説明

耐酸性モルタル補修材及び耐酸性コンクリート材料

【課題】下水道管渠あるいは下水道施設のコンクリート構造物は、硫酸浸食によって予想をはるかに越える速さで劣化している。本願は、無機質材料の組み合わせによる新しい耐酸性モルタル及びコンクリート材料について、耐酸性能と早期発現性を有し、かつ安価な無機質系材料として提供することを課題とする。
【解決手段】各種セメントに、フライアッシュ、高炉スラグ微粉末、生ゴミ溶融スラグ、下水道溶融スラグなどの産業廃棄物微粉末を1〜2種類を加えた耐酸性モルタル混合物であり、また、上記モルタルに酸化アルミニウムを主成分とする鉱物質微粉末を加え、早期強度を発現させる耐酸性モルタル混合物であり、さらに、各種セメントと、1〜2種類の耐酸性材料と、酸化アルミニウムを主成分とする鉱物質微粉末に、ガラス短繊維を0.3〜2%添加混合した耐酸性モルタル補修材及び耐酸性コンクリート材料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、耐酸性能に優れ、且つ、早期発現性の高い耐酸性モルタル混合物、耐酸性補修用及び耐酸性コンクリート材料に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、下水道管渠あるいは下水道施設では、生活廃水中に含まれる硫酸イオンが嫌気性の硫酸塩還元細菌によって硫化水素に変えられる。そして、生成された硫化水素は、ガス化して好気性環境下に生息する硫黄酸化細菌によって硫酸に変えられる。
この硫酸がコンクリートをボロボロに劣化させ、道路陥没の被害を起こしている。
【0003】
そこで、現状の補修方法としては、
1) 有機系(樹脂)モルタル材料で表面を被覆する方法
2) 更正工法(管渠改築工法)
3) 硫酸を生成する微生物の生息を低減する抗菌入りコンクリートの開発
4) 無機系材料の組み合わせによる新しい耐酸性コンクリートの開発
があるが、この発明の目指すところは、4)の技術であり、予め、そのため、従来使用されているモルタル配合(セメント単身)とA社、B社、C社、そしてこの発明(無機系材料)を、硫酸濃度12.5%溶液に、約2ケ月間浸漬した結果、図1に示すように耐酸性能は非常に良く、コスト面からも、セメント単身の20%アップを目標とでき、安価に製造できることが判明した。
【0004】
しかしながら、材齢初期3日〜7日の早期強度は低いこと。また、無機系(コンクリート)を有機系材料で補修する相性の悪さ。さらに、材料価格が高いこと等があげられ、これらの問題点から無機系耐酸性コンクリート材料の開発が期待されている。
【0005】
そして、この発明は、本件発明者等が開発した発明(特許文献1)の耐酸性能と同程度の要求性能を満足させ、当該出願内容で、早期強度発現材料として使用した高炉ヒュームに代わる材料を捜し出すことであり、高炉ヒュームは、現在日本国内には無くて中国の小型溶鉱炉の産業廃棄物として生成され輸入しているものであるが、近代化が進むと生産不可能の恐れがあること及び材料の安定供給と価格高騰の不安があった。
【特許文献1】特開2005−35877号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、この発明は、本件発明者等が開発した上記発明と同じく、耐酸性能に優れ、且つ、早期強度発現性の高い耐酸性モルタル補修材、及び耐酸性コンクリート材料の開発・提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明によると、セメントは水との水和反応によりシリケート水和物(C−S- Hゲル)と水酸化カルシウムを生成する。この水酸化カルシウム硫酸と反応して二水石膏となり、強酸下において表面から泥状に溶けていく。
従って、耐酸性を高める基本は、劣化する最大の要因・石膏の生成量を減らすこと。即ち、セメント使用量を減らせばよい。
【0008】
しかし、セメント使用量を少なくすれば、当然強度が低下する。この強度低下を補填する材料としてフライアッシュ(ポゾラン反応性)または高炉スラブ微粉末(潜在水硬性)を加えると、これら材料と水酸化カルシウムがゆっくり反応(強度増進)し、耐酸効果の高いものができる。
【0009】
そこで、本願出願人の実験では、粉体をセメント、フライアッシュ、高炉スラグ微粉末の3種類であり、重量配分(1:1:1)のコンクリートを練り混ぜた結果、5%希硫酸濃度浸漬試験の結果、28日、56日において、30N/mm2 程度の高強度の耐酸性材料が得られた。ただし、圧縮強度は、3日:9.6N/mm2 、28日:31N/mm2 という結果で、補修材料に必要な若材齢での圧縮強度は低すぎるという問題が生じた。
【0010】
そのため、本発明では、一例にして早期強度発現性の高い材料として“Al2 3 を主成分とする鉱物質微粉末”〔砥石の集塵粉(産業廃棄物)・製品名クレノートン〕を使用する。
【0011】
この配合において、5%濃度希硫酸浸漬試験 14日圧縮強度で約25N/mm2 という結果を得ている。
【発明の効果】
【0012】
この発明によると、試験結果は次の表1のとおりである。
【0013】
【表1】

【0014】
即ち、モルタル及びコンクリートの耐硫酸効果は、質量残存率と圧縮強度に大きく依存する。
1) 質量残存率
〈1〉は、従来から使用されている普通モルタル配合であるが、水中3日養生10%濃度希硫酸浸漬試験での重量残存率は、1ケ月で約60%になり、1年が経過すれば泥状化して0%、原形もなくなる。一方、この発明の耐酸性材料の重量残存率は、1ケ月では若干(100%を超える)膨張して、その後は外面の一部が劣化して徐々に脆弱化し、1年経過後は80%強という結果であった。
この発明による結果は、促進試験によるモルタル試供体を早期に劣化させた例であるが、鉄筋コンクリート造の実構造においては、劣化時間が遅くなる反面、被りが1〜2cm泥状化した段階で鉄筋の腐食が進み構造物は崩壊へと向かう。
また、10%の希硫酸濃度というのはPh=1以下の強酸下にあり、供用中の下水道管内のPhは3〜4程度が多く、実験結果のようには早期に崩壊することはない。従って、この発明の耐酸性材料とは従来材料の5〜10倍程度の長寿命化が図れる材料と言える。 2) 圧縮強度
圧縮強度については、東京都下水道局の「コンクリート改修技術マニュアル(案)」に標準養生という条件下で
材齢3日 : 25N/mm2 以上
材齢28日: 45N/mm2 以上 と規定している。
この規定に対して、本発明は各ケースとも満足している。
補修・補強のように、早期供用開始を必要とする工事では材齢2〜3日強度で規定値以上欲しい。また、早期に強度を発現させることは、二次製品の型枠脱型と移動(材齢1日)にも必要である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、この発明の一実施例を図面に従って説明すると、各種セメントに、フライアッシュ、高炉スラグ微粉末、生ゴミ溶融スラグ、下水道溶融スラグなどの産業廃棄物微粉末を1〜2種類を加えたことを特徴とする耐酸性モルタル混合物であり、また、該耐酸性モルタル混合物に、酸化アルミニウムを主成分とする鉱物質微粉末を加え、早期強度を発現させることを特徴とする耐酸性モルタル補修材であり、さらに、各種セメントと、1〜2種類の産業廃棄物微粉末と、酸化アルミニウムを主成分とする鉱物質微粉末に、ガラス短繊維を0.3〜2%添加混合したことを特徴とする耐酸性モルタル補修材である。
【0016】
また、この発明の他の発明として、各種セメントに、フライアッシュ、高炉スラグ微粉末、生ゴミ溶融スラグ、下水道溶融スラグなどの産業廃棄物微粉末を1〜2種類を加えたモルタル混合物に、酸化アルミニウムを主成分とする鉱物質微粉末及び粗骨材を加えてコンクリートとしたことを特徴とする耐酸性コンクリート材料である。
【実施例】
【0017】
以下、この発明の一実施例を図面に従って説明すると、各種セメントに、フライアッシュ、高炉スラグ微粉末、生ゴミ溶融スラグ、下水道溶融スラグなどの産業廃棄物微粉末を1〜2種類を加えたことを特徴とする耐酸性モルタル混合物より構成され、これらの使用材料は下記の表2のとおりである。
【0018】
【表2】

【0019】
さらに、本発明のモルタルの試験配合を、重量%で示すと、下記の表3の通りである。
【0020】
【表3】

【0021】
ここに、
OPC : 普通ポルトランドセメント
FA : フライアッシュ(粉末度:3000cm3 /g)
BFG : 高炉スラグ微粉末(粉末度:6000) BFF : 高炉フューム(粉末度:粉末度:20000)
KNO : 砥石粉(クレノートン)
条件:W/B=40% (B=全粉体量)
『例』 B=OPC+FA+KNO、 W=単位水量
C:S=1:2(セメント砂比)
【0022】
粉体をセメント、フライアッシュ、高炉スラグ微粉末の3種類であり、重量配分(1:1:1)のコンクリートを練り混ぜた結果、5%濃度希硫酸浸漬試験の結果、28日、56日において、30N/mm2 程度の高強度の耐酸性材料が得られた。ただし、圧縮強度は、3日:9.6N/mm2 、28日:31N/mm2 という結果で、補修材料に必要な若材齢での圧縮強度は低すぎるという問題があった。
【0023】
そこで、本発明は、早期強度発現性の高い材料として「Al2 3 」を主成分とする鉱物質微粉末「砥石の集塵粉(産業廃棄物)・製品名クレノートン」を使用する。
因みに、クレノートンの主成分は、Al2 3 が50〜90%、SiO2 が10〜50%である。
この配合によると、5%濃度希硫酸浸漬試験の結果、14日において、圧縮強度25N/mm2 程度という結果を得ている。
【産業上の利用可能性】
【0024】
この発明の技術を確立し、実施することにより、質量残存率、圧縮強度ともに満足でき、下水道用コンクリート二次製品及び補修材に実用可能であり、産業上の利用可能性が高いものである。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】この発明の効果を示す説明図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
各種セメントに、フライアッシュ、高炉スラグ微粉末、生ゴミ溶融スラグ、下水道溶融スラグなどの産業廃棄物微粉末を1〜2種類を加えたことを特徴とする耐酸性モルタル混合物。
【請求項2】
上記モルタルに酸化アルミニウムを主成分とする鉱物質微粉末を加え、早期強度を発現させることを特徴とする請求項1記載の耐酸性モルタル混合物。
【請求項3】
各種セメントと、1〜2種類の産業廃棄物微粉末と、酸化アルミニウムを主成分とする鉱物質微粉末に、ガラス短繊維を0.3〜2%添加混合したことを特徴とする耐酸性モルタル補修材。
【請求項4】
各種セメントに、フライアッシュ、高炉スラグ微粉末、生ゴミ溶融スラグ、下水道溶融スラグなどの産業廃棄物微粉末を1〜2種類を加えたモルタル混合物に、酸化アルミニウムを主成分とする鉱物質微粉末及び粗骨材を加えてコンクリートとしたことを特徴とする耐酸性コンクリート材料。

【図1】
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【公開番号】特開2008−247693(P2008−247693A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−93113(P2007−93113)
【出願日】平成19年3月30日(2007.3.30)
【出願人】(595075595)学校法人鶴学園 (11)
【出願人】(506316889)株式会社大広エンジニアリング (5)
【Fターム(参考)】