説明

脆弱な動脈硬化プラークを検出するための非侵襲性ツール

本発明は、配列RILAR(配列番号3)を含んでなるか、又は配列RILAR(配列番号3)から成るポリペプチド、イメージング方法、診断又は予後診断方法におけるこれらの使用、及び医薬としての使用のためのこれらの使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脆弱な動脈硬化プラークを検出するための非侵襲性ツールに関する。
【0002】
循環器疾患、特に冠動脈事象は、死亡の世界的な主因である。冠動脈事象は、主として脆弱な冠動脈の動脈硬化プラーク及びこれに続く血栓形成の破裂又は廃嫡(erosion)によって生じる。しかしながら、冠動脈事象の効率的な予防を可能にする、脆弱プラークの検出のために利用できる有効な非侵襲性ツールはない。
【0003】
脆弱プラークは、大型の脂肪性且つ壊死性のコアを取り囲んでいる薄線維性被膜及び激しい進行中の炎症を特徴とする。脆弱な動脈硬化病変の進行を引き起こす炎症過程は、動脈壁中への単球及びリンパ球の広範囲の動員を特徴とする。
【0004】
一部の内皮接着分子、例えばVCAM−1は、白血球ローリング、強力接着及び遊出のプロセスに関する。VCAM−1は、単球の血管内皮への接着に関与する内皮接着分子であり、脆弱な冠動脈の動脈硬化プラークの表面において過剰に発現されることが示されている。
【0005】
主要組織適合性抗原−1(MHC-1)分子B2702の残基75〜84及び84〜75/75〜84から成るペプチドは、それぞれB2702−p、RENLRIALRY(配列番号1)及びB2702−rp、YRLAIRLNER RENLRIALRY(配列番号2)に対応し、これらは特異的にVCAM−1に結合する(Ling et al. (2000) Transplantation 70:662〜667)。これらのペプチドは、特に、非侵襲性イメージング方法において、脆弱な冠動脈のアテロームプラークの特異的なマーカーとして使用することができることが示されている。実際に、この結果では、B2702−pの活性が、VCAM−1を発現しているプラーク進行の領域と共局在することを、エクスビボ(ex vivo)での大動脈のオートラジオグラフィー画像で示し、動脈の通常領域よりも脂肪蓄積のゾーンにおいて有意に高いトレーサー活性を有した(Broisat et al. (2007) Eur. J. Nucl. Med. MoI. Imaging 34:830-840)。しかしながら、インビボ(in vivo)でのイメージングは、循環型B2702−pの高い基底レベルのため最適でなかった。
【0006】
本発明は、B2702−pの変異誘導体によって、VCAM−1発現のインビボ(in vivo)でのイメージングに関する改良された特徴を示した、発明者による予期せぬ発見に起因する。
【発明の概要】
【0007】
従って、本発明は、配列RILAR(配列番号3)を含んでなるか、又は当該配列から成るポリペプチドに関する。
【0008】
本発明はまた、診断又は予後診断方法におけるイメージング方法で使用のための、或いは医薬としての上記のポリペプチドに関する。
【0009】
本発明はまた、VCAM−1に結合するための上記のポリペプチドに関する。
【0010】
本発明はまた:
a)上記のポリペプチドを個体に投与する段階;
b)個体の体部位において、ポリペプチドの結合又はポリペプチドの結合の非存在を検出する段階;
c)ポリペプチドの結合を検出することができる個体の体部位を可視化する段階、
を含んでなるイメージング方法に関する。
【0011】
本発明はまた:
a)上記のポリペプチドを個体に投与する段階、
b)個体の体部位において、ポリペプチドの結合又はポリペプチドの結合の非存在を検出する段階;
c)ポリペプチドの結合を検出することができる個体の体部位を可視化する段階、
d)これにより、個体が当該疾患を患うか、又は患う可能性があるかを推測する段階、
を含んでなる、個体における疾患の診断又は予後診断方法に関する。
【0012】
本発明はまた、試料中のVCAM−1のインビトロ(in vitro)における検出のための、上記ポリペプチドの使用に関する。
【0013】
詳細な説明
ポリペプチド
本明細書において、用語「ポリペプチド」及び「ペプチド」は区別なく使用し、未修飾ペプチド(タンパク質分解生成物又は合成されたペプチド)、さらにペプチド模倣薬、例えばペプチド類似物であって、例えば、体内に存在する場合のより高い安定性、又はより高い免疫原性を与える修飾を有するペプトイド及びセミペプトイドを意味する。このような修飾には、環化、N末端修飾、C末端修飾、ペプチド結合修飾、例えばCH−NH、CH−S、CH−S=O、O=C−NH、CH−O、CH−CH、S=C−NH、CH=CH又はCF=CHが含まれるが、これらに限定されない当該修飾、主鎖修飾及び残基修飾が含まれるが、これらに限定されない。ペプチド模倣化合物の調製のための方法は、当技術分野で周知であり、Quantitative Drug Design,CA.Ramsden Gd.,Chapter 17.2,F.Choplin Pergamon Press(1992)に規定されている。
【0014】
本発明によれば、ペプチドは、50個未満のアミノ酸、好適には40個未満のアミノ酸、より好適には30個未満のアミノ酸、さらに好適には20個未満のアミノ酸から成る。より好適には、本発明のペプチドは、約5個〜約18個のアミノ酸、約5個〜約17個のアミノ酸、約5個〜約16個のアミノ酸、約5個〜約15個のアミノ酸、約5個〜約14個のアミノ酸、約5個〜約13個のアミノ酸長を有する。最も好適には、本発明のペプチドは、12、11、10、9又は8個のアミノ酸長を有する。
【0015】
本明細書で使用する場合、用語「アミノ酸」は:20個の天然に存在するアミノ酸、すなわち、アラニン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、システイン、グルタミン酸、グルタミン、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リジン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、スレオニン、トリプトファン、チロシン、及びバリン;インビボ(in vivo)で発見することができる、翻訳後の修飾を内部に有する(harbouring)アミノ酸、例えば、ヒドロキシプロリン、リン酸セリン及びリン酸スレオニン;並びに2−アミノアジピン酸、ヒドロキシリジン、イソデスモシン、ノルバリン、ノルロイシン及びオルニチンを含むがこれらに限定されない他の異常アミノ酸を含む。さらに、用語「アミノ酸」は、いずれもD−及びL−アミノ酸を含む。
【0016】
本明細書で意図する場合、本発明のペプチドは、1又は複数の原子又は基によって置換することができる。
【0017】
好適には、本発明のポリペプチドは、配列RILARY(配列番号4)を含んでなるか、又は当該配列から成る。より好適には、本発明のポリペプチドは、配列LRILARY(配列番号5)を含んでなるか、又は当該配列から成る。さらに好適には、本発明のポリペプチドは、配列NLRILAR(配列番号6)を含んでなるか、又は当該配列から成る。より好適には、本発明のポリペプチドは、配列ANLRILARY(配列番号7)を含んでなるか、又は当該配列から成る。より好適には、本発明のポリペプチドは、配列RANLRILARY(配列番号8)を含んでなるか、又は当該配列から成る。最も好適には、本発明のポリペプチドは、配列HGRANLRILARY(EP43と呼ぶ, 配列番号9)から成る。
【0018】
本発明はまた、HGRENLRILARY(EP35と呼ぶ, 配列番号10)、HGRENLRILARA(EP36と呼ぶ, 配列番号11)、HGRENLRILAAY(EP37と呼ぶ, 配列番号12)、HGRENLRIAARY(EP38と呼ぶ, 配列番号13)、HGRENLAILARY(EP40と呼ぶ, 配列番号14)、HGRENARILARY(EP41と呼ぶ, 配列番号15)、HGREALRILARY(EP42と呼ぶ, 配列番号16)、HGAENLRILARY(EP44と呼ぶ, 配列番号17)、HGRANLRILARA(EP51と呼ぶ, 配列番号18)、HGRANLRILAAY(EP52と呼ぶ, 配列番号19)、RENLRILARY(配列番号20)、RENLRILARA(配列番号21)、RENLRILAAY(配列番号22)、RENLRIAARY(配列番号23)、RENLAILARY(配列番号24)、RENARILARY(配列番号25)、REALRILARY(配列番号26)、AENLRILARY(配列番号27)、RANLRILARA(配列番号28)及びRANLRILAAY(配列番号29)、から成る群から選択される配列を含んでなるか、又は当該配列から成るポリペプチドに関する。
【0019】
検出可能なマーカー
特定の実施形態において、上記ポリペプチドは、検出可能なマーカーで置換されてよい。
【0020】
本明細書で使用する場合、「検出可能なマーカー」は、検出されるシグナルを生じる化合物を意味する。これは分子、例えば前記ポリペプチドと結合する場合、これにより生物における分子の運命(fate)をモニターすることができる。検出可能なマーカーの例には、放射性同位元素、フルオロフォア、例えばフルオレセイン、アレクサ(Alexa)、シアニン、化学発光化合物、例えばルミノール、生物発光化合物、例えばルシフェラーゼ又はアルカリフォスファターゼ、並びに造影剤、例えばナノ粒子又はガドリニウムが含まれる。適当な検出可能なマーカーの選択は、使用する検出システム次第であり、十分に当業者の技術範囲内である。
【0021】
好適には、検出可能なマーカーは、放射性同位元素である。核イメージングで一層特に使用される放射性同位元素の例には、ヒトにおいて使用可能なヨウ素123(123I)、ヨウ素125(125I)、テクネチウム99m(99mTc)、インジウム111(111In)、フッ素18(18F)、ガリウム67(67Ga)、ガリウム68(68Ga)及びその他の放射性同位元素が含まれる。従って、放射性同位元素は、好適には123I、125I、99mTc、111In、18F、67Ga、又は68Gaから成る群から選択される。
【0022】
本明細書で使用する場合、用語「検出可能なマーカーで置換されたポリペプチド」は、ポリペプチドのアミノ酸残基部分が検出可能なマーカーで置換されていることを意味する。例えば、チロシン残基において水素原子は、ヨウ素原子によって置換されてよい。
【0023】
好適な実施形態において;本発明のポリペプチドは、HGRANLRILARY−123I又は99mTc−HGRANLRILARYから成る。
【0024】
イメージング方法
本明細書において、「イメージング方法」は、生物又は生物の臓器の内部の可視化を可能にする方法を意味する。イメージング方法の例は、侵襲性技術、例えば血管造影法又は冠動脈造影法、冠状動脈内超音波診断法、及び非侵襲性技術、例えばドップラー速度計測、磁気共鳴イメージングによる血管造影法、或いは核医学検査法、例えばシンチグラフィーを包含する。好適には、本発明のイメージング方法は、シンチグラフィーである。
【0025】
特定の実施形態において、上記ポリペプチドは、動脈硬化プラークを検出するためにイメージング方法において使用する。
【0026】
本明細書において、「動脈硬化プラーク」又は「アテロームプラーク」は、血管壁の病変を意味する。好適には、本発明の「動脈硬化プラーク」は、脂肪性コア及び線維性被膜を含んでなり、当該被膜は、平滑筋細胞、コラーゲン及び細胞外基質によって構成され、脂肪性コアを動脈内腔から分離している。動脈硬化プラークは、例えば大動脈、頸動脈、又は冠動脈において確認される。プラークが薄線維性被膜(厚さ約65〜150μm)及び多量の脂肪性コアを含んでなる場合、「脆弱な動脈硬化プラーク」又は「脆弱なアテロームプラーク」或いは「脆弱プラーク」と呼ぶ。これらの破裂を起こしやすい不安定なプラークは、冠動脈並びに大動脈及びその分岐において確認される。
【0027】
好適には、前記ポリペプチドは、脆弱な動脈硬化プラークの検出のためのイメージング方法において使用される。より好適には、ポリペプチドは、大動脈、頸動脈(carotidian)、又は冠動脈硬化プラークの検出のためのイメージング方法において使用される。
【0028】
本発明はまた、イメージング方法に関し:
a)前記ポリペプチドを、個体に投与する段階;
b)個体の体部位において、ポリペプチドの結合又はポリペプチドの結合の非存在を検出する段階;
c)ポリペプチドの結合を検出することができる個体の体部位を可視化する段階、
を含んでなる。
【0029】
本発明において、「個体」は、ヒト又は非ヒト哺乳類、例えばげっ歯類(ラット、マウス、ウサギ)、霊長類(チンパンジー)、ネコ科動物(ネコ)、イヌ科動物(イヌ)を意味する。好適には、個体はヒトである。
【0030】
当業者から周知である、任意の適当な投与方法は、段階a)において使用してよい。特に、ポリペプチドは、例えば、経口経路、吸入、又は非経口経路(特に静脈内注射)によって投与されてよい。非経口経路が選択される場合、ポリペプチドは、アンプル又はフラスコ中で調整された、注射可能な溶液及び懸濁液形態であってよい。非経口送達のための形態は、従来緩衝剤、安定剤、防腐剤、可溶化剤、等張剤及びスラリー剤と、本発明のポリペプチドを混合することによって得られる。周知技術によれば、これらの混合物は、続いて滅菌し静脈内注射の形態に調整することできる。当業者は、有機リン酸塩に基づく緩衝剤を緩衝剤として使用してよい。スラリー剤の例には、メチルセルロース、アカシア及びナトリウムカルボキシメチルセルロースが含まれる。安定剤の例には、亜硫酸ナトリウム及びメタ亜硫酸ナトリウムが含まれ、防腐剤の例には、安息香酸p−ヒドロキシナトリウム、ソルビン酸、クレゾール及びクロロクレゾールが含まれる。
【0031】
投与されるポリペプチドの量は、当然に投与経路、個体の大きさ及び/又は体重、並びに使用される検出技術次第である。
【0032】
本明細書で使用する場合、用語「体部位」は、生物の特定領域を意味する。これは、例えば臓器、臓器の一部、又は組織、例えば肺、心臓、肝臓、脾臓、又は腎臓、或いは血管、例えば動脈又は静脈である。当業者に周知の、検出及び可視化の任意の適当なシステムは、段階b)及びc)において使用されてよい。特に、段階b)及びc)は、シンチグラフィーによって実施されてよい。この場合、使用されるポリペプチドは、好適には、123I、125I、99mTc、111In、18F、67Ga、又は68Gaから成る群から選択される放射性同位元素で置換される。より好適には、使用されるポリペプチドは、HGRANLRILARY−123I又は99mTc−HGRANLRILARYから成る。
【0033】
好適な実施形態において、イメージング方法は、個体の動脈硬化プラークの可視化のために使用される。特に、イメージング方法は、個体の大動脈、頸動脈、又は冠動脈硬化プラークの可視化のために使用されてよい。
【0034】
診断及び予後診断方法
本明細書で使用する場合、「診断方法」又は「診断」は、個体が疾患を患っているかを決定するための方法を意味する。
【0035】
本明細書で使用する場合、「予後診断方法」又は「予後診断」は、個体において疾患が進行する可能性があるかを決定するための方法を意味する。
【0036】
好適には、ポリペプチドは、循環器疾患の診断における使用のためのポリペプチドである。
【0037】
本明細書において、「循環器疾患」は、心臓又は血管(動脈及び静脈)に関する疾患を意味する。より詳細には、本発明の循環器疾患は、循環器系に影響するアテローム発生プロセスと関係がある疾患、病変又は症状を意味する。これは特に、アテロームプラーク、並びにアテロームプラークの形成(狭窄, 虚血)及び/又は急性虚血発作に向かったその進行(血栓症, 塞栓症, 梗塞, 動脈破裂)に起因する合併症が進行する状態を含む。循環器疾患は、アテローム性動脈硬化、アテロームプラーク、特に脆弱プラーク、冠動脈心疾患、狭心症、血栓症、脳卒中、心筋梗塞、血管狭窄、及び梗塞を含む。より好適には、ポリペプチドは、アテローム性動脈硬化又は冠動脈心疾患の診断用である。
【0038】
本明細書で使用する場合、「アテローム性動脈硬化」は、動脈血管に影響する疾患を意味する。アテローム性動脈硬化は、主としてマクロファージの集積に起因する、動脈壁における慢性炎症反応を特徴とし、機能性高密度リポタンパク質によるマクロファージ由来の脂肪及びコレステロールの適切な除去なしに、低密度リポタンパク質によって促進され得る。
【0039】
本明細書で使用する場合、「冠動脈心疾患」は、心筋のイリゲーション(irrigation)不良に起因する進行性疾患を意味し、これは、冠動脈の狭小化(狭窄)又は石灰化(硬化)へと続く(consecutive)。冠動脈の完全閉塞は、心筋梗塞を導く。
【0040】
特定の実施形態において、ポリペプチドは、急性虚血発作の発生のリスクの評価用である。
【0041】
本明細書で使用する場合、用語「発生のリスク」は、対象において疾患が進行する可能性を意味する。
【0042】
本明細書で使用する場合、「急性虚血発作」は、生物のある領域への動脈血の取り込みの減少を意味する。その主たる局所的原因は、血栓症及び塞栓症である。アテロームプラークが冠動脈中に位置する場合、急性虚血発作は特に心筋梗塞である。これが頸動脈中に位置する場合、脳血管発作を引き起こす。腎動脈中に位置する場合、腎動脈塞栓症を引き起こすかもしれない。四肢動脈中に位置する場合、これは肢の急性虚血発作を引き起こすかもしれない。
【0043】
従って、ポリペプチドは、好適には、心筋梗塞、脳血管発作、腎動脈塞栓症、及び肢の急性虚血発作から成る群から選択される急性虚血発作の発生のリスクの評価用である。
【0044】
医薬
本発明には、前記ポリペプチドの治療上有効量の投与を含んでなる治療方法もまた、含まれる。
【0045】
ポリペプチドは、好適には細胞毒に結合され、これにより細胞毒はVCAM−1発現細胞と接触され、そして選択的にこの細胞を破壊することができる。適当な細胞毒の選択は、当業者の範囲内である。細胞毒の例には、放射性同位元素、毒素又は化学療法剤が含まれる。
【0046】
本発明は、より詳細には、アテローム性動脈硬化の治療及び/又は急性虚血発作の予防、より好適には、脆弱な動脈硬化プラークの治療用のポリペプチドに関する。
【0047】
VCAM−1の結合及び検出
本発明はまた、VCAM−1に結合するためのポリペプチドに関する。
【0048】
「VCAM−1」(血管細胞接着分子1)は、細胞接着タンパク質を意味し、この転写は内皮細胞内で誘発されるが、他の種類の細胞においてもまた発現される。VCAM−1は、1989年にOsborn等によって同定されクローン化された(Osborn et al. (1989) Cell 6:1203-11)。VCAM−1は、リンパ球及び単球中において恒常的に発現される、VLA−4(最晩期抗原4)とも呼ばれるインテグリンα4β1と相互作用する。他の接着分子、例えばICAM−1、2及び3のように、VCAM−1は、アテローム性動脈硬化中の内皮への単球の接着に関与する。VCAM−1はまた、腸中でリンパ球を動員するためにインテグリンα4β7と相互作用する。
【0049】
ポリペプチドはまた、試料中のVCAM−1のインビトロ(in vitro)における検出のために使用してよい。
【0050】
本明細書で使用する場合、「試料」は、最も大きなセットの一部を意味する。好適には、本発明の試料は生物オリジンの物質である。生物試料の例には、臓器又は組織の一部、例えば腎臓、肝臓、心臓、肺等、動脈及び静脈等、血液及びこの成分、例えば血漿、血小板、血球の亜集団等が含まれるがこれらに限定されない。
【0051】
以下の実施例及び図は、本発明の範囲を限定することなく本発明を説明する。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】図1は、放射標識したペプチドB2702−p、EP35、EP36、EP37、EP38、EP40、EP41、EP42、EP43又はEP44を注射したマウス由来の切除した血管及び血液のガンマウェルカウントから得られた左頸動脈の右頸動脈に対する活性比を表しているヒストグラムを示す。:p<0.05vsB2702−p。
【図2】図2は、放射標識したペプチドB2702−p、EP35、EP36、EP37、EP38、EP40、EP41、EP42、EP43又はEP44を注射したマウス由来の切除した血管及び血液のガンマウェルカウントから得た左頸動脈の血液に対する活性比を表しているヒストグラムを示す。:p<0.05vsB2702−p。
【図3】図3は、放射標識したB2702−p(白色バー)、EP43(斜めの二重ハッチングバー)、EP36(斜めのハッチングバー)、EP37(垂直のハッチングバー)、EP51(水平のハッチングバー)及びEP52(最後の斜めのハッチングバー)の注射後の、種々の臓器(心臓, 大動脈, 肺, 肝臓, 脾臓, 腎臓, 脂肪, 骨格筋, 血液, 甲状腺)における組織活性(%ID/g)を表しているヒストグラムを示す。
【図4】図4は、放射標識したペプチドB2702−p、EP43、EP36、EP37、EP51及びEP52を注射したマウスから得られた左頸動脈の右頸動脈に対する活性比を表しているヒストグラムを示す。:p<0.05vsB2702−p。
【図5】図5は、放射標識したペプチドB2702−p、EP43、EP36、EP37、EP51及びEP52を注射したマウスから得られた左頸動脈の血液に対する活性比を表しているヒストグラムを示す。:p<0.05vsB2702−p。
【図6】図6は、放射標識したB2702−p(左側)又は放射標識したEP43(右側)で注射したマウスで得られた代表的な全身の平面画像を示す。白い矢印は、動脈硬化病変を示す。下部のスケールは、画像を表示するために使用したカラールックアップテーブル(LUT)を示す。
【図7】図7は、放射標識したB2702−p、EP35、EP36、EP37、EP38、EP40、EP41、EP42、EP43及びEP44を注射したマウスで得られた平面画像の定量化を表しているヒストグラムを示す。:p<0.05vsB2702−p。
【図8】図8は、放射標識したB2702−p(左から一番目)、放射標識したEP43(左から二番目)、放射標識したEP51(左から三番目)又は放射標識したEP52(左から四番目)を注射したマウスで得られた代表的な全身の平面画像を示す。白い矢印は、動脈硬化病変を示す。Rは動物の右側を、Lは動物の左側を示す。下部のスケールは、画像を表示するために使用したカラールックアップテーブル(LUT)を示す。
【図9】図9は、放射標識したB2702−p、EP43、EP36、EP37、EP51及びEP52を注射したマウスで得られた平面画像の定量化を表しているヒストグラムを示す。:p<0.05vsB2702−p。
【図10】図10は、高解像度ピンホールSPECTイメージングによって得られた、EP43活性の代表的な横断画像を示す。白い矢印は、動脈硬化病変の位置におけるEP43の取り込みを示す。下部のスケールは、画像を表示するために使用したカラールックアップテーブルを示す。
【図11】図11は、EP43を注射したマウスにおいて実施した、高解像度ピンホールSPECTイメージングによって得られた画像の、左頸動脈及び右頸動脈における活性に対応する(cpm/mm2/MBqで表される)定量化を表しているグラフを示す。白丸は、テストした各動物に関して得られた結果を示す。黒丸は、平均値を示す。:p<0.01vs右頸動脈。
【実施例】
【0053】
本研究の目的は、B2702−p(配列番号1)の変異誘導体が、VCAM−1発現のインビボ(in vivo)のイメージングに関する改良された特徴を示すかを決定することであった。
【0054】
材料及び方法
ポリペプチド及びトレーサー
B2702−p配列の各残基をアラニン残基で選択的に置換することによる、部位特異的な変異誘発によって、B2702−pの11個の誘導体を得た。
【0055】
11個の誘導体の配列を表1に記載した。
【0056】
【表1】

【0057】
Broisat等(2007)Eur.J.Nucl.Med.MoI.Imaging 34:830〜840において記載されるように、ポリペプチドを99mTcで標識した。
【0058】
動物モデル及び実験プロトコル
左頸動脈の結紮を施したApoE−/−マウスの実験モデルを使用した。実際に、頸動脈結紮によって誘発される血管リモデリングに付随する高コレステロール血症は、結紮部位における局所的な動脈硬化病変の進行を誘発する。
【0059】
左頸動脈結紮を麻酔下で実施し、動物をケージに戻した。3週間後、動物を再麻酔し、側方尾静脈中に放射性トレーサーを注射した。動物を安楽死させる前に、平面イメージングを3時間実施した。主要臓器を切除し、重量を測定し、トレーサーの体内分布の測定のためにガンマウェルカウント(gamma-well count)した。動脈硬化病変におけるVCAM−1発現を評価するために、免疫組織化学もまた実施した。
【0060】
免疫組織化学を使用して動脈硬化病変におけるVCAM−1の存在を評価することによって、実験モデルを検証した。発明者は、動脈硬化病変におけるVCAM−1の陽染を、逆側の血管と比較して観察した。
【0061】
インビボ(in vivo)での平面イメージング
平行コリメータが備わっている小動物専用ガンマカメラを使用して、インビボ(in vivo)での平面イメージングを実施した。
【0062】
インビボ(in vivo)でのピンホールSPECTイメージング
高解像度イメージングのためのピンホールコリメータが備わっている小動物ガンマカメラを使用して、インビボ(in vivo)でのピンホールSPECTイメージングを実施した。
【0063】
結果
臓器体内分布
注射3時間後のB2702−p及びポリペプチドEP35、EP36、EP37、EP38、EP40、EP41、EP42、EP43及びEP44の臓器体内分布を、表2に示す。
【0064】
【表2】

【0065】
発明者は、トレーサーの排出が主として腎臓であり、続いて肝臓であったことを観察した。EP43の注射後に、最も高い左頸動脈の活性が観察された。動脈硬化病変におけるトレーサーの活性は、逆側の、対照の頸動脈において観察されたものより有意に高かった。
【0066】
発明者はまた、左頸動脈の右頸動脈に対する活性比(図1)及び左頸動脈の血液に対する活性比(図2)を分析した。切除した血管及び血液をガンマウェルカウントすることから、これらの比率を得た。
【0067】
発明者は、EP43の左頸動脈の右頸動脈に対する活性比及び左頸動脈の血液に対する活性比がいずれもB2702−pより有意に高かったことを明らかにした。EP43は、B2702−pに対してこのような改良された特徴を示した、テストした唯一の誘導体であった。
【0068】
続いて、発明者は、B2702−p並びにポリペプチドEP36、EP37、EP43、EP51及びEP52の臓器体内分布(図3)及び左頸動脈の右頸動脈に対する活性比(図4)並びに左頸動脈の血液に対する活性比(図5)を分析した。彼等は、EP43と比較して、EP51及びEP52が左頸動脈の右頸動脈に対する改良された活性比も左頸動脈の血液に対する改良された活性比も示さないことを観察した。
【0069】
インビボ(in vivo)での平面イメージング
続いて、発明者は放射標識したB2702−p及びEP43で注射したマウスのインビボ(in vivo)での全身平面イメージングを実施した(図6)。
【0070】
同等の投与量のトレーサーの注射の後に、画像を得た。高循環血液活性によって、頸動脈硬化病変におけるB2702−pの取り込みの非侵襲性イメージングは不可能であったが、EP43の改良された特徴によって動脈硬化病変におけるVCAM−1発現の検出が可能であった。
【0071】
発明者はさらに、この平面画像を定量化した(図7)。結果から、アテローム性動脈硬化の非侵襲性検出に関して評価した他のトレーサーより、EP43が優位であることが確認された。
【0072】
発明者はまた、放射標識したEP51及びEP52で注射したマウスのインビボ(in vivo)での全身の平面イメージングを実施し(図8)、得られた平面画像を定量化した(図9)。彼等は、EP43と比較して、EP51及びEP52が改良された左頸動脈の右頸動脈に対する活性比を示さないことを観察した。
【0073】
インビボ(in vivo)でのピンホールSPECTイメージング
発明者は、これらの結果をさらに確認するために、EP43の注射の後に、高解像度ピンホールSPECTイメージングもまた実施した(図10)。
【0074】
発明者は、動脈硬化病変におけるEP43の取り込みを観察した。一方、右頸動脈エリアにおいて有意なトレーサー活性は検出できなかった。
【0075】
EP43の取り込みのSPECTイメージングを行った全動物に関して、画像定量化を実施した(図11)。全動物において、逆側の血管よりも動脈硬化病変で高いトレーサー活性が存在し、有意に高い平均トレーサー活性を生じた。
【0076】
従って、本発明者は、新たな放射標識したポリペプチドEP43によって、動脈硬化病変におけるVCAM−1発現のインビボ(in vivo)でのSPECTイメージングが可能となることを示し、EP43は、患者における動脈硬化病変の非侵襲性イメージングに有用なトレーサーであることを示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列RILAR(配列番号3)を含んでなるか、又は配列RILAR(配列番号3)から成る、ポリペプチド。
【請求項2】
配列RILARY(配列番号4)を含んでなるか、又は配列RILARY(配列番号4)から成る、請求項1に記載のポリペプチド。
【請求項3】
配列RANLRILARY(配列番号8)を含んでなるか、又は配列RANLRILARY(配列番号8)から成る、請求項1又は2に記載のポリペプチド。
【請求項4】
検出可能なマーカーで置換された、請求項1〜3のいずれか1項に記載のポリペプチド。
【請求項5】
前記検出可能なマーカーが、123I、125I、99mTc、111In、18F、67Ga、又は68Gaから成る群から選択される放射性同位元素である、請求項4に記載のポリペプチド。
【請求項6】
HGRANLRILARY−123I又は99mTc−HGRANLRILARYから成る、請求項1〜5のいずれか1項に記載のポリペプチド。
【請求項7】
イメージング方法における使用のための、請求項1〜6のいずれか1項に記載のポリペプチド。
【請求項8】
動脈硬化プラークを検出するための、請求項7に記載のポリペプチド。
【請求項9】
診断又は予後診断方法における使用のための、請求項1〜8のいずれか1項に記載のポリペプチド。
【請求項10】
アテローム性動脈硬化又は冠動脈心疾患を診断するための、請求項1〜9のいずれか1項に記載のポリペプチド。
【請求項11】
急性虚血発作の発生のリスクを評価するための、請求項1〜9のいずれか1項に記載のポリペプチド。
【請求項12】
医薬としての使用のための、請求項1〜3のいずれか1項に記載のポリペプチド。
【請求項13】
VCAM−1に結合するための、請求項1〜12のいずれか1項に記載のポリペプチド。
【請求項14】
イメージング方法であって:
a)請求項1〜6のいずれか1項に記載のポリペプチドを個体に投与する段階;
b)個体の体部位において、ポリペプチドの結合又はポリペプチドの結合の非存在を検出する段階;
c)ポリペプチドの結合を検出することができる個体の体部位を可視化する段階、
を含んでなる、イメージング方法。
【請求項15】
前記個体の動脈硬化プラークを可視化するための、請求項14に記載のイメージング方法。
【請求項16】
試料中のVCAM−1のインビトロ(in vitro)における検出のための、請求項1〜6のいずれか1項に記載のポリペプチドの使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公表番号】特表2012−514621(P2012−514621A)
【公表日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−544853(P2011−544853)
【出願日】平成22年1月5日(2010.1.5)
【国際出願番号】PCT/EP2010/050025
【国際公開番号】WO2010/079156
【国際公開日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【出願人】(510160867)ユニベルシテ ジョセフ フーリエ (3)
【Fターム(参考)】