説明

耐食性、耐摩擦摩耗性および耐焼付き性に優れた軸受用Cu−Ni−Sn系銅基焼結合金

【課題】耐食性、耐摩擦摩耗性および耐焼付き性に優れたCu−Ni−Sn系銅基焼結合金を提供する。

【解決手段】Ni:10〜16%、Sn:11〜25%、C:3〜12%、フッ化カルシウム:0.3〜6%を含有し、さらに必要に応じてP:0.1〜0.9%を含有し、残部:Cuおよび不可避不純物からなる成分組成を有する耐食性、耐摩擦摩耗性および耐焼付き性に優れたCu−Ni−Sn系銅基焼結合金。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、耐食性、耐摩擦摩耗性および耐焼付き性に優れたCu−Ni−Sn系銅基焼結合金に関するものであり、この発明の耐食性、耐摩擦摩耗性および耐焼付き性に優れたCu−Ni−Sn系銅基焼結合金は、通常の回転運動するシャフトに対する軸受材として優れた特性を有し、特に350℃未満の温度範囲の高温環境下における回転運動をするシャフトの軸受材として優れた特性を有するものである。
【背景技術】
【0002】
従来からEGR式内燃機関の再循環排ガス流量制御弁を作動させるステンレス鋼製往復動シャフトの軸受など高温環境下で強度、耐摩擦摩耗性および耐焼付き性が要求される軸受材としてCu−Ni−Sn系銅基焼結合金が使用されており、このCu−Ni−Sn系銅基焼結合金からなる軸受材として、例えば、Ni:10〜30%、Sn:5〜12%、C:3〜10%を含有し、残りがCuと不可避不純物からなる組成、並びに素地に遊離黒鉛が分散分布した組織を有するCu−Ni−Sn系焼結合金からなる軸受材(例えば特許文献1参照)が知られており、さらに、Ni:10〜30%、Sn:5〜12%、C:3〜10%、P:0.1〜0.9%を含有し、残りがCuと不可避不純物からなる組成、並びに素地に遊離黒鉛が分散分布した組織を有するCu−Ni−Sn系焼結合金からなる軸受材(例えば特許文献2参照)が知られている。

さらに、このCu−Ni−Sn系銅基焼結合金からなる軸受材の摩擦係数を下げて潤滑性を一層向上させるために、二硫化モリブデンなどの固体潤滑剤を添加することも知られており、Cu−Ni−Sn系銅基焼結合金の潤滑性を高めるために含まれる二硫化モリブデンの量は通常1〜5%である。

【特許文献1】特開2004−68074号公報
【特許文献2】特開2006−63398号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】

前記Cu−Ni−Sn系銅基焼結合金からなる軸受材は、高温環境下における往復動シャフトに対して優れた強度、耐摩擦摩耗性および耐焼付き性を有するが、Ni含有量が少ないNi:10〜16%、Sn:5〜12%、C:3〜10%を含有し、さらに必要に応じてP:0.1〜0.9%を含有し、残りがCuと不可避不純物からなる組成並びに素地に遊離黒鉛が分散分布した組織を有するCu−Ni−Sn系焼結合金からなる軸受材は、高温環境下、特に350℃未満の高温環境下における耐食性が十分でなく、さらにシャフトの回転に対して焼付きが発生しやすく、また摩擦摩耗が激しいために寿命が短くなる。この発明は、かかる高温環境下における耐食性に優れ、さらに回転に長期間耐え得る軸受材となるCu−Ni−Sn系銅基焼結合金およびそのCu−Ni−Sn系銅基焼結合金からなる軸受材を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、Ni含有量の少ないCu−Ni−Sn系焼結合金であっても高温環境下、特に350℃未満の高温環境下における耐食性に優れかつシャフトの回転に耐えることができる耐摩擦摩耗性および耐焼付き性に優れた軸受材となるCu−Ni−Sn系焼結合金を得るべく研究を行った。
その結果、Sn含有量を増やしてSn:11〜25%とし、CおよびP含有量を従来と同じC:3〜12%、P:0.1〜0.9%を含有させて高温における耐食性を一層向上させ、さらに固体潤滑剤として、フッ化カルシウム:0.3〜6%含有せしめたCu−Ni−Sn系銅基焼結合金は、Ni含有量が10〜16%であるCu−Ni−Sn系銅基焼結合金であっても高温環境下、特に350℃未満の高温環境下における耐食性が改善され、さらにシャフトの回転に対して耐摩擦摩耗性および耐焼付き性に優れることから、長期間の使用に耐えることができる、という研究結果が得られたのである。
【0005】
この発明は、かかる研究結果に基づいてなされたものであって、

(1)質量%で、Ni:10〜16%、Sn:11〜25%、C:3〜12%、フッ化カルシウム:0.3〜6%を含有し、残部:Cuおよび不可避不純物からなる成分組成を有する耐食性、耐摩擦摩耗性および耐焼付き性に優れたCu−Ni−Sn系銅基焼結合金、

(2)質量%で、Ni:10〜16%、Sn:11〜25%、C:3〜12%、フッ化カルシウム:0.3〜6%を含有し、さらにP:0.1〜0.9%を含有し、残部:Cuおよび不可避不純物からなる成分組成を有する耐食性、耐摩擦摩耗性および耐焼付き性に優れたCu−Ni−Sn系銅基焼結合金、
(3)前記(1)または(2)記載の耐食性、耐摩擦摩耗性および耐焼付き性に優れたCu−Ni−Sn系銅基焼結合金からなる軸受材、に特徴を有するものである。
【0006】

前記(1)記載のこの発明の耐食性、耐摩擦摩耗性および耐焼付き性に優れたCu−Ni−Sn系銅基焼結合金を製造するには、原料粉末として、Ni:12〜25質量%を含有し、残部がCuおよび不可避不純物からなる成分組成のCu−Ni粉末、Sn粉末、黒鉛粉末およびフッ化カルシウム粉末を用意し、これら原料粉末を、Ni:10〜16%、Sn:11〜25%、C:3〜12%、フッ化カルシウム:0.3〜6%を含有し、残部:Cuおよび不可避不純物からなる成分組成を有するように配合し混合して混合粉末を作製し、この混合粉末を圧縮成形して得られた圧粉体を温度:700〜950℃で燒結した後、得られた焼結体をただちに冷却速度:15℃/分以上で急冷することにより得られる。
【0007】

さらに、前記(2)記載のこの発明の耐食性、耐摩擦摩耗性および耐焼付き性に優れたCu−Ni−Sn系銅基焼結合金を製造するには、原料粉末として、Ni:15〜42.5質量%を含有し、残部がCuおよび不可避不純物からなる成分組成のCu−Ni粉末、Sn粉末、黒鉛粉末およびフッ化カルシウム粉末を用意し、さらにP:8質量%を含有し、残部がCuおよび不可避不純物からなる成分組成のCu−P合金粉末を用意し、これら原料粉末を、Ni:10〜16%、Sn:11〜25%、C:3〜12%、フッ化カルシウム:0.3〜6%を含有し、さらにP:0.1〜0.9%を含有し、残部:Cuおよび不可避不純物からなる成分組成を有するように配合し混合して混合粉末を作製し、この混合粉末を圧縮成形して得られた圧粉体を温度:700〜950℃で燒結した後、得られた焼結体をただちに冷却速度:15℃/分以上で急冷することにより得られる。
【0008】

このようにして得られた耐食性、耐摩擦摩耗性および耐焼付き性に優れたCu−Ni−Sn系銅基焼結合金は、素地に気孔率:5〜25%の割合で気孔が分散分布し、さらに素地中に遊離黒鉛およびフッ化カルシウム粒子が分散分布している組織を有している。そして、この発明の耐食性、耐摩擦摩耗性および耐焼付き性に優れたCu−Ni−Sn系銅基焼結合金で作製した軸受は、特にステンレス鋼と熱膨張率が近いことから、高温環境下におけるステンレス鋼シャフトの回転に対して優れた特性を示す。
【0009】
つぎに、この発明の耐食性、耐摩擦摩耗性および耐焼付き性に優れたCu−Ni−Sn系銅基焼結合金の成分組成を上記の通りに限定した理由を説明する。
(イ)NiおよびSn

Ni含有量が10〜16%の低い範囲で含むCu−Ni−Sn系銅基焼結合金は、高温環境下、特に350℃未満の高温環境下における耐食性が低下するが、Snを耐量に含有させることにより耐食性が改善する。しかし、その含有量が11%未満では所望の耐食性向上効果が得られず、一方その含有量が25%を越えると相手材であるステンレス鋼・シャフトに対する攻撃性が急激に増大し、ステンレス鋼・シャフトの摩耗が促進されるようになることから、Snの含有量を11〜25%と定めた。
【0010】
(ロ)C
C成分は、主体が素地に分散分布する遊離黒鉛として存在し、軸受の潤滑性を向上させ、もって軸受およびステンレス鋼・シャフトの耐摩耗性向上に寄与する作用をもつが、その含有量が3%未満では遊離黒鉛の分散分布割合が不十分で、所望のすぐれた潤滑性を確保することができず、一方その含有量が12%を越えると、軸受の耐食性が急激に低下し、摩耗が急激に進行するようになることから、その含有量を3〜12%と定めた。
【0011】

(ハ)フッ化カルシウム

フッ化カルシウムは耐焼付き性を著しく向上させる作用があるが、その含有量が0.3%未満では所望の効果が得られず、一方、6%を越えて含有すると、耐食性が低下し、さらに耐食性、耐摩擦摩耗性が低下するようになるので好ましくない。したがって、フッ化カルシウムの含有量を0.3〜6%に定めた。
【0012】

(ニ)P
P成分は、焼結時に焼結性を向上させ、もって素地の耐食性、すなわち軸受けの耐食性を向上させる作用があるので必要に応じて含有させるが、Pの含有量が0.1%未満では十分な焼結性を発揮させることができないことから十分な耐食性が得られないので好ましくなく、一方、0.9%を越えて含有させると、粒界部の耐食性が急激に低下するので焼結合金の耐食性がかえって低下するようになるので好ましくない。したがって、P成分の含有量を0.1〜0.9%に定めた。
【発明の効果】
【0013】
前記(1)および(2)記載のこの発明の耐食性、耐摩擦摩耗性および耐焼付き性に優れたCu−Ni−Sn系銅基焼結合金は、各種電気部品および機械部品の軸受材、特に含油軸受材としてすぐれた耐食性、耐摩擦摩耗性および高耐食性を発揮するものであるが、特に高温環境下における回転数の多いシャフトの軸受材として使用することが有効である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
この発明の耐食性、耐摩擦摩耗性および耐焼付き性に優れたCu−Ni−Sn系銅基焼結合金を実施例により具体的に説明する。
原料粉末として、平均粒径:150μm以下でNi:12〜25質量%を含有し、残部がCuおよび不可避不純物からなる成分組成のアトマイズCu−Ni粉末、平均粒径:20μmのアトマイズSn粉末、平均粒径:60μmのCaF粉末、平均粒径:150μm以下のCu−P合金(Cu−8.4%P共晶合金)粉末、平均粒径:20μmの黒鉛粉末、平均粒径:150μm以下のMoS粉末を用意した。
【0015】

先に用意したこれら原料粉末を表1〜2に示される最終成分組成となるように配合し、ステアリン酸を1%加えてV型混合機で20分間混合した後、プレス成形して圧粉体を作製し、この圧粉体をアンモニア分解ガス雰囲気中、温度:700〜950℃の範囲内の所定の温度で焼結することによりいずれも外径:18mm×内径:8mm×高さ:8mmの寸法を有し、表1〜2に示される成分組成および気孔率を有する本発明Cu−Ni−Sn系銅基焼結合金1〜20、比較Cu−Ni−Sn系銅基焼結合金1〜6および従来Cu−Ni−Sn系銅基焼結合金1〜2からなるリング状試験片を作製した。
得られた上記の本発明Cu−Ni−Sn系銅基焼結合金1〜20、比較Cu−Ni−Sn系銅基焼結合金1〜6および従来Cu−Ni−Sn系銅基焼結合金1〜2からなるリング状試験片、並びにこれらリング状試験片に合成油を含浸せしめた本発明Cu−Ni−Sn系銅基焼結合金1〜20、比較Cu−Ni−Sn系銅基焼結合金1〜6および従来Cu−Ni−Sn系銅基焼結合金1〜2からなるリング状試験片を用いて下記の試験を行った。
【0016】
耐食性試験:
本発明Cu−Ni−Sn系銅基焼結合金1〜20、比較Cu−Ni−Sn系銅基焼結合金1〜6および従来Cu−Ni−Sn系銅基焼結合金1〜2からなるリング状試験片の質量を測定し、その後、これらリング状試験片を120℃に加熱し、この加熱されたリング状試験片をPH1.8に調整した酸溶液に24時間浸漬する加熱・浸漬操作を10回繰り返す試験を行なったのち、試験後のリング状試験片の質量を測定し、試験前後の質量変化率を求めてこれを表1〜2に示すことにより耐食性を評価した。
【0017】
耐摩耗性試験:
合成油を含浸せしめた本発明Cu−Ni−Sn系銅基焼結合金1〜20、比較Cu−Ni−Sn系銅基焼結合金1〜6および従来Cu−Ni−Sn系銅基焼結合金からなるリング状試験片にSUS304の6S仕上げのシャフトを挿入し、本発明Cu−Ni−Sn系銅基焼結合金1〜20、比較Cu−Ni−Sn系銅基焼結合金1〜6および従来Cu−Ni−Sn系銅基焼結合金からなるリング状試験片の半径方向(シャフトの軸方向に対して直角方向)に荷重:0.2MPaを前記リング状試験片の外側からかけながら前記リング状試験片を120℃になるように加熱制御し、前記シャフトを50m/minで30分間回転させる試験を実施し、試験後の試験片の内径の最大摩耗深さを測定し、その結果を表1〜2に示すことにより耐食性、耐摩擦摩耗性を評価した。
【0018】
耐焼付き性試験:

合成油を含浸せしめた本発明Cu−Ni−Sn系銅基焼結合金1〜20、比較Cu−Ni−Sn系銅基焼結合金1〜6および従来Cu−Ni−Sn系銅基焼結合金1〜2からなるリング状試験片にSUS304の6S仕上げのシャフトを挿入し、本発明Cu−Ni−Sn系銅基焼結合金1〜20、比較Cu−Ni−Sn系銅基焼結合金1〜6および従来Cu−Ni−Sn系銅基焼結合金1〜2からなるリング状試験片を温度:120℃に保持し、リング状試験片の半径方向(シャフトの軸方向に対して直角方向)に荷重をかけながら前記シャフトを50m/minで30分間回転させ、前記荷重を段階的に増加させ、焼付きが発生したときの荷重を焼付き荷重として測定し、その結果を表1〜2に示すことにより耐焼付き性を評価した。
【0019】
【表1】

【0020】
【表2】

【0021】
表1〜2に示される結果から、本発明Cu−Ni−Sn系銅基焼結合金1〜20からなるリング状試験片はいずれも従来Cu−Ni−Sn系銅基焼結合金1〜2からなるリング状試験片に比べて優れた耐食性を有し、さらに最大摩耗深さおよび焼付き荷重が小さいことから優れた耐食性、耐摩擦摩耗性および耐焼付き性を有することが分かる。しかし、この発明の範囲から外れた成分組成を有する比較Cu−Ni−Sn系銅基焼結合金1〜6からなるリング状試験片は耐食性、耐摩擦摩耗性および耐焼付き性のうちの少なくともいずれかの特性が劣ることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、Ni:10〜16%、Sn:11〜25%、C:3〜12%、フッ化カルシウム:0.3〜6%を含有し、残部:Cuおよび不可避不純物からなる成分組成を有することを特徴とする耐食性、耐摩擦摩耗性および耐焼付き性に優れたCu−Ni−Sn系銅基焼結合金。
【請求項2】
質量%で、Ni:10〜16%、Sn:11〜25%、C:3〜12%、フッ化カルシウム:0.3〜6%を含有し、さらにP:0.1〜0.9%を含有し、残部:Cuおよび不可避不純物からなる成分組成を有することを特徴とする耐食性、耐摩擦摩耗性および耐焼付き性に優れたCu−Ni−Sn系銅基焼結合金。
【請求項3】
請求項1または2記載の耐食性、耐摩擦摩耗性および耐焼付き性に優れたCu−Ni−Sn系銅基焼結合金からなる軸受材。

【公開番号】特開2008−7795(P2008−7795A)
【公開日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−176253(P2006−176253)
【出願日】平成18年6月27日(2006.6.27)
【出願人】(306000315)三菱マテリアルPMG株式会社 (130)
【Fターム(参考)】