説明

肥満、糖尿病の予防・治療剤

【課題】 安全性の高いすぐれた肥満及び/又は糖尿病を予防及び/又は治療する飲食品(あるいは、剤)を開発する。
【解決手段】 有効成分として、ウリジル酸、ウリジン、ウラシルからなる核酸関連物質から選ばれる1種又は2種以上を使用することにより上記課題が解決される。更に具体的な作用としては、体重増加の抑制、血中レプチン濃度の上昇、血中グルコース濃度の低下、血中インスリン濃度の低下、血中遊離脂肪酸濃度の低下の各作用が例示される。本有効成分は、効果にすぐれ且つ速効性を有するので、本発明は安全で速効性を有するヒト又は動物用のダイエット飲食品(あるいは、剤)を提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウリジル酸、ウリジン、ウラシルを有効成分として含有する肥満及び/又は糖尿病を予防及び/又は治療するシステムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
食生活やライフスタイルの欧米化に伴い、糖尿病をはじめとした生活習慣病が急増している。2003年8月に実施された調査によると、糖尿病が心配される人は、糖尿病が強く疑われる人・可能性が否定できない人を合わせると約1600万人に達すると推定されている。
【0003】
糖尿病の種類には、膵臓におけるインスリン分泌能が損失する1型糖尿病(インスリン依存型)と、インスリン分泌能の低下又は各組織におけるインスリン感受性の低下による2型糖尿病(インスリン非依存型)に大きく分けられる。
【0004】
日本人を含むアジア人は、インスリン分泌能が低く、インスリン分泌障害を中心とした糖尿病にかかりやすい。一方、欧米人ではインスリン分泌能が高いために顕著な肥満をきたし、インスリン抵抗性による糖尿病を発症すると考えられている。
【0005】
現在日本で認可されている経口糖尿病薬は、スルホニル尿素薬・スルホンアミド薬・速効型インスリン分泌促進薬・チアゾリジン薬・ビグアナイド薬・αグルコシダーゼ阻害薬がある。それぞれ膵臓からのインスリン分泌促進、各組織におけるインスリン抵抗性の改善、腸管での糖質吸収の抑制といった方法で血糖値のコントロールを行う。いずれの薬も、低確率ながら肝臓障害などの重篤な副作用が知られており、より安全な薬品又は素材が求められている。
【0006】
最近では脂肪細胞より分泌されるホルモンであるレプチンを投与する方法や、腸管での糖の取り込み(SGLT1)を選択的に阻害する方法(キッセイ薬品工業株式会社・大日本製薬株式会社)といった新しいアプローチの糖尿病治療薬が開発されている。
【0007】
レプチンは、体内の脂肪細胞から分泌されるホルモンであり、視床下部に作用して食欲を抑制し、エネルギー消費を亢進する。
【0008】
レプチンは、おもに中枢神経系を介して肝臓及び骨格筋における脂肪含量の減少をもたらすと共に、膵β細胞に直接作用して脂肪毒性を軽減し、インスリン抵抗性とインスリン分泌を改善する作用があり、種々の病型の糖尿病に対する治療薬として臨床応用に期待されている。
【0009】
肥満状態(2型糖尿病)では、レプチンに対する抵抗性があるため単独でレプチンを使用しても効果がない。しかし、カロリー制限などによる減量治療を併用することにより耐糖能およびインスリン抵抗性の改善を促進することが明らかとなっている。
【0010】
インスリン分泌低下型糖尿病(1型糖尿病)においても、レプチンによって治療に必要なインスリン量を減量することが可能であることがわかっている。
【0011】
血中の遊離脂肪酸(NEFA)濃度は脂質代謝異常の指標であり、糖尿病時に高い値を示す。また、NEFA自体は各組織におけるインスリン抵抗性を上げてしまうことから糖尿病の増悪因子であると考えられる。
【0012】
一方、ヌクレオシド、ヌクレオチド等の核酸関連物質の一部は調味料や医薬として有用であることは知られているが(例えば、非特許文献1参照)、ウリジル酸の単用で肥満や糖尿病の抑制に有用であることは知られていないし、ましてや、実際のラットを用いてこれらの作用を確認したという報告はなされていない。
【非特許文献1】「バイオテクノロジー事典」(株)シー エム シー、1986年10月9日、第246〜247頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、肥満及び/又は糖尿病を予防及び/又は治療するシステム、しかも天然物を利用する安全性の高い新規システムを開発する目的でなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記の問題点を解決するために、ウリジル酸の経口投与が糖代謝や脂質代謝に与える影響を検討し、ウリジル酸がレプチン濃度を上昇させ、血中グルコース・インスリン・NEFA濃度、肝臓中TG(トリグリセリド)濃度を低下させることを見出した。
【0015】
本発明は、これらの有用新知見に基づき、更に研究した結果、遂に完成されたものであって、ウリジル酸、ウリジン、ウラシルの少なくともひとつを有効成分とする肥満・糖尿病を予防・治療する剤を基本的技術思想とするものである。
以下、本発明について詳述する。
【0016】
本発明に於いてはウラシルを塩基として有する核酸関連化合物を有効成分として使用するものであり、核酸関連化合物としては、ウラシル、ウリジン、ウリジル酸から選ばれる少なくともひとつが例示使用される。
【0017】
核酸関連化合物の由来には格別の制限はなく、合成品でも良いが、酵素、細菌、乳、魚介類、動物、植物等の天然物由来のものが好適である。核酸関連化合物の精製方法についても、格別の制限はなく、完全に精製されたものが使用できることはもちろんのこと、粗製物や含有物等も自由に使用することができ、乾燥品〜ペースト状物〜液状ないし懸濁状物にした処理物も広く使用することができる。
【0018】
本発明は、ウリジル酸の有効性(つまり、機能性、生理活性ないし生理作用)を実際のラットを用いて直接確認した点に大きな特徴を有するものである。具体的にはウリジル酸をラットに経口投与した後、体重測定・採血・組織採取を行い、これら生体サンプルについて分析を行って、各種の生理作用を実際に且つ直接確認した点、しかも、ウリジル酸としては、他の塩基由来の核酸関連化合物ではなく、また、他の塩基由来の核酸関連化合物との併用ではなく、ウリジル酸のみの単用で有効であることを実際に確認した点においてきわめて特徴的である。
【0019】
本発明によれば、上記の核酸関連化合物を有効成分として、ヒト又はヒト以外の動物用の医薬品、飲食品、サプリメント、調製粉乳、経腸栄養剤、健康飲食品、飼料添加物、飼餌料等各種タイプの組成物として実用に供することが出来る。また、投与方法は、経口投与、静脈投与、患部への直接投与のいずれでもよい。
【0020】
有効成分の配合量は、任意でよいが、使用目的(予防、保健、又は治療)、患者の年令、投与方法、剤型等に応じて適宜定めればよく、通常、0.0001〜10%の範囲が適当である。しかしながら、長期間に亘って保健上ないし健康維持の目的で摂取する場合には、上記範囲よりも少量であってもよいし、また本有効成分は、安全性について問題がないので、上記範囲よりも多量に使用しても一向にさしつかえない。現にマウスを用いた10日間の急性毒性試験の結果、1000mg/kgの経口投与でも死亡例は認められなかった。
【0021】
飲食品(サプリメントのほか、特定保健用食品や栄養機能食品等の機能性食品を含む)として使用する場合には、本有効成分(含有物や処理物も含む)をそのまま使用したり、他の食品ないし食品成分と併用したりして適宜常法にしたがって使用できる。本有効成分を用いる本発明に係る組成物は、固体状(粉末、顆粒状その他)、ペースト状、液状ないし懸濁状のいずれでもよいが、甘味料、酸味料、ビタミン剤その他ドリンク剤製造に常用される各種成分を用いて、ダイエット用ドリンクや健康ドリンクに製剤化すると好適である。
【0022】
ヒト及び/又は動物用医薬品として使用する場合、本有効成分は、種々の形態で投与される。その投与形態としては例えば錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、シロップ剤等による経口投与をあげることができる。これらの各種製剤は、常法に従って主薬に賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、矯味矯臭剤、溶解補助剤、懸濁剤、コーティング剤などの医薬の製剤技術分野において通常使用しうる既知の補助剤を用いて製剤化することができる。その使用量は症状、年令、体重、投与方法および剤形等によって異なるが、通常は、成人に対して、1日当り、静脈投与の場合は、体重1kg当り、0.01mg〜1000mgを投与することができ、筋肉投与の場合は同じく0.01mg〜1000mgを投与することができる。また、経口投与の場合には同じく0.5〜2000mg、好ましくは1〜1000mgの範囲内で投与するのがよい。
【0023】
また、飼料あるいは飼料添加物として使用する場合も、上記と同様に常用される飼料、代用乳、飲料水等に有効成分を配合して製造すればよい。更に本発明は、ヒトを除く動物に有効成分を投与することによる動物における肥満の予防及び/又は治療方法、糖尿病の予防及び/又は治療方法も提供するものであって、上記したヒトの場合に準じて投与量や投与回数等を適宜規定して、予防及び/又は治療を実施すればよい。
【0024】
更に、本発明は、核酸関連物質に抗肥満、抗糖尿病という新しい用途があることをはじめて見出したものであって、新規用途発明ということができ、該核酸関連物質の1種又はそれ以上を有効成分とすることにより、抗肥満、抗糖尿病飲食品としてなることを特徴とし、肥満の予防及び/又は治療、糖尿病の予防及び/又は治療に用いられる旨の表示を付した飲食品とすることにより、単に該核酸関連物質を含有する通常の飲食品(ヒト及び動物用飲食品を含む)と明確に区別することも可能である。
【0025】
また更に、該核酸関連物質は、体重増加の抑制、血中レプチン濃度の増加、血中グルコース濃度の低下、血中インスリン濃度の低下、血中NEFA濃度の低下という作用を有することも新規に発見されたので、これらの新知見に基づき、これらの少なくともひとつの作用を利用する新規用途発明も完成することができたものである。そして、この場合も上記と同様に、これらの用途の少なくともひとつに該核酸関連物質の1種又はそれ以上を用いる旨の表示を付した飲食品とすることにより、通常の核酸関連物質含有飲食品と明確に区別することができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明は、消化酵素や腸管での糖質吸収を阻害する方法によらず、血中レプチン濃度を上昇させることにより、血糖値のコントロールを行うことができる。同時に体重増加の抑制・脂質代謝の改善が可能であり、ヒトや動物(ペット、家禽等を含む)の肥満や糖尿病の予防や治療に役立つ。
【0027】
本発明によって、抗肥満、抗糖尿病といった作用効果が奏されるが、その機作の詳細は完全に解明されてはいないものの、体重増加の抑制、血中レプチン濃度の上昇、血中グルコース濃度の低下、血中インスリン濃度の低下、血中遊離脂肪酸(NEFA)濃度の低下が、後記する実施例からも確認されているところから、現時点ではこれらの作用が総合的に関与しているものと認められる。
【0028】
このように、本発明の作用機作は非常にユニークであって、特徴的であるが、中でも特に、該核酸関連物質による血中インスリン濃度の低下作用はきわめて特徴的である。レプチンは血糖値を下げ、食欲を低下させる作用を有するホルモンであるから、血中レプチン濃度の上昇によって抗肥満効果や抗糖尿病効果が奏されることは理解できるところであるが、更に本発明によれば、血中インスリン濃度が低下するにもかかわらず、抗肥満効果や抗糖尿病効果が奏されるという点できわめて特徴的である。
【0029】
すなわち、インスリン濃度が低下すれば血糖値が上昇するはずであるが、本発明においては、後記する実施例からも明らかなように、血糖値は上昇するどころか、それとは全く逆に、低下するデータが示されており、理論ないし予想とは全く逆の結果となっている。その詳細なメカニズムは今後の研究にまたねばならないが、該核酸関連物質は、血中インスリン濃度自体は増加させないものの、インスリンの感受性ないし感度を高める作用を有し、その結果、血中インスリン濃度が上昇した場合と同様の効果(つまり、血糖値の低下)を奏するものと推定される。この作用は、従来未知の新規作用であって、抗糖尿病薬の開発といった各種の用途開発に利用することが可能である。
【0030】
また、本発明によって奏される効果は、後記する実施例からも明らかなように、わずか7日という短期間で達成されることから、本発明によれば、短期間で有効なダイエット飲食品(ないし、ダイエット剤)を提供することができる。しかも、安全性には問題がない点でも特徴的である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
本発明は、ウリジル酸、ウリジン、ウラシルからなる核酸関連物質から選ばれる少なくともひとつの核酸関連物質を有効成分として含有する肥満及び/又は糖尿病を予防及び/又は治療する飲食品(あるいは、剤)を提供するものである。
【実施例】
【0032】
以下、実施例をあげて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0033】
(実施例1)
Wister Rat雄(250g)を20匹供試した。コントロール区とウリジル酸投与区を作り、1試験区当たり10匹ずつ振り分け標準的な餌(SLC)を与えた。又、照明時間は12時間とした。
【0034】
一週間の馴致期間後、ウリジル酸投与区には44mg/day/匹のウリジル酸を1mlの蒸留水に溶かして(毎日13時)7日間給与した。コントロール区には生理食塩水(0.9%)を1ml/day/匹を同様に7日間給与し、水は自由摂取とした。
【0035】
給与期間終了時に体重を測定した。その後血液を採取し、血漿を分離して血中レプチン、グルコース、インスリン、NEFA濃度を測定した。また、肝臓を採取して中性脂肪(トリグリセリド)含量を測定した。コントロール区とウリジル酸投与区の有意差検定は、Studentのt−testで行った。
【0036】
その結果、給与期間中の増体量は減少する傾向が見られ(図1)、血中レプチン濃度が有意に上昇した(図2)。その際、血中のグルコース濃度は有意に低くなり(図3)、インスリン濃度は低くなる傾向が見られた(図4)。更に、血中遊離脂肪酸(NEFA)濃度が有意に低下し(図5)、肝臓中の中性脂肪(TG:トリグリセリド)が有意に減少した(図6)。
【0037】
以上より、ウリジル酸による体重の増加抑制効果・レプチン分泌促進効果が示された。その際、血中グルコース・インスリン濃度も正常範囲で低く保たれ、糖尿病時に高い値となり各組織のインスリン抵抗性を増悪させる血中NEFA濃度や肝臓中TG濃度が減少した。これらのことから、肥満・糖尿病の予防・治療に応用できることが示された。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】馴致期間終了から給与期間終了の間(一週間)の増体量を示す。
【図2】給与期間終了後に採取した血液中のレプチン濃度を示す。
【図3】給与期間終了後に採取した血液中のグルコース濃度を示す。
【図4】給与期間終了後に採取した血液中のインスリン濃度を示す。
【図5】給与期間終了後に採取した血液中のNEFA濃度を示す。
【図6】給与期間終了後に採取した肝臓1g当たりのTG濃度を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウリジル酸、ウリジン、ウラシルからなる核酸関連物質から選ばれる1種又は2種以上を有効成分としてなること、を特徴とする肥満を予防及び/又は治療する剤。
【請求項2】
ウリジル酸、ウリジン、ウラシルからなる核酸関連物質から選ばれる1種又は2種以上を有効成分としてなること、を特徴とする糖尿病を予防及び/又は治療する剤。
【請求項3】
体重増加を抑制させるものであること、を特徴とする請求項1又は2に記載の剤。
【請求項4】
血中レプチン濃度を上昇させるものであること、を特徴とする請求項1又は2に記載の剤。
【請求項5】
血中グルコース濃度、血中インスリン濃度、血中遊離脂肪酸(NEFA)濃度の少なくともひとつを低下させるものであること、を特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の剤。
【請求項6】
ウリジル酸、ウリジン、ウラシルからなる核酸関連物質から選ばれる1種又は2種以上を有効成分としてなること、を特徴とする体重増加抑制、血中レプチン濃度上昇、血中グルコース濃度低下、血中インスリン濃度低下、血中NEFA濃度低下の少なくともひとつの活性(作用)を有する剤。
【請求項7】
剤がヒト又は動物用であること、を特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の剤。
【請求項8】
ウリジル酸、ウリジン、ウラシルからなる核酸関連物質から選ばれる1種又は2種以上を有効成分として含有すること、を特徴とする抗肥満活性又は抗糖尿病活性を有するヒト又は動物用飲食品。
【請求項9】
ウリジル酸、ウリジン、ウラシルからなる核酸関連物質から選ばれる1種又は2種以上を有効成分として含有すること、を特徴とするヒト又は動物を対象としたダイエット飲食品。
【請求項10】
ウリジル酸、ウリジン、ウラシルからなる核酸関連物質から選ばれる1種又は2種以上を経口投与あるいは非経口投与すること、を特徴とするヒト又は動物の肥満及び/又は糖尿病を予防及び/又は治療する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−70253(P2007−70253A)
【公開日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−256553(P2005−256553)
【出願日】平成17年9月5日(2005.9.5)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2005年3月20日 社団法人日本畜産学会発行の「日本畜産学会 第104回大会 講演要旨」に発表
【出願人】(592172574)明治飼糧株式会社 (15)
【Fターム(参考)】