説明

耐薬品性が向上されたパラ型芳香族ポリアミド繊維の製造方法

【課題】パラ型芳香族ポリアミド繊維が本来有する高強度や耐熱性を損なうことなく、単繊維1本1本のオーダーまで均一に処理が可能で、紙、不織布などのチョップド繊維の状態でも高い耐薬品性を有するパラ型芳香族ポリアミド繊維の製造方法を提供すること。
【解決手段】パラ型芳香族ポリアミド繊維を、下記式を満足する温度範囲T(℃)内で、定長もしくは無緊張下で熱処理する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐薬品性が向上されたパラ型芳香族ポリアミド繊維の製造方法に関するものである。さらに詳しくは、単繊維の状態でも単糸1本1本が高い耐薬品性を維持し、電池セパレータ、コンクリート補強等の特殊環境下においても好適に使用できるパラ型芳香族ポリアミド繊維を効率良く製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
パラ型芳香族ポリアミド繊維は高強度、かつ耐熱性を有する合成繊維であり、金属に比べて軽量かつ柔軟であるので様々な産業資材用途で使用されている。しかし、芳香族ポリアミド繊維は、耐薬品性がポリアミド繊維やポリオレフィン繊維などに比べて劣る為、電池セパレータやコンクリート補強など、高度の耐薬品性が要求される用途においてはほとんど採用されていない。
【0003】
芳香族ポリアミド繊維に耐薬品性を付与するための方法として、エチレン−メタクリル酸共重合体樹脂及び/又はポリサルファイド変性エポキシ樹脂で被覆する方法(特開2004−115958号公報)などが提案されている。しかし、このような方法はマルチフィラメント、撚糸、あるいはコードの状態ではある一定の効果を発揮するものの、単繊維1本1本の表面を均一に被覆し、耐薬品性を付与することは非常に困難である上、被覆した樹脂が実使用中に表面から脱落するため、長期間の使用には好ましくないという問題があった。
【0004】
また、芳香族ポリアミド繊維に耐薬品性を付与するための他の方法として、極性溶媒から調製した等方性紡糸溶液を用いて紡糸、延伸を行うことにより製造した共重合芳香族ポリアミド繊維を、50℃以上、擬融点マイナス15℃未満の温度で破断張力の20〜90%の張力下で緊張熱処理する方法(特開平7−166417号公報)が提案されている。
【0005】
しかしながら、該方法は、緊張しながら連続で高温熱処理を行うため、特殊な設備を必要とし、また単糸1本1本のオーダーまで均一に処理して耐薬品性を付与することは困難であるという問題があった。
【0006】
【特許文献1】特開2004−115958号公報
【特許文献2】特開平7−166417号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、パラ型芳香族ポリアミド繊維が本来有する高強度や耐熱性を損なうことなく、単繊維1本1本のオーダーまで均一に処理が可能で、紙、不織布などのチョップド繊維の状態でも高い耐薬品性を有するパラ型芳香族ポリアミド繊維の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記課題を解決する為に、鋭意検討した結果、パラ型芳香族ポリアミド繊維を特定の条件下で熱処理するとき、所望のパラ型芳香族ポリアミド繊維が得られることを究明し、本発明に至った。
【0009】
すなわち、本発明によれば、パラ型芳香族ポリアミド繊維を、下記式を満足する温度範囲T(℃)内で、定長もしくは無緊張下で熱処理することを特徴とする耐薬品性が向上されたパラ型芳香族ポリアミド繊維の製造方法が提供される。
【0010】
【数1】

【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、単繊維1本1本のオーダーまで高い耐薬品性を有するパラ型芳香族ポリアミド繊維が得られるので、電池セパレータ、コンクリート補強等の用途などに好適に使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
本発明で用いるパラ型芳香族ポリアミドとは、ポリアミドを構成する繰り返し単位の80モル%以上(好ましくは90モル%以上)が、下記式(1)で表される芳香族ホモポリアミド、または、芳香族コポリアミドからなるものである。
【0013】
【化1】

ここでAr、Arは芳香族基を表し、なかでも下記式(2)から選ばれた同一の、または、相異なる芳香族基からなるものが好ましい。但し、芳香族基の水素原子は、ハロゲン原子、低級アルキル基、フェニル基などで置換されていてもよい。
【化2】

【0014】
このような芳香族ポリアミド樹脂成形体の製造方法や成形体特性については、例えば、英国特許第1501948号公報、米国特許第3733964号明細書、第3767756号明細書、第3869429号明細書、日本国特許の特開昭49−100322号公報、特開昭47−10863号公報、特開昭58−144152号公報、特開平4−65513号公報などに記載されており、具体的には、ポリパラフェニレンテレフタルアミド、コポリパラフェニレン・3,4’−オキシジフェニレン・テレフタルアミド等が例示される。
【0015】
上記パラ型芳香族ポリアミドは、有機溶媒に可溶で、且つ等方性溶液であることが好ましい。該溶液(ドープ)は、パラ型芳香族ポリアミドが溶解するのであれば、溶液重合を行った後の有機溶媒ドープでも、別途得られたパラ型芳香族ポリアミドを有機溶媒に溶解せしめたものでもよい。特に、溶液重合反.応を行った後のものが好ましい。
【0016】
パラ型芳香族ポリアミドの重合溶媒としては、一般的に公知の非プロトン性有機極性溶媒を用いるが、例を挙げるとN−メチル−2−ピロリドン、N−エチル−2−ピロリドン、N、N−ジメチルホルムアミド、N、N−ジメチルアセトアミド、N、N−ジエチルアセトアミド、N、N−ジメチルプロピオンアミド、N、N−ジメチルブチルアミド、N、N−ジメチルイソブチルアミド、N−メチルカプロラクタム、N、N−ジメチルメトキシアセトアミド、N−アセチルピロリジン、N−アセチルピペリジン、N−メチルピペリドン−2、N、N’−ジメチルエチレン尿素、N、N’−ジメチルプロピレン尿素、N、N、N’、N’−テトラメチルマロンアミド、N−アセチルピロリドン、N、N、N’、N’−テトラメチル尿素、ジメチルスルホキシドなどである。
【0017】
溶液重合の前、途中、終了時あるいは別途得られたアラミドを溶媒に溶解せしめる場合には、溶解性を向上せしめるために溶解助剤として無機塩を適当量を添加しても差し支えない。このような無機塩としては、例えば、塩化リチウム、塩化カルシウム等が挙げられる。この他、メチル−トリ−n−ブチルアンモニウム塩化物、メチル−トリ−n−プロピルアンモニウム塩化物、テトラ−n−プロピルアンモニウム塩化物、テトラ−n−ブチルアンモニウム塩化物のような四級アンモニウム塩でもよい。
【0018】
本発明におけるパラ型芳香族ポリアミドの重合度は特に制限はないが、ポリマーが溶媒に溶けるならば、成形加工性を損なわない範囲内で重合度は大きい方が好ましい。
本発明のパラ型芳香族ポリアミドを溶解重合する場合、酸成分とジアミン成分との比は実質的に等モルで反応させるが重合度制御のためいずれかの成分を過剰に用いることもできる。また、末端封鎖剤として単官能性の酸成分、アミン成分を使用してもよい。
【0019】
また、このようにして得られたドープから発生する塩化水素を、水酸化カルシウムや水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、炭酸カルシウム、炭酸リチウム、酸化カルシウム等の無機塩、好ましくは水酸化カルシウム、酸化カルシウムで中和した後、繊維化用に供する。
【0020】
上記のドープは、通常湿式紡糸される。この場合、ドープを凝固浴中に直接吐出してもよいし、あるいはエアギャップを設けてもよい。凝固浴は、芳香族ポリアミドの貧溶媒が用いられるが、パラ型芳香族ポリアミドドープの溶媒が急速に抜け出してパラ型芳香族ポリアミド繊維に欠陥ができないように、通常は良溶媒を添加して凝固速度を調節する。
【0021】
一般には、貧溶媒としては水、良溶媒としては芳香族ポリアミドドープ用の溶媒を用いるのが好ましい。良溶媒と貧溶媒との比は、パラ型芳香族ポリアミドの溶解性や凝固性にもよるが、15/85〜40/60が一般的に好ましい。
【0022】
得られた繊維は、この段階では十分に配向していないので、紡糸後熱延伸して機械的物性を飛躍的に向上せしめる必要がある。熱延伸の温度は、パラ型芳香族ポリアミドのポリマー骨格にもよるが、300℃以上550℃以下であることが好ましい。このとき、得られる延伸糸の機械的物性から見て、広角X線回折より求めた結晶化度が広角X線回折より求めた結晶化度が60%以上、且つ(110)面の結晶サイズが22オングストローム以上であることが好ましい。
【0023】
本発明においては、上記のようにして得られた延伸糸に対して、定長または無緊張下で熱処理を施して耐薬品性を向上せしめる。この際の熱処理温度は、後述の測定法によって測定される繊維の擬融点Tmqに対し、下記式を満足する温度範囲T(℃)内であることが必要である。
【0024】
【数2】

【0025】
熱処理温度T(℃)が200℃未満の場合は、熱処理による耐薬品性向上の効果が得られない。一方、熱処理温度T(℃)がTmq−30℃以上の場合には、短時間の処理でも繊維自身の劣化が大きくなり、また均一な処理が困難となる為好ましくない。好ましい熱処理温度は、200℃以上430℃未満であり、より好ましくは200℃以上400℃未満である。
【0026】
上記熱処理に際しては、繊維を定長、もしくは無緊張の状態で処理することが必要である。ここで、定長、もしくは無緊張の状態で処理するとは、熱処理に際して繊維に応力を全く掛けないか、掛けたとしても繊維自身が発生する熱応力に止め、積極的に張力を付与しない状態を言う。該熱処理を緊張下、即ち積極的に応力を付与した状態で実施した場合は、耐薬品性向上の効果が低く、張力をかけることによる単糸切れなどが発生し、結果的に強力が低下してしまう。より好ましいのは、繊維を無緊張の状態で処理することである。
【0027】
かくして得られたパラ型芳香族ポリアミド繊維は、広角X線回折より求めた結晶化度が60%以上、且つ(110)面の結晶サイズが27オングストローム以上であることが好ましい。
【0028】
このようにして得られたパラ型芳香族ポリアミド繊維は、タイヤ、ベルト等のゴム補強用コード、簾等に好適であり、また単繊維1本1本のオーダーまで均一に処理できる為、チョップド繊維としてコンクリート補強、あるいは不織布にしてバグフィルター、電池セパレータ等の特殊環境下で用いられる用途にも好適に利用できる。
【実施例】
【0029】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。なお、実施例で用いた物性の測定方法は下記の通りである。
【0030】
(1)結晶サイズ・結晶化度
広角X線回折の回折強度曲線から(110)面の干渉ピークの半値幅を求め、その半値幅から下記に示すScherrerの式により、(110)面におけるみかけの結晶サイズを求めた。
【数3】

ここで、Kは定数でO.94、λはX線の波長で1.54オングストローム(CuKα線)、βは反射プロフィールのラジアン単位の半値幅で実測値をβ、装置定数をβとし
てβ22−β2から求めた。θはブラッグ角である。また、結晶化度は、Ru1and法を用い、無配向化した繊維の全干渉性散乱強度における全結晶散乱強度の割合から求めた。
(2)繊維の引張強度
JIS L 1013に準拠して測定した。
(3)耐薬品性
90℃の水酸化ナトリウム30%水溶液に繊維を100時間浸漬し、水洗、乾燥した後にJIS L 1013に準拠して引張試験を行い、熱処理前後の引張強力保持率(%)で表した。
(4)乾熱収縮率
JIS L 1013に準拠し、250℃における収縮率を測定した。また、測定時に用いる荷重(mN)は、繊度(tex)×0.588とした。
【0031】
[実施例1]
(パラ型芳香族ポリアミドドープの調製)
水分率が100ppm以下のN−メチル−2−ピロリドン(以下NMPという)112.9部に、パラフェニレンジアミン1.506部、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル2.789部を常温下で入れ、窒素中で溶解した後、攪拌しながらテレフタル酸クロリド5.658部を添加した。
85℃で60分間反応せしめ、透明の粘稠なポリマー溶液を得た。次いで22.5重量%の水酸化カルシウムを含有するNMPスラリー9.174部を添加して中和反応を行い、ポリマー溶液を得た。得られたポリマーの対数粘度は3.32であった。
【0032】
(紡糸)
得られたポリマー溶液を用い、孔径0.3mmの丸孔を有する口金から、NMP30重量%の凝固浴に押し出し湿式紡糸した。この際、口金面と凝固浴との距離は8mmとした。
口金から紡出された繊維を水洗、乾燥後、熱板上390℃で2.5倍と、520℃で二段延伸して全延伸倍率12.0倍で巻取り、単糸繊度1.67dtexであるコポリパラフェニレン・3,4’−オキシジフェニレン・テレフタルアミド繊維を得た。
【0033】
(擬融点Tmqの測定)
上記ポリマーに真の融点Tmが存在するか否かははっきりしない。つまり、このポリマーは共重合ポリマーであるので、融点範囲が広く、正確なTmを決定することができないからである。
しかしながらこのポリマーの融解開始温度はフローテスター、DTA、DSCにより観察することができる。ここで、窒素雰囲気下におけるDTAの10℃/分の昇温速度のとき検知される融解開始温度(べースラインと吸熱ピークの勾配との交点における温度)を擬融点Tmqとする。DSCにおいても同様に定義される。
【0034】
また、フローテスターにおいては、Tmqになると100kg/cm以上の押し出し圧のもとに、直径1mm以上、流路10mm以下のノズルからポリマーが流出する。しかし、同時に架橋化が進行して流出は中断される。Tmqの決定は上記DTA、DSC、フローテスターの併用によって確実なものとなる。
このようにして求められた擬融点Tmqは、480℃であった。
【0035】
(耐薬品性向上処理)
上記繊維を検尺機にて綴取りした後、250℃のオーブン内に吊るし、無緊張下で10分間乾熱処理を行った。得られた繊維の物性を表1に示す。
【0036】
[実施例2]
実施例1において、耐薬品性向上処理を、長さ80cm、幅20cmで、断面が真円のステンレスの枠に巻き付け、定長で乾熱処理を行った以外は実施例1と同様に実施した。得られた繊維の物性を表1に示す。
【0037】
[実施例3]
実施例1において、耐薬品性向上処理時の温度を、250℃から300℃に変更した以外は実施例1と同様に実施した。得られた繊維の物性を表1に示す。
【0038】
[実施例4]
実施例2において、耐薬品性向上処理時の温度を、250℃から300℃に変更した以外は実施例1と同様に実施した。得られた繊維の物性を表1に示す。
【0039】
[比較例1]
実施例1において、耐薬品性向上処理を行わなかった、即ち得られた繊維をそのまま測定に供した以外は実施例1と同様に実施した。得られた繊維の物性を表1に示す。
【0040】
[比較例2]
実施例1において、耐薬品性向上処理の代わりに、下記に示す緊張熱処理を行った以外は実施例1と同様に実施した。得られた繊維の物性を表1に示す。
【0041】
(緊張熱処理)
独立に速度コントロールのできる2基のネルソンローラー間に、200℃の熱板(長さ80cm)を設置し、上記のようにして得られた糸を走行速度20m/分で、緊張力を破断張力の7割に設定して緊張熱処理を行った。得られた繊維の物性を表1に示す。
得られた繊維の物性の評価結果を表1に示す。
【0042】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明によれば、単繊維1本1本のオーダーまで高い耐薬品性を有するパラ型芳香族ポリアミド繊維が得られるので、電池セパレータ、コンクリート補強等の用途などに好適に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パラ型芳香族ポリアミド繊維を、下記式を満足する温度範囲T(℃)内で、定長もしくは無緊張下で熱処理することを特徴とする耐薬品性が向上されたパラ型芳香族ポリアミド繊維の製造方法。
【数1】

【請求項2】
熱処理前のパラ型芳香族ポリアミド繊維の、広角X線回折より求めた結晶化度が60%以上、且つ(110)面の結晶サイズが22オングストローム以上である請求項1記載の耐薬品性が向上されたパラ型芳香族ポリアミド繊維の製造方法。
【請求項3】
熱処理後のパラ型芳香族ポリアミド繊維の、広角X線回折より求めた結晶化度が60%以上、且つ(110)面の結晶サイズが25オングストローム以上である請求項1記載の耐薬品性が向上されたパラ型芳香族ポリアミド繊維の製造方法。
【請求項4】
パラ型芳香族ポリアミド繊維が、コポリパラフェニレン・3,4’−オキシジフェニレン・テレフタルアミドである請求項1〜3のいずれか1項に記載の耐薬品性が向上されたパラ型芳香族ポリアミド繊維の製造方法。
【請求項5】
熱処理を無緊張下で行なう請求項1〜4のいずれか1項に記載の耐薬品性が向上されたパラ型芳香族ポリアミド繊維の製造方法。

【公開番号】特開2007−84956(P2007−84956A)
【公開日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−275495(P2005−275495)
【出願日】平成17年9月22日(2005.9.22)
【出願人】(303013268)帝人テクノプロダクツ株式会社 (504)
【Fターム(参考)】