説明

耐部分放電性絶縁塗料、絶縁電線、及びそれらの製造方法

【課題】シリカ同士の凝集を抑制して高度に均一分散させることにより、部分放電劣化を抑制できる耐部分放電性絶縁塗料、そのような耐部分放電性絶縁塗料を用いて導体上に被膜を形成した絶縁電線、及びそれらの製造方法を提供する。
【解決手段】γ−ブチロラクトンを主溶媒とするポリアミドイミド樹脂塗料に、γ−ブチロラクトンを主分散媒とするオルガノシリカゾルを混合し、全溶媒に対するγ−ブチロラクトンの量を50〜100%として耐部分放電性絶縁塗料を作製する。この耐部分放電性絶縁塗料を導体1上に塗布・焼付けして耐部分放電性絶縁体皮膜2を形成し、絶縁電線とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐部分放電性絶縁塗料、絶縁電線、及びそれらの製造方法に係り、特に、溶媒成分としてγ−ブチロラクトンを用いてポリアミドイミド樹脂塗料とオルガノシリカゾルを混合することにより得られた耐部分放電性絶縁塗料、そのような耐部分放電性絶縁塗料を用いて導体上に被膜を形成した絶縁電線、及びそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
部分放電は、電線・ケーブルなどの絶縁体中あるいは線間に微小な空隙があると、その部分に電界集中し、微弱な放電が発生するものである。部分放電が発生すると絶縁体が劣化し、更に、劣化が進行すると絶縁破壊に至るおそれがある。
【0003】
特に、モータやトランスなどコイルに用いられる巻線、具体的には導体上に樹脂塗料を塗布焼付けして皮膜形成するエナメル線においては、部分放電は主に線間(皮膜−皮膜間)あるいは対地間(皮膜−コア間)で発生し、荷電粒子の衝突による樹脂皮膜の分子鎖切断、発熱などが主体となって皮膜の侵食が進行し、絶縁破壊に至るおそれがある。
【0004】
また、近年、省エネ及び可変速のため用いるインバータのモータなどを駆動させるシステムにおいて、インバータサージ(急峻な過電圧)が発生し、絶縁破壊を起こすケースが多くなっている。この絶縁破壊もインバータサージによる過電圧が部分放電を引き起こし、絶縁破壊に至ることが判明している。
【0005】
このような部分放電侵食を抑制すべく、有機溶剤に溶解した耐熱性樹脂液中にシリカやチタニアなどの無機絶縁粒子を分散させた樹脂塗料により絶縁体を形成したエナメル線が知られている。かかる無機絶縁粒子はエナメル線に耐部分放電性を付与するほか、熱伝導度の向上、熱膨張の低減、強度の向上に寄与する。
【0006】
無機絶縁粒子のうち、シリカの微粒子を樹脂溶液に分散させる方法として、シリカ粒子の粉末を樹脂溶液に添加分散する方法や樹脂溶液とシリカゾルを混合する方法などが知られている(例えば、特許文献1参照)。シリカ粒子の粉末を添加した場合と比べ、シリカゾルを用いると、混合が容易でシリカが高度に分散した塗料が得られる。但し、この場合シリカゾルは樹脂溶液との相溶性が良いものであることが必要となる。
【特許文献1】特開2001−307557号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
耐熱高分子樹脂としてポリアミドイミド絶縁材料を用いる場合、これを溶解する溶媒としては、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)やN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAC)、ジメチルイミダゾリジノン(DMI)等が挙げられる。一般には、NMPを主体とし、DMFや芳香族アルキルベンゼンなどで希釈した溶媒が用いられる。
【0008】
しかし、従来、このようなNMPを主体とする溶媒を用いたポリアミドイミド樹脂塗料にシリカ微粒子を分散させるとシリカ微粒子が凝集してしまい、分散が不十分なものとなってしまう。電線皮膜の耐部分放電性と電線皮膜内のシリカ粒子の表面積とは相関関係があり、分散が不十分、すなわち凝集物が多いシリカ分散樹脂塗料を用いて皮膜を形成した場合、被膜の耐部分放電性が不十分なものとなってしまう。従って、シリカ微粒子を皮膜中に凝集なく均一に分散させることが必要となる。
【0009】
一方、シリカ源としてオルガノシリカゾルを用いる場合、シリカ微粒子をDMAC、DMF、アルコール、ケトンなどの有機溶媒に分散したものが使用される。しかし、これらのオルガノシリカゾルは、前記のNMPに溶解したポリアミドイミド樹脂との相溶性が悪く、凝集物が出来やすい。また限られた条件下で均一な分散状態を得ても、長期保存性や安定性、再現性に問題があった。
【0010】
従って、本発明の目的は、シリカ同士の凝集を抑制して高度に均一分散させることにより、部分放電劣化を抑制できる耐部分放電性絶縁塗料、そのような耐部分放電性絶縁塗料を用いて導体上に被膜を形成した絶縁電線、及びそれらの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、本発明の耐部分放電性絶縁塗料は、ポリアミドイミド樹脂塗料とオルガノシリカゾルとを溶媒により分散させてなる耐部分放電性絶縁塗料において、前記溶媒の全成分のうち、50〜100%がγ−ブチロラクトンであることを特徴とする。
【0012】
前記ポリアミドイミド樹脂塗料の樹脂成分に対し、前記オルガノシリカゾルのシリカ分の配合比を1〜100phr、特に3〜70phrとすることが好ましい。1phr未満では耐部分放電性効果はほとんど得られず、100phrを超えると可撓性維持が困難となるためである。
【0013】
耐部分放電性を有効に機能させるため、前記オルガノシリカゾルの平均粒子径を100nm以下とすることが好ましい。
【0014】
また、上記目的を達成するため、導体の表面に、前記耐部分放電性絶縁塗料からなる耐部分放電性絶縁体被膜を形成して絶縁電線とすることができる。
【0015】
また、上記目的を達成するため、導体の表面に、有機絶縁体皮膜を形成し、該有機絶縁体皮膜の表面に、前記耐部分放電性絶縁塗料からなる耐部分放電性絶縁体被膜を形成して絶縁電線とすることができる。
前記耐部分放電性絶縁体被膜の表面に、更に有機絶縁体皮膜を設けることもできる。
【0016】
また、上記目的を達成するため、本発明の耐部分放電性絶縁塗料の製造方法は、γ−ブチロラクトンを主溶媒とするポリアミドイミド樹脂塗料に、γ−ブチロラクトンを主分散媒とするオルガノシリカゾルを混合し、全溶媒に対するγ−ブチロラクトンの量を50〜100%としたことを特徴とする。
【0017】
前記ポリアミドイミド樹脂塗料における溶媒のうち、60〜100%をγ−ブチロラクトンとすることが好ましい。
【0018】
前記オルガノシリカゾルにおける分散媒のうち、80〜100%をγ−ブチロラクトンとすることが好ましい。
【0019】
また、上記目的を達成するため、本発明の絶縁電線の製造方法は、γ−ブチロラクトンを主溶媒とするポリアミドイミド樹脂塗料に、γ−ブチロラクトンを主分散媒とするオルガノシリカゾルを混合し、全溶媒に対するγ−ブチロラクトンの量を50〜100%として耐部分放電性絶縁塗料を作製し、該耐部分放電性絶縁塗料を導体上に塗布・焼付けして皮膜を形成することを特徴とする。
【0020】
また、上記目的を達成するため、本発明の絶縁電線の製造方法は、γ−ブチロラクトンを主溶媒とするポリアミドイミド樹脂塗料に、γ−ブチロラクトンを主分散媒とするオルガノシリカゾルを混合し、全溶媒に対するγ−ブチロラクトンの量を50〜100%として耐部分放電性絶縁塗料を作製し、該耐部分放電性絶縁塗料を導体表面に設けた有機絶縁体皮膜上に塗布・焼付けして皮膜を形成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、オルガノシリカゾルが均一に分散され、シリカ同士の凝集が起こらない耐部分放電性絶縁塗料を提供することができる。
また、オルガノシリカゾルが均一に分散された耐部分放電性絶縁塗料を用いて導体を被覆することにより、シリカが均一に分散された状態で絶縁被膜が形成され、部分放電劣化が生じにくい絶縁電線を提供できる。その結果、この絶縁電線をインバータ駆動システムに適用することにより、電気機器の寿命を大幅に向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
(オルガノシリカゾル)
本発明に用いるオルガノシリカゾルの粒子径は、皮膜に耐部分放電性を有効に機能させるため、BET法による平均粒子径として100nm以下が好ましく、30nm以下が一層好ましい。30nm以下になるとオルガノシリカゾル自体も透明性が増す。
【0023】
オルガノシリカゾルの分散溶媒として、γ−ブチロラクトンを主成分とすることにより、ゾルと樹脂溶液との親和性が良くなり、混合時の凝集や増粘を抑制することができる。γ−ブチロラクトンとともにNMPやDMFなどの極性溶媒や芳香族系炭化水素、あるいは低級アルコールなどを安定性を向上させる目的などで混合しても良いが、混合溶媒の比率は高いほど樹脂溶液との親和性が悪化してくるため、γ−ブチロラクトンの比率は80%以上が望ましい。
【0024】
上記オルガノシリカゾルは、例えば、アルコキシシランの加水分解によって得られたシリカゾルを溶媒置換して、あるいは水ガラスをイオン交換して得たシリカゾルを溶媒置換して得ることができる。但し、オルガノシリカゾルは上記の製造方法に限定されることはなく、既知のいずれの製造方法によって製造しても良い。
【0025】
オルガノシリカゾル中の水分量は分散させる混合溶媒の組成により適切な範囲が変化するが、一般には多すぎるとゾルの安定性の低下、あるいは樹脂塗料との混合性が悪化する。このため、オルガノシリカゾル中の水分量は1.0%以下が好ましい。
【0026】
上記組成の溶媒に分散されたオルガノシリカゾルは、分散性が優れているため、シリカ濃度20%以上の高濃度のオルガノゾルを得ることができる。
【0027】
(ポリアミドイミド樹脂塗料)
ポリアミドイミド樹脂塗料には、NMPを主成分とする溶媒中で4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)とトリメリット酸無水物(TMA)とをほぼ当モルにて合成反応させて得たものが、特性やコスト、材料の入手性などから最も一般的に使用されている。但し、ポリアミドイミドエナメル線として220℃以上の耐熱性を維持できれば、芳香族イソシアネート類と芳香族カルボン酸及び酸無水物類の原料構造には特に限定されることは無く、4,4’−ジアミノジフェニルメタン(DAM)などの芳香族ジアミンとトリメリット酸クロライド(TMAC)などの酸クロライドとを合成させる既知の製造方法などによっても製造することもできる。
【0028】
ポリアミドイミド樹脂塗料の溶媒についても、同様に、γ−ブチロラクトンを主成分とすることにより、ゾルと樹脂溶液との親和性が良くなり、混合時の凝集や増粘を抑制することができる。γ−ブチロラクトンとともにNMPやDMFなどの極性溶媒や芳香族系炭化水素、あるいは低級アルコールなどを安定性を向上させる目的などで混合しても良いが、混合溶媒の比率は高いほどオルガノシリカゾルとの親和性が悪化してくるため、γ−ブチロラクトンの比率は60%以上が望ましい。
【0029】
γ−ブチロラクトンをポリアミドイミドの主溶媒として用いるためには、NMPを主成分とした溶媒中で合成したポリアミドイミドをエタノールなどで樹脂を析出させて樹脂分のみ回収した後、γ−ブチロラクトンを主成分とする溶媒に再溶解して得る方法、γ−ブチロラクトンを主成分とする溶媒中で直接合成する方法、DMFなどの低沸点溶媒中で合成して得たポリアミドイミド樹脂塗料にγ−ブチロラクトンを加えて蒸留により溶媒置換する方法など、既知のいずれの方法でも良く、特に限定されない。但し、γ−ブチロラクトン100%溶媒中でのポリアミドイミドの合成には反応性が悪いため、アミン類やイミダゾリン類などの触媒を用いても良い。しかし、γ−ブチロラクトンはNMPなどに比べ樹脂の溶解性に劣るため、ビフェニル構造を持つ原料などはほとんど使用できない。
【0030】
(オルガノシリカゾルとポリアミドイミド樹脂溶液との混合)
次に、γ−ブチロラクトンを主分散媒成分としたオルガノシリカゾルとγ−ブチロラクトンを主溶媒成分としたポリアミドイミド樹脂溶液とを混合させる。最終的に得られた耐部分放電性樹脂塗料の溶媒には、γ−ブチロラクトンと共にNMPやDMFなどの極性溶媒や芳香族系炭化水素、あるいは低級アルコールなどを安定性や溶解性を向上する目的などで混合しても良い。但し、混合溶媒の比率は高いほど樹脂塗料中のシリカ粒子の分散性が悪化してくるため、γ−ブチロラクトンの比率は全溶媒中の50%以上が望ましい。
【0031】
(耐部分放電性絶縁塗料)
溶媒に良好に溶解された樹脂材料は、着色があっても透明性を有しているのが一般的であり、エナメル線用途の絶縁塗料においても分散物が無い限り、通常は透明性を有する。無機粒子などの分散で透明性を失う原因は、分散粒子が大きいため可視光が透過しないことにある。従って、簡易的には非常に小さな粒子が均一に分散しているか否かを樹脂塗料の透明性で判断できる。同様に、導体上に被覆した耐部分放電性皮膜中にシリカが均一に分散しているか否かは、皮膜の透明性で簡易的に判断できる。即ち、規定量のシリカが分散されている場合に、耐部分放電性の有効性は簡易的には皮膜の透明性で判断できる。
【0032】
本実施形態では、従来のNMPを主溶媒とするポリアミドイミド樹脂塗料に代えて、γ−ブチロラクトンを主溶媒とするポリアミドイミド樹脂塗料とし、その溶媒とシリカゾルの分散媒を同一にしている。従って、相溶性が良好となり、混合した際のシリカ同士の凝集、樹脂の析出、シリカと樹脂の凝集が起こらず、透明性を有する均一な塗料溶液が得られる。このため、塗膜にした際も緻密で平滑性のある良好な絶縁皮膜を得ることができる。
【0033】
[実施例]
図1に、本発明に係る絶縁電線の構造例を示す。
この絶縁電線は、導体1上に耐部分放電性絶縁体皮膜2を形成したものであり、導体1の周囲に上記実施形態で説明した耐部分放電性絶縁塗料を塗布、焼付けすることにより得られる。
また、図2に、本発明に係る絶縁電線の他の構造例を示す。
この絶縁電線は、図1に示す絶縁電線の耐部分放電性絶縁体皮膜2の周囲に、更に、機械的特性(滑性や耐傷性)などの向上を目的として、有機絶縁体皮膜3を設けたものである。
また、図3に、本発明に係る絶縁電線の他の構造例を示す。
この絶縁電線は、導体1の表面に有機絶縁体皮膜4を形成し、該有機絶縁体皮膜上に耐部分放電性絶縁体皮膜2を形成し、該耐部分放電性絶縁体皮膜2の周囲に、更に、有機絶縁体皮膜3を設けたものである。
【0034】
(エナメル線の製造方法)
各実施例、比較例のエナメル線を以下のようにして製造した。
まず、ポリアミドイミド樹脂塗料を、ポリアミドイミド樹脂100重量部に対して、溶媒成分300重量部となるように作成した。また、オルガノシリカゾルを、平均粒径12nmのシリカを100重量部に対して分散媒成分300重量部となるように作成した。次いで、ポリアミドイミド樹脂塗料とオルガノシリカゾルを混合して耐部分放電性絶縁塗料を製造するに際し、上記ポリアミドイミド樹脂塗料中の樹脂分100重量部に対してシリカ量が30重部含有するように調製したものを攪拌し、耐部分放電性絶縁塗料を得た。
【0035】
更に、得られた耐部分放電性絶縁塗料を0.8mmの銅導体上に塗布、焼付けし、皮膜厚30μmのエナメル線を得た。得られたエナメル線について、その寸法、外観、及びV−t特性を評価した。
なお、V−t特性は絶縁破壊電圧と破壊時間の関係を示す特性であり、正弦波10kHz−1kVの電圧を対撚りしたエナメル線間に印加し、絶縁破壊に至るまでの時間を測定したものである。
【0036】
(実施例1)
溶媒成分の100%がγ−ブチロラクトンであるポリアミドイミド樹脂塗料に、分散媒成分の100%がγ−ブチロラクトンであるオルガノシリカゾルを混合して耐部分放電性絶縁塗料を得た。全溶媒に対するγ−ブチロラクトン量は、100wt%であった。
【0037】
(実施例2)
溶媒成分の80%がγ−ブチロラクトン、シクロヘキサノン20%である混合溶媒のポリアミドイミド樹脂塗料に、分散媒成分の100%がγ−ブチロラクトンであるオルガノシリカゾルを混合して耐部分放電性絶縁塗料を得た。全溶媒に対するγ−ブチロラクトン量は、84.6wt%であった。
【0038】
(実施例3)
溶媒成分の85%がγ−ブチロラクトン、NMP15%である混合溶媒のポリアミドイミド樹脂塗料に、分散媒成分の100%がγ−ブチロラクトンであるオルガノシリカゾルを混合して耐部分放電性絶縁塗料を得た。全溶媒に対するγ−ブチロラクトン量は、89.7wt%であった。
【0039】
(実施例4)
溶媒成分の100%がγ−ブチロラクトンであるポリアミドイミド樹脂塗料に、分散媒成分の40%がベンジルアルコール、60%がソルベントナフサであるオルガノシリカゾルを混合して耐部分放電性絶縁塗料を得た。全溶媒に対するγ−ブチロラクトン量は、76.9wt%であった。
【0040】
(実施例5)
溶媒成分の67%がγ−ブチロラクトン、DMFが10%、シクロヘキサノン23%であるポリアミドイミド樹脂塗料に、分散媒成分の40%がベンジルアルコール、60%がソルベントナフサであるオルガノシリカゾルを混合して耐部分放電性絶縁塗料を得た。全溶媒に対するγ−ブチロラクトン量は、51.3wt%であった。
【0041】
(比較例1)
溶媒成分の80%がNMP、20%がDMFであるポリアミドイミド樹脂塗料に、分散媒成分の100%がDMFであるオルガノシリカゾルを混合して耐部分放電性絶縁塗料を得た。全溶媒に対するγ−ブチロラクトン量は、0wt%であった。
【0042】
(比較例2)
溶媒成分の100%がNMPであるポリアミドイミド樹脂塗料に、分散媒成分の100%がDMACであるオルガノシリカゾルを混合して耐部分放電性絶縁塗料を得た。全溶媒に対するγ−ブチロラクトン量は、0wt%であった。
【0043】
(比較例3)
溶媒成分の50%がγ−プチロラクトン、NMP50%である混合溶媒のポリアミドイミド樹脂塗料に、分散媒成分の100%がDMFであるオルガノシリカゾルを混合して耐部分放電性絶縁塗料を得た。全溶媒に対するγ−ブチロラクトン量は、38.5wt%であった。
【0044】
(比較例4)
溶媒成分の80%がNMP、20%がDMFであるポリアミドイミド樹脂塗料に、分散媒成分の100%がγ−ブチロラクトンであるオルガノシリカゾルを混合して耐部分放電性絶縁塗料を得た。全溶媒に対するγ−ブチロラクトン量は、23.1wt%であった。
【0045】
(比較例5)
溶媒成分の80%がNMP、20%がDMFであるポリアミドイミド樹脂塗料を得た。全溶媒に対するγ−ブチロラクトン量は、0wt%であった。
【0046】
表1に、実施例及び比較例における性状、得られたエナメル線の特性等(寸法、外観、V−t特性)について示す。
【0047】
【表1】

【0048】
表1の結果より、全溶媒に対するγ−ブチロラクトン量が50wt%以上である実施例1〜5の耐部分放電性塗料は、透明であり、かつ安定性も良好であった。一方、同量が50%未満である比較例1〜4の耐部分放電性塗料は、凝縮、白濁しており、沈降により安定性にも乏しいものであった。更に、実施例1〜5のエナメル線は、比較例1〜5のエナメル線と比較して、外観が透明であり、V−t特性にも優れていることが判った。
【0049】
また、実施例1〜5において、樹脂塗料組成として溶媒成分の60%以上をγ−ブチロラクトンとすることにより、透明な外観を有し、安定性に優れた耐部分放電性塗料が得られ、これを用いて形成したエナメル線も透明となり、V−t特性に優れることが判明した。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明に係る絶縁電線の一実施例を示す断面図である。
【図2】本発明に係る絶縁電線の他の実施例を示す断面図である。
【図3】本発明に係る絶縁電線の他の実施例を示す断面図である。
【符号の説明】
【0051】
1 導体
2 耐部分放電性絶縁体被膜
3,4 有機絶縁体被膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアミドイミド樹脂塗料とオルガノシリカゾルとを溶媒により分散させてなる耐部分放電性絶縁塗料において、
前記溶媒の全成分のうち、50〜100%がγ−ブチロラクトンであることを特徴とする耐部分放電性絶縁塗料。
【請求項2】
前記ポリアミドイミド樹脂塗料の樹脂成分に対し、前記オルガノシリカゾルのシリカ分の配合比が1〜100phrであることを特徴とする請求項1記載の耐部分放電性絶縁塗料。
【請求項3】
前記オルガノシリカゾルの平均粒子径が100nm以下であることを特徴とする請求項1記載の耐部分放電性絶縁塗料。
【請求項4】
導体の表面に、請求項1乃至3のいずれか1項記載の耐部分放電性絶縁塗料からなる耐部分放電性絶縁体被膜を形成したことを特徴とする絶縁電線。
【請求項5】
導体の表面に、有機絶縁体皮膜を形成し、該有機絶縁体皮膜の表面に、請求項1乃至3のいずれか1項記載の耐部分放電性絶縁塗料からなる耐部分放電性絶縁体皮膜を形成したことを特徴とする絶縁電線。
【請求項6】
前記耐部分放電性絶縁体被膜の表面に、更に有機絶縁体皮膜を設けたことを特徴とする請求項4又は5記載の絶縁電線。
【請求項7】
γ−ブチロラクトンを主溶媒とするポリアミドイミド樹脂塗料に、γ−ブチロラクトンを主分散媒とするオルガノシリカゾルを混合し、全溶媒に対するγ−ブチロラクトンの量を50〜100%としたことを特徴とする耐部分放電性絶縁塗料の製造方法。
【請求項8】
前記ポリアミドイミド樹脂塗料における溶媒のうち、60〜100%がγ−ブチロラクトンであることを特徴とする請求項7記載の耐部分放電性絶縁塗料の製造方法。
【請求項9】
前記オルガノシリカゾルにおける分散媒のうち、80〜100%がγ−ブチロラクトンであることを特微とする請求項7記載の耐部分放電性絶縁塗料の製造方法。
【請求項10】
γ−ブチロラクトンを主溶媒とするポリアミドイミド樹脂塗料に、γ−ブチロラクトンを主分散媒とするオルガノシリカゾルを混合し、全溶媒に対するγ−ブチロラクトンの量を50〜100%として耐部分放電性絶縁塗料を作製し、該耐部分放電性絶縁塗料を導体上に塗布・焼付けして皮膜を形成することを特徴とする絶縁電線の製造方法。
【請求項11】
γ−ブチロラクトンを主溶媒とするポリアミドイミド樹脂塗料に、γ−ブチロラクトンを主分散媒とするオルガノシリカゾルを混合し、全溶媒に対するγ−ブチロラクトンの量を50〜100%として耐部分放電性絶縁塗料を作製し、該耐部分放電性絶縁塗料を導体表面に設けた有機絶縁体皮膜上に塗布・焼付けして皮膜を形成することを特徴とする絶縁電線の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−299204(P2006−299204A)
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−126810(P2005−126810)
【出願日】平成17年4月25日(2005.4.25)
【出願人】(591039997)日立マグネットワイヤ株式会社 (63)
【Fターム(参考)】