説明

肝臓への負担の少ない鶏卵、その生産方法、及びこれを用いた健康食品又は特殊用途食品

【課題】 肝臓への負担の少ない鶏卵、その生産方法、及びこれを用いた健康食品又は特殊用途食品を提供する。
【解決手段】 紅麹を所定量管理しながら給与して飼育された鶏より生産された鶏卵を、肝機能障害者用の鶏卵とする。さらに、この肝臓への負担軽減効果を有する鶏卵を主成分として用い肝機能障害者用の健康食品又は特殊用途食品とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紅麹を給与して飼育された鶏より生産された肝臓への負担軽減効果を有する肝機能障害者用の鶏卵、その生産方法、及び、この鶏卵を主成分とする肝機能障害者用の健康食品又は特殊用途食品等に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、消費者の健康志向の高まりにより、従来の鶏卵よりもコレステロール含有量の低い鶏卵が開発されている。この低コレステロール鶏卵は、消費者のニーズによく合うことから市場に出回りつつある。また、豚肉等の食肉においても、コレステロール含有量がより低い肉製品が望まれている。
コレステロール含有量の高い動物性食品を過剰摂取すると、動脈硬化、狭心症、心筋梗塞などの心臓病を引き起こす可能性が高まるが、日常食品として利用されている鶏卵は、コレステロール含有量の高い食品として知られている。
さらに、コレステロールの過剰摂取を避ける目的から、鶏卵の摂取を抑える傾向もみられる。このため、これまでに低コレステロール鶏卵の製造や、コレステロール低減物質の研究が行われ、多くの発明がなされてきた。
【0003】
例えば、特許文献1記載の発明は、中鎖脂肪酸を鶏卵に含有させ、更に高脂血症の原因とされている鶏卵中のコレステロールを低減するものであるが、その解決手段として、ココナッツの果実胚乳およびその果皮を養鶏用の飼料中に含有させ、鶏に投与することによりココナッツ脂質中に含まれる中鎖脂肪酸を鶏卵に移行させ、更に鶏卵中のコレステロールを低減させるものである
また、特許文献2記載の発明は、安価に製造でき、安全性に問題のないコレステロール量の低減した卵を提供するものであるが、その解決手段として、こんにゃく芋及び/又はこんにゃく芋から有機溶媒によって抽出された抽出物、好ましくはこんにゃくトビ粉からエタノールを用いて抽出された抽出物からなる飼料添加物とその飼料添加物が添加された飼料を家禽に経口摂取させ、その後産卵させるものである。
さらに、特許文献3記載の発明は、卵黄コレステロール低減作用を有する飼料添加物を提供するものであるが、その解決手段として、家禽類の飼料に茶葉の溶媒抽出残査を含有する飼料添加物を添加することにより卵黄コレステロールを低減した卵を得るものである。
【0004】
しかしながら、これら何れの発明においても鶏卵中のコレステロールの低減については検討されているものの、鶏卵摂取者の肝機能への影響については何ら考慮がなされておらず検討もされてこなかった。そして、従来のコレステロールを低減した鶏卵でも、黄身には多くのコレステロールが残存し、肝機能障害を有する患者は、これらコレステロール低減鶏卵の摂取に際し注意が必要であった。
すなわち、鶏卵を摂取した場合の、肝機能障害を有する患者への肝臓への負担軽減については何ら考慮されてこなかったし、これに適した鶏卵は、未だ開発されていないのが現状である。
【特許文献1】特開2006−288362号公報
【特許文献2】特開2004−49016号公報
【特許文献3】特開平10−215788号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記課題の解決を図ろうとするもので、一般に高脂質食品といわれる鶏卵を摂取したにも係わらず、肝臓への負担が小さいことから、肝機能障害を有する患者、例えば、脂肪肝、肝硬変、肝炎、肝臓癌患者においても、摂取量を抑えることを心配することなく食することのできる鶏卵を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題に対し、本発明者らは鋭意研究した結果、特定の紅麹を給与して飼育された鶏より鶏卵を生産することにより、肝臓への負担軽減効果を有する肝機能障害者の食事用の鶏卵を得ることができ、これにより、一般に高脂質食品といわれる鶏卵を摂取したにも係わらず、肝臓への負担が小さいことから、肝機能障害を有する患者、例えば、脂肪肝、肝硬変、肝炎、肝臓癌患者が摂取量を特に抑える必要のない鶏卵を発明した。
【0007】
そして本発明は、以下の事項を構成とする発明である。
(1)Monascus Purpureus紅麹を給与して飼育された鶏より生産される鶏卵。
(2)紅麹を給与して飼育された鶏より生産される肝臓への負担の少ない鶏卵。
(3)紅麹を給与して飼育された鶏より生産される肝臓への負担を軽減する効果を有する鶏卵。
(4)紅麹を給与して飼育された鶏より生産される肝臓への負担軽減効果を有する肝機能障害者用の鶏卵。
(5)紅麹が、Monascus Purpureusであることを特徴とする肝臓への負担の少ない鶏卵、肝臓への負担を軽減する効果を有する鶏卵、あるいは、肝臓への負担軽減効果を有する肝機能障害者用の鶏卵。
(6)鶏に、Monascus Purpureus紅麹を給与して飼育する鶏卵の生産方法。
(7)鶏に、Monascus Purpureus紅麹を1日1羽あたり0.1〜6gを給与して飼育する鶏卵の生産方法。
(8)紅麹を給与して飼育された鶏より生産された鶏卵を主成分とすることを特徴とする肝機能障害者用の健康食品又は特殊用途食品。
(9)紅麹がMonascus Purpureusであることを特徴とする、紅麹を給与して飼育された鶏より生産された鶏卵を主成分とする肝機能障害者用の健康食品又は特殊用途食品。
【0008】
本発明に用いる紅麹の給餌量は、鶏の種類、月齢、紅麹の消化吸収性、安定性等の観点から適宜調整することができ、例えば鶏一日一羽あたり紅麹を0.1〜6g、好ましくは
0.5〜4g、更に好ましくは1〜2gを給餌することができる。
また、本発明に用いる紅麹として、特にMonascus purpureusを用いた場合は、その効果が顕著であり、本発明の目的を最適に達成できることが実験の結果判明した。
さらに、特定の紅麹を給与して飼育された鶏より生産された肝臓への負担軽減効果を有する鶏卵、すなわち紅麹給与鶏卵を用いた健康食品を得ることができるが、これについて説明する。
【0009】
紅麹給与鶏卵を主成分とする健康食品としては、菓子類、ドリンク剤、タブレット剤、顆粒または散剤等があげられる。
紅麹給与鶏卵を主成分とするドリンク剤は、紅麹給与鶏卵のエキス又は微粉末と水を主成分として混合して調製する。ドリンク剤を得るためには、粉末の速やかな沈降を防止する目的で、アルギン酸、アルギン酸ナトリウム、カラギーナンなどの増粘剤を添加することが好ましい。さらに、呈味性の改善のため、周知の各種添加剤を加えることができる。
また、紅麹給与鶏卵を主成分するタブレットを得るためには、紅麹給与鶏卵のエキス又は微粉末に、賦型剤及び各種の添加剤、例えば、焼成カルシウム、シクロデキストリン、麦芽糖、セルロース粉末、リン酸カリウム、澱粉グリコール酸ナトリウムなどを添加剤として混合した後、打錠成形することにより製造する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によって、鶏卵摂取により血清中コレステロールの増加が認められるにも係わらず、肝臓への負担が小さいことから、肝機能障害を有する患者、例えば、脂肪肝、肝硬変、肝炎、肝臓癌患者においても、摂取量を抑えることを心配することなく食することのできる鶏卵、その生産方法、及びこの鶏卵を主成分とする肝機能障害者用の健康食品又は特殊用途食品を得ることができる。
【実施例】
【0011】
[実施例1]
表1に示す「基礎飼料配合割合」を有する基礎飼料に紅麹(Monascus Purpureus粉末:台湾・GeneFerm社製)を外割りで2%配合した紅麹2%飼料を用意した。
産卵鶏(ジュリア種:300日齢)10羽に、この紅麹2%飼料を48日間不断給餌し、試験開始28日目から48日目に産卵鶏が産卵した卵を採卵して紅麹給与鶏卵を調製した。なお、鶏一日一羽あたりの紅麹2%飼料の摂取量は、107.6gであり、一日一羽あたり紅麹の給与量は2.15gであった。
【0012】
[比較例1]
実施例1とは別の産卵鶏(ジュリア種:300日齢)10羽に、表1に示す「基礎飼料配合割合」を有する基礎飼料のみを48日間不断給餌して、普通鶏卵を調製した。
表2に、試験期間中の「産卵成績」を示すが、実施例1と比較例1で産卵成績の違いは認められず、紅麹の添加は、産卵成績に対して影響を及ぼさないことが判明した。
【0013】
[実施例2]
実施例1より得られた紅麹給与鶏卵より卵黄を分離し、分離した卵黄を凍結乾燥して紅麹給与卵黄粉末を調製した。この卵黄粉末を用いて、表3に示すような紅麹卵黄10%飼料を調製した。
【0014】
[比較例2]
AIN−76(米国国立栄養研究所から1976年に発表された栄養研究のための標準精製飼料)の組成に基づいて、卵黄粉末を含まない普通精製飼料を調製した。
【0015】
[比較例3]
比較例1より得られた普通鶏卵から卵黄を分離し、分離した卵黄を凍結乾燥して普通卵黄粉末を調製した。そして普通卵黄10%飼料を調製した。
【0016】
表3に、比較例2の普通精製飼料、比較例3の普通卵黄10%飼料、実施例2の紅麹卵黄10%飼料の、それぞれの配合割合を示す。
【0017】
次に、6週齢のシリアンハムスター各区5匹に、普通精製飼料(比較例2)、普通卵黄10%飼料(比較例3)及び紅麹卵黄10%飼料(実施例2)を不断給餌して、3週間飼育した。開始時及び終了時に各個体の体重及び試験期間中の各試験群としての飼料摂取量を測定した。また、体重測定後に18時間絶食してペントバルビタールナトリウムで麻酔した後に、腹部大動脈より採血を行い、血清中の総コレステロール、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ活性(AST)、アラニンアミノトランスフェラーゼ活性(ALT)を測定した。ASTとALTは肝臓が損傷を受けた場合に血液中の濃度が上昇することが知られており、肝臓障害の指標として測定した。更に、屠殺後、肝臓を採取し重量を測定した。
【0018】
表4に、「血清成分及び肝臓重量」の測定結果を示す。
卵黄を配合していない普通精製飼料を給与した比較例2に対して、普通卵黄10%飼料及び紅麹卵黄10%飼料を給与した比較例3及び実施例2では、血清中コレステロールが上昇する傾向が認められ、体重当たりの肝臓重量が増加している。そして、卵黄10%を配合した飼料では、血清中コレステロールが上昇し、肝臓への負担が掛かっているものと考えられた。
また、普通卵黄10%飼料を給与した比較例3では、肝臓の損傷の指標である血清中AST、ALTが高まっていたが、一方で、紅麹卵黄10%飼料を給与した実施例2では、血清中AST、ALTは、普通精製飼料を給与した比較例2と同等レベルであった。
【0019】
このことから、普通卵と比較して紅麹卵は、脂肪含量の高い飼料を摂取した時の肝臓への負担を軽減する効果があることが明らかとなった。すなわち、紅麹卵黄10%飼料を給与した実施例2では、血清中コレステロールは上昇するものの、血清中AST、ALTは、普通精製飼料を給与した比較例2と同等レベルであったことから、本発明により、肝臓への負担が小さいために、肝機能障害を有する患者、例えば、脂肪肝、肝硬変、肝炎、肝臓癌患者においても、摂取量を抑えることなく食することが可能な鶏卵を提供することが可能となる。
【0020】
さらに、紅麹の添加濃度の相違による効果の差を明らかにするために、以下のとおり試験を実施した。
[実施例3]
表1に示す「基礎飼料配合割合」を有する基礎飼料に紅麹(Monascus Purpureus粉末)を外割で0.1%配合した紅麹0.1%飼料を用意した。
他の実施例・比較例とは別の産卵鶏(ジュリア種:350日齢)10羽に、この紅麹0.1%飼料を35日間定量給餌(一日一羽あたり100g)し、試験開始28日目から35日目に産卵鶏が産卵した卵を採卵して0.1%紅麹給与鶏卵を調製した。このとき、鶏一日一羽あたりの紅麹の給与量は0.1gとなる。
【0021】
[実施例4]
表1に示す「基礎飼料配合割合」を有する基礎飼料に紅麹(Monascus Purpureus粉末)を外割で0.5%配合した紅麹0.5%飼料を用意した。
他の実施例・比較例とは別の産卵鶏(ジュリア種:350日齢)10羽に、この紅麹0.5%飼料を35日間定量給餌(一日一羽あたり100g)し、試験開始28日目から35日目に産卵鶏が産卵した卵を採卵して0.5%紅麹給与鶏卵を調製した。このとき、鶏一日一羽あたりの紅麹の給与量は0.5gとなる。
【0022】
[比較例4]
表1に示す「基礎飼料配合割合」を有する基礎飼料に紅麹(Monascus Purpureus粉末)を外割で0.05%配合した紅麹0.05%飼料を用意した。
他の実施例・比較例とは別の産卵鶏(ジュリア種:350日齢)10羽に、この紅麹0.05%飼料を35日間定量給餌(一日一羽あたり100g)し、試験開始28日目から35日目に産卵鶏が産卵した卵を採卵して0.05%紅麹給与鶏卵を調製した。このとき、鶏一日一羽あたりの紅麹の給与量は0.05gとなる。
【0023】
[実施例5]
実施例3より得られた0.1%紅麹給与鶏卵より卵黄を分離し、凍結乾燥して0.1%紅麹給与卵黄粉末を調製した。この0.1%紅麹卵黄粉末を用いて、0.1%紅麹卵黄10%飼料を調製した。
【0024】
[実施例6]
実施例4より得られた0.5%紅麹給与鶏卵より卵黄を分離し、凍結乾燥して0.5%紅麹給与卵黄粉末を調製した。この0.5%紅麹卵黄粉末を用いて、0.5%紅麹卵黄10%飼料を調製した。
【0025】
[比較例5]
AIN−76(米国国立栄養研究所から1976年に発表された栄養研究のための標準精製飼料)の組成に基づいて、卵黄粉末を含まない普通精製飼料を調製した。
【0026】
[比較例6]
比較例4より得られた0.05%紅麹給与鶏卵より卵黄を分離し、凍結乾燥して0.05%紅麹給与卵黄粉末を調製した。この0.05%紅麹卵黄粉末を用いて、0.05%紅麹卵黄10%飼料を調製した。
【0027】
表5に、比較例5の普通精製飼料、比較例6の0.05%紅麹卵黄10%飼料、実施例5の0.1%紅麹卵黄10%飼料、実施例6の0.5%紅麹10%飼料の、それぞれの配合割合を示す。
【0028】
次に、6週齢のシリアンハムスター各4匹に、普通精製飼料(比較例5)、0.05%紅麹卵黄10%飼料(比較例6)、0.1%紅麹卵黄10%飼料(実施例5)及び0.5%紅麹卵黄10%飼料(実施例6)を不断給餌して、3週間飼育した。開始時及び終了時に各個体の体重及び試験期間中の各試験群としての飼料摂取量を測定した。また、体重測定後に18時間絶食してペントバルビタールナトリウムで麻酔した後に、腹部大動脈より採血を行い、血清中の総コレステロール、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ活性(AST)、アラニンアミノトランスフェラーゼ活性(ALT)を測定した。ASTとALTは肝臓が損傷を受けた場合に血液中の濃度が上昇することが知られており、肝臓障害の指標として測定した。更に、屠殺後、肝臓を採取し重量を測定した。
その結果、本発明の目指す効果を発揮するための、鶏一日一羽あたり紅麹0.1%飼料、紅麹0.5%飼料の給餌量は、一日あたり100gを定量給餌することから、紅麹としての給与量は0.1g以上、より好ましくは0.5gであることが明らかとなった。
【表1】

【表2】

【表3】

【表4】

【表5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
Monascus Purpureus紅麹を給与して飼育された鶏より生産される鶏卵。
【請求項2】
紅麹を給与して飼育された鶏より生産される肝臓への負担の少ない鶏卵。
【請求項3】
紅麹を給与して飼育された鶏より生産される肝臓への負担を軽減する効果を有する鶏卵。
【請求項4】
紅麹を給与して飼育された鶏より生産される肝臓への負担軽減効果を有する肝機能障害者用の鶏卵。
【請求項5】
紅麹がMonascus Purpureusであることを特徴とする請求項2〜4のいずれかに記載の鶏卵。
【請求項6】
鶏にMonascus Purpureus紅麹を給与して飼育する鶏卵の生産方法。
【請求項7】
鶏に紅麹を1日1羽あたり0.1〜6gを給与して飼育することを特徴とする請求項6記載の鶏卵の生産方法。
【請求項8】
紅麹を給与して飼育された鶏より生産された鶏卵を主成分とすることを特徴とする肝機能障害者用の健康食品又は特殊用途食品。
【請求項9】
紅麹がMonascus Purpureusであることを特徴とする、請求項8記載の健康食品又は特殊用途食品。

【公開番号】特開2009−291188(P2009−291188A)
【公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−110240(P2009−110240)
【出願日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【出願人】(399106505)日清丸紅飼料株式会社 (25)
【出願人】(399081176)株式会社アキタ (5)
【Fターム(参考)】