説明

肝癌検出用マーカー

【課題】肝癌の検出用マーカーとなり得る遺伝子および蛋白質を見出し、該遺伝子および/または該蛋白質を測定することを特徴とする肝癌の検出方法を提供し、肝癌の診断に寄与すること。
【解決手段】被験試料、特に血液試料についてTM4SF4遺伝子および/または該遺伝子によりコードされる蛋白質を検出することを特徴とする肝癌の検出方法、および該肝癌の検出方法に用いる試薬キットを提供し、さらに該肝癌の検出方法および該試薬キットを用いる肝癌の診断方法および診断キットを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、肝癌検出用マーカー、特に肝細胞癌において高い発現が認められる遺伝子からなる肝癌検出用マーカーおよび該遺伝子によりコードされる蛋白質からなる肝癌検出用マーカーに関する。より詳しくは本発明は、血液試料について該マーカーを測定することを特徴とする肝癌の検出方法または診断方法に関する。また、本発明は、肝癌検出用試薬および試薬キットに関する。
【背景技術】
【0002】
肝細胞癌は原発性肝癌の90%以上を占め、本邦では肺癌、胃癌、大腸癌に次いで死亡数の多い予後不良な悪性腫瘍である。また、今後約20年間は肝細胞癌の罹患患者数が増加すると予想されている。
【0003】
肝細胞癌はB型肝炎やC型肝炎を背景とした慢性肝炎あるいは肝硬変を発生母地として発癌することが多いとされている。そのためこれら肝炎患者はハイリスク群として認識され、厳重に経過観察される。肝炎患者の経過観察には腹部超音波検査、CT(Computed Tomography)検査、MRI(Magnetic Resonance Imaging)検査などの画像検査を施行することや、α−フェトプロテイン(AFP)、AFP L3分画、PIVKA−II(Protein Induced by Vitamin−K Absence−II)などのマーカーを定期的に測定することが推奨されている。しかし、これらマーカーは必ずしも肝癌の発生に伴って陽性になる(高値を示す)とは限らず、また肝硬変に伴って上昇する場合や投与されている薬剤の影響を受ける場合もある。そのため、新しい肝癌検出用マーカーの開発が急務であるといえる。
【0004】
トランスメンブレン4 スーパーファミリー4(transmembrane 4 superfamily 4、以下TM4SF4と略称する)遺伝子は、肝、腸および膵臓での発現が確認されている(非特許文献1)。ラットの肝切除モデルでは肝切後にTM4SF4の高発現が認められている(非特許文献2)。またラットの実験肝炎モデルで肝臓の幹細胞であると考えられている卵円形細胞(Oval cell)においてTM4SF4の発現が認められると報告されている(非特許文献3)。
【0005】
TM4SF4遺伝子によりコードされる蛋白質はシグナル伝達ドメインを持たず、4つの膜貫通ドメインを有する膜蛋白質であるが、その生体での働きは十分に解明されていない。TM4SF4遺伝子および該遺伝子によりコードされる膜蛋白質は、ヒト、ラットおよびマウスにおいてその配列相同性が非常に高い。
【0006】
【非特許文献1】ワイズマン科学研究所公開データベース(http://genome-www.stanford.edu/cgi-bin/genecards/carddisp.pl?gene=TM4SF4)。
【非特許文献2】リウら(Liu Z.et al.)、「バイオキミカ エ バイオフィジカ アクタ(BIOCHIMICA ET BIOPHYSICA ACTA)」、2001年3月19日、第 1518号、第1−2号、p.183−189。
【非特許文献3】キウら(Qiu J.et al.) 、「ジャーナル オブ ヘパトロジー(Journal of Hepatology)」、2007年2月、第46巻、第2号、p.266−275。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、肝癌の検出用マーカーとなり得る遺伝子および蛋白質を見出し、該遺伝子および/または蛋白質をマーカーとして測定することを特徴とする肝癌の検出方法を提供し、肝癌の診断に寄与にすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、マウス肝発癌モデルでの発癌過程において変化する遺伝子群に着目し、該遺伝子群をマイクロアレーでスクリーニングし、その結果、TM4SF4遺伝子の発現が癌組織で高くなることを見出した。また、本発明者らはマウス肝発癌モデルでTM4SF4遺伝子が癌細胞に発現することを実証した。
【0009】
さらに本発明者らは、TM4SF4遺伝子がヒト肝癌患者の肝癌組織において正常肝組織に比べて高発現していることを見出した。
【0010】
これら結果から、本発明者らはTM4SF4遺伝子および該遺伝子によりコードされるポリヌクレオチドが肝癌検出用マーカーとして用いることができることを見出した。
【0011】
さらに本発明者らは、ヒト肝細胞癌患者の末梢血単核球においてTM4SF4 mRNAが検出されるが健常人の末梢血単核球では該mRNAが検出されないことを実証した。
【0012】
上記結果から、血液試料についてTM4SF4遺伝子の発現を測定することにより、肝癌の検出および診断を実施できることを見出し、本発明を達成した。
【0013】
すなわち本発明は、血液試料におけるTM4SF4遺伝子の発現を測定することを含む、肝癌の検出方法に関する。
【0014】
また本発明は、血液試料におけるTM4SF4遺伝子の発現を測定することを含む、肝癌の検出方法であって、TM4SF4遺伝子の発現の測定を該遺伝子のmRNAまたはcDNAに特異的にハイブリダイゼーションするプライマーまたはプローブを用いて実施することを含む方法に関する。
【0015】
さらに本発明は、血液試料におけるTM4SF4遺伝子の発現を測定することを含む、肝癌の検出方法であって、TM4SF4遺伝子の発現の測定を下記プライマーセットのうちの少なくともいずれか1を用いて実施することを含む方法に関する:
(1)配列表の配列番号3に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドと配列番号4に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドから構成されるプライマーセット、
(2)配列表の配列番号5に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドと配列番号6に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドから構成されるプライマーセット、および
(3)配列表の配列番号7に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドと配列番号8に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドから構成されるプライマーセット。
【0016】
さらにまた本発明は、血液試料におけるTM4SF4遺伝子の発現を測定することを含む、肝癌の検出方法であって、TM4SF4遺伝子の発現の測定が下記工程を含むことを特徴とする方法に関する:
(i)TM4SF4遺伝子のcDNAの断片ポリヌクレオチドを配列表の配列番号3に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドと配列番号4に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドから構成されるプライマーセットにより増幅して一次増幅産物を形成させる工程、
(ii)該一次増幅産物の断片ポリヌクレオチドを配列表の配列番号5に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドと配列番号6に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドから構成されるプライマーセットにより増幅して二次増幅産物を形成させる工程、および
(iii)該二次増幅産物を検出する工程。
【0017】
また本発明は、血液試料におけるTM4SF4遺伝子の発現を測定することを含む、肝癌の検出方法であって、TM4SF4遺伝子の発現の測定を該遺伝子によりコードされる蛋白質を測定することにより実施することを含む方法に関する。
【0018】
さらに本発明は、血液試料におけるTM4SF4遺伝子の発現を測定することを含む、肝癌の検出方法であって、TM4SF4遺伝子の発現の測定を該遺伝子によりコードされる蛋白質を該蛋白質に特異的に結合する抗体を用いて測定することにより実施することを含む方法に関する。
【0019】
さらにまた本発明は、血液試料から単核球を調製し、該単核球を試料として用いることを特徴とする上記いずれかの肝癌の検出方法に関する。
【0020】
また本発明は、配列表の配列番号3から8のいずれか1に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドに関する。
【0021】
さらに本発明は、TM4SF4遺伝子のmRNAまたはcDNAに特異的にハイブリダイゼーションするオリゴヌクレオチドおよびポリヌクレオチド、並びに該遺伝子によりコードされる蛋白質に特異的に結合する抗体のうち1つまたは2つ以上を含む肝癌検出用試薬キットに関する。
【0022】
さらにまた本発明は、配列表の配列番号3から8のいずれか1に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドのうち1つまたは2つ以上を含む肝癌検出用試薬キットに関する。
【発明の効果】
【0023】
本発明により、TM4SF4遺伝子の発現を測定することを含む、肝癌、特に肝細胞癌の検出方法を提供でき、さらに肝癌、特に肝細胞癌の診断方法を実施できる。本発明に係る肝癌の検出方法または診断方法は、肝組織試料のみならず血液試料を試料として使用して実施できるため、被験対象への侵襲性が極めて少なく且つ容易に実施できる有用な方法である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明は、肝癌の検出方法に関する。本発明に係る肝癌の検出方法は、TM4SF4遺伝子および/または該遺伝子によりコードされる蛋白質(以下、TM4SF4と称することがある)を肝癌検出用マーカーとして測定することを特徴とする。すなわち、本発明は、調べようとする試料(以下、被験試料と称する)におけるTM4SF4遺伝子の発現を測定することを含む、肝癌の検出方法に関する。
【0025】
本発明者らは、TM4SF4遺伝子がヒト肝癌患者の肝癌組織において正常肝組織に比べて高発現していることを見出し、さらに、ヒト肝細胞癌患者の末梢血単核球においてTM4SF4 mRNAが検出されるが健常人の末梢血単核球では該mRNAが検出されないことを実証した。TM4SF4遺伝子がヒト肝癌患者の肝癌組織や末梢血単核球において高発現していることから、肝癌患者の肝癌組織や末梢血単核球において該遺伝子によりコードされる蛋白質も検出されると考えることができる。
【0026】
上記実証結果から、本発明者らは、血液試料についてTM4SF4遺伝子および/または該遺伝子によりコードされる蛋白質を肝癌検出用マーカーとして測定することにより、肝癌、好ましくは肝細胞癌の検出および診断を実施できることを見出した。
【0027】
本発明において、「遺伝子」という用語は、全長遺伝子、およびその一部分からなるポリヌクレオチドまたはオリゴヌクレオチドを意味する総称的用語として使用され、また、DNA、RNA、mRNAおよびcDNAを含み、ここでその最小サイズは2ヌクレオチドである。
【0028】
「遺伝子の発現」とは、遺伝子の情報がmRNAに転写されること、または、mRNAに転写され、かつ蛋白質のアミノ酸配列として翻訳されることをいう
【0029】
「遺伝子の発現を測定すること」には、該遺伝子のmRNAを測定することおよび該遺伝子によりコードされる蛋白質を測定することが包含される。
【0030】
「遺伝子のmRNAを測定すること」には、mRNAの有無を検出することおよびmRNA量を測定することが包含される。
【0031】
本発明において、「蛋白質」という用語は、完全長蛋白質、およびその一部分からなるポリヌクレオチドまたはオリゴペプチドを意味する総称的用語として使用され、ここで蛋白質、ポリペプチドまたはオリゴペプチドは最小サイズが2アミノ酸である。
【0032】
「蛋白質を測定すること」には、蛋白質の有無を検出することおよびその量を測定することが包含される。
【0033】
TM4SF4遺伝子は既に公開されており、例えば公開されたデータベース(GenBankなど)において、ヒトTM4SF4遺伝子がアクセッション番号NM_004617.2(配列番号1)として登録されている。また、ヒトTM4SF4遺伝子によりコードされる蛋白質は、該アクセッション番号に開示されている(配列番号2)。
【0034】
TM4SF4遺伝子は、配列番号1で表される塩基配列からなるポリヌクレオチドに限定されず、該ポリヌクレオチドと配列相同性を有し、且つ該ポリヌクレオチドと同等の組織発現を示すといった特徴を有するポリヌクレオチド、また、これら特徴に加えて配列番号1で表される塩基配列からなるポリヌクレオチドによりコードされる蛋白質と同等の生物学的機能や構造的特徴を有する蛋白質をコードするポリヌクレオチドを包含する。配列相同性は、通常、塩基配列の全体で約50%以上、好ましくは約70%以上、より好ましくは約80%以上、さらに好ましくは約90%以上、さらにより好ましくは約95%以上であることが望ましい。
【0035】
TM4SF4遺伝子の組織発現は、肝、腸および膵臓で認められている。また、TM4SF4遺伝子は、上記のようにヒト肝癌患者の肝癌組織において正常肝組織に比べて高発現している。このように、TM4SF4遺伝子には、配列番号1で表される塩基配列からなるポリヌクレオチドと配列相同性を有し、且つ肝、腸および膵臓、特に肝でその発現が認められるポリヌクレオチドが包含される。
【0036】
TM4SF4遺伝子によりコードされる蛋白質の構造的特徴として、そのアミノ酸配列に4つの膜貫通ドメインを有することが知られている。したがって、TM4SF4遺伝子には、配列番号1で表される塩基配列からなるポリヌクレオチドと配列相同性を有し、肝、腸および膵臓、特に肝でその発現が認められ、且つ4つの膜貫通ドメインを有する蛋白質をコードするポリヌクレオチドが包含される。
【0037】
TM4SF4遺伝子には、配列番号1で表される塩基配列において1個以上、例えば1〜100個、好ましくは1〜30個、より好ましくは1〜20個、さらに好ましくは1〜10個、特に好ましくは1個〜5個のヌクレオチドの欠失、置換、付加または挿入といった変異が存する塩基配列で表わされるポリヌクレオチドが包含される。変異の程度およびそれらの位置などは、該変異を有するポリヌクレオチドが、配列番号1で表される塩基配列からなるポリヌクレオチドと同等の組織発現を示すといった特徴を有するポリヌクレオチド、また、該特徴に加えて配列番号1で表される塩基配列からなるポリヌクレオチドによりコードされる蛋白質と同等の生物学的機能や構造的特徴を有する蛋白質をコードするポリヌクレオチドである限り特に制限されない。
【0038】
TM4SF4遺伝子には、上記ポリヌクレオチドの塩基配列の指定された領域に存在する部分塩基配列からなるポリヌクレオチドが包含される。上記ポリヌクレオチドの塩基配列の指定された領域に存在する部分塩基配列からなるポリヌクレオチドは、その最小単位として好ましくは該領域において連続する5個以上のヌクレオチド、より好ましくは10個以上のヌクレオチド、より好ましくは20個以上のヌクレオチドからなるポリヌクレオチドである。このようなポリヌクレオチドとして具体的には、配列番号1で表される塩基配列からなるポリヌクレオチドのオープンリーディングフレームである第232番目から第840番目までの連続した609ヌクレオチドからなるポリヌクレオチドを例示できる。
【0039】
TM4SF4遺伝子には、また、上記ポリヌクレオチドまたはその一部分にストリンジェントな条件下でハイブリダイゼーションするポリヌクレオチドが包含される。これらポリヌクレオチドは上記ポリヌクレオチドまたはその一部分にハイブリダイゼーションするポリヌクレオチドであれば相補的配列を有するポリヌクレオチドでなくてもよい。ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件はよく知られており、例えば成書に記載の条件(サムブルック(Sambrook)ら編、「モレキュラークローニング,ア ラボラトリーマニュアル 第2版」、1989年、コールドスプリングハーバーラボラトリー、特に11.45節“Conditions for Hybridization of Oligonucleotide Probes”など)にしたがって決定でき、特に制限されない。ストリンジェントな条件は、塩濃度、温度、およびその他の条件によって決まり、例えば、塩濃度が低いほど、温度が高いほど、ストリンジェンシーは高くなり、ハイブリダイゼーションしにくくなる。塩濃度は、一般に、SSC溶液(NaCl+クエン酸三ナトリウム)の濃度を調節することによって調節され、ストリンジェントな塩濃度は、例えば、NaCl 約250mM以下およびクエン酸三ナトリウム 約25mM以下である。ストリンジェントな温度は、一般に、完全ハイブリッドの融解温度(Tm)より15〜25℃低い温度であり、例えば、約30℃以上である。溶液に有機溶媒(例えばホルムアミド)を加えることにより、温度を下げることができる。その他の条件としては、ハイブリダイゼーション時間、洗浄剤(例えば、SDS)の濃度、およびキャリアーDNAの存否などであり、これらの条件を組み合わせることによって、様々なストリンジェンシーを設定することができる。好ましい例として、250mM NaCl、25mM クエン酸三ナトリウム、1% SDS、50% ホルムアミド、200μg/mlの変性サケ精子DNAの条件で、42℃の温度によりハイブリダイゼーションを行う。また、ハイブリダイゼーション後の洗浄の条件もストリンジェンシーに影響する。この洗浄条件もまた、塩濃度と温度によって定義され、塩濃度の減少と温度の上昇によって洗浄のストリンジェンシーは増加する。好ましい例として、15mM NaCl、1.5mM クエン酸三ナトリウムおよび0.1% SDSの条件で、68℃の温度により洗浄を行う。
【0040】
TM4SF4遺伝子によりコードされる蛋白質は、配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドに限定されず、該ポリペプチドと配列相同性を有し、且つ該ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドと同等の組織発現を示すポリヌクレオチドによりコードされるといった特徴を有するポリペプチド、また、これら特徴に加えて配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドと同等の生物学的機能や構造的特徴を有する蛋白質をコードするポリペプチドを包含する。配列相同性は、通常、アミノ酸配列の全体で約50%以上、好ましくは約70%以上、より好ましくは約80%以上、さらに好ましくは約90%以上、さらにより好ましくは約95%以上であることが望ましい。
【0041】
TM4SF4をコードする遺伝子の組織発現は、肝、腸および膵臓で認められている。また、TM4SF4遺伝子は、上記のようにヒト肝癌患者の肝癌組織において正常肝組織に比べて高発現している。このように、TM4SF4遺伝子によりコードされる蛋白質には、配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドと配列相同性を有し、且つ肝、腸および膵臓、特に肝でその発現が認められるポリヌクレオチドによりコードされるポリペプチドが包含される。
【0042】
TM4SF4の構造的特徴として、そのアミノ酸配列に4つの膜貫通ドメインを有することが知られている。したがって、TM4SF4遺伝子によりコードされる蛋白質には、配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドと配列相同性を有し、肝、腸および膵臓、特に肝でその発現が認められるポリヌクレオチドによりコードされ、且つ4つの膜貫通ドメインを有するポリペプチドが包含される。
【0043】
TM4SF4遺伝子によりコードされる蛋白質には、配列番号2で表されるアミノ酸配列において1個以上、例えば1〜100個、好ましくは1〜30個、より好ましくは1〜20個、さらに好ましくは1〜10個、特に好ましくは1個〜5個のアミノ酸残基の欠失、置換、付加または挿入といった変異が存するアミノ酸配列で表わされるポリペプチドが包含される。変異の程度およびそれらの位置などは、該変異を有するポリペプチドが、配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする遺伝子と同等の組織発現を示すといった特徴を有するポリペプチド、また、該特徴に加えて配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドと同等の生物学的機能や構造的特徴を有する蛋白質をコードするポリペプチドである限り特に制限されない。
【0044】
TM4SF4遺伝子によりコードされる蛋白質には、上記ポリペプチドのアミノ酸配列の指定された領域に存在する部分アミノ酸配列からなるポリペプチドまたはオリゴペプチドが包含される。上記ポリペプチドのアミノ酸配列の指定された領域に存在する部分アミノ酸配列からなるポリペプチドまたはオリゴペプチドは、その最小単位として好ましくは該領域において連続する5個以上のアミノ酸残基、より好ましくは10個以上のアミノ酸残基、より好ましくは20個以上のアミノ酸残基からなるポリペプチドまたはオリゴペプチドである。
【0045】
本発明において、「癌マーカー」という用語は、腫瘍マーカーという用語と置換可能に使用される。癌マーカーとは、癌性増殖または癌細胞や癌の存在あるいはその程度を示す指標を意味する。言い換えれば、癌細胞が有する物質若しくは産生する物質であって正常細胞のものと比較して量的に著しく多い若しくは少ないなどの変化を示す物質または変異している物質、あるいは癌細胞と反応して体内の正常細胞が産生する物質のうちで、それらを検出することにより癌の判定が可能になるものを意味する。癌マーカーは、対象とする癌に特異的であることが好ましいが、完全に特異的である必要はなく、癌の検出が可能である限りにおいて、他の疾患や臓器において検出されるものであってもよい。ここで、「対象とする癌に特異的である」とは、対象とする癌を高い感度で検出することができるが、それ以外の癌は検出できないか、あるいは検出感度が著しく低いことを意味する。また、「対象とする癌に完全に特異的である」とは、対象とする癌のみを検出することができ、それ以外の癌は検出できないことを意味する。
【0046】
本発明において、「癌」という用語は、悪性腫瘍(malignant tumor)という用語と置換可能に使用される。癌は、種々の悪性新生物、すなわち細胞の異常増殖を伴い転移性や浸潤性を示す腫瘍を意味する。転移性とは、原発部位から解剖学的に隔たっている部位へ移動し移動した部位で腫瘍を形成する能力を意味する。浸潤性とは、腫瘍が形成された部位からその周囲の組織に侵入する能力を意味する。悪性新生物は一般的に、それを構成する細胞が正常細胞と比較して形態的に異なり、また、細胞の配列が正常組織と比較して異なるために、正常組織と識別可能な組織塊として形成されることが多い。
【0047】
「肝癌」とは肝臓に発生する悪性新生物を意味し、原発性肝癌および原発性肝癌から転移した肝癌を含む。原発性肝癌とは、肝臓に発生した悪性新生物であって、他の臓器からの転移によるものではない悪性新生物を意味する。
【0048】
「肝細胞癌」は原発性肝癌の1種であり、原発性肝癌の90%以上を占める予後不良な悪性腫瘍である。
【0049】
「肝癌を検出する」とは、被験試料が肝癌由来の被験試料であるか否かを決定することを意味する。
【0050】
本発明者らは、TM4SF4遺伝子がヒト肝癌患者の肝癌組織において正常肝組織に比べて高発現していることを見出し、さらに、ヒト肝細胞癌患者の末梢血単核球においてTM4SF4 mRNAが検出されるが健常人の末梢血単核球では該mRNAが検出されないことを実証した。TM4SF4遺伝子がヒト肝癌患者の肝癌組織や末梢血単核球において高発現していることから、肝癌患者の肝癌組織や末梢血単核球において該遺伝子によりコードされる蛋白質も検出されると考えることができる。
【0051】
すなわち、TM4SF4遺伝子のmRNAおよび該遺伝子によりコードされる蛋白質は、肝癌組織において正常肝組織に比べて増加しているといえる。また、TM4SF4遺伝子のmRNAおよび該遺伝子によりコードされる蛋白質は、肝細胞癌患者の末梢血単核球において、検出可能なレベルで存在するといえる。一方、健常人末梢血単核球においては、TM4SF4遺伝子のmRNAおよび該遺伝子によりコードされる蛋白質は著しく低レベルまたは検出不可能なレベルで存在するといえる。
【0052】
したがって、被験試料において、増加したレベルのTM4SF4遺伝子のmRNAおよび/または該遺伝子によりコードされる蛋白質が検出された場合、該被験試料は肝癌由来の試料であると決定できる。あるいは、血液試料から調製した細胞、より好ましくは血液試料から調製した単核球において、TM4SF4遺伝子のmRNAおよび/または該遺伝子によりコードされる蛋白質が検出された場合、該血液試料は肝癌患者由来の血液試料であると決定できる。TM4SF4遺伝子のmRNAおよび/または該遺伝子によりコードされる蛋白質が増加したか否かの判断は、正常肝組織や健常人由来の血液試料との比較により実施することができる。あるいは、このような判断は、あらかじめ正常肝組織や健常人由来の血液試料において検出されるTM4SF4遺伝子のmRNAおよび/または該遺伝子によりコードされる蛋白質の標準値を測定して決定し、該標準値との比較により実施することができる。
【0053】
被験試料として血液試料、好ましくは血液試料から調製した細胞、より好ましくは血液試料から調製した単核球を用いる場合、肝細胞癌患者の末梢血単核球においてTM4SF4 mRNAが検出されるが健常人の末梢血単核球では該mRNAが検出されなかったことから、TM4SF4遺伝子のmRNAおよび/または該遺伝子によりコードされる蛋白質が検出された場合、健常人由来の血液試料や上記標準値と比較することなく、該血液試料は肝癌由来の試料であると決定できる。
【0054】
被験試料は、特に制限されず、例えば、血液、細胞、尿、唾液、髄液、生検組織または剖検材料などの生体生物由来の試料を例示できる。TM4SF4遺伝子によりコードされる蛋白質が4つの膜貫通ドメインを有する膜蛋白質であることが知られていることから、被験試料は、細胞を含む試料であることが適当である。本発明者らは、ヒト肝細胞癌患者の末梢血単核球においてTM4SF4 mRNAが検出されるが健常人の末梢血単核球では該mRNAが検出されないことを実証した。このことから、被験試料として、好ましくは血液試料、より好ましくは血液試料から調製された細胞、さらに好ましくは血液試料から調製された単核球が適当である。「単核球」とは、単核細胞(mononuclear cell)とも称される単核の間葉系細胞群であり、結合組織、リンパ組織および血流中に広く分布する。単核球は、単球やリンパ球に代表される遊走単核白血球と、組織中に存在するマクロファージに代表される単核貪食系細胞に分類される。被験試料として生検組織も用いられるが、生検組織の採取は患者への侵襲性が高く負担が大きい。これに対し、血液試料の採取は患者への侵襲性が低く且つ容易に実施できるという利点を有する。
【0055】
TM4SF4遺伝子の発現の測定は、公知の遺伝子検出法を用いて実施できる。遺伝子検出法として具体的には、サザンブロット法、ノザンブロット法、逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)、Nucleic Acid Sequence−Based Amplification(NASBA)法、プラークハイブリダイゼーション、またはコロニーハイブリダイゼーションなどを例示できる。また、in situ RT−PCRや in situ ハイブリダイゼーションなどを利用した細胞レベルでの測定を用いることもできる。目的遺伝子の検出に用いることのできる方法は上記方法に限定されず、自体公知の遺伝子検出法がいずれも使用可能である。
【0056】
遺伝子検出法においては、遺伝子の検出、遺伝子の発現量の測定、および遺伝子の増幅の実施に、プローブとしての性質を有するポリヌクレオチドまたはプライマーとしての性質を有するオリゴヌクレオチドが有用である。
【0057】
プライマーとしての性質を有するオリゴヌクレオチドとは、目的の遺伝子に特異的にハイブリダイゼーションして該遺伝子を増幅できる、該遺伝子特有の配列で表されるものを意味する(以下、プライマーと称する)。プローブとしての性質を有するポリヌクレオチドとは、目的の遺伝子に特異的にハイブリダイゼーションできる、該遺伝子特有の配列で表されるものを意味する(以下、プローブと称する)。ここで、「目的の遺伝子を特異的に増幅できる」とは、目的の遺伝子に特異的にハイブリダイゼーションして増幅産物を形成できるが、それ以外の遺伝子の増幅産物は形成できないか、あるいは増幅産物量が少ないことを意味する。また、「目的の遺伝子に特異的にハイブリダイゼーションできる」とは、目的の遺伝子とのハイブリダイゼーション産物を形成できるが、それ以外の遺伝子とのハイブリダイゼーション産物を形成できないか、あるいはハイブリダイゼーション産物量が少ないことを意味する。
【0058】
TM4SF4遺伝子の検出、該遺伝子の発現量の測定、および該遺伝子の増幅は、TM4SF4遺伝子に特異的にハイブリダイゼーションするプライマーまたはプローブを用いて実施できる。例えば、TM4SF4遺伝子のmRNAの検出、該遺伝子のmRNA量の測定、および該遺伝子のmRNA量の増幅は、該遺伝子のmRNAまたはcDNAに特異的にハイブリダイゼーションするプライマーまたはプローブを用いて実施できる。
【0059】
TM4SF4遺伝子を特異的に増幅するためのプライマーは、該遺伝子の少なくとも一部を増幅し得るものであればよい。また、TM4SF4遺伝子に特異的にハイブリダイズするプローブは、該遺伝子の少なくとも一部に特異的にハイブリダイズし得るものであればよい。プライマーおよびプローブは、公知の手法に従ってTM4SF4遺伝子の配列情報に基づいて適宜設計でき、常法に従って合成により得ることができる。プライマーは、塩基配列長が一般的に5〜50ヌクレオチド程度であるものが好ましく、10〜35ヌクレオチド程度であるものがより好ましく、15〜30ヌクレオチド程度であるものがさらに好ましい。プローブは、塩基配列長が一般的に15ヌクレオチド以上であるものが好ましく、15〜1000ヌクレオチド程度であるものがより好ましく、50〜500ヌクレオチド程度であるものがさらに好ましい。プローブは、通常は標識化したプローブを用いるが、非標識のものであってもよい。プローブを標識化する方法は、種々の方法が知られており、具体的には、ニックトランスレーション、ランダムプライミングまたはキナーゼ処理を利用する方法を例示できる。適当な標識物質として、ジゴキシゲニン、放射性同位体、ビオチン、蛍光物質、化学発光物質、酵素、タグペプチド、抗体を例示できる。
【0060】
TM4SF4遺伝子を特異的に増幅するためのプライマーとして、具体的には配列番号3〜8のいずれか1に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドを例示できる。これらプライマーは、好ましくは、配列番号3に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドと配列番号4に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドとから構成されるプライマーセット、配列番号5に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドと配列番号6に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドとから構成されるプライマーセット、および配列番号7に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドと配列番号8に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドとから構成されるプライマーセットで使用されることが適当である。これらオリゴヌクレオチドは、配列番号1に記載の塩基配列で表されるポリヌクレオチドの配列情報に基づいて設計し合成することにより作成した。
【0061】
プライマーとしての性質を有するオリゴヌクレオチドまたはプローブとしての性質を有するポリヌクレオチドを用いてそれぞれ増幅反応またはハイブリダイゼーション反応を行い、その増幅産物またはハイブリッド産物を検出することにより、遺伝子の検出を実施できる。
【0062】
増幅反応またはハイブリダイゼーション反応を行う場合には、通常は、被験試料からポリヌクレオチドを調製することが好ましい。調製するポリヌクレオチドは、RNAまたはDNAのいずれでもよい。被験試料からのポリヌクレオチドの調製は、公知の方法を適宜使用して実施できる。例えば、RNAを調製する場合は、グアニジン−塩化セシウム超遠心法、ホットフェノール法、またはチオシアン酸グアニジン−フェノール−クロロホルム(AGPC)法などが、また、DNAを調製する場合は、フェノール抽出およびエタノール沈殿による方法、ガラスビーズを用いる方法などを利用できる。その他、市販のRNA抽出試薬やRNA抽出キット、またはDNA抽出試薬やDNA抽出キットを使用して、RNAやDNAの調製を実施できる。被験試料からRNAを調製した場合、さらに該RNAをテンプレートとして逆転写反応を行い、cDNAを調製して増幅反応に用いることができる。逆転写反応によるRNAからのcDNAの調製方法は、周知であり、また、市販のRT−PCR用キットなどを用いて実施できる。
【0063】
増幅反応は、所望のポリヌクレオチドを増幅し得る公知の増幅法を用いて実施できる。増幅法は、特に限定されないが、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によるDNA/RNA増幅法が好適に利用できる。PCRは、所望のポリヌクレオチドを特異的に増幅できるプライマーを用いる方法である限り、従来公知の方法のいずれも使用できる。例えば、RT−PCR、ネスティッドPCR、リアルタイムPCR、および競合PCRを用いることができ、その他、当該分野で用いられる種々のPCRの変法を適応できる。その他の増幅法として、LAMP(Loop−mediated isothermal Amplification)法、ICAN(Isothermal and Chimeric primer−initiated Amplification of Nucleic acids)法、RCA(Rolling Circle Amplification)法などが知られており、いずれも用いることができる。
【0064】
PCRによれば、DNAをテンプレートとし、DNAポリメラーゼにより該DNAの塩基配列中の特定部位のみを繰り返し複製することにより、該特定部位の塩基配列からなるポリヌクレオチドを増幅することができる。このとき、複製反応のプライマーとして、該特定部位の一方の端の塩基配列を含むオリゴヌクレオチドおよび他方の端の塩基配列を含むオリゴヌクレオチドを該DNAの塩基配列から設計して作成し、プライマーセットとして用いる。
【0065】
RT−PCRによれば、RNAをテンプレートとし、逆転写反応酵素(RNA依存性DNAポリメラーゼ)によりcDNAを作成し、その後、作成したcDNAをテンプレートとしてPCRを行うことにより、該cDNAの該特定部位の塩基配列からなるポリヌクレオチドを増幅することができる。
【0066】
ネスティッドPCRによれば、PCRやRT−PCRで増幅されたポリヌクレオチドをテンプレートとして、該増幅されたポリヌクレオチドの塩基配列に基づいて設計し作成されたプライマーセットを用いてDNAポリメラーゼにより複製反応を行うことにより、該増幅されたポリヌクレオチドの特定部位の塩基配列からなるポリヌクレオチドを増幅することができる。ネスティッドPCRは、所望のDNAのみをより確実に増幅する目的で使用される。
【0067】
リアルタイムPCRによれば、DNAをテンプレートとしてPCRによる増幅を経時的に測定することにより、増幅率に基づいてテンプレートDNAの初期量を定量できる。リアルタイムPCRは蛍光色素を用いて行われ、二種類の方法がある。一方は、互いに干渉しあう2種類の蛍光色素で標識した配列特異的プローブを用いる方法(TaqMan法)であり、もう一方は二本鎖DNAにインターカレートしたときのみ蛍光を発する色素、例えばエチジウムブロマイド、SYBRTM Green I、PicoGreenなどを用いる方法である。TaqMan法では、5´末端を蛍光色素(レポーター)で、3´末端を消光剤(クエンチャー)で標識した、目的遺伝子の特定領域にハイブリダイズするプローブが使用される。プローブは通常の状態ではクエンチャーによりレポーターの蛍光が抑制されている。この蛍光プローブを目的遺伝子にハイブリダイズさせた状態で、その外側からTaq DNAポリメラーゼを用いてPCRを行う。Taq DNAポリメラーゼによる伸張反応が進むと、そのエキソヌクレアーゼ活性により蛍光プローブが5´末端から加水分解され、その結果、レポーター色素が遊離して蛍光を発する。この蛍光の強度を経時的に測定することによりテンプレートDNAの初期量を定量できる。リアルタイムPCRはRT−PCRと組み合わせて用いること(リアルタイムRT−PCR)により、少量のmRNAの定量が可能になる。
【0068】
競合PCRによれば、所望のmRNAを検出するためのプライマーと相補的な配列を有し、分子量あるいは制限酵素切断部位が標的mRNAと異なる、既知量の競合テンプレートRNAを試料中に加え、RT−PCR後にPCRを行い、生成した所望のmRNA由来増幅産物量および競合鋳型テンプレート由来の増幅産物量を比較することにより、所望のmRNAを定量することができる。
【0069】
増幅反応により得られる増幅産物が所望のポリヌクレオチドであるか否かは、該増幅産物を特異的に認識することができる公知の方法を用いて検出できる。例えば、アガロースゲル電気泳動法などを利用して、特定のサイズのポリヌクレオチドが増幅されているか否かを確認することができる。あるいは、増幅反応の過程で増幅産物に取り込まれるデオキシヌクレオチド三リン酸(dNTP)に標識物質を標識しておき、増幅産物に取り込まれたdNTPの標識物質を測定することにより、増幅産物を検出することができる。標識物質としては、蛍光物質、例えばフルオレセイン(FITC)、スルホローダミン(SR)およびテトラメチルローダミン(TRITC)など、発光物質、例えばルシフェリンなど、並びに放射性同位体、例えば32P、35Sおよび121Iなどを例示できる。これら標識物質による標識の方法および標識物質の検出方法は、特に制限されることはなく、従来公知の各種方法を適用することができる。
【0070】
ハイブリダイゼーション反応は、所望のポリヌクレオチドにハイブリダイゼーションし得るプローブを用いて、プローブが該ポリヌクレオチドと特異的に反応するような条件で行う。プローブが該ポリヌクレオチドと特異的に反応するような条件、すなわちストリンジェントな条件は、上記のようによく知られており、特に制限されない。
【0071】
ハイブリダイゼーション反応に用いるプローブに標識物質を標識しておき、ハイブリダイゼーション反応後に標識物質を測定することにより、ハイブリダイゼーション産物を検出することができる。標識物質としては、蛍光物質、例えばフルオレセイン(FITC)、スルホローダミン(SR)およびテトラメチルローダミン(TRITC)など、発光物質、例えばルシフェリンなど、放射性同位体、例えば32P、35Sおよび121Iなど、酵素、例えばアルカリホスファターゼおよびホースラディシュパーオキシダーゼなど、並びにビオチンを例示できる。これら標識物質による標識の方法および標識物質の検出方法は、特に制限されることはなく、従来公知の各種方法を適用することができる。
【0072】
TM4SF4遺伝子を肝癌検出用マーカーとして測定することを特徴とする肝癌の検出方法の具体例を以下に説明する。まず、血液試料から単核球を調製する。単核球の分離は、公知の方法を用いて行うことができ、例えば比重遠心法などの方法により実施できる。次いで、単核細胞よりRNAを抽出し、得られたRNAをテンプレートとし逆転写反応によりcDNAを生成する。RNAの抽出および逆転写反応によるcDNAの生成は、上記ポリヌクレオチドの調製方法およびcDNAの生成方法にしたがって実施できる。得られたcDNAをテンプレートとしてネスティッドPCRによりTM4SF4 cDNAの断片ポリヌクレオチドを増幅して検出する。ネスティッドPCRは、得られたcDNAをテンプレートとして、例えば配列番号3に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドおよび配列番号4に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドから構成されるプライマーセットを用いて1st PCRを行い、その後、1st PCR産物をテンプレートとして、例えば配列番号5に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドおよび配列番号6に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドから構成されるプライマーセットを用いて2nd PCRを行うことにより実施できる。プライマーセットはこれらに制限されず、TM4SF4遺伝子の塩基配列に基づいて適宜設計し合成したものを使用できる。2nd PCR産物を電気泳動により分離し、上記プライマーセットを用いてネスティッドPCRにより増幅されると予想されるTM4SF4 cDNAの断片ポリヌクレオチドのサイズに相当する部位のバンドを検出する。このようなバンドが検出された場合、血液試料から調製された単核球にはTM4SF4遺伝子が発現していると判定でき、さらにTM4SF4遺伝子が発現していることが確認された血液試料は肝癌由来の血液試料であると判定できる。
【0073】
TM4SF4遺伝子を肝癌検出用マーカーとして測定することを特徴とする肝癌の検出方法はまた、被験試料からRNAを抽出し、該RNAを用いて、リアルタイムRT−PCRにより実施できる。ここで用いるプライマーセットとして、例えば配列番号7に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドおよび配列番号8に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドから構成されるプライマーセットを例示できる。プライマーセットはこれらに制限されず、TM4SF4遺伝子の塩基配列に基づいて適宜設計し合成したものを使用できる。
【0074】
TM4SF4遺伝子によりコードされる蛋白質の測定は、この分野における慣用技術による蛋白質検出法あるいは定量法を用いて行うことができる。例えば、抗体(ポリクローナルまたはモノクローナル抗体)を用いて目的蛋白質の検出や定量を実施できる。具体的には、被験試料から蛋白質画分を調製し、目的蛋白質に対する特異抗体を用いて免疫沈降を行い、ウェスタンブロット法またはイムノブロット法で目的蛋白質の解析を行うことにより、上記検出が可能である。また、目的蛋白質に対する抗体を用いて、免疫組織化学的技術によりパラフィンまたは凍結組織切片中の目的蛋白質を検出することができる。あるいは、目的蛋白質に対する抗体を用いて、細胞染色により細胞上の目的蛋白質を検出することができる。目的蛋白質またはその変異体を検出する方法の具体例としては、酵素免疫測定法(ELISA)、サンドイッチ法、放射線免疫検定法(RIA)、免疫放射線検定法(IRMA)、免疫酵素法(IEMA)、競争結合アッセイ、免疫蛍光法、ウエスタンブロット法、免疫沈降法、およびプロテインチップによる解析法などが挙げられる。抗体はTM4SF4遺伝子によりコードされる蛋白質あるいは該蛋白質の断片蛋白質を抗原として用いて自体公知の抗体作製法を利用できる。ポリクローナル抗体は、免疫手段を施された動物の血清から自体公知の抗体回収法によって取得できる。好ましい抗体回収手段として免疫アフィニティクロマトグラフィー法が挙げられる。モノクロ−ナル抗体は、免疫手段が施された動物から抗体産生細胞(例えば、脾臓またはリンパ節由来のリンパ球)を回収し、自体公知の永久増殖性細胞(例えば、P3−X63−Ag8株などのミエローマ株)への形質転換手段を導入することにより生産できる。
【0075】
本発明に係る検出方法は、肝癌、好ましくは肝細胞癌の検出に有効である。本発明に係る検出方法を用いて肝癌、好ましくは肝細胞癌の診断を実施できる。したがって、本発明に係る検出方法を用いる肝癌、好ましくは肝細胞癌の診断方法も本発明の範囲に包含される。肝癌の診断を行う場合、本発明に係る検出方法を実施するとともに、従来行われているマーカー、例えばAFP、AFP L3分画、PIVKA−IIなどの測定や、血液検査、例えば全血球計算(Complete Blood Count、CBC)、肝機能検査、腎機能検査などを実施し、それらの結果と比較検討することにより肝癌の判定ができる。また、摘出標本や細胞診がある場合には、その結果と比較検討することにより肝癌の判定ができる。
【0076】
本発明はまた、肝癌、好ましくは肝細胞癌の検出に用いる試薬および試薬キットに関する。
【0077】
本発明に係る試薬として、TM4SF4遺伝子または該遺伝子の断片ポリヌクレオチドを特異的に増幅し得るプライマーとしての性質を有するオリゴヌクレオチド、TM4SF4遺伝子または該遺伝子の断片ポリヌクレオチドに特異的にハイブリダイズするプローブとしての性質を有するポリヌクレオチド、およびTM4SF4遺伝子によりコードされる蛋白質に特異的に結合する抗体を挙げることができる。例えば、本発明に係る試薬として、TM4SF4遺伝子のmRNAまたはcDNAに特異的にハイブリダイゼーションするオリゴヌクレオチドおよびポリヌクレオチドを例示できる。具体的には、例えば、本発明に係る試薬として、配列番号3から8のいずれか1に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドを例示できる。本発明に係る試薬は、標識物質により予め標識されたものであることができる。標識物質として、上述の蛋白質や放射性同位元素を例示できる。本発明に係る試薬は、緩衝液、塩、安定化剤、および/または防腐剤などの物質を含むことができる。製剤化にあたっては、各物質の性質に応じた自体公知の製剤化手段を導入すればよい。本発明に係る試薬は、本発明に係る肝癌の検出方法や該検出方法を用いた肝癌の診断方法に使用できる。ここで「TM4SF4遺伝子によりコードされる蛋白質に特異的に結合する」とは、該蛋白質に結合するが、それ以外の蛋白質には結合しないか弱く結合することを意味する。
【0078】
本発明に係る試薬キットとして、TM4SF4遺伝子または該遺伝子の断片ポリヌクレオチドを特異的に増幅し得るプライマーとしての性質を有するオリゴヌクレオチド、TM4SF4遺伝子または該遺伝子の断片ポリヌクレオチドに特異的にハイブリダイズするプローブとしての性質を有するポリヌクレオチド、およびTM4SF4遺伝子によりコードされる蛋白質に特異的に結合する抗体のうちの少なくともいずれか1つを含む試薬キットを挙げることができる。例えば、本発明に係る試薬キットとして、TM4SF4遺伝子のmRNAまたはcDNAに特異的にハイブリダイゼーションするオリゴヌクレオチドおよびポリヌクレオチド、並びに該遺伝子によりコードされる蛋白質に特異的に結合する抗体のうちの少なくともいずれか1つを含む試薬キットを例示できる。具体的には、例えば、本発明に係る試薬キットとして、配列番号3から8のいずれか1に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドを含む試薬キットを例示できる。好ましくは、配列番号3に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドと配列番号4に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドとのセット、配列番号5に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドと配列番号6に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドとのセット、および配列番号7に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドと配列番号8に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドとのセットから選ばれるいずれか1つのセットを含む試薬キットを例示できる。より好ましくは、配列番号3に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドと配列番号4に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドとのセット、および配列番号5に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドと配列番号6に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドとのセットを含む試薬キットを例示できる。本発明に係る試薬キットは、その他に本発明の検出方法の実施に有用な物質、例えば標識物質、標識物質の検出剤、反応希釈液、標準抗体、緩衝液、洗浄剤および反応停止液などを含むことができる。標識物質として、上述の蛋白質や放射性同位元素を例示できる。標識物質は、予めポリヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、あるいは抗体に付加されていてもよい。本発明に係る試薬キットは、本発明に係る肝癌の検出方法や該検出方法を用いた肝癌の診断方法に使用できる。また、本発明に係る試薬キットは、肝癌、好ましくは肝細胞癌の判定用キットおよび診断用キットとして使用できる。
【0079】
本発明はまた、肝癌、好ましくは肝細胞癌の検出に用いるDNAチップに関する。本発明において、DNAチップと言う用語はDNAアレイという用語と置換可能に使用される。本発明に係るDNAチップは、TM4SF4 mRNAとハイブリダイゼーションし得るポリヌクレオチドをシリコンやガラスなどの基板上に固定化することにより製造できる。DNAの基板への固定化は、周知方法を用いて実施できる(シェーナ(Shena M.)ら、「サイエンス(Science)」、1995年、第270巻、第5235号、p.467−470)。
【実施例1】
【0080】
マウス肝発癌モデルでの発癌過程において変化する遺伝子群をDNAマイクロアレイを用いてスクリーニングした。
【0081】
具体的には、c−myc/TGF−αダブルトランスジェニックマウス(ムラカミら(Murakami H. et.al.)、「キャンサーリサーチ(Cancer Research)」、1993年、第53巻、第8号、p.1719−1723)を用い、本モデルマウスにおいて発生した肝腫瘍のうち20個を採取し、TRIZOLTMにてRNAを抽出した。この時、腫瘍を最大割面で切断して約3mmの厚さの組織切片を作成し、ヘマトキシリン・エオジン染色標本(HE標本)を作成した。
【0082】
HE標本で確認した癌および腺腫をそれぞれ10個選択し、それぞれからトータルRNA(tRNA)を20μgずつ調製し、試料として用いた。癌から調製した試料および腺腫ら調製した試料を、それぞれをCy5およびCy3で標識した。標識はAtlas glass labeling kit(Clontech社製)を用いて行った。標識した試料をATC2.6K mouse Onco−chip(ATC、NCI)上でハイブリダイゼーションし、37℃で48時間インキュベーションした。ハイブリダイゼーションは、添付のプロトコールにしたがって行った。
【0083】
その結果、マウス肝発癌モデルにおいて発生した肝癌組織において、肝腺腫組織と比較してTM4SF4 mRNAが高発現となっていることが判明した。
【実施例2】
【0084】
TM4SF4 mRNAの発現を、マウス肝発癌モデルにおいて発生した肝臓腫瘍と正常マウスの肝組織について比較検討した。本検討においては、各組織におけるTM4SF4の発現をin situ ハイブリダイゼーション法(ISHと略称することがある)により検出するとともに、TM4SF4 mRNAのコピー数をリアルタイムRT−PCRにて測定した。
【0085】
具体的には、TM4SF4 mRNAの発現を、c−myc/TGF−αダブルトランスジェニックマウスにおいて発生した肝臓の異形成巣、肝腺腫および肝癌、並びに野生型マウス(WTと略称することがある)の肝組織を用いて比較検討した。
【0086】
in situ ハイブリダイゼーションによる組織発現の検出は、各組織から作成した組織切片を用い、下記のように作成したプローブを用いてノーザンブロット法により実施した。プローブの作成のため、まずマウスImage:423204クローンをResGen社より購入し、該クローンについてT3およびT7プライマーを用いてシーケンスを行い、TM4SF4遺伝子が含まれていることを確認した。該クローンをテンプレートとし、配列表の配列番号9に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドおよび配列番号10に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドから構成されるプライマーセットを用いてPCRを行い、279bpのPCR産物を得た。PCR産物を電気泳動に付し、得られたバンドを切り出して精製し、得られたポリヌクレオチドをプローブ(以下、マウスTM4SF4プローブと称する)として用いた。各組織よりRNAをTRIZOLTMにて抽出し、その15μlを電気泳動に付した後にメンブレンに転写し、次いで32Pで標識したマウスTM4SF4プローブをハイブリダイゼーションさせた。
【0087】
リアルタイムRT−PCRによるTM4SF4 mRNAのコピー数の測定は、上記組織発現の検出に用いたRNAと同じRNAを用いて行った。まず、SuperScriptTM III First−Strand Synthesis System for PCR(Invitrogen社製)を用い、添付のプロトコールにしたがって1μgのtRNAをテンプレートとして逆転写反応を行ってcDNAを生成した。次いで、ABI PRISM 7700HT(Applied Biosystems社製)を用いてリアルタイムPCRを行った。プライマーセットとして配列番号11に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドおよび配列番号12に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドから構成されるプライマーセットを用いた。本プライマーセットにより、102bpのマウスTM4SF4 cDNA断片が増幅される。
【0088】
上記検討の結果、TM4SF4 mRNAのコピー数は、マウス肝発癌モデルにおいて発生した肝癌組織において、異形成巣や肝腺腫組織および野生型マウスの肝組織と比較して有意に増加していることが判明した(図1)。また、TM4SF4 mRNAは、正常肝組織においてグリソンと中心静脈域に発現しており、肝癌組織においてその発現が増加していることが判明した。
【0089】
上記結果から、TM4SF4遺伝子は肝腺腫から肝癌へ発癌する過程でその発現が増加する遺伝子であると判定された。
【実施例3】
【0090】
ヒト肝細胞癌の肝癌組織におけるTM4SF4 mRNAの発現を、該肝癌組織周囲の肝組織および正常肝組織における発現と比較検討した。組織試料として、ヒト肝癌組織ライブラリー(Laboratory of Experimental Carcinogenesis)の57症例を用いた。各組織からRNAをTRIZOLTMにて抽出し、ABI PRISM 7700HT(Applied Biosystems社製)を用いてリアルタイムRT−PCRを行った。プライマーセットとして配列番号7に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドおよび配列番号8に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドから構成されるプライマーセットを用いた。本プライマーセットにより、102bpのTM4SF4 cDNA断片が増幅される。
【0091】
上記検討の結果、57症例のヒト肝細胞癌組織中のTM4SF4 mRNAの発現は、該癌組織周囲の肝組織や正常肝組織に比べて有意に増加していることが判明した(図2)。また、当該57症例のうち45.3%の症例で、癌組織におけるTM4SF4 mRNAの発現が該癌組織周囲の肝組織に比べて2倍以上亢進していた。
【0092】
このように、ヒト肝癌症例においても、肝癌組織におけるTM4SF4遺伝子の発現が該肝癌組織周囲の肝組織や正常肝組織と比較して著しく高いことが明らかになった。これら結果から、本発明者らは、TM4SF4遺伝子および該遺伝子によりコードされる蛋白質は肝癌マーカーとして肝癌の検出に利用できると考えている。
【実施例4】
【0093】
原発性肝癌症例、転移性肝癌症例および健常者から採取した血液試料を対象にTM4SF4遺伝子の発現を比較検討した。血液試料の採取は、インフォームドコンセントを得た後に実施した。肝細胞癌症例として肝細胞癌症例19例、転移性肝癌症例として膵癌肝転移症例2例、健常者2例を対象とした。
【0094】
TM4SF4遺伝子の発現の検討は、血液試料から分離した単核球試料のTM4SF4 mRNA発現を検出することにより実施した。
【0095】
1.単核球層の分離
まず、10mlの静脈血(以下、末梢血と称することがある)をEDTA(ethilenediamine tetraacetate)採血管にて採取し、冷凍保存した。採取後8時間以内に濃度勾配法により血液試料からの単核球層の分離処理を行った。具体的には、採取した血液試料に25mlのリン酸緩衝生理食塩水(PBS)を加えて希釈し、50mlの遠心管に添加した15mlのFicoll PaqueTM(Amersham Biosciences社製)の上に重層した後、1200g、4℃で30分間遠心処理を行った。中間層の細胞を採取して新しい50mlの遠心管に移し、PBSにより3回洗浄した。洗浄は、まず25mlのPBSを加えて1200g、4℃で10分間遠心処理し、次いでペレットに25mlのPBSを加えて1200g、4℃で10分間遠心処理し、最後に1mlのPBSを加えて単核球をけん濁して2mlの遠心管に移し1200g、4℃で2分間遠心処理することにより行った。その後、上清を捨て、ペレットのみとして−80℃で凍結保存した。
【0096】
2.RNAの抽出
凍結保存していたペレットからtRNAを抽出した。tRNAの抽出は、tRNA抽出キット、RNeasyMiniTM(Qiagen社製)を用い、添付のプロトコールにしたがって実施した。その後、RNase−Free DNase Setを用いてDNase処理(Qiagen社製)を行った。得られたRNAの濃度と質を吸光度計を用いて測定した。
【0097】
3.逆転写酵素反応、Nested RT−PCR反応
1μgのtRNAをテンプレートとして逆転写反応によりcDNAを生成した。逆転写反応は、Super ScriptTM III First−Strand Synthesis System for RT PCR(invitrogen社製)を用いて添付のプロトコールにしたがって実施した。
【0098】
得られたcDNAをテンプレートとしてRT−nested−PCRにてTM4SF4 cDNAを増幅し検出した。RT−nested−PCRはPlatinumTM PCR SuperMix High Fidelity(invitrogen社製)を用いて添付のプロトコールにしたがって実施した。
【0099】
具体的には、まず、2μlのcDNAをテンプレートとし、プライマーセットとして配列番号3に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドおよび配列番号4に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドから構成されるプライマーセットを用い、アニーリング温度を55℃とし、35サイクルでPCR(1st PCR)を行った。本プライマーセットにより、TM4SF4遺伝子(配列番号1)の第391番目から第740番目のヌクレオチドからなる350bpに相当するTM4SF4 cDNA断片が増幅される。
【0100】
次いで、1st PCR産物1μlをテンプレートとし、プライマーセットとして配列番号5に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドおよび配列番号6に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドから構成されるプライマーセットを用い、アニーリング温度を55℃とし、35サイクルでPCR(2nd PCR)を行った。本プライマーセットにより、TM4SF4遺伝子(配列番号1)の第428番目から第595番目のヌクレオチドからなる163bpに相当するTM4SF4 cDNA断片が増幅される。
【0101】
内部コントロールとしてβ−アクチン遺伝子を採用し、その発現を検出した。β−アクチン遺伝子の発現の検出は、上記生成したcDNAをテンプレートとして用いてβ−アクチン cDNAをPCRにて増幅することにより実施した。PCRはSuper ScriptTM III First−Strand Synthesis System for RT PCR(invitrogen社製)を用いて添付のプロトコールにしたがって実施した。具体的には、上記cDNA 1μlをテンプレートとし、プライマーセットとして配列番号13に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドおよび配列番号14に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドから構成されるプライマーセットを用い、アニーリング温度を63℃とし、30サイクルでPCRを行った。本プライマーセットにより、234bpのβ−アクチン cDNA断片が増幅される。
【0102】
結果を表1にまとめ、また、RT−nested−PCRにより得られた結果のうち代表的な結果をいくつかの症例について図3に示す。表1および図3において、HCC、Liver Metastasis、およびControlはそれぞれ、肝細胞癌症例、膵癌肝転移症例、および健常人を示す。
【0103】
表1に示すように、肝細胞癌症例では19症例中18症例で、末梢血から調製した単核球試料中にTM4SF4 mRNAが検出された。一方、膵癌肝転移症例では2症例中1症例で末梢血から調製した単核球試料中にTM4SF4 mRNAが検出された。これに対し、健常人由来の末梢血から調製した単核球試料中ではTM4SF4 mRNAは検出されなかった。
【0104】
【表1】

【0105】
このように、TM4SF4 mRNAは、健常人由来の末梢血から調製した単核球試料中には検出されず、肝癌症例由来の末梢血から調製した単核球試料中で検出されることが判明した。肝癌症例および健常人由来の各単核球試料中のβアクチン遺伝子の発現量はほぼ同等であることから、肝細胞癌症例由来の単核球試料中のTM4SF4 mRNAの発現は、用いた試料の量の差異などによる人為的な結果ではないことは明らかである。
【0106】
上記結果およびTM4SF4遺伝子の肝臓および膵臓における発現特異性から、TM4SF4遺伝子および該遺伝子によりコードされる蛋白質は肝癌マーカーとして利用できると本発明者らは考えている。また、TM4SF4遺伝子および該遺伝子によりコードされる蛋白質の検出は、血液試料を用いて行うことができるため、簡便で患者への侵襲が少なく、肝癌の検出や診断に有用性が高い。
【産業上の利用可能性】
【0107】
本発明により、TM4SF4遺伝子または該遺伝子によりコードされる蛋白質をマーカーとして用い、さらに該マーカーを検出することを特徴とする肝癌、特に肝細胞癌の検出方法または診断方法を実施できる。
【0108】
本マーカーの測定は、被検試料として肝組織試料のみならず血液試料を用いて実施できるため、患者への侵襲性が少く且つ簡便に実施でき有用性が高い。さらに本マーカーの測定により、従来判定が困難であった肝癌、特に肝細胞癌の判定がより確度高く且つ容易に実施され得る。
【0109】
このように本発明は、TM4SF4遺伝子および/または該遺伝子によりコードされる蛋白質を測定することを特徴とする肝癌、特に肝細胞癌の検出方法または診断方法であって、血液試料を使用して実施できる方法を提供することができるという点において、医薬産業において非常に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0110】
【図1】TM4SF4遺伝子の発現が、マウス肝発癌モデルにおいて発生した肝癌組織(Carcinomaと表示)において、異形成巣(Dysplasticと表示)や肝腺腫組織(Adenomaと表示)および野生型マウスの肝組織(WTと表示)と比較して有意に亢進していたことを示す図である。TM4SF4 mRNAの定量はリアルタイムRT−PCRにより実施し、各組織中の該mRNA量を該mRNAコピー数で示した。縦軸はTM4SF4 mRNAコピー数(図中、Absolute copy number of TM4SF4と表示)を示す。図中、各カラムの上部に示した数字は検体数を示す。
【図2】TM4SF4遺伝子の発現が、57症例のヒト肝細胞癌組織(Tumorと表示)において、周囲の正常肝組織(Normalと表示)や該癌組織周囲の肝組織(Non−tumorと表示)に比べて有意に亢進していたことを示す図である。TM4SF4 mRNAの定量はリアルタイムRT−PCRにより実施し、各組織中の該mRNA量を該mRNAコピー数で示した。縦軸はTM4SF4 mRNAコピー数(図中、Absolute copy number of TM4SF4と表示)を示す。図中、各カラムの上部に示した数字は検体数を示す。
【図3】TM4SF4 mRNAが、肝細胞癌症例(HCCと表示)の末梢血から調製した単核球試料で検出されたが、健常人(Controlと表示)由来の末梢血から調製した単核球試料中では検出されなかったことを示す図である。一方、TM4SF4 mRNAは膵癌肝転移症例(Liver metastasisと表示)2例中1例の末梢血から調製した単核球試料で検出された。TM4SF4 mRNAの検出はRT−nested−PCRにより実施した。内部コントロールとしてβ−アクチン(β−actin)遺伝子の発現量を同様に測定したところ、いずれの試料でもほぼ同等の発現量であった。
【配列表フリーテキスト】
【0111】
配列番号1:ヒトTM4SF4遺伝子。
配列番号2:ヒトTM4SF4遺伝子(配列番号1)によりコードされる蛋白質。
配列番号3:ヒトTM4SF4遺伝子増幅プライマー用に設計されたオリゴヌクレオチド。
配列番号4:ヒトTM4SF4遺伝子増幅プライマー用に設計されたオリゴヌクレオチド。
配列番号5:ヒトTM4SF4遺伝子増幅プライマー用に設計されたオリゴヌクレオチド。
配列番号6:ヒトTM4SF4遺伝子増幅プライマー用に設計されたオリゴヌクレオチド。
配列番号7:ヒトTM4SF4遺伝子増幅プライマー用に設計されたオリゴヌクレオチド。
配列番号8:ヒトTM4SF4遺伝子増幅プライマー用に設計されたオリゴヌクレオチド。
配列番号9:マウスTM4SF4遺伝子増幅プライマー用に設計されたオリゴヌクレオチド。
配列番号10:マウスTM4SF4遺伝子増幅プライマー用に設計されたオリゴヌクレオチド。
配列番号11:マウスTM4SF4遺伝子増幅プライマー用に設計されたオリゴヌクレオチド。
配列番号12:マウスTM4SF4遺伝子増幅プライマー用に設計されたオリゴヌクレオチド。
配列番号13:ヒトβ−アクチン増幅プライマー用に設計されたオリゴヌクレオチド。
配列番号14:ヒトβ−アクチン増幅プライマー用に設計されたオリゴヌクレオチド。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
血液試料におけるトランスメンブレン4 スーパーファミリー4(transmembrane 4 superfamily 4:TM4SF4)遺伝子の発現を測定することを含む、肝癌の検出方法。
【請求項2】
TM4SF4遺伝子の発現の測定を該遺伝子のmRNAまたはcDNAに特異的にハイブリダイゼーションするプライマーまたはプローブを用いて実施することを含む請求項1に記載の肝癌の検出方法。
【請求項3】
TM4SF4遺伝子の発現の測定を下記プライマーセットのうちの少なくともいずれか1を用いて実施することを含む請求項1に記載の肝癌の検出方法:
(1)配列表の配列番号3に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドと配列番号4に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドから構成されるプライマーセット、
(2)配列表の配列番号5に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドと配列番号6に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドから構成されるプライマーセット、および
(3)配列表の配列番号7に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドと配列番号8に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドから構成されるプライマーセット。
【請求項4】
TM4SF4遺伝子の発現の測定が下記工程を含むことを特徴とする請求項1に記載の肝癌の検出方法:
(i)TM4SF4遺伝子のcDNAの断片ポリヌクレオチドを配列表の配列番号3に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドと配列番号4に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドから構成されるプライマーセットにより増幅して一次増幅産物を形成させる工程、
(ii)該一次増幅産物の断片ポリヌクレオチドを配列表の配列番号5に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドと配列番号6に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドから構成されるプライマーセットにより増幅して二次増幅産物を形成させる工程、および
(iii)該二次増幅産物を検出する工程。
【請求項5】
TM4SF4遺伝子の発現の測定を、該遺伝子によりコードされる蛋白質を測定することにより実施することを含む請求項1に記載の肝癌の検出方法。
【請求項6】
TM4SF4遺伝子によりコードされる蛋白質の測定を、該蛋白質に特異的に結合する抗体を用いて実施することを含む請求項5に記載の肝癌の検出方法。
【請求項7】
血液試料から単核球を調製し、該単核球を試料として用いることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の肝癌の検出方法。
【請求項8】
配列表の配列番号3から8のいずれか1に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド。
【請求項9】
トランスメンブレン4 スーパーファミリー4(transmembrane 4 superfamily 4:TM4SF4)遺伝子のmRNAまたはcDNAに特異的にハイブリダイゼーションするオリゴヌクレオチドおよびポリヌクレオチド、並びに該遺伝子によりコードされる蛋白質に特異的に結合する抗体のうち1つまたは2つ以上を含む肝癌検出用試薬キット。
【請求項10】
配列表の配列番号3から8のいずれか1に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドのうち1つまたは2つ以上を含む肝癌検出用試薬キット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−283945(P2008−283945A)
【公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−134562(P2007−134562)
【出願日】平成19年5月21日(2007.5.21)
【出願人】(506124170)
【Fターム(参考)】