説明

耐熱性フィルムならびにその製造方法および貼付方法

【課題】簡便な方法で複雑な形状を有する被着体に対しても接着可能な耐熱性フィルムを提供する。
【解決手段】耐熱性樹脂多孔質膜と、前記多孔質膜の孔内に含まれるポリイミドとを含む耐熱性フィルムであって、前記ポリイミドが、沸点が100℃以下の溶剤に溶解可能なポリイミドである耐熱性フィルムとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、簡便な方法で複雑な形状を有する被着体に対しても接着可能な耐熱性フィルム、ならびにその製造方法および貼付方法に関する。
【背景技術】
【0002】
耐熱性フィルムは、種々の工業分野において汎用されている材料であり、用途によっては、被着体に接着して用いられることがある。
【0003】
耐熱性フィルムを被着体に接着して用いる場合、通常、耐熱性フィルムは、耐熱性樹脂製の基材と接着剤層とを有する。しかしながら、接着剤層は、耐熱性樹脂製の基材よりも耐熱性に劣ることが多く、これにより、基材の耐熱性を十分に生かせないことがあった。
【0004】
これに対し、特許文献1では、ポリイミド支持基材の片側あるいは両側に、ガラス転移温度が200℃以下であるポリイミド含む接着剤層を有する耐熱性接着シートが開示されている。この耐熱性接着シートは、接着剤層にもポリイミド樹脂を用いているため、接着剤層もまた耐熱性の高いものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6−200218号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の耐熱性接着シートは、被着体へ接着剤層を融着させるために210〜230℃で高温プレスすることが必要であり、加熱プレス設備が必要であるなど接着方法が簡便ではなく、また、複雑な形状を有する被着体への接着が困難であるという問題があった。
【0007】
そこで本発明は、簡便な方法で複雑な形状を有する被着体に対しても接着可能な耐熱性フィルムを提供することを目的とする。本発明はまた、当該耐熱性フィルムの製造方法および貼付方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、耐熱性樹脂多孔質膜と、
前記多孔質膜の孔内に含まれるポリイミドとを含む耐熱性フィルムであって、
前記ポリイミドが、沸点が100℃以下の溶剤に溶解可能なポリイミドである耐熱性フィルムである。
【0009】
本発明においては、前記ポリイミドが、テトラカルボン酸成分として2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン二無水物と、ジアミン成分として2,2’−ビス(トリフルオロメチル)ベンジジンとを用いて得られるものであることが好ましい。本発明の一実施形態においては、前記ポリイミドに、熱伝導性フィラーが分散されており、耐熱性フィルムの波長2〜14μmにおける全赤外線吸収率が0.5以上である。
【0010】
本発明はまた、イミド化した際に沸点が100℃以下の溶剤に溶解可能なポリイミドを生成するポリアミド酸の溶液を調製する工程(a)と、
前記ポリアミド酸の溶液を耐熱性樹脂多孔質膜に含浸させる工程(b)と、
前記ポリアミド酸の溶液を含浸させた耐熱性樹脂多孔質膜を加熱して、前記ポリアミド酸をイミド化する工程(c)とを含む耐熱性フィルムの製造方法である。
【0011】
本発明においては、前記工程(a)において、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン二無水物と、2,2’−ビス(トリフルオロメチル)ベンジジンとを溶媒中でアミド化してポリアミド酸の溶液を調製することが好ましい。本発明の製造方法は、工程(b)の前に、ポリアミド酸溶液にフィラーを分散させる工程を含んでいてもよい。
【0012】
本発明はまた、上記の耐熱性フィルムを被着体の表面に配置する工程(A)と、
前記耐熱性フィルムに、前記耐熱性フィルムが含むポリイミドを溶解可能な溶媒を塗布する工程(B)と、
前記溶媒を乾燥させる工程(C)とを含む耐熱性フィルムの貼付方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、簡便な方法で複雑な形状を有する被着体に対しても接着可能な耐熱性フィルムが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実施例で使用した密閉空間加熱評価装置の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
まず本発明の耐熱性フィルムについて説明する。本発明の耐熱性フィルムは、耐熱性樹脂多孔質膜と、前記多孔質膜の孔内に含まれるポリイミドとを含む。
【0016】
樹脂製の多孔質膜は柔軟性を有する材料である。よって本発明においては、耐熱性樹脂多孔質膜を用いることによって、耐熱性と形状追従性を得ることができる。また、孔内に接着成分であるポリイミドを保持することができる。
【0017】
耐熱性樹脂多孔質膜を構成する耐熱性樹脂の種類には特に制限はなく、その融点が200℃以上のものを好適に用いることができる。耐熱性樹脂の種類は、耐熱性フィルムの種類に応じて適宜選択すればよいが、多孔質膜の形成のしやすさの観点から、フッ素樹脂が好ましい。フッ素樹脂としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン−へキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体(ETFE)、ポリビニリデンフルオライド(PVdF)等が例示でき、これらのうち、汎用性に優れることからPTFEが好ましい。
【0018】
多孔質膜の平均孔径および空孔率については、接着に使用できるだけの量のポリイミドを孔内に保持できる限り特に制限はない。平均孔径としては0.01〜10μmが好ましく、0.1〜5μmがより好ましい。空孔率としては、50〜95%が好ましく、70〜90%がより好ましい。
【0019】
本発明の耐熱性フィルムにおいては、多孔質膜の孔内にポリイミドを含む。当該ポリイミドとしては、沸点が100℃以下の溶剤に溶解可能なポリイミドを使用する。当該ポリイミドは、接着成分として機能するものであり、沸点が100℃以下の溶剤に溶解可能なポリイミドを使用することにより、後述するような簡便な方法により、耐熱性フィルムを被着体に貼付することができる。接着成分がポリイミドであるため、耐熱フィルムを貼付した際には、接着部分が、耐熱性、耐油性、接着耐久性等に優れるものとなる。
【0020】
本発明に用いられるポリイミドの種類は、沸点が100℃以下の少なくとも1種の溶剤
に溶解可能なものある限り特に制限はなく、例えば、テトラカルボン酸成分として2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、またはそのエステルもしくは酸二無水物と、ジアミン成分として2,2’−ビス(トリフルオロメチル)ベンジジンとを用いて得られるポリイミドを好適に用いることができる。テトラカルボン酸成分としては、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン二無水物がより好適である。
【0021】
本発明においては、耐熱性フィルムのさらなる高機能化を目的として、ポリイミドにフィラーが配合されていてもよい。フィラーの種類および量は、目的とする機能に応じて適宜選択すればよい。例えば、絶縁特性の観点から、シリカ、アルミナ、マグネシア、チタニア、ジルコニア、窒化アルミニウム、窒化ホウ素などの絶縁性フィラーを単独もしくは併用して配合することができる。また、導電特性の観点から、カーボン、金属フィラーなどの導電性フィラーを単独もしくは併用して配合することができる。また、放熱特性の観点から、シリカ、アルミナ、マグネシア、チタニア、ジルコニア、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、カーボン、金属フィラーなどの熱伝導性フィラーを単独もしくは併用して配合することができる。熱伝導性フィラーを配合する場合には、耐熱性フィルムの波長2〜14μmにおける全赤外線吸収率が0.5以上となるように、熱伝導性フィラーをポリイミドに分散させて配合することが好ましい。
【0022】
なお、波長2〜14μmにおける全赤外線吸収率(ε)とは、黒体の各波長の放射エネルギーをEbλ、試料の各波長の放射エネルギーをEsλとして、下記式より計算される値である。すなわち、Esλ、Ebλをそれぞれ2〜14μmの波長領域で積分して試料の全放射エネルギーおよび黒体の全放射エネルギーを算出し、(試料の全放射エネルギー)/(黒体の全放射エネルギー)を計算することにより求められる値である。
【0023】
【数1】

【0024】
本発明の耐熱性フィルムの厚さは、用途に応じて適宜設定すれよく特に制限はないが、好ましくは5μm〜100μm、より好ましくは10μm〜80μmである。厚さが小さ過ぎるとフィルムの取り扱いが難しくなる傾向があり、ハンドリング性が低下して被着体への貼付が難しくなるおそれがある。厚さが大きすぎるとフィルムの剛性が高くなる傾向があり、これにより形状追従性が低下するおそれがある。
【0025】
次に、本発明の耐熱性フィルムの製造方法について説明する。当該製造方法は、イミド化した際に沸点が100℃以下の溶剤に溶解可能なポリイミドを生成するポリアミド酸の溶液を調製する工程(a)と、
前記ポリアミド酸の溶液を耐熱性樹脂多孔質膜に含浸させる工程(b)と、
前記ポリアミド酸の溶液を含浸させた耐熱性樹脂多孔質膜を加熱して、前記ポリアミド酸をイミド化する工程(c)とを含む。
【0026】
工程(a)は、例えば、100℃以下の溶剤に溶解可能なポリイミドのテトラカルボン酸成分とジアミン成分とを溶媒の存在下アミド化することにより実施することができる。
【0027】
ここで、前記テトラカルボン酸成分としては、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、またはそのエステルもしくは酸二無水物を用いることが好ましく、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン二無水物を用いることがより好ましい。前記ジアミン成分としては、2,2’−ビス(トリフルオロメチル)ベンジジンを用いることが好ましい。
【0028】
溶媒は、使用するテトラカルボン酸成分とジアミン成分に応じて適宜選択すればよく、溶解性等の点から極性溶媒が好ましく用いられ、具体例としては、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、N,N−ジメチルメトキシアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルホスホルトリアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ピリジン、ジメチルスルホキシド、テトラメチレンスルホン、ジメチルテトラメチレンスルホン等が挙げられる。これらは単独で用いても構わないし、併せて用いても差し支えない。さらに、上記有機極性溶媒にクレゾール、フェノール、キシレノール等のフェノール類、ベンゾニトリル、ジオキサン、ブチロラクトン、キシレン、シクロヘキサン、ヘキサン、ベンゼン、トルエン等を単独もしくは併せて混合することもできる。
【0029】
溶媒中のテトラカルボン酸成分とジアミン成分の濃度としては、種々の条件に応じて設定されるが、テトラカルボン酸成分とジアミン成分の合計濃度として、5〜30重量%が好ましい。また、反応温度は80℃以下に設定することが好ましく、特に好ましくは5〜50℃である。
【0030】
このようにしてアミド化することによりポリアミド酸が、前記の溶媒に溶解した溶液の形態で得られる。なお、反応系に水が存在すると、ポリアミド酸が加水分解して低分子量化が起こるため、ポリアミド酸の合成および保存は無水環境下で行うことが好ましい。
【0031】
ここで、得られる耐熱性フィルムのポリイミドにフィラーを配合したい場合には、ポリアミド酸溶液にフィラーを分散させる工程を行えばよい。当該工程は、公知方法に従い行うことができる。
【0032】
工程(b)では、得られたポリアミド酸の溶液を耐熱性樹脂多孔質膜に含浸させる。当該工程は、耐熱性樹脂多孔質膜をポリアミド酸の溶液に浸漬することにより行うことができる。この際、ポリアミド酸の溶液を加圧してもよい。
【0033】
工程(c)では、ポリアミド酸の溶液を含浸させた耐熱性樹脂多孔質膜を加熱して、ポリアミド酸をイミド化する。
【0034】
加熱温度としては、イミド化温度以上であればよく、ポリイミドの組成や触媒の有無にもよるが、300〜400℃で10〜60分間程度加熱することが好ましい。
【0035】
イミド化の際に、触媒を使用してもよい。イミド化触媒としては、例えば、アミンを使用することができる。アミンの例としては、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリエチレンジアミン、ピリジン、ピコリン、キノリン、イソキノリン、ルチジン、イミダゾール等が挙げられ、これらのうち、ピリジン、β−ピコリン、γ−ピコリン、キノリン、イソキノリン、イミダゾールが好ましい。
【0036】
イミド化触媒の使用量は、ポリアミド酸のポリアミック酸セグメント1モルに対して0.1モル以上8モル以下が好ましく、より好ましくは0.2〜4モルである。イミド化触媒の使用量が0.1モルより少ない場合には、イミド化を完結させるのに過度に長時間を要する場合がある。4.0モルを超える場合には、イミド化触媒を蒸発させるために加熱温度を高くもしくは長くする必要があり、結果として得られるフィルムの機械物性が大きく低下するおそれがある。
【0037】
上記のように加熱することによって、ポリアミド酸がポリイミドに変換されるとともに、ポリアミド酸溶液の溶媒が揮発除去され、耐熱性樹脂多孔質膜の孔内にポリイミドが含む耐熱性フィルムを得ることができる。
【0038】
なお、上記の製造方法は、本発明の耐熱性フィルムの製造に好適なものであるが、本発明の耐熱性フィルムは別の方法によって製造しても構わない。例えば、沸点が100℃以下の溶剤に溶解可能なポリイミドを予め合成しておいて、これを溶媒に溶解し、そこに耐熱性樹脂多孔質膜を浸漬した後取り出し、溶媒を除去することによっても製造することができる。
【0039】
次に本発明の耐熱性フィルムの使用方法である貼付方法について説明する。当該貼付方法は、耐熱性フィルムを被着体の表面に配置する工程(A)と、
前記耐熱性フィルムに、前記耐熱性フィルムが含むポリイミドを溶解可能な溶媒を塗布する工程(B)と、
前記溶媒を乾燥させる工程(C)とを含む。
【0040】
工程(A)は、公知方法に従い行うことができる。耐熱性フィルムは、形状追従性を有するため、被着体が複雑な形状を有している場合でも、被着面に沿って耐熱性フィルムを配置することができる。
【0041】
工程(B)は、例えば、耐熱性フィルムに、耐熱性フィルムが含むポリイミドを溶解可能な溶媒を噴霧することにより行うことができる。使用する溶媒は、沸点が100℃以下でありかつポリイミドを溶解可能な限り特に制限はない。例えば、前記ポリイミドが、テトラカルボン酸成分として2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、またはそのエステルもしくは酸二無水物と、ジアミン成分として2,2’−ビス(トリフルオロメチル)ベンジジンとを用いて得られるものである場合には、メチルイソブチルケトン等を用いることができる。使用する溶媒は、揮発性が高いものが好ましい。
【0042】
工程(C)は、自然乾燥、温風乾燥等によって溶媒を乾燥させることにより行うことができる。溶媒が乾燥することにより、耐熱性フィルムと被着体との接着がなされる。
【0043】
なお、本発明の貼付方法は、工程(A)、工程(B)および工程(C)を含んでいればよく、工程(A)と工程(B)は、工程(A)→工程(B)の順で行われても工程(B)→工程(A)の順で行われてもよい。
【0044】
このように本発明によれば、耐熱性フィルムを、簡便な方法で複雑な形状を有する被着体に対しても接着可能である。接着の際には、接着成分のポリイミドが一度溶剤に溶解されるため、被着面の微細な凹凸に入り込むことによってアンカー効果を得ることができ、良好な接着性を発現することができる。
【0045】
本発明の耐熱性フィルムは、被着体に接着して使用される従来公知の耐熱性フィルムの用途に用いることができる。例えば、パワーモジュール、LED照明、太陽光発電等の熱対策などに用いることができ、特に、放熱フィルムとして好適に用いられる。
【実施例】
【0046】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明は、これら実施例に限定されるものではない。
【0047】
実施例1
N−メチル−2−ピロリドン(NMP)に、2,2−ビス(3,4−ジヒドロキシカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン酸二無水物と2,2’−ビス(トリフルオロメチル)ベンジジンを溶解(モノマー濃度20wt%)させ、窒素雰囲気下室温で攪拌しながら反応させた。増粘後、70℃に加温しつつ攪拌してポリアミド酸溶液(100Pa・s)を作製した。
【0048】
次に、このポリアミド酸溶液に、PTFE多孔質シート(商品名TEMISH、日東電工製)を浸漬して、ポリアミド酸溶液をPTFE多孔質シートに含浸させた。PTFE多孔質シートを取り出し、350℃で加熱してポリアミド酸をイミド化することにより、厚さ30μmの耐熱性フィルムを得た。
【0049】
得られた耐熱性フィルムの全赤外線吸収率と厚さ方向の熱伝導率を下記の方法により評価したところ、全赤外線吸収率は0.64、厚さ方向の熱伝導率は0.2W/mKであった。また、60mm×60mmの寸法の耐熱性フィルムにスプレーでメチルイソブチルケトンを吹きかけて耐熱性フィルム中のポリイミドを溶解させ、図1に示す密閉空間加熱評価装置(セラミックヒーターの出力:20W)のアルミ筐体に接触させて自然乾燥して貼り付け、16時間後に筐体内の温度を評価したところ、筐体内の温度は165℃を示し、フィルムを貼付する前の状態(173℃)に比べ5%低下した。また、耐熱性フィルムは、200℃の雰囲気に24時間おいても剥離することはなく、機械油を150℃で24時間接触させても剥離することはなかった。
【0050】
〔全赤外線吸収率〕
波長2〜14μmにおける全赤外線吸収率の測定には、赤外分光用積分球と、DTGS赤外線検出器による反射率測定装置とを取り付けたブルカー社製FT−IR(機種名:IFS66V)を使用した。2cm角の試料を準備し、入射角10°、分解能4cm-1、積算回数512回、室温(25℃)にて、2〜14μmの波長領域における反射スペクトルおよび透過スペクトルを測定し、2〜14μmの波長領域での放射スペクトルを算出した。次に、プランクの式から求められる各波長における黒体の放射エネルギーをEbλとし、算出した試料の放射スペクトルから得られる各波長における試料の放射率(=赤外線吸収率)をελとすると、各波長における試料の放射エネルギーEsλは、下記式で表される。
Esλ=ελ×Ebλ
この式に基づき、全赤外線吸収率(ε)は、EsλおよびEbλをそれぞれ2〜14μmの波長領域で積分して、試料の全放射エネルギーおよび黒体の全放射エネルギーを算出し、(試料の全放射エネルギー)/(黒体の全放射エネルギー)を計算することにより求めた。
【0051】
〔熱伝導率〕
熱伝導率を下記式から求めた。
熱伝導率=熱拡散率×比熱×密度
なお、熱拡散率は、キセノンフラッシュアナライザーLFA 447 Nanoflash(NETZSCH Instruments製)を用いて測定した。比熱は、DSC(SIIナノテクノロジー製)を用いて測定した(昇温速度:10℃/分)。比重は、ブタノール浸漬法より測定した。
【0052】
比較例1
N−メチル−2−ピロリドン(NMP)にピロメリット酸二無水物と4,4’−ジアミノジフェニルエーテルを溶解(モノマー濃度20wt%)させ、窒素雰囲気下室温で攪拌しながら反応させた。増粘後、70℃に加温しつつ攪拌してポリアミド酸溶液(100Pa・s)を作製した。
【0053】
次に、このポリアミド酸溶液に、PTFE多孔質シート(商品名TEMISH、日東電工製)を浸漬して、ポリアミド酸溶液をPTFE多孔質シートに含浸させた。PTFE多孔質シートを取り出し、350℃で加熱してポリアミド酸をイミド化することにより、厚さ30μmの耐熱性フィルムを得た。
【0054】
得られた耐熱性フィルムの全赤外線吸収率と厚さ方向の熱伝導率を上記の方法により評価したところ、全赤外線吸収率は0.65、厚さ方向の熱伝導率0.2W/mKであった。この耐熱性フィルムは沸点が100℃以下の溶剤に不溶であり、溶剤を吹きかけることによって密閉空間加熱評価装置のアルミ筐体に貼付することができなかった。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明の耐熱性フィルムは、例えば、パワーモジュール、LED照明、太陽光発電等の熱対策などに用いることができ、特に、放熱フィルムとして好適に用いられる。
【符号の説明】
【0056】
1 密閉空間加熱評価装置
2 セラミックヒーター
3 断熱材
4,5 アルミ筐体
6 耐熱性フィルム
7 熱電対

【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐熱性樹脂多孔質膜と、
前記多孔質膜の孔内に含まれるポリイミドとを含む耐熱性フィルムであって、
前記ポリイミドが、沸点が100℃以下の溶剤に溶解可能なポリイミドである耐熱性フィルム。
【請求項2】
前記ポリイミドが、テトラカルボン酸成分として2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン二無水物と、ジアミン成分として2,2’−ビス(トリフルオロメチル)ベンジジンとを用いて得られるものである請求項1に記載の耐熱性フィルム。
【請求項3】
前記ポリイミドに、熱伝導性フィラーが分散されており、耐熱性フィルムの波長2〜14μmにおける全赤外線吸収率が0.5以上である請求項1または2に記載の耐熱性フィルム。
【請求項4】
イミド化した際に沸点が100℃以下の溶剤に溶解可能なポリイミドを生成するポリアミド酸の溶液を調製する工程(a)と、
前記ポリアミド酸の溶液を耐熱性樹脂多孔質膜に含浸させる工程(b)と、
前記ポリアミド酸の溶液を含浸させた耐熱性樹脂多孔質膜を加熱して、前記ポリアミド酸をイミド化する工程(c)とを含む耐熱性フィルムの製造方法。
【請求項5】
前記工程(a)において、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン二無水物と、2,2’−ビス(トリフルオロメチル)ベンジジンとを溶媒中でアミド化してポリアミド酸の溶液を調製する請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
工程(b)の前に、ポリアミド酸溶液にフィラーを分散させる工程を含む請求項4または5に記載の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の耐熱性フィルムを被着体の表面に配置する工程(A)と、
前記耐熱性フィルムに、前記耐熱性フィルムが含むポリイミドを溶解可能な溶媒を塗布する工程(B)と、
前記溶媒を乾燥させる工程(C)とを含む耐熱性フィルムの貼付方法。

【図1】
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【公開番号】特開2013−40250(P2013−40250A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−176750(P2011−176750)
【出願日】平成23年8月12日(2011.8.12)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】