説明

肺動脈高血圧の治療

本発明は、特に以前のPAH治療法が上手くいかなかった患者における肺動脈高血圧(PAH)の治療用の医薬の製造のための、4-(4-メチルピペラジン-1-イルメチル)-N-[4-メチル-3-(4-ピリジン-3-イル)ピリミジン-2-イルアミノ)フェニル]-ベンズアミドもしくはその製薬上許容可能な塩、または式I
【化2】



(式中、ラジカルおよび記号は本明細書に定義されるとおり)
のピリミジルアミノベンズアミド、もしくはその製薬上許容可能な塩の使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、肺動脈高血圧の治療用医薬を製造するための、4-(4-メチルピペラジン-1-イルメチル)-N-[4-メチル-3-(4-ピリジン-3-イル)ピリミジン-2-イルアミノ)フェニル]-ベンズアミド(「イマチニブ」[国際的な一般名]としても知られている;以下:「化合物I」)もしくはその製薬上許容可能な塩、または以下に定義する式Iのピリミジルアミノベンズアミドもしくはその製薬上許容可能な塩の使用に関し、肺動脈高血圧を治療するための、化合物Iもしくはその製薬上許容可能な塩、または以下に定義する式Iのピリミジルアミノベンズアミドもしくはその製薬上許容可能な塩に関し、ならびに肺動脈高血圧を患うヒトを含む温血動物を治療する方法であって、そのような治療を必要とする該動物に、有効量の化合物I、式Iのピリミジルアミノベンズアミド、またはその製薬上許容可能な塩を投与することを含む、方法に関する。
【背景技術】
【0002】
肺動脈高血圧は、肺動脈圧の著しくかつ持続的な上昇を特徴とする生命にかかわる疾患である。この疾患は、右室(RV)不全および死亡をもたらす。慢性肺動脈高血圧を治療するための現行の治療アプローチは、予後のいくらかの改善と共に、主に症状の軽減をもたらすものである。全ての治療について想定はされているが、ほとんどのアプローチについて直接的な増殖抑制効果の証拠はない。さらに、現在適用されているほとんどの薬剤の使用は、望ましくない副作用か、または不都合な薬物投与経路のいずれかにより妨げられている。肺高血圧動脈の病理学的な変化としては、血管平滑筋細胞(SMC)の内皮損傷、増殖、および過収縮が挙げられる。
【発明の概要】
【0003】
本発明は、肺高血圧、特に肺動脈高血圧の治療における代替療法のニーズに対応したものである。
【0004】
米国特許第2006/0154936号の明細書は、肺高血圧の治療のための既存の治療法に代わるものとして、化合物Iの単独でのまたは他の医薬と組み合わせた使用を開示している。
【0005】
今回、驚くべきことに、化合物Iもしくはその製薬上許容可能な塩、または式Iのピリミジルアミノベンズアミドもしくはその製薬上許容可能な塩を用いて、特に以前の治療法が上手くいかなかった患者において、肺動脈高血圧を上手く治療できることが実証された。
【0006】
第1の態様において、本発明は、特に以前のPAH治療法が上手くいかなかった患者における肺動脈高血圧の治療用の医薬の製造のための、以下の式
【化1】


を有する化合物Iもしくはその製薬上許容可能な塩、または式I
【化2】


(式中、
Pyは3-ピリジルを示し
R1は、水素、低級アルキル、低級アルコキシ-低級アルキル、アシルオキシ-低級アルキル、カルボキシ-低級アルキル、低級アルコキシカルボニル-低級アルキル、またはフェニル-低級アルキルを表し;
R2は、水素、1つ以上の同じもしくは異なるラジカルR3で任意に置換された低級アルキル、シクロアルキル、ベンズシクロアルキル、ヘテロシクリル、アリール基、または0、1、2もしくは3つの環構成窒素原子(ring nitrogen atom)および0もしくは1つの酸素原子および0もしくは1つの硫黄原子を含む単環式もしくは二環式ヘテロアリール基(各基はそれぞれ、置換されていないか、一置換もしくは多置換されている)を表し;ならびに
R3は、ヒドロキシ、低級アルコキシ、アシルオキシ、カルボキシ、低級アルコキシカルボニル、カルバモイル、N-一置換もしくはN,N-二置換カルバモイル、アミノ、一置換もしくは二置換アミノ、シクロアルキル、ヘテロシクリル、アリール基、または0、1、2もしくは3つの環構成窒素原子および0もしくは1つの酸素原子および0もしくは1つの硫黄原子を含む単環式もしくは二環式ヘテロアリール基(各基はそれぞれ、置換されていないか、一置換もしくは多置換されている)を表す;
あるいは、式中、R1およびR2は共に、低級アルキル、シクロアルキル、ヘテロシクリル、フェニル、ヒドロキシ、低級アルコキシ、アミノ、一置換もしくは二置換アミノ、オキソ、ピリジル、ピラジニル、またはピリミジニルで任意に一置換もしくは二置換された、4、5もしくは6つの炭素原子を有するアルキレン;4もしくは5つの炭素原子を有するベンズアルキレン;1つの酸素および3もしくは4つの炭素原子を有するオキサアルキレン;または1つの窒素および3もしくは4つの炭素原子を有するアザアルキレン(ここで、窒素は、置換されていないか、または低級アルキル、フェニル-低級アルキル、低級アルコキシカルボニル-低級アルキル、カルボキシ-低級アルキル、カルバモイル-低級アルキル、N-一置換もしくはN,N-二置換カルバモイル-低級アルキル、シクロアルキル、低級アルコキシカルボニル、カルボキシ、フェニル、置換型フェニル、ピリジニル、ピリミジニル、またはピラジニルで置換されている)を表す;
R4は、水素、低級アルキル、またはハロゲンを表す)
のピリミジルアミノベンズアミドもしくはその製薬上許容可能な塩の使用に関する。
【0007】
第2の態様において、本発明は、以前のPAH治療法が上手くいかなかった患者における肺動脈高血圧(PAH)の治療で使用される、4-(4-メチルピペラジン-1-イルメチル)-N-[4-メチル-3-(4-ピリジン-3-イル)ピリミジン-2-イルアミノ)フェニル]-ベンズアミドもしくはその製薬上許容可能な塩、または上記定義した式Iのピリミジルアミノベンズアミドもしくはその製薬上許容可能な塩に関する。
【0008】
第3の態様において、本発明は、肺動脈高血圧を患うヒトを含む温血動物の治療方法であって、そのような治療を必要とする該動物に有効量の4-(4-メチルピペラジン-1-イルメチル)-N-[4-メチル-3-(4-ピリジン-3-イル)ピリミジン-2-イルアミノ)フェニル]-ベンズアミドもしくはその製薬上許容可能な塩、または上記定義した式Iのピリミジルアミノベンズアミドもしくはその製薬上許容可能な塩を投与する、方法に関する。
【0009】
第4の態様において、本発明は、
(a)特発性または原発性肺高血圧、
(b)家族性高血圧、
(c)結合組織病、先天性心臓欠陥(シャント)、肺線維症、門脈高血圧、HIV感染、鎌状赤血球病、薬物および毒素(例えば、食欲抑制剤、コカイン)、慢性低酸素症、慢性閉塞性肺疾患、睡眠時無呼吸症、ならびに住血吸虫症(ただし、これらに限定されない)に続発する肺高血圧、
(d)有意な静脈または毛細血管病変(肺静脈閉塞疾患、肺毛細血管腫症)に関連する肺高血圧、
(e)左室機能障害の程度に釣り合わない二次性肺高血圧、
(f)新生児の持続性肺高血圧、
を患うヒト、特に以前のPAH治療法が上手くいかなかった患者の治療方法であって、そのような治療を必要とする該ヒトに、それぞれの障害に対して有効な用量の4-メチルピペラジン-1-イルメチル)-N-[4-メチル-3-(4-ピリジン-3-イル)ピリミジン-2-イルアミノ)フェニル]-ベンズアミド、上記定義した式Iのピリミジルアミノベンズアミド、またはその製薬上許容可能な塩を投与する工程を含む、方法に関する。
【0010】
特に抗腫瘍剤としての化合物Iの調製およびその使用は、欧州特許出願第EP-A-0 564 409号の実施例21(その内容は参照により本明細書に組み込まれる)、ならびに対応出願や、多くの他国での特許(例えば、米国特許第5,521,184号および日本特許第2706682号)に記載されている。
【0011】
化合物Iの製薬上許容可能な塩は、例えば、塩酸、硫酸、もしくはリン酸等の無機酸との、あるいは適切な有機カルボン酸もしくはスルホン酸、例えば、トリフルオロ酢酸、酢酸、プロピオン酸、グリコール酸、コハク酸、マレイン酸、フマル酸、ヒドロキシマレイン酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸もしくはシュウ酸等の脂肪族モノ-もしくはジ-カルボン酸、またはアルギニンもしくはリシン等のアミノ酸、安息香酸、2-フェノキシ--安息香酸、2-アセトキシ--安息香酸、サリチル酸、4-アミノサリチル酸等の芳香族カルボン酸、マンデル酸もしくは桂皮酸等の芳香族--脂肪族カルボン酸、ニコチン酸もしくはイソニコチン酸等のヘテロ芳香族カルボン酸、メタン-、エタン-もしくは2-ヒドロキシ-エタン--スルホン酸等の脂肪族スルホン酸、または芳香族スルホン酸、例えば、ベンゼン-、p-トルエン-もしくはナフタレン-2--スルホン酸との製薬上許容可能な酸付加塩である。
【0012】
化合物Iのモノメタンスルホン酸付加塩(以下、「メシル酸化合物I」または「メシル酸イマチニブ」または「モノメタンスルホン酸化合物I」)、およびその好ましい結晶形態(例えば、β結晶形態)は1999年1月28日に公開されたPCT 特許出願第WO99/03854号に記載されている。
【0013】
有効量の化合物Iまたはその製薬上許容可能な塩を含む有力な医薬製剤も、WO99/03854(その内容は参照により本明細書に組み込まれる)に記載されている。
【0014】
式Iに従って、以下の本発明の適切な態様、好ましい態様、より好ましい態様、または最も好ましい態様は、単独で、まとめて、または任意の組合せで採用することができる。
【0015】
また、pyが3-ピリジルであり、ラジカルが互いとは無関係に以下の意味を有する式Iのピリミジルアミノベンズアミドも好ましい:すなわち、
・R1は、水素、低級アルキル、低級アルコキシ-低級アルキル、アシルオキシ-低級アルキル、カルボキシ-低級アルキル、低級アルコキシカルボニル-低級アルキル、またはフェニル-低級アルキル;より好ましくは水素を表し;
・R2は、水素、1つ以上の同じもしくは異なるラジカルR3で任意に置換された低級アルキル、シクロアルキル、ベンズシクロアルキル、ヘテロシクリル、アリール基、または0、1、2もしくは3つの環構成窒素原子および0もしくは1つの酸素原子および0もしくは1つの硫黄原子を含む単環式もしくは二環式ヘテロアリール基(各基はそれぞれ、置換されていないか、一置換もしくは多置換されている)を表し;
・R3は、ヒドロキシ、低級アルコキシ、アシルオキシ、カルボキシ、低級アルコキシカルボニル、カルバモイル、N-一置換もしくはN,N-二置換カルバモイル、アミノ、一置換もしくは二置換アミノ、シクロアルキル、ヘテロシクリル、アリール基、または0、1、2もしくは3つの環構成窒素原子および0もしくは1つの酸素原子および0もしくは1つの硫黄原子を含む単環式もしくは二環式ヘテロアリール基(各基はそれぞれ、置換されていないか、一置換もしくは多置換されている)を表し;ならびに
・R4は、低級アルキル、特にメチルを表す。
【0016】
好ましい式Iのピリミジルアミノベンズアミドは、4-メチル-3-[[4-(3-ピリジニル)-2-ピリミジニル]アミノ]-N-[5-(4-メチル-1H-イミダゾール-1-イル)-3-(トリフルオロメチル)フェニル]ベンズアミドであり、「ニロチニブ」としても知られている。
【0017】
上記および下記で使用する一般的な用語は、特に明記しない限り、本開示の文脈において以下の意味を有することが好ましい。
【0018】
接頭辞「低級」とは、最大で7つまでの、特に最大で4つまでの炭素原子を含むラジカルを示し、当該ラジカルは、直線状のものであるか、または単分岐もしくは多分岐の分岐状のものである。
【0019】
化合物または塩等について複数形を使用した場合、単一の化合物または塩等も意味することとする。
【0020】
低級アルキルは、1〜7まで、好ましくは1〜4まで含む、直線状または分岐状のアルキルであることが好ましい;好ましくは、低級アルキルは、n-ブチル、sec-ブチル、イソブチル、tert-ブチル等のブチル、n-プロピルもしくはイソプロピル等のプロピル、エチル、またはメチルである。低級アルキルは、メチル、プロピルまたはtert-ブチルであることが好ましい。
【0021】
低級アシルは、ホルミルまたは低級アルキルカルボニル、特にアセチルであることが好ましい。
【0022】
アリール基は、ラジカルの芳香族環炭素原子に位置する結合を介して分子に結合している芳香族ラジカルである。好適な実施形態では、アリールは、6〜14の炭素原子を有する芳香族ラジカル、特にフェニル、ナフチル、テトラヒドロナフチル、フルオレニルまたはフェナントレニルであり、置換されていないか、または特に以下から選択される1つ以上の、好ましくは3つまでの、特に1もしくは2つの置換基で置換されている:すなわち、アミノ、一置換または二置換アミノ、ハロゲン、低級アルキル、置換型低級アルキル、低級アルケニル、低級アルキニル、フェニル、ヒドロキシ、エーテル化またはエステル化ヒドロキシ、ニトロ、シアノ、カルボキシ、エステル化カルボキシ、アルカノイル、ベンゾイル、カルバモイル、N-一置換またはN,N-二置換カルバモイル、アミジノ、グアニジノ、ウレイド、メルカプト、スルホ、低級アルキルチオ、フェニルチオ、フェニル-低級アルキルチオ、低級アルキルフェニルチオ、低級アルキルスルフィニル、フェニルスルフィニル、フェニル-低級アルキルスルフィニル、低級アルキルフェニルスルフィニル、低級アルキルスルホニル、フェニルスルホニル、フェニル-低級アルキルスルホニル、低級アルキルフェニルスルホニル、ハロゲン-低級アルキルメルカプト、特にトリフルオロメタンスルホニル等のハロゲン-低級アルキルスルホニル、ジヒドロキシボラ(dihydroxybora)(-B(OH)2)、ヘテロシクリル、単環式または二環式ヘテロアリール基、および環の隣接するC原子において結合した低級アルキレンジオキシ(メチレンジオキシ等)。アリールは、より好ましくは:置換されていないか、または互いと無関係にハロゲン、特にフッ素、塩素もしくは臭素からなる群より選択される1または2つの置換基で置換されているフェニル、ナフチル、またはテトラヒドロナフチル;ヒドロキシ;低級アルキル(例えば、メチル)によって、ハロゲン-低級アルキル(例えば トリフルオロメチル)によって、またはフェニルによってエーテル化されたヒドロキシ;2つの隣接するC原子に結合した低級アルキレンジオキシ、例えば メチレンジオキシ;低級アルキル、例えば メチル、またはプロピル;ハロゲン-低級アルキル、例えば トリフルオロメチル;ヒドロキシ-低級アルキル、例えば ヒドロキシメチル、または2-ヒドロキシ-2-プロピル;低級アルコキシ-低級アルキル、例えば、メトキシメチル、または2-メトキシエチル;低級アルコキシカルボニル-低級アルキル、例えば、メトキシ-カルボニルメチル;1-プロピニル等の低級アルキニル;エステル化カルボキシ、特に低級アルコキシカルボニル、例えば メトキシカルボニル、n-プロポキシカルボニル、またはイソ-プロポキシカルボニル;N-一置換カルバモイル、特に低級アルキル(例えば メチル、n-プロピルまたはイソ-プロピル)で一置換されたカルバモイル;アミノ;低級アルキルアミノ、例えば、メチルアミノ;ジ-低級アルキルアミノ、例えば、ジメチルアミノ、またはジエチルアミノ;低級アルキレン-アミノ、例えば、ピロリジノ、またはピペリジノ;低級オキサアルキレンアミノ、例えば、モルホリノ;低級アザアルキレン-アミノ、例えば、ピペラジノ;アシルアミノ、例えば、アセチルアミノまたはベンゾイルアミノ;低級アルキルスルホニル、例えば メチルスルホニル;スルファモイル;あるいはフェニルスルホニルである。
【0023】
シクロアルキル基は、好ましくは、シクロプロピル、シクロペンチル、シクロヘキシル、またはシクロヘプチルであり、置換されていないか、またはアリールの置換基について上記定義した群より選択される1つ以上の、特に1または2つの置換基、最も好ましくは、メチル等の低級アルキル、メトキシもしくはエトキシ等の低級アルコキシ、またはヒドロキシ、さらにオキソで置換されていてもよいし、あるいはベンズシクロペンチまたはベンズシクロヘキシル等のベンゾ環に融合していてもよい。
【0024】
置換型アルキルは、最後に定義したアルキルであり、特に低級アルキル、好ましくはメチルであって、ハロゲン、特にフッ素、アミノ、N-低級アルキルアミノ、N,N-ジ-低級アルキルアミノ、N-低級アルカノイルアミノ、ヒドロキシ、シアノ、カルボキシ、低級アルコキシカルボニル、およびフェニル-低級アルコキシカルボニルからなる群より主に選択される1つ以上、特に3つまでの置換基が存在し得る。トリフルオロメチルが特に好ましい。
【0025】
一置換もしくは二置換アミノは、特に、メチル等の低級アルキル;2-ヒドロキシエチル等のヒドロキシ-低級アルキル;メトキシエチル等の低級アルコキシ低級アルキル;ベンジルもしくは2-フェニルエチル等のフェニル-低級アルキル;アセチル等の低級アルカノイル;ベンゾイル;フェニルラジカルが、特に、ニトロ、アミノ、ハロゲン、N-低級アルキルアミノ、N,N-ジ-低級アルキルアミノ、ヒドロキシ、シアノ、カルボキシ、低級アルコキシカルボニル、低級アルカノイル、およびカルバモイルから選択される1つ以上の、好ましくは1または2つの置換基で置換されている置換型ベンゾイル;ならびにフェニルラジカルが、置換されていないか、または特にニトロ、アミノ、ハロゲン、N-低級アルキルアミノ、N,N-ジ-低級アルキルアミノ、ヒドロキシ、シアノ、カルボキシ、低級アルコキシカルボニル、低級アルカノイル、およびカルバモイルから選択される1つ以上の、好ましくは1または2つの置換基で置換されているフェニル-低級アルコキシカルボニルから互いと無関係に選択される1または2つのラジカルで置換されたアミノであって;好ましくは、N-メチルアミノ等のN-低級アルキルアミノ、2-ヒドロキシ-エチルアミノもしくは2-ヒドロキシプロピル等のヒドロキシ-低級アルキルアミノ、メトキシエチル等の低級アルコキシ低級アルキル、ベンジルアミノ等のフェニル-低級アルキルアミノ、N,N-ジ-低級アルキルアミノ、N-フェニル-低級アルキル-N-低級アルキルアミノ、N,N-ジ-低級アルキルフェニルアミノ、アセチルアミノ等の低級アルカノイルアミノ、またはベンゾイルアミノおよびフェニル-低級アルコキシカルボニルアミノからなる群より選択される置換基(それぞれ、フェニルラジカルは置換されていないか、または特にニトロもしくはアミノで置換されているか、またはハロゲン、アミノ、N-低級アルキルアミノ、N,N-ジ-低級アルキルアミノ、ヒドロキシ、シアノ、カルボキシ、低級アルコキシカルボニル、低級アルカノイル、カルバモイル、またはアミノカルボニルアミノで置換されている)である。二置換型アミノはまた、低級アルキレン-アミノ、例えば ピロリジノ、2-オキソピロリジノ、もしくはピペリジノ;低級オキサアルキレン-アミノ、例えば モルホリノ、もしくは低級アザアルキレン-アミノ、例えば ピペラジノ、またはN-メチルピペラジン、もしくはN-メトキシカルボニルピペラジノ等のN-置換型ピペラジノである。
【0026】
ハロゲンは、特に、フッ素、塩素、臭素、またはヨウ素、特にフッ素、塩素、または臭素である。
【0027】
エーテル化ヒドロキシは、特に、n-デシルオキシ等のC8-C20アルキルオキシ、メトキシ、エトキシ、イソプロピルオキシもしくはtert-ブチルオキシ等の低級アルコキシ(好ましい)、ベンジルオキシ等のフェニル-低級アルコキシ、フェニルオキシ、トリフルオロメトキシ、2,2,2-トリフルオロエトキシもしくは1,1,2,2-テトラフルオロエトキシ等のハロゲン-低級アルコキシ、または1もしくは2つの窒素原子を含む単環式もしくは二環式ヘテロアリールで置換された低級アルコキシ、好ましくは、1H-イミダゾール-1-イル等のイミダゾリル、ピロリル、1-ベンズイミダゾリル等のベンズイミダゾリル、ピリジル、特に2-、3-もしくは4-ピリジル、ピリミジニル、特に2-ピリミジニル、ピラジニル、イソキノリニル、特に3-イソキノリニル、キノリニル、インドリルまたはチアゾリルで置換された低級アルコキシである。
【0028】
エステル化ヒドロキシは、特に、低級アルカノイルオキシ、ベンゾイルオキシ、tert-ブトキシカルボニルオキシ等の低級アルコキシカルボニルオキシ、またはベンジルオキシカルボニルオキシ等のフェニル-低級アルコキシカルボニルオキシである。
【0029】
エステル化カルボキシは、特に、tert-ブトキシカルボニル、イソ-プロポキシカルボニル、メトキシカルボニル、もしくはエトキシカルボニル等の低級アルコキシカルボニル、フェニル-低級アルコキシカルボニル、またはフェニルオキシカルボニルである。
【0030】
アルカノイルは、主に、アルキルカルボニル、特に、低級アルカノイル、例えば アセチルである。
【0031】
N-一置換またはN,N-二置換カルバモイルは、特に、低級アルキル、フェニル-低級アルキル、およびヒドロキシ-低級アルキルから互いと無関係に選択された1もしくは2つの置換基、または末端窒素原子において任意に置換された低級アルキレン、オキサ-低級アルキレンもしくはアザ-低級アルキレンで置換される。
【0032】
0、1、2または3つの環構成窒素原子および0または1つの酸素原子および0または1つの硫黄原子を含む単環式または二環式ヘテロアリール基(各基はそれぞれ、置換されていないか、一置換または多置換されている)は、式Iにおいてヘテロアリールラジカルを分子の残りに結合させる環において不飽和である複素環部分を指し、好ましくは、結合環(binding ring)、また任意にいずれかのアニール環(annealed ring)において、少なくとも1つの炭素原子が、窒素、酸素および硫黄からなる群より選択されるヘテロ原子に置き換えられており;結合環が、好ましくは5〜12、より好ましくは5または6つの環原子を有し;置換されていないか、またはアリールについての置換基として上記定義された群より選択される1つ以上の、特に1もしくは2つの置換基(最も好ましくはメチル等の低級アルキル、メトキシもしくはエトキシ等の低級アルコキシ、またはヒドロキシ)で置換されている、環である。単環式または二環式ヘテロアリール基は、2H-ピロリル、ピロリル、イミダゾリル、ベンズイミダゾリル、ピラゾリル、インダゾリル、プリニル、ピリジル、ピラジニル、ピリミジニル、ピリダジニル、4H-キノリジニル、イソキノリル、キノリル、フタラジニル、ナフチリジニル、キノキサリル、キナゾリニル、キノリニル、プテリジニル、インドリジニル、3H-インドリル、インドリル、イソインドリル、オキサゾリル、イソキサゾリル、チアゾリル、イソチアゾリル、トリアゾリル、テトラゾリル、フラザニル、ベンゾ[d]ピラゾリル、チエニル、およびフラニルから選択されることが好ましい。より好ましくは、単環式または二環式ヘテロアリール基は、ピロリル、1H-イミダゾール-1-イル等のイミダゾリル、1-ベンズイミダゾリル等のベンズイミダゾリル、インダゾリル、特に5-インダゾリル、ピリジル、特に2-、3-または4-ピリジル、ピリミジニル、特に2-ピリミジニル、ピラジニル、イソキノリニル、特に3-イソキノリニル、キノリニル、特に4-または8-キノリニル、インドリル、特に3-インドリル、チアゾリル、ベンゾ[d]ピラゾリル、チエニル、およびフラニルからなる群より選択される。本発明の好適な一実施形態では、ピリジルラジカルは、窒素原子に対してオルト位においてヒドロキシで置換されているため、少なくとも部分的に、対応する互変異性体の形態(すなわち、ピリジン-(1H)2-オン)で存在する。別の好適な実施形態では、ピリミジニルラジカルは、2および4位の両方においてヒドロキシで置換されているため、いくつかの互変異性体形態(例えば、ピリミジン-(1H,3H)2,4-ジオン)として存在する。
【0033】
ヘテロシクリルは、特に、1または2個のヘテロ原子が、窒素、酸素および硫黄からなる群より選択され、不飽和であっても、または完全にもしくは部分的に飽和であってもよく、置換されていないか、または、特にメチル等の低級アルキル、ベンジル等のフェニル-低級アルキル、オキソ、もしくは2-ピペラジニル等のヘテロアリールで置換されている、5、6または7員複素環系である;ヘテロシクリルは、特に2-もしくは3-ピロリジニル、2-オキソ-5-ピロリジニル、ピペリジニル、N-ベンジル-4-ピペリジニル、N-低級アルキル-4-ピペリジニル、N-低級アルキル-ピペラジニル、モルホリニル、例えば、2-もしくは3-モルホリニル、2-オキソ-1H-アゼピン-3-イル、2-テトラヒドロフラニル、または2-メチル-1,3-ジオキソラン-2-イルである。
【0034】
式I(式中、Pyは3-ピリジル)の範囲内にあるピリミジルアミノベンズアミド、およびそれらの製造プロセスは、WO 04/005281(その内容は参照により本明細書に組み込まれる)に開示されている。
【0035】
式I(式中、Pyは3-ピリジル)のピリミジルアミノベンズアミドの製薬上許容可能な塩は、特にWO2007/015871に開示されているものである。好適な一実施形態において、ニロチニブは、その塩酸一水和物の形態で採用される。WO2007/015870は、本発明に有用なニロチニブの特定の多形、およびその製薬上許容可能な塩を開示している。
【0036】
式I(式中、Pyは3-ピリジル)のピリミジルアミノベンズアミドは、経口、非経口(例えば、腹腔内、静脈内、筋内、皮下、腫瘍内、直腸内、または経腸)を含む任意の経路によって投与できる。式I(式中、pyは3-ピリジル)のピリミジルアミノベンズアミドは、好ましくは50〜2000 mgの一日投与量で、経口投与されることが好ましい。ニロチニブの好ましい一日経口投与量は、200〜1200 mg、例えば、800 mgであり、単回用量、または一日に2回投与する等の複数回用量に分けて投与される。
【0037】
本明細書で使用する「治療」という用語は、治癒的治療および予防的治療を意味する。
【0038】
本明細書で使用する「治癒的」という用語は、肺高血圧、特に肺動脈高血圧の継続中の症状出現を治療する効力を意味する。
【0039】
「予防的」という用語は、肺高血圧、特に肺動脈高血圧の発症または再発の予防を意味する。
【0040】
本明細書および後続する請求の範囲を通して、文脈上他の意味に解釈すべき場合以外は、「包含/含む」という言葉、または「包含する/含む」や「包含している/含んでいる」等の他のバリエーションは、表記の整数もしくは工程、または複数の整数もしくは工程の群を含み、他の整数もしくは工程、または複数の整数もしくは工程の群を除外するものでないことを暗に意味することが理解されるであろう。
【0041】
本発明はまた、化合物Iを包含する、肺動脈高血圧を治療するための医薬製剤に関する。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】メシル酸イマチニブを投与されている患者における肺血管抵抗(PVR)の変化を示す。
【図2】プラシーボを投与されている患者における肺血管抵抗(PVR)の変化を示す。
【図3】メシル酸イマチニブを投与されている患者における心拍出量(CO)の変化を示す。
【図4】プラシーボを投与されている患者における心拍出量(CO)の変化を示す。
【図5】メシル酸イマチニブを投与されている患者における肺動脈圧(PAP)の変化を示す。
【図6】プラシーボを投与されている患者における肺動脈圧(PAP)の変化を示す。
【図7】「治療を意図した(intention to treat、ITT)」集団の患者の状況を示す。
【図8】イマチニブまたはプラシーボでの6ヶ月の治療の後の、肺血流動態の基準時からの平均的変化を示す。(a)平均肺動脈圧(PAPm);(b)心拍出量(CO);(c)肺血管抵抗(PVR);(d)6分間歩行距離(6MWD)。
【図9】イマチニブまたはプラシーボに無作為に割り当てられた患者において、基準時PVR≧1,000ダイン.秒.cm-5(イマチニブN=8;プラシーボN=12)または<1,000ダイン.秒.cm5(イマチニブN=12;プラシーボN=9)で階層化された、基準時から試験終了時までの肺血流動態の平均的変化を示す。(a)平均肺動脈圧(PAPm);(b)心拍出量(CO);(c)肺血管抵抗(PVR);(d)6分間歩行距離(6MWD)。
【発明を実施するための形態】
【0043】
肺高血圧を患う患者の機能状態の世界保健機関分類
患者の肺高血圧の状態は、以下に詳述するように、世界保健機関(WHO)分類(ニューヨーク学会(New York Association)機能分類に従って改変)に従って評価できる。
【0044】
分類I-肺高血圧を患っているが、身体活動は制限されていない患者。通常の身体活動では、過度の呼吸困難もしくは疲労、胸痛、または失神性目まいは起こらない。
【0045】
分類II-肺高血圧を患い、身体活動がわずかに制限される患者。安静にしていれば快適である。通常の身体活動で、過度の呼吸困難(dispend)もしくは疲労、胸痛、または失神性目まいが起こる。
【0046】
分類III-肺高血圧を患い、身体活動が著しく制約される患者。安静にしていれば快適である。通常の活動に満たなくても、過度の呼吸困難もしくは疲労、胸痛、または失神性目まいが起こる。
【0047】
分類IV-肺高血圧を患い、症状が出ない身体活動を行うことができない患者。これらの患者は、右心不全の兆候を示す。安静時であっても、呼吸困難および/または疲労を呈し得る。あらゆる身体活動によって不快症状が増す。
【0048】
本発明の好適な実施形態において、医薬は、以前の治療法が上手くいかなかった、特にプロスタノイド、エンドセリンアンタゴニスト、またはPDE V阻害剤の少なくとも1つを投与された後の患者において肺動脈高血圧を治療するためのものである。
【0049】
本発明のさらなる好適な実施形態において、医薬は、より重症な患者、特に分類II〜分類IVの機能状態の患者、より好ましくは分類IIIまたはIVの機能状態の患者において肺動脈高血圧を治療するためのものである。
【0050】
本発明のさらなる好適な実施形態において、医薬は、BMPR2突然変異を抱える患者において肺動脈高血圧を治療するためのものである。
【0051】
より全般的な態様において、本発明は、
(a)特発性または原発性肺高血圧、
(b)家族性高血圧、
(c)結合組織病、先天性心臓欠陥(シャント)、肺線維症、門脈高血圧、HIV感染、鎌状赤血球病、薬物および毒素(例えば、食欲抑制剤、コカイン)、慢性低酸素症、慢性閉塞性肺疾患、睡眠時無呼吸症、ならびに住血吸虫症(ただし、これらに限定されない)に続発する肺高血圧、
(d)有意な静脈または毛細血管病変(肺静脈閉塞疾患、肺毛細血管腫症)に関連する肺高血圧、
(e)左室機能障害の程度に釣り合わない二次性肺高血圧、
(f)新生児の持続性肺高血圧、
を患うヒト、特に以前のPAH治療法が上手くいかなかった患者の治療方法であって、そのような治療を必要とする該ヒトに、それぞれの障害に対して有効な用量の4-メチルピペラジン-1-イルメチル)-N-[4-メチル-3-(4-ピリジン-3-イル)ピリミジン-2-イルアミノ)フェニル]-ベンズアミド、式Iのピリミジルアミノベンズアミド、またはその製薬上許容可能な塩、好ましくはそれぞれの障害に対して有効な用量の式Iのピリミジルアミノベンズアミドまたはその製薬上許容可能な塩を投与する工程を含む、方法を提供する。
【0052】
種、年齢、個体の状態、投与モード、および問題となる臨床像に応じて、有効用量、例えば、一日用量で約100〜1000mg、好ましくは200〜600mg、特に400mgの化合物Iが、約70kgの体重の温血動物に投与される。成人患者のためには、400mg/日の化合物Iフリーベース(free base)に対応する開始用量が推奨される。400mg/日の化合物Iフリーベースに対応する用量での治療法に対する応答を評価した後に応答が不十分であった患者のためには用量の増加を安全な範囲で考慮でき、患者は治療の恩恵を受け、かつ容量制限毒性がない限り治療を受けることができる。
【0053】
本発明はまた、肺動脈高血圧を患っているヒト被検者に、医薬的有効量の化合物I、式Iのピリミジルアミノベンズアミド、またはその製薬上許容可能な塩を投与する方法に関する。化合物I、式Iのピリミジルアミノベンズアミドまたはその製薬上許容可能な塩は、3ヶ月を超える期間の間、一日に一回投与されることが好ましい。本発明は、特に、100〜1000mg、例えば200〜800mg、特に400〜600mg、好ましくは400mgの化合物Iフリーベースに対応する一日用量のメシル酸化合物Iを投与する方法に関する。
【0054】
本発明によれば、化合物Iは、モノメタンスルホン酸塩の形態、例えば、モノメタンスルホン酸塩のβ結晶形態であることが好ましい。
【0055】
本発明は、肺高血圧、特に肺動脈高血圧を患っている温血動物、特にヒトの治療方法であって、(a)化合物Iまたは式Iのピリミジルアミノベンズアミド、および(b)肺動脈高血圧の治療のための化合物から選択される少なくとも1つの化合物、(カルシウムチャンネルアンタゴニスト、例えば、ニフェジピン、例えば、120〜240mg/日、またはジルチアゼム、例えば、540〜900mg/日、プロスタサイクリン、プロスタサイクリン類似体であるイロプロスト、フローランおよびトレプロスチニル、アデノシン、吸入酸化窒素、抗凝固剤、例えば、ワルファリン、ジゴキシン、エンドセリン受容体遮断薬、例えば ボセンタン、ホスホジエステラーゼ阻害剤、例えば、シルデナフィル、ノルエピネフリン、アンジオテンシン変換酵素阻害剤、例えば、エナラプリル、または利尿薬等)を包含する組合せを動物に投与する工程を含む方法;特に肺動脈高血圧を治療するための、上記定義された(a)および(b)を包含する組合せ、ならびに任意に同時、個別または逐次使用するための少なくとも1つの製薬上許容可能な担体;このような組合せを包含する医薬組成物;肺動脈高血圧を進行遅延させるかまたは治療するための医薬を調製するためのこのような組合せの使用;ならびにこのような組合せを包含する市販パッケージまたは製品、に関する。
【0056】
コード番号、一般名または商品名で識別される活性剤の構造は、標準的な概要書である「メルクインデックス(The Merck Index)」の実版から、またはデータベース、例えば、Patents International(例えば、IMS World Publications)から得ることができる。それらの対応する内容は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0057】
本明細書に開示する組合せにおいて採用する組合せ相手が、単一薬剤として販売されている形態で適用される場合、それらの投薬量および投与モードは、特に明記しない限り、それぞれ販売される薬のパッケージ添付文書に書かれた情報に従うことができ、本明細書に記載する有益な効果を得る。
【0058】
化合物I、式Iのピリミジルアミノベンズアミド、またはその製薬上許容可能な塩が、肺動脈高血圧のより有効な予防、または好ましくは治療をもたらすことは、確立したテストモデルによって明らかにできる。化合物Iまたはその製薬上許容可能な塩は、現行の治療法に比べて副作用が有意に少ない。さらに、化合物Iまたはその製薬上許容可能な塩は、例えば、時間経過と共に恩恵が増す、または疾患の進行を逆行させる等、異なる局面において有益な効果をもたらす。化合物Iまたはその製薬上許容可能な塩は、その予想外に多機能な活性、および肺動脈高血圧の異なる局面に対するその活性から、肺動脈高血圧を予防または無くすのに予想外に高い効能を示す。
【0059】
当業者は、関連するテストモデルを選択して、上記および下記の治療適応および有益な効果(すなわち、良好な治療限界、および本明細書に記載する他の利点)を証明することが十分に可能である。薬理学活性は、例えば、肺動脈高血圧のげっ歯類モデル等のin vitroおよびin vivoテスト手順、または以下に実質的に記載する臨床試験により実証される。以下の実施例は、上述した本発明を例示するが、本発明の範囲をいかようにも限定することを意図したものではない
【0060】
実施例1:肺動脈高血圧を治療するための、チロシンキナーゼ阻害剤のメシル酸イマチニブでの6ケ月間の治療の安全性および効力を評価するための無作為化二重盲検プラシーボ比較試験
【0061】
第1の目的
・肺動脈高血圧(PAH)を患う患者において、経口メシル酸イマチニブの安全性および耐容性をプラシーボと比較して評価すること。
・6分間歩行テストにおける改善により測定した場合の、経口メシル酸イマチニブの効力を評価すること。
【0062】
第2の目的
・臨床状態の改善(WHO分類およびボルグスコアの評価)、肺血流動態パラメーター(平均肺動脈圧、平均肺動脈楔入圧、収縮期動脈圧、心拍数、および心拍出量、肺血管抵抗、全身血管抵抗を含む)における変化、臨床的悪化までの時間、血漿バイオマーカーレベルの変化により測定した場合の、経口メシル酸イマチニブの効力を評価すること。
【0063】
設計:
試験において、標準的な治療法(プロスタノイド(静脈、皮下、吸入)、エンドセリン-1 アンタゴニスト、またはPDE-5阻害剤)では悪化していたり、またはそれに対する耐容性がないことが分かっているが、未だに標準的な治療法を継続しているかもしれない、合計60人のPAH患者を登録した。有資格患者を無作為化して、経口メシル酸イマチニブを200mg/日で、そして2週間後には400mgに増加して投与するか、または対応するプラシーボを投与した。治療は6ヶ月継続し、最初の4週間は毎週通院し、その後6ヶ月(24週)まで毎月通院とした。安全性および効力の評価は、予め特定した時点において、24週まで行った。ベニス分類(2003)による原発性(特発性)、家族性、または全身性硬化症(著しい肺線維症のものを除く)に続発する肺動脈高血圧のいずれかを患っている18歳以上の男性または女性患者、およびWHO分類のII〜IV(最大50%の患者が分類IV)が含まれた。BMPR2遺伝子に突然変異を有する患者を特定した。患者は、プロスタノイド(静脈、皮下、吸入)、エンドセリン-1 アンタゴニスト、またはPDE-5 阻害剤での治療法を受けてきたが、この標準的な治療法では悪化する(改善されない)か、またはそれに対する耐容性がないことが分かっている。PAH医薬は、試験に含める(基準時外来(baseline visit))前の少なくとも3ヶ月は安定していた。経口投与用の100mgの臨床治験剤形カプセルとしてメシル酸イマチニブを、および対応プラシーボカプセルを適用した。200mg用量は、2×100mgカプセル、または2×対応プラシーボで構成された。400mg用量は、4×100mgカプセル、または対応するプラシーボで構成された。患者には、試験薬を毎日1回、食事および大きめ(8oz/200mL)のコップに入った水と共に服用し、医薬を噛まずに、そのまま飲み込むように指示した。
【0064】
効力評価
・6分間歩行テストおよびボルグスコア:スクリーニング、基準時、4週目、8週目、12週目、16週目、20週目、24週目/試験完了。
・WHO評価:スクリーニング、基準時、4週目、8週目、12週目、16週目、20週目、24週目/試験完了。
・右心カテーテル法から得た血流動態パラメーター(PAP、PAWP、SAP、HR、CO、PVRおよびSVR):基準時、および24週目/試験完了。
【0065】
結果
【表1】


【表2】


【表3】

【0066】
本試験は、プラシーボと比べて、肺血管抵抗(PVR)、心拍出(CO)、および6分間歩行におけるメシル酸イマチニブに応答した明らかに有益な変化を実証している。肺動脈圧(PAP)が低下する傾向も見られた。死亡数(5人対3人)に差があり、メシル酸イマチニブが有利であった。
【0067】
実施例2:確立された治療法に対する応答が不十分な重度の肺動脈高血圧を患う患者に対するイマチニブ治療を評価するための無作為化二重盲検プラシーボ比較治験
【0068】
序論
肺動脈高血圧(PAH)(平均肺動脈圧[PAPm]≧安静時25mmHgまたは運動時30mmHg、平均肺毛細血管楔入圧[PCWPm]≦15mmHg、および肺血管抵抗[PVR]>240ダイン.秒.cm-5と定義される)は、治療しない場合には、肺血管抵抗(PVR)の進行性の上昇、右室不全、そして死亡をもたらす。標的療法を行わない場合、特発性PAH(IPAH)における1および3年間の推定生存率は、それぞれ68%および48%である。
【0069】
PAHのための現行の薬物療法の推奨は、患者の機能分類(FC、ニューヨーク心臓病学会機能分類の肺高血圧についての世界保健機関[WHO]の修正版(Modification for Pulmonary Hypertension of the New York Heart Association Functional Class))に応じて異なる。ホスホジエステラーゼタイプ5(PDE5)阻害剤のシルデナフィル、経口エンドセリン受容体アンタゴニスト(ERA)のボセンタン、アンブリセンタンおよびシタクスセンタン、ならびにプロスタサイクリン類似体のエポプロステノール(静脈内)、イロプロスト(吸入)およびトレプロスチニル(皮下または静脈内)が、FC II〜IVの患者について認可されている。単一療法では改善しなかった、または悪化したFC IIIまたはIVの患者は、組合せ療法、心房中隔切開術、および/または移植(肺もしくは心臓/肺)で治療され得る。しかし、現在、これらの治療選択肢のいずれも、生存率を改善するとしてもPAHを治すことはできない;PAHは、進行性で、かつ生命に関わる状態のままである。最近の2つのメタ分析から、PAH患者における運動能力およびいくつかのその他の臨床的評価項目に対する、プロスタサイクリン類似体、ERA、およびPDE5阻害剤の有益な効果が強調されたが、Galieらによる最新の報告のみが、上記治療による生存率の改善について証拠を提供している。
【0070】
PAHを患う患者の肺動脈における病理学的変化としては、血管閉塞を生じる、叢状病変の形成、ならびに平滑筋および線維芽細胞の増殖が挙げられる。血小板由来成長因子(PDGF)は、肺高血圧における平滑筋過形成に関連する血管平滑筋細胞マイトジェン活性化シグナル伝達経路である。PDGFおよびその受容体(PDGFR)は、動物試験およびPAHを患う患者において肺高血圧の病理生物学に関係するとみなされており、治療のための新しい可能性のある標的を提示している。
【0071】
従って、PDGFRαおよびβキナーゼ、Abl、DDRおよびc-KITを阻害するチロシンキナーゼ阻害剤であるイマチニブは、PAHの治療において功を奏するかもしれない。いくつかの事例報告から有望な結果を得たため、PAHにおけるイマチニブのさらなる試験の正当性の根拠となった。
【0072】
本試験では、プロスタサイクリン類似体、ERA、PDE5阻害剤、および/またはこれらの治療法の組合せで十分に改善されなかったPAH患者における無作為化二重盲検プラシーボ比較パイロット試験で、 イマチニブ、対、プラシーボの効果を比較した。
【0073】
方法
1.試験の目的および設計
第1の目的は、PAH患者におけるイマチニブの安全性および耐容性をプラシーボと比較して評価し、6分間歩行テスト(6MWテスト)を採用してその効力を評価することであった。第2の目的は、血流動態変数、およびFCにおける変化が挙げられる。
【0074】
特発性もしくは家族性PAH、または全身性硬化症もしくは先天性心臓疾患に関連するPAHを患い(WHOグループI)、PVR>300ダイン.秒.cm-5であるFC II〜IVの患者(≧18歳)を有資格者とした。患者は、登録前に3ヶ月以上安定したPAH薬物治療を受けていた。妊娠の可能性のある女性は、二重バリア避妊法を使用した。
【0075】
他の原因のPAHを患っている患者は除外した。患者は、試験の間、特定されないPDE 阻害剤、慢性吸入酸化窒素療法、またはカテコールアミンの使用を許可されなかった。さらなる除外基準としては:3ヶ月以内の別の臨床治験への参加、8週間以内の献血または出血(>400 mL)、または4週間以内の別の重大な疾患の病歴。事前に肺病、凝固障害、血小板減少症、大量出血もしくは頭蓋内出血、潜在的な出血リスクの前歴、肝トランスアミナーゼ上昇(基準上限値[ULN]の>4倍)、ビリルビン上昇(ULNの>2倍)、血清クレアチニン上昇(>200μmol/L)、頭蓋内圧上昇の前歴、妊娠、授乳、鎌状赤血球貧血、臨床的に有意な薬物アレルギーもしくはアトピー性アレルギーの前歴、免疫不全の前歴、BもしくはC型肝炎、または薬物もしくはアルコール乱用の前歴のある患者も除外した。試験薬に対して過敏であることが既知である場合、試験薬の薬物動態を変えてしまうかもしくは危険にさらす可能性のある場合、根底にある疾患によって試験の最後まで持ち堪えられない可能性がある場合、またはPAH以外の症状によって6MWテストを行うことができない場合には、該当患者を除外した。有資格患者を、ドイツ、英国、オーストリア、およびアメリカの7つの施設で登録し、1:1で無作為化して、イマチニブまたはプラシーボのいずれかで治療した。
【0076】
試験は、医薬品規制調和国際会議(ICH)、医薬品の臨床試験の実施に関する基準のガイドライン(International Conference on Harmonization(ICH) Harmonized Tripartite Guidelines for Good Clinical Practice)、適用される全ての地方条例(欧州指令2001/83/ECおよび米国連邦規則21条(US Code of Federal Regulations Title 21)を含む)、ならびにヘルシンキ宣言で制定された倫理原則に従って、設計、実施および報告した。本試験は、全ての施設における施設内審査委員会によって承認され、患者全員が登録前にインフォームドコンセントに署名した。試験の間、全死亡数および安全性データが、外部のデータ安全性監視委員会によって審査された。
【0077】
2.介入
イマチニブ(またはプラシーボ)での治療を、治療の最初の2週間の間、経口的に毎日1回200mgの用量で開始した。治療の耐容性が良好な場合には、用量を400mg/日に増加した。400mg用量の耐容性が良好でない場合には、200mgへの減量(down-titration)を許可した。患者および試験員は治療の割り当てについて分からないようにした。緊急時には盲検化を解除できるようにした。
【0078】
3.効力評価
主要な効力成果は、基準時および6ヶ月目の6MW距離(6MWD)におけるグループ間差であった。全血流動態パラメーターを標準的な技術で評価した。肺高血圧についてのNYHA基準のWHO改変版に従って、FCを分類した。
【0079】
4.予備的分析
新しい仮説を立てるため、および他のグループよりもイマチニブに対する応答が良好であり得る患者サブグループを識別するために、PVR値が≧1,000対<1,000ダイン.秒.cm-5(データの中央値)の患者に対して追加でサブグループ分析を行った。
【0080】
5.安全性評価
血球数、肝機能および腎機能パラメーターのモニタリング、心エコー検査、ならびに心臓磁気共鳴画像法(選択された施設において)を、試験の間に行った。患者はまた、予定された試験外来の間に定期的な電話でインタビューを受けた。
【0081】
6.統計的分析
安全性および主要効力成果(6MWD)の両方に対応するために計画されたサンプルサイズである60人の被検者を選択した。主要効力成果については、本試験は、75mの標準偏差(SD)に基づいて、6MWDにおいて55mの伸び率を95%の信頼性で検出するのに80%の能力を有すると推定された(両側p<0.05)。
【0082】
試験医薬を少なくとも1回用量は投与された患者全員で構成される「治療を意図した(ITT)」集団内で分析を行った。中断者は分析から除外した。基準時の値を共変量とした共分散分析(ANCOVA)を用いて主要効力分析(6MWD)を行った。ANCOVAは、肺血流動態および血液ガスにおけるグループ間差を評価するためにも使用した。欠けているデータについては補完しなかったため、基準時および治療後の両方の評価を有する被検者のみがANCOVA分析に含まれた。フィッシャー検定を使用してFCを比較した。
【0083】
さらに、基準時における基準時PVR値≧または<1,000ダイン.秒.cm-5(すなわち、試験における中央PVR値)に従って分類したサブグループにおいて予備的分析(事後比較)を行った。
【0084】
結果
1.状況および基準時特徴:
59人の患者(女性40人;男性19人)を登録し、42人(71.2%)が6ヶ月の試験を終了した(図7)。死亡には結びつかない中断者の大部分はPAHの悪化に関連した。基準時特徴は、2つの治療グループ間で類似していた(表4)。全体としては、患者の平均年齢は44.3歳、平均体重は68.7kg、および平均体格指数が24.6kg/m2であった。59人中55人の患者が白人で、78%が特発性PAHを患っていた(表4)。基準時には、イマチニブグループ患者の79%、およびプラシーボグループ患者の81%が組合せ療法を受けていた(表4)。

【表4】

【0085】
2.効力の成果:
平均(±SD)6MWDは、イマチニブグループ、対、プラシーボにおいて大きく変わらなかった(+22±63、対、-1.0±53m;平均治療間差21.7m;95%CI(-13.0、56.5);p=0.21)(表5;図8)。しかし、プラシーボと比べて、イマチニブレシピエントにおいてPVR(平均治療間差-230.7ダイン;95%CI(-383.7、-77.8;p=0.004)の有意な低下、および心拍出量(CO;平均治療間差0.68 L/分;95%CI(0.10、1.26;p=0.02)の上昇がみられた(図8)。イマチニブ治療患者とプラシーボ治療患者との間で、PAPm(図8)またはFCの変化に有意な差はなかった(データは示さず)。
【0086】
イマチニブについて動脈および混合静脈酸素飽和度(p<0.05)に上昇がみられた。全身性動脈酸素飽和度は、変化のなかったプラシーボ(基準時で92±4%、対、試験終了時で92±3%)に対して、イマチニブ治療では88±9%から93±5%に上昇した(平均治療間差2.4%;95%CI(0.5、4.3));混合静脈酸素飽和度は、低下したプラシーボ(基準時で61±6%、対、試験終了時で57±9%)に対して、イマチニブ治療では58±10%から65±7%に上昇した(COの上昇と一致)(平均治療間差7.0%;95%CI(2.1、11.9))。
【表5】

【0087】
3.予備的なサブグループ分析:
基準時PVR≧1,000ダイン.秒.cm-5の患者について、プラシーボと比べてイマチニブグループのPAPm、CO、PVR、および6MWDについて、基準時と試験終了時との間で実質的な改善がみとめられた(図9)。しかし、基準時PVR<1,000ダイン.秒.cm-5の患者の中では、PAPm、CO、PVR、または6MWDについて、基準時と試験終了時との間で大幅な差は観察されなかった(図9)。
【0088】
4.安全性および耐容性:
本臨床試験において最もよく観察された有害事象(AE)は、本集団および本薬剤について予測されたものであった。イマチニブグループで最もよく報告されたAEは、吐き気(N=14;50%)、頭痛(N=10;35.7%)および末梢浮腫(N=7;25.0%)であった。これらのAEによる試験薬の中断はなかった。吐き気は、食事と共に医薬を服用することで制御した。合計で、イマチニブグループの21人(75%)の患者およびプラシーボグループの24人(77%)の患者が軽度のAE度合いを報告し、イマチニブグループ患者の20人(71%)およびプラシーボグループ患者の19人(61%)が中度のAE度合いを報告し、イマチニブグループの9人(32%)の患者およびプラシーボグループの5人(16%)の患者が重度のAE度合いを報告した。11人のイマチニブレシピエント(39%)および7人のプラシーボレシピエント(23%)について重篤なAE(SAE)が報告された。イマチニブグループのSAEには、心停止(N=2)、回転性目まい(vertigo)(n=1)、膵炎(N=1)、カテーテル関連合併症(N=1)、肝機能障害(N=2)、目まい(dizziness )(N=1)、前失神(N=1)、失神(N=1)、喀血(N=1)、肺高血圧の悪化(N=3)、および動脈破裂(N=1)が含まれた。プラシーボグループのSAEには、心房粗動(N=1)、心停止(N=2)、右室不全(N=2)、全身的な健康の悪化(N=1)、体液貯留(N=1)、目まい(N=1)、および肺高血圧の悪化(N=3)が含まれた。
【0089】
全体としては、イマチニブではヘモグロビンレベルの降下が見られ(151±14から128±16g/L、SD)、プラシーボではヘモグロビンレベルの上昇が見られた(143±25から152±25g/L)。以下の変数については、経時的な関連変化はなかった:すなわち、白血球数、血小板数、アルブミン、アルカリホスファターゼ、総ビリルビン、カルシウム、コレステロール、クレアチニン、g-GT、ブドウ糖、乳酸脱水素酵素、無機リン、リパーゼ、アミラーゼ、カリウム、総タンパク質量、C反応性タンパク質、グルタミン酸オキサロ酢酸トランスアミナーゼ、グルタミン酸ピルビン酸トランスアミナーゼ、ナトリウム、トリグリセリド、尿素、および尿酸。
【0090】
それぞれのグループにおいて、死亡数は3であった。プラシーボグループにおいては、試験終了から2ヶ月以内にさらに2人の患者が死亡した。イマチニブグループの1人の患者、およびプラシーボグループの1人の患者が、肺動脈の破裂を起こした(どちらも致命的な結果となった)。
【0091】
考察
これは、PAHを患っている患者における、チロシンキナーゼ阻害剤であるイマチニブの安全性、耐容性および効力を評価するための初めての無作為化二重盲検プラシーボ比較治験であった。イマチニブは、6ヶ月の間、安全かつ寛容性が良好であるように見られたが、二次評価項目が有意に改善されたにも関わらず、プラシーボと比べてイマチニブに無作為に割り当てられた患者において主要効力パラメーター(6MWD)は改善されなかった。
【0092】
治療効力
全体としては、59人の患者を登録した。試験プロトコール通り、PAH特異的薬物(すなわち、プロスタサイクリン類似体、ERA、PDE5阻害剤)の少なくとも1つでの治療背景があり、十分な改善が見られなかった患者のみを登録した(基準時には、患者の56%が2つの薬物を投与され、24%が3つの薬物を投与されていた)。このことは、治療未経験(treatment naive)患者のみが含まれた過去の試験と比べて、本試験で観察された6MWDの改善が低かった原因になったかもしれない。バックグラウンド特異的医薬が許可された臨床的治験では、治療未経験者での治験よりも6MWDの全体的な改善が低かった。
【0093】
安全面
ABLチロシンキナーゼ経路の阻害は、慢性骨髄性白血病(CML)のためにイマチニブでの長期治療を受けている患者においてまれに心筋障害を誘発し得ることが示唆されてきた。しかし、CML患者の大集団における長期の多施設試験では、イマチニブについて許容範囲内の安全性プロファイルが示された。イマチニブを投与されている患者全員を再試験したところ、年間で患者の0.5%が偶発的な鬱血性心不全を発症していたことが明らかになった(危険因子はなかった)。インターフェロンガンマとAra-Cを投与されている患者が年間0.75%なのに対して、イマチニブを投与されているCML患者のうち年間0.4%の患者が鬱血性心不全を発症している。PAH患者にとってはさらに問題となり得る心毒性の可能性を考慮して、今回の治験では、心エコー検査による心機能の定期的な評価、および血清中の心筋トロポニンレベルの測定を行った。プラシーボグループの全体的な安全性プロファイルと比べた場合に、心筋機能に対するイマチニブの潜在的な有害作用を示す兆候は全体的になかった。逆に、PVR低下に対するイマチニブの一部の有益な効果は、COの改善によるものと思われ、PAH患者における右室 収縮能の改善を示唆した。それでもなお、心臓の安全性は、スニチニブ等の他のキナーゼ阻害剤にとって重要な懸案事項のままである。
【0094】
予備的なサブグループ分析
プラシーボと比べてイマチニブでは6MWDの有意な上昇は観察されなかったが、COおよびPVRにおける有意な改善が観察された。これらの観察から、我々は、基準時PVRを基準に患者を階層化する事後比較分析に着手するに至った。基準時PVR≧1,000ダイン.秒.cm-5の患者については、プラシーボと比べて、イマチニブグループにおいては、基準時から試験終了時までに6MWD、PVR、およびCOの実質的な改善が見とめられた(図9)。これは、PVRレベル<1,000ダイン.秒.cm-5の患者では観察されなかった。しかし、これは計画外の分析であるため、これらの結果は慎重に解釈されなければならない。さらに、チロシンキナーゼ阻害剤は、増殖抑制およびアポトーシス促進の影響を持つと考えられており、有意な血管拡張または変力効果を有するとは認識されていない。現在の試験結果を説明できるひとつ仮説として、イマチニブでの治療を効果的にするためには、ある程度の疾患の重症度(すなわち、血管増殖)が必要となり得ることがある。しかし、これらのデータは仮説に当てはまるため、より重度でないPAH患者も、長期イマチニブ治療法から、予防メカニズムを介して恩恵を受け得ることは除外できない。
【0095】
結論および見通し
この試験的試験の結果は、イマチニブが、PAHを患う患者において、安全かつ耐容性が良好であることを示唆している。さらに、効力分析は、PAHにおける増殖性成長因子経路を標的とする薬剤の使用を支持する概念を証明する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以前のPAH治療法が上手くいかなかった患者における肺動脈高血圧(PAH)の治療用の医薬の製造のための、4-(4-メチルピペラジン-1-イルメチル)-N-[4-メチル-3-(4-ピリジン-3-イル)ピリミジン-2-イルアミノ)フェニル]-ベンズアミドもしくはその製薬上許容可能な塩、または式I
【化3】


(式中、
Pyは3-ピリジルを示し
R1は、水素、低級アルキル、低級アルコキシ-低級アルキル、アシルオキシ-低級アルキル、カルボキシ-低級アルキル、低級アルコキシカルボニル-低級アルキル、またはフェニル-低級アルキルを表し;
R2は、水素、1つ以上の同じもしくは異なるラジカルR3で任意に置換された低級アルキル、シクロアルキル、ベンズシクロアルキル、ヘテロシクリル、アリール基、または0、1、2もしくは3つの環構成窒素原子(ring nitrogen atom)および0もしくは1つの酸素原子および0もしくは1つの硫黄原子を含む単環式もしくは二環式ヘテロアリール基(各基はそれぞれ、置換されていないか、一置換もしくは多置換されている)を表し;ならびに
R3は、ヒドロキシ、低級アルコキシ、アシルオキシ、カルボキシ、低級アルコキシカルボニル、カルバモイル、N-一置換もしくはN,N-二置換カルバモイル、アミノ、一置換もしくは二置換アミノ、シクロアルキル、ヘテロシクリル、アリール基、または0、1、2もしくは3つの環構成窒素原子および0もしくは1つの酸素原子および0もしくは1つの硫黄原子を含む単環式もしくは二環式ヘテロアリール基(各基はそれぞれ、置換されていないか、一置換もしくは多置換されている)を表す;
あるいは、式中、R1およびR2は共に、低級アルキル、シクロアルキル、ヘテロシクリル、フェニル、ヒドロキシ、低級アルコキシ、アミノ、一置換もしくは二置換アミノ、オキソ、ピリジル、ピラジニル、またはピリミジニルで任意に一置換もしくは二置換された、4、5もしくは6つの炭素原子を有するアルキレン;4もしくは5つの炭素原子を有するベンズアルキレン;1つの酸素および3もしくは4つの炭素原子を有するオキサアルキレン;または1つの窒素および3もしくは4つの炭素原子を有するアザアルキレン(ここで、窒素は、置換されていないか、または低級アルキル、フェニル-低級アルキル、低級アルコキシカルボニル-低級アルキル、カルボキシ-低級アルキル、カルバモイル-低級アルキル、N-一置換もしくはN,N-二置換カルバモイル-低級アルキル、シクロアルキル、低級アルコキシカルボニル、カルボキシ、フェニル、置換型フェニル、ピリジニル、ピリミジニル、またはピラジニルで置換されている)を表す;
R4は、水素、低級アルキル、またはハロゲンを表す)
のピリミジルアミノベンズアミドもしくはその製薬上許容可能な塩の使用。
【請求項2】
4-(4-メチルピペラジン-1-イルメチル)-N-[4-メチル-3-(4-ピリジン-3-イル)ピリミジン-2-イルアミノ)フェニル]-ベンズアミド、またはその製薬上許容可能な塩を使用する、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
4-(4-メチルピペラジン-1-イルメチル)-N-[4-メチル-3-(4-ピリジン-3-イル)ピリミジン-2-イルアミノ)フェニル]-ベンズアミドを、モノメタンスルホン酸塩の形態で使用する、請求項2に記載の使用。
【請求項4】
式Iのピリミジルアミノベンズアミド(式中、ラジカルおよび記号は請求項1に定義した意味を有する)、またはその製薬上許容可能な塩を使用する、請求項1に記載の使用。
【請求項5】
前記ピリミジルアミノベンズアミドが、4-メチル-3-[[4-(3-ピリジニル)-2-ピリミジニル]アミノ]-N-[5-(4-メチル-1H-イミダゾール-1-イル)-3-(トリフルオロメチル)フェニル]ベンズアミドである、請求項4に記載の使用。
【請求項6】
4-メチル-3-[[4-(3-ピリジニル)-2-ピリミジニル]アミノ]-N-[5-(4-メチル-1H-イミダゾール-1-イル)-3-(トリフルオロメチル)フェニル]ベンズアミドを、塩酸一水和物の形態で使用する、請求項5に記載の使用。
【請求項7】
以前のPAH治療法が、プロスタノイド、エンドセリンアンタゴニスト、またはPDE V阻害剤の少なくとも1つを投与することを含む、請求項1〜6のいずれか一項に記載の使用。
【請求項8】
前記医薬が、より重症な患者においてPAHを治療するためのものである、請求項1〜6のいずれか一項に記載の使用。
【請求項9】
前記医薬が、BMPR2突然変異を抱える患者においてPAHを治療するためのものである、請求項1〜6のいずれか一項に記載の使用。
【請求項10】
以前のPAH治療法が上手くいかなかった患者における、肺動脈高血圧(PAH)を患うヒトの治療方法であって、そのような治療を必要とする該ヒトに、PAHに対して有効な用量の4-メチルピペラジン-1-イルメチル)-N-[4-メチル-3-(4-ピリジン-3-イル)ピリミジン-2-イルアミノ)フェニル]-ベンズアミドもしくはその製薬上許容可能な塩、または式I
【化4】


(式中、
Pyは3-ピリジルを示し
R1は、水素、低級アルキル、低級アルコキシ-低級アルキル、アシルオキシ-低級アルキル、カルボキシ-低級アルキル、低級アルコキシカルボニル-低級アルキル、またはフェニル-低級アルキルを表し;
R2は、水素、1つ以上の同じもしくは異なるラジカルR3で任意に置換された低級アルキル、シクロアルキル、ベンズシクロアルキル、ヘテロシクリル、アリール基、または0、1、2もしくは3つの環構成窒素原子(ring nitrogen atom)および0もしくは1つの酸素原子および0もしくは1つの硫黄原子を含む単環式もしくは二環式ヘテロアリール基(各基はそれぞれ、置換されていないか、一置換もしくは多置換されている)を表し;ならびに
R3は、ヒドロキシ、低級アルコキシ、アシルオキシ、カルボキシ、低級アルコキシカルボニル、カルバモイル、N-一置換もしくはN,N-二置換カルバモイル、アミノ、一置換もしくは二置換アミノ、シクロアルキル、ヘテロシクリル、アリール基、または0、1、2もしくは3つの環構成窒素原子および0もしくは1つの酸素原子および0もしくは1つの硫黄原子を含む単環式もしくは二環式ヘテロアリール基(各基はそれぞれ、置換されていないか、一置換もしくは多置換されている)を表す;
あるいは、式中、R1およびR2は共に、低級アルキル、シクロアルキル、ヘテロシクリル、フェニル、ヒドロキシ、低級アルコキシ、アミノ、一置換もしくは二置換アミノ、オキソ、ピリジル、ピラジニル、またはピリミジニルで任意に一置換もしくは二置換された、4、5もしくは6つの炭素原子を有するアルキレン;4もしくは5つの炭素原子を有するベンズアルキレン;1つの酸素および3もしくは4つの炭素原子を有するオキサアルキレン;または1つの窒素および3もしくは4つの炭素原子を有するアザアルキレン(ここで、窒素は、置換されていないか、または低級アルキル、フェニル-低級アルキル、低級アルコキシカルボニル-低級アルキル、カルボキシ-低級アルキル、カルバモイル-低級アルキル、N-一置換もしくはN,N-二置換カルバモイル-低級アルキル、シクロアルキル、低級アルコキシカルボニル、カルボキシ、フェニル、置換型フェニル、ピリジニル、ピリミジニル、またはピラジニルで置換されている)を表す;
R4は、水素、低級アルキル、またはハロゲンを表す)
のピリミジルアミノベンズアミドまたはその製薬上許容可能な塩を投与する工程を含む、方法。
【請求項11】
(a)特発性または原発性肺高血圧、
(b)家族性高血圧、
(c)結合組織病、先天性心臓欠陥(シャント)、肺線維症、門脈高血圧、HIV感染、鎌状赤血球病、薬物および毒素(例えば、食欲抑制剤、コカイン)、慢性低酸素症、慢性閉塞性肺疾患、睡眠時無呼吸症、ならびに住血吸虫症(ただし、これらに限定されない)に続発する肺高血圧、
(d)有意な静脈または毛細血管病変(肺静脈閉塞疾患、肺毛細血管腫症)に関連する肺高血圧、
(e)左室機能障害の程度に釣り合わない二次性肺高血圧、
(f)新生児の持続性肺高血圧、
を患うヒトの治療方法であって、そのような治療を必要とする該ヒトに、それぞれの障害に対して有効な用量の式I
【化5】


(式中、
Pyは3-ピリジルを示し
R1は、水素、低級アルキル、低級アルコキシ-低級アルキル、アシルオキシ-低級アルキル、カルボキシ-低級アルキル、低級アルコキシカルボニル-低級アルキル、またはフェニル-低級アルキルを表し;
R2は、水素、1つ以上の同じもしくは異なるラジカルR3で任意に置換された低級アルキル、シクロアルキル、ベンズシクロアルキル、ヘテロシクリル、アリール基、または0、1、2もしくは3つの環構成窒素原子(ring nitrogen atom)および0もしくは1つの酸素原子および0もしくは1つの硫黄原子を含む単環式もしくは二環式ヘテロアリール基(各基はそれぞれ、置換されていないか、一置換もしくは多置換されている)を表し;ならびに
R3は、ヒドロキシ、低級アルコキシ、アシルオキシ、カルボキシ、低級アルコキシカルボニル、カルバモイル、N-一置換もしくはN,N-二置換カルバモイル、アミノ、一置換もしくは二置換アミノ、シクロアルキル、ヘテロシクリル、アリール基、または0、1、2もしくは3つの環構成窒素原子および0もしくは1つの酸素原子および0もしくは1つの硫黄原子を含む単環式もしくは二環式ヘテロアリール基(各基はそれぞれ、置換されていないか、一置換もしくは多置換されている)を表す;
あるいは、式中、R1およびR2は共に、低級アルキル、シクロアルキル、ヘテロシクリル、フェニル、ヒドロキシ、低級アルコキシ、アミノ、一置換もしくは二置換アミノ、オキソ、ピリジル、ピラジニル、またはピリミジニルで任意に一置換もしくは二置換された、4、5もしくは6つの炭素原子を有するアルキレン;4もしくは5つの炭素原子を有するベンズアルキレン;1つの酸素および3もしくは4つの炭素原子を有するオキサアルキレン;または1つの窒素および3もしくは4つの炭素原子を有するアザアルキレン(ここで、窒素は、置換されていないか、または低級アルキル、フェニル-低級アルキル、低級アルコキシカルボニル-低級アルキル、カルボキシ-低級アルキル、カルバモイル-低級アルキル、N-一置換もしくはN,N-二置換カルバモイル-低級アルキル、シクロアルキル、低級アルコキシカルボニル、カルボキシ、フェニル、置換型フェニル、ピリジニル、ピリミジニル、またはピラジニルで置換されている)を表す;
R4は、水素、低級アルキル、またはハロゲンを表す)
のピリミジルアミノベンズアミド、またはその製薬上許容可能な塩を投与する工程を含む、方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2011−530607(P2011−530607A)
【公表日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−523078(P2011−523078)
【出願日】平成21年8月11日(2009.8.11)
【国際出願番号】PCT/US2009/053358
【国際公開番号】WO2010/019540
【国際公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【出願人】(504389991)ノバルティス アーゲー (806)
【Fターム(参考)】