説明

耐高温コーティング組成物

水性リン酸結合溶液は、リン酸、マグネシウムイオン源、及び浸出性腐食防止剤から本質的になる。結合溶液は、コーティングスラリーの調製のために結合溶液に混合されるアルミニウムなどの無機金属粒子に対して安定である。コーティング組成物でコーティングされた金属部品は、熱及び腐食耐性など非常に満足のいく性質を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
リン酸及びアルミニウム金属を含む組成物は、鉄の表面など、金属表面を腐食から保護するのに使用されることが周知である。そのようなコーティング組成物では、アルミニウムフレーク及び/又は粉体などの粒状金属材料をリン酸結合溶液と結合させて、コーティング組成物を形成し、次いでこの組成物を、処理がなされる金属表面に付着させる。コーティングを基材に付着させた後、コーティングが本質的に水不溶性になるまで、これを第1の温度、一般には500°F(260℃)以上に加熱することができる。次いでコーティングされた表面を、第2の温度、一般には約1000°F(538℃)よりも高い温度で硬化して、最終的な保護コーティングを形成することができる。
【0002】
このコーティングプロセスで生じる問題は、粒状金属材料をリン酸結合溶液と結合させたときに、酸性結合溶液が金属材料と反応する可能性があることである。そのような反応は非常に激しく、フレーク及び/又は粉体を燃焼させ又は爆発さえ引き起こす可能性があり、又は反応はそれほど激しくなく、金属材料から様々な塩への変換をもたらすだけである可能性がある。いずれにせよ、そのような反応は、適切な保護コーティングの形成を妨げる。
【背景技術】
【0003】
Allenの米国特許第3,248,251号は、溶解した金属のクロム酸塩、二クロム酸塩、又はモリブデン酸塩、及びリン酸塩を含有する水性酸性結合溶液中に固体無機粒状材料(アルミニウムなど)のスラリーから本質的になる、コーティング組成物について記述している。酸性結合溶液にクロム酸塩又はモリブデン酸塩を添加することにより、溶液はアルミニウムに対して効果的に不動態化され、金属アルミニウムの酸化が阻害され、酸性溶液とアルミニウムとの間の望ましくない化学反応をさせることなく粒状アルミニウムを結合溶液に結合させられることがわかった。これらのいわゆるAllenコーティングは、鉄類金属合金(ferrous metal alloy)表面を酸化及び腐食から、特に高温での酸化及び腐食から保護する高品質のコーティングを提供するために、首尾良く使用されている。
【0004】
クロム酸塩及びモリブデン酸塩は、そのようなコーティング組成物中のアルミニウムの反応性を低減するために首尾良く使用されてきたが、クロム酸塩及びモリブデン酸塩の使用は、環境への配慮から問題になっている。クロム酸塩及びモリブデン酸塩は、一般に、毒性物質であると考えられている。六価クロムは、発癌性物質と見なされる。したがって、そのような塩の溶液の使用を回避すること、又は少なくともその使用を減少させることが望ましい。これらの理由で、酸性リン酸結合溶液とそこに添加される粒状アルミニウムとの間の反応性を制御するのにクロム酸塩又はモリブデン酸塩をほとんど又は全く必要としない、リン酸/アルミニウムコーティング組成物を開発することが望まれている。コーティング組成物は、鉄類金属合金表面を酸化及び腐食環境条件から、特に高温で、少なくともAllen型コーティングと同様に、保護すべきである。
【0005】
クロム酸塩及びモリブデン酸塩に関連した環境問題を克服するために、いくつかの努力がなされてきた。Stetsonらの米国特許第5,242,488号は、結合溶液と粉末アルミニウムとの間の反応を制御するのにクロム酸塩もモリブデン酸塩も必要としない、鉄類合金のコーティング組成物について記述している。組成物は、結合溶液とアルミニウム粉とのスラリー混合物から本質的になる。結合溶液は、アルミニウム金属顔料に対して結合溶液を実質的に平衡にするのに十分な量で溶液中にある水、リン酸(HPO)、及びアルミニウムイオンから本質的になる。コーティング組成物の結合溶液成分は、アルミニウム金属顔料と実質的に平衡になるように、即ち溶液中のアルミニウムイオンの量が実質的に飽和点にあるように、したがってアルミニウム金属顔料の任意の後続の添加に対して本質的に不活性となるように、溶液中に十分なアルミニウムイオンを必要とする。
【0006】
Stetsonは、水性リン酸混合物を、アルミニウムで平衡にする前又は後で少なくとも部分的に中和するための、マグネシウム(MgO又はMgCO)の使用を開示する。より最近の、Stetsonらの特許、即ち米国特許第5,279,649号は、バナジウム酸塩イオンを生成するためにVが添加されており、アルミニウム平衡混合物に別の阻害剤が添加される、実質的に同じ組成物について記述する。さらに、Stetsonらの米国特許第5,279,650号は、やはり酸化鉄(Fe)粉体を含有する、’649号特許に開示されたコーティングの、封止コーティング組成物を開示する。3種のコーティング組成物の全ては、クロム及びモリブデンイオンの使用が回避されるよう設計されており、結合溶液を、アルミニウムのさらなる添加に対して平衡にする必要がある。Vの添加は、OSHAの極めて有害な物質のリストに列挙されている毒性物質の添加を示す。
【0007】
環境に優しいコーティング組成物は、本発明の譲受人に譲渡されたMosserらの米国特許第5,478,413号に記載されており、リン酸、1種又は複数のマグネシウムイオン源、アルミニウムイオン源及び/又は亜鉛及びホウ酸イオン源の水溶液が開示されている。溶液中のアルミニウムの量は、飽和点に達するのに必要であるよりも少ない量であり、したがって、追加のアルミニウムに対して結合溶液を平衡にするのに必要な量よりも少ない。結合溶液は、少なくとも1時間にわたり、粒状アルミニウムに対して非反応性である。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
一態様では、鉄類合金コーティング組成物の形成に使用される結合溶液は、リン酸、マグネシウムイオン源、及び浸出性腐食防止剤から本質的になる。結合溶液は、約2から約4.5、通常は約2.5から約3.5、しばしば約2.7から約3.3の範囲内のpHを有する。所望のpHを得るために、追加の量の酸又は塩基を、必要に応じて組成物に添加してもよい。pHを下げるには、例えば、水溶性リン酸、又はリン酸二水素マグネシウムなどの酸塩を添加してもよい。
【0009】
別の態様では、コーティング組成物は、結合溶液及びアルミニウムなどの粒状金属材料を含む。粒状金属材料は、粉体、フレーク、又は粉体とフレークとの組合せなど、任意の適切な形のものであってよい。
【0010】
別の態様では、基材を保護する方法は、この基材の金属表面にコーティング組成物を付着させるステップ、及びコーティングされた基材を加熱してコーティング組成物を硬化するステップを含む。
【0011】
結合及びコーティング組成物は、クロム、特に六価クロム、及びモリブデン酸塩、及びニッケルやバナジウムなどのその他の毒性金属を、通常は含まず又は実質的に含まない。そのような好ましくない金属を含まず又は実質的に含まないにも関わらず、組成物は、コーティングを付着させるのに適切な時間にわたり、特に1時間を超える期間にわたり、通常は4時間よりも長く、しばしば8時間よりも長い期間にわたり、安定である。いくつかの組成物は、数日間にわたり安定であり、何週間にもわたって液体のままである。
【0012】
コーティングは非常に満足のいくものであり、酸化及び腐食、特に高温に対する耐性に関し、Allenコーティングの規格に一般に一致し又はそれを超えるものである。結合及びコーティング組成物は、米国特許第5,478,413号に記載されているような亜鉛イオン及び/又はアルミニウムイオン源の添加を必要とせずに、そのような安定性及び性能特性を示し、したがって、組成物及びその製造が簡略化される。コーティングは、タービン圧縮器エアフォイル、同様のブレード、羽、及び固定子に、特に十分適している。
【0013】
結合溶液は、水、リン酸、マグネシウムイオン源、及び任意選択でホウ酸塩イオン供給源を組み合わせることによって、結合溶液を最初に調製することにより、調製してもよい。次いで浸出性腐食防止剤を緩衝結合溶液に添加して、結合溶液を調製してもよい。浸出性腐食防止剤及び/又は結合溶液のその他の成分は、水又はリン酸水溶液中の溶解度又は混和性が低く又は少なくてよい。そのような低溶解性又は混和性の成分は、エマルジョン又はその他の非溶液形態で存在してもよい。したがって、本明細書で使用される「水性結合溶液」や「結合溶液」などの用語は、1種又は複数の成分が完全に溶解し得るのではなく、乳化し又は分散し又は別の形をとり得る組成物を含むことが意図される。この記述は、本明細書に記載される成分並びに記載されていないその他の成分に当てはまる。
【0014】
コーティング組成物は、結合溶液と、アルミニウム粉体などの固体粒状金属材料とを合わせることによって調製してもよい。アルミニウムの代わりに又はアルミニウムに加え、上記参考文献のAllen特許に開示されたような、その他の金属粒子を使用してもよい。コーティング組成物は、アルミナ、ジルコニア、セリア、及び/又はその他の混合金属酸化物のような非金属顔料など、コーティング産業で従来から使用されているその他の成分を含有していてもよい。コーティングされた鉄類部品は、一般に、Allen及びStetson特許に記載されたコーティングによって実現されたものと同等の又はそれよりも良好な、非常に満足のいく性質を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
水性結合溶液は、リン酸、マグネシウムイオン源、及び浸出性腐食防止剤を含有する。結合溶液のpHは、約2から約4.5、通常は約2.5から約3.5、しばしば約2.7から約3.3の範囲に調節することができる。
【0016】
結合溶液は安定であり、即ち、引き続き添加される金属(例えば、アルミニウム)に対して非反応性であり又は実質的に非反応性(不活性)である。下記の反応性試験では、コーティング組成物は、アルミニウム粒子を結合溶液と少なくとも最長1時間、しばしば最長4時間、場合によっては最長8時間以上混合した場合、目に見える反応を全く又は本質的に示さない。
【0017】
結合溶液中のマグネシウムイオンは、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム若しくは水酸化マグネシウム、マグネシウム金属、又はこれらの組合せの形など、任意の都合のよい供給源を用いて供給することができる。マグネシウムはリン酸に溶解し、金属イオン及び水及び/又は気体を形成する。単独で又はその他の化合物と組み合せて添加された量は、その他の化合物(単数又は複数)の添加後にpHが所望の範囲内にあるように、pHを所望の範囲内に又はその範囲のいくらか下に若しくは上にするのに十分であるべきである。
【0018】
適切なマグネシウムイオン源として働くことができる、その他の適切なマグネシウム化合物は、参照により本明細書に組み込まれている(ハンドブック(the Handbook of Chemistry and Physics,87th Ed.CRC Press,Inc.Boca Raton,Fla.,David R.Lide編,the Chapter on Physical Constants of Inorganic Compounds))に列挙されている。
【0019】
結合溶液は、1種又は複数の浸出性腐食防止剤(浸出性顔料と呼ばれることもある。)も含む。浸出性腐食防止剤は、金属基材の腐食を阻害し又は不動態化することが可能である。浸出性陽イオン(単数又は複数)は、場合によっては、アルミニウム金属粉を不動態化し又は安定化するよう働くことができる。
【0020】
顔料は、色若しくは不透明性をもたらすために、又は表面硬度、湿潤特性、若しくはその他のポリマー被膜の特徴を変更するために、塗料産業でしばしば使用される。顔料は、例えばフレーク様顔料など、障壁として、耐腐食性をもたらすのに使用してもよい。別の例として、防食顔料は特定のイオン又は中性化合物から選択的に浸出し、金属基材の腐食速度を変化させる。例えばクロム酸ストロンチウム及びクロム酸亜鉛は、中性水溶液中のほとんどの金属を効果的に不動態化する少量のクロム酸塩を浸出させる。一般にそのような顔料は、障壁ポリマー被膜でトップコートされている多孔質プライマーでのみ使用されるが、この障壁ポリマー被膜は、被膜が損傷を受け又は浸透するような状況以外はプライマーを浸出から封止し、また保護するのに効果的な障壁ポリマー被膜である。
【0021】
塗料とは異なり、酸性リン酸結合剤をベースにした無機アルミニウム顔料スラリーコーティングは、コーティングの被膜形成剤として有機炭素ベースポリマーを持たない。代わりにスラリーコーティングは、水溶性であり、なお非常に多孔質であり、トップコート又はシーラーなしでしばしば使用される。腐食防止剤として中性改質リン酸塩顔料を添加することにより、(1)コーティングのポットライフ(混合した使用可能なコーティングの寿命)が著しく延び、(2)鋼基材に対する酸性リン酸塩結合剤溶液の化学侵襲が低減し又はなくなり、(3)極端な条件下(塩の噴霧、高温サイクルなど)での付着したアルミニウムコーティングの性能が高まるなど、いくつかの予期せぬ改善がもたらされる。これらの顔料がどのように性能を改善しているのか具体的にわかっていないが、少量の亜鉛、アルミニウム、及び/又はその他のイオンが、混合後及び曝露中にコーティングから浸出すると考えられる。以下の表は、使用することができる浸出性腐食防止剤の、非限定的な例を示す。これらは、金属オルトリン酸塩又は金属ポリリン酸塩の分類に包含される。
【表1】

【0022】
結合溶液中の浸出性腐食防止剤の濃度は、浸出性腐食防止剤の属性、存在するその他の成分の属性及び量、コーティング組成物の目標とされる性質などの要因に応じて、広範にわたり変化させることができる。例えば、金属(例えば、アルミニウム)粉体を含有せず且つ/又は浸出性腐食防止剤が唯一存在する顔料である組成物中では、より高い濃度で存在させてもよい。例として、浸出性腐食防止剤の量は、結合剤溶液100ml当たり約2から約80g、しばしば約2から約50gに及んでよい。アルミニウム粉と合わせた結合溶液では、浸出性腐食防止剤の量がしばしば、結合剤溶液100ml当たり約2から約15gに及ぶ。
【0023】
浸出性腐食防止剤でのクロム酸塩の使用は、環境への配慮により回避することがしばしば望ましいと考えられる。しかしクロム酸塩は、そのような使用に耐えることができるような適用例では、浸出性腐食防止剤中に存在してもよい。組成物は、界面活性剤、湿潤剤、及びその他従来の添加剤など、その他の適合性ある公知の成分を含有していてもよい。
【0024】
満足のいく安定性及び性能特性を示す組成物は、米国特許第5,478,413号に記載されているように、亜鉛イオン源及び/又はアルミニウムイオン源を添加する必要なく、調製できることがわかった。亜鉛やアルミニウムなどの比較的少量のイオンを、浸出性腐食防止剤に含有される金属を必要とする平衡反応の結果、水性組成物中に存在させてもよい。結合溶液は、カルシウム及び/又はストロンチウムイオンなど、多量のその他のイオンを含有していてもよい。ある場合には、結合溶液は、Feイオン及び/又はMnイオンを全く又は実質的に含まない。
【0025】
組成物は、酸化ホウ素、ホウ酸、及び可溶性ホウ酸塩などの任意の都合のよい形で供給することができる、ホウ酸塩イオンを含有していてもよい。ホウ酸塩化合物の非限定的な例は、上述のハンドブックに列挙されている。酸化ホウ素水和物をホウ酸に添加し、次いで反応させることにより、溶液中でホウ酸マグネシウムが形成される。
【0026】
結合溶液は、水、リン酸、マグネシウムイオン源、及び任意選択でホウ酸イオン源を合わせることによって結合剤溶液を最初に調製することにより、調製してもよい。結合剤溶液を、例えば約2から約3の、しばしば約2.4から約2.7のpHに緩衝させる。次いで浸出性腐食防止剤を緩衝結合溶液に添加して、結合溶液を形成することができる。
【0027】
コーティングスラリー組成物は、上述の結合溶液と、金属粒子、例えば粉、フレーク、又はこれらの組合せの形をとるアルミニウム粒子とを混合することによって、形成してもよい。結合溶液は、添加されたアルミニウムとの任意のその他の反応に対して、本質的に不活性である。添加されたアルミニウム粒子とリン酸との間の目に見える反応は、コーティング組成物において少なくとも1時間、場合によっては8時間以上もの間、明らかでない。
【0028】
結合溶液は、粒状アルミニウムと組み合わせた場合、鉄類金属合金基材のコーティング組成物を形成するのに特に有用である。そのようなコーティング組成物で使用するのに適した粒状アルミニウムは周知であり、特許文献で詳細に論じられている。例えば、そのような粒状アルミニウムは、非リーフィングアルミニウムフレークと噴霧化アルミニウム粒子とを併せた使用を特に対象とするMosserの米国特許第4,537,632号、第4,544,408号、第4,548,646号、第4,617,056号、第4,659,613号、及び第4,863,516号と;参照によりその全てが本明細書に組み込まれているMosserの米国特許第4,889,558号及び第5,116,672号に記述されている。アルミニウム粒子を利用する、大部分のクロム酸塩/リン酸塩ベースの組成物は、種々の性質を有するコーティングのために噴霧化され且つ/又はフレーク状にされた様々なサイズの粒子を使用する。これらは、当然ながら、本発明の結合及びコーティング組成物にも適している。
【0029】
組成物中にアルミニウムを使用する場合、このアルミニウムは、平均サイズが2.5〜10μmの気体噴霧化された球状、平均サイズが4.5〜10μmの空気噴霧化されたもの、フレークアルミニウム;フレーク/噴霧化混合物;及びアルミニウム合金であってもよい。より大きな粒子並びにより小さな粒子を使用することができる。
【0030】
スラリーコーティング組成物は、コーティングがなされる鉄類金属合金表面に、従来の方法で付着させることができる。付着手法は、上述の特許に記載されており、参照により本明細書に組み込まれている。一般に、コーティングされる部分を脱脂し、酸化アルミニウム研磨剤を吹き付け、コーティングを、噴霧やブラッシング、浸漬、浸漬回転などの任意の適切な手段により付着させ、コーティングの色が灰色がかるまで乾燥し、コーティングを約650°F(343℃)の温度で15分間以上硬化し、望みに応じてより高い又はより低い温度で硬化することが望ましい。スラリーは、好ましくは、2種のコーティング又は層として、それぞれ約0.001インチ(25μm)の厚さで付着させ、次いで望みに応じて、それぞれのコーティングの後に、約180°F(82℃)で15から30分間乾燥し、次いで650°F(343℃)で30から60分間硬化する。
【0031】
650°F(343℃)で硬化したコーティングは、導電性ではなく、したがって、下に在る基材材料の腐食に対する電気防食保護を行うことができない。しかしながら、コーティングは、ガラスビーズ、研磨媒体で低圧で研磨し、又は導電性犠牲コーティングが生成されるようその他の方法で機械的に冷間加工し、又はMIL−C−81751B仕様書(参照により本明細書に組み込む。)に指定されるように加熱することにより、導電性にすることができる。このように、コーティングは、機械的又は熱的プロセスによって、導電性にすることができ、それによって、下に在る鉄類合金基材の電気防食並びに障壁保護をもたらすことができる。望ましくは、第2の層を付着し、乾燥し、硬化及び加工して導電性にした後、コーティングの表面を結合溶液で封止して(封止コーティング)、コーティングによって提供される酸化及び腐食防止をさらに増大させ、作用中のコーティングにおけるアルミニウム消費速度を低下させることができる。この結合溶液は、本明細書に記述される結合溶液にすることができるが、必ずしもそれである必要はない。封止コーティングは、追加の充填剤又は顔料を持たないことに加え、この産業で典型的に使用される顔料及び充填剤を含有していてもよい。これらには、アルミナ、シリカ、クロミア、及びチタニアなどの金属酸化物、並びに銅、鉄、及びマンガン亜クロム酸塩、及びマグネシウムフェライトなどの、混合金属酸化物及び酸化物スピネルなどの材料が含まれる。顔料の目的は、酸化及び腐食防止を増大させ、並びに改善された付着特性を提供することである。封止コーティングは、上述のスラリーコーティングと同じ時間及び温度で乾燥及び硬化してもよい。
【0032】
上述のように、クロム酸塩、モリブデン酸塩、及びその他同様の毒性又は望ましくない金属を本質的に含まない、結合及びコーティング組成物を提供することがしばしば望ましい。より許容可能な環境条件によって、クロム、モリブデン、及びニッケルなどの金属の使用が可能になり得る状況では、そのような金属を、結合及び/又はコーティング組成物で使用することが除外されない。クロム及び/又はモリブデンが存在する場合、クロム及び/又はモリブデンの量は、金属アルミニウムとの反応に対してリン酸溶液を不動態化し又は中和するのに必要な量よりも少なくすべきである。従来技術で教示される結合溶液を不動態化するのに必要な量は、一般に、最終的なコーティング組成物の少なくとも0.2重量%である。
【0033】
いくつかの適用例では、保護トップコートをコーティング部分に、例えばタービンガス経路に接触するようになるタービン構成部品の表面に、付着させることが望ましい。トップコートの非限定的な例には、参照により本明細書に組み込まれる、Myersらの米国特許第5,968,240号に記載されているリン酸イオン及び硝酸イオンを含有する組成物と、Myersらの第6,224,657号に記載されているリン酸及びクロムIII(Cr3+)イオンを含有する組成物が含まれる。
【0034】
以下の例は、単なる例示であり、本発明を限定するものと解釈すべきではない。
【実施例】
【0035】
(例1)
結合剤
結合溶液用の結合剤は、脱イオン水、リン酸、酸化ホウ素、及び炭酸マグネシウムを、以下の表に列挙する量で合わせることによって調製した。
【表2】

【0036】
結合溶液
結合溶液は、結合剤100mlをHeucophos ZPAと混合することによって調製した。この結合溶液に関して得られたpHは、3.1であった。
【0037】
コーティング組成物
コーティング組成物は、結合溶液100mlを、アルミニウム粉体(5μm)70gと混合することによって調製した。
【0038】
(例2〜9)
コーティング組成物は、以下の組成を有する結合溶液から、例1に記述された手法で調製した。
【表3】

【0039】
(比較例1〜4)
コーティング組成物は、以下の組成を有する結合溶液から、例1に記載された手法で調製した。
【表4】

【0040】
例1〜9及び比較例1〜4のコーティングを、以下の基準に関して試験をした:
1.混合コーティングの、室温でのポットライフ/安定性。
2.酸化腐食耐性。1種のコーティング、0.8〜1.0ミルの厚さ(20〜25μm)のものを備えた3×4インチのパネルを、工業規格の酸化腐食試験に従い評価した。パネルをビーズ研磨し、700°F(371℃)で23時間熱処理し、次いで1075°F(579℃)で4時間熱処理し、スクライブし、ASTM B117により5%塩噴霧中に400時間置いた。
3.熱サイクル塩噴霧。2種のコーティング、2回硬化し1.5ミル(38μm)の厚さのものを有する4×4インチのパネルを、10回の熱/塩噴霧サイクルに供したものについて評価したが、このとき、1サイクルは、850°F(454℃)で7.5時間及び5%塩噴霧中に15.5時間であった。コーティングしたパネルをグリット研磨し、スクライブした後に、試験を行った。
【0041】
試験手順
1010軟鋼パネルを、0.030インチ(0.75mm)の厚さのシート素材に切断し、固有のIDコードを有する各パネルに打ち抜くことによって作製した。これらのパネルを650°F(343℃)で熱的に脱脂し、次いで100メッシュのアルミナグリットを用い、60psiでグリットブラストした。650°F(343℃)で1時間処理することからなる酸化ステップを、コーティング付着の前に行った。
【0042】
結果
ポットライフ/安定性
表Iは、各コーティングに関してポットライフ/安定性を観察した結果を示す。比較例3は、非常に短いポットライフを有しており、基材と反応した兆候を示した。これは、浸出性腐食防止剤が存在しない場合、安定性に悪影響があることを実証している。
【表5】

【0043】
酸化腐食耐性
本発明の教示により全てが形成されている、例1から9によりコーティングされたパネルは、スクライブ及びこの分野(スクライブから離れたコーティング領域)における最小犠牲(白色)腐食製品で赤錆を示さなかった。腐食防止剤なしで配合された比較例3のコーティングは、例1から9のコーティングよりも、スクライブ及びこの分野のかなり著しい犠牲腐食で赤錆を示した。この挙動は、浸出性腐食防止剤が、硬化したコーティングの耐腐食性並びに上記にて論じた混合コーティングのポットライフを改善することを実証している。著しい赤錆は、比較例2でコーティングされたパネルのスクライブで観察され、浸出性腐食防止剤の腐食利益が、コーティング中のその他のイオン、例えばマンガン酸塩及び硫酸塩によって失われ得ることを実証している。
【0044】
熱サイクル塩噴霧
比較例2のパネルは、この分野及びスクライブにおいて、試験に突入して早くも4サイクルで赤錆を示した。5サイクル後、このコーティングは、特にパネルの離面で大きく層剥離し始めた。その他全ての試験片は、スクライブ中にいくらかの赤錆を有したが、上記分野には錆はなく、犠牲挙動(変色及び白色腐食製品)のいくらかの兆候を示した。例4のパネルは、その他のパネルよりも、スクライブ及び上縁で多くの腐食があった。例1、2、3、5、6、7、8と比較例1、3、及び4のコーティングは、この試験で同様の性能を有すると判断された。
【0045】
特定の態様について記述してきたが、当業者なら修正を加えることができるので、本発明はそれに限定するものではないと理解すべきである。本出願は、開示され且つ特許請求の範囲に記載される、根幹を成す本発明の精神及び範囲に包含される、任意の及び全ての修正例を企図するものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン酸、マグネシウムイオン源、及び浸出性腐食防止剤から本質的になり、約2から約4.5のpHを有する水性結合溶液。
【請求項2】
ホウ酸イオン源をさらに含む、請求項1に記載の結合溶液。
【請求項3】
前記ホウ酸イオン源が、酸化ホウ素及びホウ酸からなる群から選択される、請求項2に記載の結合溶液。
【請求項4】
前記マグネシウムイオン源が、酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、及びこれらの組合せからなる群から選択される、請求項1に記載の結合溶液。
【請求項5】
前記浸出性腐食防止剤が、オルトリン酸アルミニウム亜鉛、トリポリリン酸アルミニウム亜鉛、トリポリリン酸アルミニウム、ポリリン酸アルミニウム亜鉛、ポリリン酸アルミニウムストロンチウム、変性ポリリン酸アルミニウムストロンチウム、変性ポリリン酸カルシウム亜鉛、リン酸モリブデン酸亜鉛、及びこれらの組合せからなる群から選択される、請求項1に記載の結合溶液。
【請求項6】
クロム酸、モリブデン酸、及びバナジウムイオンを実質的に含まない、請求項1に記載の結合溶液。
【請求項7】
約2.5から約3.5のpHを有する、請求項1に記載の結合溶液。
【請求項8】
請求項1に記載の結合溶液及び金属粒子を含む、水性リン酸コーティング組成物。
【請求項9】
少なくとも1時間、金属粒子との反応に対して安定である、請求項8に記載のコーティング組成物。
【請求項10】
少なくとも4時間安定である、請求項9に記載のコーティング組成物。
【請求項11】
前記金属粒子が、アルミニウム粉体、アルミニウムフレーク、又はこれらの組合せを含む、請求項8に記載のコーティング組成物。
【請求項12】
請求項8に記載のコーティング組成物を部品の表面に付着させるステップと、前記部品を熱に曝してコーティングを硬化するステップとを含む、鉄類合金表面を有する部品をコーティングする方法。
【請求項13】
請求項8に記載の硬化済みコーティング組成物でコーティングされた金属表面を有する、コーティングされた部品。
【請求項14】
保護トップコートをさらに含む、請求項13に記載のコーティングされた部品。
【請求項15】
リン酸と;酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、及びこれらの組合せからなる群から選択されるマグネシウムイオン源と;オルトリン酸アルミニウム亜鉛、トリポリリン酸アルミニウム亜鉛、トリポリリン酸アルミニウム、ポリリン酸アルミニウム亜鉛、ポリリン酸アルミニウムストロンチウム、変性ポリリン酸アルミニウムストロンチウム、変性ポリリン酸カルシウム亜鉛、リン酸モリブデン酸亜鉛、及びこれらの組合せからなる群から選択される浸出性腐食防止剤とから本質的になり、約2.5から約3.5のpHを有する水性結合溶液。
【請求項16】
pHが約2.7から約3.3である、請求項15に記載の結合溶液。
【請求項17】
前記浸出性腐食防止剤が、オルトリン酸アルミニウム亜鉛、トリポリリン酸アルミニウム亜鉛、トリポリリン酸アルミニウム、及びこれらの組合せからなる群から選択される、請求項15に記載の結合溶液。
【請求項18】
請求項15に記載の結合溶液及び金属粒子を含む、水性リン酸コーティング組成物。
【請求項19】
請求項15に記載のコーティング組成物を部品の表面に付着させるステップと、前記部品を熱に曝してコーティングを硬化するステップとを含む、鉄類合金表面を有する部品をコーティングする方法。
【請求項20】
請求項15に記載の硬化済みコーティング組成物でコーティングされた金属表面を有する、コーティングされた部品。
【請求項21】
保護トップコートをさらに含む、請求項20に記載のコーティングされた部品。
【請求項22】
請求項1に記載の結合溶液及び少なくとも1種の非金属顔料を含む、水性リン酸コーティング組成物。
【請求項23】
少なくとも1種の非金属顔料が、アルミナ、ジルコニア、セリア、及び混合金属酸化物からなる群から選択される、請求項22に記載のコーティング組成物。

【公表番号】特表2011−515589(P2011−515589A)
【公表日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−501950(P2011−501950)
【出願日】平成21年3月23日(2009.3.23)
【国際出願番号】PCT/US2009/037960
【国際公開番号】WO2009/120629
【国際公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【出願人】(500092413)プラックセアー エス.ティ.テクノロジー、 インコーポレイテッド (23)
【Fターム(参考)】