説明

耐衝撃性に優れた軽量繊維補強樹脂組成物およびそれからなる成形体

【課題】 密度が1000kg/m以下と軽量であるにもかかわらず、耐衝撃性および曲げ特性に優れた繊維補強樹脂成形体を提供する。
【解決手段】 溶融異方性芳香族ポリエステル繊維のショートカット糸がポリプロピレン樹脂中に含有されてなり、ノッチ付き試験片のシャルピー衝撃強度が8.5kJ/m以上、3点曲げ強度が45MPa以上、密度1000kg/m以下である繊維補強樹脂組成物およびそれからなる成形体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリプロピレンン樹脂中に溶融異方性ポリエステル繊維のショートカット糸が含有してなる樹脂組成物及び該樹脂組成物を成形して得られる繊維補強樹脂成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ガラス繊維で補強した熱可塑性樹脂成形体が補強性能に優れるため自動車用途、船舶用部材等のマリン用途などに多用されている。しかしながら、近年、自動車材料は燃費を下げる目的で軽量化が重要な課題となっている。ガラス繊維で補強した熱可塑性樹脂成形体は、ガラスの密度が重いために20重量%以上含有させると密度1000kg/m以上になるため、自動車材料に用いた場合には上記した課題が解決できないという問題があった。また該成形体を廃棄する際に離脱したガラス繊維が飛散してチクチクする等、人体に対する懸念があるだけでなく、焼却が困難で炉を傷めやすい問題があった。
一方、マリン用途においては密度を1000kg/m以下とすること、および薄肉化により高軽量性と水に浮く特徴が得られるが、薄肉化すると低荷重でも変形しやすく、厚さ1〜2mmの薄肉の成形体を得るためには優れた耐衝撃性能および曲げ強度が要求されるが、ガラス繊維補強熱可塑性樹脂成形体では、これらの要求性能を満たすことができなかった。
【0003】
上記したようなガラス繊維の代替として、有機繊維の短繊維に集束剤で集束し、これをカットして集束糸とし、さらに熱可塑性樹脂とコンパウンドして繊維補強熱可塑性樹脂とし、繊維補強成形体を得る方法が用いられるようになってきた(例えば、特許文献1〜5参照。)。
しかしながら、これらの方法を用いても強度、耐衝撃性、軽量の3つの重要な性能をバランスよく満たした繊維補強熱可塑性樹脂および成形体は得られていない。
【0004】
【特許文献1】特開平7−251437号公報
【特許文献2】特開平9−267327号公報
【特許文献3】特開平8−336879号公報
【特許文献4】特開2002−060502号公報
【特許文献5】特開平7−080834号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、かかる問題点を鑑みてなされたもので、密度が1000kg/m以下と軽量であるにもかかわらず、優れた耐衝撃性および曲げ強度を有する繊維補強樹脂組成物および成形体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は上記問題点を解決すべく鋭意検討を行った結果、補強繊維として溶融異方性芳香族ポリエステル繊維からなるショートカット糸を用い、該ショートカット糸を均一にポリプロピレン樹脂に混合することにより、得られる成形体は軽量であるにもかかわらず優れた耐衝撃性および曲げ特性を備えていることを見出し、本発明を完成した。
【0007】
すなわち本発明は、溶融異方性芳香族ポリエステル繊維のショートカット糸がポリプロピレン樹脂中に含有されてなり、ノッチ付き試験片のシャルピー衝撃強度が8.5kJ/m以上、3点曲げ強度が45MPa以上、密度1000kg/m以下である繊維補強樹脂組成物であり、好ましくは溶融異方性芳香族ポリエステル繊維のショートカット糸が10〜35質量%ポリプロピレン樹脂中に含有された上記の繊維補強樹脂組成物であり、さらに好ましくは上記の樹脂組成物からなる繊維補強樹脂成形体である。
【発明の効果】
【0008】
本発明の樹脂組成物は多数本の溶融異方性芳香族ポリエステル繊維のショートカット糸をポリプロピレン樹脂が被覆して保護しているため、成形加工の工程において損傷を生じることがなく、加工中の繊維の絡まりが少ない。また着色剤や充填剤、難燃剤、顔料、増量剤、無機フィラー等とのコンパウンドによるペレットを製造するために好適に使用可能であり、しかも成形時には補強繊維に集束剤等を必要としないために繊維の分散性も良好で高品質の成形体を成形できる。具体的には本発明の溶融異方性芳香族ポリエステル繊維のショートカット糸がポリプロピレン樹脂中に含有された樹脂組成物およびそれから得られる成形体は、密度1000kg/m以下と軽量であるにも関わらず、シャルピー衝撃強度が8.5kJ/m以上、3点曲げ強度が45MPa以上と高性能であるため、製品の軽量化と薄型化が可能となる。また、溶融異方性芳香族ポリエステル繊維のショートカット糸の含有量により、さらに衝撃性、曲げ特性が向上するので、用途に応じた物性を自在にコントロール可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明で補強用ショートカット糸として用いられる溶融異方性芳香族ポリエステル繊維は、形態的には連続繊維であれば、フィラメント糸を多数に集束して形成された溶融異方性芳香族ポリエステル繊維束、あるいは撚りを加えたヤーンであってもよい。補強繊維束を構成する補強繊維の繊維径、フィラメント本数は特に限定されないが繊維径は3〜200μmであることが好ましく、より好ましくは5〜20μm、フィラメント本数は500〜10000本であることが好ましく、より好ましくは500〜4000本である。
補強繊維として溶融異方性芳香族ポリエステル繊維を用いることにより、後述するが、得られる繊維補強樹脂成形体はガラス繊維、無機フィラーや、従来のポリエステル、ナイロン等の汎用の有機繊維補強、アラミド等の高強力繊維で補強した成形体では達成できなかった、密度が1000kg/m以下と軽量であるにも関わらず耐衝撃性および曲げ特性において優れた性能を有するものとなる。
【0010】
本発明に用いられる溶融異方性芳香族ポリエステル繊維の製法は特に限定されないが、溶融相において光学的異方性(液晶性)を示す芳香族ポリエステルであり、例えば試料をホットステージに載せ窒素雰囲気下で加熱し、試料の透過光を観察することにより認定できる。溶融異方性ポリエステルは芳香族ジオール、芳香族ジカルボン酸、芳香族ヒドロキシカルボン酸の反復構成単位を主成分とするものであるが、特に下記化1で示される反復構成単位のものであることが好ましく、下記化1中、(Q)の成分が4〜45モル%である芳香族ポリエステルであることがさらに好ましい。
【0011】
【化1】

【0012】
自動車の燃費効率を高める方法として車体重量を軽量化することが求められている。そのために成形体においては密度の低い材料で、かつ従来の製品と同等の衝撃強さおよび曲げ強さが要求とされるか、もしくは、密度が同じであっても従来の製品の数倍の衝撃強さおよび曲げ強さの材料にすることで厚さを薄くすることが要求されている。
一方、マリン用途においては密度を1000kg/m以下とすること、および薄肉化により高軽量性と水に浮く特徴が得られるが、薄肉化すると低荷重でも変形しやすく、厚さ1〜2mmの薄肉の成形体を得るためには優れた耐衝撃性および曲げ特性が要求されている。
本発明において、ポリプロピレン樹脂を用い、該樹脂中に溶融異方性芳香族ポリエステル繊維からなるショートカット糸を含有させることによって、得られる樹脂組成物および成形体は密度1000kg/m以下と軽量であるにも関わらず、ノッチ付き試験片のシャルピー衝撃強度8.5kJ/m以上、3点曲げ強度45MPa以上を達成することができる。ここで、得られる樹脂組成物および成形体のシャルピー衝撃強度が8.5kJ/mよりも低い場合、耐衝撃性が要求される用途に使用することができない。好ましくは9.0kJ/m以上、より好ましくは10kJ/m以上70kJ/m以下である。また成形体の密度は軽量化を図るという目的から1000kg/m以下であることが必要であり、好ましくは990kg/m以下、より好ましくは970kg/m以下である。
【0013】
用いるポリプロピレン樹脂は通常のホモポリプロピレンポリマーからなる樹脂であることが重要であり、高重合体、低重合体等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、これらのポリプロピレン樹脂を組み合わせて混合して用いてもよく、さらにポリプロピレン樹脂に着色剤や充填剤、難燃剤等を適当量添加してもよい。さらには第三成分として無機フィラー等を含有する場合、通常は耐衝撃性は低下するが、第三成分が含有されても、溶融異方性芳香族ポリエステル繊維のショートカット糸が含有することで高い衝撃性を維持しながら、高い曲げ強度が得られる。用いる無機フィラーは特に限定されるものではないが、マイカであることが好ましく、しかも高アスペクト比でフレーク形状のものがより好ましい。またポリプロピレン樹脂へのマイカの添加量は、得られる樹脂組成物の密度を1000kg/m以下とするためには1〜15質量%であることが好ましく、2〜15質量%であることがより好ましい。
【0014】
本発明の溶融異方性芳香族ポリエステル繊維のショートカット糸がポリプロピレン樹脂中に含有された樹脂組成物において、ポリプロピレン樹脂が溶融異方性芳香族ポリエステル繊維のショートカット糸からなる繊維束の外周に位置する連続繊維に接着されていることにより、ポリプロピレン樹脂が剥がれ難くなる。したがって、この樹脂組成物をロータリー方式のカッティングマシーンやギロチン方式のカッティングマシーン等を用いて裁断する工程においてポリプロピレン樹脂が溶融異方性芳香族ポリエステル繊維のショートカット糸からなる繊維束から剥がれる等のトラブルを防止することができる。
【0015】
次に本発明の溶融異方性芳香族ポリエステルショートカット糸がポリプロピレン樹脂中に含有された樹脂組成物の製造方法について説明する。
本発明では、樹脂エマルジョンを繊維表面に付与する方法や溶融樹脂を繊維表面に付与する方法が用いられるが、特に限定されるものではない。
溶融樹脂を繊維表面に付与する方法については、多数本の溶融異方性芳香族ポリエステル繊維束を走行させた状態で、その繊維束を包囲するように溶融したポリプロピレン樹脂を押出し、その周囲にポリプロピレン樹脂を通す円筒状の通路を有している芯鞘タイプの紡糸ノズルを用い、芯部に溶融異方性芳香族ポリエステル繊維を通過させ、鞘部よりポリプロピレン樹脂を加圧下で前記溶融異方性芳香族ポリエステル繊維束の外周に接触させ、繊維をポリプロピレン樹脂で被覆させる方法がより好ましく、紡糸ノズルから吐出された樹脂と多数本の溶融異方性芳香族ポリエステル繊維を貼り合わせた後に樹脂を溶融させ束ねることにより繊維を樹脂で被覆する方法が挙げられるが、特に限定されるものではない。
【0016】
次に溶融異方性芳香族ポリエステル繊維束がポリプロピレン樹脂中に含有された樹脂組成物とポリプロピレン樹脂とをチップブレンド等の方法により混合した後、溶融押出機で押出ししたり、射出成形する等の方法によりストランドを作製した後、裁断してポリプロピレン樹脂中に溶融異方性芳香族ポリエステル繊維のショートカット糸が含有してなるペレットとする。裁断方法としてはロータリー方式のカッティングマシーンやギロチン方式のカッティングマシーン等を用いて裁断する方法が挙げられるが、特に限定されるものではない。
上記例示した裁断方法により得られるペレットの長さは、後に溶融押出機で押出ししたり、射出成形する等の方法により成形体を製造する際の混練性、補強繊維の分散性の面から2〜15mmであることが好ましく、3〜10mmの長さであることがより好ましい。
また、ポリプロピレン樹脂中には溶融異方性芳香族ポリエステル繊維のショートカット糸が10〜35質量%されていることが好ましい。該ショートカット糸の含有量が10質量%より少ないと、目的とする耐衝撃性、曲げ特性が得られない場合がある。一方、該ショートカット糸の含有量が35質量%よりも多い場合、樹脂中における繊維の分散性が悪くなる。より好ましくは15〜33質量%、さらに好ましくは20〜30質量%である。
さらに得られるペレットを熱風乾燥機等で乾燥し、ペレット中の水分率を低くすることが溶融押出機で押出しする際や、射出成形する際により好ましい。
【0017】
上記したような方法にて得られたペレットを溶融押出や射出成形等の成形方法で成形することで成形体を得る。このようにして得られる成形体は、従来のガラス繊維、無機フィラーや、ポリエステル、ナイロン等の汎用の有機繊維、あるいはアラミド繊維等の高強力繊維で補強した熱可塑性樹脂成形体では達成できなかった、密度が1000kg/m以下と軽量であるにも関わらず、耐衝撃性および曲げ特性において優れた性能を有するものとなる。
【0018】
以下実施例によって、本発明を説明するが、本発明はこれら実施例により何等限定されるものではない。なお本発明においてシャルピー衝撃強度、3点曲げ強度、密度は以下の測定方法により測定されたものを意味する。
【0019】
[シャルピー衝撃強度 kJ/m
株式会社東洋精機製デジタル衝撃試験機「DG−CB」を用い、JIS K7111試験法に準拠してノッチ付き試験片のシャルピー衝撃強度を測定した。
【0020】
[3点曲げ強度 MPa]
株式会社島津製作所製オートグラフAG/Rを用い、JIS K7171試験法に準拠して測定した。
【0021】
[密度 kg/m
ミラージュ貿易株式会製電子比重計SD−120Lを用い、JIS K7112試験法に準拠して測定した。
【0022】
[実施例1]
(1)溶融異方性芳香族ポリエステルフィラメントとして株式会社クラレ製ベクトラン(登録商標)「T−506」(繊維径;16μm、フィラメント数;600本)、ポリプロピレン樹脂としてプライムポリマー株式会社製ポリプロピレン「Y−2005GP」を用いて、糸の通過するノズルの内径0.95mm、前記樹脂の押出されるノズルの内径1.20mmのノズルにて紡糸ヘッド温度200℃、ポリプロピレン樹脂の吐出量12g/min、巻取速度15m/minの条件にてベクトラン繊維束の外周にポリプロピレン樹脂が被覆してなる樹脂組成物を得た。
(2)上記(1)で得られた樹脂組成物を切断し、断面を日立製作所社製電子顕微鏡「S510」で倍率100倍にて観察したところ、樹脂がベクトラン繊維束を取囲んだ構造が形成されており、樹脂はベクトラン繊維束の外周の連続繊維に接着されていた。さらに被覆されたポリプロピレン樹脂を剥がして内部のベクトラン繊維束を観察したところ、内部のベクトラン繊維に損傷は見られず、したがって上記(1)の工程でベクトラン繊維に損傷は生じていなかった。得られた樹脂組成物は柔軟であった。
(3)さらに上記(1)で得られた樹脂組成物をカッターで切断し、該樹脂組成物と上記(1)と同じプライムポリマー株式会社製ポリプロピレン「Y−2005GP」とを、ベクトラン繊維の含有率が10質量%となるようにチップブレンドして、押出機でストランドを作製し、ペレタイザーで4mmになるようにカットしてペレット化した。このようにして得られたペレットを用いて射出成形機(名機製作所株式会社製「M−100C」、型締力100トン)にてシリンダー温度200℃、金型温度40℃、冷却時間33秒の条件にてベクトラン繊維補強樹脂成形体を成形し、性能評価を行った。結果を表1に示す。
【0023】
[実施例2]
ベクトラン繊維の含有率を20質量%とする以外は実施例1と同様にペレットを作製し、このペレットを用いて実施例1と同じ射出成形機にて、実施例1と同条件にてベクトラン繊維補強樹脂成形体を成形し、性能評価を行った。結果を表1に示す。
【0024】
[実施例3]
ベクトラン繊維の含有率を30質量%とする以外は実施例1と同様にペレットを作製し、このペレットを用いて実施例1と同じ射出成形機にて、実施例1と同条件にてベクトラン繊維補強樹脂成形体を成形し、性能評価を行った。結果を表1に示す。
【0025】
[実施例4]
実施例1と同様に樹脂組成物を作製し、得られた樹脂組成物と、プライムポリマー株式会社製ポリプロピレン「Y−2005GP」、株式会社クラレ製マイカ「クラライトマイカ200−D」をそれぞれベクトラン繊維の含有率が5質量%、マイカ含有率が14質量%となるようにチップブレンドして押出機でストランドを作製し、ペレタイザーで4mmになるようにカットしてペレット化し、さらにこのペレットを用いて実施例1と同じ射出成形機にて、実施例1と同条件にてベクトラン繊維補強樹脂成形体を成形し、性能評価を行った。結果を表1に示す。
【0026】
[比較例1]
ベクトラン繊維が添加されていないプライムポリマー株式会社製ポリプロピレン「Y−2005GP」を用いて実施例1と同じ射出成形機にて、実施例1と同条件にて成形体を成形し性能評価を行った。結果を表1に示す。表1に示すとおり、ベクトラン繊維が添加されない樹脂の性能において、耐衝撃性は低いものであった。
【0027】
[比較例2]
(1)ベクトラン繊維の代わりにユニチカ株式会社製ポリエステル繊維「E−721」(繊維径;21μm、フィラメント数;384本)、熱可塑性樹脂としてプライムポリマー株式会社製ポリプロピレン「Y−2005GP」を用いて、糸の通過するノズルの内径0.75mm、樹脂の押出されるノズルの内径0.86mmのノズルにて紡糸ヘッド温度200℃、ポリプロピレン樹脂の吐出量6g/min、巻取速度9m/minの条件にてポリエステル補強繊維束の外周にポリプロピレン樹脂が被覆してなる樹脂組成物を得た。
(2)上記(1)で得られた樹脂組成物をカッターで切断し、該樹脂組成物と上記(1)と同じプライムポリマー株式会社製ポリプロピレン「Y−2005GP」とを、ポリエステル繊維含有率が10質量%となるようにチップブレンドして押出機でストランドを作製し、ペレタイザーで4mmになるようにカットしてペレット化し、さらにこのペレットを用いて実施例1と同じ射出成形機にて、実施例1と同条件にて繊維補強樹脂成形体を成形し、性能評価を行った。結果を表1に示す。
(3)表1に示すとおり、得られた成形体は衝撃性、曲げ強度とも全て満足する性能が得られなかった。
【0028】
[比較例3]
旭ファイバーグラス株式会社製チョップドストランド「グラスロン03JAFT17」とプライムポリマー株式会社製ポリプロピレン「Y−2005GP」をガラス繊維含有率が20質量%となるようにチップブレンドして押出機でストランドを作製し、ペレタイザーで4mmになるようにカットしてペレット化し、さらにこのペレットを用いて実施例1と同じ射出成形機にて、実施例1と同条件にて繊維補強樹脂成形体を成形し、性能評価を行った。結果を表1に示す。表1に示すとおり、得られた成形体において繊維の添加量を実施例1の2倍添加することで、曲げ強度は実施例1と同等のものが得られたが、耐衝撃性はシャルピー衝撃強度が3.8kJ/mであり不十分であった。
【0029】
[比較例4]
(1)ベクトラン繊維の代わりにデュポン・東レ・ケブラー株式会社製アラミド繊維「TYPE956」(繊維径;14μm、フィラメント数;2000本)、ポリプロピレン樹脂としてプライムポリマー株式会社製ポリプロピレン「Y−2005GP」を用いて、糸の通過するノズルの内径0.75mm、樹脂の押出されるノズルの内径1.16mmのノズルにて紡糸ヘッド温度200℃、ポリプロピレン樹脂の吐出量12g/min、巻取速度15m/minの条件にてアラミド繊維束の外周にポリプロピレン樹脂が被覆してなる樹脂組成物を得た。
(2)上記(1)で得られた樹脂組成物をカッターで切断し、該樹脂組成物と上記(1)と同じプライムポリマー株式会社製ポリプロピレン「Y−2005GP」とを、アラミド繊維含有率が10質量%となるようにチップブレンドして押出機でストランドを作製し、ペレタイザーで4mmになるようにカットしてペレット化し、さらにこのペレットを用いて実施例1と同じ射出成形機にて、シリンダー温度230℃、金型温度40℃、冷却時間33秒の条件にて繊維補強樹脂成形体を成形し、性能評価を行った。結果を表1に示す。
(3)表1に示すとおり、得られた成形体のシャルピー衝撃強度は4.7kJ/mであり、満足する耐衝撃性が得られなかった。
【0030】
[比較例5]
アラミド繊維含有率を20質量%とする以外は比較例4と同様にペレットを作製し、このペレットを用いて実施例1と同じ射出成形機にて、比較例4と同条件にて繊維補強樹脂成形体を成形し、性能評価を行った。結果を表1に示す。得られた成形体のシャルピー衝撃強度は6.2kJ/mであり、満足する耐衝撃性が得られなかった。
【0031】
[比較例6]
アラミド繊維含有率を30質量%とする以外は比較例4と同様にペレットを作製し、このペレットを用いて実施例1と同じ射出成形機にて、比較例4と同条件にて繊維補強樹脂成形体を成形し、性能評価を行った。結果を表1に示す。得られた成形体のシャルピー衝撃強度は7.2kJ/mであり、満足する耐衝撃性が得られなかった。
【0032】
【表1】

【0033】
表1の実施例1〜4に示すように、ポリプロピレン樹脂に本発明の溶融異方性芳香族ポリエステル繊維を含有してなる樹脂組成物をペレット化し、このペレットを用いて射出成形した繊維補強樹脂成形体は、密度が1000kg/m以下と軽量であるにも関わらず、耐衝撃性、曲げ強度とも従来の繊維補強樹脂成形体に比べて優れたものとなる。
一方、比較例1の補強繊維を添加されない成形体や、比較例2の補強繊維にポリエステル繊維を用いた樹脂組成物をペレット化し、このペレットを用いて射出成形した繊維補強樹脂成形体は、耐衝撃性、曲げ強度とも本発明の溶融異方性芳香族ポリエステル繊維補強樹脂成形体よりも劣り、さらに比較例3のガラス繊維を用いた樹脂組成物や比較例4〜6のアラミド繊維をペレット化し、これらのペレットを用いて射出成形した繊維補強樹脂成形体は、耐衝撃性が本発明の溶融異方性芳香族ポリエステル繊維補強樹脂成形品よりも劣るものであった。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明の樹脂組成物は、多数本の連続繊維からなる補強繊維束をポリプロピレン樹脂が被覆されて保護しており、且つ適度な柔軟性を有しているため、加工の工程において損傷を生じることがなく、繊維補強ポリプロピレン樹脂成形体用ペレットを製造するために好適に使用可能であり、しかも、成形時には、補強繊維に集束剤等を必要としないために得られる繊維補強樹脂成形体は繊維の分散も良く、高品質の繊維補強樹脂成形体を成形できるという特長を有している。また製造工程が簡単で、安価に製造可能であり、生産性が良い等の特徴も有している。またガラス繊維を含まない繊維補強樹脂成形体あるため焼却も可能であり、該成形体を埋め立てする必要もない。
上記したような特長を有する本発明の繊維補強樹脂組成物からなる成形体は、自動車用途ではバンパー、ドアプロテクター、フェンダー、スポイラー、エアロパーツなどの外装用品に使用でき、安全器具用途ではヘルメット、安全靴用補強剤などに使用できる。また船舶用部材等のマリン用途では水上バイクなどの船舶部材、電気・事務機器用途では冷蔵庫のドア、洗濯機の筐体、パソコンの筐体などに使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融異方性芳香族ポリエステル繊維のショートカット糸がポリプロピレン樹脂中に含有されてなり、ノッチ付き試験片のシャルピー衝撃強度が8.5kJ/m以上、3点曲げ強度が45MPa以上、密度が1000kg/m以下である繊維補強樹脂組成物。
【請求項2】
溶融異方性芳香族ポリエステル繊維のショートカット糸が10〜35質量%ポリプロピレン樹脂中に含有された請求項1記載の繊維補強樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1または2記載の樹脂組成物からなる繊維補強樹脂成形体。

【公開番号】特開2008−150415(P2008−150415A)
【公開日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−336895(P2006−336895)
【出願日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】