説明

肌温度検出装置及び空調シート

【課題】シートに着座した着座者の肌温度を、シートの表皮や着座者の衣服の影響を受けることなく、シート内部で正確に検出できる肌温度検出装置及び空調シートを提供する。
【解決手段】空調シート1に着座した乗員の背中から放射されるミリ波帯の熱雑音を、受信素子30を介して受信し、肌温度検出回路40にて、その受信信号を増幅・検波することにより、熱雑音の受信レベルに対応した肌温度の検出信号を生成する。制御回路50では、その検出信号から得られる肌温度をそのまま空調空気の制御に用いるのではなく、温度センサ28にてシート表面温度を検出して、そのシート表面温度から、受信素子30による熱雑音の受信レベルから得られる肌温度の検出誤差を求め、その検出誤差に基づき肌温度の検出結果を補正する。この結果、肌温度の検出精度を向上して、空調シート1のシート表面から吹き出す空調空気の温度や送風量を最適に制御することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シートに着座した着座者の肌温度を検出する肌温度検出装置、及び、この肌温度検出装置にて検出された肌温度に基づきシート表面から吹き出す空調空気を制御する空調シートに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、シート内に、シート表面から空調空気を吹き出すための送風通路を設け、この送風通路に温度調整した空調空気を供給することで、着座者が快適に着座できるようにした空調シートが知られている(例えば、特許文献1,2等参照)。
【0003】
また、この種の空調シートでは、シート表面から吹き出される空調空気の温度や送風量を着座者にとって最適なものにするため、着座者の肌温度を検出し、その検出結果に基づき空調空気の温度や吹出量を制御することも考えられている(例えば、特許文献3等参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5−277020号公報
【特許文献2】特開2009−125536号公報
【特許文献3】特開2008−168769号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記特許文献3に記載の技術では、着座者の肌温度をサーモグラフィー(熱分布画像)にて検出するため、熱分布画像撮像用のカメラが必要になり、しかも、肌温度検出には画像解析が必要であるため、装置構成が複雑で、コストアップを招くという問題があった。
【0006】
また、サーモグラフィーでは、着座者から放射される赤外線を検出するため、カメラと着座者との間に遮蔽物があると、肌温度を検出することができない。このため、例えば、カメラをシート内に収納して、空調シート全体を小型化することはできなかった。
【0007】
一方、着座者の肌温度を検出するには、例えば、シートの表皮の裏面にサーミスタ等の温度検出素子を設けて、肌温度を直接検出することも考えられる。
しかし、このようにサーミスタ等の温度検出素子をシートに設けた場合、検出温度は、シートの表皮や着座者の衣服の影響を受けるため、着座者の肌温度を正確に検出することができないという問題がある。
【0008】
本発明は、こうした問題に鑑みなされたものであり、シートに着座した着座者の肌温度を、シートの表皮や着座者の衣服の影響を受けることなく、シート内部で正確に検出できる肌温度検出装置、及び、この肌温度検出装置を利用した空調シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
かかる目的を達成するためになされた請求項1に記載の発明は、シート内に設けられ、当該シートに着座した着座者の肌温度を検出する肌温度検出装置であって、前記着座者から前記シート内に放射されるマイクロ波帯若しくはミリ波帯の熱雑音を受信する熱雑音受信手段と、前記熱雑音受信手段にて受信された熱雑音に基づき、前記着座者の肌温度を推定する肌温度推定手段と、前記着座者側の前記シートの表面温度を検出する表面温度検出手段と、前記表面温度検出手段にて検出された前記シートの表面温度に基づき、前記シートから放射される熱雑音による前記肌温度の検出誤差を算出する検出誤差算出手段と、前記検出誤差算出手段にて算出された肌温度の検出誤差に基づき、前記肌温度推定手段にて推定された肌温度を補正する肌温度補正手段と、を備えたことを特徴とする。
【0010】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の肌温度検出装置において、前記シートの表皮の内側に設けられるクッション材には、前記着座者と前記熱雑音受信手段との間の部位に、前記熱雑音の導入空間が形成されていることを特徴とする。
【0011】
一方、請求項3に記載の発明は、シート内に設けられ、シート表面から当該シートに着座した着座者に向けて空調空気を吹き出すための送風通路と、前記空調空気を生成して前記送風通路に供給する空調空気供給装置と、前記シートに着座した着座者の肌温度を検出する肌温度検出装置と、前記肌温度検出装置にて検出された肌温度に基づき、前記空調空気供給装置が生成する空調空気の温度を制御する制御装置とを備えた空調シートにおいて、前記肌温度検出装置として、請求項1又は請求項2に記載の肌温度検出装置を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に記載の肌温度検出装置においては、熱雑音受信手段が、シートに着座した着座者からシートの表皮を通ってシート内に放射されるマイクロ波帯若しくはミリ波帯の熱雑音を受信し、肌温度推定手段が、その受信された熱雑音に基づき、着座者の肌温度を推定する。
【0013】
つまり、人体からは熱雑音が放射されており、その放射エネルギは体温(詳しくは熱雑音を放射する皮膚の温度(肌温度))に応じて変化することから、本発明では、シート内で着座者から放射された熱雑音を受信し、その受信した熱雑音に基づき肌温度を推定するのである。
【0014】
ところで、本発明のように、シート内に設けた熱雑音受信手段を利用して肌温度を検出(推定)するようにした場合、サーモグラフィーを利用して肌温度を検出するもののように、シートの外にサーモグラフィー撮像用のカメラを配置する必要はない。
【0015】
しかし、熱雑音受信手段には、着座者から放射された熱雑音とは別に、シート自身から放射された熱雑音が入射することから、この熱雑音によって肌温度の検出精度が低下することが考えられる。
【0016】
そこで、本発明の肌温度検出装置においては、表面温度検出手段が、着座者側のシート表面温度を検出し、誤差算出手段が、その検出されたシート表面温度に基づきシートから放射される熱雑音による肌温度の検出誤差を算出し、肌温度補正手段が、その算出された肌温度の検出誤差に基づき、肌温度推定手段にて推定された肌温度を補正する、ようにされている。
【0017】
つまり、シート等の物体から放射される熱雑音は、人体から放射される熱雑音に比べて小さい。このため、シート自身から放射される不要な熱雑音が一定であれば、その不要な熱雑音に対応した肌温度の検出誤差を、一定の補正値として予め記憶しておき、肌温度の検出時に、熱雑音の受信レベルから得られる肌温度の検出結果から、その補正値を除去するようにすればよい。
【0018】
しかし、物体から放射される熱雑音は、物体の材質だけでなく、物体の温度によっても変化する。そして、シートの温度は、外気温や着座した着座者の体温によって変化することから、肌温度の検出誤差を補正する補正値として一定の補正値を設定しただけでは、肌温度の検出精度を高めることができない。
【0019】
そこで、本発明では、上記のようにシートの表面温度を検出して、その表面温度から肌温度の検出誤差を算出(換言すれば推定)し、その検出誤差にて肌温度を補正することで、着座者の肌温度を精度良く検出できるようにしているのである。
【0020】
よって、本発明の肌温度検出装置によれば、シート内に設けた熱雑音受信手段を利用して、シート自身から放射される熱雑音の影響を受けることなく、シートに着座した着座者の肌温度を精度良く検出することができる。
【0021】
なお、シートに着座した着座者と熱雑音受信手段との間には、着座者の衣服が存在する。しかし、着座者の衣服はシート表面から熱雑音受信手段に至るシート部分の厚みに比べて極めて薄く、着座者から放射されるマイクロ波帯若しくはミリ波帯の熱雑音が衣服を透過することにより生じる損失は極めて小さい。このため、着座者の衣服によって熱雑音の検出精度が低下することはない。
【0022】
一方、着座用のシートは、通常、着座者が接する表皮の内側にクッション材が設けられている。そして、このクッション材に、シートの表皮から熱雑音受信手段に至る熱雑音の入射経路が形成される場合、熱雑音受信手段には、着座者から放射された熱雑音に加えて、シートの表皮から放射される熱雑音と、クッション材から放射される熱雑音とが入射することになる。
【0023】
そして、シートの表皮から放射される熱雑音による肌温度の検出誤差については、シートの表面温度から算出される検出誤差により相殺できるが、クッション材から放射される熱雑音による肌温度の検出誤差については、相殺することが難しい。
【0024】
これは、シートのクッション材は表皮に比べて温度変化は小さいものの、クッション材の熱容量により、シートの表面温度と連動して変化しないため、シートの表面温度から、表皮から放射される熱雑音とクッション材から放射される熱雑音とにより生じる検出誤差を正確に推定することはできないためである。
【0025】
このため、クッション材から放射される熱雑音によって生じる肌温度の検出誤差を低減するには、熱雑音受信手段が受信する熱雑音の受信帯域で放射率の低い材料を用いてクッション材を形成するか、或いは、請求項2に記載のように、着座者と熱雑音受信手段との間の部位に熱雑音の導入空間が形成されたクッション材を用いるようにするとよい。
【0026】
つまり、このようにすれば、クッション材から放射された熱雑音が熱雑音受信手段にて受信されるのを防止若しくは抑制することができ、熱雑音受信手段から出力される受信信号に含まれるクッション材の熱雑音によって肌温度の検出精度が低下するのを防止できる。
【0027】
なお、物体の透過率と反射率と放射率との関係は、「透過率+反射率+放射率=1」であることから、クッション材の放射率を低くするには、透過率か反射率の大きい材料を選択すれば良い。そして、この場合、反射率を大きくすると、着座者から放射された熱雑音の多くがクッション材で反射され、その熱雑音の損失が多くなってしまうことから、透過率の高い材料を利用することで、クッション材の放射率を低くするとよい。
【0028】
一方、請求項3に記載の空調シートにおいては、上述した請求項1又は請求項2に記載の肌温度検出装置が備えられており、制御装置が、この肌温度検出装置にて検出された着座者の肌温度に基づき、空調空気供給装置が生成する空調空気の温度を制御する。
【0029】
従って、本発明の空調シートによれば、送風通路を介してシート表面から吹き出される空調空気の温度を、着座者の肌温度に応じて最適に制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】実施形態の空調シート全体の構成を表す概略構成図である。
【図2】肌温度検出回路の構成を表す説明図である。
【図3】制御回路にて実行される空調制御を表すフローチャートである。
【図4】肌温度の補正動作を説明するタイムチャートである。
【図5】空調シートの変形例を表す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下に本発明の実施形態を図面と共に説明する。
本実施形態の空調シート1は、自動車の運転席若しくは助手席として使用される自動車用シートであり、図1に示すように構成されている。
【0032】
すなわち、本実施形態の空調シート1は、着座者である車両乗員が着座する着座部2と、背凭れ部3と、ヘッドレスト部4とから構成されており、背凭れ部3には、ダクト16を介して内部に空調空気を導入し、背凭れ部3の表皮6からクッション材8にかけて形成された多数の送風孔14から空調空気を吹き出すための送風通路12が設けられている。
【0033】
この送風通路12に空調空気を導入するためのダクト16は、先端部分が背凭れ部3の外に引き出されており、その先端部分には、モータ22により回転駆動されるファン20が設けられている。
【0034】
このファン20は、外気導入部から外気を導入し、ダクト16を介して送風通路12に供給するためのものであり、外気導入部には、送風通路12に供給する外気を冷却又は加熱することで、適正温度の空調空気を生成する空調空気生成部24が設けられている。
【0035】
なお、この空調空気生成部24は、例えば、供給される電流の方向及び電流量に応じて空調空気の温度を調整可能なペルチェ素子にて構成されている。
一方、送風通路12内には、ファン20からダクト16を介して供給された空調空気の温度を検出するため、サーミスタ等からなる温度センサ26が設けられている。
【0036】
また、空調シート1の背凭れ部3には、乗員の着座時に乗員の背中が接する部分に位置する表皮6の温度(換言すれば乗員側のシート表面温度)を検出する、サーミスタ等からなる温度センサ28と、空調シート1に着座した乗員の背中から放射されたミリ波帯の熱雑音を受信する受信素子30が設けられている。
【0037】
これら温度センサ28及び受信素子30は、送風口14や送風通路12から離れた位置に配置され、しかも、温度センサ28は、受信素子30がミリ波帯の熱雑音を受信する際の熱雑音の入射領域(換言すれば受信素子30の指向範囲)から外れた位置に配置されている。
【0038】
そして、温度センサ26は、空調温度検出回路36を介して制御回路50に接続され、温度センサ28は、シート表面温度検出回路38を介して制御回路50に接続され、受信素子30は、肌温度検出回路40を介して制御回路50に接続されている。
【0039】
なお、空調温度検出回路36は、温度センサ26を介して空調空気の温度を検出し、その検出温度に対応した検出信号を発生するもの(例えば、サーミスタの抵抗値に対応した電圧信号を発生するもの)であり、シート表面温度検出回路38は、温度センサ28を介して乗員に接する空調シート1の表面温度(シート表面温度)を検出し、その検出温度に対応した検出信号を発生するもの(例えば、サーミスタの抵抗値に対応した電圧信号を発生するもの)である。
【0040】
また、肌温度検出回路40は、受信素子30により受信されたミリ波帯の受信信号の受信レベルを、肌温度を表す検出信号として出力するものであり、図2に示すように構成されている。
【0041】
つまり、肌温度検出用の受信素子30は、ミリ波帯の信号(熱雑音)を受信するものであることから、肌温度検出回路40は、その受信信号のレベル低下を防止するため、受信素子30と同一の回路基板に一体的に組み付けられて、空調シート1内に収納される。
【0042】
そして、肌温度検出回路40は、受信素子30から受信信号を増幅する低ノイズアンプからなる増幅部42と、この増幅部42で増幅された受信信号を検波することにより、受信信号の信号レベルに対応した検波信号を生成する検波部44と、検波部44からの出力を更に増幅することで、肌温度を表す検出信号(電圧)を生成する増幅部46とから構成されている。
【0043】
このため、肌温度検出回路40からは、空調シート1に着座した乗員の背中から放射された熱雑音の信号レベルに対応した肌温度の検出信号が出力され、制御回路50側では、その検出信号を取り込むことで、乗員の肌温度を検知できることになる。
【0044】
次に、制御回路50は、所謂車載用の電子制御装置(ECU)として、マイクロコンピュータを中心に構成されており、図3に示すフローチャートに沿った空調制御処理を周期的に実行することにより、送風孔14から乗員に向けて吹き出す空調空気の温度及び送風量を制御する。
【0045】
以下、この空調制御処理について説明する。
図3に示すように、制御回路50において空調制御処理が起動されると、まずS110(Sはステップを表す)にて、肌温度検出回路40から入力される検出信号(電圧)を乗員の肌温度の推定値として取り込み、続くS120にて、シート表面温度検出回路38から入力される検出信号をシート表面温度として読み込む。
【0046】
そして、続くS130では、S120にて読み込んだシート表面温度に基づき、S110にて読み込んだ肌温度の検出誤差を算出し、S140にて、その算出した検出誤差に基づき、S110にて読み込んだ肌温度(詳しくは肌温度の推定値)を補正する。
【0047】
つまり、受信素子30はミリ波帯の熱雑音を受信するアンテナであり、乗員の背中から放射されて受信素子30に入射する熱雑音の入射経路には、背凭れ部3の表皮6や内部のクッション材8が存在することから、受信素子30の指向特性を鋭くしても、受信素子30には、乗員の背中から放射された熱雑音に加えて、空調シート1(詳しくは表皮6やクッション材8)から放射される熱雑音が入射される。
【0048】
このため、図4に例示するように、受信素子30による熱雑音の受信レベル(換言すれば肌温度の推定値)には、空調シート1からの熱雑音が含まれ、肌温度検出回路40からの検出信号に基づき肌温度を正確に検出するには、その検出信号から得られる肌温度の推定値から、空調シート1から放射された熱雑音成分を除去する必要がある。
【0049】
また、受信素子30に入射する空調シート1からの熱雑音には、表皮6からの熱雑音とクッション材8からの熱雑音とが含まれるが、この内、クッション材8からの熱雑音は、クッション材8を、例えば多孔性で透過率が高い(換言すれば放射率の低い)材料にて構成することで、無視できる程度に小さくすることができる。これに対し、表皮6は、一般に、天然皮革や合成皮革等で構成され、クッション材8のような放射率の低い材料にて構成することは難しい。
【0050】
そこで、本実施形態では、温度センサ28にてシート表面温度(換言すれば表皮6の温度)を検出し(S120)、その検出したシート表面温度から、空調シート1からの熱雑音によって生じる肌温度の検出誤差を算出し(S130)、その検出誤差に基づき肌温度の推定値を補正する(S140)のである。
【0051】
なお、S130にて検出誤差を算出するには、予め、温度センサ28にて検出されるシート表面温度と肌温度の検出誤差との関係を実験若しくはシミュレーション等で求めて、検出誤差算出用のマップ若しくは演算式として制御回路50内のメモリに格納しておき、検出誤差を算出する際には、メモリに記憶された検出誤差算出用のマップ若しくは演算式を用いるようにすればよい。
【0052】
上記のようにS140にて肌温度が補正されると、S150に移行し、その補正後の肌温度に基づき、乗員に適した空調空気の温度(最適温度)と送風量とを算出する。そして、続くS160では、S150にて算出した送風量に応じて、モータ駆動回路32を介してモータ22を回転駆動することにより、ファン20の回転速度を制御し、各送風通路12からの送風量を乗員に適した送風量に設定する。
【0053】
また続くS170では、空調温度検出回路36からの検出信号により得られる空調空気の温度が、S150にて算出した最適温度となるように、電流供給回路34を介して空調空気生成部24に流す電流方向及び電流量を制御し、当該空調制御処理を一旦終了する。
【0054】
この結果、本実施形態の空調シート1の背凭れ部3から、空調シート1に着座した乗員に向けて吹き出される空調空気の温度及び送風量は、乗員の肌温度に応じて、最適に制御されることになり、本実施形態の空調シート1によれば、乗員に対し快適な着座環境を提供することが可能となる。
【0055】
以上説明したように、本実施形態の空調シート1によれば、空調制御のために乗員の肌温度を検出する際、受信素子30にて受信されたミリ波帯の熱雑音の受信レベルだけで、乗員の肌温度を検出(推定)するのではなく、温度センサ28にてシート表面温度を検出して、そのシート表面温度から、受信素子30による熱雑音の受信レベルから得られる肌温度の検出誤差を求め、その検出誤差に基づき肌温度の検出結果(詳しくは推定値)を補正するようにされている。
【0056】
このため、本実施形態の空調シート1によれば、空調シート1に着座した乗員の肌温度を正確に検出して、空調空気の温度や送風量を適正に制御することができる。
また、本実施形態の空調シート1によれば、サーモグラフィーにて肌温度を検出する従来装置のように、乗員の赤外線画像を撮像して画像処理を行う必要がないので、装置構成を簡単にして、低コストで実現することができる。また、肌温度検出用の受信素子30及び肌温度検出回路40は、一体化されて、空調シート1内に収納されることから、空調シート1への外付け部品を少なくして、空調シート1をコンパクトにすることができる。
【0057】
なお、本実施形態においては、受信素子30が、本発明の熱雑音受信手段に相当し、肌温度検出回路40が、本発明の肌温度推定手段に相当し、温度センサ28及びシート表面温度検出回路38が、本発明の表面温度検出手段に相当し、図3におけるS130の処理が、本発明の検出誤差算出手段に相当し、同じくS140の処理が、本発明の肌温度補正手段に相当し、これら各部により、本発明の肌温度検出装置が実現される。
【0058】
また、本実施形態において、ファン20、モータ22、空調空気生成部24、及びダクト16は、本発明の空調空気供給装置に相当し、制御回路50及び電流供給回路34が、本発明の制御装置に相当する。
【0059】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内にて、種々の態様を採ることができる。
例えば、上記実施形態では、乗員の背中から放射されて受信素子30に入射する熱雑音の入射経路に存在するクッション材8については、放射率の低い材料にて構成することで、クッション材8から放射される熱雑音を、肌温度の検出精度に対し無視できる程度に小さくすることができるものとして説明したが、図5に例示するように、クッション材8において、受信素子30への熱雑音の入射経路となる部分を刳り抜くことで、熱雑音の導入空間9を形成するようにしてもよい。
【0060】
そして、このようにすれば、受信素子30にクッション材8から放射される熱雑音が入射することはないので、肌温度の検出精度をより向上することができる。
また、例えば、上記実施形態では、空調シート1は、自動車の運転席や助手席として使用される自動車用シートであるものとして説明したが、例えば、自動車の後部座席や、バスや電車の乗客用シート等、複数の乗員が着座可能なシートであっても、各乗員の着座位置に上記実施形態で示した空調用構成部品を設けるようにすれば、乗員毎に空調空気を制御して、各乗員に最適な着座環境を提供できる。
【0061】
また、本発明の空調シートは、こうした移動体用のシートに限らず、着座用のシートであれば、どのようなシートでも上記実施形態と同様に適用して、同様の効果を得ることができる。
【0062】
また、上記実施形態では、空調シート1の背凭れ部3に、空調制御用の部品を埋め込むものとして説明したが、空調制御用の部品は、着座部2に設けてもよく、背凭れ部3と着座部2の両方に設けても良い。また、送風通路12に連通した送風用のダクトを背凭れ部3の上方(ヘッドレスト部4の近傍)で引き出し、そのダクトを介して乗員の首元に空調空気を送風するようにしてもよい。
【0063】
また更に、上記実施形態では、着座者の肌温度に応じて空調空気の温度と送風量を制御するものとして説明したが、例えば、送風量を手動で切り換えるように構成されているような場合には、空調空気の温度だけを制御するようにしても良い。
【0064】
また上記実施形態では、着座者から放射されるミリ波帯の熱雑音を受信素子28にて受信し、その受信レベルを肌温度検出回路38にて検出することで、着座者の肌温度を検出するものとして説明したが、受信素子28及び肌温度検出回路38は、着座者から放射されるマイクロ波帯の熱雑音を受信し、その受信レベルを着座者の肌温度として検出するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0065】
1…空調シート、2…着座部、3…背凭れ部、4…ヘッドレスト部、6…表皮、8…クッション材、9…導入空間、12…送風通路、14…送風孔、16…ダクト、20…ファン、22…モータ、24…空調空気生成部、26,28…温度センサ、30…受信素子、32…モータ駆動回路、34…電流供給回路、36…空調温度検出回路、38…シート表面温度検出回路、40…肌温度検出回路、42…増幅部、44…検波部、46…増幅部、50…制御回路。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シート内に設けられ、当該シートに着座した着座者の肌温度を検出する肌温度検出装置であって、
前記着座者から前記シート内に放射されるマイクロ波帯若しくはミリ波帯の熱雑音を受信する熱雑音受信手段と、
前記熱雑音受信手段にて受信された熱雑音に基づき、前記着座者の肌温度を推定する肌温度推定手段と、
前記着座者側の前記シートの表面温度を検出する表面温度検出手段と、
前記表面温度検出手段にて検出された前記シートの表面温度に基づき、前記シートから放射される熱雑音による前記肌温度の検出誤差を算出する検出誤差算出手段と、
前記検出誤差算出手段にて算出された肌温度の検出誤差に基づき、前記肌温度推定手段にて推定された肌温度を補正する肌温度補正手段と、
を備えたことを特徴とする肌温度検出装置。
【請求項2】
前記シートの表皮の内側に設けられるクッション材には、前記着座者と前記熱雑音受信手段との間の部位に、前記熱雑音の導入空間が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の肌温度検出装置。
【請求項3】
シート内に設けられ、シート表面から当該シートに着座した着座者に向けて空調空気を吹き出すための送風通路と、
前記空調空気を生成して前記送風通路に供給する空調空気供給装置と、
前記シートに着座した着座者の肌温度を検出する肌温度検出装置と、
前記肌温度検出装置にて検出された肌温度に基づき、前記空調空気供給装置が生成する空調空気の温度を制御する制御装置と、
を備えた空調シートにおいて、
前記肌温度検出装置として、請求項1又は請求項2に記載の肌温度検出装置を備えたことを特徴とする空調シート。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−126358(P2012−126358A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−282093(P2010−282093)
【出願日】平成22年12月17日(2010.12.17)
【出願人】(000113665)マスプロ電工株式会社 (395)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000241500)トヨタ紡織株式会社 (2,945)
【Fターム(参考)】