説明

脂環式オレフィン重合体から成る樹脂膜

【課題】面内膜厚均一性、透明性、密着性が高く、低水蒸気透過性であって、平坦化性に優れ、絶縁性が高い、各種電子部品の封止膜、絶縁膜又は平坦化膜などに好適な樹脂膜を提供する。
【解決手段】極性基含有脂環式オレフィン由来の構造単位と非極性脂環式オレフィン由来の構造単位とを有してなり、ポリスチレン換算重量平均分子量が3,000以上10,000未満である脂環式オレフィン重合体を含有する樹脂膜。特に極性基含有脂環式オレフィン由来の構造単位と非極性脂環式オレフィン由来の構造単位の合計に対する、極性基含有脂環式オレフィン由来の構造単位の割合が、0.005〜40モル%であるのが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子部品に用いることのできる樹脂膜及びその用途に関する。さらに詳しくは、本発明は、電子部品の封止膜、絶縁膜及び平坦化膜として好適な樹脂膜及びその利用に関するものである。
【背景技術】
【0002】
有機エレクトロルミネッセンス素子や液晶表示素子などの各種表示素子、集積回路素子、固体撮像素子、カラーフィルター、ブラックマトリックスなどの電子部品には、その劣化や損傷を防止するための封止膜、素子表面や配線を平坦化するための平坦化膜、電気絶縁性を保つための絶縁膜等、種々の機能性膜が設けられている。こうした機能性膜は、無機材料や有機材料を単独で又は複合して用いて形成される。そして、特に表示素子、固体撮像素子及びカラーフィルターに用いる場合、機能性膜は透明性に優れたものであることが求められる。
【0003】
脂環式オレフィン重合体は低誘電性、低吸水性、耐溶剤性、透明性などに優れた成形品を提供することが知られており、例えば、特開2003−059645号公報では、有機エレクトロルミネッセンス素子用封止膜として、脂環式オレフィン重合体を用いることが提案されている。前記特許文献1に具体的に記載されている封止膜は、極性基を有しない脂環式オレフィン重合体であって、重量平均分子量が10,000以上の比較的高分子量の重合体を用いたものである。特許文献1で実際に採用されている好ましい封止膜の形成方法は、事前にフィルムを形成して、これを素子に熱圧着させるフィルム積層法である。しかしながら、フィルム積層法による膜形成では、脂環式オレフィン重合体のガラス転移温度(Tg)以上の温度に加熱することが必要である。一般に、重量平均分子量の高い重合体はTgも高くなる傾向にある。しかし、高い温度に晒すことは、封止膜の透明性を損なうことにつながる問題があった。
また、特開2004−212450号公報では、電子部品用の保護膜、平坦化膜、絶縁膜などに好適な、極性基を有する脂環式オレフィン重合体を用いたパターン状の樹脂膜が提案されている。ここでは、脂環式オレフィン重合体を他の成分と共に溶剤に溶解し、基板に塗布し、次いで活性放射線を照射することによってパターン化樹脂膜を形成している。この方法によれば、溶剤を揮発させるのに必要な温度に加熱することが求められるが、樹脂のTgより低い温度で溶剤を揮発させることが可能なため、透明性の維持が容易である。
透明性に加え、封止膜、絶縁膜及び平坦化膜などの機能性膜には、それぞれの物性が求められる。例えば、封止膜であれば低水蒸気透過性が求められ、絶縁膜であれば低誘電性(高い電気絶縁性)が求められ、平坦化膜であれば段差に追従しない、優れた平坦化性が求められる。そして、これらの各膜は、一つの電子部品に同時に搭載されることがあり、そのような場合、膜同士の密着性を向上させる観点から、各膜の材料がより近いものであることが望まれている。
【特許文献1】特開2003−059645号公報
【特許文献2】特開2004−212450号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者は、かかる従来技術の下、電子部品用の樹脂膜として、低水蒸気透過性、高平坦化性、低誘電性を兼ね備えた、封止膜、絶縁膜及び平坦化膜のいずれにも好適な樹脂膜を得るべく、特許文献1及び2に記載された、脂環式オレフィン重合体を用いた検討を行った。特許文献1には、脂環式オレフィン重合体と溶剤とを用いた樹脂溶液を調製し、これを素子表面に塗布して封止膜を形成することも可能である旨記載されている。しかし、特許文献1の実施例に具体的に記載された高分子量の、極性基を有しない脂環式オレフィン重合体を溶剤に溶解して樹脂膜を形成しても、平坦化性に劣り、また、表示素子に多用されているガラス基板などへの密着性も十分ではなかった。特許文献2に具体的に記載された脂環式オレフィン重合体は、水蒸気透過性が十分には低くなかった。そしてこれらの問題が、公知の脂環式オレフィン重合体の重量平均分子量や極性基の割合などのバランスに起因することを確認した。
こうした知見に基づき、本発明者は更なる検討を行った結果、重量平均分子量が特定範囲に制御された、特定の構造単位を有する脂環式オレフィン重合体を用いると、封止膜、絶縁膜及び平坦化膜などに必要な低水蒸気透過性、高平坦化性、低誘電性などを兼ね備えた透明な樹脂膜の得られることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0005】
かくして本発明によれば、
(I)下記一般式(1)又は下記一般式(2)で表わされる構造単位(a)と、下記一般式(3)又は下記一般式(4)で表される構造単位(b)とを有し、重量平均分子量が3,000以上10,000未満であることを特徴とする脂環式オレフィン重合体から成る樹脂膜、
【0006】
【化1】

【0007】
【化2】

【0008】
(式(1)及び(2)中、R1とR2はそれぞれ独立して水素原子又は炭素数1〜10の炭化水素基を示し、R3とR4はそれぞれ独立して水素原子、炭素数1〜10の炭化水素基又は極性基であって、R3とR4のうちいずれか一方のみは極性基である。n=0〜2の整数を示す。)
【0009】
【化3】

【0010】
【化4】

【0011】
(式(3)及び(4)中、R5〜R8はそれぞれ独立して水素原子又は炭素数1〜10の炭化水素基を示す。m=0〜2の整数を示す。)
(II)構造単位(a)及び構造単位(b)の合計に対する構造単位(a)の割合が0.005〜40モル%であることを特徴とする前記(I)に記載の脂環式オレフィン重合体から成る樹脂膜、
(III)構造単位(a)及び構造単位(b)の合計に対する一般式(2)で表される構造単位及び一般式(4)で表される構造単位の合計の割合が90モル%以上であることを特徴とする前記(I)又は(II)に記載の脂環式オレフィン重合体から成る樹脂膜、
(IV)脂環式オレフィン重合体と溶剤とを含有する樹脂溶液を用いて成る前記(I)〜(III)のいずれかに記載の樹脂膜、
(V)基板に、前記樹脂溶液を塗布する工程を経て形成されたものである前記(IV)記載の樹脂膜、
(VI)前記(I)〜(V)のいずれかに記載の樹脂膜を含んで成る電子部品、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明の樹脂膜は、面内膜厚均一性が良好である上、透明性や密着性が高く、低水蒸気透過性であって、平坦化性に優れ、絶縁性が高く、封止性に優れた樹脂膜であり、例えば集積回路素子、表示素子、固体撮像素子などの電子部品の製造における封止膜、絶縁膜又は平坦化膜などの形成に好適に用いられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
本発明の樹脂膜は特定の構造単位を有する脂環式オレフィン重合体から成る。特定の構造単位は、一般式(1)又は一般式(2)で表わされる構造単位(a)(以下、単に「構造単位(a)」ともいう。)と、一般式(3)又は一般式(4)で表される構造単位(b)(以下、単に「構造単位(b)」ともいう。)とである。
【0014】
【化5】

【0015】
【化6】

【0016】
(式(1)及び(2)中、R1とR2はそれぞれ独立して水素原子又は炭素数1〜10の炭化水素基を示し、R3とR4はそれぞれ独立して水素原子、炭素数1〜10の炭化水素基又は極性基であって、R3とR4のうちいずれか一方のみは極性基である。n=0〜2の整数を示す。)
【0017】
【化7】

【0018】
【化8】

【0019】
(式(3)及び(4)中、R5〜R8はそれぞれ独立して水素原子又は炭素数1〜10の炭化水素基を示す。m=0〜2の整数を示す。)
【0020】
前記式(1)〜(4)における炭素数1〜10の炭化水素基としては、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基などが挙げられ、好ましくは炭素数が1〜6のアルキル基、好ましくは炭素数1〜4のアルキル基、より好ましくは炭素数1〜2のアルキル基である。アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、iso−プロピル基、tert−ブチル基、ヘキシル基、ヘプチル基などが挙げられ、好ましくはエチル基である。シクロアルキル基としては、例えば、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、2−メチルシクロヘキシル基、シクロオクチル基などが挙げられる。アリール基としては、例えば、フェニル基、2−メチルフェニル基、ベンジル基などが挙げられる。
【0021】
前記式(1)と(2)における極性基としては、カルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基、ヒドロキシル基等の酸素原子を有する極性基;第一級アミノ基、第二級アミノ基、第一級アミド基、第二級アミド基(N−アルキルアミド基)等の窒素原子を有する極性基;チオール基等のイオウ原子を有する極性基のようなプロトン性極性基;エステル基(アルコキシカルボニル基及びアリーロキシカルボニル基を総称していう。)、エポキシ基、ハロゲン原子、ニトリル基、アルコキシ基、アクリロイル基、R3とR4とから構成されたカルボニルオキシカルボニル基(ジカルボン酸の酸無水物残基)、N−置換イミド基、カルボニル基、第三級アミノ基、スルホン基のような非プロトン性極性基;である。
これらの中でも、他の材料に対する密着性が高く、耐熱性が高い重合体が得られる点から、プロトン性極性基が好ましく、酸素原子を有する極性基及び窒素原子を有する極性基がより好ましく、酸素原子を有する極性基が特に好ましく、カルボキシル基がとりわけ好ましい。
本発明における脂環式オレフィン重合体の構造単位(a)では極性基が1つ存在するが、そのような極性基の存在は、本発明の樹脂膜が、基板への高密着性と低水蒸気透過性とをバランスよく発揮するのに寄与するものと考えられる。
【0022】
構造単位(a)と構造単位(b)との合計のうち、構造単位(a)の割合は、好ましくは0.005〜40モル%、より好ましくは0.01〜30モル%、特に好ましくは0.02〜20モル%である。構造単位(a)の割合が0.005〜40モル%であれば、密着性と耐熱性が高く、水蒸気透過性が低い樹脂膜を容易に得ることができる。
また、構造単位(a)と構造単位(b)との合計の割合は、脂環式オレフィン重合体の全構造単位中の65モル%以上であることが好ましい。このような脂環式オレフィン重合体は、樹脂膜を構成するための脂環式オレフィン重合体として好適である。
【0023】
構造単位(a)と構造単位(b)との合計に対する前記一般式(2)で表される構造単位及び前記一般式(4)で表される構造単位の合計の割合、すなわち主鎖不飽和結合の水素化率は、高耐熱性を得る観点から、好ましくは90モル%以上、より好ましくは95モル%以上、特に好ましくは98モル%以上である。耐熱性が高いと、成形加工時や製品としての使用時の加熱によってその特性が劣化することを防止又は抑制される、という利点がある。
【0024】
本発明の樹脂膜に用いる脂環式オレフィン重合体は、下記一般式(5)で表される極性基含有脂環式オレフィンと、下記一般式(6)で表される無極性の脂環式オレフィンとを、メタセシス触媒の存在下に開環重合させることで得ることができる。さらに重合反応後に、必要に応じて水素添加反応を行うこともできる。また、ニトリル基、エステル基、アミド基、酸無水物基等の加水分解によってカルボキシル基を生成する極性基を有する脂環式オレフィン重合体を得た後、これを加水分解してカルボキシル基に変換することもできる。
【0025】
【化9】

【0026】
式(5)中、R1とR2はそれぞれ独立して水素原子又は炭素数1〜10の炭化水素基を示し、R3とR4はそれぞれ独立して水素原子、炭素数1〜10の炭化水素基又は極性基であって、R3とR4のうちいずれか一方のみは極性基である。n=0〜2の整数を示す。
炭素数1〜10の炭化水素基及び極性基は上述したものが挙げられる。
【0027】
【化10】

【0028】
式(6)中、R5〜R8はそれぞれ独立して水素原子又は炭素数1〜10の炭化水素基を示す。m=0〜2の整数を示す。
炭素数1〜10の炭化水素基としては上述と同様のものが挙げられる。
【0029】
本発明において、開環重合は、メタセシス触媒の存在下に行うことができる。メタセシス触媒としては、例えば、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、イリジウム、オスミウム、白金などの白金族化合物;タングステン、モリブデン又はレニウムと、周期表1族、2族、4族、12族、13族又は14族元素との化合物であって、該元素−炭素結合又は該元素−水素結合を有するもの;チタン、バナジウム、ジルコニウム、タングステン、モリブデンなどのハロゲン化物又はアセチルアセトン化物と、有機アルミニウム化合物とからなる触媒;ビス(シクロペンタジエニル)ルテニウム、ビス(トリシクロヘキシルホスフィン)ベンジリデンルテニウムジクロリド、[(p−シメン)(CH3CN)3Ru](BF4)2などの有機化合物を配位子として有するルテニウム化合物などを挙げることができる。これらの中で、モリブデン、ルテニウム、オスミウムなどを含有するメタセシス触媒は、酸素や空気中の水分に対して比較的安定であって、失活しにくいので、大気下でも生産が可能であるために好ましく、中でもルテニウムを含有するメタセシス触媒は、重合活性が高く特に好ましい。
【0030】
本発明において、脂環式オレフィン重合体の水素添加反応は、水素添加触媒の存在下に行うことができる。水素添加触媒としては、例えば、チタン、コバルト、ニッケルなどの有機酸塩又はアセチルアセトン塩とリチウム、マグネシウム、アルミニウム、スズなどの有機金属化合物とを組み合わせた均一系触媒;パラジウム、白金、ルテニウム、ロジウムなどの貴金属を担体に担持した固体触媒;ロジウム、レニウム、ルテニウムなどの貴金属錯体触媒;周期表8〜10族遷移金属化合物を主成分とする均一系水素化触媒;周期表8〜10族遷移金属を担体に担持した担持型触媒などを挙げることができる。
【0031】
構造単位(a)は、上記一般式(1)又は上記一般式(2)で表される構造単位であって、上記一般式(5)で表される極性基含有脂環式オレフィンにより得ることができる。
極性基がプロトン性である極性基含有脂環式オレフィンの好ましい具体例としては、5−カルボキシビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−メチル−5−カルボキシビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−カルボキシメチル−5−カルボキシビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、8−カルボキシテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、8−メチル−8−カルボキシテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン等のカルボキシル基含有脂環式オレフィン;5−(4−ヒドロキシフェニル)ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−メチル−5−(4−ヒドロキシフェニル)ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、8−(4−ヒドロキシフェニル)テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、8−メチル−8−(4−ヒドロキシフェニル)テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン等のヒドロキシ基含有脂環式オレフィン等が挙げられ、これらの中でもカルボキシル基含有脂環式オレフィンが好ましい。
【0032】
極性基が非プロトン性である極性基含有脂環式オレフィンの好ましい具体例としては、5−アセトキシビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−メトキシカルボニルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−メチル−5−メトキシカルボニルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、8−アセトキシテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、8−メトキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、8−エトキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、8−n−プロポキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、8−イソプロポキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、8−n−ブトキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、8−メチル−8−メトキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、8−メチル−8−エトキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、8−メチル−8−n−プロポキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、8−メチル−8−イソプロポキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、8−メチル−8−n−ブトキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、8−(2,2,2−トリフルオロエトキシカルボニル)テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、8−メチル−8−(2,2,2−トリフルオロエトキシカルボニル)テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン等のエステル基を有する脂環式オレフィン;8−シアノテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、8−メチル−8−シアノテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、5−シアノビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン等のニトリル基を有する脂環式オレフィン;が挙げられる。
非プロトン性極性基としてエステル基やニトリル基を有するこれらの脂環式オレフィンは、加水分解によりプロトン性の極性基を生成することができる。
【0033】
極性基含有脂環式オレフィンとして最も好適な例としては、8−カルボキシテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、8−メチル−8−カルボキシテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エンである。
【0034】
構造単位(b)は、上記一般式(3)又は上記一般式(4)で表される構造単位であって、上記一般式(6)で表される、無極性の脂環式オレフィンにより得ることができる。上記一般式(3)、上記一般式(4)及び上記一般式(6)において、R5〜R8は、それぞれ独立して水素原子又は炭素数1〜10の炭化水素基を示す。炭素数1〜10の炭化水素基としては、前述と同様のものが挙げられる。
【0035】
上記一般式(6)で表される無極性の脂環式オレフィンの好ましい具体例としては、ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン(慣用名:ノルボルネン)、5−エチル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−ブチル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−エチリデン−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−メチリデン−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−ビニル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3,7−ジエン(慣用名:ジシクロペンタジエン)、テトラシクロ[8.4.0.111,14.03,7]ペンタデカ−3,5,7,12,11−ペンタエン、テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]デカ−3−エン(慣用名:テトラシクロドデセン)、8−メチル−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、8−エチル−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、8−メチリデン−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、8−エチリデン−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、8−ビニル−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、8−プロペニル−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、ペンタシクロ[6.5.1.13,6.02,7.09,13]ペンタデカ−3,10−ジエン、シクロペンテン、シクロペンタジエン、1,4−メタノ−1,4,4a,5,10,10a−ヘキサヒドロアントラセン、8−フェニル−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、テトラシクロ[9.2.1.02,10.03,8]テトラデカ−3,5,7,12−テトラエン(1,4−メタノ−1,4,4a,9a−テトラヒドロ−9H−フルオレンともいう)、ペンタシクロ[7.4.0.13,6.110,13.02,7]ペンタデカ−4,11−ジエン、ペンタシクロ[9.2.1.14,7.02,10.03,8]ペンタデカ−5,12−ジエン等が挙げられる。
【0036】
本発明の樹脂膜に用いる脂環式オレフィン重合体には、上記の構造単位(a)及び構造単位(b)以外の構造単位(以下、「他の構造単位」という。)、例えばメタセシス触媒によって開環重合し得る単量体に由来する構造単位が含有されていてもよい。このような他の構造単位を導入するための単量体としては、シクロブテン、シクロペンテン、3−フェニルシクロペンテン、シクロヘプテン、シクロオクテンなどのシクロオレフィン類を用いることができる。
【0037】
本発明に用いる脂環式オレフィン重合体の、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによって40℃のテトラヒドロフラン溶媒で測定される、ポリスチレン換算重量平均分子量(Mw)は、3,000以上10,000未満、好ましくは4,000以上9,500未満、より好ましくは5,000以上9,000未満である。脂環式オレフィン重合体のポリスチレン換算重量平均分子量(Mw)が3,000以上10,000未満である時に特に樹脂膜の透明性、面内膜厚均一性、密着性に優れ、好適である。
脂環式オレフィン重合体のガラス転移温度は、好ましくは20〜250℃、更に好ましくは50〜200℃、特に好ましくは70〜170℃である。ここで、脂環式オレフィン重合体のガラス転移温度は、示差走査熱量計(DSC)により測定することができる。
脂環式オレフィンの開環重合に際して、アリルクロリド、アリルアルコール、アクリルアミドなどのビニル化合物;1,6−ヘプタジエン、1,5−ヘキサジエンなどのジエン化合物;1−ヘキセンなどのα−オレフィン化合物;のような分子量調整剤を、モノマー全量に対して0.1〜10モル%程度を添加すると開環重合体の分子量の調整が容易になる。用いる分子量調整剤の量が少ない場合は比較的高い重量平均分子量の重合体が得られ、逆に多い場合は、比較的低い重量平均分子量の重合体が得られる。
【0038】
本発明の樹脂膜には、上述した脂環式オレフィン重合体以外に必要に応じて架橋剤、感放射線化合物、酸化防止剤、その他添加剤を含有させることができる。
【0039】
架橋剤は、脂環式オレフィン重合体の極性基の種類に応じて選択すればよく、該脂環式オレフィン重合体の極性基と反応し得る官能基を分子内に2つ以上、好ましくは3つ以上有するものが好適に用いられる。脂環式オレフィン重合体がプロトン性極性基を含有する場合には、好ましい官能基としては、例えば、アミノ基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、エポキシ基、オキセタニル基、イソシアネート基等が挙げられ、更に好ましくはアミノ基、エポキシ基、オキセタニル基、イソシアネート基であり、特に好ましくはエポキシ基とオキセタニル基である。
エポキシ基を有する架橋剤としては、2つ以上のエポキシ基を有するエポキシ化合物ものが好ましく、エポキシ基を3つ以上有するエポキシ化合物がより好ましく、特に脂環式オレフィン重合体との相溶性の良好さから、脂環式構造を有し、エポキシ基を3つ以上有する多官能エポキシ化合物が好ましい。エポキシ化合物としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ポリフェノール型エポキシ樹脂、環状脂肪族エポキシ樹脂、脂肪族グリシジルエーテル、エポキシアクリレート重合体等を挙げることができる。
オキセタニル基を有する架橋剤としては、2つ以上のオキセタニル基を有するオキセタニル化合物ものが好ましく、特に脂環式オレフィン重合体との相溶性の良好さから、脂環式構造を有し、オキセタニル基を2つ以上有する多官能オキセタニル化合物が好ましい。オキセタニル化合物としては、ビスオキセタン類、トリスオキセタン類、ノボラック型オキセタン類、カリックスアレーン型オキセタン類、カルド型オキセタン類、ポリヒドロキシスチレン型オキセタン類、シルセスキオキサン等のシリコーン樹脂類などの水酸基を有する樹脂とのエーテル化合物等が挙げられる。
架橋剤の分子量は、加熱時の安定性やゲル化の効率の点から、通常100〜100,000、好ましくは500〜50,000、より好ましくは1,000〜10,000であるのが良い。
架橋剤の使用量は、使用目的に応じて選択すればよく、脂環式オレフィン重合体100重量部に対し、通常1〜1,000重量部、好ましくは5〜500重量部、より好ましくは10〜100重量部である。架橋剤の使用量が脂環式オレフィン重合体100重量部に対して1〜1,000重量部であると、形成される樹脂膜の耐熱性が高度に改善され好適である。
【0040】
感放射線化合物は、活性放射線を用いて樹脂膜をパターン化する場合に用いられる。感放射線化合物は、紫外線や電子線等の活性放射線を吸収し、化学反応を引き起こすことのできる化合物である。本発明においてプロトン性極性基を有する脂環式オレフィン重合体を使用する場合には、そのアルカリ溶解性を制御できるものが好ましい。
感放射線化合物としては、例えば、フォトリソグラフィ用の感放射線性樹脂組成物中の光酸発生剤として広く用いられているアセトフェノン化合物、トリアリールスルホニウム塩、キノンジアジド化合物等のアジド化合物等が挙げられるが、好ましくはアジド化合物、特に好ましくはキノンジアジド化合物である。
感放射線化合物の使用量は、脂環式オレフィン重合体100重量部に対して、通常1〜100重量部、好ましくは5〜50重量部、より好ましくは10〜40重量部の範囲である。感放射線化合物の使用量が脂環式オレフィン重合体100重量部に対して1〜100重量部であると、基板上に形成させた樹脂膜をパターン化する際に、放射線照射部と放射線未照射部との溶解度差が大きくなり、現像によるパターン化が容易で、且つ、放射線感度も高くなるので好適である。
【0041】
酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤などが挙げられる。
例えば、フェノール系酸化防止剤としては、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール、p−メトキシフェノール、スチレン化フェノール、n−オクタデシル−3−(3',5'−ジ−tert−ブチル−4'−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、2,2'−メチレン−ビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、2−tert−ブチル−6−(3'−tert−ブチル−5'−メチル−2'−ヒドロキシベンジル)−4−メチルフェニルアクリレート、4,4'−ブチリデン−ビス−(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4'−チオ−ビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、アルキル化ビスフェノール等を挙げることができる。リン系酸化防止剤としては、亜リン酸トリフェニル、亜リン酸トリス−(ノニルフェニル)、イオウ系酸化防止剤としては、チオジプロピオン酸ジラウリルなどが挙げられる。これらの中でも、加熱時の透明性維持の観点から、フェノール系酸化防止剤が好ましく、中でも、ペンタエリスリトールテトラキス(3−[3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル]プロピオネート)(イルガノックス(登録商標)1010)が好ましい。
【0042】
その他添加剤としては、例えば、増感剤、界面活性剤、潜在的酸発生剤、密着助剤、帯電防止剤、消泡剤、顔料、染料等を挙げることができる。
増感剤としては、例えば、2H−ピリド−(3,2−b)−1,4−オキサジン−3(4H)−オン類、10H−ピリド−(3,2−b)−1,4−ベンゾチアジン類、ウラゾール類、ヒダントイン類、バルビツール酸類、グリシン無水物類、1−ヒドロキシベンゾトリアゾール類、アロキサン類、マレイミド類等が好ましく挙げられる。
【0043】
界面活性剤は、ストリエーション(塗布筋あと)の防止、塗布性の向上等の目的で使用され、例えば、ノニオン系界面活性剤;フッ素系界面活性剤;シリコーン系界面活性剤;(メタ)アクリル酸共重合体系界面活性剤等が挙げられる。
【0044】
潜在的酸発生剤は、本発明の樹脂膜の耐熱性及び耐薬品性を向上する目的で使用され、例えば、加熱により酸を発生するカチオン重合触媒であり、スルホニウム塩、ベンゾチアゾリウム塩、アンモニウム塩、ホスホニウム塩等が挙げられる。これらの中でも、スルホニウム塩及びベンゾチアゾリウム塩が好ましい。密着助剤としては、例えば、官能性シランカップリング剤等が挙げられ、その具体例としては、トリメトキシシリル安息香酸、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、γ−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等が挙げられる。これらの中で、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシランを好適に用いることができる。
【0045】
本発明の樹脂膜の製造方法に格別な制限はないが、操作性の良好さ、樹脂膜の厚み制御の容易さ、樹脂膜の面内膜厚均一性の観点から、脂環式オレフィン重合体と必要に応じて添加される成分と溶剤とを混合した樹脂溶液を用いて形成するのが好ましく、特に固形分濃度が、通常1〜70重量%、好ましくは5〜50重量%、より好ましくは10〜40重量%である樹脂溶液を用いるのが良い。
溶剤は、用いる脂環式オレフィン重合体が溶解するものであれば、格別な制限はないが、水分含有量及び吸水性などの面から、脂肪族炭化水素化合物;芳香族炭化水素化合物;ハロゲン化炭化水素化合物;アルキレングリコールモノアルキルエーテルアセテート類などのグリコールエーテル系溶剤;などが好ましい例として挙げられる。溶剤は1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
溶剤の使用量は、脂環式オレフィン重合体100重量部に対して、通常20〜10,000重量部、好ましくは50〜5,000重量部、より好ましくは100〜1,000重量部の範囲である。
【0046】
脂環式オレフィン重合体と必要に応じて添加される成分と溶剤との混合方法は、常法に従えばよく、例えば、撹拌子とマグネティックスタラーを使用した撹拌、高速ホモジナイザー、ディスパージョン、遊星撹拌機、二軸撹拌機、ボールミル、三本ロール等を使用して行うことができる。
脂環式オレフィン重合体と必要に応じて添加される成分と溶剤とを、任意の順番で混合した後に、例えば孔径が0.5μm程度のフィルタ等を用いて濾過した後、使用に供することが好ましい。
【0047】
樹脂膜は、通常、上述した樹脂溶液を基板に塗布、乾燥し、必要に応じて樹脂膜中の樹脂を架橋させて得ることができる。
基板は、樹脂溶液に溶解しない成形体であれば特に制限されず、例えば、プリント配線基板、シリコン基板、ガラス基板、プラスチック基板等の電子部品を構成する基板;樹脂フィルムや金属フィルムなどの支持基板;などが挙げられる。また、基板は、薄型トランジスタなどの電子回路や発光体等が搭載されたものであってもよい。
基板として、電子部品を構成する基板を用いた場合、当該基板に樹脂溶液を塗布し、乾燥して得られた樹脂膜は、必要に応じて当該膜中の樹脂が架橋されて、そのまま部品中の機能性膜となる。基板として支持基板を用いた場合、支持基板上に、樹脂溶液を塗布し、乾燥して得られた樹脂膜を、任意の電子部品を構成する基板等にフィルム積層法などによって積層し、必要に応じて積層した樹脂膜中の樹脂を架橋することで、機能性膜が形成された電子部品を得ることができる。
樹脂溶液を基板に塗布する方法としては、例えば、スプレー法、スピンコート法、ロールコート法、ダイコート法、ドクターブレード法、回転塗布法、バー塗布法、スクリーン印刷法、グラビア印刷法、インクジェット法等の各種の方法を採用することができる。この中でも、広い面積に樹脂溶液を短時間でパターン形成できることから、スクリーン印刷法が好ましい。
乾燥の方法は、溶剤の沸点などを考慮して、通常30〜150℃、好ましくは60〜120℃の環境下に、通常0.5〜90分間、好ましくは1〜60分間、より好ましくは1〜30分間の間放置する方法が挙げられる。具体的な手法としては、加熱乾燥、減圧乾燥、風乾など一般的な方法が挙げられる。
樹脂膜中の樹脂の架橋は、架橋剤の種類に応じた方法を採用すれば良く、例えば加熱や光照射によって行うことができる。加熱は、例えば、ホットプレート、オーブン等を用いて行うことができる。加熱温度は、通常100〜250℃であり、加熱時間は、樹脂膜の大きさや厚み及び使用機器等により適宜選択され、例えばホットプレートを用いる場合は、通常5〜60分間、オーブンを用いる場合は、通常10〜90分間の範囲である。加熱は、必要に応じて不活性ガス雰囲気下で行ってもよい。光照射は、露光機などを用いて、紫外線等の光線を照射することによって行う。照射時間は、照射する光の強さや膜の厚みなどを考慮して任意に設定すればよい。
【0048】
フィルム積層法は、例えば、樹脂溶液を支持基板に塗布した後に加熱乾燥により溶剤を除去してBステージフィルムを得、次いで、このBステージフィルムを基板上に積層する方法である。加熱乾燥条件は、各成分の種類や配合割合に応じて異なるが、通常30〜150℃、好ましくは60〜120℃で、通常0.5〜90分間、好ましくは1〜60分間、より好ましくは1〜30分間行えばよい。積層は、加圧ラミネータ、プレス、真空ラミネータ、真空プレス、ロールラミネータ等の圧着機を用いて行うことができる。
【0049】
基板上に形成された樹脂膜はパターン化されていてもよい。樹脂膜をパターン化する方法としては、スクリーン印刷法やインクジェット法などを利用した直接パターン化法や、感放射線化合物を含む樹脂溶液を用いたリソグラフィ法など、公知の方法が挙げられる。
【0050】
このようにして得られる本発明の樹脂膜の厚みは、当該樹脂膜の使用目的に応じて適宜設定でき、通常0.1〜1,000μm、好ましくは0.5〜500μm、より好ましくは0.5〜100μmの範囲である。樹脂膜の厚みが0.1〜1,000μmであるとき、水蒸気透過率が1500g/m・24h以下のものが得られる。
【0051】
本発明の樹脂膜は、表示素子、集積回路素子、固体撮像素子、カラーフィルター、ブラックマトリックスなどの電子部品の製造における封止膜、絶縁膜又は平坦化膜などの形成に用いられる。特に有機EL素子などの表示素子や、これを含む表示装置において、基板上に設けられた素子や配線を覆う状態で設けられる封止膜、絶縁膜又は平坦化膜の形成に好適に用いられる。
本発明の樹脂膜は、その膜厚の均一性が良好である上、透明性や密着性が高く、低水蒸気透過性であって、平坦化性に優れ、絶縁性が高く、樹脂膜と接触する封止内容物が水により腐食や劣化するのを抑制することができ、長期安定駆動可能な電子部品を提供することができる。
【実施例】
【0052】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
なお、水素化率、重量平均分子量、面内膜厚均一性、平坦化性、光線透過率、水蒸気透過率、絶縁性、密着性及び封止性は、以下に示す方法に従って測定した。
(1)水素化率
水素化率、すなわち構造単位(a)及び構造単位(b)の合計に対する一般式(2)で表される構造単位及び一般式(4)で表される構造単位の合計の割合は、日本電子社製の核磁気共鳴装置「JNM−ECA500」を用い、1H−NMRにより測定した。
(2)重量平均分子量(Mw)
重合体の重量平均分子量(Mw)は、高速ゲルパーミエーションクロマトグラフ「HLC−8220GPC」(製品名:東ソー社製)を用い、テトラヒドロフランを溶媒としてポリスチレン換算値を測定した。
(3)面内膜厚均一性
150mm×150mm×1.4mmのガラス基板[コーニング社製、「コーニング1737ガラス」]上に、ステンレススクリーン「ST500」(製品名:東京プロセスサービス社製)を用い、得られた樹脂膜形成材料をマイクロスキージ(マイクロテック社製)を使ってスキージスピード50mm/秒にしてスクリーン印刷機「MT−320TVC型」(製品名:マイクロテック社製)にて塗布した。その後、ホットプレートを用いて80℃30分加熱して膜厚3μmの樹脂膜を形成した。得られた樹脂膜を光学式膜厚計「Nanometrics Nanospec M6500」(製品名:ナノメトリクス・ジャパン社製)にて、面内121点の膜厚測定した。測定点は150mm×150mmのガラス基板を縦横12分割したときの交点を測定点とした。この測定された膜厚に基づいて、以下の式にて算出される値を面内膜厚均一性として評価した。
面内膜厚均一性[%]= (膜厚最大値−膜厚最小値)/(平均膜厚)×100
この値が小さいほど、樹脂膜の基板面内での膜厚が均一であることを意味し、一般に面内膜厚の均一性が高い場合、樹脂溶液の塗布性も良好である。この値が10%未満の時に ○ と、10%以上の時に × と評価した。
(4)平坦化性
2μmの段差を有するシリコン酸化膜基板に、(3)面内膜厚均一性と同様の方法にて、膜厚3μmの樹脂膜を形成した。得られた基板のシリコン酸化膜段差部を、接触式膜厚測定器「P−10」(製品名:KLAテンコール社製)を用いて測定し、段差が0.2μm未満の時を ○、0.2μm以上の時を × と評価した。
(5)光線透過率
ガラス基板[コーニング社製、「コーニング1737ガラス」]上に、(3)面内膜厚均一性と同様の方法にて、膜厚2μmの樹脂膜を形成した。この樹脂膜について、透過率を、分光光度計「V−560」(製品名:日本分光社製)を用いて550nmの波長で測定した。測定値をLambert−Beerの式に基づいて2.0μmの透過率に換算して評価した。光線透過率が高いほど透明性に優れている。
(6)水蒸気透過率
厚み25μmのポリイミドフィルムの「カプトン100H」(製品名:東レ・デュポン社製)上に、(3)面内膜厚均一性と同様の方法にて、膜厚3μmの樹脂膜を形成した。この複合膜について、水蒸気透過度測定装置「PERMATRAN−W」(製品名:MOCON社製)を用い、JIS K 7129 B−1992に準じて温度40℃、90%RHの条件にて水蒸気透過率を測定した。
同様にしてポリイミドフィルム自体の水蒸気透過率を測定することにより、樹脂膜の水蒸気透過率を以下の式に基づいて換算して評価した。
樹脂膜の水蒸気透過率 = (1/複合膜透過率−1/ポリイミドフィルム透過率)-1
水蒸気透過率が低いほど、内部の電子材料を保護する性能が高い。
(7)絶縁性
P型シリコンウェハ(抵抗値1Ω以下)に、面内膜厚均一性を評価した場合と同様の方法にて、膜厚3μmの樹脂膜を形成した。水銀プローバー(フォーディメンションインク社製、CVmap92A)を用い、電流−電圧特性評価を行った。すなわち、電圧量1MV/cm印加を行った際の樹脂膜中に流れる電流値を測定した。電流値が3×10-10A/cm2未満の時は ○、3×10-10A/cm2以上の時は × とした。
(8)密着性
ガラス基板[コーニング社製、「コーニング1737ガラス」]上に、(3)面内膜厚均一性と同様の方法にて、膜厚が2μmの樹脂膜を形成した。この樹脂膜について、碁盤目密着試験JIS K 5600−5−6に従い、100箇所を観察し、剥れなかった部分を数えた。剥れなかった部分が多いほど、密着性が高い。
【0053】
(9)封止性(有機エレクトロルミネッセンス素子の発光輝度評価)
後述する方法により作成された、封止された有機エレクトロルミネッセンス素子を用いて、40℃、90%RHの環境下で10,000時間放置する試験を行った。放置試験前及び放置試験後の素子それぞれに、クロム電極層を陽極、透明電極層を陰極として直流電圧を印加した。
放置試験後にも放置試験前と同様に、発光面にはダークスポットは見られなかった場合に○、放置試験後にダークスポットは発生したが、明所にて5Vから陰極側より青色発光が確認したときの視認性が良好であった(即ち、発生したダークスポットの数が少ない)場合に △、放置試験後にダークスポットが発生し、明所にて5Vから陰極側より青色発光が確認したときの視認性が悪かった(即ち、発生したダークスポットの数が多い)場合に × と評価した。
【0054】
実施例1
構造単位(a)を与える8−カルボキシテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン(以下、TCDCとする)を5.4重量部(5モル%)、構造単位(b)を与える8−エチリデン−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン(以下、ETDとする)を94.6重量部(95モル%)、1,5−ヘキサジエン5.5重量部、1,3−ジメシチルイミダゾリジン−2−イリデン(トリシクロヘキシルホスフィン)ベンジリデンルテニウムジクロリド0.05重量部、及びトルエン400重量部を、窒素置換したガラス製耐圧反応器に仕込み、撹拌しつつ70℃にて2時間反応(開環重合反応)させて重合体溶液(固液分濃度:約20重量%)を得た。この重合体の重量平均分子量は6,000であり、数平均分子量は2,900であった。この重合体溶液の一部を撹拌機つきオートクレーブに移し、温度150℃にて水素を圧力4MPaで溶存させて5時間反応させ、水素化された重合体を含む重合体水素添加物溶液(固液分濃度=約20重量%)を得た。この重合体水素添加物の水素化率は100%、重量平均分子量は6,000であった。その結果を表1に示す。
【0055】
100重量部の重合体水素添加物溶液に活性炭粉末1重量部を添加し、オートクレーブに入れ、撹拌しつつ150℃にて水素を4MPaの圧力で3時間溶存させた。次いで、溶液を取り出して孔径0.2μmのフッ素樹脂製フィルタでろ過して活性炭を分離して重合体溶液を得た。ろ過は滞りなく行えた。この重合体溶液にデカリン233重量部を混合し、混合溶液をエバポレーターにより減圧濃縮してトルエンを除去し、樹脂のデカリン溶液を得た。該デカリン溶液を孔径0.45μmのポリテトラフルオロエチレン製フィルタでろ過して樹脂溶液(ア)を調製した。
樹脂溶液(ア)を用いて樹脂膜Aを形成し、面内膜厚均一性、平坦化性、光線透過率、水蒸気透過率、絶縁性、密着性及び封止性を測定した。その結果を表2に示す。
【0056】
実施例2
TCDCの量を1.1重量部(1モル%)、ETDの量を98.9重量部(99モル%)、1,5−ヘキサジエンの量を4重量部とする以外は、実施例1と同様の方法で樹脂溶液(イ)を調製した。この重合体水素添加物の水素化率は100%、重量平均分子量は8,200であった。その結果を表1に示す。
樹脂溶液(イ)を用いて樹脂膜Bを形成し、面内膜厚均一性、平坦化性、光線透過率、水蒸気透過率、絶縁性、密着性及び封止性を測定した。その結果を表2に示す。
【0057】
実施例3
TCDCの量を21.3重量部(20モル%)、ETDの量を78.7重量部(80モル%)、1,5−ヘキサジエンの量を3.5重量部とする以外は、実施例1と同様の方法で樹脂溶液(ウ)を調製した。この重合体水素添加物の水素化率は100%、重量平均分子量は8,900であった。その結果を表1に示す。
樹脂溶液(ウ)を用いて樹脂膜Cを形成し、面内膜厚均一性、平坦化性、光線透過率、水蒸気透過率、絶縁性、密着性及び封止性を測定した。その結果を表2に示す。
【0058】
比較例1
TCDCの量を6.5重量部(6モル%)、ETDの量を93.5重量部(94モル%)、1,5−ヘキサジエンの量を2重量部とする以外は、実施例1同様の方法で樹脂溶液(エ)を調製した。この重合体水素添加物の水素化率は100%、重量平均分子量は16,300であった。その結果を表1に示す。
樹脂溶液(エ)を用いて樹脂膜Dを形成し、面内膜厚均一性、平坦化性、光線透過率、水蒸気透過率、絶縁性、密着性及び封止性を測定した。その結果を表2に示す。
【0059】
比較例2
TCDCを用いず、ETDの量を100重量部(100モル%)、1,5−ヘキサジエンの量を3.5重量部とする以外は、実施例1と同様の方法で樹脂溶液(オ)を調製した。この重合体水素添加物の水素化率は100%、重量平均分子量は8,800であった。その結果を表1に示す。
樹脂溶液(オ)を用いて樹脂膜Eを形成し、面内膜厚均一性、平坦化性、光線透過率、水蒸気透過率、絶縁性、密着性及び封止性を測定した。その結果を表2に示す。
【0060】
比較例3
ビスフェノールA型エポキシ樹脂「エピコート828」(製品名:ジャパンエポキシレジン社製)を50重量部、光酸発生剤「アデカオプトマーSP−170」(製品名:旭電化工業社製)5重量部、ポリテトラメチレングリコール「PTMG1000」(製品名:三菱化学社製)10重量部をホモディスパー型撹拌混合機「ホモディスパーL型」(製品名:特殊機化社製)を用い、撹拌速度3,000rpmで均一に撹拌混合した後、孔径0.45μmのポリテトラフルオロエチレン製フィルタでろ過して樹脂溶液(カ)を調製した。この重合体の重量平均分子量は7,000であった。その結果を表1に示す。
樹脂溶液(カ)を用いて樹脂膜Fを形成し、面内膜厚均一性、平坦化性、光線透過率、水蒸気透過率、絶縁性、密着性及び封止性を測定した。その結果を表2に示す。
【0061】
尚、実施例1〜3及び比較例1〜2において、脂環式オレフィンの開環重合反応の重合転化率が100%であったことを、ガスクロマトグラフ「GC−17A」(製品名:島津製作所社製)によって、残留する脂環式オレフィンのないことで確認した。
【表1】

【0062】
【表2】

【0063】
この結果から、重量平均分子量を制御した、特定の構造単位を有する脂環式オレフィン重合体を用いて得られた樹脂膜を用いると、透明性が高く、面内膜厚均一性が良好である上、密着性が高く、低水蒸気透過性であって、絶縁性、平坦化性、封止性に優れ、電子部品の製造に好適な電子部品用樹脂膜が得られることが判る。
特定の構造単位を有していても、重量平均分子量の範囲が本発明の規定からはずれたものでは、面内膜厚均一性や平坦性に劣り(比較例1)、特定の構造単位を有しない脂環式オレフィン重合体や脂環式オレフィン重合体以外の重合体では、密着性や封止性に劣ることが分かる(比較例2、3)。
【0064】
(封止された有機エレクトロルミネッセンス素子の形成)
表面にパターニングされたクロム電極層を有する25mm×75mm×1.1mmサイズのガラス板上に、厚み1.0μmの遮光膜を介して、膜厚3.5μmの逆テーパ型樹脂隔壁層が設けられた有機エレクトロルミネッセンス素子用基板を用い、市販の蒸着装置(日本真空技術社製)の基板ホルダーに固定すると共に、モリブデン製抵抗加熱ボートにN,N'−ビス(3−メチルフェニル)−N,N'−ジフェニル−[1,1'−ビフェニル]−4,4'−ジアミン(以下、TPDと略記する)200mgを入れ、また別のモリブデン製抵抗加熱ボートに4,4'−ビス(2,2'−ジフェニルビニル)ビフェニル(以下、DPVBiと略記する)200mgを入れたのち、真空槽を1×10-4Paまで減圧した。
【0065】
次いで、TPD入りのボートを215〜220℃まで加熱し、TPDを蒸発速度0.1〜0.3nm/秒で蒸着させて、膜厚60nmの正孔注入輸送層を形成した。この際の基板温度は室温であった。これを真空槽より取り出すことなく、DPVBi入りのボートを240℃まで加熱し、DPVBiを蒸着速度0.1〜0.3nm/秒で上記正孔注入輸送層上に蒸着させ、膜厚40nmの発光層を形成した。この際の基板温度も室温であった。これを真空槽より取り出し、上記発光層の上にステンレススチール製のマスクを設置し、再び基板ホルダーに固定したのち、モリブデン製ボートにトリス(8−キノリノール)アルミニウム(以下、Alq3と略記する)200mgを入れ、また別のモリブデン製ボートにマグネシウムリボン1gを入れ、さらにタングステン製バスケットに銀ワイヤー500mgを入れて、これらのボートを真空槽に装着した。次に、真空槽を1×10-4Paまで減圧してから、Alq3入りのボートを230℃まで加熱し、Alq3を蒸着速度0.01〜0.03nm/秒で上記発光層上に蒸着させて、膜厚20nmの電子注入層を形成した。さらに、銀を蒸着速度0.01nm/秒で上記電子注入層上に蒸着させると同時に、マグネシウムを蒸着速度0.14nm/秒で上記電子注入層上に蒸着させ、マグネシウムと銀との混合金属からなる膜厚10nmの電子注入金属層を形成した。最後に、これを別の真空槽に移し、同じマスクを通して、DCスパッタリングにより、電子注入金属層上に、膜厚200nmのIn−Sn−O系の非晶質透明導電層を形成した。なお、DCスパッタリング条件は、スパッタガスとしてアルゴンと酸素の混合ガス(体積比1,000:5)を用い、圧力0.3Pa、DC出力40Wであった。このようにして、電子注入金属層及び非晶質透明導電層から構成された透明電極層(陰極)を形成することにより、有機エレクトロルミネッセンス素子の発光体部を形成した。
【0066】
上記で得られたガラス板の、有機エレクトロルミネッセンス素子の発光体部のある面に、樹脂溶液(ア)〜(カ)を(3)面内膜厚均一性と同様の方法で厚み3.5μmにて塗布し、80℃、30分間ホットプレート上で加熱し、透明電極層(陰極)上に、厚み3μmの樹脂膜を形成した。このようにして、封止された有機エレクトロルミネッセンス素子を作成した。この素子を用いて封止性を評価した。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明の樹脂膜は、面内膜厚均一性が良好である上、透明性や密着性が高く、低水蒸気透過性であって、平坦化性に優れ、絶縁性が高く、封止性に優れた樹脂膜であり、例えば集積回路素子、表示素子、固体撮像素子などの電子部品の製造における封止膜、絶縁膜又は平坦化膜などの形成に好適に用いられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)又は下記一般式(2)で表わされる構造単位(a)と、下記一般式(3)又は下記一般式(4)で表される構造単位(b)とを有し、重量平均分子量が3,000以上10,000未満である脂環式オレフィン重合体から成る樹脂膜。
【化1】

【化2】

(式(1)及び(2)中、R1とR2はそれぞれ独立して水素原子又は炭素数1〜10の炭化水素基を示し、R3とR4はそれぞれ独立して水素原子、炭素数1〜10の炭化水素基又は極性基であって、R3とR4のうちいずれか一方のみは極性基である。n=0〜2の整数を示す。)
【化3】

【化4】

(式(3)及び(4)中、R5〜R8はそれぞれ独立して水素原子又は炭素数1〜10の炭化水素基を示す。m=0〜2の整数を示す。)
【請求項2】
構造単位(a)と構造単位(b)との合計に対する構造単位(a)の割合が0.005〜40モル%であることを特徴とする請求項1に記載の脂環式オレフィン重合体から成る樹脂膜。
【請求項3】
構造単位(a)と構造単位(b)との合計に対する一般式(2)で表される構造単位と一般式(4)で表される構造単位との合計の割合が90モル%以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載の脂環式オレフィン重合体から成る樹脂膜。
【請求項4】
脂環式オレフィン重合体と溶剤とを含有する樹脂溶液を用いて成る請求項1〜3のいずれかに記載の樹脂膜。
【請求項5】
基板に、前記樹脂溶液を塗布する工程を経て形成されたものである請求項4記載の樹脂膜。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の樹脂膜を含んで成る電子部品。

【公開番号】特開2006−307154(P2006−307154A)
【公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−16752(P2006−16752)
【出願日】平成18年1月25日(2006.1.25)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】