説明

肝カルボキシルエステラーゼ1を含有する肝癌診断用血漿バイオマーカー及び肝癌スクリニング方法

本発明は、肝癌診断用血漿バイオマーカーに関し、2次元ゲル蛍光電気泳動、免疫沈降法、ナノ液体クロマトグラフィー質量分析装置などプロテオミクス技術を用いて今まで報告されていない血漿内のタンパク質の発見に関する。本発明のタンパク質マーカーに対して血漿内でその存在を実証し、健常者より肝癌患者の血漿で発現量が増加する差異を確認することによって、肝癌診断スクリニング方法に利用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、肝癌(肝細胞癌:HCC)診断用血漿バイオマーカー関し、特に、2次元蛍光ゲル電気泳動(2−D DIGE)、免疫沈降法及びナノ液体クロマトグラフィー質量分析(ナノ−LC−MS/MS)装置を用いて、健常者に比べて肝癌患者の組織でその発現量が変化するタンパク質を分析し、バイオマーカータンパク質の血漿分泌量を測定し、それを肝癌早期バイオマーカーとして利用する。
【背景技術】
【0002】
肝臓細胞癌(HCC)は、世界的に6番目に発病される主要癌と知られていて、その死亡率は4番目に高い。主にアフリカやアジアなどで多く発病する主な癌種類の1つであって、肺癌、胃癌、乳癌などとは異なって、癌の診断後に、患者の95%以上が5年以内に死亡すると知られている。
【0003】
肝癌症状がよく知られていて、肝癌に対する研究が続いて進められているが、この疾患を早期診断することが困難であり、且つ、肝癌の診断後の生存率が3%〜5%と非常に低いため、これを早期診断することができる癌バイオマーカーの重要性が大きな課題となっている。
【0004】
最近、コンピュータ断層撮影(computed tomography;CT)や磁気共鳴映像法(magnetic resonance imaging;MRI)を使用する組織検査以外にも、肝癌を診断することができる臨床試料として、血漿のような体液でのタンパク質分析を同時に測定し、肝癌存在または発病可能性可否を判断している。
【0005】
現在、肝癌患者識別方法として、アルファ−フェトプロテイン(alpha-fetoprotein;AFP)、デス−ガンマ−カルボキシプロトロンビン(Des-gamma carboxyprothrombin;DCP)、グリピカン−3(Glypican-3;GPC3)、アルファ−1−フコシダーゼ及び形質転換成長因子−b1のようなバイオマーカーの単一または複合測定方法が使用されている。上記バイオマーカーが肝癌識別に最も有用なバイオマーカーとして知られているが、低い検出感度と癌特異性を有している。例えば、肝癌血清バイオマーカーとして知られているAFPの場合、76%〜94%の高い癌特異性を有するが、39%〜65%の低い検出感度を有する。したがって、現在までも新しいバイオマーカーの研究開発が要求されている。
【0006】
これより、本発明者らは、肝癌患者と健常者の血漿臨床試料に対するタンパク質変化様相が癌進行と関連あるタンパク質合成後変形(Post-translational modification)の1つであるN型糖鎖結合タンパク質(N-linked glycosylated protein)を中心に2次元ゲル電気泳動を用いて分離し、変化したタンパク質を同定した後、生物情報学的技術(bioinformatic tool)を利用して肝癌特異的なタンパク質マーカーを見出した。
【0007】
肝癌バイオマーカー候補タンパク質として、ヒト肝カルボキシルエステラーゼ1(human liver carboxylesterase 1)は、肝、肺、心臓、脳、前立腺、卵巣などほぼすべての組織で発現され、特に肝癌組織では、正常組織より発現量が減少することが知られている。しかし、ヒト体液である血漿においてヒト肝カルボキシルエステラーゼ1の存在及び存在量は、明らかに確認されていない。
【0008】
ヒト血漿内のヒト肝カルボキシルエステラーゼ1の存在観点で研究された論文において、カルボキシルエステラーゼをセファロース親和性クロマトグラフィーで精製し、その加水分解活性を基質であるトリオレインまたはp−ニトロフェニルアセテートを使用してそのタンパク質の存在を確認した論文が報告されたが、最近の論文において、このような活性は、血漿に存在するブチリルコリンエステラーゼ、パラオキソナーゼ、アルブミンのエステラーゼ活性であると報告され、特異的阻害剤であるビス−p−ニトロフェニルホスフェート(bis-p-nitrophenylphosphate;BNPP)を使用したにも関わらず、その活性が抑制されていないので、ヒト血漿には、このタンパク質が存在しないと報告された。
【0009】
ヒト肝カルボキシルエステラーゼが血漿内に存在するという多くの文献は、大部分非特異的な基質を使用した酵素活性測定法で研究されたものであり、本発明者らは、血漿内の存在を確認するために、国際的論文に報告された血漿タンパク質データベース(http//www.plasmaproteomedatabase.org)を通じてヒト肝カルボキシルエステラーゼ1を調査したが、発見されなかった。
【0010】
このような点から、本発明者らは、従来、ヒト血漿でヒト肝カルボキシルエステラーゼ1の存在について不明な事実を、プロテオーム接近法に基づいて2次元蛍光電気泳動を含めて抗体免疫沈降法及びナノ液体クロマトグラフィー質量分析装置を用いて当該タンパク質の存在と健常者と肝癌患者の血漿で存在比率を実証することによって、肝癌診断用バイオマーカーとしての可能性を提供することができるようになった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
したがって、本発明の目的は、血漿から肝癌患者を効果的に識別することができるヒト肝カルボキシルエステラーゼ1を含有する新しい診断用バイオマーカーを提供することにある。
【0012】
また、本発明は、ヒト血液試料からプロテオーム技術を用いて肝癌診断用バイオマーカーとしてヒト肝カルボキシルエステラーゼ1の存在を確認する段階と、血漿の採取、免疫沈降法、免疫ブロッティング、ナノ液体クロマトグラフィー質量分析装置を用いてヒト肝カルボキシルエステラーゼ1の存在及び相対的比較量から健常者と肝癌患者を識別する段階とを含む肝癌スクリニング方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために、本発明は、ヒト肝カルボキシルエステラーゼ1のタンパク質が肝癌組織で減少する変化を2次元蛍光ゲル電気泳動と免疫ブロッティングを結果として提供する。
【0014】
また、本発明は、従来の未知の血漿タンパク質の存在を、ナノ液体クロマトグラフィー質量分析装置を用いて実証する。また、本発明は、上記タンパク質が肝癌患者の血漿において健常者より平均2〜5倍増加することを示す。
【0015】
ヒト肝カルボキシルエステラーゼ1は、N結合型糖タンパク質(N-linked glycoprotein)なので、本発明では、正常肝組織と肝癌組織の分析において、糖タンパク質分離用にレクチン親和性カラムを使用し、2次元蛍光電気泳動を行い、分子量約62kDaとpI 4.5−5.3部分で位置を確認した。
【0016】
ヒト肝カルボキシルエステラーゼ1は、正常肝組織で発現量が肝癌組織より顕著に増加することを確認し、既存の論文と同様の結果を得た。血液でのヒト肝カルボキシルエステラーゼ1タンパク質は、未だ確かに確認されなかった。これより、本発明者らは、プロテオーム技術接近法を使用してその存在を確認した。
【0017】
その方法として、抗体を固定させる表面積が広いため、抗原を回収する効率的な電磁ビーズ(Dynabead, Invitrogen)を使用した免疫沈降法と高感度のナノ液体クロマトグラフィー質量分析装置を使用してヒト肝カルボキシルエステラーゼ1が血漿に存在することを実証した。また、ダイナビーズ(Dynabead)の使用量と血漿濃度の条件を確立することによって、健常者と肝癌患者の血漿からヒト肝カルボキシルエステラーゼ1の存在量を免疫ブロッティングを用いて比較分析することができることを明らかにした。
【0018】
本発明において、プロテオーム技術を利用したヒト血漿内のヒト肝カルボキシルエステラーゼ1の存在確認方法は、次のような段階を含む方法によりヒト肝カルボキシルエステラーゼ1の存在を確認することができる。
【0019】
1)血液サンプルを、エチレンジアミン四酢酸ジカリウム(Dipotassium ethylenediamine tetraacetic acid;KEDTA)が含まれているチューブ内に採取し、30分間常温に放置した後、2,400xgで15分間遠心分離し、上澄み液血漿を得る。
2)抗−ヒト肝カルボキシルエステラーゼ1抗体400μgと電磁ビーズ10mgを結合させた後、それらのうち500μgを取って、健常者又は肝癌患者の血漿8mgと一緒に1mLチューブで2時間培養してヒト肝カルボキシルエステラーゼ1を免疫沈降させた後、これを残りの血漿タンパク質から分離する。
3)第2段階で分離した健常者と肝癌患者のそれぞれの試料液を、溶解緩衝溶液でタンパク質変形させた後、1次元ゲル電気泳動で分離する。
4)約62kDa位置のゲルバンドを切り取り、トリプシンを用いてタンパク質をペプチドに消化する。
5)高感度のナノ液体クロマトグラフィーを使用して消化されたペプチドを分析して、ヒト肝カルボキシルエステラーゼ1タンパク質を確認する(図6及び図7参照)。
【0020】
また、本発明において、ヒト血漿に分泌されたヒト肝カルボキシルエステラーゼ1を測定し、次のような段階を含む方法から肝癌患者と健常者を識別することができるバイオマーカーとして使用することができる。
【0021】
1)2次蛍光ゲル電気泳動及び免疫ブロッティングを用いて、ヒト肝カルボキシルエステラーゼ1は肝癌患者の肝癌組織において正常組織より顕著に減少することを確認する。
2)上記ヒト肝カルボキシルエステラーゼ1の存在確認方法第1及び第2段階のように血漿サンプルを免疫沈降させて、ヒト肝カルボキシルエステラーゼ1の溶液を得る。
3)抗−ヒト肝カルボキシルエステラーゼ1抗体を利用する免疫ブロティングで、ヒト肝カルボキシルエステラーゼ1のシグナルを確認する。
4)健常者の血漿より肝癌患者の血漿がヒト肝カルボキシルエステラーゼ1のシグナルが高いことを確認する(図8及び図9参照)。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】図1は、肝癌患者の肝臓非腫瘍組織から分画された糖タンパク質の2次元ゲル電気泳動イメージを示す写真である;ヒト肝カルボキシルエステラーゼ1の位置を示してある。
【図2】図2は、肝癌患者の肝臓腫瘍組織から分画された糖タンパク質の2次元ゲル電気泳動イメージを示す写真である;ヒト肝カルボキシルエステラーゼ1の位置を示してある
【図3】図3は、10名の追加肝癌患者の非腫瘍及び腫瘍肝臓組織のペアーサンプルにおけるヒト肝カルボキシルエステラーゼ1の発現量変化を示す写真である。 N:非腫瘍肝臓組織 T:腫瘍肝臓組織
【図4】図4は、hCE1発現のレベルを示す、HCCを有する47名の患者の非腫瘍性及び腫瘍性肝の切片から構築された免疫組織化学的に染色され、パラフィン−浸漬された組織アレイの写真である。
【図5】図5は、HCCを有する患者の非腫瘍性及び腫瘍性肝の切片で免疫組織化学的染色によって測定された染色程度の頻度分布を示すグラフである。結果は、非腫瘍性肝の切片と比較すると、腫瘍性肝の切片においてhCE1発現が特異的に減少していることを示している。
【図6】図6は、血漿内のヒト肝カルボキシルエステラーゼ1の存在を実証するために用いられる、ナノ液体クロマトグラフィー質量分析装置を利用して健常者と肝癌患者の血漿で各々測定されたヒト肝カルボキシルエステラーゼ1のトリプシン消化ペプチドを示す。
【図7】図7は、図6に示されている代表的な共通ペプチドに対するナノ液体クロマトグラフである。
【図8】図8は、代表的な3名の健常者と肝癌患者血漿のヒト肝カルボキシルエステラーゼ1レベルの相違を免疫沈降後、免疫ブロッティング分析で確認した結果を示す写真である。 Np:健常者血漿 Tp:肝癌患者血漿
【図9】図9は、8名の健常者と8名の肝癌患者血漿のヒト肝カルボキシルエステラーゼ1の存在量を比較しているグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を実施例により詳しく説明する。実施例は、本発明を説明するためのものであって、本発明の範囲はこれに限定されない。
【実施例】
【0024】
実施例1:臨床組織と血漿の採取
病理学的に患者の個別情報が確保された肝癌組織と、同一患者から分取された正常肝組織は、延世医科大学病理学研究室から提供された。陰性コントロールとして用いるため健常者の血漿の適切性を評価するために以下の検査を用いた;肝癌指標標準検査要素である免疫欠乏ウイルス(HIV)来由のHIV−1及びHIV−2抗体;HIV−1抗原;B型肝炎表面抗原;B型肝炎核抗原;C型肝炎ウイルス;T細胞白血病ウイルス(HTLV−I/II)抗原;及び梅毒トレポネーマ。血漿を世界人間プロテオーム機構(HUPO)で公式的に標準化された試料分離方法で得た。
【0025】
健康な男性1名と閉経後の女性1名の血液4mLは、EDTAEカリウム(KEDTA)が含まれているチューブに30分間常温に放置した後、2,400xgで15分間遠心分離し、上澄み液の血漿を得た。肝組織、肝癌組織及び血漿試料は、−70℃で実験前まで保管して使用した。肝組織及び血漿の入手は、延世医大癌研究所(Yonsei medical center)の臨床試験委員会(IRB)規定による。
【0026】
実施例2:正常肝組織及び肝癌組織における糖タンパク質分離
各組織100mgを、細胞溶解RIPA緩衝溶液[50mMトリス、150mM塩化ナトリウム(NaCl)、1%NonidetP−40、0.25%デオキシコレートナトリウム、pH7.4]中、4℃で均質化した。糖タンパク質は、5種のアガロース結合レクチン:コンカナバリンA、小麦胚芽レクチン、ジャカリン(Jacakin)、セイヨウニワトコ(Sambucus nigra)及びヒイロチャワンタケ(Aleuria aurantia):の混合物を使用するレクチン−親和性クロマトグラフィーで分離した。異なった糖成分を有する糖タンパク質に対して結合特異性を有する、これらのレクチン混合物を、PD−10カラム(Pierce)に最終2mLとなるように充填した。糖タンパク質を含有しているサンプルを、結合用緩衝溶液[20mMトリス、1mM塩化マンガン(MnCl)、1mM塩化カルシウム(CaCl)、0.15M塩化ナトリウム(NaCl)、pH7.4]中でこのカラムに付して、30分間カラムに結合させた。結合した糖タンパク質を、糖組成に基づいて糖たんぱく質を移動する分離用緩衝溶液[0.2Mメチル−D−マンノピロサイド、0.2Mメチル−D−グルコピロサイド、0.2M N−アセチルグルコサミン、0.2Mガラクトース、0.1Mラクトース、0.1Mフコース、20mMトリス、0.5M塩化ナトリウム、pH7.0]を使用して溶出した。溶出した糖タンパク質を5kDa膜濾過紙で濃縮し、50%卜リクロロ酢酸と100%アセトンで沈殿させた。沈殿物を、2−D溶解緩衝溶液[7Mウレア、2Mチオウレア、4%CHAPS、30mMトリス、pH8.5]に溶解した。得られたタンパク質溶液を、pH8.5に調整し、タンパク質濃度を、2D Quant kit(GE Healthcare)を使用して測定した。
【0027】
実施例3:2次元蛍光ゲル電気泳動(2−D DIGE)
5名の患者由来の10個の試料(5個の非腫瘍肝組織および5個の腫瘍肝組織)を、2−D DIGE用の分析サンプル(それぞれ50μg)を調整するために用いた。分析サンプル及び対応するプールされている標準サンプルを、蛍光染料であるCy3、Cy5、Cy2(400pmol:GE Healthcare)で暗条件で30分間それぞれ標識した。
1μLの10mMリシンで反応を停止させた。各標識された3個の試料を混合して、最終容量が450μLとなるように、試料緩衝溶液[6Mウレア、2Mチオウレア、4%CHAPS、60mMジチオトレイトール(dithiothreitol;DTT)、30mMトリス、pH8.5]を添加し、2%IPG3−10NL緩衝溶液とともに常温で16時間培養して再水和した。
等電点電気泳動法(isoelectric focusing;IEF)を、イモビリンドライストリップ(Immobiline Dry Strip)pH3−10NL(GE Healthcare)を使用してMultiPhorII電気泳動システム(GE Healthcare)で最適条件下(95,000V)で実施した。次いで、ドライストリップを培養して、トリブチルホスフィン(TBP)緩衝溶液[6Mウレア、2%ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、30mMトリス、20%グリセロール、2.5%アクリルアミド溶液、5mMトリブチルホスフィン]中で25分間ワン−ステップ還元及びアルキル化した。
【0028】
還元及びアルキル化を行った後、EttanDalt−twelve電気泳動システム(GE Healthcare)を使用して、9%〜16%グラジエントポリアクリルアミドゲル上の電気泳動で、目的とするタンパク質を2次元で分離した。Typhoon 9400(GE Healthcare)スキャナを利用して、Cy2、Cy3、Cy5に該当する波長でそれぞれのゲルをスキャンした。各ゲルのイメージを、DeCyder2−D分析ソフトウェア(GE Healthcare)を利用して分析した。
【0029】
実施例4:2次元蛍光ゲル電気泳動で分離したタンパク質の同定
イメージを分析した後、有意に特異的に発現したタンパク質を、クマシブルー染料で染色されたゲルから切り取り、脱色してトリプシンで切断(digestion)した。切断したペプチドを、ポロス(Poros)R2及びオリゴR3レジン混合物を使用して脱塩した。タンパク質を、4800MALDI−TOF−MS(Applied Biosystem)で分析して、スペクトルを、MASCOTデータベースを利用して同定した。
【0030】
実施例5:組織内肝癌バイオマーカー発現量の検証;ウェスタンブロッティング分析
患者10名の非腫瘍肝臓組織と腫瘍肝臓組織の間における肝癌バイオマーカータンパク質濃度の差異をウェスタンブロッティング分析で検証した。各サンプルから得た等量のタンパク質5μgを、10%ゲル上のSDS−PAGEで分離した。
タンパク質をニトロセルロース(nitrocellulose;NC)膜に転換した後、5%脱脂乳が含まれたTBS−T緩衝溶液[20mMトリス、137mM塩化ナトリウム、0.1%Tween−20、pH7.6]中で、1時間室温で培養して、ブロッキングした。膜を、抗−ヒト肝カルボキシルエステラーゼ1抗体(CE1、Abcam;1:10000;5%脱脂乳が含まれたTBS−T緩衝溶液中)と室温で1時間培養した。陽性対照群として、マウスベータアクチン抗体(SantaCruz)を用いた。
5%脱脂乳が含まれたTBS−T緩衝溶液で洗浄した後、膜を2次抗ウサギIgG−HRP(SantaCruz;1:20000倍希釈)と室温で1時間培養した。免疫反応性タンパク質を、ECL Plusウェスタンブロット試薬(GE Healthcare)で検出して、Typhoon9400スキャナでスキャンして分析した。
【0031】
実施例6:免疫組織化学的染色法を利用した組織内のHCCバイオマーカー発現レベルの検証
HCCを有する47名の患者の非腫瘍性及び腫瘍性肝の切片から構築されたパラフィン−浸漬された組織アレイを免疫組織化学的染色法に使用した。キシレン及びアルコールでスライドを脱パラフィン化させ、脱水させた後、0.6%過酸化水素で処理した。抗−hCE1抗体(1:100)をスライドに塗布し、30分間インキュベートした。hCE1−結合抗体の色相をChemMate Envision Kit(DAKO)で発現させ、ヘマトシリン(対照染色薬として使用)で30分間可視化した。染色の強度は、染色されていない場合に対して“−“で,弱い染色に対して“+”で、そして強い染色に対して“++”で点数を付けた。
【0032】
実施例7:ヒト血漿内肝癌バイオマーカータンパク質分泌量の検証;免疫沈降法及び抗体−免疫ブロッティング
電磁ビーズである‘Dynabead MyOneTM Tosylactivated’(Invitrogen)を、製造会社のマニュアルによって抗−ヒト肝カルボキシルエステラーゼ1抗体でコーティングした。10mgのビーズと400μgの抗−ヒト肝カルボキシルエステラーゼ1抗体を混合して、結合緩衝溶液[0.1Mホウ酸ナトリウム、1M硫酸アンモニウム、pH9.5]中で37℃で16時間培養して、5%脱脂乳が含まれたTBS−T緩衝溶液で更に16時間追加にブロッキングした。抗−ヒト肝カルボキシルエステラーゼ1抗体が結合されたビーズ500μgを、健常者と肝癌患者の血漿8mgと一緒に1mLチューブに移して2時間培養して、ヒト肝カルボキシルエステラーゼ1を免疫沈降させた。
TBS−T緩衝溶液をpH2に調整して抗体に結合したタンパク質を溶出した。免疫ブロッティングを行い、健常者と肝癌患者の間の血漿内のヒト肝カルボキシルエステラーゼ1の変化を分析した。この時、使用した抗体は、実施例5で使用した抗−ヒト肝カルボキシルエステラーゼ1の1次抗体(Abcam;1:1000)、及び2次抗ウサギIgG−HRP(SantaCruz;1:5000)である。
【0033】
実施例8:ヒト血漿内のヒト肝カルボキシルエステラーゼ1タンパク質の検証;ナノ液体クロマトグラフィー質量分析
実施例7で実施した免疫ブロッティングで測定したヒト肝カルボキシルエステラーゼ1の該当ゲルバンドを切り取り、ジチオトリエトール(dithiothrietol;DTT)/ヨード酢酸(iodoacetic acid;IAA)処理を通じてタンパク質還元とアルキル化を行い、トリプシンで処理してペプチドに切断した後、ナノ液体クロマトグラフィー質量分析装置と線形トラップ四重極(LTQ)検出装置を利用してゲル内のヒト肝カルボキシルエステラーゼ1タンパク質を確認した。
【産業上の利用可能性】
【0034】
以上説明したように、本発明から得られる新しい肝癌診断用バイオマーカーは、血漿内の該当タンパク質の発現量を確認することによって、肝癌の早期診断を可能にする要素として作用し、肝癌患者の生存率を向上させることに寄与できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト肝カルボキシルエステラーゼ1タンパク質を有効成分として含有する肝癌診断用血漿バイオマーカー組成物。
【請求項2】
当該ヒト肝カルボキシルエステラーゼ1タンパク質が肝癌患者の血漿において健常者より増加することを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
当該ヒト肝カルボキシルエステラーゼ1タンパク質が肝癌患者の血漿において健常者より平均2〜5倍増加することを特徴とする、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
ヒト血液試料からプロテオーム技術を用いて肝癌診断用血漿バイオマーカーとしてヒト肝カルボキシルエステラーゼ1の存在を確認する第1段階と、免疫沈降法、免疫ブロッティング、ナノ液体クロマトグラフィー質量分析装置を用いてヒト肝カルボキシルエステラーゼ1の存在及び相対的比較量から健常者と肝癌患者を識別する第2段階と、を含む肝癌スクリーニング方法。
【請求項5】
当該第1段階が、
1)血液サンプルを、エチレンジアミン四酢酸ジカリウムを含むチューブに採取し、30分間常温に放置した後、2,400xgで15分間遠心分離し、上澄み液血漿を得る段階と、
2)抗−ヒト肝カルボキシルエステラーゼ1抗体400μgと電磁ビーズ10mgを結合させた後、それらのうち500μgを取って、健常者と肝癌患者の血漿8mgと一緒に1mLチューブで2時間培養して、ヒト肝カルボキシルエステラーゼ1タンパク質を免疫沈降させる段階と、
3)当該2)段階の健常者と肝癌患者のサンプルを、溶解緩衝溶液でタンパク質変形させた後、1次元ゲル電気泳動で分離する段階と、
4)ほぼ62kDa位置のゲルバンドを切り取り、トリプシン処理によってタンパク質をペプチドに切断する段階と、
5)高感度のナノ液体クロマトグラフィーを使用してヒト肝カルボキシルエステラーゼ1タンパク質を確認する段階と、を含むことを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項6】
当該第2段階が、
1)2次蛍光ゲル電気泳動、免疫ブロッティング及び免疫組織化学的染色の結果から、肝癌患者の肝癌組織におけるヒト肝カルボキシルエステラーゼ1の発現レベルが正常組織より顕著に減少することを確認する段階と、
2)血漿サンプルを免疫沈降させて、ヒト肝カルボキシルエステラーゼ1溶液を得る段階と、
3)免疫ブロッティングで抗−ヒト肝カルボキシルエステラーゼ1抗体を利用してヒト肝カルボキシルエステラーゼ1のシグナルを確認する段階と、
4)正常血漿より肝癌血漿がヒト肝カルボキシルエステラーゼ1のシグナルが高いことを確認する段階と、を含むことを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項7】
当該ヒト肝カルボキシルエステラーゼ1タンパク質のレベルが肝癌患者の血漿において健常者より高いことを特徴とする、請求項4に記載の方法。
【請求項8】
当該ヒト肝カルボキシルエステラーゼ1タンパク質のレベルが肝癌患者の血漿において健常者より平均2〜5倍増加することを特徴とする、請求項7に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2011−517399(P2011−517399A)
【公表日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−550580(P2010−550580)
【出願日】平成20年10月1日(2008.10.1)
【国際出願番号】PCT/KR2008/005762
【国際公開番号】WO2009/113758
【国際公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【出願人】(510247386)シンテカバイオ カンパニー リミテッド (1)
【Fターム(参考)】