説明

耐食性及び耐黒変性に優れたリン酸塩処理亜鉛めっき鋼板

【課題】 耐食性と耐黒変性に優れたリン酸塩処理亜鉛めっき鋼板を提案する。
【解決手段】 鋼板表面に、亜鉛めっき層と、亜鉛めっき層の上層としてりん酸塩処理層とを有し、さらに亜鉛めっき層とりん酸塩処理層との中間に0.1〜500 mg/mのNi付着部を介在させためっき層構造とする。これにより、耐食性及び耐黒変性に優れたリン酸塩処理亜鉛めっき鋼板となる。なお、リン酸塩処理層はMgを0.1質量%以上2.0質量%未満含有することが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建材用や家電用等に好適な表面処理鋼板に係り、特に、塗装用下地鋼板として好適なリン酸塩処理亜鉛めっき鋼板に関する。
【背景技術】
【0002】
建材、家電製品等の使途で耐食性を要求される部位には、亜鉛めっきや亜鉛合金めっきなどの表面処理を施された亜鉛系めっき鋼板が使用されている。これら亜鉛系めっき鋼板はそのままで使用されることは少なく、通常は塗装を施されて使用されている。塗装を施す際には、前処理として、リン酸塩処理、クロメート処理等の化成処理が施されている。
リン酸塩処理は、リン酸イオンを含有した酸性溶液と亜鉛系めっき鋼板とを接触させ、反応させてリン酸亜鉛を主成分とする結晶性皮膜をめっき表面に形成させる処理であり、塗膜との密着性を向上させ、各種塗装に対して安定した塗装下地性能を有する。このため、リン酸塩処理を施された亜鉛系めっき鋼板は、建材用、家電用等の塗装用下地鋼板として幅広く使用されてきた。
【0003】
しかし、リン酸塩処理単独では耐食性が不足するため、通常、リン酸塩処理後に「シーリング処理」と称する封孔処理が施されてきた。この封孔処理は、スプレー、浸漬等の方法で6価クロム含有水溶液を鋼板と接触させ、その後水洗せずに乾燥する処理であり、この処理により耐食性が向上する。しかし、6価クロムが環境規制物質であることから、この6価クロム含有水溶液を使用する「シーリング処理」に代わる、リン酸塩処理皮膜の耐食性向上対策が要望されていた。
【0004】
このような要望に対し、例えば特許文献1には、亜鉛系めっき層面に、結晶質のリン酸塩系の化成処理皮膜層と、さらにその上に非晶質のリン酸系皮膜を有する耐食性に優れた表面処理鋼板が提案されている。また、特許文献2には、亜鉛含有めっき鋼板の表面に、リン酸亜鉛処理皮膜を有し、その上層に、銅化合物と、チタン化合物及びジルコン化合物の中から選ばれた少なくとも1種の金属化合物と、あるいはさらにビスフェノールAとアミン類とホルムアルデヒドとの重縮合樹脂化合物と、水とを含む液状組成物を塗布、乾燥させて得られたシーリング処理皮膜を有する耐食性および塗料密着性に優れた非クロム系リン酸亜鉛処理鋼板が提案されている。特許文献1、特許文献2に記載された技術は、クロムを全く使用しないシーリング処理である。
【0005】
また、特許文献3には、金属材料表面にZn系めっき層が形成され、さらに該めっき層上に0.1重量%以上望ましくは5重量%以下のMgを含有するリン酸塩系化合物からなる皮膜が形成されている表面処理鋼板が提案されている。特許文献3に記載された技術では、リン酸塩皮膜中に0.1重量%以上のMgを含有させることで、耐食性が向上するとしている。
また、特許文献4には、リン酸亜鉛皮膜が、Mgを2%以上、Ni、Co、Cuから選ばれた1種以上の元素を0.01〜1%含有し,付着量が0.7g/m以上である耐食性および色調に優れたリン酸亜鉛処理亜鉛系めっき鋼板が提案されている。
【特許文献1】特開2000-313967号公報
【特許文献2】特開2004−143475号公報
【特許文献3】特開平1−312081号公報
【特許文献4】特開2002−285346号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1、2に記載された技術は、クロムを全く使用しないシーリング処理であるが、いずれも、最上層皮膜を形成する工程において、水溶性の薬液を塗布し、さらに加熱焼付けすることが必要であり、既存のリン酸塩処理亜鉛めっき鋼板の製造設備に加えて、新たにこれらの薬液を塗布するためのコーティング設備および焼付設備が必要となり製造コストの高騰を招くという経済的な問題を残していた。
【0007】
一方、特許文献3、特許文献4に記載された技術では、シーリング処理無しで、リン酸塩処理皮膜そのものの耐食性を向上できるとしている。しかし、特許文献3に記載された技術では、上層皮膜にMgを含有するため、高温多湿環境下に晒された場合に表面が黒く変色する場合があり、耐黒変性が劣化するという問題があった。また、特許文献4に記載された技術では、リン酸亜鉛皮膜中にMgを多量に含有することで高温多湿環境下に晒された場合に表面が黒く変色する場合があり耐黒変性が劣化するとともに、リン酸亜鉛皮膜にNi、Co、Cuを高濃度に含むことでリン酸亜鉛皮膜の色調が暗くなるという問題があった。
【0008】
本発明は、従来技術の問題に鑑み、クロムを使用するシーリング処理を行うことなく、従来のシーリング処理と同等の耐食性を有し、しかも耐黒変性に優れたリン酸塩処理亜鉛めっき鋼板を提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記した課題を達成するため、リン酸塩処理亜鉛めっき鋼板の耐食性および耐黒変性に影響する要因について鋭意検討した。その結果、上記した課題を達成できるリン酸塩処理亜鉛めっき鋼板として、先に特願2004-240782号明細書にて、鋼板表面に所定量のNiを含有するη相単相からなる亜鉛めっき層と、その上層として所定量のMgを含有するリン酸塩処理層を有するリン酸塩処理亜鉛めっき鋼板を提案した。このリン酸塩処理亜鉛めっき鋼板は、優れた耐食性を有するとともに耐黒変性にも優れているが、鋼板表面に所定量のNiを含有するη相単相からなる亜鉛めっき層を形成する必要がある。このような亜鉛めっき層は、電気亜鉛めっき処理により形成する場合には、めっき液中に適切な量のNiイオンを添加することで容易に形成することができるが、溶融亜鉛めっき処理により形成する場合には、それほど容易では無いという問題があった。
【0010】
そこで、本発明者らは、さらにリン酸塩処理亜鉛めっき鋼板の耐食性および耐黒変性に影響する各種要因について鋭意検討した。その結果、亜鉛めっき層とリン酸塩処理層との中間に、微量のNi付着部を介在させることを思いついた。鋼板表面に亜鉛めっき層を形成したのち、亜鉛めっき層の表面に微量のNi付着部を形成し、そのNi付着部のうえにさらに所定量のMgを含有するリン酸塩処理層を形成する表面処理層構造とすることにより、耐食性及び耐黒変性がともに向上し、シーリング処理を必要とすることなく、また亜鉛めっき層中にNiを含有させることなく、耐食性及び耐黒変性がともに優れたリン酸塩処理亜鉛めっき鋼板とすることができることを新たに見出した。
【0011】
本発明は、上記した知見に基づき、さらに検討を加えて完成されたものである。すなわち、本発明は、鋼板の少なくとも一方の面に亜鉛めっき層と該亜鉛めっき層の上層としてリン酸塩処理層を有するリン酸塩処理亜鉛めっき鋼板であって、前記亜鉛めっき層とりん酸塩処理層との中間に0.1〜500 mg/mのNi付着部を形成してなることを特徴とする、耐食性及び耐黒変性に優れたリン酸塩処理亜鉛めっき鋼板であり、前記リン酸塩処理層はMgを0.1質量%以上2.0質量%未満含有することが好ましい。また本発明では、前記亜鉛めっき層の付着量は、1g/m以上100g/m以下であることが好ましく、また本発明では前記リン酸塩処理層の付着量は、0.2g/m以上3g/m以下であることが好ましい。
【0012】
また本発明のリン酸塩処理亜鉛めっき鋼板の製造方法は、鋼板に、鋼板の少なくとも一方の面に亜鉛めっき層を形成する亜鉛めっき処理工程と、該亜鉛めっき処理工程で形成された亜鉛めっき層の上層として、リン酸塩処理層を形成するリン酸塩処理工程とを順次施すリン酸塩処理亜鉛めっき鋼板の製造方法であって、前記亜鉛めっき処理工程後で前記リン酸塩処理工程前に、前記亜鉛めっき層を形成した鋼板にNiイオンを含有する水溶液を接触させて亜鉛めっき層の表面にNiを置換析出させるか、あるいはより積極的に、前記亜鉛めっき層を形成した鋼板を陰極としてNiイオンを含有する水溶液中で電解し亜鉛めっき層の表面にNiを析出させて、前記亜鉛めっき層の表面に微量のNi付着部を形成するNi付着部形成処理工程を含み、前記リン酸塩処理工程がMgイオン濃度とZnイオン濃度の比、Mg2+/Zn2+ が0.05超えを満足するリン酸塩処理液を用い、前記Ni付着部形成処理工程を施された鋼板を該リン酸塩処理液中に浸漬又は該鋼板に該リン酸塩処理液をスプレーして、前記亜鉛めっき層の上層として、前記Ni付着部の上に、Mgを0.1質量%以上2.0質量%未満含有するリン酸塩処理層を形成する工程であることを特徴とするリン酸塩処理亜鉛めっき鋼板の製造方法とすることが好ましい。
【0013】
また本発明のリン酸塩処理亜鉛めっき鋼板の製造方法では前記Mgイオンが、硝酸Mgの添加によるものであることが好ましく、また本発明では、前記亜鉛めっき処理工程が、電気亜鉛めっき処理工程もしくは溶融亜鉛めっき処理工程であることが好ましく、また、本発明では、前記亜鉛めっき層の付着量が、1g/m以上100g/m以下であることが好ましく、また、本発明では、前記Ni付着部の平均Ni付着量が、0.1〜500 mg/mであることが好ましく、また本発明では、前記リン酸塩処理層の付着量が0.2g/m以上3g/m以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、シーリング処理を行うことなく、従来のリン酸塩処理亜鉛めっき鋼板と同等以上の耐食性を有し、しかも同等の耐黒変性を有するリン酸塩処理亜鉛めっき鋼板を容易にしかも安価に製造でき、産業上格段の効果を奏する。また、本発明によれば、環境への悪影響を防止して、リン酸塩処理亜鉛めっき鋼板を製造できるという効果もある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明のリン酸塩処理亜鉛めっき鋼板は、基板である鋼板の少なくとも一方の面に亜鉛めっき層と該亜鉛めっき層の上層としてリン酸塩処理層を有し、さらに亜鉛めっき層とリン酸塩処理層との中間にNi付着部を介在させてなる亜鉛めっき鋼板である。基板とする鋼板は、亜鉛系めっき鋼板として適用できる鋼板であればよく、とくにその種類は限定されない。用途に応じ適宜選択すればよい。
【0016】
本発明では、基板とする鋼板上に形成される亜鉛めっき層は、電気亜鉛めっき処理によってもあるいは溶融亜鉛めっき処理によっても、どちらでもかまわない。また、亜鉛めっき層の付着量は、用途に応じて適宜選択できるが、耐食性の観点から1g/m以上とすることが好ましい。しかし、付着量が100g/mを超えると耐めっき剥離性が低下する。なお、より好ましくは5g/m以上、70g/m以下である。
【0017】
本発明では、亜鉛めっき層の表面にNi付着部を形成し、亜鉛めっき層の上層であるリン酸塩処理層との中間に介在させる。これにより、耐黒変性が向上する。本発明では、亜鉛めっき層とリン酸塩処理層との中間に介在させるNi付着部のNi平均付着量は、0.1〜500 mg/mとする。亜鉛めっき層の表面に設けるNi付着部は、上記した平均付着量の範囲を満足するものであれば、均一な層として存在していてもよく、また微視的には不連続な形態で付着したものであってもよい。なお、ここでは平均付着量とは、後述するようにJIS H 0401-1999に規定された付着試験に準拠して定量される値であり、測定面積がJIS H 0401-1999に規定された面積についての付着量の平均値である。Ni付着部のNiの平均付着量が、0.1mg/m未満では、上層にMgを含有するりん酸塩処理層を形成した場合に、特に高温多湿環境下で発生する黒変を防止することができない。なお、Ni付着量が多いほど、黒変防止効果が確実になるため、Niの平均付着量は、好ましくは1mg/m以上、より好ましくは5mg/m以上とすることが望ましい。一方、Niの平均付着量が500mg/mm2を超えて増えすぎると耐食性の劣化を生じるため、500mg/mm2を上限値とする。なお、好ましくは100mg/m以下、より好ましくは20mg/m以下である。
【0018】
また、本発明のリン酸塩処理亜鉛めっき鋼板は、亜鉛めっき層の上層として上記したNi付着部の上に、リン酸塩処理層を有する。本発明のリン酸塩処理亜鉛めっき鋼板では、リン酸塩処理層は、Mgを0.1質量%以上2.0質量%未満含有する。リン酸塩処理層中にMgを含有することにより、塩水噴霧試験において白錆が発生するまでの時間を遅延させることが可能となり、シーリング処理を施すことなくリン酸塩処理亜鉛めっき鋼板の耐食性を向上させることができる。リン酸塩処理層中のMg含有量を0.1質量%以上とすることにより、上記した効果が顕著となり、従来のシーリング処理を施したリン酸塩処理亜鉛めっき鋼板の耐食性とほぼ同等の耐食性を、シーリング処理を施すことなく確保することができる。一方、2.0質量%以上のMgを含有しても耐食性の向上効果は飽和するうえ、さらにリン酸塩処理層中のMg含有量が増加するにしたがい、耐黒変性が劣化する傾向となる。このため、リン酸塩処理層中のMg含有量は2.0質量%未満を上限とした。なお、Mgは耐黒変性の観点から1.4質量%以下とすることが好ましく、さらに好ましくは0.5〜1.0質量%である。
【0019】
また、リン酸塩処理層中には、リン酸塩処理液中に含まれる他のカチオン、例えばNi、Mn、Co等が、0.01〜0.4質量%程度であれば不可避的不純物として含有されてもなんら問題はない。
また、リン酸塩処理層の付着量は、耐食性及び十分な塗料密着性を確保するために、0.2g/m以上とすることが好ましく、より好ましくは1.0g/m以上、さらに好ましくは1.5g/m以上である。なお、付着量の増加による上記した効果は、3g/m以上では飽和するために、3g/mを上限とすることが好ましい。
【0020】
つぎに、本発明のリン酸塩処理亜鉛めっき鋼板の好ましい製造方法について説明する。
本発明では、基板とする鋼板に、鋼板の少なくとも一方の面に亜鉛めっき層を形成する亜鉛めっき処理工程と、前記亜鉛めっき層の表面に微量のNi付着部を形成するNi付着部形成処理工程と、前記亜鉛めっき層の上層として、該Ni付着部のうえにリン酸塩処理層を形成するリン酸塩処理工程と、を順次施す。
【0021】
なお、前処理として、必要に応じ、電解脱脂、酸洗等および水洗を行い,鋼板表面を清浄化してのち、亜鉛めっき処理工程を行なうことは言うまでもない。
亜鉛めっき処理工程における亜鉛めっき層の形成手段としては、真空蒸着法、溶融めっき法及び電気めっき法などが例示できるが、本発明の亜鉛めっき処理工程においては、電気めっき法もしくは溶融めっき法を用いて、電気亜鉛めっき処理工程もしくは溶融亜鉛めっき処理工程とすることが好ましい。以下、電気めっき法を用いる場合を例として説明する。
【0022】
本発明の亜鉛めっき処理工程では、通常のめっき浴組成を用いた電気めっき法がいずれも好適に利用できる。
亜鉛めっき浴としては、通常の純亜鉛めっき層を形成する亜鉛めっき浴である、硫酸亜鉛溶液、塩化亜鉛溶液等が、いずれも好適に利用でき、とくに限定する必要はない。また、亜鉛めっき層の付着量に応じ、電流密度等の通電条件を調整することはいうまでもない。なお、亜鉛めっき層の付着量は、1〜100g/mの範囲とすることが耐食性、耐めっき剥離性の観点から好ましい。
本発明では、亜鉛めっき処理工程後でリン酸塩処理工程前に、Ni付着部形成処理工程を施す。Ni付着部形成処理工程では、亜鉛めっき処理工程により表面に亜鉛めっき層を形成された鋼板をNiイオンを含有する水溶液に接触させて亜鉛めっき層の表面にNiを置換析出させるか、あるいはより積極的に、前記亜鉛めっき層を形成した鋼板を陰極としてNiイオンを含有する水溶液中で電解し亜鉛めっき層の表面にNiを置換析出させることにより、微量のNi付着部を形成することが好ましい。Ni付着部形成処理工程で使用するNiイオンを含有する水溶液としては、塩化ニッケルや硫酸ニッケルなどの水溶液が適用できる。なお、Ni付着量に応じて、適宜水溶液中のNi濃度や、液温、接触時間、あるいは電解条件等を変化させることが好ましい。
【0023】
Ni付着部形成処理工程を施された鋼板は、ついで、リン酸塩処理工程を施される。リン酸塩処理工程では、Ni付着部の上に、0.1質量%以上2.0質量%未満含有するリン酸塩処理層を形成する。リン酸塩処理層は、Ni付着部形成処理工程を施された鋼板とリン酸塩処理液とを、スプレーあるいは浸漬等の常法により接触させて形成することが好ましい。リン酸塩処理層にMgを含有させるために、本発明では、Mgイオン濃度とZnイオン濃度の質量比、Mg2+/Zn2+ が0.05超え、好ましくは5以下を満足するリン酸塩処理液を用いる。なお、リン酸塩処理層中に取り込まれるMg量は、処理液中のMg2+/Zn2+比の他に、処理液中のZn濃度、液温、pH等によっても影響される。前記したMg2+/Zn2+の範囲は、通常の化成処理を行う条件下、例えばZn濃度:0.5〜5g/L、液温:30〜70℃、pH:1.0〜2.5の範囲の場合にとくに好ましい。
【0024】
Mg2+/Zn2+ が0.05以下では、Mgを0.1質量%以上含有するリン酸塩処理層とすることができない場合がある。また、Mg2+/Zn2+ が5を超えて高くなりすぎると、リン酸塩処理層中のMg量が適正範囲を外れる場合がある。リン酸塩処理液中のMg2+/Zn2+を適正レベルとするためには、Mg塩を適正濃度で溶解させる必要がある。このため、Mgと対になるアニオンの選択が重要となる。Mgイオン源として、水酸化Mg、炭酸Mg、硫酸Mgなどを用いた場合には十分な溶解度が得られない傾向がある。塩化Mgは溶解度は十分であるが、Mgイオンと同時に高濃度の塩素イオンがリン酸塩処理液中に混入してリン酸塩皮膜の形成に悪影響を及ぼすことがある。このようなことから、Mgイオン源としては、硝酸Mgが好適である。
【0025】
本発明で使用するリン酸塩処理液としては、亜鉛イオン、リン酸イオンを含有し、さらに促進剤等を含有する市販の処理液、例えば、日本パーカライジング(株)製の商品名「PB3312M」などに、さらに上記したMgイオン源を所定量添加したものが好適に利用できる。また、リン酸塩処理層の付着量は、鋼板とリン酸塩処理液との接触時間を制御する常法により0.2〜3.0g/mの範囲に調整することが好ましい。
【0026】
なお、リン酸塩処理工程に先立ち、Ni付着部形成処理工程を施された鋼板表面の表面調整処理を行なうことが好ましい。Ni付着部形成処理工程を施された鋼板表面の表面調整は、チタンコロイド系活性処理剤を用いてスプレーにより行なうことが好ましい。チタンコロイド系活性処理剤としては、例えば、日本パーカライジング(株)製プレバレンZN(商品名)が例示できる。
つぎに、実施例に基づき本発明をさらに詳細に説明する。
【実施例】
【0027】
板厚1.0mmの冷延鋼板から、大きさ:210×100mmの試験板を採取した。これら試験板に、まず前処理を施した。前処理は、オルソ珪酸ソーダ(60g/L)添加のアルカリ脱脂液(液温:70℃)中で、対極をステンレス板とし、電流密度:5A/dmで30秒間の電解脱脂と、電解脱脂後水洗を施し、さらに30g/Lの硫酸水溶液(液温:30℃)中に5秒間浸漬して酸洗したのち、水洗する処理とした。この前処理を施した後、試験板に電気亜鉛めっき処理を施し、試験板片面に、付着量:5〜40g/mの亜鉛めっき層を形成した。
【0028】
電気亜鉛めっき処理はつぎのとおりとした。
440 g/Lの硫酸亜鉛7水和物を添加した亜鉛めっき液を用いて亜鉛めっき浴とした。亜鉛めっき液は硫酸を添加してpH:1.5に調整した。なお、亜鉛めっき浴の浴温は50℃とした。上記した亜鉛めっき浴中で、酸化イリジウム被覆Ti板電極を対極とし、該対極を、試験板と極間距離10mmで平行に配置し、極間に流速1.5m/sでめっき液を循環させながら、電流密度70A/dm2で通電した。
【0029】
このようにして試験板表面に亜鉛めっき層を形成したのち、該亜鉛めっき層の表面にNiを付着形成するNi付着部形成処理を施し、亜鉛めっき層のうえに、付着量:0.1〜500 mg/mのNi付着部を形成した。
Ni付着部形成処理はつぎのとおりとした。
表面に亜鉛めっき層を形成された試験片を、10g/Lの硫酸ニッケル水溶液(40℃)に1〜10秒間浸漬するか、もしくは、酸化イリジウム被覆Ti板電極を対極として、該対極と試験片を平行に配置し、電流密度:5A/dm2で通電し、電解して、所定量のNiを析出させNi付着部を形成した。なお、Ni付着量は、浸漬時間または電解時間を変化させて調整した。
【0030】
このようにして、亜鉛めっき層のうえにNi付着部を形成した後、水洗し、ついでリン酸塩処理を施した。なお、リン酸塩処理の前処理として、亜鉛めっき層のうえにNi付着部を形成した鋼板に、表面調整剤(日本パーカライジング(株)製:商品名「プレンパレンZ」)による表面調整処理を施した。
リン酸塩処理は、亜鉛めっき層のうえにNi付着部を形成した鋼板に、リン酸亜鉛処理液(日本パーカライジング(株)製:商品名「PB3312M」に硝酸Mgを添加したもの;Zn濃度:3.5g/L、液温:60℃、pH:2.2)をスプレーして接触させ、水洗、乾燥して、リン酸塩処理層を形成し、亜鉛めっき層とリン酸塩処理層との中間にNi付着部を介在させてなるリン酸塩処理亜鉛めっき鋼板(試験板)とした。なお、リン酸塩処理液中に添加するMg源の添加量を変化して、リン酸塩処理層中のMg量を変化させた。また、リン酸塩処理層の付着量はリン酸塩処理液との接触時間を変えて変化させた。
【0031】
また、比較として、通常の亜鉛めっき浴を用いて純亜鉛めっき層と、通常のリン酸塩処理液を用いてMgを含有しないリン酸塩処理層を形成しさらに、無水クロム(V1)酸を主成分とする水溶液(日本パーカライジング(株)製:商品名「LN62」)を用いてシーリング処理を施し、リン酸塩処理亜鉛めっき鋼板(試験板)とした(試験板No.26)。なお、シーリング処理なしのリン酸塩処理亜鉛めっき鋼板(試験板)も作製した(試験板No.24)。
【0032】
得られた試験板について、亜鉛めっき層、Ni付着部およびリン酸塩処理層の付着量、耐食性および耐黒変性について調査した。なお、調査面は、得られた試験板の亜鉛めっき層およびリン酸塩処理層が形成された面とした。調査方法はつぎの通りとした。
(1)亜鉛めっき層、Ni付着部、及びりん酸塩処理層の付着量
亜鉛めっき層中のめっき付着量及び亜鉛めっき層の上に形成されたNi付着部の付着量は、亜鉛めっき処理後にNiを析出付着させ表面にNi付着部を形成された亜鉛めっき層について、JIS H 0401-1999に規定された付着量試験方法に準拠して、ヘキサメチレンテトラミン液に溶解させ、めっき層が溶解した液を、JIS K 0121-1993に規定された電気加熱方式原子吸光分析装置にて分析して求めた。リン酸塩処理層の付着量は重クロム酸アンモニウム水溶液で溶解して重量法で求めた。またリン酸塩処理層中のMg含有量は、リン酸塩処理層を重クロム酸アンモニウム水溶液で溶解し、その溶解液をICP分析(誘起結合プラズマ発光分析)により分析して求めた。
(2)耐食性
得られた試験板から、試験片(大きさ:100×50mm)を切り出し、試験片の端部及び裏面をテープシールした後、JIS Z 2371-2000の規定に準拠して塩水噴霧試験を実施した。試験中、定期的に試験片表面を観察し、試験片の全評価面積に対し白錆発生面積が5%になるまでの時間(白錆発生時間)を調べ、耐食性を評価した。白錆発生時間が、24時間以上である場合を◎、24時間未満8時間以上である場合を○、8時間未満4時間以上である場合を△、4時間未満である場合を×とした。
(3)耐黒変性
得られた試験板から、試験片(大きさ:100×50mm)を切り出し、分光式色差計SQ2000(日本電色製)を用いて、まず、試験片の初期のL値(明度)を測定した。ついで、試験片を、温度80℃、湿度95%RHの恒温恒湿槽中に24時間放置した。放置後、試験片のL値を同様に測定し、L値(初期値)からのL値の変化量ΔLを求めた。ΔLが、−1以上である場合を◎、−1未満−2以上である場合を○、−2未満−4以上である場合を△、−4未満である場合を×として耐黒変性を評価した。
【0033】
得られた結果を表1に示す。
【0034】
【表1】

【0035】
本発明例はいずれも、シーリング処理を行うことなく、従来のリン酸塩処理鋼板と同等またはそれ以上の耐食性及び同等の耐黒変性を有するリン酸塩処理亜鉛めっき鋼板となっている。一方、本発明の範囲を外れる比較例は、耐食性、耐黒変性、のうちのいずれかが劣化している。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼板の少なくとも一方の面に亜鉛めっき層と該亜鉛めっき層の上層としてりん酸塩処理層を有するりん酸塩処理亜鉛めっき鋼板であって、前記亜鉛めっき層とりん酸塩処理層との中間に0.1〜500mg/mのNi付着部を形成してなることを特徴とする耐食性及び耐黒変性に優れたりん酸塩処理亜鉛めっき鋼板。
【請求項2】
前記りん酸塩処理層が、Mgを0.1質量%以上2.0質量%未満含有することを特徴とする請求項1に記載のりん酸塩処理亜鉛めっき鋼板。

【公開番号】特開2006−225737(P2006−225737A)
【公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−42907(P2005−42907)
【出願日】平成17年2月18日(2005.2.18)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】