説明

胸骨創感染症を予防するための組成物および方法

本発明は、一般に、縦隔炎などの胸骨創感染症を予防するための組成物および方法に関する。ある特定の実施形態では、本発明は、チロシン誘導ポリエステルアミドなどの少なくとも1種の生体再吸収性ポリマーと、少なくとも1種の抗菌剤とを含む抗菌組成物であって、対象における食道穿孔または対象における胸骨正中切開術切開部位へ局所適用されるように構成されており、前記少なくとも1種の抗菌剤が、対象における縦隔炎の発症を抑制するのに有効な量で存在する抗菌組成物を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願への相互参照
本出願は、2009年6月1日に出願された米国特許出願第12/475,761号の利益を主張する。これは、すべての目的のために、その全体が引用することにより本明細書の一部をなすものとする。
【背景技術】
【0002】
縦隔炎は、心臓、大血管、気管、食道、胸腺、リンパ節および結合組織を含有する、両肺の間の領域の、腫張および炎症を招く感染症である。縦隔炎は、手遅れであると認められるかまたは不適切に処置された場合、極めて高い死亡率を有する、命を脅かす状態である。胸骨切開創は、心臓切開法のうちの約0.5%から約9%までにおいて感染し、皮弁閉鎖にもかかわらず、約8%から約15%までの関連死亡率を有する。胸骨正中切開術に伴う胸骨創深部感染率(骨および縦隔炎)は、約0.5%から約5%までの範囲であり、関連死亡率は、行われた外科手術のタイプに関係なく、22%と高い。
【0003】
縦隔炎は、急性または慢性に分類される。慢性硬化性(または線維化性)縦隔炎は、縦隔の長期にわたる感染に起因し、胸部ならびに中心血管および気道の周囲内に、無細胞コラーゲンおよび線維組織の成長を引き起こす。急性縦隔炎は、通常、食道穿孔または胸骨正中切開術に起因する。
【0004】
食道穿孔は、食物が口から胃まで通過する管である食道における穴である。食道穿孔によって、食道の内容物が、縦隔、胸部の周辺領域に移行してしまい、結果として多くの場合、縦隔の感染症、すなわち、縦隔炎を招く。早期に、例えば24時間未満に診断を受けた患者および24時間以内に達成される外科手術を受けた患者については、生存率は約90%である。しかし、治療が遅れると、その率は約50%にまで下がる。
【0005】
胸骨正中切開術は、胸骨に沿って縦一直線に切開し、その後、胸骨自体を割断するまたは裂く外科手術である。この手法によって、心臓および肺に到達し、心臓移植、先天的な心臓の欠陥の矯正または冠動脈バイパス手術などのさらなる外科手術を行うことができる。外科手術が完了した後、胸骨は通常、ワイヤーまたは金属テープの助けを借りて閉鎖される。続いて、胸骨の骨端および割れ目を覆い、止血剤で満たす。骨ろうは感染を増強することが報告されており、異物反応を引き起こし、骨成長を抑制する(Rahmanian他,Am J Cardiol,100(11):1702〜1708頁,2007;Fakin他,Infect Control Hosp Epidemiol 28(6):655〜660頁,2007;およびCrabtree他,Semin Thorac Cardiovasc Surg.,16(1):53〜61頁,2004)という事実にもかかわらず、最も多く使用されている止血剤は、骨ろう(蜜ろう)である。
【0006】
創傷部位、胸骨および/または内腔は、外科手術中および閉鎖中のいずれの時にも、細菌で汚染され得る。表在性胸骨創感染症が、それ自体、高い死亡率を伴わない可能性があるのに対して、これらの感染症は、胸骨自体を突き止め、骨髄炎を引き起こし得る。感染を縦隔の中にさらに持ち込むと、結果として縦隔炎を招く。骨ろうなどの止血剤は、細菌が胸骨の中におよび胸骨を通って進入するのを阻む物理的障壁をもたらすために、一般に用いられているが、それらの炎症性は、実際に細菌の成長を高め得る。より有効な治療は、創床の汚染を防ぐための薬理学的方法および物理的方法を用いるべきである。
【0007】
予防的抗生物質は、大部分の外科手術前のケアの標準であるが、IV抗生物質単独は、胸骨創感染症および縦隔炎の発生率を低減するのにそれほど有効ではない。その上、胸骨創部位で局所的に高濃度にならないことによる抗生物質耐性についての懸念が高まりつつある(Carson他,J Am Coll Cardiol,40:418〜423頁,2002)。胸部手術部位の深部感染症を発症している患者は、感染していない患者よりも、$20,927という平均費用を多く負担し、感染していない患者が5日または6日であるのに比べて、27日という平均入院期間を被っている。
【0008】
2009年の初めには、急性縦隔炎を治療するのに伴う費用は、メディケアによって賄われなくなる。2007年8月22日付で官報(Department of Health and Human Services,2007,72巻,162号)に公表されているCenters for Medicare & Medicaid Services Inpatient Prospective Payment Systemを参照のこと。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって、縦隔炎を予防するための組成物および方法が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、胸骨正中切開術または胸骨が損傷される他の手法を受けた患者における切開部位に適用するための、少なくとも1種の抗生物質を含む局所組成物を提供する。本明細書において使用される場合、局所とは、対象の表面の間隙の中へ、間隙の上部にまたは間隙の中に適用される製剤、すなわち、対象の内部表面または外部表面への適用を指す。表面は、内部の骨の表面、内部の骨の外科的切断端面、内部の器官の表面、内部の筋肉の表面または切開部位の表面であり得る。特に、局所は、胸骨正中切開術が行われた後の、胸骨正中切開辺縁の内部への適用、すなわち、胸骨の骨端および割れ目への適用のために製剤化されるものを含む。局所はまた、食道穿孔の表面への適用を含む。局所はまた、表皮への適用を含む。本発明の組成物は、任意の適切な原料で作られてよく、好ましくは、ペースト、パテ、クリーム、軟膏、フォームまたはジェルとして製剤化される。例えば、心臓外科手術における本発明の組成物の適用は、縦隔炎に至る感染を大いに低減する。
【0011】
本発明の態様は、チロシン誘導ポリエステルアミドなどの少なくとも1種の生体再吸収性ポリマーおよび少なくとも1種の抗菌剤を含む抗菌組成物であって、対象における食道穿孔または対象における胸骨正中切開術切開部位への局所適用のために製剤化されており、前記抗菌剤が、対象における、前記部位の細菌のコロニー形成および/または縦隔炎、胸骨創感染症または創深部感染症の発症を抑制するのに有効な量で存在する抗菌組成物を提供する。好ましい実施形態では、組成物は、標準手法を使用して閉鎖した後の、対象の胸骨の間および上部に適用される。そのような組成物の局所製剤は、パテ、ペースト、ジェル、フォーム、軟膏またはクリームを含むが、これらに限定されない。ある特定の実施形態では、組成物は、結合剤をさらに含む。
【0012】
これらの組成物のある特定の実施形態は、骨誘導剤をさらに含む。これらの組成物の他の実施形態は、骨伝導剤をさらに含む。例示的な骨の成長を促進する物質は、リン酸カルシウム、脱塩骨マトリックス、コラーゲンまたはヒドロキシアパタイトを含む。
【0013】
これらの組成物のある特定の実施形態では、結合剤は、ポリアルキエレンオキシド、例えばポリエチレングリコール(PEG)またはポリプロピレングリコールであり、そのコポリマーを含む。特定の実施形態では、結合剤は、PEG400である。他の実施形態では、結合剤は、BASFから入手可能なPluronic(登録商標)トリブロックPEO/PPOコポリマーなどの、ポリエチレンオキシド(PEO)およびポリプロピレンオキシド(PPO)のブロックコポリマーである。ある特定の実施形態では、本明細書における組成物は、部分的に生体再吸収性である。他の実施形態では、組成物は、完全に生体再吸収性である。
【0014】
抗菌剤は、非毒性であり、内部器官に直接用いることができる抗生物質、防腐剤および殺菌剤を含む可能性がある。例示的な抗生物質は、テトラサイクリン系、ペニシリン系、マクロライド系、リファンピンおよびその組合せを含む。ある特定の実施形態では、組成物は、ミノサイクリンおよびリファンピンなどの、抗生物質の組合せを含む。
【0015】
ある特定の実施形態では、本発明の組成物は、チロシン誘導ポリエステルアミドと、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリ(L−ラクチド)(PLLA)、ポリ(D,L−ラクチド)(PLA)ポリグリコール酸[ポリグリコリド(PGA)]、ポリ(L−ラクチド−co−D,L−ラクチド)(PLLA/PLA)、ポリ(L−ラクチド−co−グリコリド)(PLLA/PGA)、ポリ(D,L−ラクチド−co−グリコリド)(PLA/PGA)、ポリ(グリコリド−co−トリメチレンカーボネート)(PGA/PTMC)、ポリ(D,L−ラクチド−co−カプロラクトン)(PLA/PCL)、ポリ(グリコリド−co−カプロラクトン)(PGA/PCL)、ポリ(オキサ)エステル、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリジオキサノン(PDS)、ポリプロピレンフマレート、ポリ(エチルグルタメート−co−グルタミン酸)、ポリ(tert−ブチルオキシ−カルボニルメチルグルタメート)、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリカプロラクトンco−ブチルアクリレート、ポリヒドロキシブチレート(PHBT)、ポリヒドロキシブチレート、ポリ(ホスファゼン)、ポリ(リン酸エステル)、ポリ(アミノ酸)、ポリデプシペプチド、ポリイミノカーボネート、ポリ[(97.5%ジメチル−トリメチレンカーボネート)−co−(2.5%トリメチレンカーボネート)]、ポリ(オルトエステル)、チロシン誘導ポリカーボネート、チロシン誘導ポリイミノカーボネート、チロシン誘導ポリホスホネート、ポリエチレンオキシド、ポリアルキレンオキシドおよびヒドロキシプロピルメチルセルロースからなる群から選択される少なくとも1種の追加のポリマーとを含む。
【0016】
本発明の別の態様は、対象、例えば、ヒトにおける縦隔炎、胸骨創感染症または創深部感染症を予防する方法であって、ポリマーおよび少なくとも1種の抗菌剤を含む抗菌組成物を、対象における食道穿孔または対象における胸骨正中切開術切開部位に適用し、前記少なくとも1種の抗菌剤が、対象における、縦隔炎、胸骨創感染症または創深部感染症の発症を予防するのに有効な量で存在する方法を提供する。縦隔炎を「予防する」とは、縦隔炎の発生率が著しく低減されるように、例えば、少なくとも約10%、例えば、少なくとも約10%、少なくとも約20%、少なくとも約30%、少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約90%または少なくとも約95%低減されるように、本発明者らは、(例えば、本明細書に記載されているように、細菌の成長を抑制するのに十分な量の抗菌剤を提供することによって)微生物の成長を実質的に抑制することを意味する。
【0017】
本方法のある特定の実施形態では、組成物は、結合剤、例えばポリエチレングリコール(PEG)をさらに含む。特定の実施形態では、PEGは、PEG400である。本方法の他の実施形態では、組成物は、骨誘導剤をさらに含む。本方法の他の実施形態では、組成物は、骨伝導剤をさらに含む。本方法のある特定の実施形態では、ポリマーは、チロシン誘導ポリエステルアミドである。本方法のある特定の実施形態では、ポリマーは、少なくとも2種のポリマーのブレンドである。本方法のある特定の実施形態では、ポリマーは、チロシン誘導ポリエステルアミドとポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリ(L−ラクチド)(PLLA)、ポリ(D,L−ラクチド)(PLA)ポリグリコール酸[ポリグリコリド(PGA)]、ポリ(L−ラクチド−co−D,L−ラクチド)(PLLA/PLA)、ポリ(L−ラクチド−co−グリコリド)(PLLA/PGA)、ポリ(D,L−ラクチド−co−グリコリド)(PLA/PGA)、ポリ(グリコリド−co−トリメチレンカーボネート)(PGA/PTMC)、ポリ(D,L−ラクチド−co−カプロラクトン)(PLA/PCL)、ポリ(グリコリド−co−カプロラクトン)(PGA/PCL)、ポリ(オキサ)エステル、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリジオキサノン(PDS)、ポリプロピレンフマレート、ポリ(エチルグルタメート−co−グルタミン酸)、ポリ(tert−ブチルオキシ−カルボニルメチルグルタメート)、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリカプロラクトンco−ブチルアクリレート、ポリヒドロキシブチレート(PHBT)、ポリヒドロキシブチレート、ポリ(ホスファゼン)、ポリ(リン酸エステル)、ポリ(アミノ酸)、ポリデプシペプチド、ポリイミノカーボネート、ポリ[(97.5%ジメチル−トリメチレンカーボネート)−co−(2.5%トリメチレンカーボネート)]、ポリ(オルトエステル)、チロシン誘導ポリカーボネート、チロシン誘導ポリイミノカーボネート、チロシン誘導ポリホスホネート、ポリエチレンオキシド、ポリアルキレンオキシドおよびヒドロキシプロピルメチルセルロースからなる群から選択される少なくとも1種の追加のポリマーとのブレンドである。
【0018】
本方法のある特定の実施形態では、ポリマー組成物は、種々の形態で、患者に送達され得る。ある特定の実施形態では、組成物は、ペーストとして製剤化される。他の実施形態では、組成物は、パテとして製剤化される。他の例示的な製剤は、フォーム、ジェル、軟膏またはクリームを含む。ある特定の実施形態では、組成物は、部分的に生体再吸収性である。他の実施形態では、組成物は、完全に生体再吸収性である。他の実施形態では、組成物は、生体再吸収性であり、再形成される。
【0019】
本発明の別の態様は、対象における縦隔炎を予防する方法であって、チロシン誘導ポリエステルアミド、結合剤および少なくとも1種の抗菌剤を含むパテが、対象における食道穿孔または対象における胸骨切開術に適用され、前記少なくとも1種の抗菌剤が、対象における縦隔炎の発症を予防するのに有効な量で存在する方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】Ostene(登録商標)製剤からのミノサイクリンの放出率を説明するグラフである。
【図2】Ostene(登録商標)製剤からのリファンピンの放出率を説明するグラフである。
【図3】Ostene(登録商標)−P22−27.5マトリックス製剤からのミノサイクリンおよびリファンピンの放出率を説明するグラフである。
【図4】AIGIS(登録商標)(TYRX Pharma,Inc.)からのミノサイクリンおよびリファンピンの放出率を説明するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明は、一般に、胸骨創感染症、創深部感染症または縦隔炎を予防するための組成物および方法に関する。縦隔炎は、細菌または真菌によって引き起こされる感染症である。感染は、結果として、両肺の間の領域(縦隔)の腫張および刺激(炎症)を招く。細菌性生物および真菌性生物は、細菌および真菌のすべての属および種を指し、例えば、球状、棒状およびらせん状のすべての細菌を含む。例示的な細菌は、ブドウ球菌(例えば、表皮ブドウ球菌および黄色ブドウ球菌)、エンテルロコッカス・フェカーリス、緑膿菌、大腸菌、他のグラム−陽性細菌およびグラム−陰性杆菌である。例示的な真菌は、カンジダ・アルビカンスである。縦隔炎は、複数菌であることが多いが、ブドウ球菌は、感染患者からコロニー形成される最も一般的な細菌である。
【0022】
ある特定の実施形態では、本発明は、チロシン誘導ポリエステルアミドなどの少なくとも1種の生体再吸収性ポリマーおよび少なくとも1種の抗菌剤を含む抗菌組成物であって、対象における食道穿孔または対象における胸骨正中切開術切開部位への局所適用のために製剤化されており、前記少なくとも1種の抗菌剤が、胸骨創部位を殺菌する、すなわち創部位の細菌のコロニー形成を予防するのに有効な量で存在する抗菌組成物を提供する。ある特定の実施形態では、組成物は、結合剤を含む。
【0023】
本明細書において使用される場合、局所とは、対象の表面の間隙の中へ、間隙の上部にまたは間隙の中に適用される製剤、すなわち、対象の内部表面または外部表面への適用を指す。表面は、内部の骨の表面、内部の骨の外科的切断端面、内部の器官の表面、内部の筋肉の表面または切開部位の表面であり得る。特に、局所は、胸骨正中切開術が行われた後の、胸骨正中切開辺縁の内部への適用、すなわち、胸骨の骨端および割れ目への適用のために製剤化されるものを含む。局所はまた、食道穿孔の表面への適用を含む。局所はまた、表皮への適用を含む。
【0024】
抗菌剤
抗菌剤は、抗生物質、防腐剤および殺菌剤を含む。ある特定の実施形態では、抗菌組成物は、これらの薬剤のうちの1種のみを含む。他の実施形態では、抗菌組成物は、これらの薬剤の混合物および組合せ、例えば、1種の抗生物質および1種の防腐剤、多数の殺菌剤もしくは多数の抗生物質または多数の抗生物質および多数の殺菌剤などを含む。ある特定の実施形態では、抗菌剤は、アルコール、ケトン、エーテル、アルデヒド、アセトニトリル、酢酸、塩化メチレンおよびクロロホルムなどの有機溶媒にやや溶けやすい。
【0025】
場合によって使用することができる抗生物質の類の非限定例は、テトラサイクリン系(例えばミノサイクリン)、リファマイシン系(例えばリファンピン)、マクロライド系(例えばエリスロマイシン)、ペニシリン系(例えばナフェイリン(nafeillin))、セファロスポリン系(例えばセファゾリン)、他のβ−ラクタム系抗生物質(例えばイミペネム、アズトレオナム)、アミノグリコシド系(例えばゲンタマイシン)、クロラムフェニコール、スホンアミド系(例えばスルファメトキサゾール)、グリコペプチド系(例えばバンコマイシン)、キノロン系(例えばシプロフロキサシン)、フシジン酸、トリメトプリム、メトロニダゾール、クリンダマイシン、ムピロシン、ポリエン系(例えばアンホテリシンB)、アゾール系(例えばフルコナゾール)およびβ−ラクタム系阻害剤(例えばスルバクタム)を含む。
【0026】
使用することができる具体的な抗生物質の非限定例は、ミノサイクリン、リファンピン、エリスロマイシン、アジスロマイシン、ナフシリン、セファゾリン、イミペネム、アズトレオナム、ゲンタマイシン、スルファメトキサゾール、バンコマイシン、シプロフロキサシン、トリメトプリム、メトロニダゾール、クリンダマイシン、テイコプラニン、ムピロシン、アジスロマイシン、クラリスロマイシン、オフロキサシン、ロメフロキサシン、ノルフロキサシン、ナリジクス酸、ノボビオシン、スパルフロキサシン、ペフロキサシン、アミフロキサシン、エノキサシン、フレロキサシン、テマフロキサシン、トスフロキサシン、クリナフロキサシン、スルバクタム、クラブラン酸、アンホテリシンB、フルコナゾール、イトラコナゾール、ケトコナゾール、バシトラシン、クリンダマイシン、ダプトマイシン、リンコマイシン、リネゾリド、メトロニド(metronid)、ポリミキシン、リファキシミン、バンコマイシン、トリクロサン、クロルヘキシジン、シロリムス、エベロリムスおよびニスタチンを含む。Sakamoto他(米国特許第4,642,104号)に掲載されているものなどの、抗生物質の他の例は、それら自体、当技術分野における通常の技術者には容易に思い出される。
【0027】
ミノサイクリンは、テトラサイクリンから誘導される半合成抗生物質である。それは、主に静菌性であり、タンパク質の合成を阻害することによって、その抗菌効果を発揮する。ミノサイクリンは、塩酸塩として市販されており、かかる塩酸塩は、黄色結晶性粉末として存在し、水にやや溶けやすく、アルコール、ケトン、エーテル、アルデヒド、アセトニトリル、酢酸、塩化メチレンおよびクロロホルムを含む有機溶媒に溶けにくい。ミノサイクリンは、広範囲のグラム−陽性生物およびグラム−陰性生物に対して活性を示す。
【0028】
リファンピンは、糸状菌ストレプトマイセス・メジテラニク(Streptomyces mediterranic)によって産生される大環状抗菌性化合物であるリファマイシンBの半合成誘導体である。リファンピンは、細菌のDNA−依存性RNAポリメラーゼ活性を阻害し、事実上、殺菌性である。リファンピンは、赤褐色結晶性粉末として市販されており、水に極めて溶けにくく、酸性水溶液およびアルコール、ケトン、エーテル、アルデヒド、アセトニトリル、酢酸、塩化メチレンおよびクロロホルムを含む有機溶液に溶けやすい。リファンピンは、広範囲のグラム−陽性細菌およびグラム−陰性細菌に対して、広域スペクトルの活性を有する。
【0029】
ノボビオシンは、ストレプトマイセス・ニベウス(Streptomyces niveus)またはS.スフェロイデス(S.spheroides)の培養物から得られる抗生物質である。ノボビオシンは、通常、作用においては静菌性であり、細菌細胞壁の合成を妨げるらしく、細菌のタンパク質および核酸の合成を阻害する。薬物も、マグネシウムと錯化することによって、細胞膜の安定性に影響を及ぼすようである。ノボビオシンナトリウムは、水およびアルコールに溶けやすい。ノボビオシンは、The Upjohn Company、Kalamazoo、Michから入手可能である。
【0030】
エリスロマイシンは、ストレプトマイセス・エリスレアウス(Streptomyces erythreaus)の菌株によって産生されるマクロライド系抗生物質である。エリスロマイシンは、核酸の合成に影響を及ぼすことなく、タンパク質の合成を阻害することによって、その抗菌作用を発揮する。それは、白色から灰白色の結晶または粉末として市販されており、水に溶けにくく、アルコール、ケトン、エーテル、アルデヒド、アセトニトリル、酢酸、塩化メチレンおよびクロロホルムを含む有機溶液にやや溶けやすい。エリスロマイシンは、種々のグラム−陽性細菌およびグラム−陰性細菌に対して活性を示す。
【0031】
ナフェイリンは、ペニシリン−G−感受性およびペニシリン−G−耐性の両方の黄色ブドウ球菌株に対してならびに肺炎球菌、β−溶血性連鎖球菌およびα連鎖球菌(緑色連鎖球菌)に対して有効な、半合成ペニシリンである。ナフシリンは、水ならびにアルコール、ケトン、エーテル、アルデヒド、アセトニトリル、酢酸、塩化メチレンおよびクロロホルムを含む有機溶液の両方に、容易に溶ける。
【0032】
防腐剤および殺菌剤の例は、ヘキサクロロフェン、カチオン性ビスイグアニド系(例えばクロルヘキシジン、シクロヘキシジン)ヨードおよびヨードフォア(例えばポビドンヨード)、パラ−クロロ−メタ−キシレノール、トリクロサン、フラン医療用製剤(例えばニトロフラントイン、ニトロフラゾン)、メテナミン、アルデヒド(グルタルアルデヒド、ホルムアルデヒド)およびアルコールである。防腐剤および殺菌剤の他の例は、それら自体、当技術分野における通常の技術者には容易に思い出される。
【0033】
ヘキサクロロフェンは、ブドウ球菌および他のグラム−陽性細菌に対して活性を示す、静菌性防腐性の清浄剤である。ヘキサクロロフェンは、水ならびにアルコール、ケトン、エーテル、アルデヒド、アセトニトリル、酢酸、塩化メチレンおよびクロロホルムを含む有機溶液の両方にやや溶けやすい。
【0034】
これらの抗菌剤は、単独でまたはそれらのうちの2種以上の組合せで使用することができる。抗菌剤は、例えば、チロシン誘導ポリエステルアミドなどの、ポリマーの至る所にまたはポリマーのある部分に分散され得る。使用される各抗菌剤の量は、ある程度変化するが、少なくとも、対象における縦隔炎の発症を予防するのに有効な濃度である。
【0035】
チロシン誘導ポリエステルアミド
チロシン誘導ポリエステルアミドの非限定例は、ジフェノール成分およびジカルボン酸成分からなる交互A−B型コポリマーを含む。ジカルボン酸は、ポリマー骨格を変化させることができ、一方、ジフェノールは、ペンダント鎖を付け加え、変化させるための部分を含有する。
【0036】
ポリエステルアミドは、ある特定のチロシン誘導モノマーをベースとし、それらは、種々のジカルボン酸と共重合される。チロシン誘導モノマーは、チロシン部分のペンダント型カルボキシル基がエステル化されている、デスアミノチロシルチロシンジペプチドと考えられ得る。適したチロシン誘導モノマーの一例の構造は、式1に示されている。
【化1】

【0037】
式1において、Rは、18個までの炭素原子を含有する、直鎖または分枝鎖アルキル基、18個までの炭素原子を含有するアルキルアリール基、1個または複数の炭素原子が酸素によって置換されている18個までの炭素原子を含有する、直鎖または分枝鎖アルキル基および1個または複数の炭素原子が酸素によって置換されている18個までの炭素原子を含有するアルキルアリール基からなる群から選択される。
【0038】
ある特定の実施形態では、Rは、2〜8個の炭素原子を含有する直鎖または分枝鎖アルキル基である。他の実施形態では、Rは、メチル、エチル、プロピル、ブチル、イソブチル、sec−ブチル、ヘキシル、オクチル、2−(2−エトキシエトキシ)エタニル、ドデカニルおよびベンジルからなる群から選択される。さらに他の実施形態では、Rは、エチル、ヘキシルおよびオクチルからなる群から選択される。他の実施形態では、Rは、エチルであり、kは、2である。
【0039】
本発明において使用するのに適したポリエステルアミドの類の一非限定例は、式1のチロシン誘導モノマーを、式2
【化2】

のジカルボン酸と重合させることによって形成される。
【0040】
式2において、Yは、18個までの炭素原子を含有する、飽和または不飽和の、置換または非置換のアルキレン、アリーレンおよびアルキルアリーレン基である。置換されているアルキレン基、アリーレン基およびアルキルアリーレン基は、N、OもしくはSで置き換えられた骨格炭素原子を有し得るかまたはケト、アミドもしくはエステル結合で置き換えられた骨格炭素原子を有し得る。Yは、ジカルボン酸が、天然に存在する重要な代謝物質または高度に生体適合性を有する化合物であるように選択され得る。ある特定の実施形態では、ジカルボン酸は、クレブス回路として知られている細胞呼吸経路の中間体であるジカルボン酸を含む。これらのジカルボン酸は、α−ケトグルタル酸、コハク酸、フマル酸、リンゴ酸およびオキサロ酢酸を含み、これらについては、Yはそれぞれ、−CH−CH−C(=O)−、−CH−CH−、−CH=CH−、−CH−CH(−OH)−および−CH−C(=O)−である。
【0041】
特定の実施形態では、式2におけるYは、炭素数2〜8の直鎖アルキレン基である。特定の実施形態では、式2は、以下のジカルボン酸、コハク酸、グルタル酸、ジグリコール酸、アジピン酸、3−メチルアジピン酸、スベリン酸、ジオキサオクタ二酸およびセバシン酸のうちの1つである。
【0042】
重合されると、式1のチロシン誘導モノマーおよび式2のジカルボン酸は、式3
【化3】

[式中、RおよびYは、上記の通りである。]
によって表すことができるポリエステルアミドを生じる。この式では、本明細書における他の式と同様に、角カッコまたは丸カッコの外側にあり規定値を有さない「n」は、ポリマー構造の描写において、その従来の役割を果たす。すなわち、「n」は、ポリマーの分子量に応じて、大きい数、正確な数を表す。この分子量は、ポリマーの形成条件に応じて変化する。
【0043】
式3のポリエステルアミドの特定のサブセットは、k=2であり、RおよびYの両方が直鎖アルキル基である場合のサブセットである。このポリエステルアミドサブセットは、式4によって表すことができる。
【化4】

【0044】
式4において、b=1〜17およびc=1〜18である。ある特定の実施形態では、b=1〜7およびc=2〜8である。
【0045】
本発明に使用するためのポリエステルアミドは、式4においてb=1およびc=2であるポリエステルアミドである。このポリエステルアミドは、本明細書において、p(DTEスクシネート)と称される。この名称は、本明細書において使用される命名法を説明しており、その命名法では、ポリエステルアミドの名称は、ポリエステルアミドを作り上げるモノマーに基づいている。「p」は、ポリマーを表し;「DTE」は、デスアミノチロシルチロシンエチルエステルを表し;「スクシネート」は、ジカルボン酸の存在を指す。p(DTEスクシネート)は、チロシン誘導モノマーであるデスアミノチロシルチロシンエチルエステルとジカルボン酸であるコハク酸との重合によって形成される。
【0046】
本発明に使用するための別のポリエステルアミドは、3種のモノマーサブユニット:デスアミノチロシルチロシンエチルエステル、コハク酸およびデスアミノチロシルチロシンを含有する。モノマーであるデスアミノチロシルチロシン(本明細書において「DT」と称される)は、それが、デスアミノチロシルチロシンエチルエステルのペンダント型エチルエステルよりもむしろペンダント型遊離カルボン酸基を含有するということを除いては、デスアミノチロシルチロシンエチルエステルと同一である。
【0047】
ポリマー中に、ある特定の百分率のデスアミノチロシルチロシンモノマーを含むことによって、ペンダント鎖中にその特定の百分率の遊離カルボン酸基を有するポリエステルアミドが生成される。p(DTEスクシネート)に相当するが、ペンダント鎖中に遊離カルボン酸基を有するポリエステルアミドの構造は、式5によって表すことができる。
【化5】

【0048】
式5において、またはチロシン誘導ジフェノール遊離酸部分およびチロシン誘導ジフェノールエステル部分を有する任意のポリマーについて、「a」は、0.01と0.99との間の数であり、この数は、エステル化されている、すなわち、遊離カルボン酸基を有さないチロシン誘導モノマーのモル分率を表す。式5において、遊離カルボン酸基を有さないチロシン誘導モノマーおよび遊離カルボン酸基を有するチロシン誘導モノマーを交互に描写しているのは、便宜上のみであると理解される。実際に、これらの2種のモノマーが現れる全体的な比率は、「a」の値に準拠するが、遊離カルボン酸基を有さないチロシン誘導モノマーおよび遊離カルボン酸基を有するチロシン誘導モノマーが、ポリエステルアミド中に現れる順序は、一般にランダムである。「a」の例示的な値は、0.97、0.96、0.95、0.94、0.93、0.92、0.91、0.90、0.89、0.88、0.87、0.86、0.85、0.84、0.83、0.82、0.81および0.80、0.75、0.70、0.65、0.60および0.55を含む。「a」についての範囲はまた、0.95〜0.60、0.90〜0.70および0.95〜0.75を含む。
【0049】
遊離カルボン酸基の存在およびこれらの基の百分率は、本明細書において使用される命名法において、以下の通り、p(DTEスクシネート)について説明されているやり方で、ポリエステルアミドの名称を変更することによって示されている:p(5%DT、DTEスクシネート)は、5%遊離カルボン酸基を有するp(DTEスクシネート)を示し、p(10%DT、DTEスクシネート)は、10%遊離カルボン酸基を有するp(DTEスクシネート)を示し、p(15%DT、DTEスクシネート)は、15%遊離カルボン酸基を有するp(DTEスクシネート)を示すなどである。
【0050】
本発明に使用するための別のポリエステルアミドは、p(DTEアジペート)である。p(DTEアジペート)は、チロシン誘導モノマーであるデスアミノチロシルチロシンエチルエステルとアジピン酸との重合によって形成される。別のポリエステルアミドは、ペンダント基のいくつかが遊離カルボン酸基であるp(DTEアジペート)、例えば、p(10%DT、DTEアジペート)、p(15%DT、DTEアジペート)などである。
【0051】
一般に、本発明に用いられるポリエステルアミドはいずれも、遊離カルボン酸基を有する、任意の所望の百分率のペンダント基を含有することができる。それ故に、本発明は、少なくとも1種の抗菌剤が、ポリエステルアミドポリマーマトリックス中に埋め込まれているか、分散しているかまたは溶解している材料の組成物を含み、かかるマトリックスにおいて、ある特定の百分率のペンダント鎖が、エステルよりもむしろ遊離カルボン酸基であるということを除いては、ポリエステルアミドポリマーは、式3または式4に示されている構造を有する。式3に類似しているが、ペンダント鎖中に遊離カルボン酸基を有するポリエステルアミドポリマーの構造は、式6に示されている。
【化6】

【0052】
式6において、RおよびYは、式3の場合と同様である。通常、Yの両方の例は同一であるが、このことは事実である必要はない。「a」は、式5について以上に定義されている通りである。
【0053】
式4に類似しているが、ペンダント鎖中に遊離カルボン酸基を有するポリエステルアミドポリマーの構造は、式7によって表すことができる。
【化7】

【0054】
式7において、「b」および「c」は、式3の場合と同様である。通常、「c」の両方の例は同一である。「b」の例示的な値は、1、5および7を含み;「c」の例示的な値は、2、4、6および8を含む。「a」の値は、式5に定義されている通りである。
【0055】
遊離カルボン酸基のポリエステルアミド中への組み込みは、ポリエステルアミドが、生理学的条件に置かれる際に、例えば、外科的切開部位または創部位におけるような、患者の体内に埋め込まれるかまたは適用される際に、ポリマーの分解率および再吸収率を加速する効果を有する。遊離カルボン酸基の存在はまた、pHに反応したポリエステルアミドの挙動に影響を及ぼす。比較的高い濃度のペンダント型カルボン酸基を有するポリエステルアミドは、酸性環境において安定であり、水に不溶であるが、中性または塩基性環境に曝されると、急速に溶解または分解する。それどころか、酸とエステルとの比率が低いコポリマーは、より疎水性であり、塩基性環境でも酸性環境でも、急速に分解または再吸収しない。
【0056】
カルボン酸基によって付与されるそのような特性は、ポリエステルアミド中に適切な百分率のカルボン酸基を選ぶことによって、所定の速度で分解するまたは再吸収されるようにおよび所定の速度で所定の量の少なくとも1種の抗菌剤を送達するように調整される、ポリエステルアミドおよび少なくとも1種の抗菌剤を含む薬物送達デバイスの製造を可能にする。特定の実施形態では、本発明において使用されるポリエステルアミドポリマー中の遊離カルボン酸基であるペンダント鎖の百分率は、約1〜99%、5〜95%、10〜80%、15〜75%、20〜50%または25〜40%である。特定の実施形態では、遊離カルボン酸基であるペンダント鎖の百分率は、約1%、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、10%、11%、12%、13%、14%、15%、16%、17%、18%、19%、20%、21%、22%、23%、24%、25%、30%、35%または約40%である。
【0057】
本発明において使用することができるさらなるポリマーは、上記のチロシンベースのポリエステルアミドとポリ(アルキレンオキシド)とのコポリマーである。そのようなコポリマーは、例えば、米国特許出願第60/375,846号ならびに米国特許第5,658,995号および同第6,120,491号に記載されている。これらのコポリマーは、チロシン誘導ジフェノールを有するジカルボン酸とポリ(アルキレンオキシド)とのランダムブロックコポリマーであり、等モルの組み合わされた量のジフェノールおよびポリ(アルキレンオキシド)を、ジフェノールとポリ(アルキレンオキシド)が約1:99と約99:1との間のモル比で、ジカルボン酸と反応させ、以下の構造
【化8】

[式中、Rは、−CH=CH−または(−CH−)であり、「j」は、0と8との間(0および8を含む)であり;Rは、18個までの炭素原子を含有し、場合によって少なくとも1つのエーテル結合を含有する、直鎖または分枝のアルキル基およびアルキルアリール基からなる群から選択され;Rは、18個までの炭素原子を含有する、飽和および不飽和の、置換および非置換のアルキレン基、アリーレン基およびアルキルアリーレン基からなる群から選択され;Rはそれぞれ、独立に、4個までの炭素原子を含有するアルキレン基であり;「x」は、約5と約3,000との間であり;「f」は、コポリマー中のアルキレンオキシドのパーセントモル分率であり、約1と約99モルパーセントとの間の範囲である]
を有するポリマーを得る。
【0058】
ある特定の実施形態では、Rは、エチレンであり;Rは、エチルであり;Rは、エチレンまたはブチレンであり;Rは、エチレンであり;ポリマー骨格におけるベンゼン環上のすべての置換基は、パラ位である。
【0059】
式8に示されているポリマーを生成するために使用されるポリ(アルキレンオキシド)モノマーは、当業者に知られている、よく使用される任意のアルキレンオキシド、例えば、ポリ(エチレンオキシド)、ポリ(プロピレンオキシド)またはポリ(テトラメチレンオキシド)であり得る。種々の組合せで、エチレンオキシド単位、プロピレンオキシド単位またはテトラメチレンオキシド単位を含有するポリ(アルキレンオキシド)ブロックはまた、本発明の状況内では可能な成分である。
【0060】
ある特定の実施形態では、ポリ(アルキレンオキシド)は、式8の「x」が、約10と約500との間または約20と約200との間であるポリ(エチレンオキシド)であり得る。ある特定の実施形態では、約1,000から約20,000g/molの分子量を有するポリ(エチレンオキシド)ブロックが使用される。
【0061】
チロシンベースのポリエステルアミドは、下記のやり方で、アミノフェノールエステル、例えば、チロシンエステルなどおよび二酸から形成されるポリエステルアミドも含む。これらのポリマーは、遊離酸側鎖およびエステル化されている側鎖の両方を組み込むことができる。このタイプの例示的なチロシンベースのポリエステルアミドは、
【化9】

[式中:Rは、(CRまたは−CR=CR−であり;Rは、水素であり;1から20個までの炭素原子を有する、飽和もしくは不飽和のアルキル、アリール、アルキルアリールもしくはアルキルエーテルであり;または(RO((CRO)−Rであり;Rは、独立に、1から30個までの炭素原子を有する、二価の、直線状もしくは分枝状の、置換もしくは非置換のアルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、アルキルアリール、アルキルエーテルもしくはアリールエーテル部分であり;(RO((CRO)(R;または(RCO((CRO)CO(Rであり;RおよびRは、独立に、水素でありまたは1から10個までの炭素原子を有する、直線状もしくは分枝状の、置換もしくは非置換のアルキルであり;Rは、独立に、直線状または分枝状の低級アルキレンまたは低級アルケニレンであり;Rは、独立に、直線状または分枝状の、置換または非置換の、飽和または不飽和の低級アルキルであり;芳香環は、0から4個までのZ置換基を有し、そのそれぞれが、ハロゲン化物、低級アルキル、アルコキシ、ニトロ、アルキルエーテル、保護されているヒドロキシル基、保護されているアミノ基および保護されているカルボン酸基からなる群から独立に選択され;Yは、
【化10】

であり、aは、0から10までであり;qはそれぞれ、独立に、1から4までであり;rはそれぞれ、独立に、1から4までであり;sはそれぞれ、独立に、1から5000までである]
によって表される1つまたは複数の繰り返し単位を含む。
【0062】
これらのポリマーは、一般に、式p(−AP−X−)[式中、nは、実数またはポリマー中の繰り返し単位の重量平均数である]によって表すことができる、アミノフェノール単位および二酸単位を有する生体分解性ポリマーである。一実施形態では、アミノフェノール(AP)は、式10
【化11】

に示されている構造を有し、二酸(X)は、式11
【化12】

に示されている構造を有する。
【0063】
これらのモノマー単位(または合成経路によっては他の前駆物質)が、縮合条件下で重合される場合、得られたポリマーは、エステル結合およびアミド結合の両方を含む骨格を有し、(Rの選択によっては)エステルまたは遊離酸を含む側鎖を有する。ポリマーの繰り返しモチーフは、構造AP−Xを有するが、ポリマーのこの単純な表示は、アミノフェノールおよび二酸の種々のカップリングの順列を反映していない、すなわち、アミノフェノールと二酸との間のカップリングが、APのアミノ官能基と、酸基のうちの1つとの反応によって起こり、アミド結合を生成するかまたはAPのヒドロキシル官能基と、酸基のうちの1つとの反応によって起こり、エステル結合を生成するかどうかを反映していない。よって、AP−X繰り返し単位は、以下のいずれかの構造(それぞれ、「繰り返し単位a」または「繰り返し単位b」)によって表すことができる。
【化13】

【0064】
これらの単位は、アミド結合またはエステル結合によって、さらに一緒に結合され得るため、この単純な構造の表示(−AP−X−)は、これらの単位の、互いに対する相対的な関係を示していない。よって、本明細書に記載されているアミノフェノール部分および二酸部分を含有する、本発明のポリマーの実際の構造は、合成経路の選択、カップリング剤の選択およびアミド結合またはエステル結合を形成する際の選択的反応性によって決まる。
【0065】
したがって、これらのチロシンベースのポリエステルアミドは、本明細書に記載されているような合成方法によって決定される特定のポリマー構造を有する、繰り返し単位aおよびbのランダムコポリマーまたは繰り返し単位a、繰り返し単位bもしくは繰り返し単位aおよびbの両方の正確に交互のコポリマーである。
【0066】
繰り返し単位aおよび繰り返し単位bのランダムコポリマーは、単純な式p(−AP−X−)、AP−Xで表されるかまたはランダムabポリマーと呼ばれ、そのような名称は、相互に交換可能に使用される。ランダムabポリマーが、出発物質にかかわらず、先にアミノフェノール部分、その後に二酸部分の名を採って命名されているように、このポリマー類についての名称は、これらの表示に基づいている。例えば、アミノフェノール部分としてのチロシンエチルエステル(TE)と、二酸部分としてのコハク酸とのランダム共重合によって作製されるポリマーは、p(TEスクシネート)またはTEスクシネートと称される。二酸部分がグルタル酸に交換された場合には、このランダムコポリマーは、p(TEグルタレート)またはTEグルタレートである。追加的に明快にするためまたは強調するために、ランダムという語は、例えば、TEスクシネートランダムまたはp(TEスクシネート)ランダムのように、ポリマー名に付け加えられ得る。たとえポリマーが、その名称の後に何も指定されていなくても、その場合でも、ポリマーは、ランダムコポリマーである。
【0067】
これらのモノマー単位:(1)「繰り返し単位a」もしくは「繰り返し単位b」の、直鎖状の単独の繰り返し単位、故に、それぞれ相当する書式である書式(a)もしくは書式(b)で表されるもの;または(2)「繰り返し単位a」および「繰り返し単位b」の直鎖状の交互の繰り返し単位、故に、これらのポリマーに相当する表示である、様式(ab)もしくは(ba)で表されるものから得ることができる、2種の正確に交互のコポリマー類が存在する。すべての場合において、nは、繰り返し単位の数である。ポリマーについて、nは、通常、ポリマーの平均分子量を繰り返し単位の分子量で割ることから算出される。
【0068】
(a)様式の正確に交互のポリマーは、p(−O−AP−X−)または交互「a」ポリマーと称される。交互「a」ポリマーが生じるのは、アミノフェノールの遊離アミンが、反応条件によって制御されながら、最初に二酸(または他の適切な試薬)と反応してアミド結合を形成し、ヒドロキシルをさらなる反応のために遊離の状態のままにしておくような反応条件の場合である。例えば、アミノフェノール部分としてのチロシンエチルエステル(TE)と、(二酸部分を供与するための)無水コハク酸との共重合によって作製されるポリマーは、結果として交互「a」ポリマーとなり、本明細書においてp(O−TEスクシネート)またはO−TEスクシネートと称される。
【0069】
(ab)様式のポリマーは、「a」繰り返し単位および「b」繰り返し単位が異なる二酸を有する場合には、p(AP−X−AP−X−)、p(AP−X−AP−X)もしくはAP−X−AP−Xと称され、または「a」繰り返し単位および「b」繰り返し単位が同一の二酸を有する場合には、「p(−AP−X−)交互」もしくは「AP−X交互」と称される。
【0070】
2種の異なる二酸を有するポリマーは、例えば、2当量のアミノフェノールを1当量の第1の二酸と、アミド結合形成に有利に働く条件下で反応させ、反応生成物である、構造AP−X−APを有する化合物を単離することによって作ることができ、この化合物は、2種のアミノフェノール単位および1種の二酸単位からなるため、本明細書においてトリマーとも称される。このトリマーを、第2の二酸と、重合条件下で反応させ、第2の二酸が、第1の二酸と異なる場合には、ポリマーp(−AP−X−AP−X−)を生成し、または第2の二酸が、第1の二酸と同一である場合には、ポリマーp(−AP−X−)交互を生成する。実例として、TEおよびコハク酸から作製される最初のトリマーは、TE−スクシネート−TEと呼ばれる。TE−スクシネート−TEとグルタル酸との反応は、ポリマーp(TE−スクシネート−TEグルタレート)を生成するのに対して、コハク酸との反応は、ポリマーp(TEスクシネート)交互を生成する。
【0071】
本発明のポリマーはまた、混合アミノフェノール繰り返し単位、混合二酸繰り返し単位および混合トリマー繰り返し単位またはそのような混合物の任意の組合せで作製されるポリマーを含む。これらの複雑なポリマーについて、混合部分は、2つの部分の名称間にコロンを置き、その部分のうちの1つの百分率を示すことによって指定される。例えば、p(TE:10TBzスクシネート)ランダムは、90%チロシンエチルエステルおよび10%チロシンベンジルエステルの等モル量の二酸であるコハク酸との混合物を使用することによって、ランダム合成条件下で作製されたポリマーである。第2の混合二酸との正確に交互の(ab)ポリマーの例は、p(TE−ジグリコレート−TE 10PEG−ビス−スクシネート:アジペート)である。このポリマーは、TE−ジグリコレート−TEトリマーを調製し、それを10%PEG−ビス−コハク酸および90%アジピン酸の混合物と共重合させることによって作製される。混合トリマーとの正確に交互の(ab)ポリマーの例は、p(TE−スクシネート−TE:35TE−グルタレート−TEスクシネート)である。このポリマーは、それぞれのトリマーについて別個の合成を行い、単離されたトリマーを示されている比率(65:35 スクシネート:グルタレート)で混合し、等モル量のコハク酸と共重合させることによって作製される。そのような複雑さのために、特に正確に交互の(ab)ポリマーに関して、種々の成分および相対量を表に掲載することは、より簡単であることが多い。表1は、いくつかの正確に交互の(ab)ポリマーの例を提供する。表1において、Tは、合成後のポリマーのガラス転移温度である。Mol.Wt.は、ゲル透過クロマトグラフィーによって決定された、合成後のポリマーの分子量である。
【0072】
チロシンベースのポリエステルアミドの例は、表1に示されているものならびに(1)ポリマー中のアミノフェノール単位が、チロシンメチルエステル、チロシンエチルエステル、チロシンベンジルエステルなどのチロシンエステル、遊離チロシンまたは4−ヒドロキシフェニルグリシンのメチル、エチル、プロピルもしくはベンジルエステルおよび4−ヒドロキシフェニルグリシンによって供与されるポリマーならびに(2)二酸単位が、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ジグリコール酸、ジオキサオクタン酸、PEG酸またはPEGビス−二酸(例えば、PEG−ビス−スクシネートもしくはPEG−ビス−グルタレート)であるポリマーを含むが、これらに限定されない。
【表1】

【0073】
混合アミノフェノール繰り返し単位を有するポリマーについて、ポリマーは、約5%から約40%までまたは約10%から約30%までの第1のアミノフェノール繰り返し単位を含有し、その残りが第2のアミノフェノール繰り返し単位である。混合二酸繰り返し単位を有するポリマーついて、ポリマーは、約10%から約45%までまたは約20%から約40%までの第1の二酸繰り返し単位を含有し、その残りは第2の二酸繰り返し単位である。混合トリマー繰り返し単位を有するポリマーついて、ポリマーは、約5%から約40%までまたは約10%から約30%までの第1のトリマーを含有し、その残りは第2のトリマーである。前述の可能な順列のうちのいずれもおよびすべてから作製されるポリマーは、本発明によって企図される。本発明の特定のポリマーの追加の例は、p(TEスクシネート)、p(TEスクシネート)交互、p(TEグルタレート)、p(TEグルタレート)交互、p(TEジグリコレート)、p(TEジグリコレート)交互、p(TE:15Tグルタレート)、Tg78、Mol.wt.74kDa;およびp(TE:15TBzグルタレート)を含む。この最後のポリマーは、p(TE:15Tグルタレート)の調製に使用される中間体ポリマーの例である。
【0074】
他のチロシンベースのポリエステルアミドは、正確に交互のポリマーが、TE−スクシネート−TE、TE−グルタレート−TE、TE−アジペート−TE、TE−ジグリコレート−TEおよびTE−X−TEモノマーからなる群から選択されるトリマーを用いて合成されているものを含み、式中、Xは、2当量の、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ジグリコール酸または他のものなどの二酸との縮合によって二官能化されているPEGなどの、他の種を有するまたは有さないPEG単位からなる。これらのトリマーのいずれもが、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ジグリコール酸、ジオキサオクタン酸、PEG酸またはPEGビス−二酸(例えば、PEG−ビス−スクシネートおよびPEG−ビス−グルタレート)またはこれらの二酸もしくは他の二酸の任意の混合物からなる群から選択される二酸繰り返し単位と共重合することができる。
【0075】
アミノフェノールおよび二酸の二官能性のために、基本モノマー単位(ここでは自由裁量によって繰り返し単位aと指定される)は、続くモノマー単位として、別の「繰り返し単位a」を加えるまたは「繰り返し単位b」を加えることができる。したがって、可変Yは、このことを反映しており、アミド結合を有する「繰り返し単位a」(左下)またはエステル結合を有する「繰り返し単位b」(右下)と定義される。
【化14】

【0076】
ランダムポリマーについて、それに続くYはそれぞれ、ランダムに、「繰り返し単位a」または「繰り返し単位b」である。正確に交互の(a)ポリマーについて、Yは常に「繰り返し単位a」である。正確に交互の(ab)ポリマーについて、Yは常に「繰り返し単位b」である。
【0077】
それぞれの「a」の値は、独立に、0または自然数1〜10のうちの1つである。「a」が0の場合には、相当する基は除外され、炭素単結合が存在する。それぞれの「q」および「r」の値は、独立に、自然数1、2、3または4のうちの1つである。
【0078】
それぞれの「s」の値は、独立に、約1から約5000までであり、アルキレンオキシド鎖における繰り返し単位の数を決定する。よって、「s」は、1からまたは5から、約10まで、約15まで、約20まで、約30まで、約40まで、約50まで、約75まで、約100まで、約200まで、約300まで、約500まで、約1000まで、約1500まで、約2000まで、約2500まで、約3000まで、約4000までおよび約5000までの範囲であり得る。追加として、アルキレンオキシド鎖の長さは、分子量として述べられており、次いで、「s」は、自然数である必要はなく、分数値としても表現することができ、ポリ(アルキレンオキシド)の引用されている(または測定されている)分子量に基づく、アルキレンオキシド繰り返し単位の平均数を表すこともできる。
【0079】
チロシンベースのポリエステルアミドは、ホモポリマーまたはコポリマーであり得る。ヘテロポリマー(またはコポリマー)を創り出すために、ポリマー命名法の状況において、以上にも記載されているように、アミノフェノールおよび/または二酸(もしくは適切な出発物質)の混合物が、本発明のポリマーを合成するために使用され得る。
【0080】
ポリマーがコポリマーである場合、それらは、少なくとも約0.01%から100%までの繰り返しモノマー単位を含有し、範囲の任意の組合せにおいて、少なくとも約0.05%、0.1%、0.5%、1%、2%、3%、4%、5%、6%、8%、10%、12%、15%から約30%、40%、50%、60%、75%、90%、95%または99%までである。ある特定の実施形態では、ポリマーのアミノフェノール部分において遊離酸の形の繰り返し単位の範囲は、約5%から約50%までであり、すなわち、RはHであり、この場合、Rがベンジルである中間体を経由して調製されており、その残りのR基は、アルキルまたは水素化分解に対して安定な他のエステルである。ある特定の実施形態では、遊離酸の範囲は、約5%、約10%、約15%、約20%、約25%、約30%、約35%、約40%を含む、約5%から約40%までであり、それらの間のすべての範囲および副次的範囲を含む。他の実施形態では、遊離酸の範囲は、約10%から約15%まで、約10%から約20%まで、約10%から約25%まで、約10%から約30%までおよび約10%から約35%までの範囲である。
【0081】
代わりとしてまたは追加として、コポリマーは、二酸部分の変化する比率を有することができるため、混合物は、約20%から約80%までの、本明細書に記載されている少なくとも1種の二酸を有する。ある特定の実施形態では、コポリマーは、本明細書に記載されている2種以上の二酸の混合物である。ある特定の実施形態では、混合二酸は、PEG酸もしくはPEG−ビス−アルキル酸などの種々のアルキレンオキシド型部分の組合せまたはそれらのアルキレンオキシド型部分と他の二酸、特に、小さく、天然に存在するコハク酸、グルタル酸、アジピン酸およびジグリコール酸などの二酸との組合せである。アルキレンオキシド混合物について、混合物は、約20%、25%、30%、35%、40%、45%から約50%までの1種のアルキレンオキシドを含有する。ある特定の実施形態では、混合物は、約50%までのそれぞれのアルキレンオキシドである。アルキレンオキシド−他の二酸混合物について、混合物は、約20%から、25%、30%、35%、40%、45%または50%のアルキレンオキシドを含有し、その残りは他の二酸である。さらに別の実施形態では、アルキレンオキシドの量は、約20%から約40%である。
【0082】
さらに、アミノフェノールのエステル部分は、アルキルエステルまたはアルキルアリールエステルなどの別の類のエステルまたはアルキレンオキシド鎖もしくはエーテル鎖を有するエステルまたは別の適合性の官能基を使用することによって変化させることができる。このエステル部分を遊離酸に変換させるために、ポリマーは、米国特許第6,120,491号に記載されているような加水分解によってまたはポリマーの骨格を加水分解することなく、ベンジル基を選択的に除去する他の技術によって除去することができる、ベンジルエステル(または他の容易に加水分解可能な部分)を使用して合成され得る。よって、本発明のポリマーは、異なる置換基の間の可変性を有する、アミノフェノールおよび二酸の混合物を用いて作製することができ、すなわち、相違は、R、R〜R10、Zまたは繰り返し単位の他の可変物のいずれかに存することができる。最後に、コポリマーにおける他のモノマー単位は、もしそのような部分が、ポリマーの性質を保存し、共重合してアミノフェノールおよび二酸部分を有するポリマーを形成することが可能であるならば、実質的に異なり得る。
【0083】
多くの生体分解性チロシン誘導ポリエステルアミドは、以上に具体的に説明されているが、本発明に使用するためのさらなるそのようなポリマーは、米国特許第5,099,060号;同第5,216,115号;同第5,317,077号;同第5,587,507号;同第5,658,995号;同第5,670,602号;同第6,048,521号;同第6,120,491号;同第6,319,492号;同第6,475,477号;同第6,602,497号;同第6,852,308号;同第7,056,493号;同第RE37,160E号;および同第RE37,795E号に記載されており、米国特許出願公開第2002/0151668号;同第2003/0138488号;同第2003/0216307号;同第2004/0254334号;同第2005/0165203号,同第2009/0088548号,同第2010/0129417号,同第2010/0074940号に記載されているもの;PCT出願第WO99/52962号;同第WO01/49249号;同第WO01/49311号;および同第WO03/091337号に記載されているもの;ならびに米国出願第12/641,996号に記載されているものである。
【0084】
本発明において使用するのに適したポリエステルアミドを生成するために使用されるチロシン誘導ジフェノール化合物は、例えば、米国特許第5,099,060号および同第5,216,115号に記載されているものなどの知られている方法によって生成され得る。デスアミノチロシルチロシンエチルエステル、デスアミノチロシルチロシンヘキシルエステルおよびデスアミノチロシルチロシンオクチルエステルの生成はまた、知られている方法によって実施され得る。例えば、Pulapura&Kohn,1992,Biopolymers 32:411〜417頁およびPulapura他,1990,Biomaterials 11:666〜678頁を参照のこと。ジカルボン酸は、種々の市販源から幅広く入手可能である。
【0085】
チロシン誘導ジフェノールモノマーおよびジカルボン酸を、米国特許第5,216,115号に開示されている方法に従って、反応させて、本発明に使用するのに適したポリエステルアミドを形成し得る。これらの方法によると、ジフェノール化合物は、カルボジイミドを介する直接ポリエステル化によって、4−(ジメチルアミノ)ピリジニウム−p−トルエンスルホネート(DPTS)を触媒として使用して、ジカルボン酸と反応させ、ポリエステルアミドを形成する。式8によるポリ(アルキレンオキシド)を有するランダムブロックコポリマーは、ランダムブロックコポリマーにおけるジフェノールとポリ(アルキレンオキシド)との所望の比率をもたらすのに有効な量で、チロシン誘導ジフェノール化合物の代わりにポリ(アルキレンオキシド)を用いることによって、形成され得る。
【0086】
8個までの炭素原子を含有するチロシンの、C−末端が保護されたアルキルおよびアルキルアリールエステルは、J.P.GreensteinおよびM.Winitz,Chemistry of the Amino Acids,(John Wiley&Sons,New York 1961),929頁に開示されている手法に従って、調製することができる。8個を超える炭素原子を含有するチロシンの、C−末端が保護されたアルキルおよびアルキルアリールエステルは、米国特許第4,428,932号に開示されている手法に従って、調製することができる。
【0087】
N−末端が保護されたチロシンは、Bodanszky,Practice of Peptide Synthesis(Springer−Verlag,New York,1984)に開示されているようなペプチド化学の標準的な手法に従って、調製することができる。
【0088】
粗チロシン誘導体は、時には油状物として得られ、簡単な再結晶によって精製することができる。純粋な生成物の結晶化は、種晶添加によって加速される。
【0089】
次いで、ジフェノールは、Bodanszky,Practice of Peptide Synthesis(Springer−Verlag,New York,1984)の145頁に開示されているようなペプチド化学の標準的な手法に従って、ヒドロキシベンゾトリアジドの存在下で、カルボジイミドを介するカップリング反応によって調製することができる。粗ジフェノールは、2回再結晶させることができ、最初に50%酢酸および水から、次いで20:20:1比率の酢酸エチル、ヘキサンおよびメタノールから行い、または代わりとして、シリカゲル上でのフラッシュクロマトグラフィーによって、移動相として、塩化メチレン:メタノールの100:2混合物を用いて精製することができる。デスアミノチロシルチロシンエステルも、ヒドロキシベンゾトリアゾールの存在下で、カルボジイミドを介する、デスアミノチロシンとチロシンエステルとのカップリング反応によって調製することができる。
【0090】
次いで、ジフェノール化合物は、カルボジイミドを介する直接ポリエステル化によって、4−(ジメチルアミノ)ピリジニウム−p−トルエンスルホネート(DPTS)を触媒として使用して、ジカルボン酸と反応させ、ポリエステルアミドを形成する。
【0091】
本発明のジフェノールは、塩基感受性であるため、本発明のポリエステルアミドは、ジカルボン酸塩化物法によってよりもむしろ、直接ポリエステル化によって調製される。ポリエステル化縮合剤および反応条件は、塩基感受性のジフェノール出発物質と混合しても化学反応を起こさないものを選ぶべきである。それ故に、ポリエステルアミドはまた、縮合剤としてトリフェニルホスフィンを使用する、Ogata他,1981,Polym.J.,13:989〜991頁およびYasuda他,1983,J.Polym.Sci:Polym.Chem.Ed.,21:2609〜2616頁によって開示されているプロセス;縮合剤として塩化ピクリルを使用する、Tanaka他,1982,Polym.J.14:643〜648頁のプロセス;または縮合剤としてオキシ塩化リンを、触媒としての塩化リチウム一水和物とともに使用するHigashi他,1986,J.Polym.Sci:Polym.Chem.Ed.24:589〜594頁のプロセスによって調製することができる。
【0092】
ポリエステルアミドはまた、縮合剤として塩化アリールスルホニルを使用する、Higashi他,1983,J.Polym.Sci.:Polym.Chem.Ed.21:3233〜3239頁によって開示されている方法;縮合剤としてクロロリン酸ジフェニルを使用する、Higashi他,1983,J.Polym.Sci.:Polym.Chem.Ed.21:3241〜3247頁のプロセスによって;縮合剤として塩化チオニルをピリジンとともに使用する、Higashi他,1986,J.Polym.Sci.:Polym.Chem.Ed.24:97〜102頁のプロセスによって;または塩化チオニルをトリエチルアミンとともに使用する、Elias,他,1981,Makromol.Chem.182:681〜686頁のプロセスによって調製することができる。追加のポリエステル化手法は、縮合剤としてカルボジイミドカップリング試薬を、特別に設計された触媒4−(ジメチルアミノ)ピリジニウム−p−トルエンスルホナート(DPTS)とともに利用する、Moore他,1990,Macromol.23:65〜70頁によって開示されている方法である。特定のポリエステル化法は、Mooreの方法を改変して、過剰のカルボジイミドカップリング試薬を利用する。これは、Mooreによって得られるものを超える分子量を有する脂肪族ポリエステルアミドを生成する。カルボジイミドが、Bodanszky,Practice of Peptide Synthesis(Springer−Verlag,New York,1984)によって開示されているペプチド合成に使用される場合、存在するカルボン酸基1モルに対して、0.5から1.0モル当量の間のカルボジイミド試薬が使用される。本明細書に開示されている好ましい方法では、存在するカルボン酸基1モル当たり、1.0モル当量を超えるカルボジイミドが使用される。これが、反応混合物が過剰のカルボジイミドを含有すると記載することの意味である。
【0093】
本質的に、ペプチド化学において、カップリング試薬としてよく使用されるいずれのカルボジイミドも、ポリエステル化プロセスにおいて、縮合剤として使用することができる。そのようなカルボジイミドは、よく知られており、Bodanszky,Practice of Peptide Synthesis(Springer−Verlag,New York,1984)に開示されており、ジシクロヘキシルカルボジイミド、ジイソプロピルカルボジイミド、1−(3−ジメチルアミノプロピル)−3−エチルカルボジイミド塩酸塩、N−シクロヘキシル−N’−(2’−モルホリノエチル)カルボジイミド−メト−p−トルエンスルホネート、N−ベンジル−N’−3’−ジメチルアミノプロピル−カルボジイミド塩酸塩、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミドメチオジド、N−エチルカルボジイミド塩酸塩などを含む。ある特定の実施形態では、カルボジイミドは、ジシクロヘキシルカルボジイミドおよびジイソプロピルカルボジイミドである。
【0094】
反応混合物は、等モル量のジフェノールおよびジカルボン酸を、ジフェノールおよびジカルボン酸のための溶媒中で接触させることによって形成される。適した溶媒は、塩化メチレン、テトラヒドロフラン、ジメチルホルムアミド、クロロホルム、四塩化炭素およびN−メチルピロリジノンを含む。デスアミノチロシルチロシンエチルエステルおよびコハク酸などの溶けにくいモノマーの重合は、溶媒の量が増加すると、より高分子量のポリマーを生じるが、ポリエステル化反応を開始する前に、すべての試薬を完全な溶液にする必要はない。反応混合物を穏やかに加熱して、反応物の部分的な溶解に役立てることもできる。
【0095】
使用されるカップリング試薬の量が増加するにつれて、ポリマーの分子量が著しく増加する。分子量の増加の程度は、カルボン酸基1モル当たり、約4モル当量のカルボジイミドからようやく横ばい状態になり始める。カップリング試薬の量を、約4当量のカルボジイミドを超えて増加させることは、さらなる有益な効果を全く有さない。4当量を超えるカルボジイミドの量は、ポリエステル化反応にとって不利益ではないが、そのような量は、コスト効率が良くないので、この理由のために好ましくない。
【0096】
カルボジイミドを介する直接ポリエステル化は、触媒4−(ジメチルアミノ)ピリジニウム−p−トルエンスルホナート(DPTS)の存在下で行うことができる。DPTSは、Moore他,1990,Macromol.23:65〜70頁の手法に従って調製される。この物質は、再生される真の触媒であるため、DPTSの量は、重大ではない。触媒的に有効な量は、一般に、カルボン酸基1モル当たり、約0.1と約2.0モル当量との間であり、好ましくは、カルボン酸基1モル当たり、約0.5当量である。
【0097】
反応は、室温または約20〜30℃で進行する。カルボジイミドを加える前に、反応混合物をわずかに加熱して(<60℃)、それほど溶けないモノマーを部分的に可溶化することができる。しかし、ポリマー化反応自体は、20℃と30℃との間で行うべきである。この温度範囲内で、反応は、撹拌しながら少なくとも12時間、好ましくは1から4日までの間、継続され得る。ポリマーの回収は、反応混合物をメタノールでクエンチすることによって行い、その混合物から、通常、ポリエステルアミドが沈殿するが、余った試薬は溶液中に残留する。沈殿は、ろ過などの機械的分離によって分離され、溶媒洗浄によって精製され得る。
【0098】
特定の手法では、等モル量の純粋な乾燥チロシン誘導ジフェノールおよびジカルボン酸を計量し、丸底フラスコに入れ、130℃で予備乾燥する。適した磁気撹拌子をフラスコの中に入れる。次いで、0.4当量のDPTSを加える。フラスコにセプタムを取り付け、窒素またはアルゴンで洗い流し、反応混合物から微量の水分を除去する。次に、シリンジを用いて、多量のHPLCグレードの塩化メチレンを加え、反応混合物を激しく撹拌し、反応物を懸濁させる。使用される塩化メチレンの量は、ジフェノールまたはジカルボン酸または両方のモノマーの溶解度によって決まる。この段階で、反応混合物をわずかに加熱して、モノマーを部分的に溶解させてよい。モノマーを完全に溶解させることは必須ではないが、溶媒の量は、ポリマーが形成される時にそれを溶解させ、ひいてはモノマーをゆっくりと溶液にするのに十分であるべきである。
【0099】
次いで、4.0当量のジイソプロピルカルボジイミドを、反応混合物に、シリンジを用いて加える。約10分後、反応混合物が透明になり、その後、ジイソプロピル尿素の濁った沈殿が形成される。20℃と30℃との間で、1から4日までの間撹拌した後、反応混合物を、10倍体積量のIPA−メタノール中に、激しく撹拌しながらゆっくりと注ぐことによって、反応を終了させる。ポリマーは沈殿するが、余った試薬はメタノール中に溶解したまま残留し、結果として透明な上澄み液が形成される。
【0100】
ポリマー生成物を、ろ過によって回収し、大量のIPA−メタノールで洗浄し、いずれの不純物をも除去する。所望ならば、ポリマー生成物を塩化メチレン(10%または20%w/w)に溶解させ、IPA−メタノール中に再沈殿させることによって、さらに精製することができる。次いで、ポリマー生成物を、恒量に至るまで高真空下で乾燥させる。
【0101】
ペンダント鎖中に遊離カルボン酸基を有するポリエステルアミドを作製するために、上記のポリマー化プロセスを単に使用し、遊離カルボン酸基を有するモノマーを含むことは十分ではない。この理由は、上記のプロセスにおいて、遊離カルボン酸基が、使用されるカルボジイミドカップリング試薬と、恐らく架橋反応するためである。その代わりに、米国特許第6,120,491号に記載されている方法を用いることができる。この方法では、ポリエステルアミドは、例えば、上記のプロセスによって、ペンダント鎖上に保護基を有するモノマーを含めて合成され、かかる保護基は、ポリエステルアミドの合成後に選択的に除去することができる。この保護基の除去は、遊離カルボン酸基が、最終ポリマー中に存在しないことが望ましい位置で、ポリマー骨格が著しく分解されることなく、ペンダント鎖からエステル基が除去されることなく行われることが可能でなければならない。
【0102】
別の方法は、保護基としてベンジルエステルを使用する。それ故に、ある特定の百分率の遊離カルボン酸基を有するポリエステルアミドを有することが望ましいならば、その場合には、その百分率のモノマーがそれらのペンダント鎖中にベンジルエステルを有する、中間ステップのポリエステルアミドを生成することになる。ベンジルエステルは、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)またはN,N−ジメチルアセトアミド(DMA)およびN−メチルピロリドン(NMP)などの類似の溶媒中で、パラジウムを触媒とした水素化分解によって選択的に除去され、ペンダント型カルボン酸基を形成する。純粋なDMF、DMAまたはNMPが、反応溶媒として必要である。反応媒体は、無水でなければならず、溶媒は、水素化分解反応において、すべてのベンジルエステル基を完全に除去することを保証するために、乾燥されていなければならない。本質的に、パラジウムベースの水素化分解触媒が適しており、ある特定の方法では、パラジウム触媒は、硫酸バリウム上のパラジウムである。ある特定の実施形態では、硫酸バリウム上のパラジウムのレベルは、約5重量%と約10重量%との間が使用される。特定の方法はまた、移動水素化分解試薬である1,4−シクロヘキサジエンを、水素源としての水素ガスと組み合わせて使用する。ペンダント型ベンジルカルボキシレート基を有するポリマー出発物質は、ジメチルホルムアミド中に、約5%と約50%との間または約10%と約20%との間の溶液濃度(w/v%)で溶解され得る。さらなる詳細については、米国特許第6,120,491号を参照のこと。
【0103】
式8に描写されているチロシンベースのポリエステルアミドとポリ(アルキレンオキシド)とのコポリマーは、米国特許第6,048,521号および同第6,120,491号に記載されている方法によって、調製することができる。
【0104】
トリマーのジオールを合成し、そのジオールを二酸と縮合して、所望のポリマーを生成することによる、正確に交互の(ab)ポリマーを合成する方法が、以下に示されている。最初のステップは、エステル結合形成を制し、アミド結合形成に有利に働く条件下で、例えば、穏やかなカップリング試薬を使用することによって行われる。よって、モノマーは反応して、トリマー
HO−AP−NH+HO−C(O)−R2a−C(O)−OH→HO−AP−NH−C(O)−R2a−C(O)−NH−AP−OH
を生成する。
【0105】
トリマーは、以下に示されている構造
【化15】

によって表すこともできる。
【0106】
トリマーを精製し、より強力なカップリング試薬を使用して、第2の二酸HO−C(O)−R2b−C(O)OHと反応させて、以下に示されている正確に交互の繰り返し単位
[O−AP−NH−C(O)−R2a−C(O)−NH−AP−O−C(O)−R2b−C(O)]
を得る。
【0107】
別の方法はまた、保護されたアミンを有するトリマーを最初に合成することによって、正確に交互のポリマーである(ab)ポリマーを生成する。これは、アミンが保護されたアミノフェノールを二酸とカップリングし、それぞれの端に保護されたアミンを有する得られたトリマーを単離し、アミンを脱保護し、第2のジオールと縮合条件下で反応させることによって達成される。例えば、HO−AP−NHPrとHO−C(O)−R2a−C(O)OHとをカップリングして、PrHN−AP−O−C(O)−R2a−C(O)−O−AP−NHPrを作製する。式中、Prは、トリマー中にエステル結合が存在する状態で除去することができる保護基であり、APは、ヒドロキシル基およびアミン基以外のアミノフェノール構造の残りについての省略表現である。脱保護した後、第2の二酸HO−C(O)−R2b−C(O)OHを使用して、このトリマーを重合させて、正確に交互の(ab)ポリマーを形成する。
【0108】
別の方法は、以下の例示的な反応スキーム
HO−AP−NH+RC(O)−O−C(O)−R→HO−AP−NH−C(O)−R−COOH
に描かれているように、アミノフェノールを無水物と反応させて、遊離OH基および遊離COOH基を有するダイマーを生成することによって、正確に交互の(a)ポリマーを生成する。
【0109】
以下に概略的に示されているように、
−(−O−AP−NH−C(O)−R−C(O)−)(−O−AP−NH−C(O)−R−C(O)−)(−O−AP−NH−C(O)−R−C(O)−)−
反応生成物を精製し、より多くのカップリング試薬を加えて、自己縮合を進行させ、片側にアミド結合およびもう一方の側にエステル結合を有する二酸とのポリマーを生成する。
【0110】
別の合成方法は、アミノフェノールと二酸とのランダムコポリマーを生成する。この方法では、等モル量のそれぞれの化合物を、カップリング試薬の存在下ならびに、例えば、米国特許第5,216,115号;同第5,317,077号;同第5,587,507号;同第5,670,602号;同第6,120,491号;同第RE37,160E号;および同第RE37,795E号ならびに文献、他の特許および特許出願に記載されているような触媒の存在下で反応させる。当業者は、本発明のポリマーを合成するために、これらの手法を容易に適応することができる。これらのポリマーは、一般に、低分子量から中分子量まで(30〜60kDa)を有する。
【0111】
ポリマーおよび合成中間体は、当業者によって、抽出、沈殿、ろ過、再結晶などの決まった方法を使用して精製され得る。
【0112】
上記の方法のためのカップリング試薬の例は、DPTS、PPTS、DMAPと組み合わせた、EDCI.HCl、DCC、DIPCを含むが、これらに限定されない。適した溶媒は、混合せずにまたはより少ない量のNMPまたはDMFと組み合わせた、塩化メチレン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタンを含むが、これらに限定されない。
【0113】
ある特定の実施形態では、ポリエステルアミドは、約40〜50kDaを超える重量平均分子量を有する。他の実施形態では、重量平均分子量範囲は、約40kDaから約400kDaまで;または約25kDaから約150kDaまで;または約50〜100kDaである。分子量は、ゲル透過クロマトグラフィー(GPC)から、ポリスチレン標準と比較して、さらなる補正をせずに算出され得る。本発明において使用されるポリエステルアミドポリマーの分子量は、当業者が、特定の使用のためのポリエステルアミド/抗菌剤の組合せを開発する際に考慮する因子である。一般に、他のすべての因子を一定に保つと、ポリマーの分子量が大きければ大きいほど、抗菌剤の放出速度が遅くなる。
【0114】
ポリエステルアミドの性質における変化は、チロシン誘導ジフェノールのC−末端に結合しているペンダント基およびジカルボン酸におけるメチレン基の性質を変化させることによって得ることができる。変化され得る1つの性質は、ポリエステルアミドポリマーのガラス転移(T)温度である。これは、Brocchiniら,1997,J.Amer.Chem.Soc.119:4553〜4554頁に記載されている一連のポリエステルアミドポリマーに見られるガラス転移温度において、およそ1℃の増加量によって例示されている。一般に、他のすべての因子を一定に保つと、ポリマーのTが高ければ高いほど、抗菌剤の放出速度が遅くなる。したがって、本発明者は、ジカルボン酸およびペンダント鎖エステル基の存在を調節することによって、ポリエステルアミドポリマーのTを変化させ、ひいては抗菌剤の放出速度を変化させることができる。
【0115】
ポリエステルアミドの多分散性指数(PDI)は、1.5から4まで、例えば、1.8から3までの範囲であるべきである。多分散性を巧みに操作することは、抗菌剤の放出速度を調節する別のやり方を提供する。より高分子量のポリマーは、より低分子量のポリマーに比べて、抗菌剤をより遅く放出する。それ故に、平均分子量が80kDaでありPDIが1.5である特定のポリマーのバッチは、平均分子量が80kDaであるがPDIは3である同一ポリマーの別のバッチに比べて、抗菌剤をより遅く放出するはずである。この理由は、2つ目のバッチが、より多分散系であるため、1つ目のバッチに比べてより低分子量の成分を有するからである。
【0116】
チロシン誘導ジフェノールモノマーおよび相当するチロシン誘導ポリエステルアミドは、生体適合性である。ジカルボン酸は、一般に、アジピン酸およびコハク酸のような天然に存在する代謝物質である、ポリエステルアミドがその骨格にエステル結合を含有するため、ある特定の実施形態では、ポリエステルアミドは生体分解性であり、その分解生成物であるチロシン、デスアミノチロシンおよびジカルボン酸は、すべてが、知られている毒性プロフィールを有する。
【0117】
本発明に有用なポリエステルアミドのいくつかのメンバーは、種々のインビトロおよびインビボアッセイを用いて詳細に試験され、優れた生体適合性を示すことが見出された(Hooperら,1998,J.Biomed.Mat.Res.41:443〜454頁)。長期インビボ試験において、本発明者らは、ポリエステルアミドの分解生成物は、周囲組織に対して無害であり、内殖を促進するように思われると決定している。加えて、周囲組織は、ポリエステルアミドの分解生成物に反応して、炎症を示さないようである。ヒツジ、ウサギ、イヌおよびラットを対象としたインプラントは、組織の反応が最小限であり、局所または全身毒性を示さないことを実証している。
【0118】
[P22チロシン誘導ポリエステルアミド]
チロシン誘導ポリエステルアミドのP22ファミリーは、ポリマーのチロシン誘導ポリエステルアミドファミリーのサブセットである。ポリマーのP22ファミリーは、2つのフェノール系モノマー:デスアミノチロシルチロシンエチルエステル(DTE)およびそのベンジルエステルとして保護されたデスアミノチロシルチロシン(DT)の混合物を、コハク酸と重合させることによって合成される。ポリマーのP22ファミリーは、コハク酸を用いる;しかし、多くの異なるタイプの二酸が、チロシン誘導ポリエステルアミドの合成に使用されている。反応混合物中のDTEとDTとの相対濃度を変化させることによって、物理力学的な性質は変化するが、同一の分解生成物を有するポリマーがもたらされる。DTEモノマーおよびDTモノマーの分子量(MW)はそれぞれ、357.40Daおよび329.35Daである。以下に、P22モノマー(DTE:R=エチル;DT:R=水素)の一般構造
【化16】

を提供する。
【0119】
ポリマー指定は、そのエステル化対応物に対するDT含量の百分率(すなわち、DT対DTE比)によって指図される。例として、22−10は、10%DTおよび90%DTEを含有する。より高い割合のDTは、結果として、より高いガラス転移温度を有する、比較的より親水性のポリマーをもたらす。ポリマーは、10から130kDaまでの範囲の分子量に合成され得る。以下に、P22ポリマー(DTEについては、R=−CH−CHまたはDTについては、R=−H)の一般構造
【化17】

を提供する。
【0120】
例示的なP22チロシン誘導ポリエステルアミドは、構造P22−27.5(27.5%DT含有量;二酸=コハク酸)を有する。
【0121】
[ブレンド]
本発明の抗菌組成物はまた、ポリマーのブレンドを含む。したがって、本明細書に記載されているチロシン誘導ポリエステルアミドとブレンドすることができる他のポリマーは、ポリ乳酸、ポリグリコール酸ならびにそのコポリマーおよびその混合物として、ポリ(L−ラクチド)(PLLA)、ポリ(D,L−ラクチド)(PLA、)ポリグリコール酸[ポリグリコリド(PGA)]、ポリ(L−ラクチド−co−D,L−ラクチド)(PLLA/PLA)、ポリ(L−ラクチド−co−グリコリド)(PLLA/PGA)、ポリ(D,L−ラクチド−co−グリコリド)(PLA/PGA)、ポリ(グリコリド−co−トリメチレンカーボネート)(PGA/PTMC)、ポリ(D,L−ラクチド−co−カプロラクトン)(PLA/PCL)およびポリ(グリコリド−co−カプロラクトン)(PGA/PCL)など;ポリ(オキサ)エステル、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリジオキサノン(PDS)、ポリプロピレンフマレート、ポリ(エチルグルタメート−co−グルタミン酸)、ポリ(tert−ブチルオキシ−カルボニルメチルグルタメート)、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリカプロラクトンco−ブチルアクリレート、ポリヒドロキシブチレート(PHBT)およびポリヒドロキシブチレートのコポリマー、ポリ(ホスファゼン)、ポリ(リン酸エステル)、ポリ(アミノ酸)、ポリデプシペプチド、無水マレイン酸コポリマー、ポリイミノカーボネート、ポリ[(97.5%ジメチル−トリメチレンカーボネート)−co−(2.5%トリメチレンカーボネート)]、ポリ(オルトエステル)、他のチロシン誘導ポリエステルアミド、他のチロシン誘導ポリカーボネート、他のチロシン誘導ポリイミノカーボネート、他のチロシン誘導ポリホスホネート、ポリエチレンオキシド、ポリアルキレンオキシド、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒアルロン酸、キトサンおよび再生セルロースなどの多糖ならびにゼラチンおよびコラーゲンなどのタンパク質ならびにその混合物およびそのコポリマーならびに数ある中で、前述の任意のPEG誘導体またはブレンドを含むが、これらに限定されない。
【0122】
チロシン誘導ポリエステルアミドまたは他のポリマーとブレンドされ得る市販のポリマーは、水溶性のエチレンオキシドとプロピレンオキシドとのコポリマーからなる、市販の水溶性の外科用移植材料であるOstene(登録商標)を含む。
【0123】
ポリマーブレンドを使用することは、デバイスの部分またはすべてについて再吸収時間を変化させた、部分的に再吸収性のデバイスおよび完全に再吸収性のデバイスを作製する能力を含む、多くの利点をもたらす。例えば、部分的に再吸収性のデバイスは、時間が経つと多孔度が増加し得るため、組織の成長を可能にする。当業者は、ブレンドするためのポリマーの組合せを容易に選定し、特定の生成物を生成するためのまたは特定の結果を達成するためのブレンドに必要なそれぞれのポリマーの量を容易に決定することができる。
【0124】
[骨誘導剤および骨伝導剤]
ある特定の実施形態では、本発明の抗菌組成物は、1種または複数種の骨誘導剤をさらに含む。骨誘導とは、骨形成の刺激を指す。動物の軟組織における異所性骨形成を誘発することができる材料はいずれも、骨誘導性であると考えられる。例えば、最も骨誘導性の材料は、Edwards他(Clinical Orthopeadics & Rel.Res.357:219〜228頁,1998)の方法に従って評価される場合、胸腺欠損マウスにおいて、骨形成を誘発する。骨誘導性は、いくつかの場合には、細胞の漸増および漸増した細胞の骨形成表現型への誘導によって生じると考えられる。骨誘導性はまた、培養細胞(初代、第2代または外植片)における骨形成表現型を誘導する能力として、組織培養で決定され得る。当技術分野において知られている任意の骨誘導剤が、使用され得る。骨誘導剤の非限定例は、骨形態形成タンパク質、インスリン成長因子、トランスフォーミング成長因子β、副甲状腺ホルモン、脱塩骨および血管由来因子を含む。
【0125】
化合物の骨誘導性は、Edwards他(Clinical Orthopeadics & Rel.Res.357:219〜228頁,1998)の方法に従って決定されるように、骨誘導性スコアに基づいて評価することができる。骨誘導性スコアは、0から4までの範囲のスコアを指す。ここで、スコア「0」は、新骨形成がなかったことを表し;「1」は、移植のうちの1%から25%までが新骨形成に関与したことを表し;「2」は、移植のうちの26%から50%までが新骨形成に関与したことを表し;「3」は、移植のうちの51%から75%までが新骨形成に関与したことを表し;「4」は、移植のうちの75%超が新骨形成に関与したことを表す。ほとんどの場合、スコアは、移植後28日目に評価される。しかし、骨誘導スコアは、移植後7、14または21日目などのより早い時点で得られ得る。
【0126】
ある特定の実施形態では、本発明の抗菌組成物は、1種または複数種の骨伝導剤をさらに含む。骨伝導とは、骨細胞が付着、移動、成長および分裂することができる足場としての役割を果たす、材料の能力を指す。骨伝導剤は、骨細胞が2つの骨端間の完全な割れ目を満たし易くする。それらは、スペーサーとしての役割も果たし、その部位に向かって成長することから、移植片部位の周囲の組織の能力を低下させる。当技術分野において知られている任意の骨伝導剤を使用することができる。そのような骨伝導剤の非限定例は、人骨(「同種移植片骨」)、精製コラーゲン、リン酸カルシウム、ヒドロキシアパタイト、数種のリン酸カルシウムセラミックスおよび合成ポリマーを含む。ある薬剤は、体によって再吸収されるが、また他の薬剤は、何年にもわたって移植片部位にとどまる可能性がある。
【0127】
[分解]
本明細書における本発明の組成物は、部分的にまたは完全に生体分解性である。生体分解性ポリマーとは、生理学的条件下において、加水分解的にもしくは酸化的に不安定な結合を有するまたは酵素作用もしくは他のインビボ破壊過程に感受性があり、その作用によって、部分的であろうと完全であろうと、ポリマーが分解および/または破壊されるポリマーあるいはその任意の組合せを指す。生体分解性であるポリマーは、例えば、破壊生成物の性質およびサイズならびに他の因子によって決まる、可変の再吸収時間を有する。
【0128】
再吸収性ポリマーとは、(1)生理学的条件下、すなわち、水、酵素または他の細胞過程の存在下で不安定である少なくともいくつかの結合を有する繰り返し骨格単位を有するポリマー、そのポリマーは、生体分解性であり、(2)ポリマー全体としてまたはその分解生成物が、インビボまたは生理学的条件下で、対象における任意の機構によって(吸収、可溶化、毛管作用、浸透、化学作用、酵素作用、細胞作用、溶解、崩壊、侵食などまたはこれらの過程の任意の組合せによってなど)、ポリマーの意図された生物学的使用に一致する生理学的に関連のある時間的尺度で、溶解および/または同化可能であるポリマーを指す。
【0129】
再吸収の時間的尺度は、意図された使用によって決まる。本発明のポリマーは、生理学的条件下で、例えば、2〜3日以内に、数週または数か月または数年などのより長い期間に至るまで、急速な再吸収をもたらすために、巧みに操作することができる。医学的に関連のある期間は、意図された使用によって決まり、例えば、1から30日まで、30から180日までおよび1から24か月までならびに5日、1、2、3、4、5または6週、2、3、4、6または数か月などの間のすべての時間を含む。したがって、本発明は、ポリマーの適切な選択に基づいて、生理学的条件下で、医学的に関連のある時間的尺度で、再吸収可能な、生体適合性、生体分解性パテを含む。ポリマーの破壊は、当技術分野において知られているインビトロまたはインビボでの方法を使用する種々のやり方で評価することができる。
【0130】
[結合剤]
本発明の組成物は、結合剤を含むことができる。例示的な結合剤は、ポリエチレングリコール(PEG;Sigma−Aldrich,St.Louis,MOから市販されている)である。抗菌組成物は、任意のタイプのPEG、例えば、PEG−200、PEG−300、PEG−400、PEG−600、PEG−1000、PEG−1450、PEG−3350、PEG−4000、PEG−6000、PEG−8000、PEG−20000、PEG−400−スクシネート、PEG−600−スクシネート、PEG−1000−スクシネートなどを用いて製剤化され得る。特定の実施形態では、本発明の抗菌組成物中に使用されるPEGの百分率は、約1%から99%まで、5%から95%まで、10%から80%まで、15%から75%まで、30%から70%まで、20%から50%までまたは25%から40%までである。特定の実施形態では、抗菌組成物中に使用されるPEGの百分率は、約1%、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、10%、11%、12%、13%、14%、15%、16%、17%、18%、19%、20%、21%、22%、23%、24%、25%、26%、27%、28%、29%、30%、35%、40%、45% 50%、60%、70% 80%、90%、95%または99%である。代わりとして、抗菌組成物は、異なるPEGのブレンドを用いて製剤化され得る。
【0131】
他の適した結合剤は、ポリプロピレングリコールならびにポリエチレングリコールおよびポリプロピレングリコールのコポリマー(例えば、ブロックコポリマー)、例えば、BASFから入手可能な、商用名Pluronic(登録商標)で入手可能なものを含む。
【0132】
追加の結合剤は、当技術分野において認識されている懸濁化剤、粘性を生み出す薬剤、ゲル形成剤および乳化剤を含むが、これらに限定されない。他の薬剤は、局所、経口または非経口投与のための成分を懸濁するために使用されるものを含む。さらに他の候補は、錠剤結合剤、崩壊剤または乳化安定剤として有用な薬剤である。さらに他の候補は、化粧品、トイレタリーおよび食品に使用される薬剤である。USP XXII−NF XVII(1990年版米国薬局方および国民医薬品集(1990))などのリファレンスマニュアルは、そのような薬剤を分類および記載している。
【0133】
例示的な結合剤は、アルギン酸ナトリウム、ヒアルロン酸、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、カルボキシメチルセルロースカルシウムまたは他の塩を含むアルキルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシブチルメチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロースを含むヒドロキシアルキルセルロース、メチルヒドロキシエチルセルロースを含むアルキルヒドロキシアルキルセルロースなどのセルロース誘導体、コラーゲン、ペプチド、ムチン、コンドロイチン硫酸などを含む、生物学的源または合成源からの再吸収性の巨大分子を含む。
【0134】
カルボキシメチルセルロース(CMC)ナトリウムは、結合剤の別の例である。CMCは、限定されないが、Hercules Inc.,Aqualon.RTM.Division,Delaware;FMC Corporation,Pennsylvania;British Celanese,Ltd.,United Kingdom;およびHenkel KGaA,United Kingdomなどの供給業者から市販されている。カルボキシメチルセルロースナトリウムは、90,000から700,000までの範囲の典型的な分子量を有するセルロースのポリカルボキシメチルエーテルのナトリウム塩である。異なる粘度を有する種々のグレードのカルボキシメチルセルロースナトリウムが、市販されている。種々のグレードのカルボキシメチルセルロースナトリウムの粘度が、Handbook of Pharmaceutical Excipients(第2版),American Pharmaceutical Association & Royal Pharmaceutical Society of Great Britainに報告されている。例えば、低粘度50〜200cP、中粘度400〜800cP、高粘度1500〜3000cPである。
【0135】
室温で流動性を有する結合剤に加えて、結合剤は、温または熱水溶液に可溶化され、冷却時に流動性を有さないゲルに変わる、ゼラチンなどの試薬も含む。ゼラチン組成物は、組成物が、移植を求める哺乳動物の体温を超える温度で流動性を有するが、そのような体温でまたは体温をわずかに超えて、比較的流動性を有さないゲルへと移行するように製剤化される。
【0136】
一実施形態では、本発明の結合剤は、ヒアルロン酸ナトリウム(約500〜3000kDa)、キトサン(約100〜300kDa)、ポロキサマー(約7〜18kD)およびグリコサミノグリカン(約2000〜3000kDa)を含む、高分子量のヒドロゲルの類から選択される。ある特定の実施形態では、グリコサミノグリカンは、N,O−カルボキシメチルキトサングルコサミンである。ヒドロゲルは、3次元網目を有するゲルの形態の、架橋されている親水性ポリマーである。ヒドロゲルマトリックスは、正味の正電荷または正味の負電荷を運ぶことができるかまたは中性であり得る。典型的な正味の負に荷電したマトリックスは、アルギン酸塩である。正味の正電荷を運ぶヒドロゲルは、コラーゲンおよびラミニンなどの細胞外基質成分に代表され得る。市販されている細胞外基質成分の例は、Matrigel(商標)(50.mu.g/mlゲンタマイシンを含むダルベッコ変法イーグル培地)およびVitrogen(商標)(ペプシンで可溶化した精製ウシ皮膚コラーゲンの滅菌溶液を、0.012N HCL中に溶解したもの)を含む。正味中性のヒドロゲルの例は、高度に架橋されているポリエチレンオキシドまたはポリビニアルコールである。
【0137】
[医薬製剤]
適切な薬学的に許容できる担体とともに、所望の投与量で製剤化される場合、本明細書における抗菌組成物は、ヒトおよび他の哺乳動物に局所投与することができる。本発明の抗菌組成物の局所投与のための剤形の非限定例は、パテ、軟膏、ペースト、クリーム、ローション、フォームまたはジェルを含む。活性剤は、滅菌条件下で、必要とされ得るような、薬学的に許容できる担体および必要とされる任意の保存剤または緩衝剤と混合される。そのような局所製剤の調製物は、医薬製剤の分野において、例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciencesによって例示されるように、申し分なく記載されている。
【0138】
ある特定の実施形態では、抗菌組成物は、パテである。パテは、成形可能であり、展性があり、伸縮性があり、生体適合性である。パテを形成するために、以下のステップが行われる:成分(すなわち、少なくとも1種の抗菌剤、任意選択の結合剤およびチロシン誘導ポリエステルアミド)を乾式ブレンドし;所望のパテ様の粘稠度が得られるまで、すべての成分を混合する。
【0139】
他の実施形態では、抗菌組成物は、軟膏、ペースト、クリームまたはジェルとして製剤化される。軟膏、ペースト、クリームまたはジェルは、従来の添加剤、例えば、動物性および植物性脂肪、ワックス、パラフィン、デンプン、トラガカント、セルロース誘導体、シリコーン、ベントナイト、シリカ、タルクおよび酸化亜鉛またはこれらの物質の混合物を含み得る。その担体または添加剤は、軟膏、ペースト、クリームおよびジェルのための基剤となる。本発明の抗菌組成物を基剤に加え、基剤および抗菌組成物を一緒に混練して、軟膏、ペースト、クリームおよびジェル製剤を生み出す。
【0140】
ある特定の実施形態では、組成物は、抗菌剤が、ポリマー、例えば、チロシン誘導ポリエステルアミドに共有結合しているように製剤化される。他の実施形態では、組成物は、抗菌剤およびポリマー、例えば、チロシン誘導ポリエステルアミドが、非共有のやり方で組み合わされるように製剤化される。
【0141】
[使用]
本発明の組成物は、縦隔炎の発症を予防するのに有用であることが見出されている。特に、本発明の組成物は、パテ、ペースト、軟膏/クリーム、ジェルまたはフォームとして製剤することができ、対象が胸骨正中切開術を受けた後、縦隔炎の発症を予防するために、対象における食道穿孔または対象における切開部位へ局所適用することができる。本発明の組成物は、本明細書に記載されている抗菌剤のうちの1種または複数種(例えば、リファンピンおよびミノサイクリン)を、細菌の成長を抑制するのに十分な量で、食道穿孔または切開部位に提供し、それによって縦隔炎の発症を予防する(例えば、食道穿孔を有する患者においてまたは胸骨正中切開術を受けた患者において、縦隔炎の発生率を著しく低減する)。
【0142】
冠動脈バイパス手術(CABG)は、米国で行われている最も一般的な外科手術の1つである。胸骨創感染症(SWI)および縦隔炎は、必須の胸骨正中切開術に伴う悲惨な合併症である。縦隔炎は、結果として、両肺の間の領域、すなわち、縦隔の腫張および刺激(炎症)を招く感染症である。この領域は、心臓、大血管、気管(windpipe)(気管(trachea))、食道、胸腺、リンパ節および結合組織を含有する。縦隔炎は、手遅れであると認められるかまたは不適切に処置された場合、極めて高い死亡率を有する、命を脅かす状態である。
【0143】
胸骨切開創は、心臓切開法のうちの約0.5%から約9%までにおいて感染し、皮弁閉鎖にもかかわらず、約8%から約15%までの関連死亡率を有する。胸骨正中切開術に伴う胸骨創深部感染率(骨および縦隔炎)は、約0.5%から約5%までの範囲であり、関連死亡率は、行われた外科手術のタイプに関係なく、22%と高い(Hollenbeak他,Chest,118:397〜402頁,2000)。胸骨の感染症は、創傷が細菌にまだ感受性がある手術時または急性治癒期中の、創床の汚染が原因であることが最も多い(Hollenbeak他.Infection ControlおよびHospital Epidemiology,23(4):177,2004;およびYokoe他,Emerging Infectious Diseases,10(11):1924〜1930頁,2004)。
【0144】
CABGまたは他の手術が完了した後、胸骨は通常、ワイヤーまたは金属テープの助けを借りて閉鎖される。続いて、胸骨の骨端および割れ目を覆い、止血剤で満たす。骨ろうは感染を増強することが報告されており、異物反応を引き起こし、骨成長を抑制するという事実にもかかわらず、最も多く使用されている止血剤は、骨ろう(蜜ろう)である。胸骨正中切開術は、症例のうちの約1%から2%において、縦隔炎を併発する。胸骨正中切開術の後に、縦隔炎に感染した患者の死亡率は、およそ50%である。
【0145】
食道穿孔は、食物が口から胃まで通過する管である食道における穴である。食道穿孔によって、食道の内容物が、縦隔、胸部の周辺領域に移行してしまい、結果として多くの場合、縦隔の感染症、すなわち縦隔炎を招く。食道穿孔は、通例、経鼻胃管の留置中または食道鏡検査もしくは内視鏡検査などの医療処置中の損傷に起因する。
【0146】
食道はまた、腫瘍、潰瘍形成に伴う胃逆流、激しい嘔吐または異物もしくは腐食性化学薬品を嚥下した結果として、穿孔するようになり得る。あまり一般的ではない原因として、食道領域を打った損傷(鈍的外傷)および食道付近の別の器官における手術中の食道への損傷が含まれる。稀な症例は、出産、排便、発作、重い物を持ち上げることおよび強引に嚥下することとも関連している。
【0147】
早期診断を受けた患者および24時間以内に達成される外科手術を受けた患者については、生存率は90%である。しかし、治療が遅れると、この率は約50%にまで下がる。
【0148】
縦隔炎の他の原因は、食道穿孔または歯原性もしくは咽頭後感染症の連続的な広がりによるものを含む。しかし、現代の診療では、以上に論じられているように、急性縦隔炎のほとんどの症例が、心血管手術または内視鏡的手術の合併症に起因する。本発明の組成物はまた、本明細書に記載されている、食道における穿孔または感染症の広がりによって引き起こされる、縦隔炎を予防するまたは縦隔炎率を低減するのに有用である。
【0149】
本発明の組成物は、例えば、手術後に骨端および割れ目を覆うための、止血剤および骨ろうの代わりとしても有用である。
【0150】
[引用による組み込み]
特許、特許出願、特許公開、雑誌、書籍、論文、ウェブコンテンツなどの他の文書への参照および引用は、これを完全に開示している。そのような文書はすべて、本明細書によって、すべての目的のために、その全体が引用することにより本明細書の一部をなすものとする。
【0151】
[均等物]
本明細書に示され、記載されているものに加えて、本発明の種々の改変およびその多くのさらなる実施形態は、本明細書において引用されている科学文献および特許文献への参照を含む、この文書の全内容から当業者には明らかになる。本明細書における主題は、本発明の実施に適応し得る重要な情報、例示および手引きを、その種々の実施形態およびその均等物の中に含有する。
【実施例1】
【0152】
[ポリマー−薬物粉末の調製]
リファンピン(10%)およびミノサイクリン(10%)薬を含有するチロシンポリエステルアミド(P22−27.5)粉末を、ポリマーフィルムを粉砕することによって調製した。リファンピンおよびミノサイクリンを含有するポリマーフィルムを、溶媒−キャスト法によって調製した。手短に、8gのチロシンポリエステルアミドP22−27.5を、36mlのTHF中に溶解させた。別々のバイアルに、1gのリファンピンおよび1gのミノサイクリンを、4mlのメタノール中に溶解させた。2つの溶液を混合し、TEFLON(登録商標)皿(直径10cm×深さ1.9cm)に注いだ。溶液を、フード内で室温にて16〜18時間放置して、溶媒を蒸発させた。皿を50℃のオーブンに入れ、真空下で24時間据え置いた。製剤がフツフツと泡立ち、フィルムを形成した。小型ミキサーを使用して、フィルムを粉末に破砕した。収量は、8.7gであり、リファンピンおよびミノサイクリンをそれぞれ10%含有し、6kDaから70000kDaまでのMW範囲を有するチロシンポリエステルアミドポリマー粉末が、この方法によって調製された。ポリマー粉末のMW量を、GPCによって、PEG標準物質に対して評価した。
【実施例2】
【0153】
[PEG−ポリマー製剤の調製]
P22−27.5−薬物粉末を、異なる比率のPEG(MW400)と組み合わせた種々の製剤を調製し、種々のポリマー−薬物粉末の組合せを得た。以下の表2は、異なる組合せを示す。
【表2】

【実施例3】
【0154】
[粘度の測定]
油様(潤滑油タイプ)製剤の粘度を、温度プローブおよび4種のスピンドルを備えたBrookfield粘度計(Model DV II+Pro,Brookfield Engineering Lab Inc.,Middleboro,MA)を用いて測定した。表2に言及されている製剤番号5を、20mlシンチレーションバイアル中に取り、スピンドル番号63を使用し、周囲条件で、せん断速度10rpmを用いて、粘度を測定した。製剤の粘度は、2230〜2260cp(センチポアズ)であった。
【実施例4】
【0155】
[パテ様製剤]
PEG400中のP22−27.5−薬物ポリマーの量を増加させることによって、パテ様製剤を調製した。そのような製剤は、より多くの百分率のチロシンポリエステルアミド−薬物粉末(P227.5−リファンピンおよびミノサイクリン)およびより少ないPEG400を有する。1gのチロシンポリエステルアミド−薬物粉末および0.375gのPEG400が、適したパテを形成するために見出された。このパテ様製剤において、PEG400の百分率は27.3%であり、製剤の残りの百分率が、チロシンポリエステルアミド−薬物ポリマーである。
【0156】
パテ様製剤は、軟塊様の性質を有していた。パテは、手袋(乾燥、パウダーなしのラテックス手袋)をした指で取り扱った場合、指をパテの表面から離した時に、パテ(軟塊)の表面と手袋との間で繊維形成を示さなかった。パテは、周囲温度で展性があり、手動成形可能であることが観察された。
【実施例5】
【0157】
ポリアリーレートおよびOstene製剤の調製
チロシンポリアリーレート(P22−27.5)ポリマーならびにリファンピン(10%)およびミノサイクリン.HCl(10%)薬を含有するOstene(登録商標)製剤を、溶媒−キャスト法によって調製した。手短に、Ostene(登録商標)(CEREMED Inc.,ロット番号W2260408)およびP22−27.5を、琥珀色の100mLねじ蓋広口瓶の中に量り取り、18mLのテトラヒドロフラン(THF)中に溶解させた。溶解を容易にするために、容器を37℃のインキュベーター中に約2時間据え置いた。別々の20mL琥珀色バイアルに、リファンピンおよびミノサイクリン−HClを計り分け、2mLのメタノール中に溶解させた。2つの溶液を混合し、Teflon(登録商標)皿(直径10cm×深さ1.9cm)に注ぎ、フード内で室温にて約18時間放置して、溶媒を蒸発させた。次いで、製剤を、真空下で60℃にて48時間乾燥させた。製剤を調製するために使用したOstene(登録商標)、P22−27.5ポリマーおよび薬物の重量を、表3に提示する。収量は、2.3gであった。Ostene(登録商標)の元々の手動成形性は、チロシンポリアリーレートポリマーおよび薬物を含めた後でさえも、維持されていることが観察された。このことは、抗菌骨ろう生成物の止血機能にとって重要である。
【表3】

【実施例6】
【0158】
[ポリアリーレートおよびOstene製剤の特性決定]
[GPC−MW]
Ostene(登録商標)製剤のMWを、ゲル透過クロマトグラフィー(GPC)によってPEG標準物質に対して評価した。サンプルを、N.N−ジメチルホルムアミド(DMF)(0.1%TFA含有)中に、10〜12mg/mLの濃度で溶解させた。MWのデータを、表4に提示する。
【0159】
個々の未使用サンプルのMWデータを、表5に提示する。製剤のGPCクロマトグラム(表4)は、複数のピークを示した。P22−27.5ポリマーを加えたために、多分散性指数(PDI)は、注目に値するほど増加した。大きいPDIは、低MWポリマーおよび高MWポリマーを混合したためである。
【表4】

【表5】

【0160】
[熱−示差走査熱量計(DSC)]
Ostene(登録商標)製剤も、示差走査熱量計(DSC)によって特性決定し、ガラス転移(T)温度を確認した。サンプル4〜6mgを、プログラミングした2回の加熱サイクルに供した。サンプルを、−50℃から200℃まで、10℃/分の速度で加熱した。T温度を、2回目の加熱サイクル中に記録した。すべての製剤は、50℃付近で、顕著な融解転移を示した。これは、PEGポリマー転移に特有のものである。
【0161】
[実施例6]
[Ostene(登録商標)製剤からの薬物放出]
[Ostene(登録商標)製剤におけるリファンピンおよびミノサイクリンの実際の充填]
それぞれの製剤における薬物含量(充填量)を、ATM0421の通りに決定した。既知の濃度の標準溶液を注入することによって、リファンピン、ミノサイクリンの較正プロットを描いた。それぞれの製剤のほんの一部(およそ20〜35mg)を、5mlのDMSO中に溶解させ、50mlのメタノールを加えた。溶液を渦上で混合し、注入した。薬物充填量を、3つの複製物の平均(n=3)として決定した。データを、表6に提示する。実際のリファンピンの充填量は、10%近くあった。ミノサイクリンの充填量は、7.5%であった。
【表6】

【0162】
Ostene(登録商標)製剤からのリファンピンおよびミノサイクリンの放出
放出を、ATM0427の通りに検討した。手短に、それぞれの製剤の既知の量を、60mlの琥珀色ねじ蓋瓶の中に量り取った。新たに調製したリン酸緩衝生理食塩水(PBS 0.1M、pH7.4)20mlを加え、瓶を37℃のインキュベーター中に据え置いた。サンプルを、HPLCによって、2、4、8および24時間の時点で、描画しながら評価した。それぞれの時点で、全部のPBS溶液に、新しい20mlPBS溶液を補充した。Ostene(登録商標)、OS−10TP6およびOS−20TP6マトリックスからの薬物放出を、ミノサイクリンについては図1に、リファンピンについては図2に、それぞれ提示する。それぞれの時点は、3つのサンプルの平均を表す(n=3)。リファンピンおよびミノサイクリンの放出曲線を、シングルプロットで図3に提示する。放出動態は、P22−27.5チロシンポリアリーレートポリマーを含むことによって、強い影響を受ける。ミノサイクリンの約75%が、最初の2時間で、OS−10TP6マトリックスから放出された。この系は、10%(w/w)のP22−27.5チロシンポリアリーレートポリマーを有する。20%のP22−27.5チロシンポリアリーレートポリマーを含むと、ミノサイクリンの51%のみの放出が、最初の2時間で観察された。24時間の終了後、ミノサイクリンの86%および73%が、OS−10TP6およびOS−20TP6から、それぞれ放出された。Ostene(登録商標)マトリックス中のP22−27.5の百分率がより高いと、ミノサイクリンの放出が遅くなる。類似の傾向が、リファンピンの放出に観察された。しかし、放出されたリファンピンの量は、対応する時点でのミノサイクリンよりも少なかった。2時間の時点で、放出されたリファンピンの量は、OS−10TP6およびOS−20TP6から、それぞれ53および24%であった。24時間でのリファンピンの放出は、OS−10TP6およびOS−20TP6については、それぞれ73および56%であった。Ostene(登録商標)製剤からのリファンピンおよびミノサイクリンの放出を、AIGIS(登録商標)デバイスと比較して、図4に提示した(TYRXから入手可能なAIGIS(登録商標)は、リファンピンおよびミノサイクリンを含有するポリアリーレート再吸収性ポリマーでコーティングされたニットポリプロピレンメッシュ基質を含む抗菌袋である)。Ostene(登録商標)−P22−27.5システムによって示される放出プロフィールは、AIGIS(登録商標)のものとほとんど類似している。
【0163】
Ostene(登録商標)自体は、高度に親水性の水溶性ポリマーである。結果として、100%のリファンピンおよびミノサイクリンが、最初の2時間以内に、Ostene(登録商標)マトリックスから放出された(図1および2)。(目視検査は、Ostene(登録商標)マトリックスの溶解を示している。HPLCは、リファンピンおよびミノサイクリンの、検量線の直線範囲の恐らく外側であるピーク面積を示す)。チロシンポリアリーレートポリマーP22−27.5は、疎水性材料である。放出は、主に、拡散機構によって生じる。疎水性材料を、親水性のOstene(登録商標)マトリックス中に含むと、水(緩衝剤)の取り込みが遅くなり、したがって、リファンピンおよびミノサイクリンの薬物放出が遅くなる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種の生体再吸収性ポリマーと、少なくとも1種の抗菌剤とを含む抗菌組成物であって、対象における食道穿孔または対象における胸骨正中切開術切開部位への局所適用のために製剤化されており、前記少なくとも1種の抗菌剤が、対象における縦隔炎の発症を抑制するのに有効な量で存在する抗菌組成物。
【請求項2】
骨誘導剤をさらに含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
骨伝導剤をさらに含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
抗菌剤が、抗生物質と、防腐剤と、殺菌剤とからなる群から選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
抗生物質が、テトラサイクリン系、ペニシリン系、マクロライド系、リファンピン、およびその組合せからなる群から選択される、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
抗生物質が、ミノサイクリンとリファンピンとの組合せを含む、請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
ポリマーが、チロシン誘導ポリエステルアミドである、請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
結合剤をさらに含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項9】
結合剤が、ポリエチレングリコール(PEG)である、請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
PEGが、PEG400である、請求項9に記載の組成物。
【請求項11】
部分的に生体再吸収性である、請求項1に記載の組成物。
【請求項12】
完全に生体再吸収性である、請求項1に記載の組成物。
【請求項13】
チロシン誘導ポリエステルアミドと、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリ(L−ラクチド)(PLLA)、ポリ(D,L−ラクチド)(PLA)ポリグリコール酸[ポリグリコリド(PGA)]、ポリ(L−ラクチド−co−D,L−ラクチド)(PLLA/PLA)、ポリ(L−ラクチド−co−グリコリド)(PLLA/PGA)、ポリ(D,L−ラクチド−co−グリコリド)(PLA/PGA)、ポリ(グリコリド−co−トリメチレンカーボネート)(PGA/PTMC)、ポリ(D,L−ラクチド−co−カプロラクトン)(PLA/PCL)、ポリ(グリコリド−co−カプロラクトン)(PGA/PCL)、ポリ(オキサ)エステル、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリジオキサノン(PDS)、ポリプロピレンフマレート、ポリ(エチルグルタメート−co−グルタミン酸)、ポリ(tert−ブチルオキシ−カルボニルメチルグルタメート)、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリカプロラクトンco−ブチルアクリレート、ポリヒドロキシブチレート(PHBT)、ポリヒドロキシブチレート、ポリ(ホスファゼン)、ポリ(リン酸エステル)、ポリ(アミノ酸)、ポリデプシペプチド、ポリイミノカーボネート、ポリ[(97.5%ジメチル−トリメチレンカーボネート)−co−(2.5%トリメチレンカーボネート)]、ポリ(オルトエステル)、チロシン誘導ポリカーボネート、チロシン誘導ポリイミノカーボネート、チロシン誘導ポリホスホネート、ポリエチレンオキシド、ポリアルキレンオキシドおよびヒドロキシプロピルメチルセルロースからなる群から選択される少なくとも1種のポリマーとを含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項14】
パテ、ペースト、ジェル、フォーム、軟膏およびクリームからなる群から選択される製剤である、請求項1に記載の組成物。
【請求項15】
前記組成物内の生体再吸収性ポリマーが、約30%から約80%までの範囲である、請求項1に記載の組成物。
【請求項16】
チロシン誘導ポリエステルアミドが、チロシン誘導ポリエステルアミドのP22ファミリーのメンバーである、請求項7に記載の組成物。
【請求項17】
チロシン誘導ポリエステルアミドのP22ファミリーにおける遊離酸のパーセンテージが、約5%から約40%までの範囲である、請求項16に記載の組成物。
【請求項18】
チロシン誘導ポリエステルアミドのP22ファミリーにおける遊離酸のパーセントが、27.5%である、請求項16に記載の組成物。
【請求項19】
チロシン誘導ポリエステルアミドと、水溶性のエチレンオキシド/プロピレンオキシドコポリマーとを含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項20】
チロシン誘導ポリエステルアミドが、チロシン誘導ポリエステルアミドのP22ファミリーのメンバーである、請求項19に記載の組成物。
【請求項21】
対象における縦隔炎を予防する方法であって、ポリマーと、少なくとも1種の抗菌剤を含む抗菌組成物とを、対象における食道穿孔または対象における胸骨正中切開術切開部位に局所適用するステップを含み、前記少なくとも1種の抗菌剤が、対象における縦隔炎の発症を予防するのに有効な量で存在する方法。
【請求項22】
ポリマー組成物が、結合剤をさらに含む、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
結合剤が、ポリエチレングリコール(PEG)である、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
PEGが、PEG400である、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
ポリマー組成物が、骨誘導剤をさらに含む、請求項22に記載の方法。
【請求項26】
ポリマー組成物が、骨伝導剤をさらに含む、請求項22に記載の方法。
【請求項27】
ポリマーが、チロシン誘導ポリエステルアミドである、請求項21に記載の方法。
【請求項28】
チロシン誘導ポリエステルアミドが、チロシン誘導ポリエステルアミドのP22ファミリーのメンバーである、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
チロシン誘導ポリエステルアミドのP22ファミリーにおける遊離酸のパーセンテージが、約25%から約28%までの範囲である、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
チロシン誘導ポリエステルアミドのP22ファミリーにおける遊離酸のパーセントが、27.5%である、請求項28に記載の方法。
【請求項31】
ポリマーが、少なくとも2種のポリマーのブレンドである、請求項21に記載の方法。
【請求項32】
ポリマーが、チロシン誘導ポリエステルアミドと、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリ(L−ラクチド)(PLLA)、ポリ(D,L−ラクチド)(PLA)ポリグリコール酸[ポリグリコリド(PGA)]、ポリ(L−ラクチド−co−D,L−ラクチド)(PLLA/PLA)、ポリ(L−ラクチド−co−グリコリド)(PLLA/PGA)、ポリ(D,L−ラクチド−co−グリコリド)(PLA/PGA)、ポリ(グリコリド−co−トリメチレンカーボネート)(PGA/PTMC)、ポリ(D,L−ラクチド−co−カプロラクトン)(PLA/PCL)、ポリ(グリコリド−co−カプロラクトン)(PGA/PCL)、ポリ(オキサ)エステル、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリジオキサノン(PDS)、ポリプロピレンフマレート、ポリ(エチルグルタメート−co−グルタミン酸)、ポリ(tert−ブチルオキシ−カルボニルメチルグルタメート)、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリカプロラクトンco−ブチルアクリレート、ポリヒドロキシブチレート(PHBT)、ポリヒドロキシブチレート、ポリ(ホスファゼン)、ポリ(リン酸エステル)、ポリ(アミノ酸)、ポリデプシペプチド、ポリイミノカーボネート、ポリ[(97.5%ジメチル−トリメチレンカーボネート)−co−(2.5%トリメチレンカーボネート)]、ポリ(オルトエステル)、チロシン誘導ポリカーボネート、チロシン誘導ポリイミノカーボネート、チロシン誘導ポリホスホネート、ポリエチレンオキシド、ポリアルキレンオキシドおよびヒドロキシプロピルメチルセルロースからなる群から選択される少なくとも1種の追加のポリマーとのブレンドである、請求項21に記載の方法。
【請求項33】
対象がヒトである、請求項21に記載の方法。
【請求項34】
組成物が、パテ、ペースト、ジェル、フォーム、軟膏およびクリームからなる群から選択される少なくとも1種の製剤である、請求項21に記載の方法。
【請求項35】
対象における縦隔炎を予防する方法であって、チロシン誘導ポリエステルアミドと、結合剤と、少なくとも1種の抗菌剤とを含むパテを、対象における食道穿孔または対象における胸骨正中切開術切開部位に適用するステップを含み、前記少なくとも1種の抗菌剤が、対象における縦隔炎の発症を予防するのに有効な量で存在する方法。
【請求項36】
対象における細菌の成長を抑制する方法であって、チロシン誘導ポリエステルアミド、結合剤と、少なくとも1種の抗菌剤とを含むパテを、対象における食道穿孔または対象における胸骨正中切開術切開部位に適用するステップを含み、前記少なくとも1種の抗菌剤が、対象における細菌の成長を抑制するのに有効な量で存在する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2012−528866(P2012−528866A)
【公表日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−514044(P2012−514044)
【出願日】平成22年6月1日(2010.6.1)
【国際出願番号】PCT/US2010/036910
【国際公開番号】WO2010/141475
【国際公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【出願人】(508125575)タイレックス・インコーポレイテッド (10)
【氏名又は名称原語表記】TYRX INC.
【Fターム(参考)】