説明

脂質誘導体

【課題】通常のリン脂質PEGと同様の添加量で使用することができるとともに、脂質小胞体の表面の水和層を増大することができ、脂質小胞体の安定性を向上させることができ、かつ、簡便に製造することができる新規な脂質誘導体を提供すること。
【解決手段】グルカミン、N−メチルグルカミン、グルコン酸、グルコヘプトン酸から選択される化合物の残基を含む脂質誘導体を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、疎水基となるアルキル鎖を3本以上持ち、親水基としてポリエチレングリコール鎖を1本又は2本有する両親媒性化合物に関する。
【0002】
本発明の両親媒性化合物は、脂質小胞体、細胞表面、疎水性表面に、水溶性ポリマー、多糖類、水溶性タンパク質を安定に固定するために有用である。またさらに、脂質小胞体やマイクロスフェアを修飾することにより細胞やタンパク質に対しての特異的な認識能を付与することができる。
【背景技術】
【0003】
脂質小胞体は、生体適合性が高いといった安全性の点からドラッグデリバリーシステム(DDS)分野でのキャリヤーとして期待され、これまでにさまざまな研究がなされている。しかしながら、脂質小胞体は凝集や融合による不安定化が起こりやすい、あるいは血中滞留性が低いといった多くの問題があることも知られている。そこで、小胞体の構成脂質に電荷脂質やコレステロールを混合することで、凝集や融合を抑制し、脂質小胞体を安定化することが行われてきた(特許文献1)。さらにポリエチレングリコールや糖質で小胞体の表面を修飾することによってもその解決が図られてきた。ポリエチレングリコール等の水溶性高分子鎖で修飾された表面は生体適合性が高く、人工臓器、人工細胞、人工血液の素材として利用できる。さらに、ポリエチレングリコールのような水溶性高分子により周囲に水和層を形成した脂質小胞体は、血液中で、細網内皮系組織(Reticuloendothelial system;RES)に取り込まれにくく、血中滞留性がよいことが分かっている。血中滞留性がよい場合、血液中を循環することにより、癌細胞等の破損した細胞に集積する確率が高くなり、DDS機能を向上させることができる。また、ポリエチレングリコールに機能性分子を導入することにより脂質小胞体に特徴のある機能を付加させることができ、患部へのターゲティングが期待できる。そのため、ポリエチレングリコール誘導体はDDS分野において有用な化合物として期待されている。
【0004】
ポリエチレングリコール誘導体は、脂質小胞体に付与した場合、凝集等の抑制だけでなく、血中滞留性の向上といった効果があることから、DDSの素材として有用であり、これらを使用した研究は盛んに行われている。脂質小胞体へ付与されるポリエチレングリコール誘導体としては、疎水性化合物と結合させた脂質ポリエチレングリコール(脂質PEG)が広く使用されており、その例としては、ジアシルホスファチジルエタノールアミンPEG(リン脂質PEG)やコレステロールPEGといったものが挙げられる。脂質PEGは、疎水性部分を脂質二重膜へ組み込み、水溶性部分であるポリエチレングリコールを脂質表面へ突き出し、表面を被覆する。そこで、血中滞留性やターゲィング能の向上のために、脂質PEGの添加量を増やすことや、ポリエチレングリコール鎖の分子量を大きくすることが検討されている。しかしながら、添加量又は分子量を上げ過ぎると、親水性・疎水性のバランスが崩れてしまい、リン脂質膜のパッキングが弱まり、脂質PEGが脂質小胞体から脱離することが報告されている(非特許文献1)。また、この脱離により、脂質小胞体の安定性が悪くなることも報告されている(非特許文献2)。
【0005】
一方、特許文献2では、脂質小胞体への表面に安定に固定するために、デンドリマーの構成単位である樹枝状構造体(デンドロン)の分岐側末端に多数の疎水性基を導入させ、コア部にある唯一の置換基に親水性基を導入した樹枝状分岐構造を有する両親媒性化合物についての記載がある。しかしながら、多数の疎水性基を有するこの化合物の合成には、第一に樹枝状構造体の分岐側末端に疎水性基を導入した際に精製し、第二に分岐を増加させるために疎水性基を導入する際にも精製が必要であり、第三にはコア部にある唯一の置換基に親水性基を導入した後も精製が必要である等、製造上、簡便に得ることができない。また、この化合物としての小胞体表面への評価はなされていない。そのため、簡便に製造することができ、脂質小胞体の表面の水和層を増大し、かつ、脂質小胞体の安定性を高めることのできる脂質誘導体を提供することが本発明の課題である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平7−145038号公報
【特許文献2】特許第3181276号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】J. R. Silvius and M. J. Zuckermann, Biochemistry, 32巻, 3153頁, 1993年
【非特許文献2】Biophysical Journal、74巻、1371頁、1998年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、通常のリン脂質PEGと同様の添加量で使用することができるとともに、脂質小胞体の表面の水和層を増大することができ、脂質小胞体の安定性を向上させることができ、かつ、簡便に製造することができる新規な脂質誘導体を提供することにある。
【0009】
より具体的には脂質小胞体等DDS分野においてだけでなく、さらに生理活性物質等の可溶化及び分散等においても好適に利用することができる脂質誘導体を提供することを解決すべき課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは上記の課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、新規な脂質誘導体を提供することに成功した。
【発明の効果】
【0011】
本発明の脂質誘導体は、脂質小胞体の二分子膜に組み込まれる疎水基を3〜6本持ち、その疎水性の相互作用により二分子膜へ組み込まれた後は、安定に膜中へ存在することができる。また、疎水性相互作用が強いため、いったん膜へ組み込まれると安定に存在することができる。そのため、水和層を増大させるためにポリエチレングリコールの鎖長を増大させても、疎水基部分が安定に膜に組み込まれているため、抜け落ちることがない。
【0012】
したがって本発明は、以下の通りである。
〔1〕下記の一般式(I)
【0013】
【化1】

【0014】
で表される脂質誘導体。
(式中、Zは炭素数4〜8の水酸基を有する化合物の残基、又は、水酸基と共にアミノ基もしくはカルボキシル基のどちらかを1もしくは2個有する炭素数4〜8の化合物の残基であり、Rは炭素数4〜24のアルキル基又はアルケニル基を示し、mは0〜6であり、aは0又は1であり、POLYは直鎖状、又は分岐鎖状のポリオキシアルキレンであり、POLYの分子量は200〜100000を表し、kは1又は2であり、kは3〜6であり、kは0〜3、4≦k+k+k≦8であり、Xは、O、NHC(=O)O、NHC(=O)、N(CH)C(=O)O、N(CH)C(=O)、C(=O)NHから選択される基である。)
〔2〕Zがグルカミン、N−メチルグルカミン、グルコン酸、グルコヘプトン酸から選択される化合物の残基である、前記〔1〕記載の脂質誘導体。
〔3〕POLYがメトキシポリオキシエチレンである、前記〔1〕又は〔2〕記載の脂質誘導体。
〔4〕POLYが末端にマレイミド基、アルデヒド基、N−コハク酸イミドエステル基から選択される官能基を有する直鎖状ポリオキシエチレンである、前記〔1〕又は〔2〕記載の脂質誘導体。
〔5〕POLYが分岐鎖状ポリオキシエチレンである、前記〔1〕又は〔2〕記載の脂質誘導体。
〔6〕a=1である、前記〔1〕〜〔5〕のいずれか1に記載の脂質誘導体。
〔7〕kが0である、前記〔1〕〜〔6〕のいずれか1に記載の脂質誘導体。
〔8〕前記〔1〕〜〔7〕のいずれか1に記載の脂質誘導体を含む脂質小胞体。
〔9〕下記の一般式(II)
【0015】
【化2】

【0016】
で表されるポリオキシアルキレン誘導体。
(式中、m、POLYは前記と同じであり、Z’は水酸基と共にアミノ基又はカルボキシル基のどちらかを1又は2個有する炭素数4〜8の化合物の残基であり、X’はNHC(=O)O、NHC(=O)、N(CH)C(=O)O、N(CH)C(=O)、C(=O)NHから選択される基であり、kは1又は2であり、kは3〜6である)。
【発明を実施するための形態】
【0017】
前記一般式(I)で表される本発明の脂質誘導体において、Zは、炭素数4〜8の水酸基を有する化合物の残基、又は、水酸基と共にアミノ基もしくはカルボキシル基のどちらかを1もしくは2個有する炭素数4〜8の化合物の残基である。
【0018】
炭素数4〜8の水酸基を有する化合物としては、例えば、エリスリトール、ペンタエリスリトール、ペンチトール、ヘキシトール、へプチトール、オクチトール、トリグリセリン、テトラグリセリン、ペンタグリセリン、ヘキサグリセリン、マンニトール、ジペンタエリスルトール等が挙げられる。好ましくは、トリグリセリン、テトラグリセリン、ペンタグリセリン、ヘキサグリセリン、マンニトール、ペンチトール、へプチトールであり、より好ましくは、トリグリセリン、ペンタグリセリン、ペンチトール、へプチトールであり、さらにより好ましくはペンチトール、へプチトールである。また、これらは天然物、合成物のいずれでもよく、種々の異性体を有するが、特にペンチトールの中でもキシリトールが好ましい。また、単独で用いても2種以上の混合物で用いてもよい。
【0019】
一方、水酸基と共にアミノ基又はカルボキシル基のどちらかを1又は2個有する炭素数4〜8の化合物としては、粘液酸(カルボキシル基:2、水酸基:4)、グルコン酸(カルボキシル基:1、水酸基:5)、グルカミン(アミノ基:1、水酸基:5)、N−メチルグルカミン(アミノ基:1、水酸基:5)、グルコヘプトン酸(カルボキシル基:1、水酸基:6)等が挙げられるが、これらに限定されない。好ましくは、グルコン酸、グルカミン、グルコヘプトン酸であり、より好ましくは、グルカミンである。
【0020】
アミノ基又はカルボキシル基のどちらかを1又は2個有する炭素数4〜8の化合物は、構造中に1又は2個のアミノ基又はカルボキシル基を有していればよいため、例えば、上記した炭素数4〜8の水酸基を有する化合物中の3〜6個の水酸基を公知の方法により保護しておき、残存した1又は2個の水酸基を公知の方法によりカルボキシル基又はアミノ基に誘導化した後、脱保護する方法等によって得ることができる。
【0021】
Rは炭素数4〜24のアルキル基又はアルケニル基であり、好ましくは炭素数11〜23のアルキル基又はアルケニル基である。アルキル基、アルケニル基は直鎖状であっても分岐鎖状であってもよく、アルケニル基中には1〜3個の二重結合があってもよい。
【0022】
このRは通常、脂肪酸又は脂肪族アルコールに由来するものが用いられる。aは0又は1を表すが、a=1の場合、RCOであるアシル基の具体的なものとしては、例えば酪酸、イソ酪酸、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、パルミトレイン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、アラキン酸、ベヘン酸、エルカ酸、リグノセリン酸等の飽和及び不飽和の直鎖又は分岐鎖の脂肪酸由来のアシル基を挙げることができる。
【0023】
a=0の場合、Rの具体的なものとしては、n−プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール、2−エチルヘキサノール、ノナノール、デカノール、ウンデカノール、ドデカノール、トリデカノール、テトラデカノール、ペンタデカノール、ヘキサデカノール、ヘプタデカノール、オクタデカノール、ノナデカノール、イコサノール、ヘンイコサノール、ドコサノール、トリコサノール、由来のアルキル基又はアルケニル基を挙げることができ、これらは直鎖状であっても分岐鎖状であってもよい。
【0024】
Xは、炭素数4〜8の水酸基を有する化合物、又は水酸基と共にアミノ基もしくはカルボキシル基のどちらかを1もしくは2個有する炭素数4〜8の化合物のアミノ基又はカルボキシル基由来の結合であり、O、−NHC(=O)−(アミド結合)、−N(CH)C(=O)−(アミド結合)、−C(=O)NH−(アミド結合)、−NHC(=O)O−(ウレタン結合)、−N(CH)C(=O)O−(ウレタン結合)、−O−(エーテル結合)である。
【0025】
POLYはポリオキシアルキレンを表し、例えば、ポリオキシエチレン、ポリオキシプロピレン、ポリオキシトリメチレン、ポリオキシブチレン等が挙げられる。これらの中ではポリオキシエチレン、ポリオキシプロピレンが好ましく、特にポリオキシエチレン基が好ましい。このオキシアルキレン基は1種単独であってもよいし、2種以上が組み合わされていてもよく、その組み合わせ方に制限はない。またブロック状であってもランダム状であってもよい。
【0026】
また、POLYは、直鎖状であっても分岐鎖状であってもよいポリオキシアルキレンである。
【0027】
下記にPOLYの構造をより具体的に示すが、これらには限定されない。
【0028】
例えば、直鎖状のポリオキシアルキレンとしては、下記に示されるポリオキシエチレン誘導体である。
【0029】
【化3】

【0030】
ここで、nは、ポリオキシアルキレンの分子量が200〜100000とした時の、ポリオキシアルキレンの付加モル数である。
【0031】
また、分岐鎖状のポリオキシアルキレンとしては、例えば、下記に示されるポリオキシエチレン誘導体である。
【0032】
【化4】

【0033】
ポリオキシアルキレンの末端は、薬物や抗体等を結合することができる反応性基でもよく、また、薬物や抗体等が結合することができない不活性な官能基であってもよい。
【0034】
例えば、反応性基としては、マレイミド基、アセタール基、アルデヒド基、チオール基、保護されたチオール基、コハク酸コハク酸イミドエステル基、グルタル酸コハク酸イミドエステル基、アミノ基、保護されたアミノ基、オキシアミノ基、p−ニトロフェニルカーボネート基、水酸基等が挙げられる。好ましくは、メトキシ基、マレイミド基、アセタール基、アルデヒド基、グルタル酸コハク酸イミドエステル基、アミノ基であり、より好ましくは、メトキシ基、マレイミド基、アセタール基、アルデヒド基、グルタル酸コハク酸イミドエステル基である。
【0035】
不活性な官能基としては、メトキシ基、エトキシ基、t−ブトキシ基等が挙げられるが、好ましくはメトキシ基である。
【0036】
また、POLYで示されるポリオキシアルキレンと反応性基、不活性基との間に、メチレン基、エチレン基、プロピレン基等のアルキレン基、アミド基やエステル基を含む連結基を有していてもよい。
【0037】
POLYの分子量は、200〜100000であり、好ましくは500〜40000であり、より好ましくは1000〜10000であり、さらに好ましくは1000〜5000である。ポリオキシアルキレンの分子量が200より小さいと、本発明のポリオキシアルキレン−脂質誘導体を脂質小胞体への添加剤として使用した場合、疎水性が強すぎるため安定化の効果が小さい。また100000より大きいと、製造する際に、ポリオキシアルキレン−脂質誘導体の粘度が上昇して作業性が低下し好ましくない。
【0038】
mは0〜6の整数であり、好ましくは、0〜3である。mが0の場合は、POLYとXが直接結合していることを示す。
【0039】
、k、kはそれぞれ整数であり、kは1又は2であり、kは3〜6、kは0〜3、k、k、及びkの合計は、3≦k+k+k≦6である。
【0040】
一般式(I)で表される本発明の化合物の製造方法は特に限定されないが、ポリエチレングリコール化合物の活性化誘導体、例えば、ポリエチレングリコール カーボネート誘導体、ポリエチレングリコール カルボン酸誘導体、ポリエチレングリコール アミン誘導体等と、水酸基と共にアミノ基又はカルボキシル基をどちらか1又は2個有する炭素数4〜8の化合物と反応させることにより、一般式(II)で表される化合物を得た後、脂肪酸、脂肪酸クロリド、又は脂肪酸の無水物を反応することによって製造することができる。
【0041】
一般式(II)中、m、POLYは前記と同じである。Z’は水酸基と共にアミノ基又はカルボキシル基のどちらかを1又は2個有する炭素数4〜8の化合物の残基であり、X’はNHC(=O)O、NHC(=O)、N(CH)C(=O)O、N(CH)C(=O)、C(=O)NHから選択される基である。k、kはそれぞれ整数であり、kは1又は2であり、kは3〜6であり、k及びkの合計は、4≦k+k≦8である。
【0042】
本発明のポリオキシアルキレン−脂質誘導体は、リン脂質等で形成される脂質小胞体の構成成分として含有することができる。脂質膜構造体は、リン脂質、コレステロール、コレスタノール等のステロール類、その他の炭素数8〜22の飽和及び不飽和のアシル基を有する脂肪酸類、α−トコフェロール等の酸化防止剤を含んでいてもよい。リン脂質としては、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファリジルコリン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジン酸、カルジオリピン、スフィンゴミエリン、セラミドホスホリルエタノールアミン、セラミドホスホリルグリセロール、セラミドホスホリルグリセロールホスファート、1,2−ジミリストイル−1,2−デオキシホスファチジルコリン、プラスマローゲン等を挙げることができ、これらは1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらのリン脂質の脂肪酸残基は特に限定されないが、例えば、炭素数12〜20の飽和又は不飽和の脂肪酸残基を挙げることができ、具体的には、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸等の脂肪酸由来のアシル基を挙げることができる。また、卵黄レシチン及び大豆レシチンのような天然物由来のリン脂質を用いることもできる。
【0043】
一般式(I)で表される本発明の化合物の製造方法は特に限定されないが、ポリエチレングリコール化合物の活性化誘導体、例えば、ポリエチレングリコール カーボネート誘導体、ポリエチレングリコール カルボン酸誘導体、ポリエチレングリコール アミン誘導体等と、アミノ基又はカルボキシル基をどちらか1又は2個有する炭素数4〜8の化合物とを反応させた後、残存する水酸基を脂質化することにより製造することができる。
【0044】
また、本化合物の製造方法としては、Zが炭素数4〜8の水酸基を有する化合物の少なくとも1つ以上を保護基により保護しておき、残存する水酸基に、例えばエチレンオキシドを重合させた後、末端水酸基を所望の官能基に変換した後、脱保護し、得られた水酸基を脂質化する方法によっても製造することができる。
【0045】
また、本発明の脂質誘導体を用いた脂質小胞体は、医薬や生理活性物質を内包させることもできるし、脂質誘導体の官能基と反応させ、様々なタンパク質や抗体と結合させることもでき、また遺伝子を封入することもできる。これらは、医薬の種類、遺伝子の種類は特に限定されない。本発明の脂質誘導体の脂質小胞体への配合量は医薬の薬効や遺伝子を発現させるのに十分な量であればよい。
【0046】
医薬としては例えば、抗腫瘍剤として用いられる化合物が好ましく、例えば、塩酸イリノテカン、パクリタキセル、塩酸ドキソルビシン、マイトマイシンC、硫酸ビンクリスチン等を挙げることができる。
【0047】
遺伝子としては、オリゴヌクレオチド、DNA、RNA等が挙げられ、例えば、アンチセンスオリゴヌクレオチド、アンチセンスDNA、アンチセンスRNA、酵素、サイトカイン等の生理活性物質をコードする遺伝子等がある。
【0048】
本発明の脂質誘導体を含む脂質小胞体の形態は特に限定されないが、例えば、脂質混合物をクロロホルム等の有機溶剤に溶解し、エバポレーターによって脱溶剤し乾固させた形態や、脂質混合物を水系溶剤に分散させた形態、水系溶剤に分散した小胞体を凍結乾燥させた形態を挙げることができる。
【0049】
また、脂質混合物を水系溶剤に分散させた形態としては、例えば、一枚膜リポソーム、多重層リポソーム、O/W型エマルション、W/O/W型エマルション、球状ミセル、ひも状ミセル等があり、好ましくはリポソームである。水系溶剤を使用するときは、単なる水を用いてもよいし、少量のアルコール等を含む混合溶剤であってもよい。好ましくは、局方注射用水、蒸留水等が用いられる。この時、水系溶剤に生理活性物質や、タンパク質、緩衝物質や各種の塩、血漿等を溶解させ、溶液状としたものであってもよい。
【0050】
脂質混合物を水系溶剤に分散した形態としては、特に限定されないが、分散溶液をホモジナイザーや高圧噴射乳化機等を使用して乳化させたり、エクストルーダーやリポナイザー等により粒径の揃ったリポソームとして得ることが出来る。
【0051】
脂質類と医薬との混合乾燥物は、例えば、使用する脂質類成分と医薬とを一旦クロロホルム等の有機溶媒で溶解させ、次にこれをエバポレーターによる減圧乾固や噴霧乾燥機による噴霧乾燥を行うことにより製造することができる。
【0052】
脂質混合物と医薬との混合物が水系溶媒に分散した形態の製造方法としては公知の方法で行うことができ、適宜選択することができる。製造方法としてはこれらに限定されないが、例えば、脂質混合物と医薬との混合物を水系溶剤に添加し、ホモジナイザー等の乳化機、超音波乳化機、高圧噴射乳化機等により乳化させる方法、脂質乾燥物に医薬を含む水系溶剤を添加して乳化する方法、水系溶媒に分散したリポソーム、エマルション、ミセル等の脂質小胞体に医薬を含む水系溶媒を添加する方法、水系溶剤に分散させた脂質小胞体の乾燥物に医薬を含む水系溶媒を添加する方法等が挙げられる。
【0053】
脂質小胞体の大きさ(粒子径)を制御したい場合には、さらに孔径のそろったメンブランフィルターを用いて、高圧力下でエクストルーダー等を使用して押し出し慮過等を行ってもよい。
【実施例】
【0054】
以下、本発明の実施例について説明する。
【0055】
実施例1
メチルポリオキシエチレンオキシカルボニル グルカミン(PEG分子量:2000)の合成
【0056】
【化5】

【0057】
300mLフラスコにD−グルカミン(8.15g、45mmol)、ジメチルスルホキシド(50g)を入れ、40℃にて溶解した。メチルポリオキシエチレン p−ニトロフェニルカーボネート(SUNBRIGHT MENP−20H:分子量2000、50g、25mmol)をジメチルスルホキシド(100g)にて40℃で溶解後、上記溶液に加えた。3時間反応後、溶液をサンプリングし、希釈後、TLC(薄層クロマトグラフィー:クロロホルム/メタノール=85/15)に供し、原料のモノメチルポリオキシエチレン p−ニトロフェニルカーボネートが消失したことを確認した。反応溶液にトルエン(317g)を入れ、メチル t−ブチルエーテル(以下、MTBEとする)(616g)を入れ、5℃まで冷却した。結晶濾過後、酢酸エチル(800g)を入れ45℃で昇温後、室温に冷却し、不溶物をグラスフィルター(GF−75)にて濾過し、5℃まで冷却後、結晶を濾過した。さらに、上記の精製を繰り返した後、ヘキサン(800g)にて結晶洗浄後、濾過、乾燥し、目的化合物50gを得た。得られた化合物は、TLC(薄層クロマトグラフィー:クロロホルム/メタノール=85/15)にて展開後、ヨウ素発色にて確認したところ、1スポットであった。
【0058】
H−NMR(CDCl)より特徴のあるピークとしては、δ3.38(s,CO−,3H)、3.4−3.9(m,−(CO)n−)、4.22(m,−NH(C=O)OC−)を確認した。
【0059】
実施例2
メチルポリオキシエチレンオキシカルバミル グルカミン ペンタステアレート(PEG分子量:2000)の合成
【0060】
【化6】

【0061】
300mLフラスコにステアリン酸(10.7g、37.6mmol)、トルエン(100g)を入れ、40℃にて溶解した。ジシクロヘキシルカルボジイミド(3.87g、18.8mmol)を入れ、上記実施例1で得られたメチルポリオキシエチレンオキシカルボニル グルカミン(5.0g、2.5mmol)、ジメチルアミノピリジン(1.0g、8.1mmol)を入れ、3時間反応させた。反応液を濾過後、エバポレーターにて溶媒を留去した。残渣をアセトン(40mL)にて溶解後、ヘキサン(200mL)を入れ、5℃まで冷却した。結晶濾過後、アセトン(100mL)、ヘキサン(200mL)を入れ、5℃まで冷却した。結晶濾過後、同様にもう一回繰り返した。結晶濾過後、ヘキサン(200mL)にて結晶洗浄、濾過、乾燥し、目的化合物5.3gを得た。
【0062】
また、残存脂肪酸の分析は、TLC(薄層クロマトグラフィー:クロロホルム/メタノール=85/15)にて展開し、リン酸硫酸銅の発色にて分析した。その結果、残存ステアリン酸は、0.05%以下であった。
【0063】
また、H−NMR(CDCl)より特徴のあるピークとしては、δ0.88(t,C(CH16−,15H)、3.38(s,CO−,3H)、3.4−3.9(m,−(CO)n−)を確認した。
【0064】
実施例3
メチルポリオキシエチレンオキシカルボニル グルカミン(PEG分子量:5000)の合成
【0065】
【化7】

【0066】
300mLフラスコにD−グルカミン(2.90g、16mmol)、ジメチルスルホキシド(50g)を入れ、40℃にて溶解した。メチルポリオキシエチレン p−ニトロフェニルカーボネート(分子量5000、50g、10mmol)をジメチルスルホキシド(130g)にて40℃で溶解後、上記溶液に加えた。3時間反応後、溶液をサンプリングし、希釈後、TLC(薄層クロマトグラフィー:クロロホルム/メタノール=85/15)に供し、原料のモノメチルポリオキシエチレン p−ニトロフェニルカーボネートが消失したことを確認した。反応溶液にトルエン(285g)を入れ、MTBE(553g)を入れ、5℃まで冷却した。結晶濾過後、酢酸エチル(800g)を入れ45℃で昇温後、室温に冷却し、不溶物をグラスフィルター(GF−75)にて濾過し、5℃まで冷却後、結晶を濾過した。さらに、上記の精製を繰り返した後、ヘキサン(800g)にて結晶洗浄後、濾過、乾燥し、目的化合物46.5gを得た。
【0067】
得られた化合物は、TLC(薄層クロマトグラフィー:クロロホルム/メタノール=85/15)にて展開後、ヨウ素発色にて確認したところ、1スポットであった。
【0068】
H−NMR(CDCl)より特徴のあるピークとしては、δ3.38(s,CO−,3H)、3.4−3.9(m,−(CO)n−)、4.22(m,−NH(C=O)OC−)を確認した。
【0069】
実施例4
メチルポリオキシエチレンオキシカルボニル グルカミン ペンタステアレート(PEG分子量:5000)の合成
【0070】
【化8】

【0071】
300mLフラスコにステアリン酸(12.8g、45mmol)、トルエン(300g)を入れ、40℃にて溶解した。ジシクロヘキシルカルボジイミド(4.70g、22.5mmol)を入れ、上記実施例3で得られたメチルポリオキシエチレンオキシカルボニル グルカミン(15.0g、3mmol)、ジメチルアミノピリジン(1.2g、9.8mmol)を入れ、2時間反応させた。反応液を濾過後、エバポレーターにて溶媒を留去した。残渣をアセトン(120mL)にて溶解後、ヘキサン(600mL)を入れ、5℃まで冷却した。結晶濾過後、アセトン(300mL)、ヘキサン(600mL)を入れ、5℃まで冷却した。結晶濾過後、同様にもう一回繰り返した。結晶濾過後、ヘキサン(600mL)にて結晶洗浄、濾過、乾燥し、目的化合物12.7gを得た。
【0072】
残存脂肪酸の分析は、TLC(薄層クロマトグラフィー:クロロホルム/メタノール=85/15)にて展開し、リン酸硫酸銅の発色にて分析した。その結果、残存ステアリン酸は、0.05%以下であった。
【0073】
また、H−NMR(CDCl)より特徴のあるピークとしては、δ0.88(t,C(CH16−,15H)、3.38(s,CO−,3H)、3.4−3.9(m,−(CO)n−)を確認した。
【0074】
実施例5
3−(3’−マレイミド−1’−オキソプロピル)アミノプロピル−ポリオキシエチレンオキシカルボニル グルカミン(PEG分子量:5000)の合成
【0075】
【化9】

【0076】
300mLフラスコにD−グルカミン(2.90g、16mmol)、ジメチルスルホキシド(50g)を入れ、40℃にて溶解した。SUNBRIGHT MA−050TS(日油株式会社)(分子量5000、50g、10mmol)をジメチルスルホキシド(130g)にて40℃で溶解後、上記溶液に加えた。3時間反応後、溶液をサンプリングし、希釈後、TLC(薄層クロマトグラフィー:クロロホルム/メタノール=85/15)に供し、原料のモノメチルポリオキシエチレン p−ニトロフェニルカーボネートが消失したことを確認した。反応溶液にトルエン(285g)を入れ、MTBE(553g)を入れ、5℃まで冷却した。結晶濾過後、酢酸エチル(800g)を入れ45℃で昇温後、室温に冷却し、不溶物をグラスフィルター(GF−75)にて濾過し、5℃まで冷却後、結晶を濾過した。さらに、上記の精製を繰り返した後、ヘキサン(800g)にて結晶洗浄後、濾過、乾燥し、目的化合物45.1gを得た。
【0077】
得られた化合物は、TLC(薄層クロマトグラフィー:クロロホルム/メタノール=85/15)にて展開後、ヨウ素発色にて確認したところ、1スポットであった。
【0078】
H−NMR(CDCl)より特徴のあるピークとしては、3.4−3.9(m,−(CO)n−)、4.22(m,−NH(C=O)OC−)、6.71(s,−C=C−,2H)、を確認した。
【0079】
実施例6
3−(3’−マレイミド−1’−オキソプロピル)アミノプロピル−ポリオキシエチレンオキシカルボニル グルカミン ペンタステアレート(PEG分子量:5000)の合成
【0080】
【化10】

【0081】
300mLフラスコにステアリン酸(12.8g、45mmol)、トルエン(300g)を入れ、40℃にて溶解した。ジシクロヘキシルカルボジイミド(4.70g、22.5mmol)を入れ、上記実施例5で得られた3−(マレイミド−1−オキソプロピル)アミノプロピル−ポリオキシエチレンオキシカルボニル グルカミン(15.0g、3mmol)、ジメチルアミノピリジン(1.2g、9.8mmol)を入れ、2時間反応させた。反応液を濾過後、エバポレーターにて溶媒を留去した。残渣をアセトン(120mL)にて溶解後、ヘキサン(600mL)を入れ、5℃まで冷却した。結晶濾過後、アセトン(300mL)、ヘキサン(600mL)を入れ、5℃まで冷却した。結晶濾過後、同様にもう一回繰り返した。結晶濾過後、ヘキサン(600mL)にて結晶洗浄、濾過、乾燥し、目的化合物12.7gを得た。
【0082】
残存脂肪酸の分析は、TLC(薄層クロマトグラフィー:クロロホルム/メタノール=85/15)にて展開し、リン酸硫酸銅の発色にて分析した。その結果、残存ステアリン酸は、0.05%以下であった。
【0083】
また、H−NMR(CDCl)より特徴のあるピークとしては、δ0.88(t,C(CH16−,15H)、1.75(quint,−CHCHNH−,2H)、3.4−3.9(m,−(CO)n−)、6.71(s,−C=C−,2H)を確認した。
【0084】
比較例1
モノメチルポリオキシエチレン p−ニトロフェニルカーボネートの合成
【0085】
【化11】

【0086】
SUNBRIGHT MEH−10H(分子量1000:100g、0.1mol)、トルエン(110g)を入れ、110℃で還流脱水し、含水トルエン(33g)を留去した。60℃に冷却後、トリエチルアミン(12.1g、0.12mol)を加え、p−ニトロフェニルクロロホルメート(22.2g、0.11mmol)を添加し、4時間反応させた。40℃まで冷却後、トルエン(120g)にて希釈し、トリエチルアミン塩酸塩を濾過した。濾液に酢酸エチル(200g)、ヘキサン(300g)を入れ、5℃まで冷却した。結晶濾過後、酢酸エチル(200g)に溶解後、ヘキサン(300g)を添加し、5℃まで冷却した。結晶濾過後、ヘキサン(300g)にて結晶を洗浄した。結晶濾過後、減圧乾燥し、目的物であるモノメチルポリオキシエチレン p−ニトロフェニルカーボネート(96g)を得た。
【0087】
H−NMR(CDCl)より特徴のあるピークとしては、δ3.38(s,CO−,3H)、3.4−3.9(m,−(CO)n−)、4.43(−OCHOC(=O)O−、2H)、7.40(d,−C=CH−,2H)、8.28(d,−CH=C−,2H)を確認した。
【0088】
比較例2
モノメチルポリオキシエチレンカルバミル ジステアロイルホスファチジルエタノールアミンの合成
【0089】
【化12】

【0090】
比較例1で得られた、モノメチルポリオキシエチレン p−ニトロフェニルカーボネート(30g、0.1mol)、トルエン(150g)を入れ、68℃に昇温した。ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン(26.9g、0.12mol)、炭酸ナトリウム(63.9g、0.20mol)を加え、5時間反応させた。30℃まで冷却後、炭酸ナトリウムを濾過した。濾液をエバポレーターにて濃縮、乾固した。酢酸エチル(30g)に溶解後、メチル t−ブチルエーテル(270g)を入れ、5℃まで冷却した。結晶濾過後、酢酸エチル(30g)/メチル t−ブチルエーテル(270g)の晶析を2回繰り返した。結晶濾過後、ヘキサン(300g)にて結晶を洗浄した。結晶濾過後、減圧乾燥し、目的物であるモノメチルポリオキシエチレンカルバミル ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン(45g)を得た。
【0091】
H−NMR(CDCl)より特徴のあるピークとしては、δ0.88(s,C(CH16CO2−,6H)、1.25(m、CH(C14,56H)、3.38(s,CO−,3H)、3.4−3.9(m,−(CO)n−)、5.21(m,−OC(=O)C(CH−),1H)を確認した。
【0092】
(リポソームとしての評価)
〔1〕リポソーム液の調製
水添大豆ホスファチジルコリン 6.059g(7.7mmol)、コレステロール 1.0g(2.6mmol)をクロロホルム 200mLに溶解させた後、エバポレーターにより溶剤を留去し、さらに6時間真空乾燥させた。この脂質乾燥物 0.07gを秤量し、水20mLを加えて水和させ、湯浴につけながらボルテックスミキサーにて軽く撹拌した。この脂質分散液を0.2μmの孔径のポリカーボネートメンブレンフィルターを用いてサイジングを行い、リポソーム液を調製した(0.2μm×2回)。該リポソーム液を5セット調製し、それぞれをリポソーム液(i)〜(v)とした。
【0093】
実施例A
〔2〕ポリオキシエチレン修飾リポソーム液の調製
別に、実施例2で得られた一般式(2)で表される化合物であるメチルポリオキシエチレンオキシカルボニル グルカミン ペンタステアレート 0.086g(2.57×10−2mmol)を水5mLに溶解させておき、分散液(5.1mM)を調製した。この分散液をリポソーム液(i)に添加し、60℃で1時間撹拌し、ポリオキシエチレン修飾リポソーム(A)を調製した。(脂質濃度 4mM、PEG濃度 1mM)
【0094】
実施例B
実施例4で得られた一般式(4)で表される化合物であるメチルポリオキシエチレンオキシカルボニル グルカミン ペンタステアレート 0.163g(2.57×10−2mmol)を水5mLに溶解させておき、分散液(5.1mM)を調製した。この分散液をリポソーム液(ii)に添加し、60℃で1時間撹拌し、ポリオキシエチレン修飾リポソーム(B)を調製した。(脂質濃度 4mM、PEG濃度 1mM)
【0095】
比較例C、D、E
比較例2の一般式(8)で表される化合物、下記一般式(9)で表される化合物(ポリエチレングリコール分子量2000)、下記一般式(10)で表される化合物(ポリエチレングリコール分子量615)をそれぞれ2.57×10−2mmol使用し(各々0.046g、0.072g、0.026g)、それぞれ水5mLに溶解させておき、3種類の分散液(5.1mM)を調製した。これらの分散液5mLを各々リポソーム液(iii)〜(v)に添加し、60℃で1時間撹拌し、3種類のポリオキシエチレン修飾リポソーム(C、D、E)を調製した。(脂質濃度 4mM、PEG濃度 1mM)
【0096】
【化13】

【0097】
【化14】

【0098】
(ポリオキシエチレン修飾リポソームの安定性の検討)
ポリオキシエチレン修飾リポソームの安定性を評価するため、実施例A、B、比較例C、D、Eで得られた5つのポリオキシエチレン修飾リポソームを、40℃の低温恒温器(LTI−700E:EYELA)に入れ、1、1.5、2、3ヶ月での安定性を評価した。結果を表に示す。
【0099】
【表1】

【0100】
40℃でのポリオキシエチレン修飾リポソームの安定性評価の結果、本願発明の脂質誘導体を含む、実施例A、実施例Bのポリオキシエチレン修飾リポソーム(A)、(B)は3ヶ月経過後も安定であった。
【0101】
一方、従来の脂質誘導体を使用したポリオキシエチレン修飾リポソーム(C)、(D)についてはそれぞれ、1.5ヶ月、2ヶ月で凝集していた。ポリオキシエチレン修飾リポソーム(E)では1ヶ月で可溶化していた。
【0102】
以上より、本願発明の脂質誘導体を含むポリオキシエチレン修飾リポソームは、従来の脂質誘導体を使用したポリオキシエチレン修飾リポソームよりも安定性の高いことが明らかとなった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の一般式(I)
【化1】

で表される脂質誘導体。
(式中、Zは炭素数4〜8の水酸基を有する化合物の残基、又は、水酸基と共にアミノ基もしくはカルボキシル基のどちらかを1もしくは2個有する炭素数4〜8の化合物の残基であり、Rは炭素数4〜24のアルキル基又はアルケニル基を示し、mは0〜6であり、aは0又は1であり、POLYは直鎖状、又は分岐鎖状のポリオキシアルキレンであり、POLYの分子量は200〜100000を表し、kは1又は2であり、kは3〜6であり、kは0〜3、4≦k+k+k≦8であり、Xは、O、NHC(=O)O、NHC(=O)、N(CH)C(=O)O、N(CH)C(=O)、C(=O)NHから選択される基である。)
【請求項2】
Zがグルカミン、N−メチルグルカミン、グルコン酸、グルコヘプトン酸から選択される化合物の残基である、請求項1記載の脂質誘導体。
【請求項3】
POLYがメトキシポリオキシエチレンである、請求項1又は2記載の脂質誘導体。
【請求項4】
POLYが末端にマレイミド基、アルデヒド基、N−コハク酸イミドエステル基から選択される官能基を有する直鎖状ポリオキシエチレンである、請求項1又は2記載の脂質誘導体。
【請求項5】
POLYが分岐鎖状ポリオキシエチレンである、請求項1又は2記載の脂質誘導体。
【請求項6】
a=1である、請求項1〜5のいずれか1項記載の脂質誘導体。
【請求項7】
が0である、請求項1〜6のいずれか1項記載の脂質誘導体。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項記載の脂質誘導体を含む脂質小胞体。
【請求項9】
下記の一般式(II)
【化2】

で表されるポリオキシアルキレン誘導体。
(式中、m、POLYは前記と同じであり、Z’は水酸基と共にアミノ基又はカルボキシル基のどちらかを1又は2個有する炭素数4〜8の化合物の残基であり、X’はNHC(=O)O、NHC(=O)、N(CH)C(=O)O、N(CH)C(=O)、C(=O)NHから選択される基であり、kは1又は2であり、kは3〜6である)。

【公開番号】特開2010−235450(P2010−235450A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−81804(P2009−81804)
【出願日】平成21年3月30日(2009.3.30)
【出願人】(000004341)日油株式会社 (896)
【Fターム(参考)】