させたポリ乳酸組成物を得ることができ、熱変形温度を向上させることが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下に実施例および比較例により、本発明を具体的に説明する。
【実施例1】
【0019】
市販のポリ乳酸として、三井化学社製レイシア(商品名)を、共重合ポリエステル樹脂として、エムスケミー社製グリルテックス(商品名)を用い、造核剤を変えて2軸押し出し機(日本プラコン社製30φ)でコンパウンドし、ファナック社製100T(製品記号)の射出成形機で試験片金型を用いて成形した結果を表1に示す。
(a)ポリ乳酸 レイシア(商品名、三井化学社製)
(b)共重合ポリエステル グリルテックス(商品名、エムスケミー社製)
D-1442(商品記号)
D-1351(商品記号)
(c)変性オレフィン グリシジルメチルメタクリレート(GMMA)変性PE:ボンドファーストE(商品名、住友化学社製)
(d)造核剤 NA-11(商品記号、ADEKA社製)
グリルテックス(商品名)D-1442(商品記号)の融点:110℃
【0020】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0021】
本発明のポリ乳酸組成物は、耐熱性を向上させ、成形サイクルの短縮化を可能にしたことにより、特に、射出成形分野での生産性向上に大きく貢献する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ポリ乳酸樹脂60〜95重量%と(B)融点が75℃〜160℃である共重合ポリエステル樹脂40〜5重量%からなる混合物100重量部に対して、(C)官能基を有する変性オレフィン樹脂0.5〜10重量部と(D)造核剤0.1〜2.0重量部を配合してなる耐熱性、成形サイクル性に優れるポリ乳酸組成物
【請求項2】
造核剤(D)が、モンタン酸の金属石鹸、ソルビトール系化合物、フォソフォシンオキサイドのナトリゥム塩およびタルクの1種または2種以上の混合物である請求項1に記載の耐熱性、成形サイクル性に優れるポリ乳酸組成物

【公開番号】特開2008−143989(P2008−143989A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−331204(P2006−331204)
【出願日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【出願人】(000157887)KISCO株式会社 (30)
【Fターム(参考)】