説明

肌の酸素飽和度計測方法及び計測システム

【課題】肌拡大画像撮影装置を用いて、肌の表面状態の視覚的観察と肌の酸素飽和度の計測の双方を行えるようにする。
【解決手段】被験者の肌の内部反射光画像を取得し、該内部反射光画像から独立成分分析によりヘモグロビン成分画像を抽出し、該ヘモグロビン成分画像のピクセル毎の濃度の標準偏差又は平均値を算出し、該標準偏差又は平均値を用いて肌の酸素飽和度を評価する。あるいは複数の肌の計測から、予め、ヘモグロビン成分画像のピクセル毎の濃度の標準偏差又は平均値と、分光測定法で計測される酸素飽和度との関係式を取得しておき、任意の肌のヘモグロビン成分画像からその肌の酸素飽和度を計測する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、肌画像から肌の酸素飽和度を計測する方法及びシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、肌のきめの粗さ、毛穴状態、色むら等の表面状態を視覚的に観察し、評価するために、肌表面を拡大観察する肌拡大画像撮影装置が使用されている(特許文献1)。
【0003】
一方、肌表面から微小循環系までの領域の特定波長の吸光度を測定することにより、メラニン色素や、肌の血行状態の指標となる酸化型ヘモグロビンあるいは還元型ヘモグロビンの濃度を算出する方法(特許文献2)や、かかる測定を、コードレスプローブを用いて行う装置(特許文献3)が提案されている。
【0004】
特許文献2に記載の方法によれば、ヘモグロビンの酸素飽和度に基づく光学的特性を求めることができる。
【0005】
しかしながら、肌の酸素飽和度の計測、あるいは酸化型ないし還元型ヘモグロビンの濃度の算出のために行う従来の分光測定は、点計測を主体とする。一方、肌表面の拡大観察を行う肌拡大画像撮影装置は、ある程度の面積を計測対象とする。そのため、従来の手法では、肌拡大画像撮影装置で得られる画像から肌の酸素飽和度を計測することはできない。そこで、表面状態の拡大観察と酸素飽和度の計測との双方を行い、肌を総合的に評価するためには、肌拡大画像撮影装置と分光測定装置との双方を別個に備えなくてはならず、また、分光測定する部位を肌拡大画像撮影装置で探索することもできない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6−313708号公報
【特許文献2】特開平10−127585号公報
【特許文献3】特開2001−70251号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述の従来技術に対し、本発明は、肌拡大画像撮影装置を用いて、肌の表面状態の視覚的観察と肌の酸素飽和度の計測の双方を行えるようにし、肌の表面状態を観察、探索しながら所望の部位の酸素飽和度を計測できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、肌の内部反射光画像から抽出したヘモグロビン成分画像における濃度ムラは、還元型ヘモグロビン濃度の高い鬱血部位を反映しており、このヘモグロビン成分画像の濃度ムラを統計量として数値化すると、得られる数値は、従前の分光測定法で計測される肌の酸素飽和度と高い相関性を有することを見出した。
【0009】
即ち、本発明は、被験者の肌の内部反射光画像を取得し、
該内部反射光画像から独立成分分析によりヘモグロビン成分画像を抽出し、
該ヘモグロビン成分画像のピクセル毎の濃度の標準偏差又は平均値を算出し、
該標準偏差又は平均値を用いて肌の酸素飽和度を評価する酸素飽和度評価方法を提供する。
【0010】
また、本発明は、複数の肌について、分光測定法により酸素飽和度を計測すると共に、
上述の方法によりヘモグロビン成分画像のピクセル毎の濃度の標準偏差又は平均値を算出し、
該標準偏差又は平均値と前記酸素飽和度との関係式を取得し、
任意の肌について、内部反射光画像から独立成分分析によりヘモグロビン成分画像を抽出し、
該ヘモグロビン成分画像のピクセル毎の濃度の標準偏差又は平均値を算出し、
前記関係式を用いて該標準偏差又は平均値から当該任意の肌の酸素飽和度を算出する酸素飽和度計測方法を提供する。
【0011】
さらに、本発明は、
(i)肌の内部反射光画像を形成することのできる画像形成手段、
(ii)複数の肌について、ヘモグロビン成分画像から算出したピクセル毎の濃度の標準偏差又は平均値と、分光測定法による酸素飽和度との関係式を記憶する手段、
任意の肌について、内部反射光画像から独立成分分析によりヘモグロビン成分画像を抽出する手段、
ヘモグロビン成分画像のピクセル毎の濃度の標準偏差又は平均値を算出する手段、及び
前記関係式を用いて該標準偏差又は平均値から当該任意の肌の酸素飽和度を算出する手段を備えた演算装置、
(iii)演算装置が算出した任意の肌の酸素飽和度を表示する表示手段
を備えた酸素飽和度計測システムを提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の酸素飽和度評価方法によれば、肌の内部反射光画像から独立成分分析によりヘモグロビン成分画像を抽出し、そのヘモグロビン成分画像のピクセル毎の濃度の標準偏差又は平均値を算出し、算出された標準偏差又は平均値を用いて肌の酸素飽和度を評価するので、従来、酸素飽和度の計測に必要とされていた分光測定装置を使用することなく、肌拡大画像撮影装置を用いて肌の拡大画像を観察しつつ、所望の部位の酸素飽和度の変化を評価することができる。
【0013】
また、本発明の酸素飽和度計測方法によれば、ヘモグロビン成分画像のピクセル毎の濃度の標準偏差又は平均値と、分光測定装置で計測される酸素飽和度との関係式を用いるので、任意の肌のヘモグロビン成分画像からその肌の酸素飽和度を計測することができる。
【0014】
さらに、本発明の酸素飽和度計測システムによれば、肌拡大画像撮影装置を用いて被験者から肌の内部反射光画像を取得し、その画像から肌の酸素飽和度を算出して被験者に示すので、肌拡大画像撮影装置を用いて得られる通常の表面状態の観察結果と共に、酸素飽和度の計測結果を被験者に示し、うっ血状態を観察提示することにより、肌ケアのアドバイスを効果的に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の酸素飽和度計測方法のフローシートである。
【図2】本発明のシステム構成図である。
【図3】独立成分分析の説明図である。
【図4】通常の肌の拡大画像(a)と、そのヘモグロビン成分画像(b)である。
【図5】従来の分光測定装置による肌の酸素飽和度(IS)と、肌のヘモグロビン成分画像のピクセル毎の濃度の標準偏差/平均値との関係図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照しつつ、本発明を詳細に説明する。
【0017】
図1は、本発明の酸素飽和度評価方法及び酸素飽和度計測方法の一態様のフローシートであり、図2は、これらの方法を実施する酸素飽和度計測システムの一態様のシステム構成図である。
【0018】
このシステム10は、肌の通常の画像を撮ることができると共に、偏光を用いて肌の内部反射光画像と表面反射光画像を形成することのできる画像形成手段1、画像形成手段1で取得した内部反射光画像から肌の酸素飽和度を算出する演算装置2、演算装置2が算出した肌の酸素飽和度を表示するディスプレイ3及びプリンタ4を備えている。
【0019】
画像形成手段1としては、照影用光源、デジタルカメラ、光源とデジタルカメラの前面にそれぞれ着脱自在に設けられた偏光板を備えたものを使用することができ、よりコンパクトな構成としては、例えば、特開平6−313708号公報に記載の皮膚表面観察装置に偏光フィルターを取り付けたもの等を使用することができる。ここで光源としてはLEDを使用してもよい。
【0020】
また、画像形成手段1を形成するデジタルカメラとしては、倍率20〜200倍、ピクセル数として一辺が200〜2000画素、撮影範囲を考慮したドット密度として200〜10000DPIを得られるものが好ましい。
【0021】
演算手段2としては、後述する画像処理機能を備えたパーソナルコンピュータを使用することができる。このパーソナルコンピュータに接続するディスプレイ3及びプリンタ4には、倍率200倍程度までの通常の画像、内部反射光画像、ヘモグロビン成分画像、酸素飽和度の計測結果等を適宜切り替え、あるいは同時に表示できるようにする。また、メラニン成分画像を表示できるようにしてもよい。
【0022】
このシステムを用いて美容アドバイザー、化粧品の開発研究者等が被験者の肌の酸素飽和度を評価する場合、まず、美容アドバイザー等は、被験者の素肌の内部反射光画像を取得する。内部反射光画像は、デジタルカメラの前面の偏光板を、光源の前面の偏光板に対して偏光方向が直交するように装着し、表面反射光成分を除去することにより形成することができる。
【0023】
次に、演算装置2により、内部反射光画像に対して独立成分分析を行い、内部反射光画像からヘモグロビン成分画像を抽出する。ここで、独立成分分析とは、皮膚の層構造を、メラニンを主な色素成分として含有する表皮層と、ヘモグロビンを主な色素成分として含有する真皮層と、その他の色素成分を含有する皮下組織との積層構造であるとモデル化し、各層から独立的に信号が発せられ、それらが混合したものが画像信号になっていると考え、画像信号から各層の信号を分離抽出する分析方法である。
【0024】
より具体的には、画像信号のRGBについて、−log(R)、−log(G)、−log(B)をそれぞれx軸、y軸、z軸に割当て、肌の平坦部分の肌色をそこに色空間マッピングすると図3(a)に示すように、ほぼ平面状に分布することから、肌色には2成分が寄与していることがわかる。この独立的な2成分の信号強度を、それぞれメラニン量あるいはヘモグロビン量に対応するものと考え、図3(b)に示すように、肌色は、メラニンの成分ベクトル(-log(B)に近い方)とヘモグロビンの成分ベクトル(-log(G)に近い方)の合成ベクトルであると考える。そこで、個々の被験者の内部反射光画像の信号からヘモグロビン量を表す信号を抽出し、ヘモグロビン成分量の分布画像を出力する。但し、起伏や照明ムラのある場合には、あらかじめ取得した光源成分のベクトルの方向に沿って、メラニン、ヘモグロビン両ベクトルを含む平面上に射影して陰影成分を除去したヘモグロビン成分量を得る。
【0025】
このような解析処理と画像処理の詳細はVol. 16, No. 9/ September 1999/ J. Opt. Soc. Am. A 2169に記載されており、パーソナルコンピュータに、市販の画像解析ソフト(例えば、AdobePhotoshop)を搭載することにより行うことができる。
【0026】
図4は、ある被験者の頬部位の肌の通常の拡大画像(a)と、そのヘモグロビン成分画像(b)である。本発明らの知見によれば、ヘモグロビン成分画像の全体の明るさ、即ちピクセル毎の濃度平均は、肌の全体的な血流の良否に影響され、血流が良く酸化型ヘモグロビン濃度が高いほど、濃度が薄くなる。また、ヘモグロビン成分画像の濃度ムラは、還元型ヘモグロビン濃度の高い鬱血状態を反映し、通常、濃度ムラの大きいほど、即ち、ピクセル毎の濃度の標準偏差が大きい程、還元型ヘモグロビン濃度が高い。
【0027】
そこで、このシステムでは、抽出したヘモグロビン成分画像のピクセル毎の濃度の標準偏差又は平均値を算出する。これらの算出も、上述の市販の画像解析ソフトにより行うことができる。
【0028】
ヘモグロビン成分画像から得られる標準偏差や平均値の経時的変化は、従来の分光測定装置を用いて計測された酸素飽和度の経時的変化と良好に対応する。したがって、当該被験者について、ヘモグロビン成分画像のピクセル毎の濃度の標準偏差又は平均値の変化を追跡することにより、肌の酸素飽和度の変化を容易に知ることができる。
【0029】
ヘモグロビン成分画像から算出される標準偏差や平均値を、従来の分光測定法により計測される酸素飽和度の数値と対応させ、ヘモグロビン成分画像から算出される標準偏差や平均値から酸素飽和度を計測できるようにするためには、予め、複数の肌について分光測定法により酸素飽和度を計測すると共に、ヘモグロビン成分画像からピクセル毎の濃度の標準偏差又は平均値を算出しておき、これらの関係式を回帰法により求め、演算装置2に記憶させておくことが好ましい。
【0030】
この関係式としては、例えば、次式(1)をあげることができる。
【0031】
【数1】

(式中、σ:ヘモグロビン成分画像のピクセル毎の濃度の標準偏差
A:ヘモグロビン成分画像のピクセル毎の濃度の平均値
a、b、c、d:係数 )
【0032】
また、演算装置2に、肌のヘモグロビン成分画像から算出したピクセル毎の濃度の標準偏差又は平均値と、その肌の分光測定装置による酸素飽和度とを多数蓄積してこれらのデータベースを構築し、このデータベースから上述の関係式(1)を算出するようにしてもよく、また、演算装置2とは別個の管理サーバー5にデータベースを構築し、この管理サーバー5に演算装置2が通信手段により適宜アクセスし、上述の関係式(1)を取得できるようにしてもよい。
【0033】
演算装置2は、関係式(1)を使用し、被験者のヘモグロビン成分画像から算出したピクセル毎の濃度の標準偏差又は平均値から、当該被験者の肌の酸素飽和度を計測する。
【0034】
美容アドバイザーは、計測された被験者の肌の酸素飽和度を、一般的な望ましい酸素飽和度と対比し、必要に応じて、被験者に肌の血流改善方法等の美容アドバイスを行う。あるいはまた、被験者の酸素飽和度を経時的に計測した場合、その変化から、前回の美容アドバイスの効果を判断し、今後の美容アドバイスに活かすことができ、また、被験者には、美容アドバイスの効果を肌の酸素飽和度という数値データに基づいて説明することができる。さらに、これらの肌の酸素飽和度に関する美容アドバイスを、画像形成手段1で得られる通常の肌の拡大画像の観察結果と併せて行うことができる。
【実施例】
【0035】
以下、実施例に基づいて本発明を具体的に説明する。
【0036】
実施例1
日本人女性20を被験者とし、その頬と腕の酸素飽和度を、図2のシステムにより計測した。
【0037】
この場合、画像形成手段の倍率は、20倍とし、撮影範囲1辺1cmについて画素640×480の内部反射光画像を取得し、得られた内部反射光画像のピクセル毎の標準偏差と平均値とを算出した。
【0038】
一方、同じ被験者の測定部位について、特許文献2の手法により算出した肌の酸素飽和度(IS)を計測し、これと前述の標準偏差及び平均値から得られた式(1)(a=0.1, b=0.001, c=0.001, d=0.001)にて求めた値をプロットし、図5の相関図を得た。
【0039】
図5の結果から、本法の式(1)の酸素飽和度と、従来の分光測定装置により得られる酸素飽和度とには高い相関のあることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明は、化粧品の製品開発や、店頭等において顧客のうっ血状態を観察提示し、化粧品の血流改善効果及びそれに伴う酸素飽和度の改善状態を説明する場合等で有用となる。
【符号の説明】
【0041】
1 画像形成手段
2 演算装置
3 ディスプレイ
4 プリンタ
5 管理サーバー
10 酸素飽和度計測システム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者の肌の内部反射光画像を取得し、
該内部反射光画像から独立成分分析によりヘモグロビン成分画像を抽出し、
該ヘモグロビン成分画像のピクセル毎の濃度の標準偏差を算出し、
該標準偏差を用いて肌の酸素飽和度を評価する酸素飽和度評価方法。
【請求項2】
肌拡大画像撮影装置を用いて倍率20〜200倍の肌の内部反射光画像を取得する請求項1記載の評価方法。
【請求項3】
複数の肌について、分光測定法により酸素飽和度を計測すると共に、
被験者の肌の内部反射光画像を取得し、
該内部反射光画像から独立成分分析によりヘモグロビン成分画像を抽出し、
該ヘモグロビン成分画像のピクセル毎の濃度の標準偏差又は平均値を算出し、
該標準偏差又は平均値と前記酸素飽和度との関係式を取得し、
任意の肌について、内部反射光画像から独立成分分析によりヘモグロビン成分画像を抽出し、
該ヘモグロビン成分画像のピクセル毎の濃度の標準偏差又は平均値を算出し、
前記関係式を用いて該標準偏差又は平均値から当該任意の肌の酸素飽和度を算出する酸素飽和度計測方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−36704(P2011−36704A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−233605(P2010−233605)
【出願日】平成22年10月18日(2010.10.18)
【分割の表示】特願2005−98290(P2005−98290)の分割
【原出願日】平成17年3月30日(2005.3.30)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】