説明

脂質代謝改善組成物

【課題】 添加物を加えることなく、ブドウ科植物単体で、脂質代謝改善機能の高い脂質代謝改善組成物を提供する。
【解決手段】 ブドウ科植物を原料として抽出される組成物において、ヤマブドウの果実及び/または果実の絞り粕を原料として抽出され、乾燥させて粉末化させたときに、ポリフェノールを有効成分として5重量%以上含有し、共存する糖質とポリフェノールの重量比が0.1〜19の割合であり、このポリフェノールのうち、プロシアニジンを40重量%以上含有し、このプロシニアジンの平均重合度が6以下である脂質代謝改善組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブドウ科植物を原料として抽出される組成物に係り、特に、抗肥満効果をはじめ、血液や肝臓中のコレステロール,過酸化脂質やトリグリセライド量の低減効果を奏する脂質代謝改善組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、脂肪の過剰摂取は、肥満や血清脂質の上昇を引き起こし、それにともない、さまざまな生活習慣病の発症の危険率が高まるなど、国民の健康増進と医療費抑制のうえから社会問題となっている。高脂血症では、血清コレステロール濃度の上昇、および血清トリグリセリド濃度の上昇がおこり、これらは動脈硬化の危険因子である。動脈硬化、脂肪肝、高脂血症等の生活習慣病に関しては医学的な治療を要する段階以前に食事療法により脂質代謝改善を行うことが重要であり、このため、従来から、種々の食品素材が開発されている。
【0003】
従来、このような素材として、例えば、特開2001−302519号公報(特許文献1)記載の抗肥満薬の技術が知られている。
この抗肥満薬は、キトサンを含有するとともに、赤ブドウエキスを含有したもので、このキトサンにより主として脂質の吸収を阻害して抗肥満効果を発揮させるとともに、赤ブドウエキスにより脂質の過酸化を防止して過酸化脂質の生成を抑制させ、キトサンとの相乗効果により抗肥満効果を増強させ、血液中のコレステロールやトリグリセライド量の低減効果を増強させるようにしている。
また、従来においては、例えば、特開2001−72583号公報(特許文献2)記載の技術であって、ブドウ科植物に多く含有されるスチルベン系化合物を有効成分として、ヒトにおいて肝細胞コレステロール合成阻害活性、ヒトの血清コレステロール低下作用を有する脂質代謝改善に有効なヒト高コレステロール血症の予防又は治療用組成物の技術も知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−302519号公報
【特許文献2】特開2001−72583号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記前者の従来の抗肥満薬は、脂質の吸収を阻害する組成物として赤ブドウエキスを用いているが、赤ブドウは一般的なブドウであり、このような一般的なブドウ科植物においては、必ずしも、その効果が高いとは言えない。そのため、キトサンを加えてその相乗効果を図っている。
また、上記後者の脂質代謝改善に有効なヒト高コレステロール血症にあっては、タデ科植物やバイケイソウおよびブドウ科植物に含有されるスチルベン系化合物を有効成分としているが、スチルベンの有効量を摂取するのに必要なブドウ科植物の量は非常に多く効率的とはいえず、使用するブドウも一般的なブドウの種として特に特定していない。
尚、一般的なブドウ科植物(Vitaceae)の品種としては、ビティス種(Vitis spp.)が挙げられ、具体的には欧、中東品種のビティス ビニフェラ種(V.vinifra)、北米品種のビティス ラブルスカ種(V.labrusca)、ビスティス カリフォルニア種(V.California)に代表される品種、北米ミュカディン種のビスティス ムソニャーナ種(V.Munsoniana)、アジア品種のビスティス アムレンシス種(V.Amurensis)が挙げられる。
本発明は上記の点に鑑みて為されたもので、ブドウ科植物単体で、脂質代謝改善機能の高い脂質代謝改善組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
このような目的を達成するための本発明の脂質代謝改善組成物は、ブドウ科植物を原料として抽出される組成物において、ヤマブドウの果実及び/または果実の絞り粕を原料として抽出され、脂質代謝改善機能を有する構成としている。ここで果実とは、果皮,果肉及び種子を含む概念である。果実の場合、果汁を原料としてもよく、また、果皮,果肉及び種子全部を原料としてよい。
【0007】
ヤマブドウ(Vitis coignetiae)は、ブドウ科の蔓性植物であり、上記の一般的なブドウ、主にヨーロッパで栽培されているヴィティス・ビニフェラ(Vitis vinifera)やアメリカで栽培されているヴィティス・ラブラスカ(Vitis labraska)等と異なり、アジア種に分類され、日本にのみ生息する果実である。
【0008】
本発明者らは、ヤマブドウの利用方法について鋭意研究を行って、本発明を完成させるに至った。即ち、脂質代謝を改善する機能に関して、ヤマブドウの果実に、生体内の総コレステロールや中性脂肪値を顕著に低下させる作用があり、脂質代謝を改善することを見出し、その効率的抽出利用方法を開発し、その安全性も確認できた。本組成物によれば、高カロリーの食事の摂取や、それによる肥満状態における生体内の高コレステロールあるいは高い中性脂肪(トリグリセリド)濃度を低減し、リパーゼ阻害活性を奏することができる。
【0009】
ヤマブドウ(Vitis coignetiae)からの組成物の抽出は、果実からでもよく、また圧搾により果汁を搾った後の絞り粕を使用しても良い。抽出液は果実の糖類の混入を抑制するためエタノールが望ましく、水、低級アルコール類(メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール)、ケトン類(アセトン等)、エステル類(ジエチルエーテル、酢酸エチル類)を適宜混合して使用することが望ましい。食品に用いる場合などこれらの溶媒の残留が問題になる場合は水、エタノールあるいはこれらの混合溶媒を用いればよい。抽出条件は、原料により溶媒量、抽出温度、抽出時間等を適合させ適宜定めることができる。通常は常圧下で行うが加圧あるいは減圧条件下で実施してもよく、溶媒の循環や攪拌等を行って抽出効率を上げる事もできる。
【0010】
そして、必要に応じ、乾燥させて粉末化させたときに、ポリフェノールを有効成分として5重量%以上含有し、共存する糖質とポリフェノールの重量比が0.1〜19の割合である構成としている。共存する糖は、添加したデキストリンを含むことが有効である。デキストリンを添加して確実に乾燥させて粉末化させることができ、有効成分であるポリフェノールの濃縮により、より一層、生体内の総コレステロールや中性脂肪値を顕著に低下させ脂質代謝の改善作用を向上させることができる。
【0011】
上記ポリフェノールのうち、プロシアニジンを40重量%以上含有する構成が有効である。濃縮操作により有効成分であるポリフェノールの純度が高められ、プロシアニジンを40重量%以上にすることができる。
【0012】
この場合、上記プロシニアジンとして、平均重合度が6以下で、2量体、3量体を多く含むことが有効である。これにより、経口摂取時の生体内への吸収効率を高くすることができる。
【0013】
また、本発明の脂質代謝改善組成物は、生体内コレステロール濃度上昇を抑制する機能を有し、生体内トリグリセリド濃度を低下させる機能を有し、あるいはまた、リパーゼ阻害活性機能を備えている。
【0014】
そしてまた、上記本発明の脂質代謝改善組成物の製造方法としては、例えば、ヤマブドウの果実の絞り粕を原料とし、この原料をエタノールに浸漬して有効成分を抽出し、この抽出液をカラムクロマトグラフィーにより精製し、乾燥して粉末化させて製造することができる。これにより、ポリフェノールを濃縮し効率的に利用することができる。
また、例えば、ヤマブドウの果実の絞り粕を原料とし、この原料をエタノールに浸漬して有効成分であるポリフェノールを抽出し、ポリフェノールと糖質との重量比が0.1〜19の割合になるようにデキストリンを添加して乾燥粉末化し、ポリフェノールを効率的に利用することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、高カロリーの食事の摂取や、それによる肥満状態における生体内の高コレステロールあるいは高い中性脂肪濃度を低減することができ、リパーゼ阻害活性機能も高く、そのため、各種食品や医薬品素材としての有効利用を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施例に係る脂質代謝改善組成物の製造工程を示す図であり、(a)は実施例1の製造工程を示し、(b)は実施例2の製造工程を示す図である。
【図2】実施例4に関し実施例に係る脂質代謝改善組成物の高コレステロール食摂取ラットにおける影響を調べた結果を示すグラフ図である。
【図3】実施例4に関し実施例に係る脂質代謝改善組成物の高コレステロール食摂取ラットにおける影響を調べた別の結果を示すグラフ図である。
【図4】実施例5に関し実施例に係る脂質代謝改善組成物の高脂肪食肥満モデルマウスにおける影響を調べた結果を示す表図である。
【図5】実施例5に関し実施例に係る脂質代謝改善組成物の高脂肪食肥満モデルマウスにおける影響を調べた結果を示すグラフ図である。
【図6】実施例5に関し実施例に係る脂質代謝改善組成物の高脂肪食肥満モデルマウスにおける影響を調べた別の結果を示すグラフ図である。
【図7】実施例5に関し実施例に係る脂質代謝改善組成物の高脂肪食肥満モデルマウスにおける影響を調べたまた別の結果を示すグラフ図である。
【図8】実施例6に関し実施例に係る脂質代謝改善組成物のリパーゼ阻害活性を調べた結果を示すグラフ図である。
【図9】実施例7に関し実施例に係る脂質代謝改善組成物の健常ラットにおける肝臓毒性に対する影響を調べた結果を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、添付図面に基づいて、本発明の実施の形態に係る脂質代謝改善組成物について詳細に説明する。
本発明の実施の形態に係る脂質代謝改善組成物は、ヤマブドウの果実及び/または果実の絞り粕を原料として抽出され、脂質代謝改善機能を有する。ここで果実とは、果皮,果肉及び種子を含む概念である。果実の場合、果汁を原料としてもよく、また、果皮,果肉及び種子全部を原料としてよい。
本脂質代謝改善組成物は、有効成分であるポリフェノールを効率的に摂取可能にするために、乾燥させて粉末化させた時に、ポリフェノールを有効成分として5重量%以上含有し、共存する糖質とポリフェノールの重量比が0.1〜19の割合になる構成である。また、その乾燥粉末中のポリフェノールのうち、プロシアニジンを40重量%以上含有する。そして、このプロシニアジンの平均重合度は、6以下である。
【0018】
詳しくは、ヤマブドウ(Vitis coignetiae)は、ブドウ科の蔓性植物であり、他のブドウ科、主にヨーロッパで栽培されているヴィティス・ビニフェラ(Vitis vinifera)やアメリカで栽培されているヴィティス・ラブラスカ(Vitis labraska)等と異なり、アジア種に分類され、日本にのみ生息する果実である。
【0019】
ヤマブドウ(Vitis coignetiae)からの組成物の抽出は、果実からでもよく、また圧搾により果汁を搾った後の絞り粕を使用しても良い。抽出液は果実からの糖類混入を抑制するためエタノールが望ましく、水、低級アルコール類(メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール)、ケトン類(アセトン等)、エステル類(ジエチルエーテル、酢酸エチル類)を適宜混合して使用することが望ましい。食品に用いる場合などこれらの溶媒の残留が問題になる場合は水、エタノールあるいはこれらの混合溶媒を用いればよい。抽出条件は、原料により溶媒量、抽出温度、抽出時間等を適合させ適宜定めることができる。通常は常圧下で行うが加圧あるいは減圧条件下で実施してもよく、溶媒の循環や攪拌等を行って抽出効率を上げる事もできる。
【0020】
このようにして得られた抽出液は、脂質代謝改善機能を有する組成物として利用するため、濾過物として、または、賦型剤を入れて加熱乾燥、噴霧乾燥、凍結乾燥等の一般的な乾燥法を用いて乾燥させてもよい。さらには、抽出液もしくは抽出物を吸着クロマトグラフィー、ゲル濾過クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー等の手法を用いて濃縮、精製してもよい。
吸着クロマトグラフィーで使用する合成吸着剤としては、粒子径3μm-800μmであれば工業的な又は試薬として入手できるものが利用可能である。使用できる合成吸着剤を示せば、三菱化学株式会社のダイヤイオンHP20、HP21、HP20MG、セパビーズSP825、SP850、SP207、オルガノ株式会社のアンバーライトXAD4、XAD7HP、XAD16HP、XAD1180、XAD2000、室町ケミカル株式会社のMuromacSAP-9121、9510、9610、9630、9520をあげることができる。天然吸着剤として活性炭を示せば、日本エンバイロケミカルズ社の白鷺C、粒状白鷺WH2c、粒状白鷺W2c、粒状白鷺WH2x、粒状白鷺X7000H、粒状白鷺X7100H、粒状白鷺LGK-100、粒状白鷺LGK-400、粒状白鷺LGK-700、白鷺M、白鷺A、白鷺P、カルボラフィン、強力白鷺、精製白鷺、特性白鷺、粒状白鷺LH2c、粒状白鷺KL、フタムラ化学の粉末活性炭S、K、P、W、球状活性炭Qをあげることができる。
【0021】
ゲル濾過クロマトグラフィーで使用する充填剤としては、チッソ株式会社のセルロファインGCL-2000、GL-25、GEヘルスケアバイオサイエンス合同会社のSephadex G-10、G-15、G-25、G-50、G-75、G-100、LH-20をあげることができる。
イオン交換クロマトグラフィーで使用する陽イオン交換樹脂としては、三菱化学株式会社のダイヤイオンSK1B、SK104、SK110、SK112、SK116、PK208、PL212、PK216、PK220、PK228、HPK25、WK10、WK11、WK100、WT01S、WK40、オルガノ株式会社のアンバーライトIR120B、IR124、200CT、IRC76、陰イオン交換樹脂としては、三菱化学株式会社のダイヤイオンのSA10A、SA11A、SA12A、NSA100、SA20A、SA21A、PA308、PA312、PA316、PA408、PA412、PA418、HPA25、HPA75、WA10、WA20、WA21J、WA30、オルガノ株式会社のアンバーライトIRA400J、IRA402BL、IRA410J、IRA411、IRA458RF、IRA900J、IRA910CT、IRA67、IRA96SBをあげることができる。
【0022】
これらの濃縮、精製方法は単独で用いても良いが、必要に応じて組み合わせて使用しても差し支えない。抽出液また抽出物は水また溶媒に溶解させて、不溶な成分がある場合にはろ紙、メンブランフィルターやセライト濾過などで取り除き、濃縮、精製に用いることができる。また、これらの濃縮生成物を噴霧乾燥、凍結乾燥、膜濾過等により乾燥、濃縮して粉末、ペースト状として利用してもよい。
【0023】
本脂質代謝改善組成物によれば、高カロリーの食事の摂取や、それによる肥満状態における生体内の高コレステロールあるいは高い中性脂肪濃度を低減することができ、リパーゼ阻害活性機能も高く、そのため、各種食品や医薬品素材としての有効利用を図ることができる。
【0024】
また、本脂質代謝改善組成物を食品とする場合は、単独で、あるいは他の果実ジュースと混合して液状組成物とすることやパンやクッキーなどに混入した固体の組成物、あるいはヨーグルトやジャムなどに混入してクリーム状の組成物とすることができる。医薬品や医薬部外品としては、抽出組成物をそのまま、あるいは常用される無機または有機の担体ないし医薬賦形剤を加えて、固形、半固形、または液状で経口投与剤や、経腸剤、外用剤などの非経口投与剤とすることができる。本脂質代謝改善組成物の有効な投与量としては成人1日当たり総ポリフェノール含量として0.01〜10g、一般的には0.1〜0.7gを経口投与することができる。
【実施例】
【0025】
以下、本発明の実施例を示す。
(実施例1)
実施例1に係る脂質代謝改善組成物は、ヤマブドウの果実の絞り粕を原料として製造される粉末状の抽出組成物である。実施例1に係る脂質代謝改善組成物は、図1(a)に示す製造方法により製造される。詳しくは、原料をエタノールに浸漬して有効成分を抽出し、得られる抽出液を濾過した後、液からエタノールを除去し、カラムに吸着させて精製し、乾燥させて粉末にすることにより得られる。
より詳しくは、原料として、ヤマブドウ果実10kgを圧搾して果汁を得、残渣として生じる皮および種子部(しぼり粕)2kgを用いた。
原料としてのしぼり粕2kgに最終濃度70%となるようにエタノールを加えた。その後70℃、6時間攪拌して抽出した。エタノール抽出で得られた液をろ紙No.101(ADVANTEC製)で濾過し、エタノールを減圧下で除いた後、合成吸着剤を詰めたカラムにかけ、ポリフェノールを吸着させた。カラムを水洗浄後、エタノールで溶出し、得られた液よりエタノールを除去した。その後、スプレードライ乾燥させ、絞り粕抽出組成物(ヤマブドウPP)を得た。得られた抽出組成物をフォリンーチオカルト法により総ポリフェノール量を測定したところ、63g/100g((+)カテキン相当量)であり、フェノール硫酸法により全糖量を測定したところ25g/100gであった。また、糖質とポリフェノールの重量比(糖質の重量÷ポリフェノールの重量)は、0.4であった。
【0026】
この実施例1に係る組成物ヤマブドウPPを10%メタノールに溶解してSephadex LH20カラム(1.0×4.0cm)に吸着させ、30%メタノール、70%アセトンで溶出し、それぞれの総ポリフェノール含量についてフォリンーチオカルト法にて測定したところ、非吸着画分がPP組成物中の35%、30%メタノール溶出画分が16%、70%アセトン溶出画分(プロシアニジン画分)が49%を占める。プロシアニジンの分子量分布は以下のようにゲル濾過によって求めた。70%アセトン溶出画分に含まれるプロシアニジンをアセチル化反応させ、GPC分析用試料とした。分析条件は、カラム:東ソー社製 TSK-GEL MULTIPORE HXL-M 7.8×300mm、溶媒: THF、流速:1ml/min、検出波長:254nm。また、標準物質として(-)-エピガロカテキンガレート(Mw458、シグマアルドリッチ社製)、ポリスチレン(MW 820、2460、3700、全てシグマアルドリッチ社製)を用い検量線を作成した。ピークトップを平均分子量とすると、2401であり、プロシアニジンの平均重合度は5程度であった。さらにチオール分解により平均重合度を以下のように求めた。70%アセトン溶出画分溶液に3.3%塩酸を等量、5%ベンジルメルカプタンーメタノール溶液を2倍量加えて40℃30分加熱後、室温で10時間静置した。HPLCにより(4.6×250mm C18 ODSカラム、A:2%酢酸 B:MeOH B 15%→80% 0-45min、流速1.2ml/min、検出波長280nm)ベンジルチオエーテル体と、モノマーの生成比から算出される、プロシアニジンの平均重合度は3.8であった。
ワイン用ブドウのvinifera種、labruska種の種子から得られる市販ブドウ種子抽出物のプロシアニジンは含まれるポリフェノールの90%以上であり、上記と同様のゲル濾過によるピークトップの分子量は4224であり、平均重合度は8程度で、チオール分解により算出される平均重合度も5.4程度でプロシアニジン2量体やカテキン類は非常に少量であった。対して、本組成物は2量体、3量体の分子量の小さいプロシアニジンを多く含有し、この2量体、3量体のプロシアニジンのほかカテキン類も多く含まれており、経口摂取時には生体内の吸収性に優れることがわかる。
【0027】
(実施例2)
実施例2に係る脂質代謝改善組成物は、ヤマブドウの果実の絞り粕を原料として製造される粉末状の抽出組成物である。実施例2に係る脂質代謝改善組成物は、図1(b)に示す製造方法により製造される。詳しくは、原料をエタノールに浸漬して有効成分を抽出し、濾過した液からエタノールを除去後、デキストリンを添加して乾燥させることにより得られる。
より詳しくは、原料として、ヤマブドウ果実10kgを圧搾して果汁を得、残渣として生じる皮および種子部(しぼり粕)2kgを用いた。
原料としてのしぼり粕2kgに最終濃度70%となるようにエタノールを加えた。その後70℃、6時間攪拌して抽出した。エタノール抽出で得られた液をろ紙No.101(ADVANTEC製)により濾過し、エタノールを減圧下で除いた後、固形分に対して50%相当のデキストリンを添加した。その後、スプレードライ乾燥させ、絞り粕抽出組成物(ヤマブドウDP)を得た。得られた抽出物をフォリンーチオカルト法により総ポリフェノール量を測定したところ5g/100g((+)カテキン相当量)であった。また、糖質とポリフェノールの重量比(糖質の重量÷ポリフェノールの重量)は、19であった。
【0028】
この実施例2に係る組成物ヤマブドウDPを10%メタノールに溶解してSephadex LH20カラム(1.0×4.0cm)に吸着させ、実施例1と同様に分画した。70%アセトンで溶出されるプロシアニジン画分についてチオール分解により求められるヤマブドウDPのプロシアニジンの平均重合度は4.8であった。
ワイン用ブドウのvinifera種、labruska種の種子から得られる市販ブドウ種子抽出物のプロシアニジンは含まれるポリフェノールの90%以上であり、ゲル濾過によるピークトップの分子量は4224であり、平均重合度は8程度で、チオール分解により算出される平均重合度も5.4程度でプロシアニジン2量体やカテキン類は非常に少量であった。対して、本組成物はカテキン類のほか、2量体、3量体の分子量の小さいプロシアニジンを多く含有し、経口摂取時には生体内の吸収性に優れることがわかる。
【0029】
(実施例3)
実施例3に係る脂質代謝改善組成物は、ヤマブドウ果汁からの抽出組成物である。実施例1で搾汁した果汁4.9kgを2週間冷蔵(4℃)保存し、ろ紙No.101(ADVANTEC製)で濾過し、清澄な濾液を得た。清澄液は合成吸着剤を詰めたカラムにかけ、水洗浄後、エタノールで溶出し、エタノール留去した後、凍結乾燥させて抽出物とした。得られた抽出物をフォリンーチオカルト法により総ポリフェノール量を測定したところ39g/100g((+)カテキン相当量)であった(果汁抽出組成物)。また、糖質とポリフェノールの重量比(糖質の重量÷ポリフェノールの重量)は、1.6であった。
尚、実施例1で得られるヤマブドウPP組成物、実施例2で得られるヤマブドウDP組成物および実施例3で得られる果汁抽出組成物は、それぞれ、あるいは適宜混合して脂質代謝改善作用を有する組成物として利用することができる。
【0030】
(実施例4)
上記の実施例1の脂質代謝改善組成物(ヤマブドウ絞り粕抽出組成物(以下「PP」という))を用い、高コレステロール食摂取ラットにおける影響を調べた。
実験は、4週齢Wistar系雄ラット(60〜80g、日本エスエルシー株式会社、静岡)をAIN-93Gに準じた20%カゼイン飼料を自由摂食させ予備飼育した後に、20%カゼイン飼料を与えたコントロール群(C群)、20%カゼイン飼料に5%コレステロールを加えた高コレステロール飼料を与えた群(CC群)、0.8%ヤマブドウ絞り粕抽出組成物(PP)を添加した高コレステロール飼料を与えた群(CP群)に群分けし、21日間飼育した。水は水道水を自由に飲ませた。試験食を与えた18日目から3日間糞を採取し、21日目から12時間絶食させ22日目にラットを屠殺した。血漿中トリグリセリド濃度、血漿コレステロール濃度、血漿HDL-コレステロール濃度はそれぞれトリグリセライド E-テストワコー、コレステロール E-テストワコー、HDL-コレステロール E-テストワコー(和光純薬工業株式会社、大阪)を用いて測定した。肝臓の脂質はクロロホルム:メタノール(2:1)で抽出し、血漿と同様にトリグリセリドとコレステロール含量を測定した。
【0031】
結果を図2及び図3に示す。この結果から、各群ともに体重および摂食量についても有意な差はなかった。肝臓重量は、C群(2.87±0.13g/100g)に比べCC群(3.87±0.26g/100g体重)、CP群(3.62±0.28g/100g体重)が有意に増加した。血漿中トリグリセリド濃度は、C群に対して高コレステロール食を摂取したCC群で有意に増加したが、高コレステロール食にPPを添加したCP群ではその増加を抑制する傾向が見られた(図2)。血漿総コレステロール濃度は、3群間に有意差はなかったがCC群に対しCP群が減少する傾向が認められた(図2)。HDL-コレステロール濃度では、C群に対しCC群とCP群で有意に低い値を示した(図2)。これらの結果から、(VLDL+LDL)-コレステロール濃度を算出したところ、C群で最も低く、高コレステロール食によって増加したがPPによって抑制される傾向が見られた(図2)。動脈硬化指数でもコレステロール負荷により増加するがPPの摂取により抑制傾向が見られた(図2)。
【0032】
肝臓のトリグリセリド濃度はC群対してCC群が有意に増加し、CP群でCC群に比べ有意に減少した(図3)。コレステロール濃度もCC群で増加し、CP群で抑制傾向が見られた(図3)。以上のように、PPは、コレステロール負荷ラットにおいて、血漿、および肝臓コレステロールを顕著に減少させ、また肝臓のトリグリセリドを減少させる素材であると考えられた。
【0033】
(実施例5)
上記の実施例1の脂質代謝改善組成物(ヤマブドウ絞り粕抽出組成物(「PP」))を用い、高脂肪食肥満モデルマウスにおける影響を調べた。
実験は、自然発症糖尿病マウスであるKK-Ayマウスを高脂肪食で飼育することで肥満モデルを作出し、ヤマブドウ絞り粕抽出組成物(PP)の作用を検討した。5週齢KK-Ay/TaJc1雄マウス(23〜26g、日本クレア株式会社、東京)をAIN-93Gに準じた20%カゼイン飼料を5日間与えて予備飼育した後に、高脂肪飼料(27%脂肪食)を与えたコントロール群(C群)、高脂肪飼料に0.5%ポリフェノール相当のPPを加えた飼料を与えた群(P群)、高脂肪飼料に0.5%ポリフェノール相当の市販ブドウ種子抽出物を添加した群(G群)に群分けし、28日間飼育した。水は水道水を自由に飲ませた。25日目から3日間糞を採取した。29日目にマウス採血し、肝臓を摘出した。血糖値はグルコースCIIテストワコー(和光純薬、大阪)で測定した。血中インスリン濃度はインスリン測定キット(モリナガ超高感度マウスインスリン測定キット、株式会社森永生科学研究所,横浜)を用いた。血漿中トリグリセリド濃度、血漿中総コレステロール濃度の測定は実施例3と同様に行った。肝臓の脂質抽出、肝臓中トリグリセリド濃度の測定および肝臓中総コレステロール濃度も実施例3と同様に測定した。糞中脂質はクロロホルム-メタノールで抽出し、胆汁酸濃度を総胆汁酸テストワコー(和光純薬、大阪)で測定した。
【0034】
結果を図4乃至図7に示す。最終体重は、最終日体重がC群で41.0±1.38gに対してP群、G群で若干増加したが、摂食量は各群とも有意差は見られなかった。体重100g当たりの組織重量では、肝臓重量、腸間膜脂肪重量、精巣周囲脂肪重量では各群間で有意差はみられなかったが、腎臓周囲脂肪重量ではC群に比べG群で増加傾向を示した(図4)。
最終日の血中グルコース濃度はC群に対してP群で有意に血糖値の低下が認められ、G群ではC群と比較して有意差は認められなかった。(図5)血中インスリン濃度は、C群と比較してP群、G群増加抑制傾向が示された(図5)。
血漿中トリグリセリド濃度は、C群に比べP群で減少傾向が示されたが、G群では差はなかった。総コレステロール濃度には差が認められなかった(図6)。肝臓のトリグリセリド濃度は各群で有意差は認められなかったが、コレステロール濃度は、C群に比べP群で抑制傾向が示された(図7)。糞中胆汁酸排泄量はC群1.10±0.23μmol/dayに対して、P群、G群でそれぞれ0.46±0.06μmol/day、1.16±0.28μmol/dayとなり、P群で減少傾向が示された。
以上の結果から、ヤマブドウ抽出物PPは、肥満誘導したマウスにおいて血中中性脂肪濃度の減少、肝臓コレステロールの減少など脂質代謝を正常化する作用があることが示され、この作用の一因にインスリン抵抗性の減少が考えられた。また、この作用は市販のブドウ種子抽出物よりもヤマブドウ抽出物が強かった。
【0035】
(実施例6)
上記の実施例1の脂質代謝改善組成物(ヤマブドウ絞り粕抽出組成物(「PP」))を用い、リパーゼ阻害活性を調べた。
膵リパーゼの阻害活性は、基質として4-methylumbelliferyl oleate(4-MU oleate)を用いる方法で評価した。96wellマイクロプレートに試料または標準物質を25μLずつ分注した。次に、0.1mM4-MU oleate(Sigma Chemical Co.,USA)/Tris-HCl緩衝液(pH8.0)50μLと50U/mL膵リパーゼ膵リパーゼ(Type VI-S, from porcine pancreas, Sigma Chemical Co., USA)/Tris-HCl緩衝液(pH8.0)25μLをそれぞれ加え、25℃で30分間インキュベーションした。蛍光プレートリーダーで励起波長355nm、蛍光波長460nmにおける蛍光強度を測定した。
【0036】
結果を図8に示す。ヤマブドウ絞り粕抽出組成物(PP)は100μg/mLの濃度で40%程度のリパーゼの阻害活性を示し(図8)、阻害の程度はいずれの濃度においてもブドウ種子抽出物より大きかった。
【0037】
(実施例7)
上記の実施例1の脂質代謝改善組成物(ヤマブドウ絞り粕抽出組成物(「PP」))を用い、健常ラットにおける肝臓毒性に対する影響を調べた。
実験は、6週齢Wistar系雄ラット(120〜140g、日本エスエルシー株式会社,静岡)にAIN-93Gに準じた20%カゼイン飼料を7日間与えた後、20%カゼイン飼料を与えたコントロール群(C群)と0.8%ヤマブドウ絞り粕抽出組成物(PP)を添加した20%カゼイン飼料を与えたP群に群分けし、21日間飼育した。水は水道水を自由に飲ませた。21日目から16時間絶食させ22日目にラットから採血し、血漿を得た。肝障害の評価はアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)とアラニン・アミノトランスフェラーゼ(ALT)により行った。血漿中AST活性、ALT活性を、トランスアミナーゼCII-テストワコー(和光純薬工業株式会社,大阪)を用いて測定した。
【0038】
結果を図9に示す。血漿中のAST活性はC群、P群それぞれで67.29±2.92、63.57±2.11 IU/Lで有意な差は見られなかった。また、血漿中のALT活性はC群、P群それぞれで19.21±1.98、18.41±IU/Lで有意な差は見られなかった。よってヤマブドウ絞り粕抽出組成物の摂取による肝臓毒性等は特に認められなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブドウ科植物を原料として抽出される組成物において、
ヤマブドウの果実及び/または果実の絞り粕を原料として抽出され、脂質代謝改善機能を有することを特徴とする脂質代謝改善組成物。
【請求項2】
乾燥させて粉末化させたときに、ポリフェノールを有効成分として5重量%以上含有し、共存する糖質とポリフェノールの重量比が0.1〜19の割合であることを特徴とする請求項1記載の脂質代謝改善組成物。
【請求項3】
上記共存する糖は、添加したデキストリンを含むことを特徴とする請求項2記載の脂質代謝改善組成物。
【請求項4】
上記ポリフェノールのうち、プロシアニジンを40重量%以上含有することを特徴とする請求項2または3記載の脂質代謝改善組成物。
【請求項5】
上記プロシニアジンとして、平均重合度が6以下であることを特徴とする請求項4記載の脂質代謝改善組成物。
【請求項6】
生体内コレステロール濃度上昇を抑制する機能を有することを特徴とする請求項1乃至5何れかに記載の脂質代謝改善組成物。
【請求項7】
生体内トリグリセリド濃度を低下させる機能を有することを特徴とする請求項1乃至6何れかに記載の脂質代謝改善組成物。
【請求項8】
リパーゼ阻害活性機能を備えることを特徴とする請求項1乃至7何れかに記載の脂質代謝改善組成物。

【図1】
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【図4】
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【図9】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−121905(P2011−121905A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−281241(P2009−281241)
【出願日】平成21年12月11日(2009.12.11)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度、経済産業省、地域資源活用型研究開発事業に関する委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(306017014)地方独立行政法人 岩手県工業技術センター (61)
【出願人】(504165591)国立大学法人岩手大学 (222)
【出願人】(591210622)ヤヱガキ醗酵技研株式会社 (14)
【Fターム(参考)】