説明

脆質フィルム用樹脂組成物及びそれを用いた脆質フィルム

【課題】薄膜化が可能であり、かつ脆くて裂けやすいが、良好なカス上げ性などの加工性を有する非塩化ビニル樹脂を素材とする脆質フィルムを与える脆質フィルム用樹脂組成物、及びこの組成物を製膜してなる、前記性状を有する脆質フィルムを提供する。
【解決手段】(A)(a−1)アクリルウレタン樹脂30〜70質量%、及び(a−2)極性基含有アルケニル芳香族樹脂及び/又はアクリル樹脂70〜30質量%からなる樹脂成分と、その100質量部当たり、(B)充填剤10〜100質量部を含む脆質フィルム用樹脂組成物、及び該組成物を製膜してなる脆質フィルムである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脆質フィルム用樹脂組成物及びそれを用いた脆質フィルムに関し、さらに詳しくは、薄膜化が可能であり、かつ脆くて裂けやすいが、良好なカス上げ性などの加工性を有する非塩化ビニル樹脂を素材とする脆質フィルムを与える脆質フィルム用樹脂組成物、及びこの組成物を製膜してなる、前記性状を有する脆質フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、脆質フィルムは、その脆くて裂けやすい特性を生かして、銀行印やパスポート等の改竄防止のための保護フィルム、容器の密閉部や包装フィルムの封着部等の未開封確認用フィルム等として用いられている。脆質フィルムは、脆くて裂けやすい特性を有するフィルムであり、一旦保護フィルムや未開封確認用フィルム等として貼着された後にこれを剥離すると破断してしまい、元に戻せないので、改竄や開封が確認できるというものである。
このような用途に用いられる脆質フィルムとしては、塩化ビニル樹脂を用いるものが知られている(例えば、特許文献1〜2参照)。しかしながら、これらの脆質フィルムには、透明性及び耐候性が十分でないという問題がある。また、塩化ビニル樹脂の製膜のために、多量の可塑剤を併用することが必要である。ところが、得られた脆質フィルムを、粘着剤を介して、被着体に貼り付ける場合、この可塑剤がブリードすることにより、粘着剤との密着性が不十分となる問題がある。更に、塩化ビニル樹脂を用いる脆質フィルムは、その廃棄・焼却処分について環境上の問題が指摘されている。
このような問題点を解決するものとして、特許文献3には、アクリル樹脂に充填剤を配合してなるアクリル樹脂系脆質フィルムが提案されている。この脆質フィルムは、従来の塩化ビニル樹脂を用いた場合の問題点である透明性が改善され、破断時強度、破断時伸び率等の特性を満足するものであると報告されている。
しかしながら、前記特許文献3に開示されている脆質フィルムは、カス上げ性などの加工性に劣るという問題がある。
【特許文献1】特開昭64−79237号公報
【特許文献2】特開平9−194664号公報
【特許文献3】特開平10−182917号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、このような事情のもとで、薄膜化が可能であり、かつ脆くて裂けやすいが、良好なカス上げ性などの加工性を有する非塩化ビニル樹脂を素材とする脆質フィルムを与える脆質フィルム用樹脂組成物、及びこの組成物を製膜してなる、前記性状を有する脆質フィルムを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、前記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、特定の樹脂を組み合わせた樹脂成分と充填剤を所定の割合で含む樹脂組成物により、その目的を達成し得ることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、
[1](A)(a−1)アクリルウレタン樹脂30〜70質量%、及び(a−2)極性基含有アルケニル芳香族樹脂及び/又はアクリル樹脂70〜30質量%からなる樹脂成分と、その100質量部当たり、(B)充填剤10〜100質量部を含むことを特徴とする脆質フィルム用樹脂組成物、
[2](a−1)成分のアクリルウレタン樹脂が、ビニル基含有ウレタンポリマーと(メタ)アクリルモノマーとを、質量比29:71〜67:33の割合で重合してなるものである上記[1]項に記載の脆質フィルム用樹脂組成物、
[3](a−1)成分のアクリルウレタン樹脂が、10〜180%の破断時伸びを有するものである上記[1]又は[2]項に記載の脆質フィルム用樹脂組成物、
[4](a−2)成分の極性基含有アルケニル芳香族樹脂及び/又はアクリル樹脂が、1〜30%の破断時伸びを有するものである上記[1]〜[3]項のいずれかに記載の脆質フィルム用樹脂組成物、
[5]上記[1]〜[4]項のいずれかに記載の脆質フィルム用樹脂組成物を製膜してなる脆質フィルム、及び
[6]破断時における引張応力が10〜30MPaであり、かつ破断時における伸びが2〜15%である上記[5]項に記載の脆質フィルム、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0005】
本発明によれば、薄膜化が可能であり、かつ脆くて裂けやすいが、良好なカス上げ性などの加工性を有する非塩化ビニル樹脂を素材とする脆質フィルムを与える脆質フィルム用樹脂組成物、及びこの組成物を製膜してなる、前記性状を有する脆質フィルムを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明の脆質フィルム用樹脂組成物(以下、単に樹脂組成物と称することがある。)は、(A)(a−1)アクリルウレタン樹脂30〜70質量%、及び(a−2)極性基含有アルケニル芳香族樹脂及び/又はアクリル樹脂70〜30質量%からなる樹脂成分と、その100質量部当たり、(B)充填剤10〜100質量部を含むことを特徴とする。
前記(A)樹脂成分における(a−1)成分のアクリルウレタン樹脂は、ビニル基含有ウレタンポリマーと(メタ)アクリルモノマーとを重合させることにより得ることができる。
[ビニル基含有ウレタンポリマー]
前記アクリルウレタン樹脂の原料の一成分であるビニル基含有ウレタンポリマーは、例えば有機ジイソシアネート化合物、高分子量ポリオール、1個以上の活性水素と1個以上のラジカル重合性二重結合とを同一分子内に有するビニル化合物、必要に応じて鎖延長剤を反応させることによって得ることができる。
このビニル基含有ウレタンポリマーは、ラジカル重合性二重結合を1〜200当量/1000kg含有していることが好ましく、10〜100当量/1000kg含有していることが更に好ましい。二重結合の含有量が少なすぎる場合、(メタ)アクリルモノマーの共重合量が少なくなりウレタンポリマーと(メタ)アクリルポリマーの相溶性が低下し、脆質フィルム用樹脂組成物の安定性が悪くなり、塗膜性状が不良となる。また、二重結合の含有量が多すぎると、反応上二官能性のウレタンポリマーの比率が高くなり、ビニル基含有ウレタンポリマーと(メタ)アクリルモノマーのラジカル重合時に三次元化しやすいという傾向がある。ビニル基含有ウレタンポリマーの重量平均分子量は、通常、1万〜20万程度である。
【0007】
ビニル基含有ウレタンポリマーを得るために用いられる1個以上の活性水素と1個以上のラジカル重合性二重結合とを同一分子内に有するビニル化合物としては、水酸基、メルカプト基、イミノ基、またはアミノ基を1個以上有するビニル化合物を用いることができる。具体的には、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレートのカプロラクトン付加物(例えば、ダイセル化学工業社製の「FA−1、FA−2、FA−3」等)、グリセリンモノ(メタ)アクリレート、などの活性水素基含有アクリル酸エステル;2−ヒドロキシエチルメタクリレートや2−アミノエチルメタクリレート、トリメチロールプロパンモノメタアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレートのカプロラクトン付加物(例えば、ダイセル化学工業社製の「プラクセルFM−1、FM‐2D」等)やメチルバレロラクトン付加物、エチレンオキシド付加物、プロピレンオキシド付加物、などの活性水素基含有メタクリル酸エステル;アリルアルコールやグリセリンモノアリルエーテル、水酸化液状ポリブタジエン(例えば、出光石油化学社製のもの)などの脂肪族アルコール;アリルアミンやアミノ化液状ポリブタジエンなどの脂肪族アミン;メタクリロイルオキシエチルイソシアネート等のラジカル重合性不飽和結合とイソシアネート基とを同一分子内に有するモノマーとグリセリンあるいはチオグリコールの付加物、チオグリコール酸などのメルカプトカルボン酸のアリルエステル;などを用いることができる。また、これらは2種類以上の混合物として用いることもできる。
中でも、2個以上の活性水素と1個以上のラジカル重合性二重結合とを同一分子内に有する化合物を用いることが好ましく、これにより、ウレタン樹脂主鎖中にペンダント状のラジカル重合性二重結合を導入することができ、ポリウレタン鎖にポリマーがペンダント状にグラフト鎖として導入することが可能となり、ウレタン樹脂本来の性質を生かして欠点をアクリル樹脂で補うことができる。
【0008】
前記ビニル基含有ウレタンポリマーを得るために用いられる有機ジイソシアネート化合物としては、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、リジンメチルエステルジイソシアネート、2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、ダイマー酸ジイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネート;イソホロンジイソシアネート(IPDI)、4,4'−メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)(H12MDI)、ω,ω'−ジイソシアネートジメチルシクロヘキサン等の脂環族ジイソシアネート;キシリレンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート等の芳香環を有する脂肪族ジイソシアネート;p−フェニレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート(TDI)、4,4'−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、ナフタレン−1,5−ジイソシアネート、トリジンジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート;等を用いることができる。また、これらは2種類以上の混合物として用いることもできる。中でも、耐候性を要求される用途で好ましいのは、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、4,4'−メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)(H12MDI)である。
【0009】
前記ビニル基含有ウレタンポリマーを得るために用いられる高分子量ポリオールとしては、ポリエステルポリオール、アクリルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリエーテル・エステルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリオレフィンポリオール、シリコンポリオール等を用いることができる。
ポリエーテルポリオールとしては、環状エーテルを開環重合して得られるもの、例えばポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等を用いることができる。
ポリエステルポリオールとしては、ジカルボン酸(コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、フタル酸等)またはその無水物と低分子量ジオール(エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、ポリテトラメチレングリコール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、2−エチル−1,3−ヘキサングリコール、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオール、3,3−ジメチロールヘプタン、1,9−ノナンジオール、2−メチル−1,8−オクタンジオール、シクロヘキサンジメタノール、ビスヒドロキシエトキシベンゼン等)との重縮合によって得られるもの、例えばポリエチレンアジペート、ポリプロピレンアジペート、ポリブチレンアジペート、ポリヘキサメチレンアジペート、ポリブチレンセバケート等を用いることができ、また、低分子量ジオールへのラクトンの開環重合によって得られるもの、例えばポリカプロラクトン、ポリメチルバレロラクトン等を用いることができる。
【0010】
ポリエーテル・エステルポリオールとしてはポリエステルグリコールに環状エーテルを開環重合したもの、ポリエーテルグリコールとジカルボン酸とを重縮合したもの、例えば、ポリ(ポリテトラメチレンエーテル)アジペート等を用いることができる。
ポリカーボネートポリオールとしては、低分子量ジオールとアルキレンカーボネートまたはジアルキルカーボネートとから脱グリコールまたは脱アルコールによって得られるポリブチレンカーボネート、ポリヘキサメチレンカーボネート、ポリ(3−メチル−1,5−ペンチレン)カーボネート等を用いることができる。
ポリオレフィンポリオールとしては、ポリブタジエンポリオール、水添ポリブタジエンポリオール、ポリイソプレンポリオール等を用いることができ、シリコンポリオールとしては、ポリジメチルシロキサンポリオール等を用いることができる。
ポリアクリルポリオールとしては、メチルメタクリレートやブチルアクリレートのような(メタ)アクリル酸エステルと2−ヒドロキシエチルメタクリレートのような水酸基含有(メタ)アクリレートとの共重合体等がある。例えば、日立化成工業社製「ヒタロイド3001」や大日本インキ社製「ラストラゾールA−801」等を用いることができる。
本発明においては、これらの高分子量ポリオールは、上記の2種類以上の混合物として用いることもできる。高分子量ポリオールの重量平均分子量は、通常、200〜10000程度、好ましくは500〜6000である。分子量が小さすぎると柔軟性が乏しく、また大きすぎると機械的強度が低下する傾向がある。
また、尿素樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、ポリビニルアルコール等も、一般にポリウレタン工業において公知のもので活性水素基を2個以上含有するものであれば、高分子量ポリオールに代えて、または高分子量ポリオールと共に、使用することができる。
有機ジイソシアネートと高分子量ポリオールの反応仕込量は、NCO/OH当量比で、通常、0.8〜10程度、好ましくは0.9〜3である。この比が小さすぎるとハードセグメント量が少なく機械的強度が低くなる傾向がある。一方、大きすぎると溶解性が乏しく、また粘度も高くなる傾向がある。
【0011】
ビニル基含有ウレタンポリマーを得るために、必要に応じて用いられる鎖延長剤としては、代表的には、低分子量ジオールまたは低分子量ジアミンを用いることができる。
低分子量ジオールとしては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、ポリテトラメチレングリコール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、2−エチル−1,3−ヘキサングリコール、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオール、3,3−ジメチロールヘプタン、1,9−ノナンジオール、2−メチル−1,8−オクタンジオール等の脂肪族ジオール;シクロヘキサンジメタノール等の脂環族ジオール;ビスヒドロキシエトキシベンゼン、ビスヒドロキシエチルテレフタレート、ビスフェノール−A等の芳香族ジオール;N−メチルジエタノールアミン等のジアルカノールアミン;等を用いることができる。
低分子量ジアミンとしては、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ヒドラジン、2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジアミン等の脂肪族ジアミン;ピペラジン、シクロヘキサンジアミン、メンテンジアミン、イソホロンジアミン、4,4'−メチレンビス(シクロヘキシルアミン)等の脂環族ジアミン;等を用いることができる。
これらの鎖延長剤は、2種類以上の混合物として用いることもできる。また、トリメチロールプロパン、グリセリン等のポリオール類も、鎖延長剤として併用することができる。
更に、分子量を制御するために、上記鎖延長剤の一部をモノアミンやモノアルコールに置換することが可能である。モノアミンとしては、メチルアミン、エチルアミン、ブチルアミン、ジブチルアミン等が挙げられる。モノアルコールとしては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ヘキサノール等が挙げられる。
【0012】
当該ビニル基含有ウレタンポリマーを得る反応において、ラジカル重合性二重結合の熱重合を防止するため重合禁止剤を用いることができる。重合禁止剤としては、メチルヒドロキノン、t−ブチルカテコール、クロラニル等のフェノール系化合物;ジフェニルピクリルヒドラジン、ジフェニルアミン等のアミン類;塩化第2鉄、塩化第2銅等の多価金属塩;等が挙げられる。
ビニル基含有ウレタンポリマーの製造は、公知の方法に従い、ワンショット法、プレポリマー化法等によって行うことができる。溶融状態、バルク状態、または必要に応じて、ポリウレタンの当該工業界において常用の不活性溶剤(例えばトルエン、キシレン、ヘキサン等の炭化水素溶剤;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル溶剤;メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン溶剤;ジアセトンアルコール、イソプロパノール、第二ブタノール、第三ブタノール等一部のアルコール;エチレングリコールエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート、エチル−3−エトキシプロピオネート等のグリコールエーテルエステル溶剤;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル溶剤;ジメチルホルムアミド;ジメチルアセトアミド;N−メチルピロリドン;フルフラール等の極性溶剤;の1種または2種以上)を使用して、好ましくは100℃以下で、上記の配合条件範囲で各成分を均一に混合して行うことができる。
反応装置としては、上記の均一反応が達成できればいかなる装置でも良く、例えば撹拌装置の付いた反応釜やニーダー、一軸または多軸押出反応機等の混合混練装置を用いることができる。反応を促進するための触媒として、ポリウレタンの製造において常用される触媒を用いることができる。例えば、ジブチル錫ジラウレート等の金属触媒や鉄アセチルアセトナート、塩化第二鉄等の鉄含有触媒、トリエチルアミン等の三級アミン触媒、ナトリウムメチラートなどの塩基触媒を用いることができる。
このようにして得られたビニル基含有ウレタンポリマーは、2種類以上の混合物として用いることもできる。
【0013】
[(メタ)アクリルモノマー]
(a−1)成分であるアクリルウレタン樹脂の原料のもう一方の成分である(メタ)アクリルモノマーとしては、例えばメチルアクリレート、エチルアクリレート、n−またはイソブチルアクリレート、ヘキシルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、ラウリルアクリレート、ステアリルアクリレートなどのアクリル酸エステル;アクリル酸;メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、n−またはイソブチルメタクリレート、ヘキシルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、ステアリルメタクリレートなどのメタアクリル酸エステル;メタクリル酸;等を用いることができる。この(メタ)アクリルモノマーは、2種類以上の混合物として用いることもできる。
また、必要に応じて、上記(メタ)アクリルモノマーに他のビニル基含有化合物を併用することができる。他のビニル基含有化合物としては、スチレン、メチルスチレン、酢酸ビニル、アクリロニトリル、無水マレイン酸、等を用いることができる。さらに、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、アミノエチルメタクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレートのカプロラクトン付加体、2−ヒドロキシメタクリレートのカプロラクトン付加体などを、上記(メタ)アクリルモノマーと併用することができる。
【0014】
[アクリルウレタン樹脂の製造]
本発明においては、前記ビニル基含有ウレタンポリマーと(メタ)アクリルモノマーを重合させて、アクリルウレタン樹脂を製造するが、その際のビニル基含有ウレタンポリマーと(メタ)アクリルモノマーの使用割合は、質量比で29:71〜67:33が好ましく、33:67〜59:41がさらに好ましい。
ビニル基含有ウレタンポリマーと(メタ)アクリルモノマーとの重合は、通常の溶液重合法により、窒素等の不活性ガス気流下、有機溶剤中、重合開始剤を添加し、加熱して行われる。有機溶剤は、前述のビニル基含有ウレタンポリマーの製造において、必要に応じて用いられる不活性溶剤と同じものを用いることができる。また、有機溶剤は新たに追加することもでき、前記必要に応じて用いられる不活性溶剤と同じ溶剤、または異なる溶剤を追加することができる。異なる有機溶剤としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、ヘキサン等の炭化水素類;等を用いることができ、これらは2種類以上の混合物としても用いることができる。
重合時の樹脂固形分(ビニル基含有ウレタンポリマー量)は、通常5〜95質量%程度、好ましくは10〜80質量%である。
【0015】
重合開始剤としては、アゾビスイソブチロニトリルなどのアゾ化合物;過酸化ベンゾイル、過酸化ジt−ブチル、クメンハイドロパーオキサイドなどの過酸化物;等を用いることができる。ここで用いられる重合開始剤の量は、アクリルウレタン樹脂の重量平均分子量が2万〜50万程度、好ましくは3万〜20万となるように適宜選択されるが、通常、(メタ)アクリルモノマー(100質量部)に対して0.1〜5質量部程度である。アクリルウレタン樹脂の分子量が低すぎると、耐候性や引張強度に劣り、他方、高すぎると、溶液の粘度が高くなりすぎ成形加工性に劣る。重合温度は、通常10〜140℃程度、好ましくは30〜120℃である。
このようにして得られたアクリルウレタン樹脂は、2種類以上の混合物として用いることもできる。
本発明において使用する(a−1)成分のアクリルウレタン樹脂は、その破断時伸びが10〜180%の範囲にあるのが好ましく、50〜170%の範囲にあるのがより好ましい。
破断時伸びが上記範囲内にあるときに、脆質フィルムのカス上げ性が良好となる。アクリルレタン樹脂として2種類以上を併用するときは、混合物の破断時伸びが前記範囲にあることが好ましい。
なお、前記「カス上げ性」とは、例えば離型紙上に粘着剤層を介して設けられた脆質フィルムを、所定形状に複数打ち抜いたのち、不要となった部分、いわゆる「カス」を剥がす際の剥離性を指す。
【0016】
本発明の組成物においては、(A)樹脂成分における(a−2)成分として、極性基含有アルケニル芳香族樹脂及び/又はアクリル樹脂が用いられる。
[極性基含有アルケニル芳香族樹脂]
極性基含有アルケニル芳香族樹脂は、好ましくはアルケニル芳香族単量体を主成分とする共重合体樹脂であって、極性基を含有するものである。極性基は、アルケニル芳香族単量体単位が有していてもアルケニル芳香族単量体と共重合された単量体単位が有していてもよい。
当該極性基含有アルケニル芳香族樹脂における極性基含有単量体単位の含有量は、通常、5〜50質量%、好ましくは10〜45質量%、さらに好ましくは15〜40質量%である。極性基含有単量体単位の含有量が上記範囲を超えると、脆質フィルムの破断時伸びが低くなって、カス上げ性が悪くなる傾向があり、上記範囲を下回ると、脆質フィルムの基材に対する密着性が低くなる傾向がある。
【0017】
本発明において、当該極性基含有アルケニル芳香族樹脂が含有すべき極性基は、長周期型周期律表第15〜17族の元素を含有する基である。第15族の元素の中では、窒素、リン、砒素が好ましく、とりわけ窒素が好ましい。第16族の元素の中では、酸素、硫黄が好ましく、とりわけ、酸素が好ましい。第17族の元素の中では、塩素、臭素及び沃素が好ましく、なかでも塩素及び臭素が好ましい。極性基は、周期律表第15〜17族の原子を1個だけ含有していても、2個以上を含有していてもよい。また、極性基は、周期律表第15〜17族の原子を1種類だけ含有していても、2種類以上を含有していてもよい。
本発明において好ましく用いられる極性基の例としては、ニトリル基、アミノ基、アミド基、ヒドロキシル基、カルボニル基、カルボキシル基、エポキシ基、アルコキシル基、メルカプト基、チオカルボニル基等が挙げられる。中でも、ニトリル基、アミノ基、アミド基、ヒドロキシル基、カルボニル基、カルボキシル基、エポキシ基が好ましく、とりわけ、ニトリル基が好ましい。
【0018】
極性基は、極性基を含有する単量体の(共)重合によって導入してもよく、極性基を持たない単量体を重合して得た(共)重合体に公知の高分子反応により導入してもよいが、極性基を含有する単量体の重合による方法が簡便である。
当該極性基含有アルケニル芳香族樹脂を、極性基を含有する単量体の(共)重合によって得る場合は、極性基含有アルケニル芳香族単量体の単独重合又はこれと共重合可能な極性基を有していてもよい単量体との共重合によってもよく、極性基を含有しないアルケニル芳香族単量体とこれと共重合可能な極性基を有する単量体との共重合によってもよい。
当該極性基含有アルケニル芳香族樹脂を合成するための極性基を含有しないアルケニル芳香族単量体としては、例えばスチレン;メチルスチレン、エチルスチレンなどのアルキルスチレン;ジメチルスチレン、ジエチルスチレンなどのジアルキルスチレン;が挙げられる。
極性基含有アルケニル芳香族単量体としては、特に限定されないが、例えば、ヒドロキシスチレン類、アルコキシスチレン類、カルボキシスチレン類、ニトロスチレン類、アミノスチレン類、硫黄を含むスチレン誘導体、その他ビニルビフェニル類、ビニルナフタリン類など昭和50年3月30日 株式会社朝倉書店発行、村橋外2名編「合成高分子II」第55〜75頁記載の各種スチレン誘導体などを挙げることができる。
極性基を含有し又は含有しないアルケニル芳香族単量体と共重合可能な単量体としては、後述のアクリル樹脂の原料として記載したものを挙げることができる。これらの中でも、(メタ)アクリル酸エステル及びシアン化ビニル単量体が好ましい。
【0019】
本発明において、当該極性基含有アルケニル芳香族樹脂の代表例としては、スチレン/アクリロニトリル共重合体、スチレン/アクリロニトリル共重合体/(メタ)アクリル酸エステル共重合体等を挙げることができる。
使用する極性基含有アルケニル芳香族樹脂は、その破断時伸びが1〜30%の範囲にあるのが好ましく、10〜25%の範囲にあるのがより好ましい。破断時伸びが上記範囲内にあるときに、所望の破断時伸びを有する脆質フィルムを容易に得ることができる。
極性基含有アルケニル芳香族樹脂の分子量は、特に限定されないが、通常、重量平均分子量で50,000〜300,000である。
【0020】
[アクリル樹脂]
本発明において使用するアクリル樹脂は、(メタ)アクリル酸エステル単位を主成分とする樹脂であり、(メタ)アクリル酸エステル単位のみからなる単独重合体でも共重合体でもよく、また、(メタ)アクリル酸エステルとこれと共重合可能な単量体との共重合体であってもよい。
アクリル樹脂の主原料として使用する(メタ)アクリル酸エステルとしては、(メタ)アクリル酸と炭素数1〜15のアルカノール及びシクロアルカノールから誘導される構造のものが好ましい。より好ましくは、炭素数1〜8のアルカノールから誘導される構造のものである。炭素数が多すぎる場合は、得られる脆質フィルムの破断時伸びが大きくなりすぎる。
これらの(メタ)アクリル酸エステルの具体例としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸sec−ブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸n−ヘキシル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸n−オクチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸n−デシル、アクリル酸n−ドデシル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸sec−ブチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸n−ヘキシル、メタクリル酸n−オクチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸n−デシル、メタクリル酸n−ドデシルなどを挙げることができる。
また、これらの(メタ)アクリル酸エステルは、水酸基、ハロゲン原子等の任意の置換基を有していてもよい。そのような置換基を有する(メタ)アクリル酸エステルの例としては、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、アクリル酸4−ヒドロキシブチル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸2−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸4−ヒドロキシブチル、メタクリル酸3−クロロ−2−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸グリシジル等を挙げることができる。
本発明において使用するアクリル樹脂において、(メタ)アクリル酸エステル単位の含有量は、50質量%以上、好ましくは85質量%以上、より好ましくは90質量%以上である。
(メタ)アクリル酸エステルは、1種類を単独で使用してもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0021】
(メタ)アクリル酸エステルと共重合可能な単量体には、特に限定はないが、α,β−エチレン性不飽和カルボン酸単量体、(メタ)アクリル酸アルカノールエステル及びシクロアルカノールエステル以外のα,β−エチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体、アルケニル芳香族単量体、共役ジエン単量体、非共役ジエン単量体、シアン化ビニル単量体、不飽和カルボン酸アミド単量体、カルボン酸不飽和アルコールエステル、オレフィン単量体などを挙げることができる。
α,β−エチレン性不飽和カルボン酸単量体は、モノカルボン酸、多価カルボン酸、多価カルボン酸の部分エステル及び多価カルボン酸無水物のいずれでもよく、その具体例としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、マレイン酸モノエチル、フマル酸モノn−ブチル、無水マレイン酸、無水イタコン酸などを挙げることができる。
(メタ)アクリル酸エステルアルカノールエステル及びシクロアルカノールエステル以外のα,β−エチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体の具体例としては、フマル酸ジメチル、フマル酸ジエチル、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチル、イタコン酸ジメチルなどを挙げることができる。
アルケニル芳香族単量体の具体例としては、スチレン、α−メチルスチレン、メチルα−メチルスチレン、ビニルトルエンおよびジビニルベンゼンなどを挙げることができる。
共役ジエン単量体の具体例としては、1,3−ブタジエン、2−メチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、2−クロル−1,3−ブタジエン、シクロペンタジエンなどを挙げることができる。
非共役ジエン単量体の具体例としては、1,4−ヘキサジエン、ジシクロペンタジエン、エチリデンノルボルネンなどを挙げることができる。
シアン化ビニル単量体の具体例としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、α−クロルアクリロニトリル、α−エチルアクリロニトリルなどを挙げることができる。α,β−エチレン性不飽和カルボン酸アミド単量体の具体例としては、アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N−メチロールメタクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミドなどを挙げることができる。カルボン酸不飽和アルコールエステル単量体の具体例としては、酢酸ビニルなどを挙げることができる。オレフィン単量体の具体例としては、エチレン、プロピレン、ブテン、ペンテンなどを挙げることができる。
【0022】
本発明において使用するアクリル樹脂において、(メタ)アクリル酸エステルと共重合可能な単量体の含有量は、通常50質量%以下、好ましくは15質量%以下、より好ましくは10質量%以下である。(メタ)アクリル酸エステルと共重合可能な単量体は、1種類を単独で使用してもよく、2種類以上を併用してもよい。
(メタ)アクリル酸エステルと共重合可能な単量体としては、アルケニル芳香族単量体が好ましく、なかでもスチレンが好ましい。
本発明において使用するアクリル樹脂は、その破断時伸びが1〜30%の範囲にあるのが好ましく、10〜25%の範囲にあるのがより好ましい。
破断時伸びが上記範囲内にあるときに、所望の破断時伸びを有する脆質フィルムを容易に得ることができる。
このアクリル樹脂の分子量は、特に限定されないが、通常、重量平均分子量で50,000〜500,000である。
本発明においては、(a−2)成分として、前記極性基含有アルケニル芳香族樹脂を1種用いてもよいし、2種以上組み合わせて用いてもよく、前記アクリル樹脂を1種用いてもよいし、2種以上組み合わせて用いてもよい。あるいは極性基含有アルケニル芳香族樹脂1種以上と、アクリル樹脂1種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0023】
本発明の脆質フィルム用樹脂組成物においては、(A)樹脂成分として、前記(a−1)成分30〜70質量%と、(a−2)成分70〜30質量%とからなる樹脂成分が用いられる。(a−1)成分が上記範囲より多いと脆質性が不十分となり、逆に(a−1)成分が上記範囲より少ないとカス上げ性などの加工性が悪くなるという問題が生じる。(A)樹脂成分としては、(a−1)成分35〜65質量%と、(a−2)成分65〜35質量%とからなるものが好ましい。
本発明の樹脂組成物においては、前記割合の(A)樹脂成分100質量部に対して、(B)充填剤10〜100質量部を含有することを要す。この充填剤の含有量が10質量部未満では、得られるフィルムの脆質性が不十分であるし、100質量部を超えるとフィルムが必要以上に脆くなりすぎ、取り扱い性が悪くなる。該(B)成分の含有量は、(A)成分100質量部に対して、40〜95質量部であることが好ましく、60〜90質量部であることがより好ましい。
【0024】
[充填剤]
本発明における充填剤としては、無機充填剤及び有機充填剤のいずれであってもよいが、得られるフィルムの性能の観点から、無機充填剤が好ましい。
前記無機充填剤は、この分野において通常使用されているものを制限なく使用できる。その代表的なものとしては、溶融シリカ、水酸化アルミニウム、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、酸化チタンなどを挙げることができる。
溶融シリカとしては、通常、0.5〜100μm、好ましくは1〜70μmの粒径を有するものを使用する。また、5〜20μmの平均粒径を有するのが好ましい。更に、粒度分布は広いほうが好ましい。平均粒径が5μm未満のものは、本発明の脆質フィルム用樹脂組成物の分散液を調製する際の分散性が悪く、一方、20μmを超えるものは得られる脆質フィルム表面の平滑性を低下させる恐れがある。粒径が0.5μm未満の粒子を多く含むものは、分散液を調製する際の分散性が悪く、かつ分散液が高粘度となりやすい。一方、粒径が100μmを超える粒子を多く含むものはフィルム表面がザラザラしたものになる。
水酸化アルミニウム及び硫酸バリウムとしては、通常、0.2〜50μm、好ましくは0.7〜30μmの粒径を有するものを使用する。また、1〜20μmの平均粒径を有するのが好ましい。平均粒径が1μm未満のものは本発明の脆質フィルム用樹脂組成物の分散液を調製する際の分散性が悪く、一方、平均粒径が20μmを超えるものは、フィルム表面の平滑性を低下させる恐れがある。粒径が0.2μm未満の粒子を多く含むものは、分散液を調製する際の分散性が悪く、かつ分散液が高粘度となりやすい。一方、粒径が50μmを超える粒子を多く含むものはフィルム表面がザラザラしたものになる。
【0025】
さらに、炭酸カルシウムとしては、沈降濁度法による測定値で、通常、0.1〜50μm、好ましくは0.2〜30μmの粒径を有するものを使用する。また、0.5〜20μmの平均粒径を有するのが好ましい。平均粒径が0.5μm未満のものは分散溶液中での分散性が悪く、また平均粒径が20μmを超えるものはフィルム表面の平滑性を低下させる恐れがある。粒径が0.1μm未満の粒子を多く含むものは分散液中での分散性が悪く、かつ分散液が高粘度となりやすく、一方、粒径が50μmを超える粒子を多く含むものはフィルム表面がザラザラしたものになる。炭酸カルシウムとしては、沈降製炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウムのいずれであってもよい。
酸化チタンは、ルチル型とアナターゼ型があり、一般に白色顔料として用いられるが、本発明においては、得られるフィルムの脆質性に影響を及ぼすことから、無機充填剤に包含させる。酸化チタンとしては、通常平均粒径0.05〜10μm程度のものが用いられる。
その他無機充填剤としては、クレー、焼成クレー、タルク、けい砂、軽石粉、マイカ、硫酸アルミニウム、アルミナホワイトなどを用いることもできる。
また、有機充填剤としては、例えばポリスチレン、スチレン−アクリル共重合体中空粒子などを挙げることができる。
本発明においては、これらの充填剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0026】
本発明の樹脂組成物には、本発明の目的が損なわれない範囲で、必要に応じ、紫外線吸収剤、可塑剤、酸化防止剤、光安定剤、帯電防止剤、難燃剤、着色剤などを適宜添加することができる。
前記紫外線吸収剤としては、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤あるいはサリチル酸エステル系紫外線吸収剤等が使用できる。
また、紫外線吸収剤の含有量は、前記(A)樹脂成分100質量部に対して、通常0.1〜5質量部程度である。
また、可塑剤は、得られるフィルムに適度の柔軟性を付与するために用いられる。本発明において使用できる可塑剤については特に制限はなく、従来、アクリル樹脂に慣用されているものの中から任意に選択して用いることができる。この可塑剤としては、(a−1)成分のアクリルウレタン樹脂と相溶性のよいもの、例えばオクチルベンジルフタレートやミリスチルベンジルフタレートなどのアルキルベンジルフタレート;ジブチルフタレート、ジヘキシルフタレート、ジオクチルフタレートなどのジアルキルフタレート;トリクレジルホスフェート、トリオクチルホスフェートなどのリン酸エステル;ジブチルセバケート、アセチルトリブチルシトレートなどの脂肪酸エステル;アジピン酸系ポリエステル、セバシン酸系ポリエステル、フタル酸系ポリエステルなどのポリエステル系;ジエチレングリコールジベンゾエート、ジプロピレングリコールジベンゾエート、トリエチレングリコールジ(2−エチルヘキソエート)などのグリコール誘導体;グリセロールトリアセテート、グリセロールトリブチレートなどのグリセリン誘導体;エポキシ化大豆油などのエポキシ誘導体などが挙げられる。これらの可塑剤は2種類以上の混合物として用いることもできる。
前記可塑剤の含有量は、得られるフィルムの製膜製、適度の柔軟性及び脆質性などの観点から、前記(A)樹脂成分100質量部に対して、通常20質量部以下である。
【0027】
本発明の脆質フィルム用樹脂組成物の調製方法に特に限定はない。また、樹脂組成物は、固形分混合物であっても、溶液の状態であってもよい。
本発明の脆質フィルム用樹脂組成物を製膜することにより、本発明の脆質フィルムを得ることができる。製膜方法に特に限定はなく、例えばキャスティング法、押し出し法、カレンダー法、溶液コーティング法など、いずれの方法を用いても製膜することができる。これらの中で、特に生産性及びフィルムの品質などの点から、溶液コーティング法が好適である。この溶液コーティング法は、適当な溶剤と脆質フィルム用樹脂組成物の各成分を、十分に混合して均質な分散液を調製したのち、これを剥離性を有する工程紙やポリエチレンテレフタレートフィルムなどの支持体上に、所望の厚みに塗工し、80〜180℃程度で乾燥してフィルムを製膜する方法である。この際に用いる溶剤としては、(A)樹脂成分を溶解するもので、かつ、沸点が80〜180℃のものが好ましい。かかる溶媒としては、例えばトルエン、キシレン、エチルベンゼン、トリメチルベンゼンなどの芳香族炭化水素;メチルエチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン;ジメチルホルムアミド;などが挙げられる。これらの溶媒は単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。好ましい溶剤の例として、ジメチルホルムアミド/メチルエチルケトン混合溶媒を挙げることができる。
溶液コーティング法における溶媒の使用量は、(A)樹脂成分100質量部に対して、通常、100〜400質量部、好ましくは150〜350質量部である。
【0028】
本発明の脆質フィルムの厚さは、特に限定されないが、通常、20〜80μmである。厚さが20μm未満では裂けやすくて取り扱い性が悪いし、80μmを超えるとフラット性が悪くなり、かつコスト高となる。取り扱い性、フラット性及び経済性などのバランスの面から、好ましいフィルムの厚さは、35〜65μmである。
本発明の脆質フィルムは、破断時引張強度が10〜30MPa、破断時伸び率が2〜15%の範囲にあるものが好ましい。破断時引張強度が10MPa未満では強度が低すぎて取り扱い性が悪化する傾向にある。他方、30MPaを超えるとフィルムが硬くなりすぎて曲面貼り適性に劣る傾向にある。取り扱い性及び曲面貼り適性などの面から、より好ましい破断時引張強度は15〜25MPaの範囲である。また、破断時伸び率が2%未満ではカス上げ性に劣る傾向にある他、柔軟性が低すぎて取り扱い性に劣る傾向にあり、15%を超えるとカス上げ性に劣る傾向にある他、脆質性が低下する傾向がみられる。取り扱い性及び脆質性などの面から、より好ましい破断時伸び率は3〜10%である。
また、引裂強度が5〜15Nの範囲にあるのが好ましい。この引裂強度が5N未満では引き裂けやすくて取り扱いが困難であるし、15Nを超えると脆質性が低下し、好ましくない。取り扱い性及び脆質性のバランスなどの面から、より好ましい引裂強度は8〜15Nの範囲である。
本発明の脆質フィルムは、薄膜化が可能であり、かつ脆くて裂けやすいが、良好なカス上げ性などの加工性を有し、例えば銀行印やパスポート等の改竄防止のための保護フィルム、容器の密閉部や包装フィルムの封着部等の未開封確認用フィルム等として、好適に用いられる。
【実施例】
【0029】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
なお、脆質フィルムの製膜方法、得られたフィルムの特性の評価法は、下記のとおりである。
(1)製膜方法
脆質フィルム用樹脂組成物の各成分を溶媒に溶解・分散し、分散液を得る。この分散液を支持体のポリエチレンテレフタレートフィルムに流延する。次いで、防爆型空気循環式オーブン中で170℃に加熱して溶剤を揮散させた後、乾燥して、膜厚50μmの脆質フィルムを得る。
(2)フィルム厚さ
厚み計であるデジタルマイクロメーター[「μMATE M−80」SONY社製]により測定する。
(3)引裂強度
試験片を22〜25℃で24時間以上放置して常態調節したのち、50mm×100mmの大きさの試験片10枚を重ね、JIS K 7128に準拠し、エレメンドルフ引裂試験を6回行って得られた引裂強度を算術平均し、その1/10の値を引裂強度とする。
(4)破断時引張強度及び破断時伸び率
サンプルを22〜25℃で24時間以上放置して常態調節したのち、20×100mmの大きさの短冊型試験片について、引張速度5mm/分、チャート速度100mm/分、チャック間隔50mmの条件でインストロンタイプの引張試験を6回行って、縦方向の得られた破断時引張応力及び破断時伸び率のそれぞれの算術平均を求める。
【0030】
合成例1
(1)ビニル基含有ウレタンポリマーの合成
撹拌機と窒素ガス導入口、温度計、冷却機を備えた4口の反応容器に、アジピン酸とブタンジオールのポリエステルジオール[分子量600、大日本インキ化学工業社製、商品名「ODX−2045」]を67質量部、1,6−ヘキサメチレングリコールを3質量部、2−ヒドロキシエチルメタクリレートを0.5質量部、イソホロンジイソシアネート(IPDI)を29質量部、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)を1質量部、触媒としてジブチル錫ジラウレートを0.02質量部、反応溶剤としてメチルエチルケトンを100質量部仕込み、窒素雰囲気下、80℃でイソシアネート基がなくなるまで反応させ、ビニル基含有ウレタンポリマー溶液200.5質量部を得た。固形分含有率は50質量%で、粘度は15000mPa・s/25℃であった。
(2)アクリルウレタン樹脂の合成
前記(1)において得られたビニル基含有ウレタンポリマー溶液200.5質量部に、メチルメタクリレートを100質量部、ブチルアクリレートを20質量部、2−ヒドロキシエチルメタクリレートを2質量部、酢酸エチルを250質量部加え混合した後、アゾビスイソブチロニトリルを1質量部加え、80℃で3時間反応した後、更にアゾビスイソブチロニトリルを0.3質量部加え、80℃で2時間反応し、アクリルウレタン樹脂溶液を得た。この樹脂溶液の固形分含有率は38質量%であり、粘度は7000mPa・s/25℃であった。ビニル基含有ウレタンポリマーとアクリル系モノマーの質量比は、100:121であった。
【0031】
実施例1
合成例1で得たアクリルウレタン樹脂溶液[アクリルウレタン樹脂:破断時伸び率=140%、含有率=38質量%]105質量部、極性基含有アルケニル芳香族樹脂としてアクリロニトリル−スチレン共重合体[重量平均分子量Mw=256,000、数平均分子量Mn=124,600、Mw/Mn=2.06、共重合比率=30/70(質量比)、破断時伸び率=3.1%]60質量部、平均粒径5.0μmの炭酸カルシウム[竹原化学工業(株)社製、商品名「サンライトSL300」]10質量部、平均粒径0.2μmの酸化チタン[石原産業(株)社製、商品名「タイペークCR−60」]60質量部、可塑剤としてポリエステル系可塑剤[(株)ADEKA製、商品名「アデカサイザーPN−350」]10質量部を、メチルエチルケトン200質量部に添加し、十分に撹拌して、固形分濃度40.4質量%の脆質フィルム用分散液を調製した。
前記分散液を用いて、脆質フィルムを作製し、この脆質フィルムについて、その特性を評価した。結果を第1表に示す。
実施例2〜4及び比較例1
第1表に示す組成の脆質フィルム用分散液を調製し、各脆質フィルムを作製した。各脆質フィルムについて、その特性を評価した。結果を第1表に示す。
【0032】
【表1】

【0033】
〔注〕
1)合成例1で得たアクリルウレタン樹脂溶液[アクリルウレタン樹脂:破断時伸び率=140%、含有率=38質量%]
2)アクリロニトリル−スチレン共重合体[重量平均分子量Mw=256,000、数平均分子量Mn=124,600、Mw/Mn=2.06、共重合比率=30/70(質量比)、破断時伸び率=3.1%]
3)三菱レイヨン社製、商品名「ダイヤナールBR−64」、破断時伸び率=21%
4)三菱レイヨン社製、商品名「アクリペットRF−065」、破断時伸び率=165%
5)竹原化学工業(株)社製、商品名「サンライトSL300」、平均粒径=5.0μm
6)石原産業(株)社製、商品名「タイペークCR−60」、平均粒径=0.2μm
7)ポリエステル系可塑剤[(株)ADEKA製、商品名「アデカサイザーPN−350」]
第1表から分かるように、本発明の脆質フィルム(実施例1〜4)は、その破断時伸び率が、比較例1の脆質フィルムの破断時の伸び率1%であるのに対して、3〜6%の範囲であり、カス上げ性などの加工性が良好である。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明の脆質フィルム用樹脂組成物は、薄膜化が可能であり、かつ脆くて裂けやすいが、良好なカス上げ性などの加工性を有する非塩化ビニル樹脂を素材とする脆質フィルムを提供することができる。
本発明の脆質フィルムは、例えば銀行印やパスポート等の改竄防止のための保護フィルム、容器の密閉部や包装フィルムの封着部等の未開封確認用フィルム等として、好適に用いられている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)(a−1)アクリルウレタン樹脂30〜70質量%、及び(a−2)極性基含有アルケニル芳香族樹脂及び/又はアクリル樹脂70〜30質量%からなる樹脂成分と、その100質量部当たり、(B)充填剤10〜100質量部を含むことを特徴とする脆質フィルム用樹脂組成物。
【請求項2】
(a−1)成分のアクリルウレタン樹脂が、ビニル基含有ウレタンポリマーと(メタ)アクリルモノマーとを、質量比29:71〜67:33の割合で重合してなるものである請求項1に記載の脆質フィルム用樹脂組成物。
【請求項3】
(a−1)成分のアクリルウレタン樹脂が、10〜180%の破断時伸びを有するものである請求項1又は2に記載の脆質フィルム用樹脂組成物。
【請求項4】
(a−2)成分の極性基含有アルケニル芳香族樹脂及び/又はアクリル樹脂が、1〜30%の破断時伸びを有するものである請求項1〜3のいずれかに記載の脆質フィルム用樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の脆質フィルム用樹脂組成物を製膜してなる脆質フィルム。
【請求項6】
破断時における引張応力が10〜30MPaであり、かつ破断時における伸びが2〜15%である請求項5に記載の脆質フィルム。


【公開番号】特開2008−50530(P2008−50530A)
【公開日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−231004(P2006−231004)
【出願日】平成18年8月28日(2006.8.28)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】