説明

脂肪酸類の製造方法

【課題】油脂を加水分解し、自然分別することによる低トランス不飽和脂肪酸と、低飽和脂肪酸とを両立し、かつ色相の低い良好な外観の脂肪酸類の効率的な製造方法の提供。
【解決手段】油脂を加水分解し、自然分別することにより脂肪酸類を製造する方法であって、酵素を担体に固定化した固定化酵素を用いて、油脂を酵素分解法で部分的に加水分解し、高温高圧分解法により加水分解後、自然分別法する脂肪酸類の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油脂を加水分解後に自然分別することによる脂肪酸類の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
脂肪酸類は、モノグリセリド、ジグリセリド等の食品の中間原料や、その他各種の工業製品の添加剤、中間原料として広く利用されている。かかる脂肪酸類は、一般に、菜種油、大豆油等の植物油や牛脂等の動物油を高圧法や酵素分解法により加水分解することにより製造されている。
【0003】
ところが、上記のように動植物油を単に加水分解して製造された脂肪酸類は、そのままの脂肪酸組成では産業上の素原料として必ずしも好適なものではない。すなわち、利用の目的によって、低トランス不飽和脂肪酸、かつ、所望の色相、脂肪酸組成にすることが必要となる。
【0004】
脂肪酸類の製造は、油脂を加水分解することにより行われている。油脂を加水分解する方法は、高温高圧分解法と(特許文献1)、酵素分解法(特許文献2)が行われている。前者は、高温及び高圧条件下で行うもので、生産性が高いという利点を有するが、原料に不飽和脂肪酸の多いものを使用すると、条件によってはトランス不飽和脂肪酸を多く生成する場合がある。一方、後者はリパーゼ等の酵素を触媒とし、反応は0〜70℃という低温で行われるため、トランス不飽和脂肪酸を生成することはないが、高温高圧分解法に比べて生産性が低い。
【0005】
また、高温高圧分解法においては、反応当初に分解が開始されるまでの誘導期間が存在するが、当該誘導時間をなくす又は短縮するために、まずグリセリドを1,3位特異性リパーゼを用い、酵素分解法により部分加水分解して部分分解グリセリドを調製し、その後、高温高圧分解法を行うという技術も存在する(特許文献3)。
【0006】
更に、所望の脂肪酸組成を得るためには調整が必要となる。一般に、脂肪酸類の分別には、溶剤分別法、湿潤剤分別法が採用されているが、これらの方法は分離効率(収率)は高いものの、設備投資、溶剤や水溶液の回収等のランニングコストがかかるという問題を有している。これに対し、溶剤を使用しない自然分別法(無溶剤法)は、安価な分別法であり、問題点とされていた濾過速度の低下等についても、ポリグリセリン脂肪酸エステル等の乳化剤を使用することにより解決が図られている(特許文献4)。
【0007】
【特許文献1】特開2003−113395号公報
【特許文献2】特開2000−160188号公報
【特許文献3】特表平8−507917号公報
【特許文献4】特開平11−106782号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
近年、世界的に食用油について、健康面に及ぼす影響が着目されており、トランス不飽和脂肪酸、飽和脂肪酸は、LDL(悪玉)コレステロール値を上昇させ、冠状動脈性心臓疾患のリスクを増大させることが、科学的に裏付けられている。アメリカでは、約1300万人が冠状動脈性心臓疾患にかかっており、毎年、50万人以上が冠状動脈性心臓疾患関連で死亡している。このような状況下で、米国では“Nutrition Facts”(栄養表示)に、従来の脂質、飽和脂肪酸、コレステロールに加え、トランス不飽和脂肪酸含量の表示を義務化することとなった。また、デンマークでは、2004年より食用油のトランス不飽和脂肪酸濃度を2.0質量%以下とすることを法制化し、EU諸国全体へ波及することは必至である。このように、食用油のトランス不飽和脂肪酸、飽和脂肪酸の低減が世界的に望まれている。
【0009】
脱臭工程を省略した未脱臭の原料油脂は、構成脂肪酸中のトランス不飽和脂肪酸含量が1.5質量%以下であり、これを酵素分解法により加水分解を行えば、トランス不飽和脂肪酸の含量が上昇することはない。しかし、原料由来の色がそのまま残るため、得られる脂肪酸類としては外観が悪い。また、得られた脂肪酸類を自然分別すると、飽和脂肪酸が除去され、液体部の不飽和脂肪酸の濃度が高まる。しかし、酵素分解法のみによる加水分解だと、炭素数18以下のパルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸などの脂肪酸は加水分解され易いが、炭素数20以上のアラキジン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸等の長鎖脂肪酸は加水分解され難く、グリセリドとして残存するため、自然分別を行っても液体部中に飽和脂肪酸であるアラキジン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸を含有したグリセリドが多く残ることが判明した。
【0010】
一方、高温高圧分解法のみにより加水分解して得た脂肪酸類は、着色成分が分解されることにより良好な外観となり、また、酵素分解法ほど脂肪酸に対する基質選択性はなく、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸等が万遍なく加水分解されるため、自然分別を行うことにより液体部中のアラキジン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸は減少する。しかし、構成脂肪酸中のトランス不飽和脂肪酸含量が高くなる。
【0011】
また、前記特許文献3に記載されている方法によれば、高温高圧分解法の反応時間を短縮することができ、脂肪酸類の効率的な製造が可能であるとともに、結果的に構成脂肪酸中のトランス不飽和脂肪酸含量が低い脂肪酸類を製造できるということが分かったが、酵素分解法により部分加水分解を行った後に高温高圧分解法で加水分解した場合、必ずしも良好な色相の脂肪酸類を製造できないことが判明した。
従って、本発明の目的は、油脂を加水分解により、構成脂肪酸中のトランス不飽和脂肪酸含量及び飽和脂肪酸含量が低い脂肪酸類を効率的に製造でき、かつ色相の良好な外観を有する脂肪酸類とする製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
そこで、本発明者は、油脂の加水分解反応において、酵素分解法と高温高圧分解法の組合せ、及び自然分別法について種々検討したところ、まず、酵素を担体に固定化した固定化酵素を用いて酵素分解法により油脂を部分的に加水分解し、その後、高温高圧分解法により加水分解した脂肪酸類を、自然分別した場合に、低トランス不飽和脂肪酸及び低飽和脂肪酸を両立し、かつ色相の良好な外観を有する脂肪酸類を効率的に製造できることを見出した。
【0013】
すなわち、本発明は、油脂を加水分解することにより脂肪酸類を製造する方法であって、酵素を担体に固定化した固定化酵素を用いて、油脂を酵素分解法で部分的に加水分解した後、高温高圧分解法により加水分解し、次いで自然分別する脂肪酸類の製造法を提供するものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、油脂を加水分解し、更に自然分別することにより、低トランス不飽和脂肪酸と低飽和脂肪酸とを両立した脂肪酸類を効率的に製造でき、かつ良好な外観を有する脂肪酸類を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明における「酵素分解法」とは、原料油脂に水を加えて、リパーゼ等の酵素を担体に固定化した固定化酵素を触媒として用い、低温の条件で反応することにより、脂肪酸類を得る方法をいう。また、本発明における「高温高圧分解法」とは、原料油脂に水を加えて、高温、高圧の条件で反応することにより、脂肪酸類を得る方法をいう。更に、本発明における「脂肪酸類」とは、脂肪酸のみならず、グリセリン、モノアシルグリセロール、ジアシルグリセロール又はトリアシルグリセロールが存在するものも含む。
【0016】
本発明において、加水分解の対象となる原料油脂は、植物性油脂、動物性油脂のいずれでもよい。具体的な原料としては、菜種油、ひまわり油、とうもろこし油、大豆油、あまに油、米油、紅花油、綿実油、牛脂、魚油等を挙げることができる。また、これらの油脂を分別、混合したもの、水素添加や、エステル交換反応などにより脂肪酸組成を調整したものも原料として利用できるが、水素添加していないものであることが、原料油脂中の構成脂肪酸中のトランス不飽和脂肪酸含量を低減させる点から好ましい。
【0017】
本発明の態様において、原料油脂は、それぞれの原料となる植物、又は動物から搾油後、油分以外の固形分を濾過や遠心分離等により除去するのが好ましい。次いで、水、場合によっては更に酸を添加混合した後、遠心分離等によってガム分を分離することにより脱ガムすることが好ましい。また、原料油脂は、アルカリを添加混合した後、水洗し脱水することにより脱酸を行うことが好ましい。更に、原料油脂は、活性白土等の吸着剤と接触させた後、吸着剤を濾過等により分離することにより脱色を行うことが好ましい。これらの処理は、以上の順序で行うことが好ましいが、順序を変更しても良い。また、この他に、原料油脂は、ろう分の除去のために、低温で固形分を分離するウインタリングを行っても良い。
【0018】
本発明においては、原料油脂は、構成脂肪酸中のトランス不飽和脂肪酸含量が1.5質量%以下、更に1質量%以下、特に0.5質量%以下のものを用いることが、加水分解後の脂肪酸類の構成脂肪酸中のトランス不飽和脂肪酸含量を低減させる点から好ましい。例えば、原料油脂は、原料の全部又は一部に、未脱臭油脂を使用するのが、脂肪酸類の構成脂肪酸中のトランス不飽和脂肪酸を低減できるので好ましい。ここで、構成脂肪酸中のトランス不飽和脂肪酸含量は、油脂を2種以上使用する場合は、それらの合計量中の含有量である。
【0019】
高温高圧分解法による加水分解では、原料油脂の構成脂肪酸の不飽和度が高いものほど、加熱によるトランス化が起こり易い。特に、不飽和度が1であるオレイン酸の場合は、加熱によってはほとんどトランス化が起こらず、不飽和度が2以上である脂肪酸、例えばリノール酸やリノレン酸の場合は、トランス化が顕著となる。
【0020】
本発明の製造方法で用いる原料油脂は、構成脂肪酸中のトランス不飽和脂肪酸含量が1.5質量%以下、更に0.01〜1質量%、特に0.1〜1質量%であることが、生理効果の点から好ましい。色相Cは20以上、更に35以上であることが、本発明による外観の向上効果が顕著である点から好ましい。
【0021】
本発明において、油脂の酵素分解法による部分的な加水分解を行うには、酵素を担体に固定化した固定化酵素を用いる。固定化酵素を用いることによって、高温高圧分解法で加水分解した際の着色を抑制できる。本発明の態様において、酵素分解法で使用する油脂分解用酵素としては、リパーゼが好ましい。リパーゼは、動物由来、植物由来のものはもとより、微生物由来の市販リパーゼ、更にリパーゼを固定化した固定化酵素を使用することもできる。例えば、油脂分解用酵素は、リゾプス(Rizopus) 属、アスペルギルス(Aspergillus) 属、クロモバクテリウム(Chromobacterium) 属、ムコール(Mucor)属、シュードモナス(Pseudomonas) 属、ジオトリケム(Geotrichum)属、ペニシリウム(Penicillium) 属、キャンディダ(Candida) 属等の微生物起源のリパーゼ及び膵臓リパーゼ等の動物リパーゼが挙げられる。高分解率を得るためには位置特異性のない(ランダム型)のリパーゼが良く、微生物起源ではシュードモナス(Pseudomonas) 属、及びキャンディダ(Candida) 属等が良い。固定化担体としては、セライト、ケイソウ土、カオリナイト、シリカゲル、モレキュラーシーブス、多孔質ガラス、活性炭、炭酸カルシウム、セラミックス等の無機担体、セラミックスパウダー、ポリビニルアルコール、ポリプロピレン、キトサン、イオン交換樹脂、疎水吸着樹脂、キレート樹脂、合成吸着樹脂等の有機高分子等が挙げられるが、保水力の点からイオン交換樹脂が好ましい。また、イオン交換樹脂の中でも、大きな表面積を有することにより多量のリパーゼを吸着できるという点から、多孔質であることが好ましい。
【0022】
固定化担体として用いる樹脂の粒子径は100〜1000μmが好ましく、特に250〜750μmが好ましい。細孔径は10〜150nmが好ましい。材質としては、フェノールホルムアルデヒド系、ポリスチレン系、アクリルアミド系、ジビニルベンゼン系等が挙げられ、特にフェノールホルムアルデヒド系樹脂(例えば、Rohm and Hass社製Duolite A-568)が好ましい。
【0023】
酵素を固定化する場合、酵素を担体に直接吸着してもよいが、高活性を発現するような吸着状態にするため、酵素吸着前にあらかじめ担体を脂溶性脂肪酸又はその誘導体で処理して使用してもよい。使用する脂溶性脂肪酸としては、炭素数8〜18の飽和又は不飽和の、直鎖又は分岐鎖の、水酸基が置換していてもよい脂肪酸が挙げられる。具体的には、カプリン酸、ラウリン酸、ミスチリン酸、オレイン酸、リノール酸、α−リノレン酸、リシノール酸、イソステアリン酸等が挙げられる。またその誘導体としては、これらの脂肪酸と一価又は多価アルコールとのエステル、リン脂質、及びこれらのエステルにエチレンオキサイドを付加した誘導体が挙げられる。具体的には、上記脂肪酸のメチルエステル、エチルエステル、モノグリセライド、ジグリセライド、それらのエチレンオキサイド付加体、ポリグリセリンエステル、ソルビタンエステル、ショ糖エステル等が挙げられる。これらの脂溶性脂肪酸又はその誘導体は、2種以上を併用してもよい。
【0024】
これらの脂溶性脂肪酸又はその誘導体と担体の接触法としては、水又は有機溶剤中の担体にこれらを直接加えてもよいが、分散性を良くするため、有機溶剤に脂溶性脂肪酸又はその誘導体を一旦分散、溶解させた後、水に分散させた担体に加えてもよい。この有機溶剤としては、クロロホルム、ヘキサン、エタノール等が挙げられる。脂溶性脂肪酸又はその誘導体の使用量は、担体100質量部に対して1〜500質量部、更に10〜200質量部が好ましい。接触温度は0〜100℃、更に20〜60℃が好ましく、接触時間は5分〜5時間程度が好ましい。この処理を終えた担体は、濾過して回収するが、乾燥してもよい。乾燥温度は室温〜100℃が好ましく、減圧乾燥を行ってもよい。
【0025】
酵素の固定化を行う温度は、酵素の特性によって決定することができるが、酵素の失活が起きない温度、すなわち0〜60℃、更に5〜40℃が好ましい。また固定化時に使用する酵素溶液のpHは、酵素の変性が起きない範囲であればよく、温度同様酵素の特性によって決定することができるが、pH3〜9が好ましい。このpHを維持するためには緩衝液を使用するが、緩衝液としては、酢酸緩衝液、リン酸緩衝液、トリス塩酸緩衝液等が挙げられる。上記酵素溶液中の酵素濃度は、固定化効率の点から酵素の飽和溶解度以下で、かつ十分な濃度であることが好ましい。また酵素溶液は、必要に応じて不溶部を遠心分離で除去した上澄や、限外濾過等によって精製したものを使用することもできる。また用いる酵素質量はその酵素活性によっても異なるが、担体100質量部に対して5〜1000質量部、更に10〜500質量部が好ましい。
【0026】
酵素の固定化後に加水分解反応に適した状態にする点から、酵素溶液から濾過により、固定化酵素を回収し、余分な水分を除去したのち、乾燥することなしに反応基質となる大豆油等の油脂に接触させることが好ましい。接触後の固定化酵素中の水分は、用いる担体の種類によっても異なるが、固定化担体100質量部に対し0.1〜100質量部、更に1〜50質量部、特に5〜50質量部であることが好ましい。このときカラム等の充填容器に封入して、ポンプ等により油脂を循環しても良いし、油脂中に固定化酵素を分散させても良い。接触させる温度は20℃〜60℃が良く、酵素の特性によって選ぶことができる。さらに、接触する時間は1〜48時間程度で良く、この接触が終わったところで濾過し、固定化酵素を回収することが、工業的生産性の点から好ましい。
【0027】
固定化酵素の加水分解活性は20U/g以上、更に100〜10000U/g、特に500〜5000U/gの範囲であることが好ましい。ここで酵素の1Uは、40℃において、油脂:水=100:25(質量比)の混合液を攪拌混合しながら30分間加水分解をさせたとき、1分間に1μmolの遊離脂肪酸を生成する酵素の分解能を示す。
【0028】
本発明において、油脂の酵素分解法による部分的な加水分解は、回分式、連続式、又は半連続式で行うことができる。固定化酵素は充填塔に充填した状態での使用や攪拌槽での使用のどちらでもよいが、固定化酵素の破砕抑制の点から充填塔に充填した状態で使用することが好ましい。部分的に加水分解した脂肪酸類と水の装置内への供給は、並流式、向流式どちらでもよい。加水分解反応装置に供給される原料油脂及び水は、予め脱気又は脱酸素を行うことが脂肪酸類の酸化抑制の点から好ましい。
【0029】
酵素分解法の反応に用いる固定化酵素量は、酵素の活性を考慮して適宜決定することができるが、分解する原料油脂100質量部に対して0.01〜30質量部、更に0.1〜20質量部、特に1〜10質量部が好ましい。また水の量は、分解する脂肪酸類100質量部に対して10〜200質量部、更に20〜100質量部、特に30〜80質量部が好ましい。水は、蒸留水、イオン交換水、脱気水、水道水、井戸水等いずれのものでも構わない。グリセリン等その他の水溶性成分が混合されていても良い。必要に応じて、酵素の安定性が維持できるようにpH3〜9の緩衝液を用いてもよい。
【0030】
反応温度は、酵素の活性をより有効に引き出し、分解により生じた遊離脂肪酸が結晶とならない温度である0〜70℃、更に20〜50℃とすることが好ましい。また反応は、空気との接触が出来るだけ回避されるように、不活性ガス存在下で行うことが好ましい。
【0031】
油脂の酵素分解法の加水分解反応は脂肪酸濃度によって管理し、所定の脂肪酸濃度に到達した時点で終了すればよい。なお、本発明における「脂肪酸濃度」は、脂肪酸類の酸価及び脂肪酸組成を測定し、油脂製品の知識(株式会社 幸書房)に従って、次式(1)で求めた値をいう。なお、酸価は、American Oil Chemists. Society Official Method Ca 5a-40により測定する。
脂肪酸濃度(質量%)=x×y/56.1/10 (1)
(x=酸価[mgKOH/g]、y=脂肪酸組成から求めた平均分子量)
【0032】
油脂の酵素分解法による部分的な加水分解は、工業的生産性、良好な外観、トランス不飽和脂肪酸の生成を抑制する点から脂肪酸濃度が20〜90質量%、更に25〜85質量%、特に30〜80質量%となるまで行うことが好ましい。部分的な加水分解の結果、構成脂肪酸中のトランス不飽和脂肪酸含量は0〜1.5質量%、更に0〜1質量%、特に0〜0.7質量%であることが好ましい。高温高圧分解法による加水分解に用いる部分的に加水分解した脂肪酸類は、高温高圧分解法で加水分解した脂肪酸類の色相を良好とする点から、脂肪酸類中の全窒素量は低いほうが好ましく、2ppm以下、更に1.5ppm以下、特に0.1〜1.5ppmであることが好ましい。また、同様の点から、酵素分解原料中の全窒素量に対する酵素分解油中の全窒素量の増加量は50質量%以下が好ましく、更に20質量%以下、特に0〜15質量%であることが好ましい。
【0033】
本発明においては、油脂を酵素分解法により部分的な加水分解を行った後に、高温高圧分解法により加水分解を行う。本発明において、高温高圧分解法による加水分解は、回分式、連続式、又は半連続式で行うことができ、部分的に加水分解した脂肪酸類と水の装置内への供給は、並流式、向流式どちらでもよく、次の反応条件で行われる。加水分解反応装置に供給される部分的に加水分解した脂肪酸類及び水は、必要により予め脱気又は脱酸素したものを用いることが得られる脂肪酸類の酸化抑制の点から好ましい。
【0034】
高温高圧分解法による加水分解においては、部分的に加水分解した脂肪酸類100質量部に対し、水を10〜250質量部となるように加え、温度190〜270℃、圧力2〜8MPaの条件下で0.1〜6時間かけて加水分解するのが好ましい。脂肪酸類の工業的生産性、脱色、トランス不飽和脂肪酸の生成を抑制する点から、温度は195〜265℃、更に200〜260℃とすることが好ましい。部分的に加水分解した脂肪酸類100質量部に対する水の量は、同様の点から、更に15〜150質量部、特に20〜120質量部とすることが好ましい。また、圧力は同様の点から、更に2〜7MPa、特に2.5〜6MPaとすることが好ましい。更に、反応時間は同様の点から、更に0.2〜5時間、特に0.3〜4時間とすることが好ましい。
【0035】
好ましい反応装置としては、7〜40m3の容量の加水分解反応槽を備えた向流式のColgate−Emery法油脂分解塔(例えばIHI社)を挙げることができる。また、少量分解には実験室規模の市販のオートクレーブ装置(例えば日東高圧(株))を加水分解反応槽として用いてもよい。
【0036】
油脂の高温高圧分解法による加水分解に用いる部分的に加水分解した脂肪酸類は、そのまま用いてもよいが、必要により静置分離、遠心分離等の方法で脂肪酸類と水相を分離してもよい。更に、必要に応じて、油相中に分配されたグリセリンは、遠心分離、水洗等により除去して精製してもよい。
【0037】
加水分解反応は、前記の式(1)で示される脂肪酸濃度によって管理し、所定の脂肪酸濃度に到達した時点で終了すればよい。加水分解反応終了後は、静置分離、遠心分離等の方法により脂肪酸類と水相を分離することが好ましい。必要に応じて、油相中に分配されたグリセリンは、遠心分離、水洗等により除去して精製してもよい。
【0038】
本発明では、上記の如く、油脂の加水分解反応において、原料油脂100質量部に対して、固定化酵素量0.01〜30質量部、水10〜200質量部をそれぞれ加え、温度0〜70℃の条件下で酵素分解法による部分的な加水分解を行った後、部分的に加水分解した脂肪酸類100質量部に対して、10〜250質量部の水を加えて、温度190〜270℃、圧力2〜8MPaの条件下で0.1〜6時間かけて加水分解することにより、工業的生産性、良好な外観、トランス不飽和脂肪酸含量の低減された脂肪酸類を得ることができる。
【0039】
本発明において、「自然分別法」とは、処理対象の原料脂肪酸類を、分相する量の水を含まず、かつ溶剤を使用せず、必要に応じ撹拌しながら冷却し、析出した固体成分を濾過、遠心分離、沈降分離等することにより固−液分離を行う方法をいう。
【0040】
本発明において、自然分別法の対象となる原料脂肪酸類は、菜種油、大豆油等の植物油や牛脂等の動物油を、酵素を担体に固定化した固定化酵素を用いて酵素分解法により油脂を部分的に加水分解し、その後、高温高圧分解法により加水分解した脂肪酸類を用いる。脂肪酸類中の脂肪酸の量は80質量%以上、特に85質量%以上であるような場合により有効であり、部分グリセリドが存在していてもよい。また、この原料脂肪酸類としては、脂肪酸組成中のパルミチン酸、ステアリン酸等の飽和脂肪酸(C12〜C22)の比率が、8〜70質量%、特に10〜55質量%のものが好ましい。
【0041】
本発明における自然分別法は、原料脂肪酸類に対し、結晶の析出前に結晶調整剤を添加して行うことが好ましい。結晶調整剤としては、特に限定されないが、多価アルコール脂肪酸エステルが好ましく、食品添加物であるショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、有機酸モノグリセリド、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル等が挙げられ、なかでもポリグリセリン脂肪酸エステルが好ましい。結晶調整剤としてポリグリセリン脂肪酸エステルを用いる場合には、その透明融点が次式(2)で示される範囲にあるものが好ましい。
【0042】
0.38x+13≦y≦0.54x+44 (2)
〔x:原料脂肪酸類の脂肪酸組成中の飽和脂肪酸(C12〜C22)の質量%
y:ポリグリセリン脂肪酸エステルの透明融点(℃)〕
【0043】
ポリグリセリン脂肪酸エステルのより好ましい透明融点(y)の範囲は、0.38x+19≦y≦0.54x+40であり、特に好ましい範囲は、0.38x+28≦y≦0.54x+36である。また、ポリグリセリン脂肪酸エステルの透明融点(y)は、原料脂肪酸類の透明融点より高いことが好ましい。
【0044】
また、ポリグリセリン脂肪酸エステルにおけるグリセリンの平均重合度は、濾過容易な結晶状態を得る点から5以上、特に8〜30が好ましい。また、ポリグリセリン脂肪酸エステルにおける脂肪酸は、ポリグリセリン脂肪酸エステルの透明融点調整の点から、炭素数10〜22、特に炭素数12〜18の飽和又は不飽和の脂肪酸から構成されることが好ましい。当該脂肪酸は、単一脂肪酸で構成されてもよいが、混合脂肪酸で構成されているものが、特に濾過容易な結晶状態を得る点から好ましい。ポリグリセリン脂肪酸エステルは市販品を用いることができ、また、ポリグリセリンと脂肪酸とのエステル化反応で合成してもよい。ポリグリセリンと脂肪酸とのエステル化反応は、これらの混合物に水酸化ナトリウム等のアルカリ触媒を添加し、窒素等の不活性ガス気流下、200〜260℃で直接エステル化させる方法、酵素を使用する方法等のいずれの方法によってもよい。
【0045】
結晶調整剤は2種以上を併用してもよく、またその添加量は、原料脂肪酸類に対して0.001〜5質量%、特に0.05〜1質量%程度が好ましい。
【0046】
結晶調整剤としてポリグリセリン脂肪酸エステルを用いる場合は、原料脂肪酸類に完全に溶解できるように、ポリグリセリン脂肪酸エステルの透明融点より高い温度で混合溶解することが好ましい。この混合溶解の後における冷却時間及び冷却温度、保持時間は、原料の量、冷却能力などによって異なり、原料脂肪酸類の組成により適宜選択すればよい。例えば、大豆脂肪酸の場合、−3℃までの冷却時間は1〜30時間、好ましくは3〜20時間程度、保持時間は0〜24時間、好ましくは1〜10時間程度必要である。冷却は、回分式処理でも連続式でもよい。冷却操作は、析出する結晶の平均粒径が100μm以上、特に150μm以上となるような条件で行うことが好ましい。
【0047】
生成した結晶の分離法としては、濾過方式、遠心分離方式、沈降分離方式等が適用でき、回分式処理でも連続式処理でもよい。
【実施例】
【0048】
〔固定化酵素製造法〕
Duolite A−568(Rohm & Hass社製)に対して、0.1Nの水酸化ナトリウム水溶液10倍容量で、1時間攪拌後、濾過して担体を回収した。その後、10倍容量の蒸留水で1時間洗浄し、500mMのリン酸緩衝液(pH7)10倍容量で、2時間pHの平衡化を行った。その後50mMのリン酸緩衝液(pH7)10倍容量で2時間ずつ2回、pHの平衡化を行った。これらの操作後は、濾過して担体を回収した。この後、エタノール5倍容量でエタノール置換を30分間行った。濾過した後、リシノール酸を1倍質量含むエタノール5倍容量を加え30分間、リシノール酸を担体に吸着させた。この後濾過し、担体を回収した後、50mMのリン酸緩衝液(pH7)5倍容量で4回洗浄し、エタノールを除去し、濾過して担体を回収した。その後、油脂に作用する市販のリパーゼ(リパーゼAY「アマノ」30G,天野エンザイム社)の10%溶液20倍容量と4時間接触させ、固定化を行った。濾過し、固定化酵素を回収して、50mMの酢酸緩衝液(pH7)5倍容量で洗浄を行い、固定化していない酵素や蛋白を除去した。以上の操作はいずれも20℃で行った。固定化後の酵素液の残存活性と固定化前の酵素液の活性差より固定化率を求めたところ、95%であった。その後、脱臭大豆油4倍質量を加え、40℃、2時間攪拌した後、濾過して脱臭大豆油と分離し、固定化酵素とした。こうして得られた固定化酵素を、使用前に実際に反応を行う基質である未脱臭大豆油で3回洗浄し濾過した。
【0049】
〔原料油脂〕
原料油脂として、表1に示す未脱臭大豆油を用いた。なお、脂肪酸組成、グリセリド組成、色相C、トランス不飽和脂肪酸含有量は、次に示す方法にて測定した。
【0050】
なお、本発明において、「構成脂肪酸中のトランス不飽和脂肪酸の含有量」及び「脂肪酸組成」は、日本油化学協会編「基準油脂分析試験法」中の「脂肪酸メチルエステルの調製法(2.4.1.2−1996)」に従って脂肪酸メチルエステルを調製し、得られたサンプルを、American Oil Chemists. Society Official Method Ce 1f-96(GLC法)により測定した値をいう。
【0051】
本発明において、「色相C」は、American Oil Chemists. Society Official Method Ca 13e-92 (Lovibond法)で5.25インチセルにより測定し、次の式(3)で求めた値をいう。
色相C=10R+Y (3)
(式中、R=Red値、Y=Yellow値)
【0052】
〔グリセリド組成の測定法〕
本発明において、「グリセリド組成」は、ガラス製サンプル瓶に、サンプル10mgとトリメチルシリル化剤(「シリル化剤TH」、関東化学製)0.5mLとを加え、密栓した後、70℃で15分間加熱した。これに蒸留水1.0mL、ヘキサン2.0mLを加えて、混合後、ヘキサン層をガスクロマトグラフィー(GLC)にて測定した。
装置;Hewlett Packard製 6890型
カラム;DB−1HT(J&W Scientific製) 7m
カラム温度;initial=80℃、final=340℃
昇温速度=10℃/分、340℃にて20分間保持
検出器;FID、温度=350℃
注入部;スプリット比=50:1、温度=320℃
サンプル注入量;1μL
キャリアガス;ヘリウム、流量=1.0mL/分
【0053】
〔固定化酵素を用いた酵素分解法による加水分解〕
表1に示す未脱臭大豆油について、固定化酵素を用いた酵素分解法による加水分解を行った。加水分解反応は、固定化酵素を用いた酵素塔と原料攪拌槽との間で反応液を循環させる方法で行った。
未脱臭大豆油で洗浄した固定化酵素(加水分解活性3000U/g)を、ジャケット付き酵素塔カラム(酵素充填厚み150mm)に充填した。酵素塔のジャケット温度は40℃に設定した。原料油脂100質量部(以下、「部」という)に対して、固定化酵素の充填量は5部とした。未脱臭大豆油100部とイオン交換水60部を、ジャケット付き原料攪拌槽に投入し、30r/minで攪拌しながら40℃に加温後、ジャケット付き酵素塔とジャケット付き原料攪拌槽との間で反応液を循環しながら、加水分解反応を行った。この間は、ジャケット付き原料攪拌槽内の気相部は窒素に置換し窒素雰囲気下とした。
反応開始から3時間後に、反応液をジャケット付き原料攪拌槽から、1Lビーカーにサンプリングし、窒素雰囲気下で、40℃、120分間静置分離して水層を除去した。さらに遠心分離(5,000×g,10分)し、水層を除去後、部分分解した脂肪酸類を温度110℃、真空度8kPaの条件で完全脱水してから分析を行い、サンプルAを得た。表1にサンプルAの分析値を示した。
サンプルAを得た場合と同じ加水分解反応の装置、条件で反応時間のみを7時間とし、サンプルCを得た。表1にサンプルCの分析値を示した。
【0054】
〔顆粒リパーゼを用いた酵素分解法による加水分解〕
表1に示す未脱臭大豆油について、顆粒リパーゼ(Lipolase 100T,ノボザイム社)を用いた酵素分解法による加水分解を行った。未脱臭大豆油1300gと蒸留水750gを3000mL容量の四つ口フラスコに投入した後、攪拌(半月翼Φ90mm×H25mm:300r/min)しながら、混合して45℃に昇温した。この間は、3000mL容量の四つ口フラスコの気相部は窒素に置換し窒素雰囲気下とした。45℃で、窒素雰囲気下、密閉状態で攪拌(半月翼Φ90mm×H25mm:300r/min)しながら、そこへ顆粒リパーゼ(Lipolase 100T,ノボザイム社)2.0gを蒸留水30gに溶解後全量投入し、バッチ攪拌反応を開始した。反応開始から43時間後に、反応液を3000mL容量の四つ口フラスコから、同容量のビーカーに全量抜き出し、窒素雰囲気下で、40℃、120分間静置分離して水層を除去し、さらに遠心分離(5,000×g,10分)し、水層を除去後、部分分解した脂肪酸類を温度70℃、真空度400Paで10分間、減圧で完全脱水してから分析を行い、サンプルBを得た。表1にサンプルBの分析値を示した。
【0055】
〔固定化酵素を使用した酵素分解法により部分分解した脂肪酸類及び未脱臭大豆油の高温高圧分解法による加水分解〕
表1に示す固定化酵素を使用した酵素分解法により部分的に加水分解した脂肪酸類であるサンプルA又は表1に示す未脱臭大豆油を原料として、油水向流式の高圧熱水型分解装置による加水分解を行った。油水向流式の高圧熱水型分解装置に、部分分解脂肪酸類又は未脱臭大豆油を装置の下側から、水を装置の上側からそれぞれ連続的に送液した。送液量は、原料油脂100質量部に対して水50質量部とした。装置の中で原料油脂は高圧熱水により加熱し、5.0MPaの圧力とし、サンプルAの加水分解では220℃、未脱臭大豆油の加水分解では240℃とした。この時、分解塔内の平均滞留時間(hr)(分解塔内での油相容積(m3)/原料油の流量(m3/hr))はいずれも約3hrであった。油水向流式の高圧熱水型分解装置の上部から抜液される反応油は、温度110℃、真空度8kPaの条件で完全脱水後、25℃まで冷却し、それぞれサンプルD(サンプルAを原料としたもの)、F(未脱臭大豆油を原料としたもの)を得た。表1にサンプルD、Fの分析値を示した。
【0056】
〔顆粒リパーゼを使用した酵素分解法により部分分解した脂肪酸類の高温高圧分解法による加水分解〕
表1に示す顆粒リパーゼを使用した酵素分解法により部分的に加水分解した脂肪酸類であるサンプルBを原料として、日東高圧社のバッチ式のオートクレーブ装置(容量2.2L、設計圧力10MPa、設計温度300℃、材質TB480H)で高温高圧分解法による加水分解を行った。サンプルB700gと蒸留水350gをオートクレーブ装置に投入し、密閉した。次に、水素を用いて5.0MPaの圧力で気密テストをして、オートクレーブ装置内の漏れがないことを確認後、窒素置換した。その後、600r/minで攪拌しながら、反応温度である240℃まで昇温した。240℃までの昇温時間は40分であり、到達圧力は3.2MPaであった。240℃に到達後、サンプリング口から反応液を適宜採取し、窒素シールし、遮光状態で25℃まで急激に冷却した。その後、遠心分離(5,000g,5分)し、水層を除去後、脂肪酸層を温度70℃、真空度400Paで5分間減圧脱水し、酸価を測定して脂肪酸濃度を算出した。反応を1.0時間行い、脂肪酸濃度が85質量%に達した時点で、加水分解を終了し、50℃まで冷却した。50℃までの冷却時間は50分であった。加水分解した脂肪酸類をオートクレーブ装置から、2Lビーカーに全量抜き出し、窒素雰囲気下で、40℃、120分間静置分離して水層を除去した。さらに、遠心分離(5,000×g,30分)し、水層を除去後、2000mL容量の四つ口フラスコに投入し、攪拌(半月翼Φ90mm×H25mm:300r/min)しながら、脂肪酸類を温度70℃、真空度400Paで30分間、減圧で完全脱水した後に分析を行い、サンプルEを得た。表1にサンプルEの分析値を示した。
【0057】
〔自然分別〕
表1に示すサンプルC、D及びFを原料として、表2に示すポリグリセリン脂肪酸エステルを0.2質量%対原料脂肪酸加え、ポリグリセリン脂肪酸エステルの透明融点より高い温度60℃で均一に溶解した。次いで、攪拌所要動力0.24kW/m3で攪拌しながら、2℃/hの速度で冷却し、−3℃に達してから2時間保持した。次いで、スラリーを1Lサンプリングし、ナイロン製濾布NY1260D(中尾フィルター工業(株))(濾過面積39cm2)を用い0.03MPaで加圧濾過して、液体部(不飽和脂肪酸)のサンプルG(サンプルDを原料としたもの)、H(サンプルCを原料としたもの)及びI(サンプルFを原料としたもの)を得た。表1にサンプルG、H及びIの分析値を示した。
【0058】
【表1】

【0059】
【表2】

【0060】
表1から明らかなように、未脱臭油脂を、顆粒リパーゼを用いて部分分解後、高温高圧分解した場合(サンプルE)は、トランス不飽和脂肪酸は低くなるが、色相Cは高くなる。また、未脱臭油脂を高温高圧分解後、自然分別した場合(サンプルI)は、色相Cは低く、C炭素数20以上の飽和脂肪酸は低くなるが、トランス不飽和脂肪酸は高くなる。また、未脱臭油脂を、固定化酵素を用いて部分分解後、自然分別した場合(サンプルH)は、トランス不飽和脂肪酸は低くなるが、C炭素数20以上の飽和脂肪酸は高く、色相Cは高くなる。これに対し、未脱臭大豆油を、固定化酵素を用いて部分分解し、高温高圧分解後、自然分別した場合(サンプルG)のみ、C炭素数20以上の飽和脂肪酸は低く、トランス不飽和脂肪酸は低く、色相Cが低いことが分かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
油脂を加水分解することにより脂肪酸類を製造する方法であって、酵素を担体に固定化した固定化酵素を用いて、油脂を酵素分解法で部分的に加水分解した後、高温高圧分解法により加水分解し、次いで自然分別する脂肪酸類の製造法。
【請求項2】
酵素分解法による加水分解を、脂肪酸濃度が20〜90質量%となるまで行う請求項1記載の脂肪酸類の製造方法。
【請求項3】
酵素分解法で加水分解反応に供する油脂の構成脂肪酸中のトランス不飽和脂肪酸含量が1.5質量%以下である請求項1又は2に記載の脂肪酸類の製造方法。
【請求項4】
前記自然分別が、加水分解後の脂肪酸類に結晶調整剤を添加混合し、冷却することにより結晶を析出させ、液体部を分別する方法である請求項1〜3のいずれか1項に記載の製造方法。

【公開番号】特開2008−253196(P2008−253196A)
【公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−99538(P2007−99538)
【出願日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】