説明

耐熱性樹脂組成物及び耐熱性樹脂組成物を用いた塗料

【課題】 高加工性を有する柔軟な塗膜を形成することのできる水系ポリアミドイミド樹脂組成物及びこの水系ポリアミドイミド樹脂組成物を塗膜成分としてなる塗料を提供する。
【解決手段】 (A)ポリアミドイミド樹脂、(B)塩基性化合物及び(C)水を含有してなる耐熱性樹脂組成物であり、(B)成分の塩基性化合物が、(A)成分のポリアミドイミド樹脂中に含まれるカルボキシル基及びポリアミドイミド樹脂中の酸無水物基を開環させたカルボキシル基を合わせた酸価に対して、0.1〜20当量配合された耐熱性樹脂組成物及び耐熱性樹脂組成物を塗膜成分としてなる塗料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱性樹脂組成物及び耐熱性樹脂組成物を用いた塗料に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境保全面、安全衛生面、経済性及び塗装作業性等の面から有機溶剤に代わり媒体に水を使用する水性樹脂溶液が注目され、樹脂末端に残存するカルボキシル基と塩基性化合物を作用させるポリアミドイミド樹脂の水溶化方法が報告されている(例えば、特許文献1など参照)。
【特許文献1】特開2002−284993号公報
【0003】
この水系ポリアミドイミド樹脂組成物は、その安全性の点から様々な用途に適用されているが、塗膜焼成後に基材を加工する際に、塗膜が硬すぎるため基材の変形に追従できず塗膜に剥離又は亀裂が生じてしまう。このため加工性に優れる柔軟な塗膜を形成可能な水系ポリアミドイミド樹脂の開発が強く望まれているが、現在まで実用化に至っていない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、高加工性を有する柔軟な塗膜を形成することのできる水系ポリアミドイミド樹脂組成物及びこの水系ポリアミドイミド樹脂組成物を塗膜成分としてなる塗料を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記の高加工性を有する柔軟な塗膜を形成することのできる水系ポリアミドイミド樹脂組成物に関して検討した結果、特定の脂肪族構造をアミドイミド樹脂構造中に導入することによって従来の水系ポリアミドイミド樹脂からなる塗膜と比較して加工性を大きく向上させることが可能であることを見出し本発明を完成するに至った。
【0006】
本発明は、(A)ポリアミドイミド樹脂、(B)塩基性化合物及び(C)水を含有してなる耐熱性樹脂組成物に関する。
また、本発明は、(B)成分の塩基性化合物が、(A)成分のポリアミドイミド樹脂中に含まれるカルボキシル基及びポリアミドイミド樹脂中の酸無水物基を開環させたカルボキシル基を合わせた酸価に対して、0.1〜20当量配合された前記の耐熱性樹脂組成物に関する。
【0007】
また、本発明は、(C)成分の水が、(A)成分、(B)成分及び(C)成分の合計量に対して、5〜99重量%配合された前記の耐熱性樹脂組成物に関する。
また、本発明は、(A)成分のポリアミドイミド樹脂の数平均分子量が、5,000〜50,000で、かつ、カルボキシル基及び酸無水物基を開環させたカルボキシル基を合わせた酸価が5〜100である前記の耐熱性樹脂組成物に関する。
また、本発明は、(A)成分のポリアミドイミド樹脂が、加工性を向上させるために脂肪族構造を導入させた前記の耐熱性樹脂組成物に関する。
【0008】
また、本発明は、(A)成分のポリアミドイミド樹脂が、下記一般式(I)
【0009】
【化1】

(式中、nは0〜24の整数を示し、繰り返し単位中の複数個のRはそれぞれ独立に−H、−OH、−CH、−CHCH又は−OCHを示し、複数個のXはそれぞれ独立に、−NCO、−NH、−OH又は−COOHを示す)で表される群から選ばれた少なくとも一種類以上のモノマを共重合させたものである前記の耐熱性樹脂組成物に関する。
【0010】
また、本発明は、ポリアミドイミド樹脂が、ヘキサメチレンジアミン、ヘキサメチレンジイソシアネート、1,6−ヘキサンジオール、アジピン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、12−アミノドデカン酸又はそれらの誘導体よりなる群から選ばれた少なくとも1種類以上のモノマを共重合してなることを特徴とする前記の耐熱性樹脂組成物に関する。
また、本発明は、ポリアミドイミド樹脂が、原料の全酸成分中にセバシン酸を1〜95モル%含んで重合させたものである前記の耐熱性樹脂組成物に関する。
【0011】
また、本発明は、ポリアミドイミド樹脂が、原料の全アミン成分中にヘキサメチレンジイソシアネート又はヘキサメチレンジアミンを1〜95モル%含んで重合させたものである前記の耐熱性樹脂組成物に関する。
さらに、本発明は、前記の耐熱性樹脂組成物を塗膜成分としてなる塗料に関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の水系ポリアミドイミド樹脂組成物を用いることで、従来の水系ポリアミドイミド樹脂から得られる塗膜と比較して加工性に優れる柔軟な塗膜を得ることが可能となる。これらは、塗膜焼成後に基材を加工する必要のある様々な用途向けに、多大な有益性を有している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明になる耐熱性樹脂組成物、詳しくはポリアミドイミド樹脂組成物は、塩基性極性溶媒中で、アミン成分として芳香族のジアミン化合物及び/又はジイソシアネート化合物と酸成分として芳香族のジカルボン酸化合物、ジオール化合物、三塩基酸無水物、三塩基酸無水物モノクロライド及び/又は四塩基酸無水物とを共重合させて得られる芳香族構造からなるポリアミドイミド樹脂に、加工性を向上させるために脂肪族構造を導入したものである。上記製造法に用いられる代表的な化合物を次に列挙する。
【0014】
まず、ジアミン化合物及びジイソシアネート化合物としては、トリジン、ジヒドロキシベンジジン、ジアニシジン、ジアミノジフェニルメタン、ジメチルジアミノジフェニルメタン、ジアミノジエチルジフェニルメタン、ジアミノジフェニルエーテル、ジアミノジフェニルスルホン、フェニレンジアミン、キシリレンジアミン、トルエンジアミン、ビス(トリフルオロメチル)ジアミノジフェニル、トリジンスルホン、ジアミノベンゾフェノン、チオジアニリン、スルホニルジアニリン、ジアミノベンズアニリド、ビス(アミノフェノキシ)ベンゼン、ビス(アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス(アミノフェノキシフェニル)プロパン、ビス[(アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[(アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、ビス(アミノプロピル)テトラメチルジシロキサン、ジアミノベンジジン、ヘキサメチレンジアミン、ナフタレンジイソシアネート、トリジンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート等が挙げられる。
【0015】
また、ジカルボン酸化合物、ジオール化合物、三塩基酸無水物、三塩基酸無水物モノクロライド及び四塩基酸無水物としては、ナフタレンジカルボン酸、ヒドロキシナフトエ酸、オキシナフトエ酸、ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、無水トリメリット酸、無水トリメリット酸クロライド、セバシン酸、アジピン酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ヒドロキシビフェニルカルボン酸、エチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ポリカーボネートジオール、ドデカン二酸、12−アミノドデカン酸、ブラシル酸、シュウ酸(無水物)、イタコン酸、3,3’−ジチオジプロピオン酸、3,3’−チオジプロピオン酸、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、無水クエン酸、グルコン酸、乳酸、フマル酸、DL−リンゴ酸、キシリトール、D−ソルビトール、DL−アラニン、無水ピロメリット酸、オキシジフタル酸二無水物、ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸二無水物、ターフェニルテトラカルボン酸二無水物などが挙げられる。
【0016】
本発明のポリアミドイミド樹脂は、脂肪族構造を導入することでジフェニルメタンジイソシアネートと無水トリメリット酸からなる従来のポリアミドイミド樹脂と比較して加工性を向上させるものであり、このポリアミドイミド樹脂を製造するにあたり、上記の化合物のいずれを使用しても良いが、加工性を向上させるためには
(A)成分のポリアミドイミド樹脂が、下記一般式(I)
【0017】
【化2】

(式中、nは0〜24の整数を示し、繰り返し単位中の複数個のRはそれぞれ独立に−H、−OH、−CH、−CHCH又は−OCHを示し、複数個のXはそれぞれ独立に、−NCO、−NH、−OH又は−COOHを示す)で表される群から選ばれた少なくとも一種類以上のモノマを導入することが好ましく、ヘキサメチレンジアミン、ヘキサメチレンジイソシアネート、1,6−ヘキサンジオール、アジピン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、12−アミノドデカン酸を導入することがより好ましい。
【0018】
また、ポリアミドイミド樹脂に加工性と水溶性の両特性をよりバランス良く付与するためには、アミン成分としてヘキサメチレンジイソシアネート又はヘキサメチレンジアミンを、又は酸成分としてセバシン酸をそれぞれ全アミン成分および全酸成分に対して1〜95モル%導入することがさらに好ましい。1モル%未満では従来のポリアミドイミド樹脂と比較して加工性の向上が見られず、また95モル%をこえる量では水溶性が低下する傾向がある。
【0019】
加工性と水溶性の両特性をよりバランスよく付与するためには、それぞれ全アミン成分及び全酸成分に対して20〜60モル%とすることがより好ましい。ヘキサメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジアミン及びセバシン酸は同時に併用しても差し支えないが、この場合は、それぞれの導入量の合計をアミン及び酸の全成分に対して1〜50モル%とすることが好ましく、10〜30モル%とすることがより好ましい。
【0020】
なお、本発明の耐熱性樹脂組成物の製造に使用されるジアミン化合物、ジイソシアネート化合物、ジカルボン酸化合物、ジオール化合物、三塩基酸無水物、三塩基酸無水物モノクロライド及び四塩基酸無水物は上記の化合物に限定されるものではなく、その他の脂肪族構造及び芳香族構造を有する多種多様な化合物を使用出来ることは言うまでもない。
【0021】
ポリアミドイミド樹脂の重合に使用される塩基性極性溶媒としては、N−メチル−2−ピロリドン、γ−ブチロラクトン、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド等を用いることが出来るが、アミドイミド化反応を高温で短時間に行うためには、N−メチル−2−ピロリドンなどの高沸点溶媒を用いることが好ましい。
【0022】
また、溶媒の使用量には得に制限はないが、イソシアネート成分又はアミン成分と酸成分の総量100重量部に対して50〜500重量部とすることが好ましい。ポリアミドイミド樹脂の合成条件は多様であり、一概に特定できないが、通常、80〜170℃の温度で行われ、空気中の水分の影響を低減するため、窒素などの雰囲気下で行うことが好ましい。
【0023】
本発明のポリアミドイミド樹脂は、数平均分子量が5,000から50,000のものが好ましい。数平均分子量が5,000未満では塗膜としたときに加工性をはじめ耐熱性や機械的特性等の諸特性が低下する傾向があり、50,000を超えると水溶性が低下し、また粘度が高くなることから塗装時の作業性に劣る傾向がある。このことから、ポリアミドイミド樹脂の数平均分子量は10,000から40,000とすることがより好ましい。
【0024】
なお、ポリアミドイミド樹脂の数平均分子量は、樹脂合成時にサンプルリングしてゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)により、標準ポリスチレンの検量線を用いて測定し、目的の数平均分子量になるまで合成を継続することにより上記範囲に管理される。
【0025】
ポリアミドイミド樹脂は、カルボキシル基及び酸無水物基を開環させたカルボキシル基を合わせた酸価が5〜100であることが好ましい。5未満であると塩基性化合物と反応するカルボキシル基が不足するため、水溶化が困難となり、100を超えると最終的に得られる耐熱性樹脂組成物が経日にてゲル化しやすくなる。このことから、カルボキシル基及び酸無水物基を開環させたカルボキシル基を合わせた酸価が10〜70とすることがより好ましい。
【0026】
なお、ポリアミドイミド樹脂のカルボキシル基及び酸無水物基を開環させたカルボキシル基を合わせた酸価は、以下の方法で得ることができる。ます、ポリアミドイミド樹脂を約0.5gとり、これに1,4−ジアザビシクロ[2,2,2]オクタンを約0.15g加え、さらにN−メチル−2−ピロリドンを約60g及びイオン交換水を約1ml加え、ポリアミドイミド樹脂が完全に溶解するまで攪拌する。これを0.05モル/lエタノール性水酸化カリウム溶液を使用して電位差滴定装置で滴定し、ポリアミドイミド樹脂のカルボキシル基及び酸無水物基を開環させたカルボキシル基を合わせた酸価を得る。

本発明において、塩基性化合物としてはトリエチルアミン、トリブチルアミン、トリエチレンジアミン、N−メチルモルフォリン等のアルキルアミン、メチルアニリン、ジメチルアニリン等のアルキルアニリン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジプロパノールアミン、トリプロパノールアミン、N−エチルエタノールアミン、N,N−ジメチルエタノールアミン、シクロヘキサノールアミン、N−メチルシクロヘキサノールアミン、N−ベンジルエタノールアミン等のアルカノールアミン類が適しているが、これら以外の塩基性化合物、例えば水酸化ナトリウムや水酸化カリウム等の苛性アルカリ又はアンモニア水などを使用してもよく特に制限はない。好ましくは、トリエチルアミン、N−メチルモルフォリン、トリエチレンジアミン、N,N−ジメチルエタノールアミンが使用される。
【0027】
塩基性化合物は、上記の有機溶媒中で反応させて得られるポリアミドイミド樹脂中に含まれるカルボキシル基及び開環させた酸無水物基を合わせた酸価に対して、0.1〜20当量用いられる。0.1当量未満では樹脂の水溶化が困難となり、20当量を越えると樹脂の加水分解が促進され、長期の保存により粘度又は特性低下をきたすことがある。このことから、カルボキシル基及び酸無水物基を開環させたカルボキシル基を合わせた酸価に対して、1〜10当量とすることが好ましい。
【0028】
塩基性化合物は、ポリアミドイミド樹脂の末端にあるカルボキシル基と塩を形成して親水性基となる。塩形成に際しては水の共存下に行ってもよいし、塩基性化合物を添加した後、水を加えてもよい。塩を形成させる温度は0℃〜150℃、好ましくは30℃〜100℃の範囲で行われる。
塩基性化合物の種類と量及び水の添加方法によって、得られる水性樹脂組成物の形態はエマルジョン状、半透明溶液、透明溶液等となるが、貯蔵安定性、塗装作業性の点から、半透明あるいは透明溶液にすることが好ましい。
【0029】
水としてはイオン交換水が好ましく用いられ、(A)成分、(B)成分及び(C)成分の合計量に対して好ましくは5〜99重量%、より好ましくは20〜60重量%配合される。この配合量が5重量%未満では含有する水が少ないことから一般に水溶性ポリマーとして称されず、99重量%を超えると塗料として機能しなくなる傾向がある。
【0030】
このようにして得られた水系耐熱性樹脂組成物は、使用する際に必要に応じて適当な濃度に希釈される。希釈溶媒としては、水、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキサイド、γ‐ブチロラクトン、N−メチル−2−ピロリドン等の極性溶媒の他に、助溶媒として、ポリオール類、これらの低級アルキルエーテル化物、アセチル化物等を用いてもよい。
【0031】
例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、イソプロピルアルコール又はそれらのモノメチルエーテル化物、モノエチルエーテル、モノイソプロピルエーテル化物、モノブチルエーテル化物、ジメチルエーテル化物等及びこれらのモノアセチル化物などが使用される。
【0032】
耐熱性樹脂組成物、及び耐熱性樹脂組成物を塗膜成分としてなる塗料は、被塗物に塗布、硬化させて、被塗物表面に塗膜を形成する。特に水系ポリアミドイミド樹脂組成物は、従来の水系ポリアミドイミド樹脂と比較して加工性に優れた柔軟な塗膜を形成することができることから、塗膜焼成後に基材を加工する必要のある様々な用途向けに、多大な有益性を有している。
【実施例】
【0033】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明はこれらの実施例に制限するものではなく、発明の主旨に基づいたこれら以外のものも含むことは言うまでもない。
実施例1
無水トリメリット酸1106.2g、ヘキサメチレンジイソシアネート489.2g(全アミン成分に対して50モル%)、4,4−ジフェニルメタンジイソシアネート727.9g及びN−メチル−2−ピロリドン2562.0gを温度計、攪拌機、冷却管を備えたフラスコに入れ、乾燥させた窒素気流中で攪拌しながら2時間かけて徐々に昇温して130℃まで上げた。
【0034】
反応により生ずる炭酸ガスの急激な発泡に注意しながら130℃を保持し、このまま6時間加熱を続けた後反応を停止させ、ポリアミドイミド樹脂溶液を得た。
このポリアミドイミド樹脂溶液の不揮発分(200℃−2h)は50重量%で、粘度(30℃)は85.0Pa・sであった。
また、ポリアミドイミド樹脂の数平均分子量は17,000で、カルボキシル基及び酸無水物基を開環させたカルボキシル基を合わせた酸価は40であった。なお、数平均分子量は次の条件にて測定した。
【0035】
機種:日立 L6000
検出器:日立 L4000型UV
波長:270nm
データ処理機:ATT 8
カラム:Gelpack GL−S300MDT−5×2
カラムサイズ:8mm(φ)×300mm
溶媒:DMF/THF=1/1(リットル)+リン酸0.06M+臭化リチウム0.06M
試料濃度:5mg/1ml耐熱性樹脂組成物を塗膜成分としてなる塗料
注入量:5μl
圧力:49kgf/cm(4.8×10Pa)
流量:1.0ml/min
【0036】
このポリアミドイミド樹脂溶液2,700gを温度計、攪拌機、冷却管を備えたフラスコに入れ、乾燥させた窒素気流中で攪拌しながら徐々に昇温して50℃まで上げた。50℃に達したところでトリエチルアミンを447.1g(4当量)添加し、50℃に保ちながら十分に攪拌した後、攪拌しながら徐々にイオン交換水を加えた。最終的にイオン交換水が1348.8g(30重量%)となるまで加えて、透明で均一な耐熱性樹脂組成物を得た。
【0037】
実施例2
セバシン酸120.9g(全酸成分に対して30モル%)、無水トリメリット酸268.0g、ヘキサメチレンジイソシアネート135.5g(全アミン成分に対して40モル%)、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート302.3g及びN−メチル−2−ピロリドン886.8gを温度計、攪拌機、冷却管を備えたフラスコに入れ、乾燥させた窒素気流中で攪拌しながら1時間かけて徐々に昇温して80℃まで上げた。反応により生ずる炭酸ガスの急激な発泡に注意しながら80℃を保ち、加熱開始から7時間加熱を続けた後反応を停止させ、ポリアミドイミド樹脂溶液を得た。
【0038】
このポリアミドイミド樹脂溶液の不揮発分(200℃−2h)は50重量%で、粘度(30℃)は80.0Pa・sであった。
また、ポリアミドイミド樹脂の数平均分子量は約15,000で、カルボキシル基及び酸無水物基を開環させたカルボキシル基を合わせた酸価は約50であった。
【0039】
このポリアミドイミド樹脂溶液200gを温度計、攪拌機、冷却管を備えたフラスコに入れ、乾燥させた窒素気流中で攪拌しながら徐々に昇温して90℃まで上げた。90℃に達したところでN−メチルモルホリンを70.8g(8当量)添加し、90℃に保ちながら十分に攪拌した後、攪拌しながら徐々にイオン交換水を加えた。最終的にイオン交換水が180.5g(40重量%)となるまで加えて、透明で均一な耐熱性樹脂組成物を得た。
【0040】
実施例3
無水トリメリット酸233.8g、無水ベンゾフェノンテトラカルボン酸98.0g、ヘキサメチレンジイソシアネート64.6g(全アミン成分に対して25モル%)、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート288.4g及びN−メチル−2−ピロリドン1671.6gを温度計、攪拌機、冷却管を備えたフラスコに入れ、乾燥させた窒素気流中で攪拌しながら1時間かけて徐々に昇温して120℃まで上げた。反応により生ずる炭酸ガスの急激な発泡に注意しながら徐々に昇温して150℃まで上げ、加熱開始から5時間加熱を続けた後反応を停止させ、ポリアミドイミド樹脂溶液を得た。
【0041】
このポリアミドイミド樹脂溶液の不揮発分(200℃℃−2h)は約30重量%で、粘度(30℃)は約2.1Pa・sであった。
また、ポリアミドイミド樹脂の数平均分子量は約23,000で、カルボキシル基及び酸無水物基を合わせた酸価は30であった。
【0042】
このポリアミドイミド樹脂溶液200gを温度計、攪拌機、冷却管を備えたフラスコに入れ、乾燥させた窒素気流中で攪拌しながら徐々に昇温して110℃まで上げた。110℃に達したところでN,N−ジメチルエタノールアミンを17.6g(6当量)添加し、110℃に保ちながら十分に攪拌した後、攪拌しながら徐々にイオン交換水を加えた。最終的にイオン交換水が217.6g(50重量%)となるまで加えて、透明で均一な耐熱性樹脂組成物を得た。
【0043】
比較例1
無水トリメリット酸876.9g、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート1153.8g及びN−メチル−2−ピロリドン4,738.3gを温度計、攪拌機、冷却管を備えたフラスコに入れ、乾燥させた窒素気流中で攪拌しながら1時間かけて徐々に昇温して110℃まで上げた。反応により生ずる炭酸ガスの急激な発泡に注意しながら徐々に昇温して120℃℃まで上げた。加熱開始から8時間加熱を続けた後反応を停止させ、ポリアミドイミド樹脂溶液を得た。
【0044】
このポリアミドイミド樹脂溶液の不揮発分(200℃−2h)は約30重量%で、粘度(30℃)は1.8Pa・sであった。
また、ポリアミドイミド樹脂の数平均分子量は21,000で、カルボキシル基及び酸無水物基を開環させたカルボキシル基を合わせた酸価は35であった。
【0045】
このポリアミドイミド樹脂溶液500gを温度計、攪拌機、冷却管を備えたフラスコに入れ、乾燥させた窒素気流中で攪拌しながら徐々に昇温して40℃まで上げた。40℃に達したところでトリエチルアミンを75.8g(8当量)添加し、40℃に保ちながら十分に攪拌した後、攪拌しながら徐々にイオン交換水を加えた。最終的にイオン交換水が144.0g(20重量%)となるまで加えて、透明で均一な水系耐熱性樹脂組成物を得た。
【0046】
試験例
実施例1、2及び3及び比較例1で得られたポリアミドイミド樹脂溶液からそれぞれポリアミドイミドフィルムを作製し、硬化性、初期及びエリクセン試験機で5mm押し出した後の密着性及び曲げ性に関して試験を実施した。その試験結果を表1に示す。
【0047】
【表1】

1)旧JIS K 5400(%、クロスカット残率)に準拠し、クロスカット後にテープ剥離(1回)を行った後の残率。
N=2の基板にて各2回測定し、計4つの測定値を範囲で示す。
(100は全てのデータが100であったことを示し、0は全てのデータが0であったことを示す。)
3)エリクセン試験機により押し出し。
4)Tベント法。t=0.5mmのアルミ基板に塗布硬化させ、T=0.5mmのアルミ基板を間に挟んで
折り曲げた際の塗膜の剥離及び亀裂の発生を確認。
5)間にアルミ基板を挟まずそのまま折り曲げても、塗膜の剥離及び亀裂は発生せず。
6)間にアルミ基板を2枚挟んで折り曲げると塗膜に剥離および亀裂が生じた。
3枚では塗膜の剥離及び亀裂は発生せず。
【0048】
ポリアミドイミドフィルム作製条件を表2に示す。
【0049】
【表2】

【0050】
表1から明らかなように、実施例1、2及び3で得られた水系ポリアミドイミド樹脂溶液から作製されたポリアミドイミド塗膜は、比較例1で得られた従来の水系ポリアミドイミド樹脂溶液から作製されたポリアミドイミド塗膜と比較して、加工性が大きく向上していることが明らかである。
本結果より、本発明になる耐熱性樹脂組成物を用いることで、従来の水系ポリアミドイミド樹脂から得られる塗膜と比較して加工性に優れる柔軟な塗膜を得ることが可能となることが分かる。このことから、塗膜焼成後に基材を加工する必要のある様々な用途向けに、多大な有益性を有していることは明らかである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ポリアミドイミド樹脂、(B)塩基性化合物及び(C)水を含有してなる耐熱性樹脂組成物。
【請求項2】
(B)成分の塩基性化合物が、(A)成分のポリアミドイミド樹脂中に含まれるカルボキシル基及びポリアミドイミド樹脂中の酸無水物基を開環させたカルボキシル基を合わせた酸価に対して、0.1〜20当量配合された請求項1記載の耐熱性樹脂組成物。
【請求項3】
(C)成分の水が、(A)成分、(B)成分及び(C)成分の合計量に対して、5〜99重量%配合された請求項1又は2記載の耐熱性樹脂組成物。
【請求項4】
(A)成分のポリアミドイミド樹脂の数平均分子量が、5,000〜50,000で、かつ、カルボキシル基及び酸無水物基を開環させたカルボキシル基を合わせた酸価が5〜100である請求項1、2又は3記載の耐熱性樹脂組成物。
【請求項5】
(A)成分のポリアミドイミド樹脂が、加工性を向上させるために脂肪族構造を導入させた請求項1〜4のいずれかに記載の耐熱性樹脂組成物。
【請求項6】
(A)成分のポリアミドイミド樹脂が、下記一般式(I)
【化1】

(式中、nは0〜24の整数を示し、繰り返し単位中の複数個のRはそれぞれ独立に−H、−OH、−CH、−CHCH又は−OCHを示し、複数個のXはそれぞれ独立に、−NCO、−NH、−OH又は−COOHを示す)で表される群から選ばれた少なくとも一種類以上のモノマを共重合させたものである請求項1〜5のいずれかに記載の耐熱性樹脂組成物。
【請求項7】
ポリアミドイミド樹脂が、ヘキサメチレンジアミン、ヘキサメチレンジイソシアネート、1,6−ヘキサンジオール、アジピン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、12−アミノドデカン酸又はそれらの誘導体よりなる群から選ばれた少なくとも1種類以上のモノマを共重合してなることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の耐熱性樹脂組成物。
【請求項8】
ポリアミドイミド樹脂が、原料の全酸成分中にセバシン酸を1〜95モル%含んで重合させたものである請求項1〜7のいずれかに記載の耐熱性樹脂組成物。
【請求項9】
ポリアミドイミド樹脂が、原料の全アミン成分中にヘキサメチレンジイソシアネート又はヘキサメチレンジアミンを1〜95モル%含んで重合させたものである請求項1〜8のいずれかに記載の耐熱性樹脂組成物。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかに記載の耐熱性樹脂組成物を塗膜成分としてなる塗料。

【公開番号】特開2008−94946(P2008−94946A)
【公開日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−277610(P2006−277610)
【出願日】平成18年10月11日(2006.10.11)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】