説明

脂肪酸アルキルエステルの精製方法

【課題】脂肪酸アルキルエステル中に微量不純物として含まれるステロール配糖体を効率的に除去できる精製方法を提供する。
【解決手段】粗脂肪酸アルキルエステルに、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤及び両性界面活性剤から選ばれる1種以上の界面活性剤、並びに水を添加し、攪拌混合することにより、凝集物を含む混合物を得る工程1、工程1で得られた混合物から、凝集物を分離することにより、ステロール配糖体の除去率が60%以上である脂肪酸アルキルエステルを得る工程2を含む、脂肪酸アルキルエステルの精製方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脂肪酸アルキルエステルの精製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境保護の立場から、二酸化炭素を増やさない燃料が開発され、動植物油、特に植物油由来の脂肪酸メチルエステル等の脂肪酸の低級アルキルエステルが、自動車などの燃料として用いられるようになった。この燃料はバイオディーゼルと呼ばれ、軽油に添加し、或いはそのまま燃料として利用でき、その利用は急速に拡大している。
【0003】
脂肪酸メチルエステルは、一般的に、植物油を酸性あるいはアルカリ性触媒の存在下、高温下でメタノールと接触させて、エステル化反応を行い、その後分層、水洗工程を経て製造される(非特許文献1,2)。しかし、従来法で製造された脂肪酸メチルエステルには、植物原料油脂に不純物として存在するステロール配糖体が、水洗工程後も残存する。このステロール配糖体は、自動車のエンジンに導入された際、エンジン内或いはその周辺に詰まり物として析出し、大きなトラブルの原因となることが知られている(非特許文献3,4)。
【0004】
ステロール配糖体を除去するためには、脂肪酸メチルエステルの蒸留精製が必要となるが、この方法はエネルギー的にもコスト的にも好ましくなく、燃料のライフサイクルアセスメントからも代替法の開発が望まれてきた。
【0005】
脂肪酸アルキルエステルの精製方法として、特許文献1には、脂肪酸メチルエステルを熱酸化して熱酸化された脂肪酸メチルエステルと無極性溶媒とを混合し、該混合液を静置して下相の沈殿物と上相の液とに相分離せしめ、該上相の液を分離して該液から前記無極性溶媒を蒸発させるステップを含む方法が開示されているが、これは、経時等により酸化されて重合物が形成された脂肪酸メチルエステルを精製して燃料としての機能を回復させる方法であり、ステロール配糖体の除去効果は十分ではなく、しかも、方法が繁雑である。
【0006】
また、特許文献2には、所定の工程を経て得られた脂肪酸メチルエステルを含む油相を加熱しつつ白土を添加した後、濾過して精製された脂肪酸メチルエステルを得る方法が記載されている。しかし、こうした分離方法では、ステロール配糖体の除去効果は十分ではなく、また、白土の除去操作も必要となる。
【0007】
また、特許文献3には、アルカリ触媒法によるバイオディーゼル燃料洗浄方法において、洗浄タンク内に加湿器で発生させた霧状水微粒子を静かに自然落下させ、鹸化反応を抑えアルカリイオン、グリセリンや遊離脂肪酸を除去して脂肪酸メチルエステル等のバイオディーゼル燃料を精製する方法が記載されているが、この方法でも、ステロール配糖体の除去効果は十分ではない。また、アルカリ触媒を用いて製造されたバイオディーゼル燃料に限られる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Energy & Fuels 1996, 10, 890-895(ACS Publications)
【非特許文献2】Fuel Processing Technology 2005, 86, 1097-1107(Elsevier)
【非特許文献3】J. Am. Oil. Chem. Soc, 2008, 85, 701-709(AOCS PRESS)
【非特許文献4】J. Am. Oil. Chem. Soc, 2008, 85, 761-770(AOCS PRESS)
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2008−280252号公報
【特許文献2】特開平07−310090号公報
【特許文献3】特開2009−13268号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、脂肪酸アルキルエステル中に微量不純物として含まれるステロール配糖体を効率的に除去できる精製方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、下記工程1及び工程2を含む脂肪酸アルキルエステルの精製方法に関する。
工程1:動植物油脂、特に植物油を原料として製造された粗脂肪酸アルキルエステルに、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤及び両性界面活性剤から選ばれる1種以上の界面活性剤(以下、界面活性剤ということもある)、並びに水を添加して、凝集物を含む混合物を得る工程
工程2:工程1で得られた混合物から、凝集物を分離することにより、ステロール配糖体の除去率が60%以上である脂肪酸アルキルエステルを得る工程
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、脂肪酸アルキルエステル中に微量不純物として含まれるステロール配糖体を効率的に除去できる精製方法が提供される。本発明の精製方法は、エネルギー的にもコスト的にも、穏和な条件下で実施することができ、工業的な精製方法として有利である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、動植物油脂、特に植物油を原料として製造された粗脂肪酸アルキルエステルの精製において、工程1として特定の界面活性剤、並びに水を添加して処理を行い凝集物を生成させ、工程2として、不純物を含有する凝集物を分離するものである。即ち、工程1で特定の界面活性剤、並びに水を添加することにより、効率的に不溶成分を含有する凝集物を生成させ、その後工程2で遠心分離、濾過分離等を行うことによって、不溶成分を含有する凝集物を低減・除去して、粗脂肪酸アルキルエステルを精製、製造するものである。
【0014】
<工程1>
工程1では、動植物油脂を原料として製造された粗脂肪酸アルキルエステルに、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤及び両性界面活性剤から選ばれる1種以上の界面活性剤、並びに水を添加する。
【0015】
粗脂肪酸アルキルエステルは、例えば、動物油及び/又は植物油に、低級アルコール、好ましくは炭素数1〜5の低級アルコールとを反応させる工程を経て、工業的には製造されている。
【0016】
植物油としては、特に限定されるものではないが、ヤシ油、パーム油、パーム核油、パーム核オレイン、パーム核ステアリン、大豆油、菜種油、コーン油、ひまわり油、ヤトロファ油、藻油等が挙げられる。好ましくは、ヤシ油、パーム油、パーム核油、パーム核オレイン、菜種油、ひまわり油及び大豆油からなる群から選ばれる1種以上の植物油、より好ましくは、ヤシ油、パーム油、パーム核油、菜種油からなる群から選ばれる1種以上の植物油である。また、動物油としては、牛脂、豚脂、魚油等が挙げられる。
【0017】
また、炭素数1〜5の低級アルコールとしては具体的には、メタノール、エタノール、プロパノールなどが挙げられ、工業的には低コストと回収の容易さからメタノールが好ましい。
【0018】
出発原料である動植物油脂(原油)とメタノール等の炭素数1〜5の低級アルコールとを、酸触媒及び/又はアルカリ触媒の存在下、反応させることにより、粗脂肪酸アルキルエステルとグリセリンの混合物が得られる。これを静置、分層してグリセリンを分離した後、水洗を行い、触媒とグリセリンを除去することで、工程1で用いられる粗脂肪酸アルキルエステルを得ることができる。この方法は工業的によく知られた方法であり、本発明で用いる粗脂肪酸アルキルエステル、例えば、炭素数8〜22の脂肪酸と炭素数1〜5のアルコールとのエステルの製法としても好適である。通常、このような方法で得られる粗脂肪酸アルキルエステルには、10〜150ppmのステロール配糖体が残存している。
【0019】
動植物油脂のエステル反応は、公知の方法で実施することが可能である。反応は連続方式あるいはバッチ方式のいずれの反応形態も利用できるが、大量にエステルを製造する場合、連続反応が有利である。触媒としては、水酸化ナトリウムや水酸化カリウム、ナトリウムアルコラート等の均一系アルカリ触媒が一般に使用されるが、イオン交換樹脂や含水酸化ジルコニウム、リン酸アルミニウム、硫酸担持ジルコニア、チタノシリケート等の固体触媒も使用することが可能である。均一系アルカリ触媒を用いる場合、一般に以下の条件で反応が行われる。反応温度は30〜90℃、好ましくは40〜80℃、反応圧力は、常圧から0.5MPaの範囲、好ましくは常圧で行われる。またアルコールの使用量は、コスト及び反応性の観点から、グリセライド類に対して、1.5〜10モル倍が好ましい。また、グリセライド類中に遊離脂肪酸が含まれる場合、アルカリ触媒によるエステル交換反応を行う前に、硫酸やパラトルエンスルホン酸等の酸触媒を用いて、予め脂肪酸をエステル化しておくことも有効である。
【0020】
工程1で用いる界面活性剤としては、アニオン性界面活性剤及び両性界面活性剤から選ばれる1種以上の界面活性剤が好ましく、両性界面活性剤から選ばれる1種以上の界面活性剤がより好ましい。
【0021】
アニオン性界面活性剤としては、アルキルサルフェート、アルキルエーテルサルフェート、アルキルエーテルカルボキシレート、アルキルベンゼンスルホネート等が挙げられる。これらのアルキル基は炭素数8〜18が好ましく、炭素数10〜16がより好ましく、炭素数12〜14が特に好ましい。また、エーテル系の化合物は、アルキレンオキシドの平均付加モル数が2〜10であることが好ましく、アルキレンオキシドはエチレンオキシド、プロピレンオキサイドが挙げられる。好ましくは、アルキルサルフェート、アルキルエーテルサルフェート及びアルキルベンゼンスルホネートから選ばれるアニオン性界面活性剤である。より好ましくは、アルキルサルフェート及びアルキルベンゼンスルホネートから選ばれるアニオン性界面活性剤である。
【0022】
カチオン性界面活性剤としては、アルキル(好ましくは炭素数8〜22、より好ましくは炭素数10〜18、特に好ましくは炭素数12〜14)トリメチルアンモニウムクロリド、アルキル(好ましくは炭素数8〜22、より好ましくは炭素数10〜18、特に好ましくは炭素数12〜14)トリメチルアンモニウムブロミド、ジアルキル(好ましくは炭素数8〜18、より好ましくは炭素数10〜16、特に好ましくは炭素数12〜14)ジメチルアンモニウムクロリド、アルキル(好ましくは炭素数8〜18、より好ましくは炭素数10〜16、特に好ましくは炭素数12〜14)ベンジルジメチルアンモニウムクロリド、等が挙げられる。より好ましくは、上記アルキルトリメチルアンモニウムクロリドである。
【0023】
両性界面活性剤としては、アルキルアミドプロピルスルホベタイン、アルキルスルホベタイン、アルキルヒドロキシスルホベタイン等のスルホベタイン、アルキルアミドプロピルカルボベタイン、アルキルカルボベタイン等のカルボベタイン、アルキルアミンオキシド等が挙げられる。好ましくは、カルボベタイン及びスルホベタインから選ばれる両性界面活性剤である。これらのアルキル基は炭素数8〜18が好ましく、炭素数10〜16がより好ましく、炭素数12〜14がより好ましい。
【0024】
工程1では、界面活性剤を、界面活性剤の有効分として粗脂肪酸アルキルエステルに対して、0.01〜10重量%、更に0.05〜5重量%、より更に0.1〜1重量%添加することが好ましい。
【0025】
界面活性剤の形態は、液体、固体の何れでも良い。また、界面活性剤と他の成分との混合物を使用することもでき、界面活性剤の溶液が好ましい。また、界面活性剤の乳化物、懸濁物などの分散液(好ましくは水分散液)を使用することもできる。また、固体状の界面活性剤と他の固体成分とを含有する、固体状の混合物を使用することもできる。また、固体の場合は、粉末組成物が好ましい。固体の場合に該混合物が含有し得る成分としては、食塩、水、アルコールなどが挙げられる。
【0026】
界面活性剤の溶液(以下、界面活性剤溶液、又は単に溶液ともいう)中、界面活性剤の含有量(有効分含有量)は5重量%以上、100重量%未満が好ましい。操作における物量の観点から、より好ましくは10重量%以上、より好ましくは15重量%以上、より好ましくは20重量%以上、より好ましくは25重量%以上である。一方、操作における作業性の観点から、より好ましくは100重量%未満、より好ましくは80重量%以下、より好ましくは65重量%以下である。実際の操作性の観点から、10〜80重量%、より好ましくは20〜65重量%、より好ましくは25〜50重量%である。
【0027】
また、界面活性剤溶液が含有し得る成分としては、水、メタノール、エタノール、イソプロパノール、アセトン、ヘキサンなどが挙げられる。
【0028】
作業性の観点では、界面活性剤の溶液、なかでも水溶液を用いることが好ましい。
【0029】
界面活性剤、なかでも界面活性剤の溶液は、最終的に添加される全量を一度に添加してもよいし、分割して添加してもよい。また、連続的に添加してもよいし、間欠的に添加してもよい。
【0030】
工程1では、水を添加して凝集物を含む混合物を得る。水の添加量は、粗脂肪酸アルキルエステルに対して、1〜1000重量%が好ましい。ここで、より好ましくは2重量%以上、より好ましくは3重量%以上、より好ましくは5重量%以上である一方、より好ましくは100重量%以下、より好ましくは50重量%以下、より好ましくは20重量%以下である。上記のように界面活性剤の水溶液や水分散液を用いる場合、粗脂肪酸アルキルエステルに添加する全ての水が、該水溶液中ないし水分散液中の水により添加されてもよい。
【0031】
また、工程1で界面活性剤の水溶液や水分散液を用いる場合、該水溶液又は水分散液中の水とは別に、更に水を添加することが好ましい。その際、該水溶液又は水分散液により添加される水の量(W1)と、別途添加される水の量(W2)との合計中、W2の比率が50重量%以上100重量%未満、更に70重量%以上100重量%未満であることが好ましい。
【0032】
工程1では、水の添加は、最終的に添加される全量を一度に添加してもよいし、分割して添加してもよい。また、連続的に添加してもよいし、間欠的に添加してもよい。
【0033】
工程1において、本発明の効果を損なわない限り、粗脂肪酸アルキルエステルへの界面活性剤及び水の添加順序は問わない。すなわち、(1)界面活性剤を添加した後、水を添加する、(2)界面活性剤及び水を同時に別々の添加手段から添加する、(3)水を添加した後、界面活性剤を添加する、(4)界面活性剤の水溶液を添加する、などの方法で添加を行うことができ、これらを組み合わせてもよい。これらの方法では、界面活性剤やその溶液と、水とを、別々の添加手段(例えば供給口)から粗脂肪酸アルキルエステルに添加できる。これらの中でも(1)の添加方法が好ましく、更に(1)の添加方法で界面活性剤溶液を用いることが好ましい。
【0034】
工程1では、粗脂肪酸アルキルエステルを30〜90℃、更に50〜90℃に加温した状態で界面活性剤及び/又は水を添加することが好ましい。また、粗脂肪酸アルキルエステルを攪拌した状態で界面活性剤及び/又は水を添加することが好ましい。
【0035】
また、界面活性剤及び水を添加した後、30〜90℃、更に40〜90℃、更に50〜90℃、更に50〜70℃で、5分間〜5時間拌混合することが好ましい。ここで、凝集性の観点から、該温度での攪拌混合時間は、好ましくは1分以上、より好ましくは20分以上である。また、経済性の観点から、該温度での攪拌混合時間は、好ましくは3時間以下、より好ましくは1.5時間以下である。また、操作性の観点から、該温度で、5〜30分間、更に10〜30分間攪拌混合することが好ましい。その際の攪拌の条件は回分式又は連続式が好ましい。
【0036】
工程1では、上記粗脂肪酸アルキルエステルに、上記界面活性剤又は界面活性剤溶液を添加後、30〜90℃、更に40〜90℃、更に50〜90℃で1分間〜10時間攪拌混合した後に、水の添加を行うことが、操作性の観点から好ましい。ここで、攪拌混合時間に関しては、取扱性と操作性の観点から、好ましくは3分以上、より好ましくは5分以上であり、また、好ましくは5時間以内、より好ましくは2時間以内、より好ましくは1時間以内である。また、その際の攪拌は回分式でも連続式でも良い。
【0037】
本発明では、工程1で界面活性剤又は界面活性剤溶液を粗脂肪酸アルキルエステル(好ましくは40〜90℃、より好ましくは50〜90℃に加熱した状態の粗脂肪酸アルキルエステル)に対して、界面活性剤の有効分として、0.01〜10重量%添加し、並びに、同時に又は逐次に、水を粗脂肪酸アルキルエステルに対して1〜1000重量%添加し、その後30〜90℃で15分間〜10時間維持、好ましくは攪拌下に維持することは、ステロール配糖体の除去率が60%以上である脂肪酸アルキルエステルを得るために好ましい。
【0038】
なお、工程1での攪拌、混合には、バッチ式、連続式の何れを用いることができる。
【0039】
<工程2>
工程2では、工程1で得られた混合物から、凝集物を分離することにより、ステロール配糖体の除去率が60%以上である脂肪酸アルキルエステル(精製脂肪酸アルキルエステル)を得る。ここで、ステロール配糖体の除去率は70%以上が好ましく、80%以上がより好ましく、90%以上がより好ましく、95%以上がより好ましい。
【0040】
なお、本発明において、ステロール配糖体の除去率(%)は、以下のようにして求めたものである。また、植物油(原油及び精製油)中のステロール配糖体の含量は、後述の実施例の方法で測定したものである。
【0041】
ステロール配糖体の除去率(%)=[1−(凝集物を分離した後の植物油中のステロール配糖体含量)/(植物油(原油)中のステロール配糖体含量)]×100
【0042】
通常、工程1を経た粗脂肪酸アルキルエステルは、不溶成分を含有する凝集物を生成しており、ステロール配糖体はこの凝集物中に含まれている。また、かかる凝集物は、粗脂肪酸アルキルエステルには難溶性であるが、本発明で選定した特定の界面活性剤は、かかる凝集物の水への分散能に優れることから、水相への分配が容易になるものと推察される。そのため、工程2では、固体−液体ないし液体−液体等の分離手段として知られている方法を採用して前記凝集物を除去すれば、ステロール配糖体の除去率が60%以上である粗脂肪酸アルキルエステルを得ることができる。
【0043】
具体的な分離方法として、遠心分離、静置分離、濾過、或いはこれらの組合せが挙げられる。遠心分離の場合、40〜90℃、好ましくは40〜70℃、1,000〜100,000Gの条件で、好ましくは5,000〜50,000Gの条件で行うことができる。
【0044】
また、工程2により得られた脂肪酸アルキルエステル(精製脂肪酸アルキルエステル)は、ビタミンEの保持率が80%以上であることが好ましく、90%以上がより好ましく、95%以上がより好ましい。ビタミンEは、脂肪酸メチルエステルの保存時に抗酸化剤として働くことが期待される成分であり、その保持率が高いことは好ましい。
【0045】
なお、本発明において、ビタミンEの保持率(%)は、以下のようにして求めたものである。また、植物油(原油及び精製油)中のビタミンEの含量は、後述の実施例の方法で測定したものである。
【0046】
ビタミンEの保持率(%)=[(凝集物を分離した後の植物油中のビタミンE含量)/(植物油(原油)中のビタミンE含量)]×100
【実施例】
【0047】
実施例1〜3及び比較例1〜3
粗ヤシ油を出発原料に7当量のメタノールを加え、0.1重量%(対粗ヤシ油)の酸触媒(硫酸)を添加して加熱還流した。続いて、0.5重量%(対粗ヤシ油)のアルカリ触媒(水酸化ナトリウム)を添加して加熱還流し、粗ヤシ脂肪酸メチルエステルとグリセリンの混合物を得た。静置・分層してグリセリンを分離した後、水洗を行い、触媒とグリセリンを除去した。本工程によって得られた粗ヤシ脂肪酸メチルエステルには、101ppmのステロール配糖体が残存していた。また、粗ヤシ脂肪酸メチルエステルの純度は、95%であった。
【0048】
反応容器として縦長の500ccセパラブルフラスコを用いた。粗ヤシ脂肪酸メチルエステル200gを攪拌(攪拌はメカニカルスターラー、直径60mmの6枚羽ステンレス製翼を使用。回転数は580回転/分)しながら60℃に昇温し、下記に示す界面活性剤を有効分として0.4gを添加して60℃の条件下60分間攪拌した。その後、水20gを添加し、更に60℃の条件下1時間攪拌を続けた。得られた混合物を、15,000Gで60℃の条件下10分間遠心分離操作(HITACHI himac CR22F)を行い、デカンテーションにより水と凝集物を分離し、精製ヤシ脂肪酸メチルエステルを得た。
【0049】
精製ヤシ脂肪酸メチルエステル中のステロール配糖体含量を測定し、粗ヤシ脂肪酸メチルエステル中のそれと比較して除去率を求めた。なお、ステロール配糖体の含量は、Lipids, 34 (11), 1231 (1999)〔アメリカ油化学会(American Oil Chemists' Society)発行〕に記載されている手法で測定した。結果を表1に示す。
【0050】
なお、用いた界面活性剤は以下のものである。
実施例1:30%ドデシルアミドプロピルカルボベタイン水溶液
実施例2:ドデシルサルフェートナトリウム
実施例3:30%セチルトリメチルアンモニウムクロリド水溶液
比較例1:界面活性剤の添加なし
比較例2:ポリオキシエチレンラウリルエーテル(非イオン界面活性剤、エチレンオキサイド平均付加モル数8)
比較例3:ジエタノールドデシルアミン(非イオン界面活性剤)
【0051】
【表1】

【0052】
表1に示されるように、本発明で選定した、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤及び両性界面活性剤から選ばれる1種以上の界面活性剤を用いることで、脂肪酸アルキルエステルからステロール配糖体を効率的に除去できることが分かった。
【0053】
実施例4〜7
原料として、粗パーム油、粗大豆油、粗菜種油、粗ひまわり油を用いて、実施例1と同様に脂肪酸アルキルエステルの精製を行った。実施例1と同様にしてステロール配糖体除去率を求めた。また、精製前後の脂肪酸アルキルエステル中のビタミンEの含量を測定し、ビタミンEの保持率を求めた。その際、ビタミンEの含量は、基準油脂分析試験法2.4.10-2003(トコフェロール)〔(社)日本油化学会編、2003年版〕に基づいて測定した。結果を表2に示す。
【0054】
【表2】

【0055】
【表3】

【0056】
表2、表3の結果から、本発明の方法は、各種原料油脂から得られた脂肪酸アルキルエステルに対して、効率的に糖ステロールを除去することができることがわかる。また、脂肪酸メチルエステル保存時に抗酸化剤として働くことが期待されるビタミンEは極めて効率的に保持されることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記工程1及び工程2を含む脂肪酸アルキルエステルの精製方法。
工程1:動植物油脂を原料として製造された粗脂肪酸アルキルエステルに、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤及び両性界面活性剤から選ばれる1種以上の界面活性剤、並びに水を添加して、凝集物を含む混合物を得る工程
工程2:工程1で得られた混合物から、凝集物を分離することにより、ステロール配糖体の除去率が60%以上である脂肪酸アルキルエステルを得る工程
【請求項2】
上記界面活性剤が、アルキルサルフェート、アルキルエーテルサルフェート及びアルキルベンゼンスルホネートからなるアニオン性界面活性剤、並びにカルボベタイン及びスルホベタインからなる両性界面活性剤から選ばれる1種以上の界面活性剤である、請求項1記載の脂肪酸アルキルエステルの精製方法。
【請求項3】
上記動植物油脂が、ヤシ油、パーム核油、パーム核オレイン、パーム核ステアリン、パーム油、菜種油、ひまわり油、大豆油、ヤトロファ油及び藻油からなる群から選ばれる1種以上の植物油である、請求項1又は2項に記載の脂肪酸アルキルエステルの精製方法。
【請求項4】
工程1において、上記粗脂肪酸アルキルエステルに、上記界面活性剤を添加後、30〜90℃で1分間〜10時間攪拌混合した後に、水の添加を行う、請求項1〜3の何れか1項に記載の脂肪酸アルキルエステルの精製方法。
【請求項5】
工程1において、上記界面活性剤を、該界面活性剤を有効分として5重量%以上、100重量%未満含有する溶液として用いる、請求項1〜4の何れか1項に記載の脂肪酸アルキルエステルの精製方法。
【請求項6】
工程1において、上記界面活性剤を、上記界面活性剤の有効分として上記粗脂肪酸アルキルエステルに対して0.01〜10重量%添加する、請求項1〜5の何れか1項に記載の脂肪酸アルキルエステルの精製方法。

【公開番号】特開2010−189292(P2010−189292A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−33571(P2009−33571)
【出願日】平成21年2月17日(2009.2.17)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】