説明

胸部診断支援情報生成方法及び胸部診断支援システム

【課題】安静呼吸時の余力評価という新しい観点で、換気機能の評価を行うことを可能とする。
【解決手段】本発明に係る胸部診断支援システム100によれば、撮影装置1及び撮影用コンソール2により胸部の安静呼吸時の動態を1サイクル以上撮影して一連のフレーム画像を生成するとともに、胸部の深呼吸時に撮影を行って少なくとも最大吸気位のフレーム画像を含む一以上のフレーム画像を生成し、診断用コンソール3において、安静呼吸時の胸部動態を示す一連のフレーム画像と、深呼吸時の少なくとも最大吸気位に相当するフレーム画像を含む一以上のフレーム画像とに基づいて、胸部の安静呼吸時の余力度合いを示す特徴量を算出し出力する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、胸部診断支援情報生成方法及び胸部診断支援システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来のフィルム/スクリーンや輝尽性蛍光体プレートを用いた胸部の放射線による静止画撮影及び診断に対し、FPD(flat panel detector)等の半導体イメージセンサを利
用して胸部の動態画像を撮影し、診断に応用する試みがなされるようになってきている。具体的には、半導体イメージセンサの画像データの読取・消去の応答性の早さを利用し、半導体イメージセンサの読取・消去のタイミングと合わせて放射源からパルス状の放射線を連続照射し、1秒間に複数回の撮影を行って、胸部の動態を撮影する。撮影により取得された一連の複数枚の画像を順次表示することにより、医師は呼吸運動や心臓の拍動等に伴う胸部の一連の動きを観察することが可能となる。
【0003】
また、胸部の動態画像から診断に有用な診断支援情報を抽出するための各種技術も提案されている。例えば、特許文献1には、胸部の動態撮影を行い、複数の呼吸周期にわたって振幅や周期の変化を解析し、換気機能の異常を判定する動態撮影システムが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−273671号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載のように、通常の安静呼吸時に胸部を動態撮影し、得られた動態画像の信号変化(例えば、信号値波形の振幅情報)を用いて換気機能の評価を行っても、安静呼吸においてどれだけ余力をもった状態で呼吸を行えているのかを評価することは困難である。
【0006】
例えば、被写体AとBに対して、安静呼吸時の信号波形の振幅を用いて換気機能の評価を行い、被写体Aの評価が100、被写体Bの評価も100であったとする。この場合、被写体A、Bの評価値が同じであるので二人の換気機能の評価は同じとなる。この場合、両者とも換気機能に異常はないと判定される。
【0007】
しかしながら、被写体Aの深呼吸時の換気機能の評価が300、被写体Bの深呼吸時の換気機能の評価が120であったとする。すると、安静呼吸時に被写体Aはかなりの余力を残して呼吸を行っているが、Bはほぼ全力で呼吸を行っていることになる。よって、安静呼吸のみによる評価は覆り、被写体Bは換気機能に異常があることになる。
【0008】
また、例えば、被写体AとBに対して、深呼吸時の信号波形の振幅を用いて換気機能の評価を行い、被写体Aの評価が300、被写体Bの評価も300であったとする。この場合、被写体A、Bの評価値が同じであるので二人の換気機能の評価は同じとなる。この場合、両者とも換気機能に異常はないと判定される。
【0009】
しかしながら、被写体Aの安静呼吸時の換気機能の評価が100、被写体Bの安静呼吸時の換気機能の評価が280であったとする。すると、安静呼吸時に被写体Aはかなりの余力を残して呼吸を行っているが、Bはほぼ全力で呼吸を行っていることになる。よって、深呼吸のみによる評価は覆り、被写体Bは換気機能に異常があることになる。
【0010】
本発明の課題は、安静呼吸時の余力評価という新しい観点で、換気機能の評価を行えるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、請求項1に記載の発明の胸部診断支援情報生成方法は、
撮影手段により胸部の安静呼吸時の動態を1サイクル以上撮影して一連のフレーム画像を生成する安静呼吸撮影工程と、
前記撮影手段により前記胸部の深呼吸時に撮影を行って少なくとも最大吸気位のフレーム画像を含む一以上のフレーム画像を生成する深呼吸撮影工程と、
演算手段により前記安静呼吸撮影工程において生成された一連のフレーム画像と、前記深呼吸撮影工程において生成された少なくとも最大吸気位に相当するフレーム画像を含む一以上のフレーム画像とに基づいて、前記胸部の安静呼吸時の余力度合いを示す特徴量を算出する算出工程と、
前記算出された特徴量を出力手段により出力する出力工程と、
を含む。
【0012】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、
前記算出工程は、前記安静呼吸撮影工程において生成された一連のフレーム画像と、前記深呼吸撮影工程において生成された少なくとも最大吸気位に相当するフレーム画像を含む一以上のフレーム画像を解析することにより、前記胸部の安静呼吸時の換気による信号変化の振幅を算出するとともに、前記胸部の深呼吸時の換気による信号変化の振幅を算出し、前記算出した安静呼吸時の換気による信号変化の振幅と深呼吸時の換気による信号変化の振幅の比を算出することにより前記胸部の安静呼吸時の余力度合いを示す特徴量を算出する。
【0013】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の発明において、
前記深呼吸撮影工程は、前記撮影手段により前記胸部の深呼吸時の動態を1サイクル以上撮影して一連のフレーム画像を生成し、
前記算出工程は、前記安静呼吸撮影工程で生成された一連のフレーム画像と、前記深呼吸撮影工程で生成された一連のフレーム画像とに基づいて、前記胸部の安静呼吸時の余力度合いを示す特徴量を算出する。
【0014】
請求項4に記載の発明は、請求項1又は2に記載の発明において、
前記深呼吸撮影工程は、前記撮影手段により前記胸部の深呼吸時の最大吸気位及び最大呼気位の撮影を行って、前記胸部の最大吸気位に相当するフレーム画像及び最大呼気位に相当する二枚のフレーム画像を生成し、
前記算出工程は、前記安静呼吸撮影工程で得られた一連のフレーム画像と、前記深呼吸撮影工程で得られた最大吸気位に相当するフレーム画像及び最大呼気位に相当するフレーム画像とに基づいて、前記胸部の安静呼吸時の余力度合いを示す特徴量を算出する。
【0015】
請求項5に記載の発明は、請求項1又は2に記載の発明において、
前記深呼吸撮影工程は、前記撮影手段により前記胸部の深呼吸時の最大吸気位のみの撮影を行って、前記胸部の最大吸気位に相当する一枚のフレーム画像を生成し、
前記算出工程は、前記安静呼吸撮影工程で得られた一連のフレーム画像と、前記深呼吸撮影工程で得られた最大吸気位に相当するフレーム画像とに基づいて、前記胸部の安静呼吸時の余力度合いを示す特徴量を算出する。
【0016】
請求項6に記載の発明は、
胸部の呼吸に伴う動態を撮影して一連のフレーム画像を生成する撮影手段と、前記撮影手段により生成された一連のフレーム画像を解析して前記胸部の呼吸に対する特徴量を算出する演算手段と、前記算出された特徴量を出力する出力手段と、を備える胸部診断支援システムであって、
前記撮影手段は、前記胸部の安静呼吸時の動態を1サイクル以上撮影して一連のフレーム画像を生成すると共に、前記胸部の深呼吸時に撮影を行って少なくとも最大吸気位のフレーム画像を含む一以上のフレーム画像を生成し、
前記演算手段は、前記胸部の安静呼吸時の動態を撮影することにより生成された一連のフレーム画像と、前記胸部の深呼吸時を撮影することにより生成された少なくとも最大吸気位に相当するフレーム画像を含む一以上のフレーム画像とに基づいて、前記胸部の安静呼吸時の余力度合いを示す特徴量を算出し、
前記出力手段は、前記算出された特徴量を出力する。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、安静呼吸時の余力評価という新しい観点で換気機能の評価を行うことが可能となり、従来では異常とされなかった、安静呼吸時に余力のない異常を診断することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施の形態における胸部診断支援システムの全体構成を示す図である。
【図2】本発明の実施の形態における撮影の流れを示すフロー図である。
【図3】図1の撮影用コンソールの制御部により実行される撮影制御処理を示すフローチャートである。
【図4】図1の診断用コンソールの制御部により実行される画像解析処理を示すフローチャートである。
【図5】1つの呼吸サイクル(深呼吸時)において撮影された複数の時間位相T(T=t0〜t6)のフレーム画像を示す図である。
【図6】(a)は、深呼吸画像から算出される換気量を示す振幅を模式的に示す図、(b)は、安静呼吸画像から算出される換気量を示す振幅を模式的に示す図である。
【図7】(a)は肺野の異常領域の信号波形を示す図、(b)は、肺野の正常領域の信号波形を示す図である。
【図8】解析結果画面の一例を示す図である。
【図9】解析結果画面の他の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を詳細に説明する。ただし、発明の範囲は、図示例に限定されない。
【0020】
〔胸部診断支援システム100の構成〕
まず、構成を説明する。
図1に、本実施の形態における胸部診断支援システム100の全体構成を示す。
胸部診断支援システム100は、被検者である被写体Mの胸部を動態撮影し、得られた動態画像を解析して呼吸の余力度合いを示す特徴量Cを算出するシステムである。
【0021】
図1に示すように、胸部診断支援システム100は、撮影装置1と、撮影用コンソール2とが通信ケーブル等により接続され、撮影用コンソール2と、診断用コンソール3とがLAN(Local Area Network)等の通信ネットワークNTを介して接続されて構成されている。胸部診断支援システム100を構成する各装置は、DICOM(Digital Image and Communications in Medicine)規格に準じており、各装置間の通信は、DICOMに則って行われる。
【0022】
〔撮影装置1の構成〕
撮影装置1は、呼吸運動に伴う肺の膨張及び収縮の形態変化等の、周期性(サイクル)を持つ胸部の動態と、胸部の静止画像を撮影する装置である。動態撮影は、人体の胸部に対し、X線等の放射線を連続照射して複数の画像を取得(即ち、連続撮影)することにより行う。この連続撮影により得られた一連の画像を動態画像と呼ぶ。また、動態画像を構成する複数の画像のそれぞれをフレーム画像と呼ぶ。
撮影装置1は、図1に示すように、放射線源11、放射線照射制御装置12、放射線検出部13、読取制御装置14等を備えて構成されている。
【0023】
放射線源11は、被写体Mを挟んで放射線検出部13と対向する位置に配置され、放射線照射制御装置12の制御に従って、被写体Mに対し放射線(X線)を照射する。
放射線照射制御装置12は、撮影用コンソール2に接続されており、撮影用コンソール2から入力された放射線照射条件に基づいて放射線源11を制御して放射線撮影を行う。撮影用コンソール2から入力される放射線照射条件は、例えば、連続照射時のパルスレート、パルス幅、パルス間隔、1動態撮影あたりの撮影フレーム数、X線管電流の値、X線管電圧の値、フィルタ種等である。パルスレートは、1秒あたりの放射線照射回数であり、後述するフレームレートと一致している。パルス幅は、放射線照射1回当たりの放射線照射時間である。パルス間隔は、連続撮影において、1回の放射線照射開始から次の放射線照射開始までの時間であり、後述するフレーム間隔と一致している。
【0024】
放射線検出部13は、FPD等の半導体イメージセンサにより構成される。FPDは、例えば、ガラス基板等を有しており、基板上の所定位置に、放射線源11から照射されて少なくとも被写体Mを透過した放射線をその強度に応じて検出し、検出した放射線を電気信号に変換して蓄積する複数の画素がマトリックス状に配列されている。各画素は、例えばTFT(Thin Film Transistor)等のスイッチング部により構成されている。
【0025】
読取制御装置14は、撮影用コンソール2に接続されている。読取制御装置14は、撮影用コンソール2から入力された画像読取条件に基づいて放射線検出部13の各画素のスイッチング部を制御して、当該各画素に蓄積された電気信号の読み取りをスイッチングしていき、放射線検出部13に蓄積された電気信号を読み取ることにより、画像データを取得する。この画像データがフレーム画像である。そして、読取制御装置14は、取得したフレーム画像を撮影用コンソール2に出力する。画像読取条件は、例えば、フレームレート、フレーム間隔、画素サイズ、画像サイズ(マトリックスサイズ)等である。フレームレートは、1秒あたりに取得するフレーム画像数であり、パルスレートと一致している。フレーム間隔は、連続撮影において、1回のフレーム画像の取得動作開始から次のフレーム画像の取得動作開始までの時間であり、パルス間隔と一致している。
【0026】
ここで、放射線照射制御装置12と読取制御装置14は互いに接続され、互いに同期信号をやりとりして放射線照射動作と画像の読み取りの動作を同調させるようになっている。この他、後述するオフセット補正に用いるオフセット補正係数を算出するための一または複数の暗画像を取得するダーク読取時は、放射線照射動作と同期せず、放射線が照射されない状態で、リセット〜蓄積〜データ読取〜リセットの一連の画像の読み取り動作を行うが、一連の動態撮影前、一連の動態撮影後のいずれかのタイミングで行うようにしてもよい。
【0027】
〔撮影用コンソール2の構成〕
撮影用コンソール2は、放射線照射条件や画像読取条件を撮影装置1に出力して撮影装置1による放射線撮影及び放射線画像の読み取り動作を制御するとともに、撮影装置1により取得された動態画像を撮影技師によるポジショニングの確認や診断に適した画像であるか否かの確認用に表示する。
撮影用コンソール2は、図1に示すように、制御部21、記憶部22、操作部23、表示部24、通信部25を備えて構成され、各部はバス26により接続されている。
【0028】
制御部21は、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory
)等により構成される。制御部21のCPUは、操作部23の操作に応じて、記憶部22に記憶されているシステムプログラムや各種処理プログラムを読み出してRAM内に展開し、展開されたプログラムに従って後述する撮影制御処理を始めとする各種処理を実行し、撮影用コンソール2各部の動作や、撮影装置1の放射線照射動作及び読み取り動作を集中制御する。
【0029】
記憶部22は、不揮発性の半導体メモリやハードディスク等により構成される。記憶部22は、制御部21で実行される各種プログラムやプログラムにより処理の実行に必要なパラメータ、或いは処理結果等のデータを記憶する。例えば、記憶部22は、図3に示す撮影制御処理を実行するための撮影制御処理プログラムを記憶している。また、記憶部22は、検査対象部位に対応付けて放射線照射条件及び画像読取条件を記憶している。各種プログラムは、読取可能なプログラムコードの形態で格納され、制御部21は、当該プログラムコードに従った動作を逐次実行する。
【0030】
操作部23は、カーソルキー、数字入力キー、及び各種機能キー等を備えたキーボードと、マウス等のポインティングデバイスを備えて構成され、キーボードに対するキー操作やマウス操作により入力された指示信号を制御部21に出力する。また、操作部23は、表示部24の表示画面にタッチパネルを備えても良く、この場合、タッチパネルを介して入力された指示信号を制御部21に出力する。
【0031】
表示部24は、LCD(Liquid Crystal Display)やCRT(Cathode Ray Tube)等のモニタにより構成され、制御部21から入力される表示信号の指示に従って、操作部23からの入力指示やデータ等を表示する。
【0032】
通信部25は、LANアダプタやモデムやTA(Terminal Adapter)等を備え、通信ネットワークNTに接続された各装置との間のデータ送受信を制御する。
【0033】
〔診断用コンソール3の構成〕
診断用コンソール3は、撮影用コンソール2から動態画像(一連のフレーム画像)や静止画像を取得し、取得した画像を解析することにより、例えば、呼吸の余力度合いを示す特徴量C等の診断支援情報を作成して表示するための装置である。
診断用コンソール3は、図1に示すように、制御部31、記憶部32、操作部33、表示部34、通信部35を備えて構成され、各部はバス36により接続されている。
【0034】
制御部31は、CPU、RAM等により構成される。制御部31のCPUは、操作部33の操作に応じて、記憶部32に記憶されているシステムプログラムや、各種処理プログラムを読み出してRAM内に展開し、展開されたプログラムに従って、後述する画像解析処理を始めとする各種処理を実行し、診断用コンソール3各部の動作を集中制御する。
【0035】
記憶部32は、不揮発性の半導体メモリやハードディスク等により構成される。記憶部32は、制御部31で画像解析処理を実行するための画像解析処理プログラムを始めとする各種プログラムやプログラムにより処理の実行に必要なパラメータ、或いは処理結果等のデータを記憶する。これらの各種プログラムは、読取可能なプログラムコードの形態で格納され、制御部31は、当該プログラムコードに従った動作を逐次実行する。
【0036】
操作部33は、カーソルキー、数字入力キー、及び各種機能キー等を備えたキーボードと、マウス等のポインティングデバイスを備えて構成され、キーボードに対するキー操作やマウス操作により入力された指示信号を制御部31に出力する。また、操作部33は、表示部34の表示画面にタッチパネルを備えても良く、この場合、タッチパネルを介して入力された指示信号を制御部31に出力する。
【0037】
表示部34は、LCDやCRT等のモニタにより構成され、制御部31から入力される表示信号の指示に従って、操作部33からの入力指示やデータ等を表示する。
【0038】
通信部35は、LANアダプタやモデムやTA等を備え、通信ネットワークNTに接続された各装置との間のデータ送受信を制御する。
【0039】
〔胸部診断支援システム100の動作〕
次に、上記胸部診断支援システム100における動作について説明する。
【0040】
(撮影装置1、撮影用コンソール2の動作)
まず、撮影装置1、撮影用コンソール2による撮影動作について説明する。
図2に、撮影装置1及び撮影用コンソール2による撮影フローを示す。
図2に示すように、まず、撮影技師により撮影用コンソール2の操作部23が操作され、撮影対象(被写体M)の患者情報(患者の氏名、身長、体重、年齢、性別等)の入力が行われる(ステップS1)。次いで、安静呼吸の撮影が行われる(ステップS2)。次いで、深呼吸の撮影が行われる(ステップS3)。以下、ステップS2及びステップS3において撮影用コンソール2の制御部21によって実行される撮影制御処理について説明する。
【0041】
図3に、撮影制御処理のフローチャートを示す。撮影制御処理は、制御部21と記憶部22に記憶されている撮影制御処理プログラムとの協働により実行される。
【0042】
まず、放射線照射条件が記憶部22から読み出されて放射線照射制御装置12に設定されるとともに、画像読取条件等の設定条件が記憶部22から読み出されて読取制御装置14に設定される(ステップS101)。安静呼吸の撮影時には安静呼吸撮影用の設定が、深呼吸撮影の場合には、深呼吸撮影用の設定が行われる。両撮影の放射線照射条件及び画像読取条件が同じ場合には、深呼吸時の撮影時の設定は省略される。
【0043】
次いで、操作部23の操作による放射線照射の指示が待機される(ステップS102)。ここで、撮影実施者は、撮影装置1において被写体Mのポジショニング等の撮影準備を行う。図2のステップS2において安静呼吸を撮影する場合には、被験者(被写体M)に楽にするように指示し、安静呼吸を継続するよう促す。ステップS3において深呼吸を撮影する場合には、被写体Mにアナウンスに従って呼吸をするように指示する。撮影準備が整った時点で、操作部23を操作して放射線照射指示を入力する。
【0044】
操作部23により放射線照射指示が入力されると(ステップS102;YES)、放射線照射制御装置12及び読取制御装置14に撮影開始指示が出力され、動態撮影が開始される(ステップS103)。即ち、放射線照射制御装置12に設定されたパルス間隔で放射線源11により放射線が照射され、放射線検出部13によりフレーム画像が取得される。なお、深呼吸撮影を行う場合には、「息を大きく吸って、吐いて」等の深呼吸を誘導するアナウンスを行いながら撮影を行う。撮影装置1に音声出力装置及びスピーカ等を備え、撮影と連動して深呼吸を誘導するアナウンスを行うことが好ましい。
予め定められたフレーム数の撮影が終了すると、制御部21により放射線照射制御装置12及び読取制御装置14に撮影終了の指示が出力され、撮影動作が停止される。撮影されるフレーム数は、少なくとも1呼吸サイクルが撮影できる枚数である。
【0045】
撮影により取得されたフレーム画像は順次撮影用コンソール2に入力され、各フレーム画像に対して補正処理が行われる(ステップS104)。ステップS5の補正処理においては、オフセット補正処理、ゲイン補正処理、欠陥画素補正処理、及びラグ(残像)補正の4つの補正処理が、必要に応じて行われる。
まず最初に、取得された各フレーム画像に対してオフセット補正処理が行われ、取得された各フレーム画像に重畳された暗電流に起因するオフセット値が除去される。オフセット補正処理では、例えば、取得した各フレーム画像の各画素値(濃度値。以下、信号値という)から、予め記憶されたオフセット補正係数を減算する処理が行われる。ここで、オフセット補正係数は、予め放射線非照射時に取得した複数の暗時画像(フレーム画像)を平均化した画像である。
次いで、ゲイン補正処理が行われ、各フレーム画像の各画素に対応する各検出素子の個体差や読み出しアンプのゲインムラによって生じる画素毎のばらつきが除去される。ゲイン補正処理では、例えば、オフセット補正後の各フレーム画像に、予め記憶されたゲイン補正係数を乗算する処理が行われる。ここで、ゲイン補正係数は、放射線検出部13に一様に放射線を照射した時に取得した複数のオフセット補正済みフレーム画像を平均化した画像と、このときの放射線照射条件で期待される出力信号値の関係から、補正後の各画素の信号値が一様となるように予め算出され、記憶された係数である。
次いで、欠陥画素補正処理が行われ、周囲の画素と比較して感度が非線形な画素や、感度がない欠落画素が除去される。欠陥画素補正処理では、例えば、予め記憶された欠陥画素位置情報マップに従って、欠陥画素位置情報マップに登録された各欠陥画素において、欠陥画素の信号値をその近傍の欠陥でない画素の信号値の平均値で置き換える処理が行われる。ここで、欠陥画素位置情報マップは、放射線検出部13に一様に放射線を照射した時に取得したオフセット補正、ゲイン補正済みのフレーム画像から、予め複数の欠陥画素が認識され、その欠陥画素の位置が登録されたマップである。上記オフセット補正係数及びゲイン補正係数、欠陥画素位置情報マップは、ビニングやダイナミックレンジ等の収集モードに応じて、予め、それぞれ最適な値が記憶されており、それぞれの収集モードにおいて対応する最適な値が読み出されるようになっている。
次いで、ラグ(残像)補正が行われる。ラグは、前回の放射線照射の影響が当回のフレーム画像中に表れる現象で、検出器の構成やフレームレート等に応じて、表れ方が異なることもあるので、撮影条件を考慮して補正処理が行われる。なお、各フレーム画像を用いてフレーム間差分処理を行う場合には、ラグ影響を無視しうることもあるので、必要に応じて補正処理が行われる。同様に、上述したオフセット補正処理、ゲイン補正処理、欠陥画素補正処理についても、解析結果の精度よりも解析処理速度を優先させる場合には、補正処理を割愛することとしても良い。
【0046】
次いで、補正処理後の各フレーム画像と、撮影順を示す番号と対応付けて記憶部22に記憶されるとともに(ステップS105)、表示部24に表示される(ステップS106)。ここで、各フレーム画像を記憶する直前に、各フレーム画像の各画素の信号値を真数から対数に変換する対数変換処理を行ってから記憶しても良い。撮影技師は、表示された動態画像によりポジショニング等を確認し、撮影により診断に適した画像が取得された(撮影OK)か、再撮影が必要(撮影NG)か、を判断する。そして、操作部23を操作して、判断結果を入力する。尚、撮影により取得された各フレーム画像は、全撮影の終了後に纏めて入力するようにしても良い。
【0047】
操作部23の所定の操作により撮影OKを示す判断結果が入力されると(ステップS107;YES)、動態撮影で取得された一連のフレーム画像のそれぞれに、動態画像を識別するための識別IDや、患者情報、検査対象部位、放射線照射条件、画像読取条件、撮影順を示す番号、撮影日時等の情報が付帯され(例えば、DICOM形式で画像データのヘッダ領域に書き込まれ)、通信部25を介して診断用コンソール3に送信される(ステップS108)。そして、本処理は終了する。一方、操作部23の所定の操作により撮影NGを示す判断結果が入力されると(ステップS107;NO)、記憶部22に記憶された一連のフレーム画像が削除され(ステップS109)、撮影は終了する。尚、このケースに於いては、再撮影が実行されることとなる。
【0048】
なお、安静呼吸の撮影と深呼吸の撮影は、順番を入れ替えてもかまわない。
【0049】
(診断用コンソール3の動作)
次に、診断用コンソール3における動作について説明する。
診断用コンソール3においては、通信部35を介して撮影用コンソール2から画像解析に必要な一連のフレーム画像が受信されると、制御部31と記憶部32に記憶されている画像解析処理プログラムとの協働により図4に示す画像解析処理が実行される。
【0050】
以下、図4を参照して画像解析処理の流れについて説明する。
まず、安静呼吸を撮影した安静呼吸画像群及び深呼吸を撮影した深呼吸画像群の各フレーム画像から肺野領域が抽出される(ステップS21)。
肺野領域の抽出方法は何れの方法であってもよい。例えば、一連のフレーム画像中の基準となる画像(基準画像)の各画素の信号値(濃度値)のヒストグラムから判別分析によって閾値を求め、この閾値より高信号の領域を肺野領域候補として1次抽出する。次いで、1次抽出された肺野領域候補の境界付近でエッジ検出を行い、境界付近の小領域でエッジが最大となる点を境界に沿って抽出すれば肺野領域の境界を抽出することができる。
基準画像は、深呼吸時の最大吸気位のフレーム画像とすることが好ましい。最大吸気位の画像は、例えば、各フレーム画像において上記肺野領域の抽出を行い、その面積が最大となった画像を最大吸気位のフレーム画像として選択することができる。最大吸気位は、肺野が最大に広がった状態であるので、最大吸気位のフレーム画像を基準画像として選択することで、肺野内を広く解析することができる。
【0051】
次いで、各フレーム画像の肺野領域が複数の小領域に分割され、各フレーム画像の小領域が互いに対応付けられる(ステップS22)。
具体的には、各フレーム画像間の対応点を抽出する対応点抽出処理(ローカルマッチング処理)及び非線形歪変換処理(ワーピング処理)を行って、各フレーム画像を複数の小領域に分割し、肺野領域の同一部分が描画された領域を各フレーム画像間で対応付ける。各小領域の画素の位置は、制御部31のRAMに記憶される。
【0052】
ローカルマッチング処理では、まず、基準画像から抽出した肺野領域を、例えば、5mm角の矩形からなる小領域に分割する。
次いで、基準画像をP1、これと隣接するフレーム画像(撮影順が隣接するフレーム画像(即ち、時間的に隣接するフレーム画像。以下同様。))をP2とし、P2に、P1の各小領域の探索領域を設定する。ここで、P2の探索領域は、P1における各小領域における中心点の座標を(x,y)とすると、同一の中心点(x,y)をもち、P1の小領域よりも縦横の幅が大きくなるように設定する(例えば、1.5倍)。そして、P1の各領域毎に、P2の探索範囲で最もマッチング度合いが高くなる領域を求めることで、P1の各小領域に対するP2上での対応位置を算出する。マッチング度合いとしては、最小二乗法や相互相関係数を指標に用いる。そして、P2の肺野領域をP1の各小領域の対応位置で分割する。
次いで、P2を、新たにP1とみなし、新たなP1と隣接する次のフレーム画像を新たなP2とみなして、P1の各小領域におけるP2の対応位置を算出する。以上の処理を繰り返すことで、各フレーム画像の各小領域が隣接するフレーム画像のどの位置に対応するかが求まる。
なお、安静呼吸時のフレーム画像については、まず、基準画像をP1、安静呼吸時に肺野の面積が最大となる安静吸気位のフレーム画像をP2として上記ローカルマッチング処理及びワーピング処理を行い、次いで、安静吸気位のフレーム画像を新たにP1、これと隣接するフレーム画像を新たにP2として上記ローカルマッチング処理及びワーピング処理を行う。これにより、一連の撮影により得られた全てのフレーム画像の肺野領域を深呼吸時の最大吸気位のフレーム画像の肺野領域に位置合わせすることができる。求めた処理結果は、制御部31のRAMに記憶される。
【0053】
次いで、ワーピング処理が行われる。具体的には、基準画像をP1、これと撮影順が隣接する(時間的に隣接する)フレーム画像をP2とし、上記ローカルマッチング処理で算出された隣接するフレーム画像間の各小領域の対応位置に基づいて、各小領域毎にP1からP2へのシフトベクトルを算出する。次いで、算出されたシフトベクトルを多項式でフィッティングして、この多項式を用いて各小領域における各画素のシフトベクトルを算出する。そして、算出された各画素のシフトベクトルに基づいて、ワーピング処理を行い、P2の各小領域内の各画素の位置をP1のフレーム画像の対応する画素の位置にシフトする。次いで、ワーピング処理されたP2を、新たにP1とみなし、新たなP1と隣接する次のフレーム画像を新たなP2とみなして、上記処理を行う。以上の処理を順次繰り返すことで、全てのフレーム画像の各小領域の位置を基準画像に略一致させることが可能となる。各フレーム画像間における小領域の位置の対応関係は、制御部31のRAMに記憶される。
【0054】
次いで、各フレーム画像の各小領域において平均信号値が算出され、この信号値に小領域内の信号値が置き換えられる(ステップS23)。
【0055】
次いで、時間軸方向のローパスフィルタ処理が施される(ステップS24)。このローパスフィルタ処理は換気による信号値の時間変化を抽出するための処理であり、例えば、小領域毎に信号値の波形を作成し、安静呼吸画像群に対してはカットオフ周波数0.7Hz、深呼吸画像群に対してはカットオフ周波数0.5Hzでフィルタリングする。
【0056】
次いで、安静呼吸画像群と深呼吸画像群のそれぞれについて、安静呼吸時の信号波形の振幅値ANs及び深呼吸時の信号波形の振幅値ADsが算出される(ステップS25)。信号波形の振幅値は、各小領域毎に呼吸1サイクル中の最大信号値(極大値)と最小信号値(極小値)との差を算出することにより求めることができる。
【0057】
ここで、呼吸1サイクルは、呼気期と吸気期により構成される。図5は、1つの呼吸サイクル(深呼吸時)において撮影された複数の時間位相T(T=t0〜t6)のフレーム画像を示す図である。図5に示すように、呼気期は、横隔膜が上がることによって肺から空気が排出され、肺野の領域が小さくなる。これに伴い、肺野の密度は増加するので、肺野を透過する放射線量及びこれを示す画像の信号値は減少する。最大呼気位では、横隔膜の位置が最も高い状態となる。吸気期は、横隔膜が下がることにより肺に空気が取り込まれ、図5に示すように胸郭中の肺野の領域が大きくなる。これに伴い、肺野の密度は減少するので、肺野を透過する放射線量及びこれを示す信号値は増加する。よって、深呼吸画像群の各小領域毎に、横軸を撮影開始からの経過時間、縦軸を画素の平均信号値とした座標平面を作成して、各フレーム画像の撮影開始からの経過時間とその小領域について算出された平均信号値が交わる点をプロットすると、図6(a)に示すように、最大吸気位を最大信号値、最大呼気位を最小信号値とする波形を得ることができる。この最大信号値と最小信号値との差が信号波形の振幅ADsであり、換気量に相当する。安静呼吸時の場合は、図6(b)に示すように、深呼吸時より周期及び振幅の短い波形を得ることができる。
【0058】
次いで、各小領域毎に、深呼吸時の信号波形の振幅値ADs及び安静呼吸時の信号波形の振幅値ANsに基づいて、安静呼吸時の呼吸の余力度合いを示す特徴量Cが算出される(ステップS26)。
特徴量Cは、以下の式(1)により求めることができる。
特徴量C=安静呼吸時の信号波形の振幅値ANs÷深呼吸時の信号波形の振幅値ADs・・・ (1)
換気機能が正常に機能している場合は、安静呼吸時に肺野の一部のみを使って呼吸ができるので、肺野全体を使って力一杯呼吸をする深呼吸時に比べて余力を残している。このとき、図7下段のグラフに示すように、深呼吸時の振幅ADsと安静呼吸時の振幅ANsとの差は大きい。即ち、特徴量Cの値は小さくなる。しかし、換気機能が正常に機能していない場合は、安静呼吸時であっても肺野全体の力を使って呼吸をしており、余力がない。このとき、図7上段のグラフに示すように、深呼吸時の振幅値ADsと安静呼吸時の振幅値ANsの差は小さく、特徴量Cの値は1に近くなる。
【0059】
各小領域の特徴量の算出が終了すると、表示部34に解析結果が表示される(ステップS27)。
図8に、ステップS27において表示部34に表示される解析結果画面341の一例を示す。図8に示すように、解析結果画面341には、各小領域を特徴量Cに応じた色(又は輝度)で表示した静止画像34aと、静止画像34aで表示されている色(又は輝度)と特徴量Cとの関係を示す表示34bとが表示される。静止画像は、ここでは基準画像が使用される。この表示により、医師は、安静呼吸時の換気機能に余力のない異常な箇所があるか否か、異常な箇所はどこであるか等を一瞥するだけで把握することができる。
【0060】
なお、ステップS27においては、小領域毎の特徴量の分布を示すヒストグラムを併せて表示することとしてもよい。
図9に、ステップS27において表示部34に表示される解析結果画面342の一例を示す。図9に示すように、解析結果画面342には、解析結果画面341と同様の静止画像34aと、表示34bのほか、各特徴量Cの頻度を示すヒストグラム34cが表示されている。ヒストグラム34cにより、医師は、正常な小領域、異常な小領域の肺野全体に占める割合や分布を大まかに把握することができる。
なお、静止画像34aとヒストグラム34cを並べても小領域とヒストグラム上の対応が一見してわかりにくい場合がある。そこで、操作部33によりヒストグラム上の点(例えば、特徴量が0〜0.2までの範囲を一括選択等、複数点でもよい)を選択すると、静止画像34aの選択した点に対応する領域(注目領域)のみを色づけして表示するようにしてもよい。このようにすれば、ヒストグラム上の点に対応する注目領域が肺野のどこに存在するのかを医師が一見して把握することが可能となる。
また、選択された点に対応する注目領域の肺野総面積に対する割合等を算出して表示してもよい。このようにすれば、医師は、例えば、余力のほとんどない異常個所が肺野全体のどのくらいの割合を占めるか等を定量的に把握することが可能となる。
【0061】
また、解析結果画面341又は342に表示される静止画像34aにおいて、操作部33により小領域が選択された場合に、選択された小領域の換気機能の正常又は異常を判断して判断結果を解析結果画面341又は342に表示することとしてもよい。正常又は異常の判断は、特徴量Cを予め定められた閾値と比較することにより判断することができる。
ここで、一般的な成人の深呼吸時の換気量(肺活量)は、男性で3000〜4000mL、女性で2000〜3000mLである。一般的な成人の安静呼吸時の換気量は、約500mLである。よって、男性の安静呼吸時の換気量は深呼吸時の換気量の6〜8分の1、女性の安静呼吸時の換気量は深呼吸時の換気量の4〜6分の1である。そこで、本実施の形態においては、閾値を1/4(=0.25)とし、特徴量Cが0.25より大きい場合に異常、0.25以下の場合は正常と判断する。なお、一般的な深呼吸時の換気量と安静呼吸時の換気量は3次元の計測データで求めたものであるが、動態画像を解析することにより求められるのは2次元の計測データである。よって上記閾値は、仮のめやすであり、これに限定されるものではない。
【0062】
(変形例1)
上記実施の形態においては、安静呼吸及び深呼吸をそれぞれ動態撮影したが、深呼吸について最大吸気位のフレーム画像と最大呼気位のフレーム画像の2枚のみの撮影とすることで、例えば、各フレーム画像の照射放射線量を一定とする構成の撮影装置1を用いた場合に患者の被曝量の低減を図ることができる。安静呼吸における安静吸気位と安静呼気位は意図的に行うことはできないが、深呼吸においては、患者が最大限に息を吸い込んだときと最大限に息を吐き出したときを撮影することは可能である。そして、この最大吸気位のフレーム画像と最大呼気位のフレーム画像の2枚の画像の各小領域の信号値は、それぞれ深呼吸1サイクルにおける最大信号値と最小信号値に相当するので、患者の被曝量を抑えつつ、動態撮影を行ったときと同等の解析結果を得ることができる。
【0063】
この場合、図2のステップS2においては、深呼吸を誘導して、最大吸気位と最大呼気位の2回の撮影のみが行われる。また、図4の画像解析処理においては、ステップS24のローパスフィルタ処理は安静呼吸画像群のみに行われる。深呼吸画像群については、2枚のフレーム画像しかないため、処理を行っても換気情報のみを抽出することが困難なためである。なお、深呼吸による信号変化に比べると血流による信号変化は小さいため、ローパスフィルタ処理を行わなくても処理に影響は少ないと考えられる。その他の処理は、上記実施の形態と同様である。
【0064】
(変形例2)
更に患者の被曝量を低減するため、深呼吸については最大吸気位のフレーム画像のみを撮影することとしてもよい。このようにすれば、患者の被曝量を更に低減することができる。
この場合、図2のステップS2においては、深呼吸を誘導して、最大吸気位の1回の撮影のみが行われる。また、図4の画像解析処理においては、ステップS24のローパスフィルタ処理は安静呼吸画像群のみに行われる。深呼吸画像については、1枚のフレーム画像しかないため、処理を行っても換気情報のみを抽出することが困難なためである。なお、深呼吸による信号変化に比べると血流による信号変化は小さいため、ローパスフィルタ処理を行わなくても処理に影響は少ないと考えられる。また、呼吸の余力度合いを示す特徴量(C2とする)は、以下の式(2)により求めることができる。
特徴量C2=安静呼吸時の信号波形の振幅値ANs÷(最大吸気位の信号値−安静呼気位の信号値)・・・(2)
即ち、最大呼気位のフレーム画像の信号値の代わりに、安静呼気位のフレーム画像の信号値を用いて、呼吸の換気機能の評価を示す特徴量C2を算出する。
ここで、(最大吸気位の信号値−最大呼気位の信号値)>(最大吸気位の信号値−安静呼気位の信号値)であるので、正常/異常を判断するための閾値は、式(1)で算出した特徴量Cに適用するものよりも大きくする必要があると考えられる。その他の処理は、上記実施の形態と同様である。
なお、この場合は下記の処理によっても呼吸余力度を示す特徴量(C3とする)を算出することが可能である。
安静呼吸画像群のなかから安静吸気位となるフレーム画像を抽出し、当該画像と深呼吸時の最大吸気位のフレーム画像とを用いて、それぞれのフレーム画像に対して、横軸を各検出器(画素)の示す出力値、縦軸をその出現度合いとするヒストグラムを生成し、当該ヒストグラムの肺野領域部(直接照射領域及び未照射領域に対応する出力値を除く、ヒストグラムの中央部)の面積を算出し、特徴量C3=安静ヒストグラムの面積/深呼吸ヒストグラムの面積とすることも可能である。
【0065】
以上説明したように、胸部診断支援システム100によれば、撮影装置1及び撮影用コンソール2により胸部の安静呼吸時の動態を1サイクル以上撮影して一連のフレーム画像を生成するとともに、胸部の深呼吸時に撮影を行って少なくとも最大吸気位のフレーム画像を含む一以上のフレーム画像を生成し、診断用コンソール3において安静呼吸時の胸部動態を示す一連のフレーム画像と、深呼吸時の少なくとも最大吸気位に相当するフレーム画像を含む一以上のフレーム画像とに基づいて、胸部の安静呼吸時の余力度合いを示す特徴量を算出し出力する。
【0066】
従って、安静呼吸時と深呼吸時の比較に基づいて安静呼吸時の余力度合いを示す特徴量を算出するので、従来の、安静呼吸又は深呼吸時の何れかに撮影した画像を解析する手法では異常と判断されなかった、安静呼吸時に余力のない異常についての診断支援情報を提供することが可能となる。
【0067】
撮影時には、安静呼吸時及び深呼吸時に動態画像を行い、得られた一連のフレーム画像に基づいて安静呼吸時の余力を示す特徴量を算出することで、精度良く特徴量を算出して診断支援情報として提供することが可能となる。
【0068】
また、深呼吸時の撮影を最大呼気位及び最大吸気位の2回の撮影のみとすることで、動態画像1フレーム画像あたりに照射する放射線量が一定の撮影装置を用いる場合に、患者の被曝量を低減することが可能となる。
更に、深呼吸時の撮影を最大吸気位の1回の撮影のみとすることで、患者の被曝を更に低減することが可能となる。
【0069】
なお、上記実施形態は本発明の好適な一例であり、これに限定されない。
例えば、上記の説明では、本発明に係るプログラムのコンピュータ読み取り可能な媒体としてハードディスクや半導体の不揮発性メモリ等を使用した例を開示したが、この例に限定されない。その他のコンピュータ読み取り可能な媒体として、CD-ROM等の可搬型記録媒体を適用することが可能である。また、本発明に係るプログラムのデータを通信回線を介して提供する媒体として、キャリアウエーブ(搬送波)も適用される。
【0070】
その他、胸部診断支援システム100を構成する各装置の細部構成及び細部動作に関しても、本発明の趣旨を逸脱することのない範囲で適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0071】
100 胸部診断支援システム
1 撮影装置
11 放射線源
12 放射線照射制御装置
13 放射線検出部
14 読取制御装置
2 撮影用コンソール
21 制御部
22 記憶部
23 操作部
24 表示部
25 通信部
26 バス
3 診断用コンソール
31 制御部
32 記憶部
33 操作部
34 表示部
35 通信部
36 バス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
撮影手段により胸部の安静呼吸時の動態を1サイクル以上撮影して一連のフレーム画像を生成する安静呼吸撮影工程と、
前記撮影手段により前記胸部の深呼吸時に撮影を行って少なくとも最大吸気位のフレーム画像を含む一以上のフレーム画像を生成する深呼吸撮影工程と、
演算手段により前記安静呼吸撮影工程において生成された一連のフレーム画像と、前記深呼吸撮影工程において生成された少なくとも最大吸気位に相当するフレーム画像を含む一以上のフレーム画像とに基づいて、前記胸部の安静呼吸時の余力度合いを示す特徴量を算出する算出工程と、
前記算出された特徴量を出力手段により出力する出力工程と、
を含む胸部診断支援情報生成方法。
【請求項2】
前記算出工程は、前記安静呼吸撮影工程において生成された一連のフレーム画像と、前記深呼吸撮影工程において生成された少なくとも最大吸気位に相当するフレーム画像を含む一以上のフレーム画像を解析することにより、前記胸部の安静呼吸時の換気による信号変化の振幅を算出するとともに、前記胸部の深呼吸時の換気による信号変化の振幅を算出し、前記算出した安静呼吸時の換気による信号変化の振幅と深呼吸時の換気による信号変化の振幅の比を算出することにより前記胸部の安静呼吸時の余力度合いを示す特徴量を算出する請求項1に記載の胸部診断支援情報生成方法。
【請求項3】
前記深呼吸撮影工程は、前記撮影手段により前記胸部の深呼吸時の動態を1サイクル以上撮影して一連のフレーム画像を生成し、
前記算出工程は、前記安静呼吸撮影工程で生成された一連のフレーム画像と、前記深呼吸撮影工程で生成された一連のフレーム画像とに基づいて、前記胸部の安静呼吸時の余力度合いを示す特徴量を算出する請求項1又は2に記載の胸部診断支援情報生成方法。
【請求項4】
前記深呼吸撮影工程は、前記撮影手段により前記胸部の深呼吸時の最大吸気位及び最大呼気位の撮影を行って、前記胸部の最大吸気位に相当するフレーム画像及び最大呼気位に相当する二枚のフレーム画像を生成し、
前記算出工程は、前記安静呼吸撮影工程で得られた一連のフレーム画像と、前記深呼吸撮影工程で得られた最大吸気位に相当するフレーム画像及び最大呼気位に相当するフレーム画像とに基づいて、前記胸部の安静呼吸時の余力度合いを示す特徴量を算出する請求項1又は2に記載の胸部診断支援情報生成方法。
【請求項5】
前記深呼吸撮影工程は、前記撮影手段により前記胸部の深呼吸時の最大吸気位のみの撮影を行って、前記胸部の最大吸気位に相当する一枚のフレーム画像を生成し、
前記算出工程は、前記安静呼吸撮影工程で得られた一連のフレーム画像と、前記深呼吸撮影工程で得られた最大吸気位に相当するフレーム画像とに基づいて、前記胸部の安静呼吸時の余力度合いを示す特徴量を算出する請求項1又は2に記載の胸部診断支援情報生成方法。
【請求項6】
胸部の呼吸に伴う動態を撮影して一連のフレーム画像を生成する撮影手段と、前記撮影手段により生成された一連のフレーム画像を解析して前記胸部の呼吸に対する特徴量を算出する演算手段と、前記算出された特徴量を出力する出力手段と、を備える胸部診断支援システムであって、
前記撮影手段は、前記胸部の安静呼吸時の動態を1サイクル以上撮影して一連のフレーム画像を生成すると共に、前記胸部の深呼吸時に撮影を行って少なくとも最大吸気位のフレーム画像を含む一以上のフレーム画像を生成し、
前記演算手段は、前記胸部の安静呼吸時の動態を撮影することにより生成された一連のフレーム画像と、前記胸部の深呼吸時を撮影することにより生成された少なくとも最大吸気位に相当するフレーム画像を含む一以上のフレーム画像とに基づいて、前記胸部の安静呼吸時の余力度合いを示す特徴量を算出し、
前記出力手段は、前記算出された特徴量を出力する胸部診断支援システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図7】
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【図5】
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【図6】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−115581(P2012−115581A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−269853(P2010−269853)
【出願日】平成22年12月3日(2010.12.3)
【出願人】(303000420)コニカミノルタエムジー株式会社 (2,950)
【Fターム(参考)】