肺病態の治療および予防
【課題】肺病態を治療するために現在利用できる組成物と方法を改善すること。
【解決手段】本発明は、肺の炎症前または炎症時の肺組織の破壊を防止するための製薬組成物、ならびにこのような組成物を作製して使用する方法に関する。本発明は、肺の病態を治療し、肺炎の負の効果を軽減するための組成物および方法を提供する。このような組成物および方法は、プロテアーゼ阻害剤および肺表面活性剤の混合物を使用する。前記組成物および方法はまた、リパーゼ阻害剤(例えば、ホスホリパーゼ阻害剤)および抗酸化剤も含むことができる。
【解決手段】本発明は、肺の炎症前または炎症時の肺組織の破壊を防止するための製薬組成物、ならびにこのような組成物を作製して使用する方法に関する。本発明は、肺の病態を治療し、肺炎の負の効果を軽減するための組成物および方法を提供する。このような組成物および方法は、プロテアーゼ阻害剤および肺表面活性剤の混合物を使用する。前記組成物および方法はまた、リパーゼ阻害剤(例えば、ホスホリパーゼ阻害剤)および抗酸化剤も含むことができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の分野)
本発明は、肺の炎症前または炎症時の肺組織の破壊を防止するための製薬組成物、ならびにこのような組成物を作製して使用する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
(発明の背景)
リパーゼおよび蛋白分解酵素などの内因性分解酵素は、侵入生物、抗原−抗体複合体、およびもはや生物に不要な、または有用ではない特定の脂質ならびに蛋白質の分解に寄与する。正常に機能している生物において、このような酵素は、限定された量で産生され、阻害剤の合成によりある程度調節される。
【0003】
酵素とそれらの阻害剤との間のバランスの乱れにより、酵素を媒介とした組織破壊に至ることがある。このような破壊は、炎症、肺気腫、喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、関節炎、糸球体腎炎、歯周炎、筋ジストロフィー症、腫瘍侵襲および他の種々の病的状態など種々の状態において発生し得る。ある状況において、例えば、敗血症または急性白血病などの重篤な病的過程において、存在する遊離の蛋白分解酵素量は、分泌細胞からの酵素遊離のため増加する。このような異常状態が存在する生物においては、分解酵素の作用を制御する処置が取られない限り、前記生物に対する重篤な損傷が発生し得る。
【0004】
ヒトにおける肺は、この哺乳動物の体容積の6%を含み、多数の小さい気嚢、すなわち肺胞からなる。肺の主要目的は、全身循環によるガス交換を促進することである。したがって、肺胞は、新鮮な肺胞ガスのガス交換をするため混合静脈血を、肺上皮性および内皮性関門を越えて運ぶ広範囲の毛細血管網により灌流される。肺胞膜は、100m2を超える全表面積および1μm未満の厚さを有する。肺胞膜関門の破壊を引き起こす疾患または病態は、肺胞中への液体漏出をもたらし、肺機能の喪失となり得る。
【0005】
例えば、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)とは、重篤なガス交換障害(特に動脈低酸素血症)に関連するが、病因を異にする多数の急性び慢性浸潤性肺病変部に適用される記述用語である。ARDSは、「漏出性」毛細血管応答に関連することが多い。用語の「急性呼吸窮迫症候群」は、多数の臨床的かつ病理学的特徴が乳児呼吸窮迫症候群(IRDS)と共通するために用いられる。IRDSは、肺表面活性物質欠損に関連するが、ARDSは、肺表面活性物質機能障害に関連する。死亡率は50〜60%であり(Shuster Chest 1995年、107巻:1721−26ページにおける調査)、ARDS患者の予後は不良である。
【0006】
肺疾患を予防または治療するために、気管支肺胞洗浄法、気管経由の液体ボーラス投与または薬物溶液のエアロゾル薬物溶液(例えば、噴霧器の使用による)によって、またそれに続いて薬物含有エアロゾル液滴の吸入によって薬物を疾患組織に直接送達し得る。しかしながら、薬物溶液を肺に送っても、薬物またはその投与がどれほど有効であるかは事実上不確かである。例えば、薬物は、ある領域では高濃度で存在し得るが、他の領域では薬物を殆どまたは全く受容せず、肺中の薬物の半減期は、分解または血管系への吸収のため比較的短いと思われる。また、薬物に対するエアロゾル化の効果にも問題がある。薬物は、噴霧器の噴霧作用により分解するか、あるいは酸化により不活化する可能性がある。また、宿主の肺または他の器官への有害作用なしで期間を延長して有効用量を維持できるかは不確かである。乾燥粉末形態での送達用に製剤化された蛋白質は、その生物学的活性を保持するかどうかも予測できない。
【0007】
幾つかの低分子量薬物を含有する製薬組成物(とりわけベータアンドロゲン作用アンタゴニスト)が、喘息を治療するために、肺投与により送達されている。コルチコステロイド類およびクロモリンナトリウムなどの他の低分子量非蛋白質様化合物は、肺吸収を経て全身に投与されている。しかしながら、低分子量薬剤の全てが、肺経由により有効に投与できるとは限らない。例えば、全身作用を目的としたアミノグリコシド抗生物質、抗ウィルス剤および抗癌剤の肺投与は、成果がまちまちである。幾つかの場合において、前記薬物は、刺激性があり、気管支収縮性であることが判明した。したがって、低分子量物質によっても、このような化合物の肺送達が有効な投与手段であるという予測は全く立てられない。一般的には、Peptide and Protein Drug Delivery、V.Lee編集、Marcel Dekker、ニューヨーク、1990年、1−11ページを参照されたい。薬物自体に固有の種々の因子、製薬組成物、送達装置、および特に肺、またはこれらの因子の組合わせが、肺投与の成果に影響を及ぼし得る。
【0008】
このゆえに、肺病態を治療するために現在利用できる組成物と方法を改善する必要がある。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0009】
(発明の要旨)
本発明は、概して肺病態を治療するための組成物と方法に関する。前記組成物は、炎症の間に有効な少なくとも1種の肺表面活性剤ポリペプチドおよび少なくとも1種の組織破壊媒介物阻害剤を含む。炎症の間に有効な組織破壊媒介物としては、炎症応答の一部として哺乳動物体により生成され、かつ哺乳動物組織に損傷を与え、破壊し得る化合物、酵素、または他の因子のいずれかが挙げられる。組織破壊のこのような媒介物の例としては、プロテアーゼ類、リパーゼ類、酸化物などが挙げられる。このような媒介物の阻害剤は、例えば、プロテアーゼ阻害剤、抗酸化剤、リパーゼ阻害剤またはホスホリパーゼ阻害剤であり得る。
本発明は、例えば以下の項目を提供する。
(項目1)
肺表面活性ポリペプチドおよびプロテアーゼ阻害剤を含む肺の炎症の治療、または予防を目的とする液体組成物。
(項目2)
前記プロテアーゼ阻害剤が、トリプシン、キモトリプシン、エラスターゼ、カリクレイン、プラスミン、凝固因子XIa、凝固因子IXa、カテプシンG、ヒト白血球エラスターゼまたはヒト分泌白血球プロテアーゼの阻害剤である項目1に記載の液体組成物。
(項目3)
前記プロテアーゼ阻害剤が、ヒト白血球エラスターゼ阻害剤、アルファ1−プロティナーゼ阻害剤、アルファ1−抗トリプシン、アルファ−1−抗キモトリプシン、ビクニン、C−反応性蛋白質またはそれらの組合わせである項目1に記載の液体組成物。
(項目4)
前記プロテアーゼ阻害剤が、エラフィン(elafin)である項目1に記載の液体組成物。
(項目5)
前記プロテアーゼ阻害剤が、ヒト分泌白血球プロテアーゼ阻害剤である項目1に記載の液体組成物。
(項目6)
前記プロテアーゼ阻害剤が、配列番号14、配列番号15、配列番号16、配列番号17、配列番号18、配列番号19、配列番号20、配列番号21、配列番号22または配列番号23を含むポリペプチドを含む項目1に記載の液体組成物。
(項目7)
前記肺表面活性ポリペプチドが、10個から60個の間のアミノ酸残基を有し、かつ式(ZaUb)cZdにより表される交互の疎水性アミノ酸残基領域および親水性アミノ酸残基領域のアミノ酸配列を含むポリペプチドを含み、式中、
Zは親水性アミノ酸残基であり、Uは疎水性アミノ酸残基であり、aは平均値が1〜5の整数であり、bは平均値が3〜20の整数であり、cは約1から約10の整数であり、およびdは約0から約3の整数である項目1に記載の液体組成物。
(項目8)
Zが、ヒスチジン、リジン、アルギニン、アスパラギン酸、グルタミン酸、5−ヒドロキシリジン、4−ヒドロキシプロリンまたは3−ヒドロキシプロリンである項目7に記載の液体組成物。
(項目9)
Uが、バリン、イソロイシン、ロイシン、システイン、チロシン、フェニルアラニン、および/またはα−アミノブタン酸、α−アミノペンタン酸、α−アミノ−2−メチルプロパン酸、またはα−アミノヘキサン酸などのα−アミノ脂肪族カルボン酸である項目7に記載の液体組成物。
(項目10)
Uが、α−アミノブタン酸、α−アミノペンタン酸、α−アミノ−2−メチルプロパン酸、またはα−アミノヘキサン酸である項目7に記載の液体組成物。
(項目11)
前記肺表面活性ポリペプチドが、アミノ酸配列:
【化1】
を含む項目1に記載の液体組成物。
(項目12)
前記肺表面活性ポリペプチドが、
【化2】
である項目1に記載の液体組成物。
(項目13)
前記肺表面活性ポリペプチドが、アミノ酸配列の配列番号25、配列番号26、配列番号27、配列番号28または配列番号29を含む項目1に記載の液体組成物。
(項目14)
前記組成物が、約0.1から10パーセントの前記肺表面活性ポリペプチドを含む項目1に記載の液体組成物。
(項目15)
前記組成物が、約50から約95乾燥重量パーセントのリン脂質をさらに含む項目1に記載の液体組成物。
(項目16)
前記リン脂質が、約4:1から約2:1のモル比でジパルミトイルホスファチジルコリン、およびパルミトイル、オレオイルホスファチジルグリセロールを含む項目15に記載の液体組成物。
(項目17)
前記組成物が、約2から約25乾燥重量パーセントの展着剤を含む項目1に記載の液体組成物。
(項目18)
前記展着剤が、少なくとも10個の炭素原子の脂肪族アシル鎖長を有する脂肪酸または脂肪族アルコールである項目17に記載の液体組成物。
(項目19)
前記展着剤が、チロキサポールをさらに含む項目17に記載の液体組成物。
(項目20)
前記組成物が、リパーゼ阻害剤または抗酸化剤をさらに含む項目1に記載の液体組成物。
(項目21)
前記リパーゼ阻害剤が、ホスホリパーゼA2阻害剤である項目20に記載の液体組成物。
(項目22)
前記リパーゼ阻害剤が、臭化p−ブロモフェナシル、チエロシン(thielocin)A1ベータ、リポコルチン、アネキシンIまたはガラガラヘビ属ホスホリパーゼA2阻害剤である項目20に記載の液体組成物。
(項目23)
前記リパーゼ阻害剤が、LY11−727である項目20に記載の液体組成物。
(項目24)
前記抗酸化剤が、カタラーゼ、グルタチオン、N−アセチルシステイン、プロシステイン、アルファ−トコフェロール、ローズマリー葉抽出物、2,4−ジアミノピロロ−[2,3−d]ピリミジン、アスコルビン酸、ロイテイン(leutein)、ゼアキサンチン、クリプトキサンチン、ビオラキサンチン、カロテンジオール、ヒドロキシカロテン、ヒドロキシリコペン、アロキサンチン、またはデヒドロクリプトキサンチンである項目20に記載の液体組成物。
(項目25)
前記液体組成物が、気管支肺胞洗浄、経口、静脈内、非経口またはボーラス投与により投与される項目1に記載の液体組成物。
(項目26)
肺表面活性ポリペプチドおよびプロテアーゼ阻害剤を含む肺の炎症の治療または予防を目的とするエアロゾル化組成物。
(項目27)
前記プロテアーゼ阻害剤が、トリプシン、キモトリプシン、エラスターゼ、カリクレイン、プラスミン、凝固因子XIa、凝固因子IXa、カテプシンG、ヒト白血球エラスターゼまたはヒト分泌白血球プロテアーゼの阻害剤である項目26に記載のエアロゾル化組成物。
(項目28)
前記プロテアーゼ阻害剤が、ヒト白血球エラスターゼ阻害剤、アルファ1−プロティナーゼ阻害剤、アルファ1−抗トリプシン、アルファ−1−抗キモトリプシン、ビクニン、C−反応性蛋白質またはそれらの組合わせである項目26に記載のエアロゾル化組成物。
(項目29)
前記プロテアーゼ阻害剤が、エラフィンである項目26に記載のエアロゾル化組成物。
(項目30)
前記プロテアーゼ阻害剤が、ヒト分泌白血球プロテアーゼ阻害剤である項目26に記載のエアロゾル化組成物。
(項目31)
前記プロテアーゼ阻害剤が、配列番号14、配列番号15、配列番号16、配列番号17、配列番号18、配列番号19、配列番号20、配列番号21、配列番号22または配列番号23を含むポリペプチドを含む項目26に記載のエアロゾル化組成物。
(項目32)
前記肺表面活性ポリペプチドが、10個から60個の間のアミノ酸残基を有し、かつ式(ZaUb)cZdにより表される交互の疎水性アミノ酸残基領域および親水性アミノ酸残基領域のアミノ酸配列を含むポリペプチドを含み、式中、
Zは親水性アミノ酸残基であり、Uは疎水性アミノ酸残基であり、aは平均値が1〜5の整数であり、bは平均値が3〜20の整数であり、cは約1から約10の整数であり、およびdは約0から約3の整数である項目26に記載のエアロゾル化組成物。
(項目33)
Zが、ヒスチジン、リジン、アルギニン、アスパラギン酸、グルタミン酸、5−ヒドロキシリジン、4−ヒドロキシプロリンまたは3−ヒドロキシプロリンである項目32に記載のエアロゾル化組成物。
(項目34)
Uが、バリン、イソロイシン、ロイシン、システイン、チロシン、フェニルアラニン、および/またはα−アミノブタン酸、α−アミノペンタン酸、α−アミノ−2−メチルプロパン酸、またはα−アミノヘキサン酸などのα−アミノ脂肪族カルボン酸である項目32に記載のエアロゾル化組成物。
(項目35)
Uが、α−アミノブタン酸、α−アミノペンタン酸、α−アミノ−2−メチルプロパン酸、またはα−アミノヘキサン酸である項目32に記載のエアロゾル化組成物。
(項目36)
前記組成物が、約0.1から10パーセントの前記肺表面活性ポリペプチドを含む項目26に記載のエアロゾル化組成物。
(項目37)
前記肺表面活性ポリペプチドが、アミノ酸配列:
【化3】
を含む項目26に記載のエアロゾル化組成物。
(項目38)
前記肺表面活性ポリペプチドが、
【化4】
である項目26に記載のエアロゾル化組成物。
(項目39)
前記肺表面活性ポリペプチドが、アミノ酸配列の配列番号25、配列番号26、配列番号27、配列番号28または配列番号29を含む項目26に記載のエアロゾル化組成物。
(項目40)
前記組成物が、約50から約95乾燥重量パーセントのリン脂質をさらに含む項目26に記載のエアロゾル化組成物。
(項目41)
前記リン脂質が、約4:1から約2:1のモル比でジパルミトイルホスファチジルコリン、およびパルミトイル、オレオイルホスファチジルグリセロールを含む項目40に記載のエアロゾル化組成物。
(項目42)
前記組成物が、約2から約25乾燥重量パーセントの展着剤を含む項目26に記載のエアロゾル化組成物。
(項目43)
前記展着剤が、少なくとも10個の炭素原子の脂肪族アシル鎖長を有する脂肪酸または脂肪族アルコールである項目42に記載のエアロゾル化組成物。
(項目44)
前記展着剤が、チロキサポールをさらに含む項目42に記載のエアロゾル化組成物。
(項目45)
前記組成物が、リパーゼ阻害剤または抗酸化剤をさらに含む項目26に記載のエアロゾル化組成物。
(項目46)
前記リパーゼ阻害剤が、ホスホリパーゼA2阻害剤である項目45に記載のエアロゾル化組成物。
(項目47)
前記リパーゼ阻害剤が、臭化p−ブロモフェナシル、チエロシンA1ベータ、リポコルチン、アネキシンIまたはガラガラヘビ属ホスホリパーゼA2阻害剤である項目45に記載のエアロゾル化組成物。
(項目48)
前記リパーゼ阻害剤が、LY11−727である項目45に記載のエアロゾル化組成物。
(項目49)
前記抗酸化剤が、カタラーゼ、グルタチオン、N−アセチルシステイン、プロシステイン、アルファ−トコフェロール、ローズマリー葉抽出物、2,4−ジアミノピロロ−[2,3−d]ピリミジン、アスコルビン酸、ロイテイン、ゼアキサンチン、クリプトキサンチン、ビオラキサンチン、カロテンジオール、ヒドロキシカロテン、ヒドロキシリコペン、アロキサンチン、またはデヒドロクリプトキサンチンである項目45に記載のエアロゾル化組成物。
(項目50)
前記組成物が、液体組成物である項目26に記載のエアロゾル化組成物。
(項目51)
前記組成物が、乾燥組成物である項目26に記載のエアロゾル化組成物。
(項目52)
前記組成物が、約1μmから約5μmの空気動力学的径質量中央値を有するエアロゾル粒子を含む項目26に記載のエアロゾル化組成物。
(項目53)
前記組成物が、喘息治療用に製剤化されている項目26に記載のエアロゾル化組成物。
(項目54)
プロテアーゼ阻害剤、リパーゼ阻害剤および抗酸化剤を含む組成物の治療的有効量を哺乳動物に投与することを含む哺乳動物における肺の炎症を治療する方法。
(項目55)
前記肺の炎症が、肺高血圧症、新生児肺高血圧症、新生児気管支肺形成異常症、慢性閉塞性肺疾患、急性気管支炎、慢性気管支炎、肺気腫、気管支梢炎、気管支拡張症、放射線肺炎、過敏症、間質性肺炎、急性炎症性喘息、急性煙吸入、熱性肺傷害、アレルギー性喘息、医原性喘息、嚢胞性線維症、肺胞蛋白症、アルファ−1−プロテアーゼ欠乏症、肺炎症性疾患、肺炎、急性呼吸窮迫症候群、急性肺傷害、特発性呼吸窮迫症候群、または特発性肺線維症と関連する項目54に記載の方法。
(項目56)
前記プロテアーゼ阻害剤が、トリプシン、キモトリプシン、エラスターゼ、カリクレイン、プラスミン、凝固因子XIa、凝固因子IXa、カテプシンG、ヒト白血球エラスターゼまたはヒト分泌白血球プロテアーゼの阻害剤である項目54に記載の方法。
(項目57)
前記プロテアーゼ阻害剤が、ヒト白血球エラスターゼ阻害剤、アルファ1−プロティナーゼ阻害剤、アルファ1−抗トリプシン、アルファ−1−抗キモトリプシン、ビクニン、C−反応性蛋白質またはそれらの組合わせである項目54に記載の方法。
(項目58)
前記プロテアーゼ阻害剤が、エラフィンである項目54に記載の方法。
(項目59)
前記プロテアーゼ阻害剤が、配列番号14、配列番号15、配列番号16、配列番号17、配列番号18、配列番号19、配列番号20、配列番号21、配列番号22または配列番号23を含むポリペプチドを含む項目54に記載の方法。
(項目60)
前記リパーゼ阻害剤が、ホスホリパーゼA2阻害剤である項目54に記載の方法。
(項目61)
前記リパーゼ阻害剤が、臭化p−ブロモフェナシル、チエロシン(thielocin)A1ベータ、リポコルチン、アネキシンIまたはガラガラヘビ属ホスホリパーゼA2阻害剤である項目54に記載の方法。
(項目62)
前記抗酸化剤が、カタラーゼ、グルタチオン、N−アセチルシステイン、プロシステイン、アルファ−トコフェロール、ローズマリー葉抽出物、2,4−ジアミノピロロ−[2,3−d]ピリミジン、アスコルビン酸、ロイテイン(leutein)、ゼアキサンチン、クリプトキサンチン、ビオラキサンチン、カロテンジオール、ヒドロキシカロテン、ヒドロキシリコペン、アロキサンチン、またはデヒドロクリプトキサンチンである項目54に記載の方法。
(項目63)
前記組成物が、非経口的、経口的または静脈内投与される項目54に記載の方法。
(項目64)
前記組成物が、気管支肺胞洗浄、吸入または液体ボーラス投与により肺に投与される項目54に記載の方法。
(項目65)
組成物が、10個から60個の間のアミノ酸残基を有し、かつ式(ZaUb)cZdにより表される交互の疎水性アミノ酸残基領域および親水性アミノ酸残基領域のアミノ酸配列を含む肺表面活性ポリペプチドをさらに含み、式中、
Zは親水性アミノ酸残基であり、Uは疎水性アミノ酸残基であり、aは平均値が1〜5の整数であり、bは平均値が3〜20の整数であり、cは約1から約10の整数であり、およびdは約0から約3の整数である項目54に記載の方法。
(項目66)
前記組成物が、約0.1から10乾燥重量パーセントの前記肺表面活性ポリペプチドを含む項目65に記載の方法。
(項目67)
Zが、ヒスチジン、リジン、アルギニン、アスパラギン酸、グルタミン酸、5−ヒドロキシリジン、4−ヒドロキシプロリンまたは3−ヒドロキシプロリンである項目65に記載の方法。
(項目68)
Uが、バリン、イソロイシン、ロイシン、システイン、チロシン、フェニルアラニン、および/またはα−アミノブタン酸、α−アミノペンタン酸、α−アミノ−2−メチルプロパン酸、またはα−アミノヘキサン酸などのα−アミノ脂肪族カルボン酸である項目65に記載の方法。
(項目69)
Uが、α−アミノブタン酸、α−アミノペンタン酸、α−アミノ−2−メチルプロパン酸、またはα−アミノヘキサン酸である項目65に記載の方法。
(項目70)
前記肺表面活性ポリペプチドが、アミノ酸配列:
【化5】
を含む項目65に記載のエアロゾル化組成物。
(項目71)
前記肺表面活性ポリペプチドが、
【化6】
である項目65に記載の方法。
(項目72)
前記肺表面活性ポリペプチドが、アミノ酸配列の配列番号25、配列番号26、配列番号27、配列番号28または配列番号29を含む項目65に記載の方法。
(項目73)
前記組成物が、約50から約95乾燥重量パーセントのリン脂質をさらに含む項目65に記載の方法。
(項目74)
前記リン脂質が、約4:1から約2:1のモル比でジパルミトイルホスファチジルコリン、およびパルミトイル、オレオイルホスファチジルグリセロールを含む項目73に記載の方法。
(項目75)
前記組成物が、約2から約25乾燥重量パーセントの展着剤をさらに含む項目65に記載の方法。
(項目76)
前記展着剤が、少なくとも10個の炭素原子の脂肪族アシル鎖長を有する脂肪酸または脂肪族アルコールである項目75に記載の方法。
(項目77)
前記展着剤が、チロキサポールをさらに含む項目75に記載の方法。
(項目78)
前記リパーゼ阻害剤が、LY11−727である項目54に記載の方法。
(項目79)
前記プロテアーゼ阻害剤が、ヒト分泌白血球プロテアーゼ阻害剤である項目54に記載の方法。
【0010】
一態様において、本発明は、少なくとも1種のプロテアーゼ阻害剤と共に肺表面活性剤ポリペプチドを含む組成物を含む。リパーゼ阻害剤、ホスホリパーゼ阻害剤および/または抗酸化剤もまた、前記組成物に含むことができる。本組成物は、気管支肺胞洗浄、ボーラス投与液滴、吸入などにより肺に直接投与できる。
【0011】
他の態様において、本発明は、吸入により患者に活性剤を送達するためのエアロゾル化組成物を含む。前記組成物は、少なくとも1種のプロテアーゼ阻害剤と共に少なくとも1種の表面活性剤ポリペプチドを含むエアロゾル粒子を含む。リパーゼ阻害剤、ホスホリパーゼ阻害剤および/または抗酸化剤もまた、前記組成物に含むことができる。
【0012】
本発明の組成物および方法に使用されるプロテアーゼ阻害剤、リパーゼ阻害剤、ホスホリパーゼ阻害剤および抗酸化剤は、いずれも当業者に利用できるような阻害剤または抗酸化剤であり得る。
【0013】
幾つかの実施形態において、前記プロテアーゼ阻害剤は、クニッツ(Kunitz)阻害剤またはセリンプロテアーゼ阻害剤である。例えば、前記プロテアーゼ阻害剤は、トリプシン、キモトリプシン、エラスターゼ、カリクレイン、プラスミン、凝固因子XIa、凝固因子IXa、コラゲナーゼ、カテプシンG、ヒト白血球エラスターゼまたはヒト分泌白血球プロテアーゼを阻害し得る。前記プロテアーゼ阻害剤は、ヒト白血球エラスターゼ阻害剤、アルファ1−プロティナーゼ阻害剤、ヒト分泌白血球プロテアーゼ阻害剤、コラゲナーゼ阻害剤、カテプシンG阻害剤、アルファ1−抗トリプシン、アルファ−1−抗キモトリプシン、C−反応性蛋白質、エラフィン(elafin)またはそれらの組合わせであってよい。幾つかの実施形態において、前記プロテアーゼ阻害剤は、配列番号14、配列番号15、配列番号16、配列番号17、配列番号18、配列番号19、配列番号20、配列番号21または配列番号22を含むポリペプチドを含む。
【0014】
幾つかの実施形態において、前記リパーゼ阻害剤は、ホスホリパーゼA2阻害剤である。前記リパーゼ阻害剤はまた、例えば、臭化p−ブロモフェナシル、チエロシン(thielocin)A1ベータ、リポコルチン、アネキシンIまたはガラガラヘビ属ホスホリパーゼA2阻害剤であり得る。
【0015】
前記抗酸化剤は、例えば、カタラーゼ、グルタチオン、N−アセチルシステイン、プロシステイン、またはアルファ−トコフェロールであり得る。例示的抗酸化剤はまた、EUK134を含む。
【0016】
上記のとおり、肺投与の組成物は、肺表面活性剤ポリペプチドを含有する。前記肺表面活性剤ポリペプチドは、式(ZaUb)cZdにより表される交互の疎水性アミノ酸残基領域および親水性アミノ酸残基領域のアミノ酸配列を有する約10個から約60個の間のアミノ酸残基を有し得、式中、Zは親水性アミノ酸残基であり、Uは疎水性アミノ酸残基であり、「a」は約1〜約5の整数であり、「b」は約3〜約20の整数であり、「c」は約1から約10の整数であり、および「d」は約0から約3の整数である。単一(または複数)阻害剤および/または抗酸化剤は、製剤の1から80乾燥重量パーセント、典型的には2〜50乾燥重量パーセント調合し得る。
【0017】
例示的肺表面活性剤ポリペプチドにおいて、Zが、ヒスチジン、リジン、アルギニン、アスパラギン酸、グルタミン酸、5−ヒドロキシリジン、4−ヒドロキシプロリンおよび/または3−ヒドロキシプロリンであり、Uが、バリン、イソロイシン、ロイシン、システイン、チロシン、フェニルアラニン、および/またはα−アミノブタン酸、α−アミノペンタン酸、α−アミノ−2−メチルプロパン酸またはα−アミノヘキサン酸などのα−アミノ脂肪族カルボン酸である。
【0018】
表面活性剤蛋白質の一クラスが、配列:
【0019】
【化7】
【0020】
を有する。
【0021】
肺投与用組成物は、(i)50〜95乾燥重量パーセントのリン脂質、(ii)肺表面の内層内へのリン脂質の取り込みおよび分布を促進するために有効な2〜25乾燥重量パーセントの展着剤、および(iii)0.1から10乾燥重量パーセントの肺表面活性剤ポリペプチド、の表面活性剤混合物を含有することができる。
【0022】
特定の例示的実施形態において、前記表面活性剤混合物のリン脂質は、4:1と2:1との間のモル比でジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)、およびパルミトイル、オレオイルホスファチジルグリセロール(POPG)を含む。例示的展着剤は、パルミチン酸またはセチルアルコールなどの少なくとも10個の炭素原子の脂肪族アシル鎖長を有する脂肪酸または脂肪族アルコールである。
【0023】
エアロゾル粒子は液体懸濁液から形成されるが、表面活性剤製剤は水性エアロゾル液滴に懸濁し得る。前記粒子が乾燥粉末の形態である場合は、前記粒子を脱水し、または実質的に脱水する。前記エアロゾル粒子は、1〜5μmサイズ範囲で質量中央空気動力学的径を有することができる。
【0024】
本発明はまた、プロテアーゼ阻害剤、リパーゼ阻害剤および抗酸化剤を含む組成物の治療的有効量を哺乳動物に投与することを含む哺乳動物における肺の炎症を治療する方法を提供する。当業者は、組成物を直接肺組織に投与(例えば、気管支肺胞洗浄、ボーラス液滴または気管内投与)することを選択できるが、前記組成物はまた、他の経路、例えば、非経口投与、経口投与または静脈内投与経路により投与できる。肺投与が使用される場合、少なくとも1つの肺表面活性剤ペプチドが組成物に含まれる。
【0025】
本法により治療される肺の炎症は、例えば、肺高血圧症、新生児肺高血圧症、新生児気管支肺形成異常症、慢性閉塞性肺疾患、急性気管支炎、慢性気管支炎、肺気腫、気管支梢炎、気管支拡張症、放射線肺炎、過敏症、間質性肺炎、急性炎症性喘息、急性煙吸入、熱性肺傷害、アレルギー性喘息、医原性喘息、嚢胞性線維症、肺胞蛋白症、アルファ−1−プロテアーゼ欠乏症、肺炎症性疾患、肺炎、急性呼吸窮迫症候群、急性肺傷害、特発性呼吸窮迫症候群、または特発性肺線維症と関連し得る。
【0026】
他の態様において、本発明は、プロテアーゼ阻害剤、リパーゼ阻害剤および抗酸化剤などの活性剤を患者に投与する方法を含む。気管支肺胞洗浄、ボーラス液滴投与または吸入による投与があり得る。この方法は、前記薬剤を(i)50〜95乾燥重量パーセントのリン脂質、(ii)肺表面の内層内へのリン脂質の取り込みおよび分布を促進するために有効な2〜25乾燥重量パーセントの展着剤、および(iii)0.1から10乾燥重量パーセントの肺表面活性剤ポリペプチド、からなる表面活性剤混合物に取り込ませることを含む。後者の成分は、10個から60個の間のアミノ酸残基を含有し、式(ZaUb)cZdにより表される交互の疎水性アミノ酸残基領域および親水性アミノ酸残基領域のアミノ酸配列を有しており、式中、Zは親水性アミノ酸残基であり、Uは疎水性アミノ酸残基であり、「a」は平均値が1〜5の整数であり、「b」は平均値が3〜20の整数であり、「c」は1から10の整数であり、および「d」は0から3の整数である。生じた製剤は、活性剤の1から80乾燥重量パーセント、または2〜50乾燥重量パーセントを含有する。
【0027】
前記製剤は、粒子が1〜5μmの質量中央空気動力学的径を有する粒子組成物に変換できる。前記粒子は、エアロゾル組成物の形態で治療的有効量を患者の気道に投与する。
【0028】
幾つかの実施形態において、前記製剤は、肺への気管支肺胞洗浄により、または例えば、気管チューブを介しての直接的ボーラス投与による投与のための水性製剤である。他の実施形態において、前記製剤の活性剤および他の成分を水性溶媒、有機溶媒または混合溶媒であり得る溶媒中に溶解または懸濁させることにより前記製剤を調製する。前記製剤は、所望の1〜5μm MMADサイズ範囲を有する乾燥粒子を製造するのに有効な条件下で混合物をスプレー乾燥することによりエアロゾル投与用の粒子組成物に変換できる。他の実施形態において、前記製剤は、液体組成物を凍結乾燥して乾燥させ、その乾燥混合物を粉砕して所望のサイズ範囲の乾燥粒子を形成することにより、エアロゾル投与用の粒子組成物に変換できる。
【0029】
液体(例えば、水性)組成物を、気管支肺胞洗浄またはボーラス投与により肺に直接投与できる。液体または乾燥粒子を、エアロゾル形態での吸入により投与できる。前記製剤はまた、水性懸濁形態、例えば、それに懸濁される懸濁製剤粒子を有する液滴を形成するためにエアロゾル化されるリポソーム懸濁液であってもよい。
本発明のこれらの他の目的および特徴は、付随する図面と関連させて本発明の以下の詳細な説明を読むことで、より十分に明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】図1は、本発明のある一定の態様を実施する上で使用される種々の処理工程間の関連を図示する工程系統図である。
【図2】図2Aおよび2Bは、本発明において実施され得る追加の処理工程を図示している。
【図3】図3Aおよび図3Bは、非晶質(3A)および結晶性(3B)脂質本体の顕微鏡写真である。
【図4A】図4Aおよび図4Bは、ゼロ時間における表面活性剤の存在(+)および表面活性剤の不在(−)下で送達される薬物の沈着と展着(図4A)、および肺における経時的細胞内取り込みと浸透性を増強する能力に及ぼす展着効果(図4B)を図示している。
【図4B】図4Aおよび図4Bは、ゼロ時間における表面活性剤の存在(+)および表面活性剤の不在(−)下で送達される薬物の沈着と展着(図4A)、および肺における経時的細胞内取り込みと浸透性を増強する能力に及ぼす展着効果(図4B)を図示している。
【図4C】図4Cは、本発明の種々の薬物−送達の有利な点がどのようにして達成されるかの方法を図示している。
【図5A】図5Aは、標準量(0.125μg)のヒト好中球エラスターゼ(HNE)に添加された公知のセリンエラスターゼ阻害剤の対数量を混合物の対応するOD410に対してプロットする阻害曲線である。
【図5B】図5Bは、ARDS患者から回収したBAL液量とエラスターゼ活性の比色アッセイにおけるOD410との間の用量−応答を示している。
【図6A】図6Aは、3mgの抗−BSA/kg(ウサギ6098と6099)または5mgの抗−BSA/kg(ウサギ6100〜6103)を気管内に点滴注入して処理し、さらに10mgのBSAを静脈内投与(6098〜6101)してから6時間後のウサギの肺から取られたBAL液におけるエラスターゼ活性を示している(斜線バー)。比較として、公知のセリンエラスターゼ阻害剤の100μg/ml添加後のこれらのBAL液におけるエラスターゼ活性も示している(交差平行線バー)。エラスターゼ活性は、410nmにおいて対応するODを与えるヒト好中球エラスターゼ(HNE)の濃度として表される。
【図6B】図6Bは、肺傷害を受けているウサギからの気管支肺胞洗浄(BAL)液によるヒト好中球エラスターゼ(HNE)活性の阻害を示している。BAL液は、細菌性リポ多糖類(LPS)および抗−BSAを気管内投与された(全動物)3時間後(ウサギ6315および6316)または6時間後(6313、6314、6317および6318)のウサギから取られ;6317と6318のウサギは3時間目に10mg/kgのBSAをさらに投与された。BAL液は、単独で(交差平行線バー)または1μg/ml HNEの添加後(斜線バー)に試験した。空白バーは、BAL液添加なしのHNE活性を示している。かなりの遊離エラスターゼが、ウサギ6317に存在し;他の動物は全てはエラスターゼ阻害剤の存在を示した。
【図7A】図7Aは、正常ウサギ(5群)または細菌性リポ多糖類(LPS)と酢酸ミリスチン酸ホルボール(PMA)によって傷害を受けたウサギ(1群)、また表面活性剤混合物モデルで治療を受けたウサギ(2群)、公知のセリンエラスターゼ阻害剤で治療を受けたウサギ(3群)または表面活性剤混合物モデルとセリンエラスターゼ阻害剤との組合わせで治療を受けたウサギ(4群)の終末洗浄液(傷害6時間後)における平均蛋白値を示している。使用量および処理時間に関しては実施例8を参照されたい。エラーバーは、SEMを示している。3群における1匹の動物は、大きなエラーバーに反映して異常に高い蛋白値を有し、この群の蛋白値としては他の場合に考えられたものよりも歪みが大きかった。異常値を除外すると3群に関しては平均値が1.72となるはずである。
【図7B】図7Bは、LPS/PMA誘導肺損傷を有するウサギから得られたBAL液のウェスタンブロット分析の図である。基底膜蛋白質がこれらのBAL液に存在するかどうかを検出するために、基底膜蛋白質に向けられた抗体が使用された。第1の(いちばん左)レーンは、対照として約80,000kDaからそれより大きいサイズの範囲の基底膜蛋白質を含有した。より低分子量(約10,000)の基底膜蛋白質ならびにより高分子量の基底膜蛋白質が、LPSおよびPMA単独で処理されたウサギのBAL液に存在した(2レーン、1群)。LPS/PMA損傷ウサギが、表面活性剤混合物モデル(2群)、セリンエラスターゼ阻害剤(3群)、および表面活性剤混合物モデルとセリンエラスターゼ阻害剤との両方(4群)で治療を受けると、いくらか少ない量の基底膜蛋白質が存在した。正常で無傷のウサギの洗浄液は、低分子量基底膜蛋白質が殆どないか、全くなかった(最後のいちばん右のパネル、5群)。1〜4群の70,000MWに存在する大きなバンドは、使用された抗血清の不純物として存在するアルブミンである。90,000MW超のバンドは、基底膜に特異的であり、正常なウサギ血漿中には存在しない(データは示していない)。低MWバンド(<10,000MW)は、基底膜の断片を表している。
【図7C】図7Cは、LPSおよびPMAで損傷を受け、種々の方法で治療を受けた動物の終末洗浄液(傷害6時間後)における平均赤血球数(RBCs)を示している。治療を受けなかった正常なウサギ群(5群)の2匹のウサギは、対照として使用した。さらに、LPSおよびPMAで損傷を受け、治療を受けなかったウサギ(1群)は、最も高い赤血球数を有した。表面活性剤混合物モデルで治療を受けたLPS/PMA損傷ウサギ(2群)は、RBC数がより少なかった。エラスターゼ阻害剤(3群)または表面活性剤混合物モデルとエラスターゼ阻害剤(4群)で治療を受けた動物は、洗浄液におけるRBC数がさらに少なかった。
【図8】図8は、表面活性剤混合物モデル(最終濃度2mg/ml)、公知のセリンエラスターゼ阻害剤(100μg/ml)、または表面活性剤混合物モデルとセリンエラスターゼ阻害剤との両方一緒によるHNEの公知量(0.02μg)の阻害を示している。
【図9】図9は、実施例12に記載されている治療群の終末洗浄液におけるエラスターゼ阻害の程度を示している。
【図10】図10は、抗−BSA抗体の気管内投与により誘導された肺傷害に罹っているウサギからの洗浄液に、ホスホリパーゼA2(PLA2)が存在することを図示している。PLA2基質、パルミトイル、オレオイルホスファチジルグリセロール(POPG)から遊離されたオレイン酸量(“ピーク高さ)を、時間の関数としてプロットされた。遊離オレイン酸量は、示されるように0から約40分で急速に増加した。
【図11】図11は、2.5mg/mlの抗−BSA抗体(動物6011と6012)、5.0mg/mlの抗−BSA抗体(動物6013と6014)または12.5mg/mlの抗−BSA抗体(動物6015と6016)を投与した動物から単離された終末洗浄液におけるホスホリパーゼA2(PLA2)活性の量をグラフとして図示している。図示されるように、動物が抗−BSA抗体を増量して投与された場合、終末洗浄液中のホスホリパーゼA2(PLA2)活性は増加する。
【図12】図12は、2.5mg/mlの抗−BSA抗体(動物6011と6012)、5.0mg/mlの抗−BSA抗体(動物6013と6014)または12.5mg/mlの抗−BSA抗体(動物6015と6016)を投与した動物から単離された終末洗浄液に存在するリノレン酸量(交差平行線バー)とリノール酸量(斜線バー)をグラフとして図示している。洗浄液中の遊離脂肪酸(リノレン酸とリノール酸)の存在は、ホスホリパーゼA2(PLA2)が、これらの動物の傷害肺組織に有効であることを示している。遊離脂肪酸量もまた図示されるように、より多量の抗−BSA抗体が投与された動物において増加した。
【図13】図13は、洗浄液中のPLA2活性が、PLA2阻害剤の添加により用量依存様式で減少することをグラフとして図示している。洗浄液(ウサギ6015から得られた)との温置30分後のPOPG基質からのオレイン酸の遊離は示されるように、間接的にLY311727阻害剤量に比例していた。言い換えると、阻害剤量を増加させて添加すると、PLA2活性量の減少が見られた。
【図14】図14は、阻害剤濃度の対数関数としてBAL液からのPLA2活性をグラフとして図示している。BAL液のPLA2活性は示されるように、阻害剤濃度が増加すると著しく低下する。
【発明を実施するための形態】
【0031】
(発明の詳細な説明)
本発明は、肺表面活性剤ポリペプチド(単数または複数)と、炎症の間に生じる組織破壊過程に対する種々のタイプの阻害剤との組合わせを含む組成物に関する。肺内における組成物の送達および分散を促進させるために、他の成分、例えば、リン脂質および展着剤を含むことができる。
【0032】
(定義)
以下の用語は、他に指定されない限り、以下の意味を有する。
【0033】
「アミノ酸」とは、蛋白質を構成するアミノ酸残基を称して言う。アミノ酸類は、通常は天然のL−体であるが;しかしながら、D−アミノ酸、置換アミノ酸(例えば、修飾側鎖基を有するアミノ酸類)、アミノ酸代謝物および異化産物、「レトロ」主鎖を有するアミノ酸類、およびアミノ酸擬似体または類縁体もまた、本発明の使用に考慮されており、したがって、本発明により包含されている。標準的ポリペプチド命名法、J.Biol.Chem.、243巻:p.3557−59、1969年に従って、より一般的なアミノ酸残基に対する略語は、以下の対応表に示されるとおりである:
【0034】
【化8】
【0035】
他に指定しない限り、本明細書中、式により表されるアミノ酸残基配列は、アミノ末端からカルボキシ末端の従来の方向で左から右配向を有することに注意すべきである。さらに、熟語「アミノ酸残基」は、対応表に掲げたアミノ酸類を含めて広く定義されており、37C.F.R.§1.822(b)(4)に掲げたものなどの修飾アミノ酸および希なアミノ酸は、参照として本明細書に組み込まれている。熟語「アミノ酸残基」はまた、D−アミノ酸、置換アミノ酸類(例えば、修飾側鎖基を有するアミノ酸類)、修飾アミノ酸類(例えば、アミノ酸代謝物、異化産物、および「デザインされた」側鎖を有するアミノ酸類)およびアミノ酸擬似体または類縁体を含めて広く定義されている。
【0036】
さらに、アミノ酸残基配列の始端または末端のダッシュ記号は一般に、それぞれアミノ末端およびカルボキシ末端におけるHおよびOH(水素および水酸基)などの基に対する結合、または1つ以上のアミノ酸残基のさらなる配列を示すことを注意すべきである。さらに、残基配列の右手末端の斜線(/)は、前記配列が次の行に続けられていることを示すことに注意すべきである。
【0037】
「製薬的に許容できる」は、ヒトに投与された際、アレルギー反応または同様の有害反応を生じさせない分子本体および組成物を称する用語である。
【0038】
「蛋白質」または「ポリペプチド」または「ペプチド」は、アミノ酸またはアミノ酸類縁体サブユニット、典型的にはペプチドインターサブユニット結合、あるいは酵素基質または受容体結合リガンド相互作用と調和する他のインターサブユニット結合により結合された、生物学的蛋白質に見出される通常20個のL−アミノ酸類の幾つかまたは全部からなるバイオポリマーである。蛋白質は、そのサブユニット配列によって表される一次構造を有し、また二次的な螺旋状またはひだ構造、ならびに全体的三次元構造を有し得る。「蛋白質」は通常、比較的大きなポリペプチド、例えば、30個以上のアミノ酸を含むポリペプチドを言うが、「ペプチド」はより小さなポリペプチドを言い、または「ポリペプチド」はより小さなポリペプチドを言い、これらの用語もまた、本明細書では互換可能に用いられる。すなわち、用語の「蛋白質」は、より大きなポリペプチド、例えば、30個より多くのアミノ酸、を称してもよいが、必ずしもより小さなポリペプチドを除外する必要はなく、用語の「ポリペプチド」は、より小さなペプチド、例えば、30個より少ないアミノ酸類を称してもよいが、またより大きな蛋白質を含んでもよい。
【0039】
「表面活性物質活性」とは、単独または他の有機分子と組合わせて脂質と組み合せた際に、空気/水界面の表面張力を低下させる有機分子、蛋白質またはポリペプチドなどの任意の物質の能力を称す。この測定法は、ビルヘルミーはかりまたはインビトロアッセイによる脈動性気泡サーファクトメーターにより実施できる。例えば、Kingら、Am.J.Physiol.223巻:p.715−726(1972)の測定法、または蛋白質またはポリペプチドがリン脂質と混合される際の空気−水界面における表面張力の測定を利用する、本明細書に例示されるアッセイを参照されたい。さらに、肺に入る所与の空気圧におけるコンプライアンスまたは空気流増加のインビボ測定は、Robertson、Lung、158巻:p.57−68(1980)のアッセイなどで容易に実施できる。このアッセイにおいて、評価すべきサンプルを、気管内チューブによりウサギ胎仔または帝王切開(Caesarian section)による早産子羊に投与する。(これらの「早産仔」は、自身の肺表面活性物質を欠損しており、ベンチレータに維持される)。肺コンプライアンス、血液ガスおよび換気装置圧の測定値は活性の指標を提供する。脈動性気泡の表面張力を低下させる能力として評価される表面活性物質活性のインビトロアッセイ、および本明細書に報告されているウサギ胎仔を利用するインビボアッセイは、Revakら、Am.Rev.Respir.Dis.、134巻:p.1258−1265(1986)により詳細に記載されている。
【0040】
「表面活性剤分子」とは、表面活性物質活性を有する有機分子を言い、製薬的に許容できる脂質と混合された場合、より低いΔP値により立証されているように、脂質単独よりも大きな表面活性物質活性を有する表面活性物質を形成する。
【0041】
「天然肺表面活性物質」とは、成熟哺乳動物の肺の肺胞上皮を裏打ちする肺表面活性物質(PS)を称す。天然または自生PSは、肺の空気−液体界面における表面張力を減じるように相互作用するリン脂質とアポ蛋白の双方を含有するため、「リポ蛋白複合体」として記載されてきた。天然の表面活性物質は、ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)が主成分である数種の脂質種を含有する。少なくとも4種の蛋白質が、天然の肺表面活性物質、SP−A、SP−B、SP−CおよびSP−Dに典型的に存在する。これら4種のうち、SP−BおよびSP−Cは、異なっており、恐らくバルク相の層状構成から空気−水界面への脂質移動を促進することにより、また呼気の間の脂質単層を安定化することにより、表面活性物質のリン脂質混合物の表面活性特性を高めることが示されてきた低分子量の比較的疎水性の蛋白質である。SP−Bの構造は、荷電アミノ酸類(主として塩基性)が、他の場合には疎水性残基である延伸内で適切な規則正しい間隔で配置されている点で異例である。自生のSP−B配列の59〜80の残基からなるドメインに関して、これらの荷電基は、生物学的活性に必要であることが示されていた。さらに、DPPCとPGとで組合される際に、この疎水性−親水性ドメインに形成される天然および合成ペプチド類は、良好な表面活性物質活性を示す。
【0042】
天然の表面活性物質の蛋白質は、層状体の形態で肺上皮細胞に保存され、移出後、構造的転移を受けて管状ミエリンを形成し、空気−水界面に単層を生じさせる。肺表面活性物の蛋白質SP−A、SP−BおよびSP−Cは、これらの構造的転移を促進し、肺胞の拡張と収縮の間の脂質単層を安定化することが提案されていたが;分子レベルにおける脂質−蛋白質相互作用の完全な理解を現在欠いている。
【0043】
「肺投与」とは、製薬的に有効な物質を肺のいずれかの表面に送達する任意の投与様式を言う。この送達様式としては、限定はしないが、気管内投与、すなわち一般に液体懸濁液の点滴として、乾燥粉末「粉剤」または点滴として、またはエアロゾルとして好適なものを挙げることができる。肺投与は、製薬的に有効な物質の局所および全身双方の送達に利用できる。
【0044】
「肺表面横断輸送」とは、肺の曝露表面を透過または浸透する任意の通過様式を言う。これは、肺胞表面(ガス交換が生じる)、細気管支表面およびこれら任意の表面間の通過を含む任意の肺表面を介する通過を含む。局所作用を目的として肺組織に直接的に、または全身作用を目的として肺組織を経由して循環内への通過があり得る。
【0045】
「リン脂質」とは、無極性疎水性尾部、グリセロール部またはスフィンゴシン部、および極性頭部からなる両親媒性脂質を言う。前記無極性疎水性尾部は、通常飽和または不飽和脂肪酸基である。前記極性頭部は、しばしば窒素含有塩基に結合しているホスフェート基を有する。
【0046】
「展着剤」とは、肺表面内層内へのリン脂質(類)の取り込みおよび分配を促進する、すなわち、肺表面内層における空気/液体界面でのリン脂質の展着を促進する化合物を意味する。
【0047】
「活性剤」とは、所望の治療成績または目的あるいは診断成績または目的を達成するために投与される治療用または診断用化合物を言う。製薬的に有効な薬剤とは、医学的または獣医学的疾患または外傷を治療し、医学的または獣医学的疾患を予防し、またはヒトまたは動物の生理機能を調節するために有用な生物学的に活性な合成または天然物質である薬剤を言う。有効化合物の範囲は、下記に考慮されている。
【0048】
「空気動力学的径」は、特性化された粒子と同じ沈降速度を有する単位密度の等しい球形粒子の直径として定義される。すなわち、粒子の形状またはサイズにかかわらず、前記粒子は、単位密度の球体に変換されると考える。その球体の直径が、空気力学径である。したがって、1〜5ミクロンサイズの空気動力学的径を有する粒子は、1〜5ミクロンサイズ範囲の直径を有する単位密度の球形粒子と同じ空気動力学的性質を有する。粒子の空気動力学的性質は、カスケード衝突、エルトリエータまたは沈降細胞などの従来法を用いて実験的に測定できる。しばしば使用される測定法は、エアロゾルが使用される状況に最もよく類似しているものである。
【0049】
粒子採取の「空気動力学的径質量中央値」とは、粒子質量の空気動力学的粒子径中央値(MMAD)を言う。すなわち、粒子質量の半分がMMAD以下であり、半分がそれを超える。エアロゾル粒子のヘテロ分散性は、幾何標準偏差(GSD)により定義できる。全ての粒子が同一のサイズおよび形状である場合、GSDは1である。3.5のGSDは、高いヘテロ分散性の粒子採取を示す。本発明の好ましいエアロゾル粒子は、1と2.5との間、好ましくは1〜2のGSDを与える条件下で形成される。
【0050】
「モデル表面活性剤混合物」または「スルファキシン(Surfaxin(登録商標))」とは、実施例1および2に述べられた表面活性剤混合物成分を用いて、本発明に従って調製された表面活性剤混合物を称す。
【0051】
(活性剤)
本発明の表面活性剤の担体は、肺または病態を治療する目的で活性剤の範囲を投与するために使用できる。このような病態としては、肺高血圧症、新生児肺高血圧症、新生児気管支肺形成異常症、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、急性気管支炎、慢性気管支炎、肺気腫、気管支梢炎、気管支拡張症、放射線肺炎、過敏症、間質性肺炎、急性炎症性喘息、急性煙吸入、熱性肺傷害、アレルギー性喘息、医原性喘息、嚢胞性線維症、肺胞蛋白症、アルファ−1−プロテアーゼ欠乏症、肺炎症性疾患、肺炎、急性呼吸窮迫症候群、急性肺傷害、特発性呼吸窮迫症候群、および、特発性肺線維症が挙げられる。前記活性剤は、肺組織、または肺組織内の病原性生物に直接作用できる。
【0052】
肺炎症性疾患を治療するために用いられる治療剤としては、プロテアーゼ阻害剤、抗酸化剤、ホスホリパーゼ阻害剤、リパーゼ阻害剤およびそれらの組合わせが挙げられる。これらの薬剤は、蛋白質、ペプチド、核酸類、多糖類、炭水化物、脂質、糖蛋白質、ならびに有機および無機化合物類の形態であり得る。
【0053】
本発明によれば、プロテアーゼ類は、炎症の間の肺組織損傷を悪化させ得る。このようなプロテアーゼ活性は、肺の炎症患者または動物モデルから得られた肺組織または洗浄液中に検出できる。基底膜蛋白質濃度の上昇は、急性呼吸窮迫症候群を患っている患者の洗浄液において、また、肺損傷に罹っている動物モデルで検出できる。炎症性肺組織中で活性なプロテアーゼのタイプは、特異的プロテアーゼ活性の検出、プロテアーゼ特異的抗体を用いる抗原プロテアーゼの検出、プロテアーゼ活性産生物の検出などを含む、当技術分野に利用できる方法により同定できる。
【0054】
プロテアーゼ活性は、阻害剤により調節および制御できる。プロテアーゼ阻害剤は、プロテアーゼの活性部位を占有し、それにより正常基質による占有を防ぐことにより標的プロテアーゼの蛋白分解活性を調節できる。プロテアーゼ阻害剤は、幾つかの関連のない構造クラスに分類されるが、多くの実施形態において、前記阻害剤は、露出ループ(「阻害剤ループ」、「反応性コア」、「反応性部位」、または「結合ループ」と種々呼ばれる)を有することができ、これはループにフランキングする残基と蛋白質コア間との分子内相互作用により安定化される(BodeおよびHuber、Eur.J.Biochem.204巻:p.433(1992))。阻害剤と酵素間との相互作用は安定な複合体を産生でき、これは極めて緩やかに分離して未開裂阻害剤、または結合ループの切断可能な結合で開裂される修飾阻害剤のいずれかを放出する。
【0055】
本発明は、本発明の組成物および方法において任意の利用できるプロテアーゼ阻害剤の使用を考慮している。プロテアーゼ阻害剤の1つのファミリーであるクニッツ(Kunitz)阻害剤としては、トリプシン、キモトリプシン、エラスターゼ、カリクレイン、プラスミン、凝固因子XIaおよびIXa、およびカテプシンGの阻害剤が挙げられる。当業者は、プロテアーゼの他のファミリーとしてセリンプロテアーゼを認識している。セリンプロテアーゼとしては、エラスターゼ(例えば、ヒト白血球エラスターゼ)、カテプシンG、プラスミン、C−1エステラーゼ、C−3コンバターゼ、ウロキナーゼ、プラスミノーゲン活性化因子、アクロシン、キモトリプシン、トリプシン、トロンビン、因子Xaおよびカリクレイン類のような酵素類が挙げられる。他の阻害剤ファミリーとしては、任意のメタロプロテイナーゼ1〜13のようなメタロプロテイナーゼの阻害剤が挙げられる。
【0056】
したがって、本発明の組成物および方法に使用できるプロテアーゼ阻害剤としては、例えば、クニッツ阻害剤、マトリックスメタロプロテイナーゼ阻害剤およびセリンプロテアーゼ阻害剤が挙げられる。
【0057】
1つ以上のクニッツドメインを含むプロテアーゼ阻害剤としては、組織因子経路阻害剤(TFPI)、組織因子経路阻害剤2(TFPI−2)、アミロイドβ−蛋白前駆体(AβPP)、アプロチニンおよび胎盤ビクニンが挙げられる。TFPI、外因性経路阻害剤および天然の抗凝固剤は、直列結合した3つのクニッツ阻害剤ドメインを含有する。アミノ末端クニッツドメインは、因子VIIa、プラスミンおよびカテプシンGを阻害し;第2のドメインは、因子Xa、トリプシン、およびキモトリプシンを阻害し;および第3のドメインは、公知の活性を有さない(Petersenら、Eur.J.Biochem.125巻:p.310(1996))。TFPI−2は、ヒト因子VIIa−組織因子複合体、因子XIa、血漿カリクレイン、およびプラスミンのアミド分解活性および蛋白分解活性の阻害剤であることが示されている(Sprecherら、Proc.Nat’l Acad.Sci.米国91巻:p.3353(1994);Petersenら、Biochem.35巻:p.266(1996))。
【0058】
アプロチニン(ウシ膵臓トリプシン阻害剤)は、凝固カスケードの活性化を防止することが示されている広範囲のスペクトルのクニッツタイプのセリンプロテイナーゼ阻害剤である。DavisおよびWhittington、Drugs49巻:p.954(1995);Dietrichら、Thorac.Cardiovasc.Surg.37巻:p.92(1989);Westaby、Ann.Thorac.Surg.55巻:p.1033(1993);Wachtfogelら、J.Thorac.Cardiovasc.Surg.106巻:p.1(1993))。アプロチニンは、血漿カリクレインまたはプラスミンを阻害できる(Dennisら、J.Biol.Chem.270巻:p.25411(1995))。胎盤ビクニンは、2つのクニッツドメインを含有するセリンプロテイナーゼ阻害剤である(Delariaら、J.Biol.Chem.272巻:p.12209(1997))。ビクニンの個々のクニッツドメインが発現しており、トリプシン、キモトリプシン、プラスミン、因子XIa、ならびに組織カリクレインと血漿カリクレインの強力な阻害剤であることが示されている(Delariaら、J.Biol.Chem.272巻:p.12209(1997))。
【0059】
本発明に使用できるエラスターゼ阻害剤の特定の例としては、例えば、ヒト白血球エラスターゼ阻害剤、エラフィン(elafin)およびアルファ1−プロテイナーゼ阻害剤が挙げられる。他の好適なプロテアーゼ阻害剤としては、ヒト分泌白血球プロテアーゼ阻害剤、アルファ1−抗トリプシン、アルファ−1−抗キモトリプシン、C−反応性蛋白質およびそれらの組合わせが挙げられる。
【0060】
これらプロテアーゼ阻害剤の核酸およびアミノ酸配列は、当技術分野、例えば、NCBIデータベースに見ることができる。ncbi.nlm.nih.gov.のウェブサイトを参照されたい。例えば、ヒト白血球エラスターゼ阻害剤に関する1つのアミノ酸配列は、登録番号P30740(gi:266344)としてNCBIデータベースに見ることができる。ncbi.nlm.nih.gov.のウェブサイトを参照されたい。この配列は、下記のとおり提供される(配列番号14)。
【0061】
【化9】
【0062】
ヒトアルファ−1−抗トリプシンに関するアミノ酸配列は、受託番号P01009(gi:1703025)としてNCBIデータベースに見ることができる。ncbi.nlm.nih.gov.のウェブサイトを参照されたい。この配列は、下記のとおり提供される(配列番号15)。
【0063】
【化10】
【0064】
ヒトビクニンに関するアミノ酸配列は、受託番号NP066925(gi:10863909)としてNCBIデータベースに見ることができる。ncbi.nlm.nih.gov.のウェブサイトを参照されたい。この配列は、下記のとおり提供される(配列番号16)。
【0065】
【化11】
【0066】
ヒトエラフィンに関するアミノ酸配列は、受託番号1FLEI(gi:1942680)としてNCBIデータベースに見ることができる。ncbi.nlm.nih.gov.のウェブサイトを参照されたい。この配列は、下記のとおり提供される(配列番号17)。
【0067】
【化12】
【0068】
このようなヒトエラフィンに関連した多くのアミノ酸配列は、NCBIデータベースに見ることができる。例えば、ヒトプロテアーゼ阻害剤3(皮膚由来)はエラフィンに関連し、受託番号NP002629(gi:4505787)を有する。ncbi.nlm.nih.gov.のウェブサイトを参照されたい。ヒトプロテアーゼ阻害剤3に関するこの配列は、下記のとおり提供される(配列番号18)。
【0069】
【化13】
【0070】
ヒトエラフィンと同様の配列を有する阻害剤の他の例は、受託番号CAA11184(gi:2764786)を有するウシbトラッピン−2(bovine bTrappin−2)である。ncbi.nlm.nih.gov.のウェブサイトを参照されたい。ウシbトラッピン−2に関するこの配列は、以下に提供される(配列番号19)。
【0071】
【化14】
【0072】
本発明はまた、組成物および方法においてメタロプロテイナーゼ阻害剤の使用を考慮している。多数のヒトメタロプロテイナーゼが存在する。本発明は、任意のヒトメタロプロテイナーゼ阻害剤の使用を考慮している。例えば、メタロプロテイナーゼ(TIMP)類の組織阻害剤のような阻害剤が、本発明に利用できる。ヒトTIMP−1に関する配列は、受託番号P01033(gi:135850)としてNCBIデータベースに見ることができる。ncbi.nlm.nih.gov.のウェブサイトを参照されたい。ヒトTIMP−1に関するこの配列は、以下に提供される(配列番号20)。
【0073】
【化15】
【0074】
ヒトTIMP−2に関する配列は、受託番号NP003246(gi:4507511)としてNCBIデータベースに見ることができる。ncbi.nlm.nih.gov.のウェブサイトを参照されたい。ヒトTIMP−2に関するこの配列は、以下に提供される(配列番号21)。
【0075】
【化16】
【0076】
ヒトTIMP−3に関する配列は、受託番号NP000353(gi:4507513)でNCBIデータベースに見ることができる。ncbi.nlm.nih.gov.のウェブサイトを参照されたい。ヒトTIMP−3に関するこの配列は、以下に提供される(配列番号22)。
【0077】
【化17】
【0078】
他のヒトTIMP類に関する配列もまた、公的に利用できる。ncbi.nlm.nih.gov.のウェブサイトを参照されたい。
【0079】
ヒト分泌白血球プロテアーゼに関するアミノ酸配列もまた、受託番号NP003055(gi:4507065)としてNCBIデータベースに見ることができる。ncbi.nlm.nih.gov.のウェブサイトを参照されたい。この配列は、下記のとおり提供される(配列番号23)。
【0080】
【化18】
【0081】
ゆえに、本発明は、本発明の組成物および方法に利用できる種々のプロテアーゼ阻害剤を提供する。
【0082】
ホスホリパーゼ酵素類は、ホスホグリセリド類からの脂肪酸残基の除去を触媒する。具体的には、ホスホリパーゼA2(PLA2)は、膜リン脂質のグリセロール部分の2位でエステル基を開裂し、等モル量のアラキドン酸とリゾリン脂質とを生じる。PLA2は、リン脂質からアラキドン酸を優先的に開裂するが、アラキドン酸は、S1の中間体、ホスホリパーゼC−およびホスホリパーゼD−活性化経路から二次的に生成される。PLA2阻害剤としては、臭化p−ブロモフェナシルなどの化学分子が挙げられる。他のPLA2阻害剤としては、真菌類により生産されるチエロシンA1ベータ(Tanakaら(1995)Eur J Pharmacol 279巻:p.143−8)、あるいはリポコルチンまたはアネキシンI(NCBI受託番号gi:71756;Wallnerら、Cloning and expression of human lipocortin, a phospholipase A2 inhibitor with potential anti−inflammatory activity、Nature320巻(6057)、p.77−81(1986))、ガラガラヘビ属ホスホリパーゼA2阻害剤(CNF)(NCBI受託番号gi:501050;Fortes−Dias CLら1994年;J Biol Chem 269巻:p.15646−51)などの生体分子が挙げられる。グルココルチコイドなどの非特異的PLA2阻害剤もまた使用できる。本発明の使用に好適なホスホリパーゼA2阻害剤はまた、LY11−727(Eli Lilly)を含む。
【0083】
Fortes−Dias CLら(1994年;J Biol Chem 269巻:p.15646−51)は、南米ガラガラヘビ、ガラガラヘビ属デュリサステリフィカス(durissus terrificus)の血漿からPLA2阻害剤を単離し、特性化している。ガラガラヘビ属中和因子(CNF)と名付けられたこの20〜24kDa蛋白質は、6〜8オリゴマー凝集体として自己会合していると思われる。CNFが中和するクロトキシン分子は、二量体としてのみ活性であり、PLA2の2つの塩基性イソ体(CB1およびCB2)のうちの1つと会合した酸性分子(CA)からなる。実際、CNFがCAに取って代わり、CB分子の1つと安定な会合を形成する。この置換により、クロトキシンの神経毒、心毒、筋毒、抗凝集活性および血小板活性化活性が不活化される。
【0084】
CNFの完全長840 bp cDNAは、ガラガラヘビ属肝組織からクローン化された。このヌクレオチド配列は、19の残基シグナルペプチドおよび16のシステイン、5.45のp1、およびN157におけるグリコシル化部位の可能性を有する181の残基成熟蛋白質をコードする。Fortes−Diasは、cDNAが非コード配列を含有し、想定されるポリアデニル化部位を欠損していることを述べている。阻害アッセイにおいて、酸性CNF分子はまた、ハチ毒活性を阻害し、血漿中において100倍過剰の、ブタ膵臓PLA2を阻害する。
【0085】
プロテアーゼ阻害剤およびリパーゼ阻害剤に加えて、前記組成物および方法または本発明は、抗酸化剤を使用することができる。炎症は、大量のスーパーオキシド(O2・−)および過酸化水素(H2O2)を産生する多形核白血球およびマクロファージを刺激し得る(Babior,B.M.ら[1973]J Clin Invest 52巻:p.741−744;Halliwell,Bら[1999]Free radicals in Biology and Medicine。ニューヨーク州オックスフォード:Clarendon Press、オックスフォード大学プレス)。これらラジカル類の有害作用は、鉄の存在下、およびヒドロキシルラジカル(OH・)などの他の反応性中間体が引き続き形成されることにより増幅され得る。
【0086】
NADPHオキシダーゼ、すなわち膜会合電子伝達鎖蛋白質は、炎症の間に活性となり、直接O2を還元してO2・−にする。次にスーパーオキシドは、スーパーオキシドジスムターゼにより不均化してH2O2を産生できる。スーパーオキシドは、第2鉄(Fe3+)から第1鉄(Fe2+)へなど、遷移金属を還元し得る。次いで還元金属イオンは、H2O2と反応して高酸化性のOH・ラジカル種を生成できる。ヒドロキシルラジカルは、幾つかの生体分子に対してインビボで著しい損傷を起こすことが広く想定されている。
【0087】
このような酸化種により損傷され得る生体分子としては、DNA、蛋白質および膜脂質が挙げられる。酸化されたDNAは、断片化され得る。酸化された蛋白質と膜脂質は、機能の減少または変化が生じ、破壊の標的となり得る。酸化生成物の存在および肺組織の酸化作用は、洗浄液の調査または肺組織の採取により検出できる。例えば、対照動物およびLPS損傷モデル動物からの肺組織が採取でき、このような酸化生成物に関して試験できる。本明細書に記載されているように、モデル動物(例えば、ウサギ)に、細菌のリポ多糖類(LPS)を気管内投与して肺の炎症を引き起こし、シミュレートすることができる。
【0088】
このようなLPS処理モデル動物から採取した洗浄液および肺組織は、種々の方法で分析できる。例えば、DNA損傷は、組織サンプルまたはDNA単離体におけるDNA分子の末端を標識することにより評価できる。次に断片化DNAは、有効な標識が組織切片の細胞核に存在するか、また標識された、低分子量バンドは、肺組織から単離された標識DNAの電気泳動分離後に検出されるかどうかを検出することにより観測される。このような低分子DNAバンドの存在は、DNAが断片化されたことを示している。バンドのサイズは、公知の分子量を有するDNAマーカーとの比較により評価される。
【0089】
酸化の他の生体マーカー(単数または複数)、例えば、遊離鉄、全体的抗酸化状態、8−イソプロスタン(8−イソ−PGF2α)、スーパーオキシドジスムターゼ(SOD)、グルタチオンペルオキシダーゼ(GPX)、グルタチオン濃度、ラクテートデヒドロゲナーゼ(LDH)、C−反応性蛋白質、脂質ヒドロペルオキシダーゼ(LOOH)、ミエロペルオキシダーゼ、インターロイキン−6(IL−6)、クレアチンキナーゼ(CK)、ジチロシン、および8−ヒドロキシグアニン、またはそれらの組合わせなどが、モニターできる。肺膜中の不飽和リン脂質は、逆相HPLCにおけるリゾリン脂質、アシル側鎖の脂肪酸(fatly acid)切断断片の出現により、チオバルビツール酸(TBA)−結合物質の発現により、および共役ジエンの生成により確認されるH2O2に対する曝露の際に過酸化的変化を受け得る。ゆえに、洗浄液中のリゾリン脂質、チオバルビツール酸−結合物質、共役ジエンなどの存在は、酸化脂質の指標として使用できる。
【0090】
肺組織に対する酸化作用を減じるために、抗酸化剤を、本発明の組成物および方法に組み込むことができる。好適な抗酸化剤としては、カタラーゼ、グルタチオン、N−アセチルシステイン、プロシステイン、ローズマリー葉抽出物、アルファ−トコフェロール、2,4−ジアミノピロロ−[2,3−d]ピリミジン、アスコルビン酸およびロイテイン(leutein)、ゼアキサンチン、クリプトキサンチン、ビオラキサンチン、カロテンジオール、ヒドロキシカロテン、ヒドロキシリコペン、アロキサンチン、およびデヒドロクリプトキサンチンなどのカロテノイド化合物、それらの誘導体などが挙げられる。例えば、アスコルビン酸のエステル誘導体およびルテイン、ゼアキサンチン、クリプトキサンチン、ビオラキサンチン、カロテンジオール、ヒドロキシカロテン、ヒドロキシリコペン、アロキサンチン、およびデヒドロクリプトキサンチンなどのカロテノイド化合物のエステル誘導体が、本発明に使用できる。
【0091】
プロテアーゼ阻害剤、リパーゼ阻害剤および抗酸化剤は、非経口、肺、静脈内、皮内、皮下、経口、吸入、経皮(局所)、経粘膜、経皮下、皮下、経皮、または直腸経路などの任意の利用できる経路により投与できる。幾つかの実施形態において、本発明の活性剤は、肺送達により投与されるが、しかし、活性剤の肺送達と組み合わせた静脈内送達は、本組成物の有利な作用を増加させ得る。
【0092】
他の化合物、すなわち肺病態の治療に調和するものまたは好適なものなどを、本発明の組成物に含むことができる。共投与できる薬剤としては、抗アレルギー剤、抗炎症剤、抗菌剤、抗真菌剤および抗ウィルス剤などの抗微生物剤、抗生物質、免疫調節剤、造血薬、キサンチン類、交感神経作用アミン類、粘液溶解薬、コルチコステロイド類、抗ヒスタミン類、およびビタミン類が挙げられる。他の例としては、アルブテロール、キソペネックス、テルブタリン、サルメテロール、ホルモテロール、および製薬的に許容できるそれらの塩類などの気管支拡張薬、臭化イプラトロピウムなどの抗コリン作用薬、クロモリンナトリウムおよびネドクロミルなどのいわゆる「肥満細胞安定化薬」、フルニソリド、フルチカゾン、ベクロメタゾン、ブデソニド、トリアムシノロン、およびそれらの塩類などのコルチコステロイド類、INF−アルファ、ベータおよびガンマなどのインターフェロン類、N−アセチルシステインおよびグアイフェネシンなどの粘液溶解薬、ザフィルカストおよびモンテルカストなどのロイコトリエンアンタゴニスト、ホスホジエステラーゼIV阻害剤、アミカシン、ゲンタマイシン、コリスチン、プロテグリン、デフェンシンおよびトブラマイシンなどの抗生物質、リバビリン、RSVモノクローナル抗体、VP14637などの抗ウィルス剤、イソニアジド、リファンピンおよびエタンブトールなどの抗結核薬、およびアンホテレシンBなどの抗真菌剤が挙げられる。
【0093】
(肺表面活性剤ポリペプチド類)
表面活性剤ポリペプチドは、交互の荷電アミノ酸残基領域および非荷電アミノ酸残基領域を有するアミノ酸残基配列を含んでいるポリペプチド類である。交互に疎水性アミノ酸残基領域および親水性アミノ酸残基領域を有するアミノ酸残基配列を含むポリペプチド類もまた、本発明によれば好ましい。これらの編成のうち特に好ましい表面活性剤ポリペプチド類は、少なくとも約4つ、より好ましくは少なくとも約8つ、さらにより好ましくは少なくとも約10のアミノ酸残基を有するものとしてさらに特徴付けられ、一般に長さが約60以下のアミノ酸残基であるが、さらにより長い完全長自生肺表面活性物質たんぱく質も考慮されている。
【0094】
好ましくは、本発明の表面活性剤ポリペプチド類は、式[(荷電)a(非荷電)b]c(荷電)dにより表される荷電アミノ酸残基および非荷電アミノ酸残基の交互の編成により構成されており、式中、「a」は約1から約5の平均値を有し;「b」は約3から約20の平均値を有し;「c」は1から10であり;および「d」は0から3である。単にアミノ酸残基だけから構成されてはいない有機表面活性剤分子は、荷電および非荷電(または親水性/疎水性)構成分子の交互の編成により構成される同様の構造を有することが好ましい。
【0095】
当業者に公知のように、アミノ酸類は、主としてアミノ酸側鎖の物理化学的性質に依存する種々のクラスに分類できる。例えば、幾つかのアミノ酸類は、一般に荷電、親水性または極性アミノ酸類であることが考慮されており、他のアミノ酸類は、非荷電、疎水性または非極性アミノ酸類であることが考慮されている。極性アミノ酸類としては、酸性、塩基性または親水性側鎖を有するアミノ酸類が挙げられ、非極性アミノ酸類としては、芳香族または疎水性側鎖を有するアミノ酸類が挙げられる。非極性アミノ酸類をさらに細分化すると、中でも脂肪族アミノ酸類が挙げられる。本明細書に用いられるクラスの定義は以下のとおりである:
「非極性アミノ酸」とは、極性ではなく、一般に水溶液により撥水され、生理的pHで非荷電である側鎖を有するアミノ酸を称す。遺伝子的にコードされた疎水性アミノ酸の例としては、アラニン、ロイシン、イソロイシン、メチオニン、フェニルアラニン、トリプトファン、チロシンおよびバリンが挙げられる。幾つかの実施形態において、システインは、非極性アミノ酸である。遺伝子的にコードされていない非極性アミノ酸の例としては、t−BuA、Cha、ノルロイシン、および/またはα−アミノブタン酸、α−アミノペンタン酸、α−アミノ−2−メチルプロパン酸、またはα−アミノヘキサン酸などのα−アミノ脂肪族カルボン酸が挙げられる。
【0096】
「芳香族アミノ酸」とは、共役π−電子系(芳香族基)を有する少なくとも1つの環を含有する側鎖を有する非極性アミノ酸を称す。前記芳香族基は、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、ヒドロキシル基、スルホニル基、ニトロ基およびアミノ基、ならびにその他の基などの置換基でさらに置換できる。遺伝子的にコードされた芳香族アミノ酸の例としては、フェニルアラニン、チロシンおよびトリプトファンが挙げられる。通常、よく見られる遺伝的にコードされていない芳香族アミノ酸類としては、フェニルグリシン、2−ナフチルアラニン、β−2−チエニルアラニン、1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリン−3−カルボン酸、4−クロロフェニルアラニン、2−フルオロフェニルアラニン、3−フルオロフェニルアラニンおよび4−フルオロフェニルアラニンが挙げられる。
【0097】
「脂肪族アミノ酸」とは、飽和または不飽和直鎖、分枝鎖または環状炭化水素側鎖を有する非極性、非荷電アミノ酸を称す。遺伝子的にコードされた脂肪族アミノ酸類の例としては、Ala、Leu、ValおよびIleが挙げられる。遺伝子的にコードされていない脂肪族アミノ酸類の例としては、Nleが挙げられる。
【0098】
「極性アミノ酸」とは、生理的pHで荷電または非荷電で、2個の原子により共有される電子対が原子の1個によってより近接して保持される結合を有する側鎖を持つ親水性アミノ酸を称す。極性アミノ酸類は、一般に親水性であり、それらが水溶液により引き寄せられる側鎖を持つアミノ酸を有することを意味している。遺伝子的にコードされた極性アミノ酸類の例としては、アスパラギン、グルタミン、リジンおよびセリンが挙げられる。幾つかの実施形態において、システインは極性アミノ酸である。遺伝子的にコードされていない極性アミノ酸類の例としては、シトルリン、ホモシステイン、N−アセチルリジンおよびメチオニンスルホキシドが挙げられる。
【0099】
「酸性アミノ酸」とは、7未満の側鎖pK値を有する親水性アミノ酸を称す。酸性アミノ酸は、水素イオンの欠失のために生理的pHで陰電荷の側鎖を典型的に有する。遺伝子的にコードされた酸性アミノ酸類の例としては、アスパラギン酸(アスパルテート)およびグルタミン酸(グルタメート)が挙げられる。
【0100】
「塩基性アミノ酸」とは、7以上の側鎖pK値を有する親水性アミノ酸を称す。塩基性アミノ酸は、ヒドロニウムイオンとの会合のために生理的pHで陽電荷の側鎖を典型的に有する。遺伝子的にコードされた塩基性アミノ酸類の例としては、アルギニン、リジンおよびヒスチジンが挙げられる。遺伝子的にコードされていない塩基性アミノ酸類の例としては、非環状アミノ酸オルニチン、2,3−ジアミノプロピオン酸、2,4−ジアミノ酪酸およびホモアルギニンが挙げられる。
【0101】
「イオン性アミノ酸」または「荷電アミノ酸」とは、生理的pHで荷電できるアミノ酸を称す。このようなイオン性または荷電アミノ酸類としては、酸性および塩基性アミノ酸類、例えば、D−アスパラギン酸、D−グルタミン酸、D−ヒスチジン、D−アルギニン、D−リジン、D−ヒドロキシリジン、D−オルニチン、D−3−ヒドロキシプロリン、L−アスパラギン酸、L−グルタミン酸、L−ヒスチジン、L−アルギニン、L−リジン、L−ヒドロキシリジン、L−オルニチンまたはL−3−ヒドロキシプロリンが挙げられる。
【0102】
当業者により認識されるであろうが、上記の分類は絶対的ではない。幾つかのアミノ酸類は、1つを超える特性を示し、したがって、1つを超えるカテゴリに含まれ得る。例えば、チロシンは、非極性芳香族環と極性ヒドロキシル基との両方を有する。したがって、チロシンは、非極性、芳香族および極性として記載され得る幾つかの特性を有する。しかしながら、非極性環が優勢であり、それゆえ、チロシンは一般に、非極性であると考えられる。同様に、ジスルフィド結合を形成できることに加えて、システインは非極性の性質も有する。このように、疎水性または非極性アミノ酸として厳密には分類されないが、多くの場合、システインは、ペプチドに疎水性または非極性を与えるものとして使用できる。
【0103】
上記の遺伝子的にコードされ、またコードされていないアミノの分類は、例示のみを目的としており、本明細書に記載された肺表面活性剤ポリペプチドを含み得るアミノ酸残基の完全なリストであるとを意味しない。本明細書に記載される肺表面活性剤ポリペプチドの製造に有用である他のアミノ酸残基は、例えば、Fasman、1989年、CRC Practical Handbook of Biochemistry and Molecular Biology、CRC Press、Inc.、およびそれに引用されている文献に見ることができる。アミノ酸残基の他の供給源は、RSP Amino Acid Analogues、Inc.のウェブサイト(www.amino−acids.com)により提供される。本明細書に特に記載されていないアミノ酸類は、特に同定されたアミノ酸と比較した、公知の挙動および/または特徴的な化学的および/または物理的性質に基づいて上記のカテゴリに従来どおり分類できる。
【0104】
幾つかの実施形態において、表面活性剤ポリペプチドは、式(ZaUb)cZdにより表される交互編成のアミノ酸残基を有する配列を含み、式中、Zは荷電アミノ酸であり、Uは非荷電アミノ酸であり;「a」は約1から約5の平均値を有し;「b」は約3から約20の平均値を有し;「c」は1から10であり;および「d」は0から3である。
【0105】
幾つかの実施形態において、Zは、ヒスチジン、リジン、アルギニン、アスパラギン酸、グルタミン酸、5−ヒドロキシリジン、4−ヒドロキシプロリン、および/または3−ヒドロキシプロリンであり、およびUは、バリン、イソロイシン、ロイシン、システイン、チロシン、フェニルアラニン、および/またはα−アミノブタン酸、α−アミノペンタン酸、α−アミノ−2−メチルプロパン酸、またはα−アミノヘキサン酸などのα−アミノ脂肪族カルボン酸である。
【0106】
他の実施形態において、本発明の好ましいポリペプチド類は、式(BaUb)cBdにより表される交互編成またはアミノ酸残基領域を有しており、式中、Bは、H、5−ヒドロキシリジン、4−ヒドロキシプロリン、および3−ヒドロキシプロリンよりなる群から独立して選択されるアミノ酸残基であり;およびUは、V、I、L、C、Y、およびFよりなる群から独立して選択されるアミノ酸残基である。1つの好ましい変型において、Bは、コラーゲン由来のアミノ酸であり、5−ヒドロキシリジン、4−ヒドロキシプロリン、および3−ヒドロキシプロリンよりなる群から選択されることが好ましく;「a」は約1から約5の平均値を有し;「b」は約3から約20の平均値を有し;「c」は1から10であり;および「d」は0から3である。
【0107】
さらに他の実施形態において、本発明の表面活性剤ポリペプチド類は、式(BaJb)cBdにより表される交互編成のアミノ酸残基を有する配列を含み、式中、Bは、ヒスチジン、5−ヒドロキシリジン、4−ヒドロキシプロリン、および3−ヒドロキシプロリンよりなる群から独立して選択されるアミノ酸残基であり;およびJは、α−アミノ脂肪族カルボン酸であり;「a」は約1から約5の平均値を有し;「b」は約3から約20の平均値を有し;「c」は1から10であり;および「d」は0から3である。
【0108】
関連式における「J」を含む種々の実施形態において、Jは、合わせて4個から6個の炭素を有するα−アミノ脂肪族カルボン酸である。他の好ましい変型において、Jは、合わせて6個以上の炭素を有するα−アミノ脂肪族カルボン酸である。さらに他の変型において、Jは、α−アミノブタン酸、α−アミノペンタン酸、α−アミノ−2−メチルプロパン酸、およびα−アミノヘキサン酸よりなる群から選択されることが好ましい。
【0109】
他の実施形態は、式(ZaUb)cZdにより表される交互編成のアミノ酸残基を有する配列を含む表面活性剤ポリペプチドを含有し、式中、Zは、R、D、E、およびKよりなる群から独立して選択されるアミノ酸残基であり;Uは、V、I、L、C、Y、およびFよりなる群から独立して選択されるアミノ酸残基であり;またはLおよびCよりなる群から独立して選択されるアミノ酸残基であり;「a」は約1から約5の平均値を有し;「b」は約3から約20の平均値を有し;「c」は1から10であり;および「d」は0から3である。
【0110】
前述の式において、ZとU、ZとJ、DとU、およびBとJは、各発生時に独立して選択されるアミノ酸残基である。さらに、前述式の各々において、一般に「a」は約1から約5の平均値を有し;「b」は約3から約20の平均値を有し;「c」は1から10であり;および「d」は0から3である。
【0111】
前述の実施形態の一変型において、ZおよびBは荷電アミノ酸残基である。他の好ましい実施形態において、ZおよびBは、親水性または陽電荷のアミノ酸残基である。一変型において、Zは、R、D、E、およびKよりなる群から選択されることが好ましい。関連実施形態において、Zは、RおよびKよりなる群から選択されることが好ましい。さらに他の好ましい実施形態において、Bは、H、5−ヒドロキシリジン、4−ヒドロキシプロリン、および3−ヒドロキシプロリンよりなる群から選択される。1つの好ましい実施形態において、BはHである。他の好ましい実施形態において、Bは、コラーゲン構成アミノ酸残基であり、5−ヒドロキシリジン、(δ−ヒドロキシリジン)、4−ヒドロキシプロリン、および3−ヒドロキシプロリンよりなる群から選択される。
【0112】
種々の開示実施形態において、UおよびJは、非荷電アミノ酸残基であることが好ましい。他の好ましい実施形態において、UおよびJは、疎水性アミノ酸残基である。一実施形態において、Uは、V、I、L、C、Y、およびFよりなる群から選択されることが好ましい。他の好ましい実施形態において、Uは、V、I、L、C、およびFよりなる群から選択される。さらに他の好ましい実施形態において、Uは、LおよびCよりなる群から選択される。種々の好ましい実施形態において、UはLである。
【0113】
同様に種々の実施形態において、Bは、H、5−ヒドロキシリジン、4−ヒドロキシプロリン、および3−ヒドロキシプロリンよりなる群から選択されるアミノ酸であることが好ましい。あるいは、Bは、5−ヒドロキシリジン、4−ヒドロキシプロリン、および3−ヒドロキシプロリンを含むコラーゲン由来アミノ酸類よりなる群から選択されてもよい。
【0114】
本発明の他の実施形態において、荷電および非荷電アミノ酸類は、修飾アミノ酸類の群から選択される。例えば、1つの好ましい実施形態において、荷電アミノ酸は、2,3の例を示せばシトルリン、ホモアルギニン、またはオルニチンよりなる群から選択される。同様に種々の好ましい実施形態において、非荷電アミノ酸は、α−アミノブタン酸、α−アミノペンタン酸、α−アミノ−2−メチルプロパン酸、およびα−アミノヘキサン酸よりなる群から選択される。
【0115】
本発明の好ましい実施形態において、単位「a」、「b」、「c」および「d」は、荷電または非荷電残基(または親水性または疎水性残基)数を示す数である。種々の実施形態において、「a」は約1から約5、好ましくは約1から約3、より好ましくは約1から約2、さらにより好ましくは1の平均値を有する。
【0116】
種々の実施形態において、「b」は、約3から約20、好ましくは約3から約12、より好ましくは約3から約10、さらにより好ましくは約4〜8の範囲の平均値を有する。1つの好ましい実施形態において、「b」は、約4である。
【0117】
種々の実施形態において、「c」は1から10、好ましくは2から10、より好ましくは3〜8または4〜8の範囲、さらにより好ましくは3から6である。1つの好ましい実施形態において、「c」は、約4である。
【0118】
種々の実施形態において、「d」は0から3または1から3である。1つの好ましい実施形態において、「d」は0から2または1から2であり;他の好ましい実施形態において、「d」は、1である。
【0119】
アミノ酸残基、例えばZまたはUにより表される残基が独立して選択されることを述べることによって、各発生時において、特定の群からの残基が選択されることを意味する。すなわち、「a」が2である場合、例えば、Zにより表される各々の親水性残基は、独立して選択され、したがって、RR、RD、RE、RK、DR、DD、DE、DKなどを含むことができる。「a」および「b」が平均値を有することを述べることによって、反復配列(例えば、ZaUb)内の残基数は、ペプチド配列内でいくらか変わり得るが、「a」および「b」の平均値が、それぞれ約1から約5および約3から約20になるであろう。
【0120】
例えば、下表1において「KL8」と名付けられるペプチドに関する式(ZaUb)cZdを用いて、前記式は、K1L8K1L8K1L2として書き直すことができ、式中、「b」の平均値は、6[すなわち、(8+8+2)/3=6)]、「c」は3であり、「d」はゼロである。上記式の例示的な好ましいポリペプチド類を下表1に示す:
【0121】
【表1】
【0122】
1呼称は、示されたアミノ酸残基配列の略語である。
【0123】
肺胞との相互作用を最大にする構造を有する約4から60のアミノ酸残基の複合ポリペプチドもまた好適である。複合ポリペプチドは、本質的にアミノ末端配列およびカルボキシ末端配列からなる。上記式に定義されるように、前記アミノ末端配列は、本発明の疎水性領域ポリペプチドまたは疎水性ペプチド、好ましくは疎水性ポリペプチドのアミノ酸配列を有する。カルボキシ末端配列は、従属のカルボキシ末端ペプチドのアミノ酸残基配列を有する。
【0124】
天然の表面活性物質蛋白質(SP)のものと類似の特性に由来するかまたは類似の特性を有する蛋白質およびポリペプチド類は、本法に有用である。特記したように、任意の哺乳動物種から単離されたSPは、利用できるが、ウシ、ブタおよびヒト表面活性物質は特に好ましい。
【0125】
天然の表面活性物質蛋白質としては、SP−A、SP−B、SP−CまたはSP−D、あるいはそれらの断片の、単独または脂質と組合わせたものが挙げられる。好ましい断片は、SP−Bのアミノ末端残基1〜25である。
【0126】
このような天然の表面活性物質蛋白質と関連するアミノ酸配列の多くは、NCBIデータベースに見ることができる。例えば、ヒト肺表面活性物質と会合する蛋白質A1の配列は、受託番号NP 005402(gi:13346504)としてNCBIデータベースに見ることができる。ncbi.nlm.nih.gov.のウェブサイトを参照されたい。ヒトSP−A1に関するこの配列は、下記のとおり提供される(配列番号25)。
【0127】
【化19】
【0128】
ヒト肺表面活性物質と会合する蛋白質A2のアミノ酸配列は、受託番号NP 008857(gi:13346506)としてNCBIデータベースに見ることができる。ncbi.nlm.nih.gov.のウェブサイトを参照されたい。ヒトSP−A2に関するこの配列は、下記のとおり提供される(配列番号26)。
【0129】
【化20】
【0130】
ヒト肺表面活性物質と会合する蛋白質Bのアミノ酸配列は、受託番号NP 000533(gi:4506905)としてNCBIデータベースに見ることができる。ncbi.nlm.nih.gov.のウェブサイトを参照されたい。ヒトSP−Bに関するこの配列は、下記のとおり提供される(配列番号27)。
【0131】
【化21】
【0132】
さらに、ヒトSP18(SP−B)表面活性物質蛋白質は、本明細書に記載されているように利用し得る。例えば、米国特許第5,407,914号明細書;米国特許第5,260,273号明細書;および米国特許第5,164,369号明細書を参照されたく、これらの開示は、本明細書に参照として組み込まれている。
【0133】
ヒト肺表面活性物質と会合する蛋白質Cのアミノ酸配列は、受託番号P11686(gi:131425)としてNCBIデータベースに見ることができる。ncbi.nlm.nih.gov.のウェブサイトを参照されたい。ヒトSP−Cに関するこの配列は、下記のとおり提供される(配列番号28)。
【0134】
【化22】
【0135】
ヒト肺表面活性物質と会合する蛋白質Dのアミノ酸配列は、受託番号P50404(gi:1709879)としてNCBIデータベースに見ることができる。ncbi.nlm.nih.gov.のウェブサイトを参照されたい。ヒトSP−Dに関するこの配列は、下記のとおり提供される(配列番号29)。
【0136】
【化23】
【0137】
関連ペプチドは、配列スクシニル−Leu−Leu−Glu−Lys−Leu−Leu−Gln−Trp−Lys−アミド(配列番号30)を有するWMAP−10ペプチド(Marion Merrell Dow Research Institute)である。本明細書に記載されているように、代わりとなるペプチド類は、リン脂質の混合物において表面張力の低下を誘導するリジン、アルギニンまたはヒスチジンのポリマーである。
【0138】
さらに他の実施形態において、本発明のポリペプチドは、ゼロ未満、好ましくは−1未満か−1に等しい、より好ましくはくは−2未満か−2に等しい複合疎水性を持つアミノ酸残基配列を有する。ペプチドに関する複合疎水性値の測定は当技術分野に公知であり、米国特許第6,013,619号明細書を参照されたく、この開示は、参照として本明細書に組み込まれている。これらの疎水性ポリペプチド類は、SP18の疎水性領域の機能を実行する。このように、1つの好ましい実施形態において前記アミノ酸配列は、荷電および非荷電、あるいは疎水性および親水性のSP18の残基のパターンを模倣する。
【0139】
しかしながら、本発明のポリペプチド類および他の表面活性剤分子は、自生SP−B(SP18)のような配列を有する分子に限定しないことを解すべきである。それどころか、本発明のいくつかの最も好ましい表面活性剤分子は、同様の表面活性剤の活性および交互の荷電/非荷電(または疎水性/親水性)残基配列を有すること以外、特定のアミノ酸残基配列に関してSP18に殆ど似ていない。
【0140】
本発明の1つの開示された実施形態は、塩基性極性リジン(K)残基により結合された4つの疎水性ロイシン(L)残基の反復単位からなるヒトSP−Bの模倣物である21−残基ペプチドのペプチド含有製剤を含む。「KL4」として本明細書に略されているこの例示的ペプチドは、以下のアミノ酸残基配列を有する:
【0141】
【化24】
【0142】
(配列番号1)
1つの好ましい実施形態において、KL4は、リン脂質ジパルミトイルホスファチジルコリンとパルミトイル−オレオイルホスファチジルグリセロール(3:1)とパルミチン酸とで組合わせて、そのリン脂質−ペプチド水性分散物は、「KL4−表面活性剤」と命名されており、一般にそのような様式で本明細書に称される。KL4−表面活性剤は、名称モデル表面活性剤混合物で市販されている。種々の実験および臨床試験におけるKL4−表面活性剤の有効性は、以前に報告されており、例えば、Cochraneら、Science、254巻:p.566−568(1991);Vincentら、Biochemistry、30巻:p.8395−8401(1991);Cochraneら、Am J Resp & Crit Care Med、152巻:p.404−410(1996);およびRevakら、Ped.Res.、39巻:p.715−724(1996)を参照されたい。
【0143】
本発明の種々の実施形態において、ポリペプチド:リン脂質の重量比は、約1:5から約1:10,000、好ましくは約1:7から約1:5,000、より好ましくは約1:10から約1:1,000、最も好ましくは約1:15から約1:100の範囲である。特に好ましい実施形態において、ポリペプチド:リン脂質の重量比は、約1:37である。
【0144】
本発明による担体表面活性剤組成物の調製に好適な合成ポリペプチド類は、ポリペプチド当業者に公知の方法によりアミノ酸類から合成できる。多くの利用できる方法の優れた概要は、J.M.StewardおよびJ.D.Young、SOLID PHASE PEPTIDE SYNTHESIS、W.H.Freeman Co.、サンフランシスコ、1969年、および固相ペプチド合成に関してJ.Meienhofer、HORMONAL PROTEINS AND PEPTIDES、2巻、p.46、Academic Press(ニューヨーク)、1983年、および古典的溶液合成に関してE.SchroderおよびK.Kubke、THE PEPTIDES、1巻、Academic Press(ニューヨーク)、1965年に見ることができる。
【0145】
一般に、これらの方法は、1つ以上のアミノ酸残基または好適に保護されたアミノ酸残基の、成長しているペプチド鎖への連続付加を含む。標準的には、第1のアミノ酸残基のアミノ基またはカルボキシル基のいずれかを、適切で選択的に除去できる保護基により保護する。種々の選択的に除去できる保護基は、反応性側鎖基を含有するアミノ酸(例えば、リジン)に利用される。
【0146】
実施例1は、表面活性剤ペプチドの固相合成を例示する。簡潔に述べると、保護または誘導アミノ酸を、その非保護カルボキシル基またはアミノ基を介して不活性固体支持体に結合する。次に、アミノ基またはカルボキシル基の保護基を選択的に除去し、好適に保護された補足(アミノまたはカルボキシル)基を有する配列中の次のアミノ酸を混合し、固相支持体に既に結合している残基とアミド結合を形成するために好適な条件下で反応させる。次いでアミノ基またはカルボキシル基の保護基を、この新たに添加したアミノ酸残基から除去してから、次のアミノ酸(好適に保護された)を加えるなどする。所望のアミノ酸全てを適切な配列で結合した後、残りの末端基および側鎖基の保護基(およびいずれの固体支持体)のいずれも、連続的または同時に除去して最終ポリペプチドを得る。次いで、そのポリペプチドを低級脂肪族アルコール中に溶解することにより洗浄し、乾燥する。所望ならば、乾燥表面活性剤ポリペプチドを、公知の方法によりさらに精製できる。
【0147】
本発明の表面活性剤蛋白質およびポリペプチド類はまた、組み換えDNA法により製造し得る。植物または動物宿主から蛋白分子を誘導する方法は、一般に当技術分野に公知である。Jobeら、Am.Rev.Resp.Dis.、136巻:p.1032(1987);Glasserら、J.Biol.Chem.、263巻:p.10326(1988)を参照されたい。一般に、好適なプロモーターおよび/またはシグナルペプチドの制御下で蛋白質またはポリペプチド類をコードする遺伝子配列を、宿主細胞の形質移入のためにプラスミドまたはベクターに挿入する。発現蛋白質/ポリペプチドは、細胞培養物から単離され得る。
【0148】
本明細書に開示された多くの有用なポリペプチド類、例えばKL4ポリペプチド(配列番号1)は、ペプチド結合を経て結合される「L」体の天然由来のアミノ酸を含むことが認識されるが、アミノ酸側鎖類縁体、非アミド結合(例えば、異なる主鎖)を含む分子はまた、著しい表面活性剤活性を示し、そのうえ他の利点を有し得ることも解されるべきである。例えば、容易に分解されない分子(例えば、表面活性剤組成物に使用のため)を構築することが所望であるならば、一連のD−アミノ酸を含むポリペプチド分子を合成することを望むことができる。「レトロ」主鎖を経て結合された一連のアミノ酸を含む分子、すなわち、カルボキシ末端からアミノ末端への逆方向で構築された内部アミド結合を分子はまた、分解することがより困難であり、したがって本明細書に記載されている種々の適用に有用であり得る。例えば、以下の式は、主鎖における「レトロ」結合を有する例示的分子を例示している:
【0149】
【化24a】
【0150】
他の変型において、より「堅固な」コンフォメーションを採用する分子を構築することを所望することができ;このことは、アミノ酸のα炭素原子にメチル基または他の基の付加を達成し得ることを意味する。
【0151】
上記のとおり、CH3基のほかに他の基を、炭素原子に付加でき、すなわち、本発明の表面活性剤分子は、α炭素にCH3のみを組み込むものに限定されない。例えば、上記の側鎖および分子のいずれも、α炭素成分における示されたCH3基に代えて置換し得る。
【0152】
本明細書に使用される用語で、ポリペプチド類およびアミノ酸残基の「類縁体」および「誘導体」は、アミノ酸類の代謝産物および異化産物、ならびに「天然由来の」L−体アミノ酸類と呼ばれるものに通常見出されるものとは異なる結合、主鎖、側鎖または側鎖基を含む分子を包含することを意図している。(用語の「類縁体」および「誘導体」はまた、本明細書では交互に都合よく使用し得る)したがって、D−アミノ酸、アミノ酸を模倣する分子および「デザインされた」側鎖を有するアミノ酸(すなわち、表面活性剤活性を有する分子中の1つ以上のアミノ酸の代わりに置換できるもの)もまた、本明細書の用語の「類縁体」および「誘導体」により包含されている。
【0153】
1つ以上の延伸または置換R基またはR’基を有するアミノ酸を含む有用な表面活性剤分子の広い組合わせも、本発明により包含されている。再度、当業者は、個々のアミノ酸、結合、および/または鎖それ自体に種々の修飾をなし得ることをこの開示から認識すべきであり、生じた分子が本明細書に記載された表面活性剤活性を有する限り、修飾は本発明の範囲内に入る分子を製造することとなる。
【0154】
前記組成物は、他の成分を含むことができる。例えば、本発明の表面活性剤混合物は、(i)50〜95乾燥重量パーセントのリン脂質、(ii)リン脂質を肺の表面内層中への取り込みを促進させるのに有効な2〜25乾燥重量パーセントの展着剤、(iii)0.1〜10乾燥重量パーセントの肺表面活性剤ポリペプチドを含むことができる。上記に示したように、前記成分は、乾燥、溶液、または粒子懸濁液形態で混合してもよく、治療剤の添加前に前製剤化しても、または薬剤と共に製剤化してもよい。
【0155】
本発明の組成物に有用なリン脂質としては、自生および/または合成リン脂質が挙げられる。使用され得るリン脂質としては、ホスファチジルコリン類、ホスファチジルグリセロール類、ホスファチジルエタノールアミン類、ホスファチジルセリン類、ホスファチジン酸、およびホスファチジルエタノールアミン類が挙げられる。ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)、ジラウリルホスファチジルコリン(DLPC)C12:0、ジミリストイルホスファチジルコリン(DMPC)C14:0、ジステアロイルホスファチジルコリン(DSPC)、ジフィタノイルホスファチジルコリン、ノナデカノイルホスファチジルコリン、アラキドイルホスファチジルコリン、ジオレオイルホスファチジルコリン(DOPC)(C18:1)、ジパルミトオレオイルホスファチジルコリン(C16:1)、リノレオイルホスファチジルコリン(18:2))、ジパルミトイルホスファチジルエタノールアミン、ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE)、ジオレオイルホスファチジルグリセロール(DOPG)、パルミトイルホスファチジルグリセロール(POPG)、ジステアロイルホスファチジルセリン(DSPS)大豆レシチン、卵黄レシチン、スフィンゴミエリン、ホスファチジルセリン類、ホスファチジルグリセロール類、ホスファチジルイノシトール類、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルエタノールアミン、およびホスファチジン酸などの例示的リン脂質ホスファチジルコリン類。
【0156】
特に、1,2−ジアシル−sn−グリセロ−3−[ホスホ−rac−(1−グリセロール)]、1,2−ジアシル−sn−グリセロ−3−[ホスホ−L−セリン]、1,2−ジアシル−sn−グリセロ−3−ホスホコリン、1,2−ジアシル−sn−グリセロ−3−ホスフェート、1,2−ジアシル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミンであって、これらのジアシル基は、対称、非対称であり得、鎖長が3個から28個の炭素の範囲の種々のタイプの飽和または不飽和脂肪酸および6つまでの不飽和結合を含有し得る。
【0157】
好ましいリン脂質の1つはDPPCである。DPPCは、現在までに調べられた全哺乳動物種における主要なリン脂質である。DPPCは気腔の上皮細胞(肺胞の2型肺胞細胞および気道のまだ同定されていない細胞)によって合成される。DPPCは細胞内層へ分泌され、展着して肺胞上に単分子膜を形成する。空気−細胞内層界面におけるDPPC膜は、その正常な機能の根拠となる一定の独特な性質を有している。すなわち、(1)展着して全表面を覆う前記膜は、圧縮時、例えば呼気時に、極めて低い表面張力を達成し、それによって正味の力を減少させ、気腔内への液体移動を助ける;(2)気道または肺胞の大きさが減少するにつれ、表面張力は比例して減少し、それによって構造間の圧力平衡を達成し、崩壊を防ぐ;(3)前記膜は、その両性的構造のため、疎水性部分と親水性部分の双方と緩い化学的会合を形成し、またその高い圧縮性のため、これらの会合は、膜圧縮時に切断でき、それによって、界面から前記分子を遊離する;(4)これらの緩い化学的結合は、膜上の電荷分布を変更できる表面活性剤系に見られる他の化合物(例えば、PG)の添加によって変更でき、それによって、前記部分(上記(3)に述べた)が前記膜から遊離する速度を変更する。
【0158】
本発明の種々の実施形態において、前記脂質部分は、表面活性剤担体組成物の約50から約90重量パーセントを構成するDPPCである。本発明の他の実施形態において、DPPCは、表面活性剤組成物の約50から約75重量パーセントを構成し、残りは、不飽和ホスファチジルコリン、ホスファチジルグリセロール(PG)、トリアシグリセロール類、パルミチン酸、スピンゴミエリンまたはそれらの混合物を含む。本発明のさらに他の実施形態において、前記脂質分子は、約4:1と2:1との間の重量比におけるDPPCとPOPGとの混合物である。好ましい一実施形態において。前記脂質成分は、約3:1の重量比におけるDPPCとパルミトイル−オレオイル ホスファチジルグリセロール(POPG)との混合物である。
【0159】
DPPCと上記脂質およびリン脂質は、商品として入手できるか、または一般に当業界に公知の公表されている方法にしたがって調製できる。前記混合物のリン脂質成分は、ホスファチジルコリン(PC)、ホスファチジルエタノールアミン(PE)、ホスファチジルイノシトール(PI)、ホスファチジルグリセロール(PG)、ホスファチジル酸(PA)、ホスファチジルセリン(PS)およびスフィンゴミエリン(SM)などの1種以上のリン脂質を含む。前記リン脂質における脂肪族アシル鎖は、長さが少なくとも7個の炭素原子であることが好ましく、典型的には、長さが12〜20個の炭素原子であって、完全に飽和されていてもよいし、部分的に不飽和であってもよい。
【0160】
前記リン脂質は、前記表面活性剤混合物の50〜95乾燥重量パーセントを構成し、好ましくは、前記混合物の80〜90の間の乾燥重量パーセントである。
【0161】
DPPCなどのリン脂質は、単独で投与された場合、空気−細胞内層界面に比較的ゆっくりと吸収され、吸着されるとゆっくり拡散することが知られている。
【0162】
展着剤の目的は、表面活性剤混合物脂質の粒子形態から単層形態への移行を促進し、肺表面上への展着、肺表面に沿った、および肺表面内への分布を達成することである。したがって、例えば、表面活性製剤を、リポソーム形態で肺に送達する場合、展着剤は、肺表面におけるリポソーム二重層から平坦な単層形態へのリポソームリン脂質の移行促進に効果的である。同様に表面活性製剤を、非晶質または結晶性の脂質粒子として肺に送達する場合、展着剤は、肺表面の平坦な単層形態への表面活性剤混合物のリン脂質の移行促進に効果的である。
【0163】
展着剤の例としては、限定はしないが、脂質二重層または脂質単層形成に適合性ではあるが、単独で脂質二重層形成を支持することはできない、非リン脂質の脂質が挙げられる。展着剤の例としては、リゾリン脂質、脂肪酸、脂肪族エステル、および脂肪族アルコールならびに他の単一長鎖脂肪族アシル化合物が挙げられる。好ましい展着剤としては、少なくとも約12個の炭素原子のアルキル鎖長、好ましくは鎖長が15〜20個間の炭素原子を有する脂肪酸および脂肪族アルコールが挙げられる。好ましい展着剤の1つは、パルミチン酸であり、他の1つはセチルアルコールである。展着剤は、前記表面活性剤混合物の2〜25乾燥重量パーセントを構成し、好ましくは、前記混合物の10〜15乾燥重量パーセントを構成する。84.5%の乾燥重量パーセントで、DPPC:DOPG(3:1)もまた含有する1つの例示的混合物は、12.75乾燥重量パーセントのパルミチン酸を含有する。
【0164】
本発明に用いられる展着剤は、商品供給者から購入できる。例えば、パルミチン酸(PA)は、Avanti Polar Lipids社(アラバマ州バーミンガム)から入手できる。前記展着剤はまた、一般に当業界に公知の公表されている方法にしたがって調製できる。
【0165】
幾つかの実施形態において、前記組成物は、展着剤としてSterling−WinthropおよびRohm およびHaasなどの種々の会社から幾つかの商標で購入できるチロキサポールを含み得る。チロキサポールは、ホルムアルデヒドとオキシランを有する4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)フェノール)のポリマーである。チロキサポールは、30年以上に亘ってヒト医薬品製剤に用いられてきた(Tainter MLら、New England Journal of Medicine(1955)253巻:p.764−767)。チロキサポールは比較的非毒性であり、他の洗剤が溶血性である濃度の1000倍の濃度においても赤血球を溶血しない(Glassman HN.Science(1950)111巻:p.688−689)。
【0166】
(治療方法)
呼吸器系の多くの病態および疾患が肺表面活性物質性能の低下および炎症の原因となる。本明細書で用いられる用語、「呼吸器病態および疾患」は、肺胞ならびに肺胞への空気通路に関与する病態および疾患を包含する。このような病態および疾患としては、肺高血圧症、新生児肺高血圧症、新生児気管支肺形成異常症、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、急性気管支炎、慢性気管支炎、肺気腫、気管支梢炎、気管支拡張症、放射線肺炎、過敏症、間質性肺炎、急性炎症性喘息、急性煙吸入、熱性肺傷害、アレルギー性喘息、医原性喘息、嚢胞性線維症、肺胞蛋白症、アルファ−1−プロテアーゼ欠乏症、肺炎症性疾患、肺炎、急性呼吸窮迫症候群、急性肺傷害、特発性呼吸窮迫症候群、および特発性肺線維症が挙げられる。活性剤は、肺組織に直接作用し得るか、肺組織内の病原性生物に作用し得る。
【0167】
肺表面活性物質の欠乏が、未熟児や幼児における呼吸窮迫症候群(RDS)の原因であることは、一般に認識されている。このような欠乏は、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)の発現における主要要因ではないが、この疾患の病態生理学に著しく寄与し得る。RDSは、未熟児における死亡および障害の主要な原因である。また、毎年15万例のARDSが報告されており、死亡率は60〜80%である。ARDSを引き起こす機構は部分的に理解されているだけである。しかし、多くの場合、それは酸素の毒性から生じ、前記症候群は、過酸化物、スーパーオキシド、ヒドロキシル、一重項酸素、その他などの大量の酸素由来フリーラジカルおよび求核剤によって引き起こされる。肺実質に対するフリーラジカルに誘導された損傷は炎症および「漏出」毛細管応答を生じる。この応答は、肺伸展性の低下、低酸素症およびシャンティングを特徴とするARDSへと進行し得る。
【0168】
炎症は、呼吸器疾患に伴う浸透性の症状であり、局所損傷、細菌感染、ウィルス感染、アレルギー反応および免疫原性反応などに応答して生じる。気道の炎症部位に集合した炎症細胞、特に白血球は、肺表面活性物質成分の分泌を引き起こすか、または遮断でき、また、肺を内張りしている上皮細胞を破壊することもできる伝達物質を遊離し、細胞質成分の遊離を生じさせる。この後者のクラスの伝達物質には、セリンプロテアーゼ、特に白血球エラスターゼ、ホスホリパーゼA2およびスーパーオキシドおよびヒドロキシラジカルなどの反応性酸素種が含まれる。例えば、嚢胞性線維症における気道の感染は、疾患の重症化を招き得る気道分泌の輸送異常に関連している(E.Puchellら、Eur.J.Clin.Invest.、15巻:p.389−394,1985年)。
【0169】
本発明の治療法では、本発明の製剤中の活性剤としてプロテアーゼ阻害剤、ホスホリパーゼ阻害剤、または抗酸化剤、またはこれらの2種以上の混合物を有する表面活性剤混合物が用いられる。前記製剤は、例えば、気管支肺胞洗浄、経口、血管内、ボーラスまたは他の投与のために有用な液体製剤であり得る。また、前記製剤は患者へ投与するためエアロゾル化もできる。投与される製剤量は、典型的には約1mg〜100mg/用量、5mg〜20mg/用量、例えば10mg/用量であり、1回用量における活性剤の量は、治療的有効量、例えば、約0.01mgから50mgの薬剤または約0.01mgから5mgの薬剤である。活性剤の用量は、先ず、前記製剤が肺の単層に展着した際の所望の薬剤濃度を算出し、この用量を、好適な量の表面活性剤製剤において投与することによって決定できる。治療効果を最適化するため、また副作用を最小化するための用量の調製は、肺炎症の動物モデルおよび/または肺の炎症病態を有するヒト患者における臨床試験を含み得る公知の手順にしたがって決定できる。
【0170】
一実施形態において、本発明は、哺乳動物における肺の炎症を治療するために、プロテアーゼ阻害剤、リパーゼ阻害剤または抗酸化剤を含む治療的有効量の組成物を前記哺乳動物に投与することを含む方法を考慮している。
【0171】
幾つかの実施形態において、前記方法は、肺洗浄による本発明の組成物の投与を含む。肺洗浄を行う手順は当業界において利用できる。例えば参照のため、本明細書に組み込んでいる米国特許第6,013,619号明細書を参照されたい。肺洗浄は、例えば以下のとおり実施できる:
a) ベンチレータによりガス呼気終末陽圧(PEEP)を調節圧力、好ましくは約4cm水から20cm水で哺乳動物の肺区域内へ適用する;
b) 製薬的に許容できる水性媒体中の希釈表面活性剤を含有する洗浄組成物を前記肺の1つ以上の葉または区域に点滴注入する;および
c) 短い間隔で気管−気管支吸引を用い、好ましくは、約20mmから100mm水銀の陰圧を用いて、肺から生じた肺流体を除去する。
【0172】
典型的には、PEEPを点滴注入ステップ(b)の前の予め選択された時間、好ましくは約30分まで適用し、また、PEEPは典型的には、ステップ(b)と(c)との間に連続的に、または除去ステップ(c)の後に予め選択された時間、好ましきは約6時間まで適用する。肺の異なった区域を独立して治療できる。
【0173】
他の実施形態において、前記組成物は、液体ボーラス投与によって投与できる。例えば、前記組成物の液滴を肺組織に送達するために気管内チューブを配置してもよい。幾つかの実施形態において、ボーラス投与は肺の一箇所になされて、他の箇所にはなされないか、または肺の異なった部分が異なった時にボーラス液滴投与によって治療できる。
【0174】
さらに、他の実施形態において、前記組成物は吸入投与できる。さらなる実施形態において、プロテアーゼ阻害剤、リパーゼ阻害剤および/または抗酸化剤を、経口または非経口投与できる。経口または非経口(非肺)送達が考慮される場合、前記組成物は、前記表面活性剤混合物を含む必要はない。しかし、本発明によれば、表面活性剤混合物と前記阻害剤との組合わせは、肺疾患の治療に驚くべき効果をあげる。ゆえに、肺病態を有利に治療するためには、表面活性剤−阻害剤の組合わせは相乗的に作用し得る。
【0175】
それゆえに、本発明は、肺の疾患治療のために表面活性剤担体に担持されたプロテアーゼ阻害剤を含む医薬品組成物を提供する。
【0176】
例示的一実施形態において、前記組成物は、ヒト白血球エラスターゼ阻害剤を含有する。ヒト白血球エラスターゼ(HLE)は、好中球のアズーレ親和性顆粒に存在する蛋白質分解酵素である。このプロテアーゼは、炎症部位で遊離した後、エラスチンやコラーゲンなどの重要な結合組織成分を加水分解できる。この酵素は、壊死組織および微生物を貪食するそれらの機能にとって必須である。同時に、この酵素は身体にとって顕著な挑戦となる。なぜならば、それらの非抑制的遊離は、健康な組織および循環蛋白質の破壊を導き得るからである。生じた組織の損傷が成人呼吸窮迫症候群(Lee,C.T.ら、New England J of Med.、304巻:p.192−196、1981年および肺気腫(Janoff,A.,In:INFLAMMATION:BASIC PRINCIPLES AND CLINICAL CORRELATES,Gallin,J.I.ら編集、p.803−814、Raven Press、ニューヨーク、1988年)の病因に寄与することが示唆されている。
【0177】
本発明によるプロテアーゼおよびリパーゼ阻害および/または肺組織内の酸化減少により、血管基底膜への損傷が減少し、蛋白質漏出と出血が減少する。平行試験において、外因性表面活性剤による気管支肺胞洗浄もまた、基底膜への損傷、蛋白質漏出および出血を減少させた。しかし、表面活性剤混合物単独による治療では、プロテアーゼ活性またはリパーゼ活性は有意に阻害されず、有意な抗酸化活性も提供されなかった。本発明によれば、プロテアーゼ阻害剤、リパーゼ阻害剤および/または抗酸化剤を含有する本発明の表面活性製剤による肺の炎症病態の治療は、基底膜損傷、蛋白質漏出および肺血管出血の防止に効果的である。前記治療は、血管の蛋白質漏出および出血を最適に減少させることにより、自生の表面活性物質の不活化および重篤な肺機能の損失、多臓器不全および患者の30〜40%に死をもたらす肺における炎症性滲出液の発現も防ぐことができる。
【0178】
プロテアーゼ阻害剤としては、ヒト白血球エラスターゼ阻害剤などのエラスターゼ阻害剤、ヒト分泌白血球プロテアーゼ阻害剤(SLPI)、アルファ1−プロティナーゼ阻害剤(またはアルファ1−抗トリプシン)および他のクニッツ阻害剤またはセリンプロテアーゼ阻害剤が挙げられる。本発明の使用に好適なさらなるプロテアーゼ阻害剤は上に記載している。
【0179】
抗酸化剤の例としては、EUK134、カタラーゼ、グルタチオン、N−アセチルシステイン、プロシステイン、アルファ−トコフェロール、アスコルビン酸、ブチル化ヒドロキシアニソール(BHA)、ブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)、天然フラビジン類(例えば、2,7−ジヒドロキシ9,10−ジヒドロフェナントロ−4,5−bcd−ピラン(米国特許第6,503,552号明細書を参照)およびこれらの化合物の誘導体が挙げられる。ホスホリパーゼA2阻害剤の一例はLY11−727(Eli Lilly)である。
【0180】
プロテアーゼ活性阻害における前記医薬品組成物の治療的有効性を例示するために実験を行った。試験は最初、ウサギおよび/またはヒト気管支肺胞洗浄(BAL)液におけるエラスターゼ活性の測定に関するアッセイを設定した(実施例3)。ヒト好中球エラスターゼ(HNE)活性を有するサンプルにおいて生じた比色シグナルは410nMにおける光学密度(OD410)と直線的に相関する。次にHNEを阻害するエラスターゼ阻害剤の能力を試験した(実施例4)。前記混合物のOD410と加えた阻害剤の量の対数との間の相関は直線的であり(図5A)、HNE活性が、セリンエラスターゼ阻害剤によりインビトロで阻害されていることを立証している。
【0181】
次に、ARDS(急性呼吸窮迫症候群)を有するヒトおよび実験的に誘導した呼吸窮迫を有するウサギから採取したBAL液におけるエラスターゼ活性を確立された比色アッセイにより測定した。図5Bは、BAL量とOD410との間の直線的相関を示しており、エラスターゼ活性が比色アッセイによって測定できること、また、エラスターゼがARDSを有するヒトのBAL液中に存在することを立証している。
【0182】
同様に、誘導された肺損傷を有するウサギから採取した気管支肺胞(BAL)液について、比色アッセイを実施した(実施例6)。100μg/mlのセリンエラスターゼ阻害剤添加後の各BAL液についても、比色アッセイを実施した。図6Aは、BAL液単独における、また、セリンエラスターゼ阻害剤を添加したBAL液におけるエラスターゼ活性を示している。エラスターゼ活性は、対応するOD410を与えるHNE濃度として表される。エラスターゼ活性は全てのウサギBAL液において見られ、この活性はセリンエラスターゼ阻害剤の添加により、6つのBAL液のうち5つにおいて阻害された。添加されたセリンエラスターゼ阻害剤は、公知のHNE阻害剤(実施例4)であるため、測定されたエラスターゼ活性はHNEによるものと思われる。
【0183】
洗浄液は外因性エラスターゼ阻害剤を含有し得ることに注意する必要がある。これはα1−プロテアーゼ阻害剤、α2−マクログロブリン、SLPI、または他のエラスターゼ阻害剤であり得る。このような阻害剤の存在は、誘導された肺の損傷を有するウサギの気管支肺胞(BAL)液のインビトロアッセイによって示すことができる(実施例6)。図6Aを参照して、ウサギに細菌性リポ多糖(LPS)および抗BSAを気管内投与した(全ウサギ)3時間後(ウサギ6315および6316)または6時間後(6313、6314,6317および6318)ウサギからBAL液を採取した。ウサギ6317と6318には、3時間目に、10mg/kgのBSAを追加投与し、また、抽出されたBAL液は単独で試験したか(交差平行線)、または1μg/mlのHNEと混合後に試験した(黒い実線)。ウサギ6317のBAL液には、かなりの量の遊離エラスターゼが存在し、他の全てのウサギの液はエラスターゼ阻害剤、特にHNE阻害剤の存在を示した。したがって、ウサギBAL液における遊離エラスターゼ活性の不在は、サンプル中のエラスターゼの不在を示すのではなく、エラスターゼは存在しているが阻害されていると思われる。区別するために免疫学的アッセイを実施できた。
【0184】
モデル表面活性剤混合物、セリンエラスターゼ阻害剤および双方の組合わせが、肺の炎症に及ぼす効果を、ARDSウサギモデルで評価した。これらの実験は実施例8から12に詳細に記載されている。本試験のために20匹のウサギを5つの群に分けた。細菌のリポ多糖(LPS)、3時間後にフォルボールミリステートアセテート(PMA)による洗浄によって刺激し、1群〜4群のウサギに肺の炎症を誘導した。さらに、治療として2群のウサギには、モデル表面活性剤混合物、3群のウサギにはセリンエラスターゼ阻害剤、4群のウサギにはモデル表面活性剤混合物とセリンエラスターゼ阻害剤の双方を投与した。5群のウサギは、正常なウサギであり、対照として用いた。前記ウサギを6時間目に殺処理し、右下葉を3回洗浄し、洗浄液は、各ウサギについてプールした(最終洗浄)。損傷の程度および治療効果は、最終洗浄液中に見られる基底膜蛋白質断片と赤血球の量によって測定した。
【0185】
図7Aは、肺損傷を有するウサギから採取した最終洗浄液中に存在する蛋白量の増加を示している。見られた蛋白量は、血漿蛋白質を肺胞空間内へ漏出させる基底膜マトリックスに対する損傷の程度を示し、蛋白量が多いほど肺に存在する損傷が多い。モデル表面活性剤混合物を単独投与された2群ではLPSおよびPMA損傷から生じる蛋白量(略2.5mg/ml)が減少し、モデル表面活性剤混合物とエラスターゼ阻害剤双方を投与された4群では、さらに減少したことを結果は示している。エラスターゼ阻害剤を単独投与された3群が蛋白質レベルの減少を示さなかったのは、恐らくその群の1匹のウサギから得られた異常な高値によるものと思われた。このウサギを除外すれば、3群の平均値は、モデル表面活性剤混合物単独で治療された2群で得られた値に略等しくなる。
【0186】
図7Bは、最終洗浄液中に見られる蛋白質のSDS−ゲル分析に関して、基底膜マトリックス蛋白質に対して、モルモット内で産生された抗体を用いて実施されたウェスタンブロット分析を示している。ウサギ肺基底膜の蛋白質成分は、左枠に提示している。LPSおよびPMAだけで処理されたウサギ、モデル表面活性剤混合物の添加により治療されたウサギ、セリンエステラーゼ阻害剤添加により治療されたウサギ、およびモデル表面活性剤混合物とセリンエステラーゼ阻害剤双方の添加により治療されたウサギのBAL液中の蛋白質成分は、各々、1群から4群の枠に提示されている。正常の未損傷のウサギのBAL液中の蛋白質成分は5群の枠に示されている。これらの枠において、90,000分子量超のバンドは、基底膜に特異的で正常なウサギ血漿に存在しない(データは示していない)。1〜4群の70,000分子量に存在する大きなバンドは、使用された抗血清中の不純物として存在するアルブミンである。低分子量バンド(<10,000分子量)は、基底膜の断片を表す。モデル表面活性剤混合物、エラスターゼ阻害剤、または双方の組合わせのいずれかで治療を受けた動物において、基底膜損傷の改善が見られ定量化できる。
【0187】
動物における損傷の程度の他の尺度は、最終洗浄液中に現れる出血または赤血球(RBCs)数量である。RBCsの存在は、蛋白質の存在に較べると、血球全体がマトリックスに生じた孔を通過できる、損傷の程度がさらに大きいことを示している。図7Cは、最終洗浄液中のRBC数を示している。RBCs数のわずかな低下は、モデル表面活性剤混合物が添加された場合に、損傷のいくらかの改善が見られたことを示唆しており、エラスターゼ阻害剤が添加された場合は損傷のより大きな減少が見られた。モデル表面活性剤混合物とエラスターゼ阻害剤双方の添加もまた、損傷の著しい減少をもたらした。
【0188】
ナイトロジェンマスタードによる処理で循環好中球を欠失したウサギがLPSおよびPMAに曝露した際に、有意な損傷を現さないことが以前示されていた。このことは最終洗浄液におけるこれらのウサギの蛋白質、RBCsおよびエラスターゼがないことにより立証されている(Cochrane,CGら、Am.J.Resp.and Critt.Care Med.、163巻:p.139、2001年)。このことは、インビボでのエラスターゼ源が好中球であることを強く示唆する。ヒト好中球エラスターゼ活性を阻害するモデル表面活性剤混合物単独、セリンエラスターゼ阻害剤単独、および双方の組合わせの能力を評価した。図8は、エラスターゼ阻害剤によるHNE活性の著しい阻害を、モデル表面活性剤混合物のさらなる存在の有無に関して示している。モデル表面活性剤混合物は、エラスターゼを阻害するエラスターゼ阻害剤の能力を妨害しないが、それ自体で直接エラスターゼを阻害もしない。
【0189】
最終BAL液におけるエラスターゼ阻害剤の残余の活性を、既知量のHNEと共に前記BAL液をインキュベートすることによって評価した(実施例12)。その結果を図9に示している。OD410により測定した場合、HNE活性の著しい低下が2〜4群に見られる。HNE活性の低下は、1つ以上のエラスターゼ阻害剤の存在を示している。3群および4群の洗浄液に見られるエラスターゼ阻害は著しいが、これらの群の動物は静脈内経路および気管内経路の双方にとって公知のエラスターゼ阻害剤が投与された。しかし、モデル表面活性剤混合物群(2群)に見られたエラスターゼ阻害もまた、ウサギにおけるSLPIまたはアルファ−1プロテアーゼ阻害剤またはある組合わせなどの内因性エラスターゼ阻害剤による可能性が考えられる。正常なウサギ(5群)およびLPS/PMA陽性の損傷ウサギ(1群)は、この実験において、それらの最終洗浄液中にエラスターゼ阻害剤の存在を示さなかった。しかし、ウサギ#5541(1群)は最終BAL液中に遊離エラスターゼの存在を示した。正常ウサギのBAL液(5群)には検出されなかった。
【0190】
誘導された肺の炎症を有するウサギの肺に見られる蛋白質分解性損傷の源は、白血球から遊離されたエステラーゼの可能性が強いことが、上記の試験によって示された。急性の肺損傷は、肺血管基底膜の分解および血漿蛋白質と赤血球の肺胞空間内への放出を生じさせた。前記動物をモデル表面活性剤混合物、またはセリンエラスターゼ阻害剤または双方の組合わせによって治療することにより、損傷程度が低下した。したがって、モデル表面活性剤混合物およびセリンエラスターゼ阻害剤を含有する医薬品組成物は、肺の炎症損傷の予防および治療に好結果を生じると考えられる。
【0191】
上に特記したように、本発明は、炎症成分が関与していない肺病態を含む種々の肺病態の治療に有利である。喘息およびそれに関連した気管支収縮病態は、アルブテロール、テルブタリン、サルメテロール、フォルモテロールおよび薬理学的に許容できるそれらの塩などの気管支拡張剤を含有する表面活性剤製剤の投与によって有利に治療できる。
【0192】
気管支炎や結核などの肺の細菌感染は、活性剤として抗生物質を含有する表面活性剤によって有利に治療できる。
【0193】
嚢胞性線維症は、デオキシリボヌクレアーゼ送達用に調製された本発明の表面活性製剤の投与によって有利に治療できる。
【0194】
ゆえに、本組成物は、他の有用な薬剤も含むことができる。例えば、以下の薬剤を含み得る:気管支拡張剤、抗生物質、デオキシリボヌクレアーゼ、鎮痛剤またはサイトカインおよびペプチドホルモンなどのポリペプチド。
【0195】
(分布および取り込みの改善)
本節では、肺における薬剤の分布と取り込みの改善に寄与する、上記の表面活性製剤により提供された因子を記載する。薬剤分布の改善は、(i)肺表面における薬剤の展着および散剤の改善、実際には薬剤が肺内へおよび肺を通って移行する有効表面積の増大、および(ii)肺表面における脂質単層を安定化し、したがって肺表面における有利な薬剤移行界面の維持などの因子の組合わせによるものと思われる。
【0196】
図4Aと4Bは、脂質粒子において、肺に送達された活性剤の沈積と展着を脂質展着の有無に関して図示している。図4Aは、展着がある場合(+、白円)およびない場合(−、部分陰影円)の双方における沈積直後の脂質粒子のサイズを図示している。時間が増加するにつれ(図4B)、展着粒子が拡張しつづけ、融解して沈積領域に広い面積の覆いを形成するため、覆われた面積差はより明白となる。展着がない場合、前記粒子は分離して局在化したままであり、それらの内容物を狭く局在化した面積にのみ放出する。
所与のサイズの所与の量の脂質粒子によって覆うことのできる総面積は、粒子脂質により表される単層総面積に関して算出できる。一例として、表面活性剤製剤の1μmサイズの粒子10mgの算出面積は、60cm2であり、すなわち、肺の表面積の0.00125パーセントである。粒子中のリン脂質が単層形態にて分散される展着が存在すると、前記製剤(脂質中に分散した活性剤を含むと考えられる)によって覆われた総面積は肺の表面積の34%と算出される。このように、展着によって、肺の中へ、または肺のいたるところへの薬剤移行のために利用できる肺の総表面積は少なくとも略4桁のオーダーで増加する。
【0197】
薬剤送達のための肺表面積を大きく増加させることに加えて、本発明の表面活性製剤は、圧力下での崩壊に抗して単層を安定化することによって、より効率的な取り込みを促進し、単層を不安定化することなく、肺の単層表面内への脂質取り込みを可能にする。
【0198】
図4Cは、これらの特徴が、患者の肺領域に送達された活性剤の細胞取り込みおよび浸透を増大させる様子を図示している。図の左では、肺表面に沈積した局在化脂質粒子が効果的に覆っているのは、粒子自体の狭い表面積のみであることが示されている。この粒子による薬剤送達は、粒子からの薬剤の拡散速度および/または粒子の溶解速度によって限定されることになる。
【0199】
図の右の図示は、本発明の表面活性製剤を有する粒子における脂質展着の効果を示している。前記図は、粒子の脂質および関連した薬剤が肺表面の単層/空気界面において、より広い表面積にわたって展着したことを示すことが意図されている。そして、薬剤は小嚢浸透、傍細胞浸透または経細胞浸透などの機構による直接的取り込みのため、肺のより広い表面積にわたって分布する。小嚢輸送は、細胞の表面に生じる多数の複雑な機構のかなり粗い表現である。肺胞内の細胞膜は薬剤を含む小嚢を作り出すが、薬剤粒子と細胞膜との間のこのような様式は、自発的に生じ得る。薬剤、特に高分子はこのような経路により、細胞膜を越えて輸送される。傍細胞の取り込みにおいて、活性剤は、循環内への取り込みのため上皮細胞間の傍細胞空間を通って拡散する。経細胞取り込みと浸透は、肺上皮内へ、肺上皮を通って、および肺上皮の外から循環内への直接的取り込みを意味する。
【0200】
また、図3Cは、薬剤送達における展着および単層安定化が肺の病原体、この場合は、肺表面上の細菌に対する治療を増強し得る様子を示している。展着がない場合、脂質粒子は病原体粒子に接触できたり、できなかったりする。展着がない場合、薬剤送達は接触箇所でのみ、または薬剤の拡散作用によって生じる。一方、脂質分散は、病原体を飲み込むことができ、病原体の外表面全体にわたって病原体に薬剤を取り込ませることができる。
【0201】
ここで検討した特徴は、ポリペプチド活性剤が、肺組織に広く分布される必要のある肺の炎症病態の治療に用いられるプロテアーゼ阻害剤、またはホスホリパーゼ阻害剤および抗酸化剤などの化合物を投与する上で特に有用である。さらに、このような特徴は、肺の広い部分に影響を与える肺病態の治療に有用である。なぜならば、投与された薬剤は肺の広い表面積に亘って素早く利用できるからである。また、これらの特徴は、それ自体では容易に拡散できないポリペプチドやペプチドの投与に有用である。肺内の感染部位に浸透する必要のあるペプチド抗生剤などの抗生剤は、効率的に投与され、投与後に肺表面の細菌を攻撃するために容易に利用し得る。
【0202】
(組成物)
プロテアーゼ阻害剤、リパーゼ阻害剤、抗酸化剤および本発明の表面活性剤混合物は、種々の許容できる組成物へと製剤化できる。このような医薬品組成物は、選択された投与経路、すなわち、洗浄、経口、または非経口、静脈内、筋肉内、肺または吸入経路に適合させた種々の形態でヒト患者などの哺乳動物宿主へ投与できる。
【0203】
化合物、例えば、抗酸化剤およびポリペプチド阻害剤または他の化合物が十分に塩基性または酸性であって、安定な非毒性の酸性塩または塩基性塩を形成する場合、塩としてこのような化合物を投与することが適切であり得る。製薬的に許容できる塩の例は、生理学的に許容できるアニオンを形成する酸によって形成された有機酸付加塩、例えば、トシル酸塩、メタンスルホン酸塩、酢酸塩、クエン酸塩、マロン酸塩、酒石酸塩、コハク酸塩、安息香酸塩、アスコルビン酸塩、α−ケトグルタール酸塩、およびα−グリセロリン酸塩である。塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩、重炭酸塩、および炭酸塩などの好適な無機塩もまた形成できる。製薬的に許容できる塩は、当業界に周知の標準的な方法を用いて、例えば、アミンなどの十分に塩基性の化合物を生理学的に許容できるアニオンを供給する好適な酸と反応させることによって得られる。カルボン酸のアルカリ金属塩(例えば、ナトリウム、カリウム、またはリチウム)塩またはアルカリ土類金属(例えば、カルシウム)塩もまた作成される。
【0204】
ポリペプチドの製薬的に許容できる塩としては、例えば、塩酸またはリン酸などの無機酸または酢酸、酒石酸、マンデル酸などの有機酸により形成される酸付加塩(ポリペプチドの遊離アミノ基により形成)が挙げられる。また、遊離のカルボキシル基により形成される塩も、例えば、ナトリウム、カリウム、アンモニウム、カルシウム、または水酸化第二鉄などの無機塩基およびイソプロピルアミン、トリメチルアミン、2−エチルアミノエタノール、ヒスチジン、プロカインなどの有機塩基から誘導できる。
【0205】
このように、プロテアーゼ阻害剤、リパーゼ阻害剤、または抗酸化剤を含有する本発明の組成物は、不活性希釈剤または同化できる食用担体などの製薬的に許容できる媒体と組合わせて、全身的に、例えば経口で投与できる。これらは、硬殻または軟殻のゼラチンカプセルで包含でき、錠剤へと圧縮でき、または患者の食事の食物に直接組み込むことができる。経口治療投与のためには、前記組成物は、1つ以上の賦形剤と組合わせることができ、消化可能な錠剤、バッカル錠剤、トローチ剤、カプセル剤、エリキシル剤、懸濁剤、シロップ剤、カシェ剤などの形態で用いることができる。このような組成物および製剤は少なくとも0.1%の有効化合物を含有する必要がある。前記組成物および製剤のパーセンテージは、もちろん変えることができ、所与の単位剤形の重さの約2%から約60%の間が便利であり得る。このような治療上有用な組成物におけるプロテアーゼ阻害剤、リパーゼ阻害剤、または抗酸化剤の量は、有効な用量濃度が得られるような量である。
【0206】
錠剤、トローチ剤、丸剤、カプセル剤などは、以下のものも含有し得る:トラガントゴム、アラビアゴム、コーンスターチ、またはゼラチンなどの結合剤;リン酸二カルシウムなどの賦形剤;コーンスターチ、ポテトスターチ、アルギン酸などの崩壊剤;ステアリン酸マグネシウムなどの潤滑剤;およびスクロース、フルクトース、ラクトースまたはアスパルテームなどの甘味剤またはペパーミント、ウインターグリーン油またはチェリーフレーバリングなどの芳香剤を加えてもよい。単位剤形がカプセルの場合、上記のタイプの物質に加えて、植物油またはポリエチレングリコールなどの液体担体を含有できる。被覆剤として、あるいは固体の単位剤形の物理的形態を変更するために、他の種々の物質が存在できる。例えば、錠剤、丸剤、またはカプセル剤は、ゼラチン、ワックス、シェラックまたは糖などで被覆できる。シロップ剤またはエリキシル剤は、有効化合物、甘味剤としてスクロースまたはフルクトース、保存剤としてメチルパラベンおよびプロピルパラベン、染料およびチェリー芳香またはオレンジ芳香などの芳香剤を含有できる。もちろん、いずれの単位剤形の調製に用いられるいずれの物質も製剤的に許容できるものであり、使用量において実質的に非毒性でなければならない。さらに、前記有効化合物を徐放製剤および徐放装置に組み込んでもよい。
【0207】
前記有効化合物は、注入または注射により静脈内に、または腹腔内に投与することもできる。活性剤の液剤は、水中で調製でき、場合によっては、非毒性の界面活性剤と混合できる。分散剤もまた、グリセロール、液体ポリエチレングリコール、トリアセチンおよびそれらの混合物中で、および油中で調製できる。通常の貯蔵条件および使用条件下で、これらの製剤は、微生物の増殖を防ぐために防腐剤を含有する。
【0208】
注射または注入に好適な製薬剤形としては、無菌注射、または注入液剤または分散剤の即席製剤のために適合させ、場合によってはリポソームに封入した有効成分を含む滅菌水性液剤または分散剤または無菌散剤を挙げることができる。全ての場合において、最終的な剤形は無菌であり、製造および貯蔵の条件下で安定である必要がある。液体担体または液体媒体は、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、液体ポリエチレングリコールなど)、植物油、非毒性グリセリルエステル、およびそれらの好適な混合物を含む溶媒または液体分散媒体であり得る。適切な流動性は、例えば、リポソームの形成により、分散剤の場合は、必要な粒子サイズの保持により、または界面活性剤の使用により維持できる。微生物作用の防止は、種々の抗細菌剤および抗真菌剤、例えばパラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸、チメロサールなどによって実現できる。多くの場合、等張性試剤、例えば、糖、緩衝剤または塩化ナトリウムを含むことが好ましいであろう。注射用組成物の吸収波長は、前記組成物中における吸収を遅延化する試剤、例えば、モノステアリン酸アルミニウムおよびゼラチンの使用によって実現する。
【0209】
滅菌注射溶液は、必要ならば、上記に列挙された種々の他の成分と共に適切な溶媒中、必要な量のプロテアーゼ阻害剤、リパーゼ阻害剤または抗酸化剤を組み込み、次いでろ過滅菌することにより調製される。滅菌注射用溶液の調製のための滅菌粉末の場合、好ましい調製法は、真空乾燥法および凍結乾燥法であり、これらにより、プロテアーゼ阻害剤、リパーゼ阻害剤または抗酸化剤プラス予め滅菌ろ過した溶液に存在する任意の追加所望成分の粉末が生成する。
【0210】
本発明のプロテアーゼ阻害剤、リパーゼ阻害剤または抗酸化剤の有用な用量は、動物モデルにおけるそれらのインビトロ活性およびインビボ活性を比較することにより決定できる。マウス、および他の動物の、ヒトに対する有効用量の外挿法は、当業界に公知であり;例えば、米国特許第4,938,949号明細書を参照されたい。
【0211】
一般に、液体組成物中の本発明のプロテアーゼ阻害剤、リパーゼ阻害剤または抗酸化剤の濃度は、約0.01〜25重量%、または約0.1〜10重量%である。
【0212】
治療使用に必要なプロテアーゼ阻害剤、リパーゼ阻害剤または抗酸化剤、またはそれらの有効塩類または誘導体の量は、選択された特定の塩のみならず、投与経路、治療している病態の性質、患者の年齢および状態によって変わり、最終的には主治医および臨床医の自由裁量となる。
【0213】
しかしながら一般に、好適な投薬量は、約0.1から約100mg/kgの範囲、例えば、1日当たりレシピエントの1キログラム体重当たり1から50mgなどの1日約1.0から約75mg/kg体重の範囲、または約3から約90mg/kg/日の範囲、または約5から約60mg/kg/日の範囲となる。
【0214】
プロテアーゼ阻害剤、リパーゼ阻害剤または抗酸化剤は;例えば、単位剤形当たり有効成分が5から1000mg、好適には10から750mg、最も好適には50から500mgを含有する単位剤形で投与することが好適である。
【0215】
理想的には、プロテアーゼ阻害剤、リパーゼ阻害剤または抗酸化剤は、肺病態の最適治療を達成するように投与すべきである。経口、静脈内または非経口的に投与される場合、活性剤のピーク血漿中濃度は、約0.5から約75μM、または約1から50μM、または約2から約30μMで達成できる。これはまた、例えば、プロテアーゼ阻害剤、リパーゼ阻害剤または抗酸化剤の場合によっては生理食塩水中、0.05から5%溶液の静脈内注射、またはプロテアーゼ阻害剤、リパーゼ阻害剤または抗酸化剤の約1〜100mgを含有するボーラスとして経口投与によって達成できる。所望の血中レベルは、プロテアーゼ阻害剤、リパーゼ阻害剤または抗酸化剤の約0.01〜5.0mg/kg/hrを供する連続注入、または約0.4〜15mg/kgを含有する間欠注入により維持できる。
【0216】
所望の投薬量は、単一用量または適切な間隔、例えば、1日当たり2回、3回、4回またはそれ以上の副次的用量で投与される分割用量で好適に提供できる。この副次的用量自体を、例えば、注入器からの頻回吸入、または複数点眼の適用のような多くの不連続の厳密ではない間隔投与にさらに分割できる。
【0217】
幾つかの実施形態において、抗酸化剤は細胞に入り、反応性酸素種と反応することにより、細胞内の反応性酸素種の濃度を減少させる。代わりの実施形態において、抗酸化剤は細胞に入るか、周囲の細胞外環境に存在して、反応性酸素種から発生する過酸化物と反応する。
【0218】
本発明の使用に考慮されたプロテアーゼ阻害剤、リパーゼ阻害剤または抗酸化剤を、関心対象部位(肺)に直接送達して、肺の炎症症状を直ちに軽減させることができる。このような送達は、気管支肺胞洗浄、気管内投与、吸入またはボーラス投与により可能である。これらの場合、表面活性剤混合物が含まれる。
【0219】
肺洗浄を実施する方法は当業界で利用できる。例えば、参照として本明細書に組み込まれている米国特許第6,013,619号明細書を参照されたい。例えば、肺洗浄は以下のとおり洗浄できる:
a) ベンチレータによるガス呼気終末陽圧(PEEP)を、調節圧、好ましくは約4から20cm水で哺乳動物の肺区域に適用すること;
b) 製薬的に許容できる水性媒体中の希釈表面活性剤を含有する洗浄組成物を肺の1つ以上の葉または区域に点滴注入すること;および
c) 短い間隔の気道気管支吸引、好ましくは約20から100mm水銀陰圧を用いて、生じた肺液体を肺から除去すること。
【0220】
典型的には、PEEPは、点滴注入ステップ(b)前の予め選択された時間、好ましくは約30分まで適用し、さらにPEEPは、典型的にはステップ(b)と(c)の間、および除去ステップ(c)後の予め選択された時間、好ましくは約6時間まで連続的に適用される。
【0221】
吸入による送達を、さらにここに記載する。代わりの送達手段としては、限定はしないが、静脈内、経口、吸入、カニューレ挿入、腔内、筋肉内、経皮、および皮下投与が挙げられる。
【0222】
本発明の治療組成物は、有効成分として溶解または分散されている、本明細書に記載の表面活性剤混合物、プロテアーゼ阻害剤、リパーゼ阻害剤または抗酸化剤と共に生理学的に耐容性のある担体を含有する。好ましい実施形態において、治療組成物は、治療目的のために哺乳動物またはヒト患者に投与された場合に免疫原性ではない。
【0223】
組成物に溶解または分散された有効成分を含有する製薬組成物の調製は、当業界によく理解されており、製剤に基づいて限定する必要はない。典型的にはこのような組成物は、液体溶液または懸濁液のいずれかの注射液として調製されるが、使用前の液体中の溶液または懸濁液に好適な固体形態も調製できる。この製剤は乳化もできる。
【0224】
前記有効成分は、製薬上許容でき、有効成分と適合でき、本明細書に記載された治療法の使用に好適な量の賦形剤と混合できる。好適な賦形剤は、例えば、水、生理食塩水、デキストロース、グリセロール、エタノールなど、およびこれらの組合わせである。さらに所望ならば、前記組成物は、活性剤の効果を高める湿潤剤または乳化剤、pH緩衝剤などの少量の補助剤を含有することができる。
【0225】
液体担体の例は、活性剤および水の他に物質を含有しないか、あるいは生理的pH値でリン酸ナトリウムのような緩衝剤、生理食塩水またはリン酸緩衝生理食塩水のような両方を含有する滅菌水溶液である。さらに、水性担体は、2種以上の緩衝塩、ならびに塩化ナトリウムおよび塩化カリウムなどの塩、デキストロース、ポリエチレングリコールおよび他の溶質を含有できる。
【0226】
幾つかの実施形態において、液体担体はトロメタミン緩衝系であり、本質的に以下のとおり調製できる。酢酸(AR Select、ACS、Mallinckrodt、ケンタッキー州パリス)を用いてpH7.2±0.5に調整されたpHを有する0.37mlのトロメタミン溶液(トロメタミン注射液、NDC0074−1593−04、Abbott Laboratories、イリノイ州ノースシカゴ)を、0.33ml生理食塩水(0.9%塩化ナトリウム注射液、USP、Abbott Laboratories)と0.30ml水(注射液用滅菌水、USP、Abbott Laboratories)とに混合する。この溶液は滅菌ろ過により滅菌できる。
【0227】
(肺送達用エアロゾル製剤の調製)
本節は、表面活性剤製剤を被験者の肺表面に投与するための乾燥粉剤または液滴エアロゾルを製造するための方法および装置を考慮している。
【0228】
図1は、本発明による加工ステップおよび製剤の概要を提供している。枠10表示の「表面活性剤混合物」とは、リン脂質、展着剤、および肺表面活性蛋白質の混合物を言う。前記表面活性剤混合物は、リポソーム懸濁液のような脂質本体製剤に加工し得る。枠12表示の「表面活性剤製剤成分」とは、表面活性剤混合物の他の成分を言う。活性剤は、製剤に組み込まれている。
【0229】
図1に見られるように、活性剤は、予め形成された表面活性剤混合物、例えば、予め形成されたリポソームに加えて表面活性剤製剤を形成でき、または12でのように表面活性剤製剤成分に直接加えて、枠14によって示される表面活性剤製剤を直接製造できる。前記表面活性剤製剤は、十分に規定された脂質本体、例えば、活性剤を取り込むリポソーム、表面活性剤混合物および活性剤成分の双方を含有する脂質−結晶性または非晶質本体、有機溶媒または有機/水性共溶媒中の上記成分の溶液、またはそれら幾つかのいくらかが脂質−本体形態である懸濁液、および溶質形態の他の成分であり得る。下記から認識されるように、表面活性剤製剤の組成物のみおよびそのものの構造的要件は、上記脂質および薬物成分の全てを含有する好適なエアロゾル粒子形に変換または加工できる。
【0230】
本発明により考慮される種々の加工ステップをここで考慮すると、枠16標識の「凍結乾燥粒子」とは、好ましくは脂質本体の水性懸濁液としての表面活性剤製剤を凍結乾燥して乾燥した塊を形成し、次に例えば、摩砕することにより微粉砕して、1〜5μmサイズ範囲の質量中央空気動力学的径を有する乾燥粉末粒子を含有する組成物を形成する。枠16で示された乾燥粉末粒子を、次に保存し、好適なエアロゾル化装置を用いて、吸入治療(枠26)に、または粒子懸濁液としてエアロゾル化(枠24)に好適な溶媒中の懸濁液に好適な乾燥粒子エアロゾルを製造する。
【0231】
他の実施形態において、本発明は、脂質本体形態で表面活性製剤を含有する水性液滴エアロゾルを生成するために、使用者制御のネブライザまたはエアロゾライザによって枠20に示された液体表面活性製剤を加工することを考慮している。この実施形態の表面活性製剤成分は、エアロゾル液滴に懸濁された規則的な結晶または非晶質脂質粒子に存在し得る。
【0232】
さらに他の実施形態において、表面活性製剤は、枠18に示されるようにスプレー乾燥により加工して、所望の1〜5μmサイズの質量中央空気動力学的径を有するスプレー乾燥粒子を製造する。次に、前記スプレー乾燥粒子を保存して、吸入療法のために上記のエアロゾル化装置で使用者により使用される。粉末粒子は示されるように、乾燥粉末エアロゾルとして送達できるか、または粒子を水性液滴形態におけるエアロゾル化用に水性媒体に懸濁できる。あるいは、枠14と26との間の直接連結により示されるように、液体形態における好適な表面活性製剤、例えば、揮発性生体適合性液体に含まれる製剤溶液または懸濁液は、形成された粒子が活性剤の治療的送達のために直ちに吸入されるエアロゾル化過程で形成し得る。
【0233】
本発明の表面活性製剤のエアロゾル投与による薬物送達の基本原則およびこれらの利点を達成するために好適なエアロゾル形成方法を、さらに以下に記載する。活性剤を送達する上で種々の療法または診断法における肺道に対する本発明の適用も以下に考慮されている。
【0234】
上記のように、本発明の製剤は、溶液製剤または粒子製剤として調製できる。この液体成分または治療薬または双方は、水性溶媒、有機溶媒または混合溶媒に懸濁されたリポソーム、結晶または非晶質脂質本体に取り込むこともできる。
【0235】
リポソーム懸濁液(脂質小胞)は、Szoka,F.Jr.ら、Ann.Rev.Biophys.Bioeng.、9巻:p.467−508、1980年に詳述されるものなど種々の方法により作製できる。本発明のリポソーム表面活性剤組成物は、一般に滅菌リポソーム懸濁液である。これらリポソームは、複数のコンパートメントまたは多層状小胞、単一コンパートメント小胞およびマクロ小胞であり得る。多層状小胞が一般に最も一般的である。多層状小胞(MLV)類は、好ましくは滅菌条件下で簡便な液体−フィルム水和法により形成できる。
【0236】
リポソーム表面活性剤組成物を製造する1つの方法は、表面活性ポリペプチドを選択されたリン脂質と一緒に溶解すること、次いで生じた溶液を水性緩衝液と組合わせることを含む。次に生じた懸濁液を透析して有機溶媒を除く。あるいは、有機溶媒は、蒸発および/または真空に曝露することにより除去できる。このように製造された乾燥脂質/ポリペプチド混合物を、水性緩衝液系に再度水和してリポソームを製造する(Olson,F.、ら、Biochem.Biophys.Acta、557巻:p.9−23、1979年)。
【0237】
使用される好適な緩衝液としては、トリス緩衝液、トロメタミン緩衝液系などが挙げられる。トロメタミンは、トリス、トロメタミン、およびトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタンとしても知られている。種々の好ましい実施形態において、前記組成物は、約6.5〜8.0のpH範囲を有する。
【0238】
前記リポソームは、選択された均一のポアサイズを有する一連のポリカーボネート膜を通してリポソームの水性懸濁液を押し出すことによりサイジングされ得る。特にこの調製は、同じサイズの膜を2回以上通して押し出される場合、膜のポアサイズは、この膜を通って押し出されたことによって生成されたリポソームの最も大きなサイズに一致する。このように製造されたリポソームは、0.03から5ミクロンの範囲にあり得る。均質化法および超音波処理法もまた、100nm以下の平均サイズまでのリポソームのダウンサイジングに有用である(Martin,F.J.,In:SPECIALIZED DRUG DELIVERY SYSTEMS−MANUFACTURING AND PRODUCTION TECHNOLOGY、P.Tyle編集、Marcel Dekker、ニューヨーク、p.267−316、1990年)。
【0239】
リポソーム形成前に治療薬をリポソームに取り込ませることを所望する場合、これは標準的な技術により行うことができる。例えば、リポソームを脂質水和により形成する場合、疎水性薬物を水和される脂質混合物に含ませることができ、また親水性薬物を水和溶液に取り込ませることができる。親水性化合物、例えば、蛋白質の高封入化効率は、逆蒸発相法を使用することにより達成でき、その方法では薬物含有水性媒体を部分的に蒸発した脂質構造に加える。
【0240】
親水性薬物のために高封入化効率を達成する他の方法は、溶媒注入によるものであり、揮発性有機溶媒、例えば、エーテル中の脂質溶液を、薬物の水溶液に注入する。脂質溶液を高脂質濃度への連続注入により、極めて高い封入率、例えば50%以上が達成し得る。
【0241】
溶媒注入法は、図2Aにより一般的に例示されており、この図は、親水性薬物の水溶液または疎水性薬物の有機溶液の、脂質の共溶媒分散液(表面活性剤混合物成分を含有する)への添加、水性希釈液の同時またはその後の添加、および有機溶媒の蒸発によって、取り込まれたまたは封入された薬物を含む脂質粒子(例えば、リポソーム)のバルク製剤を形成することを示している。
【0242】
あるいは、活性剤は、予め形成されたリポソームに添加してもよい。この場合、表面活性ポリペプチド−脂質混合物は、予め形成されたリポソームを含む。化合物が疎水性化合物である場合、前記化合物を、水相媒体の分配により二層膜中への取り込みのため、単にリポソームと接触できる。イオン性で親水性および両親媒性化合物に関して、予め形成されたリポソーム中への高内部封入は、利用できる方法にしたがって、pHまたは他のイオン勾配、例えば、アンモニウム勾配に対する薬物充填により達成できる。
【0243】
図1の20に示されるように、リポソーム形成により、水性液滴形態でのエアロゾル化のために液体懸濁液として保存できるか、または図1の16、22に示されるように、リポソーム形成により凍結乾燥、粉末化でき、乾燥粉末エアロゾルとして投与できる。あるいは、リポソーム懸濁液は、18のとおりスプレー乾燥でき、粉末エアロゾルとして投与するために粉末形態で乾燥脂質粒子を形成する。
【0244】
冷凍乾燥(凍結乾燥)は、溶液または懸濁液から乾燥粉末を製造するための1つの標準的な方法である。例えば、Freide,M.ら、Anal.Biochem、211巻:p.117−122、1993年;Sarbolouki,M.N.およびT.Toliat、PDA J.Pharm.Sci.Technol.、52巻(1):p.23−27、1998年)。凍結乾燥後、乾燥表面活性剤製剤を、例えば摩砕または他の従来の手段により微粉砕して所望のサイズの粒子を形成する。
【0245】
最近、液化ガスの臨界特性を使用できる方法が、治療用蛋白質を含有する微粒子および粉末の生成に使用されている(Niven,R.W.,In:MODULTED DRUG THERAPY WITH INHALATION AEROSOLS:REVISITED、A.J.Hickey編集、Marcel Dekker、ニューヨーク)。好ましい結晶の晶へきおよび吸入目的に好適な特性を有する粒子は、これらの方法により調製できる。例示的超臨界流体加工法としては:超臨界流体の迅速展開(RESS)、粒子を調製するためのガス−逆溶剤(GAS)沈降の使用、および超臨界流体の溶液−強化分散液(SEDS)が挙げられる(米国特許第5,301,644号明細書;米国特許第5,707,634号明細書;米国特許第5,770,559号明細書;米国特許第5,981,474号明細書;米国特許第5,833,891号明細書;米国特許第5,874,029号明細書および米国特許第6,063,198号明細書を参照)。
【0246】
スプレー乾燥はまた、所望のサイズの乾燥脂質粒子を製造するために有利に使用できる。(Master,K.、SPRAY DRYING HANDBOOK、第5版、J.Wiley & Sons、ニューヨーク、1991年;Maa,Y.F.ら、Pharm.Res.15巻(5):p.768−775、1998年;Maa,Y.F.ら、Pharm.Dev.Technol.、2(3):p.213−223、1997年を参照)。種々のスプレー乾燥法は、特許文献に記載されている、例えば、米国特許第6,174,496号明細書;米国特許第5,976,574号明細書;米国特許第5,985,284号明細書;米国特許第6,001,336号明細書;米国特許第6,015,256号明細書;米国特許第5,993,805号明細書;米国特許第6,223,455号明細書;米国特許第6,284,282号明細書;および米国特許第6,051,257号明細書を参照されたい。
【0247】
使用され得る1つのスプレー乾燥装置は、乾燥タンクを有するサイクロンドライヤーである。液体混合物を乾燥タンクに給送し、温ガス(例えば空気または窒素)または他の不活性ガスをタンクの上部に圧入する。給送液体をタンクに入ったときに分解し、これをタンクの底部に運ばれたときに温ガスにより乾燥し、そこから採取ユニットに運ばれる。公知の加工パラメータに従って、溶媒、注入速度、温ガス流速を調整して所望のサイズの乾燥粒子を製造できる。この場合、例えば1〜5μm範囲で平均流体力学的径を有する粒子を使用できる。この手順において、乾燥温度は、少なくとも約37℃、好ましくは40℃超で、100℃超も良好であり得る。採取チャンバ内の温度は、加熱空気よりも実質的に低い。この一般法は、図2Bに例示され、この図は、表面活性剤混合物成分も含んでいる好適な共溶媒溶液に加えられた疎水性または親水性薬物を示している。生じた混合物をスプレー乾燥してバルク粉末製剤中の所望のサイズ乾燥粒子を製造する。次いでこれらの粒子を包装して、好ましくは乾燥条件下で乾燥粒子を肺に投与するためにエアロゾライザに使用されるまで貯蔵できる。
【0248】
図3Aおよび3Bは、この方法により製造できるタイプの乾燥脂質粒子の顕微鏡写真である。図3Aは、全て狭いサイズ範囲ではあるが、種々の形態を有する非晶質粒子を示している。図3Bに示される粒子は、よく規定された結晶形状を有する結晶性粉末粒子である。両タイプの粒子は、本発明に好適ではあるが、しかし、2つの状態間の遷移が、有効製薬成分の物理化学的安定性に影響を及ぼす可能性があり、また吸入器から分散されて解凝集される粉末の能力に直接影響を及ぼす可能性があることから一旦形成された粒子は、最初の状態で維持されることが好ましい。これらの変化はまた、粒子の薬物動態特性に影響を及ぼす可能性がある。一般に、非晶質粉末が結晶形への遷移を起こす傾向に影響を及ぼす因子としては、湿気、親水性薬剤、不純物、温度および時間が挙げられる。非晶質粉末が結晶状態への遷移を起こす傾向を減じ得る因子は、蛋白質とポリマー類、および疎水性物質の存在である。遷移に影響を及ぼすこれら幾つかの因子の中で、温度と湿気が最も重要であり、エアロゾル化前に適度の保存温度下での乾燥状態で粒子を保存する必要性を強調する。
【0249】
懸濁粒子または乾燥粒子を形成する方法にかかわらず、粒子は、1〜5ミクロンの範囲で所望のMMADを得る条件下で形成される。肺の深い組織に影響を及ぼす肺の病態(例えば、肺気腫)の治療のためなど、粒子を活性剤を肺深くに送達させることを意図する場合、前記粒子は、主として1〜3または1〜2ミクロンMMADサイズ範囲であることが好ましい。薬物送達が気道を標的にする場合、より大きな粒径、例えば3〜5MMADサイズ範囲がより適切となり得る。
【0250】
前記製剤は、リポソームまたは他の脂質粒子の水性懸濁液であるが、種々の市販のネブライザは、所望のエアロゾル粒子を製造するために使用できる。噴霧操作は、典型的には約10〜50psigの圧で実行され、形成される水性粒子は、典型的には約2〜6ミクロンの範囲である。装置は、公知の操作変数により、エアロゾル化リポソームまたは脂質ベースの粒子の測定量を生じるように制御され得る。
【0251】
リポソームの水性懸濁液、および好ましくは約25%〜30%未満の封入水性容量を含有する比較的希釈された懸濁液をエアロゾル化するために好適な他の装置は、担体流体を細かいミストの水性粒子に分解するために超音波エネルギーを使用する。超音波ネブライザ装置は、粒径が圧縮エアネブライザにより形成されるものと同一、すなわち約2〜6ミクロンの間にあるリポソームエアロゾルミストを生じることが見出された。
【0252】
水溶性のリポソーム−透過性薬物の送達のために使用されるタイプの濃縮リポソーム分散液をエアロゾル化するために、分散液を最初に担体溶媒と混合して、エアロゾル化され得る希釈分散液を形成する。前記担体溶媒は水性媒体であってもよく、その場合、分散液は希釈されるか、または空気式または超音波ネブライザによるなど、スプレーするのに好適な形態に適合させる。加えられる添加物量は、分散液をスプレーするのに好適にするのに十分であり、例えば、約30%未満の全封入容量を含有する。前記分散液が全分散容量の70〜75%の初発封入容量を有していると仮定すると、所与の容量の分散液は、少なくとも1容量および2容量の希釈剤で希釈しなければならない。
【0253】
あるいは、表面活性剤成分を、下記に挙げたように好適な揮発性で生体適合性の溶媒中に溶解または懸濁して、(i)最初スプレー乾燥粒子を形成し、および(ii)たった今形成された粒子の肺への吸入を導く条件下で好適なエアロゾライザ装置からスプレーできる。
【0254】
本節は、乾燥脂質粒子の風媒性懸濁液を製造するためにデザインされた種々の自給式送達装置を記載する。本明細書に定義される「自給式」とは、粒子エアロゾルが、加圧フルオロクロロ炭素系噴射剤の放出、または使用者によってその装置を通して吸い込まれる、または装置内に生成される空気流のいずれかによる異なる圧により噴射される自給式装置に生じることを意味する。乾燥粉末に対する従来の粉末用エアロゾライザが好適であることも認識されよう。
【0255】
脂質粒子/噴射剤懸濁液。この装置またはシステムは、噴射剤に懸濁されている乾燥脂質粒子の計量された量を送達するための従来の加圧噴射剤スプレー装置を使用する。前記システムは、好適な噴射剤中の脂質粒子、例えば、リポソームの長期に亘る懸濁液を必要とすることから、前記懸濁液の脂質粒子および噴射剤成分は、貯蔵時の安定性のために選択しなければならない。
【0256】
数種のフルオロクロロ炭素系噴射剤溶媒は、自給式吸入装置に使用されているか、あるいは提案されている。代表的溶媒としては、「フレオン11」(CCl3F)、「フレオン11」(CCl2F2)、「フレオン22」(CCHlF2)、「フレオン113」(CCl2FCClF2)、ならびにその他が挙げられる。脂質粒子/噴射剤懸濁液を形成するために、乾燥脂質粒子を、選択された噴射剤または噴射剤混合物に加えて、全噴射剤の重量パーセントの約1から30重量パーセント、好ましくは、約10〜25重量パーセントの間の最終脂質粒子濃度にする。薬物が、噴射剤懸濁液の乾燥脂質粒子に封入されたままである水溶性化合物である場合、噴射剤中の脂質粒子の最終濃度を調整して、所与のエアロゾル懸濁液容量で薬物の選択された計量投与量を得る。このように、例えば、リポソームが、1mg乾燥リポソーム製剤当たり0.05mg薬剤を含有するように製剤化されて、投与される薬剤の選択された投与量が1mgである場合、この懸濁液は、エアロゾル1回投与当たり20mgの乾燥リポソームを含有するように製剤化される。
【0257】
脂質溶解性薬物、すなわち、噴射剤溶媒に容易に溶解するものに関して、2つの製剤化アプローチが可能である。第1に、薬物を最初に、乾燥脂質粒子を形成するのに使用される脂質に含ませ、次にこれらを、上記の薬物/噴射剤容量の選択された濃度を与える量で噴射剤に加える。あるいは、薬物を、選択された薬物濃度で最初に溶媒に加えてもよい。この製剤中の脂質粒子は、エアロゾル形成および溶媒蒸発時に薬物のための脂質貯蔵所として作用する「空の」乾燥粒子である。空の脂質粒子の最終濃度を、薬物の計量された量を保持するのに好適な都合のよい全脂質用量を与えるように調整する。
【0258】
噴射剤中の脂質粒子の飛沫同伴。この装置、またはシステムにおいて、薬物の計量投与量を含有する乾燥脂質粒子を、送達用パケット中脱水形態で予め包装される。前記パケットは、噴射剤スプレー装置と共に使用されて、リポソーム粒子の風媒性懸濁液中のパケットのリポソーム内容物を噴出させる。
【0259】
空気中の脂質粒子の飛沫同伴。送達装置またはシステムの第3のタイプは、乾燥脂質粒子を飛沫同伴させ、これらを使用者の気道に引き込ませるために、使用者の吸入により生じた空気流を利用する。操作において、好ましくは、上記のパケットの「内部」端でシールを破裂させ、パケットの他端を開封する様式で、パケットをノズル上に配置する。ここで使用者は、マウスピースの近くに唇を置き、力強く吸入して、吸入器のパイプ内にかつパイプを通して迅速に空気を引き込む。パイプに引き込まれた空気をノズルで濃縮されて、パケットから対流領域内に脂質粒子を運ぶ高速度の空気流を引き起こす。前記空気流と飛沫同伴されたリポソームをパドルに当てて、回転を起こさせて対流性流れを設定する。したがって、脂質粒子は、吸入により使用者の気道に引き込まれる直前に、より均等かつより広い断面積にわたり分布される。
【0260】
あるいは、脂質粒子は、患者の吸入呼吸と独立して粉末を分散し、エアロゾル化するのに必要な力を提供する装置内に保持できるあろう。吸入操作内での投与時機はまた、送達系内に取り込まれたセンサーにより制御され得る。
【0261】
以下の実施例は、限定はしないが、本発明を例示するように意図されている。
【実施例】
【0262】
(実施例1:表面活性蛋白質/ポリペプチドの調製)
本発明の表面活性ポリペプチド、例えば、KL4の合成は、種々の公知の合成法に従って実施できる。以下の方法を例示として記載する。
【0263】
あるいは、以下の方法もまた、ここに記載されているように使用される。表面活性ポリペプチドの合成バッチ、例えば、KL4ペプチドのバッチに有用な化学物質および試薬としては、以下のものが挙げられる:
t−Doc−L−リジン(C1−Z)PAM−樹脂(t−Bcc−L−Lys(C1−Z)(Applied Biosystems、カリフォルニア州フォスターシティー);
a−Boc−ε−(2−クロロ−CBZ)−L−リジン(Bachem、カ リフォルニア州サンディエゴ);
N−Boc−L−ロイシン−H2O(N−Boc−Leu;Bachem);
ジクロロメタン(DCM;EM Science、ニュージャージー州ギッブスタウン、またはFisher、ペンシルバニア州ピッツバーグ);
トリフルオロ酢酸(TFA;Halocarbon);
ジイソプロピルエチルアミン(DIEA;Aldrich、ミシガン州アルドリッチ);
N,N−ジメチルホルムアミド(DMF;EM Science、ニュージャージー州ギッブスタウン);
ジメチルスルホキシド(DMSO;Aldrich);
N−メチルピロリドン(NMP;Burdick Jackson、ミシガン州ムスケゴン);
1−ヒドロキシベンゾトリアゾール水和物(HOBt;Aldrich);
1,3−ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC;Aldrich);
無水酢酸(Ac2O:Mallinckrodt、ミズーリ州セントルイス);
フッ化水素(HF;Air Products、ペンシルバニア州、アレン タウン)。
【0264】
KL4ペプチドの1つの合成手段は、Merrifield法を用いてカップラー296ペプチドシンセサイザ(Vega Biotechnologies、アリゾナ州ツーソン)上で実施される。「典型的」合成は、以下に記載する。鎖延長は、下表2に記載されている方法により100gのリジンPAM−樹脂上で実施された。ステップ7、10および11以外の全ステップは、自動的になされた。
【0265】
【表2】
【0266】
ペプチド−樹脂が脱保護され、適切なアミノ酸誘導体が作製された。適切なアミノ酸を1リットルのNMPに溶解した。透明な溶液が得られた後、HOBtを溶液に加えた。HOBtを溶解したら、DCCを溶液に加えた。この溶液を室温で1時間攪拌を続けた。この攪拌1時間の間、副産物のジシクロヘキシル尿素(白色沈殿)が形成された。この副産物を、Whatmanの#1ろ紙を用いてブフナーロートを通してろ過した。次にろ液を手動で、ステップ番号7でのVega296反応容器の内容物に加えた。
【0267】
次にシンセサイザをステップ番号9の完了後中止させるようにプログラム化した。ペプチド樹脂の一定分割量をSarinらの定量的ニンヒドリン試験に供した。(Applied Biosystems 431A user manual,添付資料A)。カップリング効率は、全合成を通して良好であった。未反応のペプチド樹脂を、ロイシン12(サイクル9)およびロイシン5(サイクル16)の後アセチル化した。各アセチル化後、ペプチド樹脂をジクロロメタンで洗浄した(表2、ステップ11を参照)。
【0268】
合成の終わりに、完了ペプチド樹脂をプログラムのステップ1〜3を完了することにより脱保護(Boc基の除去)した(表2参照)。次いで脱保護ペプチド樹脂を十分な量の無水エタノールで洗浄し、P2O5により真空乾燥した。脱保護ペプチド樹脂の乾燥重量は256.48グラムであった。このバッチは、0.64ミリモル/グラムの置換で100gのt−Doc−L−リジン(C1−Z)OCH2PAM−樹脂によって開始したことから、充填量は64ミリモルに相当した。最初の100グラムの樹脂を差し引くと、この重量は156.48グラムであった。新生保護ペプチドの分子量(樹脂上に固定されたC−末端リジンを除いて)は、3011.604g/モルであった。
【0269】
HP開裂。ペプチド樹脂の256.48グラムロットを、3つの大きな一定分割量でフッ化水素(HF)で処理した。Peninsula Laboratories(カリフォルニア州ベルモント)からのタイプV HF−反応装置を、液体フッ化水素を用いてペプチド樹脂の開裂のために用いた。使用前にアニソールを蒸留した。HFは、何ら処理することなく、用いた。ドライアイス、イソプロパノールおよび液体窒素を冷却目的で必要とする。
【0270】
最初のHFに関して、略88gのKL4ペプチド樹脂を、磁気攪拌バー付の1リットル反応容器に入れた。25mlの蒸留アニソールをペプチド樹脂に加えた。全システムを組立てリーク試験が終わったら、全レベルが約300mlに達するまでHFを反応容器に凝縮させた。樹脂からペプチドの開裂は、−4℃で1時間進行させた。HFの部分的除去は、1〜2時間水アスピレータによりなされた。1〜2時間後、HFの残りを高度真空(機械的真空ポンプ)により1〜2時間除去した。反応容器の温度は、HF除去工程を通して−4℃に維持した。
【0271】
次にHF装置を大気圧と平衡させて、油状スラッジが反応容器の底部に見られた。冷無水エーテル(700ml、予め−20℃に冷却)を反応容器の内容物に加えた。樹脂凝集塊をガラスロッドを用いてエーテルで粉砕した。樹脂を沈降させた後エーテルをデカントした。次に樹脂を500mlの室温のエーテルで洗浄するために約5分間攪拌した。樹脂を沈降させた後エーテルをデカントした。樹脂が易流動性になるまで洗浄した(全部で4〜5回洗浄)。この樹脂を換気フードに残し、一晩乾燥した。
【0272】
生じた乾燥HF処理樹脂を次に秤量し、フリーザーに保存した。1.021gの乾燥HF処理樹脂を取り出し、50mlの50%酢酸/水で抽出するために30分間攪拌した。樹脂をあら目焼結ガラスロートを通してろ過し、ろ液を凍結乾燥ジャーに採取した。ろ液を略200mlの水で希釈し、シェル凍結して凍結乾燥器に置いた。1グラムの抽出されたHF処理樹脂は、569mgの粗製ペプチドを生じた。下表(表3)は、残りのKL4ペプチド樹脂の大スケールのHF処理を要約している。全てのHF処理樹脂をフリーザーに保存した。
【0273】
【表3】
【0274】
精製。前記ペプチドは、Dorr−Oliver法B分取HPLC(Dorr−Oliver社、コネチカット州ミルフォード)を用いて精製した。このユニットは、Linear Model 204分光光度計およびKippおよびZonenデュアルチャネルレコーダに接続した。この分取用HPLCは、15〜20ミクロン、および300AポアサイズのVydac C4支持体(Vydac、カリフォルニア州ヘスペリア)が詰められた放射状圧縮10×60cmカートリッジ、を含有するWaters KIL250 Column Module(Waters Associates、マサチューセッツ州ミルフォード)と接続した。溶媒「A」は、水中0.1%HOAcからなり、溶媒「B」は、アセトニトリル中0.1%HOAcからなった。流速は、400ml/分に設定し、カートリッジは、150〜200psiに圧縮し、分取用HPLCシステムバック圧は、550〜600psiであった。
【0275】
最初のDorr−Oliver操作に関して、20gのHF#1からのHF処理樹脂を、500mlの氷酢酸中5分間抽出した。水(500ml)を樹脂/酢酸混合物に加えた。この50%酢酸/水溶液をさらに25分間攪拌した。樹脂をあら目焼結ガラスロートを通してろ過した。ペプチド含有ろ液を保存して、Dorr−Oliver上に充填した。用いられたHPLC勾配は、45分の1〜40%「B」であり、次いで7分間、一定組成で保持した。この時点で、パーセント「B」を1分当たり1%増加し、44%の最終パーセントに増加した(示さず)。
【0276】
フラクションを手動で集めて、HPLCにより分析した。≧95%の純度に合致する全てのフラクションを一緒にプールし、大きなガラス容器に保存した。引き続きこの物質を「BPS#1」と称した。95%以上の純度に合致しないが、所望の成分を有した全てのフラクションを集めて後でリサイクルした。少なくとも10回の追加の分取HPLC操作を、Dorr−Oliverユニット上で実施した(データは示さず)。
【0277】
逆浸透、凍結乾燥。BPS#1の全量は、略60リットルであった。逆浸透は、最終2リットル容量にペプチド溶液を濃縮するために用いられた。ペプチドを保持するR74A膜付のMillipore Model 6015 Reverse osmosis Unitを用いた。生じた2リットルのBPS#1を、2枚のWhatmanの#1ろ紙を用いてブフナーロートを通してろ過し、凍結乾燥用ジャーほぼ11台分に分けて、等容量の水で希釈した。前記凍結乾燥用ジャーをシェル凍結して凍結乾燥した。この手順の最後の乾燥KL4ペプチドの全重量は、40.25gであった。
【0278】
再凍結乾燥。異なる凍結乾燥条件(例えば、ペプチド濃度、凍結乾燥される溶媒組成、凍結乾燥ステップの長さ、シェル温度など)は、異なる溶解度特性を有する乾燥製剤を生じ得ることが判明した。乾燥KL4ペプチドが1mg/mlでクロロホルム:メタノール(1:1)溶液に溶解性であり、10mg/mlで≧90%溶解性であることが望ましい。これらの評価基準が、上記の凍結乾燥の最終段階で合致しない場合、このペプチドは再凍結乾燥し得る。
【0279】
典型的な再凍結乾燥を以下に記載する。略5gのペプチドを、ガラスフラスコ中で攪拌している2リットルのアセトニトリルに徐々に加える。略1分後、3リットルのMilli−Q水を加え、次いで50mlの酢酸(酢酸の最終濃度=1%)を加える。これを37℃で3日間攪拌して、ブフナーロート中のWhatmanの#1ろ紙を通してろ過し、凍結乾燥用ジャーに入れる。次いでドライアイスとイソプロピルアルコールとを用いてシェル凍結して凍結乾燥器に置いた。凍結乾燥時間は、3日から7日に変えることができる。次に最終乾燥生成物を秤量し、包装し、溶解度分析および化学分析用に一定分割量を取る。
【0280】
(実施例2:モデル表面活性剤混合物の調製)
材料。1,2−ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)、1−パルミトイル,2−オレオイルホスファチジルグリセロール(POPG)、およびパルミチン酸(PA)を、Avanyi Polar Lipids社(アラバマ州バーミンガム)から入手した。アミノ酸配列
【0281】
【化25】
【0282】
(配列番号1)を有するKL4ポリペプチドを、本明細書中に記載されたように合成するか、またはDiscovery Laboratories社(ペンシルバニア州ドイルスタウン)から入手した。使用した全ての塩類、緩衝剤および有機溶媒類は、特級を入手できた。
【0283】
表面活性剤組成物のストック溶液を、以下の式:
PLT=総リン脂質=DPPC+POPG
3DPPC:1POPG
1PLT:0.15PA:0.027KL4ペプチド
に基づく組成物と共に40mg/mlの総リン脂質を含有するように製剤化した。
【0284】
前述式を用いて、可変量のパルミチン酸(PA)および1mL当たり2.5から30mgの総リン脂質中のKL4ペプチドを含んだ表面活性剤組成物を作製した(表4)。
【0285】
【表4】
【0286】
モデル表面活性剤混合物は、以下のとおり作製された。KL4ペプチド(9mg)、DPPC(225mg)、POPG(75mg)およびPA(45mg)を2.5ミリリットル(ml)の95%エタノール中45℃で溶解した。次にこの溶液を、迅速に渦巻かせながら7.5mlの蒸留H2Oに加え、2mlの500mM NaCl、250mMトリスアセテートpH7.2を加えた。生じた乳白色の懸濁液を37℃で15分間攪拌してから、存在するエタノールを、100容量の130mM NaCl、20mMトリスアセテートpH7.2緩衝液に対し37℃で透析(Spectrapor2;13,000分子量をカットオフ)により除去した。透析は、透析溶液を2回変えて48時間続けた。
【0287】
さらに前記組成物は、最終生成物の1mL当たり以下の組成を有する緩衝系/懸濁液をさらに含み得る(表5)。
【0288】
表5
成分 1mL当たりの量
トロメタミン、USP 2.42mg
氷酢酸、USP トロメタミン緩衝液をpH7.7に
またはNaOH、NF 調整するのに十分な量
NaCl、USP 7.6mg
注射用水、USP 1.0mLまで十分量
このサム(Tham)緩衝液系は、本質的に以下のとおり調製された。酢酸(AR Select、ACS、Mallinckrodt、ケンタッキー州パリス)を用いてpH7.2±0.5に調整されたpHを有する0.37mlのサム(Tham)溶液(トロメタミン注射液、NDC0074−1593−04、Abbott Laboratories、イリノイ州ノースシカゴ)を、0.33ml生理食塩水(0.9%塩化ナトリウム注射液、USP、Abbott Laboratories)と0.30ml水(注射液用滅菌水、USP、Abbott Laboratories)とに混合した。この溶液は滅菌ろ過した。
【0289】
(実施例3:ヒト好中球エラスターゼに関する比色アッセイ)
次の配列MeO−Suc−Ala−Ala−Pro−Val−pNA(配列番号24)を有するペプチドは、エラステターゼ基質として使用された。配列番号24のペプチド基質の100μLの0.425mM溶液を一連のミクロ滴定プレートウェルに入れた。種々の量のヒト好中球エラスターゼ(HNE)をミクロ滴定プレートウェルに入れた。410nM(OD410)での光学密度を用いてエラスターゼ活性を測定し、観測された光学密度を、検量線を作り出すために加えたHNE量に対してプロットした。
【0290】
(実施例4:エラスターゼ阻害剤によるヒト好中球エラスターゼの阻害)
セリンエラスターゼ阻害剤がヒト好中球エラスターゼ(HNE)を阻害する能力を試験するために、標準量の0.125μgHNEを、増加する量のセリンエラスターゼ阻害剤と混合してから実施例3に記載されたエラスターゼ基質を添加した。図5Aにプロットされる阻害曲線は、阻害剤対数量と生じたOD410との間の直線応答を示している。
【0291】
(実施例5:ARDS患者からのBAL液中のエラスターゼ活性)
気管支肺胞洗浄(BAL)液を急性呼吸窮迫症候群(ARDS)のヒトから回収した。エラスターゼ活性に関する比色アッセイを、BAL液の種々の量を用いて実施した。サンプルに添加されたBAL量とOD410との間の用量−応答曲線は、図5Bにプロットされている。
【0292】
他のARDS患者からの洗浄液は、エラスターゼ活性の変量を有した。
【0293】
(実施例6:ウサギBAL液中のエラスターゼ活性)
6匹のウサギを3mg抗BSA/kg(ウサギ6098および6099)で処理するか、または5mg抗BSA/kg(ウサギ6100〜6103)を気管内滴下し、呼吸窮迫を誘導するために10mgのBSAを静脈内投与(6098〜6101)した。気管支肺胞洗浄(BAL)液を、処理6時間後にこれらウサギの肺から取り、エラスターゼ活性の比色アッセイを、これらのBAL液に対して実施した。エラスターゼ活性を、410nmにおける対応するODを与えるHNEの濃度として表される。
【0294】
さらに、同じアッセイを、BAL液に対して100μg/mlのセリンエラスターゼ阻害剤の添加後に実施した。本試験に用いられたセリンエラスターゼ阻害剤は、特異的にHNEを阻害する。図6Aは、これらの成績をグラフとして例示している。全ての場合、エラスターゼ活性を阻害し、測定された蛋白分解活性がHNEによるものであることを確認した。
【0295】
(実施例7:ウサギBAL液中のエラスターゼ阻害剤の証明)
6匹のウサギは、細菌性リポ多糖(LPS)と抗BSAとを気管内に与えて呼吸窮迫を誘導した。動物6317および6318に3時間目に10mg/kgのBSAをさらに与えた。BAL液は、最初の抗BSA投与後3時間目にウサギ6315および6316から取り、6時間目にウサギ6313、6314、6317および6318から取った。BAL液を、単独(交差平行線)または1μg/ml HNEの添加後(中空)試験した。これらの結果は、グラフとして図6Bに表している。有意の遊離エラスターゼが動物6317に存在し;他の全ては、エラスターゼ阻害剤の存在を示した。
【0296】
(実施例8:モデル表面活性剤混合物およびセリンエラスターゼ阻害剤は、炎症時肺のBAL液中に検出された蛋白量を減じる)
材料:
LPS:Minn(List Biological)。5mgバイアル。動物を、8ml/kg中120μg/kgを残す定量的洗浄液により処理した。
【0297】
PMA:(Sigma)5μg/mlに対して生理食塩水またはモデル表面活性剤混合物で希釈した。洗浄のために20ml/kg/ウサギを用い、動物に用量の20%を残した。
【0298】
モデル表面活性剤混合物:(Discovery Labs)10mg/ml。洗浄のために20ml/kg/ウサギを用い、動物に用量の20%を残す。
【0299】
セリンエラスターゼ阻害剤:Elafin(Astra−Zeneca)3mg/mlストック、アジドを除去するために生理食塩水に対し透析:1.3ml/kg Elafinを1.5時間目に静脈内投与し、0.33ml/kgを3時間目に気管内投与し(×2側面)、および0.66ml/kgを4.5時間目に静脈内投与した。
【0300】
125I−BSA:(NEN)200μg/mlBSA/生理食塩水中で、20μCi/mlに希釈した。殺処理30分前に0.4ml/kgを静脈内に使用した。
【0301】
ウサギ:10匹のNZWウサギ、雌雄、2.0〜2.5Kg。
【0302】
手順:
20匹のNZWウサギを、各4匹の動物による5つの処理群に分けた。肺損傷を、2つの生理食塩中のLPS洗浄液および洗浄液により投与3時間目に1つのPMA処理により誘導する。セリンエラスターゼ阻害剤とモデル表面活性剤混合物とを別々に、また一緒に試験をして、これらの因子が炎症の症状を減じ得る程度を確認した。異なる群により受けた処理は以下のとおりである:
1群:動物は、生理食塩中の2つのLPS洗浄液および洗浄液により投与3時間目に1つのPMA処理を受けた。125I−BSAを5.5時間目に静脈内に投与され、6時間目に動物を殺処理した。
【0303】
2群:動物は、生理食塩中の2つのLPS洗浄液、洗浄液により投与3時間目に1つのPMAおよびモデル表面活性剤混合物の治療を受けた。125I−BSAを5.5時間目に静脈内に投与され、6時間目に動物を殺処理した。
【0304】
3群:動物は、生理食塩中の2つのLPS洗浄液および洗浄液により投与3時間目に1つのPMA処理を受けた。セリンエラスターゼ阻害剤の3回の投与は、1.5時間目、3.0時間目および4.5時間目に行われ、125I−BSAを5.5時間目に静脈内に投与された。6時間目に動物を殺処理した。
【0305】
4群:動物は、生理食塩中の2つのLPS洗浄液および洗浄液により投与3時間目に1つのPMAおよびモデル表面活性剤混合物の治療を受けた。セリンエラスターゼ阻害剤の3回の投与は、1.5時間目、3.0時間目および4.5時間目に行われ、125I−BSAを5.5時間目に動物の静脈内に投与された。6時間目に動物を殺処理した。
【0306】
5群:正常な動物を対照として用いた。この動物を、125I−BSA投与を受けた30分後に殺処理した。
【0307】
全ての動物を、低換気圧で室内空気を受ける換気装置で維持した。洗浄直後、動物が、約80以上のSaO2を維持するためのより高い圧および/または酸素を必要とする場合、より高い呼気終末陽圧(PEEP)および/または酸素療法を時間ごとに実施した。
【0308】
動物を殺処理した後、肺を切除し、左主気管支を結んだ。右側下葉を、各回10mlの生理食塩水で3回洗浄した。3回の洗浄液(最終洗浄液)を各動物についてプールし、5μlの20mM BHTを各々プールした洗浄液に加えて酸化を防止した。最終洗浄液プール中の細胞を1000rpmで10分間の遠心分離により除去した。次に表面活性剤ペレットおよび蛋白質に富んだ上澄み液を40,000gで15分間の遠心分離により調製した。左肺区域をホルマリン中に保存し、その他は冷凍した。蛋白含量および最終洗浄液中の赤血球(RBC)を分析した。
【0309】
最終洗浄液中の蛋白含量は、血漿蛋白質が肺胞空間を通ってリークできる基底膜マトリックスに対する損傷レベルを示す。最終洗浄液中の蛋白量が増加すると、肺損傷が増えていることが見られる。各治療群で最終洗浄液中で見られた蛋白量は、図7Aにグラフとして表している。この結果は、LPSおよびPMA損傷から生じた蛋白量(略2.5mg/ml)は、モデル表面活性剤混合物を与えた群では減少し、モデル表面活性剤混合物およびエラスターゼ阻害剤を投与された群ではさらに減少したことを示している。蛋白レベルの減少を示すエラスターゼ阻害剤単独を投与した3群の不成功は、主として群の中の1匹の動物で得られた異常な高い値のためと考えられる(説明図を参照)。この動物を除外すると、3群の平均値は、1.72mg/mlとなり、モデル表面活性剤混合物単独で治療した2群で得られた値と略等しい。エラーバーはSEMを示す。
【0310】
(実施例9:炎症時肺のBAL液に存在する基底膜蛋白断片)
ウサギにおけるLPSおよびPMA損傷は、実施例8に示され、蛋白質の遊離および蛋白分解断片を生じる。SDSポリアクリルアミドゲル上で電気泳動分離後、ウェスタンブロット分析を、試験ウサギの最終洗浄液に存在する蛋白質に対して実施した。基底膜マトリックス蛋白質に対してモルモットで産生した抗体を用いて、洗浄液中の基底膜蛋白質の存在を可視化して確認した。
【0311】
この結果を図7Bに示す。肺基底膜マトリックスの成分は、左パネルに示している。LPSおよびPMA単独で治療(1群)、またはモデル表面活性剤混合物の添加により治療(2群)、またはエラスターゼ阻害剤で治療(3群)、またはモデル表面活性剤混合物およびエラスターゼ阻害剤の双方の治療(4群)をされた代表的ウサギのBAL液中の蛋白質および蛋白質断片を、2〜4群パネルに示す。正常で未損傷のウサギ洗浄液を、5群パネルに示す。未損傷の基底膜マトリックスおよび5群パネルに存在しない低分子量バンド(<10,000分子量)は、基底膜の断片を表す。1〜4群の70,000分子量に存在する大きなバンドは、使用される抗血清中の不純物として存在するアルブミンである。90,000分子量以上のバンドは、基底膜に特異的で正常なウサギ血漿に存在しない(データは示さず)。
【0312】
(実施例10:モデル表面活性剤混合物およびセリンエラスターゼ阻害剤は、炎症時の肺BAL液中の赤血球数を減少させる)
最終洗浄液に現れる出血または赤血球(RBCs)の量は、動物における損傷の他の指標である。洗浄液中の増加蛋白質の存在は、基底膜マトリックスに対する損傷の程度を示すことができるが、RBCsの存在は、血球細胞全体がマトリックスに生じた孔を通過できる、さらに大きな程度の損傷を示している。
【0313】
RBC数の計測は実施例8で得られた最終洗浄液について行われ、各群2匹の動物で得られた結果の平均を図7Cにプロットした。RBC数の僅かな減少はモデル表面活性剤混合物が存在する場合に、損傷の幾らかの改善が見られたことを示唆しているが、セリンエラスターゼ阻害剤が存在する場合は損傷のより大きな減少が見られた。モデル表面活性剤混合物とセリンエラスターゼ阻害剤の双方の添加により、最終洗浄液中に存在するRBCsの数を測定した場合、損傷の有意な減少が生じた。
【0314】
(実施例11:ヒト好中球エラスターゼの阻害)
0.02μgのヒト好中球エラスターゼ(HNE)を、2mg/mlのモデル表面活性剤混合物、100μg/mlのセリンエラスターゼ阻害剤またはモデル表面活性剤混合物とセリンエラスターゼ阻害剤の双方と共に温置した。残っているHNE活性を、上記の比色アッセイを用いてアッセイした。その結果を図8にグラフとして例示している。
【0315】
セリンエラスターゼ阻害剤を添加した場合は、モデル表面活性剤混合物の追加存在があっても、なくても著しい阻害が見られた。モデル表面活性剤混合物は、エラスターゼを阻害するセリンエラスターゼ阻害剤の能力を妨害しないし、またそれ自体で直接エラスターゼを阻害しないことを、このデータは示している。
【0316】
(実施例12:BAL液中エラスターゼ阻害剤によるHNEの阻害)
上記実施例8から10に示されたデータは、LPSおよびPMAによる損傷後6時間でウサギ肺に生じる基底膜マトリックス損傷は、セリンエラスターゼ阻害剤および/またはモデル表面活性剤混合物によりインビボで防止し得ることを示唆した。最終洗浄液(実施例8の記載どおりに調製)中のエラスターゼ阻害剤(単数または複数)(または残存している活性)の存在を調べた。
【0317】
0.02μgのヒト好中球エラスターゼ(HNE)を、各実験群(1群〜5群)の代表のウサギ1匹の最終洗浄液50μlと共に温置した。HNE活性を、実施例1に記載したとおり比色アッセイを用いてアッセイする。そのアッセイ結果を図9にグラフとして例示している。
【0318】
BAL液によるHNE活性の顕著な阻害が2群、3群または4群の動物で見られた。静脈内および気管内経路の双方により公知のエラスターゼ阻害剤を投与された3群および4群の洗浄液で見られたHNEエラスターゼ阻害は極めて顕著であった。モデル表面活性剤混合物群(2群)に見られたエラスターゼ阻害はSLPIまたはアルファ1プロテアーゼ阻害剤またはそれらのある組合わせなど、ウサギ内の内因性エラスターゼ阻害剤によるものであったと考えられる。正常なウサギ(5群)およびLPS/PMA陽性の損傷動物(1群)は、この実験において、それらの最終洗浄液にエラスターゼ阻害剤の存在を示さなかった。しかし、ウサギ#5541(1群)は、最終BAL液中に遊離エラスターゼの存在を示した。正常ウサギのBAL(5群)には何も検出されなかった。
【0319】
(実施例13:洗浄液中ホスホリパーゼA2(PLA2)の検出)
材料と方法
BSAに対して向けられた部分的精製抗体(抗BSA抗体)の気管内投与により開始された肺損傷を受けているウサギから最終洗浄液を採取した。洗浄液中のPLA2活性を検出するための基質として、パルミトイル、オレオイルホスホチジルグリセロール(POPG、Avanti Polar Lipid)を洗浄液中に添加した。POPG基質の添加前に、前記混合物を10mM CaCl2、100mM KClおよび25mM トリス−Cl、pH8.5の最終濃度に調整した。この混合物を37℃で温置した。経時的に一定分割量を取り、POPG基質から遊離したオレイン酸の量を高圧液体クロマトグラフィ(HPLC)により測定した。遊離したオレイン酸量は、C−18HPLCカラムからの溶出時間4.59分でのピーク高さを207nmにおける吸光度で測定して定量した。
【0320】
結果
図10は、ウサギ6015の洗浄液によるPOPGからのオレイン酸遊離速度を図示している。図示されているように、オレイン酸は使用条件下で約40分間、速やかに遊離する。POPGからのこのようなオレイン酸遊離はPLA2が洗浄液中に存在していることを示した。
【0321】
(実施例14:洗浄液ホスホリパーゼA2(PLA2)活性は、抗BSAの気管内投与量と関連する)
材料と方法
BSAを、6匹のウサギに静脈内投与した。ウサギを16ml/kg生理食塩水で1度洗浄し、次いで以下のように抗BSA抗体量を変えて気管内滴下を実施した:
ウサギ6011および6012−2.5mg/kg抗BSA抗体
ウサギ6013および6014−5.0mg/kg抗BSA抗体
ウサギ6015および6016−12.5mg/kg抗BSA抗体
最終洗浄液を集め、前の実施例に記載された最終洗浄液で生じたオレイン酸の検出によりPLA2活性に関して評価した。
【0322】
インビボPLA2活性はまた、集めた最終洗浄液中の遊離脂肪酸(オレイン酸以外)の内因性出現を観測することにより検出した。特にリノレン酸およびリノール酸は、オレイン酸と容易に識別される炭素−炭素二重結合を3セットおよび2セット有し、HPLCにより定量化された。
【0323】
結果
図11は、ウサギ6011、6012、6013、6014、6015および6016から得られた洗浄液と温置30分後POPGからのオレイン酸の遊離を示している。オレイン酸の遊離量が示されるように、PLA2活性度は、動物の気管内に投与された抗BSA抗体製剤量に直接比例している。言い換えれば、2.5mg/kgだけの抗BSA抗体を投与されたウサギは、5.0または12.5mg/kgの抗BSA抗体を投与されたウサギよりもPLA2活性のレベルが低かった。したがって、PLA2活性度は、肺損傷のレベルが増えると増加する。
【0324】
図12は、リン脂質が、損傷の肺組織内でインビボ分解することを例示している。特に、図12は、ウサギ6011、6012、6013、6014、6015および6016から得られた最終洗浄液中に見られる内因性組織からのリノレン酸およびリノール酸の遊離を示している。リノレン酸およびリノール酸の遊離量が示されるように、PLA2活性度は、再び動物の気管内に投与された抗BSA抗体製剤量に直接比例している。
【0325】
(実施例15:洗浄液中のホスホリパーゼA2(PLA2)活性の阻害)
材料と方法
BSAと抗BSA抗体とをウサギ6015に投与し、洗浄液を前の実施例に記載されたとおり、ウサギ6015から得た。化合物3−[3−(2−オキソエチル)−2エチル−1−(フェニルメチル)−1H−インドール−5−イル]オキシ]プロピルリン酸(LY311727、Eli Lilly社、イリノイ州インディアナポリス)を、PLA2阻害剤として用いて、洗浄液中の脂肪酸の出現が、PLA2活性のためで、肺の炎症に有効な治療開発を促進することをさらに確認した。LY311727阻害剤がPLA2活性を調節する能力を、1.2mM CaCl2およびトリス緩衝液、pH8.5の存在下で6015ウサギからの一定の洗浄液量に対して前記阻害剤量を増やしながら添加して試験した。この混合物を37℃で15分間温置してからPOPG基質を加えた。PLA2活性を、前の実施例で記載したとおり、溶出オレイン酸のHPLCピークの高さを用いて測定した。
【0326】
結果
図13は、ウサギ6015から得られた洗浄液と温置30分後POPGからのオレイン酸の遊離が、LY311727阻害剤の量に間接的に比例していることを示している。言い換えれば、前記阻害剤の添加量が増すとPLA2活性量が減少することが見られた。
【0327】
図14は、阻害剤濃度の対数の関数としてPLA2活性をグラフとして例示している。示されるように、阻害剤濃度が増加するとPLA2活性が有意に落下する。
【0328】
(実施例16:抗酸化剤は炎症時の肺の損傷を防ぐ)
材料と方法
用いられた方法は、前述の実施例において用いられたものと同様であった。生理食塩水中5μg/mlの細菌LPSを20ml/kgの投与量を用いて気管支肺胞洗浄(BAL)によって、ウサギ(1.0〜1.5kg)の肺損傷を誘導した。LPS投与2.5時間後に、前記ウサギは、気管支肺胞洗浄により20ml/kgのフォルボールミリステートアセテート(PMA)を投与された。表6および7に示すように、ウサギを各群2匹から6匹の4つの治療群に分けた。LPS投与2.5時間後、1群のウサギは気管内に抗酸化剤カタラーゼを投与した。2群のウサギは、気管内および静脈内にカタラーゼを投与した。3群のウサギは、気管内および静脈内にカタラーゼを投与し、ならびに5mg/mlのモデル表面活性剤混合物(KL4)を気管内投与した。4群のウサギはさらなる治療を受けなかった。(対照)。前記ウサギを、PIPI PEEP 3cmH2O圧で換気した。この試験は6時間で終了した。表6および7の値は、平均±平均値の標準誤差(SEM)である。
【0329】
結果
結果は表6および7に示している。表面活性剤プラスカタラーゼを投与された動物数が非常に少ないため、決定的な結論は下せないが、幾つかの因子により示されるようにカタラーゼの投与により、肺の機能は著しく改善した。
【0330】
【表6】
【0331】
【表7】
【0332】
*0〜4の評価段階にて
表6および7のデータに示されるように、抗酸化剤カタラーゼによる治療は、炎症の破壊的作用から肺組織を防御する。特にカタラーゼの投与は、一般に血中ガスを改善した(一般に、非治療動物よりも治療動物の方がPaO2が高く、またPaCO2が低い)。さらに、治療動物の最終洗浄液中のアルブミン量および赤血球細胞量および湿った肺から乾燥肺の重量は、非治療動物で観察されたものよりも少なかった。最後に、治療動物の肉眼的病理および組織学的病理学は、概して非治療動物よりも良好であった。したがって、肺組織炎症時の抗酸化剤の使用は、炎症に関連する肺組織に対して傷害を制限するか、または減少し得る。
【0333】
(参考文献)
【0334】
【表8】
公表文献および特許の全ては、参照として個々に組み込まれているように、参照として本明細書に援用されている。
【0335】
特定の実施形態および実施例を含む前述の明細書は、本発明の例示的なものを意図しており、限定することを意図していない。多くの変化および修飾は、本発明の真の精神および範囲から逸脱することなく達成できる。
【技術分野】
【0001】
(発明の分野)
本発明は、肺の炎症前または炎症時の肺組織の破壊を防止するための製薬組成物、ならびにこのような組成物を作製して使用する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
(発明の背景)
リパーゼおよび蛋白分解酵素などの内因性分解酵素は、侵入生物、抗原−抗体複合体、およびもはや生物に不要な、または有用ではない特定の脂質ならびに蛋白質の分解に寄与する。正常に機能している生物において、このような酵素は、限定された量で産生され、阻害剤の合成によりある程度調節される。
【0003】
酵素とそれらの阻害剤との間のバランスの乱れにより、酵素を媒介とした組織破壊に至ることがある。このような破壊は、炎症、肺気腫、喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、関節炎、糸球体腎炎、歯周炎、筋ジストロフィー症、腫瘍侵襲および他の種々の病的状態など種々の状態において発生し得る。ある状況において、例えば、敗血症または急性白血病などの重篤な病的過程において、存在する遊離の蛋白分解酵素量は、分泌細胞からの酵素遊離のため増加する。このような異常状態が存在する生物においては、分解酵素の作用を制御する処置が取られない限り、前記生物に対する重篤な損傷が発生し得る。
【0004】
ヒトにおける肺は、この哺乳動物の体容積の6%を含み、多数の小さい気嚢、すなわち肺胞からなる。肺の主要目的は、全身循環によるガス交換を促進することである。したがって、肺胞は、新鮮な肺胞ガスのガス交換をするため混合静脈血を、肺上皮性および内皮性関門を越えて運ぶ広範囲の毛細血管網により灌流される。肺胞膜は、100m2を超える全表面積および1μm未満の厚さを有する。肺胞膜関門の破壊を引き起こす疾患または病態は、肺胞中への液体漏出をもたらし、肺機能の喪失となり得る。
【0005】
例えば、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)とは、重篤なガス交換障害(特に動脈低酸素血症)に関連するが、病因を異にする多数の急性び慢性浸潤性肺病変部に適用される記述用語である。ARDSは、「漏出性」毛細血管応答に関連することが多い。用語の「急性呼吸窮迫症候群」は、多数の臨床的かつ病理学的特徴が乳児呼吸窮迫症候群(IRDS)と共通するために用いられる。IRDSは、肺表面活性物質欠損に関連するが、ARDSは、肺表面活性物質機能障害に関連する。死亡率は50〜60%であり(Shuster Chest 1995年、107巻:1721−26ページにおける調査)、ARDS患者の予後は不良である。
【0006】
肺疾患を予防または治療するために、気管支肺胞洗浄法、気管経由の液体ボーラス投与または薬物溶液のエアロゾル薬物溶液(例えば、噴霧器の使用による)によって、またそれに続いて薬物含有エアロゾル液滴の吸入によって薬物を疾患組織に直接送達し得る。しかしながら、薬物溶液を肺に送っても、薬物またはその投与がどれほど有効であるかは事実上不確かである。例えば、薬物は、ある領域では高濃度で存在し得るが、他の領域では薬物を殆どまたは全く受容せず、肺中の薬物の半減期は、分解または血管系への吸収のため比較的短いと思われる。また、薬物に対するエアロゾル化の効果にも問題がある。薬物は、噴霧器の噴霧作用により分解するか、あるいは酸化により不活化する可能性がある。また、宿主の肺または他の器官への有害作用なしで期間を延長して有効用量を維持できるかは不確かである。乾燥粉末形態での送達用に製剤化された蛋白質は、その生物学的活性を保持するかどうかも予測できない。
【0007】
幾つかの低分子量薬物を含有する製薬組成物(とりわけベータアンドロゲン作用アンタゴニスト)が、喘息を治療するために、肺投与により送達されている。コルチコステロイド類およびクロモリンナトリウムなどの他の低分子量非蛋白質様化合物は、肺吸収を経て全身に投与されている。しかしながら、低分子量薬剤の全てが、肺経由により有効に投与できるとは限らない。例えば、全身作用を目的としたアミノグリコシド抗生物質、抗ウィルス剤および抗癌剤の肺投与は、成果がまちまちである。幾つかの場合において、前記薬物は、刺激性があり、気管支収縮性であることが判明した。したがって、低分子量物質によっても、このような化合物の肺送達が有効な投与手段であるという予測は全く立てられない。一般的には、Peptide and Protein Drug Delivery、V.Lee編集、Marcel Dekker、ニューヨーク、1990年、1−11ページを参照されたい。薬物自体に固有の種々の因子、製薬組成物、送達装置、および特に肺、またはこれらの因子の組合わせが、肺投与の成果に影響を及ぼし得る。
【0008】
このゆえに、肺病態を治療するために現在利用できる組成物と方法を改善する必要がある。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0009】
(発明の要旨)
本発明は、概して肺病態を治療するための組成物と方法に関する。前記組成物は、炎症の間に有効な少なくとも1種の肺表面活性剤ポリペプチドおよび少なくとも1種の組織破壊媒介物阻害剤を含む。炎症の間に有効な組織破壊媒介物としては、炎症応答の一部として哺乳動物体により生成され、かつ哺乳動物組織に損傷を与え、破壊し得る化合物、酵素、または他の因子のいずれかが挙げられる。組織破壊のこのような媒介物の例としては、プロテアーゼ類、リパーゼ類、酸化物などが挙げられる。このような媒介物の阻害剤は、例えば、プロテアーゼ阻害剤、抗酸化剤、リパーゼ阻害剤またはホスホリパーゼ阻害剤であり得る。
本発明は、例えば以下の項目を提供する。
(項目1)
肺表面活性ポリペプチドおよびプロテアーゼ阻害剤を含む肺の炎症の治療、または予防を目的とする液体組成物。
(項目2)
前記プロテアーゼ阻害剤が、トリプシン、キモトリプシン、エラスターゼ、カリクレイン、プラスミン、凝固因子XIa、凝固因子IXa、カテプシンG、ヒト白血球エラスターゼまたはヒト分泌白血球プロテアーゼの阻害剤である項目1に記載の液体組成物。
(項目3)
前記プロテアーゼ阻害剤が、ヒト白血球エラスターゼ阻害剤、アルファ1−プロティナーゼ阻害剤、アルファ1−抗トリプシン、アルファ−1−抗キモトリプシン、ビクニン、C−反応性蛋白質またはそれらの組合わせである項目1に記載の液体組成物。
(項目4)
前記プロテアーゼ阻害剤が、エラフィン(elafin)である項目1に記載の液体組成物。
(項目5)
前記プロテアーゼ阻害剤が、ヒト分泌白血球プロテアーゼ阻害剤である項目1に記載の液体組成物。
(項目6)
前記プロテアーゼ阻害剤が、配列番号14、配列番号15、配列番号16、配列番号17、配列番号18、配列番号19、配列番号20、配列番号21、配列番号22または配列番号23を含むポリペプチドを含む項目1に記載の液体組成物。
(項目7)
前記肺表面活性ポリペプチドが、10個から60個の間のアミノ酸残基を有し、かつ式(ZaUb)cZdにより表される交互の疎水性アミノ酸残基領域および親水性アミノ酸残基領域のアミノ酸配列を含むポリペプチドを含み、式中、
Zは親水性アミノ酸残基であり、Uは疎水性アミノ酸残基であり、aは平均値が1〜5の整数であり、bは平均値が3〜20の整数であり、cは約1から約10の整数であり、およびdは約0から約3の整数である項目1に記載の液体組成物。
(項目8)
Zが、ヒスチジン、リジン、アルギニン、アスパラギン酸、グルタミン酸、5−ヒドロキシリジン、4−ヒドロキシプロリンまたは3−ヒドロキシプロリンである項目7に記載の液体組成物。
(項目9)
Uが、バリン、イソロイシン、ロイシン、システイン、チロシン、フェニルアラニン、および/またはα−アミノブタン酸、α−アミノペンタン酸、α−アミノ−2−メチルプロパン酸、またはα−アミノヘキサン酸などのα−アミノ脂肪族カルボン酸である項目7に記載の液体組成物。
(項目10)
Uが、α−アミノブタン酸、α−アミノペンタン酸、α−アミノ−2−メチルプロパン酸、またはα−アミノヘキサン酸である項目7に記載の液体組成物。
(項目11)
前記肺表面活性ポリペプチドが、アミノ酸配列:
【化1】
を含む項目1に記載の液体組成物。
(項目12)
前記肺表面活性ポリペプチドが、
【化2】
である項目1に記載の液体組成物。
(項目13)
前記肺表面活性ポリペプチドが、アミノ酸配列の配列番号25、配列番号26、配列番号27、配列番号28または配列番号29を含む項目1に記載の液体組成物。
(項目14)
前記組成物が、約0.1から10パーセントの前記肺表面活性ポリペプチドを含む項目1に記載の液体組成物。
(項目15)
前記組成物が、約50から約95乾燥重量パーセントのリン脂質をさらに含む項目1に記載の液体組成物。
(項目16)
前記リン脂質が、約4:1から約2:1のモル比でジパルミトイルホスファチジルコリン、およびパルミトイル、オレオイルホスファチジルグリセロールを含む項目15に記載の液体組成物。
(項目17)
前記組成物が、約2から約25乾燥重量パーセントの展着剤を含む項目1に記載の液体組成物。
(項目18)
前記展着剤が、少なくとも10個の炭素原子の脂肪族アシル鎖長を有する脂肪酸または脂肪族アルコールである項目17に記載の液体組成物。
(項目19)
前記展着剤が、チロキサポールをさらに含む項目17に記載の液体組成物。
(項目20)
前記組成物が、リパーゼ阻害剤または抗酸化剤をさらに含む項目1に記載の液体組成物。
(項目21)
前記リパーゼ阻害剤が、ホスホリパーゼA2阻害剤である項目20に記載の液体組成物。
(項目22)
前記リパーゼ阻害剤が、臭化p−ブロモフェナシル、チエロシン(thielocin)A1ベータ、リポコルチン、アネキシンIまたはガラガラヘビ属ホスホリパーゼA2阻害剤である項目20に記載の液体組成物。
(項目23)
前記リパーゼ阻害剤が、LY11−727である項目20に記載の液体組成物。
(項目24)
前記抗酸化剤が、カタラーゼ、グルタチオン、N−アセチルシステイン、プロシステイン、アルファ−トコフェロール、ローズマリー葉抽出物、2,4−ジアミノピロロ−[2,3−d]ピリミジン、アスコルビン酸、ロイテイン(leutein)、ゼアキサンチン、クリプトキサンチン、ビオラキサンチン、カロテンジオール、ヒドロキシカロテン、ヒドロキシリコペン、アロキサンチン、またはデヒドロクリプトキサンチンである項目20に記載の液体組成物。
(項目25)
前記液体組成物が、気管支肺胞洗浄、経口、静脈内、非経口またはボーラス投与により投与される項目1に記載の液体組成物。
(項目26)
肺表面活性ポリペプチドおよびプロテアーゼ阻害剤を含む肺の炎症の治療または予防を目的とするエアロゾル化組成物。
(項目27)
前記プロテアーゼ阻害剤が、トリプシン、キモトリプシン、エラスターゼ、カリクレイン、プラスミン、凝固因子XIa、凝固因子IXa、カテプシンG、ヒト白血球エラスターゼまたはヒト分泌白血球プロテアーゼの阻害剤である項目26に記載のエアロゾル化組成物。
(項目28)
前記プロテアーゼ阻害剤が、ヒト白血球エラスターゼ阻害剤、アルファ1−プロティナーゼ阻害剤、アルファ1−抗トリプシン、アルファ−1−抗キモトリプシン、ビクニン、C−反応性蛋白質またはそれらの組合わせである項目26に記載のエアロゾル化組成物。
(項目29)
前記プロテアーゼ阻害剤が、エラフィンである項目26に記載のエアロゾル化組成物。
(項目30)
前記プロテアーゼ阻害剤が、ヒト分泌白血球プロテアーゼ阻害剤である項目26に記載のエアロゾル化組成物。
(項目31)
前記プロテアーゼ阻害剤が、配列番号14、配列番号15、配列番号16、配列番号17、配列番号18、配列番号19、配列番号20、配列番号21、配列番号22または配列番号23を含むポリペプチドを含む項目26に記載のエアロゾル化組成物。
(項目32)
前記肺表面活性ポリペプチドが、10個から60個の間のアミノ酸残基を有し、かつ式(ZaUb)cZdにより表される交互の疎水性アミノ酸残基領域および親水性アミノ酸残基領域のアミノ酸配列を含むポリペプチドを含み、式中、
Zは親水性アミノ酸残基であり、Uは疎水性アミノ酸残基であり、aは平均値が1〜5の整数であり、bは平均値が3〜20の整数であり、cは約1から約10の整数であり、およびdは約0から約3の整数である項目26に記載のエアロゾル化組成物。
(項目33)
Zが、ヒスチジン、リジン、アルギニン、アスパラギン酸、グルタミン酸、5−ヒドロキシリジン、4−ヒドロキシプロリンまたは3−ヒドロキシプロリンである項目32に記載のエアロゾル化組成物。
(項目34)
Uが、バリン、イソロイシン、ロイシン、システイン、チロシン、フェニルアラニン、および/またはα−アミノブタン酸、α−アミノペンタン酸、α−アミノ−2−メチルプロパン酸、またはα−アミノヘキサン酸などのα−アミノ脂肪族カルボン酸である項目32に記載のエアロゾル化組成物。
(項目35)
Uが、α−アミノブタン酸、α−アミノペンタン酸、α−アミノ−2−メチルプロパン酸、またはα−アミノヘキサン酸である項目32に記載のエアロゾル化組成物。
(項目36)
前記組成物が、約0.1から10パーセントの前記肺表面活性ポリペプチドを含む項目26に記載のエアロゾル化組成物。
(項目37)
前記肺表面活性ポリペプチドが、アミノ酸配列:
【化3】
を含む項目26に記載のエアロゾル化組成物。
(項目38)
前記肺表面活性ポリペプチドが、
【化4】
である項目26に記載のエアロゾル化組成物。
(項目39)
前記肺表面活性ポリペプチドが、アミノ酸配列の配列番号25、配列番号26、配列番号27、配列番号28または配列番号29を含む項目26に記載のエアロゾル化組成物。
(項目40)
前記組成物が、約50から約95乾燥重量パーセントのリン脂質をさらに含む項目26に記載のエアロゾル化組成物。
(項目41)
前記リン脂質が、約4:1から約2:1のモル比でジパルミトイルホスファチジルコリン、およびパルミトイル、オレオイルホスファチジルグリセロールを含む項目40に記載のエアロゾル化組成物。
(項目42)
前記組成物が、約2から約25乾燥重量パーセントの展着剤を含む項目26に記載のエアロゾル化組成物。
(項目43)
前記展着剤が、少なくとも10個の炭素原子の脂肪族アシル鎖長を有する脂肪酸または脂肪族アルコールである項目42に記載のエアロゾル化組成物。
(項目44)
前記展着剤が、チロキサポールをさらに含む項目42に記載のエアロゾル化組成物。
(項目45)
前記組成物が、リパーゼ阻害剤または抗酸化剤をさらに含む項目26に記載のエアロゾル化組成物。
(項目46)
前記リパーゼ阻害剤が、ホスホリパーゼA2阻害剤である項目45に記載のエアロゾル化組成物。
(項目47)
前記リパーゼ阻害剤が、臭化p−ブロモフェナシル、チエロシンA1ベータ、リポコルチン、アネキシンIまたはガラガラヘビ属ホスホリパーゼA2阻害剤である項目45に記載のエアロゾル化組成物。
(項目48)
前記リパーゼ阻害剤が、LY11−727である項目45に記載のエアロゾル化組成物。
(項目49)
前記抗酸化剤が、カタラーゼ、グルタチオン、N−アセチルシステイン、プロシステイン、アルファ−トコフェロール、ローズマリー葉抽出物、2,4−ジアミノピロロ−[2,3−d]ピリミジン、アスコルビン酸、ロイテイン、ゼアキサンチン、クリプトキサンチン、ビオラキサンチン、カロテンジオール、ヒドロキシカロテン、ヒドロキシリコペン、アロキサンチン、またはデヒドロクリプトキサンチンである項目45に記載のエアロゾル化組成物。
(項目50)
前記組成物が、液体組成物である項目26に記載のエアロゾル化組成物。
(項目51)
前記組成物が、乾燥組成物である項目26に記載のエアロゾル化組成物。
(項目52)
前記組成物が、約1μmから約5μmの空気動力学的径質量中央値を有するエアロゾル粒子を含む項目26に記載のエアロゾル化組成物。
(項目53)
前記組成物が、喘息治療用に製剤化されている項目26に記載のエアロゾル化組成物。
(項目54)
プロテアーゼ阻害剤、リパーゼ阻害剤および抗酸化剤を含む組成物の治療的有効量を哺乳動物に投与することを含む哺乳動物における肺の炎症を治療する方法。
(項目55)
前記肺の炎症が、肺高血圧症、新生児肺高血圧症、新生児気管支肺形成異常症、慢性閉塞性肺疾患、急性気管支炎、慢性気管支炎、肺気腫、気管支梢炎、気管支拡張症、放射線肺炎、過敏症、間質性肺炎、急性炎症性喘息、急性煙吸入、熱性肺傷害、アレルギー性喘息、医原性喘息、嚢胞性線維症、肺胞蛋白症、アルファ−1−プロテアーゼ欠乏症、肺炎症性疾患、肺炎、急性呼吸窮迫症候群、急性肺傷害、特発性呼吸窮迫症候群、または特発性肺線維症と関連する項目54に記載の方法。
(項目56)
前記プロテアーゼ阻害剤が、トリプシン、キモトリプシン、エラスターゼ、カリクレイン、プラスミン、凝固因子XIa、凝固因子IXa、カテプシンG、ヒト白血球エラスターゼまたはヒト分泌白血球プロテアーゼの阻害剤である項目54に記載の方法。
(項目57)
前記プロテアーゼ阻害剤が、ヒト白血球エラスターゼ阻害剤、アルファ1−プロティナーゼ阻害剤、アルファ1−抗トリプシン、アルファ−1−抗キモトリプシン、ビクニン、C−反応性蛋白質またはそれらの組合わせである項目54に記載の方法。
(項目58)
前記プロテアーゼ阻害剤が、エラフィンである項目54に記載の方法。
(項目59)
前記プロテアーゼ阻害剤が、配列番号14、配列番号15、配列番号16、配列番号17、配列番号18、配列番号19、配列番号20、配列番号21、配列番号22または配列番号23を含むポリペプチドを含む項目54に記載の方法。
(項目60)
前記リパーゼ阻害剤が、ホスホリパーゼA2阻害剤である項目54に記載の方法。
(項目61)
前記リパーゼ阻害剤が、臭化p−ブロモフェナシル、チエロシン(thielocin)A1ベータ、リポコルチン、アネキシンIまたはガラガラヘビ属ホスホリパーゼA2阻害剤である項目54に記載の方法。
(項目62)
前記抗酸化剤が、カタラーゼ、グルタチオン、N−アセチルシステイン、プロシステイン、アルファ−トコフェロール、ローズマリー葉抽出物、2,4−ジアミノピロロ−[2,3−d]ピリミジン、アスコルビン酸、ロイテイン(leutein)、ゼアキサンチン、クリプトキサンチン、ビオラキサンチン、カロテンジオール、ヒドロキシカロテン、ヒドロキシリコペン、アロキサンチン、またはデヒドロクリプトキサンチンである項目54に記載の方法。
(項目63)
前記組成物が、非経口的、経口的または静脈内投与される項目54に記載の方法。
(項目64)
前記組成物が、気管支肺胞洗浄、吸入または液体ボーラス投与により肺に投与される項目54に記載の方法。
(項目65)
組成物が、10個から60個の間のアミノ酸残基を有し、かつ式(ZaUb)cZdにより表される交互の疎水性アミノ酸残基領域および親水性アミノ酸残基領域のアミノ酸配列を含む肺表面活性ポリペプチドをさらに含み、式中、
Zは親水性アミノ酸残基であり、Uは疎水性アミノ酸残基であり、aは平均値が1〜5の整数であり、bは平均値が3〜20の整数であり、cは約1から約10の整数であり、およびdは約0から約3の整数である項目54に記載の方法。
(項目66)
前記組成物が、約0.1から10乾燥重量パーセントの前記肺表面活性ポリペプチドを含む項目65に記載の方法。
(項目67)
Zが、ヒスチジン、リジン、アルギニン、アスパラギン酸、グルタミン酸、5−ヒドロキシリジン、4−ヒドロキシプロリンまたは3−ヒドロキシプロリンである項目65に記載の方法。
(項目68)
Uが、バリン、イソロイシン、ロイシン、システイン、チロシン、フェニルアラニン、および/またはα−アミノブタン酸、α−アミノペンタン酸、α−アミノ−2−メチルプロパン酸、またはα−アミノヘキサン酸などのα−アミノ脂肪族カルボン酸である項目65に記載の方法。
(項目69)
Uが、α−アミノブタン酸、α−アミノペンタン酸、α−アミノ−2−メチルプロパン酸、またはα−アミノヘキサン酸である項目65に記載の方法。
(項目70)
前記肺表面活性ポリペプチドが、アミノ酸配列:
【化5】
を含む項目65に記載のエアロゾル化組成物。
(項目71)
前記肺表面活性ポリペプチドが、
【化6】
である項目65に記載の方法。
(項目72)
前記肺表面活性ポリペプチドが、アミノ酸配列の配列番号25、配列番号26、配列番号27、配列番号28または配列番号29を含む項目65に記載の方法。
(項目73)
前記組成物が、約50から約95乾燥重量パーセントのリン脂質をさらに含む項目65に記載の方法。
(項目74)
前記リン脂質が、約4:1から約2:1のモル比でジパルミトイルホスファチジルコリン、およびパルミトイル、オレオイルホスファチジルグリセロールを含む項目73に記載の方法。
(項目75)
前記組成物が、約2から約25乾燥重量パーセントの展着剤をさらに含む項目65に記載の方法。
(項目76)
前記展着剤が、少なくとも10個の炭素原子の脂肪族アシル鎖長を有する脂肪酸または脂肪族アルコールである項目75に記載の方法。
(項目77)
前記展着剤が、チロキサポールをさらに含む項目75に記載の方法。
(項目78)
前記リパーゼ阻害剤が、LY11−727である項目54に記載の方法。
(項目79)
前記プロテアーゼ阻害剤が、ヒト分泌白血球プロテアーゼ阻害剤である項目54に記載の方法。
【0010】
一態様において、本発明は、少なくとも1種のプロテアーゼ阻害剤と共に肺表面活性剤ポリペプチドを含む組成物を含む。リパーゼ阻害剤、ホスホリパーゼ阻害剤および/または抗酸化剤もまた、前記組成物に含むことができる。本組成物は、気管支肺胞洗浄、ボーラス投与液滴、吸入などにより肺に直接投与できる。
【0011】
他の態様において、本発明は、吸入により患者に活性剤を送達するためのエアロゾル化組成物を含む。前記組成物は、少なくとも1種のプロテアーゼ阻害剤と共に少なくとも1種の表面活性剤ポリペプチドを含むエアロゾル粒子を含む。リパーゼ阻害剤、ホスホリパーゼ阻害剤および/または抗酸化剤もまた、前記組成物に含むことができる。
【0012】
本発明の組成物および方法に使用されるプロテアーゼ阻害剤、リパーゼ阻害剤、ホスホリパーゼ阻害剤および抗酸化剤は、いずれも当業者に利用できるような阻害剤または抗酸化剤であり得る。
【0013】
幾つかの実施形態において、前記プロテアーゼ阻害剤は、クニッツ(Kunitz)阻害剤またはセリンプロテアーゼ阻害剤である。例えば、前記プロテアーゼ阻害剤は、トリプシン、キモトリプシン、エラスターゼ、カリクレイン、プラスミン、凝固因子XIa、凝固因子IXa、コラゲナーゼ、カテプシンG、ヒト白血球エラスターゼまたはヒト分泌白血球プロテアーゼを阻害し得る。前記プロテアーゼ阻害剤は、ヒト白血球エラスターゼ阻害剤、アルファ1−プロティナーゼ阻害剤、ヒト分泌白血球プロテアーゼ阻害剤、コラゲナーゼ阻害剤、カテプシンG阻害剤、アルファ1−抗トリプシン、アルファ−1−抗キモトリプシン、C−反応性蛋白質、エラフィン(elafin)またはそれらの組合わせであってよい。幾つかの実施形態において、前記プロテアーゼ阻害剤は、配列番号14、配列番号15、配列番号16、配列番号17、配列番号18、配列番号19、配列番号20、配列番号21または配列番号22を含むポリペプチドを含む。
【0014】
幾つかの実施形態において、前記リパーゼ阻害剤は、ホスホリパーゼA2阻害剤である。前記リパーゼ阻害剤はまた、例えば、臭化p−ブロモフェナシル、チエロシン(thielocin)A1ベータ、リポコルチン、アネキシンIまたはガラガラヘビ属ホスホリパーゼA2阻害剤であり得る。
【0015】
前記抗酸化剤は、例えば、カタラーゼ、グルタチオン、N−アセチルシステイン、プロシステイン、またはアルファ−トコフェロールであり得る。例示的抗酸化剤はまた、EUK134を含む。
【0016】
上記のとおり、肺投与の組成物は、肺表面活性剤ポリペプチドを含有する。前記肺表面活性剤ポリペプチドは、式(ZaUb)cZdにより表される交互の疎水性アミノ酸残基領域および親水性アミノ酸残基領域のアミノ酸配列を有する約10個から約60個の間のアミノ酸残基を有し得、式中、Zは親水性アミノ酸残基であり、Uは疎水性アミノ酸残基であり、「a」は約1〜約5の整数であり、「b」は約3〜約20の整数であり、「c」は約1から約10の整数であり、および「d」は約0から約3の整数である。単一(または複数)阻害剤および/または抗酸化剤は、製剤の1から80乾燥重量パーセント、典型的には2〜50乾燥重量パーセント調合し得る。
【0017】
例示的肺表面活性剤ポリペプチドにおいて、Zが、ヒスチジン、リジン、アルギニン、アスパラギン酸、グルタミン酸、5−ヒドロキシリジン、4−ヒドロキシプロリンおよび/または3−ヒドロキシプロリンであり、Uが、バリン、イソロイシン、ロイシン、システイン、チロシン、フェニルアラニン、および/またはα−アミノブタン酸、α−アミノペンタン酸、α−アミノ−2−メチルプロパン酸またはα−アミノヘキサン酸などのα−アミノ脂肪族カルボン酸である。
【0018】
表面活性剤蛋白質の一クラスが、配列:
【0019】
【化7】
【0020】
を有する。
【0021】
肺投与用組成物は、(i)50〜95乾燥重量パーセントのリン脂質、(ii)肺表面の内層内へのリン脂質の取り込みおよび分布を促進するために有効な2〜25乾燥重量パーセントの展着剤、および(iii)0.1から10乾燥重量パーセントの肺表面活性剤ポリペプチド、の表面活性剤混合物を含有することができる。
【0022】
特定の例示的実施形態において、前記表面活性剤混合物のリン脂質は、4:1と2:1との間のモル比でジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)、およびパルミトイル、オレオイルホスファチジルグリセロール(POPG)を含む。例示的展着剤は、パルミチン酸またはセチルアルコールなどの少なくとも10個の炭素原子の脂肪族アシル鎖長を有する脂肪酸または脂肪族アルコールである。
【0023】
エアロゾル粒子は液体懸濁液から形成されるが、表面活性剤製剤は水性エアロゾル液滴に懸濁し得る。前記粒子が乾燥粉末の形態である場合は、前記粒子を脱水し、または実質的に脱水する。前記エアロゾル粒子は、1〜5μmサイズ範囲で質量中央空気動力学的径を有することができる。
【0024】
本発明はまた、プロテアーゼ阻害剤、リパーゼ阻害剤および抗酸化剤を含む組成物の治療的有効量を哺乳動物に投与することを含む哺乳動物における肺の炎症を治療する方法を提供する。当業者は、組成物を直接肺組織に投与(例えば、気管支肺胞洗浄、ボーラス液滴または気管内投与)することを選択できるが、前記組成物はまた、他の経路、例えば、非経口投与、経口投与または静脈内投与経路により投与できる。肺投与が使用される場合、少なくとも1つの肺表面活性剤ペプチドが組成物に含まれる。
【0025】
本法により治療される肺の炎症は、例えば、肺高血圧症、新生児肺高血圧症、新生児気管支肺形成異常症、慢性閉塞性肺疾患、急性気管支炎、慢性気管支炎、肺気腫、気管支梢炎、気管支拡張症、放射線肺炎、過敏症、間質性肺炎、急性炎症性喘息、急性煙吸入、熱性肺傷害、アレルギー性喘息、医原性喘息、嚢胞性線維症、肺胞蛋白症、アルファ−1−プロテアーゼ欠乏症、肺炎症性疾患、肺炎、急性呼吸窮迫症候群、急性肺傷害、特発性呼吸窮迫症候群、または特発性肺線維症と関連し得る。
【0026】
他の態様において、本発明は、プロテアーゼ阻害剤、リパーゼ阻害剤および抗酸化剤などの活性剤を患者に投与する方法を含む。気管支肺胞洗浄、ボーラス液滴投与または吸入による投与があり得る。この方法は、前記薬剤を(i)50〜95乾燥重量パーセントのリン脂質、(ii)肺表面の内層内へのリン脂質の取り込みおよび分布を促進するために有効な2〜25乾燥重量パーセントの展着剤、および(iii)0.1から10乾燥重量パーセントの肺表面活性剤ポリペプチド、からなる表面活性剤混合物に取り込ませることを含む。後者の成分は、10個から60個の間のアミノ酸残基を含有し、式(ZaUb)cZdにより表される交互の疎水性アミノ酸残基領域および親水性アミノ酸残基領域のアミノ酸配列を有しており、式中、Zは親水性アミノ酸残基であり、Uは疎水性アミノ酸残基であり、「a」は平均値が1〜5の整数であり、「b」は平均値が3〜20の整数であり、「c」は1から10の整数であり、および「d」は0から3の整数である。生じた製剤は、活性剤の1から80乾燥重量パーセント、または2〜50乾燥重量パーセントを含有する。
【0027】
前記製剤は、粒子が1〜5μmの質量中央空気動力学的径を有する粒子組成物に変換できる。前記粒子は、エアロゾル組成物の形態で治療的有効量を患者の気道に投与する。
【0028】
幾つかの実施形態において、前記製剤は、肺への気管支肺胞洗浄により、または例えば、気管チューブを介しての直接的ボーラス投与による投与のための水性製剤である。他の実施形態において、前記製剤の活性剤および他の成分を水性溶媒、有機溶媒または混合溶媒であり得る溶媒中に溶解または懸濁させることにより前記製剤を調製する。前記製剤は、所望の1〜5μm MMADサイズ範囲を有する乾燥粒子を製造するのに有効な条件下で混合物をスプレー乾燥することによりエアロゾル投与用の粒子組成物に変換できる。他の実施形態において、前記製剤は、液体組成物を凍結乾燥して乾燥させ、その乾燥混合物を粉砕して所望のサイズ範囲の乾燥粒子を形成することにより、エアロゾル投与用の粒子組成物に変換できる。
【0029】
液体(例えば、水性)組成物を、気管支肺胞洗浄またはボーラス投与により肺に直接投与できる。液体または乾燥粒子を、エアロゾル形態での吸入により投与できる。前記製剤はまた、水性懸濁形態、例えば、それに懸濁される懸濁製剤粒子を有する液滴を形成するためにエアロゾル化されるリポソーム懸濁液であってもよい。
本発明のこれらの他の目的および特徴は、付随する図面と関連させて本発明の以下の詳細な説明を読むことで、より十分に明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】図1は、本発明のある一定の態様を実施する上で使用される種々の処理工程間の関連を図示する工程系統図である。
【図2】図2Aおよび2Bは、本発明において実施され得る追加の処理工程を図示している。
【図3】図3Aおよび図3Bは、非晶質(3A)および結晶性(3B)脂質本体の顕微鏡写真である。
【図4A】図4Aおよび図4Bは、ゼロ時間における表面活性剤の存在(+)および表面活性剤の不在(−)下で送達される薬物の沈着と展着(図4A)、および肺における経時的細胞内取り込みと浸透性を増強する能力に及ぼす展着効果(図4B)を図示している。
【図4B】図4Aおよび図4Bは、ゼロ時間における表面活性剤の存在(+)および表面活性剤の不在(−)下で送達される薬物の沈着と展着(図4A)、および肺における経時的細胞内取り込みと浸透性を増強する能力に及ぼす展着効果(図4B)を図示している。
【図4C】図4Cは、本発明の種々の薬物−送達の有利な点がどのようにして達成されるかの方法を図示している。
【図5A】図5Aは、標準量(0.125μg)のヒト好中球エラスターゼ(HNE)に添加された公知のセリンエラスターゼ阻害剤の対数量を混合物の対応するOD410に対してプロットする阻害曲線である。
【図5B】図5Bは、ARDS患者から回収したBAL液量とエラスターゼ活性の比色アッセイにおけるOD410との間の用量−応答を示している。
【図6A】図6Aは、3mgの抗−BSA/kg(ウサギ6098と6099)または5mgの抗−BSA/kg(ウサギ6100〜6103)を気管内に点滴注入して処理し、さらに10mgのBSAを静脈内投与(6098〜6101)してから6時間後のウサギの肺から取られたBAL液におけるエラスターゼ活性を示している(斜線バー)。比較として、公知のセリンエラスターゼ阻害剤の100μg/ml添加後のこれらのBAL液におけるエラスターゼ活性も示している(交差平行線バー)。エラスターゼ活性は、410nmにおいて対応するODを与えるヒト好中球エラスターゼ(HNE)の濃度として表される。
【図6B】図6Bは、肺傷害を受けているウサギからの気管支肺胞洗浄(BAL)液によるヒト好中球エラスターゼ(HNE)活性の阻害を示している。BAL液は、細菌性リポ多糖類(LPS)および抗−BSAを気管内投与された(全動物)3時間後(ウサギ6315および6316)または6時間後(6313、6314、6317および6318)のウサギから取られ;6317と6318のウサギは3時間目に10mg/kgのBSAをさらに投与された。BAL液は、単独で(交差平行線バー)または1μg/ml HNEの添加後(斜線バー)に試験した。空白バーは、BAL液添加なしのHNE活性を示している。かなりの遊離エラスターゼが、ウサギ6317に存在し;他の動物は全てはエラスターゼ阻害剤の存在を示した。
【図7A】図7Aは、正常ウサギ(5群)または細菌性リポ多糖類(LPS)と酢酸ミリスチン酸ホルボール(PMA)によって傷害を受けたウサギ(1群)、また表面活性剤混合物モデルで治療を受けたウサギ(2群)、公知のセリンエラスターゼ阻害剤で治療を受けたウサギ(3群)または表面活性剤混合物モデルとセリンエラスターゼ阻害剤との組合わせで治療を受けたウサギ(4群)の終末洗浄液(傷害6時間後)における平均蛋白値を示している。使用量および処理時間に関しては実施例8を参照されたい。エラーバーは、SEMを示している。3群における1匹の動物は、大きなエラーバーに反映して異常に高い蛋白値を有し、この群の蛋白値としては他の場合に考えられたものよりも歪みが大きかった。異常値を除外すると3群に関しては平均値が1.72となるはずである。
【図7B】図7Bは、LPS/PMA誘導肺損傷を有するウサギから得られたBAL液のウェスタンブロット分析の図である。基底膜蛋白質がこれらのBAL液に存在するかどうかを検出するために、基底膜蛋白質に向けられた抗体が使用された。第1の(いちばん左)レーンは、対照として約80,000kDaからそれより大きいサイズの範囲の基底膜蛋白質を含有した。より低分子量(約10,000)の基底膜蛋白質ならびにより高分子量の基底膜蛋白質が、LPSおよびPMA単独で処理されたウサギのBAL液に存在した(2レーン、1群)。LPS/PMA損傷ウサギが、表面活性剤混合物モデル(2群)、セリンエラスターゼ阻害剤(3群)、および表面活性剤混合物モデルとセリンエラスターゼ阻害剤との両方(4群)で治療を受けると、いくらか少ない量の基底膜蛋白質が存在した。正常で無傷のウサギの洗浄液は、低分子量基底膜蛋白質が殆どないか、全くなかった(最後のいちばん右のパネル、5群)。1〜4群の70,000MWに存在する大きなバンドは、使用された抗血清の不純物として存在するアルブミンである。90,000MW超のバンドは、基底膜に特異的であり、正常なウサギ血漿中には存在しない(データは示していない)。低MWバンド(<10,000MW)は、基底膜の断片を表している。
【図7C】図7Cは、LPSおよびPMAで損傷を受け、種々の方法で治療を受けた動物の終末洗浄液(傷害6時間後)における平均赤血球数(RBCs)を示している。治療を受けなかった正常なウサギ群(5群)の2匹のウサギは、対照として使用した。さらに、LPSおよびPMAで損傷を受け、治療を受けなかったウサギ(1群)は、最も高い赤血球数を有した。表面活性剤混合物モデルで治療を受けたLPS/PMA損傷ウサギ(2群)は、RBC数がより少なかった。エラスターゼ阻害剤(3群)または表面活性剤混合物モデルとエラスターゼ阻害剤(4群)で治療を受けた動物は、洗浄液におけるRBC数がさらに少なかった。
【図8】図8は、表面活性剤混合物モデル(最終濃度2mg/ml)、公知のセリンエラスターゼ阻害剤(100μg/ml)、または表面活性剤混合物モデルとセリンエラスターゼ阻害剤との両方一緒によるHNEの公知量(0.02μg)の阻害を示している。
【図9】図9は、実施例12に記載されている治療群の終末洗浄液におけるエラスターゼ阻害の程度を示している。
【図10】図10は、抗−BSA抗体の気管内投与により誘導された肺傷害に罹っているウサギからの洗浄液に、ホスホリパーゼA2(PLA2)が存在することを図示している。PLA2基質、パルミトイル、オレオイルホスファチジルグリセロール(POPG)から遊離されたオレイン酸量(“ピーク高さ)を、時間の関数としてプロットされた。遊離オレイン酸量は、示されるように0から約40分で急速に増加した。
【図11】図11は、2.5mg/mlの抗−BSA抗体(動物6011と6012)、5.0mg/mlの抗−BSA抗体(動物6013と6014)または12.5mg/mlの抗−BSA抗体(動物6015と6016)を投与した動物から単離された終末洗浄液におけるホスホリパーゼA2(PLA2)活性の量をグラフとして図示している。図示されるように、動物が抗−BSA抗体を増量して投与された場合、終末洗浄液中のホスホリパーゼA2(PLA2)活性は増加する。
【図12】図12は、2.5mg/mlの抗−BSA抗体(動物6011と6012)、5.0mg/mlの抗−BSA抗体(動物6013と6014)または12.5mg/mlの抗−BSA抗体(動物6015と6016)を投与した動物から単離された終末洗浄液に存在するリノレン酸量(交差平行線バー)とリノール酸量(斜線バー)をグラフとして図示している。洗浄液中の遊離脂肪酸(リノレン酸とリノール酸)の存在は、ホスホリパーゼA2(PLA2)が、これらの動物の傷害肺組織に有効であることを示している。遊離脂肪酸量もまた図示されるように、より多量の抗−BSA抗体が投与された動物において増加した。
【図13】図13は、洗浄液中のPLA2活性が、PLA2阻害剤の添加により用量依存様式で減少することをグラフとして図示している。洗浄液(ウサギ6015から得られた)との温置30分後のPOPG基質からのオレイン酸の遊離は示されるように、間接的にLY311727阻害剤量に比例していた。言い換えると、阻害剤量を増加させて添加すると、PLA2活性量の減少が見られた。
【図14】図14は、阻害剤濃度の対数関数としてBAL液からのPLA2活性をグラフとして図示している。BAL液のPLA2活性は示されるように、阻害剤濃度が増加すると著しく低下する。
【発明を実施するための形態】
【0031】
(発明の詳細な説明)
本発明は、肺表面活性剤ポリペプチド(単数または複数)と、炎症の間に生じる組織破壊過程に対する種々のタイプの阻害剤との組合わせを含む組成物に関する。肺内における組成物の送達および分散を促進させるために、他の成分、例えば、リン脂質および展着剤を含むことができる。
【0032】
(定義)
以下の用語は、他に指定されない限り、以下の意味を有する。
【0033】
「アミノ酸」とは、蛋白質を構成するアミノ酸残基を称して言う。アミノ酸類は、通常は天然のL−体であるが;しかしながら、D−アミノ酸、置換アミノ酸(例えば、修飾側鎖基を有するアミノ酸類)、アミノ酸代謝物および異化産物、「レトロ」主鎖を有するアミノ酸類、およびアミノ酸擬似体または類縁体もまた、本発明の使用に考慮されており、したがって、本発明により包含されている。標準的ポリペプチド命名法、J.Biol.Chem.、243巻:p.3557−59、1969年に従って、より一般的なアミノ酸残基に対する略語は、以下の対応表に示されるとおりである:
【0034】
【化8】
【0035】
他に指定しない限り、本明細書中、式により表されるアミノ酸残基配列は、アミノ末端からカルボキシ末端の従来の方向で左から右配向を有することに注意すべきである。さらに、熟語「アミノ酸残基」は、対応表に掲げたアミノ酸類を含めて広く定義されており、37C.F.R.§1.822(b)(4)に掲げたものなどの修飾アミノ酸および希なアミノ酸は、参照として本明細書に組み込まれている。熟語「アミノ酸残基」はまた、D−アミノ酸、置換アミノ酸類(例えば、修飾側鎖基を有するアミノ酸類)、修飾アミノ酸類(例えば、アミノ酸代謝物、異化産物、および「デザインされた」側鎖を有するアミノ酸類)およびアミノ酸擬似体または類縁体を含めて広く定義されている。
【0036】
さらに、アミノ酸残基配列の始端または末端のダッシュ記号は一般に、それぞれアミノ末端およびカルボキシ末端におけるHおよびOH(水素および水酸基)などの基に対する結合、または1つ以上のアミノ酸残基のさらなる配列を示すことを注意すべきである。さらに、残基配列の右手末端の斜線(/)は、前記配列が次の行に続けられていることを示すことに注意すべきである。
【0037】
「製薬的に許容できる」は、ヒトに投与された際、アレルギー反応または同様の有害反応を生じさせない分子本体および組成物を称する用語である。
【0038】
「蛋白質」または「ポリペプチド」または「ペプチド」は、アミノ酸またはアミノ酸類縁体サブユニット、典型的にはペプチドインターサブユニット結合、あるいは酵素基質または受容体結合リガンド相互作用と調和する他のインターサブユニット結合により結合された、生物学的蛋白質に見出される通常20個のL−アミノ酸類の幾つかまたは全部からなるバイオポリマーである。蛋白質は、そのサブユニット配列によって表される一次構造を有し、また二次的な螺旋状またはひだ構造、ならびに全体的三次元構造を有し得る。「蛋白質」は通常、比較的大きなポリペプチド、例えば、30個以上のアミノ酸を含むポリペプチドを言うが、「ペプチド」はより小さなポリペプチドを言い、または「ポリペプチド」はより小さなポリペプチドを言い、これらの用語もまた、本明細書では互換可能に用いられる。すなわち、用語の「蛋白質」は、より大きなポリペプチド、例えば、30個より多くのアミノ酸、を称してもよいが、必ずしもより小さなポリペプチドを除外する必要はなく、用語の「ポリペプチド」は、より小さなペプチド、例えば、30個より少ないアミノ酸類を称してもよいが、またより大きな蛋白質を含んでもよい。
【0039】
「表面活性物質活性」とは、単独または他の有機分子と組合わせて脂質と組み合せた際に、空気/水界面の表面張力を低下させる有機分子、蛋白質またはポリペプチドなどの任意の物質の能力を称す。この測定法は、ビルヘルミーはかりまたはインビトロアッセイによる脈動性気泡サーファクトメーターにより実施できる。例えば、Kingら、Am.J.Physiol.223巻:p.715−726(1972)の測定法、または蛋白質またはポリペプチドがリン脂質と混合される際の空気−水界面における表面張力の測定を利用する、本明細書に例示されるアッセイを参照されたい。さらに、肺に入る所与の空気圧におけるコンプライアンスまたは空気流増加のインビボ測定は、Robertson、Lung、158巻:p.57−68(1980)のアッセイなどで容易に実施できる。このアッセイにおいて、評価すべきサンプルを、気管内チューブによりウサギ胎仔または帝王切開(Caesarian section)による早産子羊に投与する。(これらの「早産仔」は、自身の肺表面活性物質を欠損しており、ベンチレータに維持される)。肺コンプライアンス、血液ガスおよび換気装置圧の測定値は活性の指標を提供する。脈動性気泡の表面張力を低下させる能力として評価される表面活性物質活性のインビトロアッセイ、および本明細書に報告されているウサギ胎仔を利用するインビボアッセイは、Revakら、Am.Rev.Respir.Dis.、134巻:p.1258−1265(1986)により詳細に記載されている。
【0040】
「表面活性剤分子」とは、表面活性物質活性を有する有機分子を言い、製薬的に許容できる脂質と混合された場合、より低いΔP値により立証されているように、脂質単独よりも大きな表面活性物質活性を有する表面活性物質を形成する。
【0041】
「天然肺表面活性物質」とは、成熟哺乳動物の肺の肺胞上皮を裏打ちする肺表面活性物質(PS)を称す。天然または自生PSは、肺の空気−液体界面における表面張力を減じるように相互作用するリン脂質とアポ蛋白の双方を含有するため、「リポ蛋白複合体」として記載されてきた。天然の表面活性物質は、ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)が主成分である数種の脂質種を含有する。少なくとも4種の蛋白質が、天然の肺表面活性物質、SP−A、SP−B、SP−CおよびSP−Dに典型的に存在する。これら4種のうち、SP−BおよびSP−Cは、異なっており、恐らくバルク相の層状構成から空気−水界面への脂質移動を促進することにより、また呼気の間の脂質単層を安定化することにより、表面活性物質のリン脂質混合物の表面活性特性を高めることが示されてきた低分子量の比較的疎水性の蛋白質である。SP−Bの構造は、荷電アミノ酸類(主として塩基性)が、他の場合には疎水性残基である延伸内で適切な規則正しい間隔で配置されている点で異例である。自生のSP−B配列の59〜80の残基からなるドメインに関して、これらの荷電基は、生物学的活性に必要であることが示されていた。さらに、DPPCとPGとで組合される際に、この疎水性−親水性ドメインに形成される天然および合成ペプチド類は、良好な表面活性物質活性を示す。
【0042】
天然の表面活性物質の蛋白質は、層状体の形態で肺上皮細胞に保存され、移出後、構造的転移を受けて管状ミエリンを形成し、空気−水界面に単層を生じさせる。肺表面活性物の蛋白質SP−A、SP−BおよびSP−Cは、これらの構造的転移を促進し、肺胞の拡張と収縮の間の脂質単層を安定化することが提案されていたが;分子レベルにおける脂質−蛋白質相互作用の完全な理解を現在欠いている。
【0043】
「肺投与」とは、製薬的に有効な物質を肺のいずれかの表面に送達する任意の投与様式を言う。この送達様式としては、限定はしないが、気管内投与、すなわち一般に液体懸濁液の点滴として、乾燥粉末「粉剤」または点滴として、またはエアロゾルとして好適なものを挙げることができる。肺投与は、製薬的に有効な物質の局所および全身双方の送達に利用できる。
【0044】
「肺表面横断輸送」とは、肺の曝露表面を透過または浸透する任意の通過様式を言う。これは、肺胞表面(ガス交換が生じる)、細気管支表面およびこれら任意の表面間の通過を含む任意の肺表面を介する通過を含む。局所作用を目的として肺組織に直接的に、または全身作用を目的として肺組織を経由して循環内への通過があり得る。
【0045】
「リン脂質」とは、無極性疎水性尾部、グリセロール部またはスフィンゴシン部、および極性頭部からなる両親媒性脂質を言う。前記無極性疎水性尾部は、通常飽和または不飽和脂肪酸基である。前記極性頭部は、しばしば窒素含有塩基に結合しているホスフェート基を有する。
【0046】
「展着剤」とは、肺表面内層内へのリン脂質(類)の取り込みおよび分配を促進する、すなわち、肺表面内層における空気/液体界面でのリン脂質の展着を促進する化合物を意味する。
【0047】
「活性剤」とは、所望の治療成績または目的あるいは診断成績または目的を達成するために投与される治療用または診断用化合物を言う。製薬的に有効な薬剤とは、医学的または獣医学的疾患または外傷を治療し、医学的または獣医学的疾患を予防し、またはヒトまたは動物の生理機能を調節するために有用な生物学的に活性な合成または天然物質である薬剤を言う。有効化合物の範囲は、下記に考慮されている。
【0048】
「空気動力学的径」は、特性化された粒子と同じ沈降速度を有する単位密度の等しい球形粒子の直径として定義される。すなわち、粒子の形状またはサイズにかかわらず、前記粒子は、単位密度の球体に変換されると考える。その球体の直径が、空気力学径である。したがって、1〜5ミクロンサイズの空気動力学的径を有する粒子は、1〜5ミクロンサイズ範囲の直径を有する単位密度の球形粒子と同じ空気動力学的性質を有する。粒子の空気動力学的性質は、カスケード衝突、エルトリエータまたは沈降細胞などの従来法を用いて実験的に測定できる。しばしば使用される測定法は、エアロゾルが使用される状況に最もよく類似しているものである。
【0049】
粒子採取の「空気動力学的径質量中央値」とは、粒子質量の空気動力学的粒子径中央値(MMAD)を言う。すなわち、粒子質量の半分がMMAD以下であり、半分がそれを超える。エアロゾル粒子のヘテロ分散性は、幾何標準偏差(GSD)により定義できる。全ての粒子が同一のサイズおよび形状である場合、GSDは1である。3.5のGSDは、高いヘテロ分散性の粒子採取を示す。本発明の好ましいエアロゾル粒子は、1と2.5との間、好ましくは1〜2のGSDを与える条件下で形成される。
【0050】
「モデル表面活性剤混合物」または「スルファキシン(Surfaxin(登録商標))」とは、実施例1および2に述べられた表面活性剤混合物成分を用いて、本発明に従って調製された表面活性剤混合物を称す。
【0051】
(活性剤)
本発明の表面活性剤の担体は、肺または病態を治療する目的で活性剤の範囲を投与するために使用できる。このような病態としては、肺高血圧症、新生児肺高血圧症、新生児気管支肺形成異常症、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、急性気管支炎、慢性気管支炎、肺気腫、気管支梢炎、気管支拡張症、放射線肺炎、過敏症、間質性肺炎、急性炎症性喘息、急性煙吸入、熱性肺傷害、アレルギー性喘息、医原性喘息、嚢胞性線維症、肺胞蛋白症、アルファ−1−プロテアーゼ欠乏症、肺炎症性疾患、肺炎、急性呼吸窮迫症候群、急性肺傷害、特発性呼吸窮迫症候群、および、特発性肺線維症が挙げられる。前記活性剤は、肺組織、または肺組織内の病原性生物に直接作用できる。
【0052】
肺炎症性疾患を治療するために用いられる治療剤としては、プロテアーゼ阻害剤、抗酸化剤、ホスホリパーゼ阻害剤、リパーゼ阻害剤およびそれらの組合わせが挙げられる。これらの薬剤は、蛋白質、ペプチド、核酸類、多糖類、炭水化物、脂質、糖蛋白質、ならびに有機および無機化合物類の形態であり得る。
【0053】
本発明によれば、プロテアーゼ類は、炎症の間の肺組織損傷を悪化させ得る。このようなプロテアーゼ活性は、肺の炎症患者または動物モデルから得られた肺組織または洗浄液中に検出できる。基底膜蛋白質濃度の上昇は、急性呼吸窮迫症候群を患っている患者の洗浄液において、また、肺損傷に罹っている動物モデルで検出できる。炎症性肺組織中で活性なプロテアーゼのタイプは、特異的プロテアーゼ活性の検出、プロテアーゼ特異的抗体を用いる抗原プロテアーゼの検出、プロテアーゼ活性産生物の検出などを含む、当技術分野に利用できる方法により同定できる。
【0054】
プロテアーゼ活性は、阻害剤により調節および制御できる。プロテアーゼ阻害剤は、プロテアーゼの活性部位を占有し、それにより正常基質による占有を防ぐことにより標的プロテアーゼの蛋白分解活性を調節できる。プロテアーゼ阻害剤は、幾つかの関連のない構造クラスに分類されるが、多くの実施形態において、前記阻害剤は、露出ループ(「阻害剤ループ」、「反応性コア」、「反応性部位」、または「結合ループ」と種々呼ばれる)を有することができ、これはループにフランキングする残基と蛋白質コア間との分子内相互作用により安定化される(BodeおよびHuber、Eur.J.Biochem.204巻:p.433(1992))。阻害剤と酵素間との相互作用は安定な複合体を産生でき、これは極めて緩やかに分離して未開裂阻害剤、または結合ループの切断可能な結合で開裂される修飾阻害剤のいずれかを放出する。
【0055】
本発明は、本発明の組成物および方法において任意の利用できるプロテアーゼ阻害剤の使用を考慮している。プロテアーゼ阻害剤の1つのファミリーであるクニッツ(Kunitz)阻害剤としては、トリプシン、キモトリプシン、エラスターゼ、カリクレイン、プラスミン、凝固因子XIaおよびIXa、およびカテプシンGの阻害剤が挙げられる。当業者は、プロテアーゼの他のファミリーとしてセリンプロテアーゼを認識している。セリンプロテアーゼとしては、エラスターゼ(例えば、ヒト白血球エラスターゼ)、カテプシンG、プラスミン、C−1エステラーゼ、C−3コンバターゼ、ウロキナーゼ、プラスミノーゲン活性化因子、アクロシン、キモトリプシン、トリプシン、トロンビン、因子Xaおよびカリクレイン類のような酵素類が挙げられる。他の阻害剤ファミリーとしては、任意のメタロプロテイナーゼ1〜13のようなメタロプロテイナーゼの阻害剤が挙げられる。
【0056】
したがって、本発明の組成物および方法に使用できるプロテアーゼ阻害剤としては、例えば、クニッツ阻害剤、マトリックスメタロプロテイナーゼ阻害剤およびセリンプロテアーゼ阻害剤が挙げられる。
【0057】
1つ以上のクニッツドメインを含むプロテアーゼ阻害剤としては、組織因子経路阻害剤(TFPI)、組織因子経路阻害剤2(TFPI−2)、アミロイドβ−蛋白前駆体(AβPP)、アプロチニンおよび胎盤ビクニンが挙げられる。TFPI、外因性経路阻害剤および天然の抗凝固剤は、直列結合した3つのクニッツ阻害剤ドメインを含有する。アミノ末端クニッツドメインは、因子VIIa、プラスミンおよびカテプシンGを阻害し;第2のドメインは、因子Xa、トリプシン、およびキモトリプシンを阻害し;および第3のドメインは、公知の活性を有さない(Petersenら、Eur.J.Biochem.125巻:p.310(1996))。TFPI−2は、ヒト因子VIIa−組織因子複合体、因子XIa、血漿カリクレイン、およびプラスミンのアミド分解活性および蛋白分解活性の阻害剤であることが示されている(Sprecherら、Proc.Nat’l Acad.Sci.米国91巻:p.3353(1994);Petersenら、Biochem.35巻:p.266(1996))。
【0058】
アプロチニン(ウシ膵臓トリプシン阻害剤)は、凝固カスケードの活性化を防止することが示されている広範囲のスペクトルのクニッツタイプのセリンプロテイナーゼ阻害剤である。DavisおよびWhittington、Drugs49巻:p.954(1995);Dietrichら、Thorac.Cardiovasc.Surg.37巻:p.92(1989);Westaby、Ann.Thorac.Surg.55巻:p.1033(1993);Wachtfogelら、J.Thorac.Cardiovasc.Surg.106巻:p.1(1993))。アプロチニンは、血漿カリクレインまたはプラスミンを阻害できる(Dennisら、J.Biol.Chem.270巻:p.25411(1995))。胎盤ビクニンは、2つのクニッツドメインを含有するセリンプロテイナーゼ阻害剤である(Delariaら、J.Biol.Chem.272巻:p.12209(1997))。ビクニンの個々のクニッツドメインが発現しており、トリプシン、キモトリプシン、プラスミン、因子XIa、ならびに組織カリクレインと血漿カリクレインの強力な阻害剤であることが示されている(Delariaら、J.Biol.Chem.272巻:p.12209(1997))。
【0059】
本発明に使用できるエラスターゼ阻害剤の特定の例としては、例えば、ヒト白血球エラスターゼ阻害剤、エラフィン(elafin)およびアルファ1−プロテイナーゼ阻害剤が挙げられる。他の好適なプロテアーゼ阻害剤としては、ヒト分泌白血球プロテアーゼ阻害剤、アルファ1−抗トリプシン、アルファ−1−抗キモトリプシン、C−反応性蛋白質およびそれらの組合わせが挙げられる。
【0060】
これらプロテアーゼ阻害剤の核酸およびアミノ酸配列は、当技術分野、例えば、NCBIデータベースに見ることができる。ncbi.nlm.nih.gov.のウェブサイトを参照されたい。例えば、ヒト白血球エラスターゼ阻害剤に関する1つのアミノ酸配列は、登録番号P30740(gi:266344)としてNCBIデータベースに見ることができる。ncbi.nlm.nih.gov.のウェブサイトを参照されたい。この配列は、下記のとおり提供される(配列番号14)。
【0061】
【化9】
【0062】
ヒトアルファ−1−抗トリプシンに関するアミノ酸配列は、受託番号P01009(gi:1703025)としてNCBIデータベースに見ることができる。ncbi.nlm.nih.gov.のウェブサイトを参照されたい。この配列は、下記のとおり提供される(配列番号15)。
【0063】
【化10】
【0064】
ヒトビクニンに関するアミノ酸配列は、受託番号NP066925(gi:10863909)としてNCBIデータベースに見ることができる。ncbi.nlm.nih.gov.のウェブサイトを参照されたい。この配列は、下記のとおり提供される(配列番号16)。
【0065】
【化11】
【0066】
ヒトエラフィンに関するアミノ酸配列は、受託番号1FLEI(gi:1942680)としてNCBIデータベースに見ることができる。ncbi.nlm.nih.gov.のウェブサイトを参照されたい。この配列は、下記のとおり提供される(配列番号17)。
【0067】
【化12】
【0068】
このようなヒトエラフィンに関連した多くのアミノ酸配列は、NCBIデータベースに見ることができる。例えば、ヒトプロテアーゼ阻害剤3(皮膚由来)はエラフィンに関連し、受託番号NP002629(gi:4505787)を有する。ncbi.nlm.nih.gov.のウェブサイトを参照されたい。ヒトプロテアーゼ阻害剤3に関するこの配列は、下記のとおり提供される(配列番号18)。
【0069】
【化13】
【0070】
ヒトエラフィンと同様の配列を有する阻害剤の他の例は、受託番号CAA11184(gi:2764786)を有するウシbトラッピン−2(bovine bTrappin−2)である。ncbi.nlm.nih.gov.のウェブサイトを参照されたい。ウシbトラッピン−2に関するこの配列は、以下に提供される(配列番号19)。
【0071】
【化14】
【0072】
本発明はまた、組成物および方法においてメタロプロテイナーゼ阻害剤の使用を考慮している。多数のヒトメタロプロテイナーゼが存在する。本発明は、任意のヒトメタロプロテイナーゼ阻害剤の使用を考慮している。例えば、メタロプロテイナーゼ(TIMP)類の組織阻害剤のような阻害剤が、本発明に利用できる。ヒトTIMP−1に関する配列は、受託番号P01033(gi:135850)としてNCBIデータベースに見ることができる。ncbi.nlm.nih.gov.のウェブサイトを参照されたい。ヒトTIMP−1に関するこの配列は、以下に提供される(配列番号20)。
【0073】
【化15】
【0074】
ヒトTIMP−2に関する配列は、受託番号NP003246(gi:4507511)としてNCBIデータベースに見ることができる。ncbi.nlm.nih.gov.のウェブサイトを参照されたい。ヒトTIMP−2に関するこの配列は、以下に提供される(配列番号21)。
【0075】
【化16】
【0076】
ヒトTIMP−3に関する配列は、受託番号NP000353(gi:4507513)でNCBIデータベースに見ることができる。ncbi.nlm.nih.gov.のウェブサイトを参照されたい。ヒトTIMP−3に関するこの配列は、以下に提供される(配列番号22)。
【0077】
【化17】
【0078】
他のヒトTIMP類に関する配列もまた、公的に利用できる。ncbi.nlm.nih.gov.のウェブサイトを参照されたい。
【0079】
ヒト分泌白血球プロテアーゼに関するアミノ酸配列もまた、受託番号NP003055(gi:4507065)としてNCBIデータベースに見ることができる。ncbi.nlm.nih.gov.のウェブサイトを参照されたい。この配列は、下記のとおり提供される(配列番号23)。
【0080】
【化18】
【0081】
ゆえに、本発明は、本発明の組成物および方法に利用できる種々のプロテアーゼ阻害剤を提供する。
【0082】
ホスホリパーゼ酵素類は、ホスホグリセリド類からの脂肪酸残基の除去を触媒する。具体的には、ホスホリパーゼA2(PLA2)は、膜リン脂質のグリセロール部分の2位でエステル基を開裂し、等モル量のアラキドン酸とリゾリン脂質とを生じる。PLA2は、リン脂質からアラキドン酸を優先的に開裂するが、アラキドン酸は、S1の中間体、ホスホリパーゼC−およびホスホリパーゼD−活性化経路から二次的に生成される。PLA2阻害剤としては、臭化p−ブロモフェナシルなどの化学分子が挙げられる。他のPLA2阻害剤としては、真菌類により生産されるチエロシンA1ベータ(Tanakaら(1995)Eur J Pharmacol 279巻:p.143−8)、あるいはリポコルチンまたはアネキシンI(NCBI受託番号gi:71756;Wallnerら、Cloning and expression of human lipocortin, a phospholipase A2 inhibitor with potential anti−inflammatory activity、Nature320巻(6057)、p.77−81(1986))、ガラガラヘビ属ホスホリパーゼA2阻害剤(CNF)(NCBI受託番号gi:501050;Fortes−Dias CLら1994年;J Biol Chem 269巻:p.15646−51)などの生体分子が挙げられる。グルココルチコイドなどの非特異的PLA2阻害剤もまた使用できる。本発明の使用に好適なホスホリパーゼA2阻害剤はまた、LY11−727(Eli Lilly)を含む。
【0083】
Fortes−Dias CLら(1994年;J Biol Chem 269巻:p.15646−51)は、南米ガラガラヘビ、ガラガラヘビ属デュリサステリフィカス(durissus terrificus)の血漿からPLA2阻害剤を単離し、特性化している。ガラガラヘビ属中和因子(CNF)と名付けられたこの20〜24kDa蛋白質は、6〜8オリゴマー凝集体として自己会合していると思われる。CNFが中和するクロトキシン分子は、二量体としてのみ活性であり、PLA2の2つの塩基性イソ体(CB1およびCB2)のうちの1つと会合した酸性分子(CA)からなる。実際、CNFがCAに取って代わり、CB分子の1つと安定な会合を形成する。この置換により、クロトキシンの神経毒、心毒、筋毒、抗凝集活性および血小板活性化活性が不活化される。
【0084】
CNFの完全長840 bp cDNAは、ガラガラヘビ属肝組織からクローン化された。このヌクレオチド配列は、19の残基シグナルペプチドおよび16のシステイン、5.45のp1、およびN157におけるグリコシル化部位の可能性を有する181の残基成熟蛋白質をコードする。Fortes−Diasは、cDNAが非コード配列を含有し、想定されるポリアデニル化部位を欠損していることを述べている。阻害アッセイにおいて、酸性CNF分子はまた、ハチ毒活性を阻害し、血漿中において100倍過剰の、ブタ膵臓PLA2を阻害する。
【0085】
プロテアーゼ阻害剤およびリパーゼ阻害剤に加えて、前記組成物および方法または本発明は、抗酸化剤を使用することができる。炎症は、大量のスーパーオキシド(O2・−)および過酸化水素(H2O2)を産生する多形核白血球およびマクロファージを刺激し得る(Babior,B.M.ら[1973]J Clin Invest 52巻:p.741−744;Halliwell,Bら[1999]Free radicals in Biology and Medicine。ニューヨーク州オックスフォード:Clarendon Press、オックスフォード大学プレス)。これらラジカル類の有害作用は、鉄の存在下、およびヒドロキシルラジカル(OH・)などの他の反応性中間体が引き続き形成されることにより増幅され得る。
【0086】
NADPHオキシダーゼ、すなわち膜会合電子伝達鎖蛋白質は、炎症の間に活性となり、直接O2を還元してO2・−にする。次にスーパーオキシドは、スーパーオキシドジスムターゼにより不均化してH2O2を産生できる。スーパーオキシドは、第2鉄(Fe3+)から第1鉄(Fe2+)へなど、遷移金属を還元し得る。次いで還元金属イオンは、H2O2と反応して高酸化性のOH・ラジカル種を生成できる。ヒドロキシルラジカルは、幾つかの生体分子に対してインビボで著しい損傷を起こすことが広く想定されている。
【0087】
このような酸化種により損傷され得る生体分子としては、DNA、蛋白質および膜脂質が挙げられる。酸化されたDNAは、断片化され得る。酸化された蛋白質と膜脂質は、機能の減少または変化が生じ、破壊の標的となり得る。酸化生成物の存在および肺組織の酸化作用は、洗浄液の調査または肺組織の採取により検出できる。例えば、対照動物およびLPS損傷モデル動物からの肺組織が採取でき、このような酸化生成物に関して試験できる。本明細書に記載されているように、モデル動物(例えば、ウサギ)に、細菌のリポ多糖類(LPS)を気管内投与して肺の炎症を引き起こし、シミュレートすることができる。
【0088】
このようなLPS処理モデル動物から採取した洗浄液および肺組織は、種々の方法で分析できる。例えば、DNA損傷は、組織サンプルまたはDNA単離体におけるDNA分子の末端を標識することにより評価できる。次に断片化DNAは、有効な標識が組織切片の細胞核に存在するか、また標識された、低分子量バンドは、肺組織から単離された標識DNAの電気泳動分離後に検出されるかどうかを検出することにより観測される。このような低分子DNAバンドの存在は、DNAが断片化されたことを示している。バンドのサイズは、公知の分子量を有するDNAマーカーとの比較により評価される。
【0089】
酸化の他の生体マーカー(単数または複数)、例えば、遊離鉄、全体的抗酸化状態、8−イソプロスタン(8−イソ−PGF2α)、スーパーオキシドジスムターゼ(SOD)、グルタチオンペルオキシダーゼ(GPX)、グルタチオン濃度、ラクテートデヒドロゲナーゼ(LDH)、C−反応性蛋白質、脂質ヒドロペルオキシダーゼ(LOOH)、ミエロペルオキシダーゼ、インターロイキン−6(IL−6)、クレアチンキナーゼ(CK)、ジチロシン、および8−ヒドロキシグアニン、またはそれらの組合わせなどが、モニターできる。肺膜中の不飽和リン脂質は、逆相HPLCにおけるリゾリン脂質、アシル側鎖の脂肪酸(fatly acid)切断断片の出現により、チオバルビツール酸(TBA)−結合物質の発現により、および共役ジエンの生成により確認されるH2O2に対する曝露の際に過酸化的変化を受け得る。ゆえに、洗浄液中のリゾリン脂質、チオバルビツール酸−結合物質、共役ジエンなどの存在は、酸化脂質の指標として使用できる。
【0090】
肺組織に対する酸化作用を減じるために、抗酸化剤を、本発明の組成物および方法に組み込むことができる。好適な抗酸化剤としては、カタラーゼ、グルタチオン、N−アセチルシステイン、プロシステイン、ローズマリー葉抽出物、アルファ−トコフェロール、2,4−ジアミノピロロ−[2,3−d]ピリミジン、アスコルビン酸およびロイテイン(leutein)、ゼアキサンチン、クリプトキサンチン、ビオラキサンチン、カロテンジオール、ヒドロキシカロテン、ヒドロキシリコペン、アロキサンチン、およびデヒドロクリプトキサンチンなどのカロテノイド化合物、それらの誘導体などが挙げられる。例えば、アスコルビン酸のエステル誘導体およびルテイン、ゼアキサンチン、クリプトキサンチン、ビオラキサンチン、カロテンジオール、ヒドロキシカロテン、ヒドロキシリコペン、アロキサンチン、およびデヒドロクリプトキサンチンなどのカロテノイド化合物のエステル誘導体が、本発明に使用できる。
【0091】
プロテアーゼ阻害剤、リパーゼ阻害剤および抗酸化剤は、非経口、肺、静脈内、皮内、皮下、経口、吸入、経皮(局所)、経粘膜、経皮下、皮下、経皮、または直腸経路などの任意の利用できる経路により投与できる。幾つかの実施形態において、本発明の活性剤は、肺送達により投与されるが、しかし、活性剤の肺送達と組み合わせた静脈内送達は、本組成物の有利な作用を増加させ得る。
【0092】
他の化合物、すなわち肺病態の治療に調和するものまたは好適なものなどを、本発明の組成物に含むことができる。共投与できる薬剤としては、抗アレルギー剤、抗炎症剤、抗菌剤、抗真菌剤および抗ウィルス剤などの抗微生物剤、抗生物質、免疫調節剤、造血薬、キサンチン類、交感神経作用アミン類、粘液溶解薬、コルチコステロイド類、抗ヒスタミン類、およびビタミン類が挙げられる。他の例としては、アルブテロール、キソペネックス、テルブタリン、サルメテロール、ホルモテロール、および製薬的に許容できるそれらの塩類などの気管支拡張薬、臭化イプラトロピウムなどの抗コリン作用薬、クロモリンナトリウムおよびネドクロミルなどのいわゆる「肥満細胞安定化薬」、フルニソリド、フルチカゾン、ベクロメタゾン、ブデソニド、トリアムシノロン、およびそれらの塩類などのコルチコステロイド類、INF−アルファ、ベータおよびガンマなどのインターフェロン類、N−アセチルシステインおよびグアイフェネシンなどの粘液溶解薬、ザフィルカストおよびモンテルカストなどのロイコトリエンアンタゴニスト、ホスホジエステラーゼIV阻害剤、アミカシン、ゲンタマイシン、コリスチン、プロテグリン、デフェンシンおよびトブラマイシンなどの抗生物質、リバビリン、RSVモノクローナル抗体、VP14637などの抗ウィルス剤、イソニアジド、リファンピンおよびエタンブトールなどの抗結核薬、およびアンホテレシンBなどの抗真菌剤が挙げられる。
【0093】
(肺表面活性剤ポリペプチド類)
表面活性剤ポリペプチドは、交互の荷電アミノ酸残基領域および非荷電アミノ酸残基領域を有するアミノ酸残基配列を含んでいるポリペプチド類である。交互に疎水性アミノ酸残基領域および親水性アミノ酸残基領域を有するアミノ酸残基配列を含むポリペプチド類もまた、本発明によれば好ましい。これらの編成のうち特に好ましい表面活性剤ポリペプチド類は、少なくとも約4つ、より好ましくは少なくとも約8つ、さらにより好ましくは少なくとも約10のアミノ酸残基を有するものとしてさらに特徴付けられ、一般に長さが約60以下のアミノ酸残基であるが、さらにより長い完全長自生肺表面活性物質たんぱく質も考慮されている。
【0094】
好ましくは、本発明の表面活性剤ポリペプチド類は、式[(荷電)a(非荷電)b]c(荷電)dにより表される荷電アミノ酸残基および非荷電アミノ酸残基の交互の編成により構成されており、式中、「a」は約1から約5の平均値を有し;「b」は約3から約20の平均値を有し;「c」は1から10であり;および「d」は0から3である。単にアミノ酸残基だけから構成されてはいない有機表面活性剤分子は、荷電および非荷電(または親水性/疎水性)構成分子の交互の編成により構成される同様の構造を有することが好ましい。
【0095】
当業者に公知のように、アミノ酸類は、主としてアミノ酸側鎖の物理化学的性質に依存する種々のクラスに分類できる。例えば、幾つかのアミノ酸類は、一般に荷電、親水性または極性アミノ酸類であることが考慮されており、他のアミノ酸類は、非荷電、疎水性または非極性アミノ酸類であることが考慮されている。極性アミノ酸類としては、酸性、塩基性または親水性側鎖を有するアミノ酸類が挙げられ、非極性アミノ酸類としては、芳香族または疎水性側鎖を有するアミノ酸類が挙げられる。非極性アミノ酸類をさらに細分化すると、中でも脂肪族アミノ酸類が挙げられる。本明細書に用いられるクラスの定義は以下のとおりである:
「非極性アミノ酸」とは、極性ではなく、一般に水溶液により撥水され、生理的pHで非荷電である側鎖を有するアミノ酸を称す。遺伝子的にコードされた疎水性アミノ酸の例としては、アラニン、ロイシン、イソロイシン、メチオニン、フェニルアラニン、トリプトファン、チロシンおよびバリンが挙げられる。幾つかの実施形態において、システインは、非極性アミノ酸である。遺伝子的にコードされていない非極性アミノ酸の例としては、t−BuA、Cha、ノルロイシン、および/またはα−アミノブタン酸、α−アミノペンタン酸、α−アミノ−2−メチルプロパン酸、またはα−アミノヘキサン酸などのα−アミノ脂肪族カルボン酸が挙げられる。
【0096】
「芳香族アミノ酸」とは、共役π−電子系(芳香族基)を有する少なくとも1つの環を含有する側鎖を有する非極性アミノ酸を称す。前記芳香族基は、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、ヒドロキシル基、スルホニル基、ニトロ基およびアミノ基、ならびにその他の基などの置換基でさらに置換できる。遺伝子的にコードされた芳香族アミノ酸の例としては、フェニルアラニン、チロシンおよびトリプトファンが挙げられる。通常、よく見られる遺伝的にコードされていない芳香族アミノ酸類としては、フェニルグリシン、2−ナフチルアラニン、β−2−チエニルアラニン、1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリン−3−カルボン酸、4−クロロフェニルアラニン、2−フルオロフェニルアラニン、3−フルオロフェニルアラニンおよび4−フルオロフェニルアラニンが挙げられる。
【0097】
「脂肪族アミノ酸」とは、飽和または不飽和直鎖、分枝鎖または環状炭化水素側鎖を有する非極性、非荷電アミノ酸を称す。遺伝子的にコードされた脂肪族アミノ酸類の例としては、Ala、Leu、ValおよびIleが挙げられる。遺伝子的にコードされていない脂肪族アミノ酸類の例としては、Nleが挙げられる。
【0098】
「極性アミノ酸」とは、生理的pHで荷電または非荷電で、2個の原子により共有される電子対が原子の1個によってより近接して保持される結合を有する側鎖を持つ親水性アミノ酸を称す。極性アミノ酸類は、一般に親水性であり、それらが水溶液により引き寄せられる側鎖を持つアミノ酸を有することを意味している。遺伝子的にコードされた極性アミノ酸類の例としては、アスパラギン、グルタミン、リジンおよびセリンが挙げられる。幾つかの実施形態において、システインは極性アミノ酸である。遺伝子的にコードされていない極性アミノ酸類の例としては、シトルリン、ホモシステイン、N−アセチルリジンおよびメチオニンスルホキシドが挙げられる。
【0099】
「酸性アミノ酸」とは、7未満の側鎖pK値を有する親水性アミノ酸を称す。酸性アミノ酸は、水素イオンの欠失のために生理的pHで陰電荷の側鎖を典型的に有する。遺伝子的にコードされた酸性アミノ酸類の例としては、アスパラギン酸(アスパルテート)およびグルタミン酸(グルタメート)が挙げられる。
【0100】
「塩基性アミノ酸」とは、7以上の側鎖pK値を有する親水性アミノ酸を称す。塩基性アミノ酸は、ヒドロニウムイオンとの会合のために生理的pHで陽電荷の側鎖を典型的に有する。遺伝子的にコードされた塩基性アミノ酸類の例としては、アルギニン、リジンおよびヒスチジンが挙げられる。遺伝子的にコードされていない塩基性アミノ酸類の例としては、非環状アミノ酸オルニチン、2,3−ジアミノプロピオン酸、2,4−ジアミノ酪酸およびホモアルギニンが挙げられる。
【0101】
「イオン性アミノ酸」または「荷電アミノ酸」とは、生理的pHで荷電できるアミノ酸を称す。このようなイオン性または荷電アミノ酸類としては、酸性および塩基性アミノ酸類、例えば、D−アスパラギン酸、D−グルタミン酸、D−ヒスチジン、D−アルギニン、D−リジン、D−ヒドロキシリジン、D−オルニチン、D−3−ヒドロキシプロリン、L−アスパラギン酸、L−グルタミン酸、L−ヒスチジン、L−アルギニン、L−リジン、L−ヒドロキシリジン、L−オルニチンまたはL−3−ヒドロキシプロリンが挙げられる。
【0102】
当業者により認識されるであろうが、上記の分類は絶対的ではない。幾つかのアミノ酸類は、1つを超える特性を示し、したがって、1つを超えるカテゴリに含まれ得る。例えば、チロシンは、非極性芳香族環と極性ヒドロキシル基との両方を有する。したがって、チロシンは、非極性、芳香族および極性として記載され得る幾つかの特性を有する。しかしながら、非極性環が優勢であり、それゆえ、チロシンは一般に、非極性であると考えられる。同様に、ジスルフィド結合を形成できることに加えて、システインは非極性の性質も有する。このように、疎水性または非極性アミノ酸として厳密には分類されないが、多くの場合、システインは、ペプチドに疎水性または非極性を与えるものとして使用できる。
【0103】
上記の遺伝子的にコードされ、またコードされていないアミノの分類は、例示のみを目的としており、本明細書に記載された肺表面活性剤ポリペプチドを含み得るアミノ酸残基の完全なリストであるとを意味しない。本明細書に記載される肺表面活性剤ポリペプチドの製造に有用である他のアミノ酸残基は、例えば、Fasman、1989年、CRC Practical Handbook of Biochemistry and Molecular Biology、CRC Press、Inc.、およびそれに引用されている文献に見ることができる。アミノ酸残基の他の供給源は、RSP Amino Acid Analogues、Inc.のウェブサイト(www.amino−acids.com)により提供される。本明細書に特に記載されていないアミノ酸類は、特に同定されたアミノ酸と比較した、公知の挙動および/または特徴的な化学的および/または物理的性質に基づいて上記のカテゴリに従来どおり分類できる。
【0104】
幾つかの実施形態において、表面活性剤ポリペプチドは、式(ZaUb)cZdにより表される交互編成のアミノ酸残基を有する配列を含み、式中、Zは荷電アミノ酸であり、Uは非荷電アミノ酸であり;「a」は約1から約5の平均値を有し;「b」は約3から約20の平均値を有し;「c」は1から10であり;および「d」は0から3である。
【0105】
幾つかの実施形態において、Zは、ヒスチジン、リジン、アルギニン、アスパラギン酸、グルタミン酸、5−ヒドロキシリジン、4−ヒドロキシプロリン、および/または3−ヒドロキシプロリンであり、およびUは、バリン、イソロイシン、ロイシン、システイン、チロシン、フェニルアラニン、および/またはα−アミノブタン酸、α−アミノペンタン酸、α−アミノ−2−メチルプロパン酸、またはα−アミノヘキサン酸などのα−アミノ脂肪族カルボン酸である。
【0106】
他の実施形態において、本発明の好ましいポリペプチド類は、式(BaUb)cBdにより表される交互編成またはアミノ酸残基領域を有しており、式中、Bは、H、5−ヒドロキシリジン、4−ヒドロキシプロリン、および3−ヒドロキシプロリンよりなる群から独立して選択されるアミノ酸残基であり;およびUは、V、I、L、C、Y、およびFよりなる群から独立して選択されるアミノ酸残基である。1つの好ましい変型において、Bは、コラーゲン由来のアミノ酸であり、5−ヒドロキシリジン、4−ヒドロキシプロリン、および3−ヒドロキシプロリンよりなる群から選択されることが好ましく;「a」は約1から約5の平均値を有し;「b」は約3から約20の平均値を有し;「c」は1から10であり;および「d」は0から3である。
【0107】
さらに他の実施形態において、本発明の表面活性剤ポリペプチド類は、式(BaJb)cBdにより表される交互編成のアミノ酸残基を有する配列を含み、式中、Bは、ヒスチジン、5−ヒドロキシリジン、4−ヒドロキシプロリン、および3−ヒドロキシプロリンよりなる群から独立して選択されるアミノ酸残基であり;およびJは、α−アミノ脂肪族カルボン酸であり;「a」は約1から約5の平均値を有し;「b」は約3から約20の平均値を有し;「c」は1から10であり;および「d」は0から3である。
【0108】
関連式における「J」を含む種々の実施形態において、Jは、合わせて4個から6個の炭素を有するα−アミノ脂肪族カルボン酸である。他の好ましい変型において、Jは、合わせて6個以上の炭素を有するα−アミノ脂肪族カルボン酸である。さらに他の変型において、Jは、α−アミノブタン酸、α−アミノペンタン酸、α−アミノ−2−メチルプロパン酸、およびα−アミノヘキサン酸よりなる群から選択されることが好ましい。
【0109】
他の実施形態は、式(ZaUb)cZdにより表される交互編成のアミノ酸残基を有する配列を含む表面活性剤ポリペプチドを含有し、式中、Zは、R、D、E、およびKよりなる群から独立して選択されるアミノ酸残基であり;Uは、V、I、L、C、Y、およびFよりなる群から独立して選択されるアミノ酸残基であり;またはLおよびCよりなる群から独立して選択されるアミノ酸残基であり;「a」は約1から約5の平均値を有し;「b」は約3から約20の平均値を有し;「c」は1から10であり;および「d」は0から3である。
【0110】
前述の式において、ZとU、ZとJ、DとU、およびBとJは、各発生時に独立して選択されるアミノ酸残基である。さらに、前述式の各々において、一般に「a」は約1から約5の平均値を有し;「b」は約3から約20の平均値を有し;「c」は1から10であり;および「d」は0から3である。
【0111】
前述の実施形態の一変型において、ZおよびBは荷電アミノ酸残基である。他の好ましい実施形態において、ZおよびBは、親水性または陽電荷のアミノ酸残基である。一変型において、Zは、R、D、E、およびKよりなる群から選択されることが好ましい。関連実施形態において、Zは、RおよびKよりなる群から選択されることが好ましい。さらに他の好ましい実施形態において、Bは、H、5−ヒドロキシリジン、4−ヒドロキシプロリン、および3−ヒドロキシプロリンよりなる群から選択される。1つの好ましい実施形態において、BはHである。他の好ましい実施形態において、Bは、コラーゲン構成アミノ酸残基であり、5−ヒドロキシリジン、(δ−ヒドロキシリジン)、4−ヒドロキシプロリン、および3−ヒドロキシプロリンよりなる群から選択される。
【0112】
種々の開示実施形態において、UおよびJは、非荷電アミノ酸残基であることが好ましい。他の好ましい実施形態において、UおよびJは、疎水性アミノ酸残基である。一実施形態において、Uは、V、I、L、C、Y、およびFよりなる群から選択されることが好ましい。他の好ましい実施形態において、Uは、V、I、L、C、およびFよりなる群から選択される。さらに他の好ましい実施形態において、Uは、LおよびCよりなる群から選択される。種々の好ましい実施形態において、UはLである。
【0113】
同様に種々の実施形態において、Bは、H、5−ヒドロキシリジン、4−ヒドロキシプロリン、および3−ヒドロキシプロリンよりなる群から選択されるアミノ酸であることが好ましい。あるいは、Bは、5−ヒドロキシリジン、4−ヒドロキシプロリン、および3−ヒドロキシプロリンを含むコラーゲン由来アミノ酸類よりなる群から選択されてもよい。
【0114】
本発明の他の実施形態において、荷電および非荷電アミノ酸類は、修飾アミノ酸類の群から選択される。例えば、1つの好ましい実施形態において、荷電アミノ酸は、2,3の例を示せばシトルリン、ホモアルギニン、またはオルニチンよりなる群から選択される。同様に種々の好ましい実施形態において、非荷電アミノ酸は、α−アミノブタン酸、α−アミノペンタン酸、α−アミノ−2−メチルプロパン酸、およびα−アミノヘキサン酸よりなる群から選択される。
【0115】
本発明の好ましい実施形態において、単位「a」、「b」、「c」および「d」は、荷電または非荷電残基(または親水性または疎水性残基)数を示す数である。種々の実施形態において、「a」は約1から約5、好ましくは約1から約3、より好ましくは約1から約2、さらにより好ましくは1の平均値を有する。
【0116】
種々の実施形態において、「b」は、約3から約20、好ましくは約3から約12、より好ましくは約3から約10、さらにより好ましくは約4〜8の範囲の平均値を有する。1つの好ましい実施形態において、「b」は、約4である。
【0117】
種々の実施形態において、「c」は1から10、好ましくは2から10、より好ましくは3〜8または4〜8の範囲、さらにより好ましくは3から6である。1つの好ましい実施形態において、「c」は、約4である。
【0118】
種々の実施形態において、「d」は0から3または1から3である。1つの好ましい実施形態において、「d」は0から2または1から2であり;他の好ましい実施形態において、「d」は、1である。
【0119】
アミノ酸残基、例えばZまたはUにより表される残基が独立して選択されることを述べることによって、各発生時において、特定の群からの残基が選択されることを意味する。すなわち、「a」が2である場合、例えば、Zにより表される各々の親水性残基は、独立して選択され、したがって、RR、RD、RE、RK、DR、DD、DE、DKなどを含むことができる。「a」および「b」が平均値を有することを述べることによって、反復配列(例えば、ZaUb)内の残基数は、ペプチド配列内でいくらか変わり得るが、「a」および「b」の平均値が、それぞれ約1から約5および約3から約20になるであろう。
【0120】
例えば、下表1において「KL8」と名付けられるペプチドに関する式(ZaUb)cZdを用いて、前記式は、K1L8K1L8K1L2として書き直すことができ、式中、「b」の平均値は、6[すなわち、(8+8+2)/3=6)]、「c」は3であり、「d」はゼロである。上記式の例示的な好ましいポリペプチド類を下表1に示す:
【0121】
【表1】
【0122】
1呼称は、示されたアミノ酸残基配列の略語である。
【0123】
肺胞との相互作用を最大にする構造を有する約4から60のアミノ酸残基の複合ポリペプチドもまた好適である。複合ポリペプチドは、本質的にアミノ末端配列およびカルボキシ末端配列からなる。上記式に定義されるように、前記アミノ末端配列は、本発明の疎水性領域ポリペプチドまたは疎水性ペプチド、好ましくは疎水性ポリペプチドのアミノ酸配列を有する。カルボキシ末端配列は、従属のカルボキシ末端ペプチドのアミノ酸残基配列を有する。
【0124】
天然の表面活性物質蛋白質(SP)のものと類似の特性に由来するかまたは類似の特性を有する蛋白質およびポリペプチド類は、本法に有用である。特記したように、任意の哺乳動物種から単離されたSPは、利用できるが、ウシ、ブタおよびヒト表面活性物質は特に好ましい。
【0125】
天然の表面活性物質蛋白質としては、SP−A、SP−B、SP−CまたはSP−D、あるいはそれらの断片の、単独または脂質と組合わせたものが挙げられる。好ましい断片は、SP−Bのアミノ末端残基1〜25である。
【0126】
このような天然の表面活性物質蛋白質と関連するアミノ酸配列の多くは、NCBIデータベースに見ることができる。例えば、ヒト肺表面活性物質と会合する蛋白質A1の配列は、受託番号NP 005402(gi:13346504)としてNCBIデータベースに見ることができる。ncbi.nlm.nih.gov.のウェブサイトを参照されたい。ヒトSP−A1に関するこの配列は、下記のとおり提供される(配列番号25)。
【0127】
【化19】
【0128】
ヒト肺表面活性物質と会合する蛋白質A2のアミノ酸配列は、受託番号NP 008857(gi:13346506)としてNCBIデータベースに見ることができる。ncbi.nlm.nih.gov.のウェブサイトを参照されたい。ヒトSP−A2に関するこの配列は、下記のとおり提供される(配列番号26)。
【0129】
【化20】
【0130】
ヒト肺表面活性物質と会合する蛋白質Bのアミノ酸配列は、受託番号NP 000533(gi:4506905)としてNCBIデータベースに見ることができる。ncbi.nlm.nih.gov.のウェブサイトを参照されたい。ヒトSP−Bに関するこの配列は、下記のとおり提供される(配列番号27)。
【0131】
【化21】
【0132】
さらに、ヒトSP18(SP−B)表面活性物質蛋白質は、本明細書に記載されているように利用し得る。例えば、米国特許第5,407,914号明細書;米国特許第5,260,273号明細書;および米国特許第5,164,369号明細書を参照されたく、これらの開示は、本明細書に参照として組み込まれている。
【0133】
ヒト肺表面活性物質と会合する蛋白質Cのアミノ酸配列は、受託番号P11686(gi:131425)としてNCBIデータベースに見ることができる。ncbi.nlm.nih.gov.のウェブサイトを参照されたい。ヒトSP−Cに関するこの配列は、下記のとおり提供される(配列番号28)。
【0134】
【化22】
【0135】
ヒト肺表面活性物質と会合する蛋白質Dのアミノ酸配列は、受託番号P50404(gi:1709879)としてNCBIデータベースに見ることができる。ncbi.nlm.nih.gov.のウェブサイトを参照されたい。ヒトSP−Dに関するこの配列は、下記のとおり提供される(配列番号29)。
【0136】
【化23】
【0137】
関連ペプチドは、配列スクシニル−Leu−Leu−Glu−Lys−Leu−Leu−Gln−Trp−Lys−アミド(配列番号30)を有するWMAP−10ペプチド(Marion Merrell Dow Research Institute)である。本明細書に記載されているように、代わりとなるペプチド類は、リン脂質の混合物において表面張力の低下を誘導するリジン、アルギニンまたはヒスチジンのポリマーである。
【0138】
さらに他の実施形態において、本発明のポリペプチドは、ゼロ未満、好ましくは−1未満か−1に等しい、より好ましくはくは−2未満か−2に等しい複合疎水性を持つアミノ酸残基配列を有する。ペプチドに関する複合疎水性値の測定は当技術分野に公知であり、米国特許第6,013,619号明細書を参照されたく、この開示は、参照として本明細書に組み込まれている。これらの疎水性ポリペプチド類は、SP18の疎水性領域の機能を実行する。このように、1つの好ましい実施形態において前記アミノ酸配列は、荷電および非荷電、あるいは疎水性および親水性のSP18の残基のパターンを模倣する。
【0139】
しかしながら、本発明のポリペプチド類および他の表面活性剤分子は、自生SP−B(SP18)のような配列を有する分子に限定しないことを解すべきである。それどころか、本発明のいくつかの最も好ましい表面活性剤分子は、同様の表面活性剤の活性および交互の荷電/非荷電(または疎水性/親水性)残基配列を有すること以外、特定のアミノ酸残基配列に関してSP18に殆ど似ていない。
【0140】
本発明の1つの開示された実施形態は、塩基性極性リジン(K)残基により結合された4つの疎水性ロイシン(L)残基の反復単位からなるヒトSP−Bの模倣物である21−残基ペプチドのペプチド含有製剤を含む。「KL4」として本明細書に略されているこの例示的ペプチドは、以下のアミノ酸残基配列を有する:
【0141】
【化24】
【0142】
(配列番号1)
1つの好ましい実施形態において、KL4は、リン脂質ジパルミトイルホスファチジルコリンとパルミトイル−オレオイルホスファチジルグリセロール(3:1)とパルミチン酸とで組合わせて、そのリン脂質−ペプチド水性分散物は、「KL4−表面活性剤」と命名されており、一般にそのような様式で本明細書に称される。KL4−表面活性剤は、名称モデル表面活性剤混合物で市販されている。種々の実験および臨床試験におけるKL4−表面活性剤の有効性は、以前に報告されており、例えば、Cochraneら、Science、254巻:p.566−568(1991);Vincentら、Biochemistry、30巻:p.8395−8401(1991);Cochraneら、Am J Resp & Crit Care Med、152巻:p.404−410(1996);およびRevakら、Ped.Res.、39巻:p.715−724(1996)を参照されたい。
【0143】
本発明の種々の実施形態において、ポリペプチド:リン脂質の重量比は、約1:5から約1:10,000、好ましくは約1:7から約1:5,000、より好ましくは約1:10から約1:1,000、最も好ましくは約1:15から約1:100の範囲である。特に好ましい実施形態において、ポリペプチド:リン脂質の重量比は、約1:37である。
【0144】
本発明による担体表面活性剤組成物の調製に好適な合成ポリペプチド類は、ポリペプチド当業者に公知の方法によりアミノ酸類から合成できる。多くの利用できる方法の優れた概要は、J.M.StewardおよびJ.D.Young、SOLID PHASE PEPTIDE SYNTHESIS、W.H.Freeman Co.、サンフランシスコ、1969年、および固相ペプチド合成に関してJ.Meienhofer、HORMONAL PROTEINS AND PEPTIDES、2巻、p.46、Academic Press(ニューヨーク)、1983年、および古典的溶液合成に関してE.SchroderおよびK.Kubke、THE PEPTIDES、1巻、Academic Press(ニューヨーク)、1965年に見ることができる。
【0145】
一般に、これらの方法は、1つ以上のアミノ酸残基または好適に保護されたアミノ酸残基の、成長しているペプチド鎖への連続付加を含む。標準的には、第1のアミノ酸残基のアミノ基またはカルボキシル基のいずれかを、適切で選択的に除去できる保護基により保護する。種々の選択的に除去できる保護基は、反応性側鎖基を含有するアミノ酸(例えば、リジン)に利用される。
【0146】
実施例1は、表面活性剤ペプチドの固相合成を例示する。簡潔に述べると、保護または誘導アミノ酸を、その非保護カルボキシル基またはアミノ基を介して不活性固体支持体に結合する。次に、アミノ基またはカルボキシル基の保護基を選択的に除去し、好適に保護された補足(アミノまたはカルボキシル)基を有する配列中の次のアミノ酸を混合し、固相支持体に既に結合している残基とアミド結合を形成するために好適な条件下で反応させる。次いでアミノ基またはカルボキシル基の保護基を、この新たに添加したアミノ酸残基から除去してから、次のアミノ酸(好適に保護された)を加えるなどする。所望のアミノ酸全てを適切な配列で結合した後、残りの末端基および側鎖基の保護基(およびいずれの固体支持体)のいずれも、連続的または同時に除去して最終ポリペプチドを得る。次いで、そのポリペプチドを低級脂肪族アルコール中に溶解することにより洗浄し、乾燥する。所望ならば、乾燥表面活性剤ポリペプチドを、公知の方法によりさらに精製できる。
【0147】
本発明の表面活性剤蛋白質およびポリペプチド類はまた、組み換えDNA法により製造し得る。植物または動物宿主から蛋白分子を誘導する方法は、一般に当技術分野に公知である。Jobeら、Am.Rev.Resp.Dis.、136巻:p.1032(1987);Glasserら、J.Biol.Chem.、263巻:p.10326(1988)を参照されたい。一般に、好適なプロモーターおよび/またはシグナルペプチドの制御下で蛋白質またはポリペプチド類をコードする遺伝子配列を、宿主細胞の形質移入のためにプラスミドまたはベクターに挿入する。発現蛋白質/ポリペプチドは、細胞培養物から単離され得る。
【0148】
本明細書に開示された多くの有用なポリペプチド類、例えばKL4ポリペプチド(配列番号1)は、ペプチド結合を経て結合される「L」体の天然由来のアミノ酸を含むことが認識されるが、アミノ酸側鎖類縁体、非アミド結合(例えば、異なる主鎖)を含む分子はまた、著しい表面活性剤活性を示し、そのうえ他の利点を有し得ることも解されるべきである。例えば、容易に分解されない分子(例えば、表面活性剤組成物に使用のため)を構築することが所望であるならば、一連のD−アミノ酸を含むポリペプチド分子を合成することを望むことができる。「レトロ」主鎖を経て結合された一連のアミノ酸を含む分子、すなわち、カルボキシ末端からアミノ末端への逆方向で構築された内部アミド結合を分子はまた、分解することがより困難であり、したがって本明細書に記載されている種々の適用に有用であり得る。例えば、以下の式は、主鎖における「レトロ」結合を有する例示的分子を例示している:
【0149】
【化24a】
【0150】
他の変型において、より「堅固な」コンフォメーションを採用する分子を構築することを所望することができ;このことは、アミノ酸のα炭素原子にメチル基または他の基の付加を達成し得ることを意味する。
【0151】
上記のとおり、CH3基のほかに他の基を、炭素原子に付加でき、すなわち、本発明の表面活性剤分子は、α炭素にCH3のみを組み込むものに限定されない。例えば、上記の側鎖および分子のいずれも、α炭素成分における示されたCH3基に代えて置換し得る。
【0152】
本明細書に使用される用語で、ポリペプチド類およびアミノ酸残基の「類縁体」および「誘導体」は、アミノ酸類の代謝産物および異化産物、ならびに「天然由来の」L−体アミノ酸類と呼ばれるものに通常見出されるものとは異なる結合、主鎖、側鎖または側鎖基を含む分子を包含することを意図している。(用語の「類縁体」および「誘導体」はまた、本明細書では交互に都合よく使用し得る)したがって、D−アミノ酸、アミノ酸を模倣する分子および「デザインされた」側鎖を有するアミノ酸(すなわち、表面活性剤活性を有する分子中の1つ以上のアミノ酸の代わりに置換できるもの)もまた、本明細書の用語の「類縁体」および「誘導体」により包含されている。
【0153】
1つ以上の延伸または置換R基またはR’基を有するアミノ酸を含む有用な表面活性剤分子の広い組合わせも、本発明により包含されている。再度、当業者は、個々のアミノ酸、結合、および/または鎖それ自体に種々の修飾をなし得ることをこの開示から認識すべきであり、生じた分子が本明細書に記載された表面活性剤活性を有する限り、修飾は本発明の範囲内に入る分子を製造することとなる。
【0154】
前記組成物は、他の成分を含むことができる。例えば、本発明の表面活性剤混合物は、(i)50〜95乾燥重量パーセントのリン脂質、(ii)リン脂質を肺の表面内層中への取り込みを促進させるのに有効な2〜25乾燥重量パーセントの展着剤、(iii)0.1〜10乾燥重量パーセントの肺表面活性剤ポリペプチドを含むことができる。上記に示したように、前記成分は、乾燥、溶液、または粒子懸濁液形態で混合してもよく、治療剤の添加前に前製剤化しても、または薬剤と共に製剤化してもよい。
【0155】
本発明の組成物に有用なリン脂質としては、自生および/または合成リン脂質が挙げられる。使用され得るリン脂質としては、ホスファチジルコリン類、ホスファチジルグリセロール類、ホスファチジルエタノールアミン類、ホスファチジルセリン類、ホスファチジン酸、およびホスファチジルエタノールアミン類が挙げられる。ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)、ジラウリルホスファチジルコリン(DLPC)C12:0、ジミリストイルホスファチジルコリン(DMPC)C14:0、ジステアロイルホスファチジルコリン(DSPC)、ジフィタノイルホスファチジルコリン、ノナデカノイルホスファチジルコリン、アラキドイルホスファチジルコリン、ジオレオイルホスファチジルコリン(DOPC)(C18:1)、ジパルミトオレオイルホスファチジルコリン(C16:1)、リノレオイルホスファチジルコリン(18:2))、ジパルミトイルホスファチジルエタノールアミン、ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE)、ジオレオイルホスファチジルグリセロール(DOPG)、パルミトイルホスファチジルグリセロール(POPG)、ジステアロイルホスファチジルセリン(DSPS)大豆レシチン、卵黄レシチン、スフィンゴミエリン、ホスファチジルセリン類、ホスファチジルグリセロール類、ホスファチジルイノシトール類、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルエタノールアミン、およびホスファチジン酸などの例示的リン脂質ホスファチジルコリン類。
【0156】
特に、1,2−ジアシル−sn−グリセロ−3−[ホスホ−rac−(1−グリセロール)]、1,2−ジアシル−sn−グリセロ−3−[ホスホ−L−セリン]、1,2−ジアシル−sn−グリセロ−3−ホスホコリン、1,2−ジアシル−sn−グリセロ−3−ホスフェート、1,2−ジアシル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミンであって、これらのジアシル基は、対称、非対称であり得、鎖長が3個から28個の炭素の範囲の種々のタイプの飽和または不飽和脂肪酸および6つまでの不飽和結合を含有し得る。
【0157】
好ましいリン脂質の1つはDPPCである。DPPCは、現在までに調べられた全哺乳動物種における主要なリン脂質である。DPPCは気腔の上皮細胞(肺胞の2型肺胞細胞および気道のまだ同定されていない細胞)によって合成される。DPPCは細胞内層へ分泌され、展着して肺胞上に単分子膜を形成する。空気−細胞内層界面におけるDPPC膜は、その正常な機能の根拠となる一定の独特な性質を有している。すなわち、(1)展着して全表面を覆う前記膜は、圧縮時、例えば呼気時に、極めて低い表面張力を達成し、それによって正味の力を減少させ、気腔内への液体移動を助ける;(2)気道または肺胞の大きさが減少するにつれ、表面張力は比例して減少し、それによって構造間の圧力平衡を達成し、崩壊を防ぐ;(3)前記膜は、その両性的構造のため、疎水性部分と親水性部分の双方と緩い化学的会合を形成し、またその高い圧縮性のため、これらの会合は、膜圧縮時に切断でき、それによって、界面から前記分子を遊離する;(4)これらの緩い化学的結合は、膜上の電荷分布を変更できる表面活性剤系に見られる他の化合物(例えば、PG)の添加によって変更でき、それによって、前記部分(上記(3)に述べた)が前記膜から遊離する速度を変更する。
【0158】
本発明の種々の実施形態において、前記脂質部分は、表面活性剤担体組成物の約50から約90重量パーセントを構成するDPPCである。本発明の他の実施形態において、DPPCは、表面活性剤組成物の約50から約75重量パーセントを構成し、残りは、不飽和ホスファチジルコリン、ホスファチジルグリセロール(PG)、トリアシグリセロール類、パルミチン酸、スピンゴミエリンまたはそれらの混合物を含む。本発明のさらに他の実施形態において、前記脂質分子は、約4:1と2:1との間の重量比におけるDPPCとPOPGとの混合物である。好ましい一実施形態において。前記脂質成分は、約3:1の重量比におけるDPPCとパルミトイル−オレオイル ホスファチジルグリセロール(POPG)との混合物である。
【0159】
DPPCと上記脂質およびリン脂質は、商品として入手できるか、または一般に当業界に公知の公表されている方法にしたがって調製できる。前記混合物のリン脂質成分は、ホスファチジルコリン(PC)、ホスファチジルエタノールアミン(PE)、ホスファチジルイノシトール(PI)、ホスファチジルグリセロール(PG)、ホスファチジル酸(PA)、ホスファチジルセリン(PS)およびスフィンゴミエリン(SM)などの1種以上のリン脂質を含む。前記リン脂質における脂肪族アシル鎖は、長さが少なくとも7個の炭素原子であることが好ましく、典型的には、長さが12〜20個の炭素原子であって、完全に飽和されていてもよいし、部分的に不飽和であってもよい。
【0160】
前記リン脂質は、前記表面活性剤混合物の50〜95乾燥重量パーセントを構成し、好ましくは、前記混合物の80〜90の間の乾燥重量パーセントである。
【0161】
DPPCなどのリン脂質は、単独で投与された場合、空気−細胞内層界面に比較的ゆっくりと吸収され、吸着されるとゆっくり拡散することが知られている。
【0162】
展着剤の目的は、表面活性剤混合物脂質の粒子形態から単層形態への移行を促進し、肺表面上への展着、肺表面に沿った、および肺表面内への分布を達成することである。したがって、例えば、表面活性製剤を、リポソーム形態で肺に送達する場合、展着剤は、肺表面におけるリポソーム二重層から平坦な単層形態へのリポソームリン脂質の移行促進に効果的である。同様に表面活性製剤を、非晶質または結晶性の脂質粒子として肺に送達する場合、展着剤は、肺表面の平坦な単層形態への表面活性剤混合物のリン脂質の移行促進に効果的である。
【0163】
展着剤の例としては、限定はしないが、脂質二重層または脂質単層形成に適合性ではあるが、単独で脂質二重層形成を支持することはできない、非リン脂質の脂質が挙げられる。展着剤の例としては、リゾリン脂質、脂肪酸、脂肪族エステル、および脂肪族アルコールならびに他の単一長鎖脂肪族アシル化合物が挙げられる。好ましい展着剤としては、少なくとも約12個の炭素原子のアルキル鎖長、好ましくは鎖長が15〜20個間の炭素原子を有する脂肪酸および脂肪族アルコールが挙げられる。好ましい展着剤の1つは、パルミチン酸であり、他の1つはセチルアルコールである。展着剤は、前記表面活性剤混合物の2〜25乾燥重量パーセントを構成し、好ましくは、前記混合物の10〜15乾燥重量パーセントを構成する。84.5%の乾燥重量パーセントで、DPPC:DOPG(3:1)もまた含有する1つの例示的混合物は、12.75乾燥重量パーセントのパルミチン酸を含有する。
【0164】
本発明に用いられる展着剤は、商品供給者から購入できる。例えば、パルミチン酸(PA)は、Avanti Polar Lipids社(アラバマ州バーミンガム)から入手できる。前記展着剤はまた、一般に当業界に公知の公表されている方法にしたがって調製できる。
【0165】
幾つかの実施形態において、前記組成物は、展着剤としてSterling−WinthropおよびRohm およびHaasなどの種々の会社から幾つかの商標で購入できるチロキサポールを含み得る。チロキサポールは、ホルムアルデヒドとオキシランを有する4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)フェノール)のポリマーである。チロキサポールは、30年以上に亘ってヒト医薬品製剤に用いられてきた(Tainter MLら、New England Journal of Medicine(1955)253巻:p.764−767)。チロキサポールは比較的非毒性であり、他の洗剤が溶血性である濃度の1000倍の濃度においても赤血球を溶血しない(Glassman HN.Science(1950)111巻:p.688−689)。
【0166】
(治療方法)
呼吸器系の多くの病態および疾患が肺表面活性物質性能の低下および炎症の原因となる。本明細書で用いられる用語、「呼吸器病態および疾患」は、肺胞ならびに肺胞への空気通路に関与する病態および疾患を包含する。このような病態および疾患としては、肺高血圧症、新生児肺高血圧症、新生児気管支肺形成異常症、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、急性気管支炎、慢性気管支炎、肺気腫、気管支梢炎、気管支拡張症、放射線肺炎、過敏症、間質性肺炎、急性炎症性喘息、急性煙吸入、熱性肺傷害、アレルギー性喘息、医原性喘息、嚢胞性線維症、肺胞蛋白症、アルファ−1−プロテアーゼ欠乏症、肺炎症性疾患、肺炎、急性呼吸窮迫症候群、急性肺傷害、特発性呼吸窮迫症候群、および特発性肺線維症が挙げられる。活性剤は、肺組織に直接作用し得るか、肺組織内の病原性生物に作用し得る。
【0167】
肺表面活性物質の欠乏が、未熟児や幼児における呼吸窮迫症候群(RDS)の原因であることは、一般に認識されている。このような欠乏は、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)の発現における主要要因ではないが、この疾患の病態生理学に著しく寄与し得る。RDSは、未熟児における死亡および障害の主要な原因である。また、毎年15万例のARDSが報告されており、死亡率は60〜80%である。ARDSを引き起こす機構は部分的に理解されているだけである。しかし、多くの場合、それは酸素の毒性から生じ、前記症候群は、過酸化物、スーパーオキシド、ヒドロキシル、一重項酸素、その他などの大量の酸素由来フリーラジカルおよび求核剤によって引き起こされる。肺実質に対するフリーラジカルに誘導された損傷は炎症および「漏出」毛細管応答を生じる。この応答は、肺伸展性の低下、低酸素症およびシャンティングを特徴とするARDSへと進行し得る。
【0168】
炎症は、呼吸器疾患に伴う浸透性の症状であり、局所損傷、細菌感染、ウィルス感染、アレルギー反応および免疫原性反応などに応答して生じる。気道の炎症部位に集合した炎症細胞、特に白血球は、肺表面活性物質成分の分泌を引き起こすか、または遮断でき、また、肺を内張りしている上皮細胞を破壊することもできる伝達物質を遊離し、細胞質成分の遊離を生じさせる。この後者のクラスの伝達物質には、セリンプロテアーゼ、特に白血球エラスターゼ、ホスホリパーゼA2およびスーパーオキシドおよびヒドロキシラジカルなどの反応性酸素種が含まれる。例えば、嚢胞性線維症における気道の感染は、疾患の重症化を招き得る気道分泌の輸送異常に関連している(E.Puchellら、Eur.J.Clin.Invest.、15巻:p.389−394,1985年)。
【0169】
本発明の治療法では、本発明の製剤中の活性剤としてプロテアーゼ阻害剤、ホスホリパーゼ阻害剤、または抗酸化剤、またはこれらの2種以上の混合物を有する表面活性剤混合物が用いられる。前記製剤は、例えば、気管支肺胞洗浄、経口、血管内、ボーラスまたは他の投与のために有用な液体製剤であり得る。また、前記製剤は患者へ投与するためエアロゾル化もできる。投与される製剤量は、典型的には約1mg〜100mg/用量、5mg〜20mg/用量、例えば10mg/用量であり、1回用量における活性剤の量は、治療的有効量、例えば、約0.01mgから50mgの薬剤または約0.01mgから5mgの薬剤である。活性剤の用量は、先ず、前記製剤が肺の単層に展着した際の所望の薬剤濃度を算出し、この用量を、好適な量の表面活性剤製剤において投与することによって決定できる。治療効果を最適化するため、また副作用を最小化するための用量の調製は、肺炎症の動物モデルおよび/または肺の炎症病態を有するヒト患者における臨床試験を含み得る公知の手順にしたがって決定できる。
【0170】
一実施形態において、本発明は、哺乳動物における肺の炎症を治療するために、プロテアーゼ阻害剤、リパーゼ阻害剤または抗酸化剤を含む治療的有効量の組成物を前記哺乳動物に投与することを含む方法を考慮している。
【0171】
幾つかの実施形態において、前記方法は、肺洗浄による本発明の組成物の投与を含む。肺洗浄を行う手順は当業界において利用できる。例えば参照のため、本明細書に組み込んでいる米国特許第6,013,619号明細書を参照されたい。肺洗浄は、例えば以下のとおり実施できる:
a) ベンチレータによりガス呼気終末陽圧(PEEP)を調節圧力、好ましくは約4cm水から20cm水で哺乳動物の肺区域内へ適用する;
b) 製薬的に許容できる水性媒体中の希釈表面活性剤を含有する洗浄組成物を前記肺の1つ以上の葉または区域に点滴注入する;および
c) 短い間隔で気管−気管支吸引を用い、好ましくは、約20mmから100mm水銀の陰圧を用いて、肺から生じた肺流体を除去する。
【0172】
典型的には、PEEPを点滴注入ステップ(b)の前の予め選択された時間、好ましくは約30分まで適用し、また、PEEPは典型的には、ステップ(b)と(c)との間に連続的に、または除去ステップ(c)の後に予め選択された時間、好ましきは約6時間まで適用する。肺の異なった区域を独立して治療できる。
【0173】
他の実施形態において、前記組成物は、液体ボーラス投与によって投与できる。例えば、前記組成物の液滴を肺組織に送達するために気管内チューブを配置してもよい。幾つかの実施形態において、ボーラス投与は肺の一箇所になされて、他の箇所にはなされないか、または肺の異なった部分が異なった時にボーラス液滴投与によって治療できる。
【0174】
さらに、他の実施形態において、前記組成物は吸入投与できる。さらなる実施形態において、プロテアーゼ阻害剤、リパーゼ阻害剤および/または抗酸化剤を、経口または非経口投与できる。経口または非経口(非肺)送達が考慮される場合、前記組成物は、前記表面活性剤混合物を含む必要はない。しかし、本発明によれば、表面活性剤混合物と前記阻害剤との組合わせは、肺疾患の治療に驚くべき効果をあげる。ゆえに、肺病態を有利に治療するためには、表面活性剤−阻害剤の組合わせは相乗的に作用し得る。
【0175】
それゆえに、本発明は、肺の疾患治療のために表面活性剤担体に担持されたプロテアーゼ阻害剤を含む医薬品組成物を提供する。
【0176】
例示的一実施形態において、前記組成物は、ヒト白血球エラスターゼ阻害剤を含有する。ヒト白血球エラスターゼ(HLE)は、好中球のアズーレ親和性顆粒に存在する蛋白質分解酵素である。このプロテアーゼは、炎症部位で遊離した後、エラスチンやコラーゲンなどの重要な結合組織成分を加水分解できる。この酵素は、壊死組織および微生物を貪食するそれらの機能にとって必須である。同時に、この酵素は身体にとって顕著な挑戦となる。なぜならば、それらの非抑制的遊離は、健康な組織および循環蛋白質の破壊を導き得るからである。生じた組織の損傷が成人呼吸窮迫症候群(Lee,C.T.ら、New England J of Med.、304巻:p.192−196、1981年および肺気腫(Janoff,A.,In:INFLAMMATION:BASIC PRINCIPLES AND CLINICAL CORRELATES,Gallin,J.I.ら編集、p.803−814、Raven Press、ニューヨーク、1988年)の病因に寄与することが示唆されている。
【0177】
本発明によるプロテアーゼおよびリパーゼ阻害および/または肺組織内の酸化減少により、血管基底膜への損傷が減少し、蛋白質漏出と出血が減少する。平行試験において、外因性表面活性剤による気管支肺胞洗浄もまた、基底膜への損傷、蛋白質漏出および出血を減少させた。しかし、表面活性剤混合物単独による治療では、プロテアーゼ活性またはリパーゼ活性は有意に阻害されず、有意な抗酸化活性も提供されなかった。本発明によれば、プロテアーゼ阻害剤、リパーゼ阻害剤および/または抗酸化剤を含有する本発明の表面活性製剤による肺の炎症病態の治療は、基底膜損傷、蛋白質漏出および肺血管出血の防止に効果的である。前記治療は、血管の蛋白質漏出および出血を最適に減少させることにより、自生の表面活性物質の不活化および重篤な肺機能の損失、多臓器不全および患者の30〜40%に死をもたらす肺における炎症性滲出液の発現も防ぐことができる。
【0178】
プロテアーゼ阻害剤としては、ヒト白血球エラスターゼ阻害剤などのエラスターゼ阻害剤、ヒト分泌白血球プロテアーゼ阻害剤(SLPI)、アルファ1−プロティナーゼ阻害剤(またはアルファ1−抗トリプシン)および他のクニッツ阻害剤またはセリンプロテアーゼ阻害剤が挙げられる。本発明の使用に好適なさらなるプロテアーゼ阻害剤は上に記載している。
【0179】
抗酸化剤の例としては、EUK134、カタラーゼ、グルタチオン、N−アセチルシステイン、プロシステイン、アルファ−トコフェロール、アスコルビン酸、ブチル化ヒドロキシアニソール(BHA)、ブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)、天然フラビジン類(例えば、2,7−ジヒドロキシ9,10−ジヒドロフェナントロ−4,5−bcd−ピラン(米国特許第6,503,552号明細書を参照)およびこれらの化合物の誘導体が挙げられる。ホスホリパーゼA2阻害剤の一例はLY11−727(Eli Lilly)である。
【0180】
プロテアーゼ活性阻害における前記医薬品組成物の治療的有効性を例示するために実験を行った。試験は最初、ウサギおよび/またはヒト気管支肺胞洗浄(BAL)液におけるエラスターゼ活性の測定に関するアッセイを設定した(実施例3)。ヒト好中球エラスターゼ(HNE)活性を有するサンプルにおいて生じた比色シグナルは410nMにおける光学密度(OD410)と直線的に相関する。次にHNEを阻害するエラスターゼ阻害剤の能力を試験した(実施例4)。前記混合物のOD410と加えた阻害剤の量の対数との間の相関は直線的であり(図5A)、HNE活性が、セリンエラスターゼ阻害剤によりインビトロで阻害されていることを立証している。
【0181】
次に、ARDS(急性呼吸窮迫症候群)を有するヒトおよび実験的に誘導した呼吸窮迫を有するウサギから採取したBAL液におけるエラスターゼ活性を確立された比色アッセイにより測定した。図5Bは、BAL量とOD410との間の直線的相関を示しており、エラスターゼ活性が比色アッセイによって測定できること、また、エラスターゼがARDSを有するヒトのBAL液中に存在することを立証している。
【0182】
同様に、誘導された肺損傷を有するウサギから採取した気管支肺胞(BAL)液について、比色アッセイを実施した(実施例6)。100μg/mlのセリンエラスターゼ阻害剤添加後の各BAL液についても、比色アッセイを実施した。図6Aは、BAL液単独における、また、セリンエラスターゼ阻害剤を添加したBAL液におけるエラスターゼ活性を示している。エラスターゼ活性は、対応するOD410を与えるHNE濃度として表される。エラスターゼ活性は全てのウサギBAL液において見られ、この活性はセリンエラスターゼ阻害剤の添加により、6つのBAL液のうち5つにおいて阻害された。添加されたセリンエラスターゼ阻害剤は、公知のHNE阻害剤(実施例4)であるため、測定されたエラスターゼ活性はHNEによるものと思われる。
【0183】
洗浄液は外因性エラスターゼ阻害剤を含有し得ることに注意する必要がある。これはα1−プロテアーゼ阻害剤、α2−マクログロブリン、SLPI、または他のエラスターゼ阻害剤であり得る。このような阻害剤の存在は、誘導された肺の損傷を有するウサギの気管支肺胞(BAL)液のインビトロアッセイによって示すことができる(実施例6)。図6Aを参照して、ウサギに細菌性リポ多糖(LPS)および抗BSAを気管内投与した(全ウサギ)3時間後(ウサギ6315および6316)または6時間後(6313、6314,6317および6318)ウサギからBAL液を採取した。ウサギ6317と6318には、3時間目に、10mg/kgのBSAを追加投与し、また、抽出されたBAL液は単独で試験したか(交差平行線)、または1μg/mlのHNEと混合後に試験した(黒い実線)。ウサギ6317のBAL液には、かなりの量の遊離エラスターゼが存在し、他の全てのウサギの液はエラスターゼ阻害剤、特にHNE阻害剤の存在を示した。したがって、ウサギBAL液における遊離エラスターゼ活性の不在は、サンプル中のエラスターゼの不在を示すのではなく、エラスターゼは存在しているが阻害されていると思われる。区別するために免疫学的アッセイを実施できた。
【0184】
モデル表面活性剤混合物、セリンエラスターゼ阻害剤および双方の組合わせが、肺の炎症に及ぼす効果を、ARDSウサギモデルで評価した。これらの実験は実施例8から12に詳細に記載されている。本試験のために20匹のウサギを5つの群に分けた。細菌のリポ多糖(LPS)、3時間後にフォルボールミリステートアセテート(PMA)による洗浄によって刺激し、1群〜4群のウサギに肺の炎症を誘導した。さらに、治療として2群のウサギには、モデル表面活性剤混合物、3群のウサギにはセリンエラスターゼ阻害剤、4群のウサギにはモデル表面活性剤混合物とセリンエラスターゼ阻害剤の双方を投与した。5群のウサギは、正常なウサギであり、対照として用いた。前記ウサギを6時間目に殺処理し、右下葉を3回洗浄し、洗浄液は、各ウサギについてプールした(最終洗浄)。損傷の程度および治療効果は、最終洗浄液中に見られる基底膜蛋白質断片と赤血球の量によって測定した。
【0185】
図7Aは、肺損傷を有するウサギから採取した最終洗浄液中に存在する蛋白量の増加を示している。見られた蛋白量は、血漿蛋白質を肺胞空間内へ漏出させる基底膜マトリックスに対する損傷の程度を示し、蛋白量が多いほど肺に存在する損傷が多い。モデル表面活性剤混合物を単独投与された2群ではLPSおよびPMA損傷から生じる蛋白量(略2.5mg/ml)が減少し、モデル表面活性剤混合物とエラスターゼ阻害剤双方を投与された4群では、さらに減少したことを結果は示している。エラスターゼ阻害剤を単独投与された3群が蛋白質レベルの減少を示さなかったのは、恐らくその群の1匹のウサギから得られた異常な高値によるものと思われた。このウサギを除外すれば、3群の平均値は、モデル表面活性剤混合物単独で治療された2群で得られた値に略等しくなる。
【0186】
図7Bは、最終洗浄液中に見られる蛋白質のSDS−ゲル分析に関して、基底膜マトリックス蛋白質に対して、モルモット内で産生された抗体を用いて実施されたウェスタンブロット分析を示している。ウサギ肺基底膜の蛋白質成分は、左枠に提示している。LPSおよびPMAだけで処理されたウサギ、モデル表面活性剤混合物の添加により治療されたウサギ、セリンエステラーゼ阻害剤添加により治療されたウサギ、およびモデル表面活性剤混合物とセリンエステラーゼ阻害剤双方の添加により治療されたウサギのBAL液中の蛋白質成分は、各々、1群から4群の枠に提示されている。正常の未損傷のウサギのBAL液中の蛋白質成分は5群の枠に示されている。これらの枠において、90,000分子量超のバンドは、基底膜に特異的で正常なウサギ血漿に存在しない(データは示していない)。1〜4群の70,000分子量に存在する大きなバンドは、使用された抗血清中の不純物として存在するアルブミンである。低分子量バンド(<10,000分子量)は、基底膜の断片を表す。モデル表面活性剤混合物、エラスターゼ阻害剤、または双方の組合わせのいずれかで治療を受けた動物において、基底膜損傷の改善が見られ定量化できる。
【0187】
動物における損傷の程度の他の尺度は、最終洗浄液中に現れる出血または赤血球(RBCs)数量である。RBCsの存在は、蛋白質の存在に較べると、血球全体がマトリックスに生じた孔を通過できる、損傷の程度がさらに大きいことを示している。図7Cは、最終洗浄液中のRBC数を示している。RBCs数のわずかな低下は、モデル表面活性剤混合物が添加された場合に、損傷のいくらかの改善が見られたことを示唆しており、エラスターゼ阻害剤が添加された場合は損傷のより大きな減少が見られた。モデル表面活性剤混合物とエラスターゼ阻害剤双方の添加もまた、損傷の著しい減少をもたらした。
【0188】
ナイトロジェンマスタードによる処理で循環好中球を欠失したウサギがLPSおよびPMAに曝露した際に、有意な損傷を現さないことが以前示されていた。このことは最終洗浄液におけるこれらのウサギの蛋白質、RBCsおよびエラスターゼがないことにより立証されている(Cochrane,CGら、Am.J.Resp.and Critt.Care Med.、163巻:p.139、2001年)。このことは、インビボでのエラスターゼ源が好中球であることを強く示唆する。ヒト好中球エラスターゼ活性を阻害するモデル表面活性剤混合物単独、セリンエラスターゼ阻害剤単独、および双方の組合わせの能力を評価した。図8は、エラスターゼ阻害剤によるHNE活性の著しい阻害を、モデル表面活性剤混合物のさらなる存在の有無に関して示している。モデル表面活性剤混合物は、エラスターゼを阻害するエラスターゼ阻害剤の能力を妨害しないが、それ自体で直接エラスターゼを阻害もしない。
【0189】
最終BAL液におけるエラスターゼ阻害剤の残余の活性を、既知量のHNEと共に前記BAL液をインキュベートすることによって評価した(実施例12)。その結果を図9に示している。OD410により測定した場合、HNE活性の著しい低下が2〜4群に見られる。HNE活性の低下は、1つ以上のエラスターゼ阻害剤の存在を示している。3群および4群の洗浄液に見られるエラスターゼ阻害は著しいが、これらの群の動物は静脈内経路および気管内経路の双方にとって公知のエラスターゼ阻害剤が投与された。しかし、モデル表面活性剤混合物群(2群)に見られたエラスターゼ阻害もまた、ウサギにおけるSLPIまたはアルファ−1プロテアーゼ阻害剤またはある組合わせなどの内因性エラスターゼ阻害剤による可能性が考えられる。正常なウサギ(5群)およびLPS/PMA陽性の損傷ウサギ(1群)は、この実験において、それらの最終洗浄液中にエラスターゼ阻害剤の存在を示さなかった。しかし、ウサギ#5541(1群)は最終BAL液中に遊離エラスターゼの存在を示した。正常ウサギのBAL液(5群)には検出されなかった。
【0190】
誘導された肺の炎症を有するウサギの肺に見られる蛋白質分解性損傷の源は、白血球から遊離されたエステラーゼの可能性が強いことが、上記の試験によって示された。急性の肺損傷は、肺血管基底膜の分解および血漿蛋白質と赤血球の肺胞空間内への放出を生じさせた。前記動物をモデル表面活性剤混合物、またはセリンエラスターゼ阻害剤または双方の組合わせによって治療することにより、損傷程度が低下した。したがって、モデル表面活性剤混合物およびセリンエラスターゼ阻害剤を含有する医薬品組成物は、肺の炎症損傷の予防および治療に好結果を生じると考えられる。
【0191】
上に特記したように、本発明は、炎症成分が関与していない肺病態を含む種々の肺病態の治療に有利である。喘息およびそれに関連した気管支収縮病態は、アルブテロール、テルブタリン、サルメテロール、フォルモテロールおよび薬理学的に許容できるそれらの塩などの気管支拡張剤を含有する表面活性剤製剤の投与によって有利に治療できる。
【0192】
気管支炎や結核などの肺の細菌感染は、活性剤として抗生物質を含有する表面活性剤によって有利に治療できる。
【0193】
嚢胞性線維症は、デオキシリボヌクレアーゼ送達用に調製された本発明の表面活性製剤の投与によって有利に治療できる。
【0194】
ゆえに、本組成物は、他の有用な薬剤も含むことができる。例えば、以下の薬剤を含み得る:気管支拡張剤、抗生物質、デオキシリボヌクレアーゼ、鎮痛剤またはサイトカインおよびペプチドホルモンなどのポリペプチド。
【0195】
(分布および取り込みの改善)
本節では、肺における薬剤の分布と取り込みの改善に寄与する、上記の表面活性製剤により提供された因子を記載する。薬剤分布の改善は、(i)肺表面における薬剤の展着および散剤の改善、実際には薬剤が肺内へおよび肺を通って移行する有効表面積の増大、および(ii)肺表面における脂質単層を安定化し、したがって肺表面における有利な薬剤移行界面の維持などの因子の組合わせによるものと思われる。
【0196】
図4Aと4Bは、脂質粒子において、肺に送達された活性剤の沈積と展着を脂質展着の有無に関して図示している。図4Aは、展着がある場合(+、白円)およびない場合(−、部分陰影円)の双方における沈積直後の脂質粒子のサイズを図示している。時間が増加するにつれ(図4B)、展着粒子が拡張しつづけ、融解して沈積領域に広い面積の覆いを形成するため、覆われた面積差はより明白となる。展着がない場合、前記粒子は分離して局在化したままであり、それらの内容物を狭く局在化した面積にのみ放出する。
所与のサイズの所与の量の脂質粒子によって覆うことのできる総面積は、粒子脂質により表される単層総面積に関して算出できる。一例として、表面活性剤製剤の1μmサイズの粒子10mgの算出面積は、60cm2であり、すなわち、肺の表面積の0.00125パーセントである。粒子中のリン脂質が単層形態にて分散される展着が存在すると、前記製剤(脂質中に分散した活性剤を含むと考えられる)によって覆われた総面積は肺の表面積の34%と算出される。このように、展着によって、肺の中へ、または肺のいたるところへの薬剤移行のために利用できる肺の総表面積は少なくとも略4桁のオーダーで増加する。
【0197】
薬剤送達のための肺表面積を大きく増加させることに加えて、本発明の表面活性製剤は、圧力下での崩壊に抗して単層を安定化することによって、より効率的な取り込みを促進し、単層を不安定化することなく、肺の単層表面内への脂質取り込みを可能にする。
【0198】
図4Cは、これらの特徴が、患者の肺領域に送達された活性剤の細胞取り込みおよび浸透を増大させる様子を図示している。図の左では、肺表面に沈積した局在化脂質粒子が効果的に覆っているのは、粒子自体の狭い表面積のみであることが示されている。この粒子による薬剤送達は、粒子からの薬剤の拡散速度および/または粒子の溶解速度によって限定されることになる。
【0199】
図の右の図示は、本発明の表面活性製剤を有する粒子における脂質展着の効果を示している。前記図は、粒子の脂質および関連した薬剤が肺表面の単層/空気界面において、より広い表面積にわたって展着したことを示すことが意図されている。そして、薬剤は小嚢浸透、傍細胞浸透または経細胞浸透などの機構による直接的取り込みのため、肺のより広い表面積にわたって分布する。小嚢輸送は、細胞の表面に生じる多数の複雑な機構のかなり粗い表現である。肺胞内の細胞膜は薬剤を含む小嚢を作り出すが、薬剤粒子と細胞膜との間のこのような様式は、自発的に生じ得る。薬剤、特に高分子はこのような経路により、細胞膜を越えて輸送される。傍細胞の取り込みにおいて、活性剤は、循環内への取り込みのため上皮細胞間の傍細胞空間を通って拡散する。経細胞取り込みと浸透は、肺上皮内へ、肺上皮を通って、および肺上皮の外から循環内への直接的取り込みを意味する。
【0200】
また、図3Cは、薬剤送達における展着および単層安定化が肺の病原体、この場合は、肺表面上の細菌に対する治療を増強し得る様子を示している。展着がない場合、脂質粒子は病原体粒子に接触できたり、できなかったりする。展着がない場合、薬剤送達は接触箇所でのみ、または薬剤の拡散作用によって生じる。一方、脂質分散は、病原体を飲み込むことができ、病原体の外表面全体にわたって病原体に薬剤を取り込ませることができる。
【0201】
ここで検討した特徴は、ポリペプチド活性剤が、肺組織に広く分布される必要のある肺の炎症病態の治療に用いられるプロテアーゼ阻害剤、またはホスホリパーゼ阻害剤および抗酸化剤などの化合物を投与する上で特に有用である。さらに、このような特徴は、肺の広い部分に影響を与える肺病態の治療に有用である。なぜならば、投与された薬剤は肺の広い表面積に亘って素早く利用できるからである。また、これらの特徴は、それ自体では容易に拡散できないポリペプチドやペプチドの投与に有用である。肺内の感染部位に浸透する必要のあるペプチド抗生剤などの抗生剤は、効率的に投与され、投与後に肺表面の細菌を攻撃するために容易に利用し得る。
【0202】
(組成物)
プロテアーゼ阻害剤、リパーゼ阻害剤、抗酸化剤および本発明の表面活性剤混合物は、種々の許容できる組成物へと製剤化できる。このような医薬品組成物は、選択された投与経路、すなわち、洗浄、経口、または非経口、静脈内、筋肉内、肺または吸入経路に適合させた種々の形態でヒト患者などの哺乳動物宿主へ投与できる。
【0203】
化合物、例えば、抗酸化剤およびポリペプチド阻害剤または他の化合物が十分に塩基性または酸性であって、安定な非毒性の酸性塩または塩基性塩を形成する場合、塩としてこのような化合物を投与することが適切であり得る。製薬的に許容できる塩の例は、生理学的に許容できるアニオンを形成する酸によって形成された有機酸付加塩、例えば、トシル酸塩、メタンスルホン酸塩、酢酸塩、クエン酸塩、マロン酸塩、酒石酸塩、コハク酸塩、安息香酸塩、アスコルビン酸塩、α−ケトグルタール酸塩、およびα−グリセロリン酸塩である。塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩、重炭酸塩、および炭酸塩などの好適な無機塩もまた形成できる。製薬的に許容できる塩は、当業界に周知の標準的な方法を用いて、例えば、アミンなどの十分に塩基性の化合物を生理学的に許容できるアニオンを供給する好適な酸と反応させることによって得られる。カルボン酸のアルカリ金属塩(例えば、ナトリウム、カリウム、またはリチウム)塩またはアルカリ土類金属(例えば、カルシウム)塩もまた作成される。
【0204】
ポリペプチドの製薬的に許容できる塩としては、例えば、塩酸またはリン酸などの無機酸または酢酸、酒石酸、マンデル酸などの有機酸により形成される酸付加塩(ポリペプチドの遊離アミノ基により形成)が挙げられる。また、遊離のカルボキシル基により形成される塩も、例えば、ナトリウム、カリウム、アンモニウム、カルシウム、または水酸化第二鉄などの無機塩基およびイソプロピルアミン、トリメチルアミン、2−エチルアミノエタノール、ヒスチジン、プロカインなどの有機塩基から誘導できる。
【0205】
このように、プロテアーゼ阻害剤、リパーゼ阻害剤、または抗酸化剤を含有する本発明の組成物は、不活性希釈剤または同化できる食用担体などの製薬的に許容できる媒体と組合わせて、全身的に、例えば経口で投与できる。これらは、硬殻または軟殻のゼラチンカプセルで包含でき、錠剤へと圧縮でき、または患者の食事の食物に直接組み込むことができる。経口治療投与のためには、前記組成物は、1つ以上の賦形剤と組合わせることができ、消化可能な錠剤、バッカル錠剤、トローチ剤、カプセル剤、エリキシル剤、懸濁剤、シロップ剤、カシェ剤などの形態で用いることができる。このような組成物および製剤は少なくとも0.1%の有効化合物を含有する必要がある。前記組成物および製剤のパーセンテージは、もちろん変えることができ、所与の単位剤形の重さの約2%から約60%の間が便利であり得る。このような治療上有用な組成物におけるプロテアーゼ阻害剤、リパーゼ阻害剤、または抗酸化剤の量は、有効な用量濃度が得られるような量である。
【0206】
錠剤、トローチ剤、丸剤、カプセル剤などは、以下のものも含有し得る:トラガントゴム、アラビアゴム、コーンスターチ、またはゼラチンなどの結合剤;リン酸二カルシウムなどの賦形剤;コーンスターチ、ポテトスターチ、アルギン酸などの崩壊剤;ステアリン酸マグネシウムなどの潤滑剤;およびスクロース、フルクトース、ラクトースまたはアスパルテームなどの甘味剤またはペパーミント、ウインターグリーン油またはチェリーフレーバリングなどの芳香剤を加えてもよい。単位剤形がカプセルの場合、上記のタイプの物質に加えて、植物油またはポリエチレングリコールなどの液体担体を含有できる。被覆剤として、あるいは固体の単位剤形の物理的形態を変更するために、他の種々の物質が存在できる。例えば、錠剤、丸剤、またはカプセル剤は、ゼラチン、ワックス、シェラックまたは糖などで被覆できる。シロップ剤またはエリキシル剤は、有効化合物、甘味剤としてスクロースまたはフルクトース、保存剤としてメチルパラベンおよびプロピルパラベン、染料およびチェリー芳香またはオレンジ芳香などの芳香剤を含有できる。もちろん、いずれの単位剤形の調製に用いられるいずれの物質も製剤的に許容できるものであり、使用量において実質的に非毒性でなければならない。さらに、前記有効化合物を徐放製剤および徐放装置に組み込んでもよい。
【0207】
前記有効化合物は、注入または注射により静脈内に、または腹腔内に投与することもできる。活性剤の液剤は、水中で調製でき、場合によっては、非毒性の界面活性剤と混合できる。分散剤もまた、グリセロール、液体ポリエチレングリコール、トリアセチンおよびそれらの混合物中で、および油中で調製できる。通常の貯蔵条件および使用条件下で、これらの製剤は、微生物の増殖を防ぐために防腐剤を含有する。
【0208】
注射または注入に好適な製薬剤形としては、無菌注射、または注入液剤または分散剤の即席製剤のために適合させ、場合によってはリポソームに封入した有効成分を含む滅菌水性液剤または分散剤または無菌散剤を挙げることができる。全ての場合において、最終的な剤形は無菌であり、製造および貯蔵の条件下で安定である必要がある。液体担体または液体媒体は、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、液体ポリエチレングリコールなど)、植物油、非毒性グリセリルエステル、およびそれらの好適な混合物を含む溶媒または液体分散媒体であり得る。適切な流動性は、例えば、リポソームの形成により、分散剤の場合は、必要な粒子サイズの保持により、または界面活性剤の使用により維持できる。微生物作用の防止は、種々の抗細菌剤および抗真菌剤、例えばパラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸、チメロサールなどによって実現できる。多くの場合、等張性試剤、例えば、糖、緩衝剤または塩化ナトリウムを含むことが好ましいであろう。注射用組成物の吸収波長は、前記組成物中における吸収を遅延化する試剤、例えば、モノステアリン酸アルミニウムおよびゼラチンの使用によって実現する。
【0209】
滅菌注射溶液は、必要ならば、上記に列挙された種々の他の成分と共に適切な溶媒中、必要な量のプロテアーゼ阻害剤、リパーゼ阻害剤または抗酸化剤を組み込み、次いでろ過滅菌することにより調製される。滅菌注射用溶液の調製のための滅菌粉末の場合、好ましい調製法は、真空乾燥法および凍結乾燥法であり、これらにより、プロテアーゼ阻害剤、リパーゼ阻害剤または抗酸化剤プラス予め滅菌ろ過した溶液に存在する任意の追加所望成分の粉末が生成する。
【0210】
本発明のプロテアーゼ阻害剤、リパーゼ阻害剤または抗酸化剤の有用な用量は、動物モデルにおけるそれらのインビトロ活性およびインビボ活性を比較することにより決定できる。マウス、および他の動物の、ヒトに対する有効用量の外挿法は、当業界に公知であり;例えば、米国特許第4,938,949号明細書を参照されたい。
【0211】
一般に、液体組成物中の本発明のプロテアーゼ阻害剤、リパーゼ阻害剤または抗酸化剤の濃度は、約0.01〜25重量%、または約0.1〜10重量%である。
【0212】
治療使用に必要なプロテアーゼ阻害剤、リパーゼ阻害剤または抗酸化剤、またはそれらの有効塩類または誘導体の量は、選択された特定の塩のみならず、投与経路、治療している病態の性質、患者の年齢および状態によって変わり、最終的には主治医および臨床医の自由裁量となる。
【0213】
しかしながら一般に、好適な投薬量は、約0.1から約100mg/kgの範囲、例えば、1日当たりレシピエントの1キログラム体重当たり1から50mgなどの1日約1.0から約75mg/kg体重の範囲、または約3から約90mg/kg/日の範囲、または約5から約60mg/kg/日の範囲となる。
【0214】
プロテアーゼ阻害剤、リパーゼ阻害剤または抗酸化剤は;例えば、単位剤形当たり有効成分が5から1000mg、好適には10から750mg、最も好適には50から500mgを含有する単位剤形で投与することが好適である。
【0215】
理想的には、プロテアーゼ阻害剤、リパーゼ阻害剤または抗酸化剤は、肺病態の最適治療を達成するように投与すべきである。経口、静脈内または非経口的に投与される場合、活性剤のピーク血漿中濃度は、約0.5から約75μM、または約1から50μM、または約2から約30μMで達成できる。これはまた、例えば、プロテアーゼ阻害剤、リパーゼ阻害剤または抗酸化剤の場合によっては生理食塩水中、0.05から5%溶液の静脈内注射、またはプロテアーゼ阻害剤、リパーゼ阻害剤または抗酸化剤の約1〜100mgを含有するボーラスとして経口投与によって達成できる。所望の血中レベルは、プロテアーゼ阻害剤、リパーゼ阻害剤または抗酸化剤の約0.01〜5.0mg/kg/hrを供する連続注入、または約0.4〜15mg/kgを含有する間欠注入により維持できる。
【0216】
所望の投薬量は、単一用量または適切な間隔、例えば、1日当たり2回、3回、4回またはそれ以上の副次的用量で投与される分割用量で好適に提供できる。この副次的用量自体を、例えば、注入器からの頻回吸入、または複数点眼の適用のような多くの不連続の厳密ではない間隔投与にさらに分割できる。
【0217】
幾つかの実施形態において、抗酸化剤は細胞に入り、反応性酸素種と反応することにより、細胞内の反応性酸素種の濃度を減少させる。代わりの実施形態において、抗酸化剤は細胞に入るか、周囲の細胞外環境に存在して、反応性酸素種から発生する過酸化物と反応する。
【0218】
本発明の使用に考慮されたプロテアーゼ阻害剤、リパーゼ阻害剤または抗酸化剤を、関心対象部位(肺)に直接送達して、肺の炎症症状を直ちに軽減させることができる。このような送達は、気管支肺胞洗浄、気管内投与、吸入またはボーラス投与により可能である。これらの場合、表面活性剤混合物が含まれる。
【0219】
肺洗浄を実施する方法は当業界で利用できる。例えば、参照として本明細書に組み込まれている米国特許第6,013,619号明細書を参照されたい。例えば、肺洗浄は以下のとおり洗浄できる:
a) ベンチレータによるガス呼気終末陽圧(PEEP)を、調節圧、好ましくは約4から20cm水で哺乳動物の肺区域に適用すること;
b) 製薬的に許容できる水性媒体中の希釈表面活性剤を含有する洗浄組成物を肺の1つ以上の葉または区域に点滴注入すること;および
c) 短い間隔の気道気管支吸引、好ましくは約20から100mm水銀陰圧を用いて、生じた肺液体を肺から除去すること。
【0220】
典型的には、PEEPは、点滴注入ステップ(b)前の予め選択された時間、好ましくは約30分まで適用し、さらにPEEPは、典型的にはステップ(b)と(c)の間、および除去ステップ(c)後の予め選択された時間、好ましくは約6時間まで連続的に適用される。
【0221】
吸入による送達を、さらにここに記載する。代わりの送達手段としては、限定はしないが、静脈内、経口、吸入、カニューレ挿入、腔内、筋肉内、経皮、および皮下投与が挙げられる。
【0222】
本発明の治療組成物は、有効成分として溶解または分散されている、本明細書に記載の表面活性剤混合物、プロテアーゼ阻害剤、リパーゼ阻害剤または抗酸化剤と共に生理学的に耐容性のある担体を含有する。好ましい実施形態において、治療組成物は、治療目的のために哺乳動物またはヒト患者に投与された場合に免疫原性ではない。
【0223】
組成物に溶解または分散された有効成分を含有する製薬組成物の調製は、当業界によく理解されており、製剤に基づいて限定する必要はない。典型的にはこのような組成物は、液体溶液または懸濁液のいずれかの注射液として調製されるが、使用前の液体中の溶液または懸濁液に好適な固体形態も調製できる。この製剤は乳化もできる。
【0224】
前記有効成分は、製薬上許容でき、有効成分と適合でき、本明細書に記載された治療法の使用に好適な量の賦形剤と混合できる。好適な賦形剤は、例えば、水、生理食塩水、デキストロース、グリセロール、エタノールなど、およびこれらの組合わせである。さらに所望ならば、前記組成物は、活性剤の効果を高める湿潤剤または乳化剤、pH緩衝剤などの少量の補助剤を含有することができる。
【0225】
液体担体の例は、活性剤および水の他に物質を含有しないか、あるいは生理的pH値でリン酸ナトリウムのような緩衝剤、生理食塩水またはリン酸緩衝生理食塩水のような両方を含有する滅菌水溶液である。さらに、水性担体は、2種以上の緩衝塩、ならびに塩化ナトリウムおよび塩化カリウムなどの塩、デキストロース、ポリエチレングリコールおよび他の溶質を含有できる。
【0226】
幾つかの実施形態において、液体担体はトロメタミン緩衝系であり、本質的に以下のとおり調製できる。酢酸(AR Select、ACS、Mallinckrodt、ケンタッキー州パリス)を用いてpH7.2±0.5に調整されたpHを有する0.37mlのトロメタミン溶液(トロメタミン注射液、NDC0074−1593−04、Abbott Laboratories、イリノイ州ノースシカゴ)を、0.33ml生理食塩水(0.9%塩化ナトリウム注射液、USP、Abbott Laboratories)と0.30ml水(注射液用滅菌水、USP、Abbott Laboratories)とに混合する。この溶液は滅菌ろ過により滅菌できる。
【0227】
(肺送達用エアロゾル製剤の調製)
本節は、表面活性剤製剤を被験者の肺表面に投与するための乾燥粉剤または液滴エアロゾルを製造するための方法および装置を考慮している。
【0228】
図1は、本発明による加工ステップおよび製剤の概要を提供している。枠10表示の「表面活性剤混合物」とは、リン脂質、展着剤、および肺表面活性蛋白質の混合物を言う。前記表面活性剤混合物は、リポソーム懸濁液のような脂質本体製剤に加工し得る。枠12表示の「表面活性剤製剤成分」とは、表面活性剤混合物の他の成分を言う。活性剤は、製剤に組み込まれている。
【0229】
図1に見られるように、活性剤は、予め形成された表面活性剤混合物、例えば、予め形成されたリポソームに加えて表面活性剤製剤を形成でき、または12でのように表面活性剤製剤成分に直接加えて、枠14によって示される表面活性剤製剤を直接製造できる。前記表面活性剤製剤は、十分に規定された脂質本体、例えば、活性剤を取り込むリポソーム、表面活性剤混合物および活性剤成分の双方を含有する脂質−結晶性または非晶質本体、有機溶媒または有機/水性共溶媒中の上記成分の溶液、またはそれら幾つかのいくらかが脂質−本体形態である懸濁液、および溶質形態の他の成分であり得る。下記から認識されるように、表面活性剤製剤の組成物のみおよびそのものの構造的要件は、上記脂質および薬物成分の全てを含有する好適なエアロゾル粒子形に変換または加工できる。
【0230】
本発明により考慮される種々の加工ステップをここで考慮すると、枠16標識の「凍結乾燥粒子」とは、好ましくは脂質本体の水性懸濁液としての表面活性剤製剤を凍結乾燥して乾燥した塊を形成し、次に例えば、摩砕することにより微粉砕して、1〜5μmサイズ範囲の質量中央空気動力学的径を有する乾燥粉末粒子を含有する組成物を形成する。枠16で示された乾燥粉末粒子を、次に保存し、好適なエアロゾル化装置を用いて、吸入治療(枠26)に、または粒子懸濁液としてエアロゾル化(枠24)に好適な溶媒中の懸濁液に好適な乾燥粒子エアロゾルを製造する。
【0231】
他の実施形態において、本発明は、脂質本体形態で表面活性製剤を含有する水性液滴エアロゾルを生成するために、使用者制御のネブライザまたはエアロゾライザによって枠20に示された液体表面活性製剤を加工することを考慮している。この実施形態の表面活性製剤成分は、エアロゾル液滴に懸濁された規則的な結晶または非晶質脂質粒子に存在し得る。
【0232】
さらに他の実施形態において、表面活性製剤は、枠18に示されるようにスプレー乾燥により加工して、所望の1〜5μmサイズの質量中央空気動力学的径を有するスプレー乾燥粒子を製造する。次に、前記スプレー乾燥粒子を保存して、吸入療法のために上記のエアロゾル化装置で使用者により使用される。粉末粒子は示されるように、乾燥粉末エアロゾルとして送達できるか、または粒子を水性液滴形態におけるエアロゾル化用に水性媒体に懸濁できる。あるいは、枠14と26との間の直接連結により示されるように、液体形態における好適な表面活性製剤、例えば、揮発性生体適合性液体に含まれる製剤溶液または懸濁液は、形成された粒子が活性剤の治療的送達のために直ちに吸入されるエアロゾル化過程で形成し得る。
【0233】
本発明の表面活性製剤のエアロゾル投与による薬物送達の基本原則およびこれらの利点を達成するために好適なエアロゾル形成方法を、さらに以下に記載する。活性剤を送達する上で種々の療法または診断法における肺道に対する本発明の適用も以下に考慮されている。
【0234】
上記のように、本発明の製剤は、溶液製剤または粒子製剤として調製できる。この液体成分または治療薬または双方は、水性溶媒、有機溶媒または混合溶媒に懸濁されたリポソーム、結晶または非晶質脂質本体に取り込むこともできる。
【0235】
リポソーム懸濁液(脂質小胞)は、Szoka,F.Jr.ら、Ann.Rev.Biophys.Bioeng.、9巻:p.467−508、1980年に詳述されるものなど種々の方法により作製できる。本発明のリポソーム表面活性剤組成物は、一般に滅菌リポソーム懸濁液である。これらリポソームは、複数のコンパートメントまたは多層状小胞、単一コンパートメント小胞およびマクロ小胞であり得る。多層状小胞が一般に最も一般的である。多層状小胞(MLV)類は、好ましくは滅菌条件下で簡便な液体−フィルム水和法により形成できる。
【0236】
リポソーム表面活性剤組成物を製造する1つの方法は、表面活性ポリペプチドを選択されたリン脂質と一緒に溶解すること、次いで生じた溶液を水性緩衝液と組合わせることを含む。次に生じた懸濁液を透析して有機溶媒を除く。あるいは、有機溶媒は、蒸発および/または真空に曝露することにより除去できる。このように製造された乾燥脂質/ポリペプチド混合物を、水性緩衝液系に再度水和してリポソームを製造する(Olson,F.、ら、Biochem.Biophys.Acta、557巻:p.9−23、1979年)。
【0237】
使用される好適な緩衝液としては、トリス緩衝液、トロメタミン緩衝液系などが挙げられる。トロメタミンは、トリス、トロメタミン、およびトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタンとしても知られている。種々の好ましい実施形態において、前記組成物は、約6.5〜8.0のpH範囲を有する。
【0238】
前記リポソームは、選択された均一のポアサイズを有する一連のポリカーボネート膜を通してリポソームの水性懸濁液を押し出すことによりサイジングされ得る。特にこの調製は、同じサイズの膜を2回以上通して押し出される場合、膜のポアサイズは、この膜を通って押し出されたことによって生成されたリポソームの最も大きなサイズに一致する。このように製造されたリポソームは、0.03から5ミクロンの範囲にあり得る。均質化法および超音波処理法もまた、100nm以下の平均サイズまでのリポソームのダウンサイジングに有用である(Martin,F.J.,In:SPECIALIZED DRUG DELIVERY SYSTEMS−MANUFACTURING AND PRODUCTION TECHNOLOGY、P.Tyle編集、Marcel Dekker、ニューヨーク、p.267−316、1990年)。
【0239】
リポソーム形成前に治療薬をリポソームに取り込ませることを所望する場合、これは標準的な技術により行うことができる。例えば、リポソームを脂質水和により形成する場合、疎水性薬物を水和される脂質混合物に含ませることができ、また親水性薬物を水和溶液に取り込ませることができる。親水性化合物、例えば、蛋白質の高封入化効率は、逆蒸発相法を使用することにより達成でき、その方法では薬物含有水性媒体を部分的に蒸発した脂質構造に加える。
【0240】
親水性薬物のために高封入化効率を達成する他の方法は、溶媒注入によるものであり、揮発性有機溶媒、例えば、エーテル中の脂質溶液を、薬物の水溶液に注入する。脂質溶液を高脂質濃度への連続注入により、極めて高い封入率、例えば50%以上が達成し得る。
【0241】
溶媒注入法は、図2Aにより一般的に例示されており、この図は、親水性薬物の水溶液または疎水性薬物の有機溶液の、脂質の共溶媒分散液(表面活性剤混合物成分を含有する)への添加、水性希釈液の同時またはその後の添加、および有機溶媒の蒸発によって、取り込まれたまたは封入された薬物を含む脂質粒子(例えば、リポソーム)のバルク製剤を形成することを示している。
【0242】
あるいは、活性剤は、予め形成されたリポソームに添加してもよい。この場合、表面活性ポリペプチド−脂質混合物は、予め形成されたリポソームを含む。化合物が疎水性化合物である場合、前記化合物を、水相媒体の分配により二層膜中への取り込みのため、単にリポソームと接触できる。イオン性で親水性および両親媒性化合物に関して、予め形成されたリポソーム中への高内部封入は、利用できる方法にしたがって、pHまたは他のイオン勾配、例えば、アンモニウム勾配に対する薬物充填により達成できる。
【0243】
図1の20に示されるように、リポソーム形成により、水性液滴形態でのエアロゾル化のために液体懸濁液として保存できるか、または図1の16、22に示されるように、リポソーム形成により凍結乾燥、粉末化でき、乾燥粉末エアロゾルとして投与できる。あるいは、リポソーム懸濁液は、18のとおりスプレー乾燥でき、粉末エアロゾルとして投与するために粉末形態で乾燥脂質粒子を形成する。
【0244】
冷凍乾燥(凍結乾燥)は、溶液または懸濁液から乾燥粉末を製造するための1つの標準的な方法である。例えば、Freide,M.ら、Anal.Biochem、211巻:p.117−122、1993年;Sarbolouki,M.N.およびT.Toliat、PDA J.Pharm.Sci.Technol.、52巻(1):p.23−27、1998年)。凍結乾燥後、乾燥表面活性剤製剤を、例えば摩砕または他の従来の手段により微粉砕して所望のサイズの粒子を形成する。
【0245】
最近、液化ガスの臨界特性を使用できる方法が、治療用蛋白質を含有する微粒子および粉末の生成に使用されている(Niven,R.W.,In:MODULTED DRUG THERAPY WITH INHALATION AEROSOLS:REVISITED、A.J.Hickey編集、Marcel Dekker、ニューヨーク)。好ましい結晶の晶へきおよび吸入目的に好適な特性を有する粒子は、これらの方法により調製できる。例示的超臨界流体加工法としては:超臨界流体の迅速展開(RESS)、粒子を調製するためのガス−逆溶剤(GAS)沈降の使用、および超臨界流体の溶液−強化分散液(SEDS)が挙げられる(米国特許第5,301,644号明細書;米国特許第5,707,634号明細書;米国特許第5,770,559号明細書;米国特許第5,981,474号明細書;米国特許第5,833,891号明細書;米国特許第5,874,029号明細書および米国特許第6,063,198号明細書を参照)。
【0246】
スプレー乾燥はまた、所望のサイズの乾燥脂質粒子を製造するために有利に使用できる。(Master,K.、SPRAY DRYING HANDBOOK、第5版、J.Wiley & Sons、ニューヨーク、1991年;Maa,Y.F.ら、Pharm.Res.15巻(5):p.768−775、1998年;Maa,Y.F.ら、Pharm.Dev.Technol.、2(3):p.213−223、1997年を参照)。種々のスプレー乾燥法は、特許文献に記載されている、例えば、米国特許第6,174,496号明細書;米国特許第5,976,574号明細書;米国特許第5,985,284号明細書;米国特許第6,001,336号明細書;米国特許第6,015,256号明細書;米国特許第5,993,805号明細書;米国特許第6,223,455号明細書;米国特許第6,284,282号明細書;および米国特許第6,051,257号明細書を参照されたい。
【0247】
使用され得る1つのスプレー乾燥装置は、乾燥タンクを有するサイクロンドライヤーである。液体混合物を乾燥タンクに給送し、温ガス(例えば空気または窒素)または他の不活性ガスをタンクの上部に圧入する。給送液体をタンクに入ったときに分解し、これをタンクの底部に運ばれたときに温ガスにより乾燥し、そこから採取ユニットに運ばれる。公知の加工パラメータに従って、溶媒、注入速度、温ガス流速を調整して所望のサイズの乾燥粒子を製造できる。この場合、例えば1〜5μm範囲で平均流体力学的径を有する粒子を使用できる。この手順において、乾燥温度は、少なくとも約37℃、好ましくは40℃超で、100℃超も良好であり得る。採取チャンバ内の温度は、加熱空気よりも実質的に低い。この一般法は、図2Bに例示され、この図は、表面活性剤混合物成分も含んでいる好適な共溶媒溶液に加えられた疎水性または親水性薬物を示している。生じた混合物をスプレー乾燥してバルク粉末製剤中の所望のサイズ乾燥粒子を製造する。次いでこれらの粒子を包装して、好ましくは乾燥条件下で乾燥粒子を肺に投与するためにエアロゾライザに使用されるまで貯蔵できる。
【0248】
図3Aおよび3Bは、この方法により製造できるタイプの乾燥脂質粒子の顕微鏡写真である。図3Aは、全て狭いサイズ範囲ではあるが、種々の形態を有する非晶質粒子を示している。図3Bに示される粒子は、よく規定された結晶形状を有する結晶性粉末粒子である。両タイプの粒子は、本発明に好適ではあるが、しかし、2つの状態間の遷移が、有効製薬成分の物理化学的安定性に影響を及ぼす可能性があり、また吸入器から分散されて解凝集される粉末の能力に直接影響を及ぼす可能性があることから一旦形成された粒子は、最初の状態で維持されることが好ましい。これらの変化はまた、粒子の薬物動態特性に影響を及ぼす可能性がある。一般に、非晶質粉末が結晶形への遷移を起こす傾向に影響を及ぼす因子としては、湿気、親水性薬剤、不純物、温度および時間が挙げられる。非晶質粉末が結晶状態への遷移を起こす傾向を減じ得る因子は、蛋白質とポリマー類、および疎水性物質の存在である。遷移に影響を及ぼすこれら幾つかの因子の中で、温度と湿気が最も重要であり、エアロゾル化前に適度の保存温度下での乾燥状態で粒子を保存する必要性を強調する。
【0249】
懸濁粒子または乾燥粒子を形成する方法にかかわらず、粒子は、1〜5ミクロンの範囲で所望のMMADを得る条件下で形成される。肺の深い組織に影響を及ぼす肺の病態(例えば、肺気腫)の治療のためなど、粒子を活性剤を肺深くに送達させることを意図する場合、前記粒子は、主として1〜3または1〜2ミクロンMMADサイズ範囲であることが好ましい。薬物送達が気道を標的にする場合、より大きな粒径、例えば3〜5MMADサイズ範囲がより適切となり得る。
【0250】
前記製剤は、リポソームまたは他の脂質粒子の水性懸濁液であるが、種々の市販のネブライザは、所望のエアロゾル粒子を製造するために使用できる。噴霧操作は、典型的には約10〜50psigの圧で実行され、形成される水性粒子は、典型的には約2〜6ミクロンの範囲である。装置は、公知の操作変数により、エアロゾル化リポソームまたは脂質ベースの粒子の測定量を生じるように制御され得る。
【0251】
リポソームの水性懸濁液、および好ましくは約25%〜30%未満の封入水性容量を含有する比較的希釈された懸濁液をエアロゾル化するために好適な他の装置は、担体流体を細かいミストの水性粒子に分解するために超音波エネルギーを使用する。超音波ネブライザ装置は、粒径が圧縮エアネブライザにより形成されるものと同一、すなわち約2〜6ミクロンの間にあるリポソームエアロゾルミストを生じることが見出された。
【0252】
水溶性のリポソーム−透過性薬物の送達のために使用されるタイプの濃縮リポソーム分散液をエアロゾル化するために、分散液を最初に担体溶媒と混合して、エアロゾル化され得る希釈分散液を形成する。前記担体溶媒は水性媒体であってもよく、その場合、分散液は希釈されるか、または空気式または超音波ネブライザによるなど、スプレーするのに好適な形態に適合させる。加えられる添加物量は、分散液をスプレーするのに好適にするのに十分であり、例えば、約30%未満の全封入容量を含有する。前記分散液が全分散容量の70〜75%の初発封入容量を有していると仮定すると、所与の容量の分散液は、少なくとも1容量および2容量の希釈剤で希釈しなければならない。
【0253】
あるいは、表面活性剤成分を、下記に挙げたように好適な揮発性で生体適合性の溶媒中に溶解または懸濁して、(i)最初スプレー乾燥粒子を形成し、および(ii)たった今形成された粒子の肺への吸入を導く条件下で好適なエアロゾライザ装置からスプレーできる。
【0254】
本節は、乾燥脂質粒子の風媒性懸濁液を製造するためにデザインされた種々の自給式送達装置を記載する。本明細書に定義される「自給式」とは、粒子エアロゾルが、加圧フルオロクロロ炭素系噴射剤の放出、または使用者によってその装置を通して吸い込まれる、または装置内に生成される空気流のいずれかによる異なる圧により噴射される自給式装置に生じることを意味する。乾燥粉末に対する従来の粉末用エアロゾライザが好適であることも認識されよう。
【0255】
脂質粒子/噴射剤懸濁液。この装置またはシステムは、噴射剤に懸濁されている乾燥脂質粒子の計量された量を送達するための従来の加圧噴射剤スプレー装置を使用する。前記システムは、好適な噴射剤中の脂質粒子、例えば、リポソームの長期に亘る懸濁液を必要とすることから、前記懸濁液の脂質粒子および噴射剤成分は、貯蔵時の安定性のために選択しなければならない。
【0256】
数種のフルオロクロロ炭素系噴射剤溶媒は、自給式吸入装置に使用されているか、あるいは提案されている。代表的溶媒としては、「フレオン11」(CCl3F)、「フレオン11」(CCl2F2)、「フレオン22」(CCHlF2)、「フレオン113」(CCl2FCClF2)、ならびにその他が挙げられる。脂質粒子/噴射剤懸濁液を形成するために、乾燥脂質粒子を、選択された噴射剤または噴射剤混合物に加えて、全噴射剤の重量パーセントの約1から30重量パーセント、好ましくは、約10〜25重量パーセントの間の最終脂質粒子濃度にする。薬物が、噴射剤懸濁液の乾燥脂質粒子に封入されたままである水溶性化合物である場合、噴射剤中の脂質粒子の最終濃度を調整して、所与のエアロゾル懸濁液容量で薬物の選択された計量投与量を得る。このように、例えば、リポソームが、1mg乾燥リポソーム製剤当たり0.05mg薬剤を含有するように製剤化されて、投与される薬剤の選択された投与量が1mgである場合、この懸濁液は、エアロゾル1回投与当たり20mgの乾燥リポソームを含有するように製剤化される。
【0257】
脂質溶解性薬物、すなわち、噴射剤溶媒に容易に溶解するものに関して、2つの製剤化アプローチが可能である。第1に、薬物を最初に、乾燥脂質粒子を形成するのに使用される脂質に含ませ、次にこれらを、上記の薬物/噴射剤容量の選択された濃度を与える量で噴射剤に加える。あるいは、薬物を、選択された薬物濃度で最初に溶媒に加えてもよい。この製剤中の脂質粒子は、エアロゾル形成および溶媒蒸発時に薬物のための脂質貯蔵所として作用する「空の」乾燥粒子である。空の脂質粒子の最終濃度を、薬物の計量された量を保持するのに好適な都合のよい全脂質用量を与えるように調整する。
【0258】
噴射剤中の脂質粒子の飛沫同伴。この装置、またはシステムにおいて、薬物の計量投与量を含有する乾燥脂質粒子を、送達用パケット中脱水形態で予め包装される。前記パケットは、噴射剤スプレー装置と共に使用されて、リポソーム粒子の風媒性懸濁液中のパケットのリポソーム内容物を噴出させる。
【0259】
空気中の脂質粒子の飛沫同伴。送達装置またはシステムの第3のタイプは、乾燥脂質粒子を飛沫同伴させ、これらを使用者の気道に引き込ませるために、使用者の吸入により生じた空気流を利用する。操作において、好ましくは、上記のパケットの「内部」端でシールを破裂させ、パケットの他端を開封する様式で、パケットをノズル上に配置する。ここで使用者は、マウスピースの近くに唇を置き、力強く吸入して、吸入器のパイプ内にかつパイプを通して迅速に空気を引き込む。パイプに引き込まれた空気をノズルで濃縮されて、パケットから対流領域内に脂質粒子を運ぶ高速度の空気流を引き起こす。前記空気流と飛沫同伴されたリポソームをパドルに当てて、回転を起こさせて対流性流れを設定する。したがって、脂質粒子は、吸入により使用者の気道に引き込まれる直前に、より均等かつより広い断面積にわたり分布される。
【0260】
あるいは、脂質粒子は、患者の吸入呼吸と独立して粉末を分散し、エアロゾル化するのに必要な力を提供する装置内に保持できるあろう。吸入操作内での投与時機はまた、送達系内に取り込まれたセンサーにより制御され得る。
【0261】
以下の実施例は、限定はしないが、本発明を例示するように意図されている。
【実施例】
【0262】
(実施例1:表面活性蛋白質/ポリペプチドの調製)
本発明の表面活性ポリペプチド、例えば、KL4の合成は、種々の公知の合成法に従って実施できる。以下の方法を例示として記載する。
【0263】
あるいは、以下の方法もまた、ここに記載されているように使用される。表面活性ポリペプチドの合成バッチ、例えば、KL4ペプチドのバッチに有用な化学物質および試薬としては、以下のものが挙げられる:
t−Doc−L−リジン(C1−Z)PAM−樹脂(t−Bcc−L−Lys(C1−Z)(Applied Biosystems、カリフォルニア州フォスターシティー);
a−Boc−ε−(2−クロロ−CBZ)−L−リジン(Bachem、カ リフォルニア州サンディエゴ);
N−Boc−L−ロイシン−H2O(N−Boc−Leu;Bachem);
ジクロロメタン(DCM;EM Science、ニュージャージー州ギッブスタウン、またはFisher、ペンシルバニア州ピッツバーグ);
トリフルオロ酢酸(TFA;Halocarbon);
ジイソプロピルエチルアミン(DIEA;Aldrich、ミシガン州アルドリッチ);
N,N−ジメチルホルムアミド(DMF;EM Science、ニュージャージー州ギッブスタウン);
ジメチルスルホキシド(DMSO;Aldrich);
N−メチルピロリドン(NMP;Burdick Jackson、ミシガン州ムスケゴン);
1−ヒドロキシベンゾトリアゾール水和物(HOBt;Aldrich);
1,3−ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC;Aldrich);
無水酢酸(Ac2O:Mallinckrodt、ミズーリ州セントルイス);
フッ化水素(HF;Air Products、ペンシルバニア州、アレン タウン)。
【0264】
KL4ペプチドの1つの合成手段は、Merrifield法を用いてカップラー296ペプチドシンセサイザ(Vega Biotechnologies、アリゾナ州ツーソン)上で実施される。「典型的」合成は、以下に記載する。鎖延長は、下表2に記載されている方法により100gのリジンPAM−樹脂上で実施された。ステップ7、10および11以外の全ステップは、自動的になされた。
【0265】
【表2】
【0266】
ペプチド−樹脂が脱保護され、適切なアミノ酸誘導体が作製された。適切なアミノ酸を1リットルのNMPに溶解した。透明な溶液が得られた後、HOBtを溶液に加えた。HOBtを溶解したら、DCCを溶液に加えた。この溶液を室温で1時間攪拌を続けた。この攪拌1時間の間、副産物のジシクロヘキシル尿素(白色沈殿)が形成された。この副産物を、Whatmanの#1ろ紙を用いてブフナーロートを通してろ過した。次にろ液を手動で、ステップ番号7でのVega296反応容器の内容物に加えた。
【0267】
次にシンセサイザをステップ番号9の完了後中止させるようにプログラム化した。ペプチド樹脂の一定分割量をSarinらの定量的ニンヒドリン試験に供した。(Applied Biosystems 431A user manual,添付資料A)。カップリング効率は、全合成を通して良好であった。未反応のペプチド樹脂を、ロイシン12(サイクル9)およびロイシン5(サイクル16)の後アセチル化した。各アセチル化後、ペプチド樹脂をジクロロメタンで洗浄した(表2、ステップ11を参照)。
【0268】
合成の終わりに、完了ペプチド樹脂をプログラムのステップ1〜3を完了することにより脱保護(Boc基の除去)した(表2参照)。次いで脱保護ペプチド樹脂を十分な量の無水エタノールで洗浄し、P2O5により真空乾燥した。脱保護ペプチド樹脂の乾燥重量は256.48グラムであった。このバッチは、0.64ミリモル/グラムの置換で100gのt−Doc−L−リジン(C1−Z)OCH2PAM−樹脂によって開始したことから、充填量は64ミリモルに相当した。最初の100グラムの樹脂を差し引くと、この重量は156.48グラムであった。新生保護ペプチドの分子量(樹脂上に固定されたC−末端リジンを除いて)は、3011.604g/モルであった。
【0269】
HP開裂。ペプチド樹脂の256.48グラムロットを、3つの大きな一定分割量でフッ化水素(HF)で処理した。Peninsula Laboratories(カリフォルニア州ベルモント)からのタイプV HF−反応装置を、液体フッ化水素を用いてペプチド樹脂の開裂のために用いた。使用前にアニソールを蒸留した。HFは、何ら処理することなく、用いた。ドライアイス、イソプロパノールおよび液体窒素を冷却目的で必要とする。
【0270】
最初のHFに関して、略88gのKL4ペプチド樹脂を、磁気攪拌バー付の1リットル反応容器に入れた。25mlの蒸留アニソールをペプチド樹脂に加えた。全システムを組立てリーク試験が終わったら、全レベルが約300mlに達するまでHFを反応容器に凝縮させた。樹脂からペプチドの開裂は、−4℃で1時間進行させた。HFの部分的除去は、1〜2時間水アスピレータによりなされた。1〜2時間後、HFの残りを高度真空(機械的真空ポンプ)により1〜2時間除去した。反応容器の温度は、HF除去工程を通して−4℃に維持した。
【0271】
次にHF装置を大気圧と平衡させて、油状スラッジが反応容器の底部に見られた。冷無水エーテル(700ml、予め−20℃に冷却)を反応容器の内容物に加えた。樹脂凝集塊をガラスロッドを用いてエーテルで粉砕した。樹脂を沈降させた後エーテルをデカントした。次に樹脂を500mlの室温のエーテルで洗浄するために約5分間攪拌した。樹脂を沈降させた後エーテルをデカントした。樹脂が易流動性になるまで洗浄した(全部で4〜5回洗浄)。この樹脂を換気フードに残し、一晩乾燥した。
【0272】
生じた乾燥HF処理樹脂を次に秤量し、フリーザーに保存した。1.021gの乾燥HF処理樹脂を取り出し、50mlの50%酢酸/水で抽出するために30分間攪拌した。樹脂をあら目焼結ガラスロートを通してろ過し、ろ液を凍結乾燥ジャーに採取した。ろ液を略200mlの水で希釈し、シェル凍結して凍結乾燥器に置いた。1グラムの抽出されたHF処理樹脂は、569mgの粗製ペプチドを生じた。下表(表3)は、残りのKL4ペプチド樹脂の大スケールのHF処理を要約している。全てのHF処理樹脂をフリーザーに保存した。
【0273】
【表3】
【0274】
精製。前記ペプチドは、Dorr−Oliver法B分取HPLC(Dorr−Oliver社、コネチカット州ミルフォード)を用いて精製した。このユニットは、Linear Model 204分光光度計およびKippおよびZonenデュアルチャネルレコーダに接続した。この分取用HPLCは、15〜20ミクロン、および300AポアサイズのVydac C4支持体(Vydac、カリフォルニア州ヘスペリア)が詰められた放射状圧縮10×60cmカートリッジ、を含有するWaters KIL250 Column Module(Waters Associates、マサチューセッツ州ミルフォード)と接続した。溶媒「A」は、水中0.1%HOAcからなり、溶媒「B」は、アセトニトリル中0.1%HOAcからなった。流速は、400ml/分に設定し、カートリッジは、150〜200psiに圧縮し、分取用HPLCシステムバック圧は、550〜600psiであった。
【0275】
最初のDorr−Oliver操作に関して、20gのHF#1からのHF処理樹脂を、500mlの氷酢酸中5分間抽出した。水(500ml)を樹脂/酢酸混合物に加えた。この50%酢酸/水溶液をさらに25分間攪拌した。樹脂をあら目焼結ガラスロートを通してろ過した。ペプチド含有ろ液を保存して、Dorr−Oliver上に充填した。用いられたHPLC勾配は、45分の1〜40%「B」であり、次いで7分間、一定組成で保持した。この時点で、パーセント「B」を1分当たり1%増加し、44%の最終パーセントに増加した(示さず)。
【0276】
フラクションを手動で集めて、HPLCにより分析した。≧95%の純度に合致する全てのフラクションを一緒にプールし、大きなガラス容器に保存した。引き続きこの物質を「BPS#1」と称した。95%以上の純度に合致しないが、所望の成分を有した全てのフラクションを集めて後でリサイクルした。少なくとも10回の追加の分取HPLC操作を、Dorr−Oliverユニット上で実施した(データは示さず)。
【0277】
逆浸透、凍結乾燥。BPS#1の全量は、略60リットルであった。逆浸透は、最終2リットル容量にペプチド溶液を濃縮するために用いられた。ペプチドを保持するR74A膜付のMillipore Model 6015 Reverse osmosis Unitを用いた。生じた2リットルのBPS#1を、2枚のWhatmanの#1ろ紙を用いてブフナーロートを通してろ過し、凍結乾燥用ジャーほぼ11台分に分けて、等容量の水で希釈した。前記凍結乾燥用ジャーをシェル凍結して凍結乾燥した。この手順の最後の乾燥KL4ペプチドの全重量は、40.25gであった。
【0278】
再凍結乾燥。異なる凍結乾燥条件(例えば、ペプチド濃度、凍結乾燥される溶媒組成、凍結乾燥ステップの長さ、シェル温度など)は、異なる溶解度特性を有する乾燥製剤を生じ得ることが判明した。乾燥KL4ペプチドが1mg/mlでクロロホルム:メタノール(1:1)溶液に溶解性であり、10mg/mlで≧90%溶解性であることが望ましい。これらの評価基準が、上記の凍結乾燥の最終段階で合致しない場合、このペプチドは再凍結乾燥し得る。
【0279】
典型的な再凍結乾燥を以下に記載する。略5gのペプチドを、ガラスフラスコ中で攪拌している2リットルのアセトニトリルに徐々に加える。略1分後、3リットルのMilli−Q水を加え、次いで50mlの酢酸(酢酸の最終濃度=1%)を加える。これを37℃で3日間攪拌して、ブフナーロート中のWhatmanの#1ろ紙を通してろ過し、凍結乾燥用ジャーに入れる。次いでドライアイスとイソプロピルアルコールとを用いてシェル凍結して凍結乾燥器に置いた。凍結乾燥時間は、3日から7日に変えることができる。次に最終乾燥生成物を秤量し、包装し、溶解度分析および化学分析用に一定分割量を取る。
【0280】
(実施例2:モデル表面活性剤混合物の調製)
材料。1,2−ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)、1−パルミトイル,2−オレオイルホスファチジルグリセロール(POPG)、およびパルミチン酸(PA)を、Avanyi Polar Lipids社(アラバマ州バーミンガム)から入手した。アミノ酸配列
【0281】
【化25】
【0282】
(配列番号1)を有するKL4ポリペプチドを、本明細書中に記載されたように合成するか、またはDiscovery Laboratories社(ペンシルバニア州ドイルスタウン)から入手した。使用した全ての塩類、緩衝剤および有機溶媒類は、特級を入手できた。
【0283】
表面活性剤組成物のストック溶液を、以下の式:
PLT=総リン脂質=DPPC+POPG
3DPPC:1POPG
1PLT:0.15PA:0.027KL4ペプチド
に基づく組成物と共に40mg/mlの総リン脂質を含有するように製剤化した。
【0284】
前述式を用いて、可変量のパルミチン酸(PA)および1mL当たり2.5から30mgの総リン脂質中のKL4ペプチドを含んだ表面活性剤組成物を作製した(表4)。
【0285】
【表4】
【0286】
モデル表面活性剤混合物は、以下のとおり作製された。KL4ペプチド(9mg)、DPPC(225mg)、POPG(75mg)およびPA(45mg)を2.5ミリリットル(ml)の95%エタノール中45℃で溶解した。次にこの溶液を、迅速に渦巻かせながら7.5mlの蒸留H2Oに加え、2mlの500mM NaCl、250mMトリスアセテートpH7.2を加えた。生じた乳白色の懸濁液を37℃で15分間攪拌してから、存在するエタノールを、100容量の130mM NaCl、20mMトリスアセテートpH7.2緩衝液に対し37℃で透析(Spectrapor2;13,000分子量をカットオフ)により除去した。透析は、透析溶液を2回変えて48時間続けた。
【0287】
さらに前記組成物は、最終生成物の1mL当たり以下の組成を有する緩衝系/懸濁液をさらに含み得る(表5)。
【0288】
表5
成分 1mL当たりの量
トロメタミン、USP 2.42mg
氷酢酸、USP トロメタミン緩衝液をpH7.7に
またはNaOH、NF 調整するのに十分な量
NaCl、USP 7.6mg
注射用水、USP 1.0mLまで十分量
このサム(Tham)緩衝液系は、本質的に以下のとおり調製された。酢酸(AR Select、ACS、Mallinckrodt、ケンタッキー州パリス)を用いてpH7.2±0.5に調整されたpHを有する0.37mlのサム(Tham)溶液(トロメタミン注射液、NDC0074−1593−04、Abbott Laboratories、イリノイ州ノースシカゴ)を、0.33ml生理食塩水(0.9%塩化ナトリウム注射液、USP、Abbott Laboratories)と0.30ml水(注射液用滅菌水、USP、Abbott Laboratories)とに混合した。この溶液は滅菌ろ過した。
【0289】
(実施例3:ヒト好中球エラスターゼに関する比色アッセイ)
次の配列MeO−Suc−Ala−Ala−Pro−Val−pNA(配列番号24)を有するペプチドは、エラステターゼ基質として使用された。配列番号24のペプチド基質の100μLの0.425mM溶液を一連のミクロ滴定プレートウェルに入れた。種々の量のヒト好中球エラスターゼ(HNE)をミクロ滴定プレートウェルに入れた。410nM(OD410)での光学密度を用いてエラスターゼ活性を測定し、観測された光学密度を、検量線を作り出すために加えたHNE量に対してプロットした。
【0290】
(実施例4:エラスターゼ阻害剤によるヒト好中球エラスターゼの阻害)
セリンエラスターゼ阻害剤がヒト好中球エラスターゼ(HNE)を阻害する能力を試験するために、標準量の0.125μgHNEを、増加する量のセリンエラスターゼ阻害剤と混合してから実施例3に記載されたエラスターゼ基質を添加した。図5Aにプロットされる阻害曲線は、阻害剤対数量と生じたOD410との間の直線応答を示している。
【0291】
(実施例5:ARDS患者からのBAL液中のエラスターゼ活性)
気管支肺胞洗浄(BAL)液を急性呼吸窮迫症候群(ARDS)のヒトから回収した。エラスターゼ活性に関する比色アッセイを、BAL液の種々の量を用いて実施した。サンプルに添加されたBAL量とOD410との間の用量−応答曲線は、図5Bにプロットされている。
【0292】
他のARDS患者からの洗浄液は、エラスターゼ活性の変量を有した。
【0293】
(実施例6:ウサギBAL液中のエラスターゼ活性)
6匹のウサギを3mg抗BSA/kg(ウサギ6098および6099)で処理するか、または5mg抗BSA/kg(ウサギ6100〜6103)を気管内滴下し、呼吸窮迫を誘導するために10mgのBSAを静脈内投与(6098〜6101)した。気管支肺胞洗浄(BAL)液を、処理6時間後にこれらウサギの肺から取り、エラスターゼ活性の比色アッセイを、これらのBAL液に対して実施した。エラスターゼ活性を、410nmにおける対応するODを与えるHNEの濃度として表される。
【0294】
さらに、同じアッセイを、BAL液に対して100μg/mlのセリンエラスターゼ阻害剤の添加後に実施した。本試験に用いられたセリンエラスターゼ阻害剤は、特異的にHNEを阻害する。図6Aは、これらの成績をグラフとして例示している。全ての場合、エラスターゼ活性を阻害し、測定された蛋白分解活性がHNEによるものであることを確認した。
【0295】
(実施例7:ウサギBAL液中のエラスターゼ阻害剤の証明)
6匹のウサギは、細菌性リポ多糖(LPS)と抗BSAとを気管内に与えて呼吸窮迫を誘導した。動物6317および6318に3時間目に10mg/kgのBSAをさらに与えた。BAL液は、最初の抗BSA投与後3時間目にウサギ6315および6316から取り、6時間目にウサギ6313、6314、6317および6318から取った。BAL液を、単独(交差平行線)または1μg/ml HNEの添加後(中空)試験した。これらの結果は、グラフとして図6Bに表している。有意の遊離エラスターゼが動物6317に存在し;他の全ては、エラスターゼ阻害剤の存在を示した。
【0296】
(実施例8:モデル表面活性剤混合物およびセリンエラスターゼ阻害剤は、炎症時肺のBAL液中に検出された蛋白量を減じる)
材料:
LPS:Minn(List Biological)。5mgバイアル。動物を、8ml/kg中120μg/kgを残す定量的洗浄液により処理した。
【0297】
PMA:(Sigma)5μg/mlに対して生理食塩水またはモデル表面活性剤混合物で希釈した。洗浄のために20ml/kg/ウサギを用い、動物に用量の20%を残した。
【0298】
モデル表面活性剤混合物:(Discovery Labs)10mg/ml。洗浄のために20ml/kg/ウサギを用い、動物に用量の20%を残す。
【0299】
セリンエラスターゼ阻害剤:Elafin(Astra−Zeneca)3mg/mlストック、アジドを除去するために生理食塩水に対し透析:1.3ml/kg Elafinを1.5時間目に静脈内投与し、0.33ml/kgを3時間目に気管内投与し(×2側面)、および0.66ml/kgを4.5時間目に静脈内投与した。
【0300】
125I−BSA:(NEN)200μg/mlBSA/生理食塩水中で、20μCi/mlに希釈した。殺処理30分前に0.4ml/kgを静脈内に使用した。
【0301】
ウサギ:10匹のNZWウサギ、雌雄、2.0〜2.5Kg。
【0302】
手順:
20匹のNZWウサギを、各4匹の動物による5つの処理群に分けた。肺損傷を、2つの生理食塩中のLPS洗浄液および洗浄液により投与3時間目に1つのPMA処理により誘導する。セリンエラスターゼ阻害剤とモデル表面活性剤混合物とを別々に、また一緒に試験をして、これらの因子が炎症の症状を減じ得る程度を確認した。異なる群により受けた処理は以下のとおりである:
1群:動物は、生理食塩中の2つのLPS洗浄液および洗浄液により投与3時間目に1つのPMA処理を受けた。125I−BSAを5.5時間目に静脈内に投与され、6時間目に動物を殺処理した。
【0303】
2群:動物は、生理食塩中の2つのLPS洗浄液、洗浄液により投与3時間目に1つのPMAおよびモデル表面活性剤混合物の治療を受けた。125I−BSAを5.5時間目に静脈内に投与され、6時間目に動物を殺処理した。
【0304】
3群:動物は、生理食塩中の2つのLPS洗浄液および洗浄液により投与3時間目に1つのPMA処理を受けた。セリンエラスターゼ阻害剤の3回の投与は、1.5時間目、3.0時間目および4.5時間目に行われ、125I−BSAを5.5時間目に静脈内に投与された。6時間目に動物を殺処理した。
【0305】
4群:動物は、生理食塩中の2つのLPS洗浄液および洗浄液により投与3時間目に1つのPMAおよびモデル表面活性剤混合物の治療を受けた。セリンエラスターゼ阻害剤の3回の投与は、1.5時間目、3.0時間目および4.5時間目に行われ、125I−BSAを5.5時間目に動物の静脈内に投与された。6時間目に動物を殺処理した。
【0306】
5群:正常な動物を対照として用いた。この動物を、125I−BSA投与を受けた30分後に殺処理した。
【0307】
全ての動物を、低換気圧で室内空気を受ける換気装置で維持した。洗浄直後、動物が、約80以上のSaO2を維持するためのより高い圧および/または酸素を必要とする場合、より高い呼気終末陽圧(PEEP)および/または酸素療法を時間ごとに実施した。
【0308】
動物を殺処理した後、肺を切除し、左主気管支を結んだ。右側下葉を、各回10mlの生理食塩水で3回洗浄した。3回の洗浄液(最終洗浄液)を各動物についてプールし、5μlの20mM BHTを各々プールした洗浄液に加えて酸化を防止した。最終洗浄液プール中の細胞を1000rpmで10分間の遠心分離により除去した。次に表面活性剤ペレットおよび蛋白質に富んだ上澄み液を40,000gで15分間の遠心分離により調製した。左肺区域をホルマリン中に保存し、その他は冷凍した。蛋白含量および最終洗浄液中の赤血球(RBC)を分析した。
【0309】
最終洗浄液中の蛋白含量は、血漿蛋白質が肺胞空間を通ってリークできる基底膜マトリックスに対する損傷レベルを示す。最終洗浄液中の蛋白量が増加すると、肺損傷が増えていることが見られる。各治療群で最終洗浄液中で見られた蛋白量は、図7Aにグラフとして表している。この結果は、LPSおよびPMA損傷から生じた蛋白量(略2.5mg/ml)は、モデル表面活性剤混合物を与えた群では減少し、モデル表面活性剤混合物およびエラスターゼ阻害剤を投与された群ではさらに減少したことを示している。蛋白レベルの減少を示すエラスターゼ阻害剤単独を投与した3群の不成功は、主として群の中の1匹の動物で得られた異常な高い値のためと考えられる(説明図を参照)。この動物を除外すると、3群の平均値は、1.72mg/mlとなり、モデル表面活性剤混合物単独で治療した2群で得られた値と略等しい。エラーバーはSEMを示す。
【0310】
(実施例9:炎症時肺のBAL液に存在する基底膜蛋白断片)
ウサギにおけるLPSおよびPMA損傷は、実施例8に示され、蛋白質の遊離および蛋白分解断片を生じる。SDSポリアクリルアミドゲル上で電気泳動分離後、ウェスタンブロット分析を、試験ウサギの最終洗浄液に存在する蛋白質に対して実施した。基底膜マトリックス蛋白質に対してモルモットで産生した抗体を用いて、洗浄液中の基底膜蛋白質の存在を可視化して確認した。
【0311】
この結果を図7Bに示す。肺基底膜マトリックスの成分は、左パネルに示している。LPSおよびPMA単独で治療(1群)、またはモデル表面活性剤混合物の添加により治療(2群)、またはエラスターゼ阻害剤で治療(3群)、またはモデル表面活性剤混合物およびエラスターゼ阻害剤の双方の治療(4群)をされた代表的ウサギのBAL液中の蛋白質および蛋白質断片を、2〜4群パネルに示す。正常で未損傷のウサギ洗浄液を、5群パネルに示す。未損傷の基底膜マトリックスおよび5群パネルに存在しない低分子量バンド(<10,000分子量)は、基底膜の断片を表す。1〜4群の70,000分子量に存在する大きなバンドは、使用される抗血清中の不純物として存在するアルブミンである。90,000分子量以上のバンドは、基底膜に特異的で正常なウサギ血漿に存在しない(データは示さず)。
【0312】
(実施例10:モデル表面活性剤混合物およびセリンエラスターゼ阻害剤は、炎症時の肺BAL液中の赤血球数を減少させる)
最終洗浄液に現れる出血または赤血球(RBCs)の量は、動物における損傷の他の指標である。洗浄液中の増加蛋白質の存在は、基底膜マトリックスに対する損傷の程度を示すことができるが、RBCsの存在は、血球細胞全体がマトリックスに生じた孔を通過できる、さらに大きな程度の損傷を示している。
【0313】
RBC数の計測は実施例8で得られた最終洗浄液について行われ、各群2匹の動物で得られた結果の平均を図7Cにプロットした。RBC数の僅かな減少はモデル表面活性剤混合物が存在する場合に、損傷の幾らかの改善が見られたことを示唆しているが、セリンエラスターゼ阻害剤が存在する場合は損傷のより大きな減少が見られた。モデル表面活性剤混合物とセリンエラスターゼ阻害剤の双方の添加により、最終洗浄液中に存在するRBCsの数を測定した場合、損傷の有意な減少が生じた。
【0314】
(実施例11:ヒト好中球エラスターゼの阻害)
0.02μgのヒト好中球エラスターゼ(HNE)を、2mg/mlのモデル表面活性剤混合物、100μg/mlのセリンエラスターゼ阻害剤またはモデル表面活性剤混合物とセリンエラスターゼ阻害剤の双方と共に温置した。残っているHNE活性を、上記の比色アッセイを用いてアッセイした。その結果を図8にグラフとして例示している。
【0315】
セリンエラスターゼ阻害剤を添加した場合は、モデル表面活性剤混合物の追加存在があっても、なくても著しい阻害が見られた。モデル表面活性剤混合物は、エラスターゼを阻害するセリンエラスターゼ阻害剤の能力を妨害しないし、またそれ自体で直接エラスターゼを阻害しないことを、このデータは示している。
【0316】
(実施例12:BAL液中エラスターゼ阻害剤によるHNEの阻害)
上記実施例8から10に示されたデータは、LPSおよびPMAによる損傷後6時間でウサギ肺に生じる基底膜マトリックス損傷は、セリンエラスターゼ阻害剤および/またはモデル表面活性剤混合物によりインビボで防止し得ることを示唆した。最終洗浄液(実施例8の記載どおりに調製)中のエラスターゼ阻害剤(単数または複数)(または残存している活性)の存在を調べた。
【0317】
0.02μgのヒト好中球エラスターゼ(HNE)を、各実験群(1群〜5群)の代表のウサギ1匹の最終洗浄液50μlと共に温置した。HNE活性を、実施例1に記載したとおり比色アッセイを用いてアッセイする。そのアッセイ結果を図9にグラフとして例示している。
【0318】
BAL液によるHNE活性の顕著な阻害が2群、3群または4群の動物で見られた。静脈内および気管内経路の双方により公知のエラスターゼ阻害剤を投与された3群および4群の洗浄液で見られたHNEエラスターゼ阻害は極めて顕著であった。モデル表面活性剤混合物群(2群)に見られたエラスターゼ阻害はSLPIまたはアルファ1プロテアーゼ阻害剤またはそれらのある組合わせなど、ウサギ内の内因性エラスターゼ阻害剤によるものであったと考えられる。正常なウサギ(5群)およびLPS/PMA陽性の損傷動物(1群)は、この実験において、それらの最終洗浄液にエラスターゼ阻害剤の存在を示さなかった。しかし、ウサギ#5541(1群)は、最終BAL液中に遊離エラスターゼの存在を示した。正常ウサギのBAL(5群)には何も検出されなかった。
【0319】
(実施例13:洗浄液中ホスホリパーゼA2(PLA2)の検出)
材料と方法
BSAに対して向けられた部分的精製抗体(抗BSA抗体)の気管内投与により開始された肺損傷を受けているウサギから最終洗浄液を採取した。洗浄液中のPLA2活性を検出するための基質として、パルミトイル、オレオイルホスホチジルグリセロール(POPG、Avanti Polar Lipid)を洗浄液中に添加した。POPG基質の添加前に、前記混合物を10mM CaCl2、100mM KClおよび25mM トリス−Cl、pH8.5の最終濃度に調整した。この混合物を37℃で温置した。経時的に一定分割量を取り、POPG基質から遊離したオレイン酸の量を高圧液体クロマトグラフィ(HPLC)により測定した。遊離したオレイン酸量は、C−18HPLCカラムからの溶出時間4.59分でのピーク高さを207nmにおける吸光度で測定して定量した。
【0320】
結果
図10は、ウサギ6015の洗浄液によるPOPGからのオレイン酸遊離速度を図示している。図示されているように、オレイン酸は使用条件下で約40分間、速やかに遊離する。POPGからのこのようなオレイン酸遊離はPLA2が洗浄液中に存在していることを示した。
【0321】
(実施例14:洗浄液ホスホリパーゼA2(PLA2)活性は、抗BSAの気管内投与量と関連する)
材料と方法
BSAを、6匹のウサギに静脈内投与した。ウサギを16ml/kg生理食塩水で1度洗浄し、次いで以下のように抗BSA抗体量を変えて気管内滴下を実施した:
ウサギ6011および6012−2.5mg/kg抗BSA抗体
ウサギ6013および6014−5.0mg/kg抗BSA抗体
ウサギ6015および6016−12.5mg/kg抗BSA抗体
最終洗浄液を集め、前の実施例に記載された最終洗浄液で生じたオレイン酸の検出によりPLA2活性に関して評価した。
【0322】
インビボPLA2活性はまた、集めた最終洗浄液中の遊離脂肪酸(オレイン酸以外)の内因性出現を観測することにより検出した。特にリノレン酸およびリノール酸は、オレイン酸と容易に識別される炭素−炭素二重結合を3セットおよび2セット有し、HPLCにより定量化された。
【0323】
結果
図11は、ウサギ6011、6012、6013、6014、6015および6016から得られた洗浄液と温置30分後POPGからのオレイン酸の遊離を示している。オレイン酸の遊離量が示されるように、PLA2活性度は、動物の気管内に投与された抗BSA抗体製剤量に直接比例している。言い換えれば、2.5mg/kgだけの抗BSA抗体を投与されたウサギは、5.0または12.5mg/kgの抗BSA抗体を投与されたウサギよりもPLA2活性のレベルが低かった。したがって、PLA2活性度は、肺損傷のレベルが増えると増加する。
【0324】
図12は、リン脂質が、損傷の肺組織内でインビボ分解することを例示している。特に、図12は、ウサギ6011、6012、6013、6014、6015および6016から得られた最終洗浄液中に見られる内因性組織からのリノレン酸およびリノール酸の遊離を示している。リノレン酸およびリノール酸の遊離量が示されるように、PLA2活性度は、再び動物の気管内に投与された抗BSA抗体製剤量に直接比例している。
【0325】
(実施例15:洗浄液中のホスホリパーゼA2(PLA2)活性の阻害)
材料と方法
BSAと抗BSA抗体とをウサギ6015に投与し、洗浄液を前の実施例に記載されたとおり、ウサギ6015から得た。化合物3−[3−(2−オキソエチル)−2エチル−1−(フェニルメチル)−1H−インドール−5−イル]オキシ]プロピルリン酸(LY311727、Eli Lilly社、イリノイ州インディアナポリス)を、PLA2阻害剤として用いて、洗浄液中の脂肪酸の出現が、PLA2活性のためで、肺の炎症に有効な治療開発を促進することをさらに確認した。LY311727阻害剤がPLA2活性を調節する能力を、1.2mM CaCl2およびトリス緩衝液、pH8.5の存在下で6015ウサギからの一定の洗浄液量に対して前記阻害剤量を増やしながら添加して試験した。この混合物を37℃で15分間温置してからPOPG基質を加えた。PLA2活性を、前の実施例で記載したとおり、溶出オレイン酸のHPLCピークの高さを用いて測定した。
【0326】
結果
図13は、ウサギ6015から得られた洗浄液と温置30分後POPGからのオレイン酸の遊離が、LY311727阻害剤の量に間接的に比例していることを示している。言い換えれば、前記阻害剤の添加量が増すとPLA2活性量が減少することが見られた。
【0327】
図14は、阻害剤濃度の対数の関数としてPLA2活性をグラフとして例示している。示されるように、阻害剤濃度が増加するとPLA2活性が有意に落下する。
【0328】
(実施例16:抗酸化剤は炎症時の肺の損傷を防ぐ)
材料と方法
用いられた方法は、前述の実施例において用いられたものと同様であった。生理食塩水中5μg/mlの細菌LPSを20ml/kgの投与量を用いて気管支肺胞洗浄(BAL)によって、ウサギ(1.0〜1.5kg)の肺損傷を誘導した。LPS投与2.5時間後に、前記ウサギは、気管支肺胞洗浄により20ml/kgのフォルボールミリステートアセテート(PMA)を投与された。表6および7に示すように、ウサギを各群2匹から6匹の4つの治療群に分けた。LPS投与2.5時間後、1群のウサギは気管内に抗酸化剤カタラーゼを投与した。2群のウサギは、気管内および静脈内にカタラーゼを投与した。3群のウサギは、気管内および静脈内にカタラーゼを投与し、ならびに5mg/mlのモデル表面活性剤混合物(KL4)を気管内投与した。4群のウサギはさらなる治療を受けなかった。(対照)。前記ウサギを、PIPI PEEP 3cmH2O圧で換気した。この試験は6時間で終了した。表6および7の値は、平均±平均値の標準誤差(SEM)である。
【0329】
結果
結果は表6および7に示している。表面活性剤プラスカタラーゼを投与された動物数が非常に少ないため、決定的な結論は下せないが、幾つかの因子により示されるようにカタラーゼの投与により、肺の機能は著しく改善した。
【0330】
【表6】
【0331】
【表7】
【0332】
*0〜4の評価段階にて
表6および7のデータに示されるように、抗酸化剤カタラーゼによる治療は、炎症の破壊的作用から肺組織を防御する。特にカタラーゼの投与は、一般に血中ガスを改善した(一般に、非治療動物よりも治療動物の方がPaO2が高く、またPaCO2が低い)。さらに、治療動物の最終洗浄液中のアルブミン量および赤血球細胞量および湿った肺から乾燥肺の重量は、非治療動物で観察されたものよりも少なかった。最後に、治療動物の肉眼的病理および組織学的病理学は、概して非治療動物よりも良好であった。したがって、肺組織炎症時の抗酸化剤の使用は、炎症に関連する肺組織に対して傷害を制限するか、または減少し得る。
【0333】
(参考文献)
【0334】
【表8】
公表文献および特許の全ては、参照として個々に組み込まれているように、参照として本明細書に援用されている。
【0335】
特定の実施形態および実施例を含む前述の明細書は、本発明の例示的なものを意図しており、限定することを意図していない。多くの変化および修飾は、本発明の真の精神および範囲から逸脱することなく達成できる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下のアミノ酸配列:
【化1】
からなる肺表面活性ポリペプチド、および、
ヒト白血球エラスターゼ阻害剤、アルファ1−抗トリプシン、アルファ−1−抗キモトリプシン、ビクニン、C−反応性蛋白質、エラフィン、ヒトプロテアーゼ阻害剤3、bトラッピン−2、ヒト分泌白血球プロテアーゼ阻害剤、またはそれらの組合わせから選択される少なくとも1つのプロテアーゼ阻害剤、
を含む、肺の炎症の治療または予防のための液体組成物またはエアロゾル化組成物であって、ただし、該肺表面活性ポリペプチドが、配列番号1で示されるものである場合、該プロテアーゼ阻害剤はエラフィンではない、液体組成物またはエアロゾル化組成物。
【請求項2】
前記プロテアーゼ阻害剤が、エラフィン(elafin)である、請求項1に記載の液体組成物またはエアロゾル化組成物。
【請求項3】
前記プロテアーゼ阻害剤が、ヒト分泌白血球プロテアーゼ阻害剤である、請求項1に記載の液体組成物またはエアロゾル化組成物。
【請求項4】
前記プロテアーゼ阻害剤が、配列番号14、配列番号15、配列番号16、配列番号17、配列番号18、配列番号19、または配列番号23からなるポリペプチドを含む、請求項1に記載の液体組成物またはエアロゾル化組成物。
【請求項5】
前記肺表面活性ポリペプチドが、
【化2】
である、請求項1に記載の液体組成物またはエアロゾル化組成物。
【請求項6】
前記組成物が、0.1から10パーセントの前記肺表面活性ポリペプチドを含む、請求項1に記載の液体組成物またはエアロゾル化組成物。
【請求項7】
前記組成物は、少なくとも1種のリン脂質をさらに含む、請求項1に記載の液体組成物またはエアロゾル化組成物。
【請求項8】
前記リン脂質は、前記組成物の50から95乾燥重量パーセントを構成する、請求項7に記載の液体組成物またはエアロゾル化組成物。
【請求項9】
前記リン脂質が、4:1から2:1のモル比でジパルミトイルホスファチジルコリン、およびパルミトイル、オレオイルホスファチジルグリセロールを含む、請求項7または8に記載の液体組成物またはエアロゾル化組成物。
【請求項10】
前記組成物は、展着剤をさらに含む、請求項1に記載の液体組成物またはエアロゾル化組成物。
【請求項11】
前記展着剤が、前記組成物の2から25乾燥重量パーセントを構成する、請求項1に記載の液体組成物またはエアロゾル化組成物。
【請求項12】
前記展着剤が、少なくとも10個の炭素原子の脂肪族アシル鎖長を有する脂肪酸または脂肪族アルコールである、請求項10または11に記載の液体組成物またはエアロゾル化組成物。
【請求項13】
前記展着剤が、チロキサポールをさらに含む、請求項10または11に記載の液体組成物またはエアロゾル化組成物。
【請求項14】
前記組成物が、液体組成物であり、該液体組成物は、気管支肺胞洗浄、経口、静脈内、非経口またはボーラス投与により投与されることを特徴とする、請求項1に記載の液体組成物またはエアロゾル化組成物。
【請求項15】
前記組成物が、液体組成物であり、該液体組成物は、肺の炎症の治療または予防のために投与される、請求項1に記載の液体組成物またはエアロゾル化組成物。
【請求項16】
前記肺の炎症が、肺高血圧症、新生児肺高血圧症、新生児気管支肺形成異常症、慢性閉塞性肺疾患、急性気管支炎、慢性気管支炎、肺気腫、気管支梢炎、気管支拡張症、放射線肺炎、過敏症、間質性肺炎、急性炎症性喘息、急性煙吸入、熱性肺傷害、アレルギー性喘息、医原性喘息、嚢胞性線維症、肺胞蛋白症、アルファ−1−プロテアーゼ欠乏症、肺炎症性疾患、肺炎、急性呼吸窮迫症候群、急性肺傷害、特発性呼吸窮迫症候群、または特発性肺線維症と関連する、請求項15に記載の液体組成物またはエアロゾル化組成物。
【請求項17】
前記液体組成物が、エアロゾル化組成物であり、該エアロゾル化組成物は、液体組成物である、請求項1に記載の液体組成物またはエアロゾル化組成物。
【請求項18】
前記液体組成物が、エアロゾル化組成物であり、該エアロゾル化組成物は、乾燥組成物である、請求項1に記載の液体組成物またはエアロゾル化組成物。
【請求項19】
前記液体組成物が、エアロゾル化組成物であり、該エアロゾル化組成物は、1μmから5μmの質量中央空気動力学的径を有するエアロゾル粒子を含む、請求項1に記載の液体組成物またはエアロゾル化組成物。
【請求項20】
前記液体組成物が、エアロゾル化組成物であり、該エアロゾル化組成物は、喘息治療用に製剤化されている、請求項1に記載の液体組成物またはエアロゾル化組成物。
【請求項21】
以下のアミノ酸配列:
【化5】
からなる肺表面活性ポリペプチド、および、
ヒト白血球エラスターゼ阻害剤、アルファ1−抗トリプシン、アルファ−1−抗キモトリプシン、ビクニン、C−反応性蛋白質、エラフィン、ヒトプロテアーゼ阻害剤3、bトラッピン−2、ヒト分泌白血球プロテアーゼ阻害剤、またはそれらの組合わせから選択される少なくとも1つのプロテアーゼ阻害剤、
の治療有効量を含む、哺乳動物における肺の炎症を治療するための組成物であって、ただし、該肺表面活性ポリペプチドが、配列番号1で示されるものである場合、該プロテアーゼ阻害剤はエラフィンではない、組成物。
【請求項22】
前記肺の炎症が、肺高血圧症、新生児肺高血圧症、新生児気管支肺形成異常症、慢性閉塞性肺疾患、急性気管支炎、慢性気管支炎、肺気腫、気管支梢炎、気管支拡張症、放射線肺炎、過敏症、間質性肺炎、急性炎症性喘息、急性煙吸入、熱性肺傷害、アレルギー性喘息、医原性喘息、嚢胞性線維症、肺胞蛋白症、アルファ−1−プロテアーゼ欠乏症、肺炎症性疾患、肺炎、急性呼吸窮迫症候群、急性肺傷害、特発性呼吸窮迫症候群、または特発性肺線維症と関連する、請求項21に記載の組成物。
【請求項23】
前記プロテアーゼ阻害剤が、エラフィンである、請求項21に記載の組成物。
【請求項24】
前記プロテアーゼ阻害剤が、ヒト分泌白血球プロテアーゼ阻害剤である、請求項21に記載の組成物。
【請求項25】
前記プロテアーゼ阻害剤が、配列番号14、配列番号15、配列番号16、配列番号17、配列番号18、配列番号19、または、配列番号23からなるポリペプチドを含む、請求項21に記載の組成物。
【請求項1】
以下のアミノ酸配列:
【化1】
からなる肺表面活性ポリペプチド、および、
ヒト白血球エラスターゼ阻害剤、アルファ1−抗トリプシン、アルファ−1−抗キモトリプシン、ビクニン、C−反応性蛋白質、エラフィン、ヒトプロテアーゼ阻害剤3、bトラッピン−2、ヒト分泌白血球プロテアーゼ阻害剤、またはそれらの組合わせから選択される少なくとも1つのプロテアーゼ阻害剤、
を含む、肺の炎症の治療または予防のための液体組成物またはエアロゾル化組成物であって、ただし、該肺表面活性ポリペプチドが、配列番号1で示されるものである場合、該プロテアーゼ阻害剤はエラフィンではない、液体組成物またはエアロゾル化組成物。
【請求項2】
前記プロテアーゼ阻害剤が、エラフィン(elafin)である、請求項1に記載の液体組成物またはエアロゾル化組成物。
【請求項3】
前記プロテアーゼ阻害剤が、ヒト分泌白血球プロテアーゼ阻害剤である、請求項1に記載の液体組成物またはエアロゾル化組成物。
【請求項4】
前記プロテアーゼ阻害剤が、配列番号14、配列番号15、配列番号16、配列番号17、配列番号18、配列番号19、または配列番号23からなるポリペプチドを含む、請求項1に記載の液体組成物またはエアロゾル化組成物。
【請求項5】
前記肺表面活性ポリペプチドが、
【化2】
である、請求項1に記載の液体組成物またはエアロゾル化組成物。
【請求項6】
前記組成物が、0.1から10パーセントの前記肺表面活性ポリペプチドを含む、請求項1に記載の液体組成物またはエアロゾル化組成物。
【請求項7】
前記組成物は、少なくとも1種のリン脂質をさらに含む、請求項1に記載の液体組成物またはエアロゾル化組成物。
【請求項8】
前記リン脂質は、前記組成物の50から95乾燥重量パーセントを構成する、請求項7に記載の液体組成物またはエアロゾル化組成物。
【請求項9】
前記リン脂質が、4:1から2:1のモル比でジパルミトイルホスファチジルコリン、およびパルミトイル、オレオイルホスファチジルグリセロールを含む、請求項7または8に記載の液体組成物またはエアロゾル化組成物。
【請求項10】
前記組成物は、展着剤をさらに含む、請求項1に記載の液体組成物またはエアロゾル化組成物。
【請求項11】
前記展着剤が、前記組成物の2から25乾燥重量パーセントを構成する、請求項1に記載の液体組成物またはエアロゾル化組成物。
【請求項12】
前記展着剤が、少なくとも10個の炭素原子の脂肪族アシル鎖長を有する脂肪酸または脂肪族アルコールである、請求項10または11に記載の液体組成物またはエアロゾル化組成物。
【請求項13】
前記展着剤が、チロキサポールをさらに含む、請求項10または11に記載の液体組成物またはエアロゾル化組成物。
【請求項14】
前記組成物が、液体組成物であり、該液体組成物は、気管支肺胞洗浄、経口、静脈内、非経口またはボーラス投与により投与されることを特徴とする、請求項1に記載の液体組成物またはエアロゾル化組成物。
【請求項15】
前記組成物が、液体組成物であり、該液体組成物は、肺の炎症の治療または予防のために投与される、請求項1に記載の液体組成物またはエアロゾル化組成物。
【請求項16】
前記肺の炎症が、肺高血圧症、新生児肺高血圧症、新生児気管支肺形成異常症、慢性閉塞性肺疾患、急性気管支炎、慢性気管支炎、肺気腫、気管支梢炎、気管支拡張症、放射線肺炎、過敏症、間質性肺炎、急性炎症性喘息、急性煙吸入、熱性肺傷害、アレルギー性喘息、医原性喘息、嚢胞性線維症、肺胞蛋白症、アルファ−1−プロテアーゼ欠乏症、肺炎症性疾患、肺炎、急性呼吸窮迫症候群、急性肺傷害、特発性呼吸窮迫症候群、または特発性肺線維症と関連する、請求項15に記載の液体組成物またはエアロゾル化組成物。
【請求項17】
前記液体組成物が、エアロゾル化組成物であり、該エアロゾル化組成物は、液体組成物である、請求項1に記載の液体組成物またはエアロゾル化組成物。
【請求項18】
前記液体組成物が、エアロゾル化組成物であり、該エアロゾル化組成物は、乾燥組成物である、請求項1に記載の液体組成物またはエアロゾル化組成物。
【請求項19】
前記液体組成物が、エアロゾル化組成物であり、該エアロゾル化組成物は、1μmから5μmの質量中央空気動力学的径を有するエアロゾル粒子を含む、請求項1に記載の液体組成物またはエアロゾル化組成物。
【請求項20】
前記液体組成物が、エアロゾル化組成物であり、該エアロゾル化組成物は、喘息治療用に製剤化されている、請求項1に記載の液体組成物またはエアロゾル化組成物。
【請求項21】
以下のアミノ酸配列:
【化5】
からなる肺表面活性ポリペプチド、および、
ヒト白血球エラスターゼ阻害剤、アルファ1−抗トリプシン、アルファ−1−抗キモトリプシン、ビクニン、C−反応性蛋白質、エラフィン、ヒトプロテアーゼ阻害剤3、bトラッピン−2、ヒト分泌白血球プロテアーゼ阻害剤、またはそれらの組合わせから選択される少なくとも1つのプロテアーゼ阻害剤、
の治療有効量を含む、哺乳動物における肺の炎症を治療するための組成物であって、ただし、該肺表面活性ポリペプチドが、配列番号1で示されるものである場合、該プロテアーゼ阻害剤はエラフィンではない、組成物。
【請求項22】
前記肺の炎症が、肺高血圧症、新生児肺高血圧症、新生児気管支肺形成異常症、慢性閉塞性肺疾患、急性気管支炎、慢性気管支炎、肺気腫、気管支梢炎、気管支拡張症、放射線肺炎、過敏症、間質性肺炎、急性炎症性喘息、急性煙吸入、熱性肺傷害、アレルギー性喘息、医原性喘息、嚢胞性線維症、肺胞蛋白症、アルファ−1−プロテアーゼ欠乏症、肺炎症性疾患、肺炎、急性呼吸窮迫症候群、急性肺傷害、特発性呼吸窮迫症候群、または特発性肺線維症と関連する、請求項21に記載の組成物。
【請求項23】
前記プロテアーゼ阻害剤が、エラフィンである、請求項21に記載の組成物。
【請求項24】
前記プロテアーゼ阻害剤が、ヒト分泌白血球プロテアーゼ阻害剤である、請求項21に記載の組成物。
【請求項25】
前記プロテアーゼ阻害剤が、配列番号14、配列番号15、配列番号16、配列番号17、配列番号18、配列番号19、または、配列番号23からなるポリペプチドを含む、請求項21に記載の組成物。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4A】
【図4B】
【図5A】
【図5B】
【図6A】
【図6B】
【図7A】
【図7B】
【図8】
【図9】
【図11】
【図13】
【図14】
【図4C】
【図7C】
【図10】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4A】
【図4B】
【図5A】
【図5B】
【図6A】
【図6B】
【図7A】
【図7B】
【図8】
【図9】
【図11】
【図13】
【図14】
【図4C】
【図7C】
【図10】
【図12】
【公開番号】特開2011−1383(P2011−1383A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−224369(P2010−224369)
【出願日】平成22年10月1日(2010.10.1)
【分割の表示】特願2003−587321(P2003−587321)の分割
【原出願日】平成15年4月25日(2003.4.25)
【出願人】(501244222)ザ スクリプス リサーチ インスティテュート (33)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年10月1日(2010.10.1)
【分割の表示】特願2003−587321(P2003−587321)の分割
【原出願日】平成15年4月25日(2003.4.25)
【出願人】(501244222)ザ スクリプス リサーチ インスティテュート (33)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]