説明

肝障害の処置剤

【課題】 N原子に置換基を有するトコフェロールアミノアルキルカルボン酸エステル及び/又はその塩を含有する肝障害の処置剤を提供する。
【解決手段】 N原子に置換基を有するトコフェロールアミノアルキルカルボン酸エステル及び/又はその塩が、肝細胞の変性死に対して改善効果を示し、また、肝の肉眼所見および組織所見においても肝障害改善効果を示すことを見出し、肝障害の処置剤として有用であり、これらを用いることにより上記課題を解決した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、N原子に置換基を有するトコフェロールアミノアルキルカルボン酸エステル及び/又はその塩を含有する肝障害の処置剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、非アルコール性脂肪肝やC型肝炎等の肝疾患において、酸化ストレスが肝細胞障害を引き起こす重要な原因の一つと考えられている。つまり、活性酸素の発生機構と抗酸化機構のバランスが崩れることで炎症や線維化が引き起こされ、肝組織障害の進展、ひいては肝硬変、肝癌につながると考えられる。
【0003】
一方、ビタミンE欠乏動物の各種組織で脂質過酸化反応が亢進すること、高級不飽和脂肪酸の摂取量が多い場合にビタミンE要求性が高まることなどが知られている。不飽和脂肪酸の自動酸化は連鎖反応的に他の不飽和脂肪酸の過酸化反応を引き起こしていくもので、その中間生成物の各種ラジカル・脂質過酸化物は生体内では細胞機能に障害を与える。生体はこれら過酸化中間体、活性酸素の消去系として、SOD、カタラーゼ、ペルオキシダーゼ、ビタミンE、カロテノイドなどを有している。この観点から、ビタミンE製剤などの抗酸化作用を有する薬剤が臨床で使用されてきた。
【0004】
ビタミンEは脂溶性ビタミンの一種で、天然のビタミンEは、側鎖に二重結合がないトコフェロールと二重結合があるトコトリエノールに大別され、芳香環上のメチル基の数と位置によりそれぞれα−、β−、γ−、δ−の4種類の異性体に区別されている。特に D−α−トコフェロールは自然界に最も広く普遍的に存在し、植物、藻類、藍藻などの光合成生物により合成され、生物活性も一番高いとされている。トコフェロール及びその誘導体である酢酸トコフェロール及びニコチン酸トコフェロール等は、抗酸化作用、生体膜安定化作用、免疫賦活作用、血行促進作用等の効能効果を有する化合物として知られており、疾病の治療、栄養の補給、食品添加物の酸化防止剤として古くから医薬品、化粧品、飼料等に配合されている。
【0005】
例えば、酢酸α−トコフェロールは、多くの国々で、カプセルや錠剤などの栄養補助食品の素材として使用されるとともに、栄養強化の目的で主にジュース類、ダイエット果汁飲料、スポーツ飲料などの各種飲料や、パン、ヨーグルト、キャンディーなどの一般食品にも使用されている。米国やEU諸国では、酢酸α−トコフェロールは、食品成分扱いとされている。
また、酢酸α−トコフェロールは、医療分野においては、EP(European Pharmacopoeia:欧州薬局方)及びUSP(US Pharmacopeia:米国薬局方)に収載されており、医薬品として使用されている。我が国では、dl 体は日本薬局方に、d 体は日本薬局方外医薬品規格に収載されており、一般用医薬品及び医療用医薬品として使用されている(食品安全委員会、「酢酸α−トコフェロール」、2006年9月、を引用)。
【0006】
しかしこれらは粘性の高い油状物質であり、水溶液やエマルジョンに均一に分散することは困難な油溶性である。また、医薬品、化粧品、食品等において可溶化状態またはエマルジョン状態として調製する場合、一般的に非イオン性界面活性剤を用いれば均一に分散することが可能であるが、非イオン性界面活性剤のなかには刺激性の高いものや環境汚染の原因物質となるものもあり、安全性の面などからも好ましくないと考えられ、その改良が望まれていた。
【0007】
また、トコフェロール類は単体では酸化されやすく不安定であるため、多くの場合、酢酸エステルや、ニコチン酸エステル、コハク酸エステル等の有機酸エステルの誘導体として用いられる。しかし、これらが生体内でトコフェロールとしての生理活性を発現するにはエステル結合の部分がエステラーゼ等の酵素により加水分解される必要があるが、その変換速度は必ずしも十分ではなく組織内濃度を高める効果は低かった。
【0008】
これらの事情に鑑み、トコフェロール類の誘導体の開発は古くから行われており、例えば、古くは特許文献1にビタミンE−アミノ酸エステル類が記載されている。そして、特定のトコフェロールアミノアルキルカルボン酸エステルが、皮膚外用剤(特許文献2、3)あるいは放射線防護剤(特許文献4)として有用であることが開示されている。また、γ−TDMG (γ−Tocopheryl N,N−dimethylglycinate hydrochloride)の脳梗塞予防効果と脳梗塞治療効果が明らかにされている(非特許文献1)。
【0009】
しかし、これらを通じても、トコフェロール類又はそれらの誘導体を肝臓疾患へ適用した例は限られている。すなわち、肝臓の疾患、特に、初期胆汁性肝硬変に有効な、無機セレン、α−トコフェロールなどを共配合した医薬処方(特許文献5)、肝疾患から肝臓がんへの進行予防効果を有する、カロテノイド類とα−トコフェロールを含有する製剤(特許文献6)、ナトリウム排泄疾患としての肝臓硬変症の治療又は予防用薬剤としてのトコフェロール類又はそれらの誘導体の使用(特許文献7)、等が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特願昭58−203982号公報
【特許文献2】特開2004−002278号公報
【特許文献3】特開2007−231013号公報
【特許文献4】特開2008−137942号公報
【特許文献5】特開平11−199477号公報
【特許文献6】特開2004−196782号公報
【特許文献7】特表2002−532421号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】http://www.adm.fukuoka−u.ac.jp/fu844/home2/Ronso/Yakugaku/P9−1/P0901_0013.pdf
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、肝臓疾患に対しては、上記のように、トコフェロール類又はそれらの誘導体単独で有効な技術は開示されていないのが実情である。唯一、単一化合物での効果が開示されている前記特許文献7のナトリウム排泄疾患の治療・予防効果においても、ビタミンE欠乏ラットに対し、ビタミンE補充を行うという当たり前の実施例による効果が開示されているに過ぎず、その効果は決して十分なものとは言えない。また、対象の肝臓疾患としても、肝臓がん、初期胆汁性肝硬変、ナトリウム排泄性肝硬変と限定されたものであって、広く肝臓障害に有効なトコフェロール誘導体は未だ見出されていないのが実情である。
本発明の目的は、トコフェロール誘導体として単剤で肝障害に対し有効な処置剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記事情に鑑み、γ-トコフェロールの薬物送達上の問題を克服し、肝細胞への高い集積性とγ-トコフェロールの高い生物学的利用能が確認されている化合物であるγ−TDMG(J.Lipid Res.,43,2196−2204(2002))に着目し、N原子に置換基を有するトコフェロールアミノアルキルカルボン酸エステルの臨床的効果を、CCl誘発性肝障害モデル動物を用いて明らかにし、本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち、CClによる急性肝障害モデル動物は、肝細胞の変性壊死に対する薬物の抑制効果及びその作用機序の解析に広く用いられている。
CClは、小胞体薬物代謝酵素により、活性代謝物(トリクロルメチルラジカル・CCl)になり、これが肝細胞のタンパク質、脂質等と共有結合してその部分に可逆的な変化を与え、膜脂質の過酸化を招来し、最終的に肝細胞の変性壊死に至らせると考えられている。
【0015】
今日ではCClの活性化にはP450の存在が必要であり、CClを活性化する分子種はCYP2E1やCYP2B1、CYP2B2であることも判っている。また前記酵素存在下では、・CClはより反応性の高いペルオキシラジカル(・OOCCl)に変換され、脂質過酸化を促進しやすくなることも明らかとなっている。更に生化学的あるいは病理学的にその病態は比較的詳細に検討されており、CClは最も一般的な肝障害作成法として広く利用されている。
【0016】
本発明は、このように最も一般的で広く利用されているCCl誘発性肝障害モデル動物を用いて達成した発明である。
【0017】
すなわち、本発明は、一般式(I)で表される化合物及び/又はその塩を含有する肝障害の処置剤である。
【化1】


(式中、Rは水素原子又は低級アルキル基を表し、Rは低級アルキル基を表し、Rは水素原子又は低級アルキル基を表し、R、Rは同一又は異なって水素原子又はメチル基を表し、mは0または1である。)
【0018】
本発明にかかる肝障害の処置剤は、肝障害の予防目的で使用することを特徴とする肝障害の処置剤である。また、本発明にかかる肝障害の処置剤は、肝障害の治療目的で使用することを特徴とする肝障害の処置剤である。
【0019】
本発明にかかる肝障害の処置剤は、肝細胞の変性壊死に対して有効であることを特徴とする肝障害の処置剤である。
【0020】
本発明にかかる肝障害の処置剤に含有される一般式(I)の化合物においては、mが0であることが好ましい。また、R、Rが共にメチル基であることが好ましい。また、Rが水素原子であることが好ましい。さらには、Rがメチル基、Rが水素原子であることが好ましい。
【発明の効果】
【0021】
本発明の肝障害の処置剤は、上記一般式(I)で表されるN原子に置換基を有するトコフェロールアミノアルキルカルボン酸エステルの、肝細胞への高い集積性と高い生物学的利用能に着目して完成された発明であり、該化合物を含有する処置剤は、肝障害の処置剤として広く医薬品等に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】CCl誘発性肝障害に対する、γ−TDMGの腹腔内投与による効果:血清中のALT値の変動(***P<0.001)。
【図2】CCl誘発性肝障害に対する、γ−TDMGの腹腔内投与による効果:ラット肝臓の肉眼による外観変化(CCl投与48時間後)。
【図3】CCl誘発性肝障害に対する、γ−TDMGの腹腔内投与による効果:ラット肝組織のHE染色による病理学的所見(CCl投与48時間後)、(A)正常肝(無処置)、(B)Control(0.5%メチルセルロース+CCl)、(C)γ−TDMG(γ−TDMG+CCl
【図4】CCl誘発性肝障害に対する、γ−TDMGの腹腔内投与による効果:ラット肝ホモジネート中の過酸化脂質量(CCl投与48時間後)。
【図5】CCl誘発性肝障害に対する、γ−TDMGの経口投与による効果:血清中のALT値の変動(**P<0.01、***P<0.001)。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態について詳述する。
本発明の肝障害の処置剤に含有される化合物は、下記の一般式(I)で示される化合物及び/又はその塩である。
【化2】


(式中、Rは水素原子又は低級アルキル基を表し、Rは低級アルキル基を表し、Rは水素原子又は低級アルキル基を表し、R、Rは同一又は異なって水素原子又はメチル基を表し、mは0または1である。)
【0024】
これらのトコフェロール誘導体は、クロマノール環の2位の不斉炭素に由来する立体異性体が存在することになるが、本発明は、これらの異性体の何れをも含むものであり、また、これら異性体の混合物であっても良い。
【0025】
上記一般式(I)におけるR、R、及びRにおける低級アルキル基とは、炭素数1〜4の直鎖状、分枝状、もしくは環状の飽和炭化水素基である。例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、
シクロプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基などが挙げられる。好ましくはメチル基である。
【0026】
が低級アルキル基の場合、Rの結合している炭素の不斉に起因する立体異性体が存在することになるが、本発明は、これらの異性体の何れをも含むものであり、また、これら異性体の混合物であっても良い。
【0027】
本発明の上記一般式(I)の化合物の代表的な製造方法を下記に例示するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、以下の製造方法において、特に明記しない限り、R〜R、及びmは前記定義の通りである。また、化合物を光学活性体として得るためには、光学活性な原料、試薬又は触媒等を用いればよく、また、適切な段階で、クロマトグラフィー、分別結晶等の分離操作を行なえばよい。また、官能基が分子内に存在し、この官能基が反応の妨害となる、あるはその恐れのある場合には、適切な保護基を用いて効率的に反応を進行させることが好ましい。保護基の利用は、例えば、T.W.Greene、P.G.M.Wuts著、「Protective Groups in Organic Synthesis」等に従って実施できる。また、特に問題のない限り、各反応の条件や各工程の順序を変更することも可能であり、より適切な方法を選択することができる。
【0028】
すなわち、下記一般式(II)
【化3】


(式中、R、Rは同一又は異なって水素原子又はメチル基を表す。)
で表されるトコフェロ−ルと、下記一般式(III)
【0029】
【化4】


(式中、Rは水素原子、低級アルキル基、又はN原子の保護基を表し、Rは低級アルキル基を表し、Rは水素原子又は低級アルキル基を表し、mは0または1である。)
で表されるN置換アミノアルキルカルボン酸とから、混合酸無水物法、酸塩化物法、DCC法、CDI法あるいはアジド法等の公知のエステル結合形成反応により製造することができる。
【0030】
遊離のN置換アミノアルキルカルボン酸を用いて直接、エステル化を行う際は、通常、ジシクロヘキシルカルボジイミド、N,N−ジサクシニミドオキザレートなどの活性エステル化試薬の存在下で反応を行うことが好ましい。この際の溶媒としてはピリジンが好ましい。
【0031】
また、反応性酸誘導体を用いる方法においては、酸ハライド、とりわけ酸塩化物を用いる方法が好ましい。
【0032】
また、必要に応じて、N置換アミノアルキルカルボン酸は、例えば、N−tert−ブトキシカルボニル基(Boc基)、ベンジルオキシカルボニル基(Z基)または2−ニトロベンゼンスルホニル基などでアミノ基を保護したアミノアルキルカルボン酸を用い、反応終了後、脱保護基化して目的物を得ても良い。
【0033】
なお、本発明のN原子に置換基を有するトコフェロールアミノアルキルカルボン酸エステルの塩を製造する場合は、一旦エステル体を製造し、その後、常法により酸を加えて所望の塩としてもよいし、あらかじめ、出発物質としてN置換アミノアルキルカルボン酸の塩を用いて上記のようにエステル化反応を行ってもよい。
【0034】
例えば、γ−TDMG塩酸塩(R=R=CH、R=H、R=CH、R=H、m=0、塩酸塩)は、γ−トコフェロールと1.2倍モルのN,N−ジメチルグリシン塩酸塩、およびジシクロヘキシルカルボジイミドを無水ピリジン中、室温で反応させ、シリカゲルカラムクロマトグラフィにて単離精製した後、塩酸−ジオキサンにて塩酸塩とし、再結晶によって得られる。
【0035】
また、γ−トコフェリル N−メチルアラニネート塩酸塩(R=H、R=CH、R=CH、R=CH、R=H、m=0、塩酸塩)の場合は、先ず、γ−トコフェロールと1.2倍モルのN−Boc−N−メチルアラニン塩酸塩、およびジシクロヘキシルカルボジイミドを無水ピリジン中、室温で反応させ、シリカゲルカラムクロマトグラフィにて単離精製してγ−トコフェリル N−Boc−N−メチルアラニネートを得る。次いで、本化合物を塩酸−ジオキサン中、室温で反応させてBoc基を除去することにより、塩酸塩として目的物を得ることができる。
【0036】
本発明の上記一般式(I)の化合物は、必要に応じて、通常の方法により所望の酸付加塩へと変換することができる。酸付加塩の酸としては、塩酸、臭化水素酸、硫酸、リン酸等の無機酸、酢酸、プロピオン酸、クエン酸、乳酸、シュウ酸、マレイン酸、フマル酸、コハク酸、酒石酸、メタンスルホン酸等の有機酸が挙げられる。好ましくは塩酸塩である。
【0037】
本発明の上記一般式(I)の化合物は、肝障害に対し優れた予防又は/及び治療効果を有するので、肝障害の処置剤として、経口、非経口、局所等何れの方法でも投与することができる。投与量は、対象(哺乳動物、特にはヒト)、年齢、性別、個人差、症状などによって適宜調整されるので特に限定されないが、例えば、本発明の上記一般式(I)の化合物として0.1〜500mg/kg、好ましくは1〜100mg/kgの用量を経口、非経口投与にて1日1回又は数回に分けて投与することができる。
【0038】
本発明の上記一般式(I)の化合物は多様な製剤形態で投与できる。製剤中の有効成分の量は特に限定されるものではないが、通常0.01%〜70質量%、好ましくは0.1〜50質量%とすることができる。製剤化の際は、通常の製剤担体を用いて常法により製造するが、必要により薬理学的に許容し得る添加物を加えてもよい。すなわち、経口用固形製剤を調製する場合には、主薬に賦形剤、さらに必要に応じて結合剤、崩壊剤、滑沢剤、着色剤、矯味矯臭剤等を加え、常法により錠剤、被覆錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤などとする。
【0039】
賦形剤としては、例えば乳糖、コーンスターチ、白糖、ブドウ糖、ソルビット、結晶セルロース、二酸化ケイ素、リン酸カルシウム、グリシン等が、結合剤としては、例えばポリビニルアルコール、ポリビニルエーテル、エチルセルロース、メチルセルロース、アラビアゴム、トラガント、ゼラチン、シェラック、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルスターチ、ポリビニルピロリドン等が、崩壊剤としては、例えば澱粉、寒天、ゼラチン末、結晶セルロース、炭酸カルシウム、炭酸水素ナトリウム、クエン酸カルシウム、クエン酸ナトリウム、デキストリン、ペクチン、アルギン酸等が、滑沢剤としては、例えばステアリン酸マグネシウム、ラウリン酸ナトリウム、タルク、ポリエチレングリコール、シリカ、硬化植物油などが、着色剤としては医薬品に添加することが許されているものが、矯味矯臭剤としては、ココア末、ハッカ脳、芳香酸、ハッカ油、龍脳、桂皮末などが用いられる。また、錠剤、顆粒剤等は、糖衣、ゼラチン衣、その他必要により適宜コーティングすることが可能である。
【0040】
経口用液剤とする場合には、有効成分を矯味矯臭剤、着色剤、乳化剤、沈殿防止剤、希釈剤等を加えて、水性懸濁剤、エリキシル剤、シロップ剤等とすることができる。
【0041】
注射剤(筋肉内、腹腔内、関節内、皮下、静脈内注射等)としては、無菌の水性又は非水性の溶液剤、懸濁剤、乳濁剤が含まれる。また、必要に応じて、防腐剤、湿潤剤、乳化剤、分散剤、安定化剤、溶解補助剤のような補助剤を含有してもよい。注射剤は通常、濾過(バクテリア保留フィルター等)、殺菌剤の配合又はγ線照射によって無菌化されるか、又はこれらの処理をした後、凍結乾燥等の方法により固体組成物とし、使用直前に無菌水又は無菌の注射用希釈剤を加えて使用される。また、坐剤などとして非経口的に投与することも可能である。
【0042】
また、局所投与における外用剤として用いる場合は、本発明の上記一般式(I)の化合物の他に、本発明の効果を損なわない範囲において、通常、医薬品等に用いられる他の成分、例えば、粉末成分、液体油脂、固体油脂、ロウ、炭化水素、高級脂肪酸、高級アルコール、エステル、シリコーン、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤、非イオン界面活性剤、保湿剤、水溶性高分子、増粘剤、皮膜剤、紫外線吸収剤、金属イオン封鎖剤、低級アルコール、多価アルコール、糖、アミノ酸、有機アミン、高分子エマルジョン、pH調整剤、皮膚栄養剤、ビタミン、酸化防止剤、酸化防止助剤、香料、水等を必要に応じて適宜配合し、目的とする剤形に応じて常法により製造することが出来る。
【実施例】
【0043】
本発明について以下に実施例を挙げてさらに詳述するが、本発明はこれにより何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0044】
<CCl誘発性肝障害モデル動物を用いたγ−TDMGの腹腔内投与による有用性の検討>
以下の実験動物の飼育、保全、使用に関するすべての行為は、福岡大学・動物実験委員会により制定された福岡大学動物実験規程を遵守して実施した。
5週齢の雄性SDラット、各群16匹を用いた。実験動物は室温23±2℃、絶対湿度60±2%および12時間の明暗サイクル(AM7:00点灯)の動物舎にて1頭/ケージで飼育し、水は自由摂取とした。γ−TDMGは0.5%メチルセルロース水溶液を用いて溶解し、γ−TDMG25mg/2ml溶液となるように調製した。肝障害誘発物質であるCClは、CClをオリーブオイルに溶解し、CCl0.6ml/2ml溶液となるように調製した。
【0045】
CCl投与に先立つ16時間前に、前記ラットを絶食状態にした。CCl投与12時間前に、γ−TDMG溶液2ml/kg(γ−TDMG25mg/kg)を腹腔内投与した。CCl投与1時間前に摂食を開始した。
コントロール群においては、CCl投与12時間前に、γ−TDMGの代わりに、0.5%メチルセルロース水溶液2ml/kgを腹腔内投与した。その他の操作は全く同様に行った。
【0046】
上記の各群ラットに対し、CCl溶液2ml/kg(CCl0.6ml/kg)を経口投与した。CCl投与後48時間飼育し、各群ラットを腹部大動脈切除により脱血し、肝臓を採取し、ラット肝臓の肉眼所見、ラット肝組織のヘマトキシリン・エオジン染色(HE染色)及びラット肝組織内過酸化脂質量の測定(TBA法)を実施した。併せて、CCl投与0時間後、24時間後、及び36時間後に、エーテル麻酔下で外頸静脈より採血(0.3ml)し、血清中のALT値の測定を行った。
【0047】
<血清中ALT値の測定>:CCl誘発性肝障害に対する、γ−TDMGの効果として、ALT値の変動を、富士ドライケムシステムを用いて測定した。有意差検定は分散分析(Scheffe test)で行った。
【0048】
図1から明らかなように、CCl誘発性肝障害モデルラットに対してγ−TDMG腹腔内投与群では、非投与群と比較して、血清ALT値の上昇が有意に抑制された。ALTは肝細胞が障害を受けると細胞が壊れて血中に漏れ出る酵素であることから、CClで惹起された肝細胞の変性死に対し、γ−TDMGは有効性を示した。
【0049】
<肝外観の肉眼的変化>:CCl誘発性肝障害に対する、CCl投与48時間後におけるγ−TDMGの効果を、ラット肝臓外観の肉眼所見によって判定した。
【0050】
図2から明らかなように、CCl投与48時間後における肝の肉眼所見において、γ−TDMG非投与群では肝臓表面が凹凸顆粒状でやや黄白色調に変化していたのに対し、γ−TDMG腹腔内投与群では正常肝に近かった。すなわち、CClで惹起された肝細胞の障害に対し、γ−TDMGは有効性を示した。
【0051】
<組織染色>:CCl誘発性肝障害に対する、CCl投与48時間後におけるγ−TDMGの効果を、ラット肝組織のHE染色による病理学的所見にて判定した。すなわち、採取した肝臓を10%リン酸緩衝ホルマリン液で固定しパラフィン包埋した。次いで、薄切し、HE染色を行い光学顕微鏡下で観察した。
【0052】
図3から明らかなように、CCl投与48時間後における肝の組織所見(HE染色)において、γ−TDMG非投与群(B)では、グリソン鞘および中心静脈周辺にリンパ球の増殖と、中心静脈周囲に広範な出血性細胞壊死が観察された。
一方、γ−TDMG腹腔内投与群(C)では、 中心静脈周辺にいずれも軽度な炎症細胞の増殖と細胞の壊死がみられた。すなわち、CClで惹起された肝細胞の障害に対し、γ−TDMGは有効性を示した。
【0053】
<肝ホモジネート中の過酸化脂質量の測定(TBA法)>:CCl誘発性肝障害に対する、CCl投与48時間後におけるγ−TDMGの効果を、ラット肝ホモジネート中の過酸化脂質(MDA)を定量することにより判定した。すなわち、
(1)肝臓切片の湿重量を測定し、ガラス瓶に移し肝臓切片に9倍量(1gにつき9ml)の1.15%KClを加える。
(2)ホモジナイザーで肝臓組織のホモジネートを得る。
(3)ホモジネート0.2mlを試験管に入れる。
(4)0.2mlの8.1%SDSを試験管に加える。
(5)1.5mlの20%の酢酸緩衝液(pH3.5)を試験管に加える。
(6)1.5mlの0.8%TBA試薬を試験管に加える。
(7)95℃の温浴で60分間加熱する。
(8)加熱後、氷冷水浴槽に試験管を入れ速やかに室温まで冷却する。
(9)1mlの蒸留水を試験管に加える。
(10)5mlのn−ブタノールピリジン溶液(15:1、v/v)を試験管に加えてよく振り混ぜ抽出する。
(11)遠心分離(4000rpm、10min)後ブタノール槽(上層)を取る。
(12)535nmの吸光度を測定する。
【0054】
図4から明らかなように、CCl投与48時間後における肝ホモジネート中の過酸化脂質量は、γ−TDMG腹腔内投与群とγ−TDMG非投与群との比較において有意差が認められなかった。
【実施例2】
【0055】
<CCl誘発性肝障害モデル動物を用いたγ−TDMGの経口投与による有用性の検討>
5週齢の雄性SDラットを、コントロール群4匹、γ−TDMG投与群各10匹を用いて実施した。実験動物は室温23±2℃、絶対湿度60±2%および12時間の明暗サイクル(AM7:00点灯)の動物舎にて1頭/ケージで飼育し、水は自由摂取とした。γ−TDMGは0.5%メチルセルロース水溶液を用いて溶解し、γ−TDMG25mg/2ml溶液、及び、γ−TDMG100mg/2ml溶液を各々調製した。肝障害誘発物質であるCClは、CClをオリーブオイルに溶解し、CCl0.6ml/2ml溶液となるように調製した。
【0056】
CCl投与に先立つ16時間前に、前記ラットを絶食状態にした。CCl投与12時間前に、γ−TDMG溶液2ml/kg(γ−TDMG25mg/kgまたは100mg/kg)を経口投与した。CCl投与1時間前に摂食を開始した。
コントロール群においては、CCl投与12時間前に、γ−TDMGの代わりに、0.5%メチルセルロース水溶液2ml/kgを経口投与した。その他の操作は全く同様に行った。
【0057】
上記の各群ラットに対し、CCl溶液2ml/kg(CCl0.6ml/kg)を経口投与した。CCl投与0時間後、24時間後、及び36時間後に、エーテル麻酔下で外頸静脈より採血(0.3ml)し、血清中のALT値の測定を行った。
【0058】
<血清中ALT値の測定>:CCl誘発性肝障害に対する、γ−TDMGの効果として、ALT値の変動を、富士ドライケムシステムを用いて測定した。有意差検定は分散分析(Scheffe test)で行った。
【0059】
図5から明らかなように、CCl誘発性肝障害モデルラットに対してγ−TDMG経口投与群では、γ−TDMG25mg/kgまたは100mg/kgのいずれの投与量においても、非投与群と比較して、血清中のALT値の上昇が有意に抑制された。すなわち、CClで惹起された肝細胞の変性死に対し、γ−TDMGは経口投与でも有効性を示した。
【0060】
以上、γ−TDMGの腹腔内投与(12時間前)により、CCl誘発性肝障害モデルラットの血清ALT値の上昇を有意に抑制することができた。すなわち、CClで惹起される肝細胞の変性死に対し、γ−TDMGは有効性を示した。更に、採取した肝組織中の過酸化脂質量においては、非投与群と比較して有意な差が認められなかったにも拘らず、肉眼所見および組織所見においては肝障害改善傾向が認められた。γ−TDMGの経口投与(12時間前)においても同様に、血清ALT値の上昇を有意に抑制することが認められた。これらの実験事実により、γ−TDMGの肝障害抑制効果が実証された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(I)で表される化合物及び/又はその塩を含有する肝障害の処置剤。
【化1】


(式中、Rは水素原子又は低級アルキル基を表し、Rは低級アルキル基を表し、Rは水素原子又は低級アルキル基を表し、R、Rは同一又は異なって水素原子又はメチル基を表し、mは0または1である。)
【請求項2】
請求項1に記載の肝障害の処置剤で、肝障害の予防目的で使用することを特徴とする肝障害の処置剤。
【請求項3】
請求項1に記載の肝障害の処置剤で、肝障害の治療目的で使用することを特徴とする肝障害の処置剤。
【請求項4】
請求項1〜3に記載の肝障害の処置剤で、肝細胞の変性壊死に対して有効であることを特徴とする肝障害の処置剤。
【請求項5】
請求項1〜4に記載の肝障害の処置剤で、mが0であることを特徴とする肝障害の処置剤。
【請求項6】
請求項1〜5に記載の肝障害の処置剤で、R、Rが共にメチル基であることを特徴とする肝障害の処置剤。
【請求項7】
請求項1〜6に記載の肝障害の処置剤で、Rが水素原子であることを特徴とする肝障害の処置剤。
【請求項8】
請求項1〜7に記載の肝障害の処置剤で、Rがメチル基、Rが水素原子であることを特徴とする肝障害の処置剤。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−72074(P2012−72074A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−216736(P2010−216736)
【出願日】平成22年9月28日(2010.9.28)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第3項適用申請有り 日本薬学会 第130年会(岡山)、社団法人 日本薬学会、平成22年3月28日
【出願人】(598015084)学校法人福岡大学 (114)
【Fターム(参考)】