説明

耐熱性を有する2,6−ジヒドロキシ安息香酸デカルボキシラーゼおよび2,6−ジヒドロキシ安息香酸の製造方法

本発明の課題は微生物又は該微生物の処理物とレゾルシンを炭酸イオン及び/又は二酸化炭素を含む水性媒体中で接触させて2,6-ジヒドロキシ安息香酸を製造する工業的に有利な方法を提供することにある。
リゾビウム(Rhizobium)属に属する微生物よりレゾルシンから2,6-ジヒドロキシ安息香酸を生成する能力を有する耐熱性の高い酵素を見出す。該酵素をコードする遺伝子で形質転換された形質転換微生物を取得する。該形質転換微生物により製造された当該酵素を炭酸イオン及び/または二酸化炭素の存在下に水性溶媒中でレゾルシンに作用させて2,6-ジヒドロキシ安息香酸を製造する。
また、微生物又は該微生物の処理物を利用して炭酸イオン及び/又は二酸化炭素を含む水性媒体中でレゾルシンから2,6-ジヒドロキシ安息香酸を製造するに際して、有機溶媒を水性溶媒に添加する、レゾルシンの酸化を抑制する、或いは、レゾルシン、微生物又は該微生物の処理物の何れかを逐次添加することにより蓄積濃度を向上させる。その際上述の形質転換微生物を用いると更に良好な結果が得られる。上記製造方法はカテコールを用いた2,3−ジヒドロキシ安息香酸の製造に応用することが出来る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レゾルシンから2,6-ジヒドロキシ安息香酸、カテコールから2,3-ジヒドロキシ安息香酸に変換する耐熱性を有する2,6-ジヒドロキシ安息香酸デカルボキシラーゼに関するものである。また、耐熱性を有する2,6-ジヒドロキシ安息香酸デカルボキシラーゼのアミノ酸配列、それをコードする遺伝子に関するものである。さらに、耐熱性を有する2,6-ジヒドロキシ安息香酸デカルボキシラーゼのサブユニットをコードする遺伝子を含んでいる組換えプラスミド及びこのプラスミドにより形質転換した形質転換微生物に関するものである。さらには耐熱性を有する2,6-ジヒドロキシ安息香酸デカルボキシラーゼを産生する微生物または形質転換微生物を培養し、該微生物またはその培養上清およびこれらの処理物として提供される該2,6-ジヒドロキシ安息香酸デカルボキシラーゼの製造方法に関するものである。そして本発明は、この2,6-ジヒドロキシ安息香酸デカルボキシラーゼを用いた2,6-ジヒドロキシ安息香酸または2,3-ジヒドロキシ安息香酸の製造方法に関するものである。また、本発明は微生物又は該微生物の処理物を利用した2,6-ジヒドロキシ安息香酸の製造方法おいて、2,6-ジヒドロキシ安息香酸の蓄積濃度を高める方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
2,6-ジヒドロキシ安息香酸はレゾルシンを原料として、2,3-ジヒドロキシ安息香酸は、カテコールを原料としてコルベ-シュミット法による炭酸化反応により製造されている。すなわちレゾルシン、カテコールの金属塩に炭酸ガスを高温高圧下で反応させる方法により製造されているが、この方法によれば対応する多価アルコール芳香族カルボン酸の混合物が生成し、該混合物から目的化合物を分離精製するには非常な困難が伴う。そのため、選択的に目的化合物を製造する方法がいろいろ試みられているが、実用化するまでには至っていない。
【0003】
一方、レゾルシンの2位選択的にカルボキシル基を導入する方法、カテコールの3位選択的にカルボキシル基を導入する方法として、微生物菌体の触媒作用を利用した2,6-ジヒドロキシ安息香酸と2,3-ジヒドロキシ安息香酸の製法が知られている(特開2001-46093号公報)。より具体的には、微生物菌体としてはプロピオニバクテリウム(Propionibacterium)属に属する微生物を使用し、炭酸緩衝液中においてレゾルシンと接触させることにより2,6-ジヒドロキシ安息香酸をカテコールと接触させることにより2,3-ジヒドロキシ安息香酸を製造する方法である。
【0004】
また、第1回「生物機能を活用した生産プロセスの基盤技術開発」(中間評価)分科会における事業原簿(作成者 新エネルギー・産業技術総合開発機構バイオテクノロジー開発室)によるとエンテロバクター(Enterobacter)属、アグロバクテリウム(Agrobacterium)属細菌が、レゾルシンを2,6-ジヒドロキシ安息香酸に変換する触媒作用を持つと記載されているが、それ以上の詳細な記載は無い。
【0005】
さらに、平成15年度 日本生物工学会要旨集の桐村らの発表によると桐村らはRhizobium radiobacterに属する微生物に炭酸カリウム緩衝液中においてレゾルシンと接触させることにより2,6-ジヒドロキシ安息香酸を、カテコールと接触することにより2,3-ジヒドロキシ安息香酸を製造する微生物を見出している。また、その無細胞抽出液を用い最適反応条件を検討している。さらに、無細胞抽出液より本反応を触媒する酵素を精製することにより本反応が1種類の酵素によって触媒され、脱炭酸酵素の逆反応により進行することを推定している。しかしながら、その耐熱性については何ら言及しておらずその最
適温度は40℃と低く、耐熱性に優れた安定性の高い酵素とは考えにくい。
【0006】
そして2,6-ジヒドロキシ安息香酸デカルボキシラーゼのアミノ酸配列、それをコードする遺伝子はこれまでに明らかにされたことはない。したがって、その遺伝子を含むプラスミドにより形質転換された形質転換微生物、さらにその遺伝子を含むプラスミドにより形質転換された形質転換微生物が本酵素を発現し、活性を有する形質転換微生物が得られることも全く知られていない。
【0007】
以上のように本発明者が知る限り、レゾルシンを2,6-ジヒドロキシ安息香酸に、カテコールを2,3-ジヒドロキシ安息香酸に変換する触媒作用を有する微生物およびその触媒本体である酵素に関する報告は限られている。また、2,6-ジヒドロキシ安息香酸デカルボキシラーゼのアミノ酸配列、それをコードする遺伝子は全く知られていない。さらにその遺伝子を含むプラスミドにより形質転換された形質転換微生物が本酵素を発現し、活性を有する形質転換微生物が得られることも全く知られていない。
【0008】
また、2,6-ジヒドロキシ安息香酸の製造方法については、特開2001-46093号公報において反応は二酸化炭素雰囲気で行われているものの、二酸化炭素雰囲気により生成する2,6-ジヒドロキシ安息香酸の蓄積濃度を高め得ることについては何ら記載されていない。反応は水性溶媒中で行われており、有機溶媒の添加による2,6-ジヒドロキシ安息香酸蓄積濃度向上の効果についても何ら言及されていない。反応は原料、微生物を反応開始時に一括添加しており、レゾルシン10mMから得られる2,6-ジヒドロキシ安息香酸は3.3mMと蓄積濃度が低い。桐村らの報告では、反応は水性溶媒を用いて空気雰囲気で行われ、有機溶媒の添加に関しては何ら言及されていない。加えて、原料、微生物又は該微生物の処理物を反応開始時に一括添加しており、結果的にレゾルシン25mMから得られる2,6-ジヒドロキシ安息香酸は10mMであり、蓄積濃度は十分でない。
【0009】
以上のように、本発明者が知る限りは、微生物又は該微生物の処理物を利用した2,6-ジヒドロキシ安息香酸の製造方法に関する報告は限られている。
【0010】
【特許文献1】特開2001‐46093公報
【非特許文献1】第1回「生物機能を活用した生産プロセスの基盤技術開発」(中間評価)分科会における事業原簿(作成者 新エネルギー・産業技術総合開発機構バイオテクノロジー開発室):HPアドレスhttp://www.nedo.go.jp/iinkai/hyouka/nittei/150512.html(平成15年5月12日公開)
【非特許文献2】平成15年度 日本生物工学会要旨集日本生物工学会要旨集(2003)(平成15年8月25日発行)
【非特許文献3】オーガニックシンセシス(Org.Synth.)II、P.557(1973)
【非特許文献4】ジャーナルオブケミカルソサイエティー(J.Chem.Soc.)P.3503(1952)
【非特許文献5】第55回日本生物工学会大会(平成15年8月25日発行)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
微生物菌体が有する酵素の触媒作用を利用して産業上の有用物質を工業的に製造するにおいて耐熱性の有する2,6-ジヒドロキシ安息香酸デカルボキシラーゼを用いると耐熱性に応じて酵素の耐久性が向上し、経済的に有利である。また、2,6-ジヒドロキシ安息香酸デカルボキシラーゼを発現し活性を有する形質転換微生物を作製し、さらに該形質転換微生物を用い該酵素を製造することは概酵素の製造コストを下げることが可能になるため有用である。
【0012】
また、微生物又は該微生物の処理物を利用した2,6-ジヒドロキシ安息香酸の製造において、反応条件を調製することにより生成する2,6-ジヒドロキシ安息香酸の蓄積濃度を高めることは、工業的に2,6-ジヒドロキシ安息香酸を製造する際に有利である。
【0013】
本発明は、耐熱性を有する2,6-ジヒドロキシ安息香酸デカルボキシラーゼを提供するものである。また、耐熱性を有する2,6-ジヒドロキシ安息香酸デカルボキシラーゼのアミノ酸配列、それをコードする遺伝子を提供するものである。さらに、耐熱性を有する2,6-ジヒドロキシ安息香酸デカルボキシラーゼのサブユニットをコードする遺伝子を含んでいる組換えプラスミド及びこのプラスミドにより形質転換した形質転換微生物を提供するものである。さらには耐熱性を有する2,6-ジヒドロキシ安息香酸デカルボキシラーゼを産生する微生物または形質転換微生物を培養し、該微生物またはその培養上清およびこれらの処理物として提供される該2,6-ジヒドロキシ安息香酸デカルボキシラーゼの製造方法を提供するものである。そして本発明は、この2,6-ジヒドロキシ安息香酸デカルボキシラーゼを用いた2,6-ジヒドロキシ安息香酸または2,3-ジヒドロキシ安息香酸の製造方法を提供するものである。さらには、工業的に実施するのに有利な2,6-ジヒドロキシ安息香酸の製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは上記の課題を解決すべく2,6-ジヒドロキシ安息香酸、2,3-ジヒドロキシ安息香酸の製造方法について鋭意研究を重ねた結果、新規にリゾビウム(Rhizobium)属する微生物が、レゾルシンから2,6-ジヒドロキシ安息香酸に変換する活性を有することを見出した。当該活性が見出された微生物より種々の精製方法を組合わせることにより酵素を精製しその性質を調べたところ耐熱性を有する工業的に有利な2,6-ジヒドロキシ安息香酸デカルボキシラーゼであることを見出した。また、この耐熱性を有する2,6-ジヒドロキシ安息香酸デカルボキシラーゼのアミノ酸配列、それをコードする遺伝子を明らかにし、その遺伝子を含むプラスミドにより形質転換された形質転換微生物が本酵素を発現し、活性を有する形質転換微生物が得られることを明らかにした。さらには、耐熱性を有する2,6-ジヒドロキシ安息香酸デカルボキシラーゼを産生する微生物または上記形質転換微生物を培養し、該微生物またはその培養上清およびこれらの処理物として提供される該2,6-ジヒドロキシ安息香酸デカルボキシラーゼの製造方法を開発した。さらに、この2,6-ジヒドロキシ安息香酸デカルボキシラーゼを用いた2,6-ジヒドロキシ安息香酸または2,3-ジヒドロキシ安息香酸の製造方法を開発した。
【0015】
また、本発明者らは2,6-ジヒドロキシ安息香酸の製造方法について鋭意検討を行ったところ、炭酸イオン及び/又は二酸化炭素を含む水性媒体中で、微生物又は該微生物の処理物とレゾルシンを接触させて2,6-ジヒドロキシ安息香酸を製造する方法においては、以下の(1)〜(3)の知見を見出した。
(1)水性媒体に有機溶媒を添加することにより、2,6-ジヒドロキシ安息香酸の蓄積濃度を高め得ることを見出した。
(2)レゾルシンの酸化を抑制しつつ反応を進行させることにより、2,6-ジヒドロキシ安息香酸の蓄積濃度を高め得ることを見出した。
(3)レゾルシン、又は、微生物又は該微生物の処理物を逐次添加することにより、2,6-ジヒドロキシ安息香酸の蓄積濃度を高め得ることを見出した。
【0016】
そして更に(1)〜(3)の組み合わせ及び(1)〜(3)と上述の耐熱性を有する2,6-ジヒドロキシ安息香酸デカルボキシラーゼの組み合わせにより、その効果をさらに高め得ることを見出した。
【0017】
以上の知見から本発明を完成するに至った。
【0018】
すなわち、本発明は、耐熱性を有する工業的に有利な2,6-ジヒドロキシ安息香酸デカルボキシラーゼおよびその生産方法を提供し、もって、2,6-ジヒドロキシ安息香酸、2,3-ジヒドロキシ安息香酸の製造法を提供するものである。また、微生物又は該微生物の処理物を利用した2,6-ジヒドロキシ安息香酸の製造方法において、反応条件を調整することにより工業的に有利な2,6-ジヒドロキシ安息香酸の製造方法を提供するものである。
【0019】
より具体的には、以下の通りである。
[1] レゾルシンから2,6−ジヒドロキシ安息香酸を生成する能力を有する微生物又は該微生物の処理物とレゾルシンを炭酸イオン及び/又は二酸化炭素を含む水性媒体中で接触させて2,6-ジヒドロキシ安息香酸を製造する方法であって、有機溶媒を水性媒体に添加することを特徴とする製造方法。
[2] 有機溶媒の添加によって反応の平衡が2,6-ジヒドロキシ安息香酸を生成する側へ移動することを特徴とする[1]に記載の2,6-ジヒドロキシ安息香酸の製造方法。
[3] 添加する有機溶媒の1種類以上が水に対して相溶性を有することを特徴とする請求項[1]又は[2]の何れか一項に記載の2,6-ジヒドロキシ安息香酸の製造方法。
[4] 添加する有機溶媒の1種類以上が非プロトン性溶媒であることを特徴とする[1]は[2]の何れか一項に記載の2,6-ジヒドロキシ安息香酸の製造方法。
[5] 添加する有機溶媒が炭素数1から炭素数4のカルボニトリル、アルコール、エーテル、ケトン及びスルフィニルより成る群から選ばれた1種以上の溶媒であることを特徴とする[1]又は[2]に記載の2,6-ジヒドロキシ安息香酸の製造方法。
[6] 添加する有機溶媒が、アセトニトリル、イソプロパノール、ブタノール、ジエチルエーテル、アセトン、エタノール、エチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエタノール、グリセリン、ジオキサン、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフラン及びメタノールより成る群から選ばれた単一或いは複数の溶媒である[5]に記載の2,6-ジヒドロキシ安息香酸製造方法。
[7] [1]〜[6]の何れか一項に記載の2,6-ジヒドロキシ安息香酸の製造方法であって、反応系内のレゾルシンの酸化を抑制しながら反応を進行させることを特徴とする2,6-ジヒドロキシ安息香酸の製造方法。
[8] レゾルシンから2,6−ジヒドロキシ安息香酸を生成する能力を有する微生物又は該微生物の処理物とレゾルシンを炭酸イオン及び/又は二酸化炭素を含む水性媒体中で接触させて2,6-ジヒドロキシ安息香酸を製造する方法であって、反応系内のレゾルシンの酸化を抑制しながら反応を進行させることを特徴とする2,6-ジヒドロキシ安息香酸の製造方法。
[9] レゾルシンの酸化を抑制する手法として、反応系内気相部を不活性雰囲気又は二酸化炭素雰囲気とすることを特徴とする[7]に記載の2,6-ジヒドロキシ安息香酸の製造方法。
[10] 不活性雰囲気が窒素雰囲気であることを特徴とする[9]に記載の2,6-ジヒドロキシ安息香酸の製造方法。
[11] レゾルシンの酸化を抑制する手法として、反応系内を減圧し脱気することを特徴とする[7]に記載の2,6-ジヒドロキシ安息香酸製造方法。
[12] レゾルシンの酸化を抑制する手法として、水性媒体中へ酸化防止剤を添加することを特徴とする[7]に記載の2,6-ジヒドロキシ安息香酸の製造方法。
[13] 添加する酸化防止剤として、水性媒体中へ2-メルカプトエタノールを添加することを特徴とする[12]に記載の2,6-ジヒドロキシ安息香酸製造方法。
[14] 反応の進行に応じて水性媒体中へレゾルシンを2回以上に分けて必要量を分割して添加することを特徴とする、[1]〜[13]の何れか一項に記載の2,6-ジヒドロキシ安息香酸の製造方法。
[15] レゾルシンから2,6−ジヒドロキシ安息香酸を生成する能力を有する微生物又は該微生物の処理物を2回以上に分けて必要量を分割して添加することを特徴とする[1]〜[14]の何れか一項に記載の2,6-ジヒドロキシ安息香酸の製造方法。
[16] 下記の(a)〜(c)の全ての理化学的性質を有する2,6-ジヒドロキシ安息香酸デカルボキシラーゼ。
(a)作用:2,6-ジヒドロキシ安息香酸に作用してレゾルシンを生成する反応を触媒する。
(b)温度安定性:pH7.0の緩衝液中での活性半減期が50℃において約120分、60℃において約25分。
(c)至的温度:pH8で脱炭酸反応をさせる場合、温度70℃付近において作用が至的である。
[17] 下記の全ての理化学的性質をさらに有する、[16]に記載の2,6-ジヒドロキシ安息香酸デカルボキシラーゼ。
(d)炭酸イオン及び/または二酸化炭素を含む水性媒体中でレゾルシンに作用させて2,6-ジヒドロキシ安息香酸を生成する。
[18] 下記の理化学的性質をさらに有する、[16]又は[17]に記載の2,6-ジヒドロキシ安息香酸デカルボキシラーゼ。
(e)分子量:ゲルろ過クロマトグラフィーでの分子量は約151000ダルトン。
(f)サブユニット構造:SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動におけるサブユニット分子量は約37500ダルトンからなるホモテトラマー。
(g)基質特異性:2,6-ジヒドロキシ安息香酸に作用し、3,4-ジヒドロキシ安息香酸、3,5-ジヒドロキシ安息香酸には作用しない。
(h)至的pH:30℃で脱炭酸反応をさせる場合pH約8.0において作用が至的である。
(i)金属イオンの影響:Mg2+、Ni2+、Co2+、Fe3+、Zn2+、Mn2+、Mo6+、Ca2+金属イオンのいずれも脱炭酸活性を活性化しない。
(j)補酵素:TPP、PLP、NAD+、NADP+、補酵素にはなり得ず、また本酵素の吸収スペクトルは単純タンパク質の吸収スペクトルを示すことより補酵素はない。
[19] 配列表の配列番号:1記載のアミノ酸配列を有する2,6-ジヒドロキシ安息香酸デカルボキシラーゼ。
[20] 配列表の配列番号:1記載のアミノ酸配列の一部を置換、欠失、削除または挿入して得られるアミノ酸配列を有する2,6-ジヒドロキシ安息香酸デカルボキシラーゼ。
[21] Rhizobium属に属する微生物に由来する[16]〜[20]のいずれか一項に記載の2,6-ジヒドロキシ安息香酸デカルボキシラーゼ。
[22] Rhizobium属に属し、16SrDNAの5‘末端側の塩基配列が配列表の配列番号:8記載の塩基配列を含む微生物に由来する[16]〜[20]のいずれか一項に記載の2,6-ジヒドロキシ安息香酸デカルボキシラーゼ。
[23] 微生物がRhizobium.sp MTP-10005(FERM BP-10122)である、[22]に記載の2,6-ジヒドロキシ安息香酸デカルボキシラーゼ。
[24] 配列表の配列番号:2記載の塩基配列で表される2,6-ジヒドロキシ安息香酸デカルボキシラーゼのサブユニットをコードする遺伝子。
[25] 配列表の配列番号:2記載の塩基配列の一部を置換、欠失、削除または挿入して得られる塩基配列で表される2,6-ジヒドロキシ安息香酸デカルボキシラーゼのサブユニットをコードする遺伝子。
[26] 配列表の配列番号:2記載の塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする2,6-ジヒドロキシ安息香酸デカルボキシラーゼのサブユニットをコードする遺伝子。
[27] Rhizobium属に属する微生物に由来する[24]〜[26]のいずれか一項に記載の2,6-ジヒドロキシ安息香酸デカルボキシラーゼのサブユニットをコードする遺伝子。
[28] Rhizobium属に属し、16SrDNAの5‘末端側の塩基配列が配列表の配列番号:8記載の塩基配列を含む微生物に由来する[24]〜[26]のいずれか一項に記載の2,6-ジヒドロキシ安息香酸デカルボキシラーゼのサブユニットをコードする遺伝子。
[29] 微生物がRhizobium.sp MTP-10005(FERM BP-10122)である、[28]に記載の2,6-ジヒドロキシ安息香酸デカルボキシラーゼのサブユニットをコードする遺伝子。
[30] [24]〜[29]のいずれか一項に記載の2,6-ジヒドロキシ安息香酸デカルボキシラーゼのサブユニットをコードする遺伝子を含んでいる組換えプラスミド。
[31] [30]に記載のプラスミドによって形質転換された形質転換微生物。
[32] [16]〜[23]のいずれか一項に記載の2,6-ジヒドロキシ安息香酸デカルボキシラーゼを産生する微生物または[31]に記載の形質転換微生物を培養し、該微生物またはその培養上清およびこれらの処理物として提供される該2,6-ジヒドロキシ安息香酸デカルボキシラーゼの製造方法。
[33] [32]に記載の方法により製造した2,6-ジヒドロキシ安息香酸デカルボキシラーゼを、炭酸イオン及び/または二酸化炭素の存在下に水性溶媒中でレゾルシンに作用させて2,6-ジヒドロキシ安息香酸を生成させ、反応により生成した2,6-ジヒドロキシ安息香酸を該水性溶媒中より採取することを特徴とする2,6-ジヒドロキシ安息香酸の製造方法。
[34] [32]に記載の方法により製造した2,6-ジヒドロキシ安息香酸デカルボキシラーゼを、炭酸イオン及び/または二酸化炭素を含む水性媒体中でカテコールに作用させて2,3-ジヒドロキシ安息香酸を生成させ、反応により生成した2,3-ジヒドロキシ安息香酸を該水性溶媒中より採取することを特徴とする2,3-ジヒドロキシ安息香酸の製造方法。
[35] 微生物が[16]〜[23]の何れか一項に記載の2,6-ジヒドロキシ安息香酸デカルボキシラーゼを産生する微生物であることを特徴とする[1]〜[15]の何れか一項に記載の2,6-ジヒドロキシ安息香酸の製造方法。
[36] 微生物が[24]〜[30]の何れか一項に記載の遺伝子を保持し、該遺伝子情報に基づく2,6-ジヒドロキシ安息香酸デカルボキシラーゼを発現する微生物であることを特徴とする[1]〜[15]の何れか一項に記載の2,6-ジヒドロキシ安息香酸の製造方法。
[37] 微生物が[31]記載の形質転換微生物であることを特徴とする[1]〜[15]の何れか一項に記載の2,6-ジヒドロキシ安息香酸の製造方法。
【発明の効果】
【0020】
本発明により提供される耐熱性を有する2,6-ジヒドロキシ安息香酸デカルボキシラーゼを用いることにより、その反応選択性も利用し、極めて単純な工程で工業的に実施するのに有利な2,6-ジヒドロキシ安息香酸または2,3-ジヒドロキシ安息香酸の製造法が提供される。
【0021】
また、微生物又は該微生物の処理物を触媒とした2,6-ジヒドロキシ安息香酸の製造方法において、反応時の溶媒種や原料の安定性などの反応条件を調整することにより生成する2,6-ジヒドロキシ安息香酸の蓄積濃度を高め、安全かつ簡単な工程で工業的に実施するのに有利な2,6-ジヒドロキシ安息香酸の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】2,6−ジヒドロキシ安息香酸デカルボキシラーゼのSDS−PAGE結果を示す電気泳動写真である。レーン1は分子量マーカー、レーン2は実施例1記載2,6−ジヒドロキシ安息香酸デカルボキシラーゼ精製酵素液、レーン3は実施例7の結果を、レーン4は比較例4の結果をそれぞれ示す。
【図2】反応液中の2,6-ジヒドロキシ安息香酸生成濃度の経時変化を示すグラフである。図中、ひし形は実施例23の結果を、四角は比較例8をそれぞれ示す。
【図3】実施例24に記載の反応液中の2,6-ジヒドロキシ安息香酸生成濃度の経時変化を示すグラフである。
【図4】反応液中のモル比(レゾルシンと2,6-ジヒドロキシ安息香酸のモル量の和に対する2,6-ジヒドロキシ安息香酸のモル量)の経時変化を示すグラフである。図中、レゾルシンをRS、2,6−ジヒドロキシ安息香酸を2,6−DHBAと略記する。ひし形は実施例33の結果を、四角は実施例34の結果をそれぞれ示す。横軸は反応時間(Hr)を表す。
【図5】反応液中のモル比(レゾルシンと2,6-ジヒドロキシ安息香酸のモル量の和に対する2,6-ジヒドロキシ安息香酸のモル量)の経時変化を示すグラフである。図中、レゾルシンをRS、2,6−ジヒドロキシ安息香酸を2,6−DHBAと略記する。ひし形は比較例9の結果を、四角は比較例10の結果をそれぞれ示す。横軸は反応時間(Hr)を表す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明は、耐熱性を有する2,6-ジヒドロキシ安息香酸デカルボキシラーゼに関する。本発明において2,6-ジヒドロキシ安息香酸デカルボキシラーゼとは、2,6-ジヒドロキシ安息香酸に作用してレゾルシン、炭酸の生成を触媒する酵素を指す。本発明の2,6-ジヒドロキシ安息香酸デカルボキシラーゼは以下の(a)〜(c)の全ての理化学的性質を有する。
(a)作用:2,6-ジヒドロキシ安息香酸に作用してレゾルシンを生成する反応を触媒する。
(b)温度安定性:pH7.0の緩衝液中での活性半減期が50℃において約120分、60℃において約25分。
(c)至的温度:pH8で脱炭酸反応をさせる場合、温度70℃付近において作用が至的である。なお本発明の2,6-ジヒドロキシ安息香酸デカルボキシラーゼは好ましくは以下の(d)の理化学的性質をさらに有する。
(d)炭酸イオン及び/または二酸化炭素を含む水性溶媒中でレゾルシンに作用させて2,6-ジヒドロキシ安息香酸を生成する。本発明の2,6-ジヒドロキシ安息香酸デカルボキシラーゼはさらに好ましくは以下の(e)〜(i)の全ての性質を持つ。
(e)分子量:ゲルろ過クロマトグラフィーでの分子量は151000ダルトン。
(f)サブユニット構造:SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動におけるサブユニット分子量は約37500ダルトンからなるホモテトラマー。
(g)基質特異性:2,6-ジヒドロキシ安息香酸に作用し、3,4-ジヒドロキシ安息香酸、3,5-ジヒドロキシ安息香酸には作用しない。
(h)至的pH:30℃で脱炭酸反応をさせる場合pH約8.0において作用が至的である。
(i)金属イオンの影響:Mg2+、Ni2+、Co2+、Fe3+、Zn2+、Mn2+、Mo6+、Ca2+金属イオンのいずれも脱炭酸活性を活性化しない。
(j)補酵素:TPP、PLP、NAD+、NADP+のいずれも補酵素にはなり得ず、また本酵素の吸収スペクトルは単純タンパク質の吸収スペクトルを示すことより補酵素はない。
【0024】
本発明において、上記の(a)記載の作用、つまりは2,6-ジヒドロキシ安息香酸デカルボキシラーゼの脱炭酸活性は次のようにして測定することにより確認できる。例えば100μlの酵素液と9mMの基質(例えば2,6-ジヒドロキシ安息香酸)を含む100mM燐酸カリウム緩衝液(pH7.0)総量1ml中で、30℃、5分間で反応させる。この反応によって生成する生成物(例えばレゾルシン)量をHPLC法によって測定することにより酵素活性を測定できる。HPLC法としては、オクタデシル基を有したシリカゲルパックドカラムなどを固定相に用い、水とアセトニトリルの混合物に0.1%トリフルオロ酢酸を添加したものを移動相とする一般的な逆相クロマトグラフィー、検出は紫外部分光検出器によって波長280nm付近で行う方法が例示できる。
【0025】
(b)記載の本発明における酵素の温度安定性指標の1つである活性半減期とは、水性媒体中に溶解している酵素をある処理温度(例えば50℃)で保持した際、未処理の酵素活性を100%とした時に処理後の酵素活性が50%になる時間のことである。本活性半減期を求めるには以下の条件にて熱処理を行うことにより求められる。熱処理において使用される水性媒体とは1mM以上1M以下の塩濃度の緩衝液、望ましくは1mM以上100mM以下の塩濃度の緩衝液、より望ましくは5mM以上15mM以下の塩濃度の緩衝液である。ここでいう緩衝液の種類は特に制限は無いがpH7付近で緩衝能が高い燐酸カリウム緩衝液を例示できる。熱処理する方法としては水性媒体中に溶解している酵素を瞬時に指定の温度において処理できる方法であれば特に制限はない。例えば容量15mLの蓋付きガラス製試験管に1.0mLの水性媒体に溶解している酵素を入れ、指定の温度に制御した水浴恒温槽に浸漬し、振とうしながら必要時間保持すれば良い。ここで述べるpH7.0の緩衝液中での活性半減期が50℃において約120分とは、20分以上220分以下、望ましくは70分以上170分以下、より望ましくは110分以上130分以下のことである。また、60℃において約25分とは10分以上40分以下、望ましくは15分以上35分以下、より望ましくは20分以上30分以下のことである。
【0026】
(c)記載の至的温度については上記の2,6-ジヒドロキシ安息香酸デカルボキシラーゼの脱炭酸活性の測定方法において温度のみを変化させることにより容易に求められる。70℃付近とは45℃以上95℃以下、望ましくは55℃以上85℃以下、望ましくは65℃以上75℃以下のことを指す。
【0027】
(d)記載の性質については、炭酸イオン及び/または二酸化炭素の存在下に水性溶媒中でレゾルシンに本酵素を作用させて2,6-ジヒドロキシ安息香酸を生成の有無を測定すれば確認できる。
炭酸イオン及び/または二酸化炭素の存在下とは、レゾルシンに付加されるカルボキシル基の供給源を水生溶媒中に共存させるためであり、より具体的には、重炭酸ナトリウム、炭酸ナトリウムに代表される炭酸塩を上述の水生溶媒中に添加し、もしくは、気体・液体・固体の二酸化炭素を該水生溶媒中に吹き込み、または、添加することで調製することができる。2,6-ジヒドロキシ安息香酸を生成の有無はHPLC法によって測定することが測定できる。HPLC法としては、オクタデシル基を有したシリカゲルパックドカラムなどを固定相に用い、水とアセトニトリルの混合物に0.1%トリフルオロ酢酸を添加したものを移動相とする一般的な逆相クロマトグラフィー、検出は紫外部分光検出器によって波長280nm付近で行う方法が例示できる。
【0028】
(e)に記載しているように本酵素はゲルろ過クロマトグラフィーにおける分子量は約151000ダルトンを示す。約151000ダルトンとは、140000ダルトン〜160000ダルトン、好ましくは145000ダルトン〜155000ダルトンを指す。
【0029】
(f)に記載しているように本酵素はSDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動におけるサブユニット分子量は約37500ダルトンを示す。約37500ダルトンとは33000ダルトン〜43000ダルトン好ましくは35000ダルトン〜40000ダルトンを指す。(e)に記載しているゲルろ過クロマトグラフィーにおける分子量とSDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動におけるサブユニット分子量から本酵素はホモテトラマーであることが容易に推定できる。
【0030】
(g)に記載している基質特異性については上記の2,6-ジヒドロキシ安息香酸デカルボキシラーゼの脱炭酸活性の測定方法において基質のみを変えることにより容易に求められ、2,6-ジヒドロキシ安息香酸に作用し、3,4-ジヒドロキシ安息香酸、3,5-ジヒドロキシ安息香酸には作用しない。
【0031】
(h)に記載している至的pHについては上記の2,6-ジヒドロキシ安息香酸デカルボキシラーゼの脱炭酸活性の測定方法においてpHのみを変えることにより容易に求められ、30℃で脱炭酸反応をさせる場合pH約8.0において作用が至的である。約pH8.0とはpH6.0以上9.0以下、望ましくはpH7.0以上8.5以下のことを指す。使用する緩衝液に特に制限は無いがピペラジン(pH5〜5.5)、MES(pH5.5〜6.5)、リン酸カリウム(pH
6.5〜8.0)、Tris(pH8.0〜9.0)、CHES(pH 9.0〜10.0)濃度としては100mMを例示できる。
【0032】
(i)に記載している金属の影響については上記の2,6-ジヒドロキシ安息香酸デカルボキシラーゼの脱炭酸活性の測定方法において反応系に各種金属の終濃度が1mMになるように添加し活性を測定することにより容易に求められ、Mg2+、Ni2+、Co2+、Fe3+、Zn2+、Mn2+、Mo6+、Ca2+金属イオンのいずれも脱炭酸活性を活性化しない。
【0033】
(j)に記載している補酵素の影響については上記の2,6-ジヒドロキシ安息香酸デカルボキシラーゼの脱炭酸活性の測定方法において反応系にTPP、PLPについては終濃度50μM、NAD+、NADP+については終濃度が1mMになるように添加し活性を測定することにより容易に求められ、TPP、PLP、NAD+、NADP+はいずれも補酵素にはなり得なかった。また本酵素の吸収スペクトルは単純タンパク質の吸収スペクトルを示すことより補酵素は無いと考えられる。
【0034】
本発明における2,6-ジヒドロキシ安息香酸デカルボキシラーゼの一態様は、配列表の配列番号:1に記載のアミノ酸配列、あるいは配列番号:1に記載のアミノ酸配列に1もしくは2以上、好ましくは数個のアミノ酸が2,6-ジヒドロキシ安息香酸デカルボキシラーゼ活性が維持し得る範囲内で置換、欠失、修飾または挿入または付加されたアミノ酸配列を有する。
【0035】
本発明における2,6-ジヒドロキシ安息香酸デカルボキシラーゼをコードするポリヌクレオチドは配列表の配列番号:2に記載の塩基配列を含む。配列番号:2に示す塩基配列は、配列番号:1に示すタンパク質をコードする。ただし、配列番号:1に示すアミノ酸配列をコードする塩基配列には、配列番号:2に示す塩基配列のみならず、異なるコドンに基づくあらゆる塩基配列が含まれる。更に適宜置換、欠失、修飾または挿入または付加を導入する事によりポリヌクレオチドのホモログを得る事も可能である。本発明におけるポリヌクレオチドのホモログは配列番号:2に示す塩基配列に対して、これによりコードされる2,6-ジヒドロキシ安息香酸デカルボキシラーゼの酵素活性を維持し得る範囲内で塩基の置換、欠失または付加を行って得られるものである。このホモログには、例えば、配列番号:1の塩基配列の相補配列を有するポリヌクレオチドとストリンジェントな条件でハイブリダイズできる塩基配列を有するポリヌクレオチドを挙げることができる。
【0036】
このストリンジェントな条件でのハイブリダイゼ-ションは、例えばMolecular Cloning:Cold Spring Harbor Laboratory
Press,Current Protocols in Molecular Biology;Wiley Interscienceに記載の方法によって行なう事ができ、市販のシステムとしては、GeneImageシステム(アマシャム社製)を挙げる事ができる。
【0037】
具体的には以下の操作によってハイブリダイゼ-ションを行なう事ができる。試験すべきDNAまたはRNA分子を転写した膜を製品プロトコールに従って、標識したプローブとプロトコール指定のハイブリダイゼ-ションバッファー中でハイブリダイズさせる。ハイブリダイゼ-ションバッファーの組成は、0.1重量%SDS、5重量%デキストラン硫酸、1/20溶のキット添付のブロッキング試薬及び2〜7×SSCからなる。ブロッキング試薬としては例えば、100×Denhardt‘s solution、2%(重量/容量)Bovine
serum albumin、2%(重量/容量)FicllTM400、2%(重量/容量)ポリビニルピロリドンを5倍濃度で調整したものを1/20に希釈して使用する事ができる。20×SSCは、3M塩化ナトリウム、0.3Mクエン酸溶液であり、SSCは、より好ましくは3〜6×SSC、更に好ましくは4〜5×SSCの濃度で使用する。ハイブリダイゼ-ションの温度は40〜80℃、より好ましくは50〜70℃、更に好ましくは55〜65℃の範囲であり、数時間から一晩のインキュベーションを行った後、洗浄バッファーで洗浄する。洗浄の温度は、好ましくは室温、より好ましくはハイブリダイゼーション時の温度である。洗浄バッファーの組成は6×SSC+0.1重量%SDS溶液、より好ましくは4×SSC+0.1重量%SDS溶液、更に好ましくは1×SSC+0.1重量%SDS溶液、最も好ましくは0.1×SSC+0.1重量%SDS溶液である。このような洗浄バッファーで膜を洗浄し、プローブがハイブリダイズしたDNA分子またはRNA分子をプローブに用いた標識を利用して識別する事ができる。
【0038】
本発明の2,6-ジヒドロキシ安息香酸デカルボキシラーゼをコードするDNAは、例えば以下のような方法によって単離することができる。下記に述べる方法により例えばリゾビウム スピーシズ(Rhizobium sp)MTP-10005(FERM
BP-10122)を培養し、培養した菌体より下記に述べる精製操作により精製酵素を得る。得た精製酵素のN末端およびリジルエンドぺプチダーゼ、V8プロテアーゼなどの酵素により切断後HPLCによって分取したペプチドをプロテインシーケンサーにより解析する。その結果、リゾビウム
スピーシズ(Rhizobium sp)MTP-10005(FERM BP-10122)においては配列表の配列番号3から7に示す部分アミノ酸配列を有することが判明した。
【0039】
尚、上記リゾビウム スピーシズ(Rhizobium sp)MTP-10005(FERM BP-10122)は、日本国茨城県つくば市東1丁目1番1号中央第6にある独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターに、平成15年7月8日から特許手続上の微生物の寄託の国際的承認に関するブダペスト条約に基づいて上記受託番号にて寄託されている。
【0040】
なお、得られたアミノ酸配列情報を元にPCR用のプライマーを設計し、酵素生産株の染色体DNAもしくは、cDNAライブラリーを鋳型とし、本プライマーを用いてPCRを行うことにより本発明の2,6-ジヒドロキシ安息香酸デカルボキシラーゼをコードするDNAの一部を得ることができる。さらに得られたDNA断片をプローブとして、酵素生産株の染色体DNAを制限酵素消化物をファージ、プラスミドなどのベクターに導入し、大腸菌を形質転換して得られたライブラリーやcDNAライブラリーを利用して、コロニーハイブリダイゼーション、プラークハイブリダイゼーションなどにより、本発明の2,6-ジヒドロキシ安息香酸デカルボキシラーゼをコードするDNAを得ることが可能である。また、TaKaRa-La PCRTm
in vitro cloning Kit(タカラバイオ社製)を用いることにより、本発明の2,6-ジヒドロキシ安息香酸デカルボキシラーゼをコードするDNAを得ることが可能である。
【0041】
上記のようにして単離された本発明の2,6-ジヒドロキシ安息香酸デカルボキシラーゼをコードするDNAを、例えば宿主が大腸菌の場合、pUC18やpKK223-3、pBR322、BluescriptII-SK(+)、pSC101、pET−3b、pET−11bなどに代表される発現用のプラスミドに組み込むことにより、2,6-ジヒドロキシ安息香酸デカルボキシラーゼ発現プラスミドが提供される。尚、形質転換に使用する宿主生物としては、組換えベクターが安定、かつ自律的に増殖可能で、さらに外来性DNAの形質が発現できるものであればよく、例として大腸菌が挙げられるが、特に大腸菌に限定されるものではない。そして、2,6-ジヒドロキシ安息香酸デカルボキシラーゼ発現プラスミドで形質転換して得られた形質転換微生物を公知の情報に基づいて、培養することができ、培養した形質転換微生物が2,6-ジヒドロキシ安息香酸デカルボキシラーゼ活性を有することにより2,6-ジヒドロキシ安息香酸デカルボキシラーゼをコードするDNAが含まれているプラスミドであることが確認できる。さらにそのプラスミドの塩基配列を解析することによって、目的の2,6-ジヒドロキシ安息香酸デカルボキシラーゼをコードするDNAの塩基配列が判明し、DNAの塩基配列からコードされている2,6-ジヒドロキシ安息香酸デカルボキシラーゼのアミノ酸配列を推定することができる。
【0042】
また、形質転換微生物を利用することによって、発現する2,6-ジヒドロキシ安息
香酸デカルボキシラーゼの酵素量を増加させることが可能となる。酵素量を増加させる手段としては、遺伝子の転写調整領域の改良、遺伝子のコピー数の増加、蛋白への翻訳の効率化、好適な宿主の選択などが挙げられる。転写調整領域の改良とは、遺伝子の転写量を増加させる改変を加えることをいう。例えば、プロモーターに変異を導入しプロモーターを強化し、下流にある遺伝子の転写量を増加させる方法が挙げられる。その他にも、宿主内で強力に発現するプロモーターを導入する方法が挙げられ、例えば宿主が大腸菌においては、lac、tac、trp、T7などのプロモーターが挙げられる。遺伝子のコピー数の上昇は、具体的には、2,6-ジヒドロキシ安息香酸デカルボキシラーゼ遺伝子を多コピー型ベクターに挿入し、得られた組み換えDNAを宿主細胞に保持させればよい。蛋白の翻訳効率を上昇させる方法としては、例えば原核生物ではSD配列、真核生物ではコンセンサス配列を導入、改変することなどが挙げられる。ここでいうSD配列、コンセンサス配列とは、各生物のリボソーム結合部位を言う。これら2,6-ジヒドロキシ安息香酸デカルボキシラーゼの酵素量を増加させる方法としては特に上述に限定されるものではない。
【0043】
本発明における2,6-ジヒドロキシ安息香酸デカルボキシラーゼの由来に特には制限はないが、好ましくは微生物に由来するものであり、さらに好ましくは好気下での培養ができる微生物に由来するものであり、さらに好ましくはリゾビウム(Rhizobium)属に属する微生物に由来するものであり、さらに好ましくはリゾビウム(Rhizobium)属に属する微生物の16SrDNAのうち5‘末端側の塩基配列が配列表の配列番号:8記載の塩基配列である微生物に由来するものである。より具体的には、リゾビウム
スピーシズ(Rhizobium sp)MTP-10005(FERM BP-10122)を好適な事例として挙げる事ができる。また、公知の2,6-ジヒドロキシ安息香酸デカルボキシラーゼを遺伝子組換えによって改変したものであっても、本発明に包含される。
【0044】
なお、本発明における2,6-ジヒドロキシ安息香酸デカルボキシラーゼが由来するRhizobium属微生物の16SrDNAの5’末端側の塩基配列はRhizobium属に属する微生物をLB
Broth(Becton Dickinson社製)寒天培地に塗抹後、30℃、2日間培養して得られた菌体よりPrepMan Method(Applied Biosystem社製)を用いてゲノムDNAを抽出し、抽出したゲノムDNAを鋳型としてPCRにより16SrDNAのうち5’末端側約500bpの領域を増幅し、増幅された塩基配列をシーケンシングすることにより決定できる。
【0045】
本発明における2,6-ジヒドロキシ安息香酸デカルボキシラーゼを得るために必要な微生物の培養物は、当該分野で一般的な微生物の培養方法に準拠した方法を採用することにより得ることができるが、より具体的には、以下のような条件である。
【0046】
培養用の培地は、当該微生物を通常この分野において用いる培地、例えば、肉エキス、酵母エキス、麦芽エキス、ペプトン、NZアミン等の有機栄養源、グルコース、マルトース、しょ糖、でんぷん、有機酸等の炭素源、硫酸アンモニウム、尿素、塩化アンモニウム等の窒素源、リン酸塩、マグネシウム、カリウム、鉄等の無機栄養源、ビタミン類を適宜組み合わせて使用すればよい。
【0047】
培養温度は、20〜40℃、より好ましくは25〜35℃で、培養pHは、pH5.0〜10.0でより好ましくはpH6.0〜9.0で行いうる。また、嫌気下、好気下でいずれの条件下でも行うことができるが、通常は増殖速度が速い好気下での振盪培養が好ましい。培養日数は、特に制限されるものではないが、好ましくは、1〜7日の範囲で目的の活性が最大になるまで培養すればよい。
【0048】
また、2,6-ジヒドロキシ安息香酸デカルボキシラーゼ活性を高めるためには、菌体を増殖させるための培地に2,6-ジヒドロキシ安息香酸の添加が有効である。添加量は、培地中に1〜100mM、好ましくは10〜50mMとなるように添加することが好ましい。
【0049】
そして、本発明においては該プラスミドで形質転換して得られた形質転換微生物をそれ自体公知の方法により培養することができ、本発明の2,6-ジヒドロキシ安息香酸デカルボキシラーゼを産生させることもできる。この場合使用される培地としては炭素源、窒素源、無機物及びその他の栄養素を適量含有する培地ならば合成培地または天然培地のいずれでも使用可能である。培養は前記培養成分を含有する液体培地中で振とう培養、通気攪拌培養、連続培養、流加培養などの通常の培養方法を用いて行う事が出来る。培養条件は、培養の種類、培養方法により適宜選択すればよく、菌株が生育し2,6-ジヒドロキシ安息香酸デカルボキシラーゼを産生できる条件であれば特に制限はない。
【0050】
尚、以上の培養条件は、用いる微生物や培地組成などに応じて変更することは可能であるが、レゾルシンを2,6-ジヒドロキシ安息香酸にカテコールを2,3-ジヒドロキシ安息香酸に変換する活性が最大になるように設定することが重要であることは当然である。
【0051】
2,6-ジヒドロキシ安息香酸デカルボキシラーゼは次のような方法で精製することが可能である。2,6-ジヒドロキシ安息香酸デカルボキシラーゼが培養上清中に分泌される場合は遠心分離等を用い微生物菌体を除いたものを粗酵素液とすることができる。2,6-ジヒドロキシ安息香酸デカルボキシラーゼが菌体内に蓄積される場合には、培養終了後、微生物をろ過、遠心分離等の方法で集め、緩衝液、生理食塩水等で菌体を洗浄後、凍結融解処理、超音波処理、加圧処理、浸透圧差処理、磨砕処理などの物理処理や、リゾチームなどの細胞溶解酵素処理のような生化学的処理もしくは界面活性剤との化学的処理を組み合わせて行うことにより微生物を破砕し、破砕した菌体液を緩衝液等に懸濁し、不溶物を遠心分離等で除去したものを粗酵素液とすることができる。また植物や動物組織に2,6-ジヒドロキシ安息香酸デカルボキシラーゼが含まれる場合も上に述べたような菌体内に蓄積される場合と同様に粗酵素液を調製することが可能である。こうして得られた粗酵素液を、塩析、有機溶媒などによる分別沈殿、イオン交換クロマトグラフィー、疎水クロマトグラフィー、ゲルろ過クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィーなどの各種クロマトグラフィーによる分離および等電点電気泳動、native-電気泳動などの電気泳動法による分離等の手段を単独もしくは組合わせることにより精製し電気泳動的に単一のバンドに精製することができる。
【0052】
本発明における2,6-ジヒドロキシ安息香酸および2,3-ジヒドロキシ安息香酸の製造方法とは炭酸イオン及び/または二酸化炭素存在下において水性溶媒中にて該2,6-ジヒドロキシ安息香酸デカルボキシラーゼをレゾルシンまたはカテコールに作用させて2,6-ジヒドロキシ安息香酸または2,3-ジヒドロキシ安息香酸を生成させ、反応により生成した2,6-ジヒドロキシ安息香酸または2,3-ジヒドロキシ安息香酸を該水性溶媒中より採取することを特徴とする2,6-ジヒドロキシ安息香酸または2,3-ジヒドロキシ安息香酸の製造方法であれば特に制限はない。したがって、上記のように微生物を培養して得た培養液自体、もしくは、該培養液から遠心分離・濾過等の操作により分離される該微生物菌体、上記の微生物菌体の洗浄物、破砕物、または、抽出物等、菌体を生理食塩水などで洗浄して得られる洗浄菌体、菌体や洗浄菌体を凍結乾燥、アセトン乾燥処理することなどにより得られる乾燥菌体、種々の物理化学的方法、例えば超音波破砕、フレンチプレス、浸透圧、凍結融解、溶菌酵素、界面活性剤及び有機溶媒処理等により得られる菌体破砕物、例えば菌体破砕物や培養上清等から、硫安分画、イオン交換クロマトグラフィー、ゲル濾過、疎水クロマトグラフィー、アフィニイティークロマトグラフィー等の常法(これらの組み合わせを含む)により、2,6-ジヒドロキシ安息香酸をレゾルシンに変換する活性画分を特定・分離して得た粗精製酵素および精製酵素、上述の微生物の培養物、処理物、粗精製酵素、精製酵素をポリアクリルアミド法、アルギン酸法、カラギーナン法、または適当な坦体に共有結合法、吸着法等公知の方法で固定化することにより得た固定化物を、炭酸イオン及び/または二酸化炭素の存在下にて水性溶媒中でレゾルシンに作用させて2,6-ジヒドロキシ安息香酸をまたはカテコールに作用させて2,3-ジヒドロキシ安息香酸を生成させ、反応により生成した2,6-ジヒドロキシ安息香酸または2,3-ジヒドロキシ安息香酸を該水性溶媒中より採取することを特徴とする2,6-ジヒドロキシ安息香酸2,3-ジヒドロキシ安息香酸の製造方法は本製造法に含まれる。
【0053】
これら微生物の培養物、処理物、粗精製酵素、精製酵素および、固定化物は、その製造直後に反応して用いることはもちろん、たとえば低温条件下等にて製造後一旦保管し、必要に応じて必要量を使用することもできる。
【0054】
このように調製された微生物の培養物、処理物、粗精製酵素、精製酵素および固定化物を炭酸イオン及び/または二酸化炭素の存在下にて水性溶媒中でレゾルシンに作用させて2,6-ジヒドロキシ安息香酸またはカテコールに作用させて2,3-ジヒドロキシ安息香酸を生成させるが、その際の培養物、処理物や固定化物の使用量は、通常、目的とする効果を発揮する量(有効量)であれば良く、この有効量は当業者であれば簡単な予備実験により容易に求められる。
【0055】
本発明において、炭酸イオン及び/又は二酸化炭素を含む水性媒体は、レゾルシンまたはカテコールに付加されるカルボキシル基の供給源となるのであれば特に制限はない。すなわち、炭酸イオン及び/または二酸化炭素を含む水性媒体とは、具体的には、重炭酸塩、炭酸塩を上述の水性溶媒中に添加し、もしくは、気体・液体・固体の二酸化炭素を該水性溶媒中に吹き込み、又は添加することで調製することができる。重炭酸塩、炭酸塩のカチオン種としては、各種金属イオン、有機化合物のカチオン、アンモニアイオンなどが挙げられる。尚、炭酸イオン及び/または二酸化炭素の水性媒体中での濃度は特に制限はないが、50〜5000mMの濃度が例示できる。また、CO超臨界条件下での反応も可能である。尚、水性媒は特に制限がなく、2,6-ジヒドロキシ安息香酸または2,3-ジヒドロキシ安息香酸の生成に影響を及ぼさない限りは、均一混合系でも二相系でもよい。
【0056】
本発明における水性溶媒中より2,6-ジヒドロキシ安息香酸または2,3-ジヒドロキシ安息香酸を採取する方法とは、生成した2,6-ジヒドロキシ安息香酸または2,3-ジヒドロキシ安息香酸を反応液から分離・精製する方法であれば特に制限はないが、たとえば、反応液を濾過や遠心分離等により前処理した後、得られた上清液に塩酸や硫酸等の酸溶液を加えて酸性化することにより、2,6-ジヒドロキシ安息香酸または2,3-ジヒドロキシ安息香酸の粗結晶を回収する方法を好適な例として挙げることができる。また、溶剤抽出等の方法により回収することも可能であり、クロマトグラフィー等公知の精製方法を適宜併用することもできる。
【0057】
本発明において2,6-ジヒドロキシ安息香酸の製造方法に使用される微生物は、上述の耐熱性を有する2,6−ジヒドロキシ安息香酸デカルボキシラーゼを発現する微生物が好ましい。しかしながら、このような微生物に限定されることなく、炭酸イオン及び/又は二酸化炭素を含む水性媒体中でレゾルシンから2,6-ジヒドロキシ安息香酸を生成する能力を有する微生物であればよい。詳しくは、炭酸イオン及び/又は二酸化炭素を含む水性媒体中でレゾルシンから2,6-ジヒドロキシ安息香酸を生成する酵素を発現する微生物であればよい。以後、炭酸イオン及び/又は二酸化炭素を含む水性媒体中でレゾルシンから2,6-ジヒドロキシ安息香酸を生成する能力を有する微生物を単に微生物と呼ぶことがある。微生物の帰属分類群としては、細菌、放線菌、酵母、かび等に属する微生物が挙げられる。より具体的には、Agrobacterium属、Campylobacter属、Clostridium属、Enterobacter属、Propionibacterium属、Rhizobium属に属する微生物、好ましくは、Propionibacterium属やRhizobium属に属する微生物が挙げられ、特にPropionibacterium freudenreichii(代表例
MT-10883)、Rhizobium sp.(代表例 MTP-10005)が例示できる。MT-10883は受託番号FERM BP−10121として日本国茨城県つくば市東1丁目1番号中央第6にある独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターに平成11年6月8日から特許手続上の微生物の寄託の国際的承認に関するブダペスト条約に基づいて寄託されている。
【0058】
使用される微生物は、炭酸イオン及び/又は二酸化炭素を含む水性媒体中でレゾルシンから2,6-ジヒドロキシ安息香酸を生成する酵素を発現する微生物であれば、自然界に存在する天然の微生物でも人為的に作製された組換え微生物でもよい。ここで述べる組換え微生物とは、2,6-ジヒドロキシ安息香酸生産に関与する酵素をコードするDNA配列により宿主細胞を形質転換したものであり、この組換え微生物により、構成的或いは誘導的に該酵素を効率的に生産し得るものである。また、天然の微生物又は組換え微生物にニトロソグアニジンのような変異導入剤と接触させる手法やUV照射法などの変異導入処理を施すことにより得られる何らかの有用な形質を保持した突然変異微生物でもよい。このような突然変異微生物が取得した形質としては、例えば、レゾルシンや炭酸塩、二酸化炭素、2,6-ジヒドロキシ安息香酸に対する耐性の向上した変異株、2,6-ジヒドロキシ安息香酸を分解しなくなった変異株、2,6-ジヒドロキシ安息香酸に関与する酵素の生産性の高い変異株等が挙げられる。
【0059】
本発明で使用する微生物又は該微生物の処理物とは、芳香族化合物から芳香族カルボン酸を生成する能力を有するものであれば、特に制限はない。したがって、微生物又は該微生物の処理物は、菌体培養液、培養菌体、破砕菌体、菌体抽出物、乾燥菌体、有機溶媒処理菌体、粗酵素、精製酵素、固定化物等である。これら微生物又は該微生物の処理物は、製造直後に反応に用いることは勿論、製造後に保管し、必要に応じて使用することもできる。
【0060】
本発明において、有機溶媒は通常の有機合成に使用されるものであればよい。好ましくは炭酸イオン及び/又は二酸化炭素を含む水性媒体中でレゾルシンから2,6−ジヒドロキシ安息香酸を生成させる反応の平衡を2,6−ジヒドロキシ安息香酸側へ移動させる有機溶媒である。ここでいう平衡とは、炭酸イオン及び/又は二酸化炭素とレゾルシンから2,6−ジヒドロキシ安息香酸を生成する反応とその逆反応である2,6−ジヒドロキシ安息香酸から炭酸イオン及び/又は二酸化炭素とレゾルシンを生成するの化学親和力がつり合った状態のことをいう。ここでいう反応の平衡が2,6−ジヒドロキシ安息香酸側へ移動するとは、有機溶媒の添加し反応を行うことによって、有機溶媒を添加しない場合の反応と比較して異なる平衡状態へと達し、その結果、反応液中のレゾルシンと2,6−ジヒドロキシ安息香酸のモル比が、有機溶媒を添加しない場合の反応平衡と比較して2,6−ジヒドロキシ安息香酸側へ傾くことをいう。
【0061】
添加する有機溶媒として、具体的には炭素数1から炭素数4のカルボニトリル、アルコール、エーテル、ケトン、スルフィニルのうちから選ばれた有機溶媒などである。より具体的にはアセトニトリル、イソプロパノール、ブタノール、ジエチルエーテル、アセトン、エタノール、エチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエタノール、グリセリン、ジオキサン、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフラン、メタノールなどが挙げられる。またこれら具体例だけに限定されることなく、反応平衡を2,6−ジヒドロキシ安息香酸側へ移動させる有機溶媒として、好ましくは水に対して相溶性の有機溶媒や及び/又は非プロトン性有機溶媒などが挙げられる。ここでいう水に対して相溶性の有機溶媒とは、水と自由に混合する有機溶媒をいう。具体例としては、アセトニトリル、イソプロパノール、アセトン、エタノール、エチレングリコール、モノメチルエタノール、グリセリン、ジオキサン、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフラン、メタノールなどが挙げられる。
【0062】
また、非プロトン性有機溶媒とは、プロトンを供与する能力が著しく低い有機溶媒であり、具体例としては、アセトニトリル、ジエチルエーテル、アセトン、ジオキサン、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフランなどが挙げられる。これら有機溶媒は、単一でも2種以上の混合使用でも構わない。また、反応開始時に添加しても、反応途中に添加しても構わない。添加量は1〜80(vol/vol)%、好ましくは10〜60%である。
【0063】
本発明において、レゾルシンの酸化を抑制するのは、レゾルシンの酸化により生成するレゾルシンラジカルがオリゴマーとなり、これらが2,6-ジヒドロキシ安息香酸の生成を阻害することを抑制するためである。酸化を抑制されたレゾルシンは、反応液中でレゾルシンとして安定して存在するため、2,6−ジヒドロキシ安息香酸の選択率は97〜100%と著しく向上する。ここでいう2,6−ジヒドロキシ安息香酸の選択率とは、反応液中の減少したレゾルシンのモル量に対する生成した2,6−ジヒドロキシ安息香酸のモル量の割合をいう。レゾルシンの酸化抑制方法としては、2,6-ジヒドロキシ安息香酸の生成に影響を及ぼさない限りは特に制限はない。代表例として、反応系内の酸素濃度の低下による酸化抑制方法が挙げられる。反応系内の酸素濃度はレゾルシンの酸化を抑制し得る濃度であれば特に制限はないが、好ましくは反応液の溶存酸素濃度10ppm以下である。より好ましくは8ppm以下、さらに好ましくは4ppm以下である。
【0064】
反応系内の酸素濃度を上述の範囲内に調整する方法については特に制限はないが、具体的には、反応系内気相部を不活性雰囲気又は二酸化炭素雰囲気にする方法や、反応系内を減圧する方法、酸化防止剤の添加などが挙げられる。
【0065】
反応系内気相部を不活性雰囲気又は二酸化炭素雰囲気にする方法において不活性雰囲気とは、反応容器の気相をアルゴンなどの希ガス又は系の物質と反応しない窒素などの不活性ガスで置換し、酸素ガスなどによる有害な影響を与えないようにした気相の状態を指す。使用する希ガスや不活性ガスは単独でも複数を混合して使用しても良い。これに準じて、二酸化炭素雰囲気とは、反応系内気相部を二酸化炭素で置換した状態を指す。また、二酸化炭素と単独又は複数の希ガス又は不活性ガスを混合した状態でもよい。気相部の容量が小さく気相部の置換だけでは反応液の溶存酸素濃度を上述範囲内に調整できない場合は、気体・液体・固体の希ガス、又は不活性ガス、又は二酸化炭素を水性溶媒中に吹き込むことや添加することにより溶存酸素を低下させる方法でも良い。
【0066】
反応系内を減圧にする方法とは、減圧により反応系内を脱気することによって反応系内の酸素濃度を低下させる方法である。反応系内の圧力は酸素濃度が上述範囲内となれば特に制限はないが、具体的には常圧未満、好ましくは0.51×10Pa未満である。
【0067】
酸化防止剤の添加は、上述の反応系内酸素濃度を低減する効果の他に、酸化したレゾルシンを還元する効果もある。添加する酸化防止剤は、レゾルシンの酸化抑制する効果があれば特に制限はないが、具体的には、2-メルカプトエタノール、硫化水素、チオ硫酸ナトリウム、過酸化水素、ハイドロキノン、トコフェロール、ノルジヒドログアイアレチン酸、没食子酸エステル、t-ブチルヒドロキシアニソール、2,6-ジ-t-メチルフェノール、L-アスコルビン酸、イソアスコルビン酸、クエン酸、ジブチルヒドロキシトルエン、ジフェニルアミン、フェニレンジアミン誘導体、ホスホン酸エステルなどが挙げられる。好ましくは、2-メルカプトエタノールである。
【0068】
酸化防止剤の添加量はレゾルシンの酸化を抑制し得る濃度であれば特に制限はない。好ましくは、2,6-ジヒドロキシ安息香酸の生成に影響を及ぼさない適当な所要量であり、この適当な所要量は当業者であれば簡単な予備実験により容易に求められる。例えば、2-メルカプトエタノールの添加量は、予備実験より1ppm〜2000ppmが好ましい。より好ましくは、20ppmから200ppmである。
【0069】
また、反応の間レゾルシンの酸化を抑制し続けるには、低下させた酸素濃度を維持することが重要である。その方法として、密閉性の高い反応器を使用するなど、外部からの酸素の侵入を防げばよい。DO計などを使用すれば、より厳密に反応系内の酸素濃度を制御できる。
【0070】
本発明において、反応時のレゾルシン濃度は特に制限されないが、1〜2000mMが望ましい。レゾルシンは、固体のまま、あるいは、溶媒に溶解または分散させ添加すればよく、反応開始当初に一括添加、又は、反応の進行に応じて所要量を逐次添加する。好ましくは逐次添加である。逐次添加するレゾルシン量に特に制限はないが、より望ましくは反応時のレゾルシン濃度が最大反応速度の維持を阻害しない程度の濃度となるようなレゾルシン量を逐次添加する。
【0071】
本発明において、微生物又は該微生物の処理物は、反応開始当初に一括添加、又は、反応の進行に応じて適当な所要量を2回以上に分けて必要量を分割して添加する。好ましくは反応の進行に応じて適当な所要量を逐次添加する。適当な所要量とは、目的とする効果を発揮する量(有効量)であり、この有効量は当業者であれば簡単な予備実験により容易に求められる。
【0072】
本発明における2,6-ジヒドロキシ安息香酸または2,3-ジヒドロキシ安息香酸を生成(以後、単に反応と呼ぶ)させる条件は、反応pHとしては、pH3〜12、好ましくはpH6〜9である。また、反応の進行により反応液のpHが変化する場合はpHを至適pHに調節するのが好ましい。反応温度は、氷点〜60℃、好ましくは20〜40℃の範囲である。反応時間については、特に制限されるものではないが、より具体的には、1分間から120時間程度である。反応時の圧力も特に制限されるものではないが、通常、常圧〜100kg/cmの範囲が好適である。反応は攪拌下あるいは静置下いずれでもよく、また、バッチ式または適当なバイオリアクターを用いた連続式のいずれでも可能である。
【0073】
本発明において、反応系内の酸素濃度の低下、有機溶媒の添加、反応時のレゾルシンの逐次添加、微生物又は該微生物の処理物の逐次添加は、いずれも2,6-ジヒドロキシ安息香酸の蓄積濃度を高める効果があり、これらの手法は単独でも複数を組み合わせてもその効果を発揮する。好ましくは、複数を組み合わせる。
【0074】
次に本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0075】
Rhizobium.sp MTP-10005由来の2,6-ジヒドロキシ安息香酸デカルボキシラーゼの精製
LB培地(イーストエキス:5g/l、ポリペプトン:10g/l、NaCl:10g/l pH7.0)を所定濃度に調整したものを、口径21mmの試験管に5ml入れ、121℃、15分間オートクレーブ殺菌を行った。これにLB培地に1.5%の寒天を加えたスラント培地で継代培養している菌体(リゾビウムスピーシス MTP-10005)を1白金耳接種した。25℃の恒温室にて1日間振盪培養を行い、種菌体を増殖させた。その0.5mlを、終濃度20mMの2,6-ジヒドロキシ安息香酸を含む、表1に示す組成(pH8.5に、5N KOHにて調整)でオートクレーブ殺菌済みの培地50mlが入った500mlバッフル付き三角フラスコに接種した。25℃で2日間振盪培養し菌体を遠心分離(3000rpmで10分間)によって回収した(乾物重換算で約50mg)。
【0076】
【表1】

【0077】
回収した菌体は生理食塩水(NaCl 9g/l)で洗浄後、培養液の1/20量の0.02% 2-メルカプトエタノール入りの10mM燐酸カリウム緩衝液(pH7.0)に懸濁した。この懸濁液を超音波処理により菌体破砕し、遠心分離後(15000rpm、10分間)上澄みを回収し酵素液とした。本酵素溶液をDEAE-TOYOPEARL、Butyl-TOYOPEARL、SuperQ-TOYOPEARL、TOYOPEARL HW-55の順に通すことによりポリアクリルアミドゲル電気泳動(Native PAGE)的に単一に精製することができた。なお活性画分の同定には次に記載する脱炭酸活性を測定する反応方法を用い行った。表2の反応組成の反応液1mlを10ml容のネジ口式遠沈管にて30℃、5分間振とうしながら反応した。反応停止は5N塩酸200μlを加えることにより行った。
【0078】
【表2】

【0079】
遠心分離(15000rpm 、10分間)により除蛋白後、上清を下記の条件で高速液体クロマトグラフィーにより分析した。
【0080】
カラム:Inertsil ODS-2(GLSciencesInc.製)
移動相:水:アセトニトリル(85:15)、0.1%(v/v)トリフルオロ酢酸
送液:0.6ml/min
カラム温度:40℃
検出方法:UV吸収波長280nm
【0081】
また、ポリアクリルアミドゲル電気泳動的に単一に精製した酵素を用い表3の反応組成の反応液1mlを10ml容のネジ口式遠沈管にて30℃、5分間振とうしながら反応した。反応停止は5N塩酸200μlを加えることにより行った。
【0082】
【表3】

【0083】
遠心分離(15000rpm 、10分間)により除蛋白後、上清を下記の条件で高速液体クロマトグラフィーにより分析した。この反応液を分析した結果、原料に用いたレゾルシンのピーク以外は標品の2,6-ジヒドロキシ安息香酸と一致するピークのみが検出された。このピークをLC/MSで分析した結果、確かに2,6-ジヒドロキシ安息香酸であることが確認された。
【0084】
カラム:Inertsil ODS-2(GLSciencesInc.製)
移動相:水:アセトニトリル(85:15)、0.1%(v/v)トリフルオロ酢酸
送液:0.6ml/min.
カラム温度:40℃
検出方法:UV吸収波長280nm
【0085】
また同様に表4の反応組成の反応液1mlを用い反応を行ったところ、原料に用いたカテコールのピーク以外は標品の2,3-ジヒドロキシ安息香酸と一致するピークのみが検出された。このピークをLC/MSで分析した結果、確かに2,3-ジヒドロキシ安息香酸であることが確認された。
【0086】
【表4】

【実施例2】
【0087】
Rhizobium.sp MTP-10005由来の2,6-ジヒドロキシ安息香酸デカルボキシラーゼの性質
1.サブユニット分子量とタンパク質全体の分子量の測定
実施例1で取得した精製酵素を用い、ゲルろ過クロマトグラフィーを行った結果、本酵素の全体の分子量は約151000であった。また、SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動の結果よりサブユニットの分子量は約37500であった。これらの結果より、本酵素はホモテトラマーの構造を持つと判断される。
【0088】
2.N末端配列および部分アミノ酸配列
実施例1で取得した精製酵素のN末端配列と精製酵素をリジルエンドぺプチダーゼにより消化し、HPLCによって分取したペプチドの配列をプロテインシーケンサーにより解析した。解析により得られた配列は配列表の配列番号3から7に示す。なお配列番号3がN末端配列を示す。
【0089】
3.基質特異性
本酵素の基質特異性を実施例1で得た精製酵素を用い実施例1に示した脱炭酸活性を測定することにより確認した。基質としては、2,6-ジヒドロキシ安息香酸、3,4-ジヒドロキシ安息香酸、3,5-ジヒドロキシ安息香酸を用いた。その結果、2,6-ジヒドロキシ安息香酸に作用し、3,4-ジヒドロキシ安息香酸、3,5-ジヒドロキシ安息香酸には作用しなかった。
【0090】
4.酵素の熱安定性
実施例1で得た精製酵素を10mM燐酸カリウム緩衝液(pH7.0)1.0mLに溶解し容量15mLの蓋付きガラス製試験管に入れ、指定の温度(50℃・70℃)に制御した水浴恒温槽に浸漬し振とうしながら熱処理を行い、所定時間ごとに100μlずつサンプリングし、その後、実施例1に記載した方法によって脱炭酸活性を測定した。取得した結果より活性半減期を計算した。その結果、本酵素の活性半減期は50℃において122分。60℃において25.5分であった。
【0091】
5.至的反応温度
実施例1で得た精製酵素を用い実施例1に記載した脱炭酸活性を測定する方法にて温度のみを20℃〜90℃の範囲で変えて、測定したところ、本酵素の至的温度は70℃付近であると推定された。
【0092】
6.至的反応pH
実施例1で得た精製酵素を用い実施例1に記載した脱炭酸活性を測定する方法にてpHのみ5〜10の範囲で変えて、測定したところ、本酵素の至的pHは約8付近であると推定された。使用した緩衝液はピペラジン(pH5〜5.5)、MES(pH5.5〜6.5)、リン酸カリウム(pH6.5〜8.0)、Tris(pH8.0〜9.0)、CHES(pH9.0〜10.0)であり反応中の最終濃度としては100mMになるように調製した。
【0093】
7.各種金属塩の影響
実施例1で得た精製酵素を用い、Mg2+、Ni2+、Co2+、Fe3+、Zn2+、Mn2+、Mo6+、Ca2+の塩化物塩を実施例1に記載した脱炭酸活性を測定する反応系に終濃度1mMになるように添加し、その影響を調べたところ供試した全ての金属塩はいずれも脱炭酸活性を活性化しなかった。
【0094】
8.補酵素の影響
実施例1で得た精製酵素を用い、TPP、PLP、NAD+、NADP+を実施例1に記載した脱炭酸活性を測定する反応系に終濃度10μMになるように添加し、その影響を調べたところ供試した全ての化合物はほとんど影響を及ぼさなく補酵素にはなり得なかった。また、本酵素の吸収スペクトルは単純タンパク質の吸収スペクトルを示すことより補酵素は無いと考えられる。
【実施例3】
【0095】
Rhizobium.sp MTP-10005由来の2,6-ジヒドロキシ安息香酸デカルボキシラーゼ遺伝子取得
実施例1で精製した精製酵素のN末端配列と精製酵素をリジルエンドぺプチダーゼにより消化した。
1.部分アミノ酸配列の取得
HPLCによって分取したペプチドの配列をプロテインシーケンサーにより解析した。その結果、リゾビウム スピーシズ(Rhizobium sp)MTP-10005(FERM BP-10122)においては配列表の配列番号3から7に示す部分アミノ酸配列を取得した。
【0096】
2.ゲノミックDNAの調製
培養後遠心分離により取得したRhizobium.sp MTP-10005菌体を燐酸緩衝液で洗浄後、遠心分離により回収した。回収した洗浄菌体より「基礎生化学実験法2抽出・分離・精製
阿南功一他著 丸善株式会社出版」記載によるバクテリアゲノムDNAの分離方法に従い、ゲノムDNAを調製した。
【0097】
3.TaKaRa La PCRTm in vitro cloning Kit(タカラバイオ社製)を用いるための部分遺伝子配列の取得
上記で調製したゲノミックDNAとアミノ酸部分配列により設計した配列表の配列番号:9,10記載のプライマーを用いて増幅したところ増幅断片(約250bp)を得た。
【0098】
次に、pT7Blue T-Vectorを利用して上記増幅遺伝子をTAクローニングし、その挿入断片の塩基配列についてAmersham Pharmacia
Biotech社製 Vistra Thermo SequenaseTM Pre-mixed Cycle Sequencing KitとHitachi
Electronics Engineering社製、Hitachi DNA sequencer SQ5500Eを用いたプライマ-エクステンション法によって決定した。
【0099】
4.TaKaRa La PCRTm in vitro cloning Kitによる遺伝子配列の取得
上記で調製したゲノミックDNAを制限酵素(EcoRI,SalI)で完全消化した。
TaKaRa La PCRTm in vitro cloning Kitのプロトコールに従い、完全消化したゲノミックDNAにEcoRIカセット連結したものをテンプレートとして用い、1st PCRには配列表の配列番号:11記載のプライマ-、2nd PCRには配列表の配列番号:12記載のプライマ-を用いて増幅したところ増幅断片(約3000bp)を得た。
【0100】
次に、pT7Blue T-Vectorを利用して上記増幅遺伝子をTAクローニングし、その挿入断片の塩基配列は上記の方法によって決定した。
【0101】
次に、TaKaRa La PCRTm in vitro cloning Kitのプロトコールに従い、完全消化したゲノミックDNAにSalIカセット連結したものをテンプレートとして用い、1st PCRには配列表の配列番号:13記載のプライマ-、2nd PCRには配列表の配列番号:14記載の配列
のプライマーを用いて増幅したところ増幅断片(約1200bp)を得た。
【0102】
次に、pT7Blue T-Vectorを利用して上記増幅遺伝子をTAクローニングし、その挿入断片の塩基配列は上記の方法によって決定した。
【0103】
5.全遺伝子配列の取得
全配列の決定については、5末端側についてのgene walkingの結果と上記の結果より設計した、配列表の配列番号:15、16記載の配列のプライマーを用いて増幅したところ増幅断片を得た。
【0104】
次に、pT7Blue T-Vectorを利用して上記増幅遺伝子をTAクローニングし、その挿入断片の塩基配列は上記の方法によって決定した。その結果、配列表の配列番号:2に示した目的遺伝子を取得した。
【実施例4】
【0105】
Rhizobium.sp MTP-10005由来の2,6-ジヒドロキシ安息香酸デカルボキシラーゼ遺伝子を含むDNAによって形質転換した大腸菌(BL21
StarTM)の2,6-ジヒドロキシ安息香酸デカルボキシラーゼ活性の確認
1.pET 発現システムを利用した発現用ベクターの構築
上記塩基配列決定により取得した配列をもとにpET発現システムのベクター(pET-3b、pET-11b)(Novegen)に繋ぎ込むために配列表の配列番号:17、18記載のプライマ-によりゲノミックをテンプレートとして用い、増幅した遺伝子を上記ベクターの制限酵素サイト(NdeI、BamHI)に繋ぎ込み発現ベクターを構築した。
このベクターによりキットに含まれるコンピテントセルBL21 StarTM (Invitrogen)を形質転換し形質転換大腸菌を取得した。
【0106】
2.上記形質転換体の2,6-ジヒドロキシ安息香酸デカルボキシラーゼ活性の確認
500mlのバッフル付き三角フラスコに100mlのLB液体培地を調製し、121℃、20分間のオートクレーブにより滅菌した。上記形質転換体を一白菌耳植菌し、37℃、130rpmにて培養OD600=0.6になるまで培養し、試験管に1mMになるようにIPTGを加えさらに30℃で15時間培養した。遠心分離(5000G×15分間)により菌体のみを培養液より回収し、続いて、50mlの生理食塩水に該菌体を再懸濁した後に、再度遠心分離を行って湿菌体を得た。その後、培養液の1/20量の0.02%
2-メルカプトエタノール入りの10mM燐酸カリウム緩衝液(pH7.0)に懸濁した。この懸濁液を超音波処理により菌体破砕し、遠心分離後(15000rpm 、10分間)上澄みを回収し酵素液とした。
【0107】
その後、次に記載する脱炭酸活性を測定する反応方法を用い酵素活性に確認行った。表5の反応組成の反応液1mlを10ml容のネジ口式遠沈管にて30℃、5分間振とうしながら反応した。反応停止は5N塩酸200μlを加えることにより行った。
【0108】
【表5】

【0109】
遠心分離(15000rpm 、10分間)により除蛋白後、上清を下記の条件で高速液体クロマトグラフィーにより分析した。
その結果、確かに2,6-ジヒドロキシ安息香酸を脱炭酸しレゾルシンを生成する活性を確認した。レゾルシンの生成量は1μgであった。
【0110】
カラム:Inertsil ODS-2(GLSciencesInc.製)
移動相:水:アセトニトリル(85:15)、0.1%(v/v)トリフルオロ酢酸
送液:0.6ml/min.
カラム温度:40℃
検出方法:UV吸収波長280nm
【0111】
[比較例1]
Rhizobium.sp MTP-10005由来の2,6-ジヒドロキシ安息香酸デカルボキシラーゼ遺伝子を含まないDNAによって形質転換した大腸菌を用いた2,6-ジヒドロキシ安息香酸の脱炭酸
2,6-ジヒドロキシ安息香酸デカルボキシラーゼ遺伝子を含まないベクター(pET-3b、pET-11b)によって形質転換した大腸菌を実施例4と同様に培養し、酵素液を取得しそれを用いて2,6-ジヒドロキシ安息香酸の脱炭酸を試み、反応液の分析を行ったが、2,6-ジヒドロキシ安息香酸を脱炭酸しレゾルシンを生成する活性は認められなかった。
【実施例5】
【0112】
Rhizobium.sp MTP-10005由来の2,6-ジヒドロキシ安息香酸デカルボキシラーゼ遺伝子を含むDNAによって形質転換した大腸菌を用いたレゾルシンからの2,6-ジヒドロキシ安息香酸への変換
また、実施例4と同様に取得した酵素液を用い表6の反応組成の反応液1mlを10ml容のネジ口式遠沈管にて30℃、5分間振とうしながら反応した。反応停止は5N塩酸200μlを加えることにより行った。
【0113】
【表6】

【0114】
遠心分離(15000rpm 、10分間)により除蛋白後、上清を下記の条件で高速液体クロマトグラフィーにより分析した。この反応液を分析した結果、原料に用いたレゾルシンのピーク以外は標品の2,6-ジヒドロキシ安息香酸と一致するピークのみが検出された。このピークをLC/MSで分析した結果、確かに2,6-ジヒドロキシ安息香酸であることが確認された。
【0115】
カラム:Inertsil ODS-2(GLSciencesInc.製)
移動相:水:アセトニトリル(85:15)、0.1%(v/v)トリフルオロ酢酸
送液:0.6ml/min.
カラム温度:40℃
検出方法:UV吸収波長280nm
【0116】
本方法で2,6-ジヒドロキシ安息香酸の生成量を定量した結果、4μgが生成していると計算された。
【0117】
[比較例2]
Rhizobium.sp MTP-10005由来の2,6-ジヒドロキシ安息香酸デカルボキシラーゼ遺伝子を含まないDNAによって形質転換した大腸菌を用いたレゾルシンからの2,6-ジヒドロキシ安息香酸への変換
2,6-ジヒドロキシ安息香酸デカルボキシラーゼ遺伝子を含まないベクター(pET-3b、pET-11b)によって形質転換した大腸菌を実施例5と同様に培養し、酵素液を取得しそれを用いてレゾルシンの2,6-ジヒドロキシ安息香酸の変換を試み、反応液の分析を行ったが、レゾルシン酸より2,6-ジヒドロキシ安息香酸への変換は認められなかった。
【実施例6】
【0118】
Rhizobium.sp MTP-10005由来の2,6-ジヒドロキシ安息香酸デカルボキシラーゼ遺伝子を含むDNAによって形質転換した大腸菌を用いたカテコールからの2,3-ジヒドロキシ安息香酸への変換
また実施例5と同様に表7の反応組成の反応液1mlを用い反応を行ったところ、原料に用いたカテコールのピーク以外は標品の2,3-ジヒドロキシ安息香酸と一致するピークのみが検出された。このピークをLC/MSで分析した結果、確かに2,3-ジヒドロキシ安息香酸であることが確認された。
【0119】
【表7】

【0120】
本方法で2,3-ジヒドロキシ安息香酸の生成量を定量した結果、6μgが生成していると計算された。
【0121】
[比較例3]
Rhizobium.sp MTP-10005由来の2,6-ジヒドロキシ安息香酸デカルボキシラーゼ遺伝子を含まないDNAによって形質転換した大腸菌を用いたカテコールからの2,3-ジヒドロキシ安息香酸への変換
2,6-ジヒドロキシ安息香酸デカルボキシラーゼ遺伝子を含まないベクター(pET-3b、pET-11b)によって形質転換した大腸菌を実施例6と同様に培養し、酵素液を取得しそれを用いてカテコールの2,3-ジヒドロキシ安息香酸の変換を試み、反応液の分析を行ったが、カテコールより2,3-ジヒドロキシ安息香酸への変換は認められなかった。
【実施例7】
【0122】
Rhizobium.sp MTP-10005由来の2,6-ジヒドロキシ安息香酸デカルボキシラーゼ遺伝子を含むDNAによって形質転換した大腸菌(BL21(DE3))の2,6-ジヒドロキシ安息香酸デカルボキシラーゼ発現の確認
実施例4においてpET-3bを用いて構築した発現ベクターにより、コンピテントセルBL21(DE3)(Novagen)を形質転換し、形質転換大腸菌を取得した。試験管に5mlのLB液体培地を、2L坂口フラスコに1LのLB液体培地をそれぞれ調製し、121℃、20分間のオートクレーブ滅菌後、それぞれにアンピシリンを100μg/mlとなるよう添加し培養に使用した。試験管に上記形質転換体を一白菌耳植菌し、37℃でOD600=0.6になるまで培養した。培養液全量を坂口フラスコに移液し、37℃、110rpmでOD600=0.4になるまで培養した。0.4mMとなるようIPTGを添加し、さらに25℃で3時間培養した。遠心分離(15000rpm、1時間)により菌体のみを培養液より回収し、50mlの生理食塩水に該菌体を再懸濁した後、再度遠心分離を行って湿菌体を得た。この湿菌体を培養液の1/20量の0.02%2−メルカプトエタノール入り10mM燐酸カリウム緩衝液(pH7.0)に懸濁した。この懸濁液を超音波処理により菌体破砕し、遠心分離(15000rpm、10分)後、上清を回収し、透析処理したものを粗酵素液とした。これを用いてLaemmli法によるSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)を行った。分子量マーカーとしてはPrecision
plus proteinTM standards all blueを、ゲル染色液としてはCoomassie brilliant blue
R-250を使用した。結果を図1に示す。
【0123】
[比較例4]
Rhizobium.sp MTP-10005由来の2,6-ジヒドロキシ安息香酸デカルボキシラーゼ遺伝子を含まないDNAにより形質転換した大腸菌(BL21(DE3))を用いた2,6-ジヒドロキシ安息香酸デカルボキシラーゼ発現
2,6-ジヒドロキシ安息香酸デカルボキシラーゼ遺伝子を含まないベクター(pET-3b)によって形質転換した大腸菌BL21(DE3)を実施例7と同様に培養し、酵素液を取得した。それを用いてLaemmli法によるSDS−PAGEを行った。結果を図1に示す。レーン3のRhizobium.sp MTP-10005由来の2,6-ジヒドロキシ安息香酸デカルボキシラーゼ遺伝子を含むDNAによって形質転換した大腸菌(BL21(DE3))より取得した粗酵素液は、レーン2の2,6-ジヒドロキシ安息香酸デカルボキシラーゼ精製酵素液と同じ位置に濃いバンドが見られた。また、レーン4のRhizobium.sp MTP-10005由来の2,6-ジヒドロキシ安息香酸デカルボキシラーゼ遺伝子を含まないDNAにより形質転換した大腸菌(BL21(DE3))より取得した粗酵素液はレーン2の2,6-ジヒドロキシ安息香酸デカルボキシラーゼ精製酵素液と同じ位置にほとんどバンドが見られなかった。これより、Rhizobium.sp MTP-10005由来の2,6-ジヒドロキシ安息香酸デカルボキシラーゼ遺伝子を含むDNAによって形質転換した大腸菌(BL21(DE3))は2,6-ジヒドロキシ安息香酸デカルボキシラーゼを大量に発現していることが確認された。
【実施例8】
【0124】
Rhizobium.sp MTP-10005由来の2,6-ジヒドロキシ安息香酸デカルボキシラーゼ遺伝子を含むDNAによって形質転換した大腸菌(BL21(DE3))を用いたレゾルシンからの2,6-ジヒドロキシ安息香酸への変換
実施例7において取得した酵素溶液を用いて、実施例5と同様にレゾルシンの炭酸化を試み、反応液の分析を行った。その結果、確かにレゾルシンから2,6-ジヒドロキシ安息香酸を生成する活性を確認した。2,6-ジヒドロキシ安息香酸の生成量は14μgであった。
【0125】
[比較例5]
Rhizobium.sp MTP-10005由来の2,6-ジヒドロキシ安息香酸デカルボキシラーゼ遺伝子を含まないDNAによって形質転換した大腸菌(BL21(DE3))を用いたレゾルシンからの2,6-ジヒドロキシ安息香酸への変換
比較例4により取得した酵素液を用いて、実施例5と同様にレゾルシンの炭酸化を試み、反応液の分析を行ったが、レゾルシンから2,6-ジヒドロキシ安息香酸への変換は認められなかった。
【実施例9】
【0126】
普通ブイヨン培地(栄研)(栄研化学株式会社製)を所定濃度に調製したものを、口径21mmの試験管に5ml入れ、121℃、15分間オートクレーブ殺菌を行った。これにLB培地に1.5%の寒天を加えたスラント培地で継代培養している菌体(Rhizobium
sp. MT-10005)を1白金耳接種した。25℃の恒温室にて1日間振盪培養を行い、種菌体を増殖させた。その0.5mlを終濃度20mMの2,6-ジヒドロキシ安息香酸を含む、表1に示す組成(pH7.0に、5NのKOHにて調整)でオートクレーブ殺菌済みの培地500mlが入った2lバッフル付き三角フラスコに接種した。25℃で2日間振盪培養し菌体を遠心分離(8000g、20分間)によって回収した(乾物重換算で約3.2g)。
【0127】
回収した菌体は生理食塩水(NaCl 9g/l)で洗浄後、凍結保管した。以上のようにして得られた凍結菌体の一部を用いて、表8に示す反応液を10ml容のネジ口試験管に移液し、気相部を100%COで置換した後、25℃、24時間振とうしながら反応した。反応終了時は5N塩酸/エタノール等量混合液1200μlを加え反応を停止した。
【0128】
【表8】

【0129】
遠心分離(13000rpm 、10分間)により除菌体後、上清を下記の条件で高速液体クロマトグラフィーにより分析した。
【0130】
その結果、原料に用いたレゾルシンのピ-ク以外は標品の2,6-ジヒドロキシ安息香酸と一致するピークのみが検出された。このピークをLC/MSで分析した結果、確かに2,6-ジヒドロキシ安息香酸であることが確認された。本方法で2,6-ジヒドロキシ安息香酸の生成量を定量した結果を表9に示す。
【0131】
カラム:Inertsil ODS-2(GLSciencesInc.製)
移動相:水:アセトニトリル(85:15)、0.1(v/v)%トリフルオロ酢酸
送液:0.8ml/min.
カラム温度:40℃
検出方法:UV吸収波長280nm
【実施例10】
【0132】
実施例9に記載の凍結保管菌体を用いて、窒素雰囲気下で実施例9と同様に反応を行った。結果を表9に示す。
【実施例11】
【0133】
実施例9記載の凍結保管菌体を用いて、表2に示す組成液に2-メルカプトエタノール(2-ME)を20ppmの濃度となるよう添加し、空気雰囲気で、実施例9と同様にして反応を行った。結果を表9に示す。
【0134】
[比較例6]
実施例9に記載の凍結保管菌体を用いて、空気雰囲気下で実施例9と同様に反応を行い、目的物を得た。結果を表9に示す。
【0135】
【表9】

【実施例12】
【0136】
実施例9記載の凍結保管菌体を用いて、表10に示す反応液を10ml容のネジ口試験管に移液し、気相部を100%COで置換した後、25℃、24時間振とうしながら反応した。反応終了時は5N塩酸/エタノール等量混合液1200μlを加え反応を停止した。
【0137】
【表10】

【0138】
反応停止後、実施例9と同様に分析したところ、生成した2,6-ジヒドロキシ安息香酸は、31.2mMであった。
【実施例13】
【0139】
実施例9と同様の手順で増殖させ凍結保管された凍結菌体(Propionibacterium freudenreichii MT-10883)を用いて、表11に示す反応液を10ml容のネジ口試験管に移液し、気相部を100%COで置換した後、25℃、24時間振とうしながら反応した。反応終了時は5N塩酸/エタノール等量混合液400μlを加え反応を停止した。反応停止後、実施例9と同様に分析した。結果を表12に示す。
【0140】
【表11】

【実施例14】
【0141】
表11記載のエチレングリコールに代えてエタノール100μlを加えた反応液を実施例13と同様に反応を行い、目的物を得た。結果を表12に示す。
【実施例15】
【0142】
表11記載のエチレングリコールに代えてテトラヒドロフラン100μlを加えた反応液を実施例13と同様に反応を行い、目的物を得た。結果を表12に示す。
【実施例16】
【0143】
表11記載のエチレングリコールに代えてジオキサン100μlを加えた反応液を実施例13と同様に反応を行い、目的物を得た。結果を表12に示す。
【実施例17】
【0144】
表11記載のエチレングリコールに代えてメタノール100μlを加えた反応液を実施例13と同様に反応を行い、目的物を得た。結果を表12に示す。
【実施例18】
【0145】
表11記載のエチレングリコールに代えてジメチルホルムアミド100μlを加えた反応液を実施例5と同様に反応を行い、目的物を得た。結果を表12に示す。
【実施例19】
【0146】
表11記載のエチレングリコールに代えてジメチルスルホキシド100μlを加えた反応液を実施例13と同様に反応を行い、目的物を得た。結果を表12に示す。
【実施例20】
【0147】
表11記載のエチレングリコールに代えてアセトン100μlを加えた反応液を実施例13と同様に反応を行い、目的物を得た。結果を表12に示す。
【実施例21】
【0148】
表11記載のエチレングリコールに代えてエチレングリコールモノエチルエーテル100μlを加えた反応液を実施例13と同様に反応を行い、目的物を得た。結果を表12に示す。
【実施例22】
【0149】
表11記載のエチレングリコールに代えてグリセリン100μlを加えた反応液を実施例13と同様に反応を行い、目的物を得た。結果を表12に示す。
【0150】
[比較例7]
表11記載のエチレングリコールに代えて脱イオン水100μlを加えた反応液を実施例13と同様に反応を行い、目的物を得た。結果を表12に示す。
【0151】
【表12】

【実施例23】
【0152】
実施例9記載の凍結保管菌体を用いて、表13に示す反応液を50ml容のネジ口バイヤル瓶に移液し、40℃で反応した。表14に示したとおりにレゾルシン、菌体を分割添加した。各時間に反応液200μlを採取し、5N塩酸/エタノール等量混合液80μlを加え反応を停止した。反応停止後、実施例9と同様に分析した。結果を図2に示す。
【0153】
【表13】

【0154】
【表14】

【0155】
[比較例8]
表15に示す反応液を用いて、実施例23と同様に反応を行った。結果を図2に示す。
【0156】
【表15】

【実施例24】
【0157】
実施例1記載の凍結菌体を用いて、表16に示す反応液を50ml容のネジ口バイヤル瓶に移液し、気相部を100%COで置換した後、25℃で反応した。各時間に反応液200μlを採取し、5N塩酸/エタノール等量混合液80μlを加え反応を停止した。反応停止後、実施例9と同様に分析した。結果を図3に示す。
【0158】
【表16】

【実施例25】
【0159】
実施例9記載の凍結菌体を用いて、表17に示す反応液を10ml容のネジ口試験管に移液し、気相部を100%COで置換した後、25℃、24時間振とうしながら反応した。反応終了時は5N塩酸/エタノール等量混合液400μlを加え反応を停止した。反応停止後、実施例9と同様に分析した。結果を表18に示す。表18に示すレゾルシン転化率(%)とは、レゾルシンという限定した反応基質に着目し、反応開始時に反応器内に存在したレゾルシンの単位物質量(mol)当たりの反応したレゾルシンの物質量の割合を%表示で示したものである。
【0160】
【表17】

【実施例26】
【0161】
表17記載のアセトニトリルに代えてイソプロパノール100μlを加えた反応液を実施例25と同様に反応を行い、目的物を得た。結果を表18に示す。
【実施例27】
【0162】
表17記載のアセトニトリルに代えてブタノール100μlを加えた反応液を実施例25と同様に反応を行い、目的物を得た。結果を表18に示す。
【実施例28】
【0163】
表17記載のアセトニトリルに代えてジエチルエーテル100μlを加えた反応液を実施例25と同様に反応を行い、目的物を得た。結果を表18に示す。
【0164】
【表18】


【実施例29】
【0165】
実施例9記載の凍結菌体を用いて、表19に示す反応液を10ml容のネジ口試験管に移液し、気相部を100%COで置換した後、25℃、24時間振とうしながら脱炭酸化反応を行った。反応終了時は5N塩酸/エタノール等量混合液400μlを加え反応を停止した。
【0166】
反応停止後、実施例9と同様に分析した。結果を表20に示す。表20に示す2,6−ジヒドロキシ安息香酸転化率(%)とは、2,6−ジヒドロキシ安息香酸という限定した反応基質に着目し、反応開始時に反応器内に存在した2,6−ジヒドロキシ安息香酸の単位物質量(mol)あたりの反応した2,6−ジヒドロキシ安息香酸の物質量の割合を%表示で示したものである。
【0167】
【表19】

【実施例30】
【0168】
表19記載のアセトニトリルに代えてイソプロパノール100μlを加えた反応液を実施例29と同様に反応を行い、目的物を得た。結果を表20に示す。
【実施例31】
【0169】
表19記載のアセトニトリルに代えてブタノール100μlを加えた反応液を実施例29と同様に反応を行い、目的物を得た。結果を表20に示す。
【実施例32】
【0170】
表19記載のアセトニトリルに代えてジエチルエーテル100μlを加えた反応液を実施例29と同様に反応を行い、目的物を得た。結果を表20に示す。表18,19を比較すると、各反応とも反応平衡点に達していることが分かる。
【0171】
【表20】


【実施例33】
【0172】
実施例9記載の凍結菌体を用いて、表21に示す反応液を50ml容のネジ口バイヤル瓶に移液し、気相部を100%COで置換した後、25℃で反応した。各時間に反応液100μlを採取し、5N塩酸/エタノール等量混合液40μlを加え反応を停止した。反応停止後、実施例9と同様に分析した。結果を図4に示す。
【0173】
【表21】

【0174】
[比較例9]
表22に示す反応液を用いて、実施例33と同様に反応を行なった。結果を図5に示す。
【0175】
【表22】

【実施例34】
【0176】
実施例9記載の凍結菌体を用いて、表23に示す反応液を50ml容のネジ口バイヤル瓶に移液し、気相部を100%COで置換した後、25℃で反応した。各時間に反応液100μlを採取し、5N塩酸/エタノール等量混合液40μlを加え反応を停止した。反応停止後、実施例9と同様に分析した。結果を図4に示す。
【0177】
【表23】

【0178】
図4より、アセトンを添加した場合、反応液中のレゾルシンと2,6−ジヒドロキシ安息香酸のモル比はレゾルシン:2,6−ジヒドロキシ安息香酸=6:4に収束することがわかる。
【0179】
[比較例10]
表24に示す反応液を用いて、実施例34と同様に反応を行なった。結果を図5に示す。
【0180】
図5より、アセトン無添加の場合、反応液中のレゾルシンと2,6−ジヒドロキシ安息香酸のモル比はレゾルシン:2,6−ジヒドロキシ安息香酸=3:7に収束することがわかる。
【0181】
【表24】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
レゾルシンから2,6−ジヒドロキシ安息香酸を生成する能力を有する微生物又は該微生物の処理物とレゾルシンを炭酸イオン及び/又は二酸化炭素を含む水性媒体中で接触させて2,6-ジヒドロキシ安息香酸を製造する方法であって、有機溶媒を水性媒体に添加することを特徴とする製造方法。
【請求項2】
有機溶媒の添加によって反応の平衡が2,6-ジヒドロキシ安息香酸を生成する側へ移動することを特徴とする請求項1に記載の2,6-ジヒドロキシ安息香酸の製造方法。
【請求項3】
添加する有機溶媒の1種類以上が水に対して相溶性を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の2,6-ジヒドロキシ安息香酸の製造方法。
【請求項4】
添加する有機溶媒の1種類以上が非プロトン性溶媒であることを特徴とする請求項1〜3何れか一項に記載の2,6-ジヒドロキシ安息香酸の製造方法。
【請求項5】
添加する有機溶媒が炭素数1から炭素数4のカルボニトリル、アルコール、エーテル、ケトン及びスルフィニルより成る群から選ばれた1種以上の溶媒であることを特徴とする請求項1又は2に記載の2,6-ジヒドロキシ安息香酸の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5の何れか一項に記載の2,6-ジヒドロキシ安息香酸の製造方法であって、反応系内のレゾルシンの酸化を抑制しながら反応を進行させることを特徴とする2,6-ジヒドロキシ安息香酸の製造方法。
【請求項7】
レゾルシンから2,6−ジヒドロキシ安息香酸を生成する能力を有する微生物又は該微生物の処理物とレゾルシンを炭酸イオン及び/又は二酸化炭素を含む水性媒体中で接触させて2,6-ジヒドロキシ安息香酸を製造する方法であって、反応系内のレゾルシンの酸化を抑制しながら反応を進行させることを特徴とする2,6-ジヒドロキシ安息香酸の製造方法。
【請求項8】
レゾルシンの酸化を抑制する手法として、反応系内気相部を不活性雰囲気又は二酸化炭素雰囲気とすることを特徴とする請求項7に記載の2,6-ジヒドロキシ安息香酸の製造方法。
【請求項9】
レゾルシンの酸化を抑制する手法として、反応系内を減圧し脱気することを特徴とする請求項7に記載の2,6-ジヒドロキシ安息香酸製造方法。
【請求項10】
レゾルシンの酸化を抑制する手法として、水性媒体中へ酸化防止剤を添加することを特徴とする請求項7に記載の2,6-ジヒドロキシ安息香酸の製造方法。
【請求項11】
反応の進行に応じて水性媒体中へレゾルシンを2回以上に分けて必要量を分割して添加することを特徴とする、請求項1〜10の何れか一項に記載の2,6-ジヒドロキシ安息香酸の製造方法。
【請求項12】
レゾルシンから2,6−ジヒドロキシ安息香酸を生成する能力を有する微生物又は該微生物の処理物を2回以上に分けて必要量を分割して添加することを特徴とする請求項1〜11の何れか一項に記載の2,6-ジヒドロキシ安息香酸の製造方法。
【請求項13】
下記の(a)〜(c)の全ての理化学的性質を有する2,6-ジヒドロキシ安息香酸デカルボキシラーゼ。
(a)作用:2,6-ジヒドロキシ安息香酸に作用してレゾルシンを生成する反応を触媒する。
(b)温度安定性:pH7.0の緩衝液中での活性半減期が50℃において約120分、60℃において約25分。
(c)至的温度:pH8で脱炭酸反応をさせる場合、温度70℃付近において作用が至的である。
【請求項14】
下記の全ての理化学的性質をさらに有する、請求項13に記載の2,6-ジヒドロキシ安息香酸デカルボキシラーゼ。
(d)炭酸イオン及び/または二酸化炭素を含む水性媒体中でレゾルシンに作用させて2,6-ジヒドロキシ安息香酸を生成する。
【請求項15】
配列表の配列番号:1記載のアミノ酸配列を有する2,6-ジヒドロキシ安息香酸デカルボキシラーゼ。
【請求項16】
配列表の配列番号:1記載のアミノ酸配列の一部を置換、欠失、削除または挿入して得られるアミノ酸配列を有する2,6-ジヒドロキシ安息香酸デカルボキシラーゼ。
【請求項17】
配列表の配列番号:2記載の塩基配列で表される2,6-ジヒドロキシ安息香酸デカルボキシラーゼのサブユニットをコードする遺伝子。
【請求項18】
配列表の配列番号:2記載の塩基配列の一部を置換、欠失、削除または挿入して得られる塩基配列で表される2,6-ジヒドロキシ安息香酸デカルボキシラーゼのサブユニットをコードする遺伝子。
【請求項19】
配列表の配列番号:2記載の塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする2,6-ジヒドロキシ安息香酸デカルボキシラーゼのサブユニットをコードする遺伝子。
【請求項20】
請求項13〜16のいずれか一項に記載の2,6-ジヒドロキシ安息香酸デカルボキシラーゼのサブユニットをコードする遺伝子を含んでいる組換えプラスミド。
【請求項21】
請求項20に記載のプラスミドによって形質転換された形質転換微生物。
【請求項22】
請求項13〜16いずれか一項に記載の2,6-ジヒドロキシ安息香酸デカルボキシラーゼを産生する微生物または請求項21に記載の形質転換微生物を培養し、該微生物またはその培養上清およびこれらの処理物として提供される該2,6-ジヒドロキシ安息香酸デカルボキシラーゼの製造方法。
【請求項23】
請求項22に記載の方法により製造した2,6-ジヒドロキシ安息香酸デカルボキシラーゼを、炭酸イオン及び/または二酸化炭素の存在下に水性溶媒中でレゾルシンに作用させて2,6-ジヒドロキシ安息香酸を生成させ、反応により生成した2,6-ジヒドロキシ安息香酸を該水性溶媒中より採取することを特徴とする2,6-ジヒドロキシ安息香酸の製造方法。
【請求項24】
請求項22に記載の方法により製造した2,6-ジヒドロキシ安息香酸デカルボキシラーゼを、炭酸イオン及び/または二酸化炭素を含む水性媒体中でカテコールに作用させて2,3-ジヒドロキシ安息香酸を生成させ、反応により生成した2,3-ジヒドロキシ安息香酸を該水性溶媒中より採取することを特徴とする2,3-ジヒドロキシ安息香酸の製造方法。
【請求項25】
微生物が請求13〜16の何れか一項に記載の2,6-ジヒドロキシ安息香酸デカルボキシラーゼを産生する微生物であることを特徴とする請求項1〜12の何れか一項に記載の2,6-ジヒドロキシ安息香酸の製造方法。
【請求項26】
微生物が請求項17〜19の何れか一項に記載の遺伝子を保持し、該遺伝子情報に基づく2,6-ジヒドロキシ安息香酸デカルボキシラーゼを発現する微生物であることを特徴とする請求項1〜12の何れか一項に記載の2,6-ジヒドロキシ安息香酸の製造方法。
【請求項27】
微生物が請求項22に記載の形質転換微生物であることを特徴とする請求項1〜12の何れか一項に記載の2,6-ジヒドロキシ安息香酸の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【国際公開番号】WO2005/054462
【国際公開日】平成17年6月16日(2005.6.16)
【発行日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−515888(P2005−515888)
【国際出願番号】PCT/JP2004/016235
【国際出願日】平成16年11月1日(2004.11.1)
【出願人】(000005887)三井化学株式会社 (2,318)
【Fターム(参考)】