説明

耐食性及び光輝性に優れた押出し用アルミニウム合金

【課題】陽極酸化皮膜を厚くしても光輝性の低下が少ない、Al−Mg−Si系アルミニウム合金押出材を提供することにある。
【解決手段】Al−Mg−Si系アルミニウム合金押出材において、MgSiの化学量論比組成が0.5〜0.82mass%(以下、%と記す。)の範囲では、Siが0.3〜0.45%でかつMgが0.31〜0.52%、または、Siが0.18〜0.3%でかつMgが0.55〜1.0%であり、MgSiの化学量論比組成が0.82〜1.0%の範囲ではMg含有量に対する過剰Siが0.15%未満、またはSi含有量に対する過剰Mgが0.5%未満であり、且つ、Feを0.05〜0.12%含有し、残部Al及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金押出材に、鏡面加工を施した後、陽極酸化皮膜を20μm以上の厚さで生成したことを特徴する耐食性および光輝性に優れたAl−Mg−Si系アルミニウム合金押出材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、陽極酸化処理後の光輝性及び耐食性に優れたアルミニウム合金押出材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、光輝性が求められるアルミニウム合金押出材には、化学研摩処理または電解研磨処理によって光輝性を付与するが、そのままでは表面層の酸化等の変質によって光輝性が低下してしまう。そのため、保護膜として光輝性付与後に数μm〜10μm程度の薄い陽極酸化皮膜を形成することは広く知られている。例えば、特許文献1乃至特許文献4などがある。
【0003】
特許文献1には陽極酸化処理後の光輝性を付与するための押出用アルミニウム合金の成分と製造方法が開示されているが、Cu含有量が多く、陽極酸化膜厚を20μm以上とすると光輝性が低下する。
特許文献2には陽極酸化処理の光輝性と曲げ加工表面性状を付与するための押出し用アルミニウム合金の組成と製造方法が開示されているが、Cu、Mn、Cr、Zrなどが含有されているため、陽極酸化膜厚を20μm以上にすると光輝性が低下する。
特許文献3には陽極酸化処理後の表面光沢を付与する為の押出用アルミニウム合金の組成と製造方法などが開示されているが、Mg,Si以外にCu、Feなどが多く含有されているため、陽極酸化膜厚を20μm以上にすると光輝性が低下する。
特許文献4には陽極酸化処理後の光輝性付与されたアルミニウム合金の組成と加工方法が開示されているが組成範囲が広く、陽極酸化膜厚を20μm以上した場合のアルミニウム合金組成を示すものではない。
【特許文献1】特開平6−100970号公報
【特許文献2】特開平10−226857号公報
【特許文献3】特開平10−306336号公報
【特許文献4】特開平1−272800号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
それら光輝性を付与したアルミニウム合金押出材を屋外の建築用外装材などに用いる場合、耐食性を向上させるため陽極酸化皮膜を従来よりも厚く形成する必要がある。しかし、陽極酸化皮膜自体の発色によって光輝性が低下してしまうため、上記特許文献にも見られるように10μm程度の皮膜厚さが限界であった。また、屋外の建築用外装材や構造部材には材料強度を満足させるために6063−T5材が一般的に用いられている。しかし、光輝性を付与した6063−T5材は、陽極酸化処理を施すと陽極酸化皮膜が白っぽくなり、光輝性が大きく低下するという問題があった。そこで、本発明の課題は、陽極酸化皮膜を厚くしても光輝性の低下が少ない、Al−Mg−Si系アルミニウム合金押出材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記問題に鑑み、鋭意検討の結果、陽極酸化皮膜自体の発色はアルミニウム合金中のSiとMgに関係することを見出し、本発明をなすにいたった。
【0006】
すなわち、本発明は、Al−Mg−Si系アルミニウム合金押出材において、MgSiの化学量論比組成が0.5〜0.82%の範囲では、Siが0.3〜0.45%でかつMgが0.31〜0.52%、または、Siが0.18〜0.3%でかつMgが0.55〜1.0%であり、MgSiの化学量論比組成が0.82〜1.0%の範囲ではMg含有量に対する過剰Siが0.15%未満、またはSi含有量に対する過剰Mgが0.5%未満であり、且つ、Feを0.12%未満含有し、残部Al及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金押出材に、鏡面加工を施した後、陽極酸化皮膜を20μm以上の厚さで生成したことを特徴する耐食性および光輝性に優れたAl−Mg−Si系アルミニウム合金押出材である。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、屋外で使用される構造部材や外装部材などの建築部材として耐食性及び光輝性に優れたAl−Mg−Si系アルミニウム合金押出材が提供されるため、工業上顕著な効果を奏するものである。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】図1は、MgとSiの添加量とMgSiの化学量論比組成の関係を示しており、該図の直線および破線がMgSiの化学量論比組成に相当する。直線は本願請求範囲のMgSi量 0.5%〜1.0%の組成比を表し、該直線より上側が過剰Siの領域で、直線よりも下側が過剰Mgの領域となる。添加されたMgとSiが理想的にMgSiを形成すると、MgSiの化学量論組成比に従うため、MgSiの化学量論組成比とならなかったMgまたはSiが、過剰Mgまたは過剰Siとなる。
【図2】図2は、化学量論比組成のMgSiになるMg、Si含有量を示す。直線が理論上必要なMg含有量を、破線が理論上必要なSi含有量である。
【図3】図3は、本願合金のMgとSi請求範囲を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明によるアルミニウム合金元素の効果について説明する。
【0010】
MgとSiは同時に添加することでMgSiを形成し、押出し性を損なわずに材料強度を向上させることができる。しかし、アルミニウムに添加されたMgやSiが全てMgSiになるわけではなく、過剰なSi或いはMgを添加することで材料強度を上げることが可能である。本願発明は、それら過剰Siあるいは過剰Mgの量と光輝性、材料強度の関係を見出したものである。以下に、さらに詳細に説明する。
【0011】
化学量論比組成のMgSiとして0.5〜1.0%の範囲、すなわちMgが0.31〜0.63%、Siが0.18〜0.37%の範囲で、MgまたはSiをそれぞれ化学量論比以上添加することで、6063−T5材相当の材料強度が得られるが、10μm以上の陽極酸化処理後も光輝性を維持するには、MgとSi添加量を制御する必要がある。
【0012】
化学量論比組成のMgSiとして0.5%以下では材料強度が不足し、1.0%以上では化学研摩あるいは電解研摩による光輝処理を施しても10μm以上の陽極酸化処理を施すと光輝性の低下が大きく十分な光輝性が得られない。
【0013】
化学量論比組成にあるMgSiが0.5〜0.82%の範囲の場合、Mgが0.31〜0.52%に対して、Siを0.3〜0.45%と過剰に添加する。Siが0.3以下では材料強度が不足し、0.45%以上では陽極酸化皮膜自体の発色によって光輝性が低下する。あるいは、該化学量論比組成にあるSiが0.18〜0.3%に対して、Mgを0.55〜1.0%と過剰に添加する。Mgが0.55%以下では材料強度が不足し、1.0%以上では押出材表面に発生する凹凸により外見の意匠性が低下する。
【0014】
化学量論比組成にあるMgSiが0.82〜1.0%の範囲の場合では、生成するMgSiにより材料強度は満足しているため、過剰添加するSiまたはMgは、光輝性を低下させない範囲とする必要がある。該化学量論比組成の範囲において、過剰Siが0.15%を越えると光輝性が低下するため、過剰Siを0.15%以下に抑える必要がある。一方、過剰Mgが0.5%を超えると押出性を低下させ外観を損なう為、過剰Mgを0.5%以下に抑える必要がある。
【0015】
本発明合金のMg含有量とSi含有量との関係を図4に示す。本発明におけるMgおよびSiの添加範囲は図の実線に囲まれた領域となる。
【0016】
Feは不純物として含有されるもので、JIS6063の規格あるいは特開平H10−306336では0.35%以下と開示されているが、20μm以上の陽極酸化処理を施すと、Feが0.12%を超えると陽極酸化皮膜自体の白く発色し光輝性が低下するため、Feは0.12%以下とする必要がある。好ましくは、0.04〜0.1%である。
【0017】
不可避的不純物は、その他アルミニウムに不可避的に含有される元素である。それぞれの元素は0.05%以下であり、総量として0.15%以下であることが好ましい。
【0018】
本発明の製造方法について説明する。
本発明によるAl−Mg−Si系アルミニウム合金押出材は、上記の合金組成のビレットを鋳造後、常法による押出工程で製造する。例えば、ビレットを500〜600℃に1〜24hrの均質化処理を施し、冷却する。その後、400〜550℃に加熱して押出し、室温まで冷却した後、150〜250℃で1〜10hrの時効処理を施して製造する。
【0019】
このようにして製造されたアルミニウム合金押出材に、光輝処理として化学研摩あるいは電解研摩を施し、更に、皮膜厚さが20μm以上となるように陽極酸化処理を行ない耐食性、材料強度、光輝性ともに優れたアルミニウム押出材とする。
【0020】
化学研摩処理方法としては、りん酸−硝酸法、りん酸−硝酸―銅塩法などがある。例えば、りん酸:40〜80vol%(密度1.69g/ml)+硝酸:2〜10vol%(密度1.38g/ml)の処理液に、浴温80〜100℃で30〜240秒浸漬処理する。
【0021】
電解研摩処理方法としては、りん酸法、りん酸−硫酸法などがある。例えば、85〜100vol%(密度1.69g/ml)のりん酸溶液中で、電流密度0.2〜0.8A/cm、電圧20〜30V、浴温50〜80℃、4〜20分電解処理を行う。
【0022】
陽極酸化処理は、通常15wt%の硫酸浴中で行われ、定電流法の場合は電流密度100〜300A/m、定電圧法の場合は10〜20Vで処理される。目標膜厚に合わせて処理時間を制御する。浴温は、通常15〜25℃であるが、0℃付近で硬質陽極酸化処理とし行うこともできる。
【実施例】
【0023】
本発明による具体的な実施例を次に説明する。
【0024】
【表1】

【0025】
表1に示す各種本発明合金および比較合金を連続鋳造に直径219mmφ、長さ900mmのビレットに鋳造し、580℃で4hrの均質化処理を行い、均質化処理後、室温までファン冷却した。このビレットを押出し前に480℃に再加熱し、コの字型のダイスを用いて20m/minの押出速度で押出し材を製造した。この押出し材を室温に冷却後、200℃×1hrの時効処理を行った。
【0026】
得られた材料を脱脂、洗浄し、50℃の5%NaOH溶液中に2分間浸漬してエッチング後、化学研摩を行なった。化学研摩は、りん酸75%、硫酸15%、硝酸9%、ホウ酸0.5%、硝酸銅0.5%の水溶液を用いて、100℃にて120秒浸漬した。化学研摩後、30%硝酸で酸洗し、18℃の15%硫酸浴中で電流密度150A/mで60分間の陽極酸化処理を行った。
【0027】
【表2】

【0028】
評価は、押出材の表面肌荒れ発生の有無と引張強さを測定し、陽極酸化処理後の鏡面反射率と色調(L*、b*)を評価した。結果を表2に示す。ここで、L*値は明度を示し100に近いほど明度が高く、0に近いほど明度が低くなる。また、b*は色相と彩度の表す指標の一つで、−b*は青方向、+b*は黄色方向を示す。
【0029】
実施例1〜実施例11の本発明合金は、材料強度、反射率、押出し性の何れの性能も満足するものある。比較例1、2、3は、MgSi量が0.5%以下であり、引張強さが200MPa以下である。比較例4、5、6は、MgSi量が1.0%を超えおり、反射率(G60)が30以下で光輝性が劣る。比較例7は、Si量が少ないため、引張強さが200MPa以下である。比較例8は、Si量が多いため、反射率(G60)が30以下で光輝性が劣る。比較例9は、Mg量が少ないため、引張強さが200MPa以下である。比較例10は、Mg量が多いため、押出し性を低下させ、表面の肌荒れが発生している。比較例11は、過剰Siが多いため、反射率(G60)が30以下で光輝性が劣る。比較例12は、過剰Mgが多いため、押出し性を低下させ、表面の肌荒れが発生している。比較例13は、本発明のMg、Si量に含まれるが、Fe量が0.12%を超えている為、陽極酸化皮膜が発色し、反射率が30以下で光輝性が劣る。比較例14は、本発明のMg、Si量に含まれるが、Cu量が0.1%を超えている為、陽極酸化皮膜が発色し、反射率が30以下で光輝性が劣る。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明は、屋外の建築用外装材などに強度、耐食性、光輝性が求められる材料に好適に用いることができ、産業上顕著な効果を奏するものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Al−Mg−Si系アルミニウム合金押出材において、MgSiの化学量論比組成が0.5〜0.82mass%(以下、%と記す。)の範囲では、Siが0.3〜0.45%でかつMgが0.31〜0.52%、または、Siが0.18〜0.3%でかつMgが0.55〜1.0%であり、MgSiの化学量論比組成が0.82〜1.0%の範囲ではMg含有量に対する過剰Siが0.15%未満、またはSi含有量に対する過剰Mgが0.5%未満であり、且つ、Feを0.05〜0.12%含有し、残部Al及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金押出材に、鏡面加工を施した後、陽極酸化皮膜を20μm以上の厚さで生成したことを特徴する耐食性および光輝性に優れたAl−Mg−Si系アルミニウム合金押出材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−162840(P2011−162840A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−26681(P2010−26681)
【出願日】平成22年2月9日(2010.2.9)
【出願人】(000107538)古河スカイ株式会社 (572)
【Fターム(参考)】