説明

耐食アルミ導電性材料及びその製造方法

本発明は、アルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミニウム材の表面に導電性皮膜を形成せしめてなるアルミ導電性材料であって、導電性皮膜の欠陥が熱水処理又は水蒸気処理により実質的に封止されている耐食アルミ導電性材料であり、また、アルミニウム材の表面に導電性皮膜を形成せしめた後、熱水処理又は水蒸気処理により導電性皮膜の欠陥を実質的に封止する耐食アルミ導電性材料の製造方法である。本発明によれば、アルミニウム材の優れた特性を損なうことなく、その表面に形成した導電性皮膜に不可避的に生じる欠陥を実質的に封止し、たとえ導電性皮膜の膜厚が薄くても優れた耐食性を付与することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
この発明は、アルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミニウム材の表面に導電性皮膜を形成せしめてなるアルミ導電性材料及びその製造方法に係り、例えばリチウムイオン二次電池の電極、アルミ電解コンデンサの電極、飲料水の直接電気分解による塩素滅菌やアルカリイオン水、酸性水等の製造に用いられる水電解用電極、アルミ建材等の製造工程の電解処理(陽極酸化皮膜処理、電解着色処理、電気泳動塗装処理等)で用いられる電極等の多くの電極材料に有用な耐食性に優れた耐食アルミ導電性材料及びその製造方法に関する。
【背景技術】
例えば、アルミニウム材上の陽極酸化皮膜の電解着色処理等の電解処理で用いられる電極として、耐食性に優れた黒鉛製のカーボン電極が多用されている。しかしながら、カーボン電極は、一般に、比較的電気抵抗が高くて電解処理での電力ロスが大きく、また、加工性に乏しくて複雑な形状の電極や薄い箔状の電極を作成するのが困難であり、また、製造可能であっても製造コストが嵩み、しかも、リサイクル性にも乏しいという問題がある。
また、このような電極材料として、比較的電気抵抗が低くて電力ロスが少なく、軽量で加工性に優れ、しかも、リサイクル性にも優れたアルミニウム材を使用することが考えられるが、アルミニウム材は電気化学的に腐蝕し易くて耐食性に乏しく、例えば、陽極酸化皮膜処理においてその対極(陰極)としてアルミニウム材の板材や押出形材が用いられ、また、アルミ電解コンデンサにおいてその陰極箔としてエッチング処理されたアルミニウム箔が用いられているが、その用途は限られており、また、その耐用年数も陽極酸化皮膜処理の対極(陰極)で1〜3年程度、アルミ電解コンデンサの電極で5〜8年程度とその寿命が短いという問題がある。
そこで、アルミニウム材の表面に高導電性であって耐食性に優れたカーボン膜や金、銀等の貴金属皮膜等の導電性皮膜を形成せしめ、これによってアルミニウム材の有する優れた導電性、加工性、軽量性、リサイクル性等の特性を損なうことなく耐食性を付与することが考えられる。
しかしながら、このようにアルミニウム材の表面に導電性皮膜を形成せしめて電極材料とした場合には、その導電性皮膜が比較的薄い、例えば15μm以下、場合によっては5μm以下の場合には、ピンホールやクラック等の欠陥が不可避的に生じ、電解処理等の電極材料として用いた場合に素地のアルミニウム材が電解液中に露出し、アルミニウム材がこのような欠陥から腐蝕し始め、所望の耐食性が得られない場合があり、反対に、この導電性皮膜の膜厚を厚くしてこのような欠陥に基づく腐蝕の問題を解決しようとすると、製造コストが顕著に高くなり、また、重量が増加してアルミニウム材の軽量性等の特性を損なうことにもなる。
例えば、この種のアルミニウム材の表面に導電性皮膜を形成せしめてなる電極材料としては、アルミニウム等の導電性基板の表面に粒状電極物質を電着して形成した化学電池用電極(特開平5−94,821号公報)、アルミニウム等の集電体に活性炭を主体とする分極性電極材料を担持せしめた電気二重層キャパシタ用の正極材料(特開平9−55,342号公報)、アルミニウム等の導電性基板上に電気泳動電着により活性炭を主成分とする層を析出付着させた分極性電極(特開平9−74,052号公報)、アルミニウム等の集電体上にグラファイトやカーボンブラック等の導電層を配設してなり、更にその上に電極活物質等の合剤スラリーが配設されて形成される非水電解質二次電池とされる電極材料(特開平9−97,625号公報)、及びアルミニウム等のベース金属の上に金、白金等の貴金属をクラッドしたクラッド材からなる電気二重層キャパシタ用の電極材料(特開2002−373,830号公報)が知られている。
しかしながら、これらいずれの場合も、ピンホールやクラック等の欠陥のない電極材料を製造するためには、導電性基板や集電体の表面に必要以上に厚い導電性皮膜を形成しなければならず、上述したように、長期耐久性(長寿命性)を重視すると軽量化や低コスト化が犠牲になり、反対に、軽量化や低コスト化を重視すると長期耐久性(長寿命性)が犠牲になる等、長期耐久性(長寿命性)、軽量化及び低コスト化を必ずしも同時に満足できるものとはいえない。
そこで、本発明者らは、アルミニウム材の表面に導電性皮膜を形成せしめてなるアルミ導電性材料であって、アルミニウム材の優れた特性(導電性、加工性、軽量性、リサイクル性等)を損なうことなく、また、その導電性皮膜の膜厚が15μm以下、場合によっては5μm以下という薄膜であっても、ピンホールやクラック等の欠陥に基づく腐蝕の問題が可及的に解決されて優れた耐食性を有し、しかも、製造が容易で低コスト化を図ることができる耐食アルミ導電性材料について鋭意検討した結果、驚くべきことには、熱水処理又は水蒸気処理によりアルミニウム材の表面に不可避的に形成される導電性皮膜の欠陥が実質的に封止され、優れた耐食性を付与できることを見出し、本発明を完成した。
従って、本発明の目的は、アルミニウム材の優れた特性を損なうことなく、その表面に形成した導電性皮膜に不可避的に生じる欠陥を実質的に封止し、たとえ導電性皮膜の膜厚が薄くても優れた耐食性を有する耐食アルミ導電性材料を提供することにある。
また、本発明の他の目的は、このような耐食アルミ導電性材料を安価に製造するための方法を提供することにある。
【発明の開示】
すなわち、本発明は、アルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミニウム材の表面に導電性皮膜を形成せしめてなるアルミ導電性材料であり、導電性皮膜の欠陥が熱水処理又は水蒸気処理により実質的に封止されていることを特徴とする耐食アルミ導電性材料である。
また、本発明は、アルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミニウム材の表面に導電性皮膜を形成せしめてなるアルミ導電性材料の製造方法であり、アルミニウム材の表面に導電性皮膜を形成せしめた後、熱水処理又は水蒸気処理により導電性皮膜の欠陥を実質的に封止することを特徴とする耐食アルミ導電性材料の製造方法である。
本発明において、アルミニウム材としては、アルミニウム又はアルミニウム合金からなるものであって特に制限されるものではなく、例えば、高純度アルミニウム(JIS H4170;1N99)や、A1100、A5052、A6063等の種々のアルミニウム合金を用いて形成される板材、押出形材、箔材等を挙げることができるほか、例えば合成樹脂、セラミック、ガラス、アルミニウム以外の他の金属、紙、繊維等の種々の材質からなる基材の表面に、貼付け、蒸着、メッキ等の手段で薄膜状のアルミニウム材が設けられた複合アルミニウム材も挙げることができる。
また、本発明において、このようなアルミニウム材の表面に形成される導電性皮膜としては、それが導電性と耐食性を有し、また、熱水処理や水蒸気処理で用いられる熱水や水蒸気に対して高温耐水性を有するものであれば、どのような手段で形成されたどのような導電性物質の皮膜であってもよく、例えば、カーボン皮膜や、金(Au)、銀(Ag)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)等の貴金属皮膜や、銀、窒化クロム、白金族の複合酸化物あるいは炭化ホウ素とニッケルの複合物から選ばれた材料等の導電性皮膜、更には導電性塗料、導電性樹脂等を例示することができ、また、このような導電性皮膜をアルミニウム材の表面に形成する手段についても、特に制限はなく、例えば、湿式又は乾式メッキ処理、溶射処理、電気泳動処理、塗装処理等の種々の方法を例示することができる。
そして、上記導電性皮膜の膜厚については、特に制限されるものではないが、本発明の効果が顕著に発揮されるのは導電性皮膜の膜厚が比較的薄くてピンホールやクラック等の欠陥が不可避的に生じる場合であり、通常は15μm以下、好ましくは10μm以下、より好ましくは5μm以下である。この導電性皮膜の膜厚が15μmより厚くなると、導電性皮膜の膜厚に基づいてピンホールやクラック等の欠陥が少なくなるが、それだけ重量が嵩んでアルミニウム材の軽量性という特性が損なわれるほか、例えばカーボン皮膜や貴金属皮膜等の場合にはその製造コストが顕著に高くなり、工業的な生産には不向きである。
また、この導電性皮膜に不可避的に生じるピンホールやクラック等の欠陥については、その大きさが少なくとも水分子が入り込むことができる程度の大きさのものが本発明の熱水処理又は水蒸気処理による封止の対象になり、水分子が入り込むことができないような極微小な欠陥は、耐食性の観点からも重要ではなく、むしろ欠陥というには当たらない。
本発明においては、アルミニウム材の表面に導電性皮膜を形成せしめた後、得られたアルミ導電性材料に熱水処理又は水蒸気処理を施し、導電性皮膜に不可避的に存在するピンホールやクラック等の欠陥を実質的に完全に封止する。ここで、「実質的に封止する」とは、熱水処理又は水蒸気処理の際に、水分子が入り込むことができる程度以上の大きさを有するピンホールやクラック等の欠陥内に水分子が入り込み、素地のアルミニウム材の表面に達してアルミニウムと反応し、このアルミニウム材の表面に水和物を形成して実質的に欠陥を閉塞し、絶縁化することをいい、水分子が入り込むことができない極微小なピンホールやクラック等の欠陥は問題にしないという意味である。
また、本発明において、熱水処理又は水蒸気処理は、アルミニウム材の表面に導電性皮膜を形成せしめて得られたアルミ導電性材料を、通常70℃以上、好ましくは90℃以上の熱水中に浸漬し、又は、通常70℃以上、好ましくは100℃以上の水蒸気雰囲気中に晒し、常圧又は加圧下に通常5分以上保持し、導電性皮膜に存在するピンホールやクラック等の欠陥を介して露出するアルミニウム材の素地の表面にバイヤライト(Al・3HO)やベーマイト(Al・HO)のアルミニウム水和物を生成せしめ、このアルミニウム水和物により上記の導電性皮膜に存在するピンホールやクラック等の欠陥を封止し、アルミニウム材の素地を外部から絶縁する処理である。処理温度が70℃より低くなると、バイヤライトの生成が優先して所望の耐食性が得られない場合がある。
本発明において、上記熱水処理や水蒸気処理で用いる水については、好ましくは25℃でのpH値が3〜12、より好ましくは4〜9の範囲内であるのがよく、この水のpH値が3より低く、あるいは、12より高いと、アルミニウム水和物の生成反応と同時に起こるアルミニウムの溶解反応の反応速度が速くなり、アルミニウム水和物の生成が遅くなって好ましくない。
また、上記熱水処理で用いる水については、その燐酸イオン濃度が燐(P)として〔以下、燐酸イオン濃度(P)と示す〕25ppm以下、好ましくは10ppm以下であり、かつ、その珪酸イオン濃度が珪素(Si)として〔以下、珪酸イオン濃度(Si)と示す〕25ppm以下、好ましくは10ppm以下であるのがよい。使用する水の燐酸イオン濃度(P)が25ppmを超えると燐酸アルミニウムが生成して水和物の形成が抑制されるという問題が生じ、また、使用する水の珪酸イオン濃度(Si)が25ppmを超えた場合も、珪酸アルミニウムが生成して水和物の形成が抑制されるという問題が生じる。
本発明において、上記の熱水処理又は水蒸気処理後に得られたアルミ導電性材料は、必要により乾燥し、そのまま耐食性に優れた耐食アルミ導電性材料として、種々の電極材料の用途に用いられる。
本発明の耐食アルミ導電性材料は、アルミニウム材の優れた特性(導電性、加工性、軽量性、リサイクル性等)を損なうことなく、また、その導電性皮膜の膜厚が15μm以下、場合によっては5μm以下という薄膜であっても、この導電性皮膜に不可避的に生じるピンホールやクラック等の欠陥が実質的に封止されており、優れた耐食性を発揮する。
また、本発明の方法によれば、アルミニウム材の表面に導電性皮膜を形成せしめたアルミ導電性材料を熱水処理又は水蒸気処理に付すのみで容易に、かつ、安価に優れた耐食性を有する耐食アルミ導電性材料を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
以下、実施例及び比較例に基づいて、本発明の好適な実施の形態を具体的に説明する。
なお、以下の実施例及び比較例において、耐食性評価試験及び導電性評価試験並びに総合評価は次のようにして行った。
〔耐食性評価試験〕
測定対象の試料をpH3の酢酸水溶液中で白金対極に対向させて設置し、照合電極として銀塩化銀電極を用い、この照合電極を飽和塩化カリウム水溶液に浸漬し、飽和塩化カリウム水溶液と試料との間を塩橋で結び、試料、白金対極、及び銀塩化銀電極をポテンシオスタット(北斗電工社製の電気化学測定システムHZ−3000)に接続し、次いで試料の電位を銀塩化銀電極に対して自然電極電位から酸素発生電位までアノード側に走査し、その際に試料電極に流れた電流のピーク電流を測定し、これを分極電流(μA/cm)として評価した。
この分極電流の値による耐食性の評価については、分極電流の値が10μA/cmを超えると素地のアルミニウム材の溶出が起きており、耐食性に乏しいことになるので、優れた耐食性を有するというためには、分極電流の値が10μA/cm以下、好ましくは6μA/cm以下であり、特に電極材料として用いるためには5μA/cm以下、好ましくは3μA/cm以下であるのがよい。
〔導電性評価試験〕
接触プローブとして先端が4.5Rの半球状の鋼製棒を使用し、この接触プローブに100gfの荷重を与えて導電性皮膜の表面に静かに接触させ、次いでこの接触プローブと素地のアルミニウム材との間の電気抵抗を低抵抗計(日置電気社製の低抵抗計3540)により測定した。抵抗値が5Ω以下を導通ありとして50回測定し、導通ありと測定された回数により導電性を評価した。
この方法による導電性の評価は、導通ありと測定された回数が25/50より低いと抵抗大となる面積が多いことを意味することから導電性は低いということになる。優れた導電性を有するというためには、導通ありと測定された回数が30/50以上、好ましくは35/50以上であり、特に電極材料として用いるためには40/50以上、好ましくは45/50以上であるのがよい。
〔総合評価〕
上記の耐食性評価及び導電性評価を中心に、これらに加えて、密着性や経済性等の観点を加味し、本発明の耐食アルミ導電性材料を種々の電極材料に適用する場合を考慮し、○:耐食性、導電性、密着性及び経済性の4項目を満足する、△:耐食性及び導電性を含む3項目を、及び×:満足する項目が2項目以下である、の基準で総合的に評価した。
なお、密着性については、耐食性評価試験後の耐食アルミ導電性材料について、その導電性皮膜における剥離の有無により評価し、剥離無しの場合を「密着性を満足する」とし、剥離有りの場合を「密着性を満足しない」とした。
【実施例1】
板厚0.5mmのアルミニウム板(JIS H 4000;A5052)を脱脂処理し、次いでジンケート処理した後、電解ニッケルメッキ処理(電解Niメッキ処理)により表面に厚さ2μmのニッケルメッキ皮膜を形成せしめ、更に電解金メッキ処理(電解Auメッキ処理)をして厚さ1μmの金メッキ皮膜を形成せしめた。
次に、得られたメッキ処理後のアルミニウム板を100℃の熱水(pH:5.5、燐酸イオン濃度(P):2ppm、珪酸イオン濃度(Si):1ppm)中に30分間保持して熱水処理を行い、熱水中から引き上げて乾燥し、実施例1の耐食アルミニウム板(耐食アルミ導電性材料)を作製した。
得られた実施例1の耐食アルミニウム板から縦50mm×横50mmの大きさの試験片を切り出し、走査電位を0〜1000mV vs.Ag/AgClとして試験片の電位を銀塩化銀電極に対して分極し、そのピーク電流を分極電流として測定し、耐食性評価試験を行った。結果は5μA/cmであり、優れた耐食性を有することが確認された。
また、耐食性評価試験に用いた試験片を使用し、導電性評価試験を行った。結果は測定回数50回共に「導通あり」であり、優れた導電性を有することが確認された。
更に、上記の耐食性評価及び導電性評価の結果を基に、密着性と経済性を加味して総合評価を行った。結果は○であった。
以上の結果を表1に示す。
【実施例2】
平均粒径0.5μmのカーボンブラック10gとポリフッ化ビニリデン2gとを含む1−メチル−2−ピロリドン1L中に、実施例1と同様にして脱脂処理したアルミニウム板を陽極として、また、カーボン電極を陰極として配置し、これらの電極間に10Vの電圧を1分間印加してカーボン電気泳動を行い、アルミニウム板の表面に厚さ1μmのカーボン皮膜を形成せしめた。
次に、得られたカーボン電気泳動処理後のアルミニウム板を120℃の水蒸気中に30分間保持して水蒸気処理を行い、実施例2の耐食アルミニウム板(耐食アルミ導電性材料)を作製した。
得られた実施例2の耐食アルミニウム板について、上記実施例1と同様にして耐食性評価試験及び導電性評価試験並びに総合評価を行った。
結果を表1に示す。
【実施例3】
1−メチル−2−ピロリドン中に平均粒径0.5μmのカーボンブラックとポリフッ化ビニリデンとを1対1の割合で混合して塗布液を調製し、この塗布液を上記実施例1と同様にして脱脂処理したアルミニウム板の表面に塗布してカーボン塗装処理し、次いで200℃で2分間乾燥し、アルミニウム板の表面に厚さ1μmのカーボン含有皮膜を形成せしめた。
次に、得られたカーボン塗装処理後のアルミニウム板を120℃の水蒸気中に30分間保持して水蒸気処理を行い、実施例3の耐食アルミニウム板(耐食アルミ導電性材料)を作製した。
得られた実施例3の耐食アルミニウム板について、上記実施例1と同様にして耐食性評価試験及び導電性評価試験並びに総合評価を行った。
結果を表1に示す。
【実施例4】
上記実施例1と同様にして脱脂処理したアルミニウム板の表面に、メタンとエチレンとを1対3の割合で混合した混合ガスを0.15MPaの減圧下に導入し、グロー放電させてアルミニウム板の表面にカーボン皮膜を形成せしめるカーボンCVD処理を行い、アルミニウム板の表面に厚さ1μmのカーボン皮膜を形成せしめた。
次に、得られたカーボンCVD処理後のアルミニウム板を120℃の水蒸気中に30分間保持して水蒸気処理を行い、実施例4の耐食アルミニウム板(耐食アルミ導電性材料)を作製した。
得られた実施例4の耐食アルミニウム板について、上記実施例1と同様にして耐食性評価試験及び導電性評価試験並びに総合評価を行った。
結果を表1に示す。
【実施例5】
実施例1と同じアルミニウム板を脱脂処理し、次いで1×10−6Torrの減圧下に電子ビーム蒸着により10分間白金溶射処理を行い、厚さ3μmの白金皮膜を形成せしめた。
次に、得られた白金溶射処理後のアルミニウム板を100℃の熱水(pH:5.5、燐酸イオン濃度(P):2ppm、珪酸イオン濃度(Si):1ppm)中に30分間保持して熱水処理を行い、熱水中から引き上げて乾燥し、実施例5の耐食アルミニウム板(耐食アルミ導電性材料)を作製した。
得られた実施例5の耐食アルミニウム板について、上記実施例1と同様にして耐食性評価試験及び導電性評価試験並びに総合評価を行った。
結果を表1に示す。
【実施例6】
pH2であって100℃の熱水(燐酸イオン濃度(P):2ppm、珪酸イオン濃度(Si):1ppm)中に45分間保持して熱水処理を行った以外は、上記実施例1と同様にして実施例6の耐食アルミニウム板(耐食アルミ導電性材料)を調製し、上記実施例1と同様にして耐食性評価試験及び導電性評価試験並びに総合評価を行った。
結果を表1に示す。
【実施例7】
燐酸イオン濃度が燐として30ppmであって100℃の熱水(pH:2.5、珪酸イオン濃度(Si):1ppm)中に45分間保持して熱水処理を行った以外は、上記実施例1と同様にして実施例7の耐食アルミニウム板(耐食アルミ導電性材料)を調製し、上記実施例1と同様にして耐食性評価試験及び導電性評価試験並びに総合評価を行った。
結果を表1に示す。
【実施例8】
60℃の熱水(pH:5.5、燐酸イオン濃度(P):2ppm、珪酸イオン濃度(Si):1ppm)中に60分間保持して熱水処理を行った以外は、上記実施例5と同様にして実施例8の耐食アルミニウム板(耐食アルミ導電性材料)を調製し、上記実施例1と同様にして耐食性評価試験及び導電性評価試験並びに総合評価を行った。
結果を表1に示す。
〔比較例1〜4〕
上記実施例1〜4と同様にして得られたメッキ処理後、カーボン電気泳動処理後、カーボン塗装処理後、又はカーボンCVD処理後のアルミニウム板を、熱水処理又は水蒸気処理することなく、それぞれ比較例1〜4の耐食アルミニウム板(耐食アルミ導電性材料)とし、上記実施例1と同様にして耐食性評価試験及び導電性評価試験並びに総合評価を行った。
結果を表1に示す。
〔比較例5〕
電解Auメッキ処理により厚さ8μmの金メッキ皮膜を形成せしめ、熱水処理を行わなかった以外は、上記実施例1と同様にして比較例5の耐食アルミニウム板(耐食アルミ導電性材料)を作製し、上記実施例1と同様にして耐食性評価試験及び導電性評価試験並びに総合評価を行った。
結果を表1に示す。
【実施例9】
厚さ2μmの電解Niメッキ処理及び厚さ1μmの電解Auメッキ処理に代えて厚さ3μmの電解Niメッキ処理を行い、熱水処理に代えて120℃の水蒸気処理(燐酸イオン濃度(P):2ppm、珪酸イオン、濃度(Si):1ppm)を行った以外は、上記実施例1と同様にして実施例9の耐食アルミニウム板(耐食アルミ導電性材料)を作製した。
得られた実施例9の耐食アルミニウム板について、試料の電位を銀塩化銀電極に対して、自然電極電位から0mVまでアノード側に走査した以外は、上記実施例1と同様に耐食性評価試験及び導電性評価試験並びに総合評価を行った。
結果を表1に示す。
〔比較例6〕
120℃の水蒸気処理を行わなかった以外は、上記実施例9と同様にして比較例6の耐食アルミニウム板(耐食アルミ導電性材料)を作製し、実施例9と同様に耐食性評価試験及び導電性評価試験並びに総合評価を行った。
結果を表1に示す。

【産業上の利用可能性】
本発明は、アルミニウム材の表面に導電性皮膜を形成せしめてなるアルミ導電性材料であって、その導電性皮膜の膜厚が比較的薄くて不可避的に生じるピンホールやクラック等の欠陥に基づく腐蝕の問題を熱水処理又は水蒸気処理という簡単な方法で確実に解消できるものであり、アルミニウム材の優れた特性(導電性、加工性、軽量性、リサイクル性等)を損なうことなく、優れた耐食性を付与することができ、優れた導電性と耐食性とが要求される種々の電極材料等の多くの用途に有用であり、その工業的価値の高いものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミニウム材の表面に導電性皮膜を形成せしめてなるアルミ導電性材料であり、導電性皮膜の欠陥が熱水処理又は水蒸気処理により実質的に封止されていることを特徴とする耐食アルミ導電性材料。
【請求項2】
導電性皮膜は、メッキ処理、溶射処理、電気泳動処理、又は塗装処理のいずれかの方法で形成される請求項1に記載の耐食アルミ導電性材料。
【請求項3】
導電性皮膜は、その膜厚が5μm以下である請求項1又は2に記載の耐食アルミ導電性材料。
【請求項4】
熱水処理又は水蒸気処理は、70℃以上の水を用いて行なわれる請求項1〜3のいずれかに記載の耐食アルミ導電性材料。
【請求項5】
熱水処理又は水蒸気処理は、25℃でのpH値が3〜12の範囲内である水を用いて行なわれる請求項1〜4のいずれかに記載の耐食アルミ導電性材料。
【請求項6】
熱水処理は、燐酸イオン濃度が燐として25ppm以下であり、かつ、珪酸イオン濃度が珪素として25ppm以下である水を用いて行なわれる請求項1〜5のいずれかに記載の耐食アルミ導電性材料。
【請求項7】
アルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミニウム材の表面に導電性皮膜を形成せしめてなるアルミ導電性材料の製造方法であり、アルミニウム材の表面に導電性皮膜を形成せしめた後、熱水処理又は水蒸気処理により導電性皮膜の欠陥を実質的に封止することを特徴とする耐食アルミ導電性材料の製造方法。
【請求項8】
導電性皮膜は、メッキ処理、溶射処理、電気泳動処理、又は塗装処理のいずれかの方法で形成される請求項7に記載の耐食アルミ導電性材料の製造方法。
【請求項9】
導電性皮膜は、その膜厚が5μm以下である請求項7又は8に記載の耐食アルミ導電性材料の製造方法。
【請求項10】
熱水処理又は水蒸気処理は、70℃以上の水を用いて行なわれる請求項7〜9のいずれかに記載の耐食アルミ導電性材料の製造方法。
【請求項11】
熱水処理又は水蒸気処理は、25℃でのpH値が3〜12の範囲内である水を用いて行なわれる請求項7〜10のいずれかに記載の耐食アルミ導電性材料の製造方法。
【請求項12】
熱水処理は、燐酸イオン濃度が燐として25ppm以下であり、かつ、珪酸イオン濃度が珪素として25ppm以下である水を用いて行なわれる請求項7〜11のいずれかに記載の耐食アルミ導電性材料の製造方法。

【国際公開番号】WO2005/035829
【国際公開日】平成17年4月21日(2005.4.21)
【発行日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−509473(P2005−509473)
【国際出願番号】PCT/JP2003/013115
【国際出願日】平成15年10月14日(2003.10.14)
【出願人】(000004743)日本軽金属株式会社 (627)
【Fターム(参考)】