説明

耐食性に優れたアルミニウム合金材およびプレート式熱交換器

【課題】耐食性が優れたアルミニウム合金材およびプレート式熱交換器を提供することを課題とする。
【解決手段】表面が1〜20μmの平均厚みで陽極酸化処理されたアルミニウム合金で成る母材と、アルミニウム合金で成る母材の表面に形成された有機ホスホン酸下地皮膜と、有機ホスホン酸下地皮膜の表面に形成された乾燥後の平均厚みが1〜100μmのフッ素樹脂塗料皮膜よりなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐食性に優れたアルミニウム合金材と、このアルミニウム合金材を海水などの腐食性を有する流体を媒体とする伝熱部に用いたプレート式熱交換器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム(Al)合金は比強度が高く、且つ、熱伝導性が高いために、小型で軽量な熱交換器の材料として汎用されている。アルミニウム合金材を用いた熱交換器としては、家庭用のエアコンや自動車のラジエータなどに用いられるフィンアンドチューブ式の熱交換器が代表的である。これに対して、海水を冷却水とする工業的な一過式の熱交換器には、現在チタン(Ti)が主に使用されているが、より経済的なアルミニウム合金材を用いることが検討されている。
【0003】
このような海水を冷却水とする伝熱部を有する一過式の熱交換器として、プレート式熱交換器が知られており、海水環境での使用に際して厳しい腐食環境に曝される。このため、現在は耐食性に優れたチタンが使用されている。素材としてのアルミニウム合金材の耐食性は高いものの、チタンほどの耐食性はなく、このような一過性の熱交換器に、チタンの代替としてアルミニウム合金を用いる場合には、更に十分な防食対策が必要になる。
【0004】
通常、この種のプレート式熱交換器のアルミニウム合金材の防食手段としては、陽極酸化皮膜の形成によるもののほかに、電気防食、塗料による塗膜形成などの手段が用いられており、また、熱交換器に適用する場合には、冷却水中にインヒビターを添加するなどの手段も利用されている。
【0005】
しかし、プレート式熱交換器は一過式(一過性)であり、冷却水が装置内を通過した後に系外に排水され、冷却水の循環使用が行われないので、冷却水中にインヒビターを添加する防食対策は不適切であり、経済的には、塗膜形成による防食対策が適している。
【0006】
一方で、熱交換器用のアルミニウム合金材に対する塗膜として、無機系、有機系、有機−無機ハイブリット系などの種々のタイプの塗膜が提案され、実際に利用されている。そのような熱交換器の塗膜形成手段として、例えば、特許文献1、2、3、非特許文献1などが提案されている。
【0007】
特許文献1には、本発明が対象とする、海水などを冷媒として使用するプレート式熱交換器ではなく、家庭用のエアコンや自動車のラジエータなどに用いられるフィンアンドチューブ式の熱交換器のアルミニウム合金材に対してではあるが、ポリアニン塗膜を形成することが開示されている。
【0008】
特許文献2には、特許文献1と同じく、家庭用のエアコンや自動車のラジエータなどに用いられるフィンアンドチューブ式の熱交換器のアルミニウム合金材に対してベーマイト処理皮膜や珪酸塩処理皮膜を複合下地として、塗膜を形成し、密着性を向上させることが開示されている。
【0009】
また、非特許文献1には、一過式の熱交換器に対する防食塗膜として三フッ化樹脂が自己修復性を有することが開示されている。
【0010】
更には、特許文献3には、この三フッ化樹脂防食塗膜の改良として、亜鉛、チタン、マンガン、アルミニウム、及びニオブから選ばれた1種又は2種以上を0.1〜10vol%を含有する三フッ化樹脂からなる自己修復性アルミニウム合金防食塗膜が提案されている。これは、海水を冷却媒体として利用する熱交換器にあっては、熱交換器表面が傷つきやすく、一旦熱交換器表面に傷が入ると海水による激しい腐食作用によりその傷が急激に拡大する傾向にあることへの対策である。すなわち、上記金属の粉末を含有する三フッ化樹脂防食塗膜は、塗膜に傷がついても、これを修復する自己修復性を有するとしているものである。
【0011】
【特許文献1】特開2003−88748号公報
【特許文献2】特開2004−42482号公報
【特許文献3】特開2006−169561号公報
【非特許文献1】矢吹彰広、山上広義、大脇武史、足立清美、野一式公二、「アルミニウム合金用防食塗膜の自己修復性能」、材料と環境研究発表会講演集、2004年、3−4
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
前記した特許文献1記載のポリアニン塗膜を、家庭用のエアコンや自動車のラジエータなどに用いられるフィンアンドチューブ式の熱交換器の塗膜に用いれば、耐食性が十分に向上すると考えられる。しかしながら、本発明が対象とする海水を冷却媒体として使用するプレート式熱交換器の塗膜として用いることは、海水などの塩水環境下での耐食性、塗膜密着性といった海水耐食性での問題がある。
【0013】
これに対して、前記した特許文献3や非特許文献1記載の三フッ化樹脂防食塗膜(フッ素樹脂塗料皮膜)は、塗膜自体としては、特許文献1記載のポリアニン塗膜や、陽極酸化皮膜や、他の塗膜などの防食手段に比して、優れた海水耐食性を有する。しかし、本発明が対象とする海水を冷却媒体として使用するプレート式熱交換器の塗膜として用いた場合は、長期の使用に際してのアルミニウム合金材に対する密着性が劣化して、信頼性に欠けるという問題がある。
【0014】
このような、本発明が対象とする海水を冷却媒体として使用するプレート式熱交換器における、長期使用時における塗膜の密着性劣化の問題、すなわち塗膜の耐久性の問題は、前記した特許文献2に記載の、家庭用エアコンや自動車のラジエータなどに用いられる熱交換器を対象にした下地処理でも同様に生じる。但し、これら家庭用エアコンや自動車のラジエータなどに用いられるフィンアンドチューブ式の熱交換器などは、その製品寿命が長くても十数年程度であり、それに併せ、要求される耐食性寿命も長くても十数年程度の比較的短期間である。
【0015】
これに対して、天然液化ガスの気化器など、海水を冷却水とするプレート式熱交換器は、工業的に工場内で用いられて、設備自体が大規模で高額になる。そのため、熱交換器の寿命や耐食性寿命も数十年程度の半永久的な寿命が求められる。
【0016】
このように、海水を冷却水とするプレート式熱交換器の耐食性については、長寿命が求められるため、塗膜自体の耐食性以上に、塗膜のアルミニウム合金材に対する密着性が重要な要素となる。
【0017】
この点で、前記した特許文献3や非特許文献1に記載されたような、三フッ化樹脂防食塗膜(フッ素樹脂塗料皮膜)を直接設けるような防食方法では、アルミニウム合金材に対する密着性が劣り、海水使用下での耐食性を実質的に向上することはできない可能性が非常に高くなるという問題がある。
【0018】
本発明は、上記従来の問題を解消せんとしてなされたもので、フッ素樹脂塗料皮膜のアルミニウム合金材に対する密着性、すなわち耐食性が優れたアルミニウム合金材およびプレート式熱交換器を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
請求項1記載の発明は、表面が1〜20μmの平均厚みで陽極酸化処理されたアルミニウム合金で成る母材と、前記アルミニウム合金で成る母材の表面に形成された有機ホスホン酸下地皮膜と、前記有機ホスホン酸下地皮膜の表面に形成された乾燥後の平均厚みが1〜100μmのフッ素樹脂塗料皮膜よりなることを特徴とする耐食性に優れたアルミニウム合金材である。
【0020】
請求項2記載の発明は、前記フッ素樹脂塗料皮膜を構成するフッ素樹脂が、三フッ化樹脂である請求項1記載の耐食性に優れたアルミニウム合金材である。
【0021】
請求項3記載の発明は、前記三フッ化樹脂が、クロロトリフルオロエチレン/ビニルエーテル共重合体であり、前記フッ素樹脂塗料が、前記クロロトリフルオロエチレン/ビニルエーテル共重合体をイソシアネートで架橋したものである請求項2記載の耐食性に優れたアルミニウム合金材である。
【0022】
請求項4記載の発明は、前記フッ素樹脂塗料皮膜が、金属粉を含まない請求項1乃至3のいずれかに記載の耐食性に優れたアルミニウム合金材である。
【0023】
請求項5記載の発明は、前記有機ホスホン酸下地皮膜が、メチルホスホン酸、エチルホスホン酸、ビニルホスホン酸のうちから選択される有機ホスホン酸からなる請求項1乃至4のいずれかに記載の耐食性に優れたアルミニウム合金材である。
【0024】
請求項6記載の発明は、請求項1乃至5のいずれかに記載のアルミニウム合金材であって、腐食性を有する流体を媒体とするプレート式熱交換器用である耐食性に優れたアルミニウム合金材である。
【0025】
請求項7記載の発明は、請求項1乃至5のいずれかに記載のアルミニウム合金材を、腐食性を有する流体を媒体とする伝熱部に用いたことを特徴とする耐食性に優れたプレート式熱交換器である。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、フッ素樹脂塗料皮膜のアルミニウム合金材に対する密着性が優れ、塗膜剥離が抑制されたアルミニウム合金材、そして、このアルミニウム合金材を、海水を冷却水とする伝熱部に用いたプレート式熱交換器を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明を実施形態に基づいて更に詳細に説明する。
【0028】
(フッ素樹脂塗料皮膜)
フッ素樹脂塗料皮膜の膜厚、すなわち平均厚みは1〜100μmの範囲とする。フッ素樹脂塗料皮膜の平均厚みが1μm未満であると、塗膜の耐食性が低下する。逆に平均厚みが100μm超であると、アルミニウムが持つ高い熱伝導性を低下させ、結果的に熱交換器の熱交換性能が低下する。また、却って塗膜の密着性、すなわち耐食性が低下する。従って、フッ素樹脂塗料皮膜の平均厚みは1〜100μmの範囲とする。
【0029】
フッ素樹脂塗料皮膜の平均厚みの求め方は、アルミニウム合金で成る母材の表面に、後述する有機ホスホン酸下地皮膜を介して形成したフッ素樹脂塗料皮膜を十分に乾燥させた後、50倍程度の光学顕微鏡により適当な試料箇所10箇所について、断面観察して厚みを測定し、得られた測定値を平均化することにより求め出した。
【0030】
尚、本発明では、特許文献3に記載されたような、亜鉛、チタン、マンガン、アルミニウム、ニオブなどの金属粉は含まない。これら以外の金属を含め、金属粉がフッ素樹脂塗料中に混入した場合には、塗膜中でこれらの金属が酸化して酸化物が生成するため、塗膜の密着性が劣化する。
【0031】
(フッ素樹脂の種類)
フッ素樹脂塗料に用いるフッ素樹脂には、三フッ化樹脂や四フッ化樹脂などがある。これらフッ素樹脂の中でも、後述する有機ホスホン酸下地皮膜との密着性が最も高く、耐食性が最も高い三フッ化樹脂を用いることが好ましい。三フッ化樹脂は、臭気が比較的低い低極性溶剤に溶けやすく作業性などの面からも好ましい。尚、これら三フッ化樹脂や四フッ化樹脂などは、モノマー、オリゴマーを有するものを用いることができる。
【0032】
三フッ化樹脂のモノマー、オリゴマーは、エチレン基の4個のH(水素)のうち3個をF(フッ素)で置換した三フッ化エチレンを、ビニルエーテル、アクリル、ビニルエステルなどと共重合体化させたものである。また、四フッ化樹脂のモノマー、オリゴマーは、エチレン基の4個のH(水素)の全てをF(フッ素)で置換した四フッ化エチレンを、ビニルエーテル、アクリル、ビニルエステルなどの共重合物と共重合体化させたものである。
【0033】
三フッ化樹脂としては、三フッ化タイプのクロロトリフルオロエチレン(CTFE)/ビニルエーテル共重合体、三フッ化タイプのクロロフルオロエチレン/アクリル共重合体などを例示することができる。
【0034】
(フッ素樹脂塗料)
本発明に用いるフッ素樹脂塗料は、これらの三フッ化樹脂のモノマー、オリゴマーを、イソシアネートやシロキサンなどの硬化剤により、イソシアネート基(−N=C=O)やシロキサン基で架橋したものである。
【0035】
本発明では、これら三フッ化樹脂のうちでも、クロロトリフルオロエチレン/ビニルエーテル共重合体を、イソシアネートやシロキサンなどの硬化剤により架橋したフッ素樹脂塗料が、有機ホスホン酸下地皮膜との密着性が最も高く好ましい。
【0036】
本発明に用いるフッ素樹脂塗料は、三フッ化樹脂のモノマー、オリゴマーの主剤に対して、イソシアネートやシロキサンなどの硬化剤を加えて調整する。例を挙げれば、質量比で、主剤10〜15部に対して、硬化剤0.1〜3部を混合し、これに必要に応じてシンナーを用いて希釈して塗液とする。
【0037】
(有機ホスホン酸下地皮膜)
本発明では、海水使用下での耐食性を向上できるフッ素樹脂塗料皮膜の、アルミニウム合金で成る母材との密着性を向上させるために、フッ素樹脂塗料の塗装下地として、リン酸系の有機ホスホン酸下地皮膜を選択する。
【0038】
有機ホスホン酸下地皮膜と同様のリン酸系であっても、無機リン酸、リン酸亜鉛などのリン酸塩、他の有機リン酸などのリン酸は、クロメート処理、ベーマイト処理などの他の汎用塗装下地処理と同様に、フッ素樹脂塗料皮膜の、アルミニウム合金で成る母材に対する実用的な密着性向上効果がないので採用しない。
【0039】
有機ホスホン酸は、リン酸原子に水酸基が2つ結合した無置換の化合物である。有機ホスホン酸としては、メチルホスホン酸:CHP(=O)(OH)、エチルホスホン酸:CP(=O)(OH)、ビニルホスホン酸:CP(=O)(OH)、オクチルホスホン酸:C17P(=O)(OH)、フェニルホスホン酸:CP(=O)(OH)などを例示することができる。
【0040】
これら有機ホスホン酸のうち、取り扱いのしやすさや、密着性向上効果の優位性からすると、有機ホスホン酸下地皮膜は、メチルホスホン酸、エチルホスホン酸、ビニルホスホン酸のうちから選択される1種または2種以上の有機ホスホン酸からなることが好ましい。
【0041】
これら有機ホスホン酸は、先に示したようにOH基を2個有している。これら2個のOH基が、後述するアルミニウム合金で成る母材表面の陽極酸化処理層(Al)のAlやOと各々結合する。この結合は共有結合であり、イオン結合、ファンデルワールス結合、水素結合などの他の様々な結合状態と比較して非常に強固な結合となる。また、前記したフッ素樹脂の炭化水素成分やC−O成分は、硬化剤による架橋時に有機ホスホン酸中の有機成分とも共有結合し、非常に強固な結合となる。その結果、有機ホスホン酸下地皮膜を介して、フッ素樹脂塗料皮膜は、アルミニウム合金で成る母材の陽極酸化処理層上に強固に結合することとなり、塗膜の密着性が著しく向上する。
【0042】
有機ホスホン酸下地皮膜の形成手段は特に限定しないが、塗膜密着性に影響する下地皮膜形成の均一性を考慮すると、直接塗布することなどにより形成することより、有機ホスホン酸水溶液に浸漬することにより形成することの方が好ましい。
【0043】
また、有機ホスホン酸下地皮膜の膜厚は特に規定しない。上記下地皮膜形成手段によっては、有機ホスホン酸下地皮膜を、μmオーダーの単位で厚くすることは不可能で、また不必要である。上記公知の下地皮膜形成手段では、数Å(オングストローム)〜数十Å程度の膜厚の有機ホスホン酸下地皮膜しか形成できず、また、この程度の膜厚で十分な密着性向上効果を発揮することができる。
【0044】
この有機ホスホン酸下地皮膜の膜厚よりも、むしろ下地皮膜の膜厚の均一性の方が重要である。この面から、有機ホスホン酸水溶液に浸漬することにより有機ホスホン酸下地皮膜を形成することは好ましく、その浸漬条件は、以下の通りの浸漬条件とすることが更に好ましい。その浸漬条件は、水溶液の有機ホスホン酸濃度を0.01〜100g/リットル、水溶液の温度を50〜100℃、浸漬時間を1〜120秒とすることである。
【0045】
水溶液の有機ホスホン酸濃度が0.01g/リットル未満であったり、水溶液の温度が50℃未満であったり、浸漬時間が1秒未満であったりすると、有機ホスホン酸下地皮膜の膜厚が不均一となり、塗膜の密着性が低下する可能性が高くなる。一方、水溶液の有機ホスホン酸濃度が100g/リットル超であったり、水溶液の温度が100℃超であったり、浸漬時間が120秒超であったりしても、有機ホスホン酸下地皮膜の膜厚が不均一となり、塗膜の密着性が低下する可能性が高くなる。従って、有機ホスホン酸水溶液に浸漬することにより有機ホスホン酸下地皮膜を形成する場合は、前記した浸漬条件の範囲内で行うことが好ましい。
【0046】
(陽極酸化処理)
アルミニウム合金で成る母材の表面には、有機ホスホン酸下地皮膜やフッ素樹脂塗料皮膜を更に密着性良く形成させるために、陽極酸化処理が行われる。まず、陽極酸化処理を行う前に、アルミニウム合金で成る母材を超音波洗浄し、汚れの除去等を行う。
【0047】
陽極酸化処理は、アルミニウム合金で成る母材を陽極として電解液に浸漬し、電気分解することにより、母材の表面に1〜20μmの平均厚みで陽極酸化処理層を形成する。電解液としては、硫酸、シュウ酸、硫酸とシュウ酸の混酸等を用いることができる。
【0048】
陽極酸化処理層の平均厚みが1μm未満であると、塗膜の密着耐久性に劣り、結果的に所望の耐食性が得られない。逆に陽極酸化処理層の平均厚みが20μm超であると、密着耐久性に優れるが、熱交換性能が低下し、熱交換器としての実用性が問題となる。従って、陽極酸化処理層の平均厚みは1〜20μmの範囲とする。
【0049】
陽極酸化処理層の厚みを調整するには、陽極酸化処理時の電流、電圧、時間を調整することにより調整することができる。特に処理時間を調整することが陽極酸化処理層の厚みを調整するには有効であり、例えば、陽極酸化処理層の厚みを5μmとするには15分間の陽極酸化処理を行えば良く、陽極酸化処理層の厚みを20μmとするには50分間の陽極酸化処理を行えば良い。
【0050】
尚、陽極酸化処理層の平均厚みの求め方は、アルミニウム合金で成る母材の表面に陽極酸化処理層を形成した後、走査型電子顕微鏡により適当な試料箇所10箇所について、断面観察して陽極酸化処理層の厚みを測定し、得られた測定値を平均化することにより求め出した。
【0051】
(アルミニウム合金で成る母材)
適用されるアルミニウム合金で成る母材は、プレートに加工や成形しやすいものであれば良い。アルミニウム合金の種類とすれば、JISやAA規格に規定される1000、3000、5000、6000、7000系のアルミニウム合金の板および条、或いは押出形材などが適宜適用できる。より具体的には、3003や5052などが好適に使用されている。
【0052】
(その他)
尚、以上の説明では、本発明の用途を、海水を媒体とする熱交換器に適用した実施形態に基づいて説明したが、腐食性を有する流体であれば、例えば、カルシウムイオン、マグネシウムイオンを多量に含む工業用水や、炭酸水素イオン、塩素イオン、硫黄イオン、鉄イオン、ナトリウムイオン、メタケイ酸、硫化水素等を含む地下水等を使用する熱交換器に適用することもできる。
【実施例】
【0053】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、本発明の趣旨に適合し得る範囲で適宜変更を加えて実施することも可能であり、それらは何れも本発明の技術的範囲に含まれる。
【0054】
本発明の実施例では、1.0mm板厚で、60mm×60mmのアルミニウム合金板で成る試験片の表面を陽極酸化処理して試験片の表面に陽極酸化処理層を形成し、その試験片の陽極酸化処理層の表面上に、有機ホスホン酸下地皮膜を形成し、更にその有機ホスホン酸下地皮膜の表面上に、三フッ化樹脂からなるフッ素樹脂皮膜を形成した塗装アルミニウム合金材とし、その塗装アルミニウム合金材の塗膜の密着性、すなわち耐食性を評価した。その結果を表1に示す。
【0055】
また、比較例として、陽極酸化処理層を形成しない塗装アルミニウム合金材、陽極酸化処理層を形成したが有機ホスホン酸下地皮膜を形成しない塗装アルミニウム合金材についても塗膜の密着性、すなわち耐食性を評価した。尚、試験片は実施例と同様の1.0mm板厚で、60mm×60mmのアルミニウム合金板を用いた。その結果を表2に示す。
【0056】
(前処理)
前処理としては、アルミニウム合金板で成る試験片の表面に形成されている汚れ、酸化物、水酸化物などを除去して、アルミニウム金属表面を一旦露出させるための処理を行った。具体的には、アルミニウム合金板で成る試験片をアセトン中に浸漬し、30秒間の超音波洗浄を実施した。
【0057】
(陽極酸化処理)
前処理を終えた試験片を陽極として電解液に浸漬し、電気分解することにより試験片の表面に平均厚みが5μm或いは20μmの陽極酸化処理層を形成することで、陽極酸化処理を実施した。電解液としては、質量パーセント濃度が15〜18%の希硫酸を用い、電流を80〜100A/m、電圧を10〜13V、処理時間を15〜20分として陽極酸化処理を実施した。陽極酸化処理層の厚みは処理時間を変えることで調整した。具体的には、15分の処理で5μm、50分の処理で20μmの厚みの陽極酸化処理層を形成した。封孔処理としては、主成分が酢酸ニッケルでなる封孔助剤を添加し、沸騰水封孔処理を15分実施した。
【0058】
(有機ホスホン酸下地処理−リン酸水素塩処理)
有機ホスホン酸としてはビニルホスホン酸を使用し、イオン交換水を用いて10グラム/リットルに希釈した。この水溶液を65℃に加温した後、水溶液中にアルミニウム合金板で成る試験片を10秒間或いは2分間(120秒間)浸漬して、有機ホスホン酸下地皮膜を形成した。その後、イオン交換水を用いてリンスを実施した。
【0059】
(フッ素樹脂塗装)
フッ素樹脂塗装の塗料としては、クロロトリフルオロエチレン/アクリル共重合体(主剤)をイソシアネート硬化剤により架橋した塗料を用いた。質量比で、主剤13部に対して硬化剤1部を混合し、シンナーを用いて適切な希釈率で塗液とした。そして、その塗液をアルミニウム合金板で成る試験片の最表面にできるだけ均一に浸漬塗布した後、乾燥させてフッ素樹脂塗料皮膜を形成し、そのフッ素樹脂塗料皮膜の平均膜厚を5μmとした。
【0060】
(高温試験)
まず、人工海水(八洲薬品株式会社製の金属腐食試験用アクアマリン)を20倍に薄めて、0.13規定のNaOHを添加してその人工海水がpH8.2になるように調整して試験液とした。一方で、プラスチック製のサンプル台に実施例と比較例の各試験片を設置支持した。具体的には、試験片の端部を把持し、試験片が立つような状態にして支持した。サンプル台ごとにオートクレーブ内に入れ、試験液を注入した後で密閉した。
【0061】
その状態で、所定温度に昇温し、2週間保持した。その際、圧力は制御せず蒸気圧とした。2週間経過後、常温に戻し、オートクレーブからサンプル台を取り出し、試験片を取り外した。
【0062】
(評価)
塗膜の耐食性の評価は、高温試験(腐食促進試験)後の塗膜の密着性を評価することで行った。具体的には、試験液から取り出した試験片を、50℃で24時間乾燥した後で、碁盤目試験を実施することで行った。碁盤目試験は、JIS5600−5−6の規定に従い、1mm角で100マスの碁盤目を設けた試験片の塗膜のテープ剥離を行うことで実施した。
【0063】
表1は本発明の実施例を示す。表1に示す各実施例では、陽極酸化処理層の厚み、有機ホスホン酸下地皮膜の厚みを夫々変えたが、各実施例ともに、碁盤目試験での塗膜のテープ剥離は全くなかった。
【0064】
一方、表2は比較例を示す。比較例1,2は、陽極酸化処理層を形成しない比較例、比較例3,4は、陽極酸化処理層を形成したが有機ホスホン酸下地皮膜を形成しない比較例である。陽極酸化処理層を形成しない比較例1,2では、碁盤目試験での塗膜のテープ剥離は12/100、28/100であり、有機ホスホン酸下地皮膜を形成しない比較例3,4では全ての区分された塗膜が剥がれてしまった。
【0065】
以上の結果から、アルミニウム合金で成る母材の表面を陽極酸化処理することと、有機ホスホン酸下地皮膜を形成することで、フッ素樹脂塗料皮膜が密着性良く形成され、塗膜の耐食性が著しく向上することが確認できた。
【0066】
【表1】

【0067】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面が1〜20μmの平均厚みで陽極酸化処理されたアルミニウム合金で成る母材と、前記アルミニウム合金で成る母材の表面に形成された有機ホスホン酸下地皮膜と、前記有機ホスホン酸下地皮膜の表面に形成された乾燥後の平均厚みが1〜100μmのフッ素樹脂塗料皮膜よりなることを特徴とする耐食性に優れたアルミニウム合金材。
【請求項2】
前記フッ素樹脂塗料皮膜を構成するフッ素樹脂が、三フッ化樹脂である請求項1記載の耐食性に優れたアルミニウム合金材。
【請求項3】
前記三フッ化樹脂が、クロロトリフルオロエチレン/ビニルエーテル共重合体であり、前記フッ素樹脂塗料が、前記クロロトリフルオロエチレン/ビニルエーテル共重合体をイソシアネートで架橋したものである請求項2記載の耐食性に優れたアルミニウム合金材。
【請求項4】
前記フッ素樹脂塗料皮膜が、金属粉を含まない請求項1乃至3のいずれかに記載の耐食性に優れたアルミニウム合金材。
【請求項5】
前記有機ホスホン酸下地皮膜が、メチルホスホン酸、エチルホスホン酸、ビニルホスホン酸のうちから選択される有機ホスホン酸からなる請求項1乃至4のいずれかに記載の耐食性に優れたアルミニウム合金材。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかに記載のアルミニウム合金材であって、腐食性を有する流体を媒体とするプレート式熱交換器用である耐食性に優れたアルミニウム合金材。
【請求項7】
請求項1乃至5のいずれかに記載のアルミニウム合金材を、腐食性を有する流体を媒体とする伝熱部に用いたことを特徴とする耐食性に優れたプレート式熱交換器。

【公開番号】特開2010−18847(P2010−18847A)
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−180498(P2008−180498)
【出願日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】