説明

脂質代謝改善剤

【課題】脂質代謝改善機能を賦与した脂質代謝改善剤、脂質代謝改善機能を賦与した医薬品および脂質代謝改善用飲食品
【解決手段】アスパラガス擬葉を有効成分とする脂質代謝改善剤、脂質代謝改善機能を賦与した医薬品および脂質代謝改善用飲食品。
アスパラガス擬葉には血清中および肝臓中の総コレステロール濃度および中性脂肪濃度を低下させる作用があり、生体内の脂質代謝を顕著に改善する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脂質代謝改善剤、脂質代謝改善用飲食品および脂質代謝改善機能を賦与した医薬品に関する。本発明の脂質代謝改善剤、脂質代謝改善用飲食品および脂質代謝改善機能を賦与した医薬品は、特に、天然物由来の成分を含む生体内中性脂肪濃度およびコレステロール濃度の改善に有効である。
【背景技術】
【0002】
近年、高脂肪低繊維食に代表される食事の欧米化やライフスタイルの変化に伴い、高コレステロールに起因する様々な生活習慣病が問題となっている。これら脂質代謝の異常に起因する疾患のうちでも、高脂血症患者の数は近年増加していることが指摘されている。高脂血症は、血液中の脂質(脂肪)、特にコレステロールや中性脂肪(トリグリセライド)が正常値を超えて増加している状態をいう。高脂血症は自覚症状がないため、これをそのまま放置すると、動脈硬化が進行して狭心症や心筋梗塞などの心臓病や脳梗塞のような脳動脈疾患を引き起こす。
【0003】
従来、このような高脂血症等の脂質代謝異常を抑制ないし改善するために、合成薬剤が広く用いられている。しかしながら、化学合成によって得られた薬剤の服用は副作用を伴う場合が多いため、長期にわたっての服用は必ずしも望ましいものではない。
したがって、天然物由来の成分であって、副作用やリバウンドのおそれがなく、長期間にわたって安全に摂取することができる脂質代謝改善剤、脂質代謝改善用飲食品および脂質代謝改善機能を賦与した医薬品の開発が望まれている。
【0004】
このような観点で、日常的な投与が可能である食品素材によって、体内脂質代謝を改善しようという試みがなされてきた。例えば、天然物由来の脂質代謝改善剤としては、柑橘類の種子に含まれているリモノイド含有物を利用するもの(例えば、特許文献1参照)や、タデ科植物やブドウ科植物などに含有されるスチルベン系化合物を利用するもの(例えば、特許文献2)が知られている。また、血中コレステロール濃度を下げようという試みは大豆タンパク質(例えば、非特許文献1参照。)、乳清タンパク質(例えば、非特許文献2参照。)、大豆タンパク質加水分解物(例えば、非特許文献3参照。)、卵黄リン脂質(例えば、非特許文献4参照。)などが挙げられる。また、ラクトアルブミン、コラーゲン、大豆タンパク質または小麦グルテンと大豆レシチンを組み合わせる方法(例えば、非特許文献5参照。)や、大豆レシチンを含む組織状の大豆タンパク質を用いる方法(例えば、非特許文献6参照。)などが提案されている。しかし、これらには、比較的多量の投与を必要とするという問題、風味上の問題、飲料にした場合に保存中に沈殿するなどの保存安定性の問題があった。
【特許文献1】特開2000−72684号公報
【特許文献2】特開2001−72583号公報
【特許文献3】特開平5−176713号公報
【非特許文献1】Atherosclerosis, 72,115,1988
【非特許文献2】Agric.Biol.Chem.,55,813, 1991
【非特許文献3】J.Nutr.,120,977,1990
【非特許文献4】Agric.Biol.Chem.,53,2469, 1989
【非特許文献5】Nutr.Rep.Int.,28,621, 1983
【非特許文献6】Ann.Nutr.Metab., 29, 348 1985
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
脂肪肝、高脂血症、動脈硬化症、肥満症等の生活習慣病に関しては医学的な治療に加えて日常的な投与が可能である食品素材によって、血中コレステロール濃度や中性脂肪濃度を下げるなど脂質代謝改善のための食事療法が必要不可欠である。
本発明は、これを摂取することにより脂質代謝を改善することができ、脂肪肝、高脂血症、動脈硬化症、肥満症などの生活習慣病の予防および改善に有用であり、しかも、日常的な投与が可能である脂質代謝改善剤を提供することを課題とする。また、本発明は、脂質代謝改善剤を含有する脂質代謝改善用飲食品および脂質代謝改善剤を含有する脂質代謝改善機能を賦与した医薬品を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、アスパラガスの持つ薬理作用について鋭意研究を行ってきたところ、脂質代謝を改善する機能に関して、アスパラガス、特にアスパラガスの擬葉部分に、生体内の総コレステロールや中性脂肪値を顕著に低下させる作用があり、脂質代謝を顕著に改善することを見出した。
【0007】
したがって、本発明は、アスパラガス擬葉を有効成分として含有することを特徴とする脂質代謝改善剤である。また、本発明は、アスパラガス擬葉を有効成分として含有することを特徴とする脂質代謝改善用飲食品、およびアスパラガス擬葉を有効成分として含有することを特徴とする脂質代謝改善機能を賦与した医薬品にかかるものである。
さらに、本発明は、アスパラガス擬葉を有効成分として含有する脂質代謝改善剤の中性脂肪濃度上昇抑制剤としての使用を含む。また、本発明は、アスパラガス擬葉を有効成分として含有する脂質代謝改善剤のコレステロール濃度上昇抑制剤としての使用を含む。
【0008】
本発明は、アスパラガス擬葉を有効成分として含有する脂質代謝改善剤を提供することにより、また、アスパラガス擬葉を有効成分として含有する脂質代謝改善用飲食品および脂質代謝改善機能を賦与した医薬品を提供することにより上記課題を解決することができた。
【発明の効果】
【0009】
本発明の脂質代謝改善剤、脂質代謝改善用飲食品および脂質代謝改善機能を賦与した医薬品は、これを摂取することにより中性脂肪濃度上昇やコレステロール濃度上昇を抑制することができるので、脂肪肝、高脂血症、動脈硬化症、肥満症などの疾患の予防および改善に有用である。
また、本発明の脂質代謝改善剤等の原料であるアスパラガスの擬葉は、地下茎や貯蔵根の肥培後は枯れるに任せるか、あるいは刈り取って廃棄しているので、未利用バイオマスであり、廃棄物でもある。この未利用バイオマスの有効利用と、廃棄物の軽減という面からも本発明は有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明に係る脂質代謝改善剤、脂質代謝改善用飲食品および脂質代謝改善機能を賦与した医薬品は、アスパラガス擬葉を有効成分として含有することを特徴とするものである。
【0011】
アスパラガスはユリ科の多年生植物であり、食用となるのは、鱗芽群から伸び出した若茎で、前の年に貯蔵根に蓄えられた養分(糖)を使って造られる。アスパラガスの地下茎にはたくさんの根が密生していて、太い根を貯蔵根、細い根を吸収根と呼ぶ。貯蔵根は地上で作った糖分(同化生産物)を貯蔵し、吸収根はもっぱら土から養水分を吸収する。前の年に地上部の茎が葉のように変化した擬葉が良く繁って糖を多量に蓄えている株ほど美味しい若茎がたくさん採れることになるので、若茎を食用として収穫後、地上茎を残して擬葉を繁茂させて地下茎や貯蔵根を肥培し、翌年の若茎の発生を促進する。アスパラガスの地上茎は1株から10〜30本発生し、放っておくと草丈2mにも達する。秋の終わりになると自然に枯れていくか、刈り取って廃棄する。約7〜12年くらいこのサイクルを繰り返す。このようにアスパラガスの擬葉は、地下茎や貯蔵根の肥培後は枯れるに任せるか、あるいは刈り取って廃棄しているので、未利用バイオマスであり、廃棄物でもある。この未利用部分のアスパラガス植物体利用による一次加工製品の開発とその商品化により未利用バイオマスの有効利用、廃棄物の軽減による環境保全、さらには、アスパラガス栽培農家の増収にもつながるという利点がある。
【0012】
アスパラガスの若茎には、ルチン、サポニン、フラクトオリゴ糖や食物繊維などの機能性物質が含まれている。これらの物質の中には抗酸化作用や、抗腫瘍活性などがあることが知られている。また、アスパラガス擬葉のルチン含量は普通ソバの100〜200倍と高く、しかもソバアレルギーの心配がないことと、抹茶のようなきれいな緑色とほのかな甘味のある淡いアスパラ風味を有することから、食品素材としての機能性が開示されている (WO2006/022338号公報) 。
【0013】
本発明者らは、アスパラガスの持つ薬理作用について鋭意研究を行ってきたところ、脂質代謝を改善する機能に関して、アスパラガスの擬葉部分に、生体内の総コレステロール濃度や中性脂肪濃度を顕著に低下させる作用があり、脂質代謝を顕著に改善することを見出した。
【0014】
本発明者らが見出したアスパラガス擬葉の持つ脂質代謝を改善する機能は、アスパラガスの擬葉が有する高いルチン含量によるものではないかと考え、下記試験例に示す如く、アスパラガスの擬葉を配合した飼料、ルチンを配合した飼料、及び擬葉、ルチンのいずれをも配合しないコントロール飼料をラットに投与したところ、アスパラガスの擬葉を配合した飼料投与群は、ルチンを配合した飼料投与群および擬葉、ルチンのいずれをも配合しないコントロール飼料投与群よりも脂質代謝を改善する機能が有意に高いことが判明した。ルチンを配合した飼料投与群は擬葉、ルチンのいずれをも配合しないコントロール飼料投与群と同程度であり、ルチンには脂質代謝を改善する機能がないことがわかった。したがって、アスパラガス擬葉の持つ脂質代謝を改善する機能は、アスパラガスの擬葉が有する高いルチン含量によるものではないことが明らかである。
【0015】
すなわち、本発明に係る脂質代謝改善剤、脂質代謝改善用飲食品および脂質代謝改善機能を賦与した医薬品は、アスパラガスの擬葉を含むことを特徴とする。この脂質代謝改善作用は、具体的には、血清中中性脂肪濃度、血清中総コレステロール濃度、肝臓中中性脂肪濃度、肝臓中総コレステロール濃度の上昇を抑制する作用である。
【0016】
本発明では、脂質代謝改善剤の有効成分として、あるいは脂質代謝改善機能を飲食品や医薬品に賦与するために、アスパラガスの擬葉を使用する。上述したような脂質代謝改善剤を製造する際に使用することができるアスパラガスの種類としては、アスパラガス・オフィシナリス(Asparagus officinalis)の擬葉を使用することが、作付量の多さや栽培技術の蓄積の点から好ましいが、他の種類であっても良い。
【0017】
本発明の脂質代謝改善用液剤の製造法は概略次の通りである。アスパラガス・オフィシナリス(Asparagus officinalis)を晩夏まで栽培して発生した擬葉を洗浄して付着している土砂、すす等を除去した後、食品用カッターにより細断する。細断したものに水を加えて電動石臼等で所定の粒度になるまで摩砕して、得られるペースト状の溶液を低温濃縮機で濃縮する。製品は濃い緑色の粥状を呈し、そのままで、あるいは他の原料と配合して本発明の脂質代謝改善液剤あるいは脂質代謝改善用の医薬品や飲食品として利用できる。
【0018】
また、本発明の粉末状脂質代謝改善剤の製造法は概略次の通りである。
食品用カッターにより細断した擬葉を、凍結乾燥機、減圧乾燥機、通風乾燥機などから選ばれる乾燥機を用いて乾燥させ、得られた乾燥アスパラガス擬葉を用途に応じた粉砕機で粉末化する。通常の粒度の粉末にするには微粉砕機を用い、微粉末化するには、例えば、ターボミル(ターボ工業株式会社)を用いると良い。乾燥粉末は、そのままで、あるいは他の原料と配合して本発明の脂質代謝改善剤あるいは脂質代謝改善用の医薬品や飲食品として利用できる。乾燥させたものを、本発明の脂質代謝改善剤あるいは脂質代謝改善用の飲食品や医薬品の原料として利用する方が、多分野での応用が可能となる。
【0019】
本発明の脂質代謝改善剤として、アスパラガスの擬葉を細断したもの、あるいはその乾燥物、アスパラガスの擬葉を液状にしたもの、あるいはその乾燥物などを、そのまま本発明の脂質代謝改善剤あるいは脂質代謝改善用の飲食品として用いることができる。
【0020】
また、本発明の脂質代謝改善剤および脂質代謝改善機能を賦与した医薬品の剤型は、粉剤、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、液剤などにすればよく、経口的に投与する。また、これらの剤型は、従来から知られている通常の製剤方法で製造することができる。例えば、製剤の製造上許可される担体や賦形剤等と混合して成型する。賦形剤の例としては、ラクトース、デキストロース、セルロース、メチルセルロース、澱粉などがあげられる。
【0021】
また、本発明の脂質代謝改善用飲食品については、アスパラガスの擬葉を前記したような剤型の飲食品とするか、あるいはアスパラガスの擬葉を細断したもの、あるいは、その乾燥物、アスパラガスの擬葉を液状にしたもの、あるいはその乾燥物、アスパラガスの擬葉を粉末化したもの等を飲食品に配合する。
【0022】
本発明に係るアスパラガス擬葉を有効成分として含有することを特徴とする脂質代謝改善剤、脂質代謝改善用飲食品、および脂質代謝改善機能を賦与した医薬品は、優れた脂質代謝改善作用により、不適切な食生活または運動不足に起因する生活習慣病を予防し、メタボリック・シンドロームを改善する作用を有する。このような生活習慣病としては、肥満、高脂血症、高血圧症、糖尿病を挙げることができ、本発明に係る脂質代謝改善剤、脂質代謝改善用飲食品および脂質代謝改善機能を賦与した医薬品は肥満、高脂血症、高血圧症または糖尿病の少なくともいずれかの予防および改善に有用である。
【0023】
本発明における、アスパラガスの擬葉成分によって脂質代謝改善効果が得られるメカニズムは必ずしも明らかではないが、アスパラガス擬葉の持つ脂質代謝を改善する機能は、上述のように、アスパラガスの擬葉が有する高いルチン含量によるものではないことは明らかである。
【0024】
本発明の脂質代謝改善剤、脂質代謝改善用飲食品および脂質代謝改善機能を賦与した医薬品の投与量は、年齢、治療効果及び病態等により異なり、特に限定されないが、アスパラガスの擬葉を一日当たり1〜300g、好ましくは2〜10g摂取できるよう配合量等を調整すればよい。
【0025】
以下に、実施例及び試験例を示し、本発明についてより詳細に説明するが、これらは単に例示するのみであり、本発明はこれらによって何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0026】
(アスパラガス擬葉ピューレの調製)
収穫したアスパラガス擬葉の夾雑物を除き、洗浄後、水切りし、食品用カッター(スライサーOV型、アーシェル社製)で2〜3cmに細断した。この細断物に3倍量の水を加えて、電動石臼 (マスコロイダー、増幸産業株式会社製)で、所定の粒度になるまで2回摩砕した。ペースト状の溶液を低温濃縮機(エバポール、大川原製作所製)に入れ、液温35℃、Bx15程度まで濃縮し、さらに、55℃、15分間加熱し、アスパラガス擬葉ピューレを調製した。製品は濃い緑色の粥状を呈し、水分含有に見合うルチン、糖を含有していた。収量は150%であった。これは、このままで、あるいは、瓶、缶、紙などの容器に充填して、本発明の脂質代謝改善剤として使用できる。また、脂質代謝改善用飲食品、医薬品の原料として飲食品、医薬品に配合することができる。凍結保存も可能である。
【実施例2】
【0027】
(アスパラガス擬葉凍結乾燥粉末の調製)
収穫したアスパラガスの擬葉の夾雑物を除き、洗浄後、水切りし、食品用カッター(スライサーOV型、アーシェル社製)で2〜3cmに細断した。この細断物を−40℃で予備凍結し、さらに真空凍結乾燥機(協和真空技術(株)製)を用いて、乾燥時棚加熱温度30℃、乾燥時間48時間で凍結乾燥した。収量は24%であった。乾燥したアスパラガス擬葉をターボミル(ターボ工業株式会社)で粉砕し、粉末にした。これは、このままで、あるいは、瓶、缶、紙などの容器に充填して、本発明の脂質代謝改善剤として使用できる。
【実施例3】
【0028】
(アスパラガス擬葉減圧乾燥粉末の調製)
収穫したアスパラガスの擬葉の夾雑物を除き、洗浄後、水切りし、食品用カッター(スライサーOV型、アーシェル社製)で2〜3cmに細断した。この細断物をマイクロ波減圧乾燥機(日本製鋼所社製)に入れ、圧力160torr、出力:1KW、乾燥時温度:60〜70℃の乾燥条件で48時間乾燥した。収量は22%であった。乾燥したアスパラガス擬葉を微粉砕機(TV-2型、東京製粉機械製作所製)で粉砕し、粉末にした。これは、このままで、あるいは、瓶、缶、紙などの容器に充填して、本発明の脂質代謝改善剤として使用できる。
【0029】
[試験例1]
実施例2で得られたアスパラガス擬葉粉末及び市販のルチン(Sigma社)を試料として、ラットを用いて脂質代謝改善作用を調べた。
6週齢のSD系雄ラット18匹を、コントロール飼料投与群、10%アスパラガス擬葉粉末飼料投与群、0.1%ルチン飼料投与群の3試験群(n=6)に分け、市販飼料(CE2、日本クレア株式会社)で1週間予備飼育の後、表1に示すそれぞれの配合の飼料で4週間飼育した。
【0030】
すなわち、コントロール飼料投与群には表1に示すコントロール飼料を、アスパラガス擬葉粉末飼料投与群にはコントロール飼料にアスパラガス擬葉粉末を10%添加した飼料を、ルチン飼料投与群には、コントロール飼料にルチンを0.1%添加した飼料を投与した。水および飼料は自由摂取とし、室温23±1℃、湿度50±5%、12時間の明暗サイクル(明期;8:00〜20:00、暗期; 20:00〜8:00)の飼育条件で行なった。飼育試験は1週間予備飼育の後、4週間の本試験飼育を行なった。
【0031】
【表1】

【0032】
本飼育開始から毎日、全ラットの体重、飼料摂取量を測定した。また、本飼育開始から0、7、21、28日目に尾静脈採血を行い、血清総コレステロール、中性脂肪濃度の経時的変化を測定した。実験終了時に、ソムノペンチル麻酔下で、ラットの腹部を開腹し、腎周囲脂肪、副睾丸周囲脂肪を摘出し、それぞれの重量を測定した。肝臓は凍結乾燥し、肝臓中の脂質濃度を分析した。
実験データは平均値±標準誤差(SEM)で表した。統計処理はTukey-kramerの多重比較検定によって有意水準5%で行なった(p<0.05)。
【0033】
1)成長曲線
アスパラガス擬葉粉末添加飼料、コントロール飼料およびルチン添加飼料を投与し、飼育した群の成長曲線を図1に示す。アスパラガス擬葉粉末添加飼料投与群、コントロール飼料投与群およびルチン飼料投与群のいずれも順調に成長し、アスパラガス擬葉粉末摂取による体重、摂取量、飼料効率の低下は見られなかった。飼料効率(飼料摂取量/体重)は4週合計で、コントロール飼料投与群は、0.288±0.005、アスパラガス擬葉粉末添加飼料投与群は0.291±0.006、ルチン飼料投与群は0.294±0.005であった。
【0034】
2)臓器重量
腎周囲脂肪および副睾丸周囲脂肪の重量を測定した結果を表2に示す。
アスパラガス擬葉粉末の摂取により腎周囲脂肪および副睾丸周囲脂肪において低下を示した。
【0035】
【表2】

【0036】
3)尾静脈血の血清脂質濃度の測定結果
尾静脈血の血清中中性脂肪の経時変化測定結果を図2に示す。アスパラガス擬葉粉末添加飼料投与群の尾静脈血の血清中中性脂肪濃度は、コントロール飼料投与群およびルチン飼料投与群のいずれよりも有意に低く、アスパラガス擬葉が血清中性脂肪濃度の上昇を抑制していることが分かる。
【0037】
また、尾静脈血の血清中総コレステロール濃度の経時変化測定結果を図3に示す。アスパラガス擬葉粉末添加飼料投与群の尾静脈血の血清中総コレステロール濃度は、コントロール飼料投与群およびルチン飼料投与群のいずれよりも有意に低く、アスパラガス擬葉が血清中の総コレステロール濃度の上昇を抑制していることが分かる。
【0038】
以上の結果から、アスパラガス擬葉は、血清中中性脂肪濃度および血清中総コレステロール濃度の上昇を顕著に抑制する効果を有することが明らかになった。したがって、アスパラガス擬葉を含有する脂質代謝改善剤の中性脂肪濃度上昇抑制剤としての使用は顕著な効果を有することが明らかである。また、アスパラガス擬葉を含有する脂質代謝改善剤のコレステロール濃度上昇抑制剤としての使用は顕著な効果を有することが明らかである。
なお、ルチンを配合した飼料投与群は、コントロール飼料投与群と同程度であり、ルチンには脂質代謝を改善する機能がないことがわかった。したがって、アスパラガス擬葉の持つ脂質代謝を改善する機能は、アスパラガスの擬葉が有する高いルチン含量によるものではないことが明らかである。
【0039】
4)肝臓中脂質
肝臓は、凍結乾燥器(VOS/VOC-SD型)で4日間凍結乾燥し、乳鉢で磨砕した。肝臓粉末は、分析時まで-20℃で保存した。肝臓脂質は、Folchらの方法に従って抽出した。脂質抽出液は吹付け式試験管濃縮装置(EYELA DRY THERMO BATH、MGS-2100型、東京理化)を用い、窒素ガスを吹付けながら50℃で濃縮、乾固した。これにイソプロピルアルコール2mlを加え、超音波処理を行なった。その溶液からカイノス酵素キットを用い、肝臓中の中性脂肪濃度および総コレステロール濃度を測定した。
肝臓中の中性脂肪濃度の測定結果を図4に示す。アスパラガス擬葉粉末添加飼料投与群の肝臓中の中性脂肪濃度が、コントロール飼料投与群およびルチン飼料投与群と比較して有意に低下した。
肝臓中の総コレステロール濃度の測定結果を図5に示す。アスパラガス擬葉粉末添加飼料投与群の肝臓中の中性脂肪濃度が、コントロール飼料投与群およびルチン飼料投与群と比較して有意に低下した。
【0040】
以上の試験結果から、アスパラガス擬葉は肝臓中の中性脂肪濃度および総コレステロール濃度を低下させることが明らかになった。
したがって、アスパラガス擬葉を含有する脂質代謝改善剤の中性脂肪濃度上昇抑制剤としての使用は顕著な効果を有することが明らかである。また、アスパラガス擬葉を含有する脂質代謝改善剤のコレステロール濃度上昇抑制剤としての使用は顕著な効果を有することが明らかである。
【0041】
なお、ルチンを配合した飼料投与群の肝臓中中性脂肪濃度はコントロール飼料投与群と同程度であり、肝臓中総コレステロール濃度については、コントロール飼料投与群より高かった。このことからルチンには脂質代謝を改善する機能がなく、アスパラガス擬葉の持つ脂質代謝を改善する機能は、アスパラガス擬葉が有する高いルチン含量によるものではないことが明らかとなった。
【実施例4】
【0042】
実施例2で得られたアスパラガス擬葉凍結乾燥粉末50g、ラクトース140g、シュガーエステル8g、カルボキシメチルセルロース2gを混合し、圧縮錠剤機(富士薬品機械 Y-5010-Q)により圧縮して(条件1〜4ton)、本発明の脂質代謝改善用錠剤を製造した。
【実施例5】
【0043】
第13改正日本薬局方解説書製剤総則「散剤」の規定に準拠し、実施例3で得られたアスパラガス擬葉の減圧乾燥粉末10gにラクトース(日局)400g、バレイショデンプン(日局)600gを加えて均一に混合し、本発明の脂質代謝改善用散剤を製造した。
【実施例6】
【0044】
ビタミンC40gまたはビタミンCとクエン酸の等量混合物40g、グラニュー糖100g、コーンスターチと乳糖の等量混合物60gに、実施例3で得られたアスパラガス擬葉の減圧乾燥粉末40gを加えて混合した。混合物を1袋1.5gずつ袋に詰め、本発明の脂質代謝改善用スティック状栄養健康食品を製造した。
【実施例7】
【0045】
砂糖75g、クエン酸60g、リンゴ果汁100g、水794gに、実施例1で得られたアスパラガス擬葉ピューレ100gを混合し、容器に充填した後、加熱殺菌して、本発明の脂質代謝改善用飲料を製造した。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】アスパラガス擬葉粉末添加飼料、コントロール飼料およびルチン添加飼料を投与したラットの成長曲線を示す(試験例1)。
【図2】尾静脈血の中性脂肪濃度の経時変化測定結果を示した図である(試験例1)。
【図3】尾静脈血の総コレステロール濃度の経時変化測定結果を示した図である(試験例1)。
【図4】肝臓中の中性脂肪濃度の測定結果を示した図である(試験例1)。
【図5】肝臓中の総コレステロール濃度の測定結果を示した図である(試験例1)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アスパラガス擬葉を有効成分として含有することを特徴とする脂質代謝改善剤。
【請求項2】
アスパラガス擬葉を有効成分として含有することを特徴とする脂質代謝改善用飲食品。
【請求項3】
アスパラガス擬葉を有効成分として含有することを特徴とする脂質代謝改善機能を賦与した医薬品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−137913(P2009−137913A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−318533(P2007−318533)
【出願日】平成19年12月10日(2007.12.10)
【出願人】(507405278)株式会社 エス・ネット (1)
【Fターム(参考)】