説明

耐金属劣化性ポリプロピレンメルトブロー不織布

【課題】銅害防止剤等を用いた従来にない耐金属劣化性を向上させた液体フィルター用ポリプロピレンメルトブロー不織布の提供。
【解決手段】ポリプロピレン樹脂100重量部に対し、フェノール系酸化防止剤0.05〜3重量部及び耐金属劣化防止剤0.05〜3重量部を配合したプロピレン樹脂組成物からなるポリプロピレンメルトブロー不織布であって、メルトブロー不織布が、繊維径0.8〜40μm、目付け5〜400g/m、フラジール法による通気度0.05〜400cc/cm/sec、空隙率30〜95%であることを特徴とする耐金属劣化性ポリプロピレンメルトブロー不織布。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐金属劣化性ポリプロピレンメルトブロー不織布に関し、特に耐金属劣化性に優れる液体フィルター用ポリプロピレンメルトブロー不織布に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ポリプロピレンメルトブロー不織布は、液体フィルター分野で粒子濾過及び精密濾過の一部にカートリッジフィルターの形で多用されている(例えば、非特許文献1参照。)。これらの用途においては、ポリプロピレンメルトブロー不織布は、熱水中に含まれる金属に接する場合(例えば、ボイラー腹水のろ過等)があり、金属劣化によるポリプロピレン樹脂の劣化が大きな問題となっている。一般に、ある種の金属及び金属化合物は、ポリプロピレン樹脂の酸化に関して、それ自体が触媒となって作用し、ポリプロピレン樹脂の酸化劣化を加速する働きがあることは知られている。また、金属キレート化合物のいくつかのタイプは、この酸化劣化現象をうまく抑制することが知られており、ポリプロピレン樹脂の銅害防止剤やその機構に関して数多くの報告がなされている。(例えば、非特許文献2参照。)
しかしながら、単に銅害防止剤等をポリプロピレン樹脂に添加するだけでは、十分な耐金属劣化性を有する液体フィルター用ポリプロピレン樹脂組成物は得られず、その処方の開発が望まれている。
【0003】
一方、ポリプロピレンメルトブロー不織布は、非常に細いノズルから樹脂を押し出し、平行するエアの力により糸を細化し0.5〜50μm程度の極細繊維にすることにより製造されている。したがって、ポリプロピレンメルトブロー不織布の製造は、非常にシビアであり原料ポリプロピレン樹脂中に不純物を多く含む場合は、糸切れ(ショット)等が発生しやすくなり、樹脂組成物原料の選定に注意をする必要があった。
また、ポリプロピレンメルトブロー不織布は、熱ロール・カレンダー加工を施すことにより均一に薄膜・圧着化され、強度があがること(例えば、特許文献1参照。)や、孔径が均一で、使用時変形の少ない濾過性能の良い精密濾過材が得られることが報告されている。(例えば、特許文献2参照。)
【非特許文献1】鈴木真 不織布情報,P4(1996.5)
【非特許文献2】Zenjiro Osawa,Polymer Degradation Stability,20(1988),203−236
【特許文献1】特開昭51−53072号公報
【特許文献2】特開昭62−155912号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、かかる従来技術の背景に鑑み、銅害防止剤等を用いた従来にない耐金属劣化性を向上させた液体フィルター用ポリプロピレンメルトブロー不織布を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、かかる課題を解決するために、鋭意研究の結果、ポリプロピレン樹脂に特定量のフェノール系酸化防止剤と耐金属劣化防止剤を併用し、ポリプロピレンメルトブロー不織布が製造可能であることを確認し、さらに特定の物性を有するポリプロピレンメルトブロー不織布が耐金属劣化性を向上させた液体フィルター用不織布として用いることができることを見出し、本発明を完成させた。
【0006】
すなわち、本発明の第1の発明によれば、ポリプロピレン樹脂100重量部に対し、フェノール系酸化防止剤0.05〜3重量部及び耐金属劣化防止剤0.05〜3重量部を配合したプロピレン樹脂組成物からなるポリプロピレンメルトブロー不織布であって、メルトブロー不織布が、繊維径0.8〜40μm、目付け5〜400g/m、フラジール法による通気度0.05〜400cc/cm/sec、空隙率30〜95%であることを特徴とする耐金属劣化性ポリプロピレンメルトブロー不織布が提供される。
【0007】
また、本発明の第2の発明によれば、第1の発明において、ポリプロピレン樹脂100重量部に対し、さらにチオエーテル系酸化防止剤をフェノール系酸化防止剤と耐金属劣化防止剤の合計量の0.5〜1.5倍重量配合し、かつフェノール系酸化防止剤、耐金属劣化防止剤及びチオエーテル系酸化防止剤の合計量が6重量部以下であるプロピレン樹脂組成物からなることを特徴とする耐金属劣化性ポリプロピレンメルトブロー不織布が提供される。
【0008】
また、本発明の第3の発明によれば、第1又は2の発明において、ポリプロピレンメルトブロー不織布が、カレンダー加工により厚みが均一に加工された不織布であることを特徴とする耐金属劣化性ポリプロピレンメルトブロー不織布が提供される。
【0009】
また、本発明の第4の発明によれば、第1〜3のいずれかの発明の耐金属劣化性ポリプロピレンメルトブロー不織布を用いた液体フィルターが提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、耐金属劣化性を従来以上に向上させた液体フィルター用ポリプロピレンメルトブロー不織布が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明は、耐金属劣化性を向上させた液体フィルター用ポリプロピレンメルトブロー不織布であって、ポリプロピレン樹脂にフェノール系酸化防止剤、耐金属劣化防止剤、さらに必要に応じて、チオエーテル系酸化防止剤を配合したポリプロピレン樹脂組成物を用いメルトブロー法で製造されるポリプロピレンメルトブロー不織布である。以下に詳細を説明する。
【0012】
1.ポリプロピレン樹脂組成物
(1)ポリプロピレン樹脂
本発明で用いられるポリプロピレン樹脂としては、プロピレン単独重合体、プロピレンとエチレン、1−ブテン、1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン等の炭素数3〜20のα−オレフィンとの結晶性ランダム共重合体もしくはブロック共重合体等が挙げられる。
また、本発明において用いるポリプロピレン樹脂のメルトフローレート(MFR;JIS K7210、230℃、荷重21.18N)は、好ましくは5〜2000g/10分であり、より好ましくは10〜1500g/10分である。
MFRが5g/10分未満では、樹脂圧力が上昇しノズルに割れを生じる可能性があり、2000g/10分を超えると樹脂圧力が低く各ノズルホールから均一に安定した吐出が困難である。
【0013】
(2)フェノール系酸化防止剤
本発明で用いることのできるフェノール系酸化防止剤としては、従来より市販されているフェノール系酸化防止剤であればよく、例えば、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、2−t−ブチル−4,6−ジメチルフェノール、2,6−ジ−t−ブチル−4−エチルフェノール、2,6−ジ−t−ブチル−4−n−ブチルフェノール、2,6−ジ−イソブチル−4−n−ブチルフェノール、2,6−ジ−シクロペンチル−4−メチルフェノール、2−(α−メチルシクロヘキシル)−4,6−ジメチルフェノール、2,6−ジ−オクタデシル−4−メチルフェノール、2,4,6−トリ−シクロヘキシルフェノール、2,6−ジ−t−ブチル−4−メトキシメチルフェノール、n−オクタデシル−β−(4’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−t−ブチルフェノール)プロピオネート、2,6−ジフェニル−4−オクタデシロキシフェノール、2,4−ビス−(n−オクチルチオ)−6−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルアニリノ)−1,3,5−トリアジン、2,4,6−トリス(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシベンジルチオ)−1,3,5−トリアジン、2,6−ジ−t−ブチル−4−メトキシフェノール、2,5−ジ−t−ブチルハイドロキノン、2,5−ジ−t−アミルハイドロキノン、2,2’−チオ−ビス−(6−t−ブチル−4−メチルフェノール)、2,2’−チオ−ビス(4−オクチルフェノール)、2,2’−チオ−ビス−(6−t−ブチル−3−メチルフェノール)、4,4’−チオ−ビス(6−t−ブチル−2−メチルフェノール)、2,2’−メチレン−ビス−(6−t−ブチル−4−メチルフェノール)、2,2’−メチレン−ビス−(6−t−ブチル−4−エチルフェノール)、2,2’−メチレン−ビス−{4−メチル−6−(α−メチルシクロヘキシル)−フェノール}、2,2’−メチレン−ビス−(4−メチル−6−シクロヘキシルフェノール)、2,2’−メチレン−ビス(6−ノニル−4−メチルフェノール)、2,2’−メチレン−ビス−{6−(α−メチルベンジル)−4−ノニルフェノール}、2,2’−メチレン−ビス−{6−(α,α−ジメチルベンジル)−4−ノニルフェノール}、2,2’−メチレン−ビス−(4,6−ジ−t−ブチルフェノール)、2,2’−エチリデン−ビス−(4,6−ジ−t−ブチルフェノール)、2,2’−エチリデン−ビス−(6−t−ブチル−4−イソブチルフェノール)、4,4’−メチレン−ビス−(2,6−ジ−t−ブチルフェノール)、4,4’−メチレン−ビス−(6−t−ブチル−2−メチルフェノール)、4,4’−ブチリデン−ビス−(6−t−ブチル−2−メチルフェノール)、4,4’−ブチリデン−ビス−(6−t−ブチル−3−メチルフェノール)、4,4’−ブチリデン−ビス−(2,6−ジ−t−ブチルフェノール)、4,4’−ブチリデン−ビス−(3,6−ジ−t−ブチルフェノール)、1,1−ビス−(5−t−ブチル−4−ヒドロキシ−2−メチルフェニル)−ブタン、2,6−ジ−(3−t−ブチル−5−メチル−2−ヒドロキシベンジル)−4−メチルフェノール、1,1,3−トリス−(5−t−ブチル−4−ヒドロキシ−2−メチルフェニル)−ブタン、ビス{3,3−ビス(4’−ヒドロキシ−3’−t−ブチルフェニル)ブチリックアシッド}エチレングリコールエステル、ジ−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)−ジシクロペンタジエン、ジ−{2−(3’−t−ブチル−2’−ヒドロキシ−5’−メチルベンジル)−6−t−ブチル−4−メチルフェニル}テレフタレート、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、1,3,5−トリス−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート、1,3,5−トリス−(4−t−ブチル−3−ヒドロキシ−2,6−ジメチルベンジル)イソシアヌレート、1,3,5−トリス−{(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシエチル}イソシアヌレート、テトラキス{メチレン−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート}メタンなどが挙げられる。中でも、特にテトラキス{メチレン−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート}メタン、1,3,5−トリス−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート、1,3,5−トリス−(4−t−ブチル−3−ヒドロキシ−2,6−ジメチルベンジル)イソシアヌレートが好ましく用いられる。これらの酸化防止剤は、単独で、あるいは2種以上組み合わせて用いることができる。フェノール系酸化防止剤は、ラジカル連鎖禁止剤として機能し、成形加工性の改善、特に溶融紡糸性に効果がある。成形加工性の改善は、フェノール系酸化防止剤と、イオウ系酸化防止剤とを組み合わせて用いることによって、相乗効果が得られる。
【0014】
フェノール系酸化防止剤の配合量は、ポリプロピレン樹脂100重量部に対して、0.01〜3重量部であり、好ましくは0.02〜1重量部である。フェノール系酸化防止剤の配合量が0.01重量部未満では、ラジカル連鎖が進行し安定した溶融紡糸が困難となり、3重量部を超えてもそれ以上の効果は見られない。
【0015】
(3)金属不活性剤
本発明で用いることのできる金属不活性剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール、メチルベンゾトリアゾール、メチルベンゾトリアゾールのアルカリまたはアルカリ土類塩、N−フォルム−N−サリチロイルヒドラジン、3−(N−サリチロイル)アミノ−1,2,4−トリアゾール、デカメチレンジカルボキシジサリチロイルヒドラジド、N,N’−ビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニトリル]ヒドラジンなどが挙げられる。
【0016】
金属不活性剤の配合量は、ポリプロピレン樹脂100重量部に対して、0.01〜3重量部であり、好ましくは0.02〜1重量部である。金属不活性剤の配合量が0.01重量部未満では、耐金属劣化性の効果が明確でなく、3重量部を超えるとメルトブロー不織布製造時に糸切れを起こし易く安定した製品が得られない。
【0017】
(4)チオエーテル系酸化防止剤
本発明のポリプロピレン樹脂組成物においては、必要に応じて、チオエーテル系酸化防止剤をさらに併用することができる。用いることのできるチオエーテル系酸化防止剤としては、従来より市販されているチオエーテル系酸化防止剤を用いることができ、例えば、ジラウリル−3,3’−チオジプロピオネート、ジミリスチル−3,3’−チオジプロピオネート、ジステアリル−3,3’−チオジプロピオネート、ペンタエリスリトール−テトラキス(3−ラウリルチオプロピオネート)などが挙げられる。
【0018】
チオエーテル系酸化防止剤の配合量は、フェノール系酸化防止剤及び耐金属劣化防止剤の合計量の0.5〜1.5倍重量が好ましく、より好ましくは0.8〜1.2倍重量であり、かつ、フェノール系酸化防止剤、耐金属劣化防止剤及びチオエーテル系酸化防止剤の合計量は、ポリプロピレン樹脂100重量部に対し、6重量部以下が好ましい。チオエーテル系酸化防止剤の配合量が上記範囲外であるとその効果は発揮されない。
【0019】
(5)その他の成分
なお、ポリプロピレン樹脂組成物には、さらに必要に応じて、着色剤、無機フィラー、紫外線吸収剤等の通常使用されている添加剤を混合使用することができ、他のポリオレフィン、熱可塑性エラストマー等の樹脂を本発明の機能を阻害しない範囲で加えることができる。
【0020】
2.メルトブロー不織布
本発明のメルトブロー不織布は、上記ポリプロピレン樹脂組成物からメルトブロー法により得られる不織布である。このメルトブロー法は、公知の方法を採用することができる。例えば、ポリプロピレン樹脂に上記添加剤を配合し、ヘンシェルミキサー、ブレンダー等を用いて混合した後、単軸押出機、二軸押出機などを用いて溶融混練し、溶融したポリプロピレン樹脂組成物を、一列に配列した複数のノズル孔から溶融ポリマーとして吐出し、オリフィスダイに隣接して設備した噴射ガス口から高温高速空気を噴射せしめて、吐出された溶融ポリマーを細繊維化し、次いで、繊維流をコレクタであるコンベヤネット上等に捕集して不織布を製造する方法である。
【0021】
本発明のポリプロピレンのメルトブロー法によって得られるメルトブロー不織布は、次の物性を有している必要がある。
【0022】
(i)繊維径
本発明で用いるメルトブロー不織布の繊維径は、0.8〜40μmであり、好ましくは1〜30μmである。平均繊維径が0.8μm未満では、単繊維強度が弱く不織布として用をなさない。一方、40μmを超えると単繊維の剛性が高くなりすぎて割れ易くなる。
【0023】
(ii)目付
本発明で用いるメルトブロー不織布の平均目付は、5〜400g/mであり、好ましくは10〜300g/mである。目付が5g/m未満では、不織布強度が弱く実用に適さない。一方、400g/mを超えると、不織布製造時のメルトブロー不織布層内自己融着性が弱くなり実用には適さない。
【0024】
(iii)フラジール法による通気度
本発明で用いるメルトブロー不織布のフラジール法による通気度は、0.05〜400cc/cm/secである。通気度が0.05cc/cm/sec未満では、フィルターとして供した場合、圧縮され易く圧力損失が大きくなり適さない。一方、400cc/cm/secを超えると、孔径が大きくフィルターとして用をなさない。
【0025】
(iv)空隙率
本発明で用いるメルトブロー不織布の空隙率は、30〜95%であり、好ましくは40〜93%である。空隙率が30%未満であるとメルトブロー製造時に自己融着が必要以上に起こりフィルム化しフィルターとして用をなさない。一方、95%を超えると繊維間の融着点が少なくなり不織布の強度が低くなる。
【0026】
なお、本発明で用いるポリプロピレンメルトブロー不織布は、カレンダー加工により厚みを均一化したものであることが好ましい。特に、フィルター用途においては、カレンダー加工により厚みを均一化したメルトブロー不織布は、高強度で孔径が均一、使用時変形の少ない濾過性能の良い不織布として用いることができる。カレンダー・ロールとしては、例えばメタルロール同士、メタルロールと弾性ロール、弾性ロール同士の組み合わせが挙げられる。カレンダー加工の条件としては、例えば、加工温度:15〜155℃、加工速度:0.1〜50m/min、線圧:20〜300kg/cm等が挙げられる。
【0027】
3.用途
本発明のポリプロピレンメルトブロー不織布は、多くの産業分野に用いられ、特に液体フィルター、エアフィルター、バッテリーセパレータ等において金属と接する場所で用いることができる。
【0028】
また、本発明の不織布は、その目的に応じて、グラフト重合やプラズマ処理、コロナ処理、界面活性剤塗布等により不織布表面の親液性を向上させて用いることができる。
【実施例】
【0029】
本発明を実施例に基づいて詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例中の物性値は、下記の方法で測定した。
【0030】
(1)平均繊維径:試験片の任意なる5箇所を電子顕微鏡で5枚の写真撮影を行い、1枚の写真につき20本の繊維の直径を測定し、これら5枚の写真について行い、合計100本の繊維径を平均して求めた。
(2)目付:試料の長さ方向から、25mm×200mmの大きさの試験片を採取し、温度20±2℃、相対湿度65±2%の状態での水分平衡状態の重さを小数点3桁まで測定し、1m当りの目付重量に換算した。
(3)フラジール法通気度: JIS L 1096(6.27.1.A項)に準拠して測定した。
(4)空隙率:目付測定に用いた試験片をダイヤルシックネスゲージ(三豊製作所製7321、1mm回転)を用いて1μmまで厚さを測定し、その試験片の目付を厚みとポリプロピレン樹脂の比重で除して求めた。
(5)耐金属劣化性能試験:2枚の銅板の間に20mm×100mmの試料を挟み、150℃に温度調整されたオーブン中で24時間放置した後、銅板を取り除き試験片の形状保持状態及び色を観察した。試験前の不織布は乳白色であるが、酸化劣化により茶褐色に変化し更に溶融状態になることから耐金属劣化性能を評価した。
【0031】
(実施例1)
プロピレン単独重合体(ボレアリス社製、MFR:400g/10分)100重量部に対して、フェノール系酸化防止剤としてテトラキス−[メチレン(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシヒドロ−シンナメート)]メタン(イルガノックス1010:チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)0.5重量部、金属不活性剤としてN,N’−ビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニル]ヒドラジン(イルガノックスMD1024:チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)0.3重量部を配合し、ブレンダーにてプレブレンドし、メルトブロー法により平均繊維径8μm、目付100g/m、フラジール法による通気度13cc/cm/sec、空隙率85%のメルトブロー不織布を得た。
得られた不織布を50mm×100mmの2枚の銅版に挟み、耐金属劣化性能試験を実施した。形状の変化は無かったが色が乳白色から茶褐色になっていた。結果を表1に示す。
【0032】
(実施例2)
プロピレン単独重合体(ボレアリス社製、MFR:400g/10分)100重量部に対して、フェノール系酸化防止剤としてテトラキス−[メチレン(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシヒドロ−シンナメート)]メタン(イルガノックス1010:チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)0.1重量部、金属不活性剤としてN,N’−ビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニル]ヒドラジン(イルガノックスMD1024:チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)0.3重量部、チオエーテル系酸化防止剤としてペンタエリスリトール−テトラキス(3−ドデシルチオプロピオネート)(シーノックス412S:シプロ化成社製)0.4重量部を配合し、ブレンダーにてプレブレンドし、メルトブロー法により平均繊維径8μm、目付100g/m、フラジール法による通気度13cc/cm/sec、空隙率85%のメルトブロー不織布を得た。
得られた不織布を50mm×100mmの2枚の銅版に挟み、耐金属劣化性能試験を実施した。形状の変化は無く色も乳白色から変化は観察されなかった。結果を表1に示す。
【0033】
(実施例3)
プロピレン単独重合体(ボレアリス社製、MFR:1200g/10分)100重量部に対して、フェノール系酸化防止剤としてテトラキス−[メチレン(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシヒドロ−シンナメート)]メタン(イルガノックス1010:チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)0.1重量部、金属不活性剤としてN,N’−ビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニル]ヒドラジン(イルガノックスMD1024:チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)0.3重量部、チオエーテル系酸化防止剤としてペンタエリスリトール−テトラキス(3−ドデシルチオプロピオネート)(シーノックス412S:シプロ化成社製)0.4重量部を配合し、ブレンダーにてプレブレンドし、メルトブロー法により平均繊維径4μm、目付30g/m、フラジール法による通気度20cc/cm/sec、空隙率92%のメルトブロー不織布を得た。
得られた不織布を50mm×100mmの2枚の銅版に挟み、耐金属劣化性能試験を実施した。実施例1と比較し繊維径が細く劣化しやすいにもかかわらず形状の変化は無く色も乳白色から変化は観察されなかった。結果を表1に示す。
【0034】
(実施例4)
実施例1で得られたメルトブロー不織布原反をメタルロール・カレンダー機にてロール温度:130℃、加工速度:2m/min、線圧:100kg/cmにて圧縮加工を実施した。
この加工により、目付100g/m、フラジール通気度2cc/cm/sec、空隙率50%のメルトブロー不織布を得た。
得られた不織布を50mm×100mmの2枚の銅版に挟み、耐金属劣化性能試験を実施した。形状の変化は無く色も乳白色から茶褐色になっていた。結果を表1に示す。
【0035】
(実施例5)
実施例2で得られたメルトブロー不織布原反をメタルロール・カレンダー機にてロール温度:130℃、加工速度:2m/min、線圧:100kg/cmにて圧縮加工を実施した。この加工により、目付100g/m、フラジール通気度2cc/cm/sec、空隙率50%のメルトブロー不織布を得た。
得られた不織布を50mm×100mmの2枚の銅版に挟み、耐金属劣化性能試験を実施した。形状の変化は無く色も乳白色から変化は観察されなかった。結果を表1に示す。
【0036】
(比較例1)
プロピレン単独重合体(ボレアリス社製、MFR:400g/10分)100重量部に対して、フェノール系酸化防止剤としてテトラキス−[メチレン(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシヒドロ−シンナメート)]メタン(イルガノックス1010:チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)0.5重量部をブレンダーにてプレブレンドし、メルトブロー法により平均繊維径8μm、目付100g/m、フラジール通気度13cc/cm/sec、空隙率85%のメルトブロー不織布を得た。
得られた不織布を50mm×100mmの2枚の銅版に挟み、耐金属劣化性能試験を実施した。形状は溶融状態で維持されておらず色も茶褐色であった。結果を表1に示す。
【0037】
(比較例2)
比較例1で得られたメルトブロー不織布原反をメタルロール・カレンダー機にてロール温度:130℃、加工速度:2m/min、線圧:100kg/cmにて圧縮加工を実施した。この加工により、目付100g/m、フラジール通気度2cc/cm/sec、空隙率50%のメルトブロー不織布を得た。
得られた不織布を50mm×100mmの2枚の銅版に挟み、耐金属劣化性能試験を実施した。形状は溶融状態で維持されておらず色も茶褐色であった。結果を表1に示す。
【0038】
(比較例3)
プロピレン単独重合体(ボレアリス社製、MFR:400g/10分)100重量部に対して、フェノール系酸化防止剤としてテトラキス−[メチレン(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシヒドロ−シンナメート)]メタン(イルガノックス1010:チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)1重量部、金属不活性剤としてN,N’−ビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニル]ヒドラジン(イルガノックスMD1024:チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)3重量部、チオエーテル系酸化防止剤としてペンタエリスリトール−テトラキス(3−ドデシルチオプロピオネート)(シーノックス412S:シプロ化成社製)3重量部を配合し、ブレンダーにてプレブレンドし、メルトブロー法により不織布製造を試みた糸切れによるショットと呼ばれる樹脂の塊が大量に発生し目的とする不織布を得ることができなかった。結果を表1に示す。
【0039】
【表1】

【0040】
表1から明らかなように、本発明のポリプロピレン樹脂100重量部に対し、フェノール系酸化防止剤0.05〜3重量部及び耐金属劣化防止剤0.05〜3重量部を配合したプロピレン樹脂組成物からなるメルトブロー不織布は耐金属劣化性能があり(実施例1)、また、チオエーテル系酸化防止剤をフェノール系酸化防止剤と耐金属劣化防止剤の合計量の0.5〜1.5倍重量配合し、かつフェノール系酸化防止剤、耐金属劣化防止剤及びチオエーテル系酸化防止剤の合計量が6重量部以下を加えたポリプロピレン樹脂から得られたメルトブロー不織布は耐金属劣化性能に優れ(実施例2、3)、さらに、メルトブロー不織布をカレンダー加工により厚みを薄く均一化した加工品についても耐金属劣化性能が優れていた(実施例4及び5)。
一方、ポリプロピレン樹脂100重量部に対し、フェノール系酸化防止剤は配合されているが耐金属劣化防止剤が配合されていないプロピレン樹脂組成物からなるメルトブロー不織布は、耐金属劣化性能に劣り(比較例1及び2)、また、ポリプロピレン樹脂100重量部に対し、フェノール系酸化防止剤、耐金属劣化防止剤及びチオエーテル系酸化防止剤の配合量が6重量部を超える組成物から得られる不織布は、糸切れが多くショットと呼ばれる樹脂の塊が不織布中に点在しメルトブロー不織布として生産することが不可能であった(比較例3)。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明のポリプロピレンメルトブロー不織布は、耐金属劣化性が向上し、多くの産業分野に用いられ、特に液体フィルター、エアフィルター、バッテリーセパレータ等において金属と接する場所で用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリプロピレン樹脂100重量部に対し、フェノール系酸化防止剤0.05〜3重量部及び耐金属劣化防止剤0.05〜3重量部を配合したプロピレン樹脂組成物からなるポリプロピレンメルトブロー不織布であって、メルトブロー不織布が、繊維径0.8〜40μm、目付け5〜400g/m、フラジール法による通気度0.05〜400cc/cm/sec、空隙率30〜95%であることを特徴とする耐金属劣化性ポリプロピレンメルトブロー不織布。
【請求項2】
プロピレン樹脂組成物が、ポリプロピレン樹脂100重量部に対し、さらにチオエーテル系酸化防止剤をフェノール系酸化防止剤と耐金属劣化防止剤の合計量の0.5〜1.5倍重量を配合し、かつフェノール系酸化防止剤、耐金属劣化防止剤及びチオエーテル系酸化防止剤の合計量が6重量部以下であることを特徴とする請求項1に記載の耐金属劣化性ポリプロピレンメルトブロー不織布。
【請求項3】
ポリプロピレンメルトブロー不織布が、カレンダー加工により厚みが均一に加工された不織布であることを特徴とする請求項1又は2に記載の耐金属劣化性ポリプロピレンメルトブロー不織布。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の耐金属劣化性ポリプロピレンメルトブロー不織布を用いた液体フィルター。

【公開番号】特開2006−161235(P2006−161235A)
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−357615(P2004−357615)
【出願日】平成16年12月10日(2004.12.10)
【出願人】(597094215)タピルス株式会社 (4)
【Fターム(参考)】