説明

能動型振動騒音抑制装置

【課題】制御対象の周波数範囲に第一伝達系の共振周波数が含まれる場合であっても、当該周波数付近において、確実に振動騒音抑制効果を発揮できる能動型振動騒音抑制装置を提供する。
【解決手段】極配置法を用いて、第一伝達系の伝達関数を第一実伝達関数Gに対して負帰還フィードバック要素Pを付加した状態である置換伝達関数Qに置換した場合に、第一推定伝達関数Ghに基づいて、第一伝達系における実共振周波数fG0を制御対象周波数範囲以外の周波数fQ0に置換するための負帰還フィードバック要素Pを算出する。置換推定伝達関数Qhにより算出された第一フィルタ係数に基づいて第一制御信号y1を生成する。第一制御信号y1および負帰還フィードバック要素Pに基づいて第二制御信号y2を生成する。そして、第一制御信号y1から第二制御信号y2を減算した第三制御信号y3を生成し、かつ、第三制御信号y3を制御信号として出力する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、適応制御を用いて、能動的に振動や騒音を抑制することができる能動型振動騒音抑制装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
適応制御を用いて、能動的に評価点における振動や騒音を抑制する装置として、特許文献1に記載されたものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8−44377号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
評価点における振動や騒音を抑制するためには、第一伝達系の実伝達関数G(以下、「第一実伝達関数G」と称する)の振幅および位相を高精度に推定することが重要である。特に、実際の第一実伝達関数Gの位相と第一伝達系の伝達関数の推定値Gh(以下、「第一推定伝達関数Gh」と称する)の位相とにずれがある場合には、評価点における振動や騒音を抑制することができないおそれがある。
【0005】
ところで、どのような伝達系においても共振周波数が存在する。伝達系の共振周波数付近においては、伝達系の位相が大きく変化する。そのため、第一伝達系の共振周波数付近を制御対象の周波数範囲に含める場合には、第一伝達系の共振周波数付近における第一実伝達関数Gの位相の推定を特に高精度にする必要がある。
【0006】
しかしながら、仮に、初期状態において第一伝達系の共振周波数付近における第一実伝達関数Gの位相を高精度に推定できたとしても、第一伝達系の共振周波数は、経時変化や温度変化などにより変化する。そのため、変化した後において、実際の第一実伝達関数Gの位相と第一推定伝達関数Ghの位相とにずれが生じるおそれがある。その結果、評価点における振動や騒音を適切に抑制できないおそれがある。
【0007】
そのため、第一伝達系の共振周波数付近を制御対象の周波数範囲に含めないようにして、制御対象の周波数範囲を制限することが一般的であった。しかし、制御対象の周波数範囲を拡大したいという要請がある。そうすると、制御対象の周波数範囲に、第一伝達系の共振周波数付近が含まれてしまうことがある。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、制御対象の周波数範囲に第一伝達系の共振周波数が含まれる場合であっても、当該周波数付近において、確実に振動騒音抑制効果を発揮できる能動型振動騒音抑制装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の能動型振動騒音抑制装置は、制御信号に応じた制御振動または制御音を発生して、評価点における振動または騒音を能動的に抑制する能動型振動騒音抑制装置であって、振動または騒音の発生源の周波数を算出する周波数算出部と、前記制御信号を出力してから前記制御振動または制御音を発生する制御振動制御音発生装置を介して前記評価点までの第一伝達系における第一実伝達関数Gの推定値Ghを算出する第一伝達関数推定値算出部と、極配置法を用いて、前記第一伝達系の伝達関数を第一実伝達関数Gに対して負帰還フィードバック要素Pを付加した状態である置換伝達関数Qに置換した場合に、前記第一実伝達関数Gの推定値Ghに基づいて、前記第一伝達系における実共振周波数fG0を制御対象周波数範囲以外の周波数fQ0に置換するための前記負帰還フィードバック要素Pを算出するフィードバック要素算出部と、前記第一実伝達関数Gの推定値Ghおよび前記負帰還フィードバック要素Pに基づいて、前記置換伝達関数Qの推定値Qhを算出する置換伝達関数推定値算出部と、前記置換伝達関数Qの推定値Qhにより算出された第一フィルタ係数と前記周波数算出部により算出された前記周波数とに基づいて第一制御信号y1を生成する第一制御信号生成部と、前記第一制御信号y1、前記負帰還フィードバック要素Pおよび前記周波数に基づいて第二制御信号y2を生成する第二制御信号生成部と、前記第一制御信号y1から前記第二制御信号y2を減算した第三制御信号y3を生成し、かつ、前記第三制御信号y3を前記制御信号として出力する第三制御信号生成部とを備える。
【0010】
本発明によれば、極配置法を用いて、第一伝達系の実際の共振周波数fG0を別の周波数fQ0に置換している。つまり、第一伝達系の共振周波数が、見かけ上、周波数fQ0になる。つまり、仮想的に見た場合に、第一伝達系の共振周波数fQ0を制御対象の周波数範囲から除外するようにできる。その結果、仮想的に制御対象の周波数範囲に共振周波数が含まれないと考えられるため、実際の第一実伝達関数Gの位相と第一推定伝達関数Ghの位相とが大きくずれるとしても、実際の置換伝達関数Qの位相と置換伝達関数の推定値Qhの位相とが大きくずれることを抑制できる。従って、評価点における振動や騒音を確実に抑制できる。特に、経時変化や温度変化などにより第一伝達系が変化したとしても、確実に振動や騒音を抑制できる。
【0011】
また、前記置換伝達関数推定値算出部は、前記第三制御信号生成部が前記第一制御信号y1から前記第二制御信号y2を減算した前記第三制御信号y3を前記制御信号として出力した場合に、前記第三制御信号y3による前記評価点における振動または音に基づいて前記置換伝達関数Qの推定値Qhを算出するようにしてもよい。
【0012】
実際に制御振動または制御音を発生させることにより置換伝達関数Qの推定値Qhを測定しているため、より高精度に置換伝達関数Qの推定値Qhを算出できる。なお、実際に制御振動または制御音を発生させることなく、演算のみにより、置換伝達関数Qの推定値Qhを、第一実伝達関数Gの推定値Ghと負帰還フィードバック要素Pとに基づいて得ることができる。
【0013】
また、前記第一伝達関数推定値算出部は、前記第三制御信号生成部が前記第一制御信号y1を前記制御信号として出力した場合に、前記第一制御信号y1による前記評価点における振動または音に基づいて前記第一実伝達関数Gの推定値Ghを更新し、前記フィードバック要素算出部は、更新された前記第一実伝達関数Gの推定値Ghに基づいて前記負帰還フィードバック要素Pを更新するようにしてもよい。
【0014】
第一実伝達関数Gの推定値Ghを逐次更新しているため、第一実伝達関数Gが経年変化などにより変化したとしても、第一実伝達関数Gの推定値Ghが、現在の第一実伝達関数Gの変化に追従できる。そして、更新された第一実伝達関数Gの推定値Ghに基づいて負帰還フィードバック要素Pを更新しているため、負帰還フィードバック要素Pが現在の第一実伝達関数Gに応じた値となる。従って、確実に、第一伝達系の共振周波数fQ0を確実に制御対象周波数範囲以外に位置することができる。
【0015】
また、前記能動型振動騒音抑制装置は、前記評価点において前記発生源による振動または騒音と前記制御振動または制御音との干渉による残留信号を検出する残留信号検出部をさらに備え、前記第一制御信号生成部は、前記置換伝達関数Qの推定値Qhにより算出された第一フィルタ係数と、前記周波数算出部により算出された前記周波数と、前記残留信号検出部により検出された前記残留信号とに基づいて、適応制御法により前記第一制御信号y1を生成するようにしてもよい。
【0016】
仮想的に、第一伝達系の共振周波数fQ0を制御対象の周波数範囲に含まない状態で、適応制御を行うことができる。これにより、経時変化などにより第一実伝達関数の位相と第一実伝達関数の推定値Ghがずれたとしても、確実に振動または騒音を抑制できる。
【0017】
また、前記第一制御信号生成部は、前記置換伝達関数Qの推定値Qhにより算出された第一フィルタ係数と前記周波数算出部により算出された前記周波数とに基づいて、フィードフォワード制御法により前記第一制御信号y1を生成するようにしてもよい。
【0018】
仮想的に、第一伝達系の共振周波数fQ0を制御対象の周波数範囲に含まない状態で、マップ制御(フィードフォワード制御)を行うことができる。これにより、確実に振動または騒音を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】極配置法を適用する前の制御ブロック線図である。
【図2】極配置法を適用した後の制御ブロック線図である。
【図3】極配置法を適用したときの実際の制御ブロック線図である。
【図4】極配置法の適用有無による周波数特性の第一例を示す。
【図5】極配置法の適用有無による周波数特性の第二例を示す。
【図6】適応制御に適用した場合の能動型振動騒音抑制装置の制御ブロック線図である。
【図7】図6の見なし図である。
【図8】適応制御に適用した場合の能動型振動騒音抑制装置の実際の機能ブロック図である。
【図9】Ghマップデータ、PデータおよびQhマップデータの算出更新処理を示すフローチャートである。
【図10】Ghマップデータおよび負帰還フィードバック要素Pの算出更新処理に関する機能ブロック図である。
【図11】Qhマップデータの算出更新処理に関する機能ブロック図である。
【図12】マップ制御に適用した場合の能動型振動騒音抑制装置の制御ブロック線図である。
【図13】図12の見なし図である。
【図14】マップ制御に適用した場合の能動型振動騒音抑制装置の実際の機能ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
<1.極配置法を適用した制御概念>
極配置法を適用する前の制御ブロック線図について、図1を参照して説明する。図1に示すように、振動騒音発生源10が振動または騒音を発生して、第二実伝達関数Hを介して評価点20に伝達される場合を考える。そして、第一制御信号生成部120が第一制御信号y1を出力して、当該第一制御信号y1に応じた制御振動または制御音を発生させることにより、評価点20における振動または騒音を抑制することを目的とする。
【0021】
つまり、図1に示すように、評価点20において、振動騒音発生源10により発生された振動または騒音が第二実伝達関数Hを介して伝達された振動または騒音Xと、第一制御信号y1が第一実伝達関数Gを介して伝達された制御振動または制御音Zとが干渉する。仮に、評価点20において、振動騒音発生源10により発生された振動または騒音が第二実伝達関数Hを介して伝達された振動または騒音Xと、第一制御信号y1が第一実伝達関数Gを介して伝達された制御振動または制御音Zとが完全に一致している場合には、評価点20における振動または騒音は全くない状態となる。
【0022】
そして、図2に示すように、第一伝達系の第一実伝達関数Gを、置換伝達関数Qに置換するとする。つまり、第一実伝達関数Gに対して、状態フィードバック制御を行うとする。具体的には、負帰還フィードバック要素Pを、第一実伝達関数Gの出力側から入力側にフィードバックさせて、第一制御信号y1から減算する。このように、第一伝達系の伝達関数を図1に示す第一実伝達関数Gから図2に示す置換伝達関数Qに置換するために、極配置法を用いる。極配置法を用いることにより、第一伝達系の伝達関数の固有値を変更することができる。固有値を変更すると、共振周波数が変更される。
【0023】
図4(a)(b)および図5(a)(b)を参照して、極配置法を適用しない場合と極配置法を適用した場合とのそれぞれにおける振幅および位相の周波数特性について説明する。ここで、図4(a)(b)に示すように、第一実伝達関数Gの振幅をAとし、位相をΦとし、置換伝達関数Qの振幅をAとし、位相をΦとする。
【0024】
図4(a)(b)に示すように、極配置法を適用することにより、第一実伝達関数Gの実共振周波数fG0を置換伝達関数Qの共振周波数fQ0に変更できる。そして、第一実伝達関数Gの実共振周波数fG0が制御対象周波数範囲(f〜f)に含まれているとしても、置換伝達関数Qの共振周波数fQ0を制御対象周波数範囲以外にすることができる。そうすると、図4(b)に示すように、制御対象周波数範囲において、置換伝達関数Qの位相Φの変化幅が、第一実伝達関数Gの位相Φの変化幅に比べて、大幅に低減していることが分かる。
【0025】
ここで、図4(a)(b)は、第一実伝達関数Gの実共振周波数fG0を制御対象周波数範囲の下限値fより低い周波数に変更した状態を示した。この他に、図5(a)(b)に示すように、第一実伝達関数Gの実共振周波数fG0を制御対象周波数範囲の上限値fより高い周波数に変更することもできる。第一実伝達関数Gの実共振周波数fG0が制御対象周波数範囲の下限値fおよび上限値fのうち近い方に、変更するようにするとよい。
【0026】
しかしながら、図2において第一制御信号y1が第一実伝達関数Gを介して伝達された制御振動または制御音Zを検出することは困難である。そこで、図3に示すように、第一実伝達関数Gの入力側から負帰還フィードバック要素Pを生成する。ただし、等価な制御状態とするために、負帰還フィードバック要素Pの入口側に、第一実伝達関数Gの推定値Gh(以下、「第一推定伝達関数Gh」と称する)を配置する。なお、記載の都合上、明細書の本文において、推定値「ハット(^)」は、「h」と記載する。
【0027】
つまり、第一実伝達関数Gを同定して、第一推定伝達関数Ghを算出する。そして、この第一推定伝達関数Ghを用いて、極配置法を適用することで、フィードバック要素Pを算出する。そして、図3に示すように、能動型振動騒音抑制装置100は、制御信号として第三制御信号y3を出力する。この第三制御信号y3は、第一制御信号y1から第二制御信号y2を減算した信号である。そして、第二制御信号y2は、第三制御信号y3に対して、第一推定伝達関数Ghおよび負帰還フィードバック要素Pを介して伝達された信号である。このようにすることで、第三制御信号y3を生成することができるようになる。
【0028】
<2.極配置法についての説明>
次に、極配置法を用いて、負帰還フィードバック要素Pの算出方法について説明する。現在の系の固有値の極がλ1real,λ2realである場合に、固有値の極を、目標値λ1tar,λ2tarにしたいとする。現在の系の固有値の極λ1real,λ2real-を式(1)に示し、目標の系の固有値の極λ1tar,λ2tarを式(2)に示す。
【0029】
【数1】

【0030】
【数2】

【0031】
ここで、τtar、εtarは、式(3)となる。
【0032】
【数3】

【0033】
このとき、目標の固有値の極λ1tar,λ2tarとする特性方程式は、式(4)に示すように表される。
【0034】
【数4】

【0035】
ところで、図2に示すように、第二制御信号y2を作用させた場合の運動方程式は、式(5)にて表される。この式(5)は、式(6)のように置換できる。
【0036】
【数5】

【0037】
【数6】

【0038】
ここで、第二制御信号y2は、変位xおよび速度vに依存しているとして、式(7)のように表される。つまり、負帰還フィードバック要素Pは、式(8)のように、P1およびP2により表される。
【0039】
【数7】

【0040】
【数8】

【0041】
式(6)に式(7)を代入すると、式(9)のようになる。
【0042】
【数9】

【0043】
この式から得られる制御系の特性方程式は、式(10)のように表され、式(11)となる。
【0044】
【数10】

【0045】
【数11】

【0046】
式(4)と式(11)とが同じ極をもつためには、P1とP2は、式(12)のようになる。つまり、式(12)より、負帰還フィードバック要素Pを得ることができる。
【0047】
【数12】

【0048】
<3.適応制御に適用した場合の能動型振動騒音抑制装置>
次に、図3を用いて説明した制御概念を、適応制御に適用した場合の能動型振動騒音抑制装置100について、図6〜図11を参照して説明する。
【0049】
(3.1)制御ブロック線図
まずは、この能動型振動騒音抑制装置100の制御ブロック線図について、図6および図7を参照して説明する。能動型振動騒音抑制装置100を構成する適応フィルタ係数更新部180は、置換伝達関数Qの推定値Qhと評価点20における残留信号eを用いて、適応フィルタ係数Wの更新量ΔWを算出する。適応フィルタ係数Wは、振幅フィルタ係数aと位相フィルタ係数φとにより構成される。
【0050】
そして、第一制御信号生成部120は、適応フィルタ係数Wと周波数fとに基づいて、第一制御信号y1を生成する。第二制御信号生成部130は、第三制御信号y3に対して、第一推定伝達関数Ghおよび負帰還フィードバック要素Pを介して伝達されたとした場合の第二制御信号y2を生成する。ここで、第一推定伝達関数Ghおよび負帰還フィードバック要素Pは、逐次算出しておく。
【0051】
第三制御信号生成部140は、第一制御信号y1から第二制御信号y2を減算した第三制御信号y3を生成する。そして、第三制御信号生成部140は、第三制御信号y3を制御信号として出力する。この出力された第三制御信号y3は、第一実伝達関数Gを介して評価点20に伝達される。評価点20においては、第三制御信号y3が第一実伝達関数Gを介して伝達された制御振動または制御音Zと、振動騒音発生源10が発生した振動または騒音が第二実伝達関数Hを介して伝達された振動または騒音Xとが干渉する。
【0052】
ここで、図6において一点鎖線にて囲む領域は、置換伝達関数Qに相当する。つまり、図6は、図7のように表すことができる。図7によれば、評価点20において、第一制御信号y1が置換伝達関数Qを介して伝達された制御振動または制御音Zと、振動騒音発生源10が発生した振動または騒音が第二実伝達関数Hを介して伝達された振動または騒音Xとが干渉している。
【0053】
つまり、第一制御系の伝達関数が、第一実伝達関数Gから置換伝達関数Qに置換されたものと見なすことができる。そして、第一実伝達関数Gの実共振周波数fG0が制御対象周波数範囲に含まれているとしても、上述した極配置法を用いることにより、置換伝達関数Qの共振周波数fQ0を制御対象周波数範囲以外に変更することができる。つまり、置換伝達関数Qの位相Φは、制御対象周波数範囲において大きく変動しない。従って、第一実伝達関数Gの位相Φと第一推定伝達関数Ghの位相Φhとが大きくずれるとしても、置換伝達関数Qの位相Φと置換伝達関数Qの推定値Qhの位相Φhとは、大きくずれることを抑制できる。従って、制御対象周波数範囲において、評価点20における振動や騒音を確実に抑制できる。特に、経時変化や温度変化などにより第一伝達系が変化したとしても、確実に振動や騒音を抑制できる。
【0054】
(3.2)制御全体の機能ブロック
上述した制御ブロック線図を実際の機能ブロックとして適用する場合について、図8を参照して説明する。ここで、実際の機能ブロックとしては、自動車を例にあげて説明する。自動車において、エンジン(内燃機関)10が振動騒音発生源となり、エンジン10によって発生した振動や騒音が車室内に伝達されないようにすることが望まれる。そこで、エンジン10によって発生した振動や騒音(抑制対象振動等)を能動的に抑制するために、発生装置150によって制御振動等を発生させることとしている。なお、以下において、能動型振動騒音抑制装置100は、自動車に適用し、エンジン10によって発生される振動または騒音を抑制する装置を例に挙げて説明するが、これに限られるものではない。抑制すべき振動や騒音を発生するものであれば、全てに適用できる。
【0055】
この能動型振動騒音抑制装置100は、周波数算出部110と、第一制御信号生成部120と、第二制御信号生成部130と、第三制御信号生成部140と、発生装置150と、残留信号検出部160と、置換推定伝達関数データ選択部(以下、「Qhデータ選択部」と称する)170と、適応フィルタ係数更新部180と、Ghマップデータ記憶部210と、Pデータ記憶部220と、Qhマップデータ記憶部230とを備えている。
【0056】
周波数算出部110は、エンジン10の回転数を検出する回転検出器(図示せず)から周期性のパルス信号を入力し、当該パルス信号に基づいて、エンジン10が発生する振動または騒音(抑制対象振動等)の主成分の周波数fを算出する。
【0057】
第一制御信号生成部120は、周波数算出部110にて算出された周波数fに基づいて、式(13)に従って得られる正弦波としての第一制御信号y1(n)を適応制御によって生成する。ここで、添字の(n)は、サンプリング数(時間ステップ)を表す添字である。つまり、式(13)より明らかなように、第一制御信号y1(n)は、周波数fと、適応フィルタ係数W(n)としての振幅フィルタ係数a(n)および位相フィルタ係数φ(n)とを構成成分に含む、時刻t(n)における信号である。そして、振幅フィルタ係数a(n)および位相フィルタ係数φ(n)は、後述する適応フィルタ係数更新部180により適応的に更新される。
【0058】
【数13】

【0059】
第二制御信号生成部130は、第三制御信号生成部140により生成された第三制御信号y3(n−1)に対して、第一推定伝達関数Ghおよび負帰還フィードバック要素Pを介して伝達されたとした場合の第二制御信号y2(n)を生成する。ここで、第一推定伝達関数Ghは、後述するGhマップデータ記憶部210に記憶されているGhマップデータと、周波数算出部110により算出された周波数fとに基づいて選択される。また、負帰還フィードバック要素Pは、後述するPデータ記憶部220に記憶されている。
【0060】
第三制御信号生成部140は、式(14)に示すように、第一制御信号y1(n)から第二制御信号y2(n)を減算した第三制御信号y3(n)を生成する。そして、第三制御信号生成部140は、第三制御信号y3(n)を制御信号として出力する。なお、この第三制御信号y3(n)は、上述したように、第二制御信号生成部130にて用いられる。
【0061】
【数14】

【0062】
発生装置150(本発明における「制御振動制御音発生装置」に相当する)は、実際に振動や音を発生する装置である。この発生装置150は、第三制御信号生成部140によって出力された第三制御信号y3(n)に基づいて駆動する。例えば、制御振動を発生させる発生装置150としては、例えば、駆動系につながるフレームやサブフレーム(図示せず)などに配置される振動発生装置である。また、制御音を発生させる発生装置150としては、例えば、スピーカー等である。発生装置150が例えば磁力を用いて制御振動や制御音を発生させる装置の場合には、コイル(図示せず)に供給する電流、電圧または電力を、各時刻t(n)における第三制御信号y3(n)に応じるように制御することで、発生装置150が第三制御信号y3(n)に応じた制御振動または制御音を発生する。
【0063】
そうすると、評価点20においては、発生装置150によって発生された制御振動等が伝達系Bを介して伝達された制御振動等Z(n)と、エンジン10によって発生された抑制対象振動等が第二実伝達関数Hを介して伝達された振動騒音X(n)とが合成される。
【0064】
そこで、残留信号検出部160は、評価点20に配置されており、評価点20における残留振動または残留騒音(本発明における「残留信号」に相当する)e(n)を検出する。この残留振動e(n)は、式(15)で表される。例えば、残留振動e(n)を検出する残留信号検出部160としては、加速度センサなどを適用できる。また、残留音e(n)を検出する残留信号検出部160としては、吸音マイクなどを適用できる。残留信号検出部160によって検出される残留信号e(n)がゼロになることが理想状態である。なお、第一実伝達関数Gは、第三制御信号生成部140により第三制御信号y3(n)を出力してからから、発生装置150を介して評価点20までの伝達系の伝達関数である。つまり、第一実伝達関数Gは、発生装置150そのものの伝達関数と、発生装置150と評価点20との間の伝達系Bの伝達関数とを含む。
【0065】
【数15】

【0066】
Qhデータ選択部170は、Qhマップデータ記憶部230に記憶された置換推定伝達関数Qhのマップデータの中から、周波数算出部110にて算出された周波数fに応じた置換推定伝達関数Qhを選択する。置換推定伝達関数Qhのマップデータには、置換推定伝達関数Qhが記憶されている。置換推定伝達関数Qhは、式(16)に示すように、周波数fに応じた振幅成分Ahと位相成分Φhとにより表される。なお、式(16)においては、置換推定伝達関数Qh、振幅成分Ahおよび位相成分Φhは、周波数fに応じたものとなるため、fの関数であることを明記するために、それぞれQh(f)、Ah(f)およびΦh(f)と記載している。この置換推定伝達関数Qhは、後述する適応フィルタ係数更新部180にて用いる。
【0067】
【数16】

【0068】
適応フィルタ係数更新部180は、上述した第一制御信号y1(n)を構成するための適応フィルタ係数W(n)を適応的に更新する。適応フィルタ係数W(n)は、式(17)に示すように、振幅フィルタ係数a(n)と位相フィルタ係数φ(n)とにより構成される。
【0069】
【数17】

【0070】
この適応フィルタ係数更新部180は、適応最小平均自乗フィルタ(Filtered-X LMS)を用いた適応制御を適用する。ここでは、適応フィルタ係数更新部180は、残留信号e(n)に基づき設定された評価関数Jを最小とするように適応フィルタ係数Wを更新する。以下に、適応フィルタ係数更新部180において、適応フィルタ係数Wを更新する更新式の導き方について説明する。
【0071】
評価関数Jを式(18)のように定義する。つまり、評価関数Jは、残留信号検出部160により検出される残留信号eの二乗とする。この評価関数Jが最小となるような制御信号y(n)を求める。
【0072】
【数18】

【0073】
次に、勾配ベクトル▽(n)を式(19)に従って算出する。勾配ベクトル▽(n)は、評価関数J(n)を適応フィルタ係数W(n)で偏微分して得られる。そうすると、勾配ベクトル▽(n)は、右辺のように表される。
【0074】
【数19】

【0075】
このようにして算出した勾配ベクトル▽(n)にステップサイズパラメータμを乗じた項を、前回更新された適応フィルタ係数W(n)から減算することにより、適応フィルタ係数W(n+1)を導き出す。このようにして、式を展開すると、式(20)のように表される。
【0076】
【数20】

【0077】
ここで、適応フィルタ係数W(n)は、式(17)にて示したように、振幅フィルタ係数a(n)と位相フィルタ係数φ(n)とにより構成される。つまり、振幅フィルタ係数a(n)の更新式は式(21)のように表され、位相フィルタ係数φ(n)の更新式は式(22)のように表される。ここで、式(21)の(1/Ah)は、振幅フィルタ係数a(n)の更新に対して正規化処理を加えたものである。
【0078】
【数21】

【0079】
つまり、適応フィルタ係数更新部180は、前回更新された振幅フィルタ係数a(n)に対して、置換推定伝達関数Qh、残留信号e(n)および振幅用ステップサイズパラメータμに基づき算出される振幅更新式の更新項を加減算することにより、振幅フィルタ係数a(n+1)を更新する。また、適応フィルタ係数更新部180は、前回更新された位相フィルタ係数φ(n)に対して、置換推定伝達関数Qh、残留信号e(n)および位相用ステップサイズパラメータμφに基づき算出される位相更新式の更新項を加減算することにより、位相フィルタ係数φ(n+1)を更新する。
【0080】
(3.3)Ghマップデータ、PデータおよびQhマップデータの算出更新処理の概要
Ghマップデータ、PデータおよびQhマップデータの算出更新処理の概要について説明する。Ghマップデータ、PデータおよびQhマップデータの算出処理は、製造初期において行うと共に、例えば、エンジン10の停止の都度行うようにする。つまり、Ghマップデータ記憶部210に記憶されるGhマップデータ、Pデータ記憶部220に記憶される負帰還フィードバック要素PおよびQhマップデータ記憶部230に記憶されるQhマップデータは、逐次更新される。
【0081】
まずは、図9に示すように、Ghマップデータを算出する(ステップS1)。続いて、Ghマップデータに基づいて、極配置法を用いて負帰還フィードバック要素Pを算出する(ステップS2)。その後に、Ghマップデータおよび負帰還フィードバック要素Pを用いて、Qhマップデータを算出する。
【0082】
(3.4)Ghマップデータおよび負帰還フィードバック要素Pの算出更新処理
図10を参照して、GhマップデータおよびPデータの算出更新処理についての機能ブロックを説明する。図10に示すように、能動型振動騒音抑制装置100において、GhマップデータおよびPデータの算出更新処理に用いられる構成は、周波数設定部310と、フィルタ係数設定部320と、第一制御信号生成部120と、第三制御信号生成部140と、発生装置150と、残留信号検出部160と、Ghマップデータ算出更新部330と、Pデータ算出更新部340と、Ghマップデータ記憶部210と、Pデータ記憶部220を備えている。
【0083】
周波数設定部310は、Ghマップデータを算出(同定)するための第一制御信号y1(n)に用いる周波数fを設定する。例えば、エンジン10の周波数帯のうち30Hz〜70Hzの範囲を制御対象周波数とする。フィルタ係数設定部320は、Ghマップデータを算出(同定)するための第一制御信号y1(n)に用いる振幅フィルタ係数a(n)および位相フィルタ係数φ(n)を設定する。
【0084】
第一制御信号生成部120は、周波数設定部310にて設定された周波数fおよびフィルタ係数設定部320にて設定された各フィルタ係数a(n)(n)に基づいて、式(13)に従って得られる第一制御信号y1(n)を生成する。なお、ここでの第一制御信号生成部120は、上述した第一制御信号生成部120と機能的には同一であるため、同一符号を付している。
【0085】
第三制御信号生成部140は、第一制御信号生成部120にて生成された第一制御信号y1(n)を第三制御信号y3(n)として出力する。ここでは、第二制御信号y2(n)は用いられない。なお、ここでの第三制御信号生成部140は、上述した第三制御信号生成部140と機能的には同一であるため、同一符号を付している。
【0086】
発生装置150は、上述した発生装置150と同一であり、第三制御信号生成部140によって出力された第三制御信号y3(n)(=y1(n))に応じた制御振動や制御音を発生する。そして、評価点20においては、発生装置150によって発生された制御振動等が伝達系Bを介して振動または音Z(n)が伝達される。この振動または音Z(n)は、式(23)で表される。
【0087】
【数22】

【0088】
残留信号検出部160は、上述したとおり、評価点20に配置されており、評価点20における振動または音e(n)を検出する。ここでは、残留信号検出部160により検出される振動または音e(n)は、Z(n)に等しい。
【0089】
Ghマップデータ算出更新部330は、第一制御信号生成部120により生成された第一制御信号y1(n)と、残留信号検出部160により検出された評価点20における振動または音e(n)とに基づいて、第一推定伝達関数Ghの振幅成分Ahおよび位相成分Φhを算出する。このGhマップデータ算出更新部330は、Ghマップデータ記憶部210に初期状態としてGhマップデータを記憶した後においても、Ghマップデータ記憶部210に既に記憶されているGhマップデータを新たに算出したGhマップデータに更新する。
【0090】
Pデータ算出更新部340は、Ghマップデータ算出更新部330により算出された第一推定伝達関数Ghを用いて、上述した極配置法を用いることにより負帰還フィードバック要素Pを算出する。そして、Pデータ算出更新部340は、Pデータ記憶部220に初期状態としてPデータを記憶した後においても、Pデータ記憶部220に既に記憶されているPデータを新たに算出したPデータに更新する。このPデータ算出更新部340は、Ghマップデータ算出更新部330が第一推定伝達関数Ghを更新するたびに、Pデータの更新を行う。
【0091】
このように、Ghマップデータ記憶部210に記憶されるGhマップデータおよびPデータ記憶部220に記憶されるPデータは、例えばエンジン10の停止の都度、更新するようにしているため、現在の第一実伝達関数Gの状態に適合したデータとなる。つまり、現在記憶されているGhマップデータおよびPデータは、第一実伝達関数Gが経年変化したとしても、その経年変化に追従して更新されている。
【0092】
(3.5)Qhマップデータの算出更新処理
次に、図11を参照して、Qhマップデータの算出更新処理についての機能ブロックを説明する。ここで、Qhマップデータは、GhマップデータおよびPデータに基づいて、演算により算出することができる。つまり、上述したGhマップデータおよびPデータの算出更新処理の後に、Qhマップデータは演算により逐次更新することができる。ただし、第一推定伝達関数Ghを用いているため、置換推定伝達関数Qhが実際の置換伝達関数Qからさらにずれが生じるおそれがある。そこで、本実施形態においては、Qhマップデータを実際に測定して、直接的に、置換推定伝達関数Qhを算出更新している。
【0093】
図11に示すように、能動型振動騒音抑制装置100において、Qhマップデータの算出更新処理に用いられる構成は、周波数設定部310と、フィルタ係数設定部320と、第一制御信号生成部120と、第二制御信号生成部130と、第三制御信号生成部140と、発生装置150と、残留信号検出部160と、Qhマップデータ算出更新部350と、Qhマップデータ記憶部230とを備えている。
【0094】
周波数設定部310は、Qhマップデータを算出(同定)するための第一制御信号y1(n)に用いる周波数fを設定する。フィルタ係数設定部320は、Qhマップデータを算出(同定)するための第一制御信号y1(n)に用いる振幅フィルタ係数a(n)および位相フィルタ係数φ(n)を設定する。第一制御信号生成部120は、周波数設定部310にて設定された周波数fおよびフィルタ係数設定部320にて設定された各フィルタ係数a(n)(n)に基づいて、式(13)に従って得られる第一制御信号y1(n)を生成する。
【0095】
第二制御信号生成部130は、第三制御信号生成部140により生成された第三制御信号y3(n−1)に対して、第一推定伝達関数Ghおよび負帰還フィードバック要素Pを介して伝達されたとした場合の第二制御信号y2(n)を生成する。第三制御信号生成部140は、第一制御信号y1(n)から第二制御信号y2(n)を減算した第三制御信号y3(n)を制御信号として出力する。
【0096】
発生装置150は、上述した発生装置150と同一であり、第三制御信号生成部140によって出力された第三制御信号y3(n)(=y1(n)−y2(n))に応じた制御振動や制御音を発生する。そして、評価点20においては、発生装置150によって発生された制御振動等が伝達系Bを介して振動または音Z(n)が伝達される。
【0097】
残留信号検出部160は、上述したとおり、評価点20に配置されており、評価点20における振動または音e(n)を検出する。ここでは、残留信号検出部160により検出される振動または音e(n)は、Z(n)に等しい。
【0098】
Qhマップデータ算出更新部350は、第一制御信号生成部120により生成された第一制御信号y1(n)と、残留信号検出部160により検出された評価点20における振動または音e(n)とに基づいて、置換推定伝達関数Qhの振幅成分Ahおよび位相成分Φhを算出する。このQhマップデータ算出更新部350は、Qhマップデータ記憶部230に初期状態としてQhマップデータを記憶した後においても、Qhマップデータ記憶部230に既に記憶されているQhマップデータを新たに算出したQhマップデータに更新する。
【0099】
このように、Qhマップデータ記憶部230に記憶されるQhマップデータは、例えばエンジン10の停止の都度、更新するようにしているため、現在の第一実伝達関数Gの状態に適合するとともに、第二制御信号生成部130を考慮したデータとなる。つまり、現在記憶されているQhマップデータは、第一実伝達関数Gが経年変化したとしても、その経年変化に追従して更新されている。
【0100】
<4.マップ制御に適用した場合の能動型振動騒音抑制装置>
次に、図3を用いて説明した制御概念を、マップ制御(フィードフォワード制御)に適用した場合の能動型振動騒音抑制装置200について、図12〜図14を参照して説明する。
【0101】
(4.1)制御ブロック線図
まずは、この能動型振動騒音抑制装置200の制御ブロック線図について、図12および図13を参照して説明する。能動型振動騒音抑制装置200を構成するフィルタ係数設定部420は、Qhマップデータ記憶部230に記憶されている置換伝達関数Qの推定値Qhと、振動騒音発生源により発生される振動または騒音の周波数fを用いて、振幅フィルタ係数aと位相フィルタ係数φを算出する。
【0102】
そして、第一制御信号生成部120は、適応フィルタ係数Wと周波数fとに基づいて、第一制御信号y1を生成する。第二制御信号生成部130は、第三制御信号y3に対して、第一推定伝達関数Ghおよび負帰還フィードバック要素Pを介して伝達されたとした場合の第二制御信号y2を生成する。ここで、第一推定伝達関数Ghおよび負帰還フィードバック要素Pは、逐次算出しておく。
【0103】
第三制御信号生成部140は、第一制御信号y1から第二制御信号y2を減算した第三制御信号y3を生成する。そして、第三制御信号生成部140は、第三制御信号y3を制御信号として出力する。この出力された第三制御信号y3は、第一実伝達関数Gを介して評価点20に伝達される。評価点20においては、第三制御信号y3が第一実伝達関数Gを介して伝達された制御振動または制御音Zと、振動騒音発生源10が発生した振動または騒音が第二実伝達関数Hを介して伝達された振動または騒音Xとが干渉する。
【0104】
ここで、図12において一点鎖線にて囲む領域は、置換伝達関数Qに相当する。つまり、図12は、図13のように表すことができる。図13によれば、評価点20において、第一制御信号y1が置換伝達関数Qを介して伝達された制御振動または制御音Zと、振動騒音発生源10が発生した振動または騒音が第二実伝達関数Hを介して伝達された振動または騒音Xとが干渉している。
【0105】
つまり、マップ制御においても、第一制御系の伝達関数が、第一実伝達関数Gから置換伝達関数Qに置換されたものと見なすことができる。そして、第一実伝達関数Gの実共振周波数fG0が制御対象周波数範囲に含まれているとしても、上述した極配置法を用いることにより、置換伝達関数Qの共振周波数fQ0を制御対象周波数範囲以外に変更することができる。つまり、置換伝達関数Qの位相Φは、制御対象周波数範囲において大きく変動しない。従って、第一実伝達関数Gの位相Φと第一推定伝達関数Ghの位相Φhとが大きくずれるとしても、置換伝達関数Qの位相Φと置換伝達関数Qの推定値Qhの位相Φhとは、大きくずれることを抑制できる。従って、制御対象周波数範囲において、評価点20における振動や騒音を確実に抑制できる。特に、経時変化や温度変化などにより第一伝達系が変化したとしても、確実に振動や騒音を抑制できる。
【0106】
(4.2)制御全体の機能ブロック
上述した制御ブロック線図を実際の機能ブロックとして適用する場合について、図14を参照して説明する。ここで、実際の機能ブロックとしては、適応制御の場合と同様に、自動車を例にあげて説明する。
【0107】
この能動型振動騒音抑制装置200は、周波数算出部110と、第一制御信号生成部410と、第二制御信号生成部130と、第三制御信号生成部140と、発生装置150と、フィルタ係数設定部420と、Ghマップデータ記憶部210と、Pデータ記憶部220と、Qhマップデータ記憶部230とを備えている。ここで、上述した図14に示す適応制御の場合と同一構成については同一符号を付して詳細な説明を省略する。
【0108】
第一制御信号生成部410と、周波数算出部110にて算出された周波数fと、後述するフィルタ係数設定部420により設定された振幅フィルタ係数a(n)および位相フィルタ係数φ(n)とに基づいて、式(23)に従って得られる正弦波としての第一制御信号y1(n)をマップ制御によって生成する。ここで、添字の(n)は、サンプリング数(時間ステップ)を表す添字である。つまり、式(23)より明らかなように、第一制御信号y1(n)は、周波数fと、適応フィルタ係数W(n)としての振幅フィルタ係数a(n)および位相フィルタ係数φ(n)とを構成成分に含む、時刻t(n)における信号である。
【0109】
【数23】

【0110】
フィルタ係数設定部420と、Qhマップデータ記憶部230に記憶された置換推定伝達関数Qhのマップデータの中から、周波数算出部110にて算出された周波数fに応じた置換推定伝達関数Qhを選択する。置換推定伝達関数Qhのマップデータには、置換推定伝達関数Qhが記憶されている。置換推定伝達関数Qhは、周波数fに応じた振幅成分Ahと位相成分Φhとにより表される。
【符号の説明】
【0111】
10:振動騒音発生源、 20:評価点、 100,200:能動型振動騒音抑制装置
110:周波数算出部、 120:第一制御信号生成部、 130:第二制御信号生成部
140:第三制御信号生成部、 150:発生装置、 160:残留信号検出部
170:Qhデータ選択部、 180:適応フィルタ係数更新部
210:Ghマップデータ記憶部、 220:Pデータ記憶部
230:Qhマップデータ記憶部、 310:周波数設定部
320:フィルタ係数設定部、 330:Ghマップデータ算出更新部
340:Pデータ算出更新部、 350:Qhマップデータ算出更新部
410:第一制御信号生成部、 420:フィルタ係数設定部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
制御信号に応じた制御振動または制御音を発生して、評価点における振動または騒音を能動的に抑制する能動型振動騒音抑制装置であって、
振動または騒音の発生源の周波数を算出する周波数算出部と、
前記制御信号を出力してから前記制御振動または制御音を発生する制御振動制御音発生装置を介して前記評価点までの第一伝達系における第一実伝達関数Gの推定値Ghを算出する第一伝達関数推定値算出部と、
極配置法を用いて、前記第一伝達系の伝達関数を第一実伝達関数Gに対して負帰還フィードバック要素Pを付加した状態である置換伝達関数Qに置換した場合に、前記第一実伝達関数Gの推定値Ghに基づいて、前記第一伝達系における実共振周波数fG0を制御対象周波数範囲以外の周波数fQ0に置換するための前記負帰還フィードバック要素Pを算出するフィードバック要素算出部と、
前記第一実伝達関数Gの推定値Ghおよび前記負帰還フィードバック要素Pに基づいて、前記置換伝達関数Qの推定値Qhを算出する置換伝達関数推定値算出部と、
前記置換伝達関数Qの推定値Qhにより算出された第一フィルタ係数と前記周波数算出部により算出された前記周波数とに基づいて第一制御信号y1を生成する第一制御信号生成部と、
前記第一制御信号y1、前記負帰還フィードバック要素Pおよび前記周波数に基づいて第二制御信号y2を生成する第二制御信号生成部と、
前記第一制御信号y1から前記第二制御信号y2を減算した第三制御信号y3を生成し、かつ、前記第三制御信号y3を前記制御信号として出力する第三制御信号生成部と、
を備える能動型振動騒音抑制装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記置換伝達関数推定値算出部は、前記第三制御信号生成部が前記第一制御信号y1から前記第二制御信号y2を減算した前記第三制御信号y3を前記制御信号として出力した場合に、前記第三制御信号y3による前記評価点における振動または音に基づいて前記置換伝達関数Qの推定値Qhを算出する能動型振動騒音抑制装置。
【請求項3】
請求項1または2において、
前記第一伝達関数推定値算出部は、前記第三制御信号生成部が前記第一制御信号y1を前記制御信号として出力した場合に、前記第一制御信号y1による前記評価点における振動または音に基づいて前記第一実伝達関数Gの推定値Ghを更新し、
前記フィードバック要素算出部は、更新された前記第一実伝達関数Gの推定値Ghに基づいて前記負帰還フィードバック要素Pを更新する能動型振動騒音抑制装置。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか一項において、
前記能動型振動騒音抑制装置は、前記評価点において前記発生源による振動または騒音と前記制御振動または制御音との干渉による残留信号を検出する残留信号検出部をさらに備え、
前記第一制御信号生成部は、前記置換伝達関数Qの推定値Qhにより算出された第一フィルタ係数と、前記周波数算出部により算出された前記周波数と、前記残留信号検出部により検出された前記残留信号とに基づいて、適応制御法により前記第一制御信号y1を生成する能動型振動騒音抑制装置。
【請求項5】
請求項1〜3の何れか一項において、
前記第一制御信号生成部は、前記置換伝達関数Qの推定値Qhにより算出された第一フィルタ係数と前記周波数算出部により算出された前記周波数とに基づいて、フィードフォワード制御法により前記第一制御信号y1を生成する能動型振動騒音抑制装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2012−168282(P2012−168282A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−27626(P2011−27626)
【出願日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【出願人】(000219602)東海ゴム工業株式会社 (1,983)
【Fターム(参考)】