説明

肉球保護剤組成物

【課題】犬や猫等の肉球部の乾燥を防いで保護する効果を有する肉球保護剤組成物を提供する。
【解決手段】次の成分(A)〜(D);(A)一般式(1)等で表されるセラミド類:0.005〜1質量%


〔式中、R1は炭素数4〜30の炭化水素基等を、Zはメチレン基等を、Y1〜Y4は各々独立して水素原子等を、R2及びR3は各々独立して水素原子等を、R4は炭素数5〜60の炭化水素基等を、R5は水素原子等を示す。〕(B)非イオン界面活性剤:0.1〜5質量%(C)重合度3以上のポリプロピレングリコール:0.5〜10質量%(D)水を含有する、肉球保護剤組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミド又はセラミド類似物質を含有し、犬、猫等の愛玩動物の肉球部の日常手入れをするための肉球保護剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
犬、猫等の足裏部の構造は、爪を有する指部と肉球と呼ばれる部分からなり、接地部のほとんどは肉球である。肉球部は一般的な運動時のクッション的な役割を担い運動時の衝撃を吸収するという運動に最も重要な部分である。肉球部に損傷を負うと運動が十分にできなくなったり、運動時の衝撃を十分に吸収できないため、足への負担が大きくなり、跛行等の原因になると言われている。
【0003】
近年、犬や猫等の飼育に関しては、室内での飼育が主流になり、住居を締め切っての放し飼いや、通常はケージで飼育し必要なときだけ部屋に放つ等、飼育環境のほとんどが室内となる場合も少なくない。ところが、このような環境下で飼育された犬や猫等は、畳やカーペット等の柔らかな住環境で過ごすことが多いため、その肉球部は室外飼育のみの場合と比べて柔らかく保たれており、外部刺激等に対し、非常に敏感になっている。このため、散歩等室外で行動する際には、夏場には高温になったアスファルトでダメージを受け、一方冬場は過度の乾燥のために肉球部がカサカサになり、擦り傷、切り傷等の損傷を受ける場合が少なくない。
【0004】
従来、肉球部を保護する方法としては、クリーム等の油剤により硬くなった肉球部に潤いを与えるという方法しかなく、この方法によると一時的に肉球部の状態を改善するが、散歩等の運動中にクリーム等が剥がれ落ちてしまい効果が持続しなかったり、一時的に損傷改善する効果はあっても損傷を防ぐ効果はないといった問題点があった。
そのような肉球を保護することを目的として、糖類又はグリセリン類と尿素を含有するもの、ラフィノース及びキサンタンガムを含有するもの、樹脂質シリコンとガム質シリコンを含有するものが開示されている(特許文献1〜3参照)。しかしこれらの保護剤は物理的に肉球を保護する効果は有するものの、肉球からの水分の蒸散を抑え、結果的に肉球部の乾燥を防いで保護する効果は無いかもしくは有っても不十分なものであった。
【0005】
一方、セラミドは脂質バリアーのキー成分としてラメラ層を形成し、水分の蒸散を抑えて柔軟でみずみずしく保つために重要な役割を果たしていることが知られており、このような物質を犬や猫等の肉球に応用することも有用であると考えられる。我々はセラミド又はセラミド類似物等の所謂セラミド類をアニオン又は非イオン界面活性剤、ポリエーテル変性シリコーン、及び一定のアルコール類と共に水中に共存させた洗浄剤組成物が、足の肉球等の被毛が認められないような部位でもセラミド類の残留性を向上し、肉球がしっとりとした状態を保つことを開示している(特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003―226645号公報
【特許文献2】特開2004−22682号公報
【特許文献3】特開2004−357630号公報
【特許文献4】特開2008−127278号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし前記の方法は洗浄系であるため、後からすすぎの工程が加わり、一時的には残留性は高まるものの散歩等の運動中にセラミド類が脱落し、セラミド類による肉球からの水分の蒸散を抑え、結果的に肉球部の乾燥を防いで保護する効果を、十分に得ることができないことがわかった。
本発明は、犬や猫等の肉球にセラミド類を持続的に残留性させ、肉球からの水分の蒸散を抑え、結果的に肉球部の乾燥を防いで保護する効果を有する肉球保護剤組成物を提供することを課題目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、特定の構造を有するセラミド又はセラミド類似物質(本発明では、両者を併せて「セラミド類」という)を、少量の非イオン界面活性剤、ポリプロピレングリコール及び水を共存させた組成物が、上記要求を満たすものであることを見出した。
【0009】
すなわち本発明は、次の成分(A)〜(D)
(A)一般式(1)又は(2)で表されるセラミド類:0.005〜1質量%
【0010】
【化1】

【0011】
〔式中、R1はヒドロキシ基、オキソ基若しくはアミノ基が置換してもよい炭素数4〜30の直鎖、分岐鎖若しくは環状の飽和若しくは不飽和の炭化水素基又は水素原子を示し、Zはメチレン基、メチン基又は酸素原子を示し、破線はZがメチン基である場合の不飽和結合を示し、Y1は水素原子、アセチル基又はグリセリル基を示すか、又は隣接する酸素原子とともにオキソ基を形成し、Y2、Y3及びY4は各々独立して水素原子、ヒドロキシ基又はアセトキシ基を示し(但し、Zがメチン基であるとき、Y2とY3は一方が水素原子で他方は存在せず、−O−Y1がオキソ基であるとき、Y4は存在しない)、R2及びR3は各々独立して水素原子、ヒドロキシ基、ヒドロキシメチル基又はアセトキシメチル基を示し、R4はヒドロキシ基、オキソ基又はアミノ基が置換してもよい、主鎖にエーテル結合、エステル結合又はアミド結合を有していてもよい炭素数5〜60の直鎖、分岐鎖又は環状の飽和又は不飽和の炭化水素基又はアルコキシ基を示し、R5は水素原子を示すか、ヒドロキシ基、ヒドロキシアルコキシ基、アルコキシ基及びアセトキシ基から選ばれる置換基を有してもよい総炭素数1〜30の直鎖又は分岐鎖の飽和又は不飽和の炭化水素基を示す(但し、R1が水素原子でZが酸素原子であるとき、R5はヒドロキシ基、ヒドロキシアルコキシ基、アルコキシ基及びアセトキシ基から選ばれる置換基を有してもよい総炭素数10〜30の炭化水素基であり、R1が水素原子以外の基であるとき、R5は水素原子あるいは、ヒドロキシ基、ヒドロキシアルコキシ基、アルコキシ基及びアセトキシ基から選ばれる置換基を有してもよい総炭素数1〜30の炭化水素基である)。〕
【0012】
【化2】

【0013】
〔式中、R6は水酸基及び/又はアルコキシ基が置換していてもよい炭素数1〜12の直鎖又は分岐鎖の炭化水素基を示し、R7は炭素数1〜5の直鎖又は分岐鎖の二価の炭化水素基を示し、R8は炭素数1〜22の直鎖又は分岐鎖の二価の炭化水素基を示す。〕
【0014】
(B)非イオン界面活性剤:0.1〜5質量%
(C)重合度3以上のポリプロピレングリコール:0.5〜10質量%
(D)水
を含有する肉球保護剤組成物を提供するものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明の肉球保護剤組成物は、犬や猫等の肉球にセラミド類を持続的に残留性させ、肉球からの水分の蒸散を抑え、結果的に肉球部の乾燥を防いで保護することができる。また、夏場の高温になったアスファルトや冬場の過度の乾燥によるダメージから肉球を守ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の肉球保護剤組成物を構成する成分(A)のセラミド類は、角質細胞間に層状構造を形成し、角質細胞の水和や接着に寄与できる天然又は合成の両親媒性物質である。成分(A)のうち一般式(1)で表されるセラミド類において、一般式(1)中のR1としては、ヒドロキシ基が置換してもよい炭素数7〜22の直鎖、分岐鎖若しくは環状の飽和若しくは不飽和の炭化水素基又は水素原子が好ましい。Y1としては、水素原子、グリセリル基が好ましい。Y2、Y3及びY4としては、その0〜1個がヒドロキシ基であり、残余が水素原子であるのが好ましい。R2及びR3としては、一方が水素原子又はヒドロキシメチル基であり、他方が水素原子であるのが好ましい。
【0017】
4としては、ヒドロキシ基又はアミノ基が置換していてもよい炭素数5〜35の直鎖、分岐鎖又は環状の飽和又は不飽和の炭化水素基、又は該炭化水素基のω位に、ヒドロキシ基が置換してもよい炭素数8〜22の直鎖、分岐又は環状の飽和又は不飽和の脂肪酸がエステル結合又はアミド結合したものが好ましい。結合する脂肪酸としては、イソステアリン酸、1,2−ヒドロキシステアリン酸又はリノール酸が好ましい。R5としては、水素原子あるいは、ヒドロキシ基、ヒドロキシアルコキシ基及びアルコキシ基から選ばれる1〜3個が置換していてもよい総炭素数1〜8の炭化水素基が好ましい。ここで、ヒドロキシアルコキシ基及びアルコキシ基としては炭素数1〜7のものが好ましい。
【0018】
一般式(1)で表されるセラミド類に含まれるものとして、天然又は天然型セラミド、及びその誘導体(以下、「天然型セラミド類」と記載する)、更にセラミド類似物質がある。
【0019】
天然型セラミド類の具体例としては、以下に構造を示すような、スフィンゴシン、ジヒドロスフィンゴシン、フィトスフィンゴシン又はスフィンガジエニンがアミド化されたセラミドType1〜7(例えば、J. Lipid Res., 24:759 (1983)の図2、及びJ. Lipid. Res.,35:2069 (1994)の図4記載のブタ及びヒトのセラミド類)が挙げられる。
【0020】
【化3】

【0021】
さらに、これらのN−アルキル体(例えばN−メチル体)も挙げられる。これらは天然からの抽出物及び合成物のいずれでもよく、市販のものを用いることができる。
【0022】
また、一般式(1)で表されるセラミド類に含まれるセラミド類似物質の好ましい具体例としては、以下のものが挙げられる。
【0023】
【化4】

【0024】
成分(A)のセラミド類のうち、一般式(2)で表されるジアミド化合物もセラミド類似物質である。一般式(2)中のR6としては、水酸基及び炭素数1〜6のアルコキシ基から選ばれる1〜3個が置換していてもよい炭素数1〜12の直鎖又は分岐鎖のアルキル基が好ましい。中でも、無置換の炭素数1〜12のアルキル基、又は水酸基が1〜2個、炭素数1〜6のアルコキシ基が1個、若しくは水酸基と炭素数1〜6のアルコキシ基が1個ずつ置換した、炭素数2〜12のアルキル基がより好ましい。具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、ドデシル基、2−メチルプロピル基、2−エチルヘキシル基、2−ヒドロキシエチル基、9−ヒドロキシノニル基、2,3−ジヒドロキシプロピル基、2−メトキシエチル基、2−ヒドロキシ−3−メトキシプロピル基、9−メトキシノニル基等が挙げられ、なかでも2−ヒドロキシエチル基、メチル基、ドデシル基、2−メトキシエチル基が好ましい。
【0025】
一般式(2)において、R7としては、炭素数2〜5の、特に炭素数2〜3の直鎖又は分岐鎖のアルキレン基が好ましい。具体的には、エチレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基、ペンタメチレン基、1−メチルエチレン基、2−メチルエチレン基、1−メチルトリメチレン基、2−メチルトリメチレン基、1,1−ジメチルエチレン基、2−エチルトリメチレン基等が挙げられ、なかでもエチレン基及びトリメチレン基が好ましい。
【0026】
一般式(2)において、R8としては、炭素数2〜22の直鎖又は分岐鎖の二価炭化水素基が好ましく、特に炭素数11〜22の直鎖又は分岐鎖のアルキレン基、及び1〜4個の二重結合を有するアルケニレン基が好ましい。具体的には、エチレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基、ヘキサメチレン基、ヘプタメチレン基、オクタメチレン基、デカメチレン基、ウンデカメチレン基、ドデカメチレン基、トリデカメチレン基、テトラデカメチレン基、ヘキサデカメチレン基、オクタデカメチレン基、1−メチルエチレン基、2−エチルトリメチレン基、1−メチルヘプタメチレン基、2−メチルヘプタメチレン基、1−ブチルヘキサメチレン基、2−メチル−5−エチルヘプタメチレン基、2,3,6−トリメチルヘプタメチレン基、6−エチルデカメチレン基、7−メチルテトラデカメチレン基、7−エチルヘキサデカメチレン基、7,12−ジメチルオクタデカメチレン基、8,11−ジメチルオクタデカメチレン基、7,10−ジメチル−7−エチルヘキサデカメチレン基、1−オクタデシルエチレン基、エテニレン基、1−オクタデセニルエチレン基、7,11−オクタデカジエニレン基、7−エテニル−9−ヘキサデカメチレン基、7,12−ジメチル−7,11−オクタデカジエニレン基、8,11−ジメチル−7,11−オクタデカジエニレン基等が挙げられる。このうち、7,12−ジメチルオクタデカメチレン基、7,12−ジメチル−7,11−オクタデカジエニレン基、オクタデカメチレン基、ウンデカメチレン基、トリデカメチレン基が特に好ましい。
【0027】
特に好ましいセラミド類(2)は、R6、R7及びR8として、それぞれ上で挙げた好ましい基を組み合わせた化合物であり、その具体例として、以下の化合物が挙げられる。
【0028】
【化5】

【0029】
【化6】

【0030】
一般式(1)又は(2)で表されるセラミド類は、成分(A)として2種以上を併用することもでき、またその含有量は、本発明の肉球保護剤組成物中の0.005〜1質量%であるが、0.01〜0.3質量%であることが、肉球からの水分蒸散量を抑制する点から好ましい。
【0031】
本発明の肉球保護剤組成物は成分(B)として非イオン界面活性剤を含有する。非イオン界面活性剤としては、公知のものを使用することができるが、本発明の組成物が洗い流さないリーブオンタイプであることから、食品にも使用できる非イオン界面活性剤が好ましい。そのような非イオン界面活性剤としてはグリセリン脂肪酸エステル類、ソルビタン脂肪酸エステル類、プロピレングリコール脂肪酸エステル類、有機酸モノグリセライド類、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類、ショ糖脂肪酸エステル類、ポリグリセリン脂肪酸エステル類、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル類、カゼインナトリウム類、レシチン類、酵素処理レシチン類等が挙げられる。それらのうち、本発明の組成物として、親水基がグリセリル基からなる非イオン界面活性剤を用いると、後述するように、安定な泡状の形状となり易くなるので好ましい。親水基がグリセリル基からなる非イオン界面活性剤の具体例としては、グリセリンに疎水基として高級脂肪酸がエーテル結合もしくはエステル結合を介して結合している非イオン界面活性剤が挙げられる。親水基であるグリセリル部分はモノグリセリルでもよいし、グリセリル基が重合したポリグリセリル基でもよい。また疎水基としての高級脂肪酸は炭素数が8〜22のものが好ましく、不飽和部分や分岐鎖を有していてもよい。高級脂肪酸の結合はエーテル結合もしくはエステル結合を介してひとつの高級脂肪酸が結合していることが望ましい。これらの非イオン活性剤の具体例としては、例えば、モノカプリル酸グリセリン、モノカプリン酸グリセリン、モノステアリン酸グリセリン、α,α’−オレイン酸ピログルタミン酸グリセリン、モノイソステアリン酸グリセリン等のモノグリセリン脂肪酸エステル類;モノカプリル酸ポリグリセリル、モノカプリン酸ポリグリセリル、モノステアリン酸ポリグリセリル、α,α’−オレイン酸ピログルタミン酸ポリグリセリル、モノイソステアリン酸ポリグリセリル等のポリグリセリン脂肪酸エステル類;イソステアリルグリセリルエーテル等のグリセリルアルキルエーテル類等を挙げることができる。これらの非イオン界面活性剤のうち、モノカプリル酸グリセリン、モノカプリン酸グリセリン、モノカプリル酸ポリグリセリル、モノカプリン酸ポリグリセリル等の脂肪酸部分が中鎖のものが好ましい。
【0032】
非イオン界面活性剤は、成分(B)として2種以上を併用することもできる。また非イオン界面活性剤の含有量は、本発明の肉球保護剤組成物中の0.1〜5質量%であるが、0.5〜3質量%であることが、肉球保護効果及びセラミド類の溶解性の面から好ましい。
【0033】
成分(A)のセラミド類と成分(B)の非イオン界面活性剤との比率は、肉球保護効果及び成分(A)の溶解性を最適にする点から、(A)/(B)=0.001〜0.1、特に0.003〜0.05の質量比とすることが好ましい。
【0034】
なお、本発明の組成物中には、界面活性剤として非イオン界面活性剤のみを含むことが好ましい。他の界面活性剤(アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤)を含有することも可能ではあるが、本発明の組成物が洗い流さないリーブオンタイプであること、刺激性や誤食時のトラブル予防の観点からは、他の界面活性剤含有量は組成物中3質量%以下、特に1質量%以下であることが好ましい。また、特に好ましい形態としては、非イオン界面活性剤としてグリセリル基を親水基とするものを主として含有するもの、殊更、それのみを含有するものが好ましい。
【0035】
本発明の肉球保護剤組成物を構成する成分(C)の重合度3以上ポリプロピレングリコールは、ポリプロピレンオキシドとも呼ばれ、プロピレンオキシドを重縮合して得られる。本発明においては、重合度が3以上のものをポリプロピレングリコールとする。ポリプロピレングリコールは、成分(B)の非イオン界面活性剤と組み合わせることで成分(A)の分散性を高め、肉球上に均一に浸透させることができる。
ポリプロピレングリコールには直線状に重合したジオール型、分岐状に重合したトリオール型が存在するが、工業用途ではそれらの混合物として提供され、本発明の肉球保護剤組成物を構成する成分(C)のポリプロピレングリコールについても、ジオール型とトリオール型の混合物として含有される。
本発明の肉球保護剤組成物を構成する成分(C)のポリプロピレングリコールは重合度が50程度までは液体状態で存在するが、50を超えると、ペースト状〜固体状になるので、本発明の肉球保護剤組成物への配合の容易性の観点からは重合度50以下が好ましい。また重合度が4以下になると本発明の肉球保護剤組成物への溶解性が高くなりすぎるので、成分(A)を均一に分散させて肉球への定着性を高める観点からは重合度5以上が好ましい。したがって本発明の肉球保護剤組成物を構成する成分(C)のポリプロピレングリコールとしては重合度が5〜50のものがより好ましく、7〜30であることがより好ましい。
【0036】
これらポリプロピレングリコールは、2種以上を併用することもでき、その場合、混合後の平均重合度が上記範囲に入ることが好ましい。またその含有量は、本発明の肉球保護剤組成物中の0.5〜10質量%であるが、1〜7質量%であることが、成分(A)を均一に分散させ、肉球への定着性を高めて持続的に残留させる点から好ましい。
【0037】
成分(A)のセラミド類と成分(C)のポリプロピレングリコールとの比率は、成分(A)が持続的に残留できるように、(A)/(C)が0.001〜0.1、特に0.003〜0.05の質量比とするのが好ましい。
【0038】
本発明の肉球保護剤組成物には、上記成分(B)及び(C)を含有させることにより、通常このような組成物で成分(A)を溶解するために汎用されるエタノール等の低級アルコールを用いなくても製造が可能となるという利点も有しており、刺激性を抑える観点等から好ましい。組成物中にエタノールを全く含まないようにすることができるが、3質量%以下、特には1質量%以下であっても、低刺激性の観点からは好ましい。
【0039】
本発明の肉球保護剤組成物は(D)水を含み、成分(A)〜(C)が水中に溶解又は分散される形態である。水は肉球保護剤組成物中に40質量%〜99.395質量%、特に50質量%〜98質量%、更には60質量%〜95質量%含有されることが好ましい。
【0040】
本発明の肉球保護剤組成物には、上記成分(A)〜(D)のほかに、通常の化粧品等に用いられる他の成分、例えば、粉末成分、液体油脂、固体油脂、ロウ、炭化水素、高級アルコール、シリコーン類、その他の非イオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤、カチオン重合体、両性重合体、アニオン重合体、保湿剤、水溶性高分子化合物、増粘剤、皮膜剤、紫外線吸収剤、金属イオン封鎖剤、糖類、アミノ酸類、有機アミン類、合成樹脂エマルジョン、pH調整剤、緩衝剤、皮膚栄養剤、ビタミン類、酸化防止剤、酸化防止助剤、香料等を、必要に応じて適宜配合することができる。
【0041】
本発明の肉球保護剤組成物は、散歩に行く前や散歩後に犬や猫等の肉球部に対して適用するものであるが、適用時の形状としてはいかなる形状であってもよく、溶液状、乳液状、ミスト状、泡状等の形状を採ることができる。中でも、より均一に適用するためには泡状で吐出することが好ましい。泡状で吐出するためには、液化石油ガス等の噴射剤とともに密閉容器に詰めて使用するエアゾール剤やポンプフォーム、スクイズフォームのような細かな網状のフィルターを通すことにより泡化させるような剤型が挙げ考えられる。本発明の組成物では成分(B)として親水基がグリセリル基からなる非イオン界面活性剤を選択した場合には高い起泡効果を有するため、安定な泡状形態をとり易いので好ましい。
【実施例】
【0042】
実施例1〜3及び比較例1〜7
表1記載の成分を配合した肉球保護剤組成物を調製した。本組成物はポンプフォームによって泡状の形態として使用した。
【0043】
【表1】

【0044】
(1)セラミド類の残留量の測定
ビーグルの足の肉球に、表1に記載の実施例1〜3及び比較例1〜6の肉球処理剤を、ひとつの肉球あたりピンポン玉大適用した。別途、比較例7として特開2008−127278の実施例4に該当する洗浄剤組成物を調製し、ビーグルの足を洗った。散歩に連れ出す前に、これらを適用したビーグルの右前肢及び左後肢よりアセトン/エーテル(2/1)で10秒間×3回抽出した。続いて散歩に連れ出し、所定のコースを1時間回った後に左前肢及び右後肢よりアセトン/エーテル(2/1)で10秒間×3回抽出した。抽出品は溶媒を乾燥窒素ガスにて除去し、メタノール1mlに溶解させた。このエタノール溶液より液体クロマトグラフィーにて、前脚と後脚に残留したセラミド機能類似物質(ビス(メトキシプロピルアミド)オクタン)の合計量(μg)を定量した。結果を表2に示す。
【0045】
【表2】

【0046】
表2から明らかように、実施例1〜3では、散歩後でも十分量のセラミド類が残存していたが、比較例1〜7では散歩後にはセラミド類が十分残存していなかった。
【0047】
(2)肉球の状態の評価
ビーグル犬24頭を3頭ずつ8群に分け、1日1回の散歩前に実施例1〜3及び比較例1〜4及び7を適用して、散歩に連れ出した。使用期間は12月中旬〜1月中旬の1ヶ月間で、使用後に肉球の状態について「乾燥の具合」及び「硬さ」の観点からを試験開始前と比較評価した。評価基準は以下のとおり。
【0048】
・「乾燥の具合」:試験開始前と終了後に飼主が4段階(0:開始前と変わらない、1:開始前よりやや乾燥している、2:開始前より乾燥している、3:開始前よりかなり乾燥している)で評価した。評価結果は3人の平均値で表した。
【0049】
・「硬さ」:試験開始前と終了後に飼主が4段階(0:開始前と変わらない、1:開始前よりやや硬くなっている、2:開始前より硬くなっている、3:開始前よりかなり硬くなっている)で評価した。評価結果は3人の平均値で表した。
結果を表3に示す。
【0050】
【表3】

【0051】
表3から明らかように、実施例1〜3では、1ヶ月間使用することにより、肉球が乾燥したり硬くなったりすることはなかった。比較例1〜4及び7では、冬場の乾いた環境下で肉球が乾燥し、硬くなっていた。比較例5及び6については肉球の状態の観察は行わなかったが、散歩後のセラミド機能類似物質の残留量が実施例1〜3と比較して十分ではないことから、肉球保護効果は小さいことが推察される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の成分(A)〜(D)を含有する肉球保護剤組成物。
(A) 一般式(1)又は(2)で表されるセラミド類 0.005〜1質量%
【化1】

〔式中、R1はヒドロキシ基、オキソ基若しくはアミノ基が置換してもよい炭素数4〜30の直鎖、分岐鎖若しくは環状の飽和若しくは不飽和の炭化水素基又は水素原子を示し、Zはメチレン基、メチン基又は酸素原子を示し、破線はZがメチン基である場合の不飽和結合を示し、Y1は水素原子、アセチル基又はグリセリル基を示すか、又は隣接する酸素原子とともにオキソ基を形成し、Y2、Y3及びY4は各々独立して水素原子、ヒドロキシ基又はアセトキシ基を示し(但し、Zがメチン基であるとき、Y2とY3は一方が水素原子で他方は存在せず、−O−Y1がオキソ基であるとき、Y4は存在しない)、R2及びR3は各々独立して水素原子、ヒドロキシ基、ヒドロキシメチル基又はアセトキシメチル基を示し、R4はヒドロキシ基、オキソ基又はアミノ基が置換してもよい、主鎖にエーテル結合、エステル結合又はアミド結合を有していてもよい炭素数5〜60の直鎖、分岐鎖又は環状の飽和又は不飽和の炭化水素基又はアルコキシ基を示し、R5は水素原子を示すか、ヒドロキシ基、ヒドロキシアルコキシ基、アルコキシ基及びアセトキシ基から選ばれる置換基を有してもよい総炭素数1〜30の直鎖又は分岐鎖の飽和又は不飽和の炭化水素基を示す(但し、R1が水素原子でZが酸素原子であるとき、R5はヒドロキシ基、ヒドロキシアルコキシ基、アルコキシ基及びアセトキシ基から選ばれる置換基を有してもよい総炭素数10〜30の炭化水素基であり、R1が水素原子以外の基であるとき、R5は水素原子あるいは、ヒドロキシ基、ヒドロキシアルコキシ基、アルコキシ基及びアセトキシ基から選ばれる置換基を有してもよい総炭素数1〜30の炭化水素基である)。〕
【化2】

〔式中、R6は水酸基及び/又はアルコキシ基が置換していてもよい炭素数1〜12の直鎖又は分岐鎖の炭化水素基を示し、R7は炭素数1〜5の直鎖又は分岐鎖の二価の炭化水素基を示し、R8は炭素数1〜22の直鎖又は分岐鎖の二価の炭化水素基を示す。〕
(B)非イオン界面活性剤 0.1〜5質量%、
(C)重合度3以上のポリプロピレングリコール 0.5〜10質量%、
(D)水。
【請求項2】
前記非イオン界面活性剤は親水基がグリセリル基からなるものである、請求項1記載の肉球保護剤組成物。
【請求項3】
前記ポリプロピレングリコールの重合度が5〜50である、請求項1又は2記載の肉球保護剤組成物。
【請求項4】
エタノール含有量が3質量%以下である、請求項1〜3のいずれか1項記載の肉球保護剤組成物。
【請求項5】
泡状の形態である、請求項1〜4のいずれか1項記載の肉球保護剤組成物。

【公開番号】特開2011−246356(P2011−246356A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−118263(P2010−118263)
【出願日】平成22年5月24日(2010.5.24)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】