説明

脂肪族ポリエステル樹脂組成物及びその成形体

【課題】本発明は、脂肪族ポリエステル樹脂組成物を高機能化させる技術に関し、特にセルロース系物質を配合することにより高機能化を達成させる。
【解決手段】脂肪族ポリエステル系樹脂に対し平均粒径が10〜200μmの範囲にあるセルロース系物質を結晶核剤として含ませることを特徴とし、この結晶核剤の脂肪族ポリエステル系樹脂のマトリックス中に分散性を高めるために、適宜、多塩基酸無水物及び有機過酸化物とをさらに配合したり、変性脂肪族ポリエステル系樹脂をさらに配合したりして加熱混練して調製することを特徴とする。これにより脂肪族ポリエステル樹脂組成物の成形体のガラス転移温度Tg以上の温度領域における貯蔵弾性率E’が(b)(c)の温度プロファイルに示されるように向上する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脂肪族ポリエステル樹脂組成物を高機能化させる技術に関し、特にセルロース系物質を配合することにより高機能化が達成される脂肪族ポリエステル樹脂組成物及びその成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、環境問題の対策の一環として、工業製品の材料として使用される石油原料を植物原料に代替させる技術の開発が進められている。このような、植物由来の物質を原料として開発されたプラスチック材料として、ポリ乳酸(PLA)等が挙げられる。このポリ乳酸(PLA)は、石油を原料としないばかりでなく生分解性も備えているので、その生産から廃棄にわたり環境負荷が少ないプラスチック材料として注目されている(例えば、特許文献1〜8)。
【特許文献1】特許3334338号公報
【特許文献2】特開平9−12852号公報
【特許文献3】特開2002−173583号公報
【特許文献4】特開2002−173584号公報
【特許文献5】特開2003−73538号公報
【特許文献6】特開平9−169893号公報
【特許文献7】特開平11−5849号公報
【特許文献8】特開平8−193165号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、ポリ乳酸は、結晶性高分子でありながら、結晶化速度が非常に遅いため通常の射出成形条件下では、結晶化度の高い成形体を得ることが難しい。このような、結晶化度の低い熱可塑性樹脂は一般に、耐熱性、成形性、耐衝撃性、耐加水分解性等の特性が劣るといわれている。このなかでも耐熱性が悪いことに関しては、ポリ乳酸をそのガラス転移温度Tg(約60℃)以上の温度領域で使用することを事実上不可能にすることから、ポリ乳酸の工業材料としての用途拡大が妨げられる一つの要因になっている。
このため、ポリ乳酸が、汎用性、高性能性、高機能性を備えた材料として今後使用されるためには、その結晶化速度を高める技術を確立することが課題である。なお、これまでも、このような課題を解決するために無機系及び有機系の結晶核剤を添加することを試みた公知技術(例えば、前記した特許文献1〜8参照)が存在するが十分な成果が得られておらず前記した課題の解決には至ってない。
本発明は、前記した課題を解決することを目的に創案されたものであり、成形性が良好で、耐熱性に優れた脂肪族ポリエステル樹脂組成物及びその成形体を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、前記した課題を解決するために、脂肪族ポリエステル樹脂組成物において、平均粒径が10〜200μmの範囲にあるセルロース系物質を結晶核剤として含むことを手段として構成されることを特徴にする。
このように発明が構成されることにより、脂肪族ポリエステル樹脂組成物は、加熱溶融した後に冷却して固化すると、結晶化速度が高い性質を有することにより結晶化度の高い成形体となる。
【発明の効果】
【0005】
本発明に係る脂肪族ポリエステル樹脂組成物及びその成形体は、前記したような特徴的な手段から構成される事により、成形性が良好で、耐熱性に優れるといった特性を効果として発揮する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
以下、本発明の実施形態について説明する。
本実施形態に適用される脂肪族ポリエステル系樹脂(A)は、脂肪族ヒドロキシカルボン酸を主たる構成成分とする重合体、又は脂肪族多価カルボン酸と脂肪族多価アルコールを主たる構成成分とする重合体等が挙げられる。
具体的には、脂肪族ヒドロキシカルボン酸を主たる構成成分とする重合体としては、ポリグリコール酸、ポリ乳酸系樹脂(a1)、ポリ3−ヒドロキシ酪酸、ポリ4−ヒドロキシ酪酸、ポリ4−ヒドロキシ吉草酸、ポリ3−ヒドロキシヘキサン酸又はポリカプロラクトン等が挙げられる。
また脂肪族多価カルボン酸と脂肪族多価アルコールを主たる構成成分とする重合体としては、ポリエチレンアジペート、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンアジペート又はポリブチレンサクシネート等が挙げられる。
【0007】
これらの脂肪族ポリエステル系樹脂(A)は、単独ないし2種以上を用いることができる。これらの脂肪族ポリエステル系樹脂(A)の中でも、ヒドロキシカルボン酸を主たる構成成分とする重合体が好ましく、特にポリ乳酸系樹脂(a1)が好ましく使用される。
【0008】
本実施形態に適用されるポリ乳酸系樹脂(a1)とは、ポリ乳酸、乳酸−ヒドロキシカルボン酸コポリマー、並びにポリ乳酸及び乳酸−ヒドロキシカルボン酸コポリマーの混合物で、ポリマー中の乳酸比率が75重量%以上のものである。ここで、ポリマーの原料としては、乳酸及びヒドロキシカルボン酸が用いられる。
乳酸としては、L−乳酸、D−乳酸、DL−乳酸又はそれらの混合物又は乳酸の環状2量体であるラクタイドを用いることができる。これらの乳酸は、得られるL−乳酸系ポリマー中のL−乳酸含有率が75重量%以上になるように種々の組み合わせで使用することができる。
また、これら乳酸と併用できるヒドロキシカルボン酸としては、グリコール酸、3−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ吉草酸、5−ヒドロキシ吉草酸、6−ヒドロキシカプロン酸があり、さらにヒドロキシカルボン酸の環状2量体、例えば、グリコール酸の2量体であるグリコライド、あるいはε−カプロラクトンのような環状エステル中間体も併用できる。
【0009】
本実施形態に適用されるポリ乳酸系樹脂(a1)は、L−乳酸含有率が75重量%以上の乳酸を原料として、又は乳酸とヒドロキシカルボン酸の混合物でその混合物中のL−乳酸含有率が75重量%以上になるようにした混合物を原料として、直接脱水重縮合する方法、又は、上記乳酸の環状2量体であるラクタイド又はヒドロキシカルボン酸の環状2量体、例えば、グリコール酸の2量体であるグリコライドあるいはε−カプロラクトンのような環状エステル中間体を用いて開環重合させる方法により得られる。
【0010】
ポリ乳酸系樹脂(a1)を直接脱水縮合して製造する場合、原料である乳酸又は乳酸とヒドロキシカルボン酸を好ましくは有機溶媒、特にフェニルエーテル系溶媒の存在下で共沸脱水縮合し、特に好ましくは共沸により留出した溶媒から水を除き実質的に無水の状態にした溶媒を反応系に戻す方法によって重合する。これにより、本発明に適した強度を有する高い分子量のポリ乳酸系樹脂(a1)が得られる。
【0011】
このようなポリ乳酸系樹脂(a1)に代表される脂肪族ポリエステル系樹脂(A)のうち、本実施形態に適用されるものは重量平均分子量が、3万以上であることが好ましい。ポリ乳酸系樹脂(a1)の重量平均分子量が3万未満であると、成形品の強度が小さくなり実用に適さない場合もある。また重量平均分子量は100万以上でも成形性に工夫すれば本発明の成形体の製造に適用することができる。また、重量平均分子量は500万を超えると成形加工性に劣る場合もある。
【0012】
本実施形態に係る脂肪族ポリエステル樹脂組成物に配合されるセルロース系物質(B)としては、人為的に抽出・合成されたセルロース又はリグノセルロースや、これらセルロース及び/又はリグノセルロースを含むセルロース系バイオマスの粉末(b1)が挙げられる。ここでバイオマスとは広く生物資源一般を指す。
セルロースを含むセルロース系バイオマスの粉末(b1)としては、木材パルプ粉砕物、木材パルプをアルカリ処理し機械的に細断したアルファ繊維フロック、綿実から得られたコットンリンター、コットンフロック、人絹を裁断した人絹ブロック等を例示することができる。
リグノセルロースを含むセルロース系バイオマスの粉末(b1)としては、リグノセルロース系繊維、リグノセルロース系粉末が挙げられる。具体的には、木材パルプ、リファイナー・グランド・パルプ(RGP)、製紙パルプ、故紙、粉砕処理した木片、木粉(b2)、鋸屑、カンナ屑、竹粉、バガス、果実殻粉等を挙げることができる。
【0013】
このようなセルロース系物質(B)は、脂肪族ポリエステル樹脂組成物に配合されることによって、脂肪族ポリエステル系樹脂(A)の強化充填剤として作用するだけでなく、脂肪族ポリエステル系樹脂(A)が溶融状態から固化する際の結晶化を促進する結晶核剤としても作用するものである。
【0014】
これらセルロース系物質(B)は、その平均粒径が10〜200μmの範囲にあることが望ましい。その平均粒径が10μm未満であると脂肪族ポリエステル系樹脂(A)に混ぜる際に均一に混入させることが困難になり、平均粒径が200μm超えであると所望の結晶化速度が得られないからである。また、セルロース系物質(B)の粒の形状には特に制限はなく、繊維状、粉末状のものが使用できる。
【0015】
またセルロース系物質(B)は、本実施形態の脂肪族ポリエステル樹脂組成物において、100重量部の脂肪族ポリエステル系樹脂(A)に対し、10〜900重量部が配合されている。ここでセルロース系物質(B)の配合量が10重量部未満であると所望とする結晶化速度が得られなくなり、配合量が900重量部越えであると脂肪族ポリエステル系樹脂(A)とセルロース系物質(B)とを混練して均一化させることが事実上困難になるからである。
【0016】
多塩基酸無水物(C)は、脂肪族ポリエステル系樹脂(A)及びセルロース系物質(B)を主成分とする脂肪族ポリエステル樹脂組成物に対して必要に応じて添加されるものである。この多塩基酸無水物(C)としては、無水マレイン酸、無水コハク酸、無水フタル酸、無水ヘキサヒドロフタル酸、無水テトラヒドロフタル酸、無水ジクロロマレイン酸、無水イタコン酸、無水テトラブロモフタル酸、無水ヘット酸、無水トリメット酸、無水ピロメリット酸、等が挙げられる。このうち特に、工業的に有利で安価な無水マレイン酸、無水コハク酸、無水フタル酸が好ましい。
【0017】
有機過酸化物(D)は、添加された多塩基酸無水物(C)を脂肪族ポリエステル系樹脂(A)に重合させるものである。この有機過酸化物(D)としては、ベンゾイルペルオキシド、ジクロルベンゾイルペルオキシド、ジクミルペルオキシド、ジ−t−ブチルペルオキシド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ペルオキシベンゾエート)ヘキシン−3,1,3−ビス(t−ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼン、ラウロイルペルオキシド、t−ブチルペルオキシフェニルアセテート等を挙げることができる。これらの中では、t−ブチルペルオキシベンゾエート、1,3−ビス(t−ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルペルオキシ)ヘキサン、等が挙げられる。このような有機過酸化物(D)は1種単独で使用することもできるし、2種以上を併用することもできる。
【0018】
これら多塩基酸無水物(C)は、100重量部の脂肪族ポリエステル系樹脂に対し、0.1〜20重量部の範囲で配合されることが好ましい。また有機過酸化物(D)は、100重量部の脂肪族ポリエステル系樹脂に対し、0.001〜2重量部の範囲で配合されることが好ましい。この範囲で多塩基酸無水物(C)及び有機過酸化物(D)が配合されて脂肪族ポリエステル系樹脂(A)と化学反応することにより、セルロース系物質(B)と親和性を有する極性基が脂肪族ポリエステル系樹脂(A)に設けられることとなる。
これにより、脂肪族ポリエステル系樹脂(A)とセルロース系物質(B)との相溶性が向上し、脂肪族ポリエステル系樹脂(A)のマトリックス中にセルロース系物質(B)が微細に均一に分散することになる。このように、微細に均一に分散したセルロース系物質(B)が結晶核として作用するので、脂肪族ポリエステル系樹脂(A)は、加熱溶融した後に冷却して固化する際、結晶化速度が高くなる性質が得られる。
【0019】
変性脂肪族ポリエステル系樹脂(E)は、脂肪族ポリエステル系樹脂(A)及びセルロース系物質(B)を主成分とする脂肪族ポリエステル樹脂組成物に対して必要に応じて添加されるものである。この変性脂肪族ポリエステル系樹脂(E)は、多塩基酸無水物(C)及び有機過酸化物(D)と共に、又はこれらを代替して用いることができる。
変性脂肪族ポリエステル系樹脂(E)は、脂肪族ポリエステル系樹脂(A)をカルボキシル基及び酸無水物基から選ばれる少なくとも1種以上の極性基を持つ変性剤(化合物)で変性したものである。なおここで、変性脂肪族ポリエステル系樹脂(E)は、脂肪族ポリエステル樹脂組成物の主成分である脂肪族ポリエステル系樹脂(A)と同一の化合物を変性させたものに限定されるのではなく、他の異なる脂肪族ポリエステル系樹脂化合物を変性させてなるものも含む。
【0020】
カルボキシル基を有する変性剤の具体例としては、マレイン酸、シュウ酸、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸、カルバリル酸、シクロヘキサンジカルボン酸、シクロペンタンジカルボン酸等の脂肪族カルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、オルトフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ビフェニルジカルボン酸、トリメシン酸、トリメリット酸、ピロメリット酸等の芳香族カルボン酸等が挙げられる。
【0021】
酸無水物基を有する変性剤の具体例としては、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水ピロメリット酸、シス−4−シクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸無水物、1,2,4,5−ベンゼンテトラカルボン酸二無水物、5−(2,5−ジオキシテトラヒドロキシフリル)−3−メチル−3−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン−ジカルボン酸無水物等が挙げられる。
【0022】
このような変性脂肪族ポリエステル系樹脂(E)が配合されると、脂肪族ポリエステル系樹脂(A)とセルロース系物質(B)との相溶性が向上し、脂肪族ポリエステル系樹脂(A)のマトリックス中にセルロース系物質(B)が微細化して均一に分散する作用が得られる。このようにして微細に均一に分散したセルロース系物質(B)は、結晶核として作用するので、脂肪族ポリエステル系樹脂(A)は、加熱溶融した後に冷却して固化する際、結晶化速度が高くなる性質が得られる。
【0023】
無機系結晶核剤(F)は、主成分が脂肪族ポリエステル系樹脂(A)及びセルロース系物質(B)である脂肪族ポリエステル樹脂組成物に添加される多塩基酸無水物(C)及び有機過酸化物(D)に対し、併用的に配合されるものである。もしくは、無機系結晶核剤(F)は、主成分が脂肪族ポリエステル系樹脂(A)及びセルロース系物質(B)である脂肪族ポリエステル樹脂組成物に添加される変性脂肪族ポリエステル系樹脂(E)に対し、併用的に配合されるものである。
【0024】
この無機系結晶核剤(F)は、具体的には、タルク(f1)、シリカ、モンモリロナイト、カオリナイト、クレー、マイカ、酸化チタン、酸化マグネシウム、炭酸カルシウム等が挙げられる。特に好ましいものはタルク(f1)である。
無機系結晶核剤(F)は、一般にポリマーの結晶核剤として用いられるものならば、特に限定されるものではない。これら結晶核剤は、樹脂との親和性、分散性を向上させる為に、各種チタネート系カップリング剤、シランカップリング剤、不飽和カルボン酸、脂肪酸及びその誘導体等で表面処理したものを用いてもよい。
【0025】
無機系結晶核剤(F)の平均粒径は、0.001μm〜3.0μmの範囲にあり、かつ比表面積が15m/g〜1000m/gの範囲にあることが望ましい。本発明における平均粒径とは、レーザー回折散乱法によって測定した粒度累積分布曲線から読みとった累積量50重量%の粒径値より求めたものをいう。
【0026】
無機系結晶核剤(F)の配合量は、脂肪族ポリエステル系樹脂(A)が100重量部に対し、0.01〜50重量部の範囲が好ましく、より好ましくは、0.01〜30重量部の範囲であり、更に好ましくは、0.1〜30重量部である。
このように無機系結晶核剤(F)が配合されることにより、本実施形態に係る脂肪族ポリエステル樹脂組成物の結晶化が促進される。
【0027】
さらに本実施形態の脂肪族ポリエステル樹脂組成物は、必要に応じて、従来公知の可塑剤、酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、加水分解抑制剤、帯電防止剤、離型剤、香料、滑剤、難燃剤、発泡剤、顔料、着色剤、各種フィラー、充填材、強化材、抗菌・抗カビ剤等さらには米等に代表される澱粉物質の各種の添加剤が配合されていてもよい。
【0028】
次に、本実施形態に係る脂肪族ポリエステル樹脂組成物の成形体の製造方法について説明する。本実施形態に係る脂肪族ポリエステル樹脂組成物の調製は、前記した成分(A)〜(F)及びその他の添加剤等の諸原料を所定比率で混合し、成形機のホッパー内に投入し、溶融させることにより行うことができる。このように溶融している脂肪族ポリエステル樹脂組成物を、直ちに成形して成形体を作成してもよい。
【0029】
また、脂肪族ポリエステル樹脂組成物を構成する前記各成分(A)〜(F)の任意組み合わせを溶融混合して一旦ペレット化し、その後で必要に応じて再溶融して成形してもよい。均一に混合させるには一旦ペレット化する方法が好ましい。
成形体を成形する際の脂肪族ポリエステル樹脂組成物の溶融押出温度は、使用する脂肪族ポリエステル系樹脂(A)の融点及びその他の成分(B)〜(F)の混合比率を考慮して適宜選択するが、通常100〜250℃の範囲である。好ましくは120〜220℃の範囲より選択する。反応溶融時間としては、20分以内であることが好ましく、より好ましくは10分以内である。
なお、無機系結晶核剤(F)の添加方法としては、特に限定されないが、ペレットにあらかじめ混合されている場合もあるし、ペレットを再溶融する際に添加して混合してもよい。
【0030】
本実施形態に係る脂肪族ポリエステル樹脂組成物の成形体の成形方法は、一般的なプラスチックの成形方法を適用することができ、具体的には、射出成形、ガス射出成形、押出成形、ブロー成形、インフレーション成形、畏形押出成形、射出ブロー成形、真空圧成形、圧縮成形等のいずれも好適に適用することができる。
また、良好な成形性と外観を有する成形体を得る為には、脂肪族ポリエステル樹脂組成物の溶融物を金型内に充填し、金型内でそのまま結晶化させる方法、あるいは冷却して成形体を取り出し後、結晶化温度で一定時間保持して結晶化させる方法等により、成形品を結晶化させることが望ましい。
【0031】
結晶化させる温度は、ガラス転移点以上融点以下の温度で、具体的には、約60℃から160℃の範囲、好ましくは、70℃から130℃、より好ましくは、80℃から120℃である。
本実施形態に係る成形体は、各種方法により各種形状に成形することができるものであって、フィルム、シート、射出成形体、ブロー成形体、押出成形体、真空圧空成形体、積層構造体、容器、発泡体、繊維、織物、不織布等として、自動車分野、電気・電子分野、包装分野、農業分野、漁業分野、医療分野、その他一般雑貨等各種分野に利用されるものである。
【0032】
本実施形態に係る成形体の具体的な用途としては、自動車分野では、バンパー、ラジエーターグリル、サイドモール、ガーニッシュ、ホイールカバー、エアロパーツ、インストルメントパネル、ドアトリム、シートファブリック、ドアハンドル、フロアマット等の内外装部品に利用することができる。
また家電・電子用途では、パソコンのハウジング及び内部部品、CRTディスプレイ及びLCDのハウジング及び内部部品、プリンターハウジング及び内部部品、携帯電話、モバイルパソコン、ハンドヘルド型等の携帯端末ハウジング及び内部部品、記録媒体(CD、DVD,MD、FD等)ドライブのハウジング及び内部部品、コピー機、ファクシミリ等のハウジング及び内部部品、更にVTR、デジタルカメラ、テレビ、冷蔵庫、エアコン等電子・家電機器のハウジング、内部部品に有用に用いることができる。
そして、包装分野では、発泡緩衝剤、包装用フィルム、シートとして、各種包装が可能である。また医療分野では、医療用材料、生理用品等の衛生材料として利用できる。その他、レジャー用品、ICカード等のカード類、トレイ、プラスチック缶、コンテナー、タンク、カゴ等の容器・食器類、鞄、椅子、テーブル、等にも有用である。
【実施例】
【0033】
次に、実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、これらは本発明を限定するものではない。ここでは脂肪族ポリエステル樹脂組成物による成形体の特性評価を以下のように行った。
【0034】
(貯蔵弾性率E’の温度依存性の測定)
レオメトリックSFE(株)製アレス粘弾性測定装置(ARES)を用いて、長さ 22mm, 幅 12mm,厚さ 3mm試験片について、ねじり変形様式で貯蔵弾性率E’の温度依存性を測定し成形体の特性評価を行った。測定時の角周波数は6.28(rad / s)、昇温速度、3℃/ minとした。
【0035】
(比較例)
脂肪族ポリエステル系樹脂(A)として、ポリ乳酸(三井化学(株);レイシアH100PW)を使用し、これを単体で成形体にして特性評価を行い、後記する実施例1〜4と対比するための比較例にする。
この脂肪族ポリエステル系樹脂(A)を、3mm厚試片調製用金型を用いて180℃で直圧成形し、100℃で60秒保持した後、急冷して試験片(a)の成形体とする。そして、この試験片(a)を前記粘弾性測定装置で分析し、測定結果である動的貯蔵弾性率(E’)を図1に、温度依存性プロファイル(a)として示す。
【0036】
この温度依存性プロファイル(a)について説明すると、50℃〜60℃のE’の急激な低下は、この温度範囲がポリ乳酸のガラス転移温度Tgに該当し、非晶部(アモルファス)がミクロブラウン運動を開始したことに伴うものである。さらに、試験片(a)の温度が上昇して100℃付近におけるE’の急激な増加は、前記非晶部が転移して結晶化したことに伴うものである。さらに、試験片(a)の温度が上昇して160℃付近におけるE’の急激な減少は、結晶部が融解して試験片(a)が流動化したことに対応するものである。
【0037】
この比較例のプロファイル(a)からいえることは、試料片(a)において、ガラス転移温度Tgを超えた温度における動的貯蔵弾性率(E’)は、E’の変化率が3桁(1/1000倍)程度と大きく低減し、試料片(a)は軟化してゴム弾性を示している。このため、試料片(a)では、ガラス転移温度Tgを超えた温度では、強度が著しく劣ることとなるので使用することができない、すなわち耐熱性が低いことを示している。
【0038】
このように、比較例の試料片(a)が、ガラス転移温度Tgを超えた温度で強度が著しく低下することは、試料片(a)の結晶化度が低く非晶部の比率が高いことに関連している。すなわち、試料片(a)では、前記した3mm厚試片調製用金型により成形する際に、溶融状態から冷却されて固化する工程において、結晶化速度が遅いことから結晶化が十分に進まず、結晶化度の低い試料片(a)(成形体)が得られたと考えられる。このような結晶化度の低い(非晶部の比率が結晶部の比率より大きい)成形体は、高弾性を維持することができる耐熱温度がガラス転移温度Tgまでということとなり、それ以上ではゴム状態にまで軟化してしまうので、結果的に耐熱性が低いことになる。
【0039】
(実施例1)
脂肪族ポリエステル系樹脂(A)として、ポリ乳酸(三井化学(株);レイシアH100PW)を45重量部に対し、セルロース系物質(B)の微粉末(日本製紙ケミカル(株);KCフロックW-300G [平均粒子径 約28μm])を55重量部としてブレンドした後、混練する(東洋精機(株)製のラボミックスを使用)。このようにして生成した脂肪族ポリエステル系樹脂(A)とセルロース系物質(B)との混練物を3mm厚試片調製用金型を用いて180℃で直圧成形し、100℃で60秒保持した後、急冷して試験片(b)を得る。そして、この試験片(b)を前記粘弾性測定装置で分析し、測定結果である動的貯蔵弾性率(E’)を図1に温度依存性プロファイル(b)として示す。
【0040】
この温度依存性プロファイル(b)について説明すると、室温〜ガラス転移温度Tg(約58℃)までのE’値が、温度依存性プロファイル(a)の場合と比較して大きくなっている。これは、セルロース系物質(B)が脂肪族ポリエステル系樹脂(A)に配合されたことによる補強効果が発揮されて強度が向上したものと言える。
さらに、ガラス転移温度Tgを超えた後のE’の変化率は、1桁(1/10倍)程度に抑えられている。
これは、試料片(b)では、セルロース系物質(B)が添加されることにより、それが添加されていない試料片(a)に比べて、結晶化速度が高く試料片の作製時に結晶化が進行し、非晶部の割合が低下した為と考えられる。
【0041】
(実施例2)
実施例1における場合の脂肪族ポリエステル系樹脂(A)(ポリ乳酸)が45重量部、セルロース系物質(B)の微粉末が55重量部の配合に加え、多塩基酸無水物(C)として無水マレイン酸(MA)が2.3重量部、有機過酸化物(D)としてジクミルペルオキシド(DCP)が0.34重量部をブレンドし混練する(東洋精機(株)製のラボミックスを使用)。このようにして、生成した脂肪族ポリエステル系樹脂(A)と、セルロース系物質(B)と、多塩基酸無水物(C)と、有機過酸化物(D)との混練物を3mm厚試片調製用金型を用いて180℃で直圧成形し、100℃で60秒保持した後、急冷して得た試験片(c)を得る。そして、この試験片(c)を前記粘弾性測定装置で分析し、測定結果である動的貯蔵弾性率(E’)を図1に温度依存性プロファイル(c)として示す。
【0042】
この温度依存性プロファイル(c)について説明すると、室温〜ガラス転移温度Tg(約58℃)までのE’値が、温度依存性プロファイル(b)の場合と同様に大きくなっている。これは、セルロース系物質(B)が脂肪族ポリエステル系樹脂(A)に配合されたことによる補強効果が発揮されて強度が向上したものと言える。
【0043】
さらに、試験片(c)では、ガラス転移温度Tgを超えた後のE’の変化率が1/3程度に抑えられている。これは、試料片(c)では、添加された多塩基酸無水物(C)及び有機過酸化物(D)が脂肪族ポリエステル系樹脂(A)を変性させてなる変性脂肪族ポリエステル系樹脂が、脂肪族ポリエステル系樹脂(A)とセルロース系物質(B)の微粉末が混練する際の反応性相溶化剤として働くことによる。
つまり、ジクミルペルオキシド(DCP)がラジカル開始剤として無水マレイン酸(MA)に作用して乳酸に重合することで無水マレイン酸変性ポリ乳酸が合成されるのである。そして、この無水マレイン酸変性ポリ乳酸がセルロース系物質(B)に作用してこのセルロース系物質(B)を脂肪族ポリエステル系樹脂(A)のマトリックス中に微細に分散させていくのである。
【0044】
すると、この微細に分散したセルロース系物質(B)が結晶化の核となり、試料片(c)が前記した3mm厚試片調製用金型により成形される際、溶融状態から冷却されて固化する工程において、結晶化が促進され結晶化度の高い試料片(c)(成形体)が得られるわけである。
このことは、試料片(c)のガラス転移温度Tg(約58℃)付近のE’値の低下がごくわずかであることより裏付けられる。すなわち、試料片(c)は結晶化速度が高いので試料片の作製時に脂肪族ポリエステル系樹脂(A)の大部分が結晶化し、残りの非晶部がわずかになるといえる。
【0045】
図1の(a)(b)(c)のプロファイルから、セルロース系物質(B)は本発明に係る脂肪族ポリエステル樹脂組成物の強化充填剤として作用することに加え、ポリ乳酸の結晶化を促進する結晶核剤としても作用しているということが証明された。さらに、その効果は、脂肪族ポリエステル系樹脂(A)とセルロース系物質(B)に少量の多塩基酸無水物(C)である無水マレイン酸(MA)と有機過酸化物(D)であるジクミルペルオキシド(DCP)を加えて混練することにより大きく増進されることも明らかになった。
【0046】
ところで、このような反応性相溶化が機能する場合、セルロース系物質(B)の微粉末等の充填剤は脂肪族ポリエステル系樹脂(A)のマトリックス樹脂中での分散状態が均一になるとともに、この充填剤とマトリックス樹脂との界面の相互作用すなわち接着性が大きくなることが知られている。このような相互作用は、成形体の、強度等の物性増進に寄与することになる。一方、相溶化剤(C)(D)の存否にかかわらず脂肪族ポリエステル系樹脂(A)がセルロース系物質(B)と複合化することで、脂肪族ポリエステル系樹脂(A)のみの成形体に比べ全体的にE'の値を1/2桁以上大きくしており、著しい充填剤効果が示されているといえる。このような特に高温域での弾性率の増大は、射出成形の際、金型に対する成形体の離型性が向上する効果が得られるのでさらに好都合である。
【0047】
(実施例3)
実施例1における場合の脂肪族ポリエステル系樹脂(A)(ポリ乳酸)が45重量部、セルロース系物質(B)の微粉末が55重量部の配合に加え、酸無水物基を有する無水マレイン酸でポリ乳酸を変性させた変性脂肪族ポリエステル系樹脂(E)を2.5重量部ブレンドし混練する(東洋精機(株)製のラボミックスを使用)。
このようにして、生成した脂肪族ポリエステル系樹脂(A)と、セルロース系物質(B)と、変性脂肪族ポリエステル系樹脂(E)との混練物を3mm厚試片調製用金型を用いて180℃で直圧成形し、100℃で60秒保持した後、急冷して得た試験片を得る。そして、この試験片を前記粘弾性測定装置で分析したところ、動的貯蔵弾性率(E’)は、温度依存性プロファイル(c)とほぼ同等の測定結果が得られた。
これより、実施例3の場合も、結晶化速度が高いので試料片の作製時に脂肪族ポリエステル系樹脂(A)の大部分が結晶化し、残りの非晶部がわずかになるといえる。
【0048】
(実施例4)
実施例2又は実施例3の場合にさらに追加して、無機系結晶核剤(F)をさらに配合E)した場合について検討した。ここで、無機系結晶核剤(F)は、平均粒径0.8μm、表面積35m/gのタルクを使用した。なお、試料片は、すでに実施例2において記載した同様の方法で混練・成形することにより作製した。そして、この試験片を前記粘弾性測定装置で分析したところ、測定結果の記載を省略するが動的貯蔵弾性率(E’)は、ガラス転移温度Tg付近でのE’値の低下はほとんど認められなくなった。これより、成分(A)(B)(C)(D)又は成分(A)(B)(E)の構成に、さらに無機系結晶核剤(F)を添加することで、脂肪族ポリエステル樹脂組成物の成形体は、脂肪族ポリエステル系樹脂(A)(ポリ乳酸)のマトリックスにおいて結晶化度が極めて高い状態が達成されたと言える。すなわち、実施例4の場合は、結晶化速度がさらに高くなるので、試料片の作製時に脂肪族ポリエステル系樹脂(A)のほとんどが結晶化し、非晶部がほとんど含まれない状態が得られたといえる。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明の脂肪族ポリエステル樹脂組成物は、成形性良好で耐熱性に優れた成形体を作製する用途に利用することができるものである。この成形体は、各種方法により各種形状に成形することができ、フィルム、シート、射出成形体、ブロー成形体、押出成形体、真空圧空成形体、積層構造体、容器、発泡体、繊維、織物、不織布として、自動車分野、電気・電子分野、包装分野、農業分野、漁業分野、医療分野、その他一般雑貨等各種分野に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の実施形態に係る脂肪族ポリエステル樹脂組成物の成形体の動的粘弾性測定による評価結果を示す図であって、(a)のプロファイルは比較例を示し、(b)のプロファイルは本発明の実施例1を示し、(c)のプロファイルは本発明の実施例2を示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒径が10〜200μmの範囲にあるセルロース系物質(B)を結晶核剤として含むことを特徴にする脂肪族ポリエステル樹脂組成物。
【請求項2】
100重量部の脂肪族ポリエステル系樹脂(A)に対し、
10〜900重量部の前記セルロース系物質(B)を配合して加熱混練して調製されることを特徴とする請求項1に記載の脂肪族ポリエステル樹脂組成物。
【請求項3】
0.1〜20重量部の多塩基酸無水物(C)と、
0.001〜2重量部の有機過酸化物(D)と、をさらに配合して加熱混練して調製されることを特徴とする請求項2に記載の脂肪族ポリエステル樹脂組成物。
【請求項4】
前記脂肪族ポリエステル系樹脂(A)が、カルボキシル基及び酸無水物基の中から選ばれる少なくとも1種以上の極性基を持つ化合物で変性されてなる変性脂肪族ポリエステル系樹脂(E)を、さらに配合して加熱混練して調製されたことを特徴とする請求項2又は請求項3に記載の脂肪族ポリエステル樹脂組成物。
【請求項5】
無機系結晶核剤(F)をさらに配合して加熱混練して調製されたことを特徴とする請求項2から請求項4のいずれか1項に記載の脂肪族ポリエステル樹脂組成物。
【請求項6】
前記脂肪族ポリエステル系樹脂(A)は、ポリ乳酸系樹脂(a1)であることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の脂肪族ポリエステル樹脂組成物。
【請求項7】
前記セルロース系物質(B)はセルロース系バイオマスの粉末(b1)であることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の脂肪族ポリエステル樹脂組成物。
【請求項8】
前記セルロース系バイオマスの粉末(b1)は、木粉(b2)であることを特徴とする請求項7に記載の脂肪族ポリエステル樹脂組成物。
【請求項9】
前記無機系結晶核剤(F)は、タルク(f1)であることを特徴とする請求項5から請求項8のいずれか1項に記載の脂肪族ポリエステル樹脂組成物。
【請求項10】
請求項1から請求項9のいずれか1項に記載の前記脂肪族ポリエステル樹脂組成物を加熱溶融して成形される成形体。

【図1】
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【公開番号】特開2007−211129(P2007−211129A)
【公開日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−32325(P2006−32325)
【出願日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成18年1月31日に社団法人日本レオロジー学会により発行された「レオロジーデータ ハンドブック」のp254,4.5.4節にて発表。当該節は、発明者である吉岡まり子により執筆されたものである。
【出願人】(504004647)アグリフューチャー・じょうえつ株式会社 (24)
【出願人】(591063154)
【Fターム(参考)】